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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1363148
異議申立番号 異議2019-700756  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-20 
確定日 2020-04-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6491542号発明「液晶表示素子用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6491542号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6491542号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6491542号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成27年6月2日(優先権主張:平成26年6月3日)に出願され、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和元年9月20日に特許異議申立人吉田秀平により特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年11月22日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年1月27日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和2年3月6日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア、イのとおりである。
ア 訂正事項1
請求項1ないし7に係る「前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物とを含有し」を「前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物と、エポキシ化合物を含有し」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項1ないし7に係る「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上である」を「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の「硬化性樹脂」が、さらに、「エポキシ化合物」を含有することを特定する訂正であるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記したように、訂正事項1は、「硬化性樹脂」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)には、「上記硬化性樹脂は、接着性を向上させること等を目的として、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記エチレン性不飽和結合を有する化合物及び上記チオール化合物以外の他の硬化性樹脂を含有してもよい。上記他の硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ化合物等が挙げられる。」(【0036】)と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量」の範囲が「400g/mol以上である」と下限値のみを特定するものであったのを、「400g/mol以上600g/mol以下」と、下限値及び上限値を特定するよう訂正するものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記したように、訂正事項2は、「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量」の数値範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件特許明細書等には、「また、上記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量の好ましい上限は600g/molである。上記エチレン性不飽和結合当量が600g/molを超えると、得られる液晶表示素子用シール剤が塗布性に劣るものとなったり、架橋密度が低くなって耐湿性に劣るものとなったりすることがある。」(【0010】)と記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?7は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1,2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下、請求項の順に「本件特許発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
硬化性樹脂と、ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、
前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物と、エポキシ化合物を含有し、
前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である
ことを特徴とする液晶表示素子用シール剤。
【請求項2】
エチレン性不飽和結合を有する化合物は、ラクトンの開環構造を有することを特徴とする請求項1記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項3】
エチレン性不飽和結合を有する化合物のエチレン性不飽和結合1.0molに対するチオール基を有する化合物のチオール基のモル数が1.0mol以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項4】
融点が170℃以下の熱硬化剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項5】
遮光剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の液晶表示素子用シール
剤。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の液晶表示素子用シール剤と、導電性微粒子とを含有することを特徴とする上下導通材料。
【請求項7】
請求項1、2、3、4若しくは5記載の液晶表示素子用シール剤又は請求項6記載の上下導通材料を用いて製造されることを特徴とする液晶表示素子。」


4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
ア 取消理由1(新規性)
本件特許発明1、3及び7は、本件特許の優先日(2014年 6月 3日)前に日本国内又は外国において頒布された下記引用文献1、引用文献5又は引用文献6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許発明1、3及び7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2002-122872号公報(甲1号証)
引用文献5:特開2002-116448号公報(甲5号証)
引用文献6:特開2014-80497号公報(甲6号証)

イ 取消理由2(進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日(2014年 6月 3日)前に日本国内または外国において頒布された下記引用文献1ないし6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2002-122872号公報(甲1号証)
引用文献2:国際公開第2008/102550号(甲2号証(再公表特許)の国際公開)
引用文献3:国際公開第2007/114184号(甲3号証(再公表特許)の国際公開)
引用文献4:国際公開第2012/137749号(甲4号証(再公表特許)の国際公開)
引用文献5:特開2002-116448号公報(甲5号証)
引用文献6:特開2014-80497号公報(甲6号証)

ウ 取消理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1-7の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


(2)引用文献の記載
ア 引用文献1について
(ア)
取消理由通知において引用した引用文献1には、図面と共に、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した、以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薄型、軽量、低消費電力ディスプレイとして用いられている液晶表示装置およびその製造方法に関するものである。」

「【0015】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、上記(3)の図2(a)?(d)に示すように、対向する2枚の配向膜付き電極基板8,9の少なくとも片方にシール材10を配置し、電極基板8に液晶12を必要量滴下し、2枚の電極基板8,9を真空中で貼り合わせる時に、シール材10として25℃の粘度が40?100Pa・sでラジカル重合型のアクリル系光硬化性樹脂組成物および/またはエン/チオール系光硬化性樹脂組成物を用い、波長350nm?780nmの光を照射するか、または配向膜面をマスク材で光遮断し波長制限しない紫外光を照射して硬化して接着固定することによって、上記課題を満たす液晶表示装置が得られ、本発明に到達した。」

「【0033】また、本発明で用いるエン/チオール系光硬化性樹脂組成物は、ポリエン化合物およびポリチオール化合物に光増感剤を加えたものを基本とし、これに必要に応じて特性改良の目的で接着促進剤(シラン系カップリング剤など)、充填剤などを加えたものである。
【0034】ポリエン化合物は、1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合(C=C)を2個以上含み、ポリチオール化合物も1分子中にメルカプト基(-SH)を2個以上含むもので、両者がラジカル重合によって高速度で硬化するものなら、両者の化合物に特に限定は無い。ポリエン化合物としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリロキシエタン、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、エチレングリコールジ(メタ)アリルエーテル、プロピレングリコールジ(メタ)アリルエーテル、ブチレングリコールジ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールジ(メタ)アリルエーテル、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アリルエーテル、ポリブチレングリコールジ(メタ)アリルエーテル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック又はランダムコポリマーであるグリコールのジ(メタ)アリルエーテル、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのブロック又はランダムコポリマーであるグリコールのジ(メタ)アリルエーテル、ビスフェノールAのジ(メタ)アリルエーテル、(ポリ)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アリルエーテル,(ポリ)プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アリルエーテルなどが上げられるが、これに限定されるものではない。また、これらの2種以上の混合物を使用しても良い。」

「【0047】
【表2】



(当審注:組成No.8および11を参照のこと。)
「【0060】


(イ)
したがって、引用文献1には以下の発明が記載されている。
(引用発明1-1)
「ポリエン化合物およびポリチオール化合物に光増感剤を加えたものを基本としたエン/チオール系光硬化性樹脂組成物のシール材であって、
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)(重量比50)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)(重量比50)とを含有し(組成No.8)、
又は
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)を(重量比81)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)を(重量比19)とを含有し(組成No.11)
光増感剤はベンゾインイソプロピルエーテル(重量比1)である
液晶表示装置のシール材。」

(引用発明1-2)
「ポリエン化合物およびポリチオール化合物に光増感剤を加えたものを基本としたエン/チオール系光硬化性樹脂組成物をシール材として用いて製造された液晶表示装置であって、
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)(重量比50)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)(重量比50)とを含有し(組成No.8)、
又は
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)を(重量比81)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)を(重量比19)とを含有し(組成No.11)
光増感剤はベンゾインイソプロピルエーテル(重量比1)である
液晶表示装置のシール材を用いて製造された液晶表示装置。」


イ 引用文献5について
(ア)
取消理由通知において引用した引用文献5には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薄型、軽量、低消費電力デイスプレイとして利用されている液晶表示素子およびその製造方法に関するものである。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、2枚の配向膜付き電極基板にアクリル系および/またはエン/チオール系ラジカル重合型光硬化性樹脂組成物からなるシール材を挾んで重ね合わせた状態で、上記組成物に波長350nm?500nmの光を照射するか、または配向膜面をマスク材で光遮断し波長制限しない紫外光を照射して、上記組成物を硬化させ、上記の2枚の配向膜付き電極基板を接着固定し、上記基板間に液晶を封入することによって、上記課題を満たす液晶表示素子が得られ、本発明に到達した。基板間の接着性を一層上げるためには、シール材である上記組成物に接着促進剤を配合することで達成できる。」

「【0020】また、本発明で用いるエン/チオール系ラジカル重合型光硬化性樹脂組成物は、ポリエン化合物およびポリチオール化合物に光増感剤を加えたものを基本とし、これに必要に応じて特性改良の目的で接着促進剤(シラン系カップリング剤など)、充填剤などを加えたものである。」

「【0032】
【表1】

(当審注:組成No.8および11を参照のこと。)

「【0046】



「【0048】表2から、実施例No.1?6は、光硬化時に本発明のカットフィルターまたはマスク材が有るため、光照射条件によらず、液晶表示素子の配向特性および接着性が初期、信頼性試験後ともに良好であることがわかる。
【0049】一方、比較例No.7?12は、光硬化時に本発明のカットフィルターおよびマスク材のいずれも無いために、液晶表示素子の接着性は良好であるが、配向特性が初期から不良であることがわかる。


(イ)
したがって、引用文献5には以下の発明が記載されている。
(引用発明5-1)
「ポリエン化合物およびポリチオール化合物に光増感剤を加えたものを基本としたエン/チオール系光硬化性樹脂組成物であって、
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)(重量比55)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)(重量比45)とを含有し(組成No.8)、
又は
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)を(重量比82)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)(重量比18)とを含有し(組成No.11)
光増感剤はベンゾインイソプロピルエーテル(重量比1)である
液晶表示装置のシール材。」

(引用発明5-2)
「ポリエン化合物およびポリチオール化合物に光増感剤を加えたものを基本としたエン/チオール系光硬化性樹脂組成物をシール材として用いて製造された液晶表示装置であって、
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)(重量比55)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)(重量比45)とを含有し(組成No.8)、
又は
ポリエン化合物およびポリチオール化合物は、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランのランダムコポリマーのグリコールのジアリルエーテル(分子量1000)を(重量比82)と、ビスフェノールA型エポキシドと過剰トリグリコールジメルカプタンの反応生成物であるポリチオール(分子量1000)を(重量比18)とを含有し(組成No.11)
光増感剤はベンゾインイソプロピルエーテル(重量比1)である
液晶表示装置のシール材を用いて製造された液晶表示装置。」


ウ 引用文献6について
(ア)
取消理由通知において引用した引用文献6には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性エラストマー組成物、シール材、及び装置に関する。」

「【0007】
本発明の光硬化性エラストマー組成物は、(A)主骨格が炭化水素からなる骨格であり、且つ、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するポリマーと、(B)分子内に光硬化性官能基を有するモノマーと、(C)分子内にメルカプト基を2個?6個有するチオール化合物と、(D)光重合開始剤と、を含む光硬化性エラストマー組成物であって、前記(A)ポリマー及び前記(B)モノマーの合計含有量に対する前記(B)モノマーの含有量が、30質量%?70質量%であることを特徴とする。上記態様とすることにより、硬化させた際の柔軟性及び水蒸気バリア性を両立させることができる。」

「【0037】
(シール材)
本発明のシール材は、本発明の光硬化性エラストマー組成物を少なくとも一部に用いて製造することができ、紫外線等の光を照射して硬化させた硬化物を少なくとも一部に含むシール材である。」

「【0041】
本発明のシール材は、例えば、HDD用ガスケット;インクタンク用シール材;デスクトップ型、ノート型、タブレット型等の各種コンピュータ、携帯電話、液晶表示装置、有機ELディスプレイ、電子ペーパー及びプラズマディスプレイ等の各種表示装置、カメラ等の各種電子部品用シール材;自動車部品、水浄化装置、空気浄化装置、撹拌機、スピーカー、ポンプ等のシール材;防振装置、防水装置、ダンパー、土木及び建築等の構造物用シール材;Oリング等のパッキン;などの用途に用いることができる。これらの中でも、本発明のシール材は、柔軟性及び水蒸気バリア性に優れることからHDD用ガスケットに好適に用いることができる。さらに、上述したように好適な実施形態に係る光硬化性エラストマー組成物を少なくとも一部に用いたシール材では、柔軟性及び水蒸気バリア性に優れることに加えて、圧縮永久歪も良好でリワーク性に優れるため、HDD用ガスケット用途に特に好適に用いることができる。シール材の厚さは、用途により適宜調整することができるが、通常、0.1mm?2mm程度である。」

「【0053】



(当審注:実施例6,7,11を参照のこと。)

「【0055】
なお、表1及び表2における*1?*17は以下を示す。
*1 メタクリル変性イソプレンゴム:クラレ社製 UC-102 (数平均分子量17,000、(メタ)アクリロイル基を側鎖に2個有する)
*2 水添アクリル変性ブタジエンゴム:日本曹達社製 TEAI-1000(数平均分子量2,000、(メタ)アクリロイル基を両末端に有する、主骨格が水添)
*3 水添アクリル変性ブタジエンゴム:サートマー社製 CN-9014(数平均分子量6,500、(メタ)アクリロイル基を両末端に有する、主骨格が水添)
*4 2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー(数平均分子量10,000、(メタ)アクリロイル基を両末端に有する)、イソボルニルアクリレート(含有量:25質量%?29質量%)、フェノキシエチルアクリレート(含有量:69質量%?73質量%)、及びイルガキュア2959(含有量:2質量%)相当品の混合物:共栄社化学株式会社製 ライトタック PUA-KH32M
*5 大阪有機化学工業社製 IBXA(イソボルニルアクリレート、分子量208、1官能アクリレートモノマー)
*11 4官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「PEMP」、ペンタエリスリトールテトラ(β-メルカプトプロピオネート)
*12 2官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「EGMP4」、テトラエチレングリコールジ(β-メルカプトプロピオネート)
*13 6官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「DPMP」、ジペンタエリ
スリトールヘキサ(β-メルカプトプロピオネート)
*14 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 Irgacure 184)
*15 ポリイソブチレン:(PIB、EPION 200A、数平均分子量5,000、鐘淵化学工業(株)製)
*16 シリカ(旭化成ワッカーシリコーン社製、商品名:HDK N20)
*17 光硬化性エラストマー組成物中の、(メタ)アクリロイル基と(C)成分中のメルカプト基との官能基数比
前記官能基数比の算出方法:ポリマー、モノマーの分子量、分子量あたりのアクリロイル基の官能基数、配合部数、ならびにチオールの分子量、分子量あたりのメルカプト基の官能基数、配合部数より算出した。」

(イ)
したがって、引用文献6には以下の発明が記載されている。
(引用発明6-1)(実施例6)
「(A)メタクリル変性イソプレンゴム:クラレ社製 UC-102 (数平均分子量17,000、(メタ)アクリロイル基を側鎖に2個有する)(50重量部)と
(B)大阪有機化学工業社製 IBXA(イソボルニルアクリレート、分子量208、1官能アクリレートモノマー)(50重量部)と
(C)4官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「PEMP」、ペンタエリスリトールテトラ(β-メルカプトプロピオネート)(6重量部)と
(D)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 Irgacure 184)と(1重量部)を
含む光硬化性エラストマー組成物であって、
光硬化性エラストマー組成物を少なくとも一部に用いて製造したシール材」

(引用発明6-2)(実施例7)
「(A)メタクリル変性イソプレンゴム:クラレ社製 UC-102 (数平均分子量17,000、(メタ)アクリロイル基を側鎖に2個有する)(50重量部)と
(B)大阪有機化学工業社製 IBXA(イソボルニルアクリレート、分子量208、1官能アクリレートモノマー)(50重量部)と
(C)2官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「EGMP4」、テトラエチレングリコールジ(β-メルカプトプロピオネート)(5重量部)と
(D)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 Irgacure 184)と(1重量部)を
含む光硬化性エラストマー組成物であって、
光硬化性エラストマー組成物を少なくとも一部に用いて製造したシール材」

(引用発明6-3)(実施例11)
「(A)メタクリル変性イソプレンゴム:クラレ社製 UC-102 (数平均分子量17,000、(メタ)アクリロイル基を側鎖に2個有する)(60重量部)と
(B)大阪有機化学工業社製 IBXA(イソボルニルアクリレート、分子量208、1官能アクリレートモノマー)(40重量部)と
(C)4官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「PEMP」、ペンタエリスリトールテトラ(β-メルカプトプロピオネート)(5重量部)と
(D)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 Irgacure 184)と(1重量部)を
含む光硬化性エラストマー組成物であって、
光硬化性エラストマー組成物を少なくとも一部に用いて製造したシール材」

(3)取消理由通知に記載した取消理由について
第29条第1項第3号第29条第2項について
(ア)本件特許発明1について
a 引用発明1-1を主引用発明とした場合
(a) 本件特許発明1と引用発明1-1の対比
本件特許発明1と引用発明1-1とは、次の(一致点)で一致し、(相違点1-1)及び(相違点2-1)で相違する。
(一致点)
硬化性樹脂と、ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物とを含有する
液晶表示素子用シール剤。
(相違点1-1)
本件特許発明1には硬化性樹脂の含有物に「エポキシ化合物」が含まれることが特定されている一方、引用発明1-1にはそのような特定がされていない点。
(相違点2-1)
本件特許発明1には「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である」ことが特定されている一方、引用発明1-1にはそのような特定がされていない点。

(b)判断
相違点1-1について検討する。
液晶シール剤において、接着性を向上するためにエポキシ樹脂を含有することは、引用文献2の【0087】-【0091】、引用文献7の【0035】に記載されているように、周知技術である。
そこで、引用発明1-1において、上記周知技術を採用するか、検討する。
引用発明1-1は、引用文献1に記載された組成No.1-15のうち、組成No.8及び11に係る発明である。
ここで、引用文献1には組成No.1-15が記載されており、各組成の成分項目には、「その他」に「γーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(接着促進剤)」という項目がある。
そうすると、引用文献1の組成No.1-15は、接着性について検討した上で、その組成が決定されたものと認められる。
そして、組成成分を示す【表2】から、組成No.8及び11は「接着促進剤」を含有していないことが認められる。
さらに、表3の記載によれば、引用発明1-1を用いて実施された実施例2,4,6,8,10,12は、いずれも、被着性の項目が「○」と評価され、【0062】に「光硬化時に本発明のカットフィルターまたはマスク材があるため、光照射条件によらず、液晶表示装置の配向特性および接着性が初期、信頼性試験後ともに良好であることがわかる」、【0063】に「光硬化時に本発明のカットフィルターおよびマスク材のいずれも無いため、液晶表示装置の接着性は良好であるが、配向特性が初期から不良であることがわかる。」と評価されている。
そうすると、引用発明1-1は、「接着促進剤」を含有するまでもなく、液晶シール剤として十分な接着性を有するものであると認められる。
したがって、引用発明1-1は、さらなる接着性の向上を課題として有するとは認められないから、接着性を向上するためにエポキシ樹脂を添加する動機があるとはいえない。
よって、引用発明1-1にエポキシ樹脂を添加することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。

申立人は、意見書の「(3)本件特許発明1が取消理由2を解消していない理由」の「ア.引用発明1-1を主引例とする取消理由」において、「接着性を向上するためにエポキシ樹脂を含有することは本願出願日前周知技術である」点、及び、「本件特許発明1において、エポキシ樹脂の添加による格別優れた効果はないといえる」と主張している。
しかしながら、上記のとおり、「接着性を向上するためにエポキシ樹脂を含有することは本願出願日前周知技術」であったとしても、引用発明1-1において、エポキシ樹脂を添加する動機はない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(c)小括
上記(b)のとおりであるから、相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1-1、引用文献2ないし6に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者にとって容易に想到し得るものではない。

b 引用発明5-1を主引用発明とした場合
(a) 本件特許発明1と引用発明5-1の対比
本件特許発明1と引用発明5-1とは、次の(一致点)で一致し、(相違点1-2)及び(相違点2-2)で相違する。
(一致点)
硬化性樹脂と、ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物とを含有する
液晶表示素子用シール剤。
(相違点1-2)
本件特許発明1には硬化性樹脂の含有物に「エポキシ化合物」が含まれることが特定されている一方、引用発明5-1にはそのような特定がされていない点。
(相違点2-2)
本件特許発明1には「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である」ことが特定されている一方、引用発明5-1にはそのような特定がされていない点。

(b)判断
相違点1-2について検討する。
上記aと同様に、引用発明5-1は、「接着促進剤」を含有するまでもなく、液晶シール剤として十分な接着性を有すると評価されているから(【0046】、【0048】、【0049】)、液晶シール剤において、接着性を向上するためにエポキシ樹脂を含有することが周知技術であるとしても、引用発明5-1は、さらなる接着性の向上を課題として有するとは認められないから、接着性を向上するためにエポキシ樹脂を添加する動機があるとはいえない。
よって、引用発明5-1にエポキシ樹脂を添加することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。

申立人は、意見書の「(3)本件特許発明1が取消理由2を解消していない理由」の「イ.引用発明5-1を主引例とする取消理由」において、「ア.引用発明1-1を主引例とする取消理由」と同様に、引用発明5-1に「エポキシ樹脂を添加して液晶シール剤の接着性を向上することは、当業者が容易になし得たことである。」と主張しているが、上記のとおりであるから、「接着性を向上するためにエポキシ樹脂を含有することは本願出願日前周知技術」であったとしても、引用発明5-1において、エポキシ樹脂を添加する動機はない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(c)小括
上記(b)のとおりであるから、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明5-1、引用文献1ないし4、6に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者にとって容易に想到し得るものではない。

c 引用発明6-1を主引用発明とした場合
(a) 本件特許発明1と引用発明6-1の対比
本件特許発明1と引用発明6-1とは、次の(一致点)で一致し、(相違点1-3)及び(相違点2-3)で相違する。
(一致点)
硬化性樹脂と、ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物とを含有する
液晶表示素子用シール剤。
(相違点1-3)
本件特許発明1には硬化性樹脂の含有物に「エポキシ化合物」が含まれることが特定されている一方、引用発明6-1にはそのような特定がされていない点。
(相違点2-3)
本件特許発明1には「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である」ことが特定されている一方、引用発明6-1にはそのような特定がされていない点。

(b)判断
上記相違点1-3について検討する。
引用発明6-1は、引用文献6の【0006】に「本発明の目的は、硬化させた際の柔軟性及び水蒸気バリア性を両立させることができる光硬化性エラストマー組成物を提供することにある」と記載されているように、柔軟性及び水蒸気バリア性を両立させたシール剤に係る発明である。
ここで、引用発明6-1にエポキシ樹脂を添加することを検討すると、引用発明6-1は柔軟性を備えることを課題としているから、添加するエポキシ樹脂は通常の硬化するエポキシ樹脂ではなく、引用文献8を参照するなどして、柔軟性エポキシ樹脂(ポリオキシアルキレン型樹脂)を選択することが考えられる。
しかしながら、ポリオキシアルキレン型樹脂について、引用文献8には「ただし多量に配合すると(40?50phr以上)耐水性・耐熱性の低下が大きくなる」(3.1 ポリオキシアルキレン型樹脂を参照のこと。)と記載されている。
そうすると、柔軟性のみならず、水蒸気バリア性を課題とする引用発明6-1において、耐水性が低下する柔軟性エポキシ樹脂(ポリオキシアルキレン型樹脂)を添加することは、阻害要因があるとまではいえなくとも、積極的に行う動機を欠いているといえる。
よって、引用発明6-1にエポキシ樹脂を添加することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。

申立人は、意見書の「(3)本件特許発明1が取消理由2を解消していない理由」の「ウ.引用発明6-1、引用発明6-2又は引用発明6-3を主引例とする取消理由」において、「ア.引用発明1-1を主引例とする取消理由」と同様に、引用発明6-1に「エポキシ樹脂を添加して液晶シール剤の接着性を向上することは、当業者が容易になし得たことである。」と主張しているが、上記アのとおりであるから、「接着性を向上するためにエポキシ樹脂を含有することは本願出願日前周知技術」であったとしても、引用発明6-1において、エポキシ樹脂を添加する動機はない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(c)小括
上記(b)のとおりであるから、相違点2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明6-1、引用文献2-6に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者にとって容易に想到し得るものではない。

d 引用発明6-2を主引用発明とした場合
引用発明6-1と引用発明6-2との差異はチオール化合物の種類及び配合量の差であるから、この差異は本件特許発明1と引用発明6-2との対比及び判断になんら影響を与えるものではない。
したがって、上記cと同様に、引用発明6-2にエポキシ樹脂を添加することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
また、申立人の意見書における主張についても、上記cと同様に採用できない。

e 引用発明6-3を主引用発明とした場合
引用発明6-1と引用発明6-3との差異は「(A)メタクリル変性イソプレンゴム:クラレ社製UC-102(数平均分子量17,000、(メタ)アクリロイル基を側鎖に2個有する)」と「(B)大阪有機化学工業社製IBXA(イソボルニルアクリレート、分子量208、1官能アクリレートモノマー)」の重量比の差である。
そうすると、対比及び判断は、上記cと同様である。
したがって、上記cと同様に、引用発明6-3にエポキシ樹脂を添加することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
また、申立人の意見書における主張についても、上記cと同様に採用できない。

f まとめ
よって、本件特許発明1は、引用発明1-1、5-1、6-1、6-2、6-3と同一の発明ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
また、本件特許発明1は、引用発明1-1、5-1、6-1、6-2、6-3、引用文献1-6に記載の事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。


(イ)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ア)で述べたとおり、本件特許発明1は、引用発明1-1、5-1、6-1、6-2、6-3と同一の発明ではなく、引用発明1-1、5-1、6-1、6-2、6-3及び引用文献2ないし4に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし7も、引用発明1-1、5-1、6-1、6-2、6-3と同一の発明ではなく、引用発明1-1、5-1、6-1、6-2、6-3及び引用文献2ないし4に記載された発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 特許法第36条第6項第1号について
訂正前の請求項1ないし7に係る発明は、「前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量」の上限が特定されていないところ、上記2(1)イの訂正事項2に記載のとおり、本件特許発明1ないし7は「600g/mol以下」と特定されたため、本件特許発明1ないし7は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。


5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)
申立人は、特許異議申立書の「エー2 理由.3」(第67頁)において、「硬化反応では、系中に存在する不飽和結合の総数も必要である」にもかかわらず、この点が本件特許発明1ないし7には特定されていないと主張している。
しかしながら、本件特許発明1ないし7は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール化合物との反応であるエンチオール反応を利用した液晶表示素子用シール剤の発明であるから、液晶表示素子用シール剤として所望の特性が得られなくなるような極端な態様は想定されず、系中に存在する
エチレン性不飽和結合の総数は、液晶表示素子用シール剤として機能する程度のものを意図していると解することが自然である。
したがって、本件特許発明1ないし7に、系中に存在するエチレン性不飽和結合の総数や化合物の含有量が記載されていないとしても、本件特許発明1ないし7は課題を解決する手段が記載されていないとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、申立人の主張は、採用することができない。

なお、申立人は、意見書の「3-2.サポート要件について」において、本件明細書等の比較例3は、本件特許発明1に係る構成のうち、「エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物と、エポキシ化合物を含有し、前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である」ことを満たしているにもかかわらず、「保存安定性」、「接着性」、「液晶表示素子の表示性能」について効果が認められないから、本件特許発明1は発明の課題を解決するための手段が反映されていないと主張している。
しかしながら、本件明細書等の比較例3は、本件特許発明1の構成要件のうち、「ラジカル重合開始剤」を含有することを満たしていないのであるから、比較例3に上記各効果が認められないからといって、本件特許発明1ないし7が上記各効果を奏さないということにはならず、よって、申立人の主張は失当である。

(2)
申立人は、特許異議申立書の「エー3 理由.3」(第68頁)において、「エチレン性不飽和結合を有する化合物として、ラクトンの開環構造を有するもののみが使用されており、ラクトンの開環構造を有しないものの例は示されていない」ため、「ラクトンの開環構造を有しない化合物については、課題を解決できることが明細書等の記載から裏付けられているとはいえない」にもかかわらず、この点が本件特許発明1ないし7には特定されていないと主張している。
しかしながら、本件特許発明1ないし7は、明細書の【0009】に記載のように「上記エチレン性不飽和結合を有する化合物は、チオール化合物と低温で速やかに反応(エンチオール反応)する。」ことを利用する発明である。
そして、「ラクトンの開環構造」は、その構造の内部にエチレン性不飽和結合を備えたものではなく、エンチオール反応に直接関係するものではないから、本件特許発明1ないし7に必須の構成とはいえない。
したがって、本件特許発明1ないし7において、「ラクトンの開環構造を有するもの」に限定しなければいけない理由はない。
よって、本件特許発明1ないし7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、申立人の主張は、採用することができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂と、ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、
前記硬化性樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物と、チオール基を有する化合物と、エポキシ化合物を含有し、
前記エチレン性不飽和結合を有する化合物全体のエチレン性不飽和結合当量が400g/mol以上600g/mol以下である
ことを特徴とする液晶表示素子用シール剤。
【請求項2】
エチレン性不飽和結合を有する化合物は、ラクトンの開環構造を有することを特徴とする請求項1記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項3】
エチレン性不飽和結合を有する化合物のエチレン性不飽和結合1.0molに対するチオール基を有する化合物のチオール基のモル数が1.0mol以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項4】
融点が170℃以下の熱硬化剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項5】
遮光剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の液晶表示素子用シール剤と、導電性微粒子とを含有することを特徴とする上下導通材料。
【請求項7】
請求項1、2、3、4若しくは5記載の液晶表示素子用シール剤又は請求項6記載の上下導通材料を用いて製造されることを特徴とする液晶表示素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-06 
出願番号 特願2015-112267(P2015-112267)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02F)
P 1 651・ 537- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯崎 忠昭  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 田中 秀直
山村 浩
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6491542号(P6491542)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 液晶表示素子用シール剤、上下導通材料、及び、液晶表示素子  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  

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