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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C04B
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  C04B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部無効 2項進歩性  C04B
管理番号 1363346
審判番号 無効2018-800141  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-12-14 
確定日 2020-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4472266号発明「コンクリート改質材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4472266号の明細書を、令和元年12月17日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを認める。 請求項1についての本件審判の請求は、成り立たない。 請求項2、3についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

特許第4472266号(以下、「本件特許」という。)は、平成15年4月28日に出願された特願2003-123838号の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明について平成22年3月12日に設定登録されたものであり、その後、請求人株式会社エービーシー商会から無効審判が請求されたものである。本件審判請求以後の手続の経緯は次のとおりである。

平成30年12月14日付け 本件審判請求
平成31年 1月 8日付け 手続補正書(方式)(審判請求書)(請求人)
同年 1月16日付け 手続補正書(方式)(審判請求書)(請求人)
同年 3月27日付け 答弁書(被請求人)
同年 4月23日付け 手続補正書(方式)(審判請求書)(請求人)
令和 元年 5月 8日付け 審理事項通知書
同年 5月14日付け 手続補正書(答弁書)(被請求人)
同年 5月27日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 6月 3日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 6月 4日付け 上申書(被請求人)
同年 6月 5日付け 手続補正書(口頭審理陳述要領書)(被請求人)
同年 6月11日付け 上申書(請求人)
同年 6月17日 第1回口頭審理
同年 6月17日付け 無効理由通知書(口頭審理で通知)
同年 6月17日付け 職権審理結果通知書(口頭審理で通知)
同年 6月13日付け 上申書(被請求人)(6月17日の口頭審理後に受領)
同年 7月 4日付け 上申書(被請求人)
同年 7月 8日付け 訂正請求書、意見書(被請求人)
同年 7月10日付け 意見書(請求人)
同年 7月26日付け 訂正拒絶理由通知書
同年 7月26日付け 職権審理結果通知書
同年 8月28日付け 意見書(請求人)
同年12月 2日付け 審決の予告
同年12月17日付け 訂正請求書、上申書(被請求人)
令和 2年 1月17日付け 意見書(請求人)
同年 3月 6日付け 補正許否の決定


第2 訂正請求について

1.訂正の内容
被請求人が令和元年12月17日付けで請求した訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、同日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1?4からなるものである(以下、下線は当審が付した。)。
なお、本件訂正により、令和元年7月8日付け訂正請求書による訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
明細書の特許請求の範囲の請求項1に、
「ナトリウムシリケート、カリウムシリケート及びリチウムシリケートから選択される少なくとも2種類以上のアルカリ金属化合物を混合してなることを特徴とするコンクリート改質材。」とあるのを、
「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなることを特徴とするコンクリート改質材。」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
明細書の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
明細書の発明の詳細な説明の【0013】に、
「請求項1記載の発明は、ナトリウムシリケート、カリウムシリケート及びリチウムシリケートから選択される少なくとも2種類以上のアルカリ金属化合物を混合してなることを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載のコンクリート改質材において、アルカリ金属化合物としては、ナトリウムシリケート、カリウムシリケート、リチウムシリケートのいずれかを選択して組み合わせ、水を混合しアルカリシリケート水溶液としたことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載のコンクリート改質材において、アルカリ金属化合物のうちの任意の2種類の化合物のモル比が1:1であることを特徴とする。」とあるのを、
「請求項1記載の発明は、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケート
を混合してなることを特徴とする。」に訂正する。

ここで、訂正事項4は、明らかに特許請求の範囲の請求項1?3について行う訂正である。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されたコンクリート改質材の発明について、2種類以上混合されるアルカリ金属化合物の選択肢の一つとされていたリチウムシリケートを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1?3に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)その他
本件無効審判においては、訂正前のすべての請求項1?3が無効審判の請求の対象とされているから、訂正事項1?4に関して、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項1?3について訂正を認める。


第3 本件発明

上記第2で述べたとおり、訂正は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明は、令和元年12月17日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める(以下、「本件発明」という。)。
「【請求項1】
ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなることを特徴とするコンクリート改質材。」

ここで、第1回口頭審理調書に記載された被請求人の陳述に基づき、本件発明は、着色材を含まないものであると認める。


第4 無効理由について

1.請求人が当初から主張する無効理由の概要
請求人は、審判請求書と共に以下の甲第1?8号証(以下、「甲1」?「甲8」という。甲8についてはその1及び2を含む。)を提出し、令和元年5月27日付け口頭審理陳述要領書と共に以下の甲第9?18号、甲第19号証の1?3及び甲第20号証(以下、「甲9」、「甲19の1」などという。)を提出し、令和元年7月10日付け意見書と共に以下の甲第21号証の1、甲第21号証の2の1?3、甲第21号証の3の1?3、甲第21号証の4の1?3及び甲第22号証(以下、「甲21の1」、「甲21の2の1」などという。)を提出し、第1回口頭審理調書に記載のとおり、次の(1)?(3)の無効理由を主張するものと認められる。

甲1:建材ジャーナル第1005号(平成15年(2003年)1月15日)週刊建材新聞社発行(第7面等 抜粋)
甲2:特開2002-179952号公報
甲3:特開平7-18202号公報
甲4:ビルメンテナンス(第36巻5号 2001年5月1日)社団法人全国ビルメンテナンス協会発行(p42-47等 抜粋)
甲5:特開平7-53280号公報
甲6:特開平11-62262号公報
甲7:RCガード 試験データ編(2005年2月)株式会社エービーシー商会
甲8の1:土木学会第58回年次学術講演会 講演概要集225?226頁(2003年9月)
甲8の2:土木学会第58回年次学術講演会実施要領(土木学会誌vol.88 No.2 付録)(2003年2月)(抜粋)
甲9:JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)第2、3版 日本翻訳連盟 標準スタイルガイド検討委員会(抜粋)(2016年12月20日)
甲10:特開平2-271946号公報
甲11:特開平4-280883号公報
甲12:特開平11-279439号公報
甲13:エッセンシャル化学辞典 玉虫伶太他編 東京化学同人(391頁、546頁抜粋)(1990年3月10日)
甲14:特開2001-302961号公報
甲15:コンクリート工学ハンドブック 西林新蔵他編 朝倉書店(177-178頁 抜粋)(2009年10月25日)
甲16:最新コンクリート工事ハンドブック 建設産業調査会(1070-1074頁 抜粋)(平成8年3月1日)
甲17:特願2003-123838号の出願人名義変更届(平成16年11月12日付け)
甲18:RCガード Controllのパンフレット
甲19の1:About the Internet Archive(https://archive.org/about/)(非営利団体Internet Archiveのホームページより抜粋、抄訳)
甲19の2:Wayback MachineによるInternet Archiveの検索結果http://www.rc-guard.com/index2.html (2002年12月11日当時のホームページのアーカイブ)
甲19の3:RCガード 日本RCG株式会社のホームページ(甲19の2から得られる検索結果http://www.rc-guard.com/index2.htmlの内容)
甲20:日本アール・シー・ジー株式会社の履歴事項全部証明書 東京法務局(平成15年3月6日)
甲21の1:特願2003-123838号の出願明細書
甲21の2の1:特願2003-123838号の拒絶理由通知書(平成21年2月5日付け)
甲21の2の2:特願2003-123838号の手続補正書(平成21年4月13日付け)
甲21の2の3:特願2003-123838号の意見書(平成21年4月13日付け)
甲21の3の1:特願2003-123838号の拒絶理由通知書(平成21年7月23日付け)
甲21の3の2:特願2003-123838号の手続補正書(平成21年9月24日付け)
甲21の3の3:特願2003-123838号の意見書(平成21年9月24日付け)
甲21の4の1:特願2003-123838号の拒絶理由通知書(平成21年12月3日付け)
甲21の4の2:特願2003-123838号の手続補正書(平成21年12月16日付け)
甲21の4の3:特願2003-123838号の意見書(平成21年12月16日付け)
甲22:判定2018-600031号の判定請求書(平成30年10月1日付け)

なお、当事者間に甲第1?22号証の成立に争いはない。

(1)甲1に基づく無効理由(以下、「無効理由1」という。)
訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、または、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。 また、訂正前の本件請求項2、3に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。
よって、訂正前の本件請求項1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

(2)甲2に基づく無効理由(以下、「無効理由2」という。)
訂正前の本件請求項1、2に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、または、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。
よって、訂正前の本件請求項1、2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

(3)甲3に基づく無効理由(以下、「無効理由3」という。)
訂正前の本件請求項1?3に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、または、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。
よって、訂正前の本件請求項1?3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

2.職権により令和元年6月17日付けで通知した無効理由の概要
以下の(1)及び(2)の理由からなり、第1回口頭審理において通知したものである。

(1)甲18に基づく無効理由(以下、「無効理由4」という。)
訂正前の本件請求項2、3に係る発明は、甲18に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、または、甲18に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。
よって、本件請求項2、3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

(2)明細書の記載不備に基づく無効理由(以下、「無効理由5」という。)
訂正前の本件の発明の詳細な説明の記載は、甲14に記載されたケイ酸リチウムに関する技術事項からみて、リチウムシリケートを混合した場合にまで、ゲル化を抑制する混合アルカリ効果が発揮されることを当業者が認識できるような記載とはなっていないから、訂正前の本件請求項1?3に係る発明の技術的意味(作用効果)を理解することができるものとはいえないし、また、訂正前の本件請求項1?3に係る発明が、その発明の詳細な説明に記載された課題を解決できるものとはいえない。
よって、訂正前の本件請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

3.請求人が令和2年1月17日付け意見書において新たに主張する無効理由の概要
請求人は、本件訂正を受けて、本件発明について新たに以下の(1)?(3)の無効理由を主張するものと認められる。
なお、これら新たな主張に係る請求の理由の補正は、請求の理由の要旨を変更するものではあるが、審理を不当に遅延させるおそれのないことが明らかなものであり、かつ、訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたものであることから、令和2年3月6日付けの補正許否の決定をもって請求の理由の補正を許可したものである。

(1)明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)(以下、「無効理由6」という。)
請求項1には、「粉体」である旨の発明特定事項はなく、明細書には「水溶液」のコンクリート改質材しか記載されていない。また、請求項1のコンクリート改質材を水を混合する前のものであると認定する根拠とされていた訂正前の請求項2は削除された。そうすると、訂正された本件請求項1に係る発明は、請求項1の記載からは粉体に限られた発明であるか否かを判断できないものであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(2)サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)及び実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)(以下、「無効理由7」という。)
本件明細書には「水溶液」のコンクリート改質材しか記載されていないから、訂正された本件請求項1に係る発明が「粉体の混合物」の発明であるとすれば、「粉体」のコンクリート改質材については本件明細書に何も記載がない。また、粉体の改質材をコンクリート表面に散布して、その後散水する場合は、アルカリシリケート水溶液は濃度によって粘度が異なる(乙6の1、甲12【0006】)等の理由から、どのように粉体を散布し散水すれば深く浸透しゲル化して発明の効果が得られるのかが明細書に記載されていないので、当業者が発明を実施することができない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(3)甲第18号証に基づく新規性進歩性欠如(特許法第29条)(以下、「無効理由8」という。)
訂正された本件請求項1に係る発明が「水溶液」のコンクリート改質材を含むものであるとすれば、甲18に記載された発明である。
訂正された本件請求項1に係る発明が「粉体の混合物」のコンクリート改質材であるとすれば、(甲1や)甲18の水溶液を製造するに際し、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートの粉体を混合し、水を添加して製造する程度のことは当業者であれば容易になし得るから、訂正された本件請求項1に係る発明は、(甲1や)甲18に記載された発明から当業者が容易に想到しうる製造途中に得られるものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

4.被請求人の主張の概要
被請求人は、令和元年5月14日付け手続補正書により補正された平成31年3月27日付け審判事件答弁書と共に以下の乙第1号証、乙第1号証の2、乙第2号証(以下、「乙1」、「乙1の2」などという。)を提出し、令和元年6月5日付け手続補正書により補正された同年6月3日付け口頭審理陳述要領書と共に以下の乙第3号証、乙第3号証の1、乙第3号証の2、乙第4号証、乙第5号証、乙第5号証の1、乙第5号証の2、乙第6号証、乙第6号証の1、乙第6号証の2、乙第7号証、乙第7号証の1、乙第7号証の2、乙第8?16号証(以下、「乙3」、「乙3の2」などという。)を提出し(乙7の1、乙7の2、乙16については、令和元年6月4日付け上申書と共に改めて原本を提出)、令和元年6月13日付け上申書と共に以下の乙第17号証(以下、「乙17」という。)を提出し、令和元年7月4日付け上申書と共に以下の乙第18号証(以下、「乙18」という。)を提出し、第1回口頭審理調書、令和元年6月13日付け上申書及び令和元年7月8日付け意見書に記載のとおり主張し、甲1、甲18、甲19の3の頒布は、被請求人等の意に反してなされたものであるから、特許法(昭和34年法律第121号、平成14年4月17日法律第24号)第30条第2項の規定により、甲1、甲18、甲19の3に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定が適用されるべき発明ではない旨主張していたところ、令和元年12月2日付け審決の予告がなされたことから、令和元年12月17日付けの2回目の訂正請求及び同日付け上申書により、次の(1)?(5)のとおり、本件発明に係る特許は無効とされるべきでない旨主張するものと認められる。

乙1:「ウィキペディア ガラス特性の計算」ウィキペディア日本版(https://ja.wikipedia.org/wiki/ガラス特性の計算(2019年2月5日付けダウンロードファイルの印刷物 1/6-6/6頁)
乙1の2:2010年4月1日付けで作花済夫より富田豊宛て送付された電子メール内容の印刷物
乙2:陳述書(富田豊)(令和元年5月7日付け)
乙3:Potassium Sodium Silicate(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Potassium-sodium-silicate)(PubChemのホームページより)
乙3の1:乙3の翻訳ページ
乙3の2:カリウム・ナトリウムシリケート(https://www.alfa-chemistry.com/cas_37328-88-4.htm)(ALFAchemistryのホームページより)
乙4:特表平9-502696号公報
乙5:特開昭51-79174号公報
乙5の1:化学大辞典第3巻 共立出版株式会社(928-929頁、900-901頁 抜粋)(1989年8月15日)
乙5の2:化学大辞典第6巻 共立出版株式会社(696-697頁 抜粋)(1989年8月15日)
乙6:ケイ酸カリ(https://osaka-keisou.co.jp/product.html)(大阪珪曹株式会社のホームページより)
乙6-1:特開平11-62262号公報
乙6-2:吉藤幸朔著 特許法概説 第11版 株式会社有斐閣(1996年5月30日)82-83頁
乙7:測定分析結果 SHIMADZU TECHNO-RESEARCH,INC
乙7-1:陳述書(富田豊)(令和元年6月3日付け)
乙7-2:陳述書(作花済夫)(令和元年5月31日付け)
乙8:化学大辞典第6巻 共立出版株式会社(602-603頁 抜粋)(1989年8月15日)
乙9:化学大辞典第2巻 共立出版株式会社(532-533頁 抜粋)(1989年8月15日)
乙10:化学大辞典第3巻 共立出版株式会社(316-317頁 抜粋)(1989年8月15日)
乙11:化学大辞典第9巻 共立出版株式会社(18-19頁 抜粋)(1989年8月15日)
乙12:珪酸カリ(https://www.fuji-chemical.com/pdf/keisan_kari.pdf)(富士化学株式会社のホームページより)
乙13:「イオン化傾向」コトバンク(https://kotobank.jp/word/イオン化傾向-430820(2019年5月30日付けダウンロードファイルの印刷物 1/3-3/3頁)
乙14:「ケイ酸を用いた無機接着剤」東京理科大学I部化学研究部 2015年度春輪講書(https://www.ed.tus.ac.jp/~kaken/studies/2015/2015-s-tue.pdf(2019年5月30日付けダウンロードファイルの印刷物 1-12頁)
乙15:工業所有権法令集 第56版(上巻) 特許庁編(2002年10月29日)410-411頁
乙16:陳述書(相馬尚文、シュシャンシャン、富田豊、峰直治)(令和元年5月31日付け)
乙17:作花済夫が峰直治に宛てた平成18年4月26日付け書簡
乙18:陳述書(相馬尚文、シュシャンシャン、富田豊、峰直治)(令和元年6月18日付け)

なお、当事者間に乙第1?18号証の成立に争いはない。

(1)無効理由1について
本件発明は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきではない。

(2)無効理由2について
本件発明は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきではない。

(3)無効理由3について
本件発明は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきではない。

(4)無効理由4について
本件発明は、甲18に記載された発明ではなく、また、甲18に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきではない。

(5)無効理由5について
本件訂正に係る訂正明細書によれば、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明の技術的意味(作用効果)を理解することができるよう記載されたものであり、また、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決できるものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきではない。

5.甲各号証及び乙各号証の記載事項(主要なもののみ抜粋)

(1)甲第1号証
(ア)最上行に「建材ジャーナル 平成15年1月15日(水曜日)」と記載されている。
(イ)第7面の最上段の記事として「コンクリートの耐久性強化 無機質系改質材の「RCガード」エービーシー商会」との見出しにおいて、
「エービーシー商会(本社東京都千代田区永田町2-12-14、佐村健社長)は、塗布するだけでコンクリート表面を緻密に改質し、コンクリート構造物の耐久性を高め、長寿命化とライフサイクルコスト低減を実現する浸透性無機系コンクリート改質材『RCガード』を新発売した。
特長〈1〉(当審注:〈数字〉は丸囲いの数字)コンクリート劣化防止のメカニズム。RCガードは無機系のナトリウム・カリウムシリケートが主成分の透明な液体を、コンクリート表面に塗布するだけで効果を発揮する工法。RCガードはコンクリート内部に深く浸透し、水分を取り込むことでコンクリート内の水酸化カルシウムと反応して劣化防止保護膜を形成し、雨水の侵入を防ぐ。施工後にクラックが発生しても、そこから侵入した雨水と反応し、クラックを塞ぐ自己補修機能を持っており、長時間にわたり劣化防止効果を発揮することが可能。高耐久コンクリート構造物を保持することができる。」と記載されている。

(2)甲第2号証
(ア)「本発明は、コンクリート基材などのカルシウム系無機質基材を容易に着色することが可能で、かつ着色された表面の強化、耐候性の向上などを目的とする水系の塗工組成物、該組成物を用いた着色基材の調製方法、および該方法により得られる着色基材に関する。」(【0001】)
(イ)「【従来の技術】建材、建築物などに用いられるカルシウム系無機質製品、例えばコンクリート、セメント、石膏、石材などでなる製品の表面を保護し、かつ該製品を着色することが試みられている。一般にこのような無機質の基材表面の保護・強化のために水ガラス(水溶性珪酸アルカリ化合物の水溶液)を塗布し、硬化膜を形成することが行なわれている。」(【0002】)
(ウ)「本発明のカルシウム系無機質基材用塗工組成物は、水溶性珪酸アルカリ化合物、および水または有機溶媒に可溶な染料を含有する。
本発明に用いられる水溶性珪酸アルカリ化合物としては、水溶性の珪酸アルカリ化合物のいずれをも用いることが可能である。このような化合物は、一般にM_(2) O・nSiO_(2)(Mはアルカリ金属、nは通常2?4の整数)で示される。それには例えば、珪酸ナトリウム(オルト珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムなど)、珪酸リチウム、珪酸カリウムなどがある。これらの化合物は、多価金属イオンとの反応あるいは該化合物のアルカリ成分(M)を該化合物のシリカネットワーク中から除去することにより、不溶性の珪酸化合物を形成する。水溶性珪酸アルカリ化合物の濃厚水溶液は一般に水ガラスと呼ばれ、市販されている。水溶性珪酸アルカリ化合物は、単独で用いられても2種以上が混合されて用いられても良い。例えば、珪酸ナトリウム、珪酸リチウム、および珪酸カリウムの組み合わせが好適に用いられる。」(【0015】【0016】)
(エ)「本発明の組成物により形成された着色塗膜は不溶性の珪酸化合物を主成分とし、その表面は平滑なガラス質の膜となる。従って、表面硬度が高く耐候性に優れ、さらに防汚性能に優れる。」(【0037】)
(オ)「(実施例1)珪酸ナトリウム(珪酸ソーダ3号;日本化学工業株式会社製)50.0g、珪酸リチウム水溶液(珪酸リチウム35;日本化学工業株式会社製)410.0g、および珪酸カリウム水溶液(珪酸カリウム2K;日本化学工業株式会社製)10.0.0g(原文ママ)に水を加えて1000gとし、これに黄色染料(CI No. ReactiveYellow 167)20gを加えて混合し、本発明の組成物を得た。
この組成物でなる塗料を、1辺が10cmの正方形板状のコンクリート基材表面に塗工した。」(【0039】【0040】)

(3)甲第3号証
(ア)「【請求項1】 式 M_(2)O・nSiO_(2)(式中、Mはナトリウム及び/又はカリウムを示し、nは2.0?4.1の数を示す)で表わされるアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液と、Li_(2)O・mSiO_(2)(式中、mは4?5の数を示す)で表わされるケイ酸リチウムの水溶液との混合物からなり、M_(2)O・nSiO_(2)/Li_(2)O・mSiO_(2)モル比が1?3の範囲にあるコーティング材料。」
(イ)「本発明は、水ガラスとして知られているアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液を主成分としながら、水不溶性で適度の結合強度を有する耐水性の著しく改善されたガラス質を形成するコーティング材料とバインダーに関するものである。」(【0001】)
(ウ)「本発明によるコーティング材料及びバインダーは、以下に示す組成式で表わされるアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液Aと、ケイ酸リチウムの水溶液Bの混合液からなる。
M_(2)O・nSiO_(2) (1)
前記式中、Mはナトリウム、カリウム又はナトリウムとカリウムの混合物を示す。nは2.0?4.1の数を示す。
Li_(2)O・mSiO_(2 )(2)
前記式中、mは4?5の数を示す。・・・また、水溶液Aと水溶液Bとの混合割合は、M_(2)O・nSiO_(2)/Li_(2)O・mSiO_(2)モル比が0.97?3.40、好ましくは1?3の範囲になる割合である。この範囲を逸脱すると、品質の良いコーティング材料及びバインダーを得ることができない。」(【0008】)
(エ)「本発明のコーティング材料及びバインダーを110?150℃の低温で熱処理して得られる硬化体は、従来広く使用されてきた3号ソーダ水ガラスから得られる硬化体の最大の欠点である耐水性の欠如と炭酸ガス吸収による白華現象(エフロレッセンス)を改善できたものである。本発明のコーティング材料から得られた塗膜は、水ガラス系無機塗料の特徴であるところの、有機系塗料では得られない優れた耐候性、耐炎性、高硬度を有するガラス質ないし琺瑯調のものである。本発明のコーティング材料を用いることにより、木材、各種金属、コンクリート、モルタル、アスベストスレート、天然石材、ガラス、合成樹脂、石膏などの表面にガラス質ないし琺瑯調の硬い塗膜を形成させることができる。」(【0019】)

(4)甲第14号証
「【0012】また、ケイ酸塩化合物は、特性の異なるケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムとの混合物を用いている。ケイ酸塩化合物として、特性の異なるケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムとを用いたのは、塗料の硬化速度を調節するためである。すなわち、上記ケイ酸ナトリウムは、その分子半径が比較的大きいので、単位面積当たりにコンクリートの陽イオンと反応するケイ酸塩イオンが少なくなる。反応するケイ酸塩イオンが少ないので、その分反応時間が長くなり、結果として塗料全体の硬化速度が相対的に遅くなる。
【0013】一方、ケイ酸リチウムは、その分子半径が小さいので、単位面積当たりのケイ酸塩イオンが多くなる。このケイ酸塩イオンはコンクリートの陽イオンと反応するので、単位面積当たりのイオンが多くなればなるほど、分反応時間が短くなり、結果として塗料全体の硬化速度が相対的に速くなる。したがって、上記のように特性の異なるケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムとの混合比を、目的に応じて決めれば、塗料全体の硬化速度を、自由に調節することができる。」

(5)甲第18号証
(ア)「●RCガード(Controll)とは
『RCガード』は、無機質で安全性の高いナトリウム・カリウムシリケート等を主成分にした新発想の浸透性防水・劣化防止剤です。水を取り込むことで防水・劣化防止保護層を形成し、コンクリート内部の水酸化カルシウムが存在する限り防水・劣化防止効果を発揮します。」(2頁目の2-5行)
(イ)「●新防水理論RCガード(Controll)の自己補修機能
このシステムの特徴は、主成分のナトリウム・カリウムシリケート等をコンクリートの深い部分(最大で表層下約190mm)に浸透させることができ、コンクリート内部の水酸化カルシウムと反応、防水・劣化防止保護層を形成させることにあります・・・したがって、このシステムの施工後にクラックが発生した場合でも、コンクリート内部の水酸化カルシウムとRCガードが水により反応し、防水・劣化防止保護層の形成により雨水の侵入を防ぎます。・・・このようにコンクリート内部においてRCガードが反応することで、長時間にわたり防水・劣化防止効果を発揮することが可能なのです。」(2頁目の9-15行)
(ウ)「防水工事の施工手順(短期間での施工、雨の日の施工が可能)
・・・1 防水下地修正・・・2 RCガード吹付けまたは塗布・・・3 浸透散水 散水は低圧散水を厳守して下さい・・・4 定着浸透散水 定着浸透散水後の散水は低圧散水を厳守して下さい」(3頁目の中段)
(エ)「日本アール・シ・ジー株式会社
東京本部:東京都港区西新橋2-6-3 〒・・・
越後屋ビル6F
・・・
本 社 :鹿児島県鹿児島市住吉町5-17 〒・・・」(4頁目の下段左)
(オ)「お問い合わせは・・・総販売元・・・株式会社エービーシー商会 湿式建材事業本部 本社 東京都千代田区永田町2-12-14・・・TEL・・・FAX・・・」(4頁目の下段右)

(6)甲第20号証
平成15年3月6日に東京法務局港出張所登記官により登記簿に記録されている閉鎖されていない事項の全部であることを証明した書面である「履歴事項全部証明書」であり、商号「日本アール・シー・ジー株式会社」、本店「東京都港区西新橋二丁目6番3号越後屋ビル6F」について、登記記録に関する事項として「平成14年8月5日鹿児島市住吉町5番17号から本店移転 平成14年8月9日登記」との記載が認められる。

(7)乙第2号証
令和元年5月7日付けの陳述書であって、最下部に、「住所」の下に「氏名(名称) 富田 豊」と記載され、その右側に押印がされたものであり、以下の記載がある。
「私、特許第4,472,266号の共有特許権者である富田豊は、以下のとおり陳述します。
私が代表取締役であった日本アール・シー・ジー株式会社は、2002年10月頃から、当時日本アール・シー・ジー株式会社が販売していたRCガードに関し、請求人である株式会社エー・ビー・シー商会との間でRCガード総販売元基本契約書を取り交し、業務上または技術面での秘密保持契約を締結する前提の下、RCガードを提供しておりました。
当時請求人に対して提供しようとしていたRCガードは、本件特許とは組成的には関係のない輸入品であり、日本アール・シー・ジー株式会社では、「ナトリウム・カリウムシリケート」という社内用語を使用して従来のRCガードと区別していたという経緯があります。
当該輸入品はコンクリート改質性、長期保存性等において種々の問題点もあったことから京都大学名誉教授、作花済夫先生の指導の下、本件特許に係るコンクリート改質材を新たに開発し、これを特許第4,472,266号として特許出願したというのが、本件特許権の出願に至るまでの経緯です。
今般請求人が無効審判を請求するに際し、請求人が甲第1号証として提出した平成15年1月15日付の建材ジャーナルの記事について、私はこの度初めて知り、大変驚いている次第です。
私は、秘密保持を締結する前提の下でRCガードを請求人に提供していたこともあり、本件特許の特許出願の日前に請求人が甲第1号証の記事を発表するとは思いだにもせず、また甲第1号証の事実を知らず特許出願に向けて準備していたのであって、甲第1号証は、本件特許権者等の意に反した行為により公知となったことに相違ありません。」

(8)乙第3号証
化合物名「Sodium-potassium silicate; Potassium sodium silicate More...」、即ち、「ナトリウム・カリウムシリケート」と解しうる物質について、分子式「KNaO_(3)Si」であることが記載されており(1/10頁)、以下の構造式が示されている(3/10)頁。

(9)乙第16号証
令和元年5月31日付けの陳述書であって、最下部に、4者の連名で各々「住所」の下に「氏名(名称)」が順に「相馬 尚文」、「シュ シャン シャン」、「富田 豊」、「峰 直治」と記載され、その右側に押印がされたものであり、以下の記載がある。
「1. 私等、特許第4,472,266号の共有特許権者である、富田豊、シュ シャン シャン及び相馬尚文は、発明者峰直治氏とともに本件特許の特許出願を準備していましたが、甲20に記載される通り、当時の日本アール・シー・ジー社には、請求人代表者である佐村健氏が含まれるように複数の代表取締役が代表権を保有して独立して営業等を行っていたこともあり、我々は、本件特許の特許出願の日前において、本件特許出願前に請求人が甲1を公表することは全く知らず、また同意したこともなく、甲1は、我々の意に反して公知とされたものであることに相違ありません。

2. (略)

3. 私、峰直治は、特許第4,472,266号の特許出願の日前に、特許を受ける権利を、相馬尚文氏、シュ シャン シャン氏、富田豊氏に譲渡したことに相違ありません。」

(10)乙第18号証
令和元年6月18日付けの陳述書であって、最下部に、4者の連名で各々「住所」の下に「氏名(名称)」が順に「相馬 尚文」、「シュ シャン シャン」、「富田 豊」、「峰 直治」と記載され、その右側に押印がされたものであり、以下の記載がある。
「1. 私等、特許第4,472,266号の共有特許権者である、富田豊、シュ シャン シャン及び相馬尚文は、発明者峰直治氏とともに本件特許の特許出願を準備していましたが、甲20に記載される通り、当時の日本アール・シー・ジー社には、請求人代表者である佐村健氏が含まれるように複数の代表取締役が代表権を保有して独立して営業等を行っていたこともあり、我々は、本件特許の特許出願の日前において、本件特許出願前に請求人が甲18及び甲19の3を公表することは全く知らず、また同意したこともなく、甲18及び甲19の3は、我々の意に反して公知とされたものであることに相違ありません。

2. (略)

3. 私、峰直治は、特許第4,472,266号の特許出願の日前に、特許を受ける権利を、相馬尚文氏、シュ シャン シャン氏、富田豊氏に譲渡したことに相違ありません。」


第5 無効理由についての当審の判断

1.無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
上記第4の5.(1)に示した甲1の記載事項を総合すると、甲1には、請求人(株式会社)エービーシー商会が新発売した商品名「RCガード」というコンクリートの耐久性強化の無機質系改質材に係る
「無機系のナトリウム・カリウムシリケートが主成分の透明な液体を含むコンクリート改質材」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件発明と甲1発明とを対比すると、本件発明の「ナトリウムシリケート」及び「カリウムシリケート」と甲1発明の「無機系のナトリウム・カリウムシリケート」とは、何れもが少なくともアルカリシリケートに属するものであるといえることから、両者は、「アルカリシリケートを含むコンクリート改質材」である点で一致し、次の相違点1-1で相違していると認められる。

相違点1-1:本件発明のコンクリート改質材は、「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる」ものであるのに対し、甲1発明のコンクリート改質材は、「無機系のナトリウム・カリウムシリケートが主成分の透明な液体を含む」ものである点

相違点1-1について検討するに、本件発明は、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなるコンクリート改質材であって、本件明細書【0020】によれば、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合した後、水を適当量添加して、アルカリシリケート水溶液としていることから、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなるものであって水を添加する前のものについては、いわば、粉体の混合物であると認められる。これに対し、甲1発明の「無機系のナトリウム・カリウムシリケート」は、上記第4の5.(8)に示した乙3の記載事項を参酌すると、分子式KNaO_(3)Siで表される水溶性の化合物であると解するのが自然であるから、甲1発明の透明な液体は、明示されていないものの常識的には水溶液と解するのが妥当である。してみれば、両者は明らかに異なるので、相違点1-1は実質的なものである。
また、甲1発明において、透明な液体を含むものを粉体の混合物に変えるための動機付けとなるものは、何れの証拠においても見当たらないから、甲1発明において相違点1-1を解消することは、当業者であっても容易なことではない。

よって、本件発明は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は、令和元年7月10日付け意見書において、訂正前の本件の請求項2は請求項1を引用して記載されており、訂正前の請求項2に係る発明は水溶液なのであるから、訂正前の請求項1に係る発明はその上位概念であって、粉体に限定されず水溶液の発明を含むものである旨主張している。
しかし、先行する請求項の記載を引用した請求項があった場合に両者に係る発明が必ず上位概念と下位概念の関係になるとは限らないし、本件発明は、上記したとおり、本件明細書【0020】の記載からみても水を添加する前の混合物として解釈するのが妥当である。
また、請求人は、令和2年1月17日付け意見書において、甲1発明の水溶液を製造するに際し、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートの粉体を混合し、水を添加して製造する程度のことは当業者であれば容易になし得るから、本件発明はその製造途中に容易に得られる旨主張してもいるが、甲1には、そもそも「無機系のナトリウム・カリウムシリケートが主成分の透明な液体」と記載されているだけであって、その「ナトリウム・カリウムシリケート」が乙3に示された分子式KNaO_(3)Siで表される水溶性の化合物であると解釈するのは自然なことであったとしても、その水溶液の状態となったものはナトリウムシリケートがカリウムシリケートに「混合」されたものであるとは直ちにいえないし、まして、「ナトリウム・カリウムシリケート」の製造途中に「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる」ものが得られるかどうかは不明という他ない。
よって、請求人の主張は何れも採用できない。

(4)甲1発明は意に反して公知となったものであるという被請求人の主張について
被請求人は乙2及び乙16を提出して、甲1発明は特許を受ける権利を有する者の意に反して公知となったものであるから、特許法第30条第2項の規定により同法第29条第1項及び第2項が適用される発明ではないことも主張しているので、上記第4の5.(7)及び(9)に示した乙2及び乙16の記載内容について一応検討しておく。
まず、本件発明に係る特許を受ける権利が、本件特許出願の日前に、発明者峰直治から現在の共有特許権者である相馬尚文、シュ シャン シャン、富田豊の3者に譲渡されたことと、発明者及び共有特許権者の4者が、本件特許出願前に甲1の公表を知らなかったことについては、乙2及び乙16から窺い知ることができるといえる。
次に、甲1の公表に関わったのは甲1の記載内容からエービーシー商会、即ち請求人であると認められるところ、甲1の公表に関して、請求人が甲1の記載内容、特に甲1発明について、いつ頃どのような経緯で知り、発表に至ったのか、それが特許を受ける権利を有する者との間で秘密に保たれるべきものであったのかについては、以下の(ア)?(ウ)に述べる状況にあったことがいえるのみである。

(ア)2002年10月頃から、共有特許権者の1者である富田豊が代表取締役であった日本アール・シー・ジー株式会社が販売していた「RCガード」に関し、日本アール・シー・ジー株式会社は請求人である株式会社エー・ビー・シー商会との間でRCガード総販売元基本契約書を取り交わし、業務上または技術面での秘密保持契約を締結する前提の下、RCガードを提供していた(乙2)が、甲1の記載内容に係る「新発売」の「RCガード」について、いつ頃どのような情報が株式会社エー・ビー・シー商会に提供されたのかが乙2及びそれ以外の何れの証拠からも明らかでないこと。

(イ)上記(ア)の「業務上または技術面での秘密保持契約を締結する前提の下、RCガードを提供」に関し、甲1の記載内容に係る「新発売」の「RCガード」について、当事者間でどのような秘密保持に関わるやりとり(秘密保持を前提とすることを述べたメールや書簡、あるいは秘密保持に係る仮契約の書類等)があったのかが、乙2からは明らかでないこと。

(ウ)乙2では、上記(ア)のRCガードに関する提供された情報について、当時請求人に対し提供しようとしていたRCガードは本件特許とは組成的には関係のない輸入品であったとする。しかしながら、上記第4の4.(9)及び(10)に示した乙16、乙18に記載されたとおり、本件特許に係る出願準備が発明者及び共有特許権者の4者により仮に秘密裏に進められていたとしても、本件特許とは組成的には関係のないRCガードに関する情報、例えば「ナトリウム・カリウムシリケート」が従来のRCガードと区別して社内用語として使用されていたこと等について、出願情報と同じレベルで秘密裏にされていたとは直ちには推認できない。さらに、甲1発明と同様の「ナトリウム・カリウムシリケート」を主成分として含む「RCガード」に係る技術内容を更に詳細に開示する甲18や甲19の3が存在することも考慮すると、甲1の公表時において甲1発明を開示しないことを前提とした状況にあったとは客観的に認めがたいこと。

したがって、乙2、乙16によって、甲1発明が特許を受ける権利を有する者の意に反して公表されたことが十分に立証されたものと認めることはできないから、被請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明について、無効理由1は理由がない。

2.無効理由2について
(1)甲第2号証に記載された発明
上記第4の5.(2)に示した甲2の記載事項(ア)?(オ)より、甲2には、
「水溶性珪酸アルカリ化合物、および水に可溶な染料を含有し、コンクリート基材の表面の強化等に使用でき、前記水溶性珪酸アルカリ化合物は2種以上が混合されて用いられてもよい、カルシウム系無機質基材用塗工組成物」の発明として、実施例1に係る「珪酸ナトリウム50.0g、珪酸リチウム水溶液410.0gおよび珪酸カリウム水溶液10.0gに水を加えて1000gとし、これに黄色染料20gを加えて混合して得た組成物」
の発明(以下、「甲2発明」という)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「珪酸ナトリウム」、「珪酸カリウム」が、それぞれ本件発明の「ナトリウムシリケート」、「カリウムシリケート」に相当する一方、本件発明は、珪酸リチウムは含んでいない。また、本件明細書【0032】の記載より、本件発明の改質材は、実施の態様において着色材とともに用いられているが、上記第3のとおり着色材を含まないものである。
そうすると、両者は、「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合した組成物」である点で一致し、次の相違点2-1?2-3で相違していると認められる。

相違点2-1:本件発明は、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる「コンクリート改質材」であるのに対し、甲2発明は、水溶液を混合し、さらに水を加えて得た「カルシウム系無機質基材用塗工組成物」である点

相違点2-2:本件発明の改質材は「着色材」を含まないのに対し、甲2発明の組成物は「着色材(黄色染料)」を含むものである点

相違点2-3:本件発明の改質材は「珪酸リチウム」を含まないのに対し、甲2発明の組成物は「珪酸リチウム」を含むものである点

相違点2-1、2-2をまとめて検討するに、本件発明のコンクリート改質材は、上記1.で検討したとおり、水を混合する前の、いわば、粉体の混合物であり、本件明細書【0017】?【0023】の記載からして、これに水を適当量添加し、アルカリ水溶液とした場合にコンクリート中に深部まで浸透させていくものである。これに対し、甲2発明の組成物は、上記第4の5.(2)(ウ)?(オ)のとおり、珪酸アルカリ水溶液が混合され、さらに水を加えられているが、水ガラスと呼ばれる濃厚水溶液と同様の着色塗膜を形成するものであって、形成された表面は、平滑なガラス質の膜となって、表面硬度が高く、耐候性や防汚性に優れるものとなることが窺える。そうすると、両者の使用形態はコンクリート中の深部まで作用するものと表面において作用するものとで互いに全く異なるから、相違点2-1は実質的なものであるし、着色材の有無についての相違もその使用形態に関わって生じているといえるから相違点2-2も実質的なものである。
そして、少なくとも、甲2発明において水を加えないこととしたり、着色材を含まないものとしたりする動機付けは見当たらないから、甲2発明においてこれら相違点を解消することは当業者にとって容易なことではない。

よって、相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は、令和2年1月17日付け意見書等において、甲2には上記第4の5.(2)に示した記載事項(ウ)(【0015】)より、珪酸リチウムを除いた珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムの2種の混合物も記載されているといえること、着色材を必要としない場合については、当業者であれば容易に想到しうることを主張する。
しかし、甲2の記載事項(ア)、(イ)、(エ)によれば、甲2に記載された「カルシウム系無機質基材用塗工組成物」は、基材を容易に着色し、着色された表面の強化等を目的として表面に着色塗膜、硬化膜を形成するための組成物なのであるから、上記で相違点2-1、2-2について検討したとおり、コンクリート中の深部まで作用する本件発明のコンクリート改質材とは全く異なるものであって、請求人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明について、無効理由2は理由がない。

3.無効理由3について
(1)甲第3号証に記載された発明
上記第4の5.(3)に示した甲3の記載事項(ア)、(ウ)より、甲3には、
「式 M_(2)O・nSiO_(2)(式中、Mはナトリウム及び/又はカリウムを示し、nは2.0?4.1の数を示す)で表わされるアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液と、Li_(2)O・mSiO_(2)(式中、mは4?5の数を示す)で表わされるケイ酸リチウムの水溶液との混合物からなり、M_(2)O・nSiO_(2)/Li_(2)O・mSiO_(2)モル比が1?3の範囲にあるコーティング材料。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件発明と甲3発明とを対比するに、両者は、「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる組成物」である点で一致し、次の相違点3-1及び3-2で相違していると認められる。

相違点3-1:本件発明は、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる「コンクリート改質材」であるのに対し、甲3発明は水溶液を混合した組成物の「コーティング材料」である点

相違点3-2:本件発明の改質材は「リチウムシリケート」を含まないのに対し、甲3発明の組成物は「リチウムシリケート」の水溶液を含むものである点

相違点3-1について検討するに、本件発明のコンクリート改質材は、水を混合する前の、いわば、粉体の混合物であり、本件明細書【0017】?【0023】の記載からして、これに水を適当量添加し、アルカリ水溶液とした場合にコンクリート中に深部まで浸透させていくものであるのに対し、甲3発明のコーティング材料は、上記第4の5.(3)(イ)及び(エ)のとおり、組成物を低温で熱処理してコーティングされた各種材料の表面にガラス質の硬い塗膜を形成するものであるから、両者の使用形態は互いに全く異なり、相違点3-1は実質的なものである。
そして、少なくとも、甲3発明において水を加えないこととしたり、甲3発明のコーティング材料をコンクリートの深部まで浸透させていくものとしたりするための動機付けは見当たらないから、甲3発明において相違点3-1を解消することは当業者にとって容易なことではない。

よって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明は、甲3に記載された発明であるとも、甲3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明について、無効理由3は理由がない。

4.無効理由4について
無効理由4の対象となっていた訂正前の請求項2、3は、本件訂正により削除されたため、無効理由4は理由がない。

5.無効理由5について
本件発明は、本件訂正により、リチウムシリケートは混合されていないものとなったから、無効理由5は理由がない。

6.無効理由6について
本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなるコンクリート改質材」であって、本件明細書【0020】によれば、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合した後、水を適当量添加して、アルカリシリケート水溶液としていることから、「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる」ものである本件発明は、水を適当量添加する前のものであり、いわば、粉体の混合物であると認められるものである。
ところで、本件訂正前は、請求項2に水を混合した後の「水溶液」のコンクリート改質材が記載されていたことからして、本件明細書においても水溶液のものを「コンクリート改質材」と称して記載されていると理解されるものであるが、水を添加する前の、いわば、粉体の混合物である本件発明についても、その用途がコンクリート改質に係る材料であることは自明である。
してみれば、特許請求の範囲の記載は明確なものであって、不備はない。
よって、無効理由6は理由がない。

7.無効理由7について
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施の形態として次の記載がある(下線は当審で付したものである)。

「【0020】
これに対し本発明では、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートとをほぼ等量混合し、かつ水を適当量添加し、アルカリシリケート水溶液としている。このアルカリシリケート水溶液はコンクリート中でCa(OH)_(2)を溶かしてアルカリカルシウムシリケートとなる。Ca^(2+ )イオンはケイ酸アニオンの鎖と結合してカルシウムシリケート鎖をつくり、これが互いに結合してゲル化がおこる。このゲル化(固体状)によって細孔を塞ぐこととなり、空気中の水分や酸性雨などの浸入をブロックする。
【0021】
この場合、本発明のように、ナトリウムシリケートにカリウムシリケートを加えて作製されたさらさらの粘度の小さいアルカリシリケート水溶液では、アルカリ(Na^(+)イオン、K^(+)イオン)は逆にケイ酸アニオン鎖を長くせず、むしろ短くするようにはたらき、ゲル化を遅らせるため、ゲル化に必要な時間が長くなり、深部まで改質材としてのアルカリシリケート水溶液が浸透していく。
【0022】
この際、逆にいつまでもゲル化しないと、水等の浸入を防止するゲルの作用が発揮しないため、本発明ではナトリウムシリケートとカリウムシリケートとの割合をモル比で約1:1としている。この割合で混合するといわゆる混合アルカリ効果により、ゆっくりとゲル化し、好適な結果が得られ、この原理は本願発明者によって始めて認識されたものである。
【0023】
したがって、この改質材をコンクリートに散布、塗布すると、コンクリートの表面はもちろんのこと、コンクリート中200mm程度まで深く浸透した後にゲルとして固化するので、深部も改質され、コンクリート特有の欠陥の発生が防止される。また、亀裂の生じたコンクリートに浸透させることによって亀裂の拡大を防止する効果もある。
・・・
【0026】
図1は本発明による改質材の施工例を示す。まず、改質材が浸透しやすいようにコンクリート表面の下地を清掃するなどし処理する。ついで、改質材をハケで塗布したり、あるいはコンプレッサを用いるなどして注入する。その後、コンクリート中のカルシウムとの反応を促進させるために散水を行えば良く、容易に作業を行うことができる。」

本件発明の解決すべき課題は、本件明細書【0010】等の記載から、従来のコンクリート改質材ではコンクリートのひび割れの浅いところまでしか改質材が浸透せず、改質剤としての効果が低いことにあったといえるものである。
本件発明の実施における態様は、上記した本件明細書【0020】【0021】によれば、コンクリート改質材を構成する「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる」ものに、水を適当量添加してアルカリシリケート水溶液とするものであり、さらさらの粘度の小さいアルカリシリケート水溶液であると、ゲル化を遅らせ、深部まで改質材として浸透していくものであることが理解できる。
そうすると、コンクリート改質材として、コンクリートの深部まで浸透して具体的な作用を奏するのは、さらさらの粘度の小さいアルカリシリケート水溶液とされたものであるから、当業者であれば、改質材をコンクリートに散布、塗布等するに際しては、コンクリートの表面の状態に応じて、予め水を適当量混合してから塗布したり、散布や塗布後に散水したりして、容易にその実施ができるものであり、上記課題の解決も認識できるといえる。
よって、本件発明は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、その記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分なものであるといえる。

以上のとおりであるから、無効理由7は理由がない。

8.無効理由8について
(1)甲第18号証に記載された発明
上記第4の5.(5)に示した甲18の記載事項(ア)、(ウ)より、ナトリウム・カリウムシリケートを主成分とする浸透性防水・劣化防止剤(「RCガード」)を吹付けまたは塗布、低圧散水によりコンクリートに浸透させ、防水・劣化防止層を形成することが読み取れるから、甲18には、
「ナトリウム・カリウムシリケートが主成分の水溶液を含むコンクリート防水・劣化防止剤」
の発明(以下、「甲18発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件発明と甲18発明とを対比すると、甲18発明の浸透性防水・劣化防止剤は、上記第4の5.(5)に示した甲18の記載事項(イ)より、コンクリートに浸透させてその防水・劣化防止機能を改質させるコンクリート改質材であるといえるから、甲18発明における「コンクリート防水・劣化防止剤」は、本件発明における「コンクリート改質材」に相当し、また、甲18発明の「ナトリウム・カリウムシリケート」と本件発明の「ナトリウムシリケート」及び「カリウムシリケート」とは、何れもが少なくともアルカリシリケートに属するものであるといえることから、両者は、「アルカリシリケートを含むコンクリート改質材」である点で一致し、次の相違点18-1で相違していると認められる。

相違点18-1:コンクリート改質材が、本件発明は、「ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなる」ものであるのに対し、甲18発明は、「ナトリウム・カリウムシリケートが主成分の水溶液を含む」ものである点

相違点18-1については、上記1.で検討した相違点1-1と同様であり、実質的なものであって、その解消は当業者であっても容易なことではないから、本件発明は、甲18に記載された発明であるとも、甲18に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

よって、無効理由8は理由がない。


第6 むすび
以上のとおり、令和元年12月17日付け訂正請求によって求められる訂正は、これを認めるべきものであり、
当該訂正によって訂正された本件特許請求の範囲の請求項1に記載された発明に係る特許を無効とすべき理由はなく、
当該訂正によって請求項2、3は削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する無効審判の請求については、対象となる請求項が存在しないものとなった。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。



 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コンクリート改質材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなることを特徴とするコンクリート改質材。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、例えばマンションやビルの基礎部材や外壁、テラス等、あるいはプール、トンネル等のようなコンクリート製の構造物用のコンクリート改質材に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンクリートは、圧縮強度が大で、大きな荷重を支えることができる、任意の造形が可能である、耐火性・耐熱性・耐久性等に優れている、比較的コスト安である等の理由により、土木、建築物等、様々な分野に用いられている。
【0003】
コンクリートは打設後、初期ひび割れが生じ、また、養生していく過程で含まれている水分が蒸発して抜け、乾燥収縮によりひび割れが発生する。また、アルカリ骨材反応によってもひび割れが生じる。
【0004】
このようなことから、直径の大きい細孔や直径の小さい細孔空隙等が多数存在している。
【0005】
コンクリート構造物には、このようなひび割れや細孔等の連続細孔がひび割れとしてコンクリート塊の面から別の面まで連続して続いている。すなわち、図3に示すように、コンクリート2に生じたひび割れ3はつながっているため、酸性雨、塩素等がそのひび割れ3を介し、コンクリート2内に徐々に入り込んでゆき、コンクリート2を劣化させ、かつ内部の鉄筋を傷め、外観不良や中性化、凍結融解、塩害の現象等によって、耐久性低下等を招来する。
【0006】
このため、コンクリート2に対して防水処理を行ったり、又は有効な防水材をコンクリート2に深く浸透させコンクリート自体の改質を行う必要がある。
【0007】
従来、この種の先行例としては、例えば特許第2937309号が存在する。
【0008】
すなわち、この先行例は、防水個所又は補修箇所にケイ酸ナトリウムを主成分とした無機質浸透性防水材を塗布又は注入し、乾燥後に散水を数回繰り返して当該防水材をコンクリート内に浸透させて浸透防水保護層を形成する構成としている。
【0009】
この先行例においては、ケイ酸ナトリウムをコンクリート中のカルシウムと反応させ、いわゆるゲル化させ、このゲル状体からなる浸透防水保護層によって酸性雨等の侵入を阻止するようにしている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この先行例では改質材の主成分はケイ酸ナトリウム単体であり、この場合、コンクリート中のカルシウムとの反応速度が早く、短時間でゲル化してしまうため、図4に示すように、コンクリート2のひび割れ3の浅いところ(約45mm)までしか改質材1’が浸透せず、改質材1’としての効果が低い、という課題があった。
【0011】
また、作業にあたっては、できるだけ深く浸透させるなどのため、無機質浸透性防水材を塗布又は注入して乾燥させたのち、乾燥と散水を5?7時間待ちながら3回繰り返すようにしており、作業が非常に煩雑で、長時間を要し、しかもいくら乾燥と散水とを長時間にわたって繰り返し行っても、上述のように、改質材の主成分はケイ酸ナトリウムといったアルカリ金属一種類であり、ケイ酸ナトリウムはゲル化しやすく、カルシウムとすぐに反応してしまい、ひび割れに対し深く浸透しない、という課題があった。
【0012】
この発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、ひび割れに対し深くまで浸透し、改質材としての効果が十分期待でき、作業性も良好なコンクリート改質材を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートを混合してなることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0017】
【実施例】
この発明では、2種類以上のアルカリ金属化合物として、好ましくはナトリウムシリケートとカリウムシリケートを用いている。
【0018】
この場合、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートの割合をモル比で約1:1とし混合した水溶液としている。
【0019】
すなわち、従来例ではこれらのうち特にナトリウム系のもの単体が多く用いられ、これはゲル化が早いため、深部まで浸透できない。
【0020】
これに対し本発明では、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートとをほぼ等量混合し、かつ水を適当量添加し、アルカリシリケート水溶液としている。このアルカリシリケート水溶液はコンクリート中でCa(OH)_(2)を溶かしてアルカリカルシウムシリケートとなる。Ca^(2+)イオンはケイ酸アニオンの鎖と結合してカルシウムシリケート鎖をつくり、これが互いに結合してゲル化がおこる。このゲル化(固体状)によって細孔を塞ぐこととなり、空気中の水分や酸性雨などの浸入をブロックする。
【0021】
この場合、本発明のように、ナトリウムシリケートにカリウムシリケートを加えて作製されたさらさらの粘度の小さいアルカリシリケート水溶液では、アルカリ(Na^(+)イオン、K^(+)イオン)は逆にケイ酸アニオン鎖を長くせず、むしろ短くするようにはたらき、ゲル化を遅らせるため、ゲル化に必要な時間が長くなり、深部まで改質材としてのアルカリシリケート水溶液が浸透していく。
【0022】
この際、逆にいつまでもゲル化しないと、水等の浸入を防止するゲルの作用が発揮しないため、本発明ではナトリウムシリケートとカリウムシリケートとの割合をモル比で約1:1としている。この割合で混合するといわゆる混合アルカリ効果により、ゆっくりとゲル化し、好適な結果が得られ、この原理は本願発明者によって始めて認識されたものである。
【0023】
したがって、この改質材をコンクリートに散布、塗布すると、コンクリートの表面はもちろんのこと、コンクリート中200mm程度まで深く浸透した後にゲルとして固化するので、深部も改質され、コンクリート特有の欠陥の発生が防止される。また、亀裂の生じたコンクリートに浸透させることによって亀裂の拡大を防止する効果もある。
【0024】
なお、リチウムシリケートを用いても同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
組み合わせ例としては次の通りである。
(1)ナトリウムシリケート+カリウムシリケート
(2)ナトリウムシリケート+リチウムシリケート
(3)カリウムシリケート+リチウムシリケート
なお、ナトリウムシリケートとカリウムシリケートとリチウムシリケートとをそれぞれほぼ等量混合して改質材としても良い。
【0026】
図1は本発明による改質材の施工例を示す。まず、改質材が浸透しやすいようにコンクリート表面の下地を清掃するなどし処理する。ついで、改質材をハケで塗布したり、あるいはコンプレッサを用いるなどして注入する。その後、コンクリート中のカルシウムとの反応を促進させるために散水を行えば良く、容易に作業を行うことができる。
【0027】
図2はその状態の概念図を示す。
【0028】
まず、図2aに示すように、改質材1はコンクリート2中のひび割れ3に浸透していく。
【0029】
この改質材1は、上述のように、ゲル化が遅いため、図2bに示すように、約200mmまで深く浸透し、ゲル化する。
【0030】
ひび割れ3内のゲル化した改質材1が、図2cに示すように、乾燥し、ゾル化しても空気中の水分、雨水等により、再び図2bに示すようにゲル化し、防水作用が発揮される。
【0031】
コンクリート塊に上述の施工を行い、そのコンクリート塊をスライスして測定することにより、約200mmまで浸透することが確認できた。
【0032】
なお、施工にあたり、コンクリート2の表面に無機質顔料材による着色を施し、上記改質材1を浸透させる組合わせとしても良く、この場合も着色材とともに改質材1が浸透していき、同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
そのコンクリート2をスライスすればどの程度まで浸透しているかを容易に検査することができる。
【0034】
【発明の効果】
以上により本発明によれば、コンクリート中のカルシウムとの反応速度は小さく、ゲル化を遅らせることができるため、コンクリート内部まで深く浸透させることができ、Ca(OH)_(2)を吸収し、ゲル化してCa^(2+)イオンを固定するので、コンクリートを改質することができる。この作業は簡易であり、作業性は良好である。
【0035】
また、ゲルが細孔を塞ぎ、空気がコンクリート中に入り、空気中のCO_(2)がCa(OH)_(2)と反応してCaCO_(3)をつくりコンクリートを弱くする(ばらばらにする)のを防止する。
【0036】
さらに、アルカリ骨材反応を防止することもできる。すなわち、アルカリ骨材反応は、アルカリがコンクリート骨材のシリカ成分(SiO_(2))と反応し、骨材を分解してコンクリートの強度を低下させる反応である。アルカリ骨材反応がおこるためには水分がコンクリート中に入らなくなるので、アルカリ水溶液は生成せず、従って骨材との反応はおこらなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の施工手順の説明図を示す。
【図2】(a)?(c)は本発明の改質材が浸透する様子を示す概念図である。
【図3】コンクリートにひび割れが生じた状態の説明図を示す。
【図4】従来の改質材のコンクリート中への浸透状態を示す。
【符号の説明】
1 改質材
2 コンクリート
3 ひび割れ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-03-06 
結審通知日 2020-03-11 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2003-123838(P2003-123838)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (C04B)
P 1 113・ 113- YAA (C04B)
P 1 113・ 854- YAA (C04B)
P 1 113・ 536- YAA (C04B)
P 1 113・ 537- YAA (C04B)
P 1 113・ 855- YAA (C04B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 菊地 則義
小川 進
登録日 2010-03-12 
登録番号 特許第4472266号(P4472266)
発明の名称 コンクリート改質材  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  
代理人 間山 進也  
代理人 間山 進也  
代理人 間山 進也  
代理人 間山 進也  
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