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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:なし  G05D
管理番号 1363182
異議申立番号 異議2020-700163  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-09 
確定日 2020-06-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6573750号発明「制御データ作成装置、制御データ作成方法、および制御データ作成プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6573750号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6573750号の請求項1-9に係る特許についての出願は、平成31年2月7日を国際出願日とし、令和1年8月23日にその特許権の設定登録がされ、令和1年9月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年3月9日に特許異議申立人 藤江 桂子(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
特許第6573750号の請求項1-9の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
駆動装置によって駆動される被駆動装置を回転軸である主軸の周期的な動作に対応する位置に位置決め制御するための制御指令を作成する制御データ作成装置であって、
前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された回転情報、および前記主軸の1回転中における特定の経過時間と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された時間情報の少なくとも一方を受付ける入力部と、
前記回転情報または前記時間情報に基づいて前記制御指令を算出する演算部と、
前記演算部が算出した前記制御指令を表示装置に表示させる表示制御部と、
を備え、
前記表示装置が前記回転情報を表示している場合に前記入力部が前記時間情報を表示する指示を受付けると、前記演算部が前記回転情報を前記時間情報に変換するとともに前記表示制御部が変換後の前記時間情報を前記表示装置に表示させ、
前記表示装置が前記時間情報を表示している場合に前記入力部が前記回転情報を表示する指示を受付けると、前記演算部が前記時間情報を前記回転情報に変換するとともに前記表示制御部が変換後の前記回転情報を前記表示装置に表示させる、
ことを特徴とする制御データ作成装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置を横軸とし前記被駆動装置の位置を縦軸とした前記制御指令の波形を作成し、
前記表示制御部は、前記制御指令の波形を前記表示装置に表示させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御データ作成装置。
【請求項3】
前記入力部が、前記横軸に前記主軸の1回転中における経過時間を表示する指示を受付けると、前記表示制御部は、前記主軸の1回転中における経過時間が設定された前記横軸を前記表示装置に表示させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の制御データ作成装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記横軸の目盛に、前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置と、前記主軸の1回転中における経過時間と、を2段に並べて表示させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の制御データ作成装置。
【請求項5】
前記主軸の1回転分は、複数の区間に分けられており、
前記演算部は、前記区間毎に前記制御指令を作成し、前記回転情報を前記時間情報に変換する場合には、前記区間毎に前記回転情報を前記時間情報に変換し、前記時間情報を前記回転情報に変換する場合には、前記区間毎に前記時間情報を前記回転情報に変換する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の制御データ作成装置。
【請求項6】
前記表示装置が前記時間情報を表示している場合に、ユーザからの指示に従って前記制御指令の波形上のポイントが移動させられると、前記演算部は、移動後のポイントの位置に対応する時間情報を算出するとともに、前記制御指令の波形を移動後のポイントを通過する波形に修正し、前記表示制御部は、修正された波形および算出された時間情報を前記表示装置に表示させ、
前記表示装置が前記回転情報を表示している場合に、ユーザからの指示に従って前記制御指令の波形上のポイントが移動させられると、前記演算部は、移動後のポイントの位置に対応する回転情報を算出するとともに、前記制御指令の波形を移動後のポイントを通過する波形に修正し、前記表示制御部は、修正された波形および算出された回転情報を前記表示装置に表示させる、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の制御データ作成装置。
【請求項7】
前記入力部が、速度、加速度、または加加速度の表示指示を受付けると、
前記演算部は、前記表示指示で指定された前記速度、前記加速度、または前記加加速度の波形を、前記制御指令に基づいて算出し、
前記表示制御部は、前記制御指令の波形と、前記演算部が算出した前記速度、前記加速度、または前記加加速度の波形とを、1つのプロットエリアに並べて表示させる、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の制御データ作成装置。
【請求項8】
駆動装置によって駆動される被駆動装置を回転軸である主軸の周期的な動作に対応する位置に位置決め制御するための制御指令を作成する制御データ作成方法であって、
前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された回転情報、および前記主軸の1回転中における特定の経過時間と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された時間情報の少なくとも一方を受付ける入力ステップと、
前記回転情報または前記時間情報に基づいて前記制御指令を算出する演算ステップと、
前記演算ステップで算出された前記制御指令を表示装置に表示させる表示ステップと、
を含み、
前記表示装置が前記回転情報を表示している場合に前記時間情報を表示する指示を受付けると、前記回転情報を前記時間情報に変換するとともに変換後の前記時間情報を前記表示装置に表示させ、
前記表示装置が前記時間情報を表示している場合に前記回転情報を表示する指示を受付けると、前記時間情報を前記回転情報に変換するとともに変換後の前記回転情報を前記表示装置に表示させる、
ことを特徴とする制御データ作成方法。
【請求項9】
駆動装置によって駆動される被駆動装置を回転軸である主軸の周期的な動作に対応する位置に位置決め制御するための制御指令を作成する制御データ作成プログラムであって、
前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された回転情報、および前記主軸の1回転中における特定の経過時間と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された時間情報の少なくとも一方を受付ける入力ステップと、
前記回転情報または前記時間情報に基づいて前記制御指令を算出する演算ステップと、
前記演算ステップで算出された前記制御指令を表示装置に表示させる表示ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記表示装置が前記回転情報を表示している場合に前記時間情報を表示する指示を受付けると、前記回転情報を前記時間情報に変換するとともに変換後の前記時間情報を前記表示装置に表示させ、
前記表示装置が前記時間情報を表示している場合に前記回転情報を表示する指示を受付けると、前記時間情報を前記回転情報に変換するとともに変換後の前記回転情報を前記表示装置に表示させる、
ことを特徴とする制御データ作成プログラム。」

3 申立理由の概要及び証拠
(1)申立理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証及び甲第2号証(以下、「甲1」及び「甲2」という。)を提出し、請求項1-9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1-9に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

(2)証拠
異議申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲1:特許第4987214号公報
甲2:特開2018-195002号公報

4 甲1、甲2の記載事項及び甲1発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、図1?16Bともに次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである(甲2の下線についても同様)。

(ア)「図2Aは、カム基準データの形態で用意した移動位置データの一例を表示する変位線図(カム線図)である。また図2Bは、時間基準データの形態で用意した移動位置データの一例を表示する変位線図である。この例では、一連の加工プログラムの大部分が、カム1回転(Q0?QE)に渡るカム基準データに基づいて実行され、特定のプログラムのみが所定時間(T0?T1)に渡る時間基準データに基づいて実行される。
そこで、ステップS3では、これら2つの移動位置データの時系列的配置を、いずれか一方の変位線図上で指定することができる。図示の例では、図2Aのカム基準データを表示する変位線図上で、図2Bの変位線図に表示する時間基準データを割り込ませる場所を指定する。図3Aは、そのようにして時間基準データの割込みを指定した後のカム基準データの変位線図の一例を示す。この例では、カム回転量(例えばカム回転角度)がQ1の場所に、時間基準データの割込みが指定されており、それにより変位線図が(Q1、P1)の点で分離されている。
したがってこの加工シーケンス例では、最初にカム基準データに従って、カム回転量がQ0からQ1に至るまで、カム基準工程として主軸と刃物台との相対的送り動作が制御され、カム回転量がQ1に達した時点でカム基準工程が一端停止する。次に、時間基準データに従って、T0からT1までの時間に渡り、時間基準工程として主軸と刃物台との相対的送り動作が制御され、T1で時間基準工程が完了した後、再びカム回転量Q1から、カム基準データに従ってカム基準工程が実施される。このようにして、1加工サイクルが完了する。
なお、上記加工シーケンス例で、カム基準データに基づいて動作制御される制御軸と、時間基準データに基づいて動作制御される制御軸とが、互いに異なるものである場合は、図3Bに示すように、時間基準データを表示する変位線図は、カム基準データの変位線図上での割込み場所における移動位置P1とは無関係に配置できる。これに対し、カム基準データへの時間基準データの割込みが同一の制御軸に関して行われる場合は、図3Cに示すように、時間基準データを表示する変位線図は、カム基準データの変位線図上での割込み場所における移動位置P1に連続するように配置される。」(第8ページ第1-26行)

(イ)「上記した加工シーケンス例に沿って説明したように、一連の加工プログラムにおける複数の移動位置データの時系列的配置の指定を変位線図上で行う際には、例えば自動旋盤の制御装置に関連して装備された表示画面に所要の変位線図を表示させることが有利である。この場合、図5Aに示すように、カム基準データの変位曲線を表示する画面上で、時間基準データを割り込ませる場所を、矢印等の画面表示により指示することができる。或いは割込み場所を、カム回転角度、パルス数、工程番号(例えば工具番号)等の数値データの入力によって指示することもできる。また、図5Bに示すように、時間基準データの変位曲線を表示する画面上で、カム基準データを割り込ませる場所を、矢印等の画面表示により指示することができる。或いは割込み場所を、時間、工程番号(例えば工具番号)等の数値データの入力によって指示することもできる。
なお、上記した変位線図の作成作業は、自動旋盤に予め設置される制御装置で行うこともできるし、或いは外部のコンピュータで行うこともできる。また、時間基準データとしては、一例として数値制御プログラムを記述する数値データを使用できるが、これに限定されない。」(第8ページ第46行-第9ページ第9行)

(ウ)「次に、本発明に係る自動旋盤制御方法を遂行可能な、本発明の一実施形態による自動旋盤10(図6参照)及び自動旋盤10に組み込まれる制御装置12(図7参照)の構成を説明する。自動旋盤10は、共通の旋盤機台14上に2個の主軸16、18及び2個の刃物台20、22を集約的に搭載し、バイト、ドリル等の旋削工具24やフライス等の回転工具26を含む種々の工具により、同一被加工素材に対する異種(例えば外径削りと中ぐり)同時加工や、異なる被加工素材に対する同時加工を実施できるようにした多機能構造を有するものである。
図6に示すように、自動旋盤10は、旋盤機台14と、旋盤機台14上に設置され、回転軸線16aを有する第1主軸16と、旋盤機台14上に設置され、複数の工具24、26を並列に保持できる第1刃物台20と、旋盤機台14上に設置され、複数の工具24、26を周方向に分配して保持できる第2刃物台22と、旋盤機台14上に設置され、第1主軸16の回転軸線16aに平行な回転軸線18aを有して第1主軸16に対向配置可能な第2主軸18と、旋盤機台14上での第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22の動作を制御する制御装置12とを備える。」(第9ページ第10-23行)

(エ)「第1刃物台20は、旋盤機台14上で、第1主軸16の軸線方向前方に位置するガイドブッシュ36の側方に退避して配置される。旋盤機台14には、第1刃物台20を、旋盤機台14上の直交3軸座標系において、第1主軸16の回転軸線16a(すなわち第1送り制御軸(Z1軸))に直交する第2送り制御軸(X1軸と称する)に沿って直線移動させる第1刃物台駆動機構38(図7)が設置される。図8に示すように、第1刃物台駆動機構38はさらに、第1刃物台20を、第1送り制御軸(Z1軸)及び第2送り制御軸(X1軸)の双方に直交する第3送り制御軸(Y1軸と称する)に沿って直線移動させることができる。」(第9ページ第49行-第10ページ第6行)

(オ)「制御装置12は、入力部62、表示部64、演算制御部66及びサーボ制御部68を備える。入力部62は、図示しないキーボードやポインティングデバイスを有し、表示部64に表示された様々な画面を参照しながら、オペレータが対話式の指示やデータ入力を行なえるようになっている。自動旋盤10では、第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22のそれぞれの動作を制御するために必要なデータ(工具の選択、製品の形状寸法、主軸回転数、工具の送り速度等)が、入力部62から入力される。表示部64は、図示しないCRT(ブラウン管)やLCD(液晶ディスプレイ)等のディスプレイを有し、オペレータによる対話式入力を可能にすべく、後述するデータ入力画面や作成した加工プログラムを表示する。
演算制御部66は、記憶部を構成するRAM(ランダムアクセスメモリ)70及びROM(リードオンリーメモリ)72と、処理部を構成するCPU(中央処理装置)74とを有する。入力部62で入力された各種データは、CPU74の指示によりRAM70又はROM72に格納される。また、ROM72には、第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22を駆動するための制御プログラムが予め格納されている。CPU74は、RAM70又はROM72に記憶したデータに基づき、後述する手順によって作成した加工プログラム及びROM72に格納された制御プログラムに基づいて、サーボ制御部68に制御指令を出力する。
サーボ制御部68は、第1主軸移動制御部76、第1主軸回転制御部78、第1刃物台移動制御部80、第2刃物台移動制御部82、第2主軸移動制御部84及び第2主軸回転制御部86を備える。第1主軸移動制御部76は、CPU74の指令に基づき、第1主軸駆動機構30のZ1軸駆動源32を作動して、第1主軸台28と共に第1主軸16をZ1軸移動させる。第1主軸回転制御部78は、CPU74の指令に基づき、回転駆動源34を作動して、第1主軸16を第1主軸台28内でC1軸回転させる。なお、旋削加工に際しての第1主軸16の高速回転は、回転数等のデータに基づき、図示しない別の制御回路を介して制御される。」(第11ページ第16-40行)

(カ)「上記制御系を構成する制御装置12は、本発明に係る自動旋盤制御方法を遂行して、自動旋盤10に本来備わっている多機能性を遺憾無く発揮させるとともに、棒材W、W′に対する一連の加工プログラムの実施時間を効果的に短縮するための、以下の特徴的構成を採用している。
すなわち、入力部62は、自動旋盤10の第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22に関して一連の加工プログラムで要求される複数の移動位置データの各々を、カム回転量の関数として移動位置を指示するカム基準データと、経過時間の関数として移動位置を指示する時間基準データとの、2種類の移動位置データのうちいずれかの形態で入力できる。さらに入力部62は、カム基準データと時間基準データとのいずれかの形態で入力した複数の移動位置データの、一連の加工プログラムにおける時系列的配置を指定できる。
また、演算制御部66のCPU74は、入力部62でカム基準データと時間基準データとのいずれかの形態で入力した複数の移動位置データの各々を、入力部62で時系列的配置を指定した場合はその時系列的配置に従って、処理することができる。そしてCPU74は、第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22の、一連の加工プログラムにおける相対的送り動作を制御する制御信号を生成する。
入力部62では、一連の加工プログラムによって実施される複数の工程のうち、カム回転量(例えばカム回転角度)を規定するための動作量を自動旋盤10の任意の機械的動作要素から得ることができる工程や、工具24、26の刃先の磨耗や工具24、26の交換に伴う工具オフセットを指令しない工程について、要求される移動位置データをカム基準データの形態で入力することが有利である。また、そのような動作量を自動旋盤10の機械的動作要素から得ることができない工程や、工具オフセットを指令する工程については、要求される移動位置データを時間基準データの形態で入力することが有利である。
この場合、カム基準データは、自動旋盤10の任意の機械的動作要素から得られた所定の動作量を、カム1回転に相当するものと定義して、第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22のいずれかの移動位置を動作量に対応して連続的に指示するものとなる。そして、複数の工程のうち、動作量を得るための機械的動作要素が停止している工程や、工具オフセットを指令している工程においては、カム基準データの代わりに時間基準データを用いて、第1及び第2主軸16、18並びに第1及び第2刃物台20、22のいずれかの移動位置を経過時間に対応して連続的に指示することになる。」(第12ページ第5-34行)

(キ)「制御装置12の表示部64は、入力部62でカム基準データと時間基準データとのいずれかの形態で入力された複数の移動位置データの各々を、移動位置の軌跡(例えば工具経路)を表す変位線図の形態で表示することができる。そして入力部62は、図5A及び図5Bに関連して説明したように、表示部64に表示されるいずれかの変位線図上で、カム基準データと時間基準データとの時系列的配置を指定することができる。」(第12ページ第44-48行)

(ク)「また、CPU74は、入力部62で入力されたカム基準データで指示される移動位置を、カム回転量に相当するパルス数の関数として処理することができる。この場合、任意のパルス列を発生するパルス列発生源をさらに備え、CPU74が、このパルス列発生源によって発生されたパルス列を用いてカム基準データを処理するように構成することが有利である。
パルス列発生源は、自動旋盤10の第1主軸16の回転に対応したパルス列を発生する構成とすることができる。この場合、図4に関連して既述したように、制御装置12のCPU74が、第1主軸16の回転駆動源34であるビルトイン型ACサーボモータに設けたエンコーダ(図示せず)から出力されるパルス列を、フィードバックデータとして主軸回転制御に使用する一方で、上記した電子カム制御におけるカム基準データの処理にも使用するように構成すればよい。この構成では、CPU74は、カム基準データで指示される移動位置を、エンコーダから取得したパルス列を用いて演算処理し、それに基づきサーボ制御部68に移動指令を発する。それにより、各制御軸駆動機構30、38、44、54の各軸駆動源32、40、42、46、48、56、58の動作が、カム基準データに基づいて制御される。」(第12ページ第49行-第13ページ第13行)

(ケ)図2Aには、カム基準データの形態で用意した移動位置データの一例を表示する変位線図(カム線図)の記載がされており、図2Bには、時間基準データの形態で用意した移動位置データの一例を表示する変位線図の記載がされている。

(コ)図3Aには、図2Aのカム基準データを表示する変位線図上で、図2Bの変位線図に表示する時間基準データを割り込ませる場所を指定した後のカム基準データの変位線図の記載がされており、図3Bには、カム基準データの変位線図上での割込み場所における移動位置P1とは無関係に配置した時間基準データを表示する変位線図が記載されており、図3Cには、カム基準データの変位線図上での割込み場所における移動位置P1に連続するように配置した時間基準データを表示する変位線図が記載されている。

(サ)図5Aには、カム基準データの変位曲線を表示する画面上で、時間基準データを割り込ませる場所を、矢印等の画面表示により指示することが記載されており、図5Bには、時間基準データの変位曲線を表示する画面上で、カム基準データを割り込ませる場所を、矢印等の画面表示により指示することが記載されている。

(2)甲1発明
そうすると、上記(ア)-(ク)の摘記事項及び(ケ)-(サ)の図面の記載を参酌すれば、甲1には、
「第1刃物台駆動機構によって駆動される第1刃物台を第1主軸の回転に対応したカム基準データによって指定の移動位置へ位置決め制御する制御信号を生成するCPUを有する制御装置であって、
カム回転量の関数として第1刃物台の位置を指示するカム基準データ、および、経過時間の関数として第1刃物台の位置を指示する時間基準データの少なくとも一方を受け付ける入力部、
前記カム基準データまたは前記時間基準データに基づいて制御信号を生成するCPUと、
入力部により入力された複数の移動位置データの各々を変異線図の形態で表示させる表示部と、
を備え、
前記表示部が、カム基準データに基づく変異線図を表示している場合に、時間基準データを割り込ませる位置を指定することができ、割り込みを行った時間基準データを表示する変異線図を表示可能に構成され、
前記表示部が、時間基準データに基づく変異線図を表示している場合に、カム基準データを割り込ませる位置を指定することができ、割り込みを行ったカム基準データを表示する変異線図を表示可能に構成されている
制御装置。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(3)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
「【0039】
要するに、図3および図4の例においては、横軸を時間としているが、横軸を回転角度としてもよい。例えば、図3の横軸を時間に代えて回転角度で表した図は図5の様になる。
時間をt[s]とし、ワークWの回転角速度をω[rad/s]とすると、ワークWの回転角度θ[rad]を、θ=ω・t の式により表すことができる。ワークWの回転速度をS[min^(-1)]、周波数倍率をIとすると、回転角速度ωは、ω=2π×S/60×I の式により表すことができる。このため、回転角度θは、回転速度Sと時間tと周波数倍率Iとから求まる。回転情報取得部17は制御装置11から主軸M0の回転速度Sを回転情報として取得しているので、第二波形生成部19は、その回転速度Sと時間tと周波数倍率Iとに基づいて、時間tによる第二波形データを回転角度θによる第二波形データに変換することができる。さらに、第三波形生成部20は、回転角度θによる第二波形データを基に、回転角度θによる第三波形データを生成することができる。」


5 対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
ア.本件発明と甲1発明の対比
請求項1の特許に係る発明(以下、「本件発明」という)と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「第1刃物台駆動機構」が、本件発明の「駆動装置」に相当することは明らかであり、甲1発明の「第1刃物台」は、駆動装置である第1刃物台駆動機構によって駆動されるため、本件発明の「被駆動装置」に相当する。
甲1発明の「第1主軸」は、本件発明の「主軸」に相当する。
甲1発明の「第1主軸の回転に対応したカム基準データによって指定の移動位置へ位置決め制御する制御信号を生成するCPUを有する制御装置」は、主軸の所定の動作量をカム1回転に相当するものと定義し、CPUにより主軸と第1刃物台の相対的送り動作を制御する制御信号を生成するものであるから、本件発明の「回転軸である主軸の周期的な動作に対応する位置に位置決め制御するための制御指令を作成する制御データ作成装置」に相当する。
甲1発明の「カム回転量の関数として第1刃物台の位置を指示するカム基準データ」は、本件発明の「前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された回転情報」に相当する。
甲1発明の「経過時間の関数として第1刃物台の位置を指示する時間基準データ」は、「特定の経過時間と被駆動装置の位置との対応関係が指定された時間情報」という点で、本件発明の「前記主軸の1回転中における特定の経過時間と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された時間情報」と一致する。
甲1発明の「前記カム基準データまたは前記時間基準データに基づいて制御信号を生成するCPU」は、本件発明の「前記回転情報または前記時間情報に基づいて前記制御指令を算出する演算部」に相当する。
甲1発明の「入力部により入力された複数の移動位置データの各々を変異線図の形態で表示させる表示部」は、カム基準データあるいは時間基準データに基づく制御対象の移動位置の軌跡である変位線図を表示可能に構成されており、変位線図は実質的に被駆動装置の制御指令を示すものである上に、表示を行う以上、その表示を制御することは当然であるから、本件発明の「表示装置」及び「前記演算部が算出した前記制御指令を表示装置に表示させる表示制御部」に相当する。

イ.一致点及び相違点
本件発明と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

一致点:
駆動装置によって駆動される被駆動装置を回転軸である主軸の周期的な動作に対応する位置に位置決め制御するための制御指令を作成する制御データ作成装置であって、
前記主軸の1回転中における特定の回転角度または特定の回転位置と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された回転情報、および特定の経過時間と前記被駆動装置の位置との対応関係が指定された時間情報の少なくとも一方を受付ける入力部と、
前記回転情報または前記時間情報に基づいて前記制御指令を算出する演算部と、
前記演算部が算出した前記制御指令を表示装置に表示させる表示制御部と、
を備える、
ことを特徴とする制御データ作成装置。

相違点1:
被駆動装置の位置と対応する時間情報が、本件発明は、「主軸の1回転中における特定の経過時間」であるのに対して、甲1発明は、「経過時間」であって、当該時間が、「主軸の1回転における経過時間」であるか不明な点。

相違点2:
本願発明の表示装置は、回転情報を表示している場合に時間情報を表示する指示を受付けると、前記回転情報を前記時間情報に変換するとともに変換後の前記時間情報を前記表示装置に表示させ、かつ、前記時間情報を表示している場合に前記回転情報を表示する指示を受付けると、前記時間情報を前記回転情報に変換するとともに変換後の前記回転情報を前記表示装置に表示させるものであるのに対して、甲1発明の表示部はそのような構成を有さない点。

ウ.相違点の判断
以下、相違点1-2について検討する。
(ア)相違点1について
甲1発明の時間基準データは経過時間の関数として移動位置を指示する時間基準データであるが、甲1には主軸の1回転中における経過時間と被駆動装置の位置との対応関係を指定することが記載も示唆もされていない。
むしろ、「複数の工程のうち、動作量を得るための機械的動作要素が停止している工程や、工具オフセットを指令している工程においては、カム基準データの代わりに時間基準データを用いて、主軸又は刃物台の移動位置を経過時間に対応して連続的に指示する」(甲1の第12ページ第31-34行)との記載を参照すると、甲1発明の「時間基準データ」は、主軸が回転していない行程における時間であって、主軸の回転との関係を一義的に決めることができないものと解される。
そして、甲1発明の「時間基準データ」が、主軸の回転との関係を一義的に決めることができないことから、主軸の回転位置を前提とする「カム基準データ」に「時間基準データ」を割り込ませる際に、割り込ませる場所(カムの回転量)を指定する必要が生じている(上記4(1)イ)。

一方、甲2には、回転角度を回転速度と時間と周波数倍率から演算により求めることが開示されてはいるものの、上記のとおり、甲1の時間基準データは、動作量を得るための機械的動作要素(主軸)が停止している工程や、工具オフセットを指令している工程において、カム基準データの代わりに用いられるものであり、主軸の停止時には時間を回転角度に演算するために必要な回転速度が発生していないため演算自体を行うことができないものである。よって、甲1発明に基づいて、時間基準データを主軸の1回転中における経過時間に基づくものとすることは、当業者にとって容易になしえたことであるとはいえない。

(イ)相違点2について
甲1にはカム基準データの変位線図を表示する画面上で時間基準データを割り込ませる場所を矢印等の画面表示により指示すること、時間基準データの変位線図を表示する画面上でカム基準データを割り込ませる場所を矢印等の画面表示により指示することができること、割り込みを行った変異線図を表示することが記載されているが、カム基準データと時間基準データ間の表示の切り替えについては記載されておらず、図15A、図15Bなどを参酌してみても、時間基準データまたはカム基準データを割り込ませる場所の指示によって、表示部にそれまで表示されていたカム基準データあるいは時間基準データを変換して時間基準データあるいはカム基準データとして表示することが記載も示唆もされていない。また、甲2の記載を参酌してみても、甲1発明において、表示部にそれまで表示されていたカム基準データあるいは時間基準データを変換して時間基準データあるいはカム基準データとして表示すること、また、少なくとも時間基準データをカム基準データに変換することが、当業者にとって容易になしえたことであるとはいえない。

したがって、本件発明は、甲1発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)異議申立人の主張について
異議申立人は、甲1発明に甲2の演算部が回転情報を時間情報にまたは時間情報を回転情報に変換するという技術事項を適用するには動機付けがある旨の主張を行っている。しかしながら、上記相違点1、2についての検討において述べたとおり、甲1の時間基準データは、主軸の回転していない時間に用いられるものを含むものであり、本件発明の時間情報とは主軸の1回転中における経過時間と被駆動装置の位置との対応関係が指定されていない点で異なっていて、演算による変換も容易であるとはいえないため、かかる主張には理由がない。

(2)請求項2-7に係る発明について
請求項2-7に係る発明は、本件発明を引用するものであって、本件発明の発明特定事項を全て含むものであるため、上記(1)に示した理由と同様の理由により、請求項2-7に係る発明は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(3)請求項8及び9に係る発明について
請求項8及び9に係る発明は、本件発明とカテゴリーの異なる「制御データ作成方法」及び「制御データ作成プログラム」に係る発明であるが、上記(1)イ.の相違点1に係る本件発明の「主軸の1回転中における特定の経過時間」と同じ発明特定事項を有する上に、相違点2に係る本件発明の「時間情報を表示する指示を受付ける」という発明特定事項や、「回転情報を表示する指示を受付ける」という発明特定事項と同じ発明特定事項を有するから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、請求項8及び9に係る発明は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
異議決定日 2020-06-01 
出願番号 特願2019-531349(P2019-531349)
審決分類 P 1 651・ - Y (G05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 影山 直洋  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 松原 陽介
栗田 雅弘
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6573750号(P6573750)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 制御データ作成装置、制御データ作成方法、および制御データ作成プログラム  
代理人 高村 順  

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