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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1363185
異議申立番号 異議2020-700162  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-09 
確定日 2020-06-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6572732号発明「パワーモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6572732号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6572732号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成27年10月27日に出願され、令和1年8月23日に特許権の設定登録がされ、令和1年9月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和2年3月9日に特許異議申立人廣瀬妙子により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1、2の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の上面に搭載された半導体素子とを備えたパワーモジュールであって、
前記半導体素子は、銀接合層を介して前記回路層の上面に接合されており、
前記回路層の上面には、前記半導体素子の周縁部のうちの少なくともコーナー部分に、該周縁部に沿って凹溝部が設けられ、該凹溝部の内周側面が、前記半導体素子の外周側面よりも内側に配設され、かつ、前記凹溝部の外周側面が、前記半導体素子の外周側面と面一に配設されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】
前記凹溝部内には、銀接合層が充填されていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール。」

第3 申立理由の概要
理由1 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証又は甲第2号証、及び従たる証拠として甲第3号証-甲第6号証を提出し、請求項1、2に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

理由2 特許異議申立人は、証拠として甲第7号証及び甲第8号証を提出し、請求項1、2に係る特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるため、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2014-96545号公報
甲第2号証:特開2013-182901号公報
甲第3号証:特開平8-274423号公報
甲第4号証:特開2014-11423号公報
甲第5号証:特開2015-53414号公報
甲第6号証:特開平6-37122号公報
甲第7号証:特開2014-220438号公報
甲第8号証:特開2012-251666号公報

第4 理由1(第29条第2項)について
1 甲第1号証-甲第6号証の記載事項
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0001】
この発明は、絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と前記回路層上に搭載される半導体素子とを備えたパワーモジュール、及びパワーモジュールの製造方法に関するものである。」

「【0019】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。本発明の実施形態であるパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、図1に示すようにセラミックス基板11の一方の面に回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12上(図1において上側)に接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方の面側に配設された冷却器40とを備えている。なお、本実施形態では、絶縁層としてセラミックス基板11を用いている。
【0020】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0021】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金からなる金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%の無酸素銅の圧延板からなる銅板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。」

「【0024】
図2に図1に示すパワーモジュールの回路層と半導体素子との接合界面の拡大説明図を示す。図2に示すように回路層12と半導体素子3との間には、Ag焼結層31が形成されている。なお、本実施形態では、回路層12の一方の面にAg焼結層31が積層され、このAg焼結層31と半導体素子3との間にAg緻密層32が形成されている。
なお、Ag焼結層31は、図1に示すように、回路層12の表面全体には形成されておらず、半導体素子3が配設される部分にのみ選択的に形成されている。
【0025】
回路層12の上に形成されたAg焼結層31は、酸化銀が還元されたAgの焼結体とされており、本実施形態では、後述するように、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストの焼結体とされている。ここで、酸化銀を還元することによってAg焼結層を形成し、このAg焼結層によって半導体素子を接合していることから、約350℃以下の低温で接合することが可能となる。また、酸化銀の還元によって、微細な金属Ag粒子を生成し、その粒子径が、例えば粒径10nm?1μmと非常に微細であることから、高温環境下でも回路層12と半導体素子3との充分な接合強度及び接合信頼性を維持することができる。」

「【0032】
(塗布工程S04)
回路層12の表面に、酸化銀ペーストを直接塗布する。ここで、回路層12の表面とは、Niなどのめっき膜が形成されていない、銅または銅合金からなる素地表面のことである。
なお、酸化銀ペーストを塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、スクリーン印刷法によって酸化銀ペーストを印刷した。
【0033】
この酸化銀ペーストは、酸化銀粉末と、還元剤と、溶剤と、を含有している。
酸化銀粉末の含有量が酸化銀ペースト全体の60質量%以上92質量%以下とされ、還元剤の含有量が酸化銀ペースト全体の5質量%以上15質量%以下とされており、残部が溶剤とされている。
なお、この酸化銀ペーストは、その粘度が10Pa・s以上100Pa・s以下、より好ましくは30Pa・s以上80Pa・s以下に調整されている。
【0034】
酸化銀粉末は、その粒径が0.1μm以上40μm以下のものが使用できる。」

「【0039】
(積層工程S06及び接合工程S07)
次に、酸化銀ペーストを塗布した状態で乾燥(例えば、室温、大気雰囲気で24時間保管)した後、酸化銀ペーストの上に半導体素子3を積層する。
そして、半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層した状態で真空中又は不活性ガス雰囲気中で酸化銀ペーストの焼結を行うとともに、回路層12と半導体素子3を接合する。酸化銀ペーストには、還元剤が含まれていることから、酸化銀を還元すると同時に回路層である銅板表面に形成された酸化膜も還元することとなり、Ag焼結層と回路層との接合強度を高めることとなる。このとき、荷重を0?10MPaとし、接合温度を150?350℃とする。不活性ガスとしては、N_(2)又はArなどの希ガス類を用いることができる。真空中で行う場合には、その真空度は1.0×10^(-6)?1.0×10^(-1)Paが好ましい。本実施形態では、真空度:1.0×10^(-1)Paで接合した。
また、望ましくは半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層方向に加圧した状態で加熱することによって、より確実に接合することができる。
このようにして、回路層12の上にAg焼結層31が形成され、半導体素子3と回路層12とが接合される。これにより、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。」

イ 上記記載から、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
・甲第1号証に記載された技術は、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12に接合された半導体素子3とを備えたパワーモジュール1に関するものである(【0019】、【0021】)。
・パワーモジュール1は、回路層12と半導体素子3との間にAg焼結層31を形成し、Ag焼結層31によって半導体素子3を接合している(【0024】、【0025】)。

ウ 上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12に接合された半導体素子3とを備えたパワーモジュール1であって、
回路層12と半導体素子3との間にAg焼結層31を形成し、
Ag焼結層31によって半導体素子3を接合しているパワーモジュール1。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
この発明は、金属部材と被接合体とを接合する際に用いられる接合材料、及び、この接合材料を用いたパワーモジュール及びパワーモジュールの製造方法に関するものである。」

「【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態であるパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(図1において上面)に接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側に配設された冷却器40とを備えている。
【0022】
パワーモジュール用基板10は、図1に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。」

「【0024】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、銅板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)の圧延板を接合することで形成されている。なお、回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。また、この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が接合される接合面とされている。」

「【0027】
そして、図1に示すパワーモジュール1においては、回路層12と半導体素子3との間には、銀の焼成体からなる接合層31が形成されている。
なお、接合層31は、図1に示すように、回路層12の表面全体には形成されておらず、半導体素子3が配設される部分にのみ選択的に形成されている。」

イ 上記記載から、甲第2号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
・甲第2号証に記載された技術は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の上面に接合された半導体素子3とを備えたパワーモジュール1に関するものである(【0021】)。
・パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11の一方の面に配設された回路層12を備えている(【0022】)。
・回路層12は、銅板からなっている(【0024】)。
・回路層12と半導体素子3との間には、銀の焼成体からなる接合層31が形成されている(【0027】)。

ウ 上記の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「セラミックス基板11の一方の面に銅板からなる回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の上面に接合された半導体素子3とを備えているパワーモジュール1であって、
回路層12と半導体素子3との間には、銀の焼成体からなる接合層31が形成されているパワーモジュール1。」

(3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、冷熱サイクルの付加等に対する信頼性を向上させたセラミックス回路基板に関する。」

「【0005】
ところで、上述した直接接合法や活性金属法等により金属板をセラミックス基板に接合したセラミックス回路基板においては、大電流を流せるように金属板の厚さを 0.3? 0.5mmと厚くしているため、熱履歴に対して信頼性に乏しいという問題があった。すなわち、熱膨張率が大きく異なるセラミックス基板と金属板とを接合すると、接合後の冷却過程や冷熱サイクルの付加により、上記熱膨張差に起因する熱応力が発生する。この応力は接合部付近のセラミックス基板側に圧縮と引張りの残留応力分布として存在し、特に金属板の外周端部と近接するセラミックス部分に残留応力の主応力が作用する。この残留応力は、セラミックス基板にクラックを生じさせたり、あるいは金属板剥離の発生原因等となる。また、セラミックス基板にクラックが生じないまでも、セラミックス基板の強度を低下させるという悪影響を及ぼす。」

「【0016】
【作用】本発明のセラミックス回路基板においては、金属板の接合面と反対面側の外周縁部内側に不連続な溝を形成している。ここで、金属板の接合後の冷却過程で発生する熱応力や冷熱サイクルの付加等による熱応力、またそれらに基く残留応力は、金属板の外周縁部内側に設けられた不連続な溝により分散されるため、金属板の外周端部への応力集中が緩和される。これにより、金属板の外周端部での応力値自体を低減することができるため、従来問題となっていたセラミックス基板のクラック発生や強度低下等を有効に防止することが可能となる。」

「【0019】
図1は、本発明の一実施例によるセラミックス回路基板の構造を示す図である。同図において、1はセラミックス基板であり、このセラミックス基板1の表面1aには金属板として銅板2が接合されている。また、セラミックス基板1の裏面1bにも、同様に銅板3が接合されており、これらによりセラミックス回路基板4が構成されている。」

「【0022】
セラミックス基板1の表面1a側に接合された銅板2は、半導体部品等の実装部となるものであり、所望の回路形状にパターニングされている。また、セラミックス基板1の裏面1b側に接合された銅板3は、接合時におけるセラミックス基板1の反り等を防止するものであり、中央付近から 2分割された状態でほぼセラミックス基板1の裏面1b全面に接合、形成されている。裏面1b側の銅板3には、半導体部品等の実装部となる銅板2と同じ厚さのものを使用してもよいが、銅板2の厚さの70? 90%の厚さの銅板を使用することが好ましい。
【0023】
ここで、図1に示したセラミックス回路基板4は、セラミックス基板1に銅板2、3をDBC法により接合したものであるが、例えば図2に示すように、銅板2、3を活性金属法でセラミックス基板1に接合したセラミックス回路基板5であってもよい。上記活性金属法は、例えばTi、Zr、Hf、Nb等から選ばれた少なくとも 1種の活性金属を含むろう材(以下、活性金属含有ろう材と記す)層6を介して、セラミックス基板1と銅板2、3とを接合する方法である。用いる活性金属含有ろう材の組成としては、例えば Ag-Cuの共晶組成(72wt%Ag-28wt%Cu)もしくはその近傍組成の Ag-Cu系ろう材やCu系ろう材を主体とし、これに 1?10重量% のTi、Zr、Hf、Nb等から選ばれた少なくとも 1種の活性金属を添加した組成等が例示される。なお、活性金属含有ろう材にInのような低融点金属を添加して用いることもできる。」

「【0026】
そして、上述したセラミックス回路基板4、5においては、図3に示すように、半導体部品等の実装部となる銅板2の外周縁部内側に、不連続な溝7が外周縁部に沿って、すなわち銅板2の各回路パターン部の外周縁部に沿って形成されている。不連続な溝7は、製造工程の繁雑化を避けると共に、製造工数の低減を図るために、金型を用いたプレス加工等の機械加工により形成することが望ましい。ただし、必ずしも他の形成方法の適用を除外するものではない。
【0027】
ここで、上述した銅板2(金属板)の外周縁部内側とは、図4に示すように銅板2の幅Dを基準として、外周縁部から中央方向へ向って銅板2の幅Dの 1/3以内の部分とする。すなわち、銅板2の幅Dを基準として、外周縁部を含まない外周縁部から中央方向に両側 1/3D以内の部分を外周縁部内側(図4においては斜線で示す)とし、銅板2の幅Dの中央 1/3の部分を中央部とする。不連続な溝7の形成領域が上記外周縁部内側を超えて中央部に達すると、銅板2の外周端部の応力集中を十分に緩和できなくなると共に、実装面積の低下を招くことになる。上述した不連続な溝7は、銅板2の各回路パターン部の外周縁部に沿って、所定の間隔で直線状に形成することが好ましい。このように、不連続な溝7を直線状に形成することによって、銅板2の外周端部への応力集中を効率的に緩和、言い換えると応力を効率的に分散させることができる。不連続な溝7を構成する各単体溝7aの形状、すなわち単体溝7aの幅Wおよび長さL_(0) は、後述する単体溝7aの形成間隔や銅板2の大きさ等にもよるが、幅Wを 0.2? 1.0mmの範囲、長さL_(0) を20mm以下の範囲とすることが好ましい。単体溝7aの幅Wが 0.2mm未満の場合には、十分に応力を分散できないおそれがあり、また 1.0mmを超えると銅板2の強度低下を招きやすくなると共に、実装面積の低下を招くことになる。幅Wのさらに好ましい範囲は同様の理由から 0.4? 0.8mmである。また、各単体溝7aの長さL_(0 )が20mmを超えると、溝非形成領域の減少に伴って銅板2の変形を十分に抑制できないおそれがある。各単体溝7aの最小長さは特に限定されるものではないが、銅板2の外周端部への応力集中を効率的に緩和するという点から 2mm以上とすることが好ましい。」

「【0044】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のセラミックス回路基板によれば、冷熱サイクルが付加された場合等においても、金属板に生じる熱応力や残留応力を不連続な溝により分散させることで、金属板の外周端部への応力集中を緩和することができると共に、製造工程的に有利な機械加工によっても金属板の変形を防止することができる。従って、製造工程の簡略化および製造工数の低減を図った上で、冷熱サイクルの付加等によるセラミックス基板のクラック発生や強度低下を有効に防止することができ、信頼性および製造性に優れたセラミックス回路基板を提供することが可能となる。」

(4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、セラミック基板の両面の一方の主面に回路銅板、他方の主面に放熱銅板を接合させてなり、回路銅板上に接合材を介して電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板及びその製造方法に関する。」

「【0003】
個片体のパワーモジュール用基板には、回路銅板側の定められた部分の銅板上に半導体素子が接合材で接合されるようになっている。また、パワーモジュール用基板には、半導体素子が接合材で接合された銅板とは異なる銅板上に外部接続端子が接合材で接合されるようになっている。そして、パワーモジュール用基板は、半導体素子と、他の部分の銅板との間をボンディングワイヤで接続して電気的な導通回路を形成し、外部接続端子を介して半導体素子に高電圧且つ高電流が流せるようにしている。また、このパワーモジュール用基板は、高電圧且つ高電流が流れることで発生する半導体素子からの発熱を速やかに熱伝導率のよい銅を用いた回路銅板側から放熱させるために、熱伝導率のよい銅を用いた放熱銅板側に伝熱させると共に、通常、放熱銅板に接合材等で接合されるヒートシンク板から放熱させている。
【0004】
しかしながら、上記のパワーモジュール用基板は、回路銅板側の定められた部分の銅板上に半導体素子が接合材で接合されるので、接合材付けの際に余分な接合材が半導体素子の外部や、セラミック基板上に流れ出たりするという問題が発生していた。
【0005】
そこで、従来のパワーモジュール用基板及びその製造方法には、半導体素子が接合材で接合される銅板の接合部位の周辺部に土手を設けて接合材流れ止め用とするパワーモジュール用基板、及びそれをエッチングで設ける製造方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
また、従来のパワーモジュール用基板には、セラミック回路基板という発明の名称の基に、セラミック基板の上面に金属回路板が接合されて成り、この金属回路板の上面に接合材を介して半導体素子が搭載されるセラミック回路基板において、金属回路板は、その上面に半導体素子の外周縁が内周と外周との間に位置する枠状の溝が形成されているものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。」

「【0019】
上記のパワーモジュール用基板10は、セラミック基板11の一方の主面である上面側に回路銅板12と、セラミック基板11の他方の主面である下面側にベタ状態のパターンからなる放熱銅板13を有している。そして、図2に示すように、パワーモジュール用基板10は、所定位置の回路銅板12にパワートランジスタ等の高熱を発する半導体素子20を搭載したり、他の所定位置の回路銅板12に外部接続端子21を接合したり、更には、半導体素子20と、半導体素子20が搭載されない他の回路銅板12間にボンディングワイヤ22で連結させることで、電気的導通状態が形成できるようにしている。また、このパワーモジュール用基板10は、回路銅板12上面に接合される半導体素子20からの発熱を速やかに伝熱及び放熱させるための放熱銅板13を、更にヒートシンク板23等に接合させて放熱を更に促進させることができるようにしている。
【0020】
上記のパワーモジュール用基板10は、半導体素子20が接合材24を介して接合される回路銅板12上面に、パターンの少なくとも一部の幅部を半導体素子20が跨ぐように覆われる凹み状パターン14を有している。この凹み状パターン14は、特に、形状が限定されるものではないが、例えば、パターンの一部、又は全部を半導体素子20が跨ぐように覆われることができるような四角形や、多角形や、円形や、自由形状等のリング状溝幅部を有するパターンであってよい。また、この凹み状パターン14は、例えば、パターンの一部、又は全部を半導体素子20が跨ぐように覆われることができるような直線や、曲線等の一線状溝幅部や、十字状や、放射状等の交叉線状溝幅部を有するパターンであってよい。あるいは、この凹み状パターン14は、例えば、パターンの一部、又は全部を半導体素子20が跨ぐように覆われることができるような広さのクレーター状穴を1又は複数個備えるパターンであってよい。
【0021】
この回路銅板12上面に設ける凹み状パターン14は、半導体素子20を回路銅板12上に載置させるときの位置決め用として用いることができ、半導体素子20を回路銅板12上に正確に位置決めさせることができる。また、回路銅板12上面に設ける凹み状パターン14は、回路銅板12上に接合材24、例えば、半田を介して半導体素子20を接合させるときに、回路銅板12上に設けるクリーム半田中のフラックスが液化して濡れ広がろうとするのを凹み状パターン14に流れ込ませて抑制させることができ、接合材24である半田の流れ出しを抑制させることができる。そして、半導体素子20は、回路銅板12上に適切な凹み状パターン14を設けることで、接合材24の広がる領域が制限され、接合させる位置の規制力が働き、必要とする位置に正確、且つ強固に接合させることができる。更に、凹み状パターン14の外側の回路銅板12上は、接合材24、例えば、半田のフラックスが存在しなくなるので、清浄化されず、接合材24の広がる領域が半導体素子20の下面に溜まることになり、半導体素子20の上面側への接合材24の這い上がりを防止することができる。」

(5)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、電子部品搭載基板およびその製造方法に関し、特に、銅板また銅めっき板の一方の面がセラミックス基板に接合した金属-セラミックス接合基板の金属板の他方の面に半導体チップなどの電子部品が取り付けられた電子部品搭載基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するために、パワーモジュールが使用されている。従来のパワーモジュールでは、ベース板と呼ばれている金属板または複合材の一方の面に金属-セラミックス絶縁基板が固定され、この金属-セラミックス絶縁基板の金属板上に半導体チップが半田付けにより固定されている。
【0003】
近年、銀微粒子を含む銀ペーストを接合材として使用し、銅板などの被接合物間に接合材を介在させ、被接合物間に圧力を加えながら所定時間加熱して、接合材中の銀を焼結させて、被接合物同士を接合することが提案されており(例えば、特許文献1参照)、このような銀微粒子を含む銀ペーストからなる接合材を半田の代わりに使用して、金属-セラミックス絶縁基板の金属板上に半導体チップなどの電子部品を固定する試みがなされている。」

「【0017】
図1および図2に示すように、本発明による電子部品搭載基板の実施の形態では、平面形状が略矩形の(電子部品搭載用)金属板10の一方の主面に、(銀の焼結体を含む)銀接合層12により電子部品14が接合されている。また、金属板10の他方の主面に、平面形状が略矩形のセラミックス基板16の一方の主面を接合し、このセラミックス基板16の他方の主面に、平面形状が略矩形の放熱用金属板(金属ベース板)18を接合してもよい。また、金属板10の一方の主面に銅めっき皮膜20を形成し、その銅めっき皮膜20上に、銀接合層12により電子部品14を接合してもよい。
【0018】
なお、金属板10は、銅あるいは(銅めっき皮膜20を形成する場合には)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、金属板10の一方の主面(または銅めっき皮膜20の表面)(電子部品14が接合される面)の表面粗さが0.4μm以上、好ましくは0.5?2.0μmになっている。また、金属板10の一方の主面(または銅めっき皮膜20の表面)(電子部品14が接合される面)のビッカース硬さHvが100以下であるのが好ましく、40以下であるのがさらに好ましい。」

(6)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】
パワートランジスタ、パワーIC等のパワー系半導体装置は、ヘッダを兼ねているフレーム金属からなる表面平らなダイパッド上に半田等のロウ材を介して半導体ペレットを接続するものであり、したがってペレット下面にわたってロウ材の厚さは均一である。
【0003】
消費電力の大きいパワー系半導体装置などにおいては、動作時に発生する熱により、半導体装置、とくに半導体ペレットを接続している半田等のロウ材部分が熱応力による疲労を生じて破壊に至りやすく、同時に動作機能に障害が生じることがある。このような半田疲労を防ぐ手段として従来より熱応力を緩和するためにペレットを付ける半田層を十分に厚く形成することが知られている。」

「【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明はヘッダを兼ねているダイパッド(フレーム)面にペレットの輪郭にそって溝ないし凹凸の段差を設け、この溝ないし凹凸の上にペレットの外周部がくるように半田を介してペレットを接続することを特徴とするものである。
【0006】
上記した技術手段による機能と作用は次のように説明できる。半田疲労の低減に必要な条件は、熱膨張・収縮時にペレットとヘッダ(フレーム)との熱膨張係数の差により発生する半田層に生じるせん断歪を小さくすることである。せん断歪はペレット付け層の半田厚さを厚くすれば低減することができる。このせん断歪はペレット周辺部で極端に大きく、とりわけコーナー部が最大である。したがって、せん断歪の大きい外周部ないしコーナー部のみ半田厚さを厚くすればよいことになる。つまり、ペレットが取り付けられるヘッダ部のペレット外周部ないしコーナー部に対応する部分に溝ないし凹凸の段差をつけることによりその部分を半田が埋めて、ペレット外周部やコーナー部のみ半田が厚くなるために、ペレット中央部やその他の部分の半田厚さを従来並みにうすく均一厚さにすることができるとともに、ペレット傾きは起きにくくなり、熱抵抗も十分に確保できる。
【0007】
【実施例】
以下、実施例の図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用される半導体装置の従来形態の一例としてTO-3PL(会社規格)パワートランジスタの組立時における、樹脂封止前のフレームの形態を斜面図で示すものである。1はヘッダ(ダイパッド)で銅などの金属を打ち抜いたリードフレームの一部として形成される。2は半導体ペレットで半田等のロウ材によりヘッダ上にペレット付けされる。3はリードで、このうち一部(中央)はヘッダと直結し、他部(両側)は樹脂封止後、ダム部分11で互いに切り離される。4はアルミニウム(又は金)ワイヤでペレットとリードとの間を熱圧着及び超音波併用熱圧着ボンディングにより接続するものである。」

「【0011】
図5は樹脂封止された本発明による半導体装置の全断面図を示すものである。ペレット直下の半田がヘッダの溝8にかかるようにペレット2が取付けられる。ペレットの外周部の半田(6)の厚さは溝8の深さだけ厚くなり、これにより他の部分の半田量を低減できる。したがってペレット中央部では半田5が薄い状態で均一な厚さとすることができる。
【0012】
図6は図5に対応するペレットとヘッダとの間における熱膨張・収縮による半田部のせん断歪γの状態を示すものである。この場合の半田のせん断歪は溝があることにより、従来品より小さくすることができる。」

「【0014】
図8は本発明の応用例であって、溝8の形状を丸みをもつ断面のものとした場合である。図9は他の応用例であって溝8の形状をV字断面としたものであり、半田のせん断歪を小さくするのに同様の効果をもつ。
【0015】
図10は本発明のさらに他の応用例であって、溝に対応する位置に外周が低い段差9を設けることにより、ペレット周辺直下の半田層6を厚くし、半田のせん断歪を小さくするものである。図11はさらに他の応用例であって、図10の段差のさらに外側に半田流れ止め用の小溝10を設けたものである。」

2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 引用発明1を主たる発明とする場合
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
a 引用発明1の「セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12に接合された半導体素子3とを備えたパワーモジュール1」は、本件特許発明1の「セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の上面に搭載された半導体素子とを備えたパワーモジュール」に相当する。

b 引用発明1において「半導体素子3」を、「回路層12と半導体素子3との間に」「形成」された「Ag焼結層31によって」「接合している」ことは、本件特許発明1の「前記半導体素子は、銀接合層を介して前記回路層の上面に接合されて」いることに相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の上面に搭載された半導体素子とを備えたパワーモジュールであって、
前記半導体素子は、銀接合層を介して前記回路層の上面に接合されているパワーモジュール。」

(相違点1)
本件特許発明1は、「前記回路層の上面には、前記半導体素子の周縁部のうちの少なくともコーナー部分に、該周縁部に沿って凹溝部が設けられ、該凹溝部の内周側面が、前記半導体素子の外周側面よりも内側に配設され、かつ、前記凹溝部の外周側面が、前記半導体素子の外周側面と面一に配設されている」のに対して、引用発明1は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲第3号証には、表面1aに銅板2が接合されているセラミックス基板1において(【0019】)、半導体部品等の実装部となる銅板2の外周縁部内側に、不連続な溝7を外周縁部に沿って形成する技術が記載されている(【0026】)。
ここで、上記技術は、熱膨張率が大きく異なるセラミックス基板と銅板等の金属板とを接合したものにおいて、接合後の冷却過程や冷熱サイクルにより金属板の外周端部に作用する残留応力を(【0005】)、金属板の外周縁部内側に設けられた不連続な溝により分散し、金属板の外周端部への応力集中を緩和するためのものである(【0016】)。
そうすると、上記技術において、不連続な溝7を設ける位置は、銅板2の形状に依存するものであって、半導体部品等の実装位置と無関係であり、仮に上記技術を引用発明1に適用して回路層12に溝を設けたとしても、溝の位置と半導体素子3について何ら関連づけることはできず、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を得ることはできない。

甲第4号証には、パワーモジュール用基板10において、接合材24である半田の流れ出しを抑制するために(【0021】)、半導体素子20が接合材24を介して接合される回路銅板12上面に、パターンの少なくとも一部の幅部を半導体素子20が跨ぐように覆われる凹み状パターン14を設ける技術が記載されている(【0020】)。
ここで、引用発明1は「回路層12と半導体素子3との間」の「Ag焼結層31」を形成する際に、回路層12の表面に、酸化銀ペーストを直接塗布しているので(甲第1号証(【0032】、【0039】))、酸化銀ペーストの流れ出しを抑制するために、上記技術を引用発明1に適用して回路層12に凹み状パターンを設けることも考えられるが、その場合でも、パターンの少なくとも一部の幅部を半導体素子3が跨ぐように覆うことになり、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を得ることはできない。

甲第6号証には、ダイパッド面にペレットの輪郭にそって溝ないし凹凸の段差を設け、この溝ないし凹凸の上にペレットの外周部がくるように半田を介してペレットを接続する技術が記載されている(【0005】)。
ここで、上記技術は、ペレット付け層の半田厚さを厚くすることにより、せん断歪みを低減できるので、せん断歪みの大きいペレットの外周部やコーナー部のみ半田厚さを厚くするものであるから(【0006】)、「回路層12と半導体素子3との間にAg焼結層31を形成し、Ag焼結層31によって半導体素子3を接合している」引用発明1に、半田付けを前提とする上記技術を適用することは、阻害要因が存在するといえる。

また、甲第5号証には、電子部品搭載用金属板10に凹溝部を設けることは記載されていない。

したがって、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成は、引用発明1、甲第3号証-甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、引用発明1、甲第3号証-甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 引用発明2を主たる発明とする場合
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明2を対比する。
a 引用発明2の「セラミックス基板11の一方の面に銅板からなる回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の上面に接合された半導体素子3とを備えているパワーモジュール1」は、本件特許発明1の「セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の上面に搭載された半導体素子とを備えたパワーモジュール」に相当する。

b 引用発明2において「回路層12と半導体素子3との間には、銀の焼成体からなる接合層31が形成され」「半導体素子3」が「回路層12の上面に接合され」ていることは、本件特許発明1の「前記半導体素子は、銀接合層を介して前記回路層の上面に接合されて」いることに相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の上面に搭載された半導体素子とを備えたパワーモジュールであって、
前記半導体素子は、銀接合層を介して前記回路層の上面に接合されているパワーモジュール。」

(相違点2)
本件特許発明1は、「前記回路層の上面には、前記半導体素子の周縁部のうちの少なくともコーナー部分に、該周縁部に沿って凹溝部が設けられ、該凹溝部の内周側面が、前記半導体素子の外周側面よりも内側に配設され、かつ、前記凹溝部の外周側面が、前記半導体素子の外周側面と面一に配設されている」のに対して、引用発明2は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点2は、上記「ア (イ)」で検討した相違点1と同じであるので、同様な理由により上記相違点2に係る本件特許発明1の構成は、引用発明2、甲第3号証-甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、引用発明2、甲第3号証-甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明1、引用発明2、甲第3号証-甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1、2に係る特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第5 理由2(第36条第6項第2号)について
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、
「本件特許の請求項1には『前記凹溝部の外周側面が、前記半導体素子の外周側面と面一に配設されている』と記載されています。・・・
しかしながら、請求項1には『面一』の具体的な定義について何ら記載されておりません。『面一』という用語は、2つの面の間に段差が全く無い状態を表すだけでなく、わずかな段差を含む状態を表す場合にも用いられます。」として、「本件特許の請求項1の『凹溝部の外周側面が、半導体素子の外周側面と面一に配設されている』構成は、凹溝部の構成を明確に規定するものではなく、不明確であると思料します。」と主張している。

また、「面一」がわずかな段差を含む状態を表す場合の例として、甲第7号証及び甲第8号証の次の記載を引用している。
・甲第7号証
「【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、厚み方向に隣接するセラミック層ごとを貫通する単位ビア導体同士の接続部付近で且つ前記セラミック層間に位置する配線層内の隙間などに絶縁層を形成する、ことに着想して成されたものである。即ち、本発明の多層セラミック基板(請求項1)は、複数のセラミック層が積層された基板本体と、該基板本体において、隣接する複数のセラミック層を厚み方向に沿って同軸状に貫通する複数の連続ビア導体と、を備えた多層セラミック基板であって、上記連続ビア導体の少なくとも1つは、該連続ビア導体において隣接する上記複数のセラミック層間に位置するセラミック系の絶縁層により絶縁されていると共に、かかる絶縁層は、隣接する上記セラミック層間に形成された配線層内の隙間、あるいは、複数の配線層同士間の間隙に位置している、ことを特徴とする。」
「【0010】
また、本発明には、前記基板本体は、該基板本体の表面の中央側に開口するキャビティを有し、隣接する複数の前記セラミック層は、該キャビティの底面と側面とを形成するものであり、前記絶縁層の周辺部の一部は、上記キャビティの側面と面一状であるか、あるいは該キャビティの底面側に延在し且つ当該キャビティ内に露出している、多層セラミック基板(請求項2)も含まれる。・・・尚、前記面一状とは、前記周辺部の一部が前記キャビティの側面よりも該側面の奥側に100μm以下の範囲(例えば、数10μm程度)で位置していることも含んでいる。」

・甲第8号証
「【0015】
このような着火具1は、容器6の開口内に配置され、複数の貫通孔3aを備えたセラミック体3と、複数の前記貫通孔3aの内周面に被着した、Moを主成分とするメタライズ層12と、貫通孔3aの内周面に被着した、Ptを主成分とする抵抗発熱体層14と、メタライズ層12と抵抗発熱体層14とを電気的に接続する、複数の貫通孔3aの内周面に被着した、PtMo合金を主成分とする合金層16と、複数の貫通孔3aに挿入され、メタライズ層12に電気的に接続された複数の電極ピン8と、を備えている。」
「【0031】
また、電極ピン8の、前記一端部の端面8Aは、セラミック体3の第1の主面3Aと面一とされており、さらに接合体19の表面が、第1の主面3Aおよび電極ピン8の端面8Aと面一とされている。抵抗発熱体層14は、厚さが約20μm以下と薄く、セラミック体3の第1の主面3A、抵抗発熱体層14、電極ピン8の端面8A、および接合体19は、いずれも面一とされている。ここで面一とは、表面粗さ計を用いて測定した表面プロファイルにおける、最高点と最低点との差(最大高低差)が、例えば0.5mm以下のことをいう。」

2 当審の判断
面一について、「面一(つらいち、ツライチ)とは、二つの面の間に段差が無くフラットな状態のこと。」(ウィキペディア(Wikipedia)、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%A2%E4%B8%80)、「面一(つらいち) メンイチとも読み、2材を同一面で仕上げること。」(建築用語集、http://www.kenchikuyogo.com/313-tsu/017-tsura_ichi.htm)とあるように、「面一」は広く一般的に使われる用語であり、その意味するところも、二つの面の間に段差がない状態のことであり、明確である。
そうすると、本件特許の請求項1に記載された「面一」は明確な用語であり、「前記凹溝部の外周側面が、前記半導体素子の外周側面と面一に配設されている」の記載は明確である。

また、甲第7号証に「前記面一状とは、前記周辺部の一部が前記キャビティの側面よりも該側面の奥側に100μm以下の範囲(例えば、数10μm程度)で位置していることも含んでいる。」、甲第8号証に「面一とは、表面粗さ計を用いて測定した表面プロファイルにおける、最高点と最低点との差(最大高低差)が、例えば0.5mm以下のことをいう。」と記載されているが、これらの記載は、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明を理解する際に必要な記載であり、本件特許の請求項1の記載に影響を及ぼすものではない。

したがって、本件特許の請求項1の記載は明確である。

よって、本件特許発明1、2に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、同法第113条第4号により取り消すことができない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-09 
出願番号 特願2015-210446(P2015-210446)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土谷 慎吾  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
石川 亮
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6572732号(P6572732)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 パワーモジュール  
代理人 青山 正和  

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