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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1363980 |
異議申立番号 | 異議2019-700195 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-11 |
確定日 | 2020-05-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6389574号発明「二軸延伸シートおよびその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6389574号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、3?11]、[2、12?20]について訂正することを認める。 特許第6389574号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第6389574号(設定登録時の請求項の数は11。以下、「本件特許」という。)は、2017年(平成29年)1月13日(優先権主張 平成28年1月15日)を国際出願日とする特願2017-561180号に係るものであって、平成30年8月24日に設定登録され、同年9月12日に特許掲載公報が発行された。 特許異議申立人 神谷高伸(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成31年3月11日に本件特許の請求項1ないし11に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。 当審において、令和1年5月28日付けで取消理由が通知され、同年7月26日に特許権者 デンカ株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されると共に訂正請求書が提出され、同年同月31日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたところ、同年9月2日に異議申立人から意見書が提出された。 当審において、令和1年10月8日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、同年12月16日に特許権者から意見書が提出されると共に訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出されたので、同年12月24日付けで異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたところ、令和2年2月4日に異議申立人から意見書が提出された。 なお、令和1年7月26日提出の訂正請求書は取り下げられたものとみなされる。(特許法第120条の5第7項) 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1ないし18である。ここで、訂正事項1ないし18は、訂正前の請求項1?11の一群の請求項に係る訂正である。なお、下線は、訂正箇所に合議体が付したものである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「スチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、」と記載されているのを、「スチレン系樹脂組成物(但し、平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有するスチレン系樹脂組成物、及び、スチレン74質量%、メタクリル酸14質量%及びメタクリル酸メチル12質量%を共重合させてなるスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂99.0質量%と、耐衝撃性スチレン系樹脂1.0質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物を除く)からなる二軸延伸シートであって、」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?11も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2に「前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)は、重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である請求項1に記載の二軸延伸シート。」と記載されているのを、「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり、前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲であり、前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)は、重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である、二軸延伸シート。」に訂正して、請求項2を独立項とする。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または請求項2に」と記載されているのを、「請求項1に」と訂正する。 請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4?11も同様に訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項3に」と訂正する。 請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5?11も同様に訂正する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項3?4のいずれか1項に」に訂正する。 請求項5の記載を引用する直接又は間接的に請求項6?11も同様に訂正する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項3?5のいずれか1項に」に訂正する。 請求項6の記載を直接又は間接的に引用する直接又は間接的に請求項7?11も同様に訂正する。 キ 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項3?6のいずれか1項に」に訂正する。 請求項7の記載を直接又は間接的に引用する直接又は間接的に請求項8?11も同様に訂正する。 ク 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項3?7のいずれか1項に」に訂正する。 請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9?11も同様に訂正する。 ケ 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1または請求項3?8のいずれか1項に」に訂正する。 請求項9の記載を引用する請求項10?11も同様に訂正する。 コ 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または請求項2に」と記載されているのを、請求項2を引用するものだけに限定するため、「請求項2に」と訂正して、新たに請求項12を設ける。 また、特許請求の範囲の請求項3に、「前記スチレン系樹脂組成物に対して0.005?0.36質量%である」と記載されているのを、段落0026の記載に基づいて「前記スチレン系樹脂組成物に対して0.005?0.36質量%であり、前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.2?2.8である」との要件を追加して、新たに設けた請求項12を減縮して訂正する。 請求項12の記載を直接又は間接的に引用する請求項13?20も同様に訂正する。 サ 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に」と記載されているのを、請求項2または請求項3を引用するものだけに限定するため、「請求項2または請求項12に」と訂正して、新たに請求項13を設ける。 シ 訂正事項12 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に」と記載されているのを、請求項2?4のいずれか1項を引用するものだけに限定するため、「請求項2または請求項12?13のいずれか1項に」と訂正して、新たに請求項14を設ける。 ス 訂正事項13 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に」と記載されているのを、請求項2?5のいずれか1項を引用するものだけに限定するため、「請求項2または請求項12?14のいずれか1項に」と訂正して、新たに請求項15を設ける。 セ 訂正事項14 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に」と記載されているのを、請求項2?6のいずれか1項を引用するものだけに限定するため、「請求項2または請求項12?15のいずれか1項に」と訂正して、新たに請求項16を設ける。 ソ 訂正事項15 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項に」と記載されているのを、請求項2?7のいずれか1項を引用するものだけに限定するため、「請求項2または請求項12?16のいずれか1項に」と訂正して、新たに請求項17を設ける。 タ 訂正事項16 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか1項に」と記載されているのを、請求項2?8のいずれか1項を引用するものだけに限定するため、「請求項2または請求項12?17のいずれか1項に」と訂正して、新たに請求項18を設ける。 チ 訂正事項17 特許請求の範囲の請求項10に「請求項9に」と記載されているのを、請求項2または請求項2を引用する請求項3?8のいずれか1項を引用する請求項9に係るものだけに限定するため、「請求項18に」と訂正して、新たに請求項19を設ける。 ツ 訂正事項18 特許請求の範囲の請求項11に「請求項9または請求項10に」と記載されているのを、請求項2または請求項2を引用する請求項3?8のいずれか1項を引用する請求項9または請求項10に係るものだけに限定するため、「請求項18または請求項19に」と訂正して、新たに請求項20を設ける。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1に係る請求項1についての訂正について ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、スチレン系樹脂組成物から、甲第1号証(特開2015-21074号公報)の請求項1の「平均粒子径1?20μmの無機系粒状体(C)とを含有する組成物であって、・・・組成物中における無機系粒状体(C)の質量割合が50?500ppmの範囲であるスチレン系樹脂組成物」との記載に基づくスチレン系樹脂組成物を除くものである。 同様に、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、スチレン系樹脂組成物から、甲第1号証の段落0063及び段落0064の表1に記載された合成例4のスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂A-3(樹脂組成:スチレン74質量%、メタクリル酸14質量%、メタクリル酸メチル12質量%)を用い、段落0071及び段落0074の表3の比較例1に記載された、共重合樹脂A-3の99.0質量%と耐衝撃性スチレン系樹脂B-1の1.0質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物を除くものである。 このように訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明におけるスチレン系樹脂組成物から特定の組成の2種類のスチレン系樹脂組成物を除くものである。したがって、当該訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、新たな技術的事項を導入するものとはいえないので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項1の請求項1の訂正に伴って訂正される請求項3ないし11についての訂正も同様である。 (2) 訂正事項2に係る請求項2についての訂正について ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 イ 訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3) 訂正事項3に係る請求項3についての訂正について ア 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1または請求項2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項3に係る請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項3の請求項3の訂正に伴って訂正される請求項4ないし11についての訂正も同様である。 (4) 訂正事項4に係る請求項4についての訂正について ア 訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1?3のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項4に係る請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項4の請求項4の訂正に伴って訂正される請求項5ないし11についての訂正も同様である。 (5) 訂正事項5に係る請求項5についての訂正について ア 訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項5に係る請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項5の請求項5の訂正に伴って訂正される請求項6ないし11についての訂正も同様である。 (6) 訂正事項6に係る請求項6についての訂正について ア 訂正事項6は、訂正前の請求項6が請求項1?5のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項6に係る請求項6についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項6の請求項6の訂正に伴って訂正される請求項7ないし11についての訂正も同様である。 (7) 訂正事項7に係る請求項7についての訂正について ア 訂正事項7は、訂正前の請求項7が請求項1?6のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項7に係る請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項7の請求項7の訂正に伴って訂正される請求項8ないし11についての訂正も同様である。 (8) 訂正事項8に係る請求項8についての訂正について ア 訂正事項8は、訂正前の請求項8が請求項1?7のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項8に係る請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項8の請求項8の訂正に伴って訂正される請求項9ないし11についての訂正も同様である。 (9) 訂正事項9に係る請求項9についての訂正について ア 訂正事項9は、訂正前の請求項9が請求項1?8のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとするものであるから、当該訂正事項9は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項9に係る請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項9の請求項9の訂正に伴って訂正される請求項10ないし11についての訂正も同様である。 (10)訂正事項10に係る請求項3についての訂正について ア 訂正事項10の前半の訂正は、訂正前の請求項3が請求項1または請求項2の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとするための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。また、訂正事項10の後半の訂正は、訂正前の請求項3に係る発明において、段落0026の記載に基づいて「前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.2?2.8である」との要件を追加して減縮するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (11)訂正事項11に係る請求項4(訂正後の請求項13)についての訂正について ア 訂正事項11は、訂正前の請求項4が請求項1?3のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項13を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (12)訂正事項12に係る請求項5(訂正後の請求項14)についての訂正について ア 訂正事項12は、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項14を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (13)訂正事項13に係る請求項6(訂正後の請求項15)についての訂正について ア 訂正事項13は、訂正前の請求項6が請求項1?5のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項15を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (14)訂正事項14に係る請求項7(訂正後の請求項16)についての訂正について ア 訂正事項14は、訂正前の請求項7が請求項1?6のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項16を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項14は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (15)訂正事項15に係る請求項8(訂正後の請求項17)についての訂正について ア 訂正事項15は、訂正前の請求項8が請求項1?7のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項17を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (16)訂正事項16に係る請求項9(訂正後の請求項18)についての訂正について ア 訂正事項16は、訂正前の請求項9が請求項1?8のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項18を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項16は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (17)訂正事項17に係る請求項10(訂正後の請求項19)についての訂正について ア 訂正事項17は、訂正前の請求項10が、「請求項1?8のいずれか1項」を引用する「請求項9」を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項14を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項17は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (18)訂正事項18に係る請求項11(訂正後の請求項20)についての訂正について ア 訂正事項18は、訂正前の請求項11が「請求項1?8のいずれか1項」を引用する「請求項9」または「請求項10」の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとして新たに請求項20を設けるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 訂正事項18は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (19) 別の訂正単位とする求め 訂正後の請求項2と、訂正後の請求項2の記載を引用する訂正後の請求項12?20については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがあった。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、3?11]、[2、12?20]について訂正することを認める。 第3 本件発明 1 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし20に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明20」という。)は、令和1年12月16日に提出した訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。 「【請求項1】 スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物(但し、 平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有するスチレン系樹脂組成物、及び、 スチレン74質量%、メタクリル酸14質量%及びメタクリル酸メチル12質量%を共重合させてなるスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体樹脂99.0質量%と、耐衝撃性スチレン系樹脂1.0質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物を除く)からなる二軸延伸シートであって、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、 前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり、 前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲である 二軸延伸シート。 【請求項2】 スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、 前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり、 前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲であり、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)は、重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である、二軸延伸シート。 【請求項3】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分の含有量が、前記スチレン系樹脂組成物に対して0.005?0.36質量%である請求項1に記載の二軸延伸シート。 【請求項4】 前記スチレン系樹脂組成物中の未反応スチレンモノマーの含有量が1000ppm以下、未反応メタクリル酸モノマーの含有量が150ppm以下である請求項1または請求項3に記載の二軸延伸シート。 【請求項5】 前記スチレン系樹脂組成物中の六員環酸無水物の含有量が1.0質量%以下である請求項1または請求項3?4のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項6】 前記スチレン系樹脂組成物は、200℃におけるメルトフローインデックスが0.5?4.5g/10分である請求項1または請求項3?5のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項7】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分が、平均ゴム粒子径1?9μmである請求項1または請求項3?6のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項8】 少なくとも一方の表面にシリコーンオイル塗膜を有する請求項1または請求項3?7のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項9】 請求項1または請求項3?8のいずれか1項に記載の二軸延伸シートからなる成形品。 【請求項10】 電子レンジ加熱用食品包装容器である請求項9に記載の成形品。 【請求項11】 本体部分と当該本体部分と嵌合可能な蓋材とからなるフードパックであり、嵌合部分の形状が内嵌合である請求項9または請求項10に記載の成形品。 【請求項12】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分の含有量が、前記スチレン系樹脂組成物に対して0.005?0.36質量%であり、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.2?2.8である請求項2に記載の二軸延伸シート。 【請求項13】 前記スチレン系樹脂組成物中の未反応スチレンモノマーの含有量が1000ppm以下、未反応メタクリル酸モノマーの含有量が150ppm以下である請求項2または請求項12に記載の二軸延伸シート。 【請求項14】 前記スチレン系樹脂組成物中の六員環酸無水物の含有量が1.0質量%以下である請求項2又は請求項12?13のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項15】 前記スチレン系樹脂組成物は、200℃におけるメルトフローインデックスが0.5?4.5g/10分である請求項2または請求項12?14のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項16】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分が、平均ゴム粒子径1?9μmである請求項2または請求項12?15のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項17】 少なくとも一方の表面にシリコーンオイル塗膜を有する請求項2または請求項12?16のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項18】 請求項2または請求項12?17のいずれか1項に記載の二軸延伸シートからなる成形品。 【請求項19】 電子レンジ加熱用食品包装容器である請求項18に記載の成形品。 【請求項20】 本体部分と当該本体部分と嵌合可能な蓋材とからなるフードパックであり、嵌合部分の形状が内嵌合である請求項18または請求項19に記載の成形品。」 第4 特許異議申立書に記載した申立理由の概要 平成31年3月11日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号:甲1に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(特許法第29条第2項:甲1に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし20に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明、甲第2ないし18号証に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3-1(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件1) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、配向緩和応力が0.5?1.2MPaである二軸延伸シートに関し、実施例1以外でどのようにして製造するのかが全く記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1ないし20に係る発明の実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されておらず、実施可能要件を充足しないから、本件特許の請求項1ないし20に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由3-2(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、請求項2の「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)は、重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である」二軸延伸シートに関し、実施例1以外でどのようにして製造するのかが全く記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項2、12ないし20に係る発明の実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されておらず、実施可能要件を充足しないから、本件特許の請求項2、12ないし20に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 5 証拠方法 甲第1号証 :特開2015-21074号公報 甲第2号証 :特開2015-737号公報 甲第3号証 :特開2018-48278号公報 甲第4号証 :特開平11-292995号公報 甲第5号証 :国際公開第2008/093432号 甲第6号証 :特開2008-248156号公報 甲第7号証 :特開2007-177119号公報 甲第8号証 :特開2001-26619号公報 甲第9号証 :特開2014-201605号公報 甲第10号証 :特開2012-31344号公報 甲第11号証 :PSジャパン株式会社『高耐熱グレード「G9001」』、[online]、最終更新2012年4月1日、[平成30年12月18日検索]、インターネット<URL:http://www.psjp.com/products/high_grade.html> 甲第12号証 :特開2003-63573号公報 甲第13号証 :特開平9-124079号公報 甲第14号証 :特開平8-58819号公報 甲第15号証 :『ASTM D1504』、「Standard Recommended Practice for DETERMINING ORIENTATION RELEASE STRESS OF PLASTIC SHEETING(プラスチックシートの配向剥離応力を決定するための標準的な推奨実践)」、1977年、ASTM(米国試験材料協会)、136?138ページ 甲第16号証 :PSジャパン株式会社『試験項目と測定方法』、[online]、最終更新2012年、[平成31年1月22日検索]、インターネット<URL:http://www.psjp.com/technology/measurment.html#m04> 甲第17号証 :日本工業規格 JIS K7206:1999、[online]、1999年、[平成31年1月23日検索]、インターネット<URL:http://kikakurui.com/k7/k7206-1999-02.html> 甲第18号証 :特開2009-145694号公報 甲第19号証 :国際出願(PCT/JP2017/001000)についての国際調査機関の見解書、特許庁審査官 福井弘子、2017年3月27日(当審注:甲第19号証は、本件特許に係る国際出願についてのものである。) 甲第1号証から甲第19号証については、それぞれ「甲1」から「甲19」という。なお、文献の表記については概ね特許異議申立書の記載に従った。 第5 取消理由<決定の予告>の概要 令和1年10月8日付けで通知した取消理由<決定の予告>において、本件特許の本件訂正請求前の請求項2及び請求項2を引用する請求項3ないし11に係る特許に対する取消理由<決定の予告>の概要は、以下のとおりである。なお、下記理由4(実施可能要件違反2)は、異議申立人の申立理由3-2と同旨である。 「理由4(実施可能要件2) 本件特許の請求項2ないし11についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ・・・ 本件特許の請求項2に係る発明における発明特定事項である「重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である」「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)」を当業者が得ることができるかどうか、以下検討する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記特定の分子量に関する記載は、上記1に摘記のとおりであって、上記特定の分子量の条件を満足するスチレン-メタクリル酸共重合体をどのようにして得ることができるかについての記載はない。 具体的な実施例の記載において、スチレン-メタクリル酸共重合体であるA-1、A-21ないしA-24については、具体的な重合条件が記載されていて、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であるスチレン-メタクリル酸共重合体が得られているが、これらは、全て同じ分子量関係のものであるから、どのような製造条件で重量平均分子量(Mw)、Mw/Mn及びMz/Mwが変化するのかを読み取ることはできない。 そして、当業者の技術常識を考慮して、本件発明2の特定の分子量関係のスチレン-メタクリル酸共重合体を当業者が得ることができるがどうか検討しても、本件発明2の特定の分子量関係は、単に分子量が特定の値であり、分子量分布が特定の値であるものではなく、重量平均分子量が12万から25万であるとともに、それぞれ異なる分子量の指標であるMw、Mz、Mn間の比であるMw/Mn及びMz/Mnを特定値とするものであるから、当業者の技術常識を考慮しても、何をどのようにすれば、本件発明2の特定の分子量関係のスチレン-メタクリル酸共重合体を得ることができるのかまでは理解できない。 したがって、上記のような本件特許明細書の記載、及び出願時の当業者の技術常識を考慮しても、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-21?26)の、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)がそれぞれ、8.0万、20万、36万のスチレン-メタクリル酸共重合体(A)以外の、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-2?A-20)を実施するにあたり、どのような具体的な条件下にしたのか当業者が理解することができないから、請求項2に係る発明の全体についてまでは、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。」 第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断 当合議体は、以下述べるように、上記取消理由の理由4(実施可能要件2)には、理由がないと判断する。 1 実施可能要件の判断基準 物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 2 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書には、「重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である」「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)」に関する記載として以下の記載がある。 ア 「【0025】 スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、12万?25万であることが好ましく、より好ましくは14万?22万、さらに好ましくは15万?20万である。重量平均分子量が12万未満であると、シートのドローダウン、ネックインが発生するなどの製膜性の低下、延伸配向の不足、容器成形時の熱板接触による表面荒れが発生し易くなる。一方、重量平均分子量が25万を超えると、流動性低下による製膜時の厚みムラ、ダイラインなどのシート外観低下、容器成形時の賦型不良などが発生し易くなる。 【0026】 また、スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnは、2.0?3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2?2.8である。Mw/Mnが3.0を超えると、容器成形時の熱板接触による表面荒れが発生し易くなる。一方、Mw/Mnが2.0未満であると、流動性低下による製膜時の厚みムラや容器成形時の賦型不良が発生し易くなる。また、Z平均分子量(Mz)とMwとの比Mz/Mwは、1.5?2.0であることが好ましく、より好ましくは1.6?1.9である。Mz/Mwが1.5未満であると、シートのドローダウン、ネックインが発生するなどの製膜性の低下、延伸配向の不足が発生し易くなる。一方、Mz/Mwが2.0を超えると、流動性低下による製膜時の厚みムラやダイラインなどのシート外観低下が発生し易くなる。 【0027】 なお、上述の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、GPC測定にて、以下の方法にて単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。 機種:昭和電工株式会社製Shodex GPC-101 カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED-B 移動相:テトラヒドロフラン 試料濃度:0.2質量% 温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃ 検出器:示差屈折計」 イ 「【0054】 (実験例1)[スチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)の製造] 内容量200Lのジャケット、攪拌機付きオートクレーブに純水100kg、ポリビニルアルコール100gを加え、130rpmで攪拌した。続いてスチレン72.0kg、メタクリル酸8.0kgおよびt-ブチルパーオキサイド20gを仕込み、オートクレーブを密閉して、110℃に昇温して5時間重合を行った(ステップ1)。さらに140℃で3時間保持し、重合を完結させた(ステップ2)。得られたビーズを洗浄、脱水、乾燥した後、押出し、表1に記載のペレット状のスチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)を得た。これを熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、スチレン単量体単位/メタクリル酸単量体単位の質量比は90/10であった。また、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であった。 【0055】 (実験例2?20)[スチレン-メタクリル酸共重合体(A-2?20)の製造] 実験例1の各種原料仕込み量を調整し、表1、表2に記載の各種スチレン-メタクリル酸共重合体(A-2?20)を得た。 【0056】 (実験例21)[スチレン-メタクリル酸共重合体(A-21)の製造] 内容量200Lのジャケット、攪拌機付きオートクレーブに純水100kg、ポリビニルアルコール100gを加え、130rpmで攪拌した。続いてスチレン64.0kg、ブタジエン4.0kg、メタクリル酸8.0kgおよびt-ブチルパーオキサイド20gを仕込み、オートクレーブを密閉して、110℃に昇温して5時間重合を行った(ステップ1)。さらに140℃で3時間保持し、重合を完結させた(ステップ2)。得られたビーズを実験例1と同様の方法でペレット化して、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-21)を得た。これを熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、スチレン単量体単位/ブタジエン単量体単位/メタクリル酸単量体単位の質量比は、85/5/10であった。また、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であった。 【0057】 (実験例22)[スチレン-メタクリル酸共重合体(A-22)の製造] 内容量200Lのジャケット、攪拌機付きオートクレーブに純水100kg、ポリビ二ルアルコール100gを加え、130rpmで攪拌した。続いてスチレン64.0kg、無水マレイン酸4.0kg、メタクリル酸8.0kgおよびt-ブチルパーオキサイド20gを仕込み、オートクレーブを密閉して、110℃に昇温して5時間重合を行った(ステップ1)。さらに140℃で3時間保持し、重合を完結させた(ステップ2)。得られたビーズを実験例1と同様の方法でペレット化して、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-22)を得た。これを熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、スチレン単量体単位/無水マレイン酸単量体単位/メタクリル酸単量体単位の質量比は、85/5/10であった。また、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であった。 【0058】 (実験例23)[スチレン-メタクリル酸共重合体(A-23)の製造] 内容量200Lのジャケット、攪拌機付きオートクレーブに純水100kg、ポリビニルアルコール100gを加え、130rpmで攪拌した。続いてスチレン64.0kg、メタクリル酸メチル4.0kg、メタクリル酸8.0kgおよびt-ブチルパーオキサイド20gを仕込み、オートクレーブを密閉して、110℃に昇温して5時間重合を行った(ステップ1)。さらに140℃で3時間保持し、重合を完結させた(ステップ2)。得られたビーズを実験例1と同様の方法でペレット化して、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-23)を得た。これを熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、スチレン単量体単位/メタクリル酸メチル単量体単位/メタクリル酸単量体単位の質量比は、85/5/10であった。また、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であった。 【0059】 (実験例24)[スチレン-メタクリル酸共重合体(A-24)の製造] 実施例1と同様の配合および重合方法にて重合を実施した。得られたビーズを洗浄、脱水、乾燥した後、得られたスチレン-メタクリル酸共重合体100質量部に対して流動パラフィン(モービル石油社製「ホワイトレックス335」)を1質量部添加して押出し、表2に記載のペレット状のスチレン-メタクリル酸共重合体(A-24)を得た。また、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であった。」 ウ 「【0064】 【表1】 【0065】 【表2】 」 3 出願時における技術常識を考慮するための文献と出願時の技術常識 (1) 出願時における技術常識を考慮するための文献 特許権者は、請求項2で特定されている事項に係る出願時の技術常識を考慮するための文献として、以下の乙号証を提出した(乙第8号証ないし乙第12号証は、令和1年7月26日の意見書に添付され、乙第17号証は、同年12月16日の意見書に添付されたものである。)。 乙第8号証 :「ラジカル重合ハンドブック」、(株)エヌ・ティー・エス、1999年8月、p.499?504、第3節「ポリスチレンおよびスチレン系共重合体」 乙第9号証 :特開2009-29872号公報 乙第10号証 :特開2009-275184号公報 乙第11号証 :特開2009-275185号公報 乙第12号証 :特開2010-211977号公報 乙第17号証 :【技術資料】GPC法(SEC法)入門講座)」、株式会社東ソー分析センター技術レポート、No.T1001、2013.10.01、p.4?5<URL:http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00297/pdf/T1001Y.pdf> (以下、順に「乙8」のようにいう。) (2) 出願時における技術常識 当業者の本件特許の出願時における技術常識として、特許権者の提出した上記の乙8?12及び乙17から、以下の点が技術常識と認められる。 <技術常識> ・高分子の分子量は反応速度の逆数に比例し、重合反応速度は反応開始剤の量でコントロールするものであること(乙8の1.3重合制御、1.3.1) ・スチレン系樹脂組成物の分子量について、重合速度を遅くし、滞留時間を長くすること、つまり、低温で長時間重合することで分子量を高めることができること(乙9の段落【0011】) ・スチレン系樹脂組成物の分子量は、スチレンをラジカル重合する際の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量等によって制御することができ、分子量については、低温度で重合を行うなど、重合速度を抑えることで高分子量化することができ、逆に高温度で重合を行うなど重合速度を高めることで低分子量化することができること(乙10の段落【0010】、乙11の段落【0013】) ・分子量分布を表す、Mw/Mn、Mz/Mnの制御について、重合前半部分で高分子量成分を生成し、重合後半部分で、低分子量成分を生成することによって分子量分布を広めることができること(乙10の段落【0010】、乙11の段落【0013】) ・重量平均分子量(Mw)は、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量等によって制御することができること(乙12の段落【0024】) ・GPC法から得られる主な平均分子量には、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)があり、次式で定義されるものであること。 (乙17の4ページ) ・Mnは、単純な算術平均であり、Mwは、分子量を重みとして用いた加重平均であり、Mzは分子量の2乗を重みとして用いた加重平均であること。(乙17の4ページ) ・Mnは、低分子量の存在に影響を受けやすく、Mwは高分子量の存在に影響を受けやすく、MzはMwよりもさらに高分子量の存在に影響を受けやすい数値であって、このことは、分子量分布と平均分子量との関係を示す次の図6によっても理解できること。 (乙17の4ページ) 4 実施可能要件の検討 (1) 本件発明2について 本件発明2における発明特定事項である「重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である」「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)」を当業者が得ることができるかどうか、以下検討する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記特定の分子量に関する記載は、上記2に摘記のとおりであって、上記特定の分子量の条件を満足するスチレン-メタクリル酸共重合体をどのようにして得ることができるかについての記載はない。 具体的な実施例の記載において、スチレン-メタクリル酸共重合体であるA-1、A-21ないしA-24については、具体的な重合条件として110℃に昇温して5時間行うステップ1の後に140℃で3時間保持するステップ2で重合を行う具体的な重合方法が記載されていて、GPC測定により求めた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)はそれぞれ、8.0万、20万、36万であるスチレン-メタクリル酸共重合体が得られているが、これらは、全て同じ分子量関係のものであるから、どのような製造条件で重量平均分子量(Mw)、Mw/Mn及びMz/Mwが変化するのかを読み取ることはできない。 しかしながら、上記3(2)の図6からわかるように、Mw/Mnは、分子量分布が広いと大きい数値となり、分子量分布が狭いと小さな数値となることから、発明の詳細な説明において具体的に記載されている重合工程のステップ1において、重合温度を低くし、重合時間を長くすることによって、高分子量成分を製造し、次のステップ2において、重合温度を高くし、重合時間を短くすることによって、低分子量成分製造すると、分子量分布が広くなり、Mw/Mnが大きくなることが理解できるし、逆に、重合工程のステップ1において、重合温度を高くし、重合時間を短くすることによって、高分子量成分の分子量を小さくし、次のステップ2において、重合温度を低くし、重合時間を長くすることによって、低分子量成分の分子量を大きくすれば、分子量分布が狭くなり、Mw/Mnを小さくすることができると理解できる。 一方、上記3(2)の図6からわかるように、Mw/Mnは、高分子量成分側の分子量分布を広くする(高分子量成分側の分子量分布の裾を長くする)ことによって大きい数値となり、高分子量成分側の分子量分布を狭くする(高分子量成分側の分子量分布の裾を短くする)ことによって小さな数値となることから、発明の詳細な説明において具体的に記載されている重合工程のステップ1において、重合温度を低くし、重合時間を長くすることによって、より高い高分子量成分を製造し、次のステップ2において、重合温度を若干低くし、重合時間を若干長くすることによって、より低い高分子量成分を製造すると、高分子量側の分子量分布が広くなり、Mz/Mwの数値を小さくすることができると理解できる。 そうすると、平均分子量の制御は、同じく上記具体的に製造条件が示されているスチレン-メタクリル酸共重合体であるA-1、A-21ないしA-24の製造条件を基にして、これらの分子量に関わる数値に関する上記3(2)に記載の本件特許の出願時における当業者の技術常識を考慮すれば、適宜行うことができるといえる。そして、本件発明2における発明特定事項である「重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である」「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)」を生産(製造)し、使用することが、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものとまではいえないから、本件発明2は、当業者が容易に実施することができるものといえる。 (2) 本件発明12?20について 本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明12?20についても、同様に、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができるものといえる。 (3) 異議申立人の主張について ア 異議申立人は、特許権者の示した下記の追加データについて、特許権者の説明との齟齬を指摘しつつ、特許権者は、製造条件を変化させることで、「Mw/Mn」及び「Mz/Mw」の分子量の指標がどのように変化するかが周知であったことを示す証拠を示しておらず、そもそも、参考表に記載の実験例9?20の重合条件の各データは、本件特許の出願当初の明細書には記載されていないから、本件発明2は、過度な試行錯誤を経なければ、実施できない旨主張する。 イ 上記主張について検討するに、追加データ(参考表)のあるなしにかかわらず、上記(2)での検討のとおり、発明の詳細な説明の記載と当業者の技術常識を考慮すれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2を実施できると認められるので、上記主張は採用できない。 (4) まとめ よって、取消理由<決定の予告>の理由4(実施可能要件2)には、理由がない。 第7 申立理由のうち取消理由<決定の予告>で採用しなかった理由について 本件発明1ないし20に対する異議申立人の申立理由のうち、上記取消理由<決定の予告>で採用しなかった理由は、上記第4に記載の申立理由1(甲1に基づく新規性)、申立理由2(甲1に基づく進歩性)及び申立理由3-1(実施可能要件1)であるので、以下それぞれについて検討する。 1 申立理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1) 甲1に記載された発明 甲1には、特許請求の範囲の請求項1?3、5、6、8?10、段落【0001】、【0007】、【0010】、【0014】、【0016】、【0018】、【0020】、【0024】、【0028】、【0031】、【0032】?【0035】、【0046】、【0047】、【0051】、【0052】、【0054】、【0056】、【0060】、【0062】?【0065】、【0068】?【0072】、【0074】、【0076】の記載からみて、実施例2、6及び比較例6として記載されている二軸延伸スチレン系樹脂シートの発明として、次のとおりの発明(以下「甲1実施例2発明」、「甲1実施例6発明]及び「甲1比較例6発明」という。なお、「%」及び「部」は質量基準である。)が記載されていると認める。 「スチレン86%、メタクリル酸8%、メタクリル酸メチル6%の樹脂組成であって、重量平均分子量19万、ビカット軟化温度118℃、樹脂中のアルコール含有量0.3%であるスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体樹脂(A-2)99.4部、耐衝撃性スチレン系樹脂であるPSジャパン製、商品名「PSJポリスチレンH8117」(B-2)0.6部、及び無機系粒状体(C-2)を、組成物中50ppmになるように押出機で溶融混合し、これをTダイから押し出し、厚み約1.5mmのシートを作製し、次に、Tタイから押し出したシートを連続して逐次二軸延伸装置を用いて、ロール温度129℃を適宜調整し、2.5倍にロール延伸後、雰囲気温度134℃を適宜調整し、テンターで2.5倍延伸を行い、厚み0.25mmのシートを得、次いで、該シート両表面にコロナ処理を施し、シートの一表面に20?30mg/m^(2)のシリコーンオイル(信越化学製、商品名「KM-9373A」)を、他の表面に30?40mg/m^(2)のショ糖ラウリン酸エステル(理研ビタミン製、商品名「リケマールA」)を塗布して得られた、シート厚み0.25mm、縦方向及び横方向の加熱収縮応力(ORS)が0.7/0.7(MPa)である、二軸延伸スチレン系樹脂シート。」(甲1実施例2発明) 「スチレン74%、メタクリル酸14%、メタクリル酸メチル12%の樹脂組成であって、重量平均分子量16万、ビカット軟化温度127℃、樹脂中のアルコール含有量0.4%であるスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体樹脂(A-3)99.2部、耐衝撃性スチレン系樹脂であるPSジャパン製、商品名「PSJポリスチレンH8117」(B-2)0.8部、及び無機系粒状体(C-1)を、組成物中80ppmになるように押出機で溶融混合し、これをTダイから押し出し、厚み約1.5mmのシートを作製し、次に、Tタイから押し出したシートを連続して逐次二軸延伸装置を用いて、ロール温度129℃を適宜調整し、2.0倍にロール延伸後、雰囲気温度134℃を適宜調整し、テンターで2.0倍延伸を行い、厚み0.25mmのシートを得、次いで、該シート両表面にコロナ処理を施し、シートの一表面に20?30mg/m^(2)のシリコーンオイル(信越化学製、商品名「KM-9373A」)を、他の表面に30?40mg/m^(2)のショ糖ラウリン酸エステル(理研ビタミン製、商品名「リケマールA」)を塗布して得られた、シート厚み0.25mm、縦方向及び横方向の加熱収縮応力(ORS)が0.5/0.5(MPa)である、二軸延伸スチレン系樹脂シート。」(甲1実施例6発明) 「PSジャパン製、商品名「PSJポリスチレンG9001」(スチレン-メタクリル酸共重合体、メタクリル酸7%、ビカット軟化点118℃)99.4部、耐衝撃性スチレン系樹脂であるPSジャパン製、商品名「PSJポリスチレンH8117」(B-2)0.6部、及び無機系粒状体(C-2)を、組成物中50ppmになるように押出機で溶融混合し、これをTダイから押し出し、厚み約1.5mmのシートを作製し、次に、Tタイから押し出したシートを連続して逐次二軸延伸装置を用いて、ロール温度129℃を適宜調整し、2.5倍にロール延伸後、雰囲気温度134℃を適宜調整し、テンターで2.5倍延伸を行い、厚み0.25mmのシートを得、次いで、該シート両表面にコロナ処理を施し、シートの一表面に20?30mg/m^(2)のシリコーンオイル(信越化学製、商品名「KM-9373A」)を、他の表面に30?40mg/m^(2)のショ糖ラウリン酸エステル(理研ビタミン製、商品名「リケマールA」)を塗布して得られた、シート厚み0.25mm、縦方向及び横方向の加熱収縮応力(ORS)が0.7/0.7(MPa)である、二軸延伸スチレン系樹脂シート。」(甲1比較例6発明) 以下、上記甲1実施例2発明、甲1実施例6発明及び甲1比較例6発明を総称して、「甲1に記載された発明等」という。 (2) 本件発明1と上記甲1に記載された発明等との対比 本件発明1と甲1に記載された発明等とを対比すると、その一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 ・一致点 「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、 前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲である 二軸延伸シート。」である点。 ・相違点 <相違点1> 本件発明1は、「前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり」と特定するのに対し、甲1に記載された発明等は、この点を特定しない点。 <相違点2> 本件発明1は、「(但し、 平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有するスチレン系樹脂組成物、及び、 スチレン74質量%、メタクリル酸14質量%及びメタクリル酸メチル12質量%を共重合させてなるスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体樹脂99.0質量%と、耐衝撃性スチレン系樹脂1.0質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物を除く)」と特定するのに対し、甲1に記載された発明等は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、相違点2から検討する。 本件発明1においては、「(但し、平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有するスチレン系樹脂組成物・・・を除く)」と「平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有するスチレン系樹脂組成物を除く」ことが特定されているのに対して、甲1に記載された発明等においては、「無機系粒状体C-1」(平均粒子径4.5μm)又は「無機系粒状体C-2」(平均粒子径10.0μm)を50ppm又は80ppm含有する「スチレン系樹脂組成物」であることから、相違点2は実質的な相違点である。 また、甲1に記載された発明等において、「平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有する」ことは、当該甲1に記載された発明等の解決すべき課題を達成するための必須の発明特定事項であって、平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有しないようにすることには阻害要因があるといえるから、甲1に記載された発明等において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明等、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3) 本件発明3ないし11と甲1に記載された発明等との対比 本件発明3ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載されている発明特定事項を全て有するものであることから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明等、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4) 本件発明2と甲1に記載された発明等との対比 本件発明2と甲1に記載された発明等とを対比すると、その一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 ・一致点 「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、 前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲である 二軸延伸シート。」である点。 ・相違点 <相違点3> 本件発明2は、「前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり」と特定するのに対し、甲1に記載された発明等は、この点を特定しない点。 <相違点4> 本件発明2は、「前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)は、重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である」と特定するのに対し、甲1に記載された発明等は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、相違点4から検討する。 甲1には、甲1に記載された発明等において、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項について、何ら記載されておらず、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。 また、他の証拠にも、甲1に記載された発明等において、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項についての記載はないし、それらを採用する動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1に記載された発明等において、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 よって、本件発明2は、相違点3について検討するまでもなく、甲1に記載された発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5) 本件発明12ないし20と甲1に記載された発明等との対比 本件発明12ないし20は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2に記載されている発明特定事項を全て有するものであることから、本件発明2と同様に、甲1に記載された発明等、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (6) よって、申立理由1及び2には、理由がない。 2 申立理由3-1(実施可能要件1)について (1) 申立理由3-1の概要 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、配向緩和応力が0.5?1.2MPaである二軸延伸シートに関し、実施例1以外でどのようにして製造するのかが全く記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1ないし11(訂正後の請求項1ないし20)に係る発明の実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されていない。 (2) 実施可能要件の判断基準 上記第6 1で記載のとおりである。 (3) 検討 そこで、検討する。 本件発明1及び2には、「前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲である」、「二軸延伸シート。」が記載されている。そして、本件特許明細書の段落【0067】には、実施例1として、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)99.0質量%と実験例25のハイインパクトポリスチレン(B-1)1.0質量%をハンドブレンドし、ペレット押出機(真空ベント付き二軸同方向押出機 TEM35B (東芝機械製))を用い、押出温度230℃、回転数250rpm、真空ベントのゲージ圧力-760mmHgにてダイプレートを通してストランドとした後、水槽にて冷却したのち、ペレタイザーを通してペレット化し、樹脂組成物を得、そして、得られた上記樹脂組成物を、シート押出機を用い、押出温度230℃、吐出量20kg/hにて未延伸シートとし、このシートをバッチ式二軸延伸機(東洋精機)で(ビカット軟化温度+30)℃に予熱し、歪み速度0.1/secでMD方向2.4倍、TD方向2.4倍(面倍率5.8倍)に延伸して、配向緩和応力(縦方向/横方向)は0.7/0.7MPaの二軸延伸シートとしたことが記載されている。 一方で、実施例2?58、比較例1?10については、本件特許明細書の段落【0068】に、「実施例1のスチレン-メタクリル酸共重合体(A)およびハイインパクトポリスチレン(B)の配合量、樹脂組成物の押出条件、シート製膜条件および延伸条件、塗工条件を調整し、表4?表8に記載の二軸延伸シート(実施例2?58、比較例1?10)を得た。」と単に記載があるのみで、配向緩和応力を大きくしたり小さくしたりするためにシート製膜条件から延伸条件にかけての条件をどのように変化させることで、配向緩和応力を本件発明1で規定する範囲とできたかについては記載されていない。 しかしながら、シートの配向緩和応力の数値は、シート製造時の延伸温度、延伸倍率、樹脂組成物の組成等によって調整することが可能であるとの本件特許の出願時の技術常識(特許権者が令和1年7月26日に提出した意見書に添付された乙第1号証である、JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE,APPLIDE POLYMERSYMPOSIUM,2003年,89巻2号,P.487-496,「ポリスチレンの二軸配向挙動:配向と性質」、同じく同意見書に添付された乙第2ないし第6号証である特開2011-202064号公報、特開2011-1113号公報、特開2011-1074号公報、特開平11-171195号公報、国際公開第2009/081963号等参照のこと)を勘案すれば、請求項1で特定されている「前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲である」、「二軸延伸シート。」について、発明の詳細な説明に記載されている実施例1の具体的な製造条件を基準として、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、その物を使用することができるといえる。 したがって、本件発明1及び2に関して、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、その物を使用することができる程度に記載されているといえるので、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。 本件発明1又は2を直接又は間接的に引用する本件発明3?20についても、同様に、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、その物を使用することができ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえる。 (4) まとめ よって、申立理由3-1には、理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由<決定の予告>及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし20に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物(但し、 平均粒子径1?20μmの無機系粒状体を質量割合が50?500ppmの範囲で含有するスチレン系樹脂組成物、及び、 スチレン74質量%、メタクリル酸14質量%及びメタクリル酸メチル12質量%を共重合させてなるスチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂99.0質量%と、耐衝撃性スチレン系樹脂1.0質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物を除く)からなる二軸延伸シートであって、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、 前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり、 前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲である 二軸延伸シート。 【請求項2】 スチレン-メタクリル酸共重合体(A)とハイインパクトポリスチレン(B)とを質量比(A)/(B)=97.0/3.0?99.9/0.1で含有するスチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートであって、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)のメタクリル酸単量体単位の含有量が3?14質量%であり、 前記スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が106?132℃の範囲であり、 前記二軸延伸シートの縦方向と横方向の配向緩和応力がいずれも0.5?1.2MPaの範囲であり、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)は、重量平均分子量(Mw)が12万?25万であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.0?3.0であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比Mz/Mwが1.5?2.0である、二軸延伸シート。 【請求項3】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分の含有量が、前記スチレン系樹脂組成物に対して0.005?0.36質量%である請求項1に記載の二軸延伸シート。 【請求項4】 前記スチレン系樹脂組成物中の未反応スチレンモノマーの含有量が1000ppm以下、未反応メタクリル酸モノマーの含有量が150ppm以下である請求項1または請求項3に記載の二軸延伸シート。 【請求項5】 前記スチレン系樹脂組成物中の六員環酸無水物の含有量が1.0質量%以下である請求項1または請求項3?4のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項6】 前記スチレン系樹脂組成物は、200℃におけるメルトフローインデックスが0.5?4.5g/10分である請求項1または請求項3?5のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項7】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分が、平均ゴム粒子径1?9μmである請求項1または請求項3?6のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項8】 少なくとも一方の表面にシリコーンオイル塗膜を有する請求項1または請求項3?7のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項9】 請求項1または請求項3?8のいずれか1項に記載の二軸延伸シートからなる成形品。 【請求項10】 電子レンジ加熱用食品包装容器である請求項9に記載の成形品。 【請求項11】 本体部分と当該本体部分と嵌合可能な蓋材とからなるフードパックであり、嵌合部分の形状が内嵌合である請求項9または請求項10に記載の成形品。 【請求項12】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分の含有量が、前記スチレン系樹脂組成物に対して0.005?0.36質量%であり、 前記スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが2.2?2.8である請求項2に記載の二軸延伸シート。 【請求項13】 前記スチレン系樹脂組成物中の未反応スチレンモノマーの含有量が1000ppm以下、未反応メタクリル酸モノマーの含有量が150ppm以下である請求項2または請求項12に記載の二軸延伸シート。 【請求項14】 前記スチレン系樹脂組成物中の六員環酸無水物の含有量が1.0質量%以下である請求項2または請求項12?13のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項15】 前記スチレン系樹脂組成物は、200℃におけるメルトフローインデックスが0.5?4.5g/10分である請求項2または請求項12?14のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項16】 前記ハイインパクトポリスチレン(B)に由来するゴム成分が、平均ゴム粒子径1?9μmである請求項2または請求項12?15のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項17】 少なくとも一方の表面にシリコーンオイル塗膜を有する請求項2または請求項12?16のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項18】 請求項2または請求項12?17のいずれか1項に記載の二軸延伸シートからなる成形品。 【請求項19】 電子レンジ加熱用食品包装容器である請求項18に記載の成形品。 【請求項20】 本体部分と当該本体部分と嵌合可能な蓋材とからなるフードパックであり、嵌合部分の形状が内嵌合である請求項18または請求項19に記載の成形品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-05-08 |
出願番号 | 特願2017-561180(P2017-561180) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J) P 1 651・ 536- YAA (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 弘實 由美子 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 渕野 留香 |
登録日 | 2018-08-24 |
登録番号 | 特許第6389574号(P6389574) |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | 二軸延伸シートおよびその成形品 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |