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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1363189 |
異議申立番号 | 異議2020-700159 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-06 |
確定日 | 2020-06-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6573646号発明「酸化珪素系負極材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6573646号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6573646号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成29年 6月 8日(優先権主張平成28年 6月 9日)に出願され、令和 1年 8月23日に特許権の設定登録がされ、同年 9月11日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 2年 3月 6日付けで、請求項1?5に対し、特許異議申立人である浜俊彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材であって、Si-Mg-Oの3元系材料からなり、Si相を含むと共に、Mg含有化合物としてMgSiO_(3)、Mg_(2)SiO_(4)、MgO、MgSiO_(3)+Mg_(2)SiO_(4)又はMg_(2)SiO_(4)+MgOの5種のうちの何れか1種を含む一方、SiO_(2)、金属Mg及びMgSi合金の何れも含まない酸化珪素系負極材であり、且つ組成がSi_(x)Mg_(y)O_(z)で表して、3y>z>y、且つ2x+y>zを満足する酸化珪素系負極材。 【請求項2】 請求項1に記載の酸化珪素系負極材において、CuKα線を用いたXRD測定を行った際に、2θ=28.4±0.3°付近に表れるSiに由来のピークの半値幅から算出するSi結晶粒子径が40nm以下である酸化珪素系粉末負極材。 【請求項3】 Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法であって、Si単体とMg・O含有化合物とを含有する原料を同一の容器内で減圧加熱することにより、SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させ、それらのガスを蒸着面上で冷却して回収する酸化珪素系負極材の製造方法。 【請求項4】 請求項3に記載の酸化珪素系負極材の製造方法において、Mg・O含有化合物はMgO、Mg_(2)SiO_(4)、MgSiO_(3)、Mg_(2)CO_(3)、Mg(OH)_(2)のうちの1種又は2種以上である酸化珪素系負極材の製造方法。 【請求項5】 Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法であって、Si単体と、酸素を含有する金属化合物とを含む原料を同一の容器内で同時に減圧加熱して、SiOガスと金属ガスとを同時に発生させ、それらのガスを同じ蒸着面上で冷却して回収する酸化珪素系負極材の製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に頒布された刊行物である、下記甲第1?3号証を提出して、以下の申立理由1により、請求項1?5に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 申立理由1(進歩性欠如) 本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2?3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:韓国登録特許第10-1586816号公報 甲第2号証:特開2010-170943号公報 甲第3号証:小松龍造、“マグネシウムの精錬”、軽金属第18巻、第2号、1968年、第114?123頁 (以下、甲第1号証?甲第3号証を、順に「甲1」?「甲3」という。) 第4 当審の判断 1 各甲号証 (1)甲1の記載 ア 甲1には、「 (当審訳:非水電解質二次電池用負極材、その製造方法、及びこれを含む非水電解質二次電池)」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。当審訳は甲1の全文訳を参照した。)。 1ア 「 」 (当審訳:【請求項1】 i)ケイ素、ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素、およびiii)ケイ素およびMを含む酸化物を含むケイ素酸化物複合体において、 上記ケイ素酸化物複合体は、X線回折分析時27°ないし32°でSiによるピークおよび21°ないし23. 5°の範囲でMg_(2)SiO_(4)による(SiO_(2)のピークは存在しない)ピークが現れ、 上記MはMgである、 ケイ素酸化物複合体を含む非水電解質二次電池用負極材。) 1イ 「 」 (当審訳:【請求項3】 第1項において、 上記ケイ素およびMを含む酸化物は、Mg_(2)SiO_(4)である非水電解質二次電池用負極材。 【請求項4】 第1項において、 上記ケイ素酸化物複合体は、X線回折分析時Si(111)に帰属される回折ピークの強度I_(Si(111))とMg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークの強度I_(Mg2SiO4(120))の相対比の範囲が0<I_(Mg2SiO4(120))/I_(Si(111))<1.0である非水電解質二次電池用負極材。) 1ウ 「 」 (当審訳:【請求項10】 第1項ないし第9項のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極材を含むリチウムイオン電池。 【請求項11】 ケイ素対二酸化ケイ素(SiO_(2))モル比が1:0.5ないし1:1.5、ケイ素対Mのモル比が1:0.01ないし1:1となるように、ケイ素、二酸化ケイ素(SiO_(2))の原料混合粉末とMとを混合した混合体を反応器に注入する(i)段階; 上記ケイ素、二酸化ケイ素(SiO_(2))の原料混合粉末とMとを混合した原料混合体を1000 ℃ないし1800 ℃に加熱した後、500 ℃ないし900 ℃で冷却してケイ素酸化物複合体を析出する(ii)段階; 及び 上記析出されたケイ素酸化物複合体を平均粒径0.1μmないし20μmで粉砕する(iii)段階;を含み、 上記MはMgである 第1項による非水電解質二次電池用負極材の製造方法。) 1エ 「 [0009] 」 (当審訳:【0009】 一般式SiOxで表される酸化ケイ素は、一般的にケイ素と酸素の原子数が1 : 1に近接した組成で、ケイ素の極微細結晶がケイ素酸化物に分散された構造になっており、ケイ素の結晶の大きさが数nm以上になる場合、透過電子顕微鏡とX線回折分析から明確に観察されることができる。 【0010】 このような酸化ケイ素(SiOx)は、1000 ℃以上の高温で不均化反応( disproportionation )によってSiとSiO_(2)に分解され、数nmのケイ素結晶が酸化ケイ素に均一に分散される構造を形成する。このような酸化ケイ素を二次電池の負極材として適用すると、容量がケイ素負極材の容量の半分水準に過ぎないが、炭素系負極材の容量対比5倍程度大きく、構造的に充放電時の体積変化が小さく、サイクル寿命の特性が優れていることが期待されている。 【0011】 しかし、酸化ケイ素は、初期充電時にリチウムと酸化ケイ素が反応して、リチウムシリサイドとリチウム酸化物(酸化リチウムとケイ酸リチウム)が生成されるが、この中、リチウム酸化物は、その後の電気化学反応に関与しなくなるので、初期充電時に負極に移動されたリチウムの一部が放電時に正極に戻らない不可逆反応が発生することになる。酸化ケイ素の場合、他のケイ素系負極に比べて、このような不可逆容量が大きく、初期効率(ICE、初期の充電容量対比放電容量の割合)が70ないし75 %と極めて低い。このような低い初期の効率は二次電池を構成する上で正極の容量を過剰に必要となるため負極が持つ単位質量当たりの容量を相殺する問題があった。) 1オ 「 」 (当審訳:【発明の詳細な説明】 【発明が解決しようとする課題】 【0018】 本発明は、上記のような問題点を解決するためのもので、非水電解質二次電池の初期充放電効率を向上させるため不可逆の原因となるリチウム酸化物の生成を抑制するために、上記の非水電解質二次電池の負極材に金属を添加する場合は、初期効率が向上される一方、放電容量が減少してケイ素結晶のサイズ増加によって、サイクル寿命が低下する問題を解決するための新たな構造のケイ素酸化物複合体を含む非水電解質二次電池用負極材、その製造方法、及びこれを含む非水電解質二次電池を提供することを目的とする。) 1カ 「 」 (当審訳:【発明の効果】 【0035】 本発明によるケイ素酸化物複合体を含む非水電解質二次電池用負極材によると、電池容量が高く、サイクル特性および充放電効率が向上された非水電解質二次電池を製造することができる。) 1キ 「 」 (当審訳:【0039】 上述のように、従来製造されたケイ素酸化物複合体の表面が炭素でコーティングされた非水電解質二次電池用負極材の場合は、リチウムと酸化ケイ素(SiOx)が電気化学的に反応して、酸化リチウム(L i0_(2))およびケイ酸リチウム(Li_(2)Si0_(3)、Li_(4)Si0_(4))のような不可逆物質が生成され、これを防止するため酸化ケイ素を還元させることができる金属(Li、Na、Mg、Al、Caなど)を反応させて還元された酸化ケイ素を負極材として使用して非水電解質二次電池の不可逆容量を減少させ、効率を向上させることができた。しかし、従来のように酸化ケイ素(SiOx)粉末と固相のMg、Al、Caなどの金属粉末を反応させる場合、酸化ケイ素(SiOx)が上記金属粉末によって還元され、酸化リチウム(Li0_(2))およびケイ酸リチウム(Li_(2)Si0_(3)、Li_(4)Si0_(4))のような不可逆物質の生成が抑制され、初期充放電効率が向上した反面、上記酸化ケイ素(SiOx)と上記金属粉末が速い速度で反応してSiOxがSiとSiO_( 2)に分解される不均化反応(disproportionation)が急激に進行してケイ素結晶の大きさが数十nmに成長するようになることで、充放電時の体積変化が過度に大きくなることにより、サイクル寿命特性が低下する問題が発生した。 【0040】 したがって、本発明の発明者らは、酸化ケイ素(SiOx)粉末と金属粉末を反応させて容量特性が改善されると同時に、サイクル特性も向上した負極材を製造するために関連する実験を繰り返した。その結果、酸化ケイ素(SiOx)蒸気と酸化ケイ素(SiOx)蒸気を還元させることができる金属の蒸気を同時に発生させ、気相で反応させることによりケイ素の結晶が数nmレベルで制御され、添加された金属が最小の含有量で効率的に反応するようにして電池容量も維持されるケイ素酸化物複合体を製造することができた。 【0041】 上記の目的を達成するために、本発明は、i )ケイ素、ii)一般式SiOx (0<x<2)で表される酸化ケイ素、およびiii)ケイ素およびMを含む酸化物を含むケイ素酸化物複合体において、上記ケイ素酸化物複合体は、X線回折分析時、27°乃至32°でSiによるピークおよび21°乃至23.5°の範囲でMg_(2)SiO_(4)によるピークが現れ、上記MはMgであるケイ素酸化物複合体を含む非水電解質二次電池用負極材を提供することができる。 【0042】 本明細書で使用される用語「酸化ケイ素」はSiOxに表示される一般的な化合物を指し、上記酸化ケイ素は非晶質であるか、ケイ素結晶がケイ素酸化物に分散された構造であることができ、望ましくはケイ素結晶がケイ素酸化物に分散された構造であることができる。 【0043】 本発明によるケイ素酸化物複合体において、上記Mは、上記酸化ケイ素を還元させることができるものであれは特に制限されないが、周期律表上のIa、IIa、Vla、およびIIIb族に属する元素を使用することができ、望ましくはMg、Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、B、およびAlからなる群から選択されるいずれかーつの元素であることもあり、より好ましくはMg、Ca、またはAlであることができ、より好ましくは、Mgを使用することができ、上記ケイ素およびMを含む酸化物はMg_(2)SiO_(4)、MgSiO_(3)であることができる。 【0044】 本発明によるケイ素酸化物複合体は、X線回折分析時、Si (111)に帰属される回折ピークの強度I_(Si(111))とMg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークの強度I_(Mg2SiO4(120))の相対比の範囲が0<I_(Mg2SiO4(120))/I_(Si(111))<1.0であることもできる。Si (111)に帰属される回折ピークの強度I_(Si(111))とMg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークの強度I_(Mg2SiO4(120))の相対比が0である場合、Mgの添加量が過度に小さくMg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークが観察されなく、Mgの添加効果も表示されない。また、Si ( 111 )に帰属される回折ピークの強度I_(Si(111))とMg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークの強度I_(Mg2SiO4(120))の相対比が1以上の場合Si結晶の大きさが1nm未満の場合であって、上記ケイ素酸化物複合体が非晶質であるか、Siの含有量が過度に小さく効率が減少することもあり、容量も減少することになってしまう。) 1ク 「 」 (当審訳:【0075】 <実施例1>マグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体の製造 【0076】 ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kg を0.01ないし1torrの減圧雰囲気で1400 ℃で熱処理して、上記ケイ素、二酸化ケイ素(Si0_(2)) の混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、800 ℃で冷却させて析出した後、ジェットミルで粉砕し、 平均粒径( D_(50)) が4μmのマグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体粉末を回収した。 【0077】 回収されたケイ素酸化物複合体粉末をチューブの形の電気炉を用いて1000 ℃、2時間の条件でアルゴン(Ar)とメタン(CH_(4))の混合ガスの下でCVD処理をして、炭素含有量が5wt%である炭素コーティング層が形成されたマグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体(試料1)を製造した。 【0078】 上記マグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体(試料1 )に対してICP-AES (誘導結合プラズマ原子発光分光分析法)の分析結果、マグネシウム濃度が9wt%であることを確認し、X線回折分析 (CuKα)した結果、ケイ素結晶の大きさが9nmであることを確認した。) 1ケ 「 」 (当審訳:【0079】 <実施例2>マグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体の製造 【0080】 上記実施例1でマグネシウムの注入量を2.5kgに増加させたことを除いては、上記実施例1と同様の方法でマグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体(試料2)を製造した。 【0081】 上記マグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体(試料2)についてICP-AES (誘導結合プラズマ原子発光分光分析法)の分析結果、マグネシウム濃度が14.6wt%であることを確認し、X線回折分析(CuKα)をした結果、ケイ素結晶の大きさが15nmであることを確認した。) 1コ 「 」 (当審訳:【0092】 <実験例1 >X線回折分析による回折ピーク強度比の分析 【0093】 上記実施例1及び実施例2で製造された試料についてX線回折分析の結果を図1および図2に示した。 【0094】 また、28.5°でSi(111)に帰属される回折ピークの強度I_(Si(111))と22.9°で表示されるMg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークの強度I_(Mg2SiO4(120))の相対比を計算し、これを下記表1に示した。 【0095】表1 ) 1サ 「 」 (当審訳:【0107】表2 【0108】 (前記表2において、N. D.は「Not Detected」を称し、含量が極微量で存在して、検出されていない状態を意味する。) 上記表2に示すように、マグネシウムを含むケイ素酸化物複合体を負極材として使用した試料1及び試料2を含むコインセル電池の場合、初期充放電効率が向上されており、容量維持率も高く現れるのが確認できた。) 1シ 「 」(図1) 1ス 「 」(図2) イ 甲1に記載された事項 (ア)上記1エ、1キによれば、二次電池の負極材としての酸化ケイ素は、その容量が、炭素系負極材の容量対比5倍程度大きく、充放電時の体積変化が小さいので、サイクル寿命が優れていることが期待されているが、初期充電時にリチウムと反応して生成されるリチウム酸化物は不可逆容量となり、初期効率がきわめて低くなるという問題に対して(【0011】)、従来、酸化ケイ素を還元させることができる金属(Li、Na、Mg、Al、Caなど)を反応させて、還元された酸化ケイ素を負極材として使用して非水電解質二次電池の不可逆容量を減少させ、効率を向上させることができた(【0039】)。 (イ)しかしながら、上記(ア)のように、金属で酸化ケイ素を還元することにより、不可逆物質の生成が抑制され、初期充放電効率が向上した反面、上記酸化ケイ素(SiOx)と上記金属粉末が速い速度で反応し、SiOxがSiとSiO_( 2)に分解される不均化反応が急激に進行して、ケイ素結晶の大きさが数十nmに成長するようになることで、充放電時の体積変化が過度に大きくなることにより、サイクル寿命特性が低下する問題が発生した(【0039】)。 (ウ)そこで、甲1では、上記1キによれば、酸化ケイ素(SiOx)粉末と金属粉末を反応させて容量特性が改善されると同時に、サイクル特性も向上した負極材を製造するために、酸化ケイ素(SiOx)蒸気と酸化ケイ素(SiOx)蒸気を還元させることができる金属の蒸気を同時に発生させ、気相で反応させることにより、ケイ素の結晶が数nmレベルで制御されており、電池容量も維持されるケイ素酸化物複合体を製造することができるようになった(【0040】)。 (エ)上記(ウ)の方法によって製造された、初期充放電効率とサイクル特性をともに向上することのできる甲1の負極材とは、i)ケイ素、ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素、およびiii)ケイ素およびMを含む酸化物を含むケイ素酸化物複合体において、上記ケイ素酸化物複合体は、X線回折分析時27°ないし32°でSiによるピークおよび21°ないし23. 5°の範囲でMg_(2)SiO_(4)によるピークが現れ、上記MはMgである、ケイ素酸化物複合体を含む非水電解質二次電池用負極材である(【請求項1】、【0041】)。 (オ)上記(エ)の負極材及びその製造方法の実施例として、上記1クのとおり実施例1が記載されており、上記1ケのとおり実施例2が記載されている。 (カ)実施例1のケイ素酸化物複合体(試料1)は、ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kg を0.01ないし1torrの減圧雰囲気で1400 ℃で熱処理して、上記ケイ素、二酸化ケイ素(Si0_(2)) の混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、800℃で冷却させて析出した後、ジェットミルで粉砕し、平均粒径( D_(50)) が4μmのマグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体粉末を回収した後、さらに、CVD処理によって炭素コーティング層を形成したものである(【0076】、【0077】)。 (キ)試料1のケイ素酸化物複合体は、X線回折分析の結果によると大きさ9nmのケイ素結晶を有するものであり、さらに、上記1コの実験例1の結果を参照すると、Si(111)に帰属される回折ピークと、Mg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークが確認されたから、ケイ素結晶とMg_(2)SiO_(4)結晶を含むものである。 なお、CVD処理の前には、平均粒径( D_(50) )が4μmのマグネシウムが含まれていたことが記載されているが、1000℃で2時間の当該CVD処理の後に、上記平均粒径( D_(50) ) が4μmのマグネシウムが含まれているかは不明である。 (ク)したがって、実施例1に注目すると、甲1には次のケイ素酸化物複合体が記載されているものと認められる。 「非水電解質二次電池用負極材に使用されるケイ素酸化物複合体であって、 ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kgの混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、析出、粉砕し、表面に炭素コーティング層を形成したものであり、 大きさ9nmのケイ素結晶と、 Mg_(2)SiO_(4)結晶と、 を含む、 ケイ素酸化物複合体」(以下、「甲1発明1」という。) (ケ)実施例2のケイ素酸化物複合体(試料2)は、マグネシウムの注入量を2.5kgに増加させたことを除いては、上記実施例1と同様の方法で製造されたものである。 そして、X線回折分析の結果によると大きさ15nmのケイ素結晶を有しており、さらに、上記1コの実験例2の結果を参照すると、Mg_(2)SiO_(4)(120)に帰属される回折ピークが確認されたから、Mg_(2)SiO_(4)結晶も含むものである。 なお、実施例1と同様に、CVD処理の後に、マグネシウムの粒子が含まれているかは不明である。 (コ)したがって、実施例2に注目すると、甲1には次のケイ素酸化物複合体が記載されているものと認められる。 「非水電解質二次電池用負極材に使用されるケイ素酸化物複合体であって、 ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム2.5kgの混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、析出、粉砕し、表面に炭素コーティング層を形成したものであり、 大きさ15nmのケイ素結晶と、 Mg_(2)SiO_(4)結晶と、 を含む、 ケイ素酸化物複合体」(以下、「甲1発明2」という。) (サ)また、実施例1の製造方法に注目すると、甲1には次のケイ素酸化物複合体の製造方法が記載されているものと認められる。 「非水電解質二次電池用負極材に使用されるケイ素酸化物複合体の製造方法であって、 ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kgを0.01ないし1torrの減圧雰囲気で1400 ℃で熱処理して、上記ケイ素、二酸化ケイ素(Si0_(2)) の混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、800℃で冷却させて析出した後、ジェットミルで粉砕し、平均粒径( D_(50)) が4μmのマグネシウムが含まれているケイ素酸化物複合体粉末を回収した後、さらに、CVD処理によって炭素コーティング層を形成する、 ケイ素酸化物複合体の製造方法」(以下、「甲1製法発明」という。) (2)甲2の記載 甲2には、「二次電池用負極材料およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 2ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池用負極材料およびその製造方法に係るものである。」 2イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、Si-SiO_(2)-マグネシウムシリケート-炭素系複合材料であって、サイクル特性および充放電効率に優れた、二次電池用負極材料の提供を目的とする。」 2ウ 「【0028】 次に、本負極材料の製造方法(以下、本製造方法という)について説明する。本製造方法は、以下の工程1?工程7を順に行う方法である。各工程順に説明していく。 【0029】 まず、工程1は、酸化ケイ素SiO_(X)(0<X<2)と、マグネシウム化合物とをMg原子とSi原子の原子比が1:2から1:40となるように混合して混合物1を得る工程である。 【0030】 工程1の酸化ケイ素としては、上述のように組成式はSiO_(X)(0<X<2)で表せるもののうち、広角X線回折解析を行った際の回折パターンが非晶質構造あるいはナノサイズ構造特有のハローな回折パターンを示し、シャープな回折パターンを有さないものが好ましい。このような組成の酸化ケイ素を原料に用いることで高い容量とサイクル安定性がえられるためである。このような特徴を示す酸化珪素材料としてSiO_(X)(0.8<X<1.2)であらわされるものがさらに好ましく、SiO_(X)(0.9<X<1.1)であると、特に好ましい。 【0031】 また、混合物1中のSi原子とMg原子との比がMg原子:Si原子=1:4?1:20であるとより好ましく、Mg原子:Si原子=1:5?1:15であるとさらに好ましい。酸化ケイ素の平均粒径が0.5?10μmであると、工程2で得られるマグネシウムシリケート相の分布が均一になるため好ましい。酸化ケイ素の平均粒径が0.5?5μmであるとさらに好ましい。 【0032】 工程1におけるマグネシウム化合物としては、2価のマグネシウムを含有する化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどの無機マグネシウム塩が具体的に挙げられる。マグネシウム化合物としては、他に、酢酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、マグネシウムエトキサイド、アセチルアセトンマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物なども具体的なものとして挙げられる。 【0033】 これらのマグネシウム化合物のなかでも、水または有機溶剤に可溶性である硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどを溶液状態で酸化ケイ素と混合しさらに脱溶媒処理すると酸化ケイ素とマグネシウム化合物との均一な混合状態が得られため好ましい。」 2エ 「【0035】 次に、工程1で得られた混合物1を不活性雰囲気下で800?1500℃で加熱処理してマグネシウムシリケート相を含むMg-Si系複合物とする工程2を行う。この加熱処理では、SiO_(X)→Si+SiO_(2)の不均化反応と、2MgO+SiO_(2)→Mg_(2)SiO_(4)のマグネシウムシリケートの生成反応とがおこる。 【0036】 加熱処理温度が800℃未満であると、酸化ケイ素とマグネシウム化合物とが反応しないおそれもある。一方、加熱処理温度が1500℃を超えると酸化ケイ素の不均化反応により生じた結晶質Siの結晶子径が粗大になり、電極材料にしたときに、サイクル特性が低下するおそれがある。 【0037】 工程2の加熱処理温度が700?1500℃であるため、酸化ケイ素中の一部のSi原子とMg原子とが反応して、マグネシウムシリケートであるMg_(2)SiO_(4)の形成が効果的になされるとともに、酸化ケイ素から不均化反応により、結晶質のSiと非晶質のSiO_(2)の形成も効果的になされる。工程2の加熱処理温度が750?1100℃であると前記マグネシウムシリケートの形成の点で好ましい。工程2の加熱処理温度が800?1000℃であるとさらに好ましい。 【0038】 工程2では、SiO_(X)とマグネシウム化合物とを混合後、800℃以上の高温で加熱処理すると、SiO_(X)とマグネシウム化合物とが反応し、マグネシウムシリケート(Pbnm型の結晶構造を有するMg_(2)SiO_(4))が形成されるとともに金属Siおよび非晶質SiO_(2)からなるMg-Si系複合物が得られる。Mg-Si系複合物の組織は、加熱処理時に各原料構成元素が相互拡散するため、非晶質SiO_(2)および結晶質Mg_(2)SiO_(4)を主体としたマトリックス中に結晶質Siが均質に分散された組織となる。工程2は、本発明に特徴的な工程の一つである。」 2オ 「【実施例】 【0058】 以下に、本発明の実施例(例1?例8:実施例、例9?例11:比較例)を詳述するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。 【0059】 [例1] (1)Mg-Si系複合粉末の作製 市販の酸化ケイ素粉末(SiO_(X)、X=1.0、平均粒径3μm)20gと硝酸マグネシウム6水和物14.5gをMgとSiの原子比が1:8となるように秤量した。次にこれらにイオン交換水80gを加えてスラリーとしマグネチックスターラーを用いて十分混合した後、ロータリーエバポレーターを用いてイオン交換水を減圧乾燥して酸化ケイ素粉末と硝酸マグネシウムの混合物1を得た。次にこの混合物1をアルミナ製ボートに入れ、環状炉中でアルゴンガス気流下200℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温して2時間保持した後室温まで冷却してMg-Si系複合物を得た。 【0060】 次にMg-Si系複合物をボールミル(ジルコニア製のポットとボール)を用いて乾式で4時間粉砕し、平均粒径3μmのMg-Si系複合粉末を得た。なお、実施例での平均粒径は、特に、断らない限りレーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製、商品名:マイクロトラックMK-I)を用いて測定した。得られたMg-Si系複合粉末を蛍光X線装置(理学電機社製、商品名:RIX3000以下、断りない限り同様)で元素分析したところMgとSiの元素比率は1:8であった。さらにMg-Si系複合粉末をCuKα線による広角X線回折装置(理学電機社製、商品名:TTR-III、以下、断りない限り同様)にて2Θ=10°?60°の範囲でX線回折パターンを測定した。X線回折パターンは図3に示すように、結晶質の金属Si相からの回折ピークと、結晶質のマグネシウムシリケート(Mg_(2)SiO_(4))相からの回折ピークおよび回折角2Θ=22°付近に非晶質SiO_(2)からのハローなピークを示した。」 2カ 「【0068】 [例3] 例1において、マグネシウム源として酢酸マグネシウム4水和物を用い、MgとSiの原子比を1:2となるように酸化ケイ素粉末(SiO_(X)、X=1.0、平均粒径3μm)と調合した以外は例1と同様にして活物質を作製した。」 (3)甲3の記載 甲3には、「マグネシウムの精錬」(論文の標題)に関して、次の記載がある。 3ア 「マグネシウムは,1808年Davyによって,はじめて金属として分離された。」(114頁左欄3?4行) 3イ 「ドロマイトをシリコンにより還元する方法は,古くから各国で研究されていたが,第2次大戦中に工業化された有力なものとして,ドイツのPistorらによる水平内熱炉,米国のBagleyによる立型内熱炉,カナダのPidgeonによる水平レトルト炉などがあげられる。」(114頁右欄2?6行) 3ウ 「炭酸塩:マグネサイト(Magnesite)MgCO_(3),ドロマイト(Dolomite)MgCO_(3)・CaCO_(3)」(115頁右欄28?29行) 3エ 「3.1 還元反応の理論 マグネシヤを還元してマグネシウムをうる反応は,一般に次式で示される。 MgO+X → Mg+XO ここにXは還元剤である。XOは生成酸化物であって,還元剤Xの種類によって気体または固体となる。 … つぎにXとXOとがともに不揮発性の固体である場合を考えると,Mgガスだけを割合簡単に分離凝縮させることが可能になる。この場合,還元剤Xとして適当な物質はつぎの性質をもっていなければならない。すなわちXおよびXOは,反応温度で蒸気圧が低く,XOはかなり安定であることが必要である。この条件にかなう物質として,可能性のあるものは,CaC_(2),Al,Siであって,その反応は次に示すとおりである。 … 2MgO+2CaO+Si→2CaO・SiO_(2)+2Mg・・・(14)」(119頁右欄10?35行) 2 本件発明1?2と甲1発明1との対比と判断 (1)本件発明1と甲1発明1との対比 ア 甲1発明1の「非水電解質二次電池用負極材に使用されるケイ素酸化物複合体」と、本件発明1の「Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材」は、Liイオン二次電池が非水電解質二次電池であることを勘案すると、「非水電解質二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材」の点で共通する。 イ 甲1発明1の「ケイ素酸化物複合体」が、「ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kgの混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、析出、粉砕し」たものであって、「大きさ9nmのケイ素結晶と、Mg_(2)SiO_(4)結晶と、を含む」ものであることは、本件発明1の「酸化珪素系負極材」が「Si-Mg-Oの3元系材料からな」ることに相当する。 ウ 甲1発明1が「大きさ9nmのケイ素結晶」を含むことは、本件発明1が「Si相を含む」ことに相当する。 エ 甲1発明1が「Mg_(2)SiO_(4)結晶」を含むことと、本件発明1が「Mg含有化合物としてMgSiO_(3)、Mg_(2)SiO_(4)、MgO、MgSiO_(3)+Mg_(2)SiO_(4)又はMg_(2)SiO_(4)+MgOの5種のうちの何れか1種を含む」こととは、「Mg含有化合物」として「Mg_(2)SiO_(4)」を含む点で共通する。 オ 甲1発明1の「ケイ素酸化物複合体」は、「ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kgの混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応させた後、析出」させることにより製造したものであるから、「炭素コーティング層」を除く上記「ケイ素酸化物複合体」を構成する元素であるSiとMgとOのモル比は以下の計算により求めることができる。 粉末15kg中のケイ素の重量akg、二酸化ケイ素の重量bkgとすると、ケイ素と二酸化ケイ素の式量は、それぞれ、28と60であるから、 a+b=15 a/28=b/60 より、a=4.77kg、b=10.23kgと求めることができる。 したがって、「ケイ素粉末(Si)(式量28)」と「二酸化ケイ素粉末(SiO_(2))(式量60)」と「マグネシウム(Mg)(式量24.3)」のモル比は、 Si:SiO_(2):Mg=4.77/28:10.23/60:1.5/24.3≒1:1:0.36 で表される。そして、この原料のモル比から、構成元素である、ケイ素とマグネシウムと酸素のモル比を求めることができる。 Si:Mg:O≒1+1:0.36:2×1=1:0.18:1 したがって、甲1発明1の「炭素コーティング層」を除く「ケイ素酸化物複合体」の組成を「Si_(x)Mg_(y)O_(z)」で表すと、x:y:z=1:0.18:1 となっている。 よって、甲1発明1において、 3y(0.54)<z(1)、 z(1)>y(0.18)、 2x+y(2.18)>z(1) であるから、甲1発明1と本件発明1は「組成がSi_(x)Mg_(y)O_(z)で表して」、「z>y、且つ2x+y>zを満足する酸化珪素系負極材」である点で共通する。 カ 以上によれば、本件発明1と甲1発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 非水電解質二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材であって、Si-Mg-Oの3元系材料からなり、Si相を含むと共に、Mg含有化合物としてMg_(2)SiO_(4)を含む酸化珪素系負極材であり、且つ組成がSi_(x)Mg_(y)O_(z)で表して、z>y、且つ2x+y>zを満足する酸化珪素系負極材、である点。 (相違点1) 「非水電解質二次電池」が、本件発明1では「Liイオン二次電池」であるのに対して、甲1発明1では単に「非水電解質二次電池」である点。 (相違点2) 「Mg含有化合物」として少なくとも「Mg_(2)SiO_(4)」を含む「酸化珪素系負極材」において、当該「酸化珪素系負極材」が含む「Mg含有化合物」が、本件発明1は、(ア) 「Mg_(2)SiO_(4)」以外の「Mg含有化合物」を含まないか、(イ) 「Mg_(2)SiO_(4)」以外の「Mg含有化合物」として「MgSiO_(3)」のみを含むか、(ウ) 「Mg_(2)SiO_(4)」以外の「Mg含有化合物」として「MgSiO_(3)」のみを含むか、のいずれかであるのに対して、甲1発明1は「Mg_(2)SiO_(4)」以外に、「Mg含有化合物」として何か含むか、又は、何も含まないかが特定されていない点。 (相違点3) 「酸化珪素系負極材」が、本件発明1では「SiO_(2)、金属Mg及びMgSi合金の何れも含まない」ことが特定されているのに対し、甲1発明1はそのような特定がされていない点。 (相違点4) 「酸化珪素系負極材」の「組成」を「Si_(x)Mg_(y)O_(z)」で表した場合に、本件発明1は「3y>z」であるのに対して、甲1発明1は「3y<z」である点。 (2)相違点の検討 事案に鑑みて、初めに相違点3について、特に、甲1発明1の「ケイ素酸化物複合体」が「SiO_(2)」を含まないものであるかについて検討し、その後相違点4について検討する。 (2-1)相違点3の検討 ア 上記(1)オの検討から、甲1発明1の「炭素コーティング層」を除く「ケイ素酸化物複合体」の製造原料である、「ケイ素粉末(Si)」と「二酸化ケイ素粉末(SiO_(2))」と「マグネシウム(Mg)」のモル比は次のとおりである。 Si:SiO_(2):Mg=1:1:0.36 イ 甲1発明1は、上記製造原料を混合したものを、「0.01ないし1torrの減圧雰囲気で1400 ℃で熱処理して、上記ケイ素、二酸化ケイ素(Si0_(2)) の混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させることで、気相で反応」(【0076】)させることによって、「ケイ素結晶」と「Mg_(2)SiO_(4)結晶」を生成したのであるから、ケイ素とマグネシウムの反応がなければ、その反応式は次のものと推定される。 2SiO_(2)+2Mg→Si+Mg_(2)SiO_(4) ウ 上記イの反応式によれば、1モルのMgは1モルのSiO_(2)と反応するから、上記アにおいて、仮に、0.36モルのMgが完全に反応したとすると、1モルのSiO_(2)のうち、0.64モルのSiO_(2)が未反応のまま残っているといえる。また、仮に、0.36モルのMgが完全には反応しきらずに、未反応のMgが残る場合には、より多量の未反応のSiO_(2)が残ることになる。 また、0.36モルのMgの一部がケイ素と反応する場合には、SiO_(2)と反応するMgが減少するから、やはり、より多量の未反応のSiO_(2)が残ることになる。 したがって、いずれの場合においても、甲1発明1の「炭素コーティング層」を除く「ケイ素酸化物複合体」は、未反応の「SiO_(2)」を含むものであるといえる。 エ また、甲1には、実施例1(試料1)のX線回折分析(CuKα)の結果が上記1シの図1に示されているところ、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0030】に記載されているとおり、CuKα線を用いたXRD測定において、アモルファスSiO_(2)のピークは22°付近にあり、結晶SiO_(2)のピークは26.6°付近にあるとの知見に基づけば、図1には22°付近にピークが存在しているので、実施例1はアモルファスSiO_(2)を含むものと推定される。 オ さらに、甲1発明1の「炭素コーティング層」を除く「ケイ素酸化物複合体」が「SiO_(2)」を含むものであることは、次の検討からも理解される。 すなわち、甲1発明1は実施例1を認定の基礎としているものであるところ、実施例1は甲1の請求項1の実施例と考えられるから、甲1発明1の「炭素コーティング層」を除く「ケイ素酸化物複合体」は、明示的に記載された「i)ケイ素」及び「iii)ケイ素およびMを含む酸化物を含むケイ素酸化物複合体」以外に、「ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素」も必須の要素として含むものといえる。 そして、甲1の段落【0042】の記載を参照すると、「SiO_(x)」で表示される「酸化ケイ素」は、ケイ素結晶がケイ素酸化物に分散された構造であることが望ましいとされるものであり、同段落【0039】にも記載されているとおり、SiO_(x)は不均化反応によってSiとSiO_(2)に分解されるものであることも勘案すると、上記「ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素」は「SiO_(2)」を含むものであるといえる。つまり、甲1発明1の「ケイ素酸化物複合体」は「SiO_(2)」を含むものであるといえる。 カ なお、甲1の請求項1に、「ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素」を「含む酸化物を含むケイ素酸化物複合体において」、「(SiO_(2)のピークは存在しない)」と記載されている点について検討するに、上記オで検討したように、甲1において「SiO_(x)」は「SiO_(2)」を含むものであるといえるから、当該請求項1に係る発明をXRD測定すれば、SiO_(2)のピークが観測されるはずであるし、上記エで検討したように、実施例1のXRD測定結果を表す図1では、SiO_(2)と推定されるピークが観測されてもいる。そして、請求項1の上記「(SiO_(2)のピークは存在しない)」との記載について、甲1の発明の詳細な説明には何らの具体的な説明もされていないので、上記記載は他の記載と整合しておらず、技術的に何を意味しているか不明であるため、上記記載を根拠として、甲1発明1の「ケイ素酸化物複合体」が「SiO_(2)」を含まないものであるということはできない。 キ 以上の検討から、甲1発明1の「炭素コーティング層」を除く「ケイ素酸化物複合体」は「SiO_(2)」を含むものであるといえるから、相違点3のうち、特に、「SiO_(2)」を「含まない」点については、本件発明1と甲1発明1との実質的な相違点である。 そして、上記エで検討したように、甲1においては、「i)ケイ素」及び「iii)ケイ素およびMを含む酸化物を含むケイ素酸化物複合体」以外に「ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素」を必須の要素として含むものであり、「ii)一般式SiO_(x)(0<x<2)で表される酸化ケイ素」が不要であることを許容する記載もないから、甲1発明1において「SiO_(2)」を含まないものとすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者といえども容易になし得ることであるとはいえない。 (2-2)相違点4の検討 ア 本件明細書には、「酸化珪素系負極材」の「組成」について次の記載がある(下線は当審が付した。)。 「【0028】 参考までにその組成管理について簡単に説明すれば、その組成をSi_(x)Mg_(y)O_(z)で表して、3y>z>y、且つ2x+y>zであることが必要である。その理由は以下のとおりである。【0029】 本発明の酸化珪素系負極材においては、Si相を珪酸Mg、若しくはMg酸化物が取り囲むことにより、Si相の膨張収縮を抑え、高い電池性能を得ることができる。SiO_(2)を含まないことにより、Si挿入時の珪酸Li生成が抑制され、初期効率が改善する。SiO_(2)を含む場合、Liと反応して際に珪酸Liを生じる不可逆反応が起こり、初期効率が低下する。3y<zの場合は、酸素に対してMgが不足し、SiO_(2)が含有される。z<yの場合は、酸素が不足することで活性な金属Mg、MgSi合金が生じ、電池作製時に取り扱いが困難となる。したがって、3y>z>yであることが必要となる。また、2x+y>zであるならば、反応が平衡どおりに進むことにより、酸素が全てSi、Mgの酸化物として存在するので、Si相(酸化していないSi)が含有される。」 イ 上記アの下線部の記載によれば、「酸化珪素系負極材」の「組成」を「Si_(x)Mg_(y)O_(z)」で表した場合に、3y<zであると、酸素に対してMgが不足して、SiO_(2)が含有されることになり、当該SiO_(2)がLiと反応して珪酸Liを生じる不可逆反応が起こり、初期効率が低下する。このことから、本件発明1における「3y>z」との特定は、酸素に対して十分なMgが存在することにより、SiO_(2)が含有されることなく、SiO_(2)がLiと反応して珪酸Liを生じる不可逆反応が起こって初期効率が低下することがなくなるという技術的意義を有しているものと解される。 ウ ここで、実施例1?7と比較例1?3の電池評価の結果を参照するに、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0096】に次の表1が掲載されている。 「 」 エ 上記表1において、「Mg/Si」は、「y/x」を意味しているから、x=1としたときのyの値となっており、また、各実施例の製造方法の記載に基づいて原料のモル比を検討すると、Si:O=1:1となっていることがわかるから、表1の各実施例と比較例において、x:y:z=1:Mg/Si:1であることが理解できる。 すると、「3y>z」の条件を満たす実施例は、実施例1、2、3、5、6であり、これらは、いずれも含有化合物としてSiO_(2)が含まれていないものであり、その結果、初期効率が78.4%?84.2%と高くなっている。 一方、「3y>z」の条件を満たしていない比較例は、比較例1であり、この比較例1は、含有化合物としてSiO_(2)が含まれているものであり、その結果、初期効率が72.7%と、上記実施例に比べて低い値となっている。 オ したがって、本件発明1における「3y>z」との特定は、「酸化珪素系負極材」に「SiO_(2)」が含有されることなく、そのため、SiO_(2)がLiと反応して不可逆容量である珪酸Liを生じないので、初期効率が低下することがなくなるという技術的意義を有しており、このことは、上記表1に掲載された実施例と比較例の対比によって確認できる。 カ 一方、甲1発明1の「ケイ素酸化物複合体」は、上記(2-1)で検討したように、必ず「SiO_(2)」を含むものであって、「SiO_(2)」を含まないものとすることができないものであるから、甲1発明1において「SiO_(2)」を含むことを意味している「3y<z」に代えて、「SiO_(2)」を含まないことを組成の観点から示した「3y>z」とすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者といえども容易になし得ることであるとはいえない。 キ なお、甲2には、酸化ケイ素SiO_(X)(0<X<2)と、マグネシウム化合物とを混合して混合物1とし(【0029】)、混合物1を不活性雰囲気下で800?1500℃で加熱処理することにより、非晶質SiO_(2)および結晶質Mg_(2)SiO_(4)を主体としたマトリックス中に結晶質Siが均質に分散されたMg-Si系複合物を得ること(【0029】)が記載されているが、上記得られたMg-Si系複合物におけるSiとOの比については特段の記載がなく、「3y>z」とすることにより、珪酸Liを生じないので初期効率が低下することがなくなるという効果があることについては記載も示唆もされていない。したがって、甲2の記載を参照しても、甲1発明1において、「3y<z」に代えて、「3y>z」とすることが容易になし得ることであるとはいえない。 (2-3)小括 以上から、本件発明1は、甲1発明1と相違点1?4の点で相違するので、甲1に記載された発明ではない。 また、甲1発明1において、相違点3及び相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2について 本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2も、少なくとも相違点3、4で甲1発明1と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明と甲2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明1?2と甲1発明2との対比と判断 (1)本件発明1と甲1発明2との対比 ア 甲1発明2は、甲1発明2と、マグネシウムの重量が2.5kgであり、ケイ素結晶の大きさが15nmである点において相違するのみであるから、上記2(1)と同様に本件発明1との対比を行うことができる。 なお、マグネシウムの重量の上記相違によって、甲1発明2の「ケイ素酸化物複合体」の組成を「Si_(x)Mg_(y)O_(z)」で表すと、x:y:z=1:0.30:1と算出できるから、甲1発明2においても、3y(0.90)<z(1)となっている。 イ したがって、一致点及び相違点は、本件発明1と甲1発明1の一致点及び相違点と同じであり、本件発明1と甲1発明2は、上記相違点1?相違点4で相違する。 ウ 相違点3の検討は、甲1発明1についての上記2(2)(2-1)の検討と同様である。なお、同2(2)(2-1)エについては、実施例2(試料2)のX線回折分析の結果が上記1スの図2に示されているので、この点について検討すると、図2には26.6°付近に微小なピークが存在していることが確認できるので、実施例2も結晶SiO_(2)を含むものと推定される。 エ したがって、相違点3は、甲1発明1について検討した理由と同様の理由によって、本件発明1と甲1発明2との実質的な相違点であり、また、甲1発明2において「SiO_(2)」を含まないものとすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者といえども容易になし得ることであるとはいえない。 オ 相違点4の検討は、甲1発明1についての上記2(2)(2-2)の検討と同様であり、甲1発明2において「SiO_(2)」を含むことを意味している「3y<z」に代えて、「SiO_(2)」を含まないことを組成の観点から示した「3y>z」とすること、すなわち、相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者といえども容易になし得ることであるとはいえない。 (2)小括 以上から、本件発明1は、甲1発明2と相違点1?4の点で相違するので、甲1に記載された発明ではない。 また、甲1発明2において、相違点3及び相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2について 本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2も、少なくとも相違点3、4で甲1発明2と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明と甲2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 本件発明3?4と甲1製法発明との対比と判断 (1)本件発明3と甲1製法発明との対比 ア 甲1製法発明の「非水電解質二次電池用負極材に使用されるケイ素酸化物複合体の製造方法」と、本件発明3の「Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法」は、Liイオン二次電池が非水電解質二次電池であることを勘案すると、「非水電解質二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法」の点で共通する。 イ 甲1製法発明の「ケイ素粉末」は、本件発明3の「Si単体」に相当する。 ウ 甲1製法発明の「マグネシウム」は、本件発明3の「Mg・O含有化合物」と、「“マグネシウムを含有する原料”」である点で共通する。 エ 甲1の上記1ウの請求項11には、「ケイ素対二酸化ケイ素(SiO_(2))モル比が1:0.5ないし1:1.5、ケイ素対Mのモル比が1:0.01ないし1:1となるように、ケイ素、二酸化ケイ素(SiO_(2))の原料混合粉末とMとを混合した混合体を反応器に注入する(i)段階」と記載されていることを参照すれば、甲1製法発明の「ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末」と「マグネシウム」は混合され、混合体として一体となって同一の反応器に注入されるものと解される。 したがって、甲1製法発明の「ケイ素粉末と二酸化ケイ素(Si0_(2))粉末を1:1のモル比で均一に混合した粉末15kgとマグネシウム1.5kgを0.01ないし1torrの減圧雰囲気で1400 ℃で熱処理」することと、本件発明3の「Si単体とMg・O含有化合物とを含有する原料を同一の容器内で減圧加熱する」こととは、上記ウの検討を踏まえると、「Si単体と“マグネシウムを含有する原料”とを含有する原料を同一の容器内で減圧加熱する」点で共通する。 オ 甲1製法発明の「上記ケイ素、二酸化ケイ素(Si0_(2)) の混合粉末による酸化ケイ素蒸気とマグネシウム蒸気を同時に発生させること」は、本件発明3の「SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させ」ることに相当する。 カ 甲1製法発明の「気相で反応させた後、800℃で冷却させて析出」することは、本件発明3の「それらのガスを蒸着面上で冷却して回収する」ことに相当する。 キ 以上によれば、本件発明3と甲1製法発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 非水電解質二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法であって、Si単体と“マグネシウムを含有する原料”とを含有する原料を同一の容器内で減圧加熱することにより、SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させ、それらのガスを蒸着面上で冷却して回収する酸化珪素系負極材の製造方法の点。 (相違点5) 「非水電解質二次電池」が、本件発明3では「Liイオン二次電池」であるのに対して、甲1製法発明では単に「非水電解質二次電池」である点。 (相違点6) 「マグネシウムを含有する原料」が、本件発明3は「Mg・O含有化合物」であるのに対して、甲1製法発明は「マグネシウム」である点。 (2)相違点6の検討 ア 本件明細書には、「酸化珪素系負極材」の原料である「Mg・O含有化合物」について次の記載がある(下線は当審が付した。)。 「【0007】 しかしながら、他元素ドープによる不可逆容量キャンセル処理を受けた酸化珪素系負極材では、他元素が不均一にドープされることに起因して電池性能の低下を招くことが問題視されており、Mgドープも例外ではない。 【0008】 すなわち、Mgドープにおいて、例えばSiOとMgを1:1で反応させた場合、元素が均一に分布していれば、熱力学上はSiとMgOのみが存在することになるが、元素濃度分布が不均一な場合は、SiとMgOのみならず、未反応のSiO、金属Mgといった別の物質も存在することになる。そして、Liイオン電池の充放電では、化合物の種類によってLiの脱挿方法、電圧等が異なるので、一部だけ別の物質が混じっていると、そこが起点として粒子が割れたり、別の物質の反応性が高い場合は、バインダーや電解液がダメージを受けたりする。また、金属Mgが存在する場合は、充放電時にMgが溶けだし、別の場所で析出することで電池内部の部材を破壊するなどの影響も考えられる。これらは何れも電池性能、特に初期効率を低下させる原因になる。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の目的は、Mgがドープされているにもかかわらず、Mg濃度分布の不均一に起因する電池性能の低下を可及的に回避できる酸化珪素系負極材及びその製造方法を提供することにある。」 「【0047】 以下に本発明の実施形態を説明する。本発明の酸化珪素系負極材は次のような方法により製造可能である。 【0048】 本発明の酸化珪素系負極材は、SiOガスとMgガスを均一に反応させることで製造することができる。そして、SiOガスとMgガスを均一に反応させるためには、両ガスを同時に発生させることが重要であり、具体的には、SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させ、それらのガスを同じ蒸着面上で冷却、回収する方法により製造可能である。 【0049】 SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させる方法としては、Si、Mg及びOを含有する原料を同一容器内で減圧加熱する方法がある。Si、Mg及びOを含有する原料としては、SiOガス発生原料とMgガス発生原料とを単純に混合したものが考えられるが、この原料だと、SiOガスとMgガスが同時に発生することはない。蒸気圧が高いMgガスのみが優先して発生する。このためにSiOとMgが均一に混合した材料は得られない。別の原料として、MgO、Mg_(2)SiO_(4)などのMg・O含有化合物、すなわち、Oを含有するMg化合物が考えられるが、このような化合物は単体では減圧下での加熱によってもガスを発生しない。しかしながら、このようなMg・O含有化合物であっても、Si、特にSi単体が共存すると、減圧下での加熱によりSiOガスとMgガスとが同時に発生し、SiOとMgが均一に混合した材料が得られる。 【0050】 この観点から、Si、Mg及びOを含有する原料としては、Si単体とMg・O含有化合物とを含む原料が望ましい。この原料は取り扱いが簡単で価格も安い。例えば、Si単体と、Mg・O含有化合物としてのMgOとを混合するならば、化学式2の反応によりSiOガスとMgガスを同時に発生させることができる。ここでは、SiOガスとMgガスを使用しているために、O/Si比は1に近い値をとり、0.8<O/Si<1.2程度となる。【0051】 (化学式2) Si(s)+MgO(s)→SiO(g)+Mg(g) 【0052】 Mg単体を原料に使用することも考えられ、例えば固体SiOと単体Mgを原料に用いることが可能であるが、この場合は化学式2の反応を介さずに単体Mgから直接Mgガスが発生する上、そのMgガスはSiOガスと比べ低温で発生するために、反応初期にMgガス、反応後期にSiOガスが生成し、作製された材料の組成が不均一になってしまう。このため、単体Mgを用いることは現実的でない。SiOガスが発生するまでにMgガスを発生せず、気化しないMg・O含有化合物をSi単体で還元することで、SiOガスとMgガスを同時に発生させることができるのである。」 イ 上記アの記載によれば、本件発明の目的は、Mg濃度分布の不均一に起因する電池性能の低下を可及的に回避できる酸化珪素系負極材を提供することであり(【0010】)、そのような酸化珪素系負極材は、SiOガスとMgガスを均一に反応させることで製造することができるものであり、具体的には、SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させ、それらのガスを同じ蒸着面上で冷却、回収する方法により製造可能である(【0048】)。 ウ SiOガスとMgガスを同一の容器内で同時に発生させる方法としては、Si、Mg及びOを含有する原料を同一容器内で減圧加熱する方法があり、Si、Mg及びOを含有する原料として、MgO、Mg_(2)SiO_(4)などのMg・O含有化合物を採用すると、Si単体が共存することによって、減圧下での加熱によりSiOガスとMgガスとが同時に発生し、SiOとMgが均一に混合した材料が得られる(【0049】)。 エ しかしながら、上記Mg・O含有化合物に代えて、Mg単体を原料に使用すると、化学式2の反応を介さずに単体Mgから直接Mgガスが発生する上、そのMgガスはSiOガスと比べ低温で発生するために、反応初期にMgガス、反応後期にSiOガスが生成し、作製された材料の組成が不均一になってしまうという欠点を有する。 オ つまり、MgO、Mg_(2)SiO_(4)などのMg・O含有化合物をSi単体とともに、同一容器内で減圧加熱すると、SiOガスとMgガスを均一に反応させることができ、SiOとMgが均一に混合した本件発明の酸化珪素系負極材を製造することができるが、上記Mg・O含有化合物に代えて、Mg単体を原料に使用すると、作製された材料の組成が不均一になってしまい、電池性能が低下するので、本件発明の酸化珪素系負極材を製造することができない。 カ 一方、甲1製法発明においては、上記(1)エで検討したように、原料である、ケイ素粉末と二酸化ケイ素粉末とマグネシウムは混合され、混合体として一体となって同一の反応器に注入され、減圧加熱することにより、ケイ素酸化物複合体を製造しており、上記マグネシウムは単体マグネシウムと解されるから、上記オの検討を踏まえれば、甲1製法発明によって製造されたケイ素酸化物複合体は、材料の組成が不均一になっているものであり、本件発明3の製造方法のように材料が均一に混合したものとはなっていない。 キ そこで、甲1製法発明において、原料であるマグネシウムに代えて、MgO、Mg_(2)SiO_(4)などのMg・O含有化合物とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるか検討する。 ク 甲3には、マグネシウムの精錬について記載されており、上記3エによれば、Siを還元剤としてMgO(マグネシア)(当審注:甲3の「マグネシヤ」と同義である。以下同じ。)を還元することによりマグネシウムを得ることが記載されているが、甲1製法発明において、原料として既にマグネシウムを用いており、マグネシウムを供給するためにMgOを精錬する何らの必要もないので、甲3の精錬方法に関する記載を参照しても、甲1製法発明においてマグネシウムに代えてMgOを採用する動機付けはない。 ケ また、仮に、甲1製法発明において、原料のマグネシウムに代えてMgO(マグネシア)を採用する動機付けがあったとしても、マグネシウムに代えてMgOを原料に採用してケイ素酸化物複合体を製造すると、ケイ素酸化物複合体の組成が均一となるので、当該ケイ素酸化物複合体をLiイオン二次電池の負極材とした場合には初期効率の低下を回避できるという格別の効果を奏することは、いずれの甲号証にも記載も示唆もなく、当業者にとって自明の事項であるか、予測可能な事項であるともいえない。 コ したがって、甲1製法発明において、原料のマグネシウムに代えてMg・O含有化合物とすること、すなわち、相違点6に係る本件発明3の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点5について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1に記載された発明と甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明4について 本件発明3を引用することによって本件発明3の特定事項の全てを備える本件発明4も、少なくとも相違点5、6で甲1製法発明と相違するので、本件発明3と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明と甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5 本件発明5と甲1製法発明との対比と判断 ア 上記4の本件発明3についての検討と同様に検討すれば、本件発明5と甲1製法発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 非水電解質二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系負極材の製造方法であって、Si単体と、“マグネシウムを含有する原料”とを含む原料を同一の容器内で減圧加熱して、SiOガスと金属ガスとを同時に発生させ、それらのガスを同じ蒸着面上で冷却して回収する酸化珪素系負極材の製造方法の点。 (相違点7) 「非水電解質二次電池」が、本件発明5では「Liイオン二次電池」であるのに対して、甲1製法発明では単に「非水電解質二次電池」である点。 (相違点8) 「マグネシウムを含有する原料」[Wユ15]が、本件発明5は「酸素を含有する金属化合物」であるのに対して、甲1製法発明は「マグネシウム」である点。 イ 上記相違点8については、上記「酸素を含有する金属化合物」は、本件発明3の「Mg・O含有化合物」を含んでいることを踏まえると、上記4(2)で検討したように、「マグネシウム」を「Mg・O含有化合物」で置き換えることが容易であるとはいえないのと同様の理由によって、「マグネシウム」を「酸素を含有する金属化合物」で置き換えることが容易であるとはいえない。 ウ したがって、甲1製法発明において、原料の「マグネシウム」に代えて「酸素を含有する金属化合物」とすること、すなわち、相違点8に係る本件発明5の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明5は、甲1に記載された発明と甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 結び 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-06-10 |
出願番号 | 特願2017-113290(P2017-113290) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01M)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤原 敬士、式部 玲 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
池渕 立 平塚 政宏 |
登録日 | 2019-08-23 |
登録番号 | 特許第6573646号(P6573646) |
権利者 | 株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ |
発明の名称 | 酸化珪素系負極材 |
代理人 | 柳舘 隆彦 |