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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1363713
審判番号 不服2019-5564  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-25 
確定日 2020-07-01 
事件の表示 特願2017-146603「インクフィルム構築物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月18日出願公開、特開2018- 8520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月5日(パリ条約による優先権主張 国際事務局受理 2012年(平成24年)3月5日 2012年(平成24年)3月6日 2012年(平成24年)3月15日 2012年(平成24年)4月2日 2012年(平成24年)4月30日 2012年(平成24年)5月1日 2012年(平成24年)5月2日 2012年(平成24年)5月10日、米国)を国際出願日とする特願2014-560462号の一部を、平成29年7月28日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年4月19日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月19日:意見書、手続補正書の提出
平成30年12月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年4月25日:審判請求書、手続補正書の提出
令和元年9月9日:上申書の提出

第2 平成31年4月25日提出の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月25日提出の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
「 【請求項10】
以下の:
(a)非被覆繊維性印刷基板および汎用被覆繊維性印刷基板からなる群から選択される第一繊維性印刷基板;ならびに
(b)前記第一印刷基板の表面に固定して接着される少なくとも1個の第一インクドット(前記インクドットは、有機高分子樹脂中に分散される少なくとも1つの着色料を含有し、前記有機高分子樹脂対前記インクドット中の前記着色料の重量比は、少なくとも1.5:1であり、かつ前記有機高分子樹脂が47℃より低いガラス転移温度(Tg)を有し、前記ドットは、2,000nm未満の平均厚および5?300マイクロメートルの直径を有する)
を含むインクフィルム構築物であって、前記インクドットは、平滑円形状からの偏差(DR_(dot))を有し、それは、次式:
(数7)
DR_(dot)=[P^(2)/(4π・A)]-1
(式中、Pは、前記インクドットの測定または算定周囲長であり;
Aは、前記周囲長に含有される最大測定または算定面積である)
で表され、
前記偏差(DR_(dot))が、前記非被覆繊維性印刷基板に関して、最大1.5であり;
前記偏差(DR_(dot))が、前記汎用被覆繊維性印刷基板に関して、最大0.5であり、
前記インクドットの各々が、次式により定義される無次元アスペクト比(R_(aspect))により特性化される:
R_(aspect)=D_(dot)/H_(dot)
(式中、D_(dot)は、ドットの直径であり、H_(dot)は、ドットの平均厚であり、R_(aspect)は、少なくとも50である)インクフィルム構築物。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
「 【請求項10】
以下の:
(a)非被覆繊維性印刷基板および汎用被覆繊維性印刷基板からなる群から選択される第一繊維性印刷基板;ならびに
(b)前記第一印刷基板の表面に固定して接着される少なくとも1個の第一インクドット(前記インクドットは、有機高分子樹脂中に分散される少なくとも1つの着色料を含有し、前記ドットは、2,000nm未満の平均厚および5?300マイクロメートルの直径を有する)
を含むインクフィルム構築物であって、前記インクドットは、平滑円形状からの偏差(DR_(dot))を有し、それは、次式:
(数7)
DR_(dot)=[P^(2)/(4π・A)]-1
(式中、Pは、前記インクドットの測定または算定周囲長であり;
Aは、前記周囲長に含有される最大測定または算定面積である)
で表され、
前記偏差(DR_(dot))が、前記非被覆繊維性印刷基板に関して、最大1.5であり;
前記偏差(DR_(dot))が、前記汎用被覆繊維性印刷基板に関して、最大0.5であり、
前記インクドットの各々が、次式により定義される無次元アスペクト比(R_(aspect))により特性化される:
R_(aspect)=D_(dot)/H_(dot)
(式中、D_(dot)は、ドットの直径であり、H_(dot)は、ドットの平均厚であり、R_(aspect)は、少なくとも50である)インクフィルム構築物。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項10に記載された発明を特定するために必要な事項である「インクドット」について、「前記有機高分子樹脂対前記インクドット中の前記着色料の重量比は、少なくとも1.5:1であり、かつ前記有機高分子樹脂が47℃より低いガラス転移温度(Tg)を有し、」という限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項10に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本願の特許請求の範囲の請求項10に係る発明は、上記1(1)に記載したとおり、本件補正後の特許請求の範囲の請求項10に記載された事項によって特定されるものである(下線部は、補正箇所である。)。

(2)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前に頒布された刊行物である、特開2011-189627号公報(平成23年9月29日公開。以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

(ア)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写型インクジェット記録方法に用いられる反応液ドット形状情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷方式の1つとして、反応液を付与した中間転写体上に、インクジェット記録方法にてインクを吐出して中間画像を形成し、形成した中間画像を記録媒体に転写して最終画像を形成する記録方法(転写型インクジェット記録方法)がある。このような転写型インクジェット記録方法において、反応液を多量に付与、特に中間転写体上に形成される1インクドットの直径以上の大きさとなるように付与すると、中間画像が中間転写体上に付着する力が低下し、画像が乱れる現象が生じることがある。このことから、転写型インクジェット記録方法においては、反応液を、増粘あるいは凝集効果の低下をきたすことない程度に必要十分な量だけ付与することが重要な課題となっている。
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転写型インクジェット記録方法では、中間転写体の画像形成面で、付与された反応液とインクとが確実に接触しなければならない。中間転写体の画像形成面は、記録媒体への転写時におけるインクの離型性が高く、反応液が中間転写体の画像形成面上で濡れ広がりにくくなっている。この結果、特許文献1のように反応液の付与量を少なくすると、中間転写体の画像形成面上での反応液のはじきや、反応液、インク滴の着弾位置ずれなどにより、反応液とインクとが接触しない部分が生じる可能性がある。反応液とインクとが接触しない場合、この部分は未反応領域となってしまう。すると、転写時においてこの部分の画像が乱れてしまい、画像劣化を引き起こす場合がある。このため、付与された反応液の状態を判別できれば、この状態に基づいて反応液の付与量を最適化できる。特に、転写型インクジェット記録方法においては、中間転写体が激しく動くため、インクを付与する前の反応液のドット形状が画像への影響の点で非常に重要な要素である。
【0006】
しかしながら、従来、反応液は一般的に無色透明であることから、インクを付与する前の反応液のドット形状情報を取得することは困難であった。
【0007】
従って、本発明は、中間転写体上における反応液のドット形状情報を良好に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、インクが含有する色材成分を凝集させる反応液を中間転写体の画像形成面に付与する反応液付与工程と、該色材成分を含有するインクを該反応液が付与された中間転写体の画像形成面に付与して中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像が形成された該画像形成面に記録媒体を圧着して該中間画像を該画像形成面から該記録媒体へ転写して画像を形成する転写工程と、を有する転写型インクジェット記録方法に用いられる反応液ドット形状情報取得方法であって、該中間転写体の画像形成面に形成された中間画像もしくは該記録媒体に転写された画像のインクドットの形状を計測し、インクドットの形状の計測結果から反応液ドットの形状情報を取得する反応液ドット形状情報取得方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中間転写体上における反応液のドット形状情報を良好に取得することができる。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、一般的に無色透明で得ることが困難な反応液ドットの形状情報を、インクドットの形状を計測し、この計測結果から取得するものである。さらに、取得した反応液ドットの形状情報を反応液付与にフィードバックし、反応液の付与を変化させると、反応液とインクとが十分に接触し、かつ所望の形状のインクドットを得ることができる。
・・・(省略)・・・
【0013】
(1)転写型インクジェット記録方法
・・・(省略)・・・
【0015】
まず、反応液付与手段を用い、反応液を中間転写体の画像形成面に付与する反応液付与工程を行う。ここでは、反応液付与手段として、インクジェットヘッドデバイス14を用いているが、塗布ローラー等で行ってもよい。次に、インク付与手段を用い、色材成分を含有するインクを上記反応液が付与された中間転写体の画像形成面に付与して中間画像を形成する中間画像形成工程を行う。ここでは、インク付与手段として、インクジェットヘッドデバイス15を用いている。そして、転写手段により、中間画像が形成された画像形成面に記録媒体16を圧着して、中間画像を記録媒体へ転写して画像を形成する転写工程を行う。ここでは、転写手段として、加圧ローラー17を用いている。
【0016】
転写型インクジェット記録方法では、このようにして記録媒体に画像を形成する。尚、図1においては、クリーニングユニット、乾燥機構を示していないが、これらは、例えば中間画像や転写後の中間転写体に対して適用するよう、適宜設けてもよい。
【0017】
(2)反応液ドット形状情報取得方法
本発明者らは、中間転写体の画像形成面に形成された画像もしくは記録媒体に転写された画像のインクドットと、反応液ドットのそれぞれの大きさと、各ドット間における中心間距離によって以下のような現象が発生することに着目した。本発明は、これを利用し、中間転写体の画像形成面に形成された中間画像もしくは記録媒体に転写された画像のインクドットの形状を計測し、インクドットの形状の計測結果から無色透明な反応液ドットの形状情報を取得する方法を提供するものである。
・・・(省略)・・・
【0022】
本発明の反応液ドット形状情報取得方法をさらに具体的に説明する。図1において、記録媒体16に画像を転写した後、撮像部18によって転写した画像を撮像する。撮像部18は図示しないストロボ照明と同期しながら画像データを取得することにより、高速で搬送される記録媒体においても撮像することが可能となる。また、撮像部18は図1における紙面垂直方向にスライドすることで、紙搬送と組み合わせて撮像し、印字範囲全面を撮像することができる。
【0023】
反応液ドットの形状情報を取得するには、各インクドットが離散したパターンであることが好ましく、さらには、画像形成範囲全域に離散したパターンが形成された特定の検査パターンを画像データとして入力して用いることが好ましい。このような検査パターンを使用する場合は、記録媒体やインクの使用量を最低限にするために、記録媒体の搬送速度を低下させ、1画像から印刷範囲全体におけるインクドットの形状を計測することが好ましい。
【0024】
インクドットの形状の計測は、インクドットの中心位置、直径及び真円度の少なくとも1つの計測であることが好ましい。このような形状を計測することで、反応液のドットの形状情報が取得しやすくなる。これらの計測により取得する反応液ドットの形状情報は、反応液ドットの中心位置及び直径の少なくとも1つの情報であることが好ましい。このような情報であると、反応液付与工程へのフィードバックがしやすくなる。
・・・(省略)・・・
【0030】
インクドットの真円度は、例えばインクドットの周囲長の2乗(M<m^(2)>)したものを、インクドットの面積(S<m^(2)>)と、4倍した円周率(4π)で割った値で決定する。即ち、M/(S×4π)である。この値が1に近いほど、真円に近いということである。
【0031】
このようにして計測したインクドットの形状の計測結果を、例えば図2で示すパターンのような事前データ情報と比較することで、反応液ドットの形状情報を取得する。
【0032】
(3)反応液ドット形状情報取得方法を用いた転写型インクジェット記録方法
次に、本発明の反応液ドット形状情報取得方法を用いて、反応液とインクとが十分に接触し、かつ所望の形状のインクドットを得る転写型インクジェット記録方法を説明する。このような転写型インクジェット記録方法では、予めインクドットと反応液ドットに関する事前データを取得しておき、この事前データと実際の記録で取得した反応液ドットの形状情報を比較して、反応液付与にフィードバックする方法が好ましい。
・・・(省略)・・・
【0035】
事前データの取得方法について説明する。例えば、インク及び反応液を、インクジェットヘッドデバイスで付与量を制御しながら、反応液ドット直径、位置の変化に対しどのようにインクドット形状、位置が変化するかを確認する。中間転写体の画像形成面に付与された反応液ドットは、工程におけるばらつきを含むため、塗布位置、量にばらつきがあり、それに対して吐出するインクにおいても同様のばらつきがある。そのため、反応液とインクとの反応においても、ドット中心間距離が0のものから、離れた状態で接触するものまで存在する。この結果、形成画像におけるインクドット形状、位置ずれはある程度のばらつきをもったデータとなる。また、平均値ではなくばらつきを持つデータの最大値、最小値を用いてもよい。インクドットの真円度、直径、中心位置ずれの各パラメータの平均値を図5(a)(b)(c)に示す。図2の条件(b)(1)で示したように、反応液ドット直径がインクドット直径に対しある程度以上大きいと、その真上に着滴したインクドットの直径が通常の状態と比較して小さくなる。図5(a)の点線で囲んだ箇所は、インクドット直径の平均値が下がっており、図2で示した結果と合致している。このように得られた反応液ドット直径とインクドットデータばらつきの相関を、装置の記憶領域にて保管しておく。さらに、印刷物の目標仕様より、形成された画像におけるインクドット形状、位置ばらつきの閾値を定め、同様に記憶領域にて保管しておく。」

(ウ)「【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0040】
本実施例においては、図1と同様の転写型インクジェット記録装置を用いた。支持部材12としては、転写時の加圧に耐え得る剛性や寸法精度について要求される特性から、アルミニウム合金からなる円柱部材を用いた。中間転写体11は、以下のものを用いた。まず、厚さ0.5mmのPETシートに、厚さ0.2mm、ゴム硬度40°のシリコーンゴム(KE12、信越化学製)にコーティングを行った。次にこの表面に、大気圧プラズマ処理装置を用いて表面改質を施した。さらに、この表面を界面活性剤水溶液に浸漬させたのち、水洗し、乾燥させたものを中間転写体11とした。中間転写体11は、両面粘着テープによりベルトに固定されている。
【0041】
まず、上記転写型インクジェット記録装置を用い、事前データを取得した。上記中間転写体は、下記の組成のインクが、液滴体積4plである場合、中間転写体上に着弾するとインクドット直径が40μmになるような表面エネルギー状態である。
【0042】
(インク組成)
・カーボンブラック(三菱化学製、MCF88):3質量部
・スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体(酸価180、重量平均分子量4000):1質量部
・グリセリン:10質量部
・エチレングリコール:5質量部
・界面活性剤(川研ファインケミカル製、アセチレノールEH):1質量部
・イオン交換水:80質量部
最初に、液滴体積1plの下記組成の反応液を、複数回同じ箇所に付与させることで反応液ドット直径を制御して試験を行った。反応の付与は、電気熱変換素子を用いオンデマンド方式にてインク吐出を行うタイプのデバイスを用い、1200dpiの間隔で行った。
【0043】
(反応液組成)
・Mg(NO_(3))2・6H_(2)O:7質量部
・界面活性剤(川研ファインケミカル製、アセチレノールEH):1質量部
・ジエチレングリコール:20質量部
・へキシレングリコール:10質量部
・純水:62質量部
反応液ドット直径の制御は、20、30、40、50μmとした。尚、反応液ドット直径は、光干渉方式の三次元非接触表面形状計測システムにより、静止した状態で測定した。
【0044】
次に、上記組成のインクを、1200dpiの印字分解能において、3ドット×3ドットの9ドットの中心の1ドットに吐出するパターンで、反応液付与と同様のデバイスによって、中間転写体の画像形成面全域に付与した。
【0045】
以上のようにして、中間転写体の画像形成面に中間画像を形成し、中間転写体の画像形成面を記録媒体(坪量;127.9g/m^(2)、日本製紙製、オーロラコート)に圧着し、記録媒体に画像を形成した。
【0046】
本実施例では、事前データとして、ある一定面積内におけるインクドット形状の計測結果から、反応液ドットの形状情報の取得を行った。具体的には、16×16の256ドットでの区画に分割して平均値データを取得した。本実施例では、事前データにおいて、反応液ドット直径設定値を30μm、判定の閾値を30±5μmとした。これは、この範囲を超えると、画像にムラが発生することを目視で確認したためである。
【0047】
次に、上記転写型インクジェット記録装置を用い、通常印字を行った。まず、上記と同様の組成の反応液を、上記と同じデバイスを用い、1200dpiの間隔で中間転写体の画像形成面のインクを付与する領域のみに、インクジェット記録方式で付与した。続いて、上記と同様の組成のインクを、上記と同じデバイスを用い、中間転写体の画像形成面にインクジェット記録方式で付与し、中間画像を形成した。このようにして中間画像を形成した中間転写体の画像形成面に、記録媒体(坪量;127.9g/m^(2)、日本製紙製、オーロラコート)に圧着し、記録媒体に画像を形成した。
【0048】
本実施例では、A4サイズを5000枚印刷後に、インクドットの形状を計測した。インクドットの形状の計測は、光学的に50倍になるレンズを用いて、撮像範囲0.6×0.8mmで、1200×1600pixelの分解能で撮像することで行った。
【0049】
続いて、インクドットの形状の計測結果と事前データとの比較により、反応液ドットの形状情報を取得した。その結果、記録媒体の搬送方向中心(中心から半径1cm以内)付近では、インクドット直径から反応液ドットの直径は32μmと判断した。同様にして、搬送方向両端部(両端部から2cm以内)では、反応液ドットの直径は23μmと判断した。本例においては、反応液ドット直径の閾値を30±5μm以内と設定しており、搬送方向両端部ではこの閾値を超えている。本実施例では、反応液付与手段がインクジェットヘッドデバイスである。従って、上記両端部のインクジェットヘッドデバイスにおける付与量が増えるように、それぞれのノズルからの吐出ドット数を増やすように付与量を調整した。このフィードバックの結果、インクドット直径ばらつきが両端部分と中央部分で抑えられるという顕著な効果が発現した。」

(エ)「【図5】

・・・(省略)・・・



イ 引用発明
上記ア(イ)及び(ウ)の記載からみて、引用文献5(特に、実施例等)には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 下記組成のインクを、1200dpiの印字分解能において、3ドット×3ドットの9ドットの中心の1ドットに吐出するパターンで、中間転写体の画像形成面全域に付与して、中間転写体の画像形成面に中間画像を形成し、
インクドットの真円度、直径、中心位置ずれの各パラメータの平均値を図5(a)(b)(c)に示し、
中間転写体の画像形成面を記録媒体(坪量;127.9g/m^(2)、日本製紙製、オーロラコート)に圧着して形成される、
インクドットが離散したパターン。
(インク組成)
・カーボンブラック(三菱化学製、MCF88):3質量部
・スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体(酸価180、重量平均分子量4000):1質量部
・グリセリン:10質量部
・エチレングリコール:5質量部
・界面活性剤(川研ファインケミカル製、アセチレノールEH):1質量部
・イオン交換水:80質量部
【図5】



ウ 引用文献Aの記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である、特開2010-228392号公報(平成22年10月14日公開。以下「引用文献A」という。)には、以下の記載がある。

「【0061】
2-3.オフセット印刷用塗工紙の風合い
評価プリンターにて所定のパターンをインクジェット印字した。これと同一のパターンをオフセット印刷用塗工紙(オーロラコート:日本製紙社製、坪量104.7g/m^(2))にオフセット印刷した。各インクジェット印刷物の見た目や手触り等の質感をオフセット印刷物と比較し、以下の基準で評価した。」

エ 引用文献Bの記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である、特開2002-69346号公報(平成14年3月8日公開。以下「引用文献B」という。)には、以下の記載がある。

「【0014】本発明では、従来の顔料を分散させた水性インクである樹脂溶解型インクと異なり、皮膜形成性樹脂によって顔料粒子が被覆もしくはカプセル化された着色樹脂粒子水性分散体からなる水性インクを用いて、透気度が1000秒以上の印刷用紙に印刷した場合に、乾燥時間は長くかかるが、極めて滲みの少ない印刷画像が得られる。特に、皮膜形成性樹脂として、少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂を用いることが好ましい。このような皮膜形成性樹脂を用いることによって、該皮膜形成性樹脂を用いたインクジェット記録液の特徴である優れた分散安定性、吐出安定性、定着性に加えて、滲みの少ない印刷画像を得ることができる。
・・・(省略)・・・
【0017】皮膜形成性樹脂は、公知のものであれば特に種類の制限はないが、特に少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂を用いる場合には、好ましくは酸価が50?280のカルボキシル基を有する樹脂が好ましい。またその少なくとも一部が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂の場合は、特に優れた分散安定性を維持することが出来、しかも本発明の下でより滲みの少ない優れた画像の印刷が出来る。
【0018】このような樹脂としては、例えばアクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂等があるが、特に好ましくは、スチレン-(メタ)アクリル酸系樹脂である。尚、本発明で(メタ)アクリルとは、アクリルとメタアクリルとの両方を包含する。
【0019】スチレン-(メタ)アクリル酸系樹脂とは、スチレン系モノマーを必須成分として、(メタ)アクリル酸系モノマー、例えば(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル、を共重合させた樹脂である。
【0020】当該樹脂としては、例えばスチレンあるいはα-メチルスチレンのような置換スチレンと、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸2-エチルヘキシルエステル等のアクリル酸エステルと、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルとから選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位と、アクリル酸、メタクリル酸から選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位とを含む共重合体である。」

オ 引用文献Cの記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である、特開2003-313466号公報(平成15年11月6日公開。以下「引用文献C」という。)には、以下の記載がある。

「【0029】
【発明の実施の形態】以下、本発明を更に詳しく説明する。本発明のインクジェット用インク(インクジェット記録用インク組成物)は、少なくとも色材、水、水溶性有機溶剤および樹脂エマルジョンを含み、前記樹脂エマルジョンを形成する微粒子状樹脂のガラス転移点が0℃?100℃であることを特徴とするものである。
・・・(省略)・・・
【0032】ところが、本発明のように、ガラス転移点が0℃?100℃である樹脂微粒子よりなる樹脂エマルジョンをインクジェット用インク中に含有させた場合、該インクが紙面上及び/又は紙中において乾燥するにあたり、上記樹脂微粒子がお互いに接触・成膜する際、紙の繊維同士を結着させる。このようにしてできた画像部に水が接触し、紙繊維が膨潤しようとしても容易に膨潤できず、また紙繊維同士が結着しているので、紙繊維間の空隙が広がらないことから、画像の流出や画像のにじみが発生しにくくなるものと考えられる。
・・・(省略)・・・
【0035】分散相の樹脂成分としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらのうち、スチレン-アクリル系樹脂が形成画像の耐水性および、インクジェット用インクに含有させた際の保存安定性に優れていることから、特に好ましく用いられる。
【0036】本発明の樹脂エマルジョンは、最低造膜温度が室温以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以下である。樹脂エマルジョンの膜形成を室温以下、特に10℃以下で行なうことができれば、画像形成された記録媒体を加熱又は乾燥等の処理を行なうことなく、上記紙繊維の結着が自動的に進行する。」

カ 引用文献Dの記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である、特開平9-157559号公報(平成9年6月17日公開。以下「引用文献D」という。)には、以下の記載がある。

「【0008】本発明のインクジェット用記録液には,顔料を強固に定着させるために樹脂を含有させることができる。その場合,樹脂と有機顔料の重量比を1:6?6:1とすることにより,有機顔料の安定化およびインクジェット用記録液の被印刷体への密着性,耐水性の向上が得られる。樹脂としては,アクリル系,スチレン-アクリル系,ポリエステル系,ポリアミド系,ポリウレタン系等の水に溶解または分散する水性樹脂が挙げられる。」

キ 引用文献Eの記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である、特開2003-145914号公報(平成15年5月21日公開。以下「引用文献E」という。)には、以下の記載がある。

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、インクドット皮膜の平均厚が均一で、十分な画像品質がコントロールされ、高品質の印字を与えるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0006】1.インクジェット記録方法において、被記録材料上に最終画像として形成されたインクドット皮膜の平均厚が0.5?20μm、皮膜厚の平均値と標準偏差の比が0.01?0.3になるよう制御可能な手段を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0007】2.インクドットの皮膜厚が0.5?10μm、皮膜厚の平均値と標準偏差の比が0.01?0.2になるよう制御可能な手段を有することを特徴とする前記1記載のインクジェット記録方法。
【0008】3.インクドットの滲み度を示す数が0.5?20μm、滲み度の平均値と標準偏差の比が0.01?0.2、円形度を示す係数が100?150、円形度の平均値と標準偏差の比が0.01?0.2になるよう制御可能な手段を有することを特徴とする前記1又は2記載のインクジェット記録方法。
・・・(省略)・・・
【0017】インクジェットインクは、特開2001-164165号、特開2001-139865号、特開2001-98201号、特開2001-88430号、特開2001-199150号等に記載の公知の水性インクを用いることができる。
・・・(省略)・・・
【0024】(円形度および円形度の平均値と標準偏差の比)被記録材料に対して、インクジェット記録装置でドットを印字して、画像解析装置(ニレコ製、ルーゼックス、測定条件:画素数16000、1画素4μm)を用いて下記式によりドット形状係数Kとして評価した。なお、ドット形状係数Kは100に近づくほど真円に近似することを意味する。
【0025】K=1/4π×PM^(2)/A×100
ここで、PMは周囲長(μm)、Aは面積(μm^(2))を示す。」

ク 引用文献Fの記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である、特開平6-954号公報(平成6年1月11日公開。以下「引用文献F」という。)には、以下の記載がある。

「【0009】そこで、本発明はこれらの課題を解決するものであり、その目的とするところは、ホットメルトインク組成物を用いるインクジェット記録方法において、記録物の光透過性および耐擦性の向上にある。さらに詳しくはOHPシートへの印字物のカラー画像投射性の向上、およびOHPシート、紙等の各種記録媒体への印字物の耐擦性の向上にある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明のインクジェット記録方法は、常温で固体のインクを融点より高い温度において液化させて吐出させ、記録媒体上にドットを形成して所望の文字、画像等を記録する記録方法において、前記記録媒体上に形成された記録ドットのアスペクト比(ドット高さ/ドット直径)が0.075以下であることを特徴とする。
・・・(省略)・・・
【0054】表5より明らかなように、0.075以下のアスペクト比をもつ記録ドットにより得られた印字物は、耐擦性が良好である。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明との対比
(ア) 第一繊維性印刷基板
引用発明の「記録媒体」は、「坪量;127.9g/m^(2)、日本製紙製、オーロラコート」であり、「インク」を「吐出」して「中間転写体の画像形成面」に形成された「画像」が「圧着」されるものである。
上記(2)ア(ア)に記載のとおり、引用発明の「記録媒体」は、「印刷方式」の1つである「転写型インクジェット記録方法」で使用されるものであるから(引用文献5の段落【0002】を参照。)、本件補正発明でいう「印刷基板」に該当する。また、上記(2)ウに記載のとおり、引用発明の「記録媒体(坪量;127.9g/m^(2)、日本製紙製、オーロラコート)」は、「オフセット印刷用塗工紙」であるところ、本件明細書の段落【0172】の「繊維性印刷基板350は、種々の汎用被覆繊維性印刷基板のうちの1つ、例えば塗工オフセット紙でもあり得る。」という記載からみて、本件補正発明でいう「汎用被覆繊維性」に該当する。
そうしてみると、引用発明の「記録媒体」は、本件補正発明の「(a)非被覆繊維性印刷基板および汎用被覆繊維性印刷基板からなる群から選択される第一繊維性印刷基板」という要件を満たす。

(イ) インクドット
引用発明の「インクドット」は、「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」及び「カーボンブラック」を含有する「インク」を使用して「中間転写体の画像形成面」に形成され、「記録媒体」に「圧着して形成される」ものである。
引用発明の「インクドット」は、「記録媒体」に「圧着」されて形成されるから、本件補正発明でいう「前記第一印刷基板の表面に固定して接着される」という要件を満たす。また、引用発明の「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」及び「カーボンブラック」は、技術常識からみて、それぞれ、本件補正発明の「有機高分子樹脂」及び「着色料」に該当する。
加えて、引用文献5の段落【0035】及び【図5】(a)には、「インクドット直径」が30μm?50μmの範囲内にあることが看てとれるから、引用発明の「インクドット」は、本件補正発明でいう「5?300マイクロメートルの直径を有する」という要件を満たす。(当合議体注:図5(a)は、中間転写体上のインクドット直径の計測値であるが、記録媒体に転写したときのインクドット径も、「5?300マイクロメートル」の範囲内であることは、技術的にみて明らかである。)
そうしてみると、引用発明の「インクドット」は、本件補正発明でいう「(b)前記第一印刷基板の表面に固定して接着される少なくとも1個の第一インクドット(前記インクドットは、有機高分子樹脂中に分散される少なくとも1つの着色料を含有し」「前記ドットは」「5?300マイクロメートルの直径を有する」という要件を満たす。

(ウ) インクフィルム構築物
引用発明の「インクドットが離散したパターン」は、「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」及び「カーボンブラック」を含有する「インク」を「吐出」して「中間転写体の画像形成面」に形成された「インクドット」を、「記録媒体」に「圧着して形成される」ものである。
前記(2)エ及びオで示したとおり、「スチレン-(メタ)アクリル酸系樹脂」が、皮膜形成性を有することは、当該技術分野において周知の技術事項である。そうしてみると、引用発明の「インク」は、「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」を含有するから、当該「インク」により形成された「インクドット」は、「皮膜」となることは明らかである。そして、「皮膜」は、技術常識からみて「フィルム」であるから、引用発明の「インクドット」は、本件補正発明でいう「インクフィルム」に該当する。また、引用発明の「パターン」は、「記録媒体」と「インクドット」から構成(構築)されるものであるから、本件補正発明でいう「インクフィルム構築物」という要件を満たす。
そうしてみると、引用発明の「インクドットが離散したパターン」は、本件補正発明でいう「インクフィルム構築物」に相当する。

イ 一致点
以上のことから、本件補正発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「 以下の:
(a)非被覆繊維性印刷基板および汎用被覆繊維性印刷基板からなる群から選択される第一繊維性印刷基板;ならびに
(b)前記第一印刷基板の表面に固定して接着される少なくとも1個の第一インクドット(前記インクドットは、有機高分子樹脂中に分散される少なくとも1つの着色料を含有し、前記ドットは、5?300マイクロメートルの直径を有する)
を含むインクフィルム構築物。」

ウ 相違点
本件補正発明と引用発明は、以下の点で相違、又は一応相違する。
(ア) 相違点1
「有機高分子樹脂対インクドット中の着色料の重量比」が、本件補正発明は、「少なくとも1.5:1」であるのに対して、引用発明は、「1:3」である点。

(イ) 相違点2
「有機高分子樹脂」の「ガラス転移温度(Tg)」が、本件補正発明は、「47℃より低い」のに対して、引用発明は、これが明らかでない点。

(ウ) 相違点3
「ドット」の「平均厚」が、本件補正発明は、「2,000nm未満」であるのに対して、引用発明は、これが一応、明らかでない点。

(エ) 相違点4
「インクドット」の「平滑円形状からの偏差(DR_(dot))」が、本件補正発明は、「DR_(dot)=[P^(2)/(4π・A)]-1」、「式中、Pは、前記インクドットの測定または算定周囲長であり」、「Aは、前記周囲長に含有される最大測定または算定面積である」で表され、「前記非被覆繊維性印刷基板に関して、最大1.5であり」「前記汎用被覆繊維性印刷基板に関して、最大0.5」であるのに対して、引用発明は、これが一応、明らかでない点。

(オ) 相違点5
「インクドット」の「無次元アスペクト比(Raspect)」が、本件補正発明は、「R_(aspect)=D_(dot)/H_(dot)」「式中、D_(dot)は、ドットの直径」、「H_(dot)は、ドットの平均厚」で表され、「少なくとも50」であるのに対し、引用発明では、これが一応、明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点1
前記(2)カで述べたとおり、樹脂と有機顔料の重量比を1:6?6:1とすることにより,「有機顔料の安定化」、「インクジェット用記録液の被印刷体への密着性」及び「耐水性の向上」のために、インクジェット用記録液において、樹脂と有機顔料の重量比を1:6?6:1とすることは、周知の技術事項である。
そうしてみると、引用発明の「インクドットが離散したパターン」において、本件補正発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、「有機顔料の安定化」、「インクジェット用記録液の被印刷体への密着性」及び「耐水性の向上」を勘案し、引用文献Dの記載を参照して、インクの「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」及び「カーボンブラック」の含有比を調整し、その値について本件補正発明の構成を満足するように設定することは、通常の創意工夫の範囲内のものにすぎない。

イ 相違点2
前記(2)オで述べたとおり、「色材、水、水溶性有機溶剤および樹脂エマルジョン」を含む「インクジェット用インク」において、「樹脂エマルジョン」として「ガラス転移点が0℃?100℃である樹脂微粒子」を使用することにより、「画像の流出」や「画像のにじみ」の発生が抑制できることは、周知の技術事項である。
そうしてみると、引用発明の「インクドットが離散したパターン」において、画像の流出や画像のにじみの発生の抑制を勘案した当業者が、引用文献Cの記載を参照して、「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」のガラス転移温度を調整し、その値について本件補正発明の構成を満足するように設定することは、通常の創意工夫の範囲内のものにすぎない。

ウ 相違点3
引用文献5の段落【0041】に、「上記中間転写体は、下記の組成のインクが、液滴体積4plである場合、中間転写体上に着弾するとインクドット直径が40μmになるような表面エネルギー状態である。」と記載されていることからみて、引用発明の「インク」は、4plの液滴体積でインクジェット記録装置から吐出されることが想定されているといえる。
そして、引用発明の「インク」は、固形分が5%程度であること(当合議体注:インクにおける固形分をカーボンブラック(3質量部)、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体(1質量部)、界面活性剤(1質量部)とすると、その含有割合は、5÷100=5%)、当該インクから形成される「インクドット」の直径が30?50μm程度であることからみて、インクドットの平均厚は、高々101.9?283.1nmの範囲内にあると算出できる(当合議体注:直径30μmのインクドットの面積は、π×(30÷2)^(2)=706.5μm^(2)だから、直径30μmで4pl(=4000μm^(3))の体積を有するインクの高さは、4000÷706.5=5.662μm=5662nm。したがって、インクの固形分が5%程度であることを考慮すれば、形成される画像の厚さは、5662×5%=283.1nm。同様に、直径50μmで4plの体積を有するインクドットの高さは、101.9nm。)。したがって、引用発明の「インクドット」は、平均厚について、本件補正発明の「2,000nm未満」という要件を満たす。
そうしてみると、上記相違点3は、実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、前記(2)キで述べたとおり、「インクジェット記録方法において」、「高品質の印字」を与えるために、「インクドットの皮膜厚」を0.5?10μm程度とすることは、周知の技術事項である。そうしてみると、引用発明の「インクドット」の「平均厚」について、本件補正発明の「2,000nm未満」という要件を満たすように調整することは、当業者の通常の創意工夫の範囲内のものにすぎない。

エ 相違点4
引用文献5の段落【0035】及び【図5】(c)に、「インクドットの真円度」が1.1?1.4の範囲にあることが記載されている。上記「インクドットの真円度」を、本件補正発明の(数7)に基づき、本件補正発明の「平滑円形状からの偏差(DR_(dot))」に換算すると、その値は0.1?0.4となる。そして、引用発明の「インクドット」は、「汎用被覆繊維性印刷基板」である「記録媒体」上に形成されているから、引用発明の「インクドット」は、「平滑円形状からの偏差(DR_(dot))」について、本件補正発明の「前記汎用被覆繊維性印刷基板に関して、最大0.5」であるという要件を満たす。
そうしてみると、上記相違点4は、実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、前記(2)キで述べたとおり、「インクジェット記録方法において」、「高品質の印字」を与えるために、「インクドット」の「円形度」(100に近づくほど真円に近似する)を100?150程度とすることは、周知の技術事項である。そうしてみると、引用発明の「インクドット」の「平滑円形状からの偏差(DR_(dot))」について、本件補正発明の「前記非被覆繊維性印刷基板に関して、最大1.5」または「前記汎用被覆繊維性印刷基板に関して、最大0.5」という要件を満たすように調整することは、当業者の通常の創意工夫の範囲内のものにすぎない。

オ 相違点5
上記ウで述べたとおり、引用発明の「インクドット」は、直径が30μmのインクドットから構成されるとき、その厚さは283.1nmである。そうしてみると、「R_(aspect)=D_(dot)/H_(dot)」で定義されるR_(aspect)=は、106.0(=30μm÷283.1nm)となり、無次元アスペクト比について本件補正発明の「少なくとも50」であるという要件を満たす(当合議体注:このことは、直径が50μmのインクドット(無次元アスペクト比は490.7)についても同様である。)。
そうしてみると、上記相違点4は、実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、前記(2)クで述べたとおり、「0.075以下のアスペクト比(ドット高さ/ドット直径)をもつ記録ドットにより得られた印字物は、耐擦性が良好である」ことは、周知の技術事項である(当合議体注:引用文献Fに記載の「アスペクト比」は、「ドット高さ/ドット直径」で定義されるものであるから、これは、技術常識からみて、本件補正発明でいう「無次元アスペクト比」の逆数に相当する。)。そうしてみると、引用発明の「インクドット」の「無次元アスペクト比」について、本件補正発明の「少なくとも50」という要件を満たすように調整することは、当業者の通常の創意工夫の範囲内のものにすぎない。

カ 本願発明の効果について
上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献A?Fに記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものである。

キ 上申書について
(ア) 出願人は、令和元年9月9日提出の上申書において、「液滴体積、ドット直径およびインク固形分とは別に、他のパラメータが最終的な基板表面上のインクドットの高さに影響を与える可能性があります。従って、審査官殿の提示された数値は、インクドットの寸法に影響を与える可能性のある他の因子を考慮に入れずに計算によって算出された理論値である可能性があります。」と主張している。
しかしながら、出願人は、「最終的な基板表面上のインクドットの高さに影響を与える」「他の因子」について何ら説明をしていない。また、前記(2)キで述べたとおり、「画像品質」が「インクドット皮膜の平均厚」に依存することは、周知の技術事項である。そうしてみると、「最終的な基板表面上のインクドットの高さ」は、印刷物の目標仕様(画像品質等)に応じて、適宜設計しうる事項である。

(イ) また、出願人は、上申書において、「本願の発明者は、特定の樹脂と着色料の比率が、本インクフィルム構築物の操作で用いる間接印刷方式において、「画像転写成員」(ITM)から、最終的な基板にインクドットを転写するのに有意であることを発見しました。この有意な転写は、結果物の印刷画像の品質に直接関係しています。この利点は、引用文献を参照しても、当業者が容易に想到し得る論理付けができません。」と主張している。
しかしながら、本件明細書において、特定の樹脂と着色料の比率が、本インクフィルム構築物の操作で用いる間接印刷方式において、「画像転写成員」(ITM)から、最終的な基板にインクドットを転写するのに有意であることについて、具体的に検証されておらず、本件明細書の記載からは、特定の樹脂と着色料の比率を調整することについて、顕著な効果があると認めることはできない。

(ウ) したがって、出願人の主張は採用しない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年4月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年10月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、[A]この出願の下記の請求項に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、[B]この出願の請求項1?14に係る発明は、本件優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?6に記載された事項に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開2003-292855号公報
2.特開2004-34441号公報
3.特開2004-25708号公報
4.特開2004-9632号公報
5.特開2011-189627号公報
6.特開2006-95870号公報

3 引用文献の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献5の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記有機高分子樹脂対前記インクドット中の前記着色料の重量比は、少なくとも1.5:1であり、かつ前記有機高分子樹脂が47℃より低いガラス転移温度(Tg)を有し」という限定事項を削除したものである。
そうすると、前記第2の[理由]2(3)及び(4)の(相違点3)?(相違点5)についての検討を考慮すると、本願発明と引用発明は、発明の構成に差異がない。
また、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明は、前記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献A?Fに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献A?Fに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-30 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2017-146603(P2017-146603)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 113- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
発明の名称 インクフィルム構築物  
代理人 小田 直  
代理人 高岡 亮一  
代理人 高橋 香元  

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