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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16B |
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管理番号 | 1363085 |
審判番号 | 不服2019-11267 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-08-28 |
確定日 | 2020-06-30 |
事件の表示 | 特願2016- 84150「座金付き螺子類」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017-194104、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年4月20日の出願であって、その手続の経緯は、概略、次のとおりである。 ・平成30年9月13日付け 拒絶理由通知 ・平成30年11月26日 意見書及び手続補正書の提出 ・平成31年1月18日付け 拒絶理由通知 ・平成31年4月1日 意見書及び手続補正書の提出 ・令和元年5月23日付け 拒絶査定 ・令和元年8月28日 審判請求書及び手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和元年5月23日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである 1.本願は、その請求項1-3に「ボルト、ナット等の螺子類」との記載があるが、「ボルト、ナット等」の記載からは「ボルト、ナット」の他にどのような構成を含むのかが不明確であるから、当該請求項1-3及びそれら請求項を引用する請求項4-7は明確でなく、よって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.本願の請求項1-4に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、また請求項5-7に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、それぞれ、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特表2007-504409号公報 引用文献2:特開2015-48875号公報 第3 本願発明 本願の請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、令和元年8月28日提出の手続補正書による手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 ボルト、ナット等の螺子類の頭部裏面側に、二枚の座金が上下に重ねられて抜け落ちないようにセットされた座金付き螺子類であり、 螺子類の頭部裏面が平面状であり、 二枚の座金のうち上座金はその表面に上座金表面突起(4)があり、裏面に上座金裏面連続凸条(16)があり、前記上座金表面突起(4)は座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出しており、螺子類の締め付けにより螺子類の頭部裏面に食い込み又は圧接可能であり、前記上座金裏面連続凸条(16)は山と谷が座金裏面の周方向に交互に繰り返し連続する山形又は波形であり、螺子類の締め付け方向手前側に谷から山に向けて上りになる上り斜面があり、同締め付け方向先方側に山から谷に向けて下りになる下り斜面の係止面があり、 二枚の座金のうち下座金はその表面に下座金表面突起(4)があり、この下座金表面突起(4)は下座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出しており、この一個の下座金表面突起(4)は螺子類の締め付けにより、上座金の上座金裏面連続凸条(16)のいずれかの連続凸条間の隣接凹部(17)に嵌合して係止可能な突起である、 ことを特徴とする座金付き螺子類。 【請求項2】 ボルト、ナット等の螺子類の頭部裏面側に、二枚の座金が上下に重ねられて抜け落ちないようにセットされた座金付き螺子類であり、 螺子類の頭部裏面が平面状であり、 二枚の座金のうち上座金はその表面に上座金表面突起(4)があり、裏面に上座金裏面突起(5)があり、前記上座金表面突起(4)は座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出しており、螺子類の締め付けにより螺子類の頭部裏面に食い込み又は圧接可能であり、前記上座金裏面突起(5)も座金裏面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出しており、 二枚の座金のうち下座金はその表面に下座金表面連続凸条(12)があり、この下座金表面連続凸条(12)は山と谷が座金表面の周方向に交互に繰り返し連続する山形又は波形であり、螺子類の締め付け方向手前側に谷から山に向けて上りになる上り斜面があり、同締め付け方向先方側に山から谷に向けて下り斜面になる係止面があり、螺子類の締め付けにより、いずれかの連続凸条間の隣接凹部(13)に上座金の前記一個の独立している上座金裏面突起(5)が嵌合して係止可能である、 ことを特徴とする座金付き螺子類。 【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の座金付き螺子類において、 二枚の座金のうち下座金の裏面に下座金裏面突起(5)があり、その下座金裏面突起(5)は裏面周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出しており、螺子類の締め付けにより、被連結体(A)に食い込み又は圧接可能な突起である、 ことを特徴とする座金付き螺子類。 【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の座金付き螺子類において、 連続凸条(16又は12)の稜線部が平面状又は円弧状である、 ことを特徴とする座金付き螺子類。 【請求項5】 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の座金付き螺子類において、 連続凸条(16又は12)の山と谷が端面視略半円の円弧状であって同じ又は略同じ形状の繰り返しである、 ことを特徴とする座金付き螺子類。 【請求項6】 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の座金付き螺子類において、 座金の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出した波形の下座金表面突起(4)又は上座金裏面突起(5)は、その波形が端面視略半円の円弧状であって、螺子類の締め付け方向への回転により、いずれかの連続凸条間の嵌合凹部(13又は17)と嵌合し、逆方向の回転では前記嵌合が緩みにくくなる波形である、 ことを特徴とする座金付き螺子類。」 第4 引用文献の記載事項及び引用発明 1.引用文献1の記載事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付加した。以下同様。)。 ア.「【0001】 本発明は、意図しないねじり取り外しに抗しての、ねじとナットのような、ねじ要素をロックするためのロック要素であって、 このロック要素が、環状孔を有する、少なくとも2つの積み重なっているリング状のロックワッシャから成り、その際、これら積み重なっている面がくさび状面を有し、且つ、外側面にそれぞれに有歯部が設けられている様式の上記ロック要素に関する。」 イ.「【0015】 図1は、上側のワッシャ1および下側のワッシャ2から成る本発明によるロック要素を示しており、このロック要素を通って、このねじ要素のねじシャフト13でもって、締付け要素11内へとねじ込みされている、ねじ要素10が差し通されている。このロック要素は、従って、ねじ頭部12と締付け要素11との間に挟み込まれており、且つ、ねじシャフト13によって調心されている。このねじ要素10を固く締める場合、有歯部5が、このねじ頭部12内へと、並びにこの締付け要素11内へと刻み込まれ、且つ、形状一体的結合の状態となる。このねじを緩める際に、ここで、この上側のワッシャ1はこのねじ頭部12と共に帯同し、その際、この下側のワッシャ2が、この締付け要素11に付着している。この相対的な運動は、くさび状面7の滑動を相互に生じさせ、その際、ワッシャ対体の厚さの増加が、ねじ山ピッチに基づく使用可能な道程よりも大きく、且つ従って、このねじ要素10の伸びが生じ、このことによって、ねじ結合内における予負荷が直接的に増大する。このことによって、このロック性は、ねじ結合のねじり取り外しに対して極めて有効である。同じ方法で、このロック要素は、同様にナットのところでも配設され得る。 【0016】 図2は、有歯部5、並びに本発明による丸み部6または切欠き部24(図5a、およびdを参照)を有する、一方のワッシャの外側面3の上面図を示している。この本発明による丸み部6、または切欠き部は、ねじ頭部12へのねじシャフト13の移行部内への、環状孔14のエッジ部、または面取り部の食い込みを防止し、且つ、これに伴って狭小な案内を、および従って、これらワッシャの良好な調心を可能にする。 【0017】 図3は、くさび状面7およびこのくさび状面7の鋸歯状の稜線8を有する、一方のワッシャの内側面4の上面図を示している。」 ウ.「【0020】 図7および図8は、ロックワッシャ対体のくさび状面7の上面図を示しており、この図内において、くさび状面の鋸歯状の稜線8がV字形に形成されている。図7内において図示された上側のワッシャ1のくさび輪郭は、図8内において図示された下側のワッシャ2の幾何学的なネガである。 【0021】 図9から12までは、概略的に(且つ真っ直ぐに伸ばされた状態で)、くさび状面の鋸歯状の稜線8更に別の実施形態を図示している。種々の鋸歯状の稜線形状の目的は、一方では、比較的に良好な圧力分配のためのこれら鋸歯状の稜線の延長にあり、並びに、相互の回転の際に行なわれるワッシャの自己調心にある。」 エ.【図1】からは、ねじ要素10のねじ頭部12裏面が平面状であることが看取される。 オ.【図1】及び【図3】からは、上側のワッシャ1裏面のくさび状面7が、山と谷がワッシャ1裏面の周方向に交互に繰り返し連続する山形であり、ねじ要素10の締め付け方向手前側に山から谷に向けて下りになる下り斜面があり、同締め付け方向先方側に谷から山に向けて上りになる切り立った上り面の係止面があり、下側のワッシャ2はその表面にくさび状面7があり、このくさび状面7はねじ要素10の締め付けにより、上側のワッシャ1のくさび状面7に嵌合して係止可能であることが看取される。また、下側のワッシャ2表面のくさび状面7は、山と谷がワッシャ2表面の周方向に交互に繰り返し連続する山形であり、ねじ要素10の締め付け方向手前側に山から谷に向けて下りになる下り斜面があり、同締め付け方向先方側に谷から山に向けて上りになる切り立った上り面の係止面があり、ねじ要素10の締め付けにより、上側のワッシャ1のくさび状面7が嵌合して係止可能であることも看取される。 よって、当該引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「ねじ要素10のねじ頭部12裏面側に、上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2が上下に重ねられたねじ要素10であり、 ねじ要素10のねじ頭部12裏面が平面状であり、 上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2のうち上側のワッシャ1はその表面に有歯部5があり、裏面にくさび状面7があり、前記有歯部5は、ねじ要素10の締め付けによりねじ要素10のねじ頭部12裏面に刻み込まれ、前記くさび状面7は山と谷がワッシャ1裏面の周方向に交互に繰り返し連続する山形であり、ねじ要素10の締め付け方向手前側に山から谷に向けて下りになる下り斜面があり、同締め付け方向先方側に谷から山に向けて上りになる切り立った上り面の係止面があり、 上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2のうち下側のワッシャ2はその表面にくさび状面7があり、このくさび状面7はねじ要素10の締め付けにより、上側のワッシャ1のくさび状面7に嵌合して係止可能である、 ねじ要素10。」 また、当該引用文献1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。 「ねじ要素10のねじ頭部12裏面側に、上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2が上下に重ねられたねじ要素10であり、 ねじ要素10のねじ頭部12裏面が平面状であり、 上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2のうち上側のワッシャ1はその表面に有歯部5があり、裏面にくさび状面7があり、前記有歯部5は、ねじ要素10の締め付けによりねじ要素10のねじ頭部12裏面に刻み込まれ、 上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2のうち下側のワッシャ2はその表面にくさび状面7があり、このくさび状面7は山と谷がワッシャ2表面の周方向に交互に繰り返し連続する山形であり、ねじ要素10の締め付け方向手前側に山から谷に向けて下りになる下り斜面があり、同締め付け方向先方側に谷から山に向けて上りになる切り立った上り面の係止面があり、ねじ要素10の締め付けにより、上側のワッシャ1のくさび状面7が嵌合して係止可能である、 ねじ要素10。」 2.引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0028】 図1には、第一実施形態に係るねじ体の逆回転防止構造が示されている。図3の通り、ねじ体の逆回転防止構造では、雄ねじ体10と、環状のワッシャ50と、被締結部材80と、基台90を備えて構成される。基台90には、雄ねじ体10と螺合するための雌ねじ穴92が形成されており、基台90と雄ねじ体10で挟まれることで、被締結部材80が固定される。 【0029】 雄ねじ体10は、所謂ボルトであり、頭部20と軸部30を有する。頭部20の下部乃至付け根に相当する部位には、ねじ体側座部22が形成される。軸部30には、円筒部30aとねじ部30bとが形成される。勿論、円筒部30aは必須ではない。」 イ.「【0044】 図3に示されるように、第一係合機構Aとして、ワッシャ50の第一受部60には、ねじ体側凹凸24と係合する第一受部側凹凸64が形成される。第一受部側凹凸64は、周方向に複数連続して設けられる鋸刃形状となっている。・・・」 ウ.「【0055】 また、図4(A)?(C)の応用として、図4(D)に示されるように、峯と谷を湾曲させた波型の凹凸も好ましい。締結時に滑らかな操作性を得ることができる。・・・」 3.拒絶理由通知で引用された特開平6-341420号公報の記載事項 平成30年9月13日付けの拒絶理由通知及び平成31年1月18日付けの拒絶理由通知で引用された特開平6-341420号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明はボルト、ナット、鋲等のねじ部材の締付け後の緩みを防止できるようにしたねじの緩み止装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】ねじの緩み止装置として従来は昭和59年実用新案登録願第54774号公報に掲載の考案(以下考案1と記す)、昭和62年実用新案登録願第89515号公報に掲載の考案(以下考案2と記す)等があった。 【0003】これらのうち考案1は図9(a)の様に、考案2は図10(a)の様に、夫々ねじ部材Aの頭部Bの裏面C側に座金Dが取付けられ、頭部Bの裏面Cにねじの締め付け時の回転方向(図中の矢印a方向)に向って上り勾配の斜面とした鋸歯状の頭部突起Eが設けられ、座金Dの表面に前記頭部突起Eと噛み合う鋸歯状の座金突起Fが設けられ、両突起E、Fは締め付け方向へは空転自由であるが、反対方向には相互に噛み合って回転が規制されてねじ部材Aの緩みが防止されるようにしてある。」 イ.「【0006】 【発明が解決しようとする課題】前記考案1、2の緩み止め装置では、ねじ部材Aの頭部Bの裏面Cにねじの締め付け時の回転方向に向って上り勾配の斜面とした鋸歯状の頭部突起Eが形成され、座金Dの表面に前記頭部突起Eと噛み合う鋸歯状の座金突起Fが形成されているので、一旦両者を締め付ければ両突起E、Fの垂直面が相互に噛み合ってねじ部材Aの緩みが防止されるが、ねじ部材Aの頭部Bと座金Dとの夫々に複雑な形状の突起を多数形成しなければならないので製造コストが高くなってしまうという問題がある。この緩み止め装置では、また前記のように突起E、Fの垂直面同士が係止するため、締め付けを行った後にねじ部材Aの頭部Bを回転させてねじ部材Aを取付け材Gから取外す場合、相互に噛み合っている両突起E、Fの係合を無理に解除すると両突起E、Fが破損することがあり、繰り返し使用することができないという問題もあった。 【0007】本発明の目的は、構造が簡単で且つ組立も容易で、更には製造コストの安いねじの緩み止装置を提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明のうち請求項1のねじの緩み止装置は図1?5に示されるように、ボルト、ナット等のねじ部材1と、その頭部2の裏面側に配置される座金3とからなり、前記頭部2の裏面の円周方向に沿って頭部突起4が突接され、前記座金3の表面の円周方向に沿って前記頭部突起4と噛み合い可能な座金突起5が突接され、座金3の裏面の円周方向に沿って食込み突起6が突設されてなるねじの緩み止装置において、前記座金突起5が頭部突起4より鈍角な山形に形成され、且つ数個の頭部突起4に対して1個の割合で突設されてなることを特徴とするものである。」 ウ.「【0015】 【作用】本発明のうち請求項1のねじの緩み止装置では、座金突起5が頭部突起4より鈍角な山形に形成されているため、ねじ部材1の頭部2を回転させてねじ部材1を締付け対象物15に締め付けていくと、座金突起5の先端が隣り合う2つの頭部突起4間の谷間に係止され、その2つの頭部突起4を外側に押し広げるようにしてその谷間に食い込む。この結果、ねじ部材1の回転方向への抵抗力が強まり、同ねじ部材1が緩みにくくなる。また、座金突起5が数個の頭部突起4に対して1個の割合で突設されているため、ねじ部材1の締め付け時に、座金突起5と頭部突起4とによる摩擦抵抗があまり大きくならず締付けが楽である。更に、前記座金突起5と頭部突起4との密着は、締付後に振動が加わると座金突起5がより一層谷間に食い込むので座金突起5と頭部突起4との係止が更に強固なものになり、振動の激しい締付け対象物15に取り付けてもねじが緩まない。」 エ.「【0023】 【実施例1】図1?3は本発明のねじの緩み止め装置の第一の実施例であり、同実施例はねじ部材1がボルトの場合であり、金属製のねじ部材1の頭部2の裏面側には金属製の座金3が取付けられている。この座金3は図3に示すねじ部材1のねじを転造する前のねじ素材杆20に緩く被せた後、同ねじ素材杆20にねじ21(図1)を圧造し、しかもこのねじ12の外径を座金3の内径より大きくすることにより、ねじ素材杆20から抜けない様にし、しかも、ねじ素材杆20のうちねじ12の切られていない根元部分22で上下にスライドできるようにしてある。 【0024】前記ねじ部材1の頭部2の裏面には図1、2に示す様に、その円周方向に沿って山形の頭部突起4が連続して突設されている。各頭部突起4は、締め付け方向(図1、2中の矢印方向)後方側の締付斜面13と締め付け方向前方側の緩止め斜面12とが同じ傾斜角度を有する二等辺三角形になっており、同頭部突起4の突起先端の角度θは60度にしてある。 【0025】前記座金3の表面には、その円周方向に沿って前記頭部突起4より鈍角な山形の座金突起5が均等な間隔(120度毎に)を空けて3つ突設されている。各座金突起5は、締め付け方向手前側の締付斜面10と締め付け方向先方側の緩止め斜面11とが同じ傾斜角度を有する二等辺三角形になっており、同座金突起5の突起先端の角度φは頭部突起4の60度に対して90度と大きくしてある。」 オ.「【0027】 【実施例2】図4に示す実施例は、ねじ部材1がナットの場合である。この場合も金属製のねじ部材1の頭部2の裏面側に、図1の場合と同様に金属製の座金3を抜け落ちない様にかしめてある。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 引用発明1における「ねじ要素10」、「ねじ頭部12」、「上側のワッシャ1」、及び「下側のワッシャ2」は、それぞれ、本願発明1における「ボルト、ナット等の螺子類」、「頭部」、「上座金」、及び「下座金」に相当する。 引用発明1において有歯部5が「ねじ要素10の締め付けによりねじ要素10のねじ頭部12裏面に刻み込まれ」ることは、本願発明1において上座金表面突起(4)が「螺子類の締め付けにより螺子類の頭部裏面に食い込み又は圧接可能」であることに相当する。 引用発明1の「上側のワッシャ1裏面のくさび状面7」は、「山と谷がワッシャ1裏面の周方向に交互に繰り返し連続する山形」であるから、本願発明1の「上座金裏面連続凸条(16)」と、「山と谷が座金裏面の周方向に交互に繰り返し連続する山形又は波形」である限りにおいて一致する。 引用発明1の「下側のワッシャ2表面のくさび状面7」は、「ねじ要素10の締め付けにより、上側のワッシャ1のくさび状面7に嵌合して係止可能」であるから、本願発明1の「下座金表面突起(4)」と、「螺子類の締め付けにより、上座金の」「裏面」「に嵌合して係止可能」である限りにおいて一致する。 そうすると、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点1、並びに、相違点1ないし4があるといえる。 <一致点1> 「ボルト、ナット等の螺子類の頭部裏面側に、二枚の座金が上下に重ねられた螺子類であり、 螺子類の頭部裏面が平面状であり、 二枚の座金のうち上座金はその表面が螺子類の締め付けにより螺子類の頭部裏面に食い込み又は圧接可能であり、その裏面は山と谷が上座金裏面の周方向に交互に繰り返し連続する山形又は波形であり、 二枚の座金のうち下座金はその表面が螺子類の締め付けにより、上座金の裏面に嵌合して係止可能である、 螺子類。」 <相違点1> 本願発明1において、「螺子類」は「二枚の座金が上下に重ねられて抜け落ちないようにセットされた座金付き螺子類」であるのに対して、引用発明1における「ねじ要素10」は、上下に重ねられた上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2が抜け落ちないようにセットされた座金付きねじ要素10であるかどうか、不明である点。 <相違点2> 本願発明1において、上座金の表面の「上座金表面突起(4)」は、「座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出」したものであるのに対して、引用発明1における上側のワッシャ1の表面の「有歯部5」は、そのような構成を有さない点。 <相違点3> 本願発明1において、上座金の裏面の「上座金裏面連続凸条(16)」は、「螺子類の締め付け方向手前側に谷から山に向けて上りになる上り斜面があり、同締め付け方向先方側に山から谷に向けて下りになる下り斜面の係止面」があるものであるのに対して、引用発明1では、上側のワッシャ1の裏面の「くさび状面7」は、「ねじ要素10の締め付け方向手前側に山から谷に向けて下りになる下り斜面があり、同締め付け方向先方側に谷から山に向けて上りになる切り立った上り面の係止面」があるものである点。 <相違点4> 本願発明1において、下座金の表面の下座金表面突起(4)は、「下座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出しており、この一個の下座金表面突起(4)は螺子類の締め付けにより、上座金の上座金裏面連続凸条(16)のいずれかの連続凸条間の隣接凹部(17)に嵌合して係止可能な突起である」のに対して、引用発明1では、下側のワッシャ2の表面に形成されているのは「くさび状面7」であって、そのくさび状面7は、ねじ要素10の締め付けにより、上側のワッシャ1のくさび状面7に嵌合して係止可能であるものの、下側のワッシャ2表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出したものではない点。 (2)相違点についての判断 事案にかんがみて、相違点4について検討する。 螺子類とともに用いられる二枚の座金に関し、それら座金の間の嵌合が、一方の座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出した突起と、他方の座金の連続凸条におけるいずれかの連続凸条間の隣接凹部との間でなされるよう構成する点は、引用文献2及び3のいずれにも記載されていない。 もっとも、引用文献3には、上記第4の3.にて摘記したとおり、ボルト、ナット等のねじ部材1と、その頭部2の裏面側にねじ部材1から抜けないように配置される座金3に関し、頭部2の裏面の円周方向に沿って頭部突起4を突設し、座金3の表面の円周方向に沿って頭部突起4と噛み合い可能な座金突起5を数個の頭部突起4に対して1個の割合で突設し、もって、ねじ部材1を締付け対象物15に締め付けていくと、座金突起5の先端が隣り合う2つの頭部突起4間の谷間に係止されるようにした構成が、記載されている。 そこで、引用発明1に引用文献3に記載された事項を適用して、引用発明1において下側のワッシャ2の表面に形成されている「くさび状面7」に代えて、引用文献3における座金突起5のごとき突起を採用すること、すなわち、下側のワッシャ2表面の「周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出」した突起を採用することが、当業者にとり容易想到であったか否かについて、進んで検討する。 引用発明1は、上側のワッシャ1裏面の「くさび状面7」と下側のワッシャ2表面の「くさび状面7」とが、ねじ要素10の締め付けにより嵌合する構成を有し、それによって、「ねじを緩める際に」、「くさび状面7の滑動を相互に生じ」、「ねじ結合のねじり取り外しに対して極めて有効」な「ロック性」を発生させるものである(第4の1.イで摘記した段落【0015】)。このように、引用発明1は、上下のワッシャを「くさび状面7」同士の嵌合により結合させ、それにより「ロック性」の作用効果を発揮するものであるといえる。 そうすると、かかる引用発明1において、上下のワッシャの、対となっている「くさび状面7」の一方を、引用文献3における座金突起5のごとき、「周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出」した突起に変更する動機付けはなく、かえって、そのような変更を行うことには、上記の作用効果に係る記載事項に照らすに、阻害要因が存在するといわなければならない。加えるに、こうした阻害要因の存在は、「くさび状面7」に関する、「図7内において図示された上側のワッシャ1のくさび輪郭は、図8内において図示された下側のワッシャ2の幾何学的なネガである。」(第4の1.ウで摘記した段落【0020】)との記載からもうかがえるところである。 さらに、本願発明1の効果についてみてみると、二枚の座金間の嵌合を、座金の一方に設けた「周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出」した「突起」と、座金の他方に設けた「連続凸条(16)」の「いずれかの連続凸条間の隣接凹部(17)」との嵌合により行う、相違点4に係る本願発明1の構成を有することで、本願発明1は、精密な寸法精度を要さずに座金間の嵌合を行うことが可能である、突起が使用時に欠損しにくい、といった効果を奏しうるものと認められる。 以上の検討より、相違点4に係る本願発明1の構成について、容易想到性は認められない。 したがって、上記相違点1ないし3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明することができたものであるとはいえない。 2.本願発明2について (1)対比 本願発明2と引用発明2とを対比すると、上記1.(1)にて説示した本願発明1と引用発明1との対比と同様の検討により、本願発明2と引用発明2には、次の一致点2、並びに、相違点5ないし8があるといえる。 <一致点2> 「ボルト、ナット等の螺子類の頭部裏面側に、二枚の座金が上下に重ねられた螺子類であり、 螺子類の頭部裏面が平面状であり、 二枚の座金のうち上座金はその表面が螺子類の締め付けにより螺子類の頭部裏面に食い込み又は圧接可能であり、 二枚の座金のうち下座金はその表面が山と谷が下座金表面の周方向に交互に繰り返し連続する山形又は波形であり、螺子類の締め付けにより、上座金の裏面が嵌合して係止可能である、 螺子類。」 <相違点5> 本願発明2において、「螺子類」は「二枚の座金が上下に重ねられて抜け落ちないようにセットされた座金付き螺子類」であるのに対して、引用発明2における「ねじ要素10」は、上下に重ねられた上側のワッシャ1及び下側のワッシャ2が抜け落ちないようにセットされた座金付きねじ要素10であるかどうか、不明である点。 <相違点6> 本願発明2において、上座金の表面の「上座金表面突起(4)」は、「座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出」したものであるのに対して、引用発明2における上側のワッシャ1の表面の「有歯部5」は、そのような構成を有さない点。 <相違点7> 本願発明2において、下座金の表面の「下座金表面連続凸条(12)」は、「螺子類の締め付け方向手前側に谷から山に向けて上りになる上り斜面があり、同締め付け方向先方側に山から谷に向けて下り斜面になる係止面」があるものであるのに対して、引用発明2では、下側のワッシャ2の表面の「くさび状面7」は、「ねじ要素10の締め付け方向手前側に山から谷に向けて下りになる下り斜面があり、同締め付け方向先方側に谷から山に向けて上りになる切り立った上り面の係止面」があるものである点。 <相違点8> 本願発明2において、上座金の裏面の上座金裏面突起(5)は「座金裏面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出」したものであり、下座金の表面の下座金表面連続凸条(12)は、「螺子類の締め付けにより、いずれかの連続凸条間の隣接凹部(13)に上座金の前記一個の独立している上座金裏面突起(5)が嵌合して係止可能である」のに対して、引用発明2では、上側のワッシャ1の裏面に形成されているのは「くさび状面7」であって、そのくさび状面7は、ねじ要素10の締め付けにより、下側のワッシャ2のくさび状面7に嵌合して係止可能であるものの、上側のワッシャ1裏面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出したものではない点。 (2)相違点についての判断 事案にかんがみて、相違点8について検討する。 相違点8に係る本願発明2の構成は、上記1.(1)に記載した相違点4に係る本願発明1の構成と同じく、螺子類とともに用いられる二枚の座金に関し、それら座金の間の嵌合が、一方の座金表面の周方向一箇所又は数箇所に一個が独立して突出した突起と、他方の座金の連続凸条におけるいずれかの連続凸条間の隣接凹部との間でなされるようにした構成である。 かかる座金間の嵌合の構成は、上記1.(2)にて検討したとおり、引用文献2及び3のいずれにも記載されておらず、また、容易想到性も認められないものである。 したがって、上記相違点5ないし7について判断するまでもなく、本願発明2は、当業者であっても、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明することができたものであるとはいえない。 3.本願発明3-6について 本願発明3-6は、本願発明1または本願発明2の発明特定事項をすべて備え、さらに限定を加えた発明であるから、上記1.及び2.での検討より、当業者であっても、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明することができたものであるとはいえない。 第6 原査定について 1.理由1(特許法第36条第6項第2号)について 本願の請求項1及び2における「ボルト、ナット等の螺子類」との記載に関し、本願の明細書に、「本発明における螺子類には鋲、ビス、その他の螺子類も含まれる。」(段落【0046】)との記載がなされていることに照らせば、「『ボルト、ナット等』の記載からは『ボルト、ナット』の他にどのような構成を含むのかが不明確」(原査定における理由1)であるとはいえない。 したがって、原査定の理由1を維持することはできない。 2.理由2(特許法第29条第2項)について 審判請求時の手続補正(令和元年8月28日提出の手続補正書による手続補正)で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明である、本願発明1-6は、上記相違点4に係る本願発明1の構成、または、上記相違点8に係る本願発明2の構成を発明特定事項として有するところ、上記第5にて検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基いて容易に発明することができたものとはいえず、さらに平成30年9月13日付けの拒絶理由通知及び平成31年1月18日付けの拒絶理由通知で引用された引用文献3を併せて考慮しても、容易に発明することができたものということはできない。 したがって、原査定の理由2を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-06-15 |
出願番号 | 特願2016-84150(P2016-84150) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16B)
P 1 8・ 537- WY (F16B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 保田 亨介 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
内田 博之 大町 真義 |
発明の名称 | 座金付き螺子類 |
代理人 | 小林 正英 |
代理人 | 小林 正英 |
代理人 | 小林 正治 |
代理人 | 小林 正治 |