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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1363401
審判番号 不服2019-17828  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-27 
確定日 2020-06-18 
事件の表示 特願2018-560929「ロボット教材」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年6月26日を国際出願日とする出願であって、平成31年2月15日付けで手続補正がなされ、同年4月19日付けで拒絶の理由が通知され、令和1年7月8日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、同年9月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 令和1年12月27日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
令和1年12月27日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和1年7月8日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至8を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至7へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
入出力の対象とされるハードウェアと前記ハードウェアを制御するハードウェア入出力用ミドルウェアとを少なくとも含むロボットと、前記ロボットに前記ハードウェア入出力用ミドルウェアを用いて所望の動作をさせるための設定要領及び前記ハードウェアの説明が少なくとも記載されたテキストと、を備え、
前記ロボットには、前記所望の動作をさせるため、前記ハードウェアとの動作環境が整った状態で前記ハードウェア入出力用ミドルウェアが搭載されていることを特徴とするロボット教材。
【請求項2】
請求項1において、
前記テキストには、前記所望の動作に対応したコマンドの入力方法の説明が含まれており、
前記ハードウェア入出力用ミドルウェアは、前記ハードウェアとの通信をとりまとめるコア及び種々ノードを有し、前記ロボットは、前記所望の動作のコマンドを受け付けると、前記コア及び前記種々ノードを起動させることを特徴とするロボット教材。
【請求項3】
請求項1または請求項2において
前記ハードウェア入出力用ミドルウェアは、ROS(ロボット・オペレーティングシステム)であることを特徴とするロボット教材。
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項において、
前記テキストには、前記ハードウェア入出力用ミドルウェアを用いたプログラムの生成マニュアルが含まれていることを特徴とするロボット教材。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1項において、
前記ロボットには、さらに前記所望の動作をさせるためのオペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムが搭載されていることを特徴とするロボット教材。
【請求項6】
請求項5において、
前記オペレーティングシステム、前記ハードウェア入出力用ミドルウェア及び前記アプリケーションプログラムごとに初期状態にリセットが可能とされていることを特徴とするロボット教材。
【請求項7】
請求項2?請求項6のいずれか1項において、
前記テキストには、前記ハードウェアから取得した値をどのようにコード化すればよいかの説明が含まれており、
前記ロボットは、前記コマンドの入力を受け付けると、前記種々ノードのうち、情報送受信機能を有するノードを用いて前記ハードウェアの値を取得し前記所望の動作を実行することを特徴とするロボット教材。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項において、
前記テキストには、前記ハードウェア入出力用ミドルウェアへの割り付けを支援するために、学習者が書き込みできる入出力対応表用のワークシートが含まれていることを特徴とするロボット教材。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
入出力の対象とされるハードウェアと前記ハードウェアを制御するハードウェア入出力用のミドルウェアとを少なくとも含むロボットと、前記ロボットに所望の動作をさせるための前記ミドルウェア用のプログラムにおけるコードでの入力方法を含む設定要領及び前記ハードウェアの説明が少なくとも記載されたテキストと、を備えたロボット用ミドルウェアを学習するためのロボット教材であって、
前記ロボットには、前記所望の動作をさせるため、前記ハードウェアが制御自在に接続される動作環境が整った状態で前記ミドルウェアがあらかじめ搭載されており、
前記テキストに沿って学習者が入力した前記プログラムが実行されれば、前記ミドルウェアによって前記ロボットが所望の動作を行うよう構成されていることを特徴とするロボット教材。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロボットには、さらにあらかじめ所望の動作をさせるための汎用のオペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムが搭載されていることを特徴とするロボット教材。
【請求項3】
請求項2において、
前記オペレーティングシステム、前記ミドルウェア及び前記アプリケーションプログラムごとに初期状態にリセットが可能とされていることを特徴とするロボット教材。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項において、
前記テキストには、前記ミドルウェアへの割り付けを支援するために、学習者が書き込みできる入出力対応表用のワークシートが含まれていることを特徴とするロボット教材。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1項において
前記ミドルウェアは、ROS(ロボット・オペレーティングシステム)であることを特徴とするロボット教材。
【請求項6】
請求項5において、
前記テキストには、前記所望の動作に対応したコマンドの入力方法の説明が含まれており、
前記ミドルウェアは、前記ハードウェアとの通信をとりまとめるコア及び種々ノードを有し、前記ロボットは、学習者によって入力された前記所望の動作のコマンドを受け付けると、前記コア及び前記種々ノードを起動させることを特徴とするロボット教材。
【請求項7】
請求項6において、
前記テキストには、前記ハードウェアから取得した値をどのようにコード化すればよいかのサンプルプログラムが例示されており、
前記ロボットは、前記学習者によって入力された前記コマンドを受け付けると、前記種々ノードのうち、情報送受信機能を有するノードを用いて前記ハードウェアの値を取得し前記所望の動作を実行することを特徴とするロボット教材。」

2 補正事項について
本件補正により、本件補正後の請求項1に「前記テキストに沿って学習者が入力した前記プログラムが実行されれば、前記ミドルウェアによって前記ロボットが所望の動作を行うよう構成されている」との補正事項(以下「補正事項」という。)が追加された。
特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(第1号)、特許請求の範囲の減縮(第2号)、誤記の訂正(第3号)、明りようでない記載の釈明(第4号)のいずれかを目的とするものに限るとされている。
そこで、上記補正事項について検討すると、上記補正事項は、本件補正前の請求項1の「ロボット教材」が備える「ロボット」及び「テキスト」、並びに「ロボット」に搭載される「ハードウェア入出力用ミドルウェア」について限定するものではなく、前記「ロボット」、「テキスト」及び「ミドルウェア」用いた学習者の作用(行為)及びロボットの作用(動作)を特定し追加するものであるから、上記第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、上記補正事項が、上記第1、3、4の各号に掲げられた、いずれの目的とするものにも該当しないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定を満たすものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
仮に、本件補正が限定的減縮であるとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(令和1年12月27日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項7】(以下、それぞれ「本願補正発明1」乃至「本願補正発明7」という。)における本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明1
本願補正発明1は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の国際出願日前の平成27年10月15日に頒布された刊行物である「松田啓明ほか、“射的ロボコンによるロボットシステム開発教育”、日本ロボット学会誌、一般社団法人日本ロボット学会、平成27年10月15日発行、第33巻第8号、p61-67」(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「1.はじめに
近年,複数分野の統合技術であるロボットを,様々な分野の教育教材として活用するという試みが広く行われている[1].ロボット教育に用いる教材は,その教育の目的や質にかかわるため,教材の開発は重要な課題である.
ロボットは,複数の分野の技術の統合システムであるため,個々の技術とともにそれらをつなぐ技術も同様に重要である.例えば,カメラのような外界センサから得られるデータからロボットを動作させたくとも,単なる画像処理の知識や技術だけではロボットは正しく動作しない.これは,そのシステムが要求する対象物体の検出精度や処理時間に応じた,処理手法の見積もりやロボットとセンサの座標変換やキャリブレーションが必要となるためである.ロボットを使用したシステムを構築するにはロボットやセンサとの連携方法やその意味を学ぶ必要があるといえる.このように,ロボットを含めたシステム全体(以下,ロボットシステム)を扱う方法は,単に座学で画像処理や線形代数を学ぶだけで身につくものではない.つまり,ロボットシステムの構築を,実践的に学ぶことのできるロボット教育教材が必要である.」
イ 「3.開発した教育教材
第2章のデザインに基づき開発したロボットシステムとその使用方法について述べる.なお,ロボットのハードウェアは著者らが以前開発したシステムを改良して使用している[5].
3.1 ハードウェアの構成
射的ロボットの外観をFig.1に,その構成をTable 1に示す.射的ロボットは,外界センサとプラスティック弾射出部で構成される.
ロボットシステムの外界センサには,一般的にウェブカメラや距離カメラ,レーザスキャナが用いられる.そこで,これらのセンサの特徴を併せもつMicrosoft(株)製のKinectを採用した.
プラスティック弾射出部は東京マルイ(株)製の電動ガンであるグロック18Cと双葉電子工業(株)製のコマンド形式のホビー用サーボであるRS405CBで構成される.RS405CBで仰角と方位角,グロッグ18Cのトリガの制御を行っている.
3.2ソフトウェア構成
ソフトウェアの構成にはRT-Middleware(以下,RTM)の実装の一つであるOpenRTM-aistを使用した.RTMは知能化システム用のミドルウェアであり,ロボット要素をRT-Component(以下,RTC)と呼ばれる機能単位で扱うことができる[6].ロボットシステムの機能をRTC単位に分割することで,学習者は各機能の責務を理解しやすくなるため.システム全体に対しても見通しがよくなる.さらに,教育を受ける学生が複数人でチームを組み開発するときに,それぞれのRTCごとに作業分担して開発することが容易となる.このように,RTMを用いたシステムを実装することで教育要素4を体験できる,
また,画像処理や座標変換,キャリブレーションの実装には,コンピュータビジョン向けの最も有名なライブラリであるOpenCV[7]を利用する.OpenCVは画像処理のみならずキャリブレーションなど多岐にわたる高度な処理を手軽に利用できるため,外部ライブラリとして学習する価値がある.OpenCVを使って各処理を行うことで,教育要素5を体験できる.
射的ロボットシステムのシステム構成をFig.2に示し,以下に各RTCの機能を説明する.
・Kinect RTC
enableポートにTrueが入力されたときに,Kinectが取得したRGB画像と深度画像を出力する.
・ImageProcessing RTC
Kinectから入力された画像を処理し,ターゲットの画像座標とその座標の深度を出力する.
・UVDtoXYZ RTC
Camera Calibrationが求めた,カメラの内部パラメータと外部パラメータを取り込み,画像座標からロボット座標に座標を変換して出力する.
・XYZtoPanTilt RTC
ロボット座標系の座標値から,射角となる仰角と旋回角を求める.この射角に従って射撃を行っても,重力や空気抵抗,バレルと弾丸の接触抵抗などの影響により意図した位置に着弾するわけではない.指定位置と実際の着弾点との誤差を事前に計測し,射角を調整することで着弾点の補正を行う.
・ShootISManager RTC
射撃部の動作を制御する.入力された仰角や旋回角からホビー用サーボの動作指令に変換し,動作させる.
以上のようなRTC群を用いて射的ロボットシステムを構築する.また,画像処理の自習をどこでも行えるよう,事前に保存した画像データを出力するDummyKinect RTCを用意した.」(62頁右欄30行?63頁右欄22行)
ウ 「4.2 教材の運用
当講座で行った教材の運用方法を以下に示す.今回は,教育期間が短かったこともあり,後述するように講義やWeb資料にて丁寧にサンプルや実装方法を解説した.競技として学生に工夫を期待したのは,精度の高い的の抽出方法と,弾道の補正方法の提案であった.
(1) OpenRTM-aistの解説と環境構築.
参加学生全員に対して,RTMの概要の解説を行った.その後,参加者は各自でWeb資料を使ってOpenRTM-aistの開発環境の構築を行った.
(2) OpenCVの解説と環境構築.
参加者全員に対して,OpenCVの概要の解説を行った.その後,参加者は各自でWeb資料を使ってOpenCVの開発環境の構築を行った.
(3)ロボットの操作方法の解説.
参加者全員に対して,ロボットの操作方法の解説を行った.開発したロボットはコマンド形式のホビー用サーボで動作しているため,ホビー用サーボへの指令方法の説明を行った.
(4)チーム分け.
参加者を画像処理担当とホビー用サーボ担当の二人一組のチームに分け,以下に示すRTC群を各チームの担当者に実装させた.
・画像処理担当.
-ImageProcessing RTC
-UVDtoXYZ RTC
・ロボットの動作担当.
-XYZtoPanTilt RTC
-ShootISManager RTC
(5)カメラキャリブレーションの解説と実践.
参加者全員に対して,カメラキャリブレーションの仕組みの解説を行った.その後,カメラキャリブレーションを実際に参加者の前で行い.実際の作業手順の説明を行った.そのときに得られたカメラの内部パラメータと外部パラメータを各チームに配布した.
(6)着弾点の補正の解説と実験.
参加者全員に対して,ロボットが現実世界に対して働きかけるときに必ずしも想定どおりの動作をしないこと,そのため何らかの補正が必要であることを説明した.本ロボットシステムでは,プラスティック弾の着弾位置がプログラムが算出した座標と正確に一致しないので,着弾位置のズレを確認する実験を行った.実験は,チェッカーボードの交点に対して射撃を行い,その着弾点のズレを参加者が測定し,データを各チームに配布した.これらの着弾データから各チームに補正を行ってもらった.
(7) RTC群の実装.
各チームごとにRTC群の開発を行った.
(8)射的競技の実施.
開発が終了したチームから射的を行い,点数を記録した.
(9)プレゼンテーション.
射的競技の結果をふまえ,各チームで用いた手法をプレゼンテーションしてもらい採点を行った.採点後,射的競技とプレゼンテーションの結果から総合順位をつけた.採点では,小方の相互評価に関する報告[10]を参考に,各発表に対して順位をつける方法で評価させ,お互い様効果による信頼性の低下を防止した.なお,本プレゼンテーションには教員も参加し,参加者に対して提案手法や実装方法に対してアドバイスを与えた.
今回はこれらの導入から競技の実施までを8日間で行った.1日めは(1),(2),(3)の説明をそれぞれ30分ほどで行った.2日めは(1),(2)の環境構築とサンプルプログラムの動作をWeb資料を参考に実習形式で行った.3日めは(5),(6)の解説をそれぞれ30分程度行い,その後,合わせて3時間程度の実験を行った.4日めから7日めは(7),(8)を行った.8日めは(9)のプレゼンテーションを各チーム30分の持ち時間で計120分で行った.
配布物や教育内容の詳細を以下に示す.制作するRTCはImageProcessing RTCのみKinectからの画像データの取得処理が記述された雛形を配布した.それ以外は,データポートの型とコンポーネントの責務を説明した.また,Web資料は筆者らが独自に制作したものであり,各環境構築の手順とサンプルプログラムの実行方法が記述されている.OpenCVを使った最も簡単な画像処理の例として,HSV空間での色抽出プログラムを解説した.なお,そのままでは赤色は抽出することができないものとなっており,最低でもこの問題を解決する必要があることを伝えている.コマンド形式のホビー用サーボに関しては,コマンドの組み立て方やシリアル通信の送信方法を説明後,コマンドの送信プログラムをサンプルとして解説した.」(64頁左欄下から2行?65頁左欄下から3行)
エ 上記ウの「講座」とは、上記アより、ロボットシステムの構築を学ぶ講座であることが理解できる。そして、上記イより、「教材」であるロボットシステムは、ハードウェアとソフトウェアから構成されているところ、「講座」では、前記「教材」に加えて、「Web資料」も用いていることから、引用例1からは、「ハードウェアとソフトウェアから構成されるロボットシステム及びWeb資料からなり、ロボットシステムの構築を学ぶ講座で用いる教材」が観念できる。
オ 上記イより、「ロボット要素をRT-Component(以下「RTC」という。)と呼ばれる機能単位で扱う」とは、ShootISManager RTCの機能が、「射撃部の動作を制御する.入力された仰角や旋回角からホビー用サーボの動作指令に変換し,動作させる」ことからすると、ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させることと認められる。
カ 上記ウ及びオより、「環境構築」の一例として、OpenRTM-aistの開発環境の構築が例示され、また、「Web資料」には、各環境構築の手順とサンプルプログラムの実行方法が記述されているから、「Web資料」は、ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのOpenRTM-aistの開発環境の構築の手順、サンプルプログラム及びサンプルプログラムの実行方法が記述されているものと認められる。
キ 上記ウ及びオより、「講座」は、Web資料にてサンプルプログラムやRTCの実装方法を解説し、サンプルプログラムの動作を実習形式で学ぶものであると認められる。

そうすると、上記ア乃至ウの記載事項、及び上記エ乃至カの認定事項から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ハードウェアとソフトウェアから構成されるロボットシステム及びWeb資料からなり、ロボットシステムの構築を学ぶ講座で用いる教材であって、
ハードウェアは、外界センサとプラスティック弾射出部で構成される射的ロボットであって、コマンド形式のホビー用サーボで動作し、
ソフトウェアは、知能化システム用のミドルウェアであるRT-Middleware(以下、「RTM」という。)の実装の一つであるOpenRTM-aistが使用され、ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるものであり、
Web資料には、ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのOpenRTM-aistの開発環境の構築の手順、サンプルプログラム及びサンプルプログラムの実行方法が記述され、
講座は、Web資料にてサンプルプログラムやRTCの実装方法を解説し、OpenRTM-aistの開発環境の構築を行い、サンプルプログラムの動作を実習形式で学ぶものである、教材。」

(3)対比
本願補正発明1と引用発明とを対比すると、
ア 後者の「外界センサ」、及び「プラスティック弾射出部」は、それぞれ、入力機能を果たす要素、及び出力機能を要素であるから、後者の「外界センサとプラスティック弾射出部で構成される射的ロボット」は、前者の「入出力の対象とされるハードウェア」に相当する。
イ 後者の「ソフトウェア」は、ロボット要素をRTC単位で扱うことができるミドルウェアであるから、ロボット要素を制御するものといえる。そして、後者の射的ロボットを構成する外界センサとプラスティック弾射出部は、ロボット要素といえるものであるから、後者の「ソフトウェア」は、射的ロボットを構成する外界センサとプラスティック弾射出部を制御するものといえる。そして、上記アのとおり、後者の「外界センサ」、及び「プラスティック弾射出部」は、それぞれ、入力機能を果たす要素、及び出力機能を要素であるから、後者の「ソフトウェア」は、前者の「ハードウェアを制御するハードウェア入出力用のミドルウェア」に相当する。
ウ 後者の「ロボットシステム」は、ハードウェアとソフトウェアから構成されるものであるから、前者の「『ハードウェア』と『ミドルウェア』とを少なくとも含む『ロボット』」に相当し、「『ロボットには、前記所望の動作をさせるため』の『ミドルウェアがあらかじめ搭載されて』」いることは明らかである。
エ 後者の「ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのOpenRTM-aist」は、前者の「ロボットに所望の動作をさせるためのミドルウェア」に相当する。
後者の「サンプルプログラム」と「ミドルウェア」とは、ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのものである点で共通するものであるから、後者の「サンプルプログラム」は、「ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのミドルウェア」を構成するといえる。
ここで、本願補正発明の「ミドルウェアにおけるコードでの入力方法を含む設定要領」とは、本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,又は図面(以下「明細書等」という。)の【0037】?【0041】を参酌すると、「プログラムとしてどのようにコード化すればよいかのプログラミング例」を意味し、ロボットの動作環境を整えるためのもの、すなわち、ロボットの動作環境を構築するためのものと解される。
そうすると、後者の「ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのOpenRTM-aistの開発環境の構築の手順、サンプルプログラム及びサンプルプログラムの実行方法」は、前者の「ロボットに所望の動作をさせるためのミドルウェア用のプログラムにおけるコードでの入力方法を含む設定要領」に相当する。
してみると、前者の「テキスト」と後者の「Web資料」とは、「ロボットに所望の動作をさせるための前記ミドルウェア用のプログラムにおけるコードでの入力方法を含む設定要領が少なくとも記載されたテキスト」との点で一致する。
オ 後者の「Web資料」は、これによってサンプルプログラムやRTCの実装方法が解説されるのであるから、後者の「Web資料」に、「ハードウェアの説明」が記載されていることは明らかである。
カ 後者の「サンプルプログラム」は、ロボット要素をRTC単位でそのホビー用サーボを動作させるためのものであって、前記動作はサンプルプログラムで予定する所望の動作であることは明らかであるから、前者の「ロボット教材」と後者の「教材」とは、「テキストに沿って学習者が入力したプログラムが実行されれば、ミドルウェアによってロボットが所望の動作を行うよう構成されている」点で共通する。

したがって、両者は、
「入出力の対象とされるハードウェアと前記ハードウェアを制御するハードウェア入出力用のミドルウェアとを少なくとも含むロボットと、前記ロボットに所望の動作をさせるための前記ミドルウェア用のプログラムにおけるコードでの入力方法を含む設定要領及び前記ハードウェアの説明が少なくとも記載されたテキストと、を備えたロボット用ミドルウェアを学習するためのロボット教材であって、
前記ロボットには、前記所望の動作をさせるため、前記ミドルウェアがあらかじめ搭載されており、
前記テキストに沿って学習者が入力した前記プログラムが実行されれば、前記ミドルウェアによって前記ロボットが所望の動作を行うよう構成されているロボット教材。」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点]
ロボットに対し、本願補正発明1が、「ハードウェアが制御自在に接続される動作環境が整った状態でミドルウェアがあらかじめ搭載」するものであるのに対し、引用発明は、講座にて、OpenRTM-aistの開発環境の構築を行う点。

(4)判断
上記相違点について、以下、検討する。
一般に、RTMの実装に際し、ロボットの仕様に応じて、環境の構築を行う(本願補正発明1の「『動作環境』を『整』えることに相当。)ことは、技術常識からいって明らかなことである。
引用発明の「教材」は、ロボットシステムの構築を学ぶ講座で用いられるものであって、講座の内容は、講座の目的によって様々な内容が設定されるものであることは、上記(2)ウより、明らかなことである。
そして、ミドルウェアの動作環境の構築を講座の目的外とするならば、上記技術常識に照らせば、動作環境が整った状態でミドルウェアを搭載することは、当業者が当然採用する事項である。
してみると、動作環境が整った状態でミドルウェアを搭載することは、目的の如何により、当業者が適宜、選択し採用し得る事項であるから、引用発明において、OpenRTM-aistの開発環境の構築を行った状態でロボットにあらかじめ搭載し、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜選択し得ることである。

そして、本願補正発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明から、当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願補正発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和1年7月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「入出力の対象とされるハードウェアと前記ハードウェアを制御するハードウェア入出力用ミドルウェアとを少なくとも含むロボットと、前記ロボットに前記ハードウェア入出力用ミドルウェアを用いて所望の動作をさせるための設定要領及び前記ハードウェアの説明が少なくとも記載されたテキストと、を備え、
前記ロボットには、前記所望の動作をさせるため、前記ハードウェアとの動作環境が整った状態で前記ハードウェア入出力用ミドルウェアが搭載されていることを特徴とするロボット教材。」(以下「本願発明」という。)

2 引用例
平成31年4月19日付けの拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明1の「ロボット教材」から、「前記ミドルウェア用のプログラムにおけるコードでの入力方法を含む」との限定、「ロボット用ミドルウェアを学習するためのロボット教材であって」との限定、及び「前記テキストに沿って学習者が入力した前記プログラムが実行されれば、前記ミドルウェアによって前記ロボットが所望の動作を行うよう構成されている」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると、両者は、上記[相違点]で、相違する。

そして、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-31 
結審通知日 2020-04-07 
審決日 2020-04-30 
出願番号 特願2018-560929(P2018-560929)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
P 1 8・ 57- Z (G09B)
P 1 8・ 575- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金田 理香  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
藤田 年彦
発明の名称 ロボット教材  
代理人 協明国際特許業務法人  

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