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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1363908
審判番号 不服2020-2581  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2020-07-06 
事件の表示 特願2019- 81045「レーザ加工システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019-161232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月13日に出願された特願2011-131491号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年10月13日に新たな特許出願(特願2015-202032号)とし,さらに,その一部を平成28年7月4日に新たな特許出願(特願2016-132264号)とし,さらに,その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-26939号)とし,さらに,その一部を同年6月27日に新たな特許出願(特願2017-125526号)とし,さらに,その一部を平成30年5月22日に新たな特許出願(特願2018-97877号)とし,さらに,その一部を平成31年1月18日に新たな特許出願(特願2019-7299号)とし,さらに,その一部を平成31年3月13日に新たな特許出願(特願2019-46060号)とし,さらに,その一部を平成31年4月22日に新たな特許出願(特願2019-81045号)としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
令和 元年 7月18日:拒絶理由通知(起案日)
令和 元年11月18日:意見書
令和 元年11月25日:拒絶査定(起案日)
令和 2年 2月26日:審判請求,手続補正書
令和 2年 4月21日:上申書

第2 令和2年2月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
チップ強度の向上を図るレーザ加工システムにおいて,
対物レンズを通してウェハのデバイス面を撮像する撮像手段と,
前記対物レンズを光軸方向に微動させて前記対物レンズの集光点の位置を調整する対物レンズ微動手段と,
前記対物レンズを通して,前記デバイス面とは反対側である前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射して,前記ウェハの内部の中間位置よりも深く,前記ウェハのデバイス面から所定距離離れた目標位置よりも手前側の位置に前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に微小空孔を有する改質領域を形成するレーザ光照射手段と,
前記ウェハの裏面側から,前記レーザ光の集光点までを含むレーザ光通過部分全体を研削除去するとともに前記改質領域内の前記微小空孔を前記ウェハの厚み方向に進展させて,前記ウェハの厚みを前記目標位置以下とする研削手段と,
を備える,レーザ加工システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
チップ強度の向上を図るレーザ加工システムにおいて,
対物レンズを通してウェハのデバイス面を撮像する撮像手段と,
前記対物レンズを光軸方向に微動させて前記対物レンズの集光点の位置を調整する対物レンズ微動手段と,
前記対物レンズを通して,前記デバイス面とは反対側である前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射して,前記ウェハの内部の中間位置よりも深く,前記ウェハのデバイス面から所定距離離れた目標位置よりも手前側の位置に前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に改質領域を形成するレーザ光照射手段と,
前記ウェハの裏面側から,前記レーザ光の集光点までを含むレーザ光通過部分全体を研削除去し,前記ウェハの厚みを前記目標位置以下とする研削手段と,
を備える,レーザ加工システム。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「レーザ光照射手段」,及び,「研削手段」について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,国際公開第03/77295号(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付加した。以下同じ。)
「背景技術
近年の半導体デバイスの小型化に伴い,半導体デバイスの製造工程において,半導体基板が数10μm程度の厚さにまで薄型化されることがある。」(明細書第1ページ第6-8行)

「また,基板を研磨する工程は,基板の裏面にケミカルエッチングを施す工程を含むことが好ましい。基板の裏面にケミカルエッチングを施すと,基板の裏面がより平滑化されることは勿論であるが,切断起点領域を起点として発生した割れによる基板の切断面が互いに密着しているため,当該切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取りされた状態となる。したがって,基板を分割することで得られるチップの抗折強度を向上させることができると共に,チップにおけるチッピングやクラッキングの発生を防止することが可能となる。」(明細書第3ページ第8-14行)

「図23Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図23Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図24Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図25Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図25Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。」(明細書第5ページ第4-21行)

「図1及び図2に示すように,基板1の表面3には,基板1を切断すべき所望の切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である(基板1に実際に線を引いて切断予定ライン5としてもよい)。本実施形態に係るレーザ加工は,多光子吸収が生じる条件で基板1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを基板1に照射して改質領域7を形成する。なお,集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより,集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより,図3?図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って基板1の内部にのみ形成され,この改質領域7でもって切断予定部9が形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は,基板1がレーザ光Lを吸収することにより基板1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。基板1にレーザ光Lを透過させ基板1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって,基板1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので,基板1の表面3が溶融することはない。
基板1の切断において,切断する箇所に起点があると基板1はその起点から割れるので,図6に示すように比較的小さな力で基板1を切断することができる。よって,基板1の表面3に不必要な割れを発生させることなく基板1の切断が可能となる。
なお,切断予定部を起点とした基板の切断には,次の2通りが考えられる。1つは,切断予定部形成後,基板に人為的な力が印加されることにより,切断予定部を起点として基板が割れ,基板が切断される場合である。これは,例えば基板の厚さが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは,例えば,基板の切断予定部に沿って基板に曲げ応力やせん断応力を加えたり,基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。」(明細書第7ページ第15行-第8ページ第13行)

「[実施例 1]
本発明に係る基板の分割方法の実施例1について説明する。実施例1では,基板1をシリコンウェハ (厚さ350μm,外径4インチ)とし(以下,実施例1では「基板1」を「半導体基板1」という),デバイス製作プロセスにおいて半導体基板1の表面3に複数の機能素子がマトリックス状に形成されたものを対象とする。
まず,半導体基板1の内部に切断起点領域を形成する工程について説明するが,その説明に先立って,切断起点領域を形成する工程において使用されるレーザ加工装置について,図14を参照して説明する。図14はレーザ加工装置100の概略構成図である。
レーザ加工装置100は,レーザ光Lを発生するレーザ光源101と,レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と,レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイツクミラー103と,ダイクロイツクミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と,集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される半導体基板1が載置される載置台107と,載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と,載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と,載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と,これら3つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115とを備える。
Z軸方向は半導体基板1の表面3と直交する方向なので,半導体基板1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって,Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより,半導体基板1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また,この集光点PのX(Y)軸方向の移動は,半導体基板1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。」(明細書第14ページ第19行-第15ページ第19行)

「レーザ加工装置100はさらに,載置台107に載置された半導体基板1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119とを備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイツクミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は,可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され,この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し,半導体基板1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
レーザ加工装置100はさらに,ビームスプリッタ119,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCDカメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は,集光用レンズ105,ダイクロイックミラー103,ビームスプリッタ119を透過し,結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され,撮像データとなる。」(明細書第16ページ第1-16行)

「続いて,レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて,レーザ光Lを半導体基板1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは半導体基板1の内部に位置しているので,溶融処理領域は半導体基板1の内部にのみ形成される。そして,切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて,切断予定ライン5に沿うよう形成された溶融処理領域でもって切断予定ライン5に沿う切断起点領域を半導体基板1の内部に形成する(S113)。
以上により切断起点領域を形成する工程が終了し,半導体基板1の内部に切断起点領域が形成される。半導体基板1の内部に切断起点領域が形成されると,自然に或いは比較的小さな力によって,切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生する。
実施例1では,上述した切断起点領域を形成する工程において,半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生している。図16は切断起点領域形成後の半導体基板1を示す図である。図16に示すように,半導体基板1において切断起点領域を起点として発生した割れ15は,切断予定ラインに沿うよう格子状に形成され,半導体基板1の表面3にのみ到達し,裏面21には到達していない。すなわち,半導体基板1に発生した割れ15は,半導体基板1の表面にマトリックス状に形成された複数の機能素子19を個々に分割している。また,この割れ15により切断された半導体基板1の切断面は互いに密着している。
なお,「半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成されることを意味する。つまり,半導体基板1の厚さ方向における改質領域の幅の中心位置が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置から表面3側に偏倚して位置している場合を意味し,改質領域の全ての部分が半導体基板1の厚さ方向における中心位置に対して表面3側に位置している場合のみに限る意味ではない。
次に,半導体基板1を研磨する工程について,図17?図21を参照して説明する。図17?21は,半導体基板を研磨する工程を含む各工程を説明するための図である。なお,実施例1では,半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化される。
図17に示すように,上記切断起点領域形成後の半導体基板1の表面3に保護フィルム20が貼り付けられる。保護フィルム20は,半導体基板1の表面3に形成されている機能素子19を保護すると共に,半導体基板1を保持するためのものである。続いて,図18に示すように,半導体基板1の裏面21が平面研削され,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングが施されて,半導体基板1が50μmに薄型化される。これにより,すなわち半導体基板1の裏面21の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れ15に裏面21が達して,機能素子19それぞれを有する半導体チップ25に半導体基板1が分割される。」(明細書第18ページ第14行-第20ページ第1行)

「また,半導体基板を研磨する工程においては,半導体基板1の裏面21にケミカルエッチングを施すため,半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の裏面をより平滑化することができる。さらに,切断起点領域を起点として発生した割れ15による半導体基板1の切断面が互いに密着しているため,図22に示すように,当該切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取り29が形成される。したがって,半導体基板1分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に,半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することが可能となる。
なお,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがある。各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図23A,図24A及び図25Aは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり,図23B,図24B及び図25Bは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23B,図24B及び図25Bの場合にも,半導体基板を研磨する工程後には,割れ15が半導体基板15の表面3に達する。
図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。
図24A及び図24Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25A及び図25Bに示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
また,図23A,図24A及び図25Aに示すように,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ,図23B,図24B及び図25Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する。
ところで,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に到達するか否かは,溶融処理領域13の表面3からの深さに関係するのは勿論であるが,溶融処理領域13の大きさにも関係する。すなわち,溶融処理領域13の大きさを小さくすれば,溶融処理領域13の表面3からの深さが浅い場合でも,割れ15は半導体基板1の表面3に到達しない。溶融処理領域13の大きさは,例えば切断起点領域を形成する工程におけるパルスレーザ光の出力により制御することができ,パルスレーザ光の出力を上げれば大きくなり,パルスレーザ光の出力を下げれば小さくなる。」(第21ページ第13行?第22ページ第26行)

「また,レーザ光Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよい。」(明細書第24ページ第21-23行)













図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図であって,同図から,
デバイス面とは反対側であるウェハの裏面側からみて,研磨前のウェハの内部の中間位置よりも深く,かつ,ウェハのデバイス面から所定距離離れた研磨後に裏面となる位置,すなわち目標位置よりも手前側の位置に,レーザ光を集光すること,及び,
半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していないことを見て取ることができる。

(イ)上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。),及び,技術的事項が記載されていると認められる。
<引用発明>
「基板の分割に用いる設備であって,
基板は,シリコンウェハ (厚さ350μm,外径4インチ)とし(以下,「基板」を「半導体基板」という),デバイス製作プロセスにおいて半導体基板の表面に複数の機能素子がマトリックス状に形成されたものを対象とするものであり,
前記設備は,切断起点領域を形成する工程において使用するレーザ加工装置を備え,
レーザ加工装置は,レーザ光を発生するレーザ光源と,レーザ光の出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源を制御するレーザ光源制御部と,レーザ光の反射機能を有しかつレーザ光の光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイツクミラーと,ダイクロイツクミラーで反射されたレーザ光を集光する集光用レンズと,集光用レンズで集光されたレーザ光が照射される半導体基板が載置される載置台と,載置台をX軸方向に移動させるためのX軸ステージと,載置台をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージと,載置台をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージと,これら3つのステージの移動を制御するステージ制御部とを備えるものであって,
Z軸方向は半導体基板の表面と直交する方向なので,半導体基板に入射するレーザ光の焦点深度の方向となり,よって,Z軸ステージをZ軸方向に移動させることにより,半導体基板の内部にレーザ光の集光点を合わせることができるものであり,
レーザ加工装置はさらに,ビームスプリッタ,ダイクロイックミラー及び集光用レンズと同じ光軸上に配置された撮像素子及び結像レンズを備え,撮像素子としては例えばCCDカメラがあり,切断予定ライン等を含む表面を照明した可視光線の反射光は,集光用レンズ,ダイクロイックミラー,ビームスプリッタを透過し,結像レンズで結像されて撮像素子で撮像され,撮像データとなるものであり,
レーザ光源からレーザ光を発生させて,レーザ光を半導体基板の表面の切断予定ラインに照射し,レーザ光の集光点は半導体基板の内部に位置しているので,溶融処理領域は半導体基板の内部にのみ形成され,そして,切断予定ラインに沿うようにX軸ステージやY軸ステージを移動させて,切断予定ラインに沿うよう形成された溶融処理領域でもって切断予定ラインに沿う切断起点領域を半導体基板の内部に形成し,切断起点領域を形成するものであり,
上述した切断起点領域を形成する工程において,半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板の厚さ方向に割れが発生し,半導体基板において切断起点領域を起点として発生した割れは,切断予定ラインに沿うよう格子状に形成され,半導体基板の表面にのみ到達し,裏面には到達していないものであり,
ここで,「半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面側に偏倚して形成されることを意味するものであり,
前記設備は,更に,半導体基板を研磨する工程で使用する装置を備え,
半導体基板を研磨する工程では,半導体基板が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化されるものであり,
半導体基板の裏面が平面研削され,この平面研削後に裏面にケミカルエッチングが施されて,半導体基板が50μmに薄型化され,これにより,すなわち半導体基板の裏面の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れに裏面が達して,機能素子それぞれを有する半導体チップに半導体基板が分割されるものである,
基板の分割に用いる設備。」

<技術的事項>
・基板を研磨する工程が,基板の裏面にケミカルエッチングを施す工程を含むことで,基板を分割することで得られるチップの抗折強度を向上させることができること。

・基板の切断において,切断する箇所に起点があると基板はその起点から割れるので,比較的小さな力で基板を切断することができるものであり,切断予定部を起点とした基板の切断には,切断予定部形成後,基板に人為的な力が印加されることにより,切断予定部を起点として基板が割れ,基板が切断される場合があり,人為的な力が印加されるとは,例えば,基板の切断予定部に沿って基板に曲げ応力やせん断応力を加えたり,基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることであること。

・溶融処理領域が切断面内に残存しない半導体チップは,溶融処理領域が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効であること。

・半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達している場合に比べ,半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性がより向上すること。

・レーザ光の照射は,基板の表面側から行ってもよいし,裏面側から行ってもよいこと。

・半導体基板を研磨する工程後の半導体チップと溶融処理領域との関係としては,種々のものがあり,それぞれの関係で,それぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができるところ,引用文献1に記載された実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップと溶融処理領域との関係においては,デバイス面とは反対側であるウェハの裏面側からみて,研磨前のウェハの内部の中間位置よりも深く,かつ,ウェハのデバイス面から所定距離離れた研磨後に裏面となる位置,すなわち目標位置よりも手前側の位置に,レーザ光を集光することで,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しないようにすることで,溶融処理領域が半導体デバイスに与える悪影響を避けるとともに,半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していないようにすることで,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性をより向上させることができること。

イ 引用文献2
(ア)原査定に引用され,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2002-192370号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。
「【請求項1】 加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する工程を備える,レーザ加工方法。
【請求項2】 加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成する工程を備える,レーザ加工方法。
・・・
【請求項6】 前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは,一つのレーザ光源から出射されたレーザ光を集光して前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射する,請求項1?5のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項7】 前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは,複数のレーザ光源から出射された各レーザ光を前記加工対象物の内部に集光点を合わせて異なる方向から照射する,請求項1?5のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項8】 前記複数のレーザ光源から出射された各レーザ光は,前記加工対象物の前記表面から入射する,請求項7記載のレーザ加工方法。
【請求項9】 前記複数のレーザ光源は,前記加工対象物の前記表面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と,前記加工対象物の裏面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と,を含む請求項7記載のレーザ加工方法。
【請求項15】 前記加工対象物は半導体材料を含む,請求項1?12のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項16】 前記加工対象物は照射されたレーザ光の透過性を有する,請求項1?15のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項17】 前記加工対象物の前記表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている,請求項1?16のいずれかに記載のレーザ加工方法。」

「【0006】本発明の目的は,加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供することである。」

「【0011】本発明に係るレーザ加工方法によれば,加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射している。このため,加工対象物の内部では多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され,これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。このクラック領域は上記改質領域の一例であるので,本発明に係るレーザ加工方法によれば,加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく,レーザ加工が可能となる。」

「【0044】次に,本実施形態の具体例を説明する。
[第1例]本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法について説明する。図14はこの方法に使用できるレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置100は,レーザ光Lを発生するレーザ光源101と,レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と,レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と,ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と,集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と,載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と,載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と,載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と,これら三つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115と,を備える。
【0045】Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので,加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって,Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより,加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また,この集光点PのX(Y)軸方向の移動は,加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
・・・
【0047】第1例では加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが,多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。なお,本発明においてレーザ光はレーザビームを含む意味である。集光用レンズ105は集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105をZ軸方向に移動させることによっても,レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。」

「【0065】[第2例]次に,本実施形態の第2例について説明する。この例は光透過性材料の切断方法及び切断装置である。光透過性材料は加工対象物の一例である。この例では,光透過性材料としてLiTaO_(3)からなる厚さが400μm程度の圧電素子ウェハ(基板)を用いている。」

「【0076】上述した所望の切断パターンに沿ってクラック領域9が形成されると(S219),物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内,特にクラック領域9が形成された部分に応力を生じさせて,切断対象材料の内部(集光点及びその近傍)のみに形成されたクラック領域9を成長させて,切断対象材料をクラック領域9が形成された位置で切断する(S221)。」

「【0080】圧電デバイスチップ37が圧電素子ウェハ31から分離されると吸引チャック34及び加圧ニードル36をウェハシート33から離れる方向に移動させる。吸引チャック34及び加圧ニードル36が移動すると,分離された圧電デバイスチップ37は吸引チャック34に吸着しているので,図32に示されるように,ウェハシート33から離されることになる。このとき,図示しないイオンエアーブロー装置を用いて,イオンエアーを図32中矢印B方向に送り,分離されて吸引チャック34に吸着している圧電デバイスチップ37と,ウェハシート33に保持されている圧電素子ウェハ31(表面)とをイオンエアー洗浄している。なお,イオンエアー洗浄の代わりに,吸引装置を設けて,塵等を吸引することで切断分離された圧電デバイスチップ37及び圧電素子ウェハ31の洗浄を行うようにしてもよい。環境変化により切断対象材料を切断する方法としては,内部のみにクラック領域9が形成された切断対象材料に対して温度変化を与える方法が存在する。このように,切断対象材料に対して温度変化を与えることにより,クラック領域9が形成されている材料部分に熱応力を生じさせて,クラック領域9を成長させて切断対象材料を切断することができる。
【0081】このように,第2例においては,集光用レンズ105により,レーザ光源101から出射されたレーザ光Lを,その集光点が光透過性材料(圧電素子ウェハ31)の内部に位置するように集光することで,集光点におけるレーザ光Lのエネルギー密度が光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊のしきい値を越え,光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみに微小なクラック領域9が形成される。そして,形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料が切断されるので,発塵量が極めて低く,ダイシング傷,チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また,光透過性材料は,光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊により形成されたクラック領域9に沿って切断されるので,切断の方向安定性が向上し,切断方向の制御を容易に行うことができる。また,ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して,ダイシング幅を小さくすることができ,1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果,第2例によれば,極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。
【0082】また,物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内に応力を生じさせることにより,形成されたクラック領域9を成長させて光透過性材料(圧電素子ウェハ31)を切断するので,形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料を確実に切断することができる。」

「【0087】また,第2例においては,改質部(クラック領域9)の形成がレーザ光Lによる非接触加工にて実現されるため,ダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性,交換頻度等の問題が生じることはない。また,第2例においては,上述したように,改質部(クラック領域9)の形成がレーザ光Lによる非接触加工にて実現されるため,光透過性材料を完全に切断しない,光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って,光透過性材料を切断することが可能である。本発明は,前述した第2例に限定されるものではなく,たとえば,光透過性材料は圧電素子ウェハ31に限られることなく,半導体ウェハ,ガラス基板等であってもよい。レーザ光源101も,切断する光透過性材料の光吸収特性に対応して適宜選択可能である。また,第2例においては,改質部として,レーザ光Lを照射することにより微小なクラック領域9を形成するようにしているが,これに限られるものではない。たとえば,レーザ光源101として超短パルスレーザ光源(たとえば,フェムト秒(fs)レーザ)を用いることで,屈折率変化(高屈折率)による改質部を形成することができ,このような機械的特性の変化を利用してクラック領域9を発生させることなく光透過性材料を切断することができる。
【0088】また,レーザ加工装置100において,Z軸ステージ113を移動させることによりレーザ光Lのフォーカス調整を行うようにしているが,これに限られることなく,集光用レンズ105をレーザ光Lの光軸方向に移動させることによりフォーカス調整を行うようにしてもよい。」

(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
・半導体材料を含む加工対象物の内部に集光点を合わせて,レーザ光を照射することで,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成することができること。

・加工対象物の内部では多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し,この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され,これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成され,このクラック領域は改質領域の一例であること。

・レーザ加工装置は,載置台をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージを備えるが,Z軸ステージはレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例であり,集光用レンズをZ軸方向に移動させることによっても,レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができること。

・所望の切断パターンに沿ってクラック領域が形成されると,物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内,特にクラック領域が形成された部分に応力を生じさせて,切断対象材料の内部(集光点及びその近傍)のみに形成されたクラック領域を成長させて,切断対象材料をクラック領域が形成された位置で切断することができること。

・環境変化により切断対象材料を切断する方法としては,内部のみにクラック領域が形成された切断対象材料に対して温度変化を与える方法が存在し,このように,切断対象材料に対して温度変化を与えることにより,クラック領域が形成されている材料部分に熱応力を生じさせて,クラック領域を成長させて切断対象材料を切断することができること。

ウ 引用文献3
(ア)原査定に引用され,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-175147号公報(以下「引用文献3」という。)には,次の記載がある。
「【0013】
図1は,本発明に係るレーザーダイシング装置の概略構成図である。ダイシング装置10では,ウェーハは図4に示すように,一方の面に粘着材を有するダイシングシートSに貼付され,このダイシングシートSを介してフレームFと一体化された状態で搬入され,ダイシング装置10内を搬送される。
【0014】
レーザーダイシング装置10は,図1に示すように,ウェーハ移動部11,レーザー光学部20と観察光学部30とからなるレーザーヘッド40,制御部50等から構成されている。
【0015】
ウェーハ移動部11は,レーザーダイシング装置10の本体ベース16に設けられたXYZθテーブル12,XYZθテーブル12に載置されダイシングシートSを介してフレームFにマウントされたウェーハWを吸着保持する吸着ステージ13等からなっている。このウェーハ移動部11によって,ウェーハWが図のXYZθ方向に精密に移動される。
【0016】
レーザー光学部20は,レーザー発振器21,コリメートレンズ22,ハーフミラー23,コンデンスレンズ(集光レンズ)24,レーザー光をウェーハWに対して平行に微小移動させる駆動手段25等で構成されている。
【0017】
また,観察光学部30は,観察用光源31,コリメートレンズ32,ハーフミラー33,コンデンスレンズ34,観察手段としてのCCDカメラ35,画像処理装置38,テレビモニタ36等で構成されている。
【0018】
レーザー光学部20では,レーザー発振器21から発振されたレーザー光はコリメートレンズ22,ハーフミラー23,コンデンスレンズ24等の光学系を経てウェーハWの内部に集光される。ここでは,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2) )以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で,ダイシングシートに対して透過性を有するレーザー光が用いられる。集光点のZ方向位置は,後出のZ微動手段27によるコンデンスレンズ24のZ方向微動によって調整される。」

「【0025】
図2は,駆動手段25の細部を説明する概念図である。駆動手段25は,コンデンスレンズ24を保持するレンズフレーム26,レンズフレーム26の上面に取り付けられレンズフレーム26を図のZ方向に微小移動させるZ微動手段27,Z微動手段27を保持する保持フレーム28,保持フレーム28をウェーハWと平行に微小移動させるリニア微動手段であるPZ1,PZ2,及び後出のPZ3,PZ4,PZ5等からなっている。
【0026】
Z微動手段27には電圧印加によって伸縮する圧電素子が用いられている。この圧電素子の伸縮によってコンデンスレンズ24がZ方向に微小送りされて,レーザー光の集光点のZ方向位置が精密に位置決めされるようになっている。」

「【0038】
照射されるレーザー光Lの集光点のZ方向位置は,XYZθテーブル12によるウェーハWのZ方向位置調整,及びZ微動手段27によるコンデンスレンズ24の位置制御によって,ウェーハ内部の所定位置に正確に設定される。」

(イ)上記記載から,引用文献3には,次の技術が記載されていると認められる。
・照射されるレーザー光の集光点のZ方向位置は,XYZθテーブルによるウェーハWのZ方向位置調整,及びZ微動手段によるコンデンスレンズの位置制御によって,ウェーハ内部の所定位置に正確に設定されること。

エ 引用文献4
(ア)原査定に引用され,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2009/78231号(以下「引用文献4」という。)には,次の記載がある。
「[0002]ダイシング工程におけるチッピングの問題を解決する手段として,従来のダイシングブレードによる切断に替えて,ウェーハの内部に集光点を合わせたレーザー光を入射し,ウェーハ内部に多光子吸収による改質領域を形成して個々のチップに分割するレーザーダイシング装置に関する技術が提案されている(例えば,特許文献1参照)。」

「[0025]レーザー光学部20では,レーザー発振装置21から発振されたレーザー光はコリメートレンズ24,ハーフミラー22,コンデンスレンズ26等の光学系を経てウェーハWの内部に集光される。集光点のZ方向位置は,アクチュエータ27によってコンデンスレンズ26をZ方向に微小移動させることにより調節される。
[0026]本実施形態では,アクチュエータ27として圧電素子を使用している。この圧電素子は中空の円筒形状であり,上端がレーザー光学部20の本体に固定されており,下端がコンデンスレンズ26を保持するレンズフレームと接合されている。電圧が印加されると圧電素子は伸縮し,圧電素子の伸縮に応じてコンデンスレンズ26が光軸方向に微小移動する。
[0027]ここでレーザー発振装置21から発振されたレーザー光がウェーハ内部に形成する改質領域について説明する。レーザー発振装置21から発振されたレーザー光としては,例えば,パルス幅が1μs以下のレーザー光であって,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上となるものを用いることができる。図3A及び3Bは,ウェーハ内部の集光点近傍に形成される改質領域を説明する概念図である。図3Aは,ウェーハWの内部に入射された加工用のレーザー光L1が集光点に改質領域Pを形成した状態を示し,図3Bはパルス状の加工用のレーザー光L1をウェーハWの表面に平行に走査して,内部に複数の不連続な改質領域Pが並んで形成された状態を模式的に示している。図3Aに示すように,レーザー光学部20からのレーザー光L1の一部がウェーハWに入射して,集光点近傍でエネルギーが集中し,多光子吸収によるクラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等の改質領域Pが形成される。レーザー光L1は空気中からウェーハに入射する際に屈折するため,改質領域Pが形成される深さ(集光点のウェーハ厚み方向の位置)は,空気とウェーハの屈折率差に依存する。図3Bに示すように,パルス状の加工用レーザー光L1をウェーハに照射して複数の改質領域Pをダイシングストリートに沿って形成することで,ウェーハWは分子間力のバランスが崩れ,自然に割断するかあるいは僅かな外力を加えることにより割断される。」

「[0062]なお,本実施形態ではレーザーダイシングをウェーハWの表面側から加工用のレーザー光を入射させて行っているが,これに限らず,ウェーハWの裏面側から加工用のレーザー光を入射させてもよい。この場合加工用のレーザー光はダイシングテープSを透過してウェーハWに入射するか,或いはウェーハWが表面側を下向きにしてダイシングテープSに貼付される。また,この場合,裏面側から赤外光等のウェーハWを透過する光を用い,ウェーハ表面の回路パターンを観察してアライメントする必要がある。」

(イ)上記記載から,引用文献4には,次の技術が記載されていると認められる。
・集光点のZ方向位置は,アクチュエータによってコンデンスレンズをZ方向に微小移動させることにより調節されること。

・レーザー光学部からのレーザー光の一部がウェーハに入射して,集光点近傍でエネルギーが集中し,多光子吸収によるクラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等の改質領域が形成されること。

・レーザーダイシングをウェーハの表面側から加工用のレーザー光を入射させて行うことに限らず,ウェーハの裏面側から加工用のレーザー光を入射させてもよく,この場合,ウェーハWが表面側を下向きにしてダイシングテープSに貼付され,裏面側から赤外光等のウェーハWを透過する光を用い,ウェーハ表面の回路パターンを観察してアライメントする必要があること。

オ 引用文献5
(ア)原査定に引用され,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-61043号公報(以下「引用文献5」という。)には,次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体ウエーハ等の被加工物を加工する加工方法および半導体デバイスの製造方法に関するものである。」

「【0015】
(実施の形態1)
先ず,実施の形態1の加工方法で加工対象とする被加工物について説明する。図1は,実施の形態1の被加工物1の構成例を示す斜視図である。また,図2は,実施の形態1の被加工物1の内部を示す断面図である。図1に示すように,被加工物1は,円板形状を有し,その表面側に第1の分割予定ライン11と第2の分割予定ライン13とが格子状に配列され,これら第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13によって区画された複数の矩形領域に機能素子15が形成されて構成される。そして,実施の形態1の加工方法では,図1および図2に示すように,伸張可能な合成樹脂シートからなる保護テープ173を介して環状フレーム171によって支持された状態の被加工物1を扱う。より具体的には,実施の形態1の被加工物1は,環状フレーム171の内側開口部を覆うように外周部が装着された保護テープ173に対し,表面側を貼着した状態で用意される。なお,以下では,第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13を包括して適宜「分割予定ライン11,13」と記す。
【0016】
被加工物1の具体例としては,特に限定されないが,例えばシリコンウエーハ等の半導体ウエーハやセラミック,ガラス,サファイア(Al_(2)O_(3))系の無機材料基板,さらにはミクロンオーダの加工位置精度が要求される各種加工材料が挙げられる。
【0017】
次に,この被加工物1に対して施すレーザー加工の加工方法について説明する。図3は,実施の形態1の加工方法の手順を説明するフローチャートである。図3に示すように,本加工方法では,先ず,保護テープ貼着工程を行い,図1等に示して説明したように,環状フレーム171の内側開口部を覆うように外周部が装着された保護テープ173に対し,被加工物1の表面側を貼着する(ステップS11)。その後,第1の改質領域形成工程を行い,第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13のそれぞれに沿って第1の改質領域を形成する(ステップS13)。続いて,第2の改質領域形成工程を行い,第1の分割予定ライン11と第2の分割予定ライン13との交差点位置付近(交差領域)に第2の改質領域を形成する(ステップS15)。そしてその後,分割工程を行い,表面側に貼着されている保護テープ173を伸張することによって被加工物1に外力を加え,第1の改質領域および第2の改質領域が形成されたことで強度が低下した分割予定ライン11,13に沿って被加工物1を個々のチップに分割する(ステップS17)。
【0018】
ここで,改質領域とは,密度や屈折率,機械的強度,あるいはその他の物理的特性が加工前と異なる状態の領域のことをいう。例えば,溶融処理領域,クラック領域,絶縁破壊領域,屈折率変化領域等が挙げられ,これらが混在した領域を含む。
【0019】
以下,ステップS13,S15,S17の第1の改質領域形成工程,第2の改質領域形成工程および分割工程について順次説明する。先ず,第1の改質領域形成工程および第2の改質領域形成工程について説明する。これらの各工程は,被加工物1にパルス状の加工用レーザービーム(パルスレーザー光線)を照射してレーザー加工を施す加工装置によって実施される。
【0020】
ここで,加工装置の構成について説明する。図4は,加工装置2の構成を説明する概略斜視図である。図4に示すように,加工装置2は,保持手段21と,レーザー加工手段23と,これら各部の動作を制御する制御手段25とを含む。
【0021】
保持手段21は,被加工物1に応じた大きさのチャックテーブルを主体とするものであり,XY座標平面と平行な保持面211を有する。なお,図示しないが,保持手段21は,保持面211の周囲に配設されて環状フレーム171を固定するクランプ(不図示)を有し,図1等に示したように表面側が保護テープ173に貼着されて環状フレーム171に支持された被加工物1は,保護テープ173を下にし,裏面側が露出するように保持手段21に搬入されて保持面211上に保持される。そして,このように被加工物1を保持面211上で保持する保持手段21は,不図示の駆動手段によってX座標方向およびY座標方向に移動自在に構成されており,制御手段25の制御のもと,所定のX位置に保持手段21を移動駆動して保持手段21を加工送りするとともに,所定のY位置に保持手段21を移動駆動して保持手段21を割り出し送りする。さらに,保持手段21は,不図示の回転駆動手段により,保持面211の中心を通る鉛直軸を軸中心として回転自在に構成されている。
【0022】
レーザー加工手段23は,保持面211上に保持された被加工物1をレーザー加工するためのものであり,支持部材231と,この支持部材231に対して互いの位置関係が固定された状態で取り付けられたレーザー照射ユニット233および撮像ユニット235とを備える。
【0023】
レーザー照射ユニット233は,保持面211上の被加工物1の裏面側からパルスレーザー光線を照射するためのものであり,その下端部に保持面211上の被加工物1の裏面と対向するように配設された集光器234を備える。一方,支持部材231の内部には,レーザービーム発振手段や伝送光学系等(不図示)が配設されており,レーザー照射ユニット233は,これらレーザービーム発振手段や伝送光学系と協働し,集光器234下方に位置付けられる被加工物1の裏面にパルスレーザー光線を照射する。ここで,集光器234は,レーザービーム発振手段によって発振されるパルスレーザー光線を保持面211上の被加工物1に向けて集光させるための集光レンズや,レーザービーム発振手段からのパルスレーザー光線を保持面211上の被加工物1に向けて反射させるためのミラーといった光学系が内部に配設されたものである。また,レーザービーム発振手段は,保持面211上の被加工物1に対して透過性を有する所定波長(例えば1064nm)のパルスレーザー光線を発振するためのものであり,例えばYAGレーザー発振器やYVO4レーザー発振器等からなるレーザービーム発振器等で構成される。 」

「【0029】
ここで,第1の改質領域形成工程に先立ち,不図示の搬入手段によって被加工物1を保持手段21に搬入し,保持面211上で被加工物1を吸引保持させる。そして,保持手段21をXY座標平面内で移動させて保持面211上に保持された被加工物1を撮像ユニット235の鉛直下方に位置付け,撮像ユニット235によって保持面211上の被加工物1を撮像することにより,アライメントを実施する。具体的には,実施の形態1の撮像ユニット235を構成するカメラは赤外線用のカメラで構成されており,先ず,保持面211上の被加工物1を透過させて被加工物1の表面側を撮像し,得られた画像データにパターンマッチング等の画像処理を施す。そして,この画像処理の結果をもとに保持手段21を回転させ,第1の分割予定ライン11がX座標方向に,第2の分割予定ライン13がY座標方向に沿うように保持面211上の被加工物1の向きを調整するとともに,機能素子15を区画しているレーザー加工すべき領域である第1の分割予定ライン11のY座標方向における中心位置を検出し,保持手段21をXY平面内で移動させて撮像ユニット235の鉛直下方に位置付ける。その後,レーザー照射ユニット233と撮像ユニット235との距離の分だけ保持手段21をY座標方向にずらすことで,加工対象の第1の分割予定ライン11のY座標方向における中心位置を集光器234の鉛直下方に位置付ける。
【0030】
そして,このようにして加工対象の第1の分割予定ライン11のY座標方向における中心位置を集光器234の鉛直下方に位置付けた後で,加工装置2は,図5に示すように,加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って第1の改質領域111を形成する。この第1の改質領域111は,被加工物1内部の表面近傍(表面側の機能素子15の近傍)の所定位置(以下,「第1の形成位置」と呼ぶ。)に形成される。すなわち,加工装置2は先ず,パルスレーザー光線の集光点位置が第1の形成位置と一致するように予め設定されたZ位置に支持部材231を移動させ,被加工物1内部の第1の形成位置に集光レンズの集光点を合わせる。そして,保持手段21をX座標方向に加工送りさせながらレーザー照射ユニット233によって順次パルスレーザー光線を照射する。これにより,パルスレーザー光線が第1の形成位置に集光され,加工対象の第1の分割予定ライン11に沿った第1の改質領域111が,被加工物1内部の機能素子15が形成された表面近傍に形成される。
【0031】
ここで,機能素子15が形成されている被加工物1の表面から第1の改質領域111(第1の形成位置)までの距離の具体的な値としては,5μm?30μmが好ましく,10μm?25μmがより好ましい。」

「【0048】
(実施の形態2)
上記した実施の形態1では,加工装置2での加工の際,保持手段21によって裏面側が露出するように被加工物1を保持し,被加工物1の裏面側からパルスレーザー光線を照射して第1の改質領域および第2の改質領域を形成することとした。これに対し,実施の形態2では,保持手段21によって表面側が露出するように被加工物1aを保持し,被加工物1aの表面側からパルスレーザー光線を照射するようにしている。パルスレーザー光線を照射する側の面は特に限定されるものではなく,このパルスレーザー光線を照射する側の面から遠い厚さ方向の位置に形成する改質領域から順次形成すればよい。以下,実施の形態2について詳細に説明する。」

「【0079】
以上説明したように,実施の形態3では,チップ10bの表面側をガラス基板51に貼り付けることでガラス基板51上にチップ10bを実装することとした。ここで,実施の形態1,2で説明したように,分割予定ライン11,13に沿って形成される第1の改質領域は,被加工物の表面側に形成される。このため,例えば後述する図21-1に示すように,個々のチップ10bに分割した際に側面に残る分割予定ライン11,13に沿った第1の改質領域111bは,ガラス基板51側に配される。これによれば,引っ張り応力が生じる外側に配されるチップ10bの裏面側に強度を弱める改質領域が存在しないため,例えば落下強度や三点抗折曲げ強度(表面側の1点および裏面側の2点での折曲げ強度)といったチップ10bの強度を向上させることが可能となる。なお,前述のLCD用ドライバIC(シリコンチップ)は,一般的に前述のような抗折曲げの評価が行われている。」

(イ)上記記載から,引用文献5には,次の技術が記載されていると認められる。
・改質領域とは,密度や屈折率,機械的強度,あるいはその他の物理的特性が加工前と異なる状態の領域のことをいう。例えば,溶融処理領域,クラック領域,絶縁破壊領域,屈折率変化領域等が挙げられ,これらが混在した領域を含むこと。

・撮像ユニットを構成するカメラは赤外線用のカメラで構成されており,先ず,保持面上の被加工物を透過させて被加工物の表面側を撮像し,得られた画像データにパターンマッチング等の画像処理を施すこと。

・改質領域は,被加工物内部の表面近傍(表面側の機能素子の近傍)の所定位置に形成されること。

・機能素子が形成されている被加工物の表面から改質領域までの距離の具体的な値としては,5μm?30μmが好ましく,10μm?25μmがより好ましいこと。

・加工装置での加工の際,保持手段によって裏面側が露出するように被加工物を保持し,被加工物の裏面側からパルスレーザー光線を照射して改質領域を形成すること。

・パルスレーザー光線を照射する側の面は特に限定されるものではないこと。

・改質領域の存在が強度を弱めること。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「集光用レンズ」,「『シリコンウェハ』である『基板』(『半導体基板』)」,「『デバイス製作プロセスにおいて』『複数の機能素子がマトリックス状に形成された』『半導体基板の表面』」,及び,「撮像素子」は,それぞれ,本件補正発明の「対物レンズ」,「ウェハ」,「デバイス面」,及び,「撮像手段」に相当する。

(イ)引用発明の「『半導体基板の内部にレーザ光の集光点を合わせる』『載置台をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ』」と,本件補正発明の「前記対物レンズを光軸方向に微動させて前記対物レンズの集光点の位置を調整する対物レンズ微動手段」とは,「集光点の位置を調整する手段」の範囲で一致する。

(ウ)本願明細書の【0111】の「微小空孔(以下,クラックという)」との記載から,本件補正発明の「微小空孔」は,「クラック」,すなわち「割れ」を意味しているものと理解されるので,引用発明の「半導体基板の厚さ方向に割れが発生し」た「切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域」は,本件補正発明の「微小空孔を有する改質領域」に相当する。
また,引用発明の「改質領域」が,レーザ光の集光点に形成されることは明らかである。
したがって,引用発明の「『レーザ光を半導体基板の表面の切断予定ラインに照射し,レーザ光の集光点は半導体基板の内部に位置しているので,溶融処理領域は半導体基板の内部にのみ形成され,そして,切断予定ラインに沿うようにX軸ステージやY軸ステージを移動させて,切断予定ラインに沿うよう形成された溶融処理領域でもって切断予定ラインに沿う切断起点領域を半導体基板の内部に形成し,切断起点領域を形成するもの』であって『切断起点領域を形成する工程において,半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板の厚さ方向に割れが発生し』『ここで,「半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面側に偏倚して形成されることを意味するもの』である『レーザ光を発生するレーザ光源』」と,本件補正発明の「前記デバイス面とは反対側である前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射して,前記ウェハの内部の中間位置よりも深く,前記ウェハのデバイス面から所定距離離れた目標位置よりも手前側の位置に前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に微小空孔を有する改質領域を形成するレーザ光照射手段」とは,「レーザ光を照射して,前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に微小空孔を有する改質領域を形成するレーザ光照射手段」の範囲で一致する。

(エ)引用発明は「シリコンウェハ (厚さ350μm,外径4インチ)」を「50μmに薄型化」するものであるから,半導体基板の表面側から「50μm」離れた位置が,本件補正発明のウェハのデバイス面から所定距離離れた「目標位置」に該当する。
したがって,引用発明の「『半導体基板を研磨する工程では,半導体基板が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化されるものであり,半導体基板の裏面が平面研削され,この平面研削後に裏面にケミカルエッチングが施されて,半導体基板が50μmに薄型化され,これにより,すなわち半導体基板の裏面の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れに裏面が達して,機能素子それぞれを有する半導体チップに半導体基板が分割されるものである』『半導体基板を研磨する工程で使用する装置』」と,本件補正発明の「前記ウェハの裏面側から,前記レーザ光の集光点までを含むレーザ光通過部分全体を研削除去するとともに前記改質領域内の前記微小空孔を前記ウェハの厚み方向に進展させて,前記ウェハの厚みを前記目標位置以下とする研削手段」とは,「前記ウェハの裏面側から,研削除去して,前記ウェハの厚みを目標位置以下とする研削手段」である点で一致する。

(オ)引用発明の「基板の分割に用いる設備」は,「レーザ光を半導体基板の表面の切断予定ラインに照射し」「切断起点領域を形成」する「レーザ光源」を備えるから「レーザ加工システム」の範疇に含まれる設備である。
したがって,本件補正発明の「レーザ加工システム」と,引用発明の「基板の分割に用いる設備」とは,以下の相違点を除き「レーザ加工システム」である点で一致する。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「レーザ加工システムにおいて,
対物レンズを通してウェハのデバイス面を撮像する撮像手段と,
集光点の位置を調整する手段と,
前記対物レンズを通して,レーザ光を照射して,前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に微小空孔を有する改質領域を形成するレーザ光照射手段と,
前記ウェハの裏面側から,研削除去して,前記ウェハの厚みを目標位置以下とする研削手段と,
を備える,レーザ加工システム。」

【相違点1】
「集光点の位置を調整する手段」が,本件補正発明は「前記対物レンズを光軸方向に微動させて前記対物レンズの集光点の位置を調整する対物レンズ微動手段」であるのに対して,引用発明は「『半導体基板の内部にレーザ光の集光点を合わせる』『載置台をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ』」である点。

【相違点2】
「レーザ光を照射して,前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に微小空孔を有する改質領域を形成するレーザ光照射手段」が,本件補正発明は「前記デバイス面とは反対側である前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射して,前記ウェハの内部の中間位置よりも深く,前記ウェハのデバイス面から所定距離離れた目標位置よりも手前側の位置に前記レーザ光を集光させ,前記レーザ光の集光点を含むレーザ光通過部分に微小空孔を有する改質領域を形成するレーザ光照射手段」であるのに対して,引用発明は「『レーザ光を半導体基板の表面の切断予定ラインに照射し,レーザ光の集光点は半導体基板の内部に位置しているので,溶融処理領域は半導体基板の内部にのみ形成され,そして,切断予定ラインに沿うようにX軸ステージやY軸ステージを移動させて,切断予定ラインに沿うよう形成された溶融処理領域でもって切断予定ラインに沿う切断起点領域を半導体基板の内部に形成し,切断起点領域を形成するもの』であって『切断起点領域を形成する工程において,半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板の厚さ方向に割れが発生し』『ここで,「半導体基板の内部の表面側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面側に偏倚して形成されることを意味するもの』である『レーザ光を発生するレーザ光源』」である点。

【相違点3】
「前記ウェハの裏面側から,研削除去して,前記ウェハの厚みを目標位置以下とする研削手段」が,本件補正発明では「前記ウェハの裏面側から,前記レーザ光の集光点までを含むレーザ光通過部分全体を研削除去するとともに前記改質領域内の前記微小空孔を前記ウェハの厚み方向に進展させて,前記ウェハの厚みを前記目標位置以下とする研削手段」であるのに対して,引用発明では「『半導体基板を研磨する工程では,半導体基板が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化されるものであり,半導体基板の裏面が平面研削され,この平面研削後に裏面にケミカルエッチングが施されて,半導体基板が50μmに薄型化され,これにより,すなわち半導体基板の裏面の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れに裏面が達して,機能素子それぞれを有する半導体チップに半導体基板が分割されるものである』『半導体基板を研磨する工程で使用する装置』」である点。

【相違点4】
本件補正発明の「レーザ加工システム」が,「チップ強度の向上を図る」ものであるのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1について
上記(2)イ(イ)のとおり,引用文献2には「レーザ加工装置は,載置台をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージを備えるが,Z軸ステージはレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例であり,集光用レンズをZ軸方向に移動させることによっても,レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる」とする技術的事項が記載されており,
上記(2)ウ(イ)のとおり,引用文献3には「照射されるレーザー光の集光点のZ方向位置は,XYZθテーブルによるウェーハWのZ方向位置調整,及びZ微動手段によるコンデンスレンズの位置制御によって,ウェーハ内部の所定位置に正確に設定される」とする技術的事項が記載されており,更に,
上記(2)エ(イ)のとおり,引用文献4には「集光点のZ方向位置は,アクチュエータによってコンデンスレンズをZ方向に微小移動させることにより調節される」とする技術的事項が記載されているように,集光点の位置を調整する手段として,対物レンズを光軸方向に微動させて対物レンズの集光点の位置を調整する対物レンズ微動手段を用いることは周知である。
したがって,引用発明の設備において,集光点の位置を調整するにあたり,引用発明のZ軸ステージに代えて,あるいは,引用発明のZ軸ステージと併用して,「前記対物レンズを光軸方向に微動させて前記対物レンズの集光点の位置を調整する対物レンズ微動手段」を用いること,すなわち,相違点1について,本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1には「半導体基板を研磨する工程後の半導体チップと溶融処理領域との関係としては,種々のものがあり,それぞれの関係で,それぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができるところ,引用文献1に記載された実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップと溶融処理領域との関係においては,デバイス面とは反対側であるウェハの裏面側からみて,研磨前のウェハの内部の中間位置よりも深く,かつ,ウェハのデバイス面から所定距離離れた研磨後に裏面となる位置,すなわち目標位置よりも手前側の位置に,レーザ光を集光することで,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しないようにすることで,溶融処理領域が半導体デバイス与える悪影響を避けるとともに,半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していないようにすることで,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性をより向上させることができる」とする技術的事項が記載されている。
してみれば,引用発明において,溶融処理領域が半導体デバイスに与える悪影響を避けるとともに,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性をより向上させるために,レーザ光を集光する位置を,デバイス面とは反対側であるウェハの裏面側からみて,研磨前のウェハの内部の中間位置よりも深く,かつ,ウェハのデバイス面から所定距離離れた研磨後に裏面となる位置,すなわち目標位置よりも手前側の位置とするとともに,半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していないようにすることは,引用文献1の記載から当業者が直ちになし得たことである。
更に,上記(2)エ(イ)のとおり,引用文献4には「レーザーダイシングをウェーハの表面側から加工用のレーザー光を入射させて行うことに限らず,ウェーハの裏面側から加工用のレーザー光を入射させてもよく,この場合,ウェーハWが表面側を下向きにしてダイシングテープSに貼付され,裏面側から赤外光等のウェーハWを透過する光を用い,ウェーハ表面の回路パターンを観察してアライメントする必要がある」とする技術的事項が記載されており,
上記(2)オ(イ)のとおり,引用文献5には「加工装置での加工の際,保持手段によって裏面側が露出するように被加工物を保持し,被加工物の裏面側からパルスレーザー光線を照射して改質領域を形成する」という技術的事項,及び,「パルスレーザー光線を照射する側の面は特に限定されるものではない」とする技術的事項が記載されていることからも明らかなように,レーザー光線を照射する側の面は特に限定されるものではないとすることが技術常識であるところ,
上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1には「レーザ光の照射は,基板の表面側から行ってもよいし,裏面側から行ってもよい」とする技術的事項が記載されているのであるから,前記技術常識,及び,引用文献1の前記「レーザ光の照射は,基板の表面側から行ってもよいし,裏面側から行ってもよい」との示唆に基づいて,引用発明において,レーザー光の照射を,デバイス面とは反対側であるウェハの裏面側から行うことは,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,引用発明の「レーザ光を発生するレーザ光源」を,「前記デバイス面とは反対側である前記ウェハの裏面側からレーザ光を照射して,前記ウェハの内部の中間位置よりも深く,前記ウェハのデバイス面から所定距離離れた目標位置よりも手前側の位置に前記レーザ光を集光させ」るものとすること,すなわち,相違点2について,本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
引用発明の半導体基板を研磨する工程で使用する装置は,半導体基板の裏面を平面研削し,この平面研削後に裏面にケミカルエッチングを施して,半導体基板を50μmに薄型化するものである。
そうすると,引用発明において,溶融処理領域が半導体デバイスに与える悪影響を避けるとともに,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性をより向上させるために,レーザ光を集光する位置を,デバイス面とは反対側であるウェハの裏面側からみて,研磨前のウェハの内部の中間位置よりも深く,かつ,ウェハのデバイス面から所定距離離れた研磨後に裏面となる位置とするとともに,半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していないようにした場合において,前記半導体基板を研磨する工程で使用する装置が,ウェハの裏面側から,レーザ光の集光点までを含むレーザ光通過部分全体を研削除去して,ウェハの厚みを目標位置以下とすることになることは,各々の要素の位置関係からみて自明である。
しかも,研磨する工程前に割れが表面に達していない半導体基板の裏面を平面研削する場合に,平面研削の際の加圧等による応力,及び,平面研削の際の摩擦熱により生じる,半導体基板の表面と裏面との間の温度差に起因する熱応力により,前記割れ,すなわち微小空孔がウェハの厚み方向に進展することは明らかである。
したがって,引用発明の「半導体基板を研磨する工程で使用する装置」を,「前記ウェハの裏面側から,前記レーザ光の集光点までを含むレーザ光通過部分全体を研削除去するとともに前記改質領域内の前記微小空孔を前記ウェハの厚み方向に進展させて,前記ウェハの厚みを前記目標位置以下とする」るものとすること,すなわち,相違点3について,本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

エ 相違点4について
上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1には「基板を研磨する工程が,基板の裏面にケミカルエッチングを施す工程を含むことで,基板を分割することで得られるチップの抗折強度を向上させることができる」とする技術的事項が記載されているから,「平面研削後に裏面にケミカルエッチングが施され」る引用発明は,基板を分割することで得られるチップの抗折強度を向上させることができる発明であるといえる。
したがって,相違点4は,実質的なものではない。

オ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

カ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年2月26日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.国際公開第03/77295号
2.特開2002-192370号公報
3.特開2005-175147号公報
4.国際公開第2009/78231号
5.特開2011-61043号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし5及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「レーザ光照射手段」,及び,「研削手段」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-04-27 
結審通知日 2020-05-01 
審決日 2020-05-21 
出願番号 特願2019-81045(P2019-81045)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 西出 隆二
加藤 浩一
発明の名称 レーザ加工システム  
代理人 松浦 憲三  

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