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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1363168 |
異議申立番号 | 異議2019-700798 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-03 |
確定日 | 2020-05-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6494901号発明「炭酸飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6494901号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。 特許第6494901号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6494901号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年3月22日に出願され、平成31年3月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月3日に特許掲載公報が発行された。 その後、当該特許に対し、令和1年10月3日に笹井栄治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。 令和1年12月13日付け 取消理由通知 同2年 2月 6日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年 2月27日付け 通知書 同年 4月 2日 意見書の提出(特許異議申立人) 第2 訂正の適否 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年2月6日に訂正請求書を提出し、特許第6494901号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?4について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めた。 1 一群の請求項1?3に係る訂正 (1)訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)である、発酵乳および乳酸を含む清涼飲料水。」と記載されているのを、「乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)である、発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む清涼飲料水。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。) イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「乳成分として脱脂粉乳をさらに含む、請求項1または2に記載の清涼飲料水。」と記載されているのを、「炭酸ガス圧が3.0kg/cm^(2)以上である、請求項1または2に記載の清涼飲料水。」に訂正する。 (2)訂正の適否 ア 一群の請求項について 訂正事項1は請求項1を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?3は、直接的・間接的に本件訂正前の請求項1の記載を引用するものであるから、請求項1?3は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 そして、本件訂正の請求は、請求項1?3についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 イ 訂正事項1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1による訂正は、訂正前に脱脂粉乳を含むか否か何ら特定されていなかったのを、「発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む清涼飲料水」との記載により、清涼飲料水が脱脂粉乳を含むことを特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について 訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (ウ)新規事項の追加について 願書に添付した明細書には、以下の記載がある。 「【0011】 乳成分 乳成分を含む原料としては、その由来や加工の有無を特に限定するものではないが、具体的には例えば、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、調整粉乳、練乳、クリーム、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、バター、チーズ、濃縮乳、濃縮ホエイ、ホエイパウダーなどが挙げられる。本発明の炭酸飲料においては、乳のコクや味わい、さらには泡持ちの効果の面から、発酵乳が含まれることが好ましい。発酵乳を用いる場合、その量は特に限定されるものではないが、好ましくは、飲料中の発酵乳に由来する無脂乳固形分の量が0.05重量%以上、より好ましくは、0.5重量%以上である。」 上記のとおり、清涼飲料水が脱脂粉乳を含むことは、願書に添付した明細書に記載されている。 したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。 ウ 訂正事項2について (ア)訂正の目的について 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項3に「乳成分として脱脂粉乳をさらに含む、請求項1または2に記載の清涼飲料水」とあったのを、訂正後の請求項1を引用しつつ、「炭酸ガス圧が3.0kg/cm^(2)以上である」との記載により、清涼飲料水の炭酸ガス圧をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について 訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (ウ)新規事項の追加について 願書に添付した明細書には、以下の記載がある。 「【0014】 炭酸ガス圧 本発明の炭酸(二酸化炭素)ガスは、炭酸ガスの圧入、炭酸水などのあらかじめ炭酸ガスを含む液の混合など、通常の方法により飲料に含ませることができる。本明細書におけるガス圧とは、20℃における容器内ガス圧をいう。本発明の炭酸飲料のガス圧は1.5?4.0kg/cm^(2)、好ましくは2.0?4.0kg/cm^(2)、より好ましくは2.5?3.5kg/cm^(2)である。ガス圧が低過ぎると、本発明の泡立ち・泡持ちの効果が得られにくく、ガス圧が高過ぎると、炭酸の刺激により乳のまろやかな味わいが失われるおそれがある。」 また、願書に添付した明細書の【0029】には、表2に実施例13として、炭酸ガス圧が3.0kg/cm^(2)である清涼飲料水が示されている。 したがって、訂正事項2による訂正後の請求項3の「炭酸ガス圧が3.0kg/cm^(2)以上」について、その下限値は願書に添付した明細書に具体的に記載されているものであり、上限値は訂正後の請求項3が引用する訂正後の請求項1から「4.0kg/cm^(2)」であると認められ、その範囲は願書に添付した明細書に記載された1.5?4.0kg/cm^(2)に含まれるものである。 よって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。 (3)小括 以上から、一群の請求項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 2 請求項4に係る訂正 (1)訂正の内容 ア 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下になるように、発酵乳および乳酸を含む飲料を調整する工程と、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、を含む、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%である清涼飲料水の製造方法。」と記載されているのを、「乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下になるように、発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む飲料を調整する工程と、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、を含む、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%である清涼飲料水の製造方法。」に訂正する。 (2)訂正の適否 ア 訂正の目的について 訂正事項3による訂正は、製造方法の製造対象物である清涼飲料水について、訂正前に脱脂粉乳を含むか否か何ら特定されていなかったのを、「発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む飲料」との記載により、清涼飲料水が脱脂粉乳を含むことを特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について 訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 新規事項の追加について 上記1(2)イ(ウ)で述べたとおり、清涼飲料水が脱脂粉乳を含むことは、願書に添付した明細書に記載されている。 したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。 (3)小括 よって、請求項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 3 まとめ 以上のとおりであるから、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕及び4について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正後の本件特許の請求項1?4に係る発明は、令和2年2月6日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、請求項順に「本件発明1」?「本件発明4」ともいう。)である。 「【請求項1】 乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)である、発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む清涼飲料水。 【請求項2】 発酵乳由来の無脂乳固形分の量が0.05重量%以上である、請求項1に記載の清涼飲料水。 【請求項3】 炭酸ガス圧が3.0kg/cm^(2)以上である、請求項1または2に記載の清涼飲料水。 【請求項4】 乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下になるように、発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む飲料を調整する工程と、 炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、 を含む、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%である清涼飲料水の製造方法。」 第4 取消理由の概要 当審が令和1年12月13日付けで通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 1 特許異議申立人が申し立てた取消理由 (1)理由1 本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び同甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?4に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)理由2 本件の請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (3)理由3 本件特許の請求項1?4に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1?4に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 そして、甲第1?7号証として、以下のものが挙げられている。 甲第1号証:特公昭49-20508号公報 甲第2号証:特開昭52-122663号公報 甲第3号証:井口亮ら,「ヨーグルトに分散した気泡が誘電特性に及ぼす影響」,日本食品工学誌,一般社団法人 日本食品工学会,2012年3月15日発行第13巻,第1号,p.13?20 甲第4号証:瀬川修一ら,「ビールより分離した高分子の水溶液での表面挙動とその速度論的解析」,化学工学論文集,公益社団法人 化学工学会,2000年9月10日発行,第26巻,第5号,p.649?653 甲第5号証:特公昭45-100号公報 甲第6号証:戸田義郎ら編,「食品用乳化剤-基礎と応用-」,株式会社 光琳,1997年4月1日発行,p.265?266 甲第7号証:日高徹,「食品用乳化剤 第2版」,株式会社 幸書房,1991年3月1日発行,p.103?104 また、令和2年4月2日付けの意見書と共に、以下の甲第8?9号証が提出された。 甲第8号証:社団法人 全国清涼飲料工業会及び財団法人 日本炭酸飲料検査協会監修、最新・ソフトドリンクス編集委員会編纂,「最新・ソフトドリンクス」,株式会社 光琳,2003年9月30日発行,p.371?376頁 甲第9号証:社団法人 日本果汁協会監修,「最新 果汁・果実飲料事典」,株式会社 朝倉書店,1997年10月1日発行,p.278?281 なお、以下、特許異議申立人が提出した甲第1?9号証を、それぞれ甲1?甲9のように省略して記載する。 2 当審が令和1年12月13日付けで通知した取消理由 本件特許の請求項1?2、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基いて取り消されるべきものである。 そして、刊行物として、以下のものが挙げられている。 甲1:特公昭49-20508号公報(特許異議申立人が提出した甲1) 参考文献1:細野明義ら編,「畜産食品の事典」,株式会社 朝倉書店,2010年3月25日発行,第2刷,p.62?65(技術常識を示す文献) 第5 当審の判断 1 当審が令和1年12月13日付けで通知した取消理由について (1)甲1の記載 甲1には、次のとおり記載されている。 (1a)「実施例1 常法どおり脱脂粉乳の10%溶液を殺菌し、乳酸菌スターターを接種し、30?50℃で24?48時間醗酵を行ない醗酵の風味が十分得られたところで醗酵を止め、得られた醗酵乳60kgに同量の水を加えてホモジナイズ(150kg/cm^(2))し、リン酸でpHを3.0に調整し、70℃に加熱し、遠心分離機で分離を行なう。分離された沈澱物を除去した液をカセイソーダでpH3.4にし、砂糖30kgおよび香料を加えて水で全量200lとし、95℃で5秒間殺菌して製品とする。」(第5欄第33行?第6欄第5行) (1b)「実施例3 実施例1と同様の方法で製造した醗酵乳40kgに同量の水を加えてホモジナイズし、リン酸でpHを3.0に調整し、60℃に加熱し、素焼き濾過機で濾過して沈澱物を除去した後カセイソーダでpH3.4にし、砂糖35kgおよび香料を加えて水で全量200lとし、93℃で5秒間殺菌を行なう。これを5℃まで急冷し、0.5?3kg/cm^(2)の圧力で炭酸ガスを圧入して製品とする。」(第6欄第16?24行) (1c)「特許請求の範囲 1 醗酵乳のpHを3.5以下に調整し、60℃以上に加熱した後、菌体および変性蛋白質などを除去し、これに糖類、人工甘味料、色素、香料などを適宜添加し、必要に応じ炭酸ガスを圧入することを特徴とする安定な醗酵乳性飲料の製造法。」(第6欄第25?30行) (1d)「 」(第4頁図面) (1e)「従来、醗酵乳を使用する長期間安定な醗酵乳性飲料の製造法として多くの方法が知られているが、いずれも安定性、酸味、粘度などの点で欠点を有し、商品価値的に満足されるものは見当らない。」(第1欄第27?30行) (1f)「乳蛋白質として加糖脱脂練乳、脱脂乳、脱脂粉乳溶液をpH2.5?3.0位の溶液中に加えpHを約3.0?3.5にして乳蛋白質を安定化する方法による製品は、炭酸飲料または乳性飲料としてすでに市販されているが、この方法によって処理したものもごく短期間で沈澱が生じる。」(第2欄第7?12行) (1g)「本発明者は醗酵乳の風味を完全にいかし、沈澱を生じない長期間安定な醗酵乳性飲料を経済的に製造し得る画期的な製造法を発明した。」(第2欄第23?25行) (2)甲1に記載された発明 記載事項(1a)?(1c)より、甲1には次の発明が記載されていると認められる。 「脱脂粉乳の10%溶液を殺菌し、乳酸菌スターターを接種し、醗酵を行い、得られた醗酵乳40kgに同量の水を加えてホモジナイズし、リン酸でpH3.0に調整し、60℃に加熱し、濾過して沈殿物を除去した後カセイソーダでpH3.4にし、砂糖および香料を加えて水で全量200Lとし、殺菌・急冷し、0.5?3kg/cm^(2)の圧力で炭酸ガスを圧入した醗酵乳性飲料。」(以下、「甲1発明1」という。) 「脱脂粉乳の10%溶液を殺菌し、乳酸菌スターターを接種し、醗酵を行い、得られた醗酵乳40kgに同量の水を加えてホモジナイズし、リン酸でpH3.0に調整し、60℃に加熱し、濾過して沈殿物を除去した後カセイソーダでpH3.4にし、砂糖および香料を加えて水で全量200Lとし、殺菌・急冷し、0.5?3kg/cm^(2)の圧力で炭酸ガスを圧入する醗酵乳性飲料の製造法。」(以下、「甲1発明2」という。) (3)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明1との対比 甲1発明1の「pH3.4」は、本件発明1の「pH6.5以下」に相当し、甲1発明1の「醗酵乳」、「醗酵乳性飲料」は、それぞれ、本件発明1の「発酵乳」、「清涼飲料水」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明1とは、 「pHが6.5以下である、炭酸ガス、発酵乳を含む清涼飲料水」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) (相違点1)本件発明1は乳脂肪分が0.5重量%以下であるのに対し、甲1発明1は乳脂肪分について特定されていない点。 (相違点2)本件発明1は無脂乳固形分が1.2?4.0重量%であるのに対し、甲1発明1は無脂乳固形分について特定されていない点。 (相違点3)本件発明1の炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)であるのに対し、甲1発明1の炭酸ガス圧が0.5?3kg/cm^(2)である点。 (相違点4)本件発明1が乳酸を含むのに対し、甲1発明1は乳酸について記載されていない点。 (相違点5)本件発明1が脱脂粉乳を含むのに対し、甲1発明1は脱脂粉乳を含むことについて記載がない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、相違点5から検討する。 甲1には、醗酵乳性飲料に脱脂粉乳を含有させることを示唆する記載はない。 そして、甲1には、従来、醗酵乳を使用する長期間安定な醗酵乳性飲料が見当らなかったこと(記載事項(1e))、脱脂粉乳溶液等をpH調整して得られる製品は短期間で沈澱が生じること(記載事項(1f))、本発明者が、醗酵乳の風味を完全にいかした長期間安定な醗酵乳性飲料の製造法を発明したこと(記載事項(1g))が記載されている。当該記載から、甲1発明1は、脱脂粉乳ではなく醗酵乳を使用する発明であって、醗酵乳の風味を完全にいかした醗酵乳性飲料であると当業者が理解するものであるから、醗酵乳に加えて風味に影響することが明らかな脱脂粉乳をあえて含有させる動機付けがあるとはいえない。 したがって、相違点5は、当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ)小括 よって、相違点5は当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、相違点1?4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 本件発明2?3について 本件発明2?3はいずれも、本件発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものであるから、本件発明1と同様の理由により当業者が容易に発明することができたものではない。 ウ 本件発明4について (ア)本件発明4と甲1発明2との対比 上記ア(ア)と同様に対比すると、本件発明4と甲1発明2とは、 「pHが6.5以下になるように、発酵乳を含む飲料を調整する工程と、 飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、 を含む、清涼飲料水の製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) (相違点1’)本件発明4は、飲料を調整する工程において、乳脂肪分が0.5重量%以下に調整されるのに対し、甲1発明2は乳脂肪分について特定されていない点。 (相違点2’)本件発明4は、飲料を調整する工程において、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%に調整されるのに対し、甲1発明2は無脂乳固形分について特定されていない点。 (相違点3’)本件発明4においては、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)になるように炭酸ガスを含ませるのに対して、甲1発明2においては、0.5?3kg/cm^(2)の圧力で炭酸ガスを圧入する点。 (相違点4’)本件発明4は、飲料を調整する工程において、乳酸を含むように調整されるのに対し、甲1発明2は乳酸について記載されていない点。 (相違点5’)本件発明4は、飲料を調整する工程において、脱脂粉乳を含むように調整されるのに対し、甲1発明2は脱脂粉乳を含むことについて記載がない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、相違点5’から検討する。 甲1の記載は、上記ア(イ)で述べたとおりであり、当該記載から、甲1発明2は、脱脂粉乳ではなく醗酵乳を使用する発明であって、醗酵乳の風味を完全にいかした醗酵乳性飲料の製造法であると当業者が理解するものであるから、醗酵乳に加えて風味に影響することが明らかな脱脂粉乳をあえて含有させる動機付けがあるとはいえない。 したがって、相違点5’は、当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ)小括 よって、相違点5’は当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、相違点1’?4’について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 (エ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和2年4月2日付けの意見書において、甲8及び甲9に記載されているように、脱脂粉乳、糖類、安定剤、発酵乳、酸味料を含有した乳性飲料は、非常に一般的であったから、甲1発明に係る醗酵乳性飲料において、脱脂粉乳をさらに含有させることは、甲1発明に単に技術常識を組み合わせたにすぎず、またその組み合わせを阻害する要因もない旨主張する。 以下、当該主張について検討する。 甲8及び甲9には、製造工程を示す図が次のとおり記載されている。 甲8の記載 「 」(図3-2) 甲9の記載 「 」(図II.B.4.1) 甲8に記載された図は、脱脂粉乳を使用して乳性飲料を製造する工程において「酸味料(発酵乳)」を添加することを示すものであり、発酵乳を使用する乳性飲料に脱脂粉乳を添加することが一般的であることを示すものとはいえない。 甲9に記載された図は、脱脂粉乳と発酵乳と果汁と糖類と酸味料を調合して果汁入り乳性飲料を製造する工程を示すものであるが、当該工程は乳性飲料の製造方法の一例に過ぎず、発酵乳を使用する乳性飲料に脱脂粉乳を添加することが一般的であることを示すとまではいえない。また、甲9に示された製造工程と甲1に記載された発明の製造工程とは異なるから、甲9に示された製造工程における脱脂粉乳を配合する点のみを、甲1に記載された発明に組み合わせる動機はないし、当業者が容易になし得たともいえない。 したがって、特許異議申立人のかかる主張は採用することができない。 エ 以上のとおり、本件発明1?4は甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由について (1)理由2、理由3について ア 無脂乳固形分について 特許異議申立人が主張する理由は、 請求項1、4の「無脂乳固形分1.2?4.0重量%」との記載について、発明の詳細な説明には、無脂乳固形分1.5重量%、炭酸ガス圧2.7?4.0kg/cm^(2)である飲料が泡立ちと泡保持が良好であることが確認されているに過ぎない(表2の実施例12?17)ことを根拠とし、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?3、請求項4について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである と解される。 以下に検討する。 本件発明1、4の課題は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明(特に、【0005】)の記載から、「低乳脂肪分にもかかわらず、良好な泡立ちと泡持ち、乳のまろやかな味わいを有する、従来にない炭酸飲料、及びその製造方法を提供すること」であると認められる。 本件の発明の詳細な説明には、「本発明の炭酸飲料における無脂乳固形分の含有量は、1.2?4.0重量%であり、好ましくは1.5?3.5重量%、より好ましくは1.5?3.0重量%である」こと、「無脂乳固形分の含有量が低過ぎると、本発明の泡立ち・泡持ちの効果が得られにくい。また、無脂乳固形分の含有量が高すぎると、乳の臭みやベタつきが際立ち、乳のまろやかな味わいが失われるおそれがある」ことが記載されている(【0012】)。 そして、実施例1?17として、無脂乳固形分の含有量が1.2?4.0重量%である炭酸飲料は、泡立ちと泡保持の評価が△(やや良好)以上であることが示されている(【0029】【表2】)。 そうすると、当業者は、炭酸飲料の無脂乳固形分の含有量が1.2?4.0重量%であれば、泡立ちと泡保持が「やや良好」以上である、すなわち、本件発明1、4の課題を解決することができると認識できるものといえる。 したがって、本件発明1、4は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 また、本件明細書は、本件発明1、4を当業者が実施できるように記載されていないともいえない。 本件発明2?3についても同様である。 イ 乳化剤について 特許異議申立人が主張する理由は、 請求項1、4において乳化剤の特定がないことについて、発明の詳細な説明には具体的な化合物名が記載されていないこと、乳化剤には起泡作用を有するものと消泡作用を有するものがあることを根拠とし、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?3、請求項4について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである と解される。 以下に検討する。 本件発明1、4の課題は上記アに記載したとおりである。 本件の発明の詳細な説明には、泡立ちと泡持ちの評価が×(良好でない)?○(良好)である具体例が、比較例1?4及び実施例1?17として示されており、いずれの態様においても乳化剤の種類及び含有量は同一である(【0023】?【0029】)。 そうすると、当業者は、炭酸飲料の泡立ちと泡持ちが、特定の乳化剤によりもたらされるのではないと理解するといえる。すなわち、乳化剤が特定されなくても、本件発明1、4の課題を解決することができると認識できるものといえる。 したがって、本件発明1、4は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 また、本件明細書は、本件発明1、4を当業者が実施できるように記載されていないともいえない。 本件発明2?3についても同様である。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?4に係る特許は、令和1年12月13日付けの取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下、炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)である、発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む清涼飲料水。 【請求項2】 発酵乳由来の無脂乳固形分の量が0.05重量%以上である、請求項1に記載の清涼飲料水。 【請求項3】 炭酸ガス圧が3.0kg/cm^(2)以上である、請求項1または2に記載の清涼飲料水。 【請求項4】 乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%、pHが6.5以下になるように、発酵乳、脱脂粉乳および乳酸を含む飲料を調整する工程と、 炭酸ガス圧が2.5?4.0kg/cm^(2)になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、 を含む、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2?4.0重量%である清涼飲料水の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-05-01 |
出願番号 | 特願2013-60711(P2013-60711) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L) P 1 651・ 121- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松岡 徹 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
櫛引 智子 齊藤 真由美 |
登録日 | 2019-03-15 |
登録番号 | 特許第6494901号(P6494901) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 炭酸飲料 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 宮前 徹 |