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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1363626
審判番号 不服2019-10710  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-09 
確定日 2020-07-14 
事件の表示 特願2015- 40757「スイッチング電源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 5日出願公開、特開2016-163438、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成27年3月2日の出願であって,平成30年1月12日に審査請求がなされると同時に手続補正書が提出され,同年10月4日付けで拒絶の理由が通知され,同年12月13日に意見書とともに手続補正書が提出され,平成31年4月26日付けで拒絶査定(謄本送達日令和1年5月14日)がなされ,これに対して令和1年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年9月30日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成31年4月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について
・請求項1-6
・引用文献等1-7

<引用文献等一覧>
1.特開2012-120399号公報
2.特開2014-204573号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平11-206116号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2015-27216号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平7-59339号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2008-54475号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2011-19317号公報(周知技術を示す文献)


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正は,特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって特許請求の範囲の請求項1に「前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から」という事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかについて検討すると,審判請求時の補正前の「前記異常を伝達する信号」(請求項1)について,さらに「前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から」出力するという限定事項を付すものであるから,「前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から」という事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,「前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から」という事項を追加する補正は新規事項を追加するものではないかについて検討すると,当初明細書の段落0018には,「図1および図2において、2次側の同期整流用スイッチング素子としてのMOSFET90を制御する2次側同期整流IC80が、過熱,過電圧,過負荷等の異常を検出すると、2次側同期整流IC80の異常時電流出力端子より電流88が出力される。」(下線は当審で付加。以下同様。)と記載されているから,「前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から」という事項は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,以下第4乃至第6に示すように,補正後の請求項1乃至6に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明

本願請求項1乃至6に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明6」という。)は,令和1年8月9日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された,次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
1次側に配置された第1スイッチング素子を制御する1次側制御ICと、2次側に配置された同期整流素子としての第2スイッチング素子を制御する2次側同期整流ICとを備え、前記第1スイッチング素子とトランスとを用いて所望の電圧を得るスイッチング電源装置であって、
前記2次側同期整流ICは、過熱、過電圧、または過負荷の少なくとも1つの異常を検出する異常検出手段を有し、
前記異常検出手段は、前記異常を検出すると、前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から前記異常を伝達する信号を出力することによって、2次側に配置された前記第2スイッチング素子ではなく、1次側に配置された前記第1スイッチング素子のオンDutyを下げる、またはスイッチング周波数を変化させる
スイッチング電源装置。
【請求項2】
前記異常検出手段は、前記異常を検出すると、前記異常を伝達する信号を出力することによって、1次側に配置された前記第1スイッチング素子のスイッチングを停止させる
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記2次側同期整流ICは、タイマーを有し、
前記異常検出手段は、前記タイマーに基づき、前記第1スイッチング素子の動作を再開させる
請求項2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
当該スイッチング電源装置は、2次側に配置されたシャントレギュレータにて2次側の出力電圧を検出し、フォトカプラを介して前記1次側制御ICに前記出力電圧をフィードバック電圧として帰還することにより前記出力電圧を制御するものであって、
前記異常検出手段は、前記信号によって、前記シャントレギュレータが検出する前記2次側の出力電圧を上昇させる
請求項1から3のいずれか1項に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記シャントレギュレータは、第1および第2の抵抗で分圧した電圧によって前記2次側の出力電圧を検出し、
前記異常検出手段は、前記信号によって、前記第1および第2の抵抗のうち低電位側の基準電位に接続された第2の抵抗に電流を流す
請求項4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記異常検出手段は、前記信号によって、MOSFETを導通状態にし定電流回路をオンにする
請求項5に記載のスイッチング電源装置。」


第5 引用例

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2012-120399号公報(平成24年6月21日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0001】
本発明は、交流電源電圧を直流電源電圧に変換するスイッチング電源装置に関し、特に、二次側に同期整流回路を備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な電子機器において、スイッチング電源装置が使用されている。スイッチング電源装置は、交流電源(商用電源)に接続された整流回路と、この整流回路からの整流出力を平滑化する平滑コンデンサと、この平滑コンデンサからの直流電圧が供給されるトランスと、平滑コンデンサからの直流電圧がトランスの一次巻線を介して供給されるスイッチング素子とを有している。そして、スイッチング素子のオン/オフ制御により二次巻線に誘起される電圧を整流することで直流電圧出力を得ている。二次巻線に発生する電圧の整流には、電力効率を改善する目的でMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)を用いた同期整流回路が利用されているものがある。例えば、非特許文献1には、同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間電圧をモニタし、ドレイン?ソース端子間電圧に基づいて同期整流用MOSFETのゲート端子をオン/オフ制御する二次側同期整流用ICが開示されている。
【0003】
図3は、非特許文献1に開示されている二次側同期整流用ICの動作を説明する動作波形図である。図3(a)は同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間電流(すなわち、ドレイン電流)を示し、図3(b)は同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間電圧を示し、図3(c)は同期整流用MOSFETのゲート端子電圧の波形を示している。
【0004】
一次側のスイッチング素子がオフし、二次巻線に電圧が誘起されると、それに起因する電流がドレイン電流として同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間を流れ始める(図3(a))。非特許文献1に記載の二次側同期整流用ICは、ドレイン電流が流れ始めた時に、先ず同期整流用MOSFETのボディダイオード(寄生ダイオード)に電流を流し、それを検出することによって、同期整流用MOSFETを駆動(オン)するように構成されている。具体的には、図3(b)に示すように、ボディダイオード(寄生ダイオード)に電流が流れると、同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間電圧がマイナス方向に大きくなるため、それを所定の閾値電圧Vth1と比較することで、ドレイン電流が流れ始めたことを検出し、同期整流用MOSFETを駆動(オン)する(図3(c))。また、同期整流用MOSFETがオンしている間、二次側同期整流用ICは、同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間電圧をモニタすることによってドレイン電流をモニタし、ドレイン電流が所定の電流値よりも下回った時(すなわち、同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間電圧が閾値電圧Vth2を上回った時)に、同期整流用MOSFETをオフして、再びボディダイオードに電流を流すように構成している(図3(b))。このように、非特許文献1に記載の二次側同期整流用ICは、ドレイン電流が流れている期間内で同期整流用MOSFETのゲート端子をオン/オフ制御することで、一次側のスイッチング素子と同期整流用MOSFETとが同時にオンしないように制御している。すなわち、二次側同期整流用ICは、二次側にエネルギーが伝達されている時(すなわち、ドレイン電流が流れている時)にだけ二次側を整流することで、一次側と同期をとりつつスイッチング損失を改善している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“アプリケーション・ノートAN-1087(2次側同期整流用のSmartRectifire コントロールIC「IR1167」の応用設計例)”、Rev.1.1、p.2-6、[online]、2006年3月、インターナショナル・レクティファイアー・ジャパン株式会社、[2010年9月27日検索]、インターネット(http://www.irf-japan.com/technical-info/appnotes/AN-1087.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1の二次側同期整流用ICの構成の場合、ドレイン電流が流れ始めてから同期整流用MOSFETがオンするまでの間、及び、同期整流用MOSFETがオフしてからドレイン電流がゼロになるまでの間は、同期整流用MOSFETのボディダイオードを介して電流が流れるため、同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間の電圧はボディダイオードの順方向電圧だけ電圧が降下し、その分だけ電力損失が大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、従来に比較して、より電力損失が少なく、高効率のスイッチング電源装置を提供することを目的とする。」

B 「【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るスイッチング電源装置1の回路図である。本実施形態に係るスイッチング電源装置1は、一次側回路に入力される交流電力をトランス400によって変換し、二次側回路から一定の直流電力を出力する電源装置である。トランス400は、一次側巻線120、一次側補助巻線150、二次側巻線205及び二次側補助巻線210を有する。スイッチング電源装置1の一次側回路は、ダイオードブリッジ回路110、コンデンサ115、一次側巻線120、FET125、抵抗126、127、制御用IC130、一次側補助巻線150、ダイオード155、コンデンサ145、フォトトランジスタ140で構成される。また、スイッチング電源装置1の二次側回路は、二次側補助巻線210、ダイオード215、コンデンサ220、同期整流用IC230、FET240、ダイオード250によって構成される同期整流回路200(点線部)と、二次側巻線205、コンデンサ260、抵抗270、発光ダイオード280、シャントレギュレータ285、抵抗290、295とによって構成される。発光ダイオード280とフォトトランジスタ140は、フォトカプラ300(点線部)を構成し、発光ダイオード280から出射された光はフォトトランジスタ140で受光され光電変換される。なお、実際の回路においては、ノイズフィルタ等の回路部品をさらに備えているが、図1においては、説明の便宜上、回路を簡易化して示している。」

C 「【0018】
一次側巻線120の他端は、FET125のドレイン端子に接続される。また、FET125のソース端子は、抵抗126及び127を介して一次側回路のGND1(グラウンド)及び制御用IC130のIS端子にそれぞれ接続され、ゲート端子は、制御用IC130のOUT端子に接続される。
【0019】
FET125は、例えば、パワーMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)であり、ゲート端子に入力される電圧によって、ドレイン端子-ソース端子間に流れる電流が制御される。本実施形態のFET125は、N型のMOSFETであり、ゲート端子に入力される電圧が上昇するとドレイン端子-ソース端子間に電流が流れる(すなわち、オンする)ように構成されている。
【0020】
制御用IC130は、FET125のオン/オフを制御するためのICである。制御用IC130は、内部にクロック(不図示)を有しており、所定の周波数のスイッチングパルスを生成して制御用IC130のOUT端子より出力する。スイッチングパルスが、FET125のゲート端子に入力されると、FET125がオンし、一次直流電圧V1に起因する電流(一次電流)が一次側巻線120、FET125及び抵抗126を通って一次側回路のGND1(グラウンド)に流れる。FET125がオンしている期間、一次側巻線120を流れる電流によって、一次側巻線120に磁気エネルギーが蓄えられる。そして、FET125がオフすることによって、一次側巻線120に蓄えられた磁気エネルギーが、一次側巻線120とは逆極性となるように構成された二次側巻線205及び二次側補助巻線210に伝達される。すなわち、制御用IC130の制御によりFET125が断続的にオン/オフすることにより、二次側巻線205及び二次側補助巻線210に断続的な電圧が誘起される。」

D 「【0023】
制御用IC130のFB端子には、フォトトランジスタ140のコレクタが接続され、フォトトランジスタ140のエミッタはGND1に接続される。フォトトランジスタ140は、後述するように、二次直流電圧V2(DC出力)の電圧値によって光量が変化する発光ダイオード280からの光を受光し、光電変換することによってその受光量に応じた電流を流す。制御用IC130は、フォトトランジスタ140を流れる電流から二次直流電圧V2の電圧値を検出し、二次直流電圧V2の電圧値が一定となるように(すなわち、発光ダイオード280を流れる電流が一定となるように)、FET125に供給するスイッチングパルスのデューティー比を変化させる。上述のように、FET125のデューティー比(すなわち、オンしている時間)を制御することは、一次側巻線120に蓄えられる磁気エネルギーを制御することに他ならないため、これによって二次側巻線205に誘起される電圧を制御することが可能となる。以上のように、発光ダイオード280とフォトトランジスタ140によって、二次直流電圧V2の電圧値が、電気的に絶縁された一次側回路にフィードバックされることとなる。」

E 「【0028】
同期整流用IC230は、二次側巻線205に誘起された電圧を整流するFET240のオン/オフを制御するIC(集積回路)である。同期整流用IC230のVD端子、VS端子及びVG端子は、FET240のドレイン端子、ソース端子及びゲート端子にそれぞれ接続されており、同期整流用IC230は、VD端子とVS端子の電位差(すなわち、FET240のドレイン?ソース端子間電圧)をモニタしながら、VG端子のオン/オフ(すなわち、FET240のオン/オフ)を制御する。なお、一般的に、FETは、ドレイン?ソース端子間にボディダイオード(寄生ダイオード)を有するため、図1中、FET240のボディダイオード240bと、トランジスタ240aとを分けて示している。本実施形態においては、ボディダイオード240bとは別に、FET240のドレイン?ソース端子間にダイオード250が並列接続されている。ダイオード250は、例えば、ショットキーバリアダイオードであり、後述するように整流損失を低く抑えるため、ボディダイオード240bの順方向電圧(例えば、0.6V)よりも低い順方向電圧(例えば、0.1V)を有するダイオードで構成されている。」

オ 上記記載事項B乃至Eより,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「一次側回路に入力される交流電力をトランス400によって変換し,二次側回路から一定の直流電力を出力する電源装置であるスイッチング電源装置1であって,
前記トランス400の一次側には,FET125と制御用IC130とフォトトランジスタ140とが設けられ,
二次側には,同期整流用IC230とFET240と発光ダイオード280とシャントレギュレータ285とが設けられ,
前記同期整流用IC230は,二次側巻線205に誘起された電圧を整流するFET240のオン/オフを制御するICであり,
前記発光ダイオード280とフォトトランジスタ140は,フォトカプラ300を構成し,発光ダイオード280から出射された光はフォトトランジスタ140で受光され光電変換され,
前記FET125のゲート端子は,前記制御用IC130のOUT端子に接続され,前記ゲート端子に入力される電圧によって,ドレイン端子-ソース端子間に流れる電流が制御され,
前記制御用IC130は,FET125のオン/オフを制御するためのICであり,前記制御用IC130のFB端子には,フォトトランジスタ140のコレクタが接続され,前記フォトトランジスタ140は,二次直流電圧V2(DC出力)の電圧値によって光量が変化する発光ダイオード280からの光を受光し,光電変換することによってその受光量に応じた電流を流し,前記フォトトランジスタ140を流れる電流から二次直流電圧V2の電圧値を検出し,二次直流電圧V2の電圧値が一定となるようにFET125に供給するスイッチングパルスのデューティー比を変化させることによって二次側巻線205に誘起される電圧を制御することが可能となる
スイッチング電源装置1。」

2 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2014-204573号公報(平成26年10月27日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

F 「【0048】
[電源回路の概要]
図4は、実施例4の電源装置が有する電源回路の回路構成を示す回路図である。図4は、実施例1の電源回路である図1の回路に、破線部の過電流保護機能を有する回路を追加した回路図である。本実施例で追加した破線部の回路は、PNP型のトランジスタQ503、電流検知用の抵抗R513、抵抗R514、ダイオードD503、D504から構成されている。電流検知用の抵抗R513は、出力電流を電圧に変換し、PNP型のトランジスタQ503のベース、エミッタ間に電位差を生じさせるように動作する。抵抗R513に流れる電流により生じる電圧がトランジスタQ503の動作電圧Vbe以上になると、トランジスタQ503はオン状態となる。これにより、抵抗R106、及び抵抗R112、R208に流れる電流が増加することにより、シャントレギュレータIC12のREF端子の入力電圧、及びコンパレータIC13の反転入力端子(-)の入力電圧が上昇する。その結果、フォトカプラPC101、PC102を介して電源IC11に入力されるフィードバック信号に基づいて、電源IC11は電源回路の発振を抑制する。例えば、抵抗R513の抵抗値が0.3Ωの場合、抵抗R513を流れる電流が約2Aになったときには、抵抗R513の両端には、約0.6Vの電圧が発生して、ベース・エミッタ間の電位差が0.6Vとなるので、トランジスタQ503がオン状態となる。すると、シャントレギュレータIC12のREF端子の入力電圧とコンパレータIC13の反転入力端子(-)の入力電圧が上昇する。そのとき、出力電圧がシャントレギュレータIC12によって制御されている場合は、シャントレギュレータIC12によって電源回路の発振が抑制され、出力電圧が低下する。また、コンパレータIC13によって制御されている場合は、コンパレータIC13によって電源回路の発振が停止され、出力電圧が低下する。」

G 「


図4」

3 引用例3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開平11-206116号公報(平成11年7月30日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

H 「【0002】
【従来の技術】この種の電源装置として、図4に示すフライバック型の定電圧定電流電源装置51(以下、「電源装置51」ともいう)が従来から知られている。

…中略…

【0006】一方、過負荷時や負荷の短絡時などの場合において、出力電流IO が電流値IO1を超えようとするときには、図3に示すように、出力電流IO は電流値IO1に制限される。具体的には、増幅器47が、出力電流IO に応じた電圧VIOと基準電圧V2 との誤差電圧を増幅した後にシャントレギュレータ43の制御端子に出力する。ここで、出力電流IO が電流値IO1を超えようとすると、ダイオード48を介して増幅器47からシャントレギュレータ43の制御端子に電流が流れ込む。これにより、シャントレギュレータ43のシンク電流IS が増加するため、ホトトランジスタ7bのコレクタ電流IC が増加する。この結果、ホトトランジスタ7bのコレクタ電圧である制御電圧VFBが低下し、誤差増幅器14が、制御電圧VC を低下させてFET5のオンデューティ比を小さくすることにより、出力電流IO が低下して電流値IO1に制限される。この状態では、図3に示すように、出力電圧VO は0Vから電圧値VO1の間の所定電圧に維持される。」

I 「


図4」

4 引用例4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2015-27216号公報(平成27年2月5日公開。以下,これを「引用例4」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

J 「【0021】
過電圧保護機能部170は、図2に示す如く、制御用過電圧検出回路171と、ラッチ状態検出回路172と、ドライブ信号生成回路173とから構成される。このうち、制御用過電圧検出回路171は、検出点taへ接続された入力信号ラインLaに、分圧抵抗R2,R3と、ツェナーダイオードDzとが直列に接続される。また、分圧抵抗R2及びR3は、其の両端に抵抗R1が並列接続され、其の分圧点にトランジスタTr1の信号入力端(ベース部)が接続される。更に、このトランジスタTr1は、入力端(コレクタ部)に内部電流ラインL3が接続され、出力端(エミッタ部)がアース電位に導通されている。
【0022】
この制御用過電圧検出回路171は、レギュレータ161の後段に設けられた電源ラインLv2,Lv3の電位が所定閾値(規定値)を上回ると、ツェナーダイオードDzが降伏電圧に達し入力信号ラインLaに電流が流れ始める。このとき、トランジスタTr1は導通状態に切換えられる。即ち、制御用過電圧検出回路171は、制御用電圧(V2,V3)の過電圧状態を検出すると、ラッチ状態検出回路172から出力される電流(内部電流)を通過・発生させ、過電圧状態が収束すると、当該電流(内部電流)の通過を遮るよう機能する。

…中略…

【0028】
かかる構成を具備するドライブ信号生成回路173は、フォトカプラPC1の能動素子部から指令信号を適宜に発生させ、通常モードによる動作指令、又は、停止モードによる動作指令を行う。このうち、通常モードによる動作指令は、トランスTRの後段の電圧(本実施の形態ではダイオードD3直後の電圧)の増減に応じて形成される信号であって、其の電圧の実効値が高ければ発光周波数を増加させ、当該実効値が低ければ発光周波数を低下させる。このとき、ドライブ回路143では、フォトカプラPC1の受動素子部にて当該発光信号を受信し、発光周波数に応じて一次電流を通電・遮断させ、主電源電圧V1が一定となるように制御する。このような通常モードによる指令信号は、ラッチ信号の出力されていない場面で発生するものであって、フィードバック信号と呼ぶことがある。」

K 「

図2」

5 引用例5に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開平7-59339号公報(平成7年3月3日公開。以下,これを「引用例5」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

L 「【0018】次に、過電圧検出回路は、図2に示す如く、電圧安定系31の過電圧を検出する安定系過電圧検出素子(ツェナーダイオード)51と,電圧非安定系35の過電圧を検出する非安定系過電圧検出素子(ツェナーダイオード)52とを並列として電流制限用抵抗54と誤動作防止用ダイオード55を介して前記抵抗R1,R2間の端子部T12に接続した構成とされている。なお、電圧安定系31が低電位側のため、安定系過電流検出素子51には、逆流防止用のダイオード53が直列接続されている。
【0019】ここに、電流制限用抵抗54の抵抗値は、安定系過電圧検出素子51および非安定系過電圧検出素子52の一方または双方が過電圧検出(ON)した場合に、抵抗R1,R2間の端子部T12の電圧が、安定化回路40(R1,R2)の設定電圧値以上となるように予め選択してある。
【0020】かかる構成の実施例によれば、安定化回路40による電圧検出信号も、過電圧検出回路50による過電圧検出信号も同一のフォトカプラ45を介して1次側の制御電圧回路15にフィードバックできる。したがって、2次直流電源回路30の電圧安定系31の直流電圧安定化と、各系31,35の過電圧防止とをともに保障でき、かつ全体の小型・軽量化とコスト低減を図れる。
【0021】しかして、この実施例によれば、2次直流電源回路30(31,35)側の分圧抵抗回路42,電圧制御用素子(41)からなる安定化回路40と、安定系過電圧検出素子51,非安定系過電圧検出素子52からなる過電圧検出回路50とを電流制限用抵抗54および誤動作防止用ダイオード55を介して一体的に形成し、電圧検出信号と過電圧検出信号とを同一のフォトカプラ45を介して1次直流電源回路10側の電圧制御回路15へフィードバックする構成とされているので、従来例(図3)の場合に比較して大幅なコスト低減および小型・軽量化を達成できる。」

M 「

図1」

N 「


図2」

6 引用例6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2008-54475号公報(平成20年3月6日公開。以下,これを「引用例6」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

O 「【0001】
この発明は、非安定絶縁型DC-DCコンバータに関し、特に過電流やサージ電圧に対する保護動作での機能を改善した非安定絶縁型DC-DCコンバータおよびそれを備えた電源装置に関するものである。」

P 「【0045】
また、保護動作としてオンデューティ比を低減するのは過電流保護時だけでなく、例えば非安定絶縁型DC-DCコンバータの入力に過渡的にサージ電圧が加わった場合や、非安定絶縁型DC-DCコンバータの特定部位の温度が基準値を超過した際にオンデューティ比を低減する回路構成にしてもよい。そのためには、サージ電圧の印加を検出する回路または非安定絶縁型DC-DCコンバータの特定部位の温度の過熱状態を検出する回路を設けるとともに、これらの回路からの検出信号を受けて電圧スイッチのオンデューティ比を低下させる機能を制御ICに設ければよい。」

7 引用例7に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2011-19317号公報(平成23年1月27日公開。以下,これを「引用例7」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

Q 「【0008】
本発明の目的は、複合トランスを用いた絶縁型スイッチング電源の保護回路についての具体的な回路構成を提供するものである。」

R 「【0012】
前記異常検出回路は、必要に応じて1次側又は2次側に備えて、絶縁型スイッチング電源における異常状態を検出する。絶縁型スイッチング電源における異常状態とは、入力の低電圧状態、入力の過電圧状態、出力の低電圧状態、出力の過電圧状態、入力電流の過電流状態、出力電流の過電流状態、又は回路素子の過熱状態の少なくとも何れかである。」


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「スイッチング電源装置1」は,本願発明1の「スイッチング電源装置」に相当し,引用発明の「トランス400」は,本願発明1の「トランス」に相当する。
引用発明の「トランス400の一次側」に設けられる「FET125」は,本願発明1の「1次側に配置された第1スイッチング素子」に相当し,引用発明の,同じく「トランス400の一次側」に設けられる「制御用IC130」は,「FET125のオン/オフを制御するためのIC」であることから,本願発明1の「1次側に配置された第1スイッチング素子を制御する1次側制御IC」に相当するから,引用発明と本願発明1とは,“1次側に配置された第1スイッチング素子を制御する1次側制御IC”を有する点で一致する。

(い)引用発明の「二次側」に設けられる「FET240」は,本願発明1の「2次側に配置された同期整流素子としての第2スイッチング素子」に相当し,引用発明の,同じく「二次側」に設けられる「同期整流用IC230」は,「二次側巻線205に誘起された電圧を整流するFET240のオン/オフを制御するIC」であることから,本願発明1の「2次側に配置された同期整流素子としての第2スイッチング素子を制御する2次側同期整流IC」に相当するから,引用発明と本願発明1とは,“2次側に配置された同期整流素子としての第2スイッチング素子を制御する2次側同期整流IC”を有する点で一致する。

(う)引用発明の「スイッチング電源装置1」は,「一次側回路に入力される交流電力をトランス400によって変換し,二次側回路から一定の直流電力を出力する電源装置」であるから,上記(あ)の認定も踏まえると,引用発明と本願発明1とは,“前記第1スイッチング素子とトランスとを用いて所望の電圧を得るスイッチング電源装置”である点で一致する。

(え)引用発明は,「FET125に供給するスイッチングパルスのデューティー比を変化させることによって二次側巻線205に誘起される電圧を制御する」ものであり,「二次側には,同期整流用IC230とFET240と発光ダイオード280とシャントレギュレータ285とが設けられ」,当該「同期整流用IC230」は,本来,「二次側巻線205に誘起された電圧を整流するFET240のオン/オフを制御するIC」であるものの,「フォトカプラ300を構成」する「発光ダイオード280とフォトトランジスタ140」を通じて,「一次側」に設けられた「フォトトランジスタ140」が,「二次直流電圧V2(DC出力)の電圧値によって光量が変化する発光ダイオード280からの光を受光し,光電変換することによってその受光量に応じた電流を流し,前記フォトトランジスタ140を流れる電流から二次直流電圧V2の電圧値を検出し,二次直流電圧V2の電圧値が一定となるように」上記「二次側巻線205に誘起される電圧」が制御されることから,以上総合すると,引用発明と本願発明1とは,“2次側に配置された前記第2スイッチング素子ではなく,1次側に配置された前記第1スイッチング素子のオンDutyを下げる”点で一致するといえる。

(お)以上,(あ)乃至(え)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
1次側に配置された第1スイッチング素子を制御する1次側制御ICと,2次側に配置された同期整流素子としての第2スイッチング素子を制御する2次側同期整流ICとを備え,前記第1スイッチング素子とトランスとを用いて所望の電圧を得るスイッチング電源装置であって,
2次側に配置された前記第2スイッチング素子ではなく,1次側に配置された前記第1スイッチング素子のオンDutyを下げる
スイッチング電源装置。

〈相違点〉
本願発明1の「2次側同期整流IC」は,「過熱、過電圧、または過負荷の少なくとも1つの異常を検出する異常検出手段を有」し,当該「異常検出手段」が,「前記異常を検出すると、前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から前記異常を伝達する信号を出力する」ことによって,「2次側に配置された前記第2スイッチング素子ではなく、1次側に配置された前記第1スイッチング素子のオンDutyを下げる、またはスイッチング周波数を変化させる」ものであるのに対し,引用発明は,「二次側」に異常検出手段を有するものではなく,単に「二次直流電圧V2(DC出力)の電圧値」によって「FET125に供給するスイッチングパルスのデューティー比を変化させることによって二次側巻線205に誘起される電圧を制御することが可能となる」ものである点。

(2)相違点についての判断
本願発明1は,スイッチング電源装置の変換効率を向上させるために,2次側の整流素子としてダイオードではなく,MOSFETを適用した2次側同期整流方式(本願明細書段落0005)において,従来,MOSFETのオン/オフを制御する2次側に設けられる同期整流ICは,異常発生時にスイッチング電源装置を止める機能は無く,仮に同期整流ICが2次側のMOSFETをオフさせたところで,1次側のスイッチング素子のオン/オフが継続されていてスイッチング電源装置が停止することはなく,また,同期整流ICが2次側のMOSFETをオフさせることで,2次側の損失が大きくなり,異常発熱を起こす場合があることを課題とし(同0008),2次側に同期整流ICを有するスイッチング電源装置において,異常発生を2次側で検知した結果に基づき1次側で対応可能であり,ひいては動作を停止することも可能なスイッチング電源装置を提供することを目的としたものであり(同0010),とりわけ,「2次側同期整流IC」に「過熱、過電圧、または過負荷の少なくとも1つの異常を検出する異常検出手段」を設け,当該「異常検出手段」が,「前記異常を検出すると、前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から前記異常を伝達する信号を出力することによって、2次側に配置された前記第2スイッチング素子ではなく、1次側に配置された前記第1スイッチング素子のオンDutyを下げる、またはスイッチング周波数を変化させる」(請求項1)ことによって,当該課題を解決し,また,このことによって,2次側の同期整流ICが異常を検出すると,それを基に1次側で対応することが可能となる効果(同0012)を奏するものである。
一方引用発明は,本願発明1と同様,二次側に同期整流回路を備えたスイッチング電源装置であって(段落0001),同期整流用MOSFET(同0004)のドレイン電流が流れ始めてから同期整流用MOSFETがオンするまでの間,及び,同期整流用MOSFETがオフしてからドレイン電流がゼロになるまでの間は,同期整流用MOSFETのボディダイオードを介して電流が流れるため,同期整流用MOSFETのドレイン?ソース端子間の電圧はボディダイオードの順方向電圧だけ電圧が降下し,その分だけ電力損失が大きくなるという問題があることを課題とし(同0006),従来と比較して,より電力損失が少なく,高効率のスイッチング電源装置を提供することを目的としたものである(同0007)。
そうすると,単に一次側の「フォトトランジスタ140」が「二次直流電圧V2(DC出力)の電圧値…中略…を検出し,二次直流電圧V2の電圧値が一定となるようにFET125に供給するスイッチングパルスのデューティー比を変化させることによって二次側巻線205に誘起される電圧を制御することが可能となる」に過ぎない引用発明には,「過熱、過電圧、または過負荷の少なくとも1つの異常を検出する異常検出手段」を,「二次側巻線205に誘起された電圧を整流するFET240のオン/オフを制御するIC」である,「同期整流用IC230」に設ける動機付けを見いだすことはできず,また,引用例1には,そのことを示唆する記載もない。
そして,上記第5 2乃至7に示した,その他引用例2乃至7からは,スイッチング電源の二次側の異常を一次側にフィードバックすることは,本願の出願前に周知であったとはいえるものの,相違点に係る構成は記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明からは,当業者といえども相違点に係る構成を導き出すことは容易とはいえず,また,相違点に係る構成は,本願の出願前に周知な構成ともいえない。
さらに,上記第5 2乃至7に示した,引用例2乃至7に記載された技術的事項をもってしても,相違点に係る構成を見いだすことはできず,したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至6について
本願発明2乃至6は,本願発明1を直接若しくは間接的に引用するものであり,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定について

<特許法29条2項について>

審判請求時の補正により,本願発明1乃至6は「2次側同期整流IC」が有する「過熱、過電圧、または過負荷の少なくとも1つの異常を検出する異常検出手段」が,「前記異常を検出すると、前記2次側同期整流ICに設けられた異常時電流出力端子から前記異常を伝達する信号を出力することによって、2次側に配置された前記第2スイッチング素子ではなく、1次側に配置された前記第1スイッチング素子のオンDutyを下げる、またはスイッチング周波数を変化させる」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1乃至7(上記第5の引用例1乃至7)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-06-24 
出願番号 特願2015-40757(P2015-40757)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
山崎 慎一
発明の名称 スイッチング電源装置  
代理人 天田 昌行  
代理人 大菅 義之  
代理人 青木 宏義  

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