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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C23C
管理番号 1362846
審判番号 不服2019-494  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-16 
確定日 2020-06-23 
事件の表示 特願2014-116011「高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材及び高純度銅スパッタリングターゲット」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月19日出願公開、特開2015- 34337、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年 6月 4日(優先権主張 平成25年 7月11日)の出願であって、平成30年 5月21日付けで拒絶理由が通知され、同年 7月 4日付けで意見書、手続補正書が提出され、同年11月 1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成31年 1月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」とい、これらを総称して「本願発明」という。)は、平成30年 7月 4日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は補正箇所を示している。

「【請求項1】
O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内とされ、Alの含有量が0.005massppm以下、Siの含有量が0.011massppm以上0.032massppm以下、Sの含有量が0.011massppm以上0.03massppm以下とされていることを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項2】
Clの含有量が0.01massppm以上0.1massppm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項3】
Oの含有量が1massppm未満、Hの含有量が1massppm未満、Nの含有量が1massppm未満とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項4】
Cの含有量が1massppm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項5】
Au,Pd,Pb,Cr,Fe,Co,Ni,Ge、Pt,Be,Ti,V,Zr,Nb,Mo,W,Th、Uの含有量がそれぞれ0.05massppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材を用いて製造されたことを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット。」

第3 原査定の概要
原査定(平成30年11月 1日付け拒絶査定)における拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由2.この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1?4に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2006-28642号公報
2.特開2005-330591号公報
3.特開平10-60632号公報
4.特許第4519775号公報

第4 引用文献、引用発明
1.引用文献1
1-1.引用文献1の記載
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2006-28642号公報)には、「半導体内部配線」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、「…」によって記載の省略を表す。また、下線は当審が付した。以下同様。)。

1ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9999wt%以上の単結晶銅からなるスパッタリングターゲットを用いてRFスパッター法によりArガス雰囲気中でSi基板上に堆積させて成膜した配線を有することを特徴とする半導体内部配線。」

1イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性を高めた半導体素子配線膜形成用ターゲットおよび超LSIの内部配線に使用される銅配線に関するものである。従来より、超LSI配線材料としては、電気抵抗が低く、Siとの密着性の高いAl合金が一般的に用いられていた。しかしながら、LSIの高集積化による配線の微細化にともない、エレクトロマイグレーション(EM)、ストレスマイグレーション(SM)などに起因した断線による素子の信頼性低下が問題となるに至っている。」

1ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように超LSI配線に使用される銅配線材料には、極めて高い純度が要求される。特に、不純物として、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属が配線中に存在すると、酸化膜耐圧劣化の原因となり素子の信頼性を著しく低下させることとなる。こうした観点から、電解精製やゾーン精製法を用いて製造された高純度銅を原料とするスパッタリングターゲットが製造され、成膜材料として検討されてきた。しかし、加工工程における汚染を完全に排除することができないばかりでなく、加工組織である結晶粒界に酸化物、硫化物、不純物が濃縮蓄積される問題が残されていた。
【0007】
こうした不純物は、LSIのパッケージの外部より侵入してくる水分等との反応により腐食の原因となる。成膜中に放出される微量な酸素は、膜を酸化させ抵抗率を上昇させるとともに、酸化による腐食発生の起源となる。また、粒界を起点として、発生する異常放電により、パーティクルが発生し配線間を短絡させる原因となっていた。本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、スパッタリング法によって、高純度銅をターゲットとして配線を形成する場合、耐EM性、耐SM性、耐酸化性および耐腐食性に優れた、銅薄膜配線を提供するものである。」

1エ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはかかる課題を解決するために鋭意研究したところ、純度99.9999wt%以上の高純度銅を基体金属として、酸素濃度が0.1ppm以下の雰囲気にて溶解凝固させて得た高純度銅単結晶体を用いることによって、これらの課題が解決できることを見出し本発明を達成することができた。すなわち本発明の第1は純度99.9999wt%以上の単結晶銅からなるスパッタリングターゲットであり;第2は上記単結晶銅の酸素が0.05ppm以下、水素が0.2ppm以下、窒素が0.5ppm以下、炭素が0.01ppm以下で、純度が99.9999wt%以上であることを特徴とする上記第1のスパッタリングターゲットであり;第3は純度99.9999wt%以上の単結晶銅を(111)方向に切断した後、研磨加工を行ってターゲット材とすることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法であり;第4は純度99.9999wt%以上の単結晶銅からなるスパッタリングターゲットを用いて成膜した配線を有することを特徴とする半導体内部配線である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は新規な高純度銅単結晶体を加工して得られたスパッタリングターゲット並びに該ターゲットを用いて成膜した配線を有する半導体素子であり従来品に比較して初期断線率や断線不良率の低い超LSI向け銅配線を得ることができるものである。」

1オ 「【0013】
[実施例1]
図1に示す製造装置を用いて高純度銅単結晶体を得た。先ず出発原料として銀と硫黄の合計含有量が0.1ppm以下である純度99.9999wt%以上の高純度銅10kgを原料るつぼ5内に入れ、炉内真空度を4×10^(-4)Torrとし、温度1150℃一定でるつぼ内の原料を溶解した。溶解された銅は、るつぼ底部に設けられた溶解滴下孔4から下方の単結晶鋳型6に滴下するが下部ヒーター12を1000℃までは0.5℃/分の割合で、1000℃からは15℃/分の割合で温度を下げて、4インチ口径の単結晶体10kgを得た。次いで得られた単結晶体を、X線カット面検査装置で(111)方向に切断した後鏡面研磨を行い直径6インチ、厚さ5mmのターゲットを作製した。このターゲットの不純物分析をグロー放電質量分析法により行ったところ、不純物金属成分は原料の分析値と同一であるが、ガス不純物の分析値は表に示す通りであった。
【0014】
【表1】

この場合ガス成分中炭素(C)および酸素(O)の分析は住友重機製サイクロトロンCYPRIS370を用いて荷電粒子放射化分析で行い、窒素(N)はLECO社製RH-IEで、また水素(H)は、LECO社製TC-486を用いて燃焼熱伝導度法で求めた。このようにして得られた、6N-銅単結晶ターゲットを希硝酸を用いて、エッチングをおこなったが、結晶粒界は観察されず、加工を経ても単結晶が維持されたままであることが確認された。このターゲットについて、2結晶X線回折装置によりX線ロッキングカーブを測定した。その結果、ロッキングカーブの半値幅は、40秒であった。」

1カ 「【0020】
[実施例2]
出発原料として7N高純度銅を用いたほかは、実施例1と同一の条件で4インチ口径の7N高純度銅単結晶体を得、X線カット面検査装置を用いて(111)方向に切断した後、鏡面研磨を行い直径6インチ、厚さ5mmのターゲットを作製した。このターゲットの不純物分析をグロー放電質量分析法により行ったところ、不純物金属成分は、原料の分析値と同一であるが、ガス不純物の分析値は、表4に示す通りであった。
【0021】
【表4】

この様にして得られた7N-単結晶ターゲットを希硝酸を用いてエッチングをおこなったが、結晶粒界は観察されず加工を経ても単結晶が維持されたままであることが確認された。このターゲットについて、2結晶X線回折装置によりX線ロッキングカーブを測定したところ、ロッキングカーブの半値幅は40秒であった。
【0022】
次いで、このターゲットを用いて、RFスパッター法によりArガス圧力3×10^(-3)Torr、放電電力250W、500Wとして放電試験を行ない、異常放電回数およびパーティクルの発生状況を調べた。その結果、実施例1に記載した表2および表3と同様の結果となった。また、プラズマ分光の結果、ターゲットよりの放出ガスと思われるものは検出されなかった。」

1キ「図1



1-2.引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1の発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)とは、上記1ウによれば、スパッタリングターゲットの結晶粒界に酸化物、硫化物、不純物が濃縮蓄積され、これら不純物は水分と反応して腐食の原因となるとともに、スパッタリングターゲットから成膜中に放出される微量な酸素が、膜を酸化させ抵抗率を上昇させ、酸化による腐食発生の起源となっていた。また、スパッタリングターゲットの粒界を起点として発生する異常放電により、パーティクルが発生し配線間を短絡させる原因となっていたという事情に鑑み、高純度銅をターゲットとして配線を形成する際に、耐EM(エレクトロマイグレーション)性、耐SM(ストレスマイグレーション)性、耐酸化性および耐腐食性に優れた銅薄膜配線を提供することである。

イ 上記アの課題を解決するために用いられる高純度銅ターゲットとは、上記1エによれば、酸素が0.05ppm以下、水素が0.2ppm以下、窒素が0.5ppm以下、炭素が0.01ppm以下で、純度が99.9999wt%以上であることを特徴とするものであって、銅の純度99.9999wt%以上の高純度銅を基体金属として、酸素濃度が0.1ppm以下の雰囲気にて溶解凝固させて得た高純度銅単結晶体を加工することにより得られるものである。
なお、上記酸素、水素等は高純度銅ターゲットに含まれるガス不純物である(1オの【0013】、【表1】)。

ウ 実施例1として得られた高純度銅ターゲットは、上記1オによれば、上記1キの図1に示す製造装置を用いて作製された6N-銅単結晶ターゲットであり、具体的には、銀と硫黄の合計含有量が0.1ppm以下である純度99.9999wt%以上の高純度銅を出発原料として原料るつぼ5内に入れ、炉内真空度を4×10^(-4)Torrとし、温度1150℃一定で溶解し、溶解された銅をるつぼ下方の単結晶鋳型6に滴下し所定速度で降温することによって得られた単結晶体を、(111)方向に切断した後鏡面研磨を行って作製したものである(【0013】)。
そして、実施例1の高純度銅単結晶銅ターゲットを不純物分析した結果、不純物金属成分は原料の分析値と同一であるが、ガス不純物の分析値は表1に示す通りであった(【0013】)。また、上記加工、すなわち切断や研磨を行った後においても、単結晶が維持されていた(【0014】)。

エ 実施例2として得られた高純度銅ターゲットは、上記1カによれば、出発原料として7N高純度銅を用いたほかは、実施例1と同一の条件で作製した7N-銅単結晶ターゲットであり、実施例2の高純度単結晶銅ターゲットを不純物分析した結果、不純物金属成分は原料の分析値と同一であるが、ガス不純物の分析値は表4に示す通りであった(【0020】)。

オ そこで、上記実施例1の6N-銅単結晶ターゲットについて行われた、表1のガス不純物の分析結果に注目すると、Cの含有量は0.24ppm、Oの含有量は0.03ppm、Nの含有量は1ppm未満、Hの含有量は0.2ppm未満、Sの含有量が0.05ppm、Clの含有量が0.01ppm未満、Siの含有量が0.01ppm未満である。
また、上記実施例2の7N-銅単結晶ターゲットについて表1(表4)のガス不純物の分析結果に注目すると、Cの含有量は0.24ppm、Oの含有量は0.005ppm未満、Nの含有量は1ppm未満、Hの含有量は0.2ppm未満、Sの含有量が0.01ppm、Clの含有量が0.01ppm未満、Siの含有量が0.01ppm未満である。
なお、上記含有量の単位の「ppm」は、段落【0013】で高純度銅をKg単位で測定し、その純度を「wt%」で表示していることから、同様に重量基準である「wtppm」を意味しているものと認められる。

カ ここで、上記ウ、エで検討したように、上記実施例1の6N-銅単結晶ターゲットと上記実施例2の7N-銅単結晶ターゲットの不純物金属成分が、上記ウの方法によって低減されるガス不純物を除いて、原料の分析値と同一であったことから、実施例1、2の6N、7N-銅単結晶ターゲットの銅の純度は、それぞれ、原料の銅の純度と同じ6N、7Nであって、ガス不純物を除く純度を意味しているものと解される。また、実施例1に使用されている原料である高純度銅の純度「99.9999wt%以上」のことを6Nと記載していることから、実施例1の6N-銅単結晶ターゲットは、ガス不純物を除いて、銅の純度が6N、すなわち99.99990wt%以上99.99999wt%未満であることを意味しており、実施例2の7N-銅単結晶ターゲットは、ガス不純物を除いて、銅の純度が7N、すなわち99.999990wt%以上99.999999wt%未満であることを意味していると解される。

キ また、実施例1及び実施例2の高純度単結晶銅ターゲットは、ガス不純物濃度が低減されているが、不純物金属成分が原料の分析値と同一であったということは、上記1キの図1に示す製造装置を用いてターゲットを製造する上記ウの製造方法は、当該製造装置を用いて、炉内真空度を4×10^(-4)Torrとして溶解し降温する工程、すなわち、酸素濃度が0.1ppm以下の雰囲気にて溶解凝固させる工程によって、C、O、N、Hを含むガス不純物の含有量を低減するとともに単結晶化させて結晶粒界をなくした高純度単結晶銅ターゲットを得ることを意図するものであって、原料内の不純物金属成分の含有量を減少させて銅の純度を高めることを意図するものではないといえる。

ク 上記1ア?1キの記載及び上記ア?キの検討によれば、引用文献1には、実施例1に注目すると、次の発明が記載されていると認められ、

「C、O、N、Hを含むガス不純物を除くCuの純度が99.99990wt%以上99.99999wt%未満であり、Cの含有量が0.24wtppm、Oの含有量が0.03wtppm、Nの含有量が1wtppm未満、Hの含有量が0.2wtppm未満、Sの含有量が0.05wtppm、Clの含有量が0.01wtppm未満、Siの含有量が0.01wtppm未満である、高純度単結晶銅ターゲット。」
(以下、「引用1発明1」という。)

実施例2に注目すると、次の発明が記載されていると認められる。

「C、O、N、Hを含むガス不純物を除くCuの純度が99.999990wt%以上99.999999wt%未満であり、Cの含有量が0.24wtppm、Oの含有量が0.005wtppm未満、Nの含有量が1wtppm未満、Hの含有量が0.2wtppm未満、Sの含有量が0.01wtppm、Clの含有量が0.01wtppm未満、Siの含有量が0.01wtppm未満である、高純度単結晶銅ターゲット。」
(以下、「引用1発明2」という。)

2.引用文献2
2-1.引用文献2の記載
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2005-330591号公報)には、「スパッタリングターゲット」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

2ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分(O,N,C,H)を除いた純度99.9999wt%以上の銅材を真空中、または不活性ガス中で溶解し、鋳造した多結晶銅からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記多結晶銅の結晶粒径が、1mm以下であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1または2記載のスパッタリングターゲットであって、
当該スパッタリングターゲットに含まれるガス成分は、酸素(O)が0.001重量ppm以上0.03重量ppm以下、硫黄(S)が0.001重量ppm以上0.05重量ppm以下、水素が1重量ppm未満であることを特徴とするスパッタリングターゲット。」

2イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
成膜配線の銅中にガス状、分子状、あるいは化合物として存在するガス成分、すなわち、酸素、水素、硫黄等のガス成分元素が存在した場合、ガス成分は、LSIのパッケージ部の外部より侵入してくる水分等との反応により、腐食の原因となる。また成膜中に放出される微量な酸素は、膜を酸化させ抵抗率を上昇させると共に、酸化による腐食発生の原因となる。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、スパッタリング法によって銅をスパッタリングターゲットとして配線を形成する場合、耐酸化性、耐腐食性、耐エレクトロマイグレーション性、耐ストレスマイグレーション性に優れたスパッタリングターゲット及びこのスパッタリングターゲットにより配線された銅配線を持つ半導体素子及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。」

2ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明者らの研究により、ガス成分(O,N,C,H)を除いた純度99.9999重量%以上の銅を基体金属として酸素濃度を0.01容量ppm以下の雰囲気で溶解、鋳造された鋳塊からスパッタリングターゲットを作成することで、スパッタリングターゲットに含まれるガス成分を低減させることができ、ガス成分は、酸素(O)が0.001重量ppm以上0.03重量ppm以下、硫黄(S)が0.001重量ppm以上0.05重量ppm以下、水素が1重量ppm未満となることが分かった。このスパッタリングターゲット及びこのスパッタリングターゲットにより成膜された銅配線を用いることで、耐酸化性、耐腐食性、耐エレクトロマイグレーション性、耐ストレスマイグレーション性に優れた銅薄膜配線を得ることができた。」

2エ 「【0032】
(実施例1)
本実施例は、ガス成分(O,N,C,H)を除いた純度99.9999重量%の銅からバッチ式鋳造炉を用いてスパッタリングターゲットを作成したときの例を示すものである。
【0033】
図1は、本実施例に係るスパッタリングターゲットの製造方法の処理の流れを示したフローチャートである。
【0034】
また、図3は、本実施例に用いたバッチ式鋳造炉の概略断面図である。以下の説明において図3の概略断面図を参照しながら説明する。
【0035】
図3の高純度カーボン製るつぼ41の中に、ガス成分を除いた純度99.9999重量%の銅42を約10Kg充填した。なお、るつぼ41はあらかじめ超高純度アルゴン雰囲気中で1500゜Cで5時間カラ焼きを行ったものを使用した。
【0036】
溶解室の真空排気及び高純度アルゴンガス置換を数回繰り返し、溶解室の酸素濃度が0.1容量ppm以下になったのを確認した後、昇温・溶解を開始した。そして、原料の銅42が完全に溶解してから、るつぼ41の底部から徐冷して凝固させた。得られた鋳塊は直径10cm、厚さ14cmの円筒形をしていて、鋳塊には鋳造欠陥がなく、鋳塊は単結晶に近いものであった。これを原料として鍛造により厚さ3cmに加工した。この鍛造によって、鋳塊の組織が微細化してスパッタリングターゲットに適した微細多結晶になった。
【0037】
次に硝酸により鋳塊の表面の汚染層を除去した後、高純度アルゴン雰囲気中で135゜Cで30分間焼鈍して加工歪を除去した。焼鈍後の鋳塊の結晶粒径は1mm以下であった。
【0038】
次にクロス圧延をおこなって厚さ7mmの板に加工した。得られた圧延板の表面研削及び外形加工を行って、直径6インチ、厚さ5mmの円盤にした。次に有機溶剤による円盤の洗浄後、希硝酸を用いて円盤にエッチングを行いスパッタリングターゲットとした。
【0039】
スパッタリングターゲットの不純物分析はグロー放電質量分析法により行った。その結果不純物金属成分は原料の分析値と同じであり、その分析結果を図2の表に示した。また、このときのガス不純物の分析結果も図2の表に併せて示した。
【0040】
以上のようにして得られたスパッタリングターゲットを用いてRFスパッタ法により幅0.3μm、厚さ0.8μmの銅配線を形成した。このときの成膜条件はアルゴンガス圧力3×10^(-3)Torr、放電電力500Wとして、Si基板上に堆積させた。
【0041】
次に保護膜としてCVD法により厚さ0.8μmのSiN膜を堆積させた。この試料について電流密度1×10^(6)A/cm^(2)、雰囲気温度200゜Cで2000時間の加速試験を行い断線不良率を測定した。その結果試料の断線不良率は1.0%であり、その結果を図2の表に併せて示した。」

2オ 「【0042】
(実施例2)
本実施例は、ガス成分(O,N,C,H)を除いた純度99.99999重量%の銅からバッチ式鋳造炉を用いてスパッタリングターゲットを作成したときの例を示すものである。
【0043】
純度99.99999重量%の銅を用いたこと以外は実施例1に記載の方法と同様に行った。スパッタリングターゲットの作成方法は、実施例1と同じであるので省略する。
【0044】
スパッタリングターゲットの不純物分析はグロー放電質量分析法により行った。その結果不純物金属成分は原料の分析値と同じであり、その分析結果を図2の表に併せて示した。また、このときのガス不純物の分析結果も図2の表に併せて示した。」

2カ 「【図2】



2キ 「【図3】



2-2.引用文献2に記載された発明
ア 引用文献2の発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)とは、上記2イによれば、成膜配線の銅中に酸素、水素、硫黄等のガス成分元素が存在すると、外部より侵入してくる水分等と反応して腐食の原因となり、また、成膜中に放出される微量な酸素が、膜を酸化させ抵抗率を上昇させると共に、酸化による腐食発生の原因になるという問題点を解決して、耐酸化性、耐腐食性、耐エレクトロマイグレーション性、耐ストレスマイグレーション性に優れた配線を形成することのできるスパッタリングターゲットを提供することである。

イ 上記アの課題を解決するために用いられる高純度銅ターゲットは、上記2ウによれば、ガス成分(O,N,C,H)を除いた純度99.9999重量%以上の銅を基体金属として酸素濃度を0.01容量ppm以下の雰囲気で溶解、鋳造された鋳塊から作成されたスパッタリングターゲットであって、当該スパッタリングターゲットに含有されるガス成分は、酸素(O)が0.001重量ppm以上0.03重量ppm以下、硫黄(S)が0.001重量ppm以上0.05重量ppm以下、水素が1重量ppm未満となっているものである。

ウ 実施例1として得られたスパッタリングターゲットは、上記2エによれば、上記2キ図3のバッチ式鋳造炉を用いて製造されたものであり、ガス成分を除いた純度99.9999重量%の銅42をカラ焼きしたるつぼ41の中に充填し(【0035】)、溶解室の酸素濃度が0.1容量ppm以下になったのを確認した後、昇温・溶解し、るつぼ41の底部から徐冷して凝固させることによって単結晶に近い鋳塊を得、この鋳塊を鍛造して微細多結晶としたものを、クロス圧延し、表面研削し、外形加工し、洗浄、エッチングを行うことによって作成されたものである(【0036】?【0038】)。
そして、実施例1のスパッタリングターゲットの不純物分析を行った結果、不純物金属成分は原料の分析値と同じであり、ガス不純物の分析結果は図2の表に示されたものとなった(【0039】)。

エ 実施例2として得られたスパッタリングターゲットは、上記2オによれば、ガス成分(O,N,C,H)を除いた純度99.99999重量%の銅を用いたこと以外は実施例1の方法と同様にして作成されたものであり(【0042】、【0043】)、実施例2のスパッタリングターゲットの不純物分析を行った結果、不純物金属成分は原料の分析値と同じであり、ガス不純物の分析結果は図2の表に示されたものとなった(【0044】)。

オ そこで、純度99.9999重量%の銅を用いた上記実施例1のスパッタリングターゲットについて図2の表の不純物の分析結果に注目すると、Siが0.2ppm、Oは0.03ppm未満、Hは1ppm未満、Sが0.05ppmである。
また、純度99.99999重量%の銅を用いた上記実施例2のスパッタリングターゲットについて図2の表の不純物の分析結果に注目すると、Siが0.04ppm、Oは0.005ppm未満、Hは0.2ppm未満、Sが0.01ppmである。
なお、純度の単位ppmは、段落【0035】で銅をKg単位で測定し、その純度を「重量%」で表示していることから、同様に重量基準である「重量ppm」を意味しているものと認められる。

カ ここで、実施例1と実施例2のスパッタリングターゲットの不純物金属成分の含有量が原料の分析値と同一であったということは、ガス成分を除いて、実施例1と実施例2のスパッタリングターゲットの銅の純度は、それぞれの原料の銅の純度と同じであることを意味するものと解されるから、実施例1のスパッタリングターゲットは、ガス成分(O,N,C,H)を除いて、銅の純度が99.9999wt%であり、実施例2のスパッタリングターゲットは、ガス成分(O,N,C,H)を除いて、銅の純度が99.99999wt%であるといえる。

キ また、実施例1及び実施例2のスパッタリングターゲットは、O、H、Sのガス不純物の濃度が低減されていることが確認されているので、不純物金属成分の含有量が原料の分析値と同一であったということは、図3のバッチ式鋳造炉を用いた引用文献2の製造方法は、当該バッチ式鋳造炉の溶解室の酸素濃度を0.1容量ppm以下とすることによって、O、H、Sのガス不純物の含有量を低減したスパッタリングターゲットを得ることを意図するものであって、原料内の不純物金属成分の含有量を減少させて銅の純度を高めることを意図するものではないといえる。

ク 上記2ア?2カの記載及び上記ア?カの検討によれば、引用文献2には、実施例1に注目すると、次の発明が記載されていると認められ、

「ガス成分(O,N,C,H)を除いたCuの純度が99.9999重量%であり、Siの含有量が0.2重量ppm、Sの含有量が0.05重量ppm、Oの含有量が0.03重量ppm、Hの含有量が1重量ppm未満である、スパッタリングターゲット。」(以下、「引用2発明1」という。)

実施例2に注目すると、次の発明が記載されていると認められる。

「ガス成分(O,N,C,H)を除いたCuの純度が99.99999重量%であり、Siの含有量が0.04重量ppm、Sの含有量が0.01重量ppm、Oの含有量が0.005重量ppm未満、Hの含有量が0.2重量ppm未満である、スパッタリングターゲット。」(以下、「引用2発明2」という。)

3.引用文献3
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開平10-060632号公報)には、「スパッタリングターゲット」(発明の名称)に関して記載されているところ、引用文献3に係る出願の分割出願が引用文献2に係る出願であり、引用文献3と引用文献2の明細書及び図面には同一事項が記載されている。
したがって、引用文献3には、引用文献2と同様に、上記引用2発明1と引用2発明2が記載されている。

4.引用文献4
4-1.引用文献4の記載
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特許第4519775号公報)には、「超高純度銅及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

4ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は、単一の電解槽を用いて原料銅の溶解と採取を行ない、8N(99.999999wt%)以上の超高純度銅及びその製造方法に関する。【背景技術】
【0002】
高純度銅の特徴は、再結晶温度が低く軟らかいこと、中間温度域での脆性も殆んどなく加工性が良いこと、極低温において電気抵抗が小さく熱伝導性が高いことであり、極微量の元素添加による特性の改良や、不純物汚染がもたらす特性の影響が極端に大きいことも特徴の一つである。 高純度銅のこれらの特徴を利用して、各種の電子部品材料、半導体装置材料として広範囲に使用されているが、特にスパッタリングターゲットを使用して高純度銅薄膜を形成する場合、成膜特性や成膜条件の安定性は、ターゲットの純度に大きく依存しているため、ターゲット材料の高純度化が強く要請されている。」

4イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、不純物が多く含有される銅原料から、銅含有溶液を用いて電解することにより、純度8N(99.999999wt%)以上の超高純度銅を効率的に製造する技術及びそれによって得られた超高純度銅を提供することを目的としたものである。」

4ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
市販の2N?4Nレベルの銅原料をアノードとし、カソードを使用して電解を行う。銅原料には、主として銀、セレン等が多く含有されている。 電解液にはSを含まない酸溶液が望ましく、具体的には硝酸、塩酸等を用いて行う。原料の銅はアノードより電解液中に溶解する(アノライトを形成)。【0010】
前記アノードとカソードはイオン交換膜で仕切り、アノライトを間歇的又は連続的に抜き出す。カソライトは、イオン交換膜を介して外側の液(アノライト)と分離している。イオン交換膜はCuイオンをあまり通過させない膜ならば、特に制限がなく適用できる。
【0011】
抜き出したアノライトに活性炭を添加し攪拌する。液中の不純物は活性炭に吸着され、これを濾過することにより液中から除去される。この時、塩素イオンを含有した溶液を添加することにより、より効果的に不純物を除去できる。必要に応じて、溶媒抽出等を行っても良い。 不純物を除去して高純度化された銅電解液は、カソード側に間歇的又は連続的に導入し、カソライトとして使用して電解採取を行う。
【0012】
以上によって、純度8Nの電析銅(カソードに析出)が得られる。すなわち、ガス成分を除き8N(99.999999wt%)以上であり、不純物として金属成分の全てを0.01wtppm以下とすることができる。 さらに、電解によって得られた電析銅を電子ビーム溶解等の真空溶解を行うことができる。この真空溶解によって、Na、K等のアルカリ金属やその他の揮発性不純物及びCl等のガス成分を効果的に除去できる。必要に応じて還元性ガスで脱ガスすることにより、さらにガス成分を除去し低減できる。」

4エ 「【0014】
(実施例1)
4Nレベルの塊状の銅原料50kgをアノードとし、カソードに銅板を使用して電解を行った。原料の不純物の含有量を表1に示す。なお、同表には、従来の6N銅の不純物量も合わせて示す。
銅原料には、主としてセレン、銀、炭素、硫黄、塩素等が多く含有されている。例えば表1に示すように、S:3.1wtppm、Ag:7.8wtppm、Cl:7.6wtppm、Se:3.2wtppmが含有されている。
浴温30°C、硝酸系電解液を使用し、pH1.3、電流密度1A/dm^(2)で実施した。電解当初、アノード側のCu濃度は1g/L以下である。電解後、Cu濃度100g/Lとして100L抜き出した。
【0015】
【表1】

【0016】
抜き出したアノライトを活性炭処理槽へ導入し、塩化銅を13mg添加した。その後、活性炭を30g/L添加して不純物を除去した。
この液をカソード側に入れて電解採取を行った。カソード側に約8kgのCuが得られた。これを10^(-3)Paで真空溶解してインゴットを得た。これより3mm角×100mmの棒を切り出し、H_(2)雰囲気中、600°C、2時間焼鈍した。
この棒を4端子法により、残留抵抗比を測定した。293Kでは17μΩm、4.2Kでは4.25×10^(-4)μΩ・mとなり、残留抵抗比40,000の値を示した。本実施例で得られた超高純度銅の不純物量を表1に示す。 また、この材料を温度測定標準材料として用いたところ、100回使用しても問題なく使用でき、誤差が殆んど生じなかった。」

4オ 「【0021】
また、スパッタリングターゲットを使用して高純度銅薄膜を形成する場合に、成膜特性や成膜条件の安定性は、ターゲットの純度に大きく依存している。この点に鑑み、上記実施例1で得られた超高純度を使用してターゲットを作製し、また同様に従来の4N銅ターゲット及び6N高純度銅ターゲットを作製し、これらを使用してスパッタリングし、その時のパーティクル発生量を観察した。
この結果、4N銅ターゲット材はパーティクル発生量が多く観察されたが、6N高純度銅ターゲットはそれが少なかった。さらに本実施例1のターゲット材は、さらに極少であった。これより、超高純度銅ターゲットは、成膜特性に優れていることが分かった。」

4-2.引用文献4の記載事項と引用文献4に記載された従来発明
ア 上記4ア、4イによれば、スパッタリングターゲットを使用して高純度銅薄膜を形成する場合、成膜特性や成膜条件の安定性はターゲットの純度に大きく依存しているため、ターゲット材料の高純度化が強く要請されているという事情を踏まえて、引用文献4は、不純物が多く含有される銅原料から、電解することにより、純度8N(99.999999wt%)以上の超高純度銅を提供することを目的としている。

イ 上記4ウによれば、引用文献4には、市販の2N?4Nレベルの銅原料をアノードとし、カソードを使用して電解を行う方法が記載されており、具体的には、Cuイオンをあまり透過させないイオン交換膜でアノードとカソードを仕切り、アノードから電解液中に銅が溶解したアノライトを抜き出し、当該アノライト中の不純物を活性炭に吸着させ濾過した銅電解液をカソード側に導入してカソライトとし、電解採取を行う方法によって、銅の純度がガス成分を除き8N(99.999999wt%)以上であり、不純物として金属成分の全てを0.01wtppm以下とした電析銅を得ることができる。

ウ 上記4エには、実施例1として、純度が4Nの塊状の銅原料をアノードに用いて上記イの電解方法によって得られた、純度8?9Nの超高純度銅が記載されている。

エ また、上記4エの表1には、実施例1の8?9N銅と対比して、原料の4N銅の不純物量と、従来の6N銅の不純物量も記載されており、表1における4N銅の不純物量の単位が「wtppm」であるから(【0014】)、上記6N銅及び上記8?9N銅の不純物量の単位も同様に「wtppm」であるものと認められる。
したがって、上記6N銅の不純物量は、Alが0.004wtppm、Siが0.05wtppm、Sが0.005wtppm未満であり、実施例1の8?9N銅は、AlやSi等のいずれの金属不純物もその含有量が0.01wtppm未満となっているものと認められる。

オ 上記4ア?4エの記載及び上記ア?エの検討によれば、引用文献4には、従来の6N銅に注目すると、次の発明が記載されていると認められる。

「Cuの純度が6Nであり、Alが0.004wtppm、Siが0.05wtppm、Sが0.005wtppm未満である、高純度銅。」(以下、「引用4従来発明」という。)

第5 当審の判断
1.引用1発明1を主たる発明とした場合の判断
(1)本願発明1と引用1発明1との対比
ア 引用1発明1の「C、O、N、Hを含むガス不純物を除くCuの純度が99.99990wt%以上99.99999wt%未満」であることと、本願発明1の「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」であることは、「wt%」と「mass%」は表現が異なるだけで同じ単位であることを踏まえると、いずれも、「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上99.99999mass%未満の範囲内」である点で共通する。

イ 引用1発明1の「Siの含有量が0.01wtppm未満」、「Sの含有量が0.05wtppm」であることと、本願発明1の「Siの含有量が0.011massppm以上0.032massppm以下、Sの含有量が0.011massppm以上0.03massppm以下」であることは、数値範囲に重なるところはないが、いずれも、SiとSを不純物として含有している点で共通する。

ウ 引用1発明1の「高純度単結晶銅ターゲット」は、スパッタリングターゲットに使用される高純度銅素材であるといえるから、本願発明1の「高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材」に相当する。

エ したがって、本願発明1と引用1発明1は、次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上99.99999mass%未満の範囲内とされ、SiとSを不純物として含有していることを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。」

(相違点1)
「Alの含有量」が、本願発明1では「0.005massppm以下」であるのに対して、引用1発明1ではAlの含有量が測定されておらず不明である点。
(相違点2)
「Siの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.032massppm以下」であるのに対して、引用1発明1では「0.01wtppm未満」であり、数値範囲に重なりがない点。
(相違点3)
「Sの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.03massppm以下」であるのに対して、引用1発明1では「0.05wtppm」であり、数値範囲に重なりがない点。

(2)相違点1?3についての判断
ア 引用文献1では、引用1発明1の認定の基礎となった実施例1では、6N高純度銅を原料に用いて6N-銅単結晶ターゲットを作成しているところ、これら両者は不純物金属成分の濃度が同一であるから、原料のAl濃度がわかれば、6N-銅単結晶ターゲットのAl濃度が判明すると考えられるが、当該原料のAl濃度は記載されておらず、不明である。

イ 引用文献2(及び同内容の引用文献3)の実施例1では純度99.9999重量%、すなわち6Nの銅を原料としてスパッタリングターゲットを製造しているが、上記原料のAl含有量は不明である。

ウ 引用文献4の表1には、従来の6N銅について記載されており、Al不純物量が0.004wtppmであることが記載されている。
そこで、仮に、引用1発明1において、原料の6N高純度銅として、引用文献4の6N銅を採用すれば、当該原料から作成される6N-銅単結晶ターゲットの金属不純物濃度は原料と同じとなるから、Alの不純物量は0.004wtppm、すなわち、0.005massppm以下とすることはできるが、Siの不純物量が引用文献4の6N銅のSi不純物量と同じ0.05wtppmとなってしまうため、Al不純物量の条件は満たしたとしても、Si含有量の条件を満たさないものとなってしまう。

エ なお、平成30年9月6日付け刊行物等提出書に添付して提出された刊行物2(発明協会公開技報2002-502439)には、純度6Nの12枚の高純度銅ターゲットについて以下のとおり記載されており、表1にはAlの不純物量が、0.001wtppm未満であるか、0.002wtppmであることが記載されている。


そこで、仮に、引用1発明1において、原料の6N高純度銅として、上記刊行物2の純度6Nの高純度銅を採用すれば、当該原料から作成される6N-銅単結晶ターゲットの金属不純物濃度は原料と同じとなるから、Alの不純物量は0.001wtppm未満であるか、0.002wtppm、すなわち、0.005massppm以下とすることはできるが、Sの不純物量も上記刊行物2の純度6Nの高純度銅のS不純物量と同じ0.005wtppm未満となってしまうため、Al不純物量の条件は満たしたとしても、S含有量の条件を満たさないものとなってしまう。

オ よって、引用1発明1において、「Alの含有量が0.005massppm以下」とするとともに、SiとSの含有量を本願発明1のものとすること、すなわち、相違点1?相違点3に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

カ そして、本願発明は、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内という、3回以上の精製処理工程を必要とする8N銅ほど純度が高くはないものでありながら、酸化物、炭化物、窒化物等の異物を形成しやすい元素であるAlとSiに注目してこれらを所定濃度に低減することによって、比較的低コストで、成膜時の異常放電の発生を抑制し、異物が膜内に混入することのない、高品質の高純度銅膜を成膜することができるという格別の効果を奏するものである。

(3)小活
以上から、引用1発明1において、上記相違点1?相違点3について、それぞれ、当該相違点1?相違点3に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備える本願発明2?6についても、同様の理由によって、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.引用1発明2を主たる発明とした場合の判断
(1)本願発明1と引用1発明2との対比
ア 引用1発明2の「C、O、N、Hを含むガス不純物を除くCuの純度が99.99999wt%以上99.999999wt%未満」であることと、本願発明1の「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」であることは、「wt%」と「mass%」は表現が異なるだけで同じ単位であることを踏まえると、いずれも、「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999990mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」である点で共通する。

イ 引用1発明2の「Siの含有量が0.01wtppm未満」、「Sの含有量が0.01wtppm」であることと、本願発明1の「Siの含有量が0.011massppm以上0.032massppm以下、Sの含有量が0.011massppm以上0.03massppm以下」であることは、数値範囲に重なるところはないが、いずれも、SiとSを不純物として含有している点で共通する。

ウ 引用1発明2の「高純度単結晶銅ターゲット」は、スパッタリングターゲットに使用される高純度銅素材であるといえるから、本願発明1の「高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材」に相当する。

エ したがって、本願発明1と引用1発明2は、次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999990mass%以上99.999993mass%以下の範囲内とされ、SiとSを不純物として含有していることを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。」

(相違点4)
「Alの含有量」が、本願発明1では「0.005massppm以下」であるのに対して、引用1発明2ではAlの含有量が測定されておらず不明である点。
(相違点5)
「Siの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.032massppm以下」であるのに対して、引用1発明2では「0.01wtppm未満」であり、数値範囲に重なりがない点。
(相違点6)
「Sの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.03massppm以下」であるのに対して、引用1発明2では「0.01wtppm」であり、数値範囲に重なりがない点。

(2)相違点4についての判断
ア 引用文献1では、引用1発明2の認定の基礎となった実施例2では、7N高純度銅を原料に用いて7N-銅単結晶ターゲットを作成しているところ、これら両者は不純物金属成分の濃度が同一であるから、原料のAl濃度がわかれば、7N-銅単結晶ターゲットのAl濃度が判明すると考えられるが、当該原料のAl濃度は不明である。

イ 引用文献2(及び同内容の引用文献3)の実施例2では7N銅を原料としてスパッタリングターゲットを製造しているが、上記原料のAl含有量は不明である。

ウ 引用文献4には、7N銅についての記載がない。

エ なお、平成30年9月6日付け刊行物等提出書に添付して提出された刊行物2(発明協会公開技報2002-502439)にも、7N銅についての記載がない。

オ したがって、引用1発明2において、「Alの含有量が0.005massppm以下」とすることを動機付ける証拠はないので、相違点4に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(3)相違点5についての判断
ア 引用文献1には、その表1にSiの含有量が記載されているものの、引用文献1の課題を解決するにあたり、Siの含有量に注目しているわけではなく、Siの含有量が多い方が好ましいとする記載や示唆がないし、原料として使用される7N高純度銅においてSiの含有量が0.011?0.03wtppmが通常のことであることを示す文献も見つかっていない。

イ したがって、引用1発明2において、0.01wtppm未満であるSiの含有量を、0.011?0.03wtppmに増加することを動機付ける証拠がないので、相違点5に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

ウ そして、本願発明は、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内という、3回以上の精製処理工程を必要とする8N銅ほど純度が高くはないものでありながら、酸化物、炭化物、窒化物等の異物を形成しやすい元素であるAlとSiに注目してこれらを所定濃度に低減することによって、比較的低コストで、成膜時の異常放電の発生を抑制し、異物が膜内に混入することのない、高品質の高純度銅膜を成膜することができるという格別の効果を奏するものである。

(4)小活
以上から、引用1発明2において、少なくとも、上記相違点4及び相違点5について、それぞれ、当該相違点4及び相違点5に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、上記相違点6について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備える本願発明2?6についても、同様の理由によって、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3.引用2発明1を主たる発明とした場合の判断
(1)本願発明1と引用2発明1との対比
ア 引用2発明1の「ガス成分(O,N,C,H)を除いたCuの純度が99.9999重量%」であることと、本願発明1の「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」であることは、「wt%」と「mass%」は表現が異なるだけで同じ単位であることと、「純度が99.9999重量%」とは「純度が99.99990wt%以上99.99999wt%未満」であることを意味していると認められることを踏まえると、いずれも、「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上99.99999mass%未満の範囲内」である点で共通する。

イ 引用2発明1の「Siの含有量が0.2重量ppm、Sの含有量が0.05重量ppm」であることと、本願発明1の「Siの含有量が0.011massppm以上0.032massppm以下、Sの含有量が0.011massppm以上0.03massppm以下」であることは、数値範囲に重なるところはないが、いずれも、SiとSを不純物として含有している点で共通する。

ウ 引用2発明1の「スパッタリングターゲット」は、スパッタリングターゲットに使用される高純度銅素材であるといえるから、本願発明1の「高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材」に相当する。

エ したがって、本願発明1と引用2発明1は、次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.99998mass%以上99.99999mass%未満の範囲内とされ、SiとSを不純物として含有していることを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。」

(相違点7)
「Alの含有量」が、本願発明1では「0.005massppm以下」であるのに対して、引用2発明1ではAlの含有量が測定されておらず不明である点。
(相違点8)
「Siの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.032massppm以下」であるのに対して、引用2発明1では「0.2重量ppm」である点。
(相違点9)
「Sの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.03massppm以下」であるのに対して、引用2発明1では「0.05重量ppm」である点。

(2)相違点7?9についての判断
ア 引用文献2では、引用2発明1の認定の基礎となった実施例1では、純度が99.9999重量%の銅を原料に用いてスパッタリングターゲットを作成しているところ、これら両者は不純物金属成分の濃度が同一であるから、原料のAl濃度がわかれば、スパッタリングターゲットのAl濃度が判明すると考えられるが、当該原料のAl濃度は不明である。

イ 引用文献1の実施例1では6N銅を原料としてスパッタリングターゲットを製造しているが、上記原料のAl含有量は不明である。

ウ 引用文献4の表1には、6N銅について記載されており、Al不純物量が0.004wtppmであることが記載されている。
そこで、仮に、引用2発明1において、原料の純度が99.9999重量%の銅として、引用文献4の6N銅を採用すれば、当該原料から作成されるスパッタリングターゲットの金属不純物濃度は原料と同じとなるから、Alの不純物量は0.004wtppm、すなわち、0.005massppm以下とすることはできるが、Siの不純物量が引用文献4の6N銅のSi不純物量と同じ0.05wtppmとなってしまうため、Al不純物量の条件は満たしたとしても、Si含有量の条件を満たさないものとなってしまう。

エ なお、平成30年9月6日付け刊行物等提出書に添付して提出された刊行物2(発明協会公開技報2002-502439)には、純度6Nの高純度銅ターゲットについて記載されており、その表1にはAlの不純物量が、0.001wtppm未満であるか、0.002wtppmであることが記載されている。
そこで、仮に、引用2発明1において、原料の純度が99.9999重量%の銅として、上記刊行物2の純度6Nの高純度銅を採用すれば、当該原料から作成されるスパッタリングターゲットの金属不純物濃度は原料と同じとなるから、Alの不純物量は0.001wtppm未満であるか、0.002wtppm、すなわち、0.005massppm以下とすることはできるが、Sの不純物量が上記刊行物2の純度6Nの高純度銅のS不純物量と同じ0.005wtppm未満となってしまうため、Al不純物量の条件は満たしたとしても、S不純物量の条件を満たさないものとなってしまう。

オ よって、引用2発明1において、「Alの含有量が0.005massppm以下」とするとともに、SiとSの含有量を本願発明1のものとすること、すなわち、相違点7?相違点9に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

カ そして、本願発明は、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内という、3回以上の精製処理工程を必要とする8N銅ほど純度が高くはないものでありながら、酸化物、炭化物、窒化物等の異物を形成しやすい元素であるAlとSiに注目してこれらを所定濃度に低減することによって、比較的低コストで、成膜時の異常放電の発生を抑制し、異物が膜内に混入することのない、高品質の高純度銅膜を成膜することができるという格別の効果を奏するものである。

(3)小活
以上から、引用2発明1において、上記相違点7?相違点9について、それぞれ、当該相違点7?相違点9に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、本願発明1は、引用文献2に記載された発明と、引用文献1、3?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本願発明1を引用することによって、本願発明2の特定事項の全てを備える本願発明2?6についても、同様の理由によって、引用文献2に記載された発明と、引用文献1、3?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4.引用2発明2を主たる発明とした場合の判断
(1)本願発明1と引用2発明2との対比
ア 引用2発明2の「ガス成分(O,N,C,H)を除いたCuの純度が99.99999重量%」であることと、本願発明1の「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」であることは、「wt%」と「mass%」は表現が異なるだけで同じ単位であることと、「純度が99.99999重量%」とは「純度が99.999990wt%以上99.999999wt%未満」であることを意味していると認められることを踏まえると、いずれも、「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999990mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」である点で共通する。

イ 引用2発明2の「Siの含有量が0.04重量ppm、Sの含有量が0.01wtppm」であることと、本願発明1の「Siの含有量が0.011massppm以上0.032massppm以下、Sの含有量が0.011massppm以上0.03massppm以下」であることは、数値範囲に重なるところはないが、いずれも、SiとSを不純物として含有している点で共通する。

ウ 引用2発明2の「スパッタリングターゲット」は、スパッタリングターゲットに使用される高純度銅素材であるといえるから、本願発明1の「高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材」に相当する。

エ したがって、本願発明1と引用2発明2は、次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999990mass%以上99.999993mass%以下の範囲内とされ、SiとSを不純物として含有していることを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。」

(相違点10)
「Alの含有量」が、本願発明1では「0.005massppm以下」であるのに対して、引用2発明2ではAlの含有量が測定されておらず不明である点。
(相違点11)
「Siの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.032massppm以下」であるのに対して、引用2発明2では「0.04重量ppm」である点。
(相違点12)
「Sの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.03massppm以下」であるのに対して、引用2発明2では「0.01重量ppm」である点。

(2)相違点10についての判断
ア 引用文献2では、引用2発明2の認定の基礎となった実施例2として、純度が99.99999重量%の銅を原料に用いてスパッタリングターゲットを作成しているところ、これら両者は不純物金属成分の濃度が同一であるから、原料のAl濃度がわかれば、スパッタリングターゲットのAl濃度が判明すると考えられるが、当該原料のAl濃度は不明である。

イ 引用文献1の実施例2では7N銅を原料としてスパッタリングターゲットを製造しているが、上記原料のAl含有量は不明である。

ウ 引用文献4には、7N銅についての記載がない。

エ なお、平成30年9月6日付け刊行物等提出書に添付して提出された刊行物2(発明協会公開技報2002-502439)にも、7N銅についての記載がない。

オ したがって、引用文献2の実施例2で原料として使用された、純度が99.99999重量%の銅のAl濃度が不明であり、また、引用2発明2のAl含有量を0.005massppm以下とすることを動機付ける文献もない。

カ よって、引用2発明2において、「Alの含有量が0.005massppm以下」とする動機付けがないから、相違点4に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(3)相違点12についての判断
ア 引用文献2には、その図2においてSの含有量が記載されているものの、引用文献2の課題を解決するにあたり、Sの含有量に注目しているわけではなく、Sの含有量が多い方が好ましいとする記載や示唆がないし、原料として使用される7N高純度銅においてSの含有量が0.011?0.03wtppmが通常のことであることを示す文献も見つかっていない。

イ したがって、引用2発明2において、0.01重量ppmであるSの含有量を、0.011?0.03wtppmに増加させる動機付けがないから、相違点12に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

ウ そして、本願発明は、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内という、3回以上の精製処理工程を必要とする8N銅ほど純度が高くはないものでありながら、酸化物、炭化物、窒化物等の異物を形成しやすい元素であるAlとSiに注目してこれらを所定濃度に低減することによって、比較的低コストで、成膜時の異常放電の発生を抑制し、異物が膜内に混入することのない、高品質の高純度銅膜を成膜することができるという格別の効果を奏するものである。

(4)小活
以上から、引用2発明2において、少なくとも、上記相違点10及び相違点12について、当該相違点10及び相違点12に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、上記相違点11について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備える本願発明2?6についても、同様の理由によって、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5.引用4従来発明を主たる発明とした場合の判断
(1)本願発明1と引用4従来発明との対比
ア 引用4従来発明の「Cuの純度が6N」は、Cuの純度が99.99990wt%以上99.99999wt%未満であることを意味していると解されるから、本願発明1の「O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内」であることと、「Cuの純度が99.99998mass%以上99.99999mass%未満の範囲内」である点で共通する。

イ 引用4従来発明の「Alが0.004wtppm」であることは、本願発明1の「Alの含有量が0.005massppm以下」であることに相当する。

ウ 引用4従来発明の「Siが0.05wtppm、Sが0.005wtppm未満である」ことと、本願発明1の「Siの含有量が0.011massppm以上0.032massppm以下、Sの含有量が0.011massppm以上0.03massppm以下」であることは、数値範囲に重なるところはないが、いずれも、SiとSを不純物として含有している点で共通する。

エ 引用4従来発明の認定の基礎となった「6N高純度銅」は、上記4オの段落【0021】に、スパッタリングターゲットとして使用することが記載されていることから、スパッタリングターゲット用の高純度銅素材であるといえるので、本願発明1の「高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材」に相当する。

オ したがって、本願発明1と引用4従来発明は、次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「Cuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内とされ、Alの含有量が0.005massppm以下とされており、SiとSを不純物として含有していることを特徴とする高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材。」

(相違点13)
「Cuの純度」が、本願発明1では「O、H、N、Cを除いた」純度であるのに対して、引用4従来発明では「O、H、N、Cを除いた」純度であるか不明である点。
(相違点14)
「Siの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.032massppm以下」であるのに対して、引用4従来発明では「0.05wtppm」であり、数値範囲に重なりがない点。
(相違点15)
「Sの含有量」が、本願発明1では「0.011massppm以上0.03massppm以下」であるのに対して、引用4従来発明では「0.005wtppm未満」であり、数値範囲に重なりがない点。

(2)相違点14、15についての判断
ア 引用文献4には、上記4アの段落【0002】に「スパッタリングターゲットを使用して高純度銅薄膜を形成する場合、成膜特性や成膜条件の安定性は、ターゲットの純度に大きく依存しているため、ターゲット材料の高純度化が強く要請されている」と記載されているように、スパッタリング銅ターゲット用銅素材から、その不純物の含有量を低減して高純度銅とすることを課題としている。

イ そして、引用文献4は、上記課題に対して、上記第4の4.4-2.イに記載した、市販の2N?4Nレベルの銅原料をアノードとして電解を行う方法により、超高純度銅を提供するものであるところ、Cuの純度が6Nである引用4従来発明についても、不純物であるSiの含有量が高ければ、当該Siを低減するために上記電解を行う方法を適用することは可能であり、仮に当該方法を適用すれば、Siは0.01wtppm以下に低減することとなるので、本願発明1のSiの下限値「0.011massppm」よりもさらに低い値となってしまうとともに、Cuの純度は8?9Nに上昇して本願発明1のCuの濃度「99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲」外となってしまい、また、Sの濃度を「0.011massppm以上」に増加させることもできない。

ウ したがって、引用4従来発明において、相違点13について検討するまでもなく、Cuの純度を維持したままで、SiとSの含有量を本願発明1のものとすること、すなわち、相違点14?15に係る本願発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

エ そして、本願発明は、O、H、N、Cを除いたCuの純度が99.999980mass%以上99.999993mass%以下の範囲内という、3回以上の精製処理工程を必要とする8N銅ほど純度が高くはないものでありながら、酸化物、炭化物、窒化物等の異物を形成しやすい元素であるAlとSiに注目してこれらを所定濃度に低減することによって、比較的低コストで、成膜時の異常放電の発生を抑制し、異物が膜内に混入することのない、高品質の高純度銅膜を成膜することができるという格別の効果を奏するものである。

(3)小活
以上から、引用4従来発明において、上記相違点13?相違点15について、それぞれ、当該相違点13?相違点15に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、本願発明1は、引用文献4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備える本願発明2?6についても、同様の理由によって、引用文献4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?6はいずれも、引用文献1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-06-08 
出願番号 特願2014-116011(P2014-116011)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 池渕 立
本多 仁
発明の名称 高純度銅スパッタリングターゲット用銅素材及び高純度銅スパッタリングターゲット  
代理人 細川 文広  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大浪 一徳  
代理人 寺本 光生  

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