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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F25B
管理番号 1363978
異議申立番号 異議2019-700102  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-08 
確定日 2020-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6414791号発明「冷凍機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6414791号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6414791号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6414791号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6414791号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成26年4月25日に出願された特願2014-91892号の一部を平成29年6月29日に新たな特許出願としたものであって、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年2月8日 :特許異議申立人による請求項1及び2に係る
特許に対する特許異議の申立て
令和1年 6月21日付け:取消理由通知書
令和1年 8月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年 8月30日付け:手続補正指令書(方式)
令和1年10月 1日 :手続補正書(方式)の提出
令和1年10月 4日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120
条の5第5項)
令和1年11月 6日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和1年11月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 1月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 1月14日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120
条の5第5項)
令和2年 2月14日 :特許異議申立人による意見書の提出

なお、令和2年1月8日に訂正請求がされたため、特許法120条の5第7項の規定により、令和1年8月23日の訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正について
1 訂正の内容
令和2年1月8日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?2について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
訂正前の請求項1の「膨張弁と、
を備えたことを特徴とする冷凍機。」とあるのを、
「膨張弁と、
を備え、
冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え、
前記エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合には、前記バイパス管流路開閉弁を開いた場合よりも、前記膨張弁の開度が大きく制御されることを特徴とする冷凍機。」と訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1は、訂正前の請求項1に請求項2の内容を加えて膨張弁について制御態様を限定するとともに、エコノマイザ流路開閉弁及びバイパス管流路開閉弁の切り替えについて、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」ると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件明細書に、「【0018】
詳細には、バイパス管流路開閉弁37を閉じるとともにエコノマイザ流路開閉弁36を開いた状態(以下、この状態を『エコノマイザ使用状態』と呼ぶ。)では、高圧液配管26aから分岐管30側に分岐してエコノマイザ接続管32に流入した冷媒は、分岐管膨張弁35を通って膨張して温度が低下し、その後、エコノマイザ18を通り、インジェクションポート接続管33を通って冷却用インジェクションポート13aに流入する。・・・
【0019】
他方、バイパス管流路開閉弁37を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁36を閉じた状態(以下、この状態を『バイパス状態』と呼ぶ。)では、高圧液配管26aから分岐管30側に分岐してエコノマイザ接続管32に流入した冷媒は、分岐管膨張弁35を通って膨張して温度が低下し、その後、バイパス管31を通ってインジェクションポート接続管33に流れ、冷却用インジェクションポート13aに流入する。・・・
『バイパス状態』及び『エコノマイザ使用状態』の切り替えは、例えば、冷凍機12の設置時に作業者によって手動で行われるが、この切り替えは、前記制御部が制御する電磁弁によって行われても良い。」(当審注:「・・・」は記載の省略を意味する。)と記載されており、エコノマイザ使用状態では、バイパス管流路開閉弁を閉じるとともにエコノマイザ流路開閉弁を開いた状態であり、また、バイパス状態では、バイパス管流路開閉弁37を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁36を閉じた状態であり、「バイパス状態」及び「エコノマイザ使用状態」の切り替えは、冷凍機設置時に作業者によって手動で行われるものであるので、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)との関係において新たな技術的事項を導入しているものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、明らかである。
(3) したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「圧縮機および凝縮器を備え、前記圧縮機の上流側の冷媒配管および前記凝縮器の下流側の冷媒配管が冷却器に接続される冷凍機において、
前記凝縮器の下流側の冷媒配管に設けられるエコノマイザと、
前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させて前記圧縮機の冷却用インジェクションポートに接続される分岐管と、
前記分岐管の前記エコノマイザの上流側と下流側とを接続するバイパス管と、
冷媒を前記エコノマイザに通す流路を開閉するエコノマイザ流路開閉弁と、
前記バイパス管の流路を開閉するバイパス管流路開閉弁と、
前記分岐管の中途部であって前記エコノマイザ及び前記バイパス管の上流側に冷媒を膨張させる膨張弁と、
を備え、
冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え、
前記エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合には、前記バイパス管流路開閉弁を開いた場合よりも、前記膨張弁の開度が大きく制御されることを特徴とする冷凍機。」

第4 取消理由の概要
1 当審が令和1年6月21日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[理由1] 請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び本願出願前に周知の事項に基いて、又は甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された事項及び甲第2号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
なお、上記取消理由通知は本件特許異議の申立てにおいて申立てられたすべての申立理由を含んでいる。
2 当審が令和1年11月29日付けの取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[理由2] 請求項1に係る発明は、以下の点で発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1) 本件明細書には、本件発明の課題に関して、以下の事項が記載されている。
「スーパーマーケット等の冷凍回路の設置施設において、冷凍回路の全体を新設や入れ替えによって設ける場合には、冷媒配管の必要な箇所に断熱処理を施すことで、冷却器側の冷媒配管の結露を防止できる。他方、冷凍回路の全体を入れ替えずに冷凍機だけを入れ替え、冷却器側において既設の冷媒配管を利用して冷凍回路を構成する場合には、設置スペースや設置作業等の制約により、冷媒配管に断熱処理を施すことが困難になり、冷却器側の冷媒配管の結露を有効に防止することが難しい場合がある。すなわち、冷却器側の設置状態に応じて、簡単な構成で冷媒配管の結露を防止することが課題となる。」(【0004】。下線は当審で参考のため付与した。)
そして、当該課題解決のための手段である、エコノマイザ流路開閉弁及びバイパス管流路開閉弁に関して、以下の事項が記載されている。
「詳細には、バイパス管流路開閉弁37を閉じるとともにエコノマイザ流路開閉弁36を開いた状態(以下、この状態を『エコノマイザ使用状態』と呼ぶ。)・・・」(【0018】)
「他方、バイパス管流路開閉弁37を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁36を閉じた状態(以下、この状態を『バイパス状態』と呼ぶ。)・・・
『バイパス状態』及び『エコノマイザ使用状態』の切り替えは、例えば、冷凍機12の設置時に作業者によって手動で行われるが、この切り替えは、前記制御部が制御する電磁弁によって行われても良い。」(【0019】)
(2) そして、上記課題を解決するための冷凍機としては、発明の詳細な説明に、「バイパス状態」及び「エコノマイザ使用状態」の切り替えが冷凍機の設置時に作業者によって手動で行われるもの(電磁弁操作を行う場合も含めて。)であり、かつ、エコノマイザ使用状態はバイパス管流路開閉弁を閉じるとともにエコノマイザ流路開閉弁を開いた状態とされ、バイパス状態はバイパス管流路開閉弁を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁を閉じた状態とされた特定事項(以下「特定事項A」という。)を有する冷凍機のみが記載されている。
(3) そうすると、特定事項Aを有さない請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものを含むことが明らかであり、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[理由3] 請求項1に係る発明は、以下の点で明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1) 請求項1に係る発明は、その特定において、ア.「バイパス状態」及び「エコノマイザ使用状態」の切り替えが冷凍機の設置時に作業者によって手動で行われるもの(電磁弁操作を行う場合も含めて。)、イ.「バイパス状態」及び「エコノマイザ使用状態」の切り替えが冷凍機の設置時の試運転による制御によって行われるもの、が想定でき、その範囲が不明確となっている。
(2) 請求項1に係る発明は、その特定において、ア.エコノマイザ使用状態はバイパス管流路開閉弁を閉じるとともにエコノマイザ流路開閉弁を開いた状態、イ.エコノマイザ使用状態はバイパス管流路開閉弁を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁を開いた状態が想定でき、その範囲が不明確となっている。
(3) 請求項1に係る発明は、その特定において、ア.バイパス状態はバイパス管流路開閉弁を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁を閉じた状態、イ.バイパス状態はバイパス管流路開閉弁を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁を開いた状態が想定でき、その範囲が不明確となっている。
(4) そうすると、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 証拠方法等
特許異議申立人は、特許異議申立書とともに次の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、また、令和1年11月6日に意見書とともに次の甲第3?7号証を提出している。
[証拠方法]
(1) 甲第1号証:国際公開第2010/150344号
(2) 甲第2号証:特開平3-67958号公報
(3) 甲第3号証:特開2013-36650号公報
(4) 甲第4号証:特許第3211412号公報
(5) 甲第5号証:特開昭61-197978号公報
(6) 甲第6号証:特開2013-108649号公報
(7) 甲第7号証:特開2013-108396号公報

第5 当審の判断
1 [理由1](特許法第29条第2項)について
(1) 甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審で付与したものである。)。
(1a) 「[0016] 図1に示すように、蒸気圧縮サイクル装置は、二段圧縮機10と、凝縮器6と、主減圧機構7と、蒸発器8とを順次接続した主冷媒回路9を備える。
二段圧縮機10は、予め排除容積が決定された2つの圧縮部が中間連結部3(中間圧部)により直列に接続され密閉シェル4内に配置されている。つまり、二段圧縮機10は、吸入マフラ5を介して低圧の冷媒を吸入し、吸入した低圧の冷媒を中間圧まで圧縮する低段圧縮部1と、中間圧の冷媒を高圧まで圧縮する高段圧縮部2とが中間連結部3により直列に連結された圧縮機である。」
(1b) 「[0017] また、蒸気圧縮サイクル装置は、主冷媒回路9の凝縮器6と主減圧機構7との間の分岐点17で分配された液冷媒を、主減圧機構7及び蒸発器8をバイパスして、二段圧縮機10の中間連結部3へ注入するように接続したインジェクション回路11を備える。
インジェクション回路11には、インジェクション減圧回路12とHIC熱交換器13とが順次接続される。インジェクション減圧回路12は、分岐点17で分配された液冷媒を減圧する。HIC熱交換器13は、主冷媒回路9の凝縮器6と主減圧機構7との間を流れる液冷媒と、分岐点17で分配されインジェクション減圧回路12で減圧された液冷媒とを熱交換する。つまり、HIC熱交換器13は、インジェクション減圧回路12による冷媒の減圧効果に基づき冷凍能力を増大させるエコノマイザである。そして、HIC熱交換器13で熱交換された結果、分岐点17で分配されインジェクション減圧回路12で減圧された液冷媒はガス冷媒となり、中間連結部3へ注入される。
すなわち、蒸気圧縮サイクル装置は、エコノマイザサイクルを構成する。」
(1c) 「[0018] また、インジェクション回路11には、四方弁14(切替部)が接続される。四方弁14は、インジェクション減圧回路12で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器13を経由して中間連結部3へ注入するか、HIC熱交換器13を経由せずに中間連結部3へ注入するかを切替える。つまり、上記説明では、分岐点17で分配され、インジェクション減圧回路12で減圧された冷媒は、HIC熱交換器13を経由して中間連結部3へ注入されるとした。しかし、四方弁14を切替えることにより、分岐点17で分配され、インジェクション減圧回路12で減圧された冷媒を、HIC熱交換器13を経由させずに中間連結部3へ注入することができる。
すなわち、四方弁14は、インジェクション減圧回路12で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器13でガス冷媒にして中間連結部3へ注入するか、液冷媒のまま中間連結部3へ注入するかを切替える。ここで、四方弁14によって切替えられる2つの流路のうち、HIC熱交換器13を経由する流路(図1において、四方弁14の実線部及びHIC熱交換器13を経由する流路)を第1流路15と呼び、HIC熱交換器13を経由しない流路(図1において、四方弁14の破線部)を第2流路16と呼ぶ。つまり、インジェクション回路11は、この第1流路15と第2流路16との2つの流路に分岐している。」
(1d) 「[0019] また、蒸気圧縮サイクル装置は、中間連結部3の冷媒の圧力(中間圧Pm)を検出する圧力センサ20mと、二段圧縮機10の吸入側の冷媒の圧力(吸入圧Ps)を検出する圧力センサ20sと、二段圧縮機10の吐出側の冷媒の圧力(吐出圧Pd)を検出する圧力センサ20dとを備える。
圧力センサ20mは、インジェクション減圧回路12と中間連結部3との間における圧力を検出する。圧力センサ20sは、蒸発器8と吸入マフラ5との間における圧力を検出する。圧力センサ20dは、二段圧縮機10と凝縮器6との間における圧力を検出する。
なお、ここでは、圧力センサ20m、圧力センサ20s、圧力センサ20dにより、各部の圧力を検出するものとして説明するが、HIC熱交換器13、蒸発器8、凝縮器6で熱交換する冷媒の温度を測定し、使用する冷媒の物性値から圧力を推定し、中間圧Pm、吸入圧Ps、吐出圧Pdを求めてもよい。
[0020] また、蒸気圧縮サイクル装置は、四方弁14の切り替えを制御する制御部30を備える。
次に、制御部30による四方弁14の切り替え制御について説明する。
[0021] 一般的に、二段圧縮機は、中間圧Pmが最適値(Ps×Pd) 0.5 に等しいとき、低段圧縮部1の圧縮比(Pm/Ps)と高段圧縮部2の圧縮比(Pd/Pm)とが等しくなる。そして、このとき、低段圧縮部1と高段圧縮部2との圧縮比のバランスがよく、圧縮機効率がほぼ最大となる。
蒸気圧縮サイクル装置では、室内と室外の温度差が大きい場合、すなわち、圧縮比(Pd/Ps)が大きい場合、中間連結部3へガス冷媒を注入するエコノマイザを用いる。そのため、圧縮比(Pd/Ps)が大きい場合において、中間連結部3へガス冷媒を注入した場合に、中間圧Pmが上昇して最適値に近づくように、排除容積比(高段圧縮部2の排除容積V2/低段圧縮部1の排除容積V1)を設計する。つまり、そのような排除容積比となるように、低段圧縮部1と高段圧縮部2との排除容積を設計する。
しかし、この排除容積比のままで、室内と室外の温度差が小さい場合、すなわち、圧縮比(Pd/Ps)が小さい場合、低段側に圧縮が偏ってしまう。
そこで、制御部30は、以下に示す制御基準例1?3に該当する場合には、四方弁14を切り替えて中間連結部3へ液冷媒を注入することにより、中間圧Pmを下げる。これにより、低段側に圧縮が偏ることを防止する。」

(1e) 「図1


イ 上記アに記載事項から以下の事項が認められる。
インジェクション回路(11)は、HIC熱交換器(13)の下流の主冷媒回路(9)の分岐点(17)で分岐している(図1)。
ウ 甲第1号証に記載された発明
上記ア及びイの事項を総合すると、甲第1号証には、以下の「甲1発明」が記載されていると認められる。
「二段圧縮機(10)と、凝縮器(6)と、主減圧機構(7)と、蒸発器(8)とを順次接続した主冷媒回路(9)を備える蒸気圧縮サイクル装置において、
主冷媒回路(9)の凝縮器(6)と主減圧機構(7)との間の分岐点(17)で分配された液冷媒を、主減圧機構(7)及び蒸発器(8)をバイパスして、二段圧縮機(10)の中間連結部(3)へ注入するように接続したインジェクション回路(11)を備え、
インジェクション回路(11)は、インジェクション減圧回路(12)とHIC熱交換器(13)とが順次接続され、HIC熱交換器(13)の下流の主冷媒回路(9)の分岐点(17)で分配された液冷媒を減圧し、
HIC熱交換器(13)は、主冷媒回路(9)の凝縮器(6)と主減圧機構(7)との間を流れる液冷媒と、分岐点(17)で分配されインジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒とを熱交換するエコノマイザであり、
インジェクション回路(11)は、四方弁(14)が接続され、インジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器(13)を経由して中間連結部(3)へ注入する第1流路(15)か、HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)かを切替え、
制御部(30)による四方弁(14)の切り替え制御は、圧縮比(Pd/Ps:二段圧縮機(10)の吐出側の冷媒の圧力(吐出圧Pd)、二段圧縮機(10)の吸入側の冷媒の圧力(吸入圧Ps))が大きい場合、中間連結部(3)へガス冷媒を注入するエコノマイザを用い、圧縮比(Pd/Ps)が小さい場合、四方弁(14)を切り替えて中間連結部(3)へ液冷媒を注入する、
蒸気圧縮サイクル装置。」
(2) 甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2a) 「2.特許請求の範囲
(1)圧縮機(1)、凝縮器(2)、主減圧機構(3)及び蒸発器(4)を順次接続してなる主冷媒回路(7)と、該主冷媒回路(7)の凝縮器(2)と主減圧機構(3)との間の液管(5a)を圧縮機(1)の中間圧となる箇所に冷媒が上記主減圧機構(3)及び蒸発器(4)をバイパスして流通するよう接続する第1バイパス路(11)と、該第1バイパス路(11)を流れる冷媒を減圧する第1減圧機構と、該第1減圧機構による冷媒の減圧効果に基づき冷凍能力を増大させるエコノマイザとを備えた冷凍装置において、
上記主冷媒回路(7)の液冷媒を、上記第1バイパス路(11)のエコノマイザをバイパスして圧縮機(1)の中間圧となる箇所に流通させる第2バイパス路(14)と、該第2バイパス路(14)を流れる冷媒を減圧する第2減圧機構(16)と、主冷媒回路(7)の液管(5a)中の冷媒の一部を圧縮機(1)の中間圧となる箇所にバイパスさせる経路を第1バイパス路(11)のエコノマイザ側と第2バイパス路(14)側とに選択的に切換える切換手段(51)とを備えたことを特徴とする冷凍装置。
(2)圧縮機(1)はアンローダ機構(1a)により運転容量を調節されるものであり、
圧縮機(1)の最低容量時に容量を低減すべき指令信号が出力されたときに液管(5a)中の冷媒の一部が第2バイパス路(14)側に流れるよう切換手段(51)を制御する切換制御手段(52A)を備えたことを特徴とする請求項(1)記載の冷凍装置。
(3)第1減圧機構は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有する自動膨張弁(17)であり、
圧縮機(1)の吐出管(5b)の温度を検出する吐出管温度検出手段(Th1)と、該吐出管温度検出手段(Th1)の出力を受け、吐出管温度が所定の設定値以上のときには液管(5a)中の冷媒の一部が第2バイパス路(14)側に流れるよう切換手段(51)を制御する切換制御手段(52B)とを備えたことを特徴とする請求項(1)記載の冷凍装置。」
(2b) 「第2図は本発明の実施例を示し、(1)は圧縮機、(1a)はサクション・ベーン制御により圧縮機(1)の運転容量を100,70,40,20及び0%に変化させるアンローダ機構、(2)は凝縮器、(3)は主減圧機構としての外部均圧式の蒸発器用自動膨張弁、(4)は制御対象を冷却するための蒸発器、(3a)は蒸発器(4)の出口側に配置された上記自動膨張弁(3)の感温筒であって、上記各機器(1)?(4)は冷媒配管(5)により冷媒の循環可能に接続され、凝縮器(2)で得た冷熱を蒸発器(4)側の制御対象に移動させるようにした主冷媒回路(7)が構成されている。」(4ページ左下欄14行?右下欄6行)
(2c) 「ここで、上記冷媒回路(7)の液管(5a)には、冷凍能力を効率的に増大させるエコノマイザとしての中間冷却器(8)が設けられていて、該中間冷却器(8)は、上記主冷媒回路(7)の液管(5a)の一部をなし、その内側空間(9a)を液冷媒が流通する内管(9)と、該内管(9)との間に密閉環状の外側空間(10a)を挟んで設けられた外管(10)とからなる二重管構造をしている。」(4ページ右下欄7?15行)
(2d) 「そして、上記中間冷却器(8)の外側空間(10a)を介して、液管(5a)と上記圧縮機(1)の中間圧となる箇所との間には、主冷媒回路(7)中の液冷媒の一部を上記自動膨張弁(3)及び蒸発器(4)をバイパスして圧縮機(1)に戻すようにした第1バイパス路(11)が設けられていて、該第1バイパス路(11)の中間冷却器(8)と液管(5a)との間に、第1バイパス路(11)の冷媒の流れを開閉制御する第1開閉弁(12)と、第1バイパス路(11)を流れる冷媒を減圧する減圧機構としての第1キャピラリチューブ(13)とが液管(5a)側から順に介設されている。」(4ページ左下欄15行?5ページ左上欄7行)
(2e) 「さらに、本発明の特徴として、上記第1バイパス路(11)において、冷媒を第1バイパス路(11)の中間冷却器(8)をバイパスして圧縮機(1)の中間圧となる箇所に流通させるための第2バイパス路(14)が設けられていて、該第2バイパス路(14)には、第2バイパス路(14)を開閉する第2開閉弁(15)と、冷媒を減圧する第2減圧機構としての第2キャピラリチューブ(16)とが順に介設されている。すなわち、上記第1,第2開閉弁(12),(15)の開閉を交互に切換えることにより、上記第1バイパス路(11)を流れる冷媒の流れを第1バイパス路(11)の中間冷却器(8)側と第2バイパス路(14)側とに選択切換える切換手段(51)が構成されている。」(5ページ左上欄14行?右上欄8行)
(2f) 「第5図は第2実施例の冷凍装置の構成を示し、本実施例では、第1バイパス路(11)において、上記第1実施例における第1,第2キャピラリチューブ(13),(16)の代りに、第1,第2バイパス路(11),(14)における減圧機構を兼用するバイパス自動膨張弁(17)が設けられていて、該バイパス自動膨張弁(17)の感温筒(17a)は、圧縮機(1)の吐出管(5b)に接触して設けられている。また、圧縮機(1)の吐出管(5b)には、吐出管温度T1を検出する吐出管温度検出手段としての吐出管センサ(Th1)が取付けられている。
その他の構成は、上記第1実施例と同様である。」(7ページ左上欄16行?右上欄8行)
(2g) 「ここで、請求項(3)の発明に係る制御の内容について、第6図のフローチャートに基づき説明するに、ステップS11で中間冷却器(8)を使用する通常運転を行いながら、ステップS12で上記吐出管センサ(Th1)で検出される吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上か否かを判別し、T1≧T1sになると、吐出管温度T1が過上昇する虞れがあると判断してステップS13に移行し、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせることにより、液・ガス混合した冷媒を圧縮機(1)に戻して吐出ガス温度T1の過上昇を抑制する。そして、ステップS14で吐出管温度T1が所定の回復値T1r(<T1s)よりも低くなるまで待って、上記ステップS11の通常運転に戻るようになされている。
上記フローにおいて、ステップS13により、吐出管温度T1が設定値T1s以上のときには液管(5a)中の冷媒の一部が第2バイパス路(14)側に流れるよう切換手段(51)を制御する切換制御手段(52B)が構成されている。
したがって、請求項(3)の発明では、吐出管センサ(吐出管温度検出手段)(Th1)で検出される圧縮機(1)の吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上のときには、切換制御手段(52B)により、液管(5a)中の冷媒の一部が第2バイパス路(14)側に流れるように切換手段(51)が制御されるので、中間冷却器(8)を通過しない液・ガス混合した冷媒のインジェクションにより、吐出管温度T1の過上昇が抑制され、圧縮機(1)の異常停止が有効に防止される。よって、信頼性の向上を図ることができる。」(7ページ右上欄9行?左下欄19行)
(2h) 「図2

イ 上記アの記載事項から以下の事項が認められる。
エコノマイザ(8)の上流の主冷媒回路(7)から分岐して、前記エコノマイザ(8)を流れる凝縮器(2)から流出する冷媒と熱交換させて圧縮機(1)に接続される第1バイパス路(11)を備えている(特に第5図)。
ウ 甲第2号証に記載された発明
上記ア及びイの事項を総合すると、甲第2号証には、以下の「甲2発明」が記載されていると認められる。
「圧縮機(1)、凝縮器(2)、主減圧機構(3)及び蒸発器(4)を順次接続してなる主冷媒回路(7)と、該主冷媒回路(7)の凝縮器(2)と主減圧機構(3)との間の液管(5a)を圧縮機(1)の中間圧となる箇所に冷媒が上記主減圧機構(3)及び蒸発器(4)をバイパスして流通するよう接続する、エコノマイザ(8)の上流の主冷媒回路(7)から分岐する第1バイパス路(11)と、該第1バイパス路(11)を流れる冷媒を減圧する自動調整弁(17)と、該自動調整弁(17)による冷媒の減圧効果に基づき冷凍能力を増大させるエコノマイザ(8)とを備えた冷凍装置において、
上記主冷媒回路(7)の液冷媒を、上記第1バイパス路(11)のエコノマイザ(8)をバイパスして圧縮機(1)の中間圧となる箇所に流通させる第2バイパス路(14)と、該第2バイパス路(14)を流れる冷媒を減圧する自動調整弁(17)と、主冷媒回路(7)の液管(5a)中の冷媒の一部を圧縮機(1)の中間圧となる箇所にバイパスさせる経路を、第1バイパス路(11)のエコノマイザ(8)側と第2バイパス路(14)側とに選択的に切換える第1開閉弁(12)、第2開閉弁(15)からなる切換手段(51)とを備え、
自動調整弁(17)は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有し、
吐出管センサ(Th1)で検出される吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上か否かを判別し、T1≧T1sになると、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせることにより、液・ガス混合した冷媒を圧縮機(1)に戻して吐出ガス温度T1の過上昇を抑制し、吐出管温度T1が所定の回復値T1r(<T1s)よりも低くなると、中間冷却器(8)を使用する通常運転に戻るように制御する、
冷凍装置。」
(3) 対比・判断
ア 甲第1号証を主引用文献として
(ア) 本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「二段圧縮機(10)」、「凝縮器(6)」、「蒸発器(8)」、「蒸気圧縮サイクル装置」、「HIC熱交換器(13)」、「インジェクション回路(11)」、「インジェクション減圧回路(12)」、「第1流路(15)」及び「第2流路(16)」は、各文言の意味、機能または作用等からみて、本件発明の「圧縮機」、「凝縮器」、「冷却器」、「冷凍機」、「エコノマイザ」、「分岐管」、「膨張弁」、「冷媒を前記エコノマイザに通す流路」及び「エコノマイザ流路」、並びに「前記バイパス管の流路」及び「バイパス管流路」に相当する。
また、甲1発明の「二段圧縮機(10)と、凝縮器(6)と、主減圧機構(7)と、蒸発器(8)とを順次接続した主冷媒回路(9)」は、各装置が冷媒配管で接続されていること、及び二段圧縮機(10)の上流側の冷媒配管と凝縮器(6)の下流側の冷媒配管が蒸発器(8)に接続されることが技術常識であるから、本件発明の「前記圧縮機の上流側の冷媒配管および前記凝縮器の下流側の冷媒配管が冷却器に接続される」態様に相当する。
甲1発明の「HIC熱交換器(13)は、主冷媒回路(9)の凝縮器(6)と主減圧機構(7)との間を流れる液冷媒と、分岐点(17)で分配されインジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒とを熱交換する」ものであり、HIC熱交換器(13)が凝縮器の下流に設けられているから、引用発明の「HIC熱交換器(13)」は、本件発明の「前記凝縮器の下流側の冷媒配管に設けられるエコノマイザ」に相当する。
また、甲1発明の「HIC熱交換器(13)の下流の主冷媒回路(9)の分岐点(17)で分配され」る態様は、本件発明の「前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐」することに相当する。
そうすると、引用発明の「HIC熱交換器(13)は、主冷媒回路(9)の凝縮器(6)と主減圧機構(7)との間を流れる液冷媒と、分岐点(17)で分配されインジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒とを熱交換する」ことは、本件発明の「前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させ」ることに相当する。
甲1発明の「インジェクション回路(11)」が「二段圧縮機(10)の中間連結部(3)へ注入するように接続した」ことは、インジェクション回路(11)の二段圧縮機の接続に、二段圧縮機の冷却用のポートから接続されることは明らかであり、本件発明の「分岐管」が「前記圧縮機の冷却用インジェクションポートに接続される」ことに相当する。
甲1発明の「インジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒」を、「HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)」は、インジェクション回路(11)のHIC熱交換器(13)の上流側と下流側とを接続して、HIC熱交換器(13)をバイパスしているから、本件発明の「前記分岐管の前記エコノマイザの上流側と下流側とを接続するバイパス管」に相当する。
甲1発明の「インジェクション回路(11)は、四方弁(14)が接続され、インジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器(13)を経由して中間連結部(3)へ注入する第1流路(15)か、HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)かを切替え」る態様と、本件発明の「冷媒を前記エコノマイザに通す流路を開閉するエコノマイザ流路開閉弁と、前記バイパス管の流路を開閉するバイパス管流路開閉弁と」を備える態様とは、「冷媒を前記エコノマイザに通す流路と、前記バイパス管の流路とを開閉する弁を有する」との限りで一致する。
甲1発明の「インジェクション減圧回路(12)」は、「インジェクション減圧回路(12)とHIC熱交換器(13)とが順次接続され、HIC熱交換器(13)の下流の主冷媒回路(9)の分岐点(17)で分配された液冷媒を減圧」するものであり、HIC熱交換器及び第2流路の上流側で冷媒を膨張させており、本件発明の「前記分岐管の中途部であって前記エコノマイザ及び前記バイパス管の上流側に冷媒を膨張させる膨張弁」に相当する。
甲1発明の「制御部(30)による四方弁(14)の切り替え制御は、
圧縮比(Pd/Ps:二段圧縮機(10)の吐出側の冷媒の圧力(吐出圧Pd)、二段圧縮機(10)の吸入側の冷媒の圧力(吸入圧Ps))が大きい場合、中間連結部(3)へガス冷媒を注入するエコノマイザを用い、圧縮比(Pd/Ps)が小さい場合、四方弁(14)を切り替えて中間連結部(3)へ液冷媒を注入する」ことと、本件発明の「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」ることとは、「エコノマイザに通す流路を開くととともに前記バイパス管の流路を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管の流路を開くとともに前記エコノマイザに通す流路を閉じたバイパス状態に切り替え」るとの限りで一致する。

そうすると、本件発明と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「圧縮機および凝縮器を備え、前記圧縮機の上流側の冷媒配管および前記凝縮器の下流側の冷媒配管が冷却器に接続される冷凍機において、
前記凝縮器の下流側の冷媒配管に設けられるエコノマイザと、
前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させて前記圧縮機の冷却用インジェクションポートに接続される分岐管と、
前記分岐管の前記エコノマイザの上流側と下流側とを接続するバイパス管と、
冷媒を前記エコノマイザに通す流路と、前記バイパス管の流路とを開閉する弁と、
前記分岐管の中途部であって前記エコノマイザ及び前記バイパス管の上流側に冷媒を膨張させる膨張弁と、
を備え、
前記エコノマイザに通す流路を開くととともに前記バイパス管の流路を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管の流路を開くとともに前記エコノマイザに通す流路を閉じたバイパス状態に切り替える、
冷凍機。」

(相違点1)
冷媒をエコノマイザに通す流路と、バイパス管の流路とを開閉する弁について、本件発明は、「冷媒を前記エコノマイザに通す流路を開閉するエコノマイザ流路開閉弁と、前記バイパス管の流路を開閉するバイパス管流路開閉弁」であるのに対して、甲1発明は、「四方弁(14)」である点。

(相違点2)
エコノマイザに通す流路を開くととともにバイパス管の流路を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管の流路を開くとともに前記エコノマイザに通す流路を閉じたバイパス状態に切り替えることについて、本件発明は、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路」「を開くととともに前記バイパス管流路」「を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路」「を開くとともに前記エコノマイザ流路」「を閉じたバイパス状態に切り替え」るのに対して、甲1発明は、「制御部(30)」が「圧縮比(Pd/Ps:二段圧縮機の吐出側の冷媒の圧力(吐出圧Pd)、二段圧縮機10の吸入側の冷媒の圧力(吸入圧Ps))が大きい場合、中間連結部(3)へガス冷媒を注入するエコノマイザを用い、圧縮比(Pd/Ps)が小さい場合、」「中間連結部(3)へ液冷媒を注入する」「切り替え制御」を行う点。

(相違点3)
本件発明は、「冷凍機の設置時に」、「前記エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合には、前記バイパス管流路開閉弁を開いた場合よりも、前記膨張弁の開度が大きく制御される」のに対して、甲1発明は、蒸気圧縮サイクル装置の設置時の蒸気圧縮サイクル装置のインジェクション減圧回路の開度について、特定はなされていない点。

(イ) 相違点についての判断
a.事案に鑑み、相違点2について、先ず検討する。
甲1発明が、「インジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器(13)を経由して中間連結部(3)へ注入する第1流路(15)か、HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)かを切替え」るのは、蒸気圧縮サイクル装置の設置時ではなく、「圧縮比(Pd/Ps:二段圧縮機の吐出側の冷媒の圧力(吐出圧Pd)、二段圧縮機10の吸入側の冷媒の圧力(吸入圧Ps))が大きい場合、中間連結部(3)へガス冷媒を注入するエコノマイザを用い、圧縮比(Pd/Ps)が小さい場合」、「に切り替えて中間連結部(3)へ液冷媒を注入する」という、通常使用時の制御における切替えに関するものである。
そうすると、甲1発明において、「インジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器(13)を経由して中間連結部(3)へ注入する第1流路(15)か、HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)かを切替え」を、蒸気圧縮サイクル装置の設置時に、作業者が手動で行うことは、通常想定されるものではなく、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
さらに、冷凍機の設置時に試運転を行うことが、甲第3号証?甲第7号証に記載されているように周知の技術であるとしても、これらは、甲1発明において、「インジェクション減圧回路(12)で減圧された液冷媒を、HIC熱交換器(13)を経由して中間連結部(3)へ注入する第1流路(15)か、HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)かを切替え」を、蒸気圧縮サイクル装置の設置時に、作業者が手動で行うことを開示するものではないから、上記「第1流路(15)か、HIC熱交換器(13)を経由せずに中間連結部(3)へ注入する第2流路(16)かを切替え」を、冷凍機の設置時に、作業者が手動で行うことが、容易であるとはいえない。
そして、本件発明は、上記相違点2に係る本件発明の特定事項である、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」る構成を採用することにより、「エコノマイザ使用状態」では、エコノマイザによって冷却された冷媒が冷媒配管の温度を低下させ、エコノマイザの下流側の冷媒配管の表面に結露を生じ易すくさせるが(本件特許明細書【0018】)、「バイパス使用状態」では、冷媒配管を通る冷媒がエコノマイザで冷却されないため、冷媒配管の温度はそれほど低くならず、冷媒配管の表面に結露を生じ難くし(本件特許明細書【0019】)、「冷却器側の設置状態に応じて、簡単な構成で冷媒配管の結露を防止する」という本件発明の課題(本件特許明細書【0004】)を解決するものである。この点については、甲第1号証?甲第7号証に、何ら記載されていない。
よって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
b.次に、相違点3について、検討する。
甲1発明は、相違点2で検討したとおり、四方弁の切り替えを、蒸気圧縮サイクル装置の通常使用時の制御において行うものであり、蒸気圧縮サイクル装置の設置時について、四方弁の態様を特定するものではなく、さらに、蒸気圧縮サイクル装置の設置時の四方弁の態様に応じて、インジェクション減圧回路の開度を特定するものではない。
また、上記相違点3に係る本件発明の構成について、甲第1号証?甲第7号証において、記載も示唆もなされておらず、蒸気圧縮サイクル装置の設置時において、技術常識であるとすることもできない。
なお、特許異議申立人は、「甲第1号証の発明において、『・・・四方弁14を切替えて、第2流路16から液冷媒を注入することにより、中間圧Pmを下げる』([0025])という制御が行われる際、中間圧Pmの低下をさらに促進させるように、インジェクション減圧回路12の弁開度を小さくする(弁を絞って冷媒を減圧する)ことは、当業者が容易に想到し得るものである。
言い換えると、甲第1号証には、第1流路15を介して冷媒を通流させる場合(訂正請求項1の『エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合』に相当)には、第2流路16を介して冷媒を通流させる場合(訂正請求項1の『バイパス管流路開閉弁を開いた場合』に相当)よりも、インジェクション減圧回路12の弁開度が大きく制御されるようにすることが示唆されている。」と主張している(令和2年2月14日特許異議申立人意見書9ページ下から12行?下から3行。)。
しかしながら、甲第1号証には、蒸気圧縮サイクル装置の設置時に、作業者が手動で第1流路(15)を介して冷媒を通流させる場合に、第2流路(16)を介して冷媒を通流させる場合よりも、インジェクション減圧回路(12)の開度を大きく制御することについて、記載も示唆もされていないし、技術常識であるとすることもできない。
よって、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
c.したがって、本件発明は、上記相違点1を検討するまでもなく、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
イ 甲第2号証を主引用文献として
(ア) 本件発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「圧縮機(1)」、「凝縮器(2)」、「蒸発器(4)」、「冷凍装置」、「エコノマイザ(8)」、「第1バイパス路(11)」、「自動調整弁(17)」、及び「第2バイパス路(14)」は、各文言の意味、機能または作用等からみて、それぞれ、本件発明の「圧縮機」、「凝縮器」、「冷却器」、「冷凍機」、「エコノマイザ」、「分岐管」及び「冷媒を前記エコノマイザに通す流路」及び「エコノマイザ流路」、「膨張弁」、並びに「前記バイパス管の流路」及び「バイパス管流路」に相当する。
また、甲2発明の「圧縮機(1)、凝縮器(2)、主減圧機構(3)及び蒸発器(4)を順次接続してなる主冷媒回路(7)」は、各装置が冷媒配管で接続されていること、及び圧縮機(1)の上流側の冷媒配管と凝縮器(2)の下流側の冷媒配管が蒸発器(4)に接続されることが技術常識であるから、本件発明の「前記圧縮機の上流側の冷媒配管および前記凝縮器の下流側の冷媒配管が冷却器に接続される」態様に相当する。
甲2発明の「上記第1バイパス路(11)のエコノマイザ(8)」は、「該自動調整弁(17)による冷媒の減圧効果に基づき冷凍能力を増大させるエコノマイザ(8)」であり、そのために、凝縮器で凝縮された冷媒をさらにエコノマイザで冷却することから、本件発明の「前記凝縮器の下流側の冷媒配管に設けられるエコノマイザ」に相当する。
また、甲2発明の「エコノマイザ(8)の上流の主冷媒回路(7)から分岐する」態様は、本件発明の「エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐」する態様と、「エコノマイザの近傍の冷媒配管から分岐」する限りで、一致する。
そうすると、甲2発明の「該主冷媒回路(7)の凝縮器(2)と主減圧機構(3)との間の液管(5a)を圧縮機(1)の中間圧となる箇所に冷媒が上記主減圧機構(3)及び蒸発器(4)をバイパスして流通するよう接続する」「第1バイパス配管」が、「該自動調整弁(17)による冷媒の減圧効果に基づき冷凍能力を増大させるエコノマイザ(8)」に用いられる態様は、本件発明の「前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させ」と、「前記エコノマイザの近傍の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させ」る限りで一致する。
また、甲2発明の「第1バイパス路(11)」が「圧縮機(1)の中間圧となる箇所に冷媒が上記主減圧機構(3)及び蒸発器(4)をバイパスして流通するよう接続する」態様は、第1バイパス路(11)の圧縮機への接続が、圧縮機の冷却用のポートに接続されることは技術的に明らかであり、本件発明の「分岐管」が「前記圧縮機の冷却用インジェクションポートに接続される」態様に相当する。
甲2発明の「上記主冷媒回路(7)の液冷媒を、上記第1バイパス路(11)のエコノマイザ(8)をバイパスして圧縮機(1)の中間圧となる箇所に流通させる第2バイパス路(14)」は、エコノマイザ(8)の上流側と下流側とを接続して、エコノマイザ(8)をバイパスしているから、本件発明の「前記分岐管の前記エコノマイザの上流側と下流側とを接続するバイパス管」に相当する。
甲2発明の「主冷媒回路(7)の液管(5a)中の冷媒の一部を圧縮機(1)の中間圧となる箇所にバイパスさせる経路を、第1バイパス路(11)のエコノマイザ(8)側と第2バイパス路(14)側とに選択的に切換える第1開閉弁(12)、第2開閉弁(15)からなる切換手段(51)」は、本件発明の「冷媒を前記エコノマイザに通す流路を開閉するエコノマイザ流路開閉弁と、前記バイパス管の流路を開閉するバイパス管流路開閉弁」に相当する。
甲2発明の「該第1バイパス路(11)を流れる冷媒を減圧する自動調整弁(17)」は、「該第2バイパス路(14)を流れる冷媒を減圧する自動調整弁(17)」でもあるので、本件発明の「前記分岐管の中途部であって前記エコノマイザ及び前記バイパス管の上流側に冷媒を膨張させる膨張弁」に相当する。
甲2発明の「自動調整弁(17)は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有し、
圧縮機(1)の吐出管(5b)の温度を検出する吐出管温度検出手段(Th1)と、該吐出管温度検出手段(Th1)の出力を受け、吐出管温度が所定の設定値以上のときには液管(5a)中の冷媒の一部が第2バイパス路(14)側に流れるよう切換手段(51)を制御する切換制御手段(52B)とを備えた」態様と、本件発明の「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」る態様とは、「エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」るとの限りで一致する。

そうすると、本件発明と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「圧縮機および凝縮器を備え、前記圧縮機の上流側の冷媒配管および前記凝縮器の下流側の冷媒配管が冷却器に接続される冷凍機において、
前記凝縮器の下流側の冷媒配管に設けられるエコノマイザと、
前記エコノマイザの近傍の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させて前記圧縮機の冷却用インジェクションポートに接続される分岐管と、
前記分岐管の前記エコノマイザの上流側と下流側とを接続するバイパス管と、
冷媒を前記エコノマイザに通す流路を開閉するエコノマイザ流路開閉弁と、
前記バイパス管の流路を開閉するバイパス管流路開閉弁と、
前記分岐管の中途部であって前記エコノマイザ及び前記バイパス管の上流側に冷媒を膨張させる膨張弁と、
を備え、
前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替える、
冷凍機。」

(相違点4)
エコノマイザの近傍の冷媒配管から分岐する分岐管について、本件発明は、「前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐」しているのに対して、甲2発明は、「エコノマイザ(8)の上流の主冷媒回路(7)から分岐する」とされている点。

(相違点5)
エコノマイザ流路開閉弁を開くととともにバイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態またはバイパス管流路開閉弁を開くとともにエコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替えることについて、本件発明は、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、」切り替えるのに対して、甲2発明は、「自動調整弁(17)は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有し、
吐出管センサ(Th1)で検出される吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上か否かを判別し、T1≧T1sになると、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせることにより、液・ガス混合した冷媒を圧縮機(1)に戻して吐出ガス温度T1の過上昇を抑制し、吐出管温度T1が所定の回復値T1r(<T1s)よりも低くなると、中間冷却器(8)を使用する通常運転に戻るように制御する」点。

(相違点6)
本件発明は、「冷凍機の設置時に」、「前記エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合には、前記バイパス管流路開閉弁を開いた場合よりも、前記膨張弁の開度が大きく制御される」のに対して、甲2発明は、冷凍装置の設置時の自動調整弁の開度について、特定はなされていない点。

(イ) 相違点についての判断
a.事案に鑑み、相違点5について、先ず検討する。
甲2発明が、「自動調整弁(17)は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有し、
吐出管センサ(Th1)で検出される吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上か否かを判別し、T1≧T1sになると、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせることにより、液・ガス混合した冷媒を圧縮機(1)に戻して吐出ガス温度T1の過上昇を抑制し、吐出管温度T1が所定の回復値T1r(<T1s)よりも低くなると、中間冷却器(8)を使用する通常運転に戻るように制御する」のは、冷凍装置の設置時ではなく、通常使用時の制御における切り替えに関するものである。
そうすると、通常使用時における「自動調整弁(17)は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有し、
吐出管センサ(Th1)で検出される吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上か否かを判別し、T1≧T1sになると、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせることにより、液・ガス混合した冷媒を圧縮機(1)に戻して吐出ガス温度T1の過上昇を抑制し、吐出管温度T1が所定の回復値T1r(<T1s)よりも低くなると、中間冷却器(8)を使用する通常運転に戻るように制御する」甲2発明において、冷凍装置の設置時に、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開く、又は第1開閉弁(12)を開き第2開閉弁(15)を閉じることを、作業者が手動で行うことは、通常想定されるものではなく、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
さらに、冷凍装置の設置時に試運転を行うことが、甲第3号証?甲第7号証に記載されているように周知の技術であるとしても、これらは、甲2発明において、「自動調整弁(17)は圧縮機(1)の吐出管(5b)に感温筒(17a)を有し、
吐出管センサ(Th1)で検出される吐出管温度T1が所定の設定値T1s以上か否かを判別し、T1≧T1sになると、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせることにより、液・ガス混合した冷媒を圧縮機(1)に戻して吐出ガス温度T1の過上昇を抑制し、吐出管温度T1が所定の回復値T1r(<T1s)よりも低くなると、中間冷却器(8)を使用する通常運転に戻るように制御する」ことを、冷凍装置の設置時に、作業者が手動で行うことを開示するものではないから、上記「T1≧T1sになると、第1開閉弁(12)を閉じ第2開閉弁(15)を開いて中間冷却器(8)をバイパスさせること」を、冷凍装置の設置時に、作業者が手動で行うようにすることが、容易であるとはいえない。
一方、相違点5に係る本件発明の特定事項である、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」ること及びその課題については、上記相違点2についての判断において検討したことと同様に、甲第2号証?甲第7号証に、何ら記載されていない。
よって、甲2発明において、上記相違点5に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
b.次に、相違点6について、検討する。
甲2発明は、相違点5で検討したとおり、第1開閉弁及び第2開閉弁の切り替えを、冷凍装置の通常使用時の制御において行うものであり、冷凍装置の設置時については、第1開閉弁及び第2開閉弁の態様を特定するものではなく、さらに、冷凍装置の設置時の第1開閉弁及び第2開閉弁の態様に応じて、自動調整弁の開度を特定するものではない。
また、上記相違点6に係る本件発明の構成について、甲第2号証?甲第7号証において、記載も示唆もなされておらず、冷凍装置の設置時において、技術常識であるとすることもできない。
よって、甲2発明において、上記相違点6に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
c.したがって、本件発明は、上記相違点4を検討するまでもなく、甲2発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲2発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
2 [理由2]及び[理由3](特許法第36条第6項第1号及び第2号)について
本件訂正により、請求項1には、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」ることが特定されたため、上記第4 2[理由2](2)の特定事項Aが請求項1において特定されたから、上記[理由2]及び[理由3]については、解消した。
よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、また、明確なものである。
(2) なお、特許異議申立人は、次の主張をしている。
ア 「『冷凍機の設置時に、作業者が手動で、・・・エコノマイザ使用状態または・・・バイパス状態に切り替え、』という記載になっているが、このような事項(a)を行うか否かは作業者次第である。例えば、作業者が事項(a)の手動操作を行った場合には、訂正請求項1に係る発明が実施されることになる。一方、作業者が事項(a)の手動操作を行わなければ、訂正請求項1に係る発明が実施されない。
このように、冷凍機に関する発明である(つまり、冷凍機の据付方法に関する発明ではない)にもかかわらず、冷凍機単独では、訂正請求項1に係る発明を実施できない場合がある。
・・・(当審注:「・・・」は省略を意味する。)訂正請求項1に係る発明は、冷凍機に係る発明であるのか、それとも、冷凍機の据付方法に係る発明であるのかが不明確であるため、訂正請求項1に係る発明の属するカテゴリーが不明確である。」(令和2年2月14日特許異議申立人意見書「3-2-3.その3」参照。)
イ そこで、上記アについて検討する。
本件発明は、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」と特定されるものであり、作業者が設置時に手動で切り替えを行えるエコノマイザ流路開閉弁及びバイパス管流路開閉弁を備えた装置の発明として明確に理解できる。
また、そのようなエコノマイザ流路開閉弁及びバイパス管流路開閉弁を備えた本件発明について、「冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え」て、かつ、「前記エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合には、前記バイパス管流路開閉弁を開いた場合よりも、前記膨張弁の開度が大きく制御」することは、作業者が手動操作を行うことを前提としたものであり、当業者がその実施ができることは、その構成からみて明らかである。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記アの主張は採用でできない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項2は削除され、本件特許の請求項2についての本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項2についての本件特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機および凝縮器を備え、前記圧縮機の上流側の冷媒配管および前記凝縮器の下流側の冷媒配管が冷却器に接続される冷凍機において、
前記凝縮器の下流側の冷媒配管に設けられるエコノマイザと、
前記エコノマイザの下流の冷媒配管から分岐して、前記エコノマイザを流れる前記凝縮器から流出する冷媒と熱交換させて前記圧縮機の冷却用インジェクションポートに接続される分岐管と、
前記分岐管の前記エコノマイザの上流側と下流側とを接続するバイパス管と、
冷媒を前記エコノマイザに通す流路を開閉するエコノマイザ流路開閉弁と、
前記バイパス管の流路を開閉するバイパス管流路開閉弁と、
前記分岐管の中途部であって前記エコノマイザ及び前記バイパス管の上流側に冷媒を膨張させる膨張弁と、
を備え、
冷凍機の設置時に、作業者が手動で、前記エコノマイザ流路開閉弁を開くととともに前記バイパス管流路開閉弁を閉じたエコノマイザ使用状態または前記バイパス管流路開閉弁を開くとともに前記エコノマイザ流路開閉弁を閉じたバイパス状態に切り替え、
前記エコノマイザ流路開閉弁を開いた場合には、前記バイパス管流路開閉弁を開いた場合よりも、前記膨張弁の開度が大きく制御されることを特徴とする冷凍機。
【請求項2】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-05-08 
出願番号 特願2017-127773(P2017-127773)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F25B)
P 1 651・ 121- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小原 一郎  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 山崎 勝司
槙原 進
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6414791号(P6414791)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 冷凍機  
代理人 特許業務法人クシブチ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人クシブチ国際特許事務所  

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