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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
管理番号 1363134
異議申立番号 異議2019-700483  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-14 
確定日 2020-04-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6469262号発明「繊維化パラミロン、添加剤、及び、該添加剤の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6469262号の特許請求の範囲を令和2年1月6日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6469262号の請求項1、2、4ないし8に係る特許を維持する。 特許第6469262号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6469262号の請求項1ないし8に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成29年12月13日(優先権主張 2016年12月19日 日本国、2017年9月6日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成31年1月25日にその特許権の設定登録がされ、同年2月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和1年6月14日に特許異議申立人 株式会社スギノマシン(以下「申立人1」という。)により、また、令和1年8月9日に特許異議申立人 河井清悦(以下「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、令和1年10月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年1月6日付けで意見書の提出及び訂正の請求がなされ、令和2年2月10日付けで申立人2より、令和2年2月13日付けで申立人1より、それぞれ訂正の請求に対し意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
特許権者が令和2年1月6日付け訂正請求書により請求する訂正(以下、「本件訂正」ともいう。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求書1ないし8について訂正することを求めるものである。

その請求の内容は、以下の(1)?(3)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ユーグレナ由来の繊維化パラミロンであって、
複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、
前記繊維状物が分岐した構造を有する、繊維化パラミロン。」と記載されているのを、
「ユーグレナ由来の繊維化パラミロンであって、
複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、
前記繊維状物が分岐した構造を有し、
前記ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された、繊維化パラミロン。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1?3のいずれか1項」と記載されているのを、訂正事項2により削除された請求項3を削除し、
「請求項1又は2」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「繊維化パラミロン」を、「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」と特定するものであり、「繊維化パラミロン」を限縮するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の限縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明における、例えば、段落【0020】の「繊維化パラミロンは、せん断力による解繊処理が施されたものである。具体的に、上記の繊維化パラミロンは、後述する製造方法において、パラミロン顆粒がせん断力によって砕かれ、解繊されることによって形成される。このように、上記の繊維化パラミロンは、せん断力による物理的な解繊処理によって得られる。」なる記載から導き出せる事項である。よって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
そして、訂正事項1は、上述のとおり、「繊維化パラミロン」という発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。よって、訂正事項1に係る訂正は、実質上の特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項4が引用する請求項である「請求項1?3のいずれか1項」から訂正事項2により削除された請求項3を削除し、「請求項1又は2」と訂正するものであるから、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項3に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ユーグレナ由来の繊維化パラミロンであって、
複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、
前記繊維状物が分岐した構造を有し、
前記ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された、繊維化パラミロン。

【請求項2】
水を含む液体に分散する性能を有する、請求項1に記載の繊維化パラミロン。

【請求項3】(削除)

【請求項4】
請求項1又は2に記載の繊維化パラミロンを含む、添加剤。

【請求項5】
固形物の状態である、請求項4に記載の添加剤。

【請求項6】
水溶性高分子化合物をさらに含む、請求項5に記載の添加剤。

【請求項7】
水を含む溶媒に分散させるための、請求項4?6のいずれか1項に記載の添加剤。

【請求項8】
請求項4?7のいずれか1項に記載の添加剤の製造方法であって、
パラミロン顆粒をせん断力によって解繊して繊維化することによりパラミロン顆粒を繊維状に形成するせん断工程を備える、添加剤の製造方法。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
訂正前の請求項1ないし8に係る特許に対して、当審が令和1年10月23日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由2(明確性)
訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、どのような態様が包含されるのかを当業者が明確に把握できないから明確でない。よって、その発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由1(サポート要件違反)
訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。よって、その発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由についての当審の判断
(1)取消理由2(明確性)について
ア 当審の判断
令和1年10月23日付けの取消理由通知では、訂正前の請求項1ないし8に対して、明確性要件を満たさない旨の取消理由を通知した。その取消理由の内容の概略は以下のとおりである。

請求項1ないし8における「繊維状物」について、いかなる繊維状物が包含されるのかを当業者が明確に把握できるとはいえないから、その結果として、請求書1ないし8に係る発明は明確であるとはいえない。

しかしながら、本件訂正によって、本件特許発明1は、繊維化パラミロンについて、「前記ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」という特定事項が追加され、これにより繊維化パラミロンが有する構造が明らかとなったことから、当該繊維化パラミロンを構成する「繊維状物」も上記特定事項により特定される構造のものであることが明らかとなった。そして、出発材料であるユーグレナ由来のパラミロン顆粒が有する通常の大きさの範囲や、植物材料を物理的処理であるせん断力による解繊処理にて繊維化したものが有する通常の形状等を考慮すれば、本件特許発明1の繊維化パラミロンを構成する「繊維状物」の構造は、当業者にとって技術常識から自ずと把握できるものであるといえる。そうすると、どのような態様の物が本件特許発明1の範囲に入るか否かを当業者が理解できるといえるから、本件特許発明1は明確であるといえる。
また、本件特許発明1を引用して繊維化パラミロンを規定している本件特許発明2、4ないし8についても同様に明確である。

イ 申立人による意見について
(ア)申立人1、2の主張(「繊維状物」の大きさ・形状等)について
申立人1は、令和2年2月13日付け意見書において、「繊維状物」の繊維径及び繊維長が具体的な数値範囲で特定されていないこと、また、申立人2は、令和2年2月10日付け意見書において、本件訂正によって追加された特定事項だけでは、どの程度の大きさまで繊維化されているのか何ら限定するものではないから、依然として本件特許発明1における「繊維状物」が具体的にどの程度の大きさのものやどの程度の繊維化の度合いのものまでを包含するのかが不明りょうであることを述べ、依然として上記取消理由2は解消されていない旨主張する。

しかしながら、繊維状物の繊維径及び繊維長について具体的な数値による特定がなくとも、上記(1)アで述べたとおり、本件特許発明1の繊維化パラミロンの構造は把握できるから、本件特許発明1は不明りょうではない。
また、繊維化の程度についても、植物材料をせん断力による解繊処理にて繊維化する際に採用される通常の範囲の程度であることは明らかであるから、具体的な数値による特定がなくとも、本件特許発明1の繊維化パラミロンの構造を当業者は把握できるといえ、本件特許発明1が不明りょうとはいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

(イ)申立人2の主張(請求項にその物の製造方法が記載されている物の発明)について
申立人2は、上記意見書において、本件特許の請求項1における「せん断力による解繊処理で繊維化された」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載であるから、本件特許発明1は、請求項にその物の製造方法が記載されている物の発明であり、そして、請求項にその物の製造方法が記載されている物の発明は、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(いわゆる「不可能・非実際的事情」)が存在することの主張・立証が必要であるところ、繊維状物の太さや長手方向の長さにより「繊維状物」を直接特定することが可能であって、「不可能・非実際的事情」が存在しないから、本件特許発明1は明確でない旨主張する。

しかしながら、繊維化パラミロンについての「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」との記載は、本件特許明細書等の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮すれば、上記「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」という特定により、「繊維化パラミロン」が有する構造を表していることは明らかであるから、本件特許発明1は、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在することの主張、立証を要する発明ではなく、当業者が明確に把握できる明確なものである。
よって、上記主張を採用することはできない。

ウ 小括
本件特許発明1、2、4ないし8に係る特許は、取消理由2(明確性)によって取り消すべきものではない。

(2)取消理由1(サポート要件)について
ア 当審の判断
令和1年10月23日付けの取消理由通知では、訂正前の請求項1ないし8に対して、サポート要件を満たさない旨の取消理由を通知した。その取消理由の内容の概略は以下のとおりである。

請求項1ないし8に係る発明における「繊維状物」について、いかなる繊維状物が包含されるのかを当業者が明確に把握できないため、あらゆる大きさ及び形態の繊維状物等が包含されるものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、所定形状の繊維化パラミロンが水への分散性が優れ、本件発明の課題を解決できたことが記載されており、本件特許の出願時における技術常識に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された上記の内容を、あらゆる繊維状物を包含する本件特許の請求項1ないし8に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1ないし8に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない。

これに対して、本件特許発明1は、本件訂正により、繊維化パラミロンについて、「前記ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」という特定事項が追加され、上記(1)アで述べたとおり、本件特許発明1の繊維化パラミロンが有する構造が明確になった。

そこで、訂正後の本件特許発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを改めて検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審によって付与されたものである。

(ア-1)発明が解決しようとする課題
「【0007】
本発明は、このような問題点に鑑み、水への分散性が比較的良好である繊維化パラミロン、該繊維化パラミロンを含む添加剤、及び、該添加剤の製造方法を提供することを課題とする。」

(ア-2)課題を解決するための手段
「【0008】
上記課題を解決すべく、本発明は、ユーグレナ由来の繊維化パラミロンであって、複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、前記繊維状物が分岐した構造を有する、繊維化パラミロンを提供する。
上記の繊維化パラミロンは、比較的均一且つ簡便に水に分散されることから、水への分散性が比較的良好であるため、水を含む液体に分散する性能を有する。上記の繊維化パラミロンは、せん断力による解繊処理が施されたものである。」

(ア-3)繊維化パラミロンについて
「【0013】
以下、本発明に係る繊維化パラミロン(パラミロン繊維)の一実施形態について詳しく説明する。
【0014】
本実施形態の繊維化パラミロンは、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒が繊維化されることによって、複数の繊維状物が形成されたものである。
・・・
【0015】
上記の繊維化パラミロンは、複数の繊維状物を含む。上記の繊維化パラミロンでは、通常、複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっている。上記の繊維化パラミロンは、複数の繊維状物が集合して網状になった網目状構造を有する。上記の繊維化パラミロンは、水を含む液体に分散する性能を有する。
・・・
【0018】
上記の繊維化パラミロンの各繊維状物の太さは、通常、10nm以上500nm以下である。斯かる太さは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、100nm以上200nm以下であることがより好ましい。これにより、繊維状に形成されたパラミロンの繊維状物が、より水に分散しやすくなるという利点がある。電子顕微鏡(SEM)で観察すると、枝分かれした構造(分岐した構造)を有する繊維状物が観察され、多数の繊維状物で網目状となった様子が観察される。繊維化パラミロンの形状は、例えば、繊維化パラミロンを顕微鏡で観察することによって確認される。
・・・
【0020】
上記の繊維化パラミロンは、せん断力による解繊処理が施されたものである。具体的に、上記の繊維化パラミロンは、後述する製造方法において、パラミロン顆粒がせん断力によって砕かれ、解繊されることによって形成される。このように、上記の繊維化パラミロンは、せん断力による物理的な解繊処理によって得られる。
・・・
【0022】
走査型電子顕微鏡によって観察した繊維化パラミロンの観察像を図1?図3に示す。図2は、図1における長方形部分の拡大図である。図3は、図1に示された繊維化パラミロンの製法と異なる製法で作られた繊維化パラミロンの観察像である。なお、図1?図3において、右下のスケールの10目盛り分(一方端から他方端まで)が、各図に記載された長さである。図1?図3では、繊維化パラミロンの各繊維状物が互いに絡み合って、各繊維状物が寄り集まった状態となり、3次元ネットワークを形成している様子が観察される。換言すると、繊維化パラミロンは、各繊維状物が互いに複雑に絡み合うことで網目状の構造となっている。繊維化されたパラミロンの各繊維状物では、太さに対する長手方向の長さの比が、通常、5?5000である。繊維化パラミロンの各繊維状物の長手方向の長さは、通常、3μm以上100μm以下である。」

(ア-4)繊維化パラミロンの製造方法
「【0038】
本実施形態の添加剤の製造方法は、パラミロン顆粒をせん断力によって繊維化することによりパラミロン顆粒を繊維状に形成するせん断工程を備える。せん断工程によって、パラミロン顆粒を繊維化することができる。」
・・・
【0040】
せん断工程では、例えば、ユーグレナが細胞内に貯めたパラミロン顆粒(1?5μm程度の大きさ)に水の存在下でせん断力を加えることによって繊維化パラミロンを得て、液状の添加剤を製造する。
・・・
【0043】
せん断工程では、上記の繊維化パラミロンは、せん断力による物理的処理によって、パラミロン顆粒が解繊されて調製される。物理的処理では、パラミロン顆粒を構成するβ-1,3-グルカンの水素結合がほとんど切断されずに、解繊処理が行われる。一方で、化学的な処理では、アルカリ性水溶液やDMSO等の溶液にパラミロンを一度完全に溶解させるため、β-1,3-グルカン同士の水素結合がなくなり、1本鎖のβ-1,3-グルカンを生じさせると考えられる。このことから、本実施形態の繊維化パラミロンは、化学的な処理が施されたパラミロンよりもパラミロン顆粒本来の結晶構造を比較的保持しており、比較的化学的に安定である可能性が高い。上述したように、本実施形態の繊維化パラミロンは、化学的な処理が施されたパラミロンよりも、アルカリ性水溶液等に溶解しにくく、また、β-1,3-グルカナーゼによって分解されにくい。よって、上記の繊維化パラミロンは、例えば食品として利用された場合に、体内でβ-1,3-グルカナーゼによって分解されにくく、繊維状の状態が保たれていることによる機能(例えば食物繊維の機能)を発揮することが期待できる。
【0044】
せん断工程において、パラミロン顆粒にせん断力を加えることにより、パラミロン顆粒が解繊される。パラミロン顆粒は、数nmの太さのミクロフィブリルを含む。パラミロン顆粒は、比較的扁平な形状を有し、顆粒内部では、長手方向が揃うようにミクロフィブリルが並んでいる。顆粒内部では、扁平形状の周方向がミクロフィブリルの長手方向となるように、ミクロフィブリルが並び、ミクロフィブリルが束になっている。このようなパラミロン顆粒にせん断力が加わると、ミクロフィブリルの長手方向に対して垂直な方向に、ミクロフィブリルの束が離間し、パラミロン顆粒が解繊される。解繊処理が施された繊維化パラミロンは、通常、寄り集まったミクロフィブリルで構成されている。」

(ア-5)せん断力を加える装置
「【0045】
せん断工程において、せん断力を加える装置としては、図4及び図5に示すように、互いに摺動しつつ相対移動する第1部材Y1及び第2部材Y2の間に、ユーグレナの細胞から取り出したパラミロン顆粒と水とを含む原材料液Aを入れて、第1部材Y1及び第2部材Y2を互いに摺動させるように構成された装置が挙げられる。また、せん断力を加える装置としては、図6に示すように、パラミロン顆粒を含む原材料液Aを噴射し、原材料液A同士を衝突させる装置が挙げられる。また、図7に示すように、パラミロン顆粒を含む原材料液Aを噴射し、原材料液Aを被衝突体X4に衝突させるように構成された装置が挙げられる。せん断工程においては、パラミロン顆粒が繊維化される条件下(所定の摺動部回転数、摺動面クリアランス、圧力等)で各装置を運転する。
【0046】
前記第1部材Y1及び第2部材Y2が互いに摺動しつつ相対移動する装置は、図4及び図5に示すように、第1部材Y1と、第1部材Y1と摺動する第2部材Y2とを備える。・・・
【0047】
上記の装置として、市販されているものが採用され得る。市販されている斯かる装置としては、例えば、増幸産業社製の石臼式摩砕機 製品名「スーパーマスコロイダー」等が挙げられる。
・・・
【0049】
前記原材料液A同士を衝突させる装置は、図6に示すように、内部を通る原材料液Aを噴射するための第1配管X1と、内部を通る原材料液Aを噴射するための第2配管X2とを備える。・・・
【0050】
斯かる装置として市販されているものを用いることができる。市販されている斯かる装置としては、例えば、スギノマシン社製の「スターバースト」、みずほ工業社製の「マイクロフルイダイザー」等が挙げられる。
【0051】
前記原材料液Aを被衝突体X4に衝突させる装置は、図7に示すように、内部を通る原材料液Aを噴射するための噴射用配管X3と、噴射された原材料液Aが衝突する被衝突体X4とを備える。・・・
【0052】
せん断工程において、上記装置以外に使用され得る装置としては、二軸混練機、高圧ホモジナイザー、高圧乳化機、二軸押し出し機、ビーズミルなどが挙げられる。凍結粉砕を行う解繊装置なども使用され得る。」

(ア-6)実施例(製造方法)
「【0094】
以下のようにして、添加剤(繊維化パラミロン含有添加剤)を製造した。詳しくは、ユーグレナ属微細藻類によって産生されたパラミロン顆粒に対して、水の存在下にてせん断力を加えることにより、パラミロン顆粒を繊維化し、繊維化パラミロンが水に分散されたスラリー(液状の添加剤)を得た。さらに、乾燥処理及び粉砕処理を行うことによって、固形物の状態(粉体状)の添加剤を製造した。
(実施例1)
培養後のユーグレナ属微細藻類が細胞内に貯めたパラミロン顆粒を単離した。単離したパラミロンの濃度が5質量%となるように、パラミロン顆粒と水とを混合して、パラミロン顆粒を含む原材料液を調製した。
【0095】
図4に示すような装置(具体的には、増幸産業社製の石臼式摩砕機 製品名「スーパーマスコロイダー」)を用いて、第1部材(砥石)と第2部材(砥石)との間に原材料液を入れて、第1部材と第2部材とを互いに摺動させることによって、パラミロン顆粒にせん断力を加え、パラミロン顆粒を繊維化し、繊維化パラミロンを含むスラリー(液状の添加剤)を製造した。
【0096】
添加剤の製造において、上記の石臼式摩砕機を用いたせん断工程における湿式解繊処理は、下記条件にて行った。
[解繊処理]
・グラインダー種類:MKGCタイプ
・クリアランス(砥石の隙間): -100μm
・砥石回転数 : 1200 rpm
石臼式摩砕機で得られるスラリーを回収し、回収したスラリーに再度解繊処理を施すことによりスラリーを得て、同様な操作を合計20回繰り返すこと(20パス)によって、繊維化パラミロンを含むスラリーを得た。
【0097】
さらに、このスラリー(液状の添加剤)に対して、凍結乾燥処理、及び、ボールミルによる粉砕処理を順に施し、固形物の状態の添加剤を製造した。
【0098】
繊維化パラミロンを含むスラリー(液状の添加剤)、及び、繊維化させる前のパラミロン顆粒を含む原材料液の各外観写真を図8に示す。なお、実施例1の繊維化パラミロンを走査型電子顕微鏡で観察した観察像は、すでに示した図1及び図2である。
(実施例2)
上述した解繊処理の繰り返し回数を20回(20パス)でなく、10回(10パス)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、繊維化パラミロンを含むスラリー状の添加剤(液状の添加剤)を製造した。
(実施例3)
上述した解繊処理の繰り返し回数を20回(20パス)でなく、5回(5パス)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、繊維化パラミロンを含むスラリー状の添加剤(液状の添加剤)を製造した。
(実施例4)
上述した解繊処理の繰り返し回数を20回(20パス)でなく、15回(15パス)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、繊維化パラミロンを含むスラリー状の添加剤(液状の添加剤)を製造した。
(実施例5)
実施例1で用いたパラミロン顆粒に対して、ビーズミルによってせん断力を加え、パラミロン顆粒を繊維化し、繊維化パラミロンを含むスラリー(液状の添加剤)を製造した。ビーズミルによる解繊処理は、サブミクロン粉砕に使用される一般的な運転条件でおこなった。パラミロン顆粒を10質量%含む原材料液に対してビーズミルによる解繊処理をおこなった。実施例5における繊維化パラミロンを走査型電子顕微鏡で観察した観察像は、すでに示した図3である。
・・・
【0099】
・・・
(比較例1)
実施例1においてせん断工程を行う前のパラミロン顆粒を用いた。
(比較例2)
実施例1においてせん断工程を行う前のパラミロン顆粒を準備した。このパラミロン顆粒を特開2011-184592号公報に記載の方法を用いて化学的に処理した。具体的には、パラミロン顆粒15gを1M NaOH水溶液600mLに加えて1時間撹拌しながら溶解させ、溶解後に、塩酸水溶液を加えることにより、中和処理を行った。中和処理によってゲル状物が生じた。遠心分離による分離処理によって得られた上澄み液を除去し、固形分を得た。固形分は、中和処理による塩(NaCl)を含んでいるため、得られた固形分に対して、多量の水を加えて、固形分を分散させてゲル状物を生じさせ、同様に遠心分離で分離処理を行うことにより、ゲル状物に含まれる塩類の除去処理を行った。塩類の除去処理を、ゲル状物に含まれるNaCl乾燥質量が、1M NaOH水溶液に溶解させたパラミロン顆粒の乾燥重量あたり0.1質量%以下となるまで繰り返し行い、化学処理パラミロンを製造した。ゲル状物に含まれるNaClの乾燥重量は、遠心分離後の上澄み液のNaCl濃度を、上澄み液の電気伝導度より算出することで求めた。なお、下記文献によると、この化学処理パラミロンは、電子顕微鏡によって観察した結果、繊維状ではなく、形や大きさが不定形の塊であった。」

(ア-7)実施例(評価)
「【0100】
・・・
<分散性の評価(1)>
上記のようにして製造した実施例1の固形物の添加剤と、水とを混合することによって、組成物を製造し、繊維化パラミロンの分散性を評価した。
・・・
【0103】
上記評価を行ったときの、組成物の外観の写真を図11に示す。図11から把握されるように、実施例1の添加剤(固形物状態の繊維化パラミロンを含む)を水に分散させたときに、セルロースを含む固形状の比較対象物よりも、より均一且つ簡便に分散させることができた。即ち、実施例1の添加剤では、水と混合されて組成物が製造されたときに、均一且つ良好な分散が確認された。組成物の各粘度を比較すると、繊維化パラミロンを分散させた場合の方が、セルロースを分散させた場合よりも、十分に高かった。
【0104】
・・・
<分散性の評価(2)水中沈定体積>
・・・
【0105】
詳しくは、スラリー状の各試験試料を、25mL容積のプラスチックチューブに、乾燥質量換算で250mg計り取り、プラスチックチューブを手で激しく振って、内容物を撹拌した。その後、25mL容積のメスシリンダーに内容物を移し、25mLになるまで純水を加えた。メスシリンダー内の液体を撹拌した後、37℃で24時間静置した。なお、実施例1のスラリー状の試験試料では、界面が見えない状態であったため、界面を測定するために乾燥質量換算で125mg計り取り、上記の方法と同じ方法で分散性の評価を行った。
・・・
【0107】
図12から把握されるように、実施例1?3の添加剤では、比較例1や比較例2の比較対象物よりも、繊維化パラミロンの分散状態がより均一であり、分散された状態が比較的長期間保たれた。
・・・
【0114】
図15から把握されるように、実施例5及び実施例10の添加剤では、繊維化パラミロンの分散状態が比較的良好であった。即ち、実施例5及び実施例10の添加剤は、水への分散性が比較的良好であった。
【0115】
水中沈定体積の結果は、保水力とも正の相関があると考えられている。水中沈定体積の結果からも、実施例の繊維化パラミロンは、パラミロン顆粒に比べて大きな保水力を有することが確認できる。
<保水性の評価>
実施例1、並びに、比較例1及び2の各試験サンプルを用いて、下記のようにして保水性の評価を行った。
・・・
【0119】
図17から把握されるように、実施例1の添加剤では、比較例1や比較例2の比較対象物よりも、保水力が優れていた。」

上記(ア-1)の記載から、本件特許発明1の解決しようとする課題は、「水への分散性が比較的良好である繊維化パラミロン」を提供することであると認められる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記(ア-2)?(ア-6)から、本件特許発明の繊維化パラミロンは、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒をせん断力による解繊処理によって繊維化することで得られることが記載されていると認められ、上記(ア-5)から、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、石臼式摩砕機、スギノマシン社製の「スターバースト」、ビーズミルなどをせん断力による解繊処理の装置として使用できることが記載されていると認められる。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記(ア-6)及び(ア-7)から、ユーグレナ属微細藻類によって産生されたパラミロン顆粒に対して、石臼式摩砕機を用いたせん断工程における湿式解繊処理により繊維化した繊維化パラミロン(実施例1?4)及びビーズミルを用いたせん断力による解繊処理により繊維化した繊維化パラミロン(実施例5)は、繊維化されていないパラミロン顆粒(比較例1)やパラミロン顆粒を化学的に処理した化学処理パラミロン(比較例2)と比較して、水への分散性が良好であったことが具体例として記載されていると認められる。

そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1で特定される、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された繊維化パラミロンが、水への分散性が良好であることが具体的に記載されており、このような記載に鑑みると、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであると当業者が認識できるといえる。
よって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、本件特許発明1を引用して繊維化パラミロンを規定している本件特許発明2、4ないし8についても、同様に本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

イ 申立人による意見について
(ア)申立人2の主張について
申立人2は、令和2年2月10日付け意見書において、本件訂正によって追加された特定事項だけでは、本件特許発明1における「繊維状物」の具体的な大きさ等が特定されておらず、また、上記意見書と共に提出した参考文献(宮武和孝,外3名,“原生動物の作り出すバイオ粒子,パラミロンの性質と利用”,粉体工学会誌,1995年,第32巻,第8号,p.566?572)の第569頁に記載されているパラミロン粒子の粒度分布1?10μmと、本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0018】に記載された繊維化パラミロンの太さの範囲10nm?500nmとを比較して、本件特許発明1の範囲が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲よりも広いことを述べた上で、本件特許の出願時における技術常識を考慮しても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を、本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化する根拠はない旨主張する。

しかしながら、上記(1)アで述べたとおり、本件特許発明1は、繊維化パラミロンについて、「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」という特定事項が追加さたことにより、繊維化パラミロンが有する構造が明らかとなったことから、当該繊維化パラミロンを構成する「繊維状物」も上記特定事項により特定される構造のものであることが明らかとなった。
そして、上記(2)アで述べたとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒をせん断力による解繊処理して繊維化した繊維化パラミロンが上記課題を解決できることが記載されていることに鑑みると、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであると当業者が認識できるといえる。
ところで、申立人2の上記主張における、参考文献に記載されたパラミロン粒子の粒度分布の範囲と本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0018】に記載された繊維状物の繊維の太さとの比較に基づく、本件特許発明1の範囲が広いという主張については、そもそも本件特許発明1は上記主張で述べられている数値範囲によって特定される発明ではないし、また上記主張が本件特許発明1が発明の課題が解決できることを当業者が認識できないとする具体的な根拠を示すものでもないから、当該主張を根拠として本件特許発明1がサポート要件を満たしていないとすることはできない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

ウ 小括
本件特許発明1、2、4ないし8に係る特許は、取消理由1(サポート要件)によって取り消すべきものではない。


第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
以下では、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について述べる。

1 申立人1による申立理由1(進歩性)について
(1)申立理由1の要旨
申立人1は、特許異議申立書において、下記(2)に示す異議1甲1?異議1甲5の証拠を示して、訂正前の請求項1?4に係る発明は、異議1甲1?異議1甲3に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであり、訂正前の請求項5に係る発明は、異議1甲1?異議1甲4に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであり、訂正前の請求項6?8に係る発明は、異議1甲1?異議1甲5に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであると主張する。

(2)証拠方法
異議1甲1:特開2012-127024号公報
異議1甲2:特開2014-037657号公報
異議1甲3:特開2015-157796号公報
異議1甲4:国際公開2015/156339号
異議1甲5:特開2005-270891号公報
(なお、申立人1は、異議1甲4として特許公報の「特許6307153号公報」を示しているが、当該特許公報は本件特許の優先日後に発行されたものであるため、申立人1の意図を斟酌し、申立人1が当該特許公報に対応する国際公開を証拠として示したものとして扱う。)

(3)当審の判断
異議1甲1?異議1甲5に記載された事項及び本件特許の優先日当時の技術常識を考慮しても、本件特許発明1、2、4ないし8に係る発明は、当業者が容易に想到し得たものではないと当審は判断する。以下、詳述する。

ア 異議1甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審によって付与されたものである。
(ア-1)発明が解決しようとする課題及びそのための手段
「【0007】
従って、本発明の主な目的は、ナノメートルレベルでの制御が可能なナノファイバーの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の製造プロセスを採用することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(ア-2)発明の効果
「【0010】
本発明の製造方法によれば、3重らせん構造が解離して生成したβ-1,3-グルカン鎖を含む溶液と、前記溶液とは別途に用意した液相とを流通下で接触させることにより、少なくともβ-1,3-グルカンの分子(分子鎖)が絡合してなる繊維状構造体を得ることができる。すなわち、流通下で前記溶液と前記液相とを供給し続けることによって、連続的に繊維状構造体を形成させることができる。その結果、ナノメートルレベルで構造を制御しつつ、これまでよりも長い(アスペクト比の大きな)繊維状構造体を提供することが可能となる。例えば、本発明の製造方法では、繊維径100 nm?100μm、繊維長3?30cmのような繊維状構造体も提供することが可能である。繊維径の最大値は、例えば用いるマイクロ流路でバイスの流路径等によって制御可能である。また、繊維長は、例えば流通する時間によって制御することができる。」

(ア-3)発明を実施するための形態
「【0015】
β-1,3-グルカンとしては、多糖の主鎖がβ1→3グルコシド結合に結合された多糖類であり、公知又は市販のものを使用することができる。β-1,3-グルカンは、その由来に限定されず、海藻由来、キノコ由来、細菌由来等のいずれも使用することができる。このようなβ-1,3-グルカンとしては、例えばカードラン、パーキマン、シゾフィラン、レンチナン、ラミナラン、グリホラン、スクレログルカン等を挙げることができる。」

(ア-4)実施例1
「【0032】
(2)動的界面でのβ-1,3-グルカン複合化と集積体の観察
図1に示すように、シリンジからキャピラリーを経てマイクロ化学チップへと流通させ、両液が合流した後、その混合溶液をキャピラリーを経て水で満たされた石英セルに導入した。
より具体的には、次の通りである。まず、20mg/ml β-1,3-グルカン/DMSO Texas溶液とDMSOを用い、β-1,3-グルカン溶液を10mg/mlに希釈調製した。20mg/ml, 10mg/mlのβ-1,3-グルカン溶液を、250μlシリンジからキャピラリーを経てマイクロ化学チップへと流した。この時、化学チップのもう一方からは蒸留水を導入し、化学チップ内でβ-1,3-グルカン溶液と合流させ、マイクロ化学チップ管内で層流を形成させた。また、β-1,3-グルカン溶液と蒸留水の流速は50μl/min及び10μl/minの2つについて検討した。化学チップから出たβ-1,3-グルカンと蒸留水の等混合溶液は、キャピラリーを経て水で満たされた石英セルに受けた。その後、直ちに石英セルにUVライト(254nm)を照射してデジタルカメラにて記録した。その結果を図2に示す。その後、溶液が均一になるのを確認してから、溶液をマイカ基板上にスポットして、真空下で乾燥させてからAFMにより観察した。その結果を図3?図5に示す。
・・・
【0034】
(3-2)AFMによる観察によると10mg/ml β-1,3-グルカンを50μl/minでの流速でマイクロ化学チップに流した場合では、β-1,3-グルカン分子は塊状の構造をとっていることが確認された。β-1,3-グルカンの分子間で特に相互作用している様子は確認できなかった。次に、同濃度で流速を10μl/minにした場合では網目状の構造が確認できた。β-1,3-グルカンの分子によりネット状の構造を形成しており、200nm程度の目を形成していた。
次に、20mg/ml β-1,3-グルカンの場合、10μl/minの場合では、より複雑なネット状の構造を有しており、目は100μm程度であった。また、10mg/mlβ-1,3-グルカンのAFM画像と比較してより複雑な構造をとっていると思われる。また、20mg/ml β-1,3-グルカンを50μl/minで化学チップに流した場合でも、よりネット構造が複雑化する様子が認められた。
10mg/ml β-1,3-グルカンでは10μl/minの流速になると、より複合化が進み、50μl/minの比較的早い流速ではβ-1,3-グルカン分子どうしの複合化はまったく観察できなかった。これも、流速の違いによりβ-1,3-グルカン分子が管内に対流する時間が長くなったため、化学チップ内の動的界面でのβ-1,3-グルカン分子の相互作用がより大きくなったためであると思われる。10mg/mlのサンプルを比較すると、β-1,3-グルカン分子の複合化が全く異なり、それぞれの流速の画像を比較すると、より遅い流速でマイクロ化学チップ内を流すことにより、より複合化が進むと思われる。次に20mg/mlの場合だと10μl/minと50μl/minの両方の流速において、β-1,3-グルカン分子どうしの絡み合いによってネット構造を形成している。20mg/mlのサンプルにおいては流速を速くしても、既に十分に動的界面でβ-1,3-グルカン分子どうしが相互作用してネット状の構造を形成するだけの量があるので、流速を変化してもAFMでのネット状の構造が観察できたと考えられる。
ブラックライト照射下で観察したファイバー状の構造とも併せて考えると、20mg/ml β-1,3-グルカンはAFMで確認されたように微細なネット状態構造の集積によりファイバー状の構造が形成されていると考えられる。ファイバー状構造が形成されるにはマイクロ化学チップによる動的界面の影響が十分に必要である。
特に、動的界面でβ-1,3-グルカン分子どうしが相互作用できるように、流速や濃度を設定する必要があると思われる。また、10mg/ml β-1,3-グルカンの10μl/minの流速ではAFM画像で網目状の構造が確認できたがファイバー上の構造は確認できなかった。これはネット状の構造がファイバー構造を形成するだけ十分に形成されなかったと考えられる。つまり、ファイバー状の形成にはマイクロ化学チップ内で網目状の構造が十分に構成されている必要があると考えられる。
【0035】
(3-3)以上より、マイクロ化学チップ内の動的界面ではネット状の構造が形成されており、ネット状構造の集積によりファイバー状態構造が形成されていることがわかる。また、ネット状構造の形成には流速と濃度が関与しており、化学チップ内の動的界面で十分にβ-1,3-グルカン分子を相互作用させる必要があることがわかる。」

イ 異議1甲2には、以下の記載がある。
(イ-1)特許請求の範囲
「【請求項1】
β-1,3-グルカンによって構成される三重らせん構造を有し、該β-1,3-グルカンのグルコース残基の6-位ヒドロキシル基が-CO-R(式中、Rは、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、置換若しくは非置換のアミノ基、及びチオール基からなる群より選択される1個以上の解離性基によって置換されている炭化水素基である)で表されるアシル基で置換されており、該β-1,3-グルカンの重量平均分子量が1×10^(4)?2×10^(7)の範囲であるナノファイバー。」

(イ-2)β-1,3-グルカンについて
「【0011】
本発明により、β-1,3-グルカンを原料物質として、繊維特性の高いナノファイバー及びその製造方法を提供することが可能となる。
・・・
【0016】
前記β-1,3-グルカンは、限定するものではないが、例えば、微細藻が生産する多糖から調製されるグルカンが好ましい。ユーグレナ(Euglena gracilis)が生産するパラミロン粒子から調製されるβ-1,3-グルカンが特に好ましい。」

ウ 異議1甲3には、以下の記載がある。
(ウ-1)特許請求の範囲
「【請求項1】
セルロースの分散流体を100?245MPaの高圧噴射処理により解繊することで得たセルロースナノファイバーが含有されていることを特徴とする乳化剤。
・・・
【請求項5】
セルロースの分散流体を100?245MPaの高圧噴射処理により解繊することで得たセルロースナノファイバーと水が含有されていることを特徴とするオーガニック化粧料。
・・・
【請求項10】
前記分散流体の溶媒が水であり、前記セルロースナノファイバーの終濃度が0.1?1.0wt%となるように調製することを特徴とすることを特徴とする請求項7から9のいずれか一項記載の乳化剤の製造方法。」

(ウ-2)乳化剤の溶媒・濃度
「【0017】
前記分散流体の溶媒は、水であることが好ましい。本発明によれば、すべての原料を天然由来のものとすることが容易である。
【0018】
本発明は、前記分散流体の溶媒が水であり、前記セルロースナノファイバーの終濃度が0.1?1.0wt%となるように調製されていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、0.1?1.0wt%という一般的な乳化剤よりも低濃度であり、水と油が分離しない乳化状態を長期に亘って維持することができる。そのため、化粧料に余分な添加剤の割合を低くできるという特徴も有している。また、乳化原理としては細かくなった油滴同士が結合し、大きな油滴になるのを前記セルロースナノファイバーの3次元ネットワークが防止していると考えられる。よって、この3次元ネットワークを形成して乳化効果を発現させるには終濃度を0.1wt%以上とすることが好ましい。終濃度は1.0wt%を超えてもよいが材料コストを抑えるためには終濃度を1.0wt%以下とすることが好ましい。」

(ウ-3)用途
「【0046】
本発明の乳化剤は、UVケア化粧料や医薬品等、多岐に亘って応用できる。本発明の乳化剤の応用例としては、医薬品としては、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、硬膏剤、エアゾール剤、液剤、エキス剤、眼軟膏剤、経皮吸収型製剤、創傷被覆剤、懸濁剤等が挙げられ、また、化粧料としては、ファンデーション、口紅、化粧水、乳液、クリーム、マスカラ等が挙げられ、スキンケア、保湿等の用途に好適である。」

(ウ-4)製造例
「【0058】
本発明の化粧料の製造例2 本発明のセルロースナノファイバーを含有した乳化剤を水とオリーブ油と撹拌混合し、本発明の化粧料(乳化物)を得た。ここでは、本発明に係るセルロースナノファイバーの濃度を変化させて、各乳化性能を比較した。」

(ウ-5)乳化剤に添加できる成分
「【0092】
また、本発明の乳化剤に、水溶性の有効成分や添加剤を加えたものを希釈して、化粧水や美容液等の化粧料として利用することもできる。添加剤の例としては、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸等の水溶性ビタミン類;オウバクエキス、カンゾウエキス、アロエエキス、スギナエキス、茶エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、ハマメリス抽出液、プラセンタエキス、海藻エキス、マロニエエキス、ユズエキス、ユーカリエキス、アスナロ抽出液等の動・植物抽出液;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム等の塩類;クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩等のpH調整剤;カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸ナトリウム等の増粘剤等が挙げられる。なお、上記有効成分や添加剤はあくまで一例であり、オーガニック化粧料においては、ECOCERTのCOSMECO(エコロジーラベル)の基準等を満たす必要があるため、酸や化学処理等は行わないことが望ましいことは言うまでもない。」

エ 異議1甲4には、以下の記載がある。
(エ-1)請求の範囲
「[請求項1] ユーグレナ由来物質を含み、生体においてTh1,Th2及びTh17がそれぞれ誘導する免疫反応のバランスであるTh1/Th2/Th17免疫バランスを調整することを特徴とする免疫バランス調整剤。」

(エ-2)用途
「[0055]<<医薬組成物>>
医薬の分野では、免疫バランス調整作用を有効に発揮できる量のユーグレナ由来物質とともに、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、免疫バランス調整作用を有する医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、医薬品であっても、医薬部外品であってもよい。
当該医薬組成物は、内用的に適用されても、また、外用的に適用されてもよい。したがって、当該医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/または腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。
当該医薬組成物の剤型としては、適用の形態により、適当に設定できるが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤、等の固形製剤;液剤、懸濁剤等の液状製剤、軟膏剤、ゲル剤等の半固形剤があげられる。
[0056]<<食品組成物>>
食品の分野では、免疫バランス調整作用を生体内で発揮できる有効な量のユーグレナ由来物質を食品素材として、各種食品に配合することにより、免疫バランス調整作用を有する食品組成物を提供することができる。すなわち、本発明は、食品の分野において、免疫バランス調整用と表示された食品組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病院患者用食品、サプリメント等をあげることができる。また、食品添加物として用いることもできる。
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル等をあげることができる。また、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であってもよい。」

オ 異議1甲5には、以下の記載がある。
(オ-1)特許請求の範囲
「【請求項1】
多糖類の分散液を一対のノズルから70?250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて多糖類を粉砕する方法であって、上記一対のノズルから噴射される多糖類分散液の高圧噴射流の角度を、噴射流同士が各々のノズル出口より先方の一点で適正な角度において衝合衝突するように調製する、及び/又は、高圧流体の噴射回数を調整して粉砕回数を調整することにより、平均粒子長が1/4以下に粉砕された多糖類の重合度低下を10%未満とすることを特徴とする多糖類の湿式粉砕方法。」

(オ-2)その他の成分
「【0027】
本発明では、上述した多糖類と分散媒体液に加えて、その他の成分として、水溶性の高分子類等、湿潤剤、界面活性剤、香味剤、甘味剤、パラベン類、防腐剤、色素を本発明の効果を妨げない範囲で添加することも差し支えない。いずれも高圧の装置の配管を通過する平均粒径であることが必要となる。」

カ 対比・判断
上記(ア-2)?(ア-4)の記載から、異議1甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「3重らせん構造が解離して生成した、由来に限定されないβ-1,3-グルカン鎖を含む溶液と、前記溶液とは別途に用意した液相とを流通下で接触させることにより、少なくともβ-1,3-グルカンの分子鎖が絡合してなる繊維状構造体。」(以下、異議1甲1発明という。)

そこで、本件特許発明1と異議1甲1発明とを対比すると、異議1甲1発明における「繊維状構造体」は、一応「繊維」と称されるものを含む点において、本件特許発明1と共通するものである。
そうすると、両者は「繊維を含むもの」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件特許発明1は、繊維を含むものが、「ユーグレナ由来の繊維化パラミロンであって、複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、前記繊維状物が分岐した構造を有し、前記ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された、繊維化パラミロン」であるのに対し、異議1甲1発明は、「3重らせん構造が解離して生成した、由来に限定されないβ-1,3-グルカン鎖を含む溶液と、前記溶液とは別途に用意した液相とを流通下で接触させることにより、少なくともβ-1,3-グルカンの分子鎖が絡合してなる繊維状構造体」である点。

上記相違点について検討すると、異議1甲1発明の「3重らせん構造が解離して生成した、由来に限定されないβ-1,3-グルカン鎖を含む溶液と、前記溶液とは別途に用意した液相とを流通下で接触させることにより、少なくともβ-1,3-グルカンの分子鎖が絡合してなる繊維状構造体」は、化学的な処理によって3重らせん構造が解離して生成したβ-1,3-グルカンの分子鎖によって形成されたものであり、一方、本件特許発明1の繊維化パラミロンは、その発明特定事項で特定されるとおり、パラミロン顆粒が物理的な処理であるせん断力による解繊処理で繊維化されたものであるから、両者は構造及び特性において大きく異なるものである。
そして、異議1甲1?異議1甲5には、上記ア?オにて示したとおり、いずれにおいても、本件特許発明1における「複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、前記繊維状物が分岐した構造を有し、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」繊維化パラミロンについての記載や示唆は存在しない。
また、異議1甲3の上記(ウ-1)において、セルロースの分散流体を高圧噴射処理により解繊することの記載が、また異議1甲5の上記(オ-1)において、多糖類の分散液を高圧でそれぞれ噴射させて、その噴射流を互いに衝突させて多糖類を粉砕する方法の記載があるが、これらの方法によって得られる処理物の構造及び特性は、異議1甲1発明にて特定される化学的な処理によって得られた繊維状構造体の構造及び特性と全く異なり、しかも、異議1甲1発明の課題解決の手段として代替できるものでもないから、異議1甲1発明において、異議1甲3や異議1甲5に記載された技術を組み合わせる動機付けは見当たらない。そのうえ、異議1甲3及び異議1甲5には、パラミロン顆粒を繊維化した繊維化パラミロンの構造の記載もないから、異議1甲3及び異議1甲5の記載に基づいても、本件特許発明1におけるユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された繊維化パラミロンが有する構造を導き出すことはできない。
よって、異議1甲1発明及び異議1甲1?異議1甲5のいずれの記載並びに本件特許の優先日当時における技術常識に基づいても、異議1甲1発明において、上記相違点に係る構成を採用することが当業者にとって容易とすることはできず、本件特許発明1は当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、本件特許発明1を引用して繊維化パラミロンを規定している本件特許発明2、4ないし8についても、同様である。

キ 申立人1の主張について
申立人1は、上記特許異議申立書において、以下の(ア)及び(イ)の主張をするが、以下の理由のとおり、いずれも採用できない。

(ア)本件特許発明1と異議1甲1発明との対比について、異議1甲1における図3及び図4から、異議1甲1発明は、「繊維状物が分岐した構造」を有するものといえるから、この点において、本件特許発明1とは相違しない。

(イ)「繊維状物が分岐した構造」の点で本件特許発明1と異議1甲1発明とが相違するとしても、異議1甲3には、バイオマス原料のセルロースを、超高圧噴射処理(株式会社スギノマシン製スターバースト)のせん断力によって解繊し、セルロースナノファイバーとしてSEMにて観察した結果が示されていることから、異議1甲1発明において、異議1甲3に記載された技術を適用して「繊維状物が分岐した構造」を有するものとすることは当業者にとって容易である。

上記(ア)について、上記カで述べたとおり、本件特許発明1の繊維化パラミロンの構造及び特性と異議1甲1発明の繊維状構造体の構造及び特性とは大きく異なるから、本件特許発明1を構成する「繊維状物」の構造及び特性も、異議1甲1発明を構成するものとは大きく異なることは明らかである。よって、異議1甲1発明における「繊維状物」が分岐しているかどうかについて検討するまでもなく、本件特許発明1と異議1甲1発明とは一致するものではない。
なお、異議1甲1において分岐した構造である「繊維状物」なるものが記載されているか否かについて検討しても、異議1甲1における図3及び図4は、化学チップから出たβ-1,3-グルカン分子鎖と蒸留水の等混合溶液を乾燥して得られた乾燥物のAFM観察の結果を示す図であるが、当該図をみても、β-1,3-グルカンの繊維形態のものが存在していることは把握できるものの、それぞれの繊維形態のものが分岐した構造を有しているかどうかは判然としないから、異議1甲1における図3及び図4に基づいて、繊維形態のものが分岐した構造を有するものと断ずることはできないし、異議1甲1発明の製造方法に鑑みても、このような繊維形態のものが分岐した構造を有していると認めるに足る根拠もない。

上記(イ)について、異議1甲3には、上記(ウ-1)のとおり、セルロースの分散流体を高圧噴射処理により解繊することでセルロースナノファイバーが含有されている乳化剤を得ることが記載されているものの、上記カで述べたとおり、異議1甲1発明において、異議1甲3に記載された技術的事項を採用する動機付けは見当たらない。
申立人1は、令和2年2月13日付け意見書において、異議1甲5号証及び特開2016-199650号(後述の異議2甲1と同一の文献である。以下、異議2甲1という。)を示して、せん断(高圧噴射)による解繊処理は周知であるから本件特許発明1が進歩性を有しない旨も主張しているが、上記カで述べた理由と同じ理由から、これらの技術的事項を異議1甲1発明において採用する動機付けはない。
しかも、異議1甲3及び異議1甲5には、パラミロン顆粒を繊維化した繊維化パラミロンの構造の記載がなく、異議2甲1にも、後述(2(3)エ(ア))のとおり、パラミロン顆粒を繊維化した繊維化パラミロンの構造の記載はないから、いずれの文献に記載された事項に基づいても、本件特許発明1が当業者にとって容易に想到し得たとすることはできない。

(4)小括
上記申立理由1によっても本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立人2による申立理由2(新規性)及び申立理由3(進歩性)について
(1)申立理由2及び申立理由3の要旨
申立人2は、特許異議申立書において、下記(2)に示す異議2甲1?異議2甲3の証拠を示して、訂正前の請求項1ないし8に係る発明に対して、異議2甲1に記載された発明と同一であって、訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、本件特許発明1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである、また、訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、異議2甲1?異議2甲3に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許発明1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであると主張する。

(2)証拠方法
異議2甲1:特開2016-199650号公報
異議2甲2:「極少量対応型 湿式微粒化装置「スターバーストミニ」」、INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE、[online]、2016年10月6日、株式会社スギノマシンのホームページ、[2019年6月28日検索]、インターネット<URL:https://web.archive,org/web/20161006151916/https://www.sugino.com/site/wet-type-atomization-equipment/sbs-type-mini.html>
異議2甲3:「湿式微粒化装置」、INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE、[online]、2016年10月5日、株式会社スギノマシンのホームページ、[2019年6月28日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20161005064944/http://www.sugino.com/site/wet-type-atomization-equipment/>

(3)当審の判断
本件特許発明1、2、4ないし8は、異議2甲1発明と同一ではなく、また、異議2甲1?異議2甲3に記載された事項及び本件特許の優先日当時の技術常識を考慮しても、本件特許発明1、2、4ないし8は、当業者が容易に想到し得たものではないと当審は判断する。以下、詳述する。

ア 異議2甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審によって付与されたものである。
(ア-1)特許請求の範囲
「【請求項1】
β-グルカンに水性の溶媒を加えた流体を、超高圧で細孔ノズルから噴出させて被衝突物に衝突させる衝突工程を行うことにより加工β-グルカンを製造することを特徴とする加工β-グルカンの製造方法。
【請求項2】
前記衝突工程を、複数回繰り返すことを特徴とする請求項1記載の加工β-グルカンの製造方法。
【請求項3】
前記衝突工程では、前記流体を、一定の形状を備えた物体に、該物体の面に対して角度を持って衝突させることを特徴とする請求項1記載の加工β-グルカンの製造方法。
【請求項4】
前記衝突工程では、前記流体を第一の噴流として噴出させ、該第一の噴流を、前記β-グルカンに水性の溶媒を加えた流体を他の細孔ノズルから超高圧で噴出させた第二の噴流に、角度を持って衝突させることを特徴とする請求項1記載の加工β-グルカンの製造方法。」

(ア-2)発明を実施するための形態
「【0013】
・・・
<β-グルカン>
本明細書において、β-グルカンとは、β-グルコースが(1→3),(1→4)および(1→6)の結合で連なった多糖類の一群をいい、セルロース、ラミナラン、リケナン、穀類のβ-グルカン、カロース、ザイモザン等の酵母細胞壁由来のβ-グルカン、クレスチン、レンチナン、ジゾフィラン、グリフォラン、パキマン、マンネンタケ・アガリクス・ヤマブシタケ・カバノアナタケ・カワリハラタケ・メシマコブ由来のβ-グルカン等のキノコ由来のβ-グルカン、カードラン、ユーグレナ由来のパラミロン等を含む。
・・・
これらのβ-グルカンのうち、パラミロン(paramylon)とは、ユーグレナが含有する貯蔵多糖であり、ユーグレナ由来のものをいう。
・・・
【0029】
<加工β-グルカン>
本実施の形態に係る加工β-グルカンは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で粒度を測定したときのメジアン径が、原料の結晶β-グルカン粉末の5倍以上である。
また、加工β-グルカン粒子は、隣接する粒子と付着し、β-グルカンに対して4倍以上の水と結合して膨潤している。原料β-グルカンと水を混合したスラリーは、さらさらした流体であるが、加工β-グルカンは、粘度が増加して粘性を有し、触ったときに手に付着するような粘着性と、もちもちした弾力性を有し、糊のような触感を備えている。
加工β-グルカンは、乳化物に類似した物性を備えている。」

(ア-3)実施例
「【0030】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例は、β-グルカンの一例であるパラミロンを用いた例であるが、本発明は、他のβ-グルカンにも適用可能であることは当然である。
(実験例1)
本実験例では、結晶性のパラミロン粉末、アモルファスパラミロンを、上記実施形態の加工パラミロンの製造方法に沿って処理することにより、実施例1の加工パラミロン及び対比例1の加工アモルファスパラミロンを作製し、物性の確認を行った。
【0031】
まず、結晶性のパラミロン粉末(株式会社ユーグレナ製)に、パラミロン濃度が3wt%になるよう、水を加え、パラミロンスラリーを得た。
湿式微粒化装置(スターバーストミニ,2.2KW,株式会社スギノマシン製,ボール衝突チャンバ-)の装置回路内をイオン交換水に置換した。
本実験例で用いた湿式微粒化装置は、超高圧に加圧した原料を、細孔ノズルから噴出させて被衝突物としてのセラミックスボールに衝突させることにより、分散・粉砕・乳化・表面改質等を行う装置である。
装置のノズルを加圧して、パラミロンスラリーを回路内に供給し、初期吐出液を、回路内デッドボリュームとして廃棄した。その後、パラミロンスラリーの噴流を被衝突体としてのセラミックボールに衝突させ、流出路からスラリー処理物を回収して、1パスとした。このときの処理圧力は、245MPa,スラリー処理量は、240mL,ノズル径は、0.1mmとした。
この処理を20回繰り返して20パスの処理を行い、0,1,3,5,10パス処理後の処理物(実施例1)をそれぞれ16mLと、20パス処理後の処理物(実施例1)を32mLサンプリングして、静置観察及び光学電子顕微鏡観察、粒度分布の測定を行った。
・・・
【0034】
◎ 顕微鏡観察
・・・
実施例1の光学電子顕微鏡の写真を、図5に示す。
実施例1の未処理のもの(0パス)は、独立した粒子状であった。各粒子は、表面が滑らかで、豆形を扁平にしたような形状からなっていた。各粒子の形状は、粒子間で差異がなく、ほぼ均一な形状であった。また、各粒子は、相互に付着せず、独立していた。
1パスから3パスにパス数が増えるに従い、各粒子の表面には、突起や、突起で他の粒子と付着している様子が観察された。また、5パスでは、隣接する粒子同士で付着、連結している箇所が多く見られた。隣接する粒子同士での付着、連結は、5パスから20パスにパス数が増えるに従い、増加して、20パスでは、単独で孤立して存在している粒子が殆ど見られなくなった。また、1パス?20パスのいずれにおいても、パラミロン粒子の径が、未処理のパラミロン粒子よりも細粒化しているものは観察されず、パラミロン粒子の微細化は起こらなかった。
【0035】
水不溶物と水を混合した流体を、超高圧で細孔ノズルから高圧で噴出させて被衝突物に衝突させる処理は、通常、固体の粉砕、分散や、水と油の乳化、エマルジョンの微細化等に用いられているが、パラミロンにこの処理を施した場合には、驚くべきことに、微粒化や粉砕は起こらず、かえって、パラミロン粒子同士の付着、連結が起こっていた。
・・・
【0040】
◎ 実験例1の考察
パラミロン処理物は、パス回数が高くなるのに伴い、粘性が高くなっていた。
静置観察では、5パス以上のパス数のパラミロン処理物が、水中で沈殿せず、パラミロン処理物の単相からなっていた。パラミロンに水が結合し、パラミロンが水分子中に分散していることが観察された。
また、光学電子顕微鏡による観察では、パラミロン粒子の大きさ自体は、パス数が増加しても大きな変化はないが、パラミロン粒子表面が滑面から粗面に変化し、パラミロン粒子同士が相互に付着している様子が観察された。
粒子径の測定においては、10パス、30パスの粒子径のメジアン径及びピーク径が、未処理のものの10倍程度に大きくなっていたが、超音波分散処理を経たものでは、未処理から30パスに至るまで、メジアン径及びピーク径に大きな変化はなかった。
以上より、1パス以上のパラミロン処理物は、パラミロンに水が結合して、パラミロン粒子の表面が粘性になり、パラミロン粒子が相互に付着していた。パラミロン処理物は、粘性が向上し、糊のような状態になっていた。
1パス以上ではパラミロンを構成する糖鎖の一部が変化し、クモの巣状の構造を形成し、パラミロン粒子が相互に結合する様子が観察された。また、さらに加工処理を加える事でクモの巣状の構造は消失し、20パスでは、パラミロンの粒同士が結合した状態になった。」

(ア-4)図5




イ 異議2甲2には、以下の記載がある。なお、下線は当審によって付与されたものである。
(イー1)
「分散・乳化・粉砕・表面改質・劈開・繊維化」(第1頁左上)

(イ-2)
「極少量対応型 湿式微粒化装置 「スターバーストミニ」
ナノ分野の研究開発に最適な
最少20mL対応モデル。
「スターバーストミニ(Star Burst Mini)」は、最高245MPaに加圧した原料をセラミックスボールに衝突させることにより、分散・粉砕・乳化・表面改質を行う湿式微粒化装置です。
20mLという極少量の仕込み量に対応しており、最先端の高価な原料もロスなく処理できるため、機能性ナノ材料開発のパートナーとして最適です。
■処理量:2?6L/hr
■用途:分散、粉砕、乳化、表面改質」(第1頁第1?第9行)

ウ 異議2甲3には、以下の記載がある。なお、下線は当審によって付与されたものである。
(ウ-1)
「最高245MPaに加圧した原料同士をマッハ4の相対速度で斜向衝突させることで、分散・乳化・粉砕・表面改質を行う湿式微粒化装置「スターバースト」。粉砕媒体を使用しないクリーンな工法のため、幅広い用途で導入されています。」(第1頁第1?第6行)

(ウ-2)
「分散・乳化・粉砕・表面改質・劈開・繊維化」(第1頁第7?第8行)

エ 対比・判断
上記(ア-2)には、「加工β-グルカン」について、「加工β-グルカン粒子は、隣接する粒子と付着し、β-グルカンに対して4倍以上の水と結合して膨潤している」とされ、「粒子」形状のものとして記載されている。また、上記(ア-3)及び(ア-4)には、「加工β-グルカン」の具体的な態様として示された「パラミロン処理物」の顕微鏡観察において、処理後のパラミロン粒子は、その径が未処理のパラミロン粒子よりも細粒化しているものは観察されず、パラミロン粒子の微細化は起こらなかったことが記載され、パラミロン粒子の形状が変化していないことから、パラミロン処理物を構成する処理後のパラミロン粒子は、概ね未処理のパラミロン粒子の形状を保っているものといえる。このような記載からみて、異議2甲1に記載された「パラミロン処理物」は、「粒子」形状の処理後のパラミロン粒子で構成されているものと認められる。
さらに、上記(ア-3)における「クモの巣状の形状の構造」は、「加工処理を加える事でクモの巣状の構造は消失」するものであって、「パラミロン粒子」の全体的な形状に関与していないものであるといえるから、クモの巣状の構造はパラミロン粒子の表面の糖鎖の一部が変化して形成されたものと認められる。
そうすると、上記(ア-3)の記載から、異議2甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「ユーグレナ由来のパラミロン粒子が、湿式微粒化装置(スターバーストミニ、株式会社スギノマシン製)で処理されたパラミロン処理物であって、
パラミロンを構成する糖鎖の一部が変化し、処理後のパラミロン粒子の表面上にクモの巣状の構造を形成し、処理後のパラミロン粒子が相互に結合した、パラミロン処理物。」(以下、異議2甲1発明という。)

そこで、本件特許発明1と異議2甲1発明とを対比すると、異議2甲1発明の「ユーグレナ由来のパラミロン粒子」は本件特許発明1の「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒」に相当する。また、異議2甲1発明の「湿式微粒化装置(スターバーストミニ、株式会社スギノマシン製)で処理」は、本件特許発明1の「せん断力による解繊処理」と、物理的な手段による処理の点で共通し、そして、異議1甲1発明における「パラミロン処理物」は、本件特許発明1の「繊維化パラミロン」と、「パラミロン顆粒の処理物」である点で共通する。
そうすると、両者は、
「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒が物理的な手段によって処理された、パラミロン顆粒の処理物」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件特許発明1は、パラミロン顆粒の処理物が、「複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、前記繊維状物が分岐した構造を有しており、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された、繊維化パラミロン」ものであるのに対し、異議2甲1発明は、「パラミロンを構成する糖鎖の一部が変化し、処理後のパラミロン粒子の表面上にクモの巣状の構造を形成し、処理後のパラミロン粒子が相互に結合した、パラミロン処理物」である点。

(ア)まず、上記申立理由2(新規性)について判断する。
上記相違点について検討すると、異議2甲1発明の「パラミロンを構成する糖鎖の一部が変化し、処理後のパラミロン粒子の表面上にクモの巣状の構造を形成し、処理後のパラミロン粒子が相互に結合した」パラミロン処理物」は、上記(ア-4)の図5からも明らかなとおり、パラミロン粒子が相互に結合したものであり、一方、本件特許発明1は、パラミロン顆粒が繊維化されたものであるから、両者はその構造において相違することは明らかである。
したがって、本件特許発明1と異議2甲1発明とは上記相違点が存在するから、本件特許発明1は、異議2甲1発明と同一ではない。
また、本件特許発明1を引用して繊維化パラミロンを規定している本件特許発明2、4ないし8についても、同様である。

(イ)次に、上記申立理由3(進歩性)について判断する。
異議2甲2における上記(イ-1)及び異議2甲3における上記(ウ-2)には、湿式微粒化装置である「スターバーストミニ」及び「スターバースト」は「分散・乳化・粉砕・表面改質・劈開・繊維化」に用いられることが記載されていることから、異議2甲1発明における「湿式微粒化装置(スターバーストミニ、株式会社スギノマシン製)」も、「分散・乳化・粉砕・表面改質・劈開・繊維化」に用い得るものといえる。
しかしながら、異議2甲1発明は、パラミロン粒子が相互に結合したパラミロン処理物であって、繊維化されたものではない。また、湿式微粒化装置「スターバーストミニ」が繊維化処理にも用い得る装置として知られているとしても、上述のとおり、当該装置は種々の処理に用い得るものであるから、パラミロン粒子で構成される異議2甲1発明において、当該装置が可能な処理の中から特に繊維化を選択して、パラミロン顆粒を繊維化しようとする動機付けを見出すことはできない。
よって、異議2甲1発明において、上記相違点に係る構成を採用して、本件特許発明1とすることは当業者にとって容易に想到し得たものではない。
したがって、異議2甲1発明及び異議2甲1?異議2甲3に記載された事項並びに本件特許の優先日当時における技術常識を考慮しても、本件特許発明1は、当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件特許発明1を引用して繊維化パラミロンを規定している本件特許発明2、4ないし8についても、同様である。

オ 申立人2の主張について
申立人2は、上記特許異議申立書において、以下の(ア)?(ウ)の主張をするが、以下の理由のとおり、いずれも採用できない。

(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0050】?段落【0052】において、本件特許発明1の繊維化パラミロンの製造に使用し得る装置として、原材料液を被衝突体に衝突させる装置であるスギノマシン社製のスターバーストが挙げられており、一方、異議2甲1発明も「スターバスト」と同様の装置である「スターバストミニ」で処理されたものであるから、本件特許発明1の繊維化パラミロンと異議2甲1発明のパラミロン処理物とは同一のものである。

(イ)異議2甲1発明のパラミロン処理物はクモの巣状の構造を形成したものであり、また申立人2による特許異議申立書の第23頁に示したクモの巣状の構造を形成しているパラミロン処理物の電子顕微鏡写真には、パラミロン処理物が複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態であって、繊維状物が分岐した構造を有しているといえるから、本件特許発明1と異議2甲1発明とは同一である。

(ウ)異議2甲2及び異議2甲3に記載されているように、分散・乳化・粉砕・表面改質・劈開・繊維化に用いられる湿式微粒化装置「スターバースト」や「スターバーストミニ」は繊維化のための装置として周知であったから、異議2甲1発明において、パラミロンの水への分散性を向上させることを目的として、適宜条件等を最適化して繊維化処理を行い、その結果、相違点に係る構成の「繊維化パラミロン」とすること当業者が容易になし得たと述べている。

上記(ア)について、処理装置が同一のものであっても、その使用条件の設定や使用方法の変更によって得られる処理物の構造及び特性等が異なることは技術常識であり、しかも、上記エ(イ)で述べたとおり、異議2甲1発明における湿式微粒化装置「スターバーストミニ」は、種々の処理に用い得るものであって、繊維化の処理にのみ用いるものでもない。そうすると、本件特許明細書に、異議2甲1発明における処理装置が例示されているからといって、本件特許発明1の繊維化パラミロンと異議2甲1発明のパラミロン処理物とが同一のものとする根拠にはならない。

上記(イ)について、異議2甲1発明における「クモの巣状の構造」は、パラミロン粒子の表面の糖鎖の一部が変化して形成されたものである(上記(ア-3))。そして、パラミロン処理物を構成するパラミロン粒子は、上記(ア-3)に、「1パス?20パスのいずれにおいても、パラミロン粒子の径が、未処理のパラミロン粒子よりも細粒化しているものは観察されず、パラミロン粒子の微細化は起こらなかった」と記載されているとおり、未処理のパラミロン顆粒と同等の形状であるから、上記「クモの巣状の構造」は、パラミロン顆粒と同等の粒子の表面上の構造に過ぎないものである。一方、本件特許発明1は、パラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で顆粒全体が繊維化された繊維化パラミロンであると認められるから、異議2甲1発明と構造及び特性において大きく異なるものである。
なお、申立人2による特許異議申立書の第23頁に示したクモの巣状の構造を形成しているパラミロン処理物の電子顕微鏡写真については、当該電子顕微鏡写真が、具体的にどのような条件で製造されたパラミロン処理物のどのような部分を撮影したものであるのか示されておらず、異議2甲1に記載された実験例1を実際に追試して得られたパラミロン処理物を示すものであるのか否かさえも不明であるから、当該電子顕微鏡写真で示されたものが、異議2甲1発明を追試したものであるとは認められず、また撮影部が不明であるため、当該電子顕微鏡写真で示されたものを、異議2甲1発明であるとして、本件特許発明と比較することはできない。

上記(ウ)について、上記エ(イ)で述べたとおり、湿式微粒化装置「スターバースト」や「スターバーストミニ」が繊維化処理にも用い得る装置として知られているとしても、当該装置は種々の処理に用い得るものであって、繊維化処理に主として用いる装置でもないから、パラミロン粒子で構成される異議2甲1発明において、当該装置が可能な処理の中から特に繊維化を選択して、パラミロン顆粒を繊維化しようとする動機付けを見出すことはできないし、異議2甲2及び異議2甲3をみても、パラミロンの水への分散性を向上させることを目的として適宜条件等を最適化して繊維化処理を行うという根拠も存在しない。

(4)小括
上記申立理由2及び申立理由3によっても本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立人2による申立理由4(実施可能要件)
(1)申立理由4の具体的内容
申立人2は、特許異議申立書において、以下のア及びイの理由から、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の本件特許発明1ないし8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、よって同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであると述べている。

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「石臼式摩砕機」で本件特許発明の繊維化パラミロンを製造したことしか記載されておらず、一方解繊方法により、処理物の微視的構造が異なることは周知の事項であって、石臼式摩砕機以外で解繊処理を施す場合にも本件特許発明1の繊維化パラミロンが得られることを合理的に推測することはできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

イ 異議2甲1発明が、本件特許発明と同一の装置で製造しているにも関わらず、本件特許発明と異なるのであれば、如何なる態様によって本件特許発明が得られるのかを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2)当審の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記第4の(2)(ア-4)及び(ア-5)のとおり、本件特許発明の繊維化パラミロンは、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒をせん断力による解繊処理によって繊維化して得られることの説明とともに、石臼式摩砕機、スギノマシン社製の「スターバースト」、ビーズミルなどをせん断力による解繊処理の装置として使用できることが記載されている。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記第4の(2)上記(ア-6)及び(ア-7)のとおり、本件特許発明の繊維化パラミロンが、ユーグレナ属微細藻類によって産生されたパラミロン顆粒に対して、石臼式摩砕機を用いて、せん断力による湿式解繊処理により繊維化することで得られたこと(実施例1?4)、及びビーズミルを用いて、せん断力による解繊処理により繊維化することで得られたこと(実施例5)が具体的に記載され、得られた繊維化パラミロンが実際に水への分散性が良好であったことも記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明で特定される、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された繊維化パラミロンを、当業者が製造できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

申立人2が主張する上記(1)ア及びイについて、当審の判断は以下のとおりである。
ア 上記(1)アについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上述のとおり、せん断力による解繊処理の装置として、石臼式摩砕機、スギノマシン社製の「スターバースト」、ビーズミルなどが使用できることが記載され、実施例では、石臼式摩砕機だけでなく、ビーズミルを用いたせん断力による解繊処理によっても、本件特許発明の繊維化パラミロンを製造できたことが記載されている。そして、所望の構造及び特性を有する物を得るために、製造装置の使用条件を適宜調整することは当業者が通常行う操作に過ぎず、せん断力による解繊処理によって植物材料を繊維化することも本願出願時において広く行われていることに鑑みれば、当業者であれば石臼式摩砕機以外の処理装置であっても本件特許発明の繊維化パラミロンを製造できるといえる。

イ 上記(1)イについて、上記2(3)オで述べたとおり、処理装置が同一のものであっても、その使用条件の設定や使用方法の変更によって得られる物の構造及び特性等が異なることは技術常識であるところ、処理によって得ようとする物が異なれば、同一の処理装置を用いても使用条件等は変更されるから、その場合、同一の物は得られない。
本件特許発明は、せん断力による解繊処理によって植物材料を繊維化した物であるが、当業者は、処理装置を通常の繊維化に適した条件で用いるものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件特許発明が得られることを理解できるといえる。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(3)小括
上記申立理由4によっても本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立人2による申立理由5(サポート要件)
(1)申立理由5の具体的内容
申立人2は、特許異議申立書において、以下のア、イの理由から、本件特許発明に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、よって同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであると述べている。

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「石臼式摩砕機」で本件特許発明の繊維化パラミロンを製造したことしか記載されておらず、一方解繊方法により、処理物の微視的構造が異なることは周知の事項であって、石臼式摩砕機以外で解繊処理を施す場合にも本件特許発明1の繊維化パラミロンが得られることを合理的に推測することはできないから、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものである。

イ 本件特許発明が解決しようとする課題は「水への分散性が良好な繊維化パラミロンの提供」であるが、本件特許発明の発明特定事項である「複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、前記繊維状物が分岐した構造を有」することと「水への分散性」との因果関係については本件特許明細書の発明の詳細な説明において証明も説明もされていないから、上記発明特定事項を有していれば上記課題を解決できると当業者が認識できる程度に記載されておらず、よって本件特許発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない。

(2)当審の判断
ア 上記(1)アについて、上記3(2)で述べたとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、石臼式摩砕機以外の種々の装置によるせん断力による解繊処理によっても本件特許発明を当業者が製造できるように記載されているといえる。実際、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例には、石臼式摩砕機だけでなく、ビーズミルを用いて得られた繊維化パラミロンも水への分散性に優れ、上記課題を解決できたことが具体的に示されている(実施例5)。
そうすると、ユーグレナ由来のパラミロン顆粒をせん断力による解繊処理によって繊維化することで得られた本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において裏付けられた範囲内のものといえる。

イ 上記(1)イについて、本件特許発明1は、本件訂正により、繊維化パラミロンについて、「ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された」という特定事項が追加された。そして、上記第4の2(2)アで述べたとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、パラミロン顆粒に対して、石臼式摩砕機を用いたせん断工程における湿式解繊処理により繊維化した繊維化パラミロン(実施例1?4)及びビーズミルを用いたせん断力による解繊処理により繊維化した繊維化パラミロン(実施例5)は、繊維化されていないパラミロン顆粒(比較例1)やパラミロン顆粒を化学的に処理した化学処理パラミロン(比較例2)と比較して、水への分散性が良好であったことが具体例として記載されている(上記第4の2(2)ア(ア-6)?(ア-7))。このような記載に鑑みれば、本件特許発明1の発明特定事項を有する繊維化パラミロンは、水への分散性が向上し、発明の課題を解決できることを当業者は十分に把握できるといえる。

よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものである。

(3)小括
上記申立理由5によっても本件特許発明に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3は本件訂正により削除され、それに対して申立人1及び2がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しないこととなったため、却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ由来の繊維化パラミロンであって、
複数の繊維状物が互いに絡み合うことによって寄り集まった状態となっており、
前記繊維状物が分岐した構造を有し、
前記ユーグレナ由来のパラミロン顆粒がせん断力による解繊処理で繊維化された、繊維化パラミロン。
【請求項2】
水を含む液体に分散する性能を有する、請求項1に記載の繊維化パラミロン。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1又は2に記載の繊維化パラミロンを含む、添加剤。
【請求項5】
固形物の状態である、請求項4に記載の添加剤。
【請求項6】
水溶性高分子化合物をさらに含む、請求項5に記載の添加剤。
【請求項7】
水を含む溶媒に分散させるための、請求項4?6のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項8】
請求項4?7のいずれか1項に記載の添加剤の製造方法であって、
パラミロン顆粒をせん断力によって解繊して繊維化することによりパラミロン顆粒を繊維状に形成するせん断工程を備える、添加剤の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-30 
出願番号 特願2017-566155(P2017-566155)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C12P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平林 由利子  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 常見 優
長井 啓子
登録日 2019-01-25 
登録番号 特許第6469262号(P6469262)
権利者 株式会社神鋼環境ソリューション
発明の名称 繊維化パラミロン、添加剤、及び、該添加剤の製造方法  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 藤本 昇  
代理人 三条 英章  
代理人 三条 英章  
代理人 藤本 昇  
代理人 木森 有平  
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