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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61H
管理番号 1362870
審判番号 不服2019-3605  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-15 
確定日 2020-06-01 
事件の表示 特願2014-192722「下肢動作支援装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月25日出願公開、特開2016- 59763〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月22日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 6月 1日付け :拒絶理由通知
平成30年 8月 8日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年12月 7日付け :拒絶査定
平成31年 3月15日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 平成31年3月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(以下「本件補正発明」という。下線部は、補正箇所である。)
「股関節の回転動作を補助する股関節補助機構を備えた下肢動作支援装置であって、
前記股関節補助機構は、回転軸を有する股関節トルク伝達部材と、前記回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向に向けて前記股関節トルク伝達部材をバネ付勢し、該股関節トルク伝達部材に回転トルクを付与する股関節トルク付与部材とを備え、
前記股関節トルク伝達部材には、前記股関節トルク付与部材のバネ付勢力に応じて回転トルクを変化させるカム面が形成され、股関節の回転動作によって股関節トルク付与部材が前記股関節トルク伝達部材のカム面をバネ付勢することで、前記股関節トルク伝達部材に回転トルクが付与されて回転軸を中心に回転することを特徴とする下肢動作支援装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年8月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「股関節の回転動作を補助する股関節補助機構を備えた下肢動作支援装置であって、
前記股関節補助機構は、回転軸を有する股関節トルク伝達部材と、前記回転軸に向かう方向からオフセットした方向に向けて前記股関節トルク伝達部材をバネ付勢し、該股関節トルク伝達部材に回転トルクを付与する股関節トルク付与部材とを備え、
前記股関節トルク伝達部材には、前記股関節トルク付与部材のバネ付勢力に応じて回転トルクを変化させるカム面が形成され、股関節の回転動作によって股関節トルク付与部材が前記股関節トルク伝達部材のカム面をバネ付勢することで、前記股関節トルク伝達部材に回転トルクが付与されて回転軸を中心に回転することを特徴とする下肢動作支援装置。」

2 補正の適否
(1)本件補正の概要
本件補正は、本件補正前の請求項1について、発明を特定するために必要な事項である「股関節トルク付与部材」が「股関節トルク伝達部材をバネ付勢」する方向に関し、「回転軸に向かう方向からオフセットした方向」としていたものを「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」と限定するもの(以下「補正事項」という。)である。

(2)新規事項
本件補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定に基づくものであるところ、まず、同条第3項に規定する、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるか、すなわち、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでないといえるか、検討する。

ア 当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、「股関節トルク付与部材」が「股関節トルク伝達部材をバネ付勢」する方向に関連して、以下の事項が記載されている。

「【0020】
前記ボールプランジャ21は、図6に示したように、円筒形状のホルダ25と、このホルダ25内に組み込まれ、先端にボール26を有するシリンダ27と、このシリンダ27をホルダ25内で弾性保持するバネ部材(圧縮バネ)28と、この圧縮バネ28の圧縮量を調整する圧縮量調整部(圧縮量調整ネジ)29とを有して構成されている。このボールプランジャ21は、前記腰部取付板15に対して前記ボール26が下向きとなるように取り付けられ、このボール26が圧縮バネ28の圧縮量に応じて上下動することで、股関節トルク伝達部材16の回転に必要なトルクが発生する構造となっている。
【0021】
図5に示したように、前記ボールプランジャ21は、先端のボール26が板カム18の回転軸17の中心Oから水平方向にオフセットした位置Xでカム面19に圧接するように配置されている。通常のカム機構では、カム面19側が運動を伝えようとする原節となり、このカム面19に沿って転動するボールプランジャ21側が運動の伝えられる従節となるため、原節である回転軸17の中心Oに向かう方向に従節であるボール26の転動中心が設けられる。しかしながら、本発明では反対に、ボールプランジャ21側が原節、カム面19側が従節となる。このため、板カム18の回転軸17の中心Oから水平方向にオフセットした位置Xにボール26の頂点を圧接させることによって、このボール26によって転動させるカム面19に対して確実に回転トルクを発生させることができる。」
「図5


「図6



イ 判断
段落【0020】の「このボールプランジャ21は、前記腰部取付板15に対して前記ボール26が下向きとなるように取り付けられ、このボール26が圧縮バネ28の圧縮量に応じて上下動することで、股関節トルク伝達部材16の回転に必要なトルクが発生する構造となっている。」との記載、段落【0021】の「図5に示したように、前記ボールプランジャ21は、先端のボール26が板カム18の回転軸17の中心Oから水平方向にオフセットした位置Xでカム面19に圧接するように配置されている。」との記載および図5の記載から、ボールプランジャ21に設けられたボール26は、回転軸17に対して水平方向にオフセットした位置においてカム面19に当接し、カム面19に対して鉛直方向にバネ付勢しているといえる。
これらの記載から、「股関節トルク付与部材」が「股関節トルク伝達部材をバネ付勢」する方向は、回転軸17に対して水平方向にオフセットした位置から鉛直方向であることが記載されているといえるものの、上記補正事項、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」と表現されるものではない。そして、上記の記載からは上記補正事項の「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」のものが記載されているとはいえず、またそれを示唆する記載もない。
また、当初明細書等のその他の記載においても、補正事項は記載されておらず、またそれを示唆する記載もない。
よって、補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項であるから、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(3)予備的な検討
上記のとおり、本件補正により、「股関節トルク付与部材」が「股関節トルク伝達部材をバネ付勢」する方向に関し、「回転軸に向かう方向からオフセットした方向」としていたものについて、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」とすることは、特許法第17条の2第3項の規定に違反するといえるものの、念のため、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」という本件補正は、本件補正前の請求項2のように「回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置から鉛直方向」を意図したものと解して、以下、補正の要件について検討する。
そこで、本件補正の目的がいわゆる限定的減縮に該当するものであると仮定し、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものであるが、上記のとおり、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」については、「回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置から鉛直方向」と解する。

イ 引用文献の記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2014/092162号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「[0016] 前記歩行支援機において、前記腰関節部は、腰軸と、この腰軸の一端が固定され、前記大腿リンク部の上端を保持する保持部と、前記保持部に接続し、前記腰軸を中心として前記大腿リンク部を前後方向に揺動させる本体部と、前記腰軸に対して回転自在な状態で軸支されると共に前記本体部に固定される回転プレートと、前記回転プレートと共に回転できるように前記回転プレートに固定され、前記パッド部を介して腰装着ベルトに取り付けられる取付板とを有し、圧縮バネと、前記圧縮バネの一端と当接し、前記一端の位置を決定する決定部と、前記圧縮バネの他端と当接し、前記圧縮バネの伸縮に応じて変位する変位部と、前記変位部に接続されるカムフォロアと、前記圧縮バネが圧縮されるように前記カムフォロアが圧接されると共に、前記腰軸からの距離が周方向に沿って変化する外周面を含み、前記回転プレートの周縁部に形成されるカム部とを有するトルク発生装置を備えるものであってもよい。前記歩行支援機は、上記構成を備えることにより、トルク発生装置の部品点数の削減や、トルク発生装置の小型化・薄型化等を図ることができる。」
「[0020] <実施形態1>
(歩行支援機1)
本発明の一実施形態に係る歩行支援機1を、図1乃至図11を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1の歩行支援機1の側面図あり、図2は、歩行支援機1が備える腰装着ベルト2の説明図(斜視図)であり、図3は、利用者Uに装着された状態の歩行支援機1の説明図である。本実施形態の歩行支援機1は、受動歩行型であって、主として、腰装着ベルト2と、大腿リンク部3と、下腿リンク部4と、下腿装着部5と、腰関節部6と、膝関節部7と、大腿接触部8と、トルク発生装置9とを備えている。本実施形態の歩行支援機1は、右脚用であり、利用者Uの右脚U1に装着されて使用される。右脚用の歩行支援機1は、例えば、利用者Uの右脚U1が患脚であり、左脚U2が健脚である場合に利用される。なお、他の実施形態においては、右脚用の歩行支援機1を、右脚が健脚であり、左脚が患脚である場合にも、利用者の右脚に装着して使用されてもよい。図1における右側が前方であり、同図左側が後方であり、同図上側が上方であり、同図下側が下方であるとして、歩行支援機1を説明する。また、図3における紙面手前側が前方であり、同図の紙面奥側が後方であり、同図上側が上方であり、同図下側が下方であるとする。」
「[0041] (腰関節部6)
腰関節部6は、大腿リンク部3の上端(上端部3a)を保持し、大腿リンク部3を利用者Uの前後方向に揺動自在な状態で支持し、パッド部21aと対向する形で腰装着ベルト2に取り付けられる構成となっている。図6は、内側から見た腰関節部6の側面図であり、図7は、図6のC-C’線断面図である。図7には、図6に示される腰軸61の中心Oで交わる2つの線分からなるC-C’線によって切断された腰関節部6付近の断面構造が示されている。腰関節部6は、図6及び図7に示されるように、略円柱状をなした腰軸61と、この腰軸61に対して回転自在な状態で軸支される回転プレート62と、腰軸61の一端が固定され回転プレート62を収容するハウジング(本体部)63と、腰軸61の他端に固定され、腰軸61に軸支された回転プレート62を抜け止めする抜け止め部64と、ハウジング63に対して一体的に形成され、腰関節部6と大腿リンク部3とを接続するために、大腿リンク部3の上端部3aを保持する保持部65と、回転プレート62と共に回転できるように回転プレート62に固定され、パッド部21aと対向する形で腰装着ベルト2に取り付けられる取付板60とを備えている。腰関節部6を構成する各部材は、アルミニウム、マグネシウム等の金属材料を、公知の加工技術(例えば、削り出し加工)を利用して所定形状に加工されたものからなる。なお、他の実施形態においては、エンジニアリングプラスチック等の他の材料から、腰関節部6を構成する各部材を形成してもよい。」
「[0059] (トルク発生装置9)
トルク発生装置9は、カム-バネ機構を利用して、腰軸61周りに、関節トルクを発生させる装置である。トルク発生装置9は、図6及び図7に示されるように、主として、圧縮バネ91と、圧縮バネ91の一端と当接し、前記一端の位置を決定する円柱状の決定部92と、圧縮バネ91の他端と当接し、圧縮バネ91の伸縮に応じて変位する変位部93と、この変位部93に接続されるカムフォロア(ローラフォロア)94と、圧縮バネ91が圧縮されるようにカムフォロア94が圧接されると共に、腰軸61からの距離が周方向に沿って変化する外周面62eを含み、回転プレート62の周縁の一部に形成されるカム部62dと、決定部92、圧縮バネ91及び変位部93を収容する筒状収容部95と、この筒状収容部95に接続し、圧縮バネ91の伸縮方向に沿って変位するカムフォロア94を収容するカムフォロア収容部96とを備えている。」
「[0061] 変位部93は、筒状収容部95の他方の端部側(根元側)に配されおり、圧縮バネ91の他端と当接して、決定部92との間で圧縮バネ91を挟む構成となっている。また、変位部93は、筒状収容部95内を圧縮バネ91の伸縮方向(筒状収容部95の軸方向)に沿って変位する部分となっている。この変位部93には、カム部62dの外周面62eに圧接されるローラ部94aを備えたカムフォロア94が取り付けられている。ローラ部94aは、変位部93に固定されている軸部94bに対して、回転自在な状態で取り付けられている。ローラ部94aの位置が、カム部62dの外周面62eの形状によって押し上げられると、カムフォロア94と共に変位部93が上昇して、圧縮バネ91が圧縮される。これに対して、ローラ部94aの位置が、カム部62dの外周面62eの形状に応じて下降する際、カムフォロア94と共に変位部93が圧縮バネ91の伸長によって、押し下げられる。なお、筒状収容部95の根元側に、カムフォロア94のローラ部94aを収容するカムフォロア収容部96が設けられている。このカムフォロア収容部96には、カムフォロア94のローラ部94aが、筒状収容部95の軸方向(圧縮バネ91の伸縮方向)に沿って変位(昇降)できるように収容されている。
[0062] カム部62dは、回転プレート62に対して一体的に形成されており、回転プレート62と同様の金属材料から構成されている。回転プレート62は、上述したように略円盤状であり、その周縁部分が円弧状をなしている。この回転プレート62の円弧状の周縁部分に割り当てられる形で、カム部62dの外周面(カム面)62eが形成されている。カム部62dは、図6に示されるように、略半円形状をなしているものの、概ね、腰軸61の中心Oから外周面62eまでの距離が、前方から後方にかけて周方向に亘って漸次、大きくなるように設定されている。また、本実施形態では、図6に示されるように、カム部62dが前方の斜め下方を向く形で、回転プレート62が腰軸61に軸支されている。例えば、図6に示されるように、カム部62dの前側の半径r1と、それよりも後側の半径r2とを比べると、半径r2の方が大きくなっている。カム部62dの半径が大きくなるにしたがって、圧縮バネ91のバネ圧縮量が大きくなり、その結果、腰軸61周りに発生するトルクも大きくなる。カム部62dは、腰軸61に対して回転自在な状態で軸支されている回転プレート62に設けられており、更に、回転プレート62は、上述のように取付板60に固定されている。つまり、カム部62dは、取付板60に対して取付位置(角度)が位置決めされた状態で固定されている。」
「[0065] トルク発生装置9によって発生したトルクは、大腿リンク部3を前方へ移動させるように大腿リンク部3に作用する。本実施形態の歩行支援機1は、トルク発生装置9を備えることによって、大腿リンク部3及び下腿リンク部4を前方へ振り出し易くなっており、そして、それと共に、利用者Uの膝関節が屈曲し易くなっている。その結果、利用者Uは、歩行時につまずき難くなる。
[0066] 本実施形態の歩行支援機1は、大腿リンク部3の上端部3aが、腰軸61を有する腰関節部6に接続されており、大腿リンク部3の下端部3bが、膝軸71を有する膝関節部7に接続されている。そして、下腿リンク部4の上端部4aが、膝軸71を有する膝関節部7に接続されている。そのため、本実施形態の歩行支援機1は、大腿リンク部3と下腿リンク部4とを有する2リンクシステムとなっている。歩行支援機1は、受動歩行を基礎としており、腰関節部6の腰軸61及び膝関節部7の膝軸71は、共に単軸(ピッチ軸)となっている。」
「図1


「図6


「図7


「図10



(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
あ 段落[0048]の「以上のように、腰関節部6は、腰装着ベルト2に取り付けられた状態で、大腿リンク部3を、腰軸61を中心として前後方向に回転(揺動)自在な状態で保持することができる。」との記載、段落[0059]の「トルク発生装置9は、カム-バネ機構を利用して、腰軸61周りに、関節トルクを発生させる装置である。」との記載、段落[0065]の「本実施形態の歩行支援機1は、トルク発生装置9を備えることによって、大腿リンク部3及び下腿リンク部4を前方へ振り出し易くなっており、そして、それと共に、利用者Uの膝関節が屈曲し易くなっている。その結果、利用者Uは、歩行時につまずき難くなる。」との記載、段落[0066]の「本実施形態の歩行支援機1は、大腿リンク部3の上端部3aが、腰軸61を有する腰関節部6に接続されており、大腿リンク部3の下端部3bが、膝軸71を有する膝関節部7に接続されている。」との記載、及び図10から腰関節部6は股関節に対応する箇所に設けられている点が見て取れることから、股関節に対応する腰軸61を中心としてトルクを発生させるトルク発生装置9及び腰関節部6を備えた歩行支援機1、が記載されているといえる。

い 段落[0041]の「腰関節部6は、図6及び図7に示されるように、略円柱状をなした腰軸61と、この腰軸61に対して回転自在な状態で軸支される回転プレート62と、腰軸61の一端が固定され回転プレート62を収容するハウジング(本体部)63と、腰軸61の他端に固定され、腰軸61に軸支された回転プレート62を抜け止めする抜け止め部64と、ハウジング63に対して一体的に形成され、腰関節部6と大腿リンク部3とを接続するために、大腿リンク部3の上端部3aを保持する保持部65と、回転プレート62と共に回転できるように回転プレート62に固定され、パッド部21aと対向する形で腰装着ベルト2に取り付けられる取付板60とを備えている。」との記載から、歩行支援機1の腰関節部6は、腰軸61に軸支される回転プレート62を備える、といえる。

う 段落[0016]の「圧縮バネと、前記圧縮バネの一端と当接し、前記一端の位置を決定する決定部と、前記圧縮バネの他端と当接し、前記圧縮バネの伸縮に応じて変位する変位部と、前記変位部に接続されるカムフォロアと、前記圧縮バネが圧縮されるように前記カムフォロアが圧接されると共に、前記腰軸からの距離が周方向に沿って変化する外周面を含み、前記回転プレートの周縁部に形成されるカム部とを有するトルク発生装置を備えるものであってもよい。」との記載、段落[0059]の「トルク発生装置9は、カム-バネ機構を利用して、腰軸61周りに、関節トルクを発生させる装置である。」との記載、段落[0062]の「カム部62dの半径が大きくなるにしたがって、圧縮バネ91のバネ圧縮量が大きくなり、その結果、腰軸61周りに発生するトルクも大きくなる。カム部62dは、腰軸61に対して回転自在な状態で軸支されている回転プレート62に設けられており、更に、回転プレート62は、上述のように取付板60に固定されている。」との記載、及び図6からトルク発生装置9のカムフォロア94aは、腰軸61から水平方向にオフセットした位置から腰軸61の中心O方向に回転プレート62を圧接する点が見て取れることから、歩行支援機1は、腰軸61から水平方向にオフセットした位置から腰軸61の中心O方向に回転プレート62を圧縮バネによって圧接し、回転プレート62にトルクを発生させるトルク発生装置9を備える、といえる。

え 段落[0062]の「例えば、図6に示されるように、カム部62dの前側の半径r1と、それよりも後側の半径r2とを比べると、半径r2の方が大きくなっている。カム部62dの半径が大きくなるにしたがって、圧縮バネ91のバネ圧縮量が大きくなり、その結果、腰軸61周りに発生するトルクも大きくなる。カム部62dは、腰軸61に対して回転自在な状態で軸支されている回転プレート62に設けられており、更に、回転プレート62は、上述のように取付板60に固定されている。」との記載から、歩行支援機1の回転プレート62は、前側の半径r1よりも後側の半径r2の方が大きいカム部62dを備える、といえる。

お 段落[0048]の「以上のように、腰関節部6は、腰装着ベルト2に取り付けられた状態で、大腿リンク部3を、腰軸61を中心として前後方向に回転(揺動)自在な状態で保持することができる。」との記載、段落[0059]の「トルク発生装置9は、カム-バネ機構を利用して、腰軸61周りに、関節トルクを発生させる装置である。」との記載、段落[0062]の「例えば、図6に示されるように、カム部62dの前側の半径r1と、それよりも後側の半径r2とを比べると、半径r2の方が大きくなっている。カム部62dの半径が大きくなるにしたがって、圧縮バネ91のバネ圧縮量が大きくなり、その結果、腰軸61周りに発生するトルクも大きくなる。カム部62dは、腰軸61に対して回転自在な状態で軸支されている回転プレート62に設けられており、更に、回転プレート62は、上述のように取付板60に固定されている。」との記載、及び図10から腰関節部6は股関節に該当する箇所に設けられている点が見て取れることから、歩行支援機1は、股関節及び腰関節部6の回転によって、カム部62dの半径の変化にしたがいトルク発生装置9の圧縮バネ91の圧縮量が変化し、腰軸61周りに発生するトルクが変化する、といえる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「股関節に対応する腰軸61を中心としてトルクを発生させるトルク発生装置9及び腰関節部6を備えた歩行支援機1であって、
腰関節部6は、腰軸61に軸支される回転プレート62と、腰軸61から水平方向にオフセットした位置から腰軸61の中心O方向に回転プレート62を圧縮バネ91によって圧接し、回転プレート62にトルクを発生させるトルク発生装置9を備え、
回転プレート62は、前側の半径r1よりも後側の半径r2の方が大きいカム部62dを備え、股関節及び腰関節部6の回転によって、カム部62dの半径の変化にしたがいトルク発生装置9の圧縮バネ91の圧縮量が変化し、腰軸61周りに発生するトルクが変化する歩行支援機1。」

ウ 引用発明との対比・判断
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。
あ 引用発明の「歩行支援機1」は、その文言の意味、機能または構成等からみて、本件補正発明の「下肢動作支援装置」に相当する。以下同様に、「腰軸61」は「回転軸」に、「回転プレート62」は「股関節トルク伝達部材」に、「圧縮バネによって圧接」は「バネ付勢」に、「トルク」は「回転トルク」に、「トルク発生装置9」は「股関節トルク付与部材」に、「カム部62d」は「カム面」に、それぞれ相当する。

い 引用発明の「股関節に対応する腰軸61を中心としてトルクを発生させる」態様は、引用文献1の図10から腰関節部6は股関節に該当する箇所に設けられている点が見て取れるとともに、段落[0059]に「トルク発生装置9は、カム-バネ機構を利用して、腰軸61周りに、関節トルクを発生させる装置である。」と記載され、段落[0065]に「トルク発生装置9によって発生したトルクは、大腿リンク部3を前方へ移動させるように大腿リンク部3に作用する。」と記載されていることから、腰軸61に対応する股関節の回転を支援しているものといえ、本件補正発明の「股関節の回転動作を補助する」態様に相当する。

う 引用発明の「トルク発生装置9」及び「腰関節部6」は、腰軸61周りにトルクを発生させることにより、上記い のとおり股関節の回転を支援するものといえることから、本件補正発明の「股関節補助機構」に相当する。

え 引用発明の「腰軸6に軸支される」は、その文言の意味、機能または構成等からみて、本件補正発明の「回転軸を有する」に相当する。以下同様に、「トルクを発生させる」は「回転トルクを付与する」に、「股関節及び腰関節部6の回転」は「股関節の回転動作」に、「カム部62dを備え」は「カム面が形成され」にそれぞれ相当する。

お 引用発明における、「腰軸61から水平方向にオフセットした位置から腰軸61の中心O方向」は、本件補正発明の「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」を「回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置から鉛直方向」と解すると、回転軸から水平方向にオフセットした位置にある点において共通する。

か 引用発明の「前側の半径r1よりも後側の半径r2の方が大きいカム部62d」は、引用文献1の段落[0062]に「カム部62dの半径が大きくなるにしたがって、圧縮バネ91のバネ圧縮量が大きくなり、その結果、腰軸61周りに発生するトルクも大きくなる。」と記載されていることから、本件補正発明の「股関節トルク付与部材のバネ付勢力に応じて回転トルクを変化させるカム面」といえる。

き 引用発明の「股関節及び腰関節部6の回転によって、カム部62dの半径の変化にしたがいトルク発生装置9の圧縮バネ91の圧縮量が変化」する態様は、引用文献1の段落[0061]に「ローラ部94aは、変位部93に固定されている軸部94bに対して、回転自在な状態で取り付けられている。ローラ部94aの位置が、カム部62dの外周面62eの形状によって押し上げられると、カムフォロア94と共に変位部93が上昇して、圧縮バネ91が圧縮される。これに対して、ローラ部94aの位置が、カム部62dの外周面62eの形状に応じて下降する際、カムフォロア94と共に変位部93が圧縮バネ91の伸長によって、押し下げられる。」と記載されており、トルク発生装置9のローラ部94aが、回転プレート62のカム部62dを圧縮バネ91によってバネ付勢しているといえることから、本件補正発明の「股関節の回転動作によって股関節トルク付与部材が前記股関節トルク伝達部材のカム面をバネ付勢する」といえる。

く 引用発明の「腰軸61周りに発生するトルクが変化する」態様は、トルク発生装置9の圧縮バネ91の圧縮量が、カム部62dの半径の変化にしたがい変化することによるものであるところ、そのトルクはカム部62dを介して回転プレート62にも加わるものであることは明らかであるから、引用発明の歩行支援機1は、本件補正発明の「股関節トルク伝達部材に回転トルクが付与される」ものであり、さらに、腰軸61周りにトルクが発生するものであるから、本件補正発明の「回転軸を中心に回転する」ものといえる。

(イ)以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「股関節の回転動作を補助する股関節補助機構を備えた下肢動作支援装置であって、
前記股関節補助機構は、回転軸を有する股関節トルク伝達部材と、前記股関節トルク伝達部材をバネ付勢し、該股関節トルク伝達部材に回転トルクを付与する股関節トルク付与部材とを備え、
前記股関節トルク伝達部材には、前記股関節トルク付与部材のバネ付勢力に応じて回転トルクを変化させるカム面が形成され、股関節の回転動作によって股関節トルク付与部材が前記股関節トルク伝達部材のカム面をバネ付勢することで、前記股関節トルク伝達部材に回転トルクが付与されて回転軸を中心に回転することを特徴とする下肢動作支援装置。」

【相違点】
本件補正発明の「股関節トルク伝達部材」は、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」、すなわち「回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置から鉛直方向」に向けてバネ付勢するのに対して、引用発明の「トルク発生装置」は、「回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置」でバネ付勢するものの、圧縮バネ91の付勢方向は腰軸61の中心Oに向かう方向である点。

(ウ)判断
上記相違点について検討すると、引用発明の圧縮バネ91の付勢方向は腰軸61の中心Oに向かう方向ではあるが、トルク発生装置9のカムフォロア94と回転プレート62のカム部62dとの接点における付勢力は、その構造からみて、当然に鉛直方向成分を有している。
そうすると、引用発明のトルク発生装置9は、引用文献1の段落[0065]に「本実施形態の歩行支援機1は、トルク発生装置9を備えることによって、大腿リンク部3及び下腿リンク部4を前方へ振り出し易くなっており、そして、それと共に、利用者Uの膝関節が屈曲し易くなっている。その結果、利用者Uは、歩行時につまずき難くなる。」と記載され、段落[0062]に「例えば、図6に示されるように、カム部62dの前側の半径r1と、それよりも後側の半径r2とを比べると、半径r2の方が大きくなっている。カム部62dの半径が大きくなるにしたがって、圧縮バネ91のバネ圧縮量が大きくなり、その結果、腰軸61周りに発生するトルクも大きくなる。」と記載されており、腰軸61の回転角度に応じて必要とするトルクを得ることができているといえることから、その機能を奏するにあたって、付勢力を与える位置が同じであれば、圧縮バネ91のバネ付勢する方向をどのようにするかは、カム部62dの形状等を踏まえ、当業者が適宜決定することができるものである。

請求人は平成31年3月15日付け審判請求書において、参考図(イ)、(ロ)を示しつつ、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向に向けて板カム部材をバネ付勢することにより、大きな回転トルクを付与できることは、引用文献1,2からは容易に想到し得るものではない。」旨主張するが、当該主張はバネの付勢方向および付勢されるカム面の形状が参考図のように特定されたことを前提とするものである一方、本願発明においては、カム面の形状は何ら特定されておらず、本願発明に基づいた主張とはいえないことから、請求人の主張は当を得たものとはいえず、これを採用することはできない。

(エ)小括
してみると、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、上記2(2)のとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとしても、上記2(3)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成30年8月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「股関節の回転動作を補助する股関節補助機構を備えた下肢動作支援装置であって、
前記股関節補助機構は、回転軸を有する股関節トルク伝達部材と、前記回転軸に向かう方向からオフセットした方向に向けて前記股関節トルク伝達部材をバネ付勢し、該股関節トルク伝達部材に回転トルクを付与する股関節トルク付与部材とを備え、
前記股関節トルク伝達部材には、前記股関節トルク付与部材のバネ付勢力に応じて回転トルクを変化させるカム面が形成され、股関節の回転動作によって股関節トルク付与部材が前記股関節トルク伝達部材のカム面をバネ付勢することで、前記股関節トルク伝達部材に回転トルクが付与されて回転軸を中心に回転することを特徴とする下肢動作支援装置であって、
前記股関節トルク付与部材は、前記回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置で股関節トルク伝達部材をバネ付勢している下肢動作支援装置。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2[理由]2(3)イに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「前記回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向に向けて」という発明特定事項から「水平方向に」という事項を省き、「前記股関節トルク付与部材は、前記回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置で股関節トルク伝達部材をバネ付勢している」とするものであるところ、前記第2[理由]2(3)で検討した本件補正発明における「股関節トルク付与部材」が「股関節トルク伝達部材をバネ付勢」する方向に関し、「回転軸に向かう方向から水平方向にオフセットした方向」を「回転軸の中心から水平方向にオフセットした位置から鉛直方向」と解したものから、「鉛直方向」とした限定を削除したものということができる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、本件補正発明と引用発明との相違点である上記相違点において相違し、その余の点で一致するものである。
そして、上記相違点は前記第2[理由]2(3)ウにおける検討内容と同様の理由により当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-31 
結審通知日 2020-04-01 
審決日 2020-04-16 
出願番号 特願2014-192722(P2014-192722)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A61H)
P 1 8・ 121- Z (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 沖田 孝裕
栗山 卓也
発明の名称 下肢動作支援装置  
代理人 浅川 哲  

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