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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01F
管理番号 1363157
異議申立番号 異議2019-700621  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-05 
確定日 2020-04-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6465448号発明「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料およびその製造方法、ならびに磁石」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6465448号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6465448号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6465448号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6465448号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成29年1月12日(優先権主張 平成28年1月28日)に出願され、平成31年1月18日にその特許権の設定登録がされ、同年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和1年8月5日に特許異議申立人浜俊彦(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。そして、同年10月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月26日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、異議申立人に対して令和2年1月10日付けで訂正請求があった旨の通知をしたが、異議申立人から何ら応答がなされなかったものである。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和1年12月26日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下の訂正事項のとおりである(下線は訂正部分を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料であって、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満である、磁石用原料。」と記載されているのを、
「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料であって、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満であり、磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量が11at%以上14at%以下である、磁石用原料。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4及び5も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除するとともに、請求項4及び5に
「請求項1?3のいずれか」と記載されているのを、
「請求項1または2」に訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項の規定する関係を有する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料」について、「磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量が11at%以上14at%以下である」として磁石用原料に含まれるSmの含有量を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書の段落【0042】に「原料金属のサマリウムおよび鉄を、表1において『Sm量(at%)』欄に記載される、サマリウムと鉄との総量に対するSm含有量になるように秤量し、これを高周波溶解炉にて1600℃で溶製し、母材を得た。」と記載され、段落【0045】の表1には、実施例2、3、5ないし9、11及び12において当該Sm含有量が11at%、14at%であることが記載されていることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3を削除するとともに、請求項4及び5に記載の「請求項1?3のいずれか」を「請求項1または2」として引用請求項数を削減するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は上記のとおり、請求項3を削除するとともに、請求項4及び5に記載の「請求項1?3のいずれか」を「請求項1または2」として引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 特許異議の申立について
1.本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下「本件特許発明1ないし5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料であって、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満であり、磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量が11at%以上14at%以下である、磁石用原料。
【請求項2】
Sm-Fe二元系合金の平均結晶粒径が1μm以下の範囲にある、請求項1に記載の磁石用原料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載の磁石用原料の製造方法であって、サマリウムと鉄の混合物を溶製することによって得られる磁石用原料の粉末状の母材を、水素吸収による分解反応および水素放出による再結合反応に付すことを含み、再結合反応が600℃以上675℃以下で実施される、製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の磁石用原料の窒化物を含む、磁石。」

2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和1年10月30日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1.(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

●理由1(新規性)について
・請求項1、3及び5:引用文献1又は2
●理由2(進歩性)について
・請求項2:引用文献1及び2

引用文献1:L. Schultz et al.、Structural and hard magnetic properties of rapidly solidified Sm-Fe-N、Journal of Applied Physics、1991年、第70巻、第3188頁ないし第3196頁(甲第1号証)
引用文献2:入山恭彦 ほか、超急冷法により作製したSmFeNの構造と磁気特性、電気製鋼、2002年10月、第73巻4号、第235頁ないし第242頁(甲第2号証)

(2)引用文献の記載
ア.引用文献1
引用文献1には、「Structural and hard magnetic properties of rapidly solidifiedSm-Fe-N」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、括弧内で示した仮訳は、異議申立人の提出した抄訳を元に当審で作成したものである(仮訳中の下線は当審で付与した。)。
(ア)「Structural andhard magnetic properties of rapidly solidified Sm-Fe-N」(第3188頁、タイトル)
(急速固化Sm-Fe-Nの構造及び硬磁性)

(イ)「II. EXPERIMENT
Starting from elemental Sm and Fe (purity 99.5% and 99.9%, respectively), Sm_(X)Fe_(100-x) precursorswere melted under Argon using an arc furnace. The samples were remelted for atleast five times to achieve homogeneity. Weight losses during the melting wererelated to the evaporation of Sm and compensated by starting with an excess ofabout 30 wt % Sm (respective to the Sm content). Rapidly quenched ribbons were prepared byconventional melt spinning onto a rotating Cu-disk (200 mm diameter) in argon atmosphere using surface velocities of up to 60 m/s.
For annealing at temperatures below 700 ℃ the ribbons were sealed in argon filled quartz tubes. Tominimize the Sm losses due to evaporation at higher annealing temperatures, thesamples were placed into a crucible made of a compact piece of Sm_(2)Fe_(17)which was also sealed in an argon filled quartz tube. Before the nitrogenationtreatment the ribbons were ground to a particle size smaller then 20μm. Amounts of approximately 100 mg were nitrided in N_(2)-filledquartz tubes (pressure: 900 mbar, volume: about 30 cm^(3)) for several hours at temperatures between400 and 550℃.
X-ray diffraction analysis was performed witha Siemens D-500 diffractometer using CuKα radiation. The peak positions were obtained by fitting Kα_(1), Kα_(2) doublets to theexperimental data. The lattice parameters of the Th_(2)Zn_(17)structure were refined using at least the (113), (300), (223), and the (333) Bragg peaks [TbCu_(7): (101), (110), (201), and (301)], which are always clearly resolved and do not overlap with adjacentpeaks.
Magnetization measurements were performed atroom temperature on resin-bonded samples and at elevated temperatures oncold-pressed compacts in a vibrating sample magnetometer. The maximum field was7.5 T and the highest temperature 700 ℃. The magnetization values were related only to the magnetic powderneglecting the dilutional effect of the resin or the pores in the compacts.
Following abbreviations and notations wereused throughout the text: Sm_(2)Fe_(17) and Sm_(2)Fe_(17)N_(x),always refer to results on homogenized powders reported in Ref. 17. Rapidlyquenched samples are characterized by their nominal composition like Sm_(10.6)Fes_(89.4)and Sm_(10.6)Fe_(89.4)N_(x). To describe the structureor a certain stoichiometry of a compound the abbreviations 1:2, 1:3, 2:17 and1:12 were used for the MgCu_(2), the PuNi_(3), the Th_(2)Zn_(17),and the ThMn_(12) structures, respectively. For samples, crystallizingin the TbCu_(7) structure, we use the abbreviation 1:9 because this isthe stoichiometry where the TbCu_(7) structure is observed single phasein rapidly quenched samples. The corresponding nitrides are denominated like2:17:N and 1:9:N.」(第3188頁及び第3189頁、第2章)
(2.実験
SmとFe元素(それぞれ99.5%と99.9%の純度)を用い、Sm_(x)Fe_(100-x)前駆体はアーク炉を用いてアルゴン雰囲気下で溶融された。サンプルは、均質にするために最低5回再溶融された。溶融中の質量減少は、Smの蒸発に関連し、約30質量%の過剰なSm(それぞれのSm含有量に対して)を用いることで補われた。超急冷リボンは、表面速度が60m/s以下で回転するCuディスク(直径200mm)に従来のメルトスピニング法をアルゴン雰囲気下で行うことで得られた。
700℃以下のアニーリングにおいては、アルゴンが満たされたクオーツチューブに超急冷リボンは入れられた。より高温でアニーリングを行う場合には、Smの蒸発によるSmの減少を抑えるため、Sm_(2)Fe_(17)の小片から作られたるつぼの中にサンプルは設置された。るつぼも、アルゴンが満たされたクオーツチューブに入れられた。窒化処理の前に、20μm以下の粒径となるように、リボンは粉砕された。窒素が満たされたクオーツチューブにおいて、400から550℃の間の温度で数時間かけて、約100mgの量が窒化された(圧力:900mbar、体積:約30cm^(3))。
X線回折法は、Simens D-500回折装置を、特性X線にCuKαを用いて行われた。回折ピークの位置決めは、Kα_(1)とKα_(2)のダブレットを実験データに対して帰属することで行った。Th_(2)Zn_(17)構造の格子定数は、少なくとも(113)、(300)、(223)及び(333)ブラッグピーク[TbCu_(7):(101)、(110)、(201)及び(301)]を用いて調整された。これらのブラッグピークは、常に明確に見分けられ、隣接ピークと被らない。
磁化測定は、常温では樹脂により接着されたサンプルに、高温では低温で圧縮されたコンパクトに対して、試料振動型磁力計を用いて行われた。磁束密度の最大値は7.5Tとし、最高温度は700℃とした。磁化の値は、磁化された粉末にのみ関係し、樹脂やコンパクトの孔の希釈効果は無視できる。
以下の略称や記載方法は論文中にわたって用いられる。Sm_(2)Fe_(17)とSm_(2)Fe_(17)N_(x)は、参考文献17にて報告された均質にされた粉末の結果を常に参照する。超急冷法のサンプルは、Sm_(10.6)Fe_(89.4)及びSm_(10.6)Fe_(89.4)N_(x)のように組成式で表させる。化合物の構造やある化学量論を示す際には、MgCu_(2)、PuNi_(3)、Th_(2)Zn_(17)及びThMn_(12)型の結晶構造それぞれに、1:2、1:3、2:17及び1:12の略称が用いられる。例えば、TbCu_(7)型の結晶構造の結晶化では、我々は1:9の略称を用いるが、これは、超急冷法のサンプルにおいてTbCu_(7)構造が単相で観察されるのがこの化学量論だからである。対応する窒化物は、2:17:Nや1:9:Nのように称される。)

(ウ)「

」(第3189頁、図1)
(図1.急速冷却の(a)Sm_(12)Fe_(88)、(b)Sm_(10.6)Fe_(89.4)及び(c)Sm_(10)Fe_(90)のX線回折パターン。全てのサンプルはv_(s)=30m/sで冷却された。)

(エ)「

」(第3190頁、表1)
(表1.均一Sm_(2)Fe_(17)、種々の急速冷却Sm-Fe合金(v_(s)=30m/s)及び仮想のSmFe_(12)(Th_(2)Zn_(17)及びThMn_(12)構造のデータは対応するサブセルとして与えられる)の構造、結晶対称性、格子定数aとc、単位セル体積V及び軸比c/a。)

(オ)「In the x-ray diffraction patterns ofrapidly quenched Sm_(10.6)Fe_(89.4) and Sm_(10)Fe_(90)the superstructure reflections, which are related to the Th_(2)Zn_(17)structure, are missing [Fig 1 (b) and (c)].」(第3190頁、表1の下4行)
(急冷されたSm_(10.6)Fe_(89.4)及びSm_(10)Fe_(90)のX線回折のパターンでは、Th_(2)Zn_(17)型の結晶構造に由来する超構造の回折が観測されない。[図1(b)及び(c)])

(カ)「

」(第3193頁、表4)
(表4.いくつかのSm-Fe-N化合物の構造及び固有磁気特性。Th_(2)Zn_(17)型化合物の値は参考文献17から得られた。Sm_(10.6)Fe_(89.4)及びSm_(10.6)Fe_(89.4)N_(x)は、それぞれ、(v_(s)=30m/sで)冷却されたものと、その後に窒化されたサンプルの値である。)

・上記(ア)、(イ)、(エ)及び(カ)によれば、急速冷却Sm-Fe合金のSm_(10.6)Fe_(89.4)は、窒化して固有磁気特性を有するSm_(10.6)Fe_(89.4)N_(x)を得るものである。
・上記(エ)によれば、表中のSm_(10.6)Fe_(89.4)は、TbCu_(7)型の結晶構造である。
・上記(ウ)及び(オ)によれば、Sm_(10.6)Fe_(89.4)は、X線回析において結晶構造に基づくピークが観測されるが、Th_(2)Zn_(17)型の結晶構造に由来する超構造の回折が観測されないものである。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「窒化して固有磁気特性を有するSm_(10.6)Fe_(89.4)N_(x)を得る、急速冷却Sm-Fe合金のSm_(10.6)Fe_(89.4)であって、前記Sm_(10.6)Fe_(89.4)は、TbCu_(7)型の結晶構造であり、X線回析において結晶構造に基づくピークが観測されるが、Th_(2)Zn_(17)型の結晶構造に由来する超構造の回折が観測されない、Sm_(10.6)Fe_(89.4)。」

イ.引用文献2
引用文献2には、「超急冷法により作製したSmFeNの構造と磁気特性」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
(ア)「超急冷法により作製したSmFeNの構造と磁気特性」(第235頁、タイトル)

(イ)「2.実験方法
Fig.1にSm-Fe-N系粉末の作製方法を示す.超急冷リボンは,Ar雰囲気中で回転するCu製単ロールに溶湯を射出することで作製した.このとき,ロール周速は15から45m/sという実用的な範囲で変化させた.作製したリボンをピンミルを用いて粉砕し,300μm以下の粉末を得た.こうして得られた粉末に対しAr雰囲気中で熱処理を施した.このとき,温度を993Kから1053Kの範囲で変化させた.熱処理時間は10分に固定した.その後,723 Kにおいて粉末の窒化処理を行った.圧縮成形ボンド磁石の作製は,粉末と2wt%のエポキシ樹脂を混合し,12ton/cm^(2)でプレス成形することで作製した.
結晶構造および格子定数は,Co-Kα線を使用したX線回折により調査した.」(第236頁、第2章)

(ウ)「

」(第236頁、図1)

(エ)「

」(第236頁、図2)

(オ)「3.結果および考察
3.1 Sm-Fe 系超急冷材料の結晶構造
3.1.1 ロール周速と結晶構造の関係
Fig.2にSm_(10)Fe_(90)の組成にて,15m/sから45m/sの間でロール周速を変化させて作製した超急冷粉末のX線回折図を示す.なお,図中(a)の▽はTbCu_(7)型構造の回折ピークを示し,(c),(d)においてTbCu_(7)型に該当しない回折ピークはTh_(2)Zn_(17)型構造である.ロール周速が15m/sの時にはTh_(2)Zn_(17)構造単相となっているが,30m/s以上では結晶構造はTbCu_(7)構造単相であり,その中間である25 m/sではTh_(2)Zn_(17)構造の回折ピークが15m/sの時と比べ不明瞭となっていることがわかる.この結果から,冷却速度が比較的小さい15m/sの場合には平衡相であるTh_(2)Zn_(17)構造(菱面体晶)のSm_(2)Fe_(17)が生成する一方,それよりも大きな冷却速度の時には非平衡相であるTbCu_(7)構造(六方晶)が生成することがわかる.」(第236頁及び第237頁、第3.1.1章)

(カ)「3.1.2 Sm-Fe 比と結晶構造の関係
Fig.3にロール周速を30m/s一定としてSm_(x)Fe_(100-x)をx=8.7-10.0の間で変化させて作製した超急冷粉末のX線回折図を示す.9.5≦x≦10.0の範囲ではTbCu_(7)単相であるが,8.7≦x≦9.0では若干のα-Feのピークが確認された.」(第237頁、第3.1.2章)

(キ)「

」(第237頁、図3)

(ク)「3.2.2 Sm-Fe組成比と磁気特性
ロール周速40m/sの条件でx=9.1から9.5と組成を変化させた粉末を1023Kで熱処理したもの,および窒化処理したものの磁気特性の変化をFig.7 に示す.
・・・(中略)・・・
x=9.2の試料粉末について熱処理後のSEM像をFig.8に示す.この写真から100-300nm程度の六角形状の結晶粒が一様に均一に析出していること確認された.一般に等方性希土類磁石粉末材料において,600kA/m以上の高い保磁力を有するには,結晶粒径は数10nm程度であることが必要とされているが^(20)),今回の結果では数100nmの結晶粒径であるにもかかわらず600kA/m以上の保磁力が得られている.本試料は比較的大きな結晶粒径からなるものの,その分布が均一であるために高保磁力を示すと推定している.」(第238頁及び第239頁、第3.2.2章)

・上記(ア)ないし(ウ)によれば、超急冷粉末(超急冷リボンを粉砕して得た粉末)を熱処理し、窒化処理して磁石が作製されるものである。
・上記(エ)ないし(ク)によれば、ロール周速を30m/s以上として作製したSm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末は、X線回折においてTbCu_(7)型構造の回折ピークを示し、結晶構造がTbCu_(7)構造単相である。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「ロール周速を30m/s以上として作製したSm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末は、X線回折においてTbCu_(7)型構造の回折ピークを示し、結晶構造がTbCu_(7)構造単相であり、窒化処理して磁石が作製されるものである、Sm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末。」

(3)異議申立人が提示された各甲号証の記載
ア.甲第1号証(引用文献1)
甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明(引用発明1)は、上記「(2)ア.」に記載したとおりである。

イ.甲第2号証(引用文献2)
甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明(引用発明2)は、上記「(2)イ.」に記載したとおりである。

ウ.甲第3号証(T. Hidaka et al.、Magnetic properties of rapidly quenchedhigh remanence Zr added Sm-Fe-N isotropic powders、Appl.Phys. Lett.、1995年、第67巻、第3197頁ないし第3199頁)
甲第3号証には、「Magnetic properties of rapidly quenched high remanence Zradded Sm-Fe-N isotropic powders」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
(ア)「Alloys of compositions: (5-10) at.% Sm-(0-4)% Zr- (0-10)%Co- (95-76)% Fe were prepared by first induction melting and then rapidlyquenching in argon atmosphere. A single roll melt spinner was used with thesubstrate velocity of 50 m/s. Heat treatment in order to form a nanoscalemixture of SmFe_(7)N_(x) and α-Fe was carried out on the overquenchedpowder samples with a particle size of less than 100 μm.The heat treatment was performed in the range of 700-750℃ which is above the crystallization temperatures of SmFe_(7)and α-Fe phases determined by differential thermal analysis.After heat treatment, powders were nitrogenated at about 450℃. The nitrogen contents were measured by mass analysis of gasevolved from high-temperature molten alloys. X-ray diffraction analyses werecarried out with Cu Kα radiation. TEM observation wasmade with JEOL JEM-2000FX electron microscope.」(第3197頁、左欄)
(組成:(5-10)at.%Sm-(0-4)%Zr-(0-10)%Co-(95-76)%Feである合金は、まず誘導融解を行い、アルゴン雰囲気下で超急冷法を行うことで準備された。単ロールメルトスピナーは、基板速度が50m/sの条件で用いられた。SmFe_(7)N_(x)及びα-Feのナノスケールの混合物を形成するために、100μm以下の粒径である超急冷した粉末のサンプルを熱処理した。熱処理は、700-750℃の範囲で行われた。この温度は、SmFe_(7)及びα-Fe相の結晶化温度より高く、示差熱分析により決定される。熱処理の後、約450℃で粉末は窒化された。ガス質量分析により、高温の溶融合金の窒素の含有量は測定された。X線回折は、特性X線としてCuKαを用いて行われた。TEM観察は、JEOL JEM-2000FX electron microscopeを用いて行われた。)

(イ)「TEM for a Sm_(7)Zr_(3)Fe_(90)-N alloy revealed that the typical grain sizeafter heat treatment and nitrogenation is in the size of 20-30 nm as is seen in Fig. 6. These smallcrystal sizes of two phase mixtures with α-Fe and SmFe_(7) are thought to prompt exchange couplingat interphase boundaries, and then about 15 vol% of α-Fe phase was observed.」(第3198頁、右欄)
(Sm_(7)Zr_(3)Fe_(90)-N合金に対するTEM観察により、熱処理と窒化処理の後の典型的な粒径は、Fig.6からわかるように、20-30nmの大きさであることが明らかになった。α-FeとSmFe_(7)との混合2相のそれらの小さい結晶粒径は、相境界における交換結合を促進すると考えられ、そして、約15体積%のα-Fe相が観察された。)

上記(ア)及び(イ)によれば、甲第3号証には、「Sm_(7)Zr_(3)Fe_(90)-N合金に対するTEM観察により、熱処理と窒化処理の後の典型的な粒径は、20-30nmの大きさである」技術事項が記載されている。

(4)当審の判断
ア.請求項1に係る発明について
(ア)本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
a.引用発明1の「Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、SmとFeの二種類の成分原子から成る合金であり、本件特許発明1の「Sm-Fe二元系合金」に相当する。

b.引用発明1の「固有磁気特性を有するSm_(10.6)Fe_(89.4)N_(x)」は本件特許発明1の「磁石」に相当するから、これを得るための引用発明1の「Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、本件特許発明1の「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料」に相当する。

c.引用発明1の「Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、TbCu_(7)型の結晶構造であるから、本件特許発明1の「SmFe_(7)」に相当する。また、引用発明1の「Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、X線回析で結晶構造に基づくピークが観測されることから、SmFe_(7)(110)ピークが観測されると認められる。そして、引用発明1の「Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、X線回析においてTh_(2)Zn_(17)型の結晶構造に由来する超構造の回折が観測されないことから、Sm_(2)Fe_(17)(024)ピークはゼロと認められる。
してみると、引用発明1の「TbCu_(7)型の結晶構造であり、X線回析において結晶構造に基づくピークが観測されるが、Th_(2)Zn_(17)型の結晶構造に由来する超構造の回折が観測されない、Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、本件特許発明1の「X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満である、磁石用原料」に相当する。

d.引用発明1の「Sm_(10.6)Fe_(89.4)」は、Sm含有量が10.6at%である。
してみると、磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量について、本件特許発明1は「11at%以上14at%以下である」のに対し、引用発明1は「10.6at%」である点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明1とは、
「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料であって、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満である、磁石用原料。」の点で一致し、
以下の点で相違する。

<相違点1>
磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量について、本件特許発明1は「11at%以上14at%以下である」のに対し、引用発明1は「10.6at%」である点。

よって、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。したがって、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

次に容易性の判断のため、上記<相違点1>について検討する。
引用文献1(上記「(2)ア.(ウ)及び(エ)」を参照。)には、SmとFeとの総量に対するSm含有量が12at%であるSm_(12)Fe_(88)が記載されているものの、当該Sm_(12)Fe_(88)は、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満となるものではない。そのため、引用文献1から上記相違点1の構成を想起することは、当業者といえども容易になしうるものではない。
そして、上記相違点1の構成は、引用文献2及び甲第3号証にも記載されておらず、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(イ)本件特許発明1と引用発明2との対比・判断
a.引用発明2の「Sm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末」は、SmとFeの二種類の成分原子から成る合金であり、本件特許発明1の「Sm-Fe二元系合金」に相当する。また、引用発明2の超急冷粉末は、窒化処理して磁石が作製されるものであるから、引用発明2の「Sm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末」は、本件特許発明1の「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料」に相当する。

b.引用発明2の「ロール周速を30m/s以上として作製したSm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末」は、X線回折においてTbCu_(7)型構造の回折ピークを示すことから、SmFe_(7)(110)ピークを示すと認められる。また、引用発明2の「ロール周速を30m/s以上として作製したSm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末」は、結晶構造がTbCu_(7)構造単相であることから、Sm_(2)Fe_(17)(024)ピークはゼロと認められる。
してみると、引用発明2の「X線回折においてTbCu_(7)型構造の回折ピークを示し、結晶構造がTbCu_(7)構造単相であ」る、「ロール周速を30m/s以上として作製したSm_(10)Fe_(90)の超急冷粉末」は、本件特許発明1の「X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満である、磁石用原料」に相当する。

c.引用発明2の「Sm_(10)Fe_(90)」は、Sm含有量が10at%である。
してみると、磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量について、本件特許発明1は「11at%以上14at%以下である」のに対し、引用発明2は「10at%」である点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明2とは、
「Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料であって、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満である、磁石用原料。」の点で一致し、
以下の点で相違する。

<相違点2>
磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量について、本件特許発明1は「11at%以上14at%以下である」のに対し、引用発明2は「10at%」である点。

よって、請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。したがって、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

上記<相違点2>について検討する。
引用文献2(上記「(2)イ.(カ)及び(キ)」を参照。)には、SmとFeとの総量に対するSm含有量を8.7at%以上10at%以下としたSm_(x)Fe_(100-x)が記載されているものの、当該Sm含有量を11at%以上14at%以下とすることは記載されておらず、さらに、当該Sm含有量を11at%以上14at%以下とする合理的な動機付けも存在しない。そのため、引用文献2から上記相違点2の構成を想起することは、当業者といえども容易になしうるものではない。
そして、上記相違点2の構成は、引用文献1及び甲第3号証にも記載されておらず、請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明並びに引用文献1及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ.請求項2及び5に係る発明について
請求項2及び5に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに限定した構成を追加したものである。よって、上記ア.に示した理由と同様の理由により、請求項2及び5に係る発明は、特許法第29条第1項及び同法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

3.その他の特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
特許法第36条第6項第1号
・請求項1-5
本件特許請求項1においては、SmFe_(7)相に対してSm_(2)Fe_(17)相が極めて少ないことのみが規定されており、磁石用原料全体に占めるSmFe_(7)相自体の割合が規定されておらず、本件特許請求項1の磁石用原料には、SmFe_(2)相やSmFe_(3)相等のSmFe_(7)相以外の相を大量に含み、SmFe_(7)相の割合が小さい磁石用原料が含まれる。本件特許明細書の記載によれば、SmFe_(7)相以外の相を大量に含み、SmFe_(7)相の割合が小さい磁石用原料により課題が解決されるとは認識できない(特許異議申立書第5頁下から第1行ないし第9行)。

(2)当審の判断
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。

本件特許明細書には以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア.「【0007】
【特許文献1】特開平10-312918号公報
【特許文献2】特許第3715573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、窒化することで優れた磁石特性を有する磁石が得られる、磁石用原料およびその製造方法、ならびに磁石を提供することを目的とする。」

イ.「【0009】
SmおよびFeを含む磁石用原料において、SmおよびFeは二元系の成分(Sm-Fe二元系合金を形成する。この系がTbCu_(7)型の結晶構造を有するSmFe_(7)相のみからなる磁石用原料は、窒化後の飽和磁束密度理論値が1.7Tと高く、またキュリー温度もSm_(2)Fe_(17)N_(x)化合物の476℃を凌ぐ520℃となる。本発明者は、Sm-Fe二元系合金においてSmFe_(7)相が占める割合が非常に高い磁石用原料を窒化することによって、優れた磁石特性を有する磁石が得られることを見出した。」

ウ.「【0030】
上記のDR処理において、処理温度は600℃以上675℃以下、好ましくは600℃以上650℃以下である。当該処理温度を調節することで、脱水素・再結合反応の速度を調節することができ、この処理温度範囲を用いることで、DR反応の温度が高すぎる場合に生じる、Sm_(2)Fe_(17)相への変態を防ぐことができる。
【0031】
上記のDR処理において、加温時間は5分以上60分以下、好ましくは5分以上30分以下である。この加温時間を用いることで、長時間加熱した場合に生じる、粒成長およびSm_(2)Fe_(17)相への変態を避けることができ、保持力低下を防ぐことができる。
【0032】
上記の水素化・分解反応、脱水素・再結合反応の一連の処理方法を、HDDR法という。かかるHDDR法により、磁石用原料の粉末状の母材を処理することにより、Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高い磁石用原料を得ることができる。
・・・(中略)・・・
【0039】
上記(1)?(3)の処理を含む方法により得られた本発明の磁石は、Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高いため、磁束密度が高い。」

エ.「【0044】
(評価)
・X線回折法による解析
上記で得られた実施例1?12および比較例13?15の磁石用原料の各々について、X線回折装置(スペクトリス社製Empyrean)、およびX線検出装置(スペクトリス社製Pixcel 1D)を用いて、ステップ幅を0.013°、ステップ時間を20.4秒として磁石粉末の回折強度を測定し、SmFe_(7)(110)ピーク強度(I_(1))に対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度(I_(2))の比(I_(2)/I_(1))を求めた。結果を表1に併せて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、実施例1?12において、得られた磁石用原料のSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度は検出の限界値を下回るため、SmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比は0.000となり、本発明に従って、Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相が占める割合が非常に高い磁石用原料が得られたことが確認された。
【0047】
また比較例13?15において、得られた磁石用原料のSmFe7(110)ピークに対するSm2Fe17(024)ピークの強度比は、DR処理温度が高いほど増加しており、DR処理温度の上昇に伴うSm2Fe17相率の増加が確認された。」

上記ウ.には、Sm_(2)Fe_(17)相への変態を防ぐことで、「Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高い磁石用原料」を得ることが記載されており、上記エ.には、当該「Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高い磁石用原料」として、「X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満の磁石用原料」が記載されている。よって、請求項1に記載された「X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満であ」「る、磁石用原料」という発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、上記イ.によれば、当該「Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高い磁石用原料」は、窒化することで優れた磁石特性を有する磁石が得られるものであるから、当業者であれば、請求項1に記載された「X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満であ」「る、磁石用原料」という発明特定事項は、上述のように、「Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高い磁石用原料」であるので、「窒化することで優れた磁石特性を有する磁石が得られる磁石用原料を提供する」という課題(上記ア.を参照。)を解決できると認識できるものである。
したがって、請求項1の記載は、サポート要件に適合するものであり、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。また、請求項2、4及び5の記載についても、同様の理由により、サポート要件に適合するものであり、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

この点について、異議申立人は、特許異議申立書にて「本件特許請求項1においては、SmFe_(7)相に対してSm_(2)Fe_(17)相が極めて少ないことのみが規定されており、磁石用原料全体に占めるSmFe_(7)相自体の割合が規定されておらず、本件特許請求項1の磁石用原料には、SmFe_(2)相やSmFe_(3)相等のSmFe_(7)相以外の相を大量に含み、SmFe_(7)相の割合が小さい磁石用原料が含まれる。・・・(中略)・・・そうすると、当業者は、SmFe_(7)相以外の相を大量に含み、SmFe_(7)相の割合が小さい磁石用原料が本件特許発明の課題を解決できるとは認識できない。従って、本件特許発明1及び、本件特許請求項1を引用する本件特許発明2-5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである(特許法第36条第6項第1号違反)。」旨を主張している(特許異議申立書第23頁第17行ないし第24頁第20行)。
そこで、異議申立人の主張を検討する。本件特許明細書には、「窒化することで優れた磁石特性を有する磁石が得られる磁石用原料を提供する」という課題(上記ア.を参照。)を解決するために、Sm_(2)Fe_(17)相への変態を防いで、Sm-Fe二元系合金のSmFe_(7)相の割合が非常に高い磁石用原料である「X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満の磁石用原料」を得ることが記載されている。そうすると、該磁石用原料は、Sm_(2)Fe_(17)相への変態を防がなかった磁石用原料と比較して、SmFe_(7)相の割合が高いので、窒化することで優れた磁石特性を有する磁石が得られるのは明らかである(上記イ.を参照。)。よって、請求項1において磁石用原料全体に占めるSmFe_(7)相の割合が規定されていないからといって、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるとすることはできない。したがって、請求項1、2、4及び5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではなく、異議申立人の主張を採用することはできない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3は削除されたことから、申立ての対象が存在しないものとなった。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料であって、X線回折法で測定したSmFe_(7)(110)ピークに対するSm_(2)Fe_(17)(024)ピークの強度比が0.001未満であり、磁石用原料に含まれるSmとFeとの総量に対するSm含有量が11at%以上14at%以下である、磁石用原料。
【請求項2】
Sm-Fe二元系合金の平均結晶粒径が1μm以下の範囲にある、請求項1に記載の磁石用原料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1または2に記載の磁石用原料の製造方法であって、サマリウムと鉄の混合物を溶製することによって得られる磁石用原料の粉末状の母材を、水素吸収による分解反応および水素放出による再結合反応に付すことを含み、再結合反応が600℃以上675℃以下で実施される、製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の磁石用原料の窒化物を含む、磁石。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-30 
出願番号 特願2017-563790(P2017-563790)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01F)
P 1 651・ 121- YAA (H01F)
P 1 651・ 537- YAA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池田 安希子  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
佐々木 洋
登録日 2019-01-18 
登録番号 特許第6465448号(P6465448)
権利者 株式会社村田製作所 国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明の名称 Sm-Fe二元系合金を主成分とする磁石用原料およびその製造方法、ならびに磁石  
代理人 山尾 憲人  
代理人 鮫島 睦  
代理人 吉田 環  
代理人 山尾 憲人  
代理人 吉田 環  
代理人 鮫島 睦  
代理人 山尾 憲人  
代理人 吉田 環  
代理人 吉田 環  
代理人 山尾 憲人  

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