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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09D 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D |
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管理番号 | 1363186 |
異議申立番号 | 異議2020-700145 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-03 |
確定日 | 2020-06-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6573655号発明「ガラス基板への塗工用溶液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6573655号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6573655号の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年12月27日に出願されたものであって、令和1年8月23日にその特許権の設定登録がされ、同年9月11日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許に対し、令和2年3月3日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6573655号の請求項1の特許に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられる、ガラス基板への塗工用溶液であって、以下を特徴とするガラス基板への塗工用溶液。 1)ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である。 2)PAAの固形分濃度が、溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下である。 3)25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下である。」 第3 申立理由の概要 申立人が主張する申立理由及び証拠方法は次のとおりである。 1(新規性)本件発明1は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2(進歩性)本件発明1は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3 申立人が提出した証拠方法 甲第1号証:国際公開第2014/192561号 甲第2号証:国際公開第2016/152906号 甲第3号証:国際公開第2017/176000号 甲第4号証:特開2009-91573号公報 なお、甲第1号証ないし甲第4号証を、以下では、それぞれ「甲1」ないし「甲4」ということがある。 第4 甲1ないし甲4の記載事項及び甲1ないし甲3発明(当審注:下線は当審が付した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。) 1 甲1の記載事項及び甲1発明 甲1には、以下の(1-1)?(1-5)の事項が記載されている。 (1-1)「[請求項1] ガラス基板、および、前記ガラス基板上に形成されたポリイミド樹脂の層を有するフレキシブル基材であって、前記フレキシブル基材は前記ポリイミド樹脂の層上に支持ガラスを積層してガラス積層体を製造するために使用されるものであり、 前記フレキシブル基材における前記ポリイミド樹脂が、下記式(1)で表される、テトラカルボン酸類の残基(X)とジアミン類の残基(A)とを有する繰り返し単位からなり、かつ、前記テトラカルボン酸類の残基(X)の総数の50モル%以上が下記式(X1)?(X4)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基からなり、前記ジアミン類の残基(A)の総数の50モル%以上が下記式(A1)?(A7)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基から選ばれる少なくとも1種の基を含むポリイミド樹脂であり、 前記ガラス基板上の前記ポリイミド樹脂の層が、前記ガラス基板上に形成された、(I)熱硬化により前記ポリイミド樹脂となる硬化性樹脂の層、または、(II)前記ポリイミド樹脂および溶媒を含む組成物を塗布して得られる層を、60℃以上250℃未満で加熱する第1の加熱処理と、250℃以上500℃以下で加熱する第2の加熱処理とをこの順で施すことにより形成されたポリイミド樹脂の層である、フレキシブル基材: [化1] 式(1)中、Xはテトラカルボン酸類からカルボキシ基を除いたテトラカルボン酸残基を、Aはジアミン類からアミノ基を除いたジアミン残基を表す; [化2] 」 (1-2)「[0060] (工程(1):塗膜形成工程) 工程(1)は、熱硬化により、上記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂となる硬化性樹脂をガラス基板16上に塗布して、塗膜を得る工程である。 なお、硬化性樹脂は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン類とを反応させて得られるポリアミック酸を含むことが好ましく、テトラカルボン酸二無水物の少なくとも一部が下記式(Y1)?(Y4)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物からなり、ジアミン類の少なくとも一部が下記式(B1)?(B7)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種のジアミン類からなることが好ましい。 ・・・ [0065] テトラカルボン酸二無水物とジアミン類との反応条件は特に制限されず、ポリアミック酸を効率よく合成できる点で、-30?70℃(好ましくは-20?40℃)で反応させることが好ましい。 テトラカルボン酸二無水物とジアミン類との混合比率は特に制限されないが、ジアミン類1モルに対して、テトラカルボン酸二無水物を好ましくは0.66?1.5モル、より好ましくは0.9?1.1モル、さらに好ましくは0.97?1.03モル反応させることが挙げられる。」 (1-3)「[0078] (ガラス積層体) 本発明のガラス積層体10は、種々の用途に使用することができ、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品を製造する用途などが挙げられる。なお、該用途では、ガラス積層体10が高温条件(例えば、400℃以上)で曝される(例えば、1時間以上)場合が多い。 ここで、表示装置用パネルとは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)シャッターパネル等が含まれる。」 (1-4)「[0095] <製造例1:ポリアミック酸溶液(P1)の製造> パラフェニレンジアミン(10.8g,0.1mol)をN,N-ジメチルアセトアミド(198.6g)に溶解させ、室温下で攪拌した。これに(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)(29.4g,0.1mol)を1分間で加え、室温下2時間攪拌し、上記式(2-1)および/または式(2-2)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸を含む固形分濃度20質量%のポリアミック酸溶液(P1)を得た。この溶液の粘度を測定したところ、20℃で3000センチポイズであった。」 (1-5)「[0097] <製造例3:脂環式ポリイミド樹脂溶液(P3)の製造> 9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(28g,0.08モル)および4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(7.4g,0.02モル)、溶剤としてγ-ブチロラクトン(69.3g)、および、N,N-ジメチルアセトアミド(140g)を混合して溶解させ、室温下で撹拌した。これに、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(22.5g,0.1モル)を1分間かけて加え、室温下2時間攪拌し、固形分濃度20質量%のポリアミック酸溶液(P3)を得た。この溶液の粘度を測定したところ、20℃で3300センチポイズであった。 なお、ポリアミック酸中に含まれる式(2-1)および/または式(2-2)で表される繰り返し単位中のXは式(X4)で表される基、Aは式(A6)および上記式(A7)で表される基であった。」 (ア)甲1発明 前記(1-1)、(1-3)及び(1-4)から、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル用のフレキシブル基材の製造に使用する、ガラス基板上に塗布してポリイミド樹脂の層を形成するためのポリアミック酸溶液であって、 パラフェニレンジアミン(10.8g,0.1mol)をN,N-ジメチルアセトアミド(198.6g)に溶解させ、室温下で攪拌し、これに(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)(29.4g,0.1mol)を1分間で加え、室温下2時間攪拌して得た、固形分濃度20質量%であり、粘度が20℃で3000センチポイズであるポリアミック酸溶液。」 2 甲2の記載事項及び甲2発明 甲2には、以下の(2-1)?(2-5)の事項が記載されている。 (2-1)「[0099] (樹脂積層膜の製造方法) 本発明の樹脂積層膜は少なくとも下記(1)?(3)の工程を含む製造方法で作製することができる。 (1)支持基板上に、ポリイミド樹脂膜Aを製膜する工程。 (2)前記樹脂膜上に更に樹脂膜を積層して樹脂積層膜を形成する工程。 (3)支持基板側から紫外光を照射して、前記樹脂積層膜を剥離する工程。 ・・・ [0101] (1)支持基板上に、ポリイミド樹脂膜Aを製膜する工程 ポリイミド前駆体樹脂溶液を支持基板上に塗布してポリイミド樹脂膜Aのポリイミド前駆体樹脂組成物膜を形成する」 (2-2)「[0200] 本発明の樹脂積層膜を利用したフレキシブル基板は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーといった表示素子や太陽電池、CMOSなどの受光素子に使用することができる。特にこれらの表示素子や受光素子を、折り曲げ可能なフレキシブルデバイスとして活用する上で、本発明のフレキシブル基板が好ましく用いられる。」 (2-3)「[0212] (2)ポリイミド樹脂膜(ガラス基板上)の作製 100mm×100mm×0.7mm厚のガラス基板(AN-100 旭硝子(株)製)を支持基板として、これに、ミカサ(株)製のスピンコーターMS-A200を用いて140℃×4分のプリベーク後の厚さが15.0μmになるように、回転数を調節してワニス(合成例1?22、調製例1,2)をスピン塗布した。その後、大日本スクリーン(株)製ホットプレートD-SPINを用いて140℃×4分のプリベーク処理を行った。プリベーク処理後の塗膜をイナートオーブン(光洋サーモシステム(株)製 INH-21CD)を用いて窒素気流下(酸素濃度20ppm以下)、3.5℃/minで300℃または400℃まで昇温し、30分間保持し、5℃/minで50℃まで冷却し、ポリイミド樹脂膜を作製した。得られたポリイミド樹脂膜の厚さは10.0μmであった。」 (2-4)「[0227] (使用原料等の表記) 実施例で用いた物質等の略称を以下にまとめる。 PMDA:ピロメリット酸二無水物 BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 ODPA:3,3’,4,4’-オキシジフタル酸二無水物 6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物 BSAA:2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物 CBDA:シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 PMDA-HS:1R,2S,4S,5R-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物 BPDA-H:3,3’,4,4’-ジシクロへキサンテトラカルボン酸二無水物 PDA:パラフェニレンジアミン 3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン ・・・ NMP:N-メチル-2-ピロリドン GBL:ガンマブチロラクトン」 (2-5)「[0250] 合成例22: ポリイミド前駆体溶液の合成 乾燥窒素気流下、200mL4つ口フラスコにBPDA13.9283g(47.3mmol)、PDA5.1193g(47.3mmol)、NMP100gを入れて65℃で加熱撹拌した。6時間後、冷却してポリイミド前駆体溶液とした。」 (ア)甲2発明 前記(2-1)?(2-5)から、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー用のフレキシブル基板の製造に使用する、ガラス基板上に塗布してポリイミド前駆体樹脂組成物膜を形成するためのポリイミド前駆体溶液であって、 BPDA(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)13.9283g(47.3mmol)、PDA(パラフェニレンジアミン)5.1193g(47.3mmol)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)100gを入れて65℃で加熱撹拌し、6時間後、冷却して得たポリイミド前駆体溶液。」 3 甲3の記載事項及び甲3発明 甲3には、以下の(3-1)?(3-4)の事項が記載されている。 (3-1)「 」 (当審訳: 【請求項8】 化学式1の酸二無水物及び化学式2のジアミンを重合溶媒下で反応させてポリアミック酸を重合する段階と、 前記重合されたポリアミック酸及び溶媒を含むポリイミド前駆体組成物を製造する段階と、 前記ポリイミド前駆体組成物を基板上に塗布及び硬化してポリイミドフィルムを製造する段階と、を含むポリイミドの製造方法において、前記化学式1の酸二無水物を化学式2のジアミンに対して同一含量または過量で反応させる請求項1から7のうち何れか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法: [化学式1] [化学式2] ) (3-2)「 」 (当審訳: [75] 前記反応は、無水条件で実施され、前記重合反応時に、温度は、-75?50℃、望ましくは、0?40℃で実施される。ジアミン系化合物が有機溶媒に溶解された状態で酸二無水物を投入する方式で実施される。そのうち、ジアミン系化合物及び酸二無水物系化合物は、重合溶媒でほぼ10?30重量%の含量で含まれる。重合時間及び反応温度によって分子量が調節される。 [76] また、前記重合反応に使われる有機溶媒としては、具体的に、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類(セロソルブ);酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、カルビトール、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N-ビニルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチルウレア、N-メチルカプロラクタム、テトラヒドロフラン、m-ジオキサン、P-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)]エーテル、及びこれらの混合物からなる群から選択されるものが使われる。 [77] より望ましくは、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,Nジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドンなどのピロリドン系溶媒を単独または混合物として利用することができる。) (3-3)「 」 (当審訳: [80] 具体的に、前記製造方法によって製造されたポリイミド前駆体組成物は、前記有機溶媒中にポリイミド前駆体が溶解された溶液の形態であり、このような形態を有する場合、例えば、ポリイミド前駆体を有機溶媒中で合成した場合には、ポリイミド前駆体組成物は、重合後、得られるポリイミド前駆体溶液のその自体または同一溶液をさらに添加したものであっても良く、または、前記重合後、得られたポリイミド前駆体溶液を他の溶媒で希釈したものであっても良い。 [81] 前記ポリイミド前駆体組成物は、フィルム形成工程時の塗布性などの工程性を考慮して、適切な粘度を有させる量で固形分を含むことが望ましく、前記固形分は、ポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含まれうる。または、前記ポリイミド前駆体組成物が、400?50,000cPの粘度を有するように調節することが望ましい。ポリイミド前駆体組成物の粘度が400cP未満であり、ポリイミド前駆体組成物の粘度が50,000cPを超過する場合、前記ポリイミド前駆体組成物を利用したディスプレイ基板の製造時に、流動性が低下して、コーティング時に均一に塗布にならないなどの製造工程上の問題点を引き起こし得る。 [82] 次いで、前記で製造したポリイミド前駆体組成物を基板の一面に塗布し、80℃?400℃の温度で熱イミド化及び硬化した後、基板から分離することによって、ポリイミドフィルムが製造可能である。 [83] この際、前記基板としては、ガラス、金属基板またはプラスチック基板などが特に制限なしに使われ、そのうちでも、ポリイミド前駆体に対するイミド化及び硬化工程のうち、熱及び化学的安定性に優れ、別途の離型剤処理なしにも、硬化後、形成されたポリイミド系フィルムに対して損傷なしに容易に分離されるガラス基板が望ましい。) (3-4)「 」 (当審訳: [93] また、前記ポリイミド系フィルムをディスプレイ基板として使用し、前記ディスプレイ基板上で素子を製造する工程中に反りの発生及びコーティングの浮き上がり現象などの信頼性低下の発生を抑制し、その結果、より向上した特性及び信頼性を有する素子の製造が可能である。したがって、前記ポリイミドは、OLEDまたはLCD、電子ペーパー、太陽電池のような電子機器でのフレキシブル基板の製造に特に有用に使われる。) (ア)甲3発明 前記(3-1)?(3-4)から、甲3には、OLEDまたはLCD、電子ペーパー用のフレキシブル基板に用いられるポリイミドフィルムを形成するためにガラス基板に塗布して使用するポリイミド前駆体組成物について、化学式1の酸二無水物及び化学式2のジアミンを重合溶媒下で反応させてポリアミック酸を重合し、当該ポリアミック酸に重合溶媒と同一の溶媒を添加してポリイミド前駆体組成物としたものであることが記載され、当該重合溶媒として[77]に列挙されたものを単独または混合物として利用できること、及び、当該ポリイミド前駆体組成物は、固形分をポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含み、400?50,000cPの粘度を有するように調節したものが記載されているといえる。 そうすると、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「OLEDまたはLCD、電子ペーパー用のフレキシブル基板に用いられるポリイミドフィルムを形成するためにガラス基板に塗布して使用するポリイミド前駆体組成物であって、 [化学式1]の酸二無水物及び[化学式2]のジアミンを重合溶媒下で反応させてポリアミック酸を重合し、 [化学式1] [化学式2] 当該ポリアミック酸にホルムアミド系溶媒、アセトアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒を単独または混合物として添加したものであり、固形分をポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含み、400?50,000cPの粘度を有するポリイミド前駆体組成物。」 4 甲4の記載事項 甲4には、以下の事項が記載されている。 (4-1)「【0041】 (溶液粘度) トキメック社製E型粘度計を用いて30℃での溶液粘度を測定した。 ・・・ 【0043】 〔実施例1〕 攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMPの300g(溶媒全量のうち75質量%)、NEPの100g(溶媒全量のうち25質量%)を加え、これにPPDの26.88g(0.249モル)と、s-BPDAの73.12g(0.249モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.5重量%、溶液粘度55.0Pa・s、対数粘度1.00のポリアミック酸溶液を得た。 このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで400℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡は見られなかった。このポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。」 (4-2)「【0055】 〔比較例1〕 NMPの400g(溶媒全量のうち100質量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを形成した。このポリイミド膜には全体に渡って発泡が見られた。 このポリイミドフィルムの特性等について結果を表2に示した。」 (4-3)「【表2】 」 第5 申立理由についての当審の判断 1 理由1(新規性要件)について (1-1)本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル用のフレキシブル基材の製造に使用す」ること、及び「N,N-ジメチルアセトアミド」は、それぞれ本件発明1における「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられ」ること、及び「アミド系溶媒」に相当し、甲1発明のポリアミック酸溶液は、「ガラス基板上に塗布」するものであり、パラフェニレンジアミン、N,N-ジメチルアセトアミド、及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を構成成分とするものであるから、本件発明1でいう「ガラス基板への塗工用溶液」であって、「ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である」ことに相当する。 そして、甲1発明であるポリアミック酸溶液の固形分濃度は20%であるから、本件発明1における「PAAの固形分濃度が、溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下である。」ことに相当する。 そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられる、ガラス基板への塗工用溶液であって、 1)ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である。 2)PAAの固形分濃度が、溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下である」点。 (相違点) 本件発明1は「25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下であ」るのに対し、甲1発明は「粘度が20℃で3000センチポイズであ」るが、25℃での溶液粘度が明らかではない点。 (1-2)相違点についての判断 前記相違点について検討するに、一般に、液体の温度と粘度の関係についてはアンドレ?ドの式が知られており、x軸に温度、y軸に粘度の片対数でプロットすると右下がりの直線関係となること、すなわち、温度の上昇に伴い粘度が低下するものであり、粘度を対数でプロットすることからしても、温度が液体の粘度に与える影響は大きいことが知られているといえる。 そうすると、20℃で3000センチポイズ(3Pa・sに相当)である甲1発明の粘度は、25℃においては3000センチポイズから低下することが明らかであり、その低下の度合いが3000センチポイズという粘度に対して無視し得るほどに微小なものであるとは認められない。 よって、甲1発明の25℃での粘度が3Pa・s以上、50Pa・s以下であるとはいえないから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。 (2-1)本件発明1と甲2発明との対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー用のフレキシブル基板の製造に使用す」ること、及び「NMP(N-メチル-2-ピロリドン)」は、それぞれ本件発明1における「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられ」ること、及び「アミド系溶媒」に相当し、甲1発明のポリイミド前駆体溶液は、「ガラス基板上に塗布」するものであり、BPDA(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)、PDA(パラフェニレンジアミン)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)を構成成分として重合反応を行っているから、重合反応の結果としてポリアミック酸が生成されているといえ、本件発明1でいう「ガラス基板への塗工用溶液」であって、「ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である」ことに相当する。 そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられる、ガラス基板への塗工用溶液であって、 1)ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である」点 (相違点) 本件発明1は「PAAの固形分濃度が、溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下であ」り、かつ「25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下であ」るのに対し、甲2発明は、重合反応前の仕込み時点での固形分濃度は16質量%であるものの、重合後の固形分濃度については不明であり、25℃での溶液粘度も明らかではない点。 (2-2)相違点についての判断 当該相違点について検討するに、本件特許明細書の【0014】には、PAAの固形分濃度はBPDAとPDAを重合反応させて得た溶液におけるものであることが記載されている。 また、本件特許明細書【0016】には「PAAの溶液粘度および固形分濃度を、前記のような範囲とするためには、溶媒中で、BPDAとPDAとを反応させる際、BPDAおよびPDAの仕込み量を所定固形分濃度とした上で、例えば、BPDAの使用量をPDAのモル量に対し、0.1?3モル%過剰に用いればよい。」と記載されているところ、甲2発明のポリイミド前駆体溶液は、BPDAとPDAを等モルで反応させたものであって、BPDAをPDAのモル量に対して過剰に用いるものではなく、反応条件において本件発明1と相違する。 さらに、前記第4の4から、甲4の比較例1には、PPD(=PDA)0.249モルとs-BPDA0.249モル(等モル)とを50℃で10時間撹拌して得られた、固形分濃度18.4重量%のPAA溶液の粘度が50Pa・sであったことが記載されており、甲2発明と同様に、BPDAとPDAを等モルで反応させた場合の事例といえるものの、50Pa・sという粘度は30℃で測定したものであって、本件発明1のように25℃で測定した粘度ではないから、前記1(1-2)で検討したように、温度の上昇に伴って粘度が低下することからすれば、甲4比較例1のPPA溶液の粘度を25℃で測定した場合には、50Pa・sよりも大きい値となることが明らかである。 そうすると、甲4の記載内容をもって甲2発明において25℃での溶液粘度が50Pa・s以下であることが自明である、とまではいえない。 以上のことからすれば、甲2発明が「PAAの固形分濃度が、溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下であ」り、かつ「25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下であ」る蓋然性が高い、とまではいえない。 よって、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。 (3ー1)本件発明1と甲3発明との対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「OLEDまたはLCD、電子ペーパー用のフレキシブル基板に用いられ」ること、[化学式1]の化合物、[化学式2]の化合物、及び「ホルムアミド系溶媒、アセトアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒」は、それぞれ本件発明1における「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられ」ること、「3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)」、「p-フェニレンジアミン(PDA)」、及び「アミド系溶媒」に相当し、甲3発明のポリイミド前駆体組成物は、「ガラス基板上に塗布」するものであって、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、パラフェニレンジアミン、アミド系溶媒を構成成分とするものであるから、本件発明1でいう「ガラス基板への塗工用溶液」であって、「ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である」ことに相当する。 そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイ、および電子ペーパーから選ばれる電子デバイスを形成するためのフレキシブルポリイミド基板用に用いられる、ガラス基板への塗工用溶液であって、 1)ポリアミック酸(PAA)とアミド系溶媒とからなり、PAAの構成成分が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)およびp-フェニレンジアミン(PDA)である」点。 (相違点) 本件発明1は「PAAの固形分濃度が、溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下であ」り、「25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下であ」るのに対し、甲3発明は、「ポリイミド前駆体組成物の固形分濃度については、ポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含む」ものであって、粘度については「400?50,000cp(0.4Pa・s?50Pa・s)である」が、いかなる温度条件による粘度であるのかが明らかではない点。 (3-2)相違点についての判断 当該相違点について検討するに、甲3発明のポリイミド前駆体組成物の固形分濃度については、ポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含むものであって、本件発明1の16質量%以上25質量%以下の範囲内となることが必須ではないし、粘度についても、甲3発明では400?50,000cp(0.4Pa・s?50Pa・s)であるが、いかなる温度条件による粘度であるのかも明らかではないうえ、本件発明1の3Pa・s以上、50Pa・s以下となることが必須でもないから、本件発明1と甲3発明とは、PAAの固形分濃度及び25℃での溶液粘度について一致するということはできず、当該相違点は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は甲3に記載された発明ではない。 (4)小括 よって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲3号証に記載された発明であるとはいえない。 2 理由2(進歩性要件)について (1)本件発明1と甲1発明との対比・判断 本件発明1と甲1発明との相違点は前記1(1-1)で検討したとおりであるので、当該相違点について、以下検討する。 甲1には、甲1発明のポリアミック酸溶液の粘度を、25℃で3Pa・s以上、50Pa・sの範囲とすることについて何ら記載ないし示唆がなく、ポリアミック酸溶液の粘度及び固形分濃度を本件発明1に係る範囲とすることによって、本件特許発明の、PAA塗膜を、乾燥、熱硬化する工程の時間を短縮しても、ゆず肌を発生させることなく均一なポリイミドフィルムを得ることができるという課題を解決できることについても何ら記載ないし示唆が無い。 そうすると、当業者といえども、甲1の記載に基づいて、ポリアミック酸溶液の粘度を、25℃で3Pa・s以上、50Pa・sの範囲とすることの動機付けが見いだせない。 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明1と甲2発明との対比・判断 本件発明1と甲2発明との相違点は前記1(2)で検討したとおりであるので、当該相違点について、以下検討する。 甲2には、甲2発明のポリイミド前駆体溶液の粘度を、25℃で3Pa・s以上、50Pa・sの範囲とすることについて何ら記載ないし示唆がなく、ポリイミド前駆体溶液の粘度及び固形分濃度を本件発明1に係る範囲とすることによって、本件特許発明の、PAA塗膜を、乾燥、熱硬化する工程の時間を短縮しても、ゆず肌を発生させることなく均一なポリイミドフィルムを得ることができるという課題を解決できることについても何ら記載ないし示唆が無い。 そうすると、当業者といえども、甲2の記載に基づいて、ポリイミド前駆体溶液の粘度を、25℃で3Pa・s以上、50Pa・sの範囲とすることの動機付けが見いだせない。 よって、本件発明1は、甲2発明及び甲2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明1と甲3発明との対比・判断 本件発明1と甲3発明との相違点は前記1(3)で検討したとおりであるので、当該相違点について、以下検討する。 甲3には、ポリイミド前駆体組成物の固形分をポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含み、400?50,000cPの粘度に調整することについて記載されているが、かかる粘度はどのような温度条件によるものであるか不明であるうえ、ポリイミド前駆体組成物の粘度及び固形分濃度を本件発明1に係る範囲とすることによって、本件特許発明の、PAA塗膜を、乾燥、熱硬化する工程の時間を短縮しても、ゆず肌を発生させることなく均一なポリイミドフィルムを得ることができるという課題を解決することについても何ら記載ないし示唆が無い。 そうすると、甲3発明の「ポリイミド前駆体組成物の固形分濃度については、ポリイミド前駆体組成物総重量に対して5?20重量%で含」み、粘度が「400?50,000cp(0.4Pa・s?50Pa・s)」であるものから、ポリイミド前駆体組成物の固形分濃度を、「溶液質量に対し、16質量%以上、25質量%以下」かつ「25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下」の範囲とすることの動機付けが見いだせない。 よって、本件発明1は、甲3発明及び甲3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)小括 よって、本件発明1は、甲1発明ないし甲3発明及び甲第1号証ないし甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 特許異議申立人の主張について (1)甲1に基づく主張について 申立人は、甲1の製造例3を例示し、20℃において3300センチポイズであるポリアミック酸を製造した例があること等を踏まえ、所望する特性に応じてポリアミック酸の粘度を適宜増減させて25℃における粘度が3Pa・s以上になるよう調整することは当業者にとって何ら困難でない旨、主張する。 たしかに、製造例3には、20℃ではあるものの、3000センチポイズを超える3300センチポイズであるポリアミック酸を製造したことが示されているが、ポリアミック酸を構成するテトラカルボン酸二無水物とジアミンが製造例1と相違するものであるから、製造例1において20℃での粘度を3000センチポイズ以上に調整することを示唆するものとはいえないし、前記1(1-2)で検討したように、製造例3のポリアミック酸の粘度を25℃で測定した場合には相当程度粘度が低下することが明らかであり、3000センチポイズを上回るかも不明である。 また、申立人は、本件特許の効果は、甲1に記載された、ガラス基板に塗布された硬化性樹脂を適切な加熱処理をすることにより期待できる効果であって、進歩性判断にあたって参酌させるべき効果ではない旨主張するが、本件発明1と同様ないし類似する効果が別の技術的手段によって達成できることが知られていたとしても、そのことがただちに本件発明1のように粘度や固形分濃度によって当該課題を解決することの効果を否定するものとはいえない。 さらに、申立人は、樹脂溶液の粘度は、極めて高温における粘度の場合、溶液中の樹脂の構造が変化して、常温における粘度から大きく変動することも予想されるが、いわゆる常温の範囲内である20℃と25℃との差異において、溶液中における樹脂の構造的変化はほとんど生じないと主張するが、甲1のポリアミック酸溶液の場合において具体性をもって主張されているものではないことから、採用の限りではない。 よって、申立人の主張は理由がない。 (2)甲2に基づく主張について 申立人は、甲2発明の固形分濃度は合成例22の記載から16%であるとした上で、本件発明1との相違点を以下のとおりであると主張する。 (相違点)本件発明1は「25℃での溶液粘度が、3Pa・s以上、50Pa・s以下であ」るのに対し、甲2発明は25℃での溶液粘度が明らかではない点。 そして、当該相違点に関する申立人の主張は以下のとおりである。 「一方、甲第2号証の上記合成例22では、PDAとBPDAを等モルで65℃で6時間重合させている。 この場合、本件特許の参考例1、実施例1や比較例2と比べて、モルバランスがより良好(等モル)であり、反応時間が長いことから得られるPAAの分子量は本件特許の参考例1、実施例1や比較例2よりも大きくなることが技術常識である(実際、本件特許の実施例1では、モルバランスの悪化により得られるPAAの分子量が参考例1より小さくなったことが、固形分濃度が実施例1よりも高いにも関わらず粘度が大きく低下した原因であるといえる。) ・・・ そうすると、固形分濃度が16質量%である甲第2号証の合成例22で得られるポリイミド前駆体溶液の粘度は、の比較例2に示される、粘度8.2Pa・sよりも粘度が高くなることが自明である。 ・・・ 一方、例えば、技術常識として参照される甲第4号証には、比較例ではあるが、比較例1として、PPD(=PDA)0.249モルとs-BPDA0.249モル(等モル)とを50℃で10時間撹拌して得られた、固形分濃度18.4重量%のPAA溶液の粘度が50Pa・sであったことが開示されている。 ・・・ そうすると、甲第4号証の開示から、甲第2号証の上記合成例22におけるポリイミド前駆体溶液の粘度は、50Pa・s以下となる蓋然性が高い。 以上より、甲2発明は、構成要件1D-3を具備するか、具備している蓋然性が高い。」(異議申立書第30頁第23行?第31頁第21行) しかしながら、前記1(2-2)での検討のように、比較例1には、申立人の主張のとおりの事項が記載されているが、甲4に記載されているように、50Pa・sという粘度は30℃で測定したものであって、本件発明1のように25℃で測定した粘度ではなく、前記1(1)で検討したように、温度の上昇に伴って粘度が低下することからすれば、甲4比較例1のPPA溶液の粘度を25℃で測定した場合には、50Pa・sよりも大きい値となることが明らかであるから、甲4の記載内容をもって甲2発明において25℃での溶液粘度が50Pa・s以下であることが自明である、とまではいえない。 してみると、甲2発明の25℃での溶液粘度は、かりに8.2Pa・sより高くなるとしても、50Pa・s以下となる蓋然性が高い、とまではいえない。 よって、申立人の主張は理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張はいずれも理由がなく、申立人の主張によっては本件発明1に係る特許を取り消すべきものとはいえない。 第6 むすび 以上の検討のとおり、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-06-09 |
出願番号 | 特願2017-251532(P2017-251532) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡田 隆介 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 櫛引 明佳 |
登録日 | 2019-08-23 |
登録番号 | 特許第6573655号(P6573655) |
権利者 | ユニチカ株式会社 |
発明の名称 | ガラス基板への塗工用溶液 |