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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E06B
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 E06B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 E06B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E06B
管理番号 1363554
審判番号 不服2019-10953  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-20 
確定日 2020-06-25 
事件の表示 特願2015-137171「熱膨張性耐火材、開口枠体、および建具」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日出願公開、特開2017- 20205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年7月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月12日付け:拒絶理由通知書
(平成30年11月20日発送)
平成31年 1月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 5月21日付け:拒絶査定
(令和 1年 6月 4日発送)
令和 1年 8月20日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和1年8月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年8月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正の前後における特許請求の範囲における独立請求項の記載は、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)なお、従属請求項の記載は、独立請求項数が本件補正前の2から本件補正後の1へと減少したことに対応して引用する請求項の番号を整理したこと、及び軽微な誤記の訂正を別とすれば、本件補正の前後で同じであり、摘記を省略する。

(1)本件補正後
「【請求項1】
第1の熱膨張性耐火材と、第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する第2の熱膨張性耐火材とが積層されてなり、
前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分の少なくとも一方が、エポキシ樹脂を含有する熱膨張性耐火性複合材。」

(2)本件補正前
ア 請求項1
「【請求項1】
第1の熱膨張性耐火材と、第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する第2の熱膨張性材耐火材とが積層されてなり、
前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分が、ポリ塩化ビニル系樹脂を含有する熱膨張性耐火性複合材。」

イ 請求項2
「【請求項2】
第1の熱膨張性耐火材と、第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する第2の熱膨張性材耐火材とが積層されてなり、
前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分の少なくとも一方が、熱硬化性樹脂を含有する熱膨張性耐火性複合材。」

2 補正目的
本件補正は、独立請求項についてみれば、本件補正前の請求項1を削除して本件補正前の請求項2を請求項1へと繰り上げるとともに、本件補正前の請求項2において、「前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分の少なくとも一方」が「含有」する樹脂について、本件補正前の「熱硬化性樹脂」を、本件補正後の「エポキシ樹脂」へと、限定したものである。
そのため、本件補正は、本件補正前の独立請求項1について、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするとともに、本件補正前の独立請求項2について、同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。

3 独立特許要件
上記2のとおり、本件補正は、本件補正前の独立請求項2について、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認めることができる。
そのため、本件補正前の独立請求項2に記載された発明を限定した、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合すること(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること)を要する。
以下、本件補正発明の独立特許要件を検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載
ア 引用文献1
(ア)記載事項
原査定の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開平11-323148号公報(平成11年11月26日公開。以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は、当審決で付した。以下、同様。)。

a 耐火性シート状成形体を形成する樹脂組成物(I)
「【0011】第1発明の耐火性シート状成形体は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛ならびに無機充填剤を含有する樹脂組成物(I)から形成される。
【0012】上記樹脂分としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0013】中でも、クロロプレン系樹脂、塩素化ブチル系樹脂等のハロゲン化された樹脂は、それ自体難燃性が高く、さらに熱による脱ハロゲン化反応により、架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する点において好ましい。上記樹脂分として例示したものは、非常に柔軟でゴム的性質を持っていることから、上記無機充填剤を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟でフレキシブルなものとなる。より柔軟でフレキシブルな樹脂組成物を得るためには、非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。
【0014】上記樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
・・・・(中略)・・・・
【0029】上記無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、けい酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥などが挙げられる。これらの中でも、含水無機物及び金属炭酸塩が好ましい。」

b シート積層体
「【0043】第3発明のシート積層体は、耐火性シート状成形体からなるA層とB層とが積層されたものであって、A層とB層との合計厚みが0.1?15mm、かつ、A層とB層との厚み比(A層/B層)が0.01?100である。
【0044】上記シート積層体の厚みは、0.1mm未満では膨張しても十分な厚みの耐火断熱層が形成されず、15mmを超えると重くなって取扱い性が悪くなる。また、A層とB層との厚み比において、A層の比率が増加すると混練時の温度上昇によって膨張して火災時の耐火性能が低下し、B層の比率が増加すると温度上昇の低い条件や熱伝導が遅い構造体で、十分な耐火性能が発揮され難くなるので、厚み比(A層/B層)は0.01?100に制限される。
【0045】上記シート積層体において、A層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分、リン化合物と膨張開始温度が140?180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛、並びに、無機充填剤を含有する樹脂組成物 (III)から形成され、B層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分、リン化合物と膨張開始温度が180℃を超えて250℃以下の中和処理された熱膨張性黒鉛、並びに、無機充填剤を含有する樹脂組成物(IV)から形成される。
【0046】上記樹脂組成物 (III)及び(IV)における樹脂分、リン化合物及び無機充填剤としては、樹脂組成物(I)と同様のものが用いられる。上記樹脂組成物 (III)において、中和処理された熱膨張性黒鉛は、膨張開始温度140?180℃のものが用いられる。また、上記樹脂組成物(IV)において、中和処理された熱膨張性黒鉛は、膨張開始温度が180℃を超えて250℃以下のものが用いられる。
【0047】上記樹脂組成物(III)及び(IV)において、各成分の含有量は、上記樹脂組成物(I)と同様の理由により、樹脂分100重量部に対して、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量20?200重量部、並びに、無機充填剤50?500重量部である。
【0048】上記樹脂組成物(III)及び(IV)において、上記リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との重量比(リン化合物/熱膨張性黒鉛の混合物)は、上記樹脂組成物(I)と同様の理由により、0.01?9である。
【0049】上記シート積層体は、膨張開始温度の異なる中和処理された熱膨張性黒鉛を含有するA層とB層とを積層することによって、幅広い温度範囲で耐火断熱層を形成することができる。
・・・・(中略)・・・・
【0057】上記耐火性シート状成形体、シート積層体は、例えば、火災の際に熱を受けて膨張することにより耐火断熱層を形成し、この耐火断熱層によって鉄骨へ熱が伝わるのを防止する。従って、この耐火断熱層は、鉄骨の全周で隙間なく形成されることが好ましい。また、上記不燃性材料からなるシートとしては、上記耐火性シート状成形体又はシート積層体の膨張によって形成される耐火断熱層に追随してある程度変形し、耐火断熱層の形状が崩れないように保持し得る材料が好ましい。」

c 実施例
「【0062】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1,2、比較例1,2)表1に示した配合量の、樹脂分、水添石油樹脂、ポリリン酸アンモニウム、中和処理された熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム、及び、炭酸カルシウムを二軸押出機に供給し溶融混練した後、Tダイより押出成形して3mm厚の耐火性シート状成形体を得た。
【0063】(実施例3)表1に示した配合量の、樹脂分、水添石油樹脂、ポリリン酸アンモニウム、中和処理された熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム、及び、炭酸カルシウムを二軸押出機に供給し溶融混練した後、Tダイより押出成形して、1mm厚のA層用及びB層用耐火性シート状成形体を得た。このA層用耐火性シート状成形体1枚とB層用耐火性シート状成形体2枚を重ね合わせてプレス成形し、3mm厚のシート積層体を得た。
【0064】上記耐火性シート状成形体及びシート積層体につき下記項目の性能評価を行い、その結果を表1に示した。
(1)膨張倍率
40mm×40mm×3mm厚の耐火性シート状成形体又はシート積層体(試験片)をホットプレート上に置き、異なる昇温速度で30℃から450℃まで昇温し、450℃で1時間保持した。次いで、25℃まで冷却した後試験片の厚みを測定し、加熱前後の厚み比から膨張倍率(加熱後の厚み/加熱前の厚み)を算出した。
〔昇温速度〕
(イ)30℃から450℃まで20分間かけて昇温(昇温速度20℃/分)
(ロ)30℃から450℃まで85分間かけて昇温(昇温速度5℃/分)
【0065】(2)耐火性能
100mm×100mm×0.5mm厚のステンレス板の裏面に、耐火性シート状成形体又はシート積層体(試験片)を重ね合わせ垂直に設置した状態で、コーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて、ステンレス板側に35kW/m^(2) の照射熱量を照射したときの膨張開始時間と1時間放置後の裏面温度を測定した。
【0066】
【表1】


【0067】表1から中和処理された熱膨張性黒鉛の膨張開始温度により1時間後の表面温度が大きく異なることが分かる。
【0068】尚、表1中で使用した成分は下記の通りである。
・メタロセンPE(ポリエチレン):ダウケミカル社製「EG8200」
・ブチルゴム:エクソン化学社製「ブチルゴム#065」
・ポリブテン:出光石油化学社製「ポリブテン100R」
・水添石油樹脂:トーネックス社製「エスコレッツ5320」
【0069】・ポリリン酸アンモニウム:チッソ社製「テラージュC60」
・中和処理された熱膨張性黒鉛:
○1:UCAR Carbon社製「GRAFGuard#160」
○2:UCAR Carbon社製「GRAFGuard#220」
○3:東ソー社製「GREP-PG」
・水酸アルミニウム:昭和電工社製「H-42M」
・炭酸カルシウム:白石カルシウム社製「ホワイトンSB赤」」
(当審注;段落【0069】の「○1」等は、原文における「○」の中に「1」等の数字を示す。また、同段落【0069】における「水酸アルミニウム」は、段落【0066】の【表1】の記載から、「水酸化アルミニウム」の誤記と認める。)

d 効果
「【0070】
【発明の効果】本発明の耐火性シート状成形体及びシート積層体は、従来より低温で膨張する中和処理された熱膨張性黒鉛を含有することにより、小規模火災や火災初期の温度上昇の低い条件下、又は壁等の熱伝導が遅い構造体において、耐火断熱層を形成して耐火性能を十分に発揮する。また、従来より低温及び高温で膨張する2種の中和処理された熱膨張性黒鉛を含有することにより、幅広い温度範囲で耐火断熱層を形成し、様々の火災条件下で耐火性能を発揮する。」

(イ)引用発明1
上記(ア)より、「b シート積層体」における「樹脂組成物(III)及び(IV)」、及びその具体例である「c 実施例」における「実施例3」に着目し、樹脂分及び無機充填剤について「同様のものが用いられる」とされる「a」の「樹脂組成物(I)」の説明が、「樹脂組成物(III)及び(IV)」にも該当することをふまえて整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「火災の際に熱を受けて膨張することにより耐火断熱層を形成する、耐火性シート状成形体からなるA層とB層とが積層された、シート積層体であり、
膨張開始温度の異なる中和処理された熱膨張性黒鉛を含有するA層とB層とを積層することによって、幅広い温度範囲で耐火断熱層を形成することができ、様々の火災条件下で耐火性能を発揮する、シート積層体であって、
A層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分であるブチルゴム及びポリブテン、リン化合物であるポリリン酸アンモニウム、膨張開始温度が140?180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛であるUCAR Carbon社製「GRAFGuard #160」、並びに、無機充填剤である水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウム、を含有する樹脂組成物 (III)から形成され、
B層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分であるブチルゴム及びポリブテン、リン化合物であるポリリン酸アンモニウム、膨張開始温度が180℃を超えて250℃以下の中和処理された熱膨張性黒鉛であるUCAR Carbon社製「GRAFGuard #220」、並びに、無機充填剤である水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウム、を含有する樹脂組成物(IV)から形成され、
樹脂組成物 (III)及び(IV)における樹脂分は、特に限定されず、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられ、熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する樹脂も好ましく、樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよく、樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい、
シート積層体。」

イ 参考文献2
本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2014-196659号公報(平成26年10月16日公開。以下、「参考文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)段落【0021】-【0022】
「【0021】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火樹脂材について説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火樹脂材としては、例えば、熱膨張性耐火シート、熱膨張性耐火ブロック等を挙げることができる。
前記熱膨張性耐火シートとしては、例えば、エポキシ樹脂やゴム等の樹脂成分、リン化合物、中和された熱膨張性黒鉛、無機充填材等を含有する熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形してなるもの等を挙げることができる。
【0022】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートは市販品を使用することができ、例えば積水化学工業社製フィブロック(登録商標。エポキシ樹脂やゴム、を樹脂成分としリン化合物、熱膨張性黒鉛および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物)、住友スリ?エム社のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトを含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料化学社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)等の熱膨張性シート等を入手して使用することができる。」

(イ)段落【0076】
「【0076】
前記熱膨張性樹脂組成物の成形体粉砕品としては、例えば、市販の熱膨張性耐火シート等を粉砕したもの等を挙げることができる。
かかる成形体粉砕品に使用する熱膨張性耐火シート等の具体例としては、例えば、積水化学工業社製のフィブロック(登録商標。エポキシ樹脂、ゴム樹脂等の樹脂成分、熱膨張性黒鉛等の熱膨張成分、リン化合物、無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物の成形体)、住友スリーエム社のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトを含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料化学社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)等が挙げられる。」

ウ 参考文献3
本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2014-129701号公報(平成26年7月10日公開。以下、「参考文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0064】
前記熱膨張性耐火材としては、例えば、エポキシ樹脂、ブチルゴム、ウレタン樹脂フォーム等の熱硬化性発泡樹脂等の樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物、無機充填材等を配合した熱膨張性樹脂組成物を、3?20mmの厚みに成形した熱膨張性耐火シート、
無機繊維を使用して前記熱膨張性樹脂組成物を分散した水中で前記無機繊維を膠着させる操作を繰り返して得られる、熱膨張性樹脂組成物が分散した無機繊維マット、
無機繊維マットを使用して前記熱膨張性樹脂組成物を分散した有機溶剤中で前記無機繊維マットを含浸させる操作を繰り返して得られる、熱膨張性樹脂組成物が分散した無機繊維マット等を挙げることができる。
前記熱膨張性耐火シートは市販品を適宜選択して使用することができる。この様な市販品としては、例えば、積水化学工業社製のフィブロック(登録商標。エポキシ樹脂やゴムと、熱膨張性黒鉛等を含有する樹脂組成物を含むシート材料)、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーキュライトを含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料化学社製のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなるシート材料、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)等が挙げられる。」

エ 参考文献4
本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2007-332715号公報(平成19年12月27日公開。以下、「参考文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0021】
次に本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートは熱膨張性耐火材からなるものであるが、この様な熱膨張性耐火材としては、例えば、具体的には熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分、熱膨張性層状無機物、無機充填材等を含む樹脂組成物からなるもの等を挙げることができる。
【0022】
前記樹脂組成物の各成分のうち、まず前記樹脂成分について説明する。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂類、
天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
・・・・(中略)・・・・
【0031】
また、本発明に使用する樹脂成分のうち、先に示したエポキシ樹脂としては、特に限定はないが、例えば、エポキシ基を持つモノマーと硬化剤とを反応させて得られる樹脂等を挙げることができる。
【0032】
前記エポキシ基を持つモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型として、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1,6-ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド-ビスフェノールA、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のモノマーが挙げられる。
【0033】
また、グリシジルエステル型として、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p-オキシ安息香酸型等のモノマーが挙げられる。
【0034】
更に多官能のグリシジルエーテル型として、フェノールノボラック型、オルトクレゾール型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン、フェノール型等のモノマーが挙げられる。
【0035】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0036】
また、前記硬化剤としては、例えば、重付加型硬化剤、触媒型硬化剤等が挙げられる。
前記重付加型硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が挙げられる。
前記触媒型硬化剤としては、例えば三級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が挙げられる。
これらエポキシ樹脂の硬化方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0037】
なお、前記樹脂成分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、二種以上の樹脂成分をブレンドしたものを使用することができる。
【0038】
次に前記樹脂組成物の各成分のうち、前記熱膨張性層状無機物について説明する。
【0039】
前記熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものであるが、かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。
前記熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。」

(3)引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「耐火性シート状成形体」からなる「A層」は、「火災の際に熱を受けて膨張する」ことを勘案すると、含有する「膨張開始温度が140?180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛」に依拠した「熱膨張性」を有しており、本件補正発明における「第1の熱膨張性耐火材」に相当する。
引用発明1における「耐火性シート状成形体」からなる「B層」は、同様に火災の際に熱を受けて膨張する」ことを勘案すると、含有する「膨張開始温度が180℃を超えて250℃以下の中和処理された熱膨張性黒鉛」に依拠した「熱膨張性」を有しており、本件補正発明における「第2の熱膨張性耐火材」に相当する。
引用発明1において、「膨張開始温度の異なる中和処理された熱膨張性黒鉛を含有するA層とB層とを積層する」ことによって、シート積層体が「幅広い温度範囲で耐火断熱層を形成することができ」るからには、B層が「熱を受けて膨張することにより耐火断熱層を形成」し始める温度は、含有する熱膨張性黒鉛の「熱膨張開始温度」の相違に依拠して、A層が「熱を受けて膨張することにより耐火断熱層を形成」し始める温度より高いと解され、このことは本件補正発明において、「第2の熱膨張性耐火材」が「第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する」構成に相当する。
引用発明1において、「A層とB層とが積層された」構成は、本件補正発明において、「第1の熱膨張性耐火材」と「第2の熱膨張性耐火材」とが「積層されて」なる構成に相当し、引用発明1における当該「積層された」構成である「シート積層体」は、本件補正発明における当該「積層されて」なる構成である「熱膨張性耐火性複合材」に相当する。
引用発明1において、「A層」が、「熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分であるブチルゴム及びポリブテン、リン化合物であるポリリン酸アンモニウム、膨張開始温度が140?180℃の中和処理された熱膨張性黒鉛であるUCAR Carbon社製「GRAFGuard #160」、並びに、無機充填剤である水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウム、を含有する樹脂組成物 (III)から形成」される構成は、本件補正発明において、「前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有」する構成に相当する。
引用発明1において、「B層」が、「熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質よりなる樹脂分であるブチルゴム及びポリブテン、リン化合物であるポリリン酸アンモニウム、膨張開始温度が180℃を超えて250℃以下の中和処理された熱膨張性黒鉛であるUCAR Carbon社製「GRAFGuard #220」、並びに、無機充填剤である水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウム、を含有する樹脂組成物(IV)から形成」される構成は、本件補正発明において、「前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有」する構成に相当する。

整理すると、本件補正発明と引用発明1とは、
「第1の熱膨張性耐火材と、第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する第2の熱膨張性耐火材とが積層されてなり、
前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、
前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有する、
熱膨張性耐火性複合材。」
である点で一致するといえる。

そして、本件補正発明と引用発明1とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
樹脂成分について、
本件補正発明では、「前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分の少なくとも一方」が、「エポキシ樹脂を含有する」と特定されているのに対し、
引用発明1では、A層及びB層の「樹脂分」について、「エポキシ樹脂を含有する」とは特定されていない点。

(4)判断
上記相違点1について判断する。
引用発明1において、A層を形成する樹脂組成物(III)及びB層を形成する樹脂組成物(IV)が含有する「樹脂分」の具体例は、「ブチルゴム及びポリブテン」であるが、引用発明1では、用いる「樹脂分」について、「樹脂分は、特に限定されず、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられ、熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する樹脂も好ましく、樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよく、樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい」といった選択の自由度があり、溶融粘度や柔軟性、粘着性あるいは加熱後の残渣の強度を好適なものとするために、ブチルゴム及びポリブテンとは異なる樹脂についても、適宜の樹脂を単独で用いたりブレンドして用いることが示唆されている。
ここで、例えば上記(2)のイないしエに摘記した参考文献2ないし4の記載に示されるように、熱膨張性黒鉛及び無機充填材と合わせて熱膨張性耐火シートを形成する樹脂成分として、エポキシ樹脂を用いることは、市販の熱膨張性耐火シートの構成としても知られた周知技術であるところ、引用発明1において、樹脂分の溶融粘度や柔軟性、粘着性あるいは加熱後の残渣の強度を好適なものとするために、当該周知技術として熱膨張性黒鉛等と併せて用いられるエポキシ樹脂を、A層あるいはB層の樹脂分としてブレンドし、若しくは代替して使用し、もって上記相違点1に係る本件補正発明の構成に至ることは、当業者にとって容易に想到できた事項である。
そして、本件補正発明による効果も、引用発明1が許容し示唆する樹脂分の調整の自由度、及び、熱膨張性黒鉛と併せて用いられることが周知技術であるエポキシ樹脂の公知の特性から、事前に予測される範囲を超えるものではない。
したがって、本件補正発明は、引用発明1、及び、参考文献2ないし4にも示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものではない。

(5)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、引用文献1には、耐火性材料の樹脂成分として、エポキシ樹脂を用いることは一切記載されていないから、当業者が引用文献1に基づいて本件補正発明の構成を容易に想到することはできない旨を主張している(「(4)本願発明と引用発明との対比」参照)。
しかしながら、樹脂成分として「エポキシ樹脂」を用いることは、本件補正によって限定されたものであるところ、当該限定された構成を含む、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、上記(4)に判断したとおり、引用発明1において、参考文献2ないし4にも示される周知技術に基いて、当業者が容易に想到できたものである。
そして、請求人の主張を考慮しても、上記(4)の判断を覆すべき事情は見いだせない。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものではない。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明1及び2
令和1年8月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成31年1月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものである。
独立請求項に着目すると、本願の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、その請求項1及び2に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)ア及びイに記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1及び2に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2[理由]2(2)アに示したとおりである。

4 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
本願発明1の構成のうち、「第1の熱膨張性耐火材と、第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する第2の熱膨張性材耐火材とが積層されてなり、/前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、/前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有」する構成(当審注;「/」は改行を示す)、及び「熱膨張性耐火性複合材」である構成については、本件補正発明と共通する構成であるから、上記第2[理由]2(3)に示したと同様に、引用発明1との一致点となる。

そして、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
<相違点2>
樹脂成分について、
本願発明1では、「前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分」が、「ポリ塩化ビニル系樹脂を含有する」と特定されているのに対し、
引用発明1では、A層及びB層の「樹脂分」について、「ポリ塩化ビニル系樹脂を含有する」とは特定されていない点。

イ 判断
上記相違点2について判断する。
引用発明1において、A層を形成する樹脂組成物(III)及びB層を形成する樹脂組成物(IV)が含有する「樹脂分」の具体例は、「ブチルゴム及びポリブテン」であるが、引用発明1では、用いる「樹脂分」について、「樹脂分は、特に限定されず、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられ、熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する樹脂も好ましく、樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよく、樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい」といった選択の自由度があり、「ポリ塩化ビニル系樹脂」は、溶融粘度や柔軟性、粘着性あるいは加熱後の残渣の強度を好適なものとするために、適宜単独で用いたりブレンドして用いる樹脂の選択肢の一つである。
そうであれば、引用発明1において、樹脂分の溶融粘度や柔軟性、粘着性あるいは加熱後の残渣の強度を好適なものとするために、樹脂の選択肢であるポリ塩化ビニル系樹脂を、A層及びB層の樹脂分としてブレンドし、若しくは代替して使用し、もって上記相違点2に係る本願発明1の構成に至ることは、当業者が適宜になし得た設計事項程度である。
そして、本願発明1による効果も、引用発明1がポリ塩化ビニル系樹脂を樹脂分の選択肢としていることを勘案すると、引用文献1の記載から事前に予測される範囲を超える異質かつ顕著なものではない。
したがって、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明2について
本願発明2と引用発明1とを対比する。
本願発明2の構成のうち、「第1の熱膨張性耐火材と、第1の熱膨張性耐火材よりも高い膨張温度で膨張を開始する第2の熱膨張性材耐火材とが積層されてなり、/前記第1の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有し、/前記第2の熱膨張性耐火材は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、リン化合物及び無機充填剤を含有」する構成(当審注;「/」は改行を示す)、及び「熱膨張性耐火性複合材」である構成については、本件補正発明と共通する構成であるから、上記第2[理由]2(3)に示したと同様に、引用発明1との一致点となる。

そして、本願発明2と引用発明1とは、以下の点で相違する。
<相違点3>
樹脂成分について、
本願発明2では、「前記第1の熱膨張性耐火材の樹脂成分及び第2の熱膨張性耐火材の樹脂成分の少なくとも一方」が、「熱硬化性樹脂を含有する」と特定されているのに対し、
引用発明1では、A層及びB層の「樹脂分」について、「熱硬化樹脂を含有する」とは特定されていない点。

イ 判断
上記相違点3について判断する。
引用発明1において、A層を形成する樹脂組成物(III)及びB層を形成する樹脂組成物(IV)が含有する「樹脂分」の具体例は、「ブチルゴム及びポリブテン」であるが、引用発明1では、用いる「樹脂分」について、「樹脂分は、特に限定されず、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられ、熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する樹脂も好ましく、樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよく、樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい」といった選択の自由度がある。
ここで、引用発明1において、樹脂分の調整に際して、「熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する」という性質が好ましいことを考慮し、A層又はB層の少なくとも一方あるいは両方に、加熱により架橋が起こり硬化が生じる樹脂として周知の熱硬化性樹脂を含有させ、もって上記相違点3に係る本願発明2の構成に至ることは、当業者が適宜になし得た設計事項程度である。
そして、本願発明2による効果も、引用発明1が樹脂分の好ましい性質として、「熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する」性質を挙げていることを勘案すると、引用文献1の記載から事前に予測される範囲を超える異質かつ顕著なものではない。
なお、上記相違点3に係る本願発明2の構成である「熱硬化性樹脂」について、本願明細書の段落【0019】には、「熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等が挙げられる。」と記載されており、「フェノール樹脂」及び「ポリウレタン」は、上記相違点3に係る「熱硬化性樹脂」の具体例と解されるところ、引用発明1において、樹脂分の選択肢である「フェノール系樹脂」あるいは「ポリウレタン系樹脂」の中から、「熱による架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する」という性質が好ましいことを考慮して、フェノール系又はポリウレタン系の熱硬化性樹脂を使用することも、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。
したがって、本願発明2は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本願発明1及び2は、原査定の理由のとおり、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-04-17 
結審通知日 2020-04-22 
審決日 2020-05-08 
出願番号 特願2015-137171(P2015-137171)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (E06B)
P 1 8・ 121- Z (E06B)
P 1 8・ 572- Z (E06B)
P 1 8・ 575- Z (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小澤 尚由立澤 正樹  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 秋田 将行
有家 秀郎
発明の名称 熱膨張性耐火材、開口枠体、および建具  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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