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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B
管理番号 1363101
審判番号 不服2019-2489  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-25 
確定日 2020-07-06 
事件の表示 特願2014-213798「高圧低圧ルーム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月16日出願公開、特開2016- 77685、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月20日にされた出願であって、平成30年7月13日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月11日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成31年2月25日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その後、当審において令和2年2月28日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年4月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の概要
この出願の請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用文献AないしCに基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献A 実願平1-27253号(実開平2-118571号)のマイクロフィルム
引用文献B 特開2004-159730号公報(周知技術を示す文献)
引用文献C 特開2000-70654号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
1.理由1 本件出願は、請求項1ないし4についての特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.理由2 本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 実願平1-27253号(実開平2-118571号)のマイクロフィルム(原査定における引用文献A)
引用文献2 特開昭62-99562号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3 特開2011-147665号公報(周知技術を示す文献)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和2年4月28日に提出された手続補正書における特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
室内の気圧を常圧より高圧及び低圧に維持可能な居住空間を有する高圧低圧ルームにおいて、
該居住空間を形成するチャンバと、
該チャンバ外に配置され、該チャンバ内の気圧を上げるための加圧手段と、
該チャンバ内に配置され、該チャンバ内の気圧を下げるための減圧手段と、
該チャンバ内に配置され、運動者に機械的な動作で運動負荷を与える運動負荷装置と、
該運動負荷装置の動作と該チャンバ内の気圧の変化を連動させて制御する制御手段とを備えることを特徴とする高圧低圧ルーム。
【請求項2】
前記制御手段の制御により、
屋外の自然環境における標高の変化と起伏の変化とを、前記運動負荷装置による運動負荷の変化及び該チャンバ内の気圧の変化により擬似的に再現し、
前記チャンバ内で前記運動者に負荷を与えることを特徴とする請求項1記載の高圧低圧ルーム。
【請求項3】
前記運動負荷装置で、自転車走行、歩行又はランニングに相当する運動負荷を、前記運動者に与えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高圧低圧ルーム。
【請求項4】
前記運動負荷装置が、自転車エルゴメータ、トレッドミル、クロストレーナ又はそれぞれの足を別々に載置して歩行動作を行うステッパであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高圧低圧ルーム。」

第5 当審拒絶理由において引用等された引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)当審において通知された令和2年2月28日付けの拒絶の理由で引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。
ア.第2頁第19行ないし第4頁第3行の「問題点が解決しようとする問題点」の記載
「(問題点が解決しようとする問題点)
従来提案されている上記装置は、一定の運動負荷に対して一定の固定した環境条件を設定することができるが、時間経過に伴う環境条件の変化を再現することができなかった。従って、例えば、マラソンのコースを実際のコース条件、すなわち、スタートからゴールまでの時間とともに変化する温度、風速、風向、気圧、道路勾配等の環境条件を再現することができず、実際のコースに即したトレーニングを行う事はできなかった。・・・。」

イ.第6頁第8行ないし第11頁第14行の「実施例」の記載
「(実施例)
・・・
第1図は本実施例のトレーニングカプセル1を4個設置した状態の斜視図を示している。本実施例のカプセル本体2は、各ブロックに分割して組立式に構成され、その骨組が第5図に示されている。各ブロックは、本実施例では、機械室ブロック3,第1トレーニング室ブロック4、送風機室ブロック5、第2トレーニング室ブロック6、第2トレーニング室端部ブロック7から構成されているが、ブロックの組合せはそれに限らず適宜構成することができる。これらのブロックの骨組は、アングル材で構成され、耐圧壁材を取り付けてある。これらのブロックの組立は、各接続部が気密構造になるように連結する必要があり、本実施例では、第6図に示すように、各ブロックの接合部に、各ブロック骨組のアングル材8の対面するウェブ9とほぼ同じ高さのウェブ12を有するH型ゴムパッキン11を介在させ、その両フランジ13で接合部を覆う様にし、ウェブ同士をボルト10で締めつけて接合してある。なお、パッキンのフランジとアングル材が接する部分には、コーキング材14によりコーキング処理を施して、より完全な密封を図っている。以上のようにして各ブロックを接合して組立てることにより、気密構造の第1図に示すようなカプセル1が容易に組立られる。
前記機械室ブロック3には、減圧装置15、空気調和機16が収納されている。減圧装置15は、機械室ブロックの壁に開口された吸排気孔17、その開度調節装置18、排気孔に連通する排気側消音器20、ブロワー21、その駆動モーター22、および吸入側消音器23で構成され、開度調節器18により吸排気口の開度を調節して、ブロワー21を作動させることにより、室内空気が加減圧装置を介して外部に排気されると共に、吸気口から外部の新鮮な空気が室内に導入され、吸気量と排気量の差により室内の圧力が調節され、排気量が多ければその分室内が減圧されることになる。
・・・
第1トレーニング室ブロック4には、モーターで駆動され可変速で且つ勾配が自在に変更できる走行ベルト装置30が設置され、所定のプログラミングに応じてランニングができるようになっている。
・・・これらの各装置の制御は、制御装置により集中制御できるようになっている。該制御装置は、環境条件を予めプログラムしてそれをプロセッサーのメモリに記憶させておき、該プログラムにしたがって上記の各装置を制御して指定された環境条件を再現することができるように構成されている。例えば、実際のマラソンコースに即し環境条件を予めプログラムしておけば、中央演算装置により、メモリから命令及びデーターを逐次呼び出して、カプセル内の圧力、湿度、温度等の測定器データーと設定データーとを比較し、加減圧装置、空気調和機、加湿器等の各装置に出力して制御する。また、同時に送風機の風速、ランニング用走行ベルトの走行速度及び勾配がプログラム通りに制御される。
・・・。」

ウ.上記イ.には、「減圧装置15は、機械室ブロックの壁に開口された吸排気孔17、その開度調節装置18、排気孔に連通する排気側消音器20、ブロワー21、その駆動モーター22、および吸入側消音器23で構成され、開度調節器18により吸排気口の開度を調節して、ブロワー21を作動させることにより、・・・」と記載されており、「吸排気孔17」との用語と、「吸排気口」との用語が混在しているが、いずれも「開度調節装置18」によって吸排気する部分の開度を調節されるものであることから、「吸排気孔17」と「吸排気口」が同じ意味で用いられていることは明らかである。

エ.上記イ.には、「前記機械室ブロック3には、減圧装置15、空気調和機16が収納されている。減圧装置15は、機械室ブロックの壁に開口された吸排気孔17、その開度調節装置18、排気孔に連通する排気側消音器20、ブロワー21、その駆動モーター22、および吸入側消音器23で構成され、開度調節器18により吸排気口の開度を調節して、ブロワー21を作動させることにより、室内空気が加減圧装置を介して外部に排気されると共に、吸気口から外部の新鮮な空気が室内に導入され、吸気量と排気量の差により室内の圧力が調節され、排気量が多ければその分室内が減圧されることになる。」と記載されており、「減圧装置15」との用語と「加減圧装置」との用語が用いられているが、当該記載において、「減圧装置15」が「吸排気孔17(吸排気口)」や「排気孔に連通する排気側消音器20」を構成要素として含み、外部に排気される室内空気の経路となっていることからすれば、室内空気は「減圧装置15」を介して外部に排気されるものであるから、上記記載において「減圧装置15」と「加減圧装置」が同じ意味で用いられていることが明らかである。

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「気密構造のトレーニングカプセル1であって、カプセル本体2は、各ブロックに分割して組立式に構成され、前記各ブロックは、機械室ブロック3及び第1トレーニング室ブロック4を含み、これらのブロックの骨組は、アングル材で構成され、耐圧壁材を取り付けてあり、前記機械室ブロック3には、加減圧装置が収納され、前記加減圧装置は、前記機械室ブロック3の壁に開口された吸排気孔17、その開度調節装置18、排気孔に連通する排気側消音器20、ブロワー21、その駆動モーター22、及び吸入側消音器23で構成され、前記開度調節器18により前記吸排気孔17の開度を調節して、ブロワー21を作動させることにより、室内空気が加減圧装置を介して外部に排気されると共に、吸気口から外部の新鮮な空気が室内に導入され、吸気量と排気量の差により室内の圧力が調節され、排気量が多ければその分室内が減圧されることになり、
前記第1トレーニング室ブロック4には、モーターで駆動され可変速で且つ勾配が自在に変更できる走行ベルト装置30が設置され、所定のプログラミングに応じてランニングができるようになっており、
前記加減圧装置及び前記走行ベルト装置30の制御は、制御装置により集中制御できるようになっており、該制御装置は、環境条件を予めプログラムしてそれをプロセッサーのメモリに記憶させておき、該プログラムにしたがって上記加減圧装置及び走行ベルト装置30を制御して指定された環境条件を再現することができるように構成されており、実際のマラソンコースに即し環境条件を予めプログラムしておけば、中央演算装置により、メモリから命令及びデーターを逐次呼び出して、カプセル内の圧力の測定器データーと設定データーとを比較し、前記加減圧装置に出力して制御し、同時に、ランニング用走行ベルトの走行速度及び勾配がプログラム通りに制御される、
トレーニングカプセル1。」

2.当審拒絶理由において、本願出願時における周知の技術事項である、「トレーニング室の外にトレーニング室内の気圧を上げるための加圧手段を設けて、トレーニング室内の気圧を常圧より高圧に維持可能とすること」の開示例として示された文献について
(1)引用文献2(特開昭62-99562号公報)
第2頁左下欄第9-16行、同頁右下欄第10行ないし第3頁左上欄第7行、及び第1図に、「体脂肪の消費を高めるための加圧状態及び高地トレーニングと同じ鍛え方ができる減圧状態が得られるように、室本体1の外にコンプレッサー9及び真空ポンプ10を設けて、室本体1内において2気圧までの加圧状態及び0.5気圧までの減圧状態を得る」との技術的事項が記載されているものと認められる。

(2)引用文献3(特開2011-147665号公報)
【0038】及び図1に、「高気圧状態での有酸素運動を可能とするために、ハウジング10の外に加圧発生装置90を設けて、ハウジング10内を1.2?1.4気圧の高気圧環境とする」との技術的事項が記載されているものと認められる。
また、【0066】には、「高地トレーニングを行う目的で、高地の気圧環境を実現するために、ハウジング10の内部を減圧して低気圧状態(例えば、0.8気圧)にする」との技術的事項が記載されているものと認められる。

第6 対比、判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
ア.前者の「居住空間」と後者の「『第1トレーニング室ブロック4」内の空間」について
一般に「居住空間」との用語は、「人が住むことができる空間」を意味するものであるが、本願明細書では、「居住空間」を構成するチャンバについて、【0015】に「チャンバ10は、運動者の身体が完全に収まる大きさで、後述するトレッドミル50等の運動負荷装置が使用可能な状態で設置でき、必要に応じては複数人が入ることができる大きさまである。そして、チャンバ10は、図示しない出入口があり、チャンバ10を閉じた状態では、チャンバ内10aは密閉空間になるような構造である。」と記載されるように、「居住空間」という用語を、単に人が入って運動できる空間として用いている。したがって、本願明細書の記載を考慮すると、前者の「居住空間」との用語は、人が入って運動できる空間を意味しているものと認められる。これに対して、後者の「第1トレーニング室ブロック4」は、「ランニングができるようになって」いるので、そこに人が入って運動できるものである。
次に、後者において「ブロワー21」と「その駆動モーター22」とで構成される「加減圧装置」は、「ブロワー21を作動させることにより」、「室内空気が加減圧装置を介して外部に排気されると共に、吸気口から外部の新鮮な空気が室内に導入され、吸気量と排気量の差により室内の圧力が調節され、排気量が多ければその分室内が減圧される」ものであるため、室内外の気圧差に抗して室内空気を外部に排気して、室内の気圧を常圧(トレーニングカプセル1が設置された場所における気圧)よりも低圧まで減圧し、当該低圧を維持可能であることは明らかである。
そして、上記「第5 1.(1)ア.」の記載から把握されるように、気圧等の環境条件を再現したトレーニングを行えるようにすることが、本願発明の目的であることを踏まえれば、後者の「室内空気」が、「ランニングができるようになって」いる「『第1トレーニング室ブロック4』内の空間」にある空気であることも、明らかである。
以上のことから、後者の「『第1トレーニング室ブロック4』内の空間」は、「室内の気圧を、常圧より低圧に維持可能」である点で、前者の「居住空間」と共通する。

イ.前者の「高圧低圧ルーム」と後者の「トレーニングカプセル1」について
後者の「トレーニングカプセル1」を構成する「第1トレーニング室ブロック4」は、「第1トレーニング室ブロック4」内の空間が、上記ア.のとおり、「室内の気圧を、常圧より低圧に維持可能」である点で、前者の「居住空間」と共通するから、後者の「トレーニングカプセル1」は、「室内の気圧を、常圧より低圧に維持可能な居住空間を有する低圧ルーム」である点で、前者の「高圧低圧ルーム」と共通する。

ウ.前者の「チャンバ」と後者の「第1トレーニング室ブロック4」について
骨組及び当該骨組に取り付けられた耐圧壁材から構成される後者の「第1トレーニング室ブロック4」は、前者の「チャンバ」に相当する。

エ.前者の「減圧手段」と後者の「加減圧装置」について
後者の「加減圧装置」は、上記ア.で述べたとおり室内空気の圧力を常圧より低圧まで減圧するものであるから、「チャンバ内の気圧を下げるための減圧手段」である点で、前者の「減圧手段」と一致する。

オ.前者の「運動負荷装置」と後者の「走行ベルト装置30」について
後者の「走行ベルト装置30」は、「第1トレーニング室ブロック4」に「設置され」、「モーターで駆動され可変速で且つ勾配が自在に変更できる」ものであり、「ランニングができるようになって」いるものであるから、前者の「該チャンバ内に配置され、運動者に機械的な動作で運動負荷を与える運動負荷装置」に相当する。

カ.前者の「制御手段」と後者の「制御装置」について
後者の「制御装置」は、「カプセル内の圧力の測定器データーと設定データーとを比較し、前記加減圧装置に出力して制御し、同時に、ランニング用走行ベルトの走行速度及び勾配がプログラム通りに制御される」ものであるところ、上記ア.で検討したように加減圧装置が室内空気の圧力を調節するものであることを踏まえると、「制御装置」は、加減圧装置が調節する室内空気の圧力と、ランニング用走行ベルトの勾配を、同時に制御するものといえる。
また、後者の「制御装置」は「実際のマラソンコースに即し」た「環境条件を再現」することができるように構成されるものでもあるところ、引用文献1が上記「第5 1.(1)ア.」に記載されるように「スタートからゴールまでの時間とともに変化する温度、風速、風向、気圧、道路勾配等の環境条件を再現することができず」を従来技術の問題点としていたことからすると、後者の「制御装置」が再現しようとする「実際のマラソンコースに即し」た「環境条件」は、「スタートからゴールまでの時間とともに変化する」「気圧」と「道路勾配」を含むものであるといえる。そして、大気圧が観測した地点の標高により変化するとの技術常識を踏まえれば、「道路勾配」のある実際のマラソンコースにおいては、「道路勾配」のある道路の走行に伴う標高差に応じて「気圧の変化」が生じることに、すなわち、「道路勾配」のある道路の走行に連動して「気圧の変化」が生じることになる。
そうしてみると、後者の「制御装置」が「ランニング用走行ベルトの勾配」と室内空気の圧力を同時に制御して、実際のマラソンコースの環境条件である「道路勾配」のある道路の走行とそれに連動して変化する「気圧」を実現しようとすれば、「ランニング用走行ベルトの勾配」と走行したとする距離に連動して室内空気の圧力を変化させるよう制御することになるから、後者の「制御装置」は前者の「制御手段」に相当する。

キ.上記の対比によれば、本願発明1と引用発明1は、
「室内の気圧を、常圧より低圧に維持可能な居住空間を有する低圧ルームにおいて、
該居住空間を形成するチャンバと、
該チャンバ内の気圧を下げるための減圧手段と、
該チャンバ内に配置され、運動者に機械的な動作で運動負荷を与える運動負荷装置と、
該運動負荷装置の動作と該チャンバ内の気圧の変化を連動させて制御する制御手段とを備えることを特徴とする低圧ルーム。」
である点で一致し、以下の相違点1ないし3において相違する。

<相違点1>
本願発明1の高圧低圧ルームが有する居住空間は、室内の気圧を、常圧より高圧に維持可能な空間であるのに対し、引用発明1のトレーニングカプセル1が有する第1トレーニング室ブロック4は、室内の圧力を、常圧より高圧に維持可能な空間でない点。

<相違点2>
本願発明1の高圧低圧ルームは、「チャンバ外に配置され、該チャンバ内の気圧を上げるための加圧手段」を有するのに対し、引用発明1のトレーニングカプセル1は、そのような加圧手段を有しない点。

<相違点3>
本願発明1の高圧低圧ルームは、「チャンバ内の気圧を下げるための減圧手段」を「チャンバ内に配置」するのに対し、引用発明1のトレーニングカプセル1は、「加減圧装置」を「第1トレーニング室ブロック4」とは異なるブロックである「機械室ブロック3」に配置する点。

(2)判断
事案に鑑みて、相違点2及び3について併せて判断する。
相違点2及び3に係る本願発明1の、「高圧低圧ルームが『該チャンバ外に配置され、該チャンバ内の気圧を上げるための加圧手段』と『該チャンバ内に配置され、該チャンバ内の気圧を下げるための減圧手段』とを備える」との事項は、引用文献1並びに当審拒絶理由において周知技術の開示例として示された文献である特開昭62-99562号公報及び特開2011-147665号公報には記載されておらず、当該事項が本願出願日前において周知技術であるともいえない。
そして、チャンバ外に加圧手段を配置するとともにチャンバ内に減圧手段を配置することで、低圧側から空気を押し出すことにより、加減圧手段にかかる空気抵抗が減少し、効率的にチャンバ内の加減圧を行えるとの効果を奏する。

したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1を直接または間接的に引用する発明であるため、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断
1.原査定の拒絶の理由で引用された引用文献等
(1)引用文献Aについて
引用文献Aは、当審拒絶理由で引用された引用文献1であり、上記「第5 1.(1)」に示したとおりの事項が記載されている。

(2)引用文献Bについて
引用文献Bの【0017】、【0019】ないし【0022】、【0032】、【0036】、【0037】、図1及び図2の記載からみて、引用文献Bには、「治療室3における、隔壁5、側壁3a及びカーテン6で区画され、ベッド2が配置される領域Bの状態を、陰圧状態または陽圧状態に切り替える無菌病室において、陰圧状態とするときは、領域B内に設けられた排気ユニット8の排気流量が、隔壁5の開口に嵌め込まれた給気ユニット7の給気流量を上回るようにすることで、領域Bを領域B外に対して陰圧とし、陽圧状態とするときは、排気ユニット8の排気流量が、給気ユニット7の給気流量を下回るようにすることで、領域Bを領域B外に対して陽圧とする」との技術的事項が記載されているものと認められる。

(3)引用文献Cについて
引用文献Cの【0006】ないし【0012】及び図1の記載からみて、引用文献Cには、「低酸素空気発生装置2と、外部空気を取り入れるための換気口3と、低酸素空気発生装置2から放出された高酸素濃度空気Aを外部に排出させるための排出口4とを有する低酸素室1において、低酸素室1の室内の酸素濃度が設定値より高くなるほど、排気ファン5の回転数を上げて高酸素濃度空気Aを排出口4から外部に排出し、排出される酸素量と室内で消耗された酸素量をバランスするため、換気口3より外部空気が導入される」との技術的事項が記載されているものと認められる。

2.判断
(1)本願発明1の高圧低圧ルームにおいて、室内の気圧を常圧より高圧及び低圧に維持可能とし、気圧の変化を運動負荷装置の動作とを連動させて制御する目的は、スポーツや登山における高地環境を再現したトレーニングを可能とする点にある。

(2)これに対し、引用文献Bにおいて、病室を陰圧とする目的は、病室から外部への空気の流出による病原菌の拡散の防止に、病室を陽圧とする目的は、雑菌を含む外気の無菌病室内への侵入の防止にあって、室内気圧の制御の目的が本願発明1と全く異なる。また、引用文献Bの【0003】に記載されるように、引用文献Bの無菌病室は、領域B内の気圧を陽圧または陰圧状態に維持するが、本願発明1のように気圧の変化を運動負荷装置の動作と連動させて制御するものではない。
してみると、本願発明1に引用文献Bに記載された技術的事項の適用を試みる動機付けはないというべきであり、相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(3)また、引用文献Cは、【0001】に「高山登山訓練などに必要とする一定の低酸素濃度空気を満たした環境空間を備えた低酸素訓練装置に関する」と記載されるように、低酸素室1内を外気より低酸素状態に維持することを目的としており、引用文献Cは、「低酸素室1」の気圧を常圧よりも低圧にするものではない。
してみると、引用文献Cに記載された技術的事項における、「排気ファン5」は、本願発明1の「室内の気圧を常圧より」「低圧に維持可能な居住空間」「を形成するチャンバ」「内の気圧を下げるための減圧手段」に相当せず、相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献Cに記載されていない。
また、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項が、引用文献Cに記載されていないことは明らかである。

(4)相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項が、引用文献Aに記載されていないことは、上記「第6 1.」において検討したとおりである。

(5)以上検討したとおり、相違点2及び3に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献AないしCから、当業者が容易に想到し得たものではないので、本願発明1ないし4は、当業者であっても、原査定における引用文献AないしCに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の拒絶の理由において引用された文献を考慮しても、本願発明1ないし4が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第8 当審拒絶理由における明確性の拒絶理由について
当審では、請求項1の「室内の気圧を、平地における雰囲気気圧より高圧及び低圧に維持可能な居住空間」との記載について、「大気圧が観測した地点の標高により変化することが技術常識であるところ、『平地』にある観測地点であっても観測地点の標高が異なれば観測される大気圧は異なるから、請求項1の『平地における雰囲気気圧』とされる気圧が、いかなる値であるかという点は不定であるため、請求項1の上記記載により特定される事項は不明である」として、請求項1に係る発明は明確でなく、請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明も明確でない。」との拒絶の理由を通知した。
これに対し、令和2年4月28日に提出された手続補正書による補正によって、請求項1の「平地における雰囲気気圧」との記載が、本願明細書において「高圧低圧ルームが設置された場所における特別に加圧も減圧もしないときの気圧」を意味する用語として用いられている「常圧」との用語に補正され、いかなる気圧であるかが明確となったため、通知した明確性の拒絶の理由は解消した。

第9 むすび
以上の通り、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-06-16 
出願番号 特願2014-213798(P2014-213798)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A63B)
P 1 8・ 121- WY (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 槙 俊秋  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 河内 悠
藤田 年彦
発明の名称 高圧低圧ルーム  
代理人 加藤 道幸  
代理人 中嶋 幸江  
代理人 中嶋 幸江  
代理人 加藤 道幸  

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