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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1363459
審判番号 不服2018-16327  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-06 
確定日 2020-06-17 
事件の表示 特願2016-517982「外部針シールドおよび内部血液制御隔壁を有するポート付きIVカテーテル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月11日国際公開,WO2014/197656,平成28年 8月 8日国内公表,特表2016-523136〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2014年(平成26年)6月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)6月7日 米国)を国際出願日とする出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成30年 2月15日:拒絶理由通知
平成30年 5月10日:意見書,手続補正書
平成30年 8月 2日:拒絶査定
平成30年12月 6日:審判請求,手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
平成31年 3月28日:上申書

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1) 平成30年5月10日提出の手続補正書により補正された(以下,「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項19は,以下のとおりである。
「患者の血管系にアクセスするための血管外システムであって,
カテーテルを支持する遠位端を有し,近位開口部をさらに備えるカテーテルアダプタであって,管腔を有する,カテーテルアダプタと,
前記カテーテルアダプタの前記管腔内に配設され,前記管腔を近位流体室および遠位流体室に分割する血液制御隔壁と,
前記近位流体室内に摺動可能に位置決めされた隔壁作動装置であって,基部およびプローブ端部を有する,隔壁作動装置と,
前記カテーテルアダプタの前記近位開口部に取り外し可能に結合され,導入針の鋭敏にされた先端部を固定するように構成された安全クリップを備える,外部安全機構であって,前記導入針は,針ハブによって支持された基部をさらに備え,前記基部と前記鋭敏にされた先端部との間を延びる本体を有し,前記導入針の前記鋭敏にされた先端部は,前記カテーテルを前記患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の前記本体は,該外部安全機構,前記カテーテルアダプタの前記管腔,および前記カテーテルを通って挿入される,外部安全機構と,
前記安全クリップの一部分を形成し,前記カテーテルアダプタの近位リム内に位置決めされて前記外部安全機構と前記カテーテルアダプタとの間の相互係止された連結を維持する爪であって,前記導入針を前記外部安全機構から取り外すと,前記安全クリップは解放され,該爪は前記近位リムから係止解除され,前記外部安全機構を前記カテーテルアダプタから連結解除する,爪とを備えることを特徴とする血管外システム。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである(下線部は,補正箇所を示すもので,当審で付した。)。
「患者の血管系にアクセスするための血管外システムであって,
カテーテルを支持する遠位端を有し,近位開口部をさらに備えるカテーテルアダプタであって,管腔を有する,カテーテルアダプタと,
前記カテーテルアダプタの前記管腔内に配設され,前記管腔を近位流体室および遠位流体室に分割する血液制御隔壁と,
前記近位流体室内に摺動可能に位置決めされた隔壁作動装置であって,基部およびプローブ端部を有する,隔壁作動装置と,
前記カテーテルアダプタの前記近位開口部に取り外し可能に結合され,導入針の鋭敏にされた先端部が針シールドの遠位方向へ再び出ることを防ぐように構成された安全クリップを備える,外部安全機構であって,前記導入針は,針ハブによって支持された基部をさらに備え,前記基部と前記鋭敏にされた先端部との間を延びる本体を有し,前記導入針の前記鋭敏にされた先端部は,前記カテーテルを前記患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の前記本体は,該外部安全機構,前記カテーテルアダプタの前記管腔,および前記カテーテルを通って挿入される,外部安全機構と,
前記安全クリップの一部分を形成し,前記カテーテルアダプタの近位リム内に位置決めされて前記外部安全機構と前記カテーテルアダプタとの間の相互係止された連結を維持する爪であって,前記導入針を前記外部安全機構から取り外すと,前記安全クリップは解放され,該爪は前記近位リムから係止解除され,前記外部安全機構を前記カテーテルアダプタから連結解除する,爪とを備えることを特徴とする血管外システム。」

2 補正の適否について
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであり,(1)本件補正前の請求項1ないし18を削除して,(2)本件補正前の請求項19に記載された「導入針の鋭敏にされた先端部を固定するように構成された安全クリップ」という技術的事項を「導入針の鋭敏にされた先端部が針シールドの遠位方向へ再び出ることを防ぐように構成された安全クリップ」と補正するとともに,請求項19,20を繰り上げて請求項1,2としたものである。
よって,前者の補正(1)は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる,同法第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
また,後者の補正(2)は,上記拒絶査定において,本件補正前の本願が,特許法第36条第6項第1号に基づく拒絶理由を有すると示されたことについてなされたものであって,当該拒絶理由を解消すべく,本件明細書の段落[0042],[0049]の記載に基づいて,本件補正前の請求項19において明りょうとはいえなかった記載を明りょうなものとするためにしたものと認められることから,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明を目的とする補正である。
したがって,本件補正は,適法になされたものである。

第3 本件発明の認定
本件出願の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,上記第2 1(2)に記載したとおりのものである。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本件補正前の請求項19に係る発明は,本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

引用文献1.国際公開第2013/052665号
引用文献3.特表2010-510039号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特表2009-538187号公報(周知技術を示す文献)

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された,本件優先日前に頒布された国際公開第2013/052665号(平成25年4月11日公開。以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,括弧内の日本語は,引用文献1に対応する国際出願(PCT/US2012/058748)の日本語公表公報(特表2014-528331号公報)を参考に,当審で付した仮訳である。また,下線は当審において付与した。

A「[0001] Blood control valves can be use with catheter assemblies or other vascular access devices to prevent undesirable blood exposure from the catheter assembly or from another such vascular access device. Generally, a blood control valve includes the septum and a septum activator. The septum can include a flexible barrier that has one or more slits through which the septum activator can be introduced. In use, the septum activator is advanced through the slit(s) of the septum to selectively open the septum and form a fluid path therethrough. Non-limiting examples of blood control valves are disclosed in the United States Patent Application Publication No. 2011/0046570, filed August 20, 2009, titled "Systems and Methods for Providing a Flushable Catheter Assembly," which is herein incorporated by reference in its entirety.」
(【0001】
血液制御バルブは,カテーテルアセンブリまたは他の同様の血管アクセス器具において,それらのカテーテルアセンブリまたは他の同様の血管アクセス器具からの意図しない血液暴露を防ぐために使用することができる。血液制御バルブは概してセプタムおよびセプタム作動器を備えている。セプタムは,セプタム作動器を導入可能な一つ又は複数のスリットを有する可撓性バリアを備えることができる。使用の際,セプタム作動器はセプタムの一つ又は複数のスリットを通って選択的にセプタムを開き,そこに流体の通路を形成する。血管制御バルブの例としては,2009年8月20日出願の米国特許出願公開公報第2011/0046570号,名称「Systems and Methods for Providing a Flushable Catheter Assembly(洗浄可能なカテーテルアセンブリを提供するためのシステムと方法)」の全体が参照のために本明細書に取り込まれているが,これに限定するものではない。)

B「[0017] Referring now to Figure 1, a catheter assembly 10 is illustrated. The catheter assembly 10 generally includes a catheter 12 coupled to a distal end 32 of a catheter adapter 14. The catheter assembly 10 can be a blood control catheter assembly 10 when it includes a blood control valve therein. The catheter 12 and the catheter adapter 14 are integrally coupled such that an internal lumen 16 of the catheter adapter 14 is in fluid communication with a lumen 18 of the catheter 12. The catheter adapter 14 can include a port 50, which will be described in more detail with reference to Figure 2. The catheter 12 generally comprises a biocompatible material having sufficient rigidity to withstand pressures associated with insertion of the catheter into a patient. A tip portion 20 of the catheter is generally configured to include a beveled cutting surface 48. The beveled cutting surface 48 is utilized to provide an opening in a patient to permit insertion of the catheter 12 into the vascular system of the patient.」
(【0013】
ここで図1を参照すると,カテーテルアセンブリ10が図示されている。カテーテルアセンブリ10は通常,カテーテルアダプタ14の遠位端32に結合されるカテーテル12を含む。カテーテルアセンブリ10は,血液制御バルブを含む場合は血液制御カテーテルアセンブリ10である。カテーテル12とカテーテルアダプタ14は一体に結合されているため,カテーテルアダプタ14の内部ルーメン16とカテーテル12のルーメン18は流体連通される。カテーテルアダプタ14はポート50を含むことができ,このことは,以下で図2を参照することによってより詳細に説明される。カテーテル12は,通常,患者へのカテーテルの挿入に伴う圧力に耐え得る十分な剛性を有する生体適合性材料からなる。カテーテルの先端部20は通常,傾斜切断面48を含むよう構成されている。傾斜切断面48は,カテーテル12を患者の血管系へと挿入させる開口部を患者に設けるために使用される。)

C「[0020] In some embodiments, a proximal end 22 of the catheter adapter 14 includes a flange 28. The flange 28 provides a positive surface that may be configured to enable coupling of intravenous tubing or a conduit coupler 42 to the catheter assembly 10. In some embodiments, the flange 28 includes a set of threads 30. The threads 30 are generally provided and configured to compatibly receive a complementary set of threads 44 comprising a portion of a male luer or conduit coupler 42. The conduit coupler 42 is generally coupled to an end portion of the patient conduit in a fluid-tight manner. In some embodiments, an inner portion of the conduit coupler 42 is extended outwardly to provide a probe surface 46.」
(【0016】
いくつかの実施形態においては,カテーテルアダプタ14の近位端22はフランジ28を含む。フランジ28は静脈内チューブ又は導管連結器42をカテーテルアセンブリ10に連結できるよう構成された押し込み面を有する。いくつかの実施形態において,フランジ28は一組のスレッド30を含む。スレッド30は通常,オス型ルアーまたは導管連結器42の一部を有する相補的な一組のスレッド44に適合して受け取るように設けられ,構成される。導管連結器42は通常,患者導管の端部に液密状態で連結される。いくつかの実施形態において,導管連結器42の内側部分が外側に延びてプローブ面46を備える。)

D「[0024] As shown in Figure 2, the catheter adapter 14 can include a blood control valve. As shown the blood control valve can be disposed on a proximal side of the septum. As previously mentioned, the blood control valve can include the septum 70 and a septum activator 72 that opens the septum 70. The septum 70 can include one or more slits 74 through a barrier member 75 of the septum. In some embodiments, the barrier member can be formed in a distal portion of the septum 70. The septum activator 72 can be inserted into the one or more slits 74 during septum activation to establish a fluid path through the septum 70. As also shown, a needle hub 80 can be coupled to the proximal end of the catheter adapter 14, and a needle 86 (e.g., an introducer needle) can extend from the needle hub 80, through the septum 70 and the catheter 12. After proper catheter placement, the needle 86 may be removed from the catheter adapter 14.
[0025] In some embodiments, one or more slits 74 within the septum 70 permit passage of the needle 86 through the barrier member 75 of the septum 70, thereby enabling a sharpened tip of the needle 86 to extend distally beyond the tip portion 20 of the catheter 12. As mentioned, following the catheterization procedure, the needle 86 can be removed from the catheter assembly 10 and is safely disposed.」
(【0020】
図2に示すように,カテーテルアダプタ14は血液制御バルブを含むことができる。図に示すように,血液制御バルブは,セプタムの近位側に配設されることができる。上述のとおり,血液制御バルブはセプタム70とセプタム70を開けるセプタム作動器72を含むことができる。セプタム70は,該セプタムのバリア部材75を通る一つ又は複数のスリット74を含むことができる。いくつかの実施形態において,バリア部材はセプタム70の遠位部分に形成されることができる。セプタム作動器72は,セプタム作動中に一つ又は複数のスリット74に挿入され,セプタム70を通る流路を構築することができる。さらに図に示すように,ニードルハブ80はカテーテルアダプタ14の近位端に結合されることができ,ニードル86(誘導ニードル等)はセプタム70及びカテーテル12を通ってニードルハブ80から延びることができる。カテーテルが適切に配置された後は,ニードル86をカテーテル14から取り除くことができる。
【0021】
いくつかの実施形態において,セプタム70内の一つ又は複数のスリット74によりニードル86がセプタム70のバリア部材75を通り抜けることができ,それにより,ニードル86の尖鋭な先端はカテーテル12の先端部20を越えて先へと延びる。上述のとおり,カテーテル手法に続き,ニードル86はカテーテルアセンブリ10から取り除かれ,安全に処理される。)

E「[0031] As shown, the tube portion of the port valve 60 can be disposed at a location proximal the septum 70. As such, a portion of the septum activator 72 can extend through the tube portion of the port valve 60 prior to and during septum activation. Thus, the inner channel 64 of the port valve 60 can have an inner diameter that is larger than the outer diameter of the portions of the septum activator 72 that are disposed within the inner channel 64. As such, the septum activator 72 can move within the port valve without disturbing the port valve 60, which might result in unintentional opening of the port valve 60. Thus, the port valve 60 can provide an inner channel 64 through which a portion of the septum activator 72 can extend. The inner channel 64 can also provides a space into which a portion of the port valve 60 can collapse to open the port 50.」
(【0027】
図に示すように,ポートバルブ60のチューブ部分は,セプタム70の近位に配設することができる。したがって,セプタム作動器72の一部は,セプタム作動前またはセプタム作動中にポートバルブ60のチューブ部分を通って延在することができる。よって,ポートバルブ60の内部通路64は,内部通路64内に配設されたセプタム作動器72の部分の外径より大きい内径を有することができる。これにより,セプタム作動器72はポートバルブ60を妨げることなくポートバルブ内を移動することができ,このために,ポートバルブ60に意図的でない開放がもたらされることがある。よって,ポートバルブ60に,セプタム作動器72が延在する内部通路64を備えることができる。さらに,内部通路64にはポート50を開けるためにポートバルブ60の一部を折り畳むスペースが備わっている。)

F「CLAIMS
・・・
2. The catheter assembly of claim 1, wherein the catheter adapter includes a blood control valve having a septum and a septum activator disposed within the internal lumen of the catheter adapter.」
(【請求項2】
前記カテーテルアダプタは,前記カテーテルアダプタの内部ルーメン内に配設されたセプタム及びセプタム作動器を有する血液制御バルブ含む,請求項1に記載のカテーテルアセンブリ。)

G「FIG.2



H 摘記事項F,Gから,セプタム70は,カテーテルアダプタの内部ルーメンを近位側と遠位側とに分割していることが看て取れる。

I 摘記事項D,Gから,セプタム作動器72は,肉厚の近位部分と薄肉の遠位端部を有することが看て取れる。

(2)上記記載事項,及び,認定事項から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は,血管アクセス器具であるカテーテルアセンブリ10に関するものである(摘記事項A,B)。
b カテーテル12を結合する遠位端32を有し,近位端22をさらに備えるカテーテルアダプタ14であって,内部ルーメン16を有する,カテーテルアダプタ14を備える(摘記事項B,C)。
c カテーテルアダプタ14の内部ルーメン16内に配設され,前記内部ルーメン16を近位側と遠位側とに分割するセプタム70を有する(摘記事項F,H)。
d セプタム70の近位に移動することができるように配設されたセプタム作動器72であって,肉厚の近位部分と薄肉の遠位端部を有するセプタム作動器72を有する(摘記事項E,I)。
e ニードル86は,ニードルハブ80から延び,尖鋭な先端を有し,ニードル86の尖鋭な先端は,ニードルハブ80がカテーテルアダプタ14の近位端22に結合されるとき,カテーテル12の先端部20を越えて先へと延びるように,ニードル86は,カテーテルアダプタ14の内部ルーメン16,およびカテーテル12を通って延びている(摘記事項D,F)。

(3)上記(2)から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「血管アクセス器具であるカテーテルアセンブリ10であって,
カテーテル12を結合する遠位端32を有し,近位端22をさらに備えるカテーテルアダプタ14であって,内部ルーメン16を有する,カテーテルアダプタ14と,
前記カテーテルアダプタ14の前記内部ルーメン16内に配設され,前記内部ルーメン16を近位側と遠位側とに分割するセプタム70と,
前記セプタム70の近位に移動することができるように配設されたセプタム作動器72であって,肉厚の近位部分と薄肉の遠位端部を有するセプタム作動器72とを備え,
ニードル86は,ニードルハブ80から延び,尖鋭な先端を有し,前記ニードル86の前記尖鋭な先端は,前記ニードルハブ80が前記カテーテルアダプタ14の近位端22に結合されるとき,前記カテーテル12の先端部20を越えて先へと延びるように,前記ニードル86は,前記カテーテルアダプタ14の前記内部ルーメン16,および前記カテーテル12を通って延びているカテーテルアセンブリ10。」

2 本件優先日前の周知技術
あ 引用文献4
(1)原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用された,本件優先日前に頒布された特表2009-538187号公報(平成21年11月5日公開。以下,「引用文献4」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

A「【0008】
図1は,血管に挿入される前のカテーテルアセンブリ10の代表的な実施形態である。カテーテルアセンブリ10は,ニードル先端12aを備えるニードル12,カテーテルハブ14及びグリップ部分18を備えるニードルハブ16を有する。カテーテルアセンブリ10の遠位端部は,概ねニードル先端12aであり,基端部は概ねニードルハブ16である。横方向領域は,カテーテルアセンブリ10の両側に位置している,あるいは,カテーテルアセンブリ10の両側に向けて延在している。中間領域は,カテーテルアセンブリ10の中心線上又は中心線付近に存在し,中心線は長手方向に伸びている。」

B「【0011】
ニードル12がカテーテル24から引き抜かれると,ニードルハブ16は先端シールド20から基端方向に離れる。これが起こると,テザー22は,ニードルシールド20とグリップ部分18の間で延びるために広がる。ニードル先端12aが先端シールド20に引き込まれる時には,先端シールド20は,カテーテルハブ14から離れる。この時に,先端シールド20は,針刺し事故を防止するために,すぐにニードル先端12aをカバーする。テザー22の長さは,完全に伸ばされたときには,先端シールド20がニードル先端12aを取り囲むようになっている。テザー22は,先端シールド20がニードル先端12aから落ちるのを防ぐ。そして,医師はニードル12を処分することができる。
【0012】
図3は,先端シールド20の代表的な実施形態の詳細図を示す。開口36は先端シールド20の下側にあり,弾性クリップ収容室38に向けて開口している。弾性クリップ40は収容室38内に置かれる。テザー装着支柱42は先端シールド20の基端部に配置され,テザー22を先端シールド20に取り付ける。コネクタ44は,ニードルシールド20の遠位端部にあり,カテーテルハブ14と先端シールド20とを接続する。図3に示すように,ニードル先端12aは,先端シールド20にシールドされ,先端シールド20は,カテーテルハブ14から直ちに分離される。ニードル12が一度引き抜かれると,先端シールド20をカテーテルハブ14から離す機構は,弾性クリップ40である。
【0013】
図4は,弾性クリップ40の代表的な実施形態を示す。弾性クリップ40は,ばねクリップ46,ブロック48,タブ50,アーム52及びフィンガー54を含む。弾性クリップ40は,収容室38に配置され,タブ50を介して収容室38内の側壁に結合する。さらに,弾性クリップ40は,フィンガー54を介してカテーテルハブ14に結合するために,遠位端方向にアーム52がばねクリップ46から延在するように配置される。
【0014】
図5及び図6は,使用時の弾性クリップ40を図解している。なお,図5及び図6において示される図は,他のこれに続く図面も同様に,これより前の図とは逆向きであり,遠位端が右側であり,基端が左側である。
【0015】
図5及び図6は,本発明で使用可能な先端シールド20の代替例の断面図である。テザー22の代わりに,先端シールド20のこの代替の実施形態は,以下で説明されるように,ニードル先端12aが先端シールド20内で基端方向に動くことができる距離を制限するために,異なる機構を利用する。
【0016】
図5は,ニードル12を引き抜く前の先端シールド20を示す。先端シールド20に加えて,図5は,ノッチ30を備えるカテーテルハブ14の一部分およびニードル12の代替の実施形態も示す。図5は,先端シールド20の代替の実施形態内の保持プレート56および座金58も示す。
【0017】
いずれの実施形態においても,使用する前にカテーテルアセンブリ10が組み立てられる時には,ニードル12は先端シールド20内のばねクリップ46を圧縮する。ばねクリップ46が圧縮されたとき,アーム52は,中間の,付勢位置に保持され,次いで,カテーテルハブ14のノッチ30に係合させるようにフィンガー54を位置付け,先端シールド20をカテーテルハブ14と接続する。ノッチ30は,スロットあるいはインデントの形態を採ることも可能で,または,フィンガー54は代わりに,ルアーロック部材30aを係合させることも可能である。示された例では,ルアーロック部材30aは,ねじである。図5に示された構成によって,先端シールド20とカテーテルハブ14は確実に接続される。
【0018】
図6に示すように,カテーテル24の患者の血管への挿入の後のニードル12の引き抜きの際に,ニードル先端12aは先端シールド20内に基端方向に動かされる。ニードル12の代替の実施形態の拡大された直径部分60は,ニードル12の残部よりも僅かに大きい直径を有する。座金58は,拡大された直径部分60を除くニードル12の大部分より僅かに大きな内径を有する。ニードル12が基端方向に移動すると,ニードル12の拡大された直径部分60は,最終的には座金58に接触し,先端シールド20に対するニードル12のさらなる基端方向の移動を阻止する。ニードル12の拡大された直径部分60とニードル先端12aとの間の距離は,ニードル先端12aがここで弾性クリップ40の基端側に存在するようになっている。ニードル12はもはやばねクリップ46を圧縮していないので,アーム52は概ね横方向の付勢されていない位置に移動する。アーム52によるこの動きは,次に,フィンガー54をそれがノッチ30から離脱すように移動させる。ノッチ30からのフィンガー54の解放は,カテーテルハブ14を先端シールド20から効果的に切り離し,カテーテルハブ14を患者に留まらせることを可能にする。ニードル先端12aは,先端シールド20内で保護されて,特に,ばねクリップ46から延在しているタブであるブロック48は,ばねクリップ46が解放されニードル12によりもはや圧縮されていない状態になると,ニードル12が先端シールド20を通って遠位端方向に戻ることを防止する。」

C「図1



D「図2



E「図5



F「図6



G 摘記事項B,E,Fから,先端シールド20は,カテーテルハブ14の基端部分に離れることができるように接続されていることが看て取れる。

H 摘記事項A,B,C,E,Fから,ニードル12は,先端シールド20,カテーテルハブ14の内部管腔,およびカテーテル24を通って挿入されることが看て取れる。

I 摘記事項A,Dから,ニードル12は,ニードルハブ16によって基端部が支持されていることが看て取れる。

(2)上記記載事項,及び,認定事項から,引用文献4には,次の技術が記載されていると認められる。
「カテーテルハブ14の基端部分に離れることができるように接続され,ニードル12が先端シールド20を通って遠位端方向に戻ることを防止するように構成されたブロック48を有する弾性クリップ40を備える先端シールド20であって,前記ニードル12は,ニードルハブ16によって基端部が支持され,ニードル先端12aを有し,ニードル先端12aは,血管に挿入される前,カテーテルアセンブリ10の遠位端部であり,ニードル12は,先端シールド20,カテーテルハブ14の内部管腔,およびカテーテル24を通って挿入される,先端シールド20と,
前記弾性クリップ40がフィンガー54を含み,前記カテーテルハブ14のノッチ30に係合させるように位置付けられ,前記先端シールド20を前記カテーテルハブ14と接続する前記フィンガー54であって,前記ニードル12が前記カテーテル24から引き抜かれ,前記ニードルハブ16が前記先端シールド20から基端方向に離れると,前記弾性クリップ40が解放され,該フィンガー54がノッチ30から離脱すように移動され,前記先端シールド20からカテーテルハブ14を効果的に切り離す,フィンガー54とを備えるカテーテルアセンブリ10。」

い 周知例1
(1)本件優先日前に頒布された国際公開第2009/123025号(平成21年10月8日公開。以下,「周知例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

A「[0038] 各図に示す留置針組立体1は,中空の外針2と,外針2の基端部に固定された外針ハブ3と,外針2内に挿通される内針4と,内針4の基端部に固定された内針ハブ5と,外針ハブ3の側方部(または基端部)に,内腔71が外針2の内腔21と連通するように接続されたチューブ7とを有している。以下,各部の構成について説明する。」

B「[0042] 外針ハブ3は,略筒状の部主管36と,主管36の流路31から分岐した分岐流路32を有し,略筒状の側管(分岐管)37とを備えている。」

C「[0046] また,外針ハブ3の基端部には,リブ33が形成されている。このリブ33については,後に詳述する。」

D「[0049] 内針4の長さは,組立状態としたとき,少なくとも針先41が外針2の先端開口22から突出する程度の長さとされる。」

E「[0071] また,留置針組立体1は,内針4を外針2から抜去した際に,内針4の少なくとも針先41を覆うプロテクタ9を有している。以下,このプロテクタ9について説明する。
[0072] プロテクタ9は,組立状態で,内針ハブ5のプロテクタ挿入部51に,挿入(配設)されている。
[0073] このプロテクタ9は,外針ハブ3に対して着脱自在に連結されるようになっており,図2,図3および図5に示すように,プロテクタ本体91と,プロテクタ本体91内に設けられた連結部材92とを有している。
[0074] プロテクタ本体91の先端部には,組立状態で外針ハブ3の基端部が挿入される有底の穴部911が形成されている。」

F「[0077] 図3,図5および図6に示すように,連結部材92は,弾性を有し,外針ハブ3のリブ33と係合し得る板状の突出片(突出部)924を有している。プロテクタ9は,組立状態では,その穴部911に外針ハブ3の基端部が挿入された状態で,連結部材92の突出片924と外針ハブ3のリブ33とが係合することにより,外針ハブ3に対して着脱自在に連結される。
[0078] 本実施形態では,連結部材92は,全体形状として,帯状の板部材(部材)を略V字状に折り曲げた形状(略V字状)をなしており,また,その板部材は,弾性(弾力性)を有している(弾性的に変形することができるものである)。具体的には,連結部材92は,第1の部位921と,第1の部位921の図6中上側に接続され,この第1の部位921とで略V字形状を形成する第2の部位922と,第1の部位921の図6中下側に配置された第3の部位923と,第3の部位923の基端から図6中上側に向かって突出する突出片924と,第1の部位921の途中であって基端側に配置されたシャッター部925とを有している。また,第2の部位922の図6中下側の部位は,上側に向かって湾曲または屈曲している。また,突出片924の後述するリブ33の摺動面331に対向する対向面926は,内針4の中心軸O_(1)に対して略垂直である。
[0079] この連結部材92は,第1の部位921と第2の部位922との開き角度が変化(開閉)することにより,突出片924とリブ33とが係合した第1の状態(第1の形状)と,突出片924とリブ33との係合が外れた第2の状態(第2の状態)とを採り得る(変形し得る)ようになっている。
[0080] すなわち,図3,図4および図7に示すように,組立状態では,連結部材92は,開き角が小さくなるように折り畳んだ状態(弾性変形した状態)で収納され,第1の部位921が内針4の外周面に当接することにより,第1の状態に保持されている。この状態では,プロテクタ9は,外針ハブ3に対して連結されている。また,プロテクタ9および外針ハブ3は,内針4および内針ハブ5に対して,内針4の長手方向に相対的に移動可能である。
[0081] この状態から,内針ハブ5をプロテクタ9に対し基端方向へ移動させ,内針4の針先41が連結部材92の第1の部位921の基端側に至ると,図5および図8に示すように,連結部材92は,自らの弾性力(復元力)により開く(復元する)とともに,後述する連結部材20を介して基端方向に引っ張られて移動し,第2の状態となる。連結部材92の復元により突出片924が移動する方向は,内針4の中心軸O_(1)に対して略垂直な方向である。この状態では,プロテクタ9と外針ハブ3との連結は,解除されている。また,連結部材92のシャッター部925が,内針4の中心軸O_(1)上の針先41の先端側に位置し,これにより,針先41が連結部材92を超えて先端方向へ移動(通過)するのが阻止される。なお,内針ハブ5を基端方向へさらに移動させると,プロテクタ9は,後述する連結部材20を介して基端方向に引っ張られて移動し,外針ハブ3から離脱する。」

G「図1



H「図3



I「図5



J 摘記事項A,B,F,G,Hから,内針4は,プロテクタ9,外針ハブ3の流路31,および外針2を通って挿入されていることが看て取れる。

(2)上記記載事項,及び,認定事項から,周知例1には,次の技術が記載されていると認められる。
「外針ハブ3の基端部に着脱自在に連結され,内針4の針先41が先端方向へ移動するのを阻止する連結部材92を備える,プロテクタ9であって,前記内針4は,内針ハブ5によって固定された基端部を備え,前記内針4の前記針先41は,組立状態としたとき,外針2の先端開口22から突出し,前記内針4は,前記プロテクタ9,前記外針ハブ3の流路31,および外針2を通って挿入される,プロテクタ9と,
前記連結部材92に備えられた,前記外針ハブ3の基端部に形成されたリブ33と係合されて前記プロテクタ9は前記外針ハブ3に対して連結される前記突出片924であって,前記内針ハブ5を前記プロテクタ9に対し基端方向へ移動させると,前記連結部材92は開き,該突出片924と前記リブ3との係合が外れ,前記プロテクタ9と外針ハブ3との連結が解除される,突出片924とを備える留置針組立体1。」

う 周知例2
(1)本件優先日前に頒布された米国特許第6749588号(平成16年6月15日公開。以下,「周知例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,括弧内の日本語は,当審で付した仮訳である。

A「The catheter and introducer needle assembly of this invention is identified generally by the numeral 10 and defines a longitudinal axis extending therethrough. It includes a catheter assembly 20 and an introducer needle assembly 30 that includes a needle shield 40.」(19欄53行-57行)
(本発明のカテーテルと導入針とのアセンブリが符号10により一般的に識別され,それを通って延びる長手方向軸線を画定する。それは,カテーテルアセンブリ20および針シールド40を含む導入針アセンブリ30を含む。)

B「Catheter assembly 20 includes a catheter 21 that has a proximal end, a distal end and a catheter hub 24 affixed to catheter proximal end.」(19欄63行-65行)
(カテーテルアセンブリ20は,近位端,遠位端およびカテーテルの近位端に取付けられたカテーテルハブ24を有するカテーテル21を含む。)

C「Introducer needle assembly 30 includes introducer needle 31 having a sharp distal tip 32 defined by a bevel and a proximal end connected to a needle hub 34.」(20欄12行-14行)
(導入針アセンブリ30は,斜めに形つけられた鋭利な遠位先端32と,ニードルハブ34に接続されている近位端とを有する導入針31を含んでいる。)

D「FIGS. 33 through 36C, 38 and 39 show a first embodiment of a resilient spring clip 1201 that is used to connect needle shield 40 to catheter hub 24 until sharp distal tip 32 of introducer needle 31 has been withdrawn into needle shield 40. A spring arm 151 that is formed in a V-shaped configuration defines the spring clip. Spring arm 151 is disposed in housing 41 such that the apex of the V is pointed up toward the top of housing 41 and the legs defining the V straddle the longitudinal axis of introducer needle 31 when spring arm 151 is in its unbiased position. In this orientation, spring arm 151 is adapted for motion transverse to the longitudinal axis of introducer needle 31.」(31欄40行-51行)
(図33から36c,38および39は,導入針31の鋭利な遠位先端32が,針シールド40の中に引き込まれるまで,針シールド40をカテーテルハブ24に接続するために使用される弾性ばねクリップ1201の第1の実施形態を示している。このV字型構成に形成されたばねアーム151は,ばねクリップを形成する。ばねアーム151は,その非付勢位置にあるとき,Vの頂点がハウジング41の頂部に向かって上方に向いており,Vを定める脚部が導入針31の長手方向軸をまたぐように,ハウジング41内に配置されている。この向きでは,ばねアーム151は,導入針31の長手方向軸に対して横方向に運動するようになっている。)

E「When sharp distal tip 32 of introducer needle 31 is distal of needle shield 40, introducer needle 31 abuts spring arm 151 so as to hold spring arm 151 in the biased, unactivated, clipped position. Spring arm 151 includes a clip arm 152 which extends generally parallel to the longitudinal axis of introducer needle 31. Clip arm 152 preferably has a finger 153 formed thereon, which is adapted to engage thread 44 or a corresponding detent 26 formed on catheter hub 24 when spring arm 151 is in the clipped position. Detent 26 can be the flange or luer locking ears 44 shown on the proximal end of catheter hub 24.」(31欄63行-32欄5行)
(導入針31の鋭利な遠位先端32が針シールド40の遠位にあるとき,導入針31はばねアーム151に当接して,ばねアーム151が付勢された非作動のクリップされた位置に保持する。ばねアーム151は,導入針31の長手軸にほぼ平行に延びるクリップアーム152を備えている。クリップアーム152は,好ましくは,その上に形成されているフィンガー153を有し,ばねアーム151がクリップされた位置にあるときに,カテーテルハブ24に形成されたねじ山44または対応する戻り止め26に係合する。戻り止め26は,カテーテルハブ24の近位端に示されるフランジまたはルアーロックイヤー44とすることができる。)

F「When sharp distal tip 32 of introducer needle 31 is moved proximally into needle shield 40 so that introducer needle 31 no longer abuts spring arm 151, spring arm 151 can flex to its unbiased, activated non-clipped position out of engagement with catheter hub 24. This allows catheter hub 24 to be disconnected from needle shield 40. 」(32欄16行-21行)
(導入針31の鋭利な遠位先端32が針シールド40内へと近位方向に移動し,導入針31がばねアーム151に当接しなくなると,ばねアーム151は,カテーテルハブ24との係合から外れた付勢されていない,作動可能な位置に撓むことができる。これにより,カテーテルハブ24が針シールド40から切り離される。)

G「FIGS. 42 through 45 show a second embodiment of a spring clip 1212 with a transverse barrier that connects catheter hub 24 to needle shield 40 until sharp distal tip 32 has been locked in needle shield 40. Spring clip 1212 of this embodiment is substantially the same as the embodiment for the spring clip shown in FIGS. 33 through 36C, 38 and 39 except for the addition of transverse barrier 296. Thus this embodiment of spring clip 1212 functions to connect catheter hub 24 to needle shield 40 until sharp distal tip 32 has been locked in needle shield 40 in substantially the same way as the embodiment shown in FIGS. 33 through 36C, 38 and 39.
When introducer needle 31 extends through needle shield 40 so that sharp distal tip 32 is distal of distal opening 45, spring arm 291 abuts the shaft of introducer needle 31 and is biased to move transverse barrier 296 in front of sharp distal tip 32. Once sharp distal tip 32 is moved proximally past spring arm 291, spring arm 291 moves to its activated, unbiased, non-clipped position so that transverse barrier 296 is in front of sharp distal tip 32. This prevents any unwanted distal movement of introducer needle 31.」(34欄10行-30行)
(図42から図45は,鋭利な遠位先端32が針シールド40の中にロックされるまでカテーテルハブ24を針シールド40に接続する横断障壁を有するばねクリップ1212の第2実施形態を示す。この実施例のばねクリップ1212は,横断障壁296が追加されている点を除いて,図33から図36c,38および39のばねクリップの形態と実質的に同じである。このように,ばねクリップ1212のこの実施形態は,図33から図36c,38および39に示された実施形態と実質的に同じ方法で,鋭利な遠位先端32が針シールド40の中にロックされるまでカテーテルハブ24を針シールド40に接続するように機能する。
鋭利な遠位先端32が遠位開口部45の遠位にあるように,導入針31が針シールド40を通って延びるとき,ばねアーム291は導入針31に当接し,鋭利な遠位先端32の前方に横断障壁296を移動させるように付勢されている。鋭利な遠位先端32がばねアーム291を越えて近位に動かされると,横断障壁296が鋭利な遠位先端部32の正面に位置するように,ばねアーム291は,その活性化された,付勢されていない,クリップされていない位置に移動される。これにより,導入針31の遠位方向への移動を防止する。)

H「FIG.1



I「FIG.42



J「FIG.43



K「FIG.44



L 摘記事項D,E,J,Kから,針シールド40は,カテーテルハブ24の近位端上に切り離し可能に接続されることが看て取れる。

M 摘記事項A,Hから,導入針31の鋭利な遠位先端32は,接続された状態でカテーテルの先端部の外部に位置決めされていることが看て取れる。

N 摘記事項B,E,F,Jから,導入針31は,針シールド40,カテーテルハブ24の内部管腔,およびカテーテル21を通って挿入されていることが看て取れる。

(2)上記記載事項,及び,認定事項から,周知例2には,次の技術が記載されていると認められる。
「カテーテルハブ24の近位端上に切り離し可能に接続され,導入針31の遠位方向への移動を防止するようなばねクリップ1212を備える,針シールド40であって,前記導入針31は,ニードルハブ34に接続されている近位端を備え,前記導入針31の鋭利な遠位先端32は,接続された状態でカテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,導入針31は,針シールド40,カテーテルハブ24の内部管腔,およびカテーテル21を通って挿入される,針シールド40と,
前記ばねクリップ1212はその上にフィンガー153が形成され,前記カテーテルハブ24の近位端上のねじ山44に係合されて前記針シールド40を前記カテーテルハブ24に接続するフィンガー153であって,導入針31の鋭利な遠位先端32が針シールド40内へと近位方向に動かされるとき,前記ばねクリップ1212のばねアーム291は付勢されていない位置に移動され,カテーテルハブ24が針シールド40から切り離される,フィンガー153とを備えるカテーテルと導入針とのアセンブリ10。」

え まとめ
上記あ?うに示したとおり,原査定の理由で周知例として提示した引用文献4並びに同様の技術的事項が記載された周知例1,2からみて,以下の技術は本件優先日前の周知技術といえる。
「カテーテルアダプタの近位開口部に取り外し可能に結合され,導入針の鋭敏にされた先端部が針シールドの遠位方向へ再び出ることを防ぐように構成された安全クリップを備える,外部安全機構であって,前記導入針は,針ハブによって支持された基部をさらに備え,前記基部と前記鋭敏にされた先端部との間を延びる本体を有し,前記導入針の前記鋭敏にされた先端部は,カテーテルを患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の前記本体は,該外部安全機構,前記カテーテルアダプタの管腔,および前記カテーテルを通って挿入される,外部安全機構と,
安全クリップの一部分を形成し,カテーテルアダプタの近位リム内に位置決めされて外部安全機構と前記カテーテルアダプタとの間の相互係止された連結を維持する爪であって,導入針を前記外部安全機構から取り外すと,前記安全クリップは解放され,該爪は前記近位リムから係止解除され,前記外部安全機構を前記カテーテルアダプタから連結解除する,爪とを備えるカテーテルアセンブリ。」

第6 対比
本件発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「血管アクセス器具であるカテーテルアセンブリ10」は,その文言の意味,機能又は構成等からみて,本件発明の「患者の血管系にアクセスするための血管外システム」に相当する。以下同様に,「カテーテル12」は「カテーテル」に,「結合する」は「支持する」に,「遠位端32」は「遠位端」に,「近位端22」は「近位開口部」に,「カテーテルアダプタ14」は「カテーテルアダプタ」に,「内部ルーメン16」は「管腔」に,「内部ルーメンを近位側と遠位側とに分割する」は「管腔を近位流体室および遠位流体室に分割する」に,「セプタム70」は「血液制御隔壁」に,「セプタム70の近位に移動することができるように配設された」は「近位流体室内に摺動可能に位置決めされた」に,「セプタム作動器72」は「隔壁作動装置」に,「肉厚の近位部分」は「基部」に,「薄肉の遠位端部」は「プローブ端部」に,「ニードル86」は「導入針」に,「ニードルハブ80」は「針ハブ」に,「尖鋭な先端」は「鋭敏にされた先端部」に,それぞれ相当する。
そして,引用発明の「ニードル86」は,「ニードルハブ80から延び,尖鋭な先端を有」するものであるから,本件発明の「導入針」と同様に,「針ハブによって支持された基部」を備え「前記基部と前記鋭敏にされた先端部との間を延びる本体」を有するものであるといえる。
また,引用発明の「ニードル86の尖鋭な先端は,ニードルハブ80がカテーテルアダプタ14の近位端に結合されるとき,カテーテル12の先端部20を越えて先へと延びるように,前記ニードル86は,前記カテーテルアダプタ14の内部ルーメン16,および前記カテーテル12を通って延びている」と,本件発明の「導入針の鋭敏にされた先端部は,カテーテルを患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の本体は,外部安全機構,カテーテルアダプタの管腔,および前記カテーテルを通って挿入される」とは,「導入針の鋭敏にされた先端部は,カテーテルを患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の本体は,カテーテルアダプタの管腔,および前記カテーテルを通って挿入される」という限りにおいて一致する。

してみると,本件発明と引用発明とは,以下の点において一致する。
「患者の血管系にアクセスするための血管外システムであって,
カテーテルを支持する遠位端を有し,近位開口部をさらに備えるカテーテルアダプタであって,管腔を有する,カテーテルアダプタと,
前記カテーテルアダプタの前記管腔内に配設され,管腔を近位流体室および遠位流体室に分割する血液制御隔壁と,
前記近位流体室内に摺動可能に位置決めされた隔壁作動装置であって,基部およびプローブ端部を有する,隔壁作動装置と,
導入針は,針ハブによって支持された基部をさらに備え,前記基部と鋭敏にされた先端部との間を延びる本体を有し,前記導入針の前記鋭敏にされた先端部は,前記カテーテルを前記患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の前記本体は,前記カテーテルアダプタの前記管腔,および前記カテーテルを通って挿入される血管外システム。」

そして,本件発明と引用発明とは,以下の点において相違する。
[相違点1]
本件発明は,「カテーテルアダプタの近位開口部に取り外し可能に結合され,導入針の鋭敏にされた先端部が針シールドの遠位方向へ再び出ることを防ぐように構成された安全クリップを備える,外部安全機構であって,前記導入針は,針ハブによって支持された基部をさらに備え,前記基部と前記鋭敏にされた先端部との間を延びる本体を有し,前記導入針の前記鋭敏にされた先端部は,カテーテルを患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の前記本体は,該外部安全機構,前記カテーテルアダプタの管腔,および前記カテーテルを通って挿入される,外部安全機構」を備えているのに対し,引用発明は,そのような外部安全機構を備えていない点。
[相違点2]
本件発明は,「安全クリップの一部分を形成し,カテーテルアダプタの近位リム内に位置決めされて外部安全機構と前記カテーテルアダプタとの間の相互係止された連結を維持する爪であって,導入針を前記外部安全機構から取り外すと,前記安全クリップは解放され,該爪は前記近位リムから係止解除され,前記外部安全機構を前記カテーテルアダプタから連結解除する,爪」を備えているのに対し,引用発明は,そのような爪を備えていない点。

第7 判断
1 相違点1及び2について
上記相違点2に係る「爪」は,上記相違点1に係る「外部安全機構」と,構成上関連している部材であることを考慮し,以下相違点1,2を併せて検討する。
カテーテルアセンブリにおいて,導入針の鋭敏にされた先端部が人や物に接することを妨げるために「カテーテルアダプタの近位開口部に取り外し可能に結合され,導入針の鋭敏にされた先端部が針シールドの遠位方向へ再び出ることを防ぐように構成された安全クリップを備える,外部安全機構であって,前記導入針は,針ハブによって支持された基部をさらに備え,前記基部と前記鋭敏にされた先端部との間を延びる本体を有し,前記導入針の前記鋭敏にされた先端部は,カテーテルを患者の血管系内に挿入する前,前記カテーテルの先端部の外部に位置決めされるように,前記導入針の前記本体は,該外部安全機構,前記カテーテルアダプタの管腔,および前記カテーテルを通って挿入される,外部安全機構」及び「安全クリップの一部分を形成し,カテーテルアダプタの近位リム内に位置決めされて外部安全機構と前記カテーテルアダプタとの間の相互係止された連結を維持する爪であって,導入針を前記外部安全機構から取り外すと,前記安全クリップは解放され,該爪は前記近位リムから係止解除され,前記外部安全機構を前記カテーテルアダプタから連結解除する,爪」を備えることは,第5 2えで示したとおり,本願の優先日前に周知技術であった。
そして,引用文献1には,摘記事項Dに「[0024]・・・After proper catheter placement, the needle 86 may be removed from the catheter adapter 14.[0025]・・・the needle 86 can be removed from the catheter assembly 10 and is safely disposed.」(【0020】・・・カテーテルが適切に配置された後は,ニードル86をカテーテル14から取り除くことができる。【0021】・・・上述のとおりカテーテル手法に続き,ニードル86はカテーテルアセンブリ10から取り除かれ,安全に処理される。)と記載されているように,引用発明は,取り除かれたニードル86を安全に処理をするという課題を有するところ,技術常識からみて,当該「安全に処理」の中には,取り除かれたニードル86の尖鋭な先端が人や物に接することを妨げることも含まれることは自明である。してみると,引用発明に上記周知技術を採用してみようとする動機付けがあり,当該周知技術の適用により,上記相違点1及び2に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得ることであり,また,そのことを阻害する特段の要因は見当たらない。
そして,本件発明は,引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

よって,本件発明は,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 審判請求人の主張について
審判請求人は,平成30年5月10日付け意見書及び平成30年12月6日付け審判請求書において,
「引用文献4(特表2009-538187号公報)の段落0018の最終文には「ニードル先端12aは,先端シールド20内で保護されて,特に,ばねクリップ46から延在しているタブであるブロック48は,ばねクリップ46が解放されニードル12によりもはや圧縮されていない状態になると,ニードル12が先端シールド20を通って遠位端方向に戻ることを防止する。」と記載されています。しかしながら,同文献のブロック48はばねクリップ46から延在しているタブであるのに対して,本願発明1の安全クリップは前記カテーテルアダプタの前記近位開口部に取り外し可能に結合される点で相違して」いるから,引用文献4は,「前記カテーテルアダプタの前記近位開口部に取り外し可能に結合され,導入針の鋭敏にされた先端部が針シールドの遠位方向へ再び出ることを防ぐように構成された安全クリップを備える,外部安全機構」を開示しておらず,示唆もしていません。」
と,主張している。
しかしながら,引用文献4の弾性クリップ40のフィンガー54は,カテーテルハブ14のノッチ30に係合,解放可能となっており,当該ノッチ30は,摘記事項E(図5),F(図6)からカテーテルハブ14の近位端部に設けられている。よって,引用文献4の弾性クリップ40もカテーテルハブ14の近位端部に取り外し可能に結合されているといえるから,本件発明の「安全クリップ」と差異はない。
そして,上記技術的事項は,第5 2えで示したとおり,本願の優先日前に周知技術というべきものであるから,審判請求人の主張は当を得たものとはいえず,採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,本件発明は,引用発明及び周知技術に基いて,その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-16 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-03 
出願番号 特願2016-517982(P2016-517982)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 落合 弘之家辺 信太郎  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 沖田 孝裕
倉橋 紀夫
発明の名称 外部針シールドおよび内部血液制御隔壁を有するポート付きIVカテーテル  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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