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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16J
審判 全部申し立て 発明同一  F16J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16J
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16J
管理番号 1363160
異議申立番号 異議2018-700895  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-08 
確定日 2020-04-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6320680号発明「配管シール用フッ素樹脂製ガスケット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6320680号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6320680号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6320680号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年3月29日に出願され、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月9日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年11月8日 :特許異議申立人河井清悦(以下、「申立人」
という。)による請求項1に係る特許に対す
る特許異議の申立て
平成31年2月8日付け :取消理由通知
平成31年4月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年6月4日付け :特許法第120条の5第5項の通知
令和1年7月9日 :申立人による意見書の提出
令和1年8月27日付け :取消理由通知(決定の予告)
令和1年10月31日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年11月15日付け:特許法第120条の5第5項の通知
令和1年12月19日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者によって令和1年10月31日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
なお、本件訂正請求によって、特許権者によって平成31年4月15日に提出された訂正請求書による訂正請求は取り下げられたものとみなされる(特許法第120条の5第7項)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂」とあるのを「鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「平均粒子径が40?150μm」とあるのを「平均粒子径が50?100μm」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「充填材としてガラス粒子、炭化ケイ素粒子およびアルミナ粒子から選ばれた粒子が用いられている」とあるのを「充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)である」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に記載の「配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケット」を「鋼フランジ間に装着」するものであると限定するとともに、「フッ素樹脂」を「発泡フッ素樹脂を除く」と限定すること、すなわち、いわゆる「除くクレーム」とするものであって、訂正前の請求項1に発明特定事項として記載されている「フッ素樹脂」という記載表現を残したままで、訂正前の請求項1に係る発明に包含される一部の事項のみ(「発泡フッ素樹脂」)をその請求項1に記載した事項から除外することを目的とするものである。
したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
「配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケット」を「鋼フランジ間に装着」するとした訂正事項は、願書に添付した明細書の段落【0037】の記載に基づいており、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。また、いわゆる除くクレームとすることによって、訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではない。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1に記載の「充填材」の平均粒子径を、訂正前の「40?150μm」から、訂正後の「50?100μm」に訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正後の50μm及び100μmの根拠は、願書に添付した明細書の段落【0019】等の記載に基づいており、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に発明特定事項として記載されている「充填材」について、当該充填材からアルミナ粒子を削除するとともに、訂正前の請求項1に発明特定事項として記載されている「選ばれた粒子」という記載表現を残したままで、充填材について、訂正前の請求項1に係る発明に包含される一部の事項のみ(「中空の粒子」)をその請求項1に記載した事項から除外することを目的とするものである。
したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項3によって、訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3 取消理由の概要
本件訂正請求による訂正の前の請求項1に係る特許に対して、当審が通知した令和1年8月27日付け取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

請求項1に係る発明は、甲1号証に記載された発明であるか、甲1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、請求項1に係る発明は、甲2号証に記載された発明であるか、甲2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
さらに、請求項1に係る発明は、甲5号証の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が当該出願の日前の日を優先日とし当該出願後に国際公開された外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一の者でもないので、本件発明の特許は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される同法第29条の2の規定に違反してされたものである。
くわえて、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消されるべきものである。

甲1号証:特開2003-261705号公報
甲2号証:特開平2-77483号公報
甲3号証:特開2010-78111号公報
甲4号証:特開平2-218784号公報
甲5号証:国際公開第2013/112518号
甲1号証?甲5号証は、それぞれ、申立人が提出した甲1号証?甲5号証である。

第4 当審の判断
1 本件発明(訂正後の請求項1に係る発明)
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
[本件発明]
「鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)および充填材を含有し、当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)であることを特徴とする配管シール用フッ素樹脂製ガスケット。」

2 刊行物の記載等
(1)甲2号証について
ア 甲2号証の記載
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲2号証(特開平2-77483号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「5重量%以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂,0.5?60重量%の粒径0.1μm以下である微粒子充填材および30重量%以上の無機質充填材を含み、ポリテトラフルオロエチレン樹脂がフィブリル化されており、微粒子充填材および無機質充填材がそのフィブリル間に存在していることを特徴とするシート状ガスケット材。」(特許請求の範囲)
(イ)「[産業上の利用分野]
本発明はシート状ガスケット材に関するものである。
[従来の技術]
従来、バルブ類、ポンプ類、配管用継手類、各種機器類などに用いるガスケット材としては、石綿を主成分とする石綿ジョイントシートガスケットがもっとも一般に知られている。」(第1頁左下欄下から6行?右下欄第2行)
(ウ)「本発明において、無機質充填材としては、耐熱性、耐薬品性に優れた無機質粉末、または粉末状無機質繊維が好ましく採用される。無機質粉末としては、平均粒径が100μm程度以下のものが好ましく採用される。かかる無機質充填材には、微粒子充填材は含まれない。平均粒径が大きすぎると、シート状ガスケット材とした時の表面平滑性が損なわれ、好ましくない。また、平均粒径の大きな無機質粉末では、シート状ガスケット材の緻密性が得られず、気孔率および気孔径が大きいものとなりシール性が充分でなくなり好ましくない。また、粒径の大きい硬質の無機質粉末を用いた場合に、成形時に成形装置を損傷することがあり好ましくない。さらに好ましくは、平均粒径0.1?70μm程度の無機質粉末である。また、無機質粉末として、粒径の異なる2種以上を混合使用すると充填効率が向上し、好ましい。かかる無機質粉末としては、ケイ素およびアルミニウムを主体とし、マグネシウム、鉄、アルカリ土類金属、アルカリ金属などを含む含水珪酸塩鉱物である一般に粘土と呼ばれるものやワラストナイトなどの天然鉱物粉末、シリカ、アルミナ、ガラス、酸化チタン、酸化鉄などの酸化物粉末、硼化ジルコニウム、窒化アルミ、窒化ケイ素、窒化硼素、炭化ジルコン、炭化ケイ素、炭化タングステンなどのセラミックス粉末、硫化ニッケル、硫酸ジルコニウム、二硫化モリブデンなどの硫化物粉末などが例示される。中でも、天然鉱物粉末が好ましく採用される。特に、カオリナイト、ハロイサイト、加水ハロイサイトなどに代表されるカオリン型の粘土が好ましい。」(第2頁左下欄第2行?右下欄第13行)
イ 甲2号証に記載の発明
上記甲2号証の各記載内容から、甲2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
[甲2発明]
「5重量%以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂、および、30重量%以上の無機質充填材を含み、無機質充填材が平均粒径100μm以下の、ガラス及び炭化ケイ素粉末から選ばれるシート状ガスケット材からなる配管用継手に用いるガスケット。」

(2)甲5号証について
ア 甲5号証の記載
取消理由通知(決定の予告)において引用した甲5号証(国際公開第2013/112518号)には、次の事項が記載されている(訳は、甲5号証に対応する日本特許出願の公表公報である特表2015-504967号公報を参考に当審で訳したものである。)。
(ア)「 1. A composition comprising
(i)tetrafluoroethene polymer selected from tetrafluoroethene homopolymer and tetrafluoroethene copolymers containing from 0 to 1.0 % by weight of comonomers other the tetrafluoroethene (based on the weight of the polymer);
(ii) fibers selected from carbon fibers, and fibers containing silicon nitrides, silicon carbides or inorganic oxides selected from silica or alumina, and combinations thereof;
(iii) particles containing inorganic oxides selected from silica and alumina and combinations thereof.」(Claim 1)
(訳 「請求項1
組成物であって、
(i)テトラフルオロエテンホモポリマー、及び、ポリマーの重量を基準として0重量%?1.0重量%のテトラフルオロエテン以外のコモノマーを含有するテトラフルオロエテンコポリマーから選択されるテトラフルオロエテンポリマーと、
(ii)炭素繊維、及び、窒化ケイ素、炭化ケイ素、又はシリカ若しくはアルミナ及びこれらの組み合わせから選択される無機酸化物を含有する繊維、から選択される繊維と、
(iii)シリカ及びアルミナ並びにこれらの組み合わせから選択される無機酸化物を含有する粒子と、を含む組成物。」)
(イ)「9. The composition according to any one of the preceding claims wherein the inorganic particles are glass particles.」(Claim 9)
(訳 「請求項9
前記無機粒子が、ガラス粒子である、前述の請求項いずれか一項に記載の組成物。」
(ウ)「Inorganic particles:(当審注:この下線は記載のまま)
Inorganic particles useful in the composition according to the present disclosure are particles containing inorganic materials. Examples of inorganic materials include but are not limited to silica and alumina (i.e. silicon oxides,aluminium oxides)and combinations thereof or mixed oxides like but not limited to aluminosilicates like for example glass and ceramics. The particles may be solid or hollow. Preferably,the particles are hollow(or gas-filled,which means filled with a gas other than air). Preferably, the particles are of low density,for example a density of 0.9 g/cm^(3)or lower,for example a density between 0.1 to 0.9 g/cm^(3),or between about 0.6 and 0.8 g/cm^(3). The density can be determined (according to ASTM D-2840-69)by weighing a sample of the particles and determining the volume of the sample with an air comparison pycnometer(such as a ACCUPYC 1330 Pycnomether or a Beckman Model 930) or simply by displacement of water. The particles may be hollow or solid. Preferably the particles are hollow to reduce their density. The particles may be of spherical or approximately spherical shape(microspheres). Preferably,the particles are hollow microspheres,more preferably hollow glass microspheres (available under the trade designation GLASS BUBBLES from 3M Company,St.Paul USA. Useful inorganic particles,may have a diameter or a length ranging from 8 μm to 70 μm. The average particle size of the particles may be from about 8 μm to about 70 μm (D50 value,determined by sieving.The D50 value is the value at which 50 vol% of the particles are retained by a sieve with the respective mesh size).
The particles preferably have a crush strength in excess of the anticipated pressures that may rise during manufacturing of articles. Examples of suitable average crush strengths for the inorganic particles include at least about 40 megapascals(MPa),or at least about 69 MPa(10.000psi),or even at least about 117 MPa(17.000psi) or even at least about 190 MPa(28.000psi). Average crush strengths can be measured,for example,according to ASTM D3102-72,with the exception that the sample size of the particles is 10 milliliters,the particles are dispersed in 20.6 grams of glycerol,and the data reduction is automated using computer software. The value reported is the hydrostatic pressure at which 20% by volume of the particles collapse (i.e., 80% survival).
The particles also desirably exhibit good average crush strength-to-density ratios.The average crush strength-to-density ratio of the particles can be calculated by dividing the average crush strength of the low-density microspheres by the density of the particles.The average crush strength can be measured pursuant to ASTM D3102-72 with the exceptions discussed above.Examples of suitable average crush strength-to-density ratios for the particles include at least 100 MPa-cm^(3)/g,preferably at least 200 MPa-cm^(3)/g,more preferably at least 300 MPa-cm^(3)/g.
Examples of particularly suitable inorganic particles include glass particles,for example microspheres commercially available from 3M Corporation,St.Paul,MN,USA,under the trade designations 3M GLASS BUBBLES S60 microspheres,having a density of 0.6 g/cm^(3),an average crush strength of about 69 MPa(10.000psi)and an average crush strength-to-density ratio of about 115 MPa-cm^(3)/g;3M GLASS BUBBLES S60HS microspheres,having a density of about 0.6 g/cm^(3),an average crush strength of about 124 MPa(18.000psi)and an average crush strength-to-density ratio of about 207 MPa-cm^(3)/g;3M GLASS BUBBLES K42HS,having a density of 0.42 g/cm^(3),an average crush strength of about 51 MPa and an average crush strength-to-density ratio of about 121 MPa-cm^(3)/g;and 3M iM30K Hi-Strength GLASS BUBBLES,having a density of 0.6 g/cm^(3),an average crush strength of about 191 MPa(28.000psi)and an average crush strength-to-density ratio of about 320 MPa-cm^(3)/g.
The inorganic particles are preferably used in the PTFE composition according to the present disclosure in amounts up to about 35 wt.%,or up to about 20 wt.%.Typical amounts include from about 1 wt.% up to about 15 wt.%,like from about 1.5 wt.% to about 10.5 wt.% based on the combined weight of PTFE,inorganic particles and inorganic fibers.」(第6頁第1行?第7頁第8行)
(訳 「無機粒子
本開示による組成物において有用な無機粒子は、無機材料を含有する粒子である。無機材料の例としては、限定されないが、シリカ及びアルミナ(すなわち、酸化ケイ素、酸化アルミナ)並びにこれらの組み合わせ、若しくは限定されないが、例えばガラス及びセラミックスなどのアルミノシリケートのような混合された酸化物が挙げられる。この粒子は中実又は中空であってもよい。好ましくは、この粒子は中空(又は空気以外のガスで満たされていることを意味するガス入りのもの)である。好ましくは、この粒子は、例えば0.9g/cm^(3)又はそれ以下の密度、例えば0.1?0.9g/cm^(3)の密度、又は約0.6?0.8g/cm^(3)の密度などの低密度のものである。この密度は、粒子の試料を秤量し、空気比較比重計(ACCUPYC 1330 Pycnomether又はBeckman Model 930など)を使用して、又は単純に水の置換によって、試料の体積を決定することで、(ASTM D-2840-69に従って)決定することが可能である。この粒子は、中空であっても又は中実であってもよい。好ましくは、この粒子は、それらの密度を低減するために中空である。この粒子は、球形状のもの又はおよそ球形状のもの(ミクロスフィア)であってもよい。好ましくは、この粒子は中空ミクロスフィアであり、より好ましくは中空ガラスミクロスフィア(商品名GLASS BUBBLESで3M Company,St.Paul USAから入手可能)である。有用な無機粒子は、8μm?70μmの範囲の直径又は長さを有し得る。この粒子の平均粒子サイズは、約8μm?約70μmであり得る(ふるい分けによって決定されたD50値。D50値は、粒子の50体積%が、対応のメッシュサイズを有するふるいによって保持されるときの値である)。
この粒子は、物品の製造時に上昇し得る予想圧力を上回る粉砕強度を有する。無機粒子の好適な平均破砕強度の例として、少なくとも約40メガパスカル(MPa)、又は少なくとも約69MPa(10.000psi)、又は更に少なくとも約117MPa(17.000psi)、又は更に少なくとも約190MPa(28.000psi)が挙げられる。平均破砕強度は、例えば、粒子の試料サイズが10ミリリットルであることを除いては、ASTM D3102-72に従って、粒子を20.6グラムのグリセロール中に分散させて測定することが可能であり、データ変換はコンピュータソフトウェアを使用して自動化されている。報告される値は、粒子の20体積%が圧潰する(すなわち、80%が非破壊)場合の流体静力学的な圧力である。
この粒子はまた、良好な平均破砕強度対密度比を呈することが望ましい。粒子の平均破砕強度対密度比は、低密度ミクロスフィアの平均破砕強度を粒子の密度で割ることによって計算することが可能である。平均破砕強度は、粒子の試料サイズが10ミリリットルであることを除いては、ASTM D3102-72に従って測定することが可能である。この粒子についての好適な平均破砕強度対密度比の例として、少なくとも100MPa-cm^(3)/g、好ましくは、少なくとも200MPa-cm^(3)/g、より好ましくは少なくとも300MPa-cm^(3)/gが挙げられる。
特に好適な無機粒子の例として、0.6g/cm^(3)の密度、約69MPa(10.000psi)の平均破砕強度、及び約115MPa-cm^(3)/gの平均破砕強度対密度比を有する、商品名3M GLASS BUBBLES S60ミクロスフィアで、3M Corporation,St.Paul MN USAから市販されているミクロスフィア;約0.6g/cm^(3)の密度、約124MPa(18.000psi)の平均破砕強度、及び約207MPa-cm^(3)/gの平均破砕強度対密度比を有する、3M GLASS BUBBLES S60HSミクロスフィア;0.42g/cm^(3)の密度、約51MPaの平均破砕強度、及び約121MPa-cm^(3)/gの平均破砕強度対密度比を有する3M GLASS BUBBLES K42HS;並びに0.6g/cm^(3)の密度、約191MPa(28.000psi)の平均破砕強度、及び約320MPa-cm^(3)/gの平均破砕強度対密度比を有する3M iM30K Hi-Strength GLASS BUBBLESなどのガラス粒子が挙げられる。
無機粒子は、好ましくは、最大約35重量%、又は最大約20重量%の量で、本開示によるPTFE組成物において使用される。典型的な量として、PTFE、無機粒子及び無機繊維を合わせた重量を基準として、約1重量%?最大約15重量%(例えば約1.5重量%?約10.5重量%など)が挙げられる。」
(エ)「Compression molding followed by sintering may be used to form the final article,or may be used to form intermediary articles that undergo subsequent machining. Examples of intermediary articles that may be formed include spheres,sheets and billets (i.e.,cylinders) that may be subsequently skived (i.e.,sliced and peeled) to form differently shaped articles,like O-rings,films and sheets.
The compositions according to the present disclosure may be used to form articles that are dimensionally stable and exhibit good compressive strengths by withstanding high levels of compressive forces as indicated,for example,by low deformation. The compositions provided herein also exhibit good tensile strengths to prevent or reduce tearing and puncturing. The compositions provided herein also have an increased wear resistance. This makes the compositions particularly suitable as gaskets or seals or as components thereof. Such gaskets or seals may be advantageously be used in dynamic application,i.e.as dynamic gaskets or seals. Dynamic seals or gaskets seal the junction between to surfaces (typically metal surfaces or plastic surfaces having similar mechanical rigidity than metals) of which at least one may be moving. The moving surface may exert frictional or other physical forces on the seal or gasket. The compositions are also resistant to hydrocarbon fumes and liquids, e.g.resistant to fuels for combustion engines or hydrocarbon-based lubricants.」(第9頁第14行?第28行)
(訳 「焼結の前の圧縮成形は、最終物品を形成するために用いてもよく、又は後続の機械加工を受ける中間物品を形成するために用いてもよい。形成され得る中間物品の例としては、引き続いてスカイブされ(すなわち、スライス及び剥離され)、O-リング、フィルム及びシートのような異なる成形物品に形成されることが可能である球形体、シート及びビレット(すなわち、円筒)が挙げられる。
本開示による組成物は、寸法安定性であり、例えば低い変形によって示されるような高レベルの圧縮力に耐えることによる良好な圧縮強度を呈する物品を形成するために使用することが可能である。本明細書で提供される組成物はまた、引裂き及び穿刺を防止又は低減するための良好な引張強度を呈する。本明細書に提供される組成物はまた、増大した耐摩耗性を有する。これにより組成物は、ガスケット若しくはシール材として、又はそれらの構成部品として特に適したものとなる。かかるガスケット又はシール材は、動的用途、すなわち、動的ガスケット又はシール材として好都合に使用することが可能である。動的シール材又はガスケットは、少なくとも1つが移動する可能性がある表面(典型的には、金属表面又は金属と類似した機械的な剛性を有するプラスチック表面)間の接合を封止する。移動表面は、摩擦力又はその他の物理的力をシール材又はガスケット材に及ぼす可能性がある。この組成物はまた、炭化水素の煙霧及び液体に対する耐性を有する(例えば、内燃エンジンの燃料又は炭化水素系潤滑剤に対する耐性を有する)。」

イ 甲5号証に記載された発明
上記甲5号証の各記載内容から、甲5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
[甲5発明]
「テトラフルオロエテンポリマー(PTFE)と、ガラスなどのアルミノシリケートのような混合された酸化物を含有する無機粒子とを含む組成物からなるガスケットであって、酸化物を含有する無機粒子の直径が8μm?70μmであり、最大約35重量%使用される、ガスケット。」

3 対比・判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 対比
本件発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明は、「5重量%以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂、および、30重量%以上の無機質充填材を含」むものであるから、フッ素樹脂製であるといえる。
甲2発明のシート状ガスケット材からなる配管用継手に用いるガスケットは、配管用継手に用いられるものであるから、配管同士の接続部をシールするために用いられるものであることは明らかである。
したがって、甲2発明の「シート状ガスケット材からなる配管用継手に用いるガスケット」は、本件発明の「鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケット」との対比において、「配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケット」の限度で共通する。
甲2発明の「ポリテトラフルオロエチレン樹脂」は、発泡であるとの特定がされていないことから、甲2発明の「5重量%以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂、および、30重量%以上の無機質充填材を含」むことは、本件発明の「フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)および充填材を含有」することに相当する。
甲2発明の「30重量%以上の無機質充填材を含」むことは、本件発明の「当該充填材の含有率が10?60質量%」であることと、その数値範囲が重複している。また、甲2発明の「無機質充填材が100μm以下の」「粉末」であることは、本件発明の「当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ」ることと、その数値範囲が重複している。さらに、甲2発明の「ガラス及び炭化ケイ素粉末」は、中空であるとの特定がされていないのであるから、本件発明の「ガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)」に相当する。
したがって、甲2発明の「30重量%以上の無機質充填材を含み、無機質充填材が100μm以下の、ガラス及び炭化ケイ素粉末から選ばれる」ことは、本件発明の「充填材を含有し、当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)である」ことに相当する。
以上のとおりであるので、本件発明と甲2発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)および充填材を含有し、当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)である配管シール用フッ素樹脂製ガスケット。」
[相違点1]
本件発明が、鋼フランジ間に装着するものであるのに対し、甲2発明は鋼フランジ間に装着するものであるとは特定されていない点。

イ 判断
配管にステンレス鋼管などの鋼管を使用することは、本件特許についての出願の出願時点において、当業者には周知・慣用であって、この場合、フランジも管本体と同じ材質である鋼から構成されることが通常であり、また、ガスケットを鋼フランジ間に装着することも周知・慣用である(必要ならば、特開2007-253519号公報の段落【0039】を参照。)。また、フランジを鋼と限定することによって格別な効果を奏するとも認められない。
したがって、本件発明において、配管シール用フッ素樹脂製ガスケットを鋼フランジ間に装着するものとした点は、単なる周知・慣用技術の付加であり、よって、甲2発明において相違点1に係る本件発明の構成と成すことは、上記周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に想到し得たものである。
なお、本件発明と甲2発明との間における、充填材の平均粒子径及び含有率の重複しない部分を相違点であると考えても、本件発明における充填材の平均粒子径及び含有率の、それぞれの上限値及び下限値に臨界的意義は認められず、他方、甲2号証には、前説示のとおり、フッ素樹脂製ガスケットにおいて、充填材の平均粒子径及び含有率を所定の数値範囲とすることが開示されているのであるから、それら平均粒子径及び含有率の具体的数値を、甲2号証に開示されている数値範囲に照らしつつ適宜設定しようとすることは、当業者が行いうる数値範囲の好適化にすぎない。
したがって、本件発明は、甲2発明及び周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)特許法第29条の2について
ア 対比
本件発明と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「テトラフルオロエテンポリマー(PTFE)」は、発泡であるとの特定がされていないことから、本件発明の「フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)」に相当する。
甲5発明の「ガスケット」は、本件発明の「ガスケット」に相当する。
したがって、甲5発明の「テトラフルオロエテンポリマー(PTFE)と」「を含む組成物からなるガスケット」は、本件発明の「鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)」「を含有する」「フッ素樹脂製ガスケット」との対比において、「フッ素樹脂製ガスケット」との限度で共通する。
甲5発明の「ガラスなどのアルミノシリケートのような混合された酸化物を含有する無機粒子」は、技術的、機能的にみて本件発明の「充填材」に相当する。
したがって、上記を踏まえると、甲5発明の「テトラフルオロエテンポリマー(PTFE)と、ガラスなどのアルミノシリケートのような混合された酸化物を含有する無機粒子とを含む組成物からなる」ことは、本件発明の「フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)および充填材を含有」することに相当する。
甲5発明の「酸化物を含有する無機粒子の直径が8μm?70μm」であることは、本件発明の「充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ」ることと、その数値範囲が重複している。また、甲5発明の「酸化物を含有する無機粒子」が「最大約35重量%使用される」ことは、本件発明の「当該充填材の含有率が10?60質量%」であることと、その数値範囲が重複している。さらに、甲5発明の「ガラスなどのアルミノシリケートのような混合された酸化物を含有する無機粒子とを含む」ことは、「この粒子は中実又は中空であってもよい。」(第6頁第5行、上記摘示2(2)ア(ウ)を参照。)ことから、本件発明の「当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)である」ことに相当する。
したがって、甲5発明の「ガラスなどのアルミノシリケートのような混合された酸化物を含有する無機粒子とを含」み、「酸化物を含有する無機粒子の直径が8μm?70μmであり、最大約35重量%使用される」ことは、本件発明の「当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)である」ことに相当する。
以上のとおりであるから、本件発明と甲5発明とは、
「フッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)および充填材を含有し、当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)であるフッ素樹脂製ガスケット」の点で一致し、次の相違点2で一応相違する。
[相違点2]
フッ素樹脂製ガスケットに関し、本件発明は、「鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられる」ものであるのに対し、甲5発明は、かかる特定がなされていない点。

イ 判断
相違点2について検討する。
ガスケットを、鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いることは、上記(1)イにて説示のとおり、本件特許についての出願の出願時点において、周知・慣用の技術であったものと認められるから、当該相違点2に係る本件発明の構成は、周知・慣用の技術の付加であり、また、それにより新たな効果を奏するとも認められないため、本件発明と甲5発明は実質同一である場合に該当する。

(3)特許法第36条第6項第1号について
本件発明は、「当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)である」という発明特定事項を有している。
これに対し、本件特許についての出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)に記載された実施例(実施例1?7)においては、充填材としてガラス粒子を用いたものが記載されているところ、実施例1?5では平均粒子径が50μm、含有率が5質量%、10質量%、20質量%、50質量%及び60質量%とされており、実施例6および7では、平均粒子径がそれぞれ30μm及び100μm、含有率が20質量%とされている。
一方、炭化ケイ素粒子については、平均粒子径が50μm、含有率が10質量%の場合(実施例8)のみである。
ここで、充填材を含有したフッ素樹脂製ガスケットに関する技術分野において、充填材の粒子径や含有率により、ガスケットの圧縮率やシール性が異なることはよく知られた技術的事項であるといえる。
(充填材の粒子径及び含有率によって、ガスケット中の充填材の粒子間の隙間に違いが生じ、また、ガスケットの表面性状にも違いが生じることから、充填材の粒子径及び含有率がガスケットの圧縮率やシール性に影響を及ぼすことは、当業者には明らかである。なお、甲1号証の段落【0014】?【0016】、【0020】及び【0027】、甲2号証の第2頁左下欄第7?13行及び第3頁左下欄第11?19行、甲3号証の段落【0015】を参照。)
そうしてみると、充填材として、平均粒子径が50μm以外のガラス粒子を用いた場合において、含有率が20質量%以外のときにも、「圧縮したときの圧縮率が高く、シール性に優れた配管シール用フッ素樹脂製ガスケットを提供すること」(本件明細書の段落【0007】)という課題を解決できることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない。また、充填材として炭化ケイ素粒子を用いた場合においては、平均粒子径が50μm以外のとき、あるいは、含有率が10質量%以外のときにも、上記課題を解決できることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない。
よって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものではない。
以上のとおりであるので、請求項1の記載は、その特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという、特許法第36条第6項第1号が規定する要件を満たさない。

(4)特許権者の主張について
ア 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項違反について
(ア)特許権者は、甲2号証を主引例とした特許法第29条第1項第3号及び同条第2項違反を理由とした取消理由に対して、概ね次のように主張する。
「・・・本件発明は、甲第2号証に具体的に記載されていない前記構成要件に基づいて、同号証に記載の発明から予期することができない格別顕著に優れた効果を奏すること、換言すれば、本件発明は、同号証に記載の発明に対して選択発明が成立することから、同号証に記載された発明ではないのみならず、当業者が同号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明ではない・・・」(令和1年10月31日付け意見書第8頁第15行?第11頁末行)
(イ)選択発明といえるためには、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明であることが前提であるところ、本件発明のような充填材を含有したフッ素樹脂製ガスケットの分野において、充填材の粒子径や含有率によりガスケットの圧縮率やシール性が異なることはよく知られた技術的事項であるといえることは上記(3)で述べたとおりであり、充填材の粒子径や含有率を変えることにより、ガスケットの圧縮率やシール性を異らしめるという作用効果は当業者には十分予測可能である。
したがって、本件発明は、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明とはいえず、本件発明が選択発明であることを前提とした特許権者の主張は採用できない。
(ウ)仮に、本件発明が選択発明であるといえるとしても、選択発明として進歩性が認められるためには、次の(i)?(iii)までの全てを満たす必要がある。
(i)その効果が刊行物等に記載又は掲載されていない有利なものであること。
(ii)その効果が刊行物等において上位概念又は選択肢で表現された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際立って優れたものであること。
(iii)その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。
しかしながら、前述のとおり、充填材を含有したフッ素樹脂製ガスケットの分野において、充填材の粒子径や含有率により、ガスケットの圧縮率やシール性が異なることはよく知られた技術的事項であるといえるから、充填材を含有したフッ素樹脂製ガスケットの圧縮率やシール性に関連する甲2号証に接した当業者が、充填材としての無機質粉末の一つとしてガラス粒子及び炭化ケイ素粒子を選択した発明を想到したとしても、その発明によって奏される作用効果は、甲2号証に具体的に記載された実施の形態で奏される作用効果に比べて、異質なものである、又は際立って優れたものであるとまではいえず、当業者であれば予測しうる程度のものである。
したがって、上記要件の(ii)及び(iii)を満たさない。
よって、仮に、本件発明が選択発明であるといえるとしても、選択発明として進歩性は認められず、特許権者の主張は採用できない。
(エ)上記の点(特に、効果の格別顕著性)について補足する。
特許権者は、甲2号証に記載されているシート状ガスケットに含有される無機充填材として、甲2号証に列挙されている選択肢の中から、特に、ガラス粒子又は炭化ケイ素粒子を選択することによって、甲2号証に具体的に記載された実施例に比べ、格別顕著に優れた効果を奏するものであると主張する(令和1年10月31日付け意見書第9頁第6行?第11頁第11行)。
しかしながら、本件特許は、「圧縮したときの圧縮率が高く、シール性に優れた配管シール用フッ素樹脂製ガスケットを提供すること」(本件明細書の段落【0007】を参照。)を課題として出願されたものであるところ、出願当初の特許請求の範囲の請求項1においては、充填材の種類については、無機、有機を含め何らの限定も付されていなかった。また、本件明細書の段落【0016】には、「無機充填材および有機充填材は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。」との記載、さらに、本件明細書の段落【0017】には、「無機充填材としては、・・・かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機充填材は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。」との記載がなされている。加えるに、本件明細書に記載された、実施例2、8、9及び10によれば、無機充填材としてガラス粒子、炭化ケイ素粒子、アルミナまたはシリカのいずれを用いても圧縮率、シール性の性能は同等であることを伺い知ることができる。
これらの記載に照らすに、無機充填材として特にガラス粒子及び炭化ケイ素粒子を選択することによる効果の格別顕著性の主張は、本件明細書(さらには、出願当初の特許請求の範囲の記載)に根拠を有しないものであるといわなければならない。
よって、無機充填材を含むフッ素樹脂製ガスケットにおいて、無機充填材として、甲2号証の実施例として挙げられていない、ガラス粒子又は炭化ケイ素粒子を選択することによって、甲2号証に具体的に記載された実施例に比べ、圧縮率及びシール性について格別顕著に優れた効果を奏するものであるとの特許権者の主張は採用できない。

イ 特許法第29条の2違反について
(ア)特許権者は、甲5号証を主引例とした特許法第29条の2違反を理由とした取消理由に対して、概ね次のように主張する。
「本件発明のガスケットは、請求項1に記載されているように、『鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケット』であります。
これに対して、・・・甲第5号証に記載のガスケット材は、『エンジン駆動用途に使用されるもの』であって、『鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるもの』ではありません。さらに、甲第5号証には、本件発明における、『鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるガスケット』に関する技術的思想が記載されていません。したがって、本件発明のガスケットの用途は、甲第5号証に記載のガスケットの用途と顕著に相違しているため、本件発明は、甲第5号証に記載された発明ではありません。また、本件発明では、ガスケットを鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いたとき、圧縮したときに圧縮率が高く、シール性に優れるという、甲第5号証に記載の発明のようなエンジン駆動用途に要求される性質・・・とは相違し、本件発明の用途に特有の格別顕著に優れた効果が奏されるのであります。・・・」(令和1年10月31日付け意見書第18頁第6行?第19頁第22行)
(イ)甲5号証の第9頁第21行?第24行には、「The compositions provided herein also have an increased wear resistance. This makes the compositions particularly suitable as gaskets or seals or as components thereof.Such gaskets or seals may be advantageously be used in dynamic application,i.e.as dynamic gaskets or seals.」と記載されているところ、gasketとは、静的ガスケットないし固定用シール材を含むことが一般的であること、また、同記載中において「gaskets」とは別に「dynamic gaskets」との語が用いられ、動的ガスケットを静的ガスケットないし固定用シール材を含む概念とは区別していることを示唆していること、また、「dynamic gaskets」として使用することは、好適例として示されていることからすれば、甲5発明を、エンジン駆動用途に使用されるものに限られるものと限定的に解釈することはできない。
そして、ガスケットを、鋼フランジ間に装着して、配管同士の接続部をシールするために用いることが、本件特許についての出願の出願時点において、周知・慣用の技術であったことは、前説示のとおりである。
そうすると、甲5発明を、鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いるよう構成することは、単なる周知・慣用技術の付加にすぎず、特許権者の主張を採用することはできない。

ウ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)特許権者は、特許法第36条第6項第1号の要件を充足しないとする取消理由に対して、概ね、次のように主張する。
「本件特許権者は、本書と同日付で提出の訂正請求書に添付の『訂正特許請求の範囲』に記載されているように、充填材の平均粒子径が50μm?100μmであり、その含有率が10質量%?60質量%であります。これに対して、本件明細書に記載の実施例では、充填材の平均粒子径が50μm(実施例1?5、8)?100μm(実施例7)であり、その含有率が10質量%(実施例2、8)?60質量%(実施例5)であります。したがって、本件発明における充填材の平均粒子径の範囲及び当該充填材の含有率の範囲は、いずれも実施例によってサポートされている範囲と同一であることから、本件特許は、取消理由4に該当するものではありません。・・・本件明細書の表1に記載されているとおり、・・・前記圧縮率は、ガラス繊維(充填材)の含有率が増大するにしたがって高くなるのであり、このことは、本件明細書の段落【0022】に記載の事項とも符合していることから、合理的に説明されています。したがって、『含有率が20質量%以外のときにも、圧縮率が高く、シール性が優れた配管シール用フッ素樹脂製ガスケットが得られることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない』旨のご指摘は、本件明細書の段落【0022】及び実施例2?5により、含有率が20質量%以外のときにも圧縮率が高い配管シール用フッ素樹脂製ガスケットが得られることが合理的に説明されているため、正しくありません。・・・本件明細書の表1に記載されているとおり、・・・炭化ケイ素粒子はこれと同一の粒子径を有するガラス粒子と同等の効果を奏することが本件明細書の実施例によって証明されているのであるから、ガラス粒子の代わりにこれと同一の粒子径を有する炭化ケイ素粒子を用いた場合には、当該ガラス粒子の含有率の範囲内(10?60質量%)で同等の効果を奏することが、実験データがなくとも自明であるため、実験を行わずとも合理的に説明されることをご指摘いたします。」(令和1年10月31日付け意見書第20頁第11行?第23頁第16行)
(イ)上記(3)で述べたように、本件明細書では、平均粒子径が50μm以外のガラス粒子に関し、含有率を違えた実施例が記載されているわけではない。また、含有率が20質量%以外のガラス粒子に関し、平均粒子径を違えた実施例が記載されているわけでもなく、しかも、比較例3、実施例6、実施例3、実施例7及び比較例4との関係から見て、平均粒子径の増大と圧縮率との関係は一様とはいえない。
したがって、たとえ、平均粒子径が50μmのガラス粒子を充填材とした場合の圧縮率が、ガラス粒子の含有率が増大するにしたがって高くなるといえるとしても、充填材として、平均粒子径が50μm以外のガラス粒子を用いた場合において、含有率が20質量%以外のときにも、圧縮率及びシール性(ここでは、特に圧縮率)に関し、課題を解決できることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない。
(ウ)また、平均粒子径が50μmのガラス粒子を充填材とした場合の含有率とシール性の関係、及び、含有率が20質量%のガラス粒子を充填材とした場合の平均粒子径とシール性の関係については、本件明細書の記載からは、一様な傾向を直ちに伺い知ることはできない。
そうしてみると、充填材として、平均粒子径が50μm以外のガラス粒子を用いた場合において、含有率が20質量%以外のときにも、圧縮率及びシール性(ここでは、特にシール性)に関し、課題を解決できることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない。
くわえて、本件発明のシール性について着目すれば、実施例5及び実施例7と実施例6、比較例1及び比較例3とを対比すれば、本件発明の発明特定事項を満たしたとしても、当該発明特定事項を満たさないものよりも劣るものとなっている(特に、実施例6と実施例7との対比では、発明特定事項を満たさない実施例6において圧縮率及びシール性の評価が両方「◎」であるのに対し、発明特定事項を満たす実施例7においてはシール性が「○」と劣っている)。
(エ)以上より、充填材として、平均粒子径が50μm以外のガラス粒子を用いた場合において、含有率が20質量%以外のときにも、圧縮率及びシール性に関し課題を解決できることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない。
(オ)上記(3)で述べたように、炭化ケイ素粒子については、平均粒子径が50μmで含有率が10質量%以外の実施例は記載されていない。実施例2と実施例8との対比から、仮に、ガラス粒子及び炭化ケイ素粒子が同一の又は共通する性質を有するといえるとしても、上記(ウ)で述べたと同様の理由により、充填材として、平均粒子径が50μm以外の炭化ケイ素粒子を用いた場合において、含有率が10質量%以外の場合において、圧縮率及びシール性に関し課題を解決できることが、本件明細書において合理的に説明されているとはいえない。
(カ)以上のとおりであるから、特許権者の主張は採用できない。
(キ)なお、特許権者は、特許法第36条第6項第1号の要件を満足しないとする取消理由に対して、次のようにも主張する。
「甲第1号証の特許である乙第3号証(特許第4005824号公報)を見ると、その請求項1に「PTFEフィブリルが5?65重量%及び無機充填材35?95重量%を含むこと」が記載されているのに対し、その実施例では表1に記載されているとおり、充填材の含有率が77?78重量部であることしか記載されておらず、充填材の粒子径及び含有率の全範囲について記載されているものとは認められないため、・・・乙第3号証の特許に無効理由が存在しているにもかかわらず、特許が成立しています。また、乙第4号証(特許第4909969号公報)の表4に記載の実施例、乙第5号証(特許第6345600号公報)の表1に記載の実施例、乙第6号証(特公平6-37617号公報)の第1表に記載の実施例でも、充填材の粒子径及び含有率がガスケットの圧縮率やシール性に影響を及ぼすことが考慮されていないにも拘わらず特許が成立している事実に鑑みれば、・・・これらの乙号証における審査・審理との公平性が担保されておらず、本件特許がこれらの乙号証における審査・審理とは差別を受けているような心証を受けたことをご指摘させて頂きます。」(令和1年10月31日付け意見書第23頁第24行?第24頁第13行)
(ク)特許審査・審理は案件毎に個別具体的になされるものであるから、事案を異にする乙3?6号証で示される案件との審査・審理との公平性が担保されていない旨の特許権者の主張は採用できない。
なお、乙3号証は、取消理由通知で甲1号証として引用されたものの特許公報であるので、念のために乙3号証について検討する。
乙3号証に記載の発明は、「耐熱性、耐薬品性、耐クリープ性が高く、シール性に優れ、且つ、成形性が良好なガスケットを提供すること」を目的として(段落【0004】を参照。)、かかる目的達成のために、PTFEフィブリル及び無機質充填材を所定量含むガスケットにおいて、無機質充填材をPTFEフィブリルの形成する三次元網目構造の網目間に略均一に分散させるという構成を採用したものと解される(段落【0005】)。
そして、特許請求の範囲の請求項1において、発明特定事項として、「前記PTFEフィブリルが互いに絡まり又は結合して三次元網目構造を形成するPTFE樹脂組成物であって」「前記無機質充填材が前記三次元網目構造の網目間に略均一に分散し」という、段落【0005】に記載した事項に対応する発明の目的達成のための手段が記載されている。
特許権者の上記主張は、こうした記載を措いて、充填材の含有率にのみ着目し、本件特許の場合と比較しようとするものであり、採用できるものではない。

第5 まとめ
以上のとおり、本件発明は、甲2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、本件発明は、甲5号証の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と実質同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が当該出願の日前の日を優先日とし当該出願後に国際公開がされた外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一の者でもない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される同法第29条の2の規定に違反してされたものでもある。
さらに、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもある。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼フランジ間に装着し、配管同士の接続部をシールするために用いられるフッ素樹脂製ガスケットであって、フッ素樹脂(ただし、発泡フッ素樹脂を除く)および充填材を含有し、当該充填材として平均粒子径が50?100μmの充填材が用いられ、当該充填材の含有率が10?60質量%であり、当該充填材がガラス粒子および炭化ケイ素粒子から選ばれた粒子(ただし、中空の粒子を除く)であることを特徴とする配管シール用フッ素樹脂製ガスケット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-12 
出願番号 特願2013-72110(P2013-72110)
審決分類 P 1 651・ 851- ZAA (F16J)
P 1 651・ 161- ZAA (F16J)
P 1 651・ 537- ZAA (F16J)
P 1 651・ 113- ZAA (F16J)
P 1 651・ 121- ZAA (F16J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山田 康孝佐々木 佳祐  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 尾崎 和寛
井上 信
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6320680号(P6320680)
権利者 株式会社バルカー
発明の名称 配管シール用フッ素樹脂製ガスケット  
代理人 赤松 善弘  
代理人 赤松 善弘  
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