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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特174条1項  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1363142
異議申立番号 異議2019-700724  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-12 
確定日 2020-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6481058号発明「難燃性ウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6481058号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6481058号の請求項3に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6481058号の請求項1,2及び4?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6481058号(請求項の数6。以下,「本件特許」という。)は,平成26年1月20日(優先権主張:平成25年1月20日,同年9月27日)を国際出願日とする特許出願(特願2014-557418号)の一部を,平成28年11月24日に新たな出願とした特許出願(特願2016-228416号)の一部を,さらに平成30年2月9日に新たな出願とした特許出願(特願2018-21501号)に係るものであって,平成31年2月15日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成31年3月13日である。)。
その後,令和1年9月12日に,本件特許の請求項1?6に係る特許に対して,特許異議申立人である本間賢一(以下,「申立人A」という。)により,特許異議の申立て(以下,「申立てA」という。)がされた。
また,令和1年9月13日に,本件特許の請求項1?6に係る特許に対して,特許異議申立人である御園貴美代(以下,「申立人B」という。)により,特許異議の申立て(以下,「申立てB」という。)がされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

令和1年 9月12日 特許異議申立書(申立てA)
9月13日 特許異議申立書(申立てB)
11月21日付け 取消理由通知書
令和2年 1月20日 意見書,訂正請求書
1月29日付け 通知書(申立人Aに対し)
通知書(申立人Bに対し)
3月 4日 意見書(申立人A)
意見書(申立人B)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和2年1月20日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「前記難燃剤が,赤リンを必須成分とし,」とあるのを,「前記難燃剤が,赤リンを必須成分とし,前記赤リン以外にリン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し,」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1?3のいずれかに」とあるのを,「請求項1又は2のいずれかに」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に,「請求項1?4のいずれかに」とあるのを,「請求項1,2,4のいずれかに」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項1?5のいずれかに」とあるのを,「請求項1,2,4,5のいずれかに」に訂正する。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6について,請求項2?6は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「前記赤リン以外にリン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し,」との記載を追加するものである。
この訂正は,訂正前の請求項1における「難燃剤」について,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有」するものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下,「本件明細書等」という。)には,「前記難燃剤が,前記赤リン以外にリン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。」(【請求項3】)との記載があるから,この訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?5について
訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項4における引用請求項について,「請求項1?3のいずれか」を「請求項1又は2のいずれか」に訂正するものである。
訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項5における引用請求項について,「請求項1?4のいずれか」を「請求項1,2,4のいずれか」に訂正するものである。
訂正事項5に係る訂正は,訂正前の請求項6における引用請求項について,「請求項1?5のいずれか」を「請求項1,2,4,5のいずれか」に訂正するものである。
これらの訂正は,いずれも,上記の訂正事項2による請求項の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?6に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
難燃性ウレタン樹脂組成物であって,ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤を含み,
前記難燃剤が,赤リンを必須成分とし,前記赤リン以外にリン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し,
前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする,難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり,20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下である,ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記難燃剤が,前記ポリイソシアネート化合物および前記ポリオール化合物からなるウレタン樹脂100重量部を基準として4.5?70重量部の範囲であり,
前記赤リンが,前記ウレタン樹脂100重量部を基準として3?18重量部の範囲であり,
前記赤リンを除く難燃剤が,前記ウレタン樹脂100重量部を基準として1.5?52重量部の範囲である,請求項1又は2のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂のイソシアネートインデックスが120?1000の範囲である,請求項1,2,4のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1,2,4,5のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物から形成されてなることを特徴とする発泡体。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
(1)申立てAについて
本件特許の請求項1?6に係る特許は,下記ア?キのとおり,特許法113条1号,2号及び4号に該当する。証拠方法として,下記クの甲第1号証?甲第6号証(以下,申立ての記号を付して「甲第1号証」等を「甲1A」等という。)を提出する。
ア 申立理由1A(新規性)
本件訂正前の請求項1?3,5及び6に係る発明は,甲1Aに記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?3,5及び6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
イ 申立理由2A(進歩性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,甲1Aに記載された発明及び甲2A?5Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
ウ 申立理由3A(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
エ 申立理由4A(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
オ 申立理由5A(新規事項の追加)
平成30年2月14日提出の手続補正書でした補正は,本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条1号に該当する。
カ 申立理由6A(新規性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,甲6Aに記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
キ 申立理由7A(進歩性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,甲6Aに記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
ク 証拠方法
・甲1A 特公昭41-13154号公報
・甲2A 特開2011-190438号公報
・甲3A 特開昭57-36114号公報
・甲4A 特開2010-53267号公報
・甲5A 特開2006-321882号公報
・甲6A 国際公開第2014/112394号

(2)申立てBについて
本件特許の請求項1?6に係る特許は,下記ア?ケのとおり,特許法113条1号,2号及び4号に該当する。証拠方法として,下記コの甲第1号証?甲第22号証(以下,申立ての記号を付して「甲第1号証」等を「甲1B」等という。)を提出する。
ア 申立理由1B(新規性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,甲1Bに記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
イ 申立理由2B(新規性)
本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は,甲2Bに記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,同法113条2号に該当する。
ウ 申立理由3B(進歩性)
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は,甲1Bに記載された発明並びに甲4B,7B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?5に係る特許は,同法113条2号に該当する。
本件訂正前の請求項6に係る発明は,甲1Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
エ 申立理由4B(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は,甲2Bに記載された発明並びに甲4B,7B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
本件訂正前の請求項6に係る発明は,甲2Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
オ 申立理由5B(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は,甲3Bに記載された発明並びに甲4B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は,甲3Bに記載された発明並びに甲1B,4B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4及び5に係る特許は,同法113条2号に該当する。
本件訂正前の請求項6に係る発明は,甲3Bに記載された発明並びに甲1B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
カ 申立理由6B(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
キ 申立理由7B(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
ク 申立理由8B(明確性要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
ケ 申立理由9B(新規事項の追加)
平成30年2月14日提出の手続補正書でした補正は,本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,同法113条1号に該当する。
コ 証拠方法
・甲1B 中国特許第102585148号明細書
・甲2B 特開昭57-36114号公報
・甲3B 特開2008-88356号公報
・甲4B 特開昭47-8544号公報
・甲5B 米国特許第3330783号明細書
・甲6B "Preparation and Characterization of excellent flame retarded rigid polyurethane foams", Advanced Materials Research, 2012,Vol.374-377, p.1563-1566
・甲7B 特開2004-123972号公報
・甲8B 特許第3950980号公報
・甲9B 特開2003-64209号公報
・甲10B 特開平10-168150号公報
・甲11B 特願2016-228416号において平成28年11月24日に提出された手続補正書の写し
・甲12B 特願2016-228416号における平成29年6月26日付けの拒絶理由通知書の写し
・甲13B 特願2016-228416号において平成29年10月26日に提出された手続補正書の写し
・甲14B 特願2016-228416号において平成29年10月26日に提出された意見書の写し
・甲15B 特願2016-228416号における平成30年3月29日付けの特許メモの写し
・甲16B 「硬質ポリウレタンフォームの火災及び防災に関するQ&A集 第2版」,日本ウレタン工業協会火災問題対策委員会,2011年5月,1頁,28頁
・甲17B 「難燃性高分子材料の高性能化技術」,株式会社シーエムシー出版,2002年6月20日,172-177頁
・甲18B 「【新しい】難燃剤・難燃化技術 -講演データ資料集&最新特許情報-」,株式会社技術情報協会,2008年7月31日,52-53頁,94-95頁
・甲19B 「硬質ウレタン発泡体の難燃性」,工業化学雑誌,1967年,70巻,9号,1592-1598頁
・甲20B 異議2018-700937における平成31年2月21日付けの取消理由通知書の写し
・甲21B 異議2018-700937において平成31年4月24日に提出された意見書の写し
・甲22B 特願2018-21501号において平成30年2月14日に提出された上申書の写し

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(実施可能要件)
上記1(1)の申立理由3A(実施可能要件)の一部及び上記1(2)の申立理由6B(実施可能要件)の一部(ただし,いずれも,本件訂正前の請求項1,2,5及び6に係る発明に対するもの。)と同旨
(2)取消理由2(サポート要件)
上記1(1)の申立理由4A(サポート要件)の一部及び上記1(2)の申立理由7B(サポート要件)の一部と同旨

第5 当審の判断
本件特許の請求項3が本件訂正により削除された結果,同請求項3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由1(実施可能要件)
(1)令和1年11月21日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1,2,5及び6に係る発明は,「前記難燃剤が,赤リンを必須成分」とするものであるから,難燃剤として,赤リンと赤リン以外の難燃剤を含む場合のほか,赤リンのみを含む場合を包含するものと解されるところ,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件訂正前の請求項1,2,5及び6に係る発明のうち,難燃剤として赤リンのみを含む場合について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない旨,指摘した。以下,検討する。

(2)ア 物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから,物の発明について,発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには,発明の詳細な説明には,当業者がその物を製造することができ,かつ,その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。
イ 前記第2のとおり,本件訂正前の請求項1における「難燃剤」は,本件訂正により,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有」するものに限定されたから,本件訂正後の本件発明1,2,5及び6は,難燃剤として赤リンのみを含む場合を包含するものではない。
ウ 本件明細書には,ポリイソシアネート化合物の種類(【0033】?【0035】),ポリオール化合物の種類(【0036】?【0044】),三量化触媒の種類と添加量(【0049】?【0051】),発泡剤の種類と添加量(【0052】,【0053】),整泡剤の種類と添加量(【0054】),難燃剤の種類と添加量(【0056】?【0086】),難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときの,所定時間経過時の総発熱量の測定(【0100】,【0107】),イソシアネートインデックス(【0045】)の各事項について,具体的な説明がなされている。
また,本件明細書には,難燃性ウレタン樹脂組成物の製造方法(【0031】,【0094】?【0096】,【0102】,【0106】),難燃性ウレタン樹脂組成物から形成される発泡体の製造方法(【0098】,【0106】),難燃性ウレタン樹脂組成物の応用例(【0099】)について,具体的な説明がなされている。
そして,本件明細書には,実施例1?76(表1?8)として,「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤」を含み,難燃剤として,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに」,「10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」,「20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物を製造し,さらに,当該難燃性ウレタン樹脂組成物から発泡体を製造したことが記載されている。
なお,上記の実施例1?76に係る難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体は,いずれも,赤リン,赤リン以外の難燃剤及び難燃剤全体の各添加量が,ポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物からなるウレタン樹脂100重量部を基準として,それぞれ,「3?18重量部の範囲」(実施例25を除く。),「1.5?52重量部の範囲」,「4.5?70重量部の範囲」を満たすとともに,「前記ウレタン樹脂のイソシアネートインデックスが120?1000の範囲」を満たすものである。
また,実施例以外の難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体についても,当業者であれば,各種の原料を入手し,上記の製造方法により製造することができ,得られた難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体を上記の応用例に使用することができる。
以上によれば,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件発明1,2,5及び6に係る難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体を製造し,使用することができるといえる。
エ 以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明1,2,5及び6について,実施可能要件を満たすものである。

(3)したがって,取消理由1(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1,2,5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3A(実施可能要件),申立理由6B(実施可能要件)
本件発明1,2,5及び6のほか,本件発明4についても,上記1で述べたのと同様の理由により,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たすものである。

(1)申立人Aは,難燃剤として,赤リンと他の難燃剤の組み合わせを合計4.5重量部未満で使用する場合については,本件発明の課題が解決できるとはいえないとして,実施可能要件を満たさないと主張する。
また,申立人Aは,いかなる種類の三量化触媒を用いても,本件発明の課題が解決できるとはいえないとして,実施可能要件を満たさないと主張する。
しかしながら,そもそも,実施可能要件で問題とされるのは,本件発明の課題が解決できるかどうかではなく,上記1(2)で述べたとおり,発明の詳細な説明に,当業者がその物を製造することができ,かつ,その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかであるから,申立人Aの主張は,その前提において失当である。
そして,上記1(2)で述べたとおり,本件明細書には,難燃剤の種類と添加量,三量化触媒の種類と添加量について,具体的な説明がなされており,また,実施例1?76として,所定の難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体を製造したことが記載されているから,実施例以外の難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体についても,当業者であれば,各種の原料を入手し,上記の製造方法により製造することができる。
よって,申立人Aの主張は,採用することができない。

(2)申立人Aは,ウレタン樹脂組成物の流動性に関し,取り扱いやすくするための具体的手段が不明であるとして,実施可能要件を満たさないと主張する。
しかしながら,本件明細書の記載(【0003】)によれば,アルミノケイ酸塩類を多量に使用しなければ,流動性が確保できるため,取り扱いやすくなると解されるところ,本件発明1,2及び4?6は,アルミノケイ酸塩類を含むものではないから,取り扱いやすいものであることは,明らかである。
よって,申立人Aの主張は,採用することができない。

(3)申立人Aは,比較例3?6及び12?21は,難燃性ウレタン樹脂組成物に含まれる各成分に関する組成要件(請求項1,4)を満たすのに,難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときの,所定時間経過時の総発熱量(以下,単に「総発熱量」という。)に関する物性要件(請求項1,2)を満たさないものであるから,各成分のより具体的な種類及び/又は配合割合等が特定されていない本件発明に係る難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体を製造するには,過度の試行錯誤が必要であると主張する。
また,申立人Bは,総発熱量に関する構成(効果)を奏するためには,適切な原料及び配合量の選択等の無数の考慮すべき事項があるが,本件明細書には,総発熱量に関する構成(効果)を奏するために必要な記載がなく,総発熱量に関する構成(効果)を奏する具体的な手段として開示されているのは,実施例のみであり,このような開示だけでは,どのように実施するかを発見するために,過度の試行錯誤が必要であると主張する。
しかしながら,上記1(2)で述べたとおり,本件明細書には,難燃性ウレタン樹脂組成物に含まれる各成分等のほか,難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体の製造方法について,具体的な説明がなされており,また,実施例1?76として,所定の難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体を製造したことが記載されているから,実施例以外の難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体についても,当業者であれば,過度の試行錯誤を要することなく,各種の原料を入手し,上記の製造方法により製造することができる。そして,このことは,申立人Aが指摘するような比較例が存在するとしても,変わるものではない。
よって,申立人らの主張は,採用することができない。

(4)したがって,申立理由3A(実施可能要件),申立理由6B(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由2(サポート要件)
(1)令和1年11月21日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,「前記難燃剤が,赤リンを必須成分」とするものであるから,難燃剤として,赤リンと赤リン以外の難燃剤を含む場合のほか,赤リンのみを含む場合を包含するものであり,さらに,前者の場合において,赤リン,赤リン以外の難燃剤及び難燃剤全体の各添加量を特定しないものと解されるところ,このような本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件訂正前の請求項1?6に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるから,本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない旨,指摘した。以下,検討する。

(2)ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知的財産高等裁判所,平成17年(行ケ)第10042号,同年11月11日特別部判決)。
イ 前記第2のとおり,本件訂正前の請求項1における「難燃剤」は,本件訂正により,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有」するものに限定されたから,本件訂正後の本件発明1,2及び4?6は,難燃剤として赤リンのみを含む場合を包含するものではない。
ウ 本件明細書の記載(【0003】?【0021】)によれば,本件発明1,2及び4?6の課題は,取り扱いが容易であり,難燃性に優れ,加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成することのできる難燃性ウレタン樹脂組成物を提供することであると認められる。
本件明細書の記載(【0022】)によれば,本件発明1,2及び4?6の課題は,一応,「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤」を含み,「前記難燃剤が,赤リンを必須成分」とする,難燃性ウレタン樹脂組成物によって解決できるとされている。
そして,本件明細書には,実施例1?76(表1?8)及び比較例1?21(表9,10)が記載されているところ,実施例1?76は,「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤」を含み,難燃剤として,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物に関するものである。
このうち,実施例25は,赤リンの添加量が「20.0」重量部であり(表3),好ましい範囲とされる「3.0重量部?18重量部」(【0058】)から外れるものである。
これらの実施例及び比較例においては,総発熱量,膨張,変形(ヒビ割れ)及び収縮が測定され,表1?10には,その結果が示されているが,その結果によれば,実施例1?76において,難燃性に優れ,加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成できることが示されているといえる。
また,本件明細書の記載(【0003】)によれば,アルミノケイ酸塩類を多量に使用しなければ,流動性が確保できるため,取り扱いやすくなると解されるところ,実施例1?76は,アルミノケイ酸塩類を含むものではないから,取り扱いやすいものであることは,明らかといえる。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤」を含み,難燃剤として,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物であれば,上記実施例と同様に,取り扱いが容易であり,難燃性に優れ,加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成できることが理解できるといえる。
エ 以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤」を含み,難燃剤として,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」ことを特定する,本件発明1,2及び4?6は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1,2及び4?6の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
オ 以上のとおりであるから,本件発明1,2及び4?6については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)したがって,取消理由2(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4A(サポート要件),申立理由7B(サポート要件)
(1)申立人Aは,難燃剤として,赤リンと他の難燃剤の組み合わせを合計4.5重量部未満で使用する場合については,本件発明の課題が解決できるとはいえないと主張する。
また,申立人Aは,いかなる種類の三量化触媒を用いても,本件発明の課題が解決できるとはいえないと主張する。
さらに,申立人Bは,本件明細書には,所定の成分によって総発熱量に関する構成(効果)が得られることが記載されておらず,その裏付けがないと主張する。
しかしながら,上記3(2)で述べたとおり,本件明細書の記載を総合すれば,所定の各成分を含み,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物であれば,本件発明1,2及び4?6の課題を解決できる(取り扱いが容易であり,難燃性に優れ,加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成できる)ことが理解できるといえる。
よって,申立人らの主張は,採用することができない。

(2)申立人Aは,ウレタン樹脂組成物の流動性に関し,取り扱いやすくするための具体的手段が不明であると主張する。
しかしながら,本件明細書の記載(【0003】)によれば,アルミノケイ酸塩類を多量に使用しなければ,流動性が確保できるため,取り扱いやすくなると解されるところ,本件発明1,2及び4?6は,アルミノケイ酸塩類を含むものではないから,取り扱いやすいものであることは,明らかである。
よって,申立人Aの主張は,採用することができない。

(3)したがって,申立理由4A(サポート要件),申立理由7B(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由8B(明確性要件)
申立人Bは,所定の成分により,なにゆえ総発熱量に関する構成(効果)を奏したのかという構成が記載されていないから,本件発明1,2及び4?6は明確でないと主張する。
また,申立人Bは,総発熱量に関する構成(効果)を発現するための構成が記載されていないから,本件発明1,2及び4?6は明確でないと主張する。
さらに,申立人Bは,比較例7と実施例34との比較からは,所定の成分のどのような作用機序により総発熱量に関する構成(効果)を奏するのか理解できず,また,同比較から,総発熱量に関する構成(効果)を奏するためには,「水」を発明特定事項として特定する必要があるが,請求項1にはそれが不足しているから,本件発明1,2及び4?6は明確でないと主張する。
しかしながら,申立人Bが指摘する構成が記載されているか否かにかかわらず,請求項1,2及び4?6には,難燃性ウレタン樹脂組成物が,所定の各成分を含むこと,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」ことが明確に特定されており,本件発明1,2及び4?6は明確である。
よって,申立人Bの主張は,採用することができない。
したがって,申立理由8B(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由5A(新規事項の追加),申立理由9B(新規事項の追加)
申立人Aは,本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下,「当初明細書等」という。)には,難燃剤として「赤リン」のみを添加した組成物が,本件発明の課題を解決することや,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たすことは記載されておらず,また,当初明細書等には,いかなる種類の「三量化触媒」を用いても,本件発明の課題が解決できることは記載されていないとして,本件発明1,2及び4?6は,新規事項を含むものであり,平成30年2月14日提出の手続補正書でした補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないと主張する。
また,申立人Bは,当初明細書等には,所定の成分によって総発熱量に関する構成(効果)が得られることが記載されておらず,また,難燃剤として赤リン単独で用いる実施形態については,記載されていないと主張する。
しかしながら,前記第2のとおり,本件訂正前の請求項1における「難燃剤」は,本件訂正により,必須成分である「赤リン」以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有」するものに限定されたから,本件訂正後の本件発明1,2及び4?6は,難燃剤として赤リンのみを含む場合を包含するものではない。
そして,当初明細書等には,「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および添加剤を含み,前記添加剤が赤リンを必須成分とする難燃性ウレタン樹脂組成物」(【0022】),「前記添加剤は,赤リンを必須成分とし,赤リン以外に,リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを組み合わせてなる。」(【0056】),「硬化物から10cm×10cm×5cmになるようにコーンカロリーメーター試験用サンプルを切り出し,ISO-5660に準拠し,放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの最大発熱速度,総発熱量を測定した。」(【0107】)との記載があり,また,表2には,実施例15として,「総発熱量(MJ/m^(2)):10分経過時」が,「7.8」であるものが記載され,その他の実施例においても,「総発熱量(MJ/m^(2)):10分経過時」が,いずれも,7.8以下を満たすものであることが記載されている。
以上によれば,本件訂正後の本件発明1,2及び4?6は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであり,新規事項を含むものとはいえない。そして,このことは,当初明細書等に,いかなる種類の「三量化触媒」を用いても,本件発明の課題が解決できることが記載されているか否かにより,変わるものではなく,また,同様に,当初明細書等に,所定の成分によって総発熱量に関する構成(効果)が得られることが記載されているか否かにより,変わるものではない。
よって,申立人らの主張は,採用することができない。
したがって,申立理由5A(新規事項の追加),申立理由9B(新規事項の追加)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

7 申立理由6A(新規性),申立理由7A(進歩性)
申立人Aは,本件特許に係る出願の原出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下,「原出願当初明細書等」という。)には,難燃剤として「赤リン」のみを添加した組成物が,本件発明の課題を解決することや,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たすことは記載されておらず,また,原出願当初明細書等には,いかなる種類の「三量化触媒」を用いても,本件発明の課題が解決できることは記載されていないとして,本件特許に係る出願は,分割の実体的要件を満たしていないから,本件特許に係る出願の出願日は,平成30年2月9日であるところ,本件発明1,2及び4?6は,平成30年2月9日よりも前である平成26年7月24日に国際公開がされた甲6A(本件特許に係る出願の原出願のさらに原出願の国際公開である。)に記載された発明であるか,甲6Aに記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら,原出願当初明細書等と,本件特許に係る出願の原出願のさらに原出願の国際出願日における明細書又は請求の範囲(以下,「原々出願当初明細書等」という。)のいずれにも,上記6で指摘した記載と同じ記載があるから,本件特許に係る出願は,分割の実体的要件を満たしているといえる。
そうすると,本件特許に係る出願の出願日は,本件特許に係る出願の原出願のさらに原出願の国際出願日である平成26年1月20日であると認められるから,平成26年7月24日に国際公開がされた甲6Aに記載された発明が,特許法29条1項3号に掲げる発明に該当しないことは,明らかである。
よって,本件発明1,2及び4?6について,甲6Aに基づく新規性及び進歩性の欠如をいう申立理由6A(新規性),申立理由7A(進歩性)は,いずれも理由がなく,申立人Aの主張は,採用することができない。
したがって,申立理由6A(新規性),申立理由7A(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

8 申立理由1A(新規性),申立理由2A(進歩性)
(1)甲1Aに記載された発明
甲1Aの記載(特許請求の範囲,1頁右欄下から4行?2頁左欄19行,3頁右欄下から8?1行,例7(4頁の表),5頁左欄1行?右欄3行)によれば,特に例7(4頁の表)に着目すると,甲1Aには,以下の発明が記載されていると認められる。

「アジピン酸1モル,フタル酸2.6モル,油酸1.3モル,トリメチロールプロパン6.9モルよりなるポリエステル(OH-価370;酸価1) 98重量部,
スルホン化ヒマシ油(Na-塩;水分含量50%) 6重量部,
臭化アンモニウム 3重量部,
N-メチル-N’-(N-ジメチルアミノ-エチル)-ピペラジン 2重量部,
ジブチル-錫-ジラウラート 0.1重量部,
ポリシロキサンポリアルキレン-グリコールエステル 2重量部,
粗ジフエニルメタン-4,4’-ジイソシアナート 139重量部,
赤燐と,トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとの附加生成物(OH-価380)とよりのペースト(燐含量50%) 7重量部,
を含む,泡化物質を製造するための出発原料。」(以下,「甲1A発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1A発明とを対比する。
甲1A発明における「粗ジフエニルメタン-4,4’-ジイソシアナート」は,本件発明1における「ポリイソシアネート化合物」に相当する。
甲1A発明における「アジピン酸1モル,フタル酸2.6モル,油酸1.3モル,トリメチロールプロパン6.9モルよりなるポリエステル(OH-価370;酸価1)」,「赤燐と,トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとの附加生成物(OH-価380)とよりのペースト(燐含量50%)」に含まれる「トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとの附加生成物(OH-価380)」は,いずれも,本件発明1における「ポリオール化合物」に相当する。
甲1A発明における「スルホン化ヒマシ油(Na-塩;水分含量50%)」に含まれる「水分」は,甲1Aの記載(特許請求の範囲)及び本件明細書の記載(【0052】)からみて,本件発明1における「発泡剤」に相当する。
甲1A発明における「ポリシロキサンポリアルキレン-グリコールエステル」は,本件明細書の記載(【0054】)及び技術常識からみて,本件発明1における「整泡剤」に相当する。
甲1A発明における「赤燐と,トリメチロールプロパンとプロピレンオキシドとの附加生成物(OH-価380)とよりのペースト(燐含量50%)」に含まれる「赤燐」は,甲1Aの記載(5頁左欄1?6行)からみて,本件発明1における「赤リン」である「難燃剤」に相当する。
甲1A発明における「臭化アンモニウム」は,難燃剤であることが当業者にとって明らかである(例えば,当審における職権調査により発見した,特開平10-218956号公報の請求項1,【0021】等を参照。)から,本件発明1における「赤リン以外」の「難燃剤」である「臭素含有難燃剤」に相当する。
以上の対比を踏まえると,甲1A発明における「泡化物質を製造するための出発原料」は,本件発明1における「難燃性ウレタン樹脂組成物」に相当するといえる。
以上によれば,本件発明1と甲1A発明とは,
「難燃性ウレタン樹脂組成物であって,ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,発泡剤,整泡剤および難燃剤を含み,
前記難燃剤が,赤リンを必須成分とし,前記赤リン以外にリン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する,
難燃性ウレタン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」のに対して,甲1A発明では,出発原料を用いて製造した泡化物質を,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうか不明である点。
・相違点2
本件発明1では,「三量化触媒」を含むのに対して,甲1A発明では,ウレタン化触媒と解される「N-メチル-N’-(N-ジメチルアミノ-エチル)-ピペラジン」,「ジブチル-錫-ジラウラート」を含むものの,「三量化触媒」を含むものではない点。

イ 相違点1の検討
(ア)まず,相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1A発明は,難燃剤である赤燐及び臭化アンモニウムを含むものであるから,一定程度は難燃性に優れていると解されるものの,甲1A発明に係る出発原料を用いて製造した泡化物質を,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうかは,不明というほかなく,また,そのように認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1Aに記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点1の容易想到性について検討する。
甲2A及び3Aには,ポリウレタンフォームを製造する際に,ウレタン化触媒と三量化触媒を併用することについて記載され,また,甲4A及び5Aには,難燃性ウレタン樹脂組成物の難燃性の評価基準として,ISO-5660の試験方法を用いることについて記載されている。
しかしながら,上記(ア)で述べたとおり,甲1A発明に係る出発原料を用いて製造した泡化物質を,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうかは,不明であり,また,そもそも,そのような総発熱量が達成できるかどうかも不明である(この点,甲1A発明において,さらに「三量化触媒」を含有させた場合についても,同様である。)。
そうすると,甲1A発明において,出発原料を用いて製造した泡化物質を,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」と特定することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1Aに記載された発明及び甲2A?5Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1Aに記載された発明であるとはいえず,また,甲1Aに記載された発明及び甲2A?5Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び4?6について
本件発明2及び4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が甲1Aに記載された発明であるとはいえず,また,甲1Aに記載された発明及び甲2A?5Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び4?6についても同様に,甲1Aに記載された発明であるとはいえず,また,甲1Aに記載された発明及び甲2A?5Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1,2,5及び6は,いずれも,甲1Aに記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1,2及び4?6は,いずれも,甲1Aに記載された発明及び甲2A?5Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1A(新規性),申立理由2A(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

9 申立理由1B(新規性),申立理由3B(進歩性)
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bの訳文として,申立人Bが提出した抄訳を用いる。以下,記載箇所の特定は,訳文に基づいて行う。
甲1Bの記載(請求の範囲,[0008],[0046],[0053]?[0077],実施例1?7)によれば,特に実施例1,4,6([0046],[0053]?[0075])に着目すると,甲1Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリオール3(無水フタル酸,テレフタル酸とDEGの重縮合で得られる,水酸基価が260mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)5重量%,
ポリオール5(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート,テレフタル酸とDEGの重縮合で得られる,水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)15重量%,
ポリオール6(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを開始剤として,エピクロロヒドリンと開環重合させて得られる,水酸基価が286mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)10重量%,
ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合させて得られる,重量平均分子量が300で,平均官能価が4のポリオール)7重量%,
活性水素原子を含む低分子量ポリオール(グリセリン)1重量%,
反応性難燃剤(FR-130(広東万華栄威ポリウレタン有限公司製造,テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応性難燃剤,水酸基価が130mgKOH/g)5重量%,
固体難燃剤1(RM4-7081(道康寧公司製造,シリコーン難燃剤)5重量%
固体難燃剤2(HP1250(上海洽普化工有限公司,赤リン)5重量%,
液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)30重量%,
水(蒸留水)1.5重量%,
触媒(15wt%のPC5,25wt%のPC8,25wt%のPC46,35wt%のTMR-2,の混合物(PC5,PC8,PC46,TMR-2はいずれも,ガス製品・化学公司が製造するアミン及び第4級アンモニウム塩型触媒))4重量%,
泡安定剤(B8525(高斯米特公司製造,ポリシロキサン化合物)1.5重量%,
発泡剤(HCFC-141b(浙江三美公司製造,ジクロロフルオロエタン)10重量%,
ポリイソシアネート(煙台万華ポリウレタン股分有限公司製造のPM400,そのNCO含量は30.9%)135重量%,
を含む,高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料。」(以下,「甲1B発明1」という。)

「ポリオール2(無水フタル酸とDEGの重縮合で得られる,水酸基価が200mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)25重量%,
ポリオール4(ジメチルテレフタレート,DEG,アジピン酸を原料として,エステル交換反応や重縮合などの反応により得られる,水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)10重量%,
ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合させて得られる,重量平均分子量が300で,平均官能価が4のポリオール)3重量%,
反応性難燃剤(FR-130(広東万華栄威ポリウレタン有限公司製造,テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応性難燃剤,水酸基価が130mgKOH/g)8重量%,
固体難燃剤1(RM4-7081(道康寧公司製造,シリコーン難燃剤)5重量%
固体難燃剤2(HP1250(上海洽普化工有限公司,赤リン)10重量%,
液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)13重量%,
水(蒸留水)2重量%,
触媒(15wt%のPC5,25wt%のPC8,25wt%のPC46,35wt%のTMR-2,の混合物(PC5,PC8,PC46,TMR-2はいずれも,ガス製品・化学公司が製造するアミン及び第4級アンモニウム塩型触媒))3重量%,
泡安定剤(B8525(高斯米特公司製造,ポリシロキサン化合物)3重量%,
発泡剤(HCFC-141b(浙江三美公司製造,ジクロロフルオロエタン)18重量%,
ポリイソシアネート(煙台万華ポリウレタン股分有限公司製造のPM400,そのNCO含量は30.9%)160重量%,
を含む,高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料。」(以下,「甲1B発明2」という。)

「ポリオール5(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート,テレフタル酸とDEGの重縮合で得られる,水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)38重量%,
ポリオール6(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを開始剤として,エピクロロヒドリンと開環重合させて得られる,水酸基価が286mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)14重量%,
ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合させて得られる,重量平均分子量が300で,平均官能価が4のポリオール)2重量%,
反応性難燃剤(FR-130(広東万華栄威ポリウレタン有限公司製造,テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応性難燃剤,水酸基価が130mgKOH/g)6重量%,
固体難燃剤2(HP1250(上海洽普化工有限公司,赤リン)3重量%,
液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)18重量%,
水(蒸留水)0.3重量%,
触媒(15wt%のPC5,25wt%のPC8,25wt%のPC46,35wt%のTMR-2,の混合物(PC5,PC8,PC46,TMR-2はいずれも,ガス製品・化学公司が製造するアミン及び第4級アンモニウム塩型触媒))1.5重量%,
泡安定剤(B8525(高斯米特公司製造,ポリシロキサン化合物)2重量%,
発泡剤(HCFC-141b(浙江三美公司製造,ジクロロフルオロエタン)15.2重量%,
ポリイソシアネート(煙台万華ポリウレタン股分有限公司製造のPM400,そのNCO含量は30.9%)170重量%,
を含む,高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料。」(以下,「甲1B発明3」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1B発明1?3とを対比する。
甲1B発明1?3における「ポリイソシアネート」は,本件発明1における「ポリイソシアネート化合物」に相当する。
甲1B発明1?3における「ポリオール2」?「ポリオール7」は,いずれも,本件発明1における「ポリオール化合物」に相当する。
甲1B発明1?3における「触媒」は,「アミン及び第4級アンモニウム塩型触媒」であるが,このうち,「第4級アンモニウム塩型触媒」は,本件明細書の記載(【0049】,【0050】)及び技術常識からみて,本件発明1における「三量化触媒」に相当する。
甲1B発明1?3における「水」,「発泡剤」は,本件明細書の記載(【0052】)及び技術常識からみて,いずれも,本件発明1における「発泡剤」に相当する。
甲1B発明1?3における「泡安定剤」は,甲1Bの記載([0048])からみて,本件発明1における「整泡剤」に相当する。
甲1B発明1?3における「固体難燃剤2」は,「赤リン」を含むものであるから,本件発明1における「赤リン」である「難燃剤」に相当する。
甲1B発明1?3における「液体有機難燃剤」は,「トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物」であるから,本件発明1における「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル」に相当する。
以上の対比を踏まえると,甲1B発明1?3における「高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料」は,本件発明1における「難燃性ウレタン樹脂組成物」に相当するといえる。
以上によれば,本件発明1と甲1B発明1?3とは,
「難燃性ウレタン樹脂組成物であって,ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤を含み,
前記難燃剤が,赤リンを必須成分とし,前記赤リン以外にリン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する,
難燃性ウレタン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」のに対して,甲1B発明1?3では,原材料を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうか不明である点。

イ 相違点3の検討
(ア)まず,相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1B発明1?3は,固体難燃剤2(赤リン)及び液体有機難燃剤を含むものであるから,一定程度は難燃性に優れていると解されるものの,甲1B発明1?3に係る原材料を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうかは,不明というほかなく,また,そのように認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,相違点3は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1Bに記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点3の容易想到性について検討する。
甲16Bには,建築防火材料用難燃性試験基準に関し,準不燃材料では,コーンカロリメーター試験(ISO 5660-1 at 50KW/m^(2))で,「≦8MJ/m2 and ≦200kw/m2」(加熱時間10分)であること,不燃材料では,同試験で,「≦8MJ/m2 and ≦200kw/m2」(加熱時間20分)であることが記載されている。
また,甲4Bには,赤リンを添加することによって,火による表面の破損を減少させることについて記載され,甲7Bには,赤リンを用いることによって,燃焼時の溶融変形,溶融滴下の問題が改善され,燃焼性,燃焼時の形状保持性,断熱性にも優れることについて記載され,甲8Bには,赤リンを用いることによって,耐熱性,難燃性,形状維持性に優れることについて記載され,甲9Bには,赤リンを用いることによって,難燃性や形状保持性を向上することについて記載されている。
さらに,甲1B?6Bには,難燃性ウレタン樹脂組成物を用いて発泡体を形成することについて記載されている。
しかしながら,上記(ア)で述べたとおり,甲1B発明1?3に係る原材料を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうかは,不明であり,また,そもそも,そのような総発熱量が達成できるかどうかも不明である。
そうすると,甲1B発明1?3において,原材料を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」と特定することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲1Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び4?6について
本件発明2及び4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が甲1Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲1Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び4?6についても同様に,甲1Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲1Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び4?6は,いずれも,甲1Bに記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1,2,4及び5は,いずれも,甲1Bに記載された発明及び甲4B,7B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに,本件発明6は,甲1Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1B(新規性),申立理由3B(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

10 申立理由2B(新規性),申立理由4B(進歩性)
(1)甲2Bに記載された発明
甲2Bの記載(特許請求の範囲,2頁右下欄1?6行,4頁右下欄14行?5頁左上欄10行,第1表,実施例(1)?(3))によれば,特に実施例(1)(4頁右下欄14行?5頁左上欄10行,第1表)に着目すると,甲2Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリオールA(OH価約50のポリエーテルポリオール(グリセリン系)) 50pbw,
触媒A(N,N’,N’’-トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロトリアジン)0.9pbw,
触媒B(酢酸カリウムのジエチレングリコール溶液)7.5pbw,
シリコーンオイル 1.0pbw,
水 0.3pbw,
フレオン11 2.0pbw,
被覆した赤リン(NOVARED#120(燐化学工業))4pbw(2wt%),
を含む反応混合物に,
粗製MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)145重量部
を加えた,ポリイソシアヌレートフォームを得るための原料。」(以下,「甲2B発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2B発明とを対比する。
甲2B発明における「粗製MDI」,「ポリオールA」は,それぞれ,本件発明1における「ポリイソシアネート化合物」,「ポリオール化合物」に相当する。
甲2B発明における「触媒A」,「触媒B」は,甲2Bの記載(4頁左下欄1?9行)からみて,いずれも,本件発明1における「三量化触媒」に相当する。
甲2B発明における「水」は,甲2Bの記載(特許請求の範囲の請求項3)からみて,本件発明1における「発泡剤」に相当する。
甲2B発明における「シリコーンオイル」は,甲2Bの記載(4頁左下欄10?17行)からみて,本件発明1における「整泡剤」に相当する。
甲2B発明における「被覆した赤リン」に含まれる「赤リン」は,甲2Bの記載(3頁左上欄18行?右上欄6行)からみて,本件発明1における「赤リン」である「難燃剤」に相当する。
以上の対比を踏まえると,甲2B発明における「ポリイソシアヌレートフォームを得るための原料」は,本件発明1における「難燃性ウレタン樹脂組成物」に相当するといえる。
以上によれば,本件発明1と甲2B発明とは,
「難燃性ウレタン樹脂組成物であって,ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤を含み,
前記難燃剤が,赤リンを必須成分とする,
難燃性ウレタン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点4
本件発明1では,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」のに対して,甲2B発明では,原料を用いて得られたポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうか不明である点。
・相違点5
本件発明1では,難燃剤として,赤リン以外に,「リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する」のに対して,甲2B発明では,赤リンのみ含む点。

イ 相違点4の検討
(ア)まず,相違点4が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲2B発明は,赤リンを含むものであるから,一定程度は難燃性に優れていると解されるものの,甲2B発明に係る原料を用いて得られたポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうかは,不明というほかなく,また,そのように認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,相違点4は実質的な相違点である。
したがって,相違点5について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2Bに記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点4の容易想到性について検討する。
甲1B?9B及び16Bには,上記9(2)イ(イ)で指摘したとおりの事項について記載されている。
しかしながら,上記(ア)で述べたとおり,甲2B発明に係る原料を用いて得られたポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」かどうかは,不明であり,また,そもそも,そのような総発熱量が達成できるかどうかも不明である(この点,甲2B発明において,さらに赤リン以外の難燃剤を含有させた場合についても,同様である。)。
そうすると,甲2B発明において,原料を用いて得られたポリイソシアヌレートフォームを,「ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」と特定することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点5について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明1は,甲2Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲2Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び6について
本件発明2及び6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が甲2Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲2Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び6についても同様に,甲2Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲2Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1及び2は,いずれも,甲2Bに記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1及び2は,いずれも,甲2Bに記載された発明並びに甲4B,7B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに,本件発明6は,甲2Bに記載された発明並びに甲1B?9B及び16Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由2B(新規性),申立理由4B(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2及び6に係る特許を取り消すことはできない。

11 申立理由5B(進歩性)
(1)甲3Bに記載された発明
甲3Bの記載(請求項1,【0006】,【0022】?【0025】,【0033】,【0038】?【0043】,表1,表2,実施例1?8)によれば,特に実施例1(表1,表2)に着目すると,甲3Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリオール化合物1(イソフタル酸とジエチレングリコール+ジプロピレングリコールとの芳香族エステルポリオール(芳香環濃度24.0wt%,水酸基価250mgKOH/g))70重量部,
ポリオール化合物10(トルエンジアミンを開始剤としてプロピレンオキサイドを開環付加させた芳香族アミンポリオール(水酸基価455mgKOH/g))30重量部,
トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート 10重量部,
整泡剤(SH-193,Si含有率=30wt%,ポリオキシアルキレングリコール=ポリオキシエチレングリコール,東レダウコーニングシリコン)6重量部,
触媒A(オクチル酸カリウム)2.4重量部,
触媒B(カオライザーNo.420(花王))0.4重量部,
触媒C(カオライザーNo.1(Kao-No.1)(花王))0.5重量部,
発泡剤(水)2.0重量部,
発泡剤(シクロペンタン)15.0重量部,
を含むポリオール組成物に,
ポリイソシアネート成分(高官能粗製MDI(粘度400mPa・s,市販品))を,NCO/OH当量比が3.5となるよう混合した,硬質ポリウレタンフォームを形成するための原料であって,
当該原料を用いて形成した硬質ポリウレタンフォームを,ISO-5660に準拠し,放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの総発熱量が7.1MJ/m^(2)である,
硬質ポリウレタンフォームを形成するための原料。」(以下,「甲3B発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3B発明とを対比する。
甲3B発明における「ポリイソシアネート成分」は,本件発明1における「ポリイソシアネート化合物」に相当する。
甲3B発明における「ポリオール化合物1」,「ポリオール化合物10」は,いずれも,本件発明1における「ポリオール化合物」に相当する。
甲3B発明における「触媒A(オクチル酸カリウム)」,「触媒B(カオライザーNo.420(花王))」は,甲3Bの記載(【0030】)からみて,本件発明1における「三量化触媒」に相当する。
甲3B発明における「発泡剤(水)」,「発泡剤(シクロペンタン)」は,本件発明1における「発泡剤」に相当する。
甲3B発明における「整泡剤」は,本件発明1における「整泡剤」に相当する。
甲3B発明における「トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート」は,甲3Bの記載(【0033】)からみて,本件発明1における「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル」に相当する。
以上の対比を踏まえると,甲3B発明における「硬質ポリウレタンフォームを形成するための原料」は,本件発明1における「難燃性ウレタン樹脂組成物」に相当するといえる。
以上によれば,本件発明1と甲3B発明とは,
「難燃性ウレタン樹脂組成物であって,ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および難燃剤を含み,
前記難燃剤が,リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する,
難燃性ウレタン樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点6
本件発明1では,難燃剤が「赤リンを必須成分」とするのに対して,甲3B発明では,「赤リン」を含むものではない点。
・相違点7
本件発明1では,「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して,放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下である」のに対して,甲3B発明では,硬質ポリウレタンフォームを形成するための「原料を用いて形成した硬質ポリウレタンフォームを,ISO-5660に準拠し,放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの総発熱量が7.1MJ/m^(2)である」点。

イ 相違点6の検討
(ア)甲3Bには,難燃剤について,好適な難燃剤としては,ハロゲン含有化合物,有機リン酸エステル類,水酸化アルミニウム等の金属化合物が例示され,その中でも有機リン酸エステル類の使用が好ましいことが記載されている(【0032】,【0033】)。現に,実施例1?8(表2)においても,トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCCP)が用いられている。
しかしながら,甲3Bには,難燃剤として赤リンを使用することについては,何ら記載されていないから,甲3B発明において,難燃剤として赤リンをさらに含有させることが動機付けられるとはいえない。
(イ)また,甲3Bにおいては,コーンカロリー試験による不燃性規格をクリアする難燃性を有する硬質ポリウレタンフォームを形成することができるポリオール組成物を提供することを目的の一つとするものであり(【0006】),実際,実施例1?8においても,硬質ポリウレタンフォームを,ISO-5660に準拠し,放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの総発熱量が「8MJ/m^(2)以下」を満たす必要があるとして,その総発熱量を測定している。
甲3B発明は,上記のとおり,実施例1に着目して認定したものであるが,実施例1における総発熱量は,「7.1MJ/m^(2)」であり,既に「8MJ/m^(2)以下」を満たすものである。
そうすると,甲4B?10B及び17B?19Bに,難燃性を向上させるために赤リンを添加することや,赤リンと赤リン以外の難燃剤を併用することについて記載されているとしても,そもそも,上記のような甲3B発明において,敢えて,トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCCP)以外の難燃剤をさらに含有させる必要性は低いものであり,そのような動機付けがあるとはいい難い。そして,このようなことは,甲1B?3Bの記載を考慮しても,変わるものではない。
(ウ)以上によれば,甲3B発明において,難燃剤として赤リンをさらに含有させることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 小括
したがって,相違点7について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3Bに記載された発明並びに甲1B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び4?6について
本件発明2及び4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲3Bに記載された発明並びに甲1B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び4?6についても同様に,甲3Bに記載された発明並びに甲1B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1及び2は,いずれも,甲3Bに記載された発明並びに甲4B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また,本件発明4及び5は,いずれも,甲3Bに記載された発明並びに甲1B,4B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに,本件発明6は,甲3Bに記載された発明並びに甲1B?10B及び17B?19Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由5B(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項3が本件訂正により削除された結果,同請求項3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1,2及び4?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性ウレタン樹脂組成物であって、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤を含み、
前記難燃剤が、赤リンを必須成分とし、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、
前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする、難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記難燃剤が、前記ポリイソシアネート化合物および前記ポリオール化合物からなるウレタン樹脂100重量部を基準として4.5?70重量部の範囲であり、
前記赤リンが、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として3?18重量部の範囲であり、
前記赤リンを除く難燃剤が、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として1.5?52重量部の範囲である、請求項1又は2のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂のイソシアネートインデックスが120?1000の範囲である、請求項1、2、4のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1、2、4、5のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物から形成されてなることを特徴とする発泡体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-30 
出願番号 特願2018-21501(P2018-21501)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 55- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 井上 猛
武貞 亜弓
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6481058号(P6481058)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 難燃性ウレタン樹脂組成物  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 石井 豪  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  

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