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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1364002
異議申立番号 異議2019-700932  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2020-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6517411号発明「光学ガラスおよび光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6517411号の請求項1?15に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6517411号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成30年7月2日(優先権主張 平成29年7月20日)に出願され、平成31年4月26日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月22日に特許掲載公報が発行された。その後、この請求項1?15に係る特許について、令和1年11月22日に特許異議申立人宮川忠之(以下、「申立人1」という。)及び特許異議申立人金澤毅(以下「申立人2」という。)のそれぞれより特許異議の申立てがされ、令和2年2月7日付けで取消理由が通知され、令和2年4月7日に特許権者により意見書の提出がされ、令和2年4月21日付けで申立人1及び申立人2に対して審尋を通知し、令和2年5月26日に申立人1により回答書が提出された。なお、申立人2からの回答書は提出されなかった。

2 本件発明
本件特許の発明1?15に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明15」といい、まとめて「本件特許発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含み、
TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含み、
P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であり、
下記式(2)に示すβOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である、光学ガラス。
βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕
【請求項2】
SiO_(2)を0.1?25質量%含む、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
SiO_(2)を0.5?15質量%、B_(2)O_(3)を3?30質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含む、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%表示で、B_(2)O_(3)の含有量がSiO_(2)の含有量より大きい、請求項1?3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
B_(2)O_(3)およびLa_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(B_(2)O_(3)+La_(2)O_(3))]が0.030以上である、請求項1?4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
アッベ数νdが20?45であり、
屈折率ndが1.75?2.50である、請求項1?5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
Nb_(2)O_(5)およびTiO_(2)の合計含有量が13質量%以上である、請求項1?6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
Nb_(2)O_(5)およびTiO_(2)の合計含有量が40質量%以下である、請求項1?7のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量が40質量%以下である、請求項1?8のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量が1.0質量%以上である、請求項1?9のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項11】
B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、SiO_(2)、P_(2)O_(5)、Al_(2)O_(3)、ZnO、BaO、MgO、CaO、SrO、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、ZrO_(2)、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)O、Cs_(2)O、Sc_(2)O_(3)、HfO_(2)、Lu_(2)O_(3)およびGeO_(2)の合計含有量が95質量%より多い、請求項1?10のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項12】
B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%、TiO_(2)を0質量%超、ZnOを0質量%超含み、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4以上であり、
P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であり、
下記式(2)に示すβOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である、光学ガラス。
βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕
【請求項13】
白金Ptの含有量が10質量ppm未満である、請求項1?12のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項14】
体積が100ml以上であり、屈折率分布が0.00050以内である、請求項1?13のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項15】
請求項1?14のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。」

3 取消理由の概要
当審において、請求項1?15に係る特許に対して通知した取消理由は、次のとおりである。

「本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)請求項1?15に係る発明について
発明の詳細な説明の段落【0002】?【0005】の記載からして、請求項1?15に係る発明の課題は、還元された高屈折率成分(Ti、Nb、W、Bi等)による着色(還元色)が低減された光学ガラス及び光学素子を提供することといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例1-A?1-D(段落【0145】?【0171】)には、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)等の各ガラス成分の具体的な含有量が特定された光学ガラスについて、βOHが0.31mm^(-1)(実施例1-Bの条件1-8)?1.57mm^(-1)(実施例1-AのNo.16)であることが記載され、さらに、λ70が476nm以下、T450が75.5%以上、あるいは、T400が51.5%以上の光線透過性を有し、着色が少ないことも記載されていることから、上記実施例の光学ガラスは、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
これに対して、請求項1に係る発明は、
『B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含み、
TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含み、
P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ』ることが特定された『光学ガラス』に対して、
『βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である』ことを特定するものである。
しかしながら、発明の詳細な説明には、『ガラスにおける水の含有量を高めて、βOHの値を高めることで、還元色が低減され、アニール処理時間を短縮できる。』(段落【0029】)ことが記載されているものの、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスのβOHの値が還元色の低減に作用する機序は説明されていないし、また、そのような作用機序が本願出願時の技術常識であるともいえない。
そうしてみると、請求項1に係る発明の『βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である』との発明特定事項のうち、上記実施例の下限値(0.31mm^(-1))未満の範囲は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該課題を解決できると認識できる範囲のものともいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。
また、請求項1に係る発明を引用する請求項2?11、13?15に係る発明、並びに、請求項12に係る発明及びこれを引用する請求項13?15に係る発明も、『βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である』との発明特定事項を有するものであるから、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。」

4 取消理由の検討
(1)取消理由に対する当審の判断
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで検討するに、本件特許発明の課題は、上記3の取消理由に記載したとおり、還元された高屈折率成分(Ti、Nb、W、Bi等)による着色(還元色)が低減された光学ガラス及び光学素子を提供することといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例1-A?1-D(段落【0145】?【0171】)には、各ガラス成分の具体的な含有量が特定されたB_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスについて、上記高屈折成分であるTiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量が1.5質量%(実施例1-AのNo.5)?30.1質量%(実施例1-AのNo.17)であり、βOHが0.31mm^(-1)(実施例1-Bの条件1-8)?1.57mm^(-1)(実施例1-AのNo.16)であることが記載され、さらに、λ70が476nm以下、T450が75.5%以上、あるいは、T400が51.5%以上の光線透過性を有し、着色が少ないことも記載されているから、上記実施例の光学ガラスは、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
また、発明の詳細な説明には、「ガラスにおける水の含有量を高めて、βOHの値を高めることで、還元色が低減され、アニール処理時間を短縮できる。」(段落【0029】)と記載されており、また、上記実施例1-CのH_(2)O導入条件のみが異なる条件2-2?2-4における光学ガラスのβOHと熱処理前のλ70との傾向(βOHが0.46mm^(-1)のときのλ70が453nm(条件2-3)、βOHが0.62mm^(-1)のときのλ70が423nm(条件2-4)、βOHが0.92mm^(-1)のときのλ70が413nm(条件2-2))からみても、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスのβOHの値を高めることで還元色を低減できることが認識できる。
さらに、発明の詳細な説明には、「高屈折率の光学ガラスは、通常、ガラス成分としてTi、Nb、W、Bi等の高屈折率成分を多量に含有している。これらの成分は、ガラスの熔融過程で還元されやすく、還元されたこれらの成分は、可視光域の短波長側の光を吸収するため、ガラスの着色(以下、「還元色」ということがある)の原因となる。」(段落【0003】)、「Nb_(2)O_(5)の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがあり、また、ガラスの着色が強まる傾向がある。」(段落【0059】)、「WO_(3)の含有量が多くなりすぎると、ガラスの着色が増大し、また比重が増加する。」(段落【0063】)、「Bi_(2)O_(3)の含有量を高めると、ガラスの着色が増大し、また比重が増加する。」(段落【0065】)、及び、「TiO_(2)はガラス熔融の過程で還元されやすく、TiO_(2)が還元されると、可視短波長域における透過率が大幅に低下しやすい。」(段落【0069】)と記載されていることからして、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスにおいて、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の含有量が多くなると還元色が増大することも認識できる。
すなわち、発明の詳細な説明の記載からみて、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスにおけるTiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の含有量と、βOHの値との相対的な関係により、還元色の増減が決まることを認識できるから、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスのβOHの値が上記実施例の下限値(0.31mm^(-1))未満の範囲であっても、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量が実施例の値より小さければ、上記実施例と同様に、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる。
そうしてみると、本件特許発明1の「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」との発明特定事項のうち、上記実施例の下限値(0.31mm^(-1))未満の範囲であっても、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、本件特許発明1はサポート要件を満足する。
また、本件特許発明2?15についても同様である。
よって、取消理由に理由はない。

(2)申立人1の主張について
申立人1は、回答書とともに甲第11号証(知財高裁平成29年10月25日判決(平成28年(行ケ)第10189号))を提出し、回答書において、甲第11号証の「実施例として具体的に示された組成物に係る数値範囲を超える組成を有するものであっても,高い蓋然性をもって本願物性要件を満たす光学ガラスを得ることができることを認識し得るというべきであり,更に,そのように認識し得る範囲が,本願組成要件に規定された各成分の各数値範囲の全体(上限値や下限値)にまで及ぶものといえるか否かについては,成分ごとに、その効果や特性を踏まえた具体的な検討を行うことによって判断される必要があるものといえる。」(第38頁)との記載等を踏まえて、本件特許の出願時において、βOHとガラスの着色/退色の関係は技術常識であったといえないから、当業者が発明の詳細な説明の記載や示唆からβOHが実施例の範囲を超えて特許請求の範囲にまで一般化し、予測することはできない旨を主張している(回答書第2頁第12行?第3頁第7行)。
しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本件特許発明1?15は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえ、本件特許発明1?15の「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」との特定事項の数値範囲は、実施例の数値範囲から拡張又は一般化できるものといえるから、申立人1の上記主張は採用できない。

5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
申立人1は、以下の甲第1号証?甲第10号証を提出して、以下の申立理由1?4を主張している。また、申立人2は、以下の甲第1'号証?甲5'号証を提出し、以下の申立理由5を主張している。

(証拠方法)
甲第1号証 ガラスの組成分析、株式会社UBE科学分析センター無機組成分析研究室、2019年10月3日
甲第2号証 成都光明光電股分(当審注:「分」は人偏に分)有限公司カタログ、2016年2月、第32?33頁、第44?49頁、第236?237頁
甲第3号証 委託分析報告書、立命館大学総合科学技術研究機構・生命科学部応用化学科 花崎知則、2019年10月11日
甲第4号証 ZL53出庫伝票
甲第5号証 ZL53検査成績記録表
甲第6号証 ZL53が納品された段ボール写真
甲第7号証 甲第6号証に貼られた製品ラベル
甲第8号証 特開2005-59060号公報
甲第9号証 山根正之他編、ガラス工学ハンドブック、初版第1刷、株式会社朝倉書店、1999年7月5日、第290?291頁
甲第10号証 特開2014-24748号公報
甲第1'号証 特開2012-162448号公報
甲第2'号証 国際公開第2013/191271号
甲第3'号証 特開2014-224024号公報
甲第4'号証 特表2007-518657号公報
甲第5'号証 特許第5546058号公報

ア 申立理由1(特許法第29条第1項第2号)
本件特許発明1?6、8?14は、甲第1号証?甲第7号証によって示される光学ガラス「H-ZLaF53B」と同一であり、本件出願前に公然実施された発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当するから、本件特許発明1?6、8?14に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(申立人1の特許異議申立書第11頁第14行?第13頁第22行、第17頁第4行?第18頁第3行、第20頁第5?9行、同頁第14?20行、第21頁1?6行、同頁第11?16行、同頁第23行?第22頁第2行、同頁第15?20行、第23頁第1?6行、同頁第14?20行、第24頁第1?12行、同頁第22行?第25頁第3行、第26頁第1?6行、同頁第14?22行)

イ 申立理由2(特許法第29条第2項)
本件特許発明1?15は、甲第8号証に記載された発明及び甲第9号証?甲第10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(申立人1の特許異議申立書第13頁第23行?第17頁第3行、第18頁第4行?第20頁第4行、同頁第10?13行、同頁21?26行、第21頁第7?10行、同頁第17?22行、第22頁第3?14行、同頁第21?26行、第23頁第7?13行、同頁第21?27行、第24頁第13?21行、第25頁第4?11行、第26頁第7?13行、同頁第23行?第27頁第8行)

ウ 申立理由3(特許法第36条第6項第1号)
本件特許発明1は、組成要件としてB_(2)O_(3)を3?45質量%含有する旨が規定されているところ、B_(2)O_(3)の含有量が最も多い実施例12(21.7%)から、本件特許発明1の上限の45%まで、耐失透性を維持しながら組成成分の置換が可能であるといえないし、また、本件特許発明1は、組成要件としてLa_(2)O_(3)を20?60質量%含有する旨が規定されているところ、La_(2)O_(3)の含有量が最も多い実施例7(51.2%)から、本件特許発明1の上限の60%まで、比重を維持しながら組成成分の置換が可能であるといえないから、本件特許発明1の物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できない。
また、本件特許発明1は、物性要件としてβOHの値が0.1?2.0mm^(-1)であることが記載されているところ、実施例のβOHの値は0.31?1.57mm^(-1)であり、実施例でサポートされているといえない。
本件特許発明2?15についても同様である。
よって、本件特許発明1?15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(申立人1の特許異議申立書第27頁第9行?第28頁第11行、同頁第20行?第29頁第6行)

エ 申立理由4(特許法第36条第6項第2号)
本件特許発明1?15では、βOHの値を0.1?2.0mm^(-1)とするための処理条件が規定されておらず、組成要件の範囲内であれば、どのようなガラスであってもβOHの値が0.1?2.0mm^(-1)を取り得ることになり不明確であるから、本件特許発明1?15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(申立人1の特許異議申立書第28頁第12?19行、第29頁第1?2行、同頁第7?8行)

オ 申立理由5(特許法第29条第1項第3号証及び第2項)
本件特許発明1?15は、甲第1'号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、甲第1'号証に記載された発明及び甲第2'号証?甲第5'号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?15に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(申立人2の特許異議申立書第10頁第10行?第60頁第15行)

(2)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「ガラスの組成分析結果」に関して、次の事項が記載されている。
「2.試料
ZL53
3.分析方法
・・・
3.2 方法
試料の粉砕:
試料をエタノールで洗浄し乾燥した後、金槌で粉砕して分析に供した。
B、La、Li、Nb、Si、Ti、Zn、Zrの定量分析:
粉砕した試料を炭酸ナトリウムで溶融分解し、硫酸と塩酸で溶解した後、超純水で定容して検液とした。ICP-AESにより、検液中の元素の定量分析を行った。元素の分析値を酸化物に換算した。
Ptの定量分析:
粉砕した試料を硫酸、硝酸、フッ化水素酸で加熱分解した後、超純水で定容して検液とした。HR-ICP-MSにより、検液中の元素の定量分析を行った。
4.結果
定量分析の結果を表1に示した



イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「高透過率の光学ガラス(GT)」に関して、次の事項が記載されている。


」(第236頁)

ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「ガラス試料の赤外吸収スペクトルの測定結果」に関して、次の事項が記載されている。
「○測定試料:ガラス試料「ZL53」
・・・
○測定結果
測定試料の赤外吸収スペクトルを図2に示す.図中,縦軸は透過率,横軸は波数を示す.ご依頼のあった波長はそれぞれ
2500nm → 4000cm^(-1)
2900nm → 3448cm^(-1)(2898.55nm)
にそれぞれ対応する.これらの波長における透過率は,
4000cm^(-1) → 86%
3448cm^(-1) → 57%
であった.



エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、「出庫伝票」に関して、次の事項が記載されている。



(上記出庫伝票から、ガラスタイプ「H-ZLaF53B」、仕様「D1062522」、ロット番号「M04114806-1w」に関する2015年12月3日付けの出庫伝票であることが見て取れる。)

オ 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、「検査成績記録表」に関して、次の事項が記載されている。



(上記検査成績記録表から、材質「H-ZLaF53B」、品番「D1062522」に対する、2015年12月3日に検査した検査成績記録表であることが見て取れる。)

カ 甲第6号証の記載事項
甲第6号証は、「ZL53が納品された段ボール写真」として、以下の事項が記載されている。



(上記写真から、「成都光明光電股分(当審注:「分」は人偏に分)有限公司」の名称が見て取れる。)

キ 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、「甲第6号証に貼られた製品ラベル」として、以下の事項が記載されている。



(上記写真から、ガラスタイプ「H-ZLaF53B」、仕様「D1062522」、ロット番号「M04114806-1w」、確認日付「2015年12月3日」であることが見て取れる。)

ク 甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、「光学ガラス及び光学素子」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、光学ガラス及び光学素子に関する。」
(イ)「【実施例】
【0067】
本発明の実施例(No.1?No.16)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n_(d))、アッベ数(ν_(d))、分光透過率が70%を示す波長(λ_(70))の結果、並びに、ガラス転移点(Tg)、結晶化開始温度(Tx)、ガラス転移点及び結晶化開始温度の差(ΔT)を表1?表3に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0068】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100?1500℃の温度範囲で2?5時間熔融した後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
・・・
【0072】
【表1】



ケ 甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、「ガラスのホウ素成分」に関して、以下の事項が記載されている。
「1.2.11 ホウ素(B_(2)O_(3),boric oxide)
・・・ホウ酸原料には表1.5のようなものがある.

ソーダを過剰に含む普通のガラスでは無水ほう砂が用いられる.・・・
ソーダの少ないガラスではいわゆるホウ酸(H_(3)BO_(3))が用いられるが,溶融過程で水分の蒸発に伴うホウ酸分の揮発が多いのが欠点である.
CaOを含み,鉄分の含有が許されるガラス(たとえば,無水アルカリガラス繊維)では天然のコレマナイトが用いられるが,鉄分が許容されないガラスでは,やはりホウ酸(H_(3)BO_(3))が使用される.」(第280頁右欄第17行?第281頁左欄第12行)

コ 甲第10号証の記載事項
甲第10号証には、「光学ガラス、プレス成形用ガラス素材および光学素子」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
屈折率ndが1.9以上1.97未満であり、
ガラス成分として、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種の酸化物を含む酸化物ガラスであり、
TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量が30mol%?60mol%の範囲内であり、かつ、
下式(1)に示すβOH値が0.1mm^(-1)以上であることを特徴とする光学ガラス。
・式(1) βOH=-ln(B/A)/t
〔式(1)中、tは外部透過率の測定に用いる前記光学ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記光学ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記光学ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕
【請求項2】
請求項1に記載の光学ガラスにおいて、
前記ガラス成分としてP_(2)O_(5)を15mol%?35mol%の範囲内で含むことを特徴とする光学ガラス。」
(イ)「【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高屈折率成分を多量に含有する場合であっても着色の少ない光学ガラスならびにこれを用いたプレス成形用ガラス素材および光学素子を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0033】
なお、本実施形態の光学ガラスは、リン酸塩系ガラスであることが好ましい。リン酸塩系ガラスはホウ酸塩系ガラスよりも水分を取り込み易いため、光学ガラスの着色を小さくすることがより容易となる。この場合、本実施形態の光学ガラスは、ガラス成分としてP_(2)O_(5)を15mol%?35mol%の範囲内で含むことが好ましい。P_(2)O_(5)の含有量を15mol%以上とすることにより、光学ガラス中の含水量を高め、βOH値をより大きくすることが容易となる。一方、P_(2)O_(5)の含有量を35mol%以下とすることにより、高い屈折率を維持しやすくなる。なお、P_(2)O_(5)の含有量の好ましい下限値は17mol%であり、好ましい上限値は33mol%である。」

サ 甲第1'号証の記載事項
甲第1'号証には、「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。」
(イ)「【0039】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。」
(ウ)「【実施例】
【0089】
本発明の実施例(No.1?No.63)及び参考例(No.1?No.3)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))、部分分散比(θg,F)、透過率70%時の波長(λ_(70))[nm]、透過率5%時の波長(λ_(5))[nm]及び液相温度[℃]の値を表1?表9に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0090】
本発明の実施例(No.1?No.63)及び参考例(No.1?No.3)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1?表9に示した各実施例及び参考例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200?1500℃の温度範囲で3?5時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、金型に鋳込み徐冷してガラスを作製した。
・・・
【0102】
【表9】



シ 甲第2'号証の記載事項
甲第2'号証には、「ガラス、光学ガラス、プレス成形用ガラス素材および光学素子」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「[0010] 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、透過率に優れたガラス、光学ガラス、プレス成形用ガラス素材および光学素子を提供することを目的とする。」
(イ)「[0012] すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕 ガラス成分として、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種の酸化物を含む酸化物ガラスであって、
前記TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量が20モル%以上であり、
下記式(1)に示すβOHの値が、下記式(2)で表される関係を満足するガラス。
βOH=-[ln(B/A)]/t ・・・(1)
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.48 ・・・(2)
〔式(1)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。式(2)中、HRは、前記ガラス中の、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の各成分の含有量の合計量(モル%)を表す。また、式(1)および(2)中、lnは自然対数である。〕
[0013] 〔2〕 貴金属の含有量が、4ppm以下である上記〔1〕に記載のガラス。
[0014] 〔3〕 前記ガラス成分として、P_(2)O_(5)を含む上記〔1〕または〔2〕に記載のガラス。」
(ウ)「[0025] また、βOHの上限は、ガラスの種類や製造条件によって異なり、調整できる限り、特に制限されるものではない。βOHを高めていくと、熔融ガラスからの揮発物量が増加する傾向にあるため、熔融ガラスからの揮発を抑制する上から、好ましくはβOHが10mm^(-1)以下、より好ましくは8mm^(-1)以下、さらに好ましくは6mm^(-1)以下、一層好ましくは5mm^(-1)以下、より一層好ましくは4mm^(-1)以下、さらに一層好ましくは3mm^(-1)以下、なお一層好ましくは2mm^(-1)以下とすることができる。」
(エ)「[0216] なお、第一および第二の本実施形態の光学ガラスは、リン酸塩系ガラスであることが好ましい。リン酸塩系ガラスはホウ酸塩系ガラスよりも水分を取り込み易いため、光学ガラスの着色を小さくすることがより容易となる。」

ス 甲第3'号証の記載事項
甲第3'号証には、「ガラスおよび光学素子の製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の少なくとも一種以上の成分を含むガラス原料を熔融容器内にて加熱、熔融し、熔融ガラスを得る熔融工程(i)において、熔融ガラス中の水分量を高める操作を行うガラスの製造方法。」
(イ)「【請求項9】
前記ガラスが、リン酸ガラスである請求項1?8のいずれかに記載のガラスの製造方法。」
(ウ)「【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、透過率に優れたガラスおよび光学素子の製造方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【0110】
ガラス中の含水量は、たとえば、下式(1)に示すβOH値により把握できる。
βOH=-[ln(B/A)]/t ・・・(1)
【0111】
ここで、上記式(1)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、上記式(1)中、lnは自然対数である。βOHの単位はmm^(-1)である。」
(オ)「【0116】
本実施形態の製造方法においては、ガラスのβOHの値は、調整できる限り、特に制限されるものではないが、ガラスの着色低減やガラス中の貴金属含有量の低減等の効果を高める観点から、βOHの値は高いほど好ましい。
【0117】
特に、熱処理後のガラスの透過率改善の観点からは、本実施形態の製造方法により作製されるガラスは、下記式(1-2)を満足することが好ましい。
βOH≧0.4891×ln(1/HR)+2.48 ・・・(1-2)
【0118】
ここで、上記式(1-2)中、lnは自然対数である。また、上記式(1-2)中、HRは、前記ガラス中の、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の各成分の含有量の合計量(モル%)を表す。また、βOHの単位はmm^(-1)である。」
(カ)「【0125】
また、本実施形態のガラスの製造方法により得られるガラスのβOHの上限も、ガラスの種類や製造条件によって異なり、調整できる限り、特に制限されるものではない。βOHを高めていくと、熔融ガラスからの揮発物量が増加する傾向にあるため、熔融ガラスからの揮発を抑制する上から、好ましくはβOHが10mm^(-1)以下、より好ましくは8mm^(-1)以下、さらに好ましくは6mm^(-1)以下、一層好ましくは5mm^(-1)以下、より一層好ましくは4mm^(-1)以下、さらに一層好ましくは3mm^(-1)以下、なお一層好ましくは2mm^(-1)以下とすることができる。」
(キ)「【0130】
ガラス中のTiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の含有量を高める観点から、本実施形態の製造方法では、得られるガラスはP_(2)O_(5)含有ガラスであることが好ましい。P_(2)O_(5)含有ガラス中では、加熱処理時のH^(+)の移動速度が速く、他の組成系に比べると短時間の加熱処理で着色を低減することができる。」

セ 甲第4'号証の記載事項
甲第4'号証には、「ガラスとガラスセラミック材料、製品およびその調製方法」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
主結晶相として、β-石英またはβ-スポジュメンの固溶体を含有する透明、半透明または不透明なガラスセラミック材料であって、
(i) 効果的であり過剰ではない量の少なくとも一種類の清澄剤と共に、酸化物の質量パーセントで表して、以下の組成:65から70%までのSiO_(2)、18から23%までのAl_(2)O_(3)、4より多く5%までのLi_(2)O、0から1%未満のMgO、1から3%までのZnO、0から2%までのBaO、1.8から4%までのTiO_(2)、1から2.5%までのZrO_(2)、0.4から1%までのK_(2)Oおよび/またはNa_(2)Oを実質的に有し、
(ii) 0.2mm^(-1)より大きいβ-OH値を有する、
ことを特徴とするガラスセラミック材料。」
(イ)「【0030】
意外なことに、0.2mm^(-1)より多い、さらには0.4mm^(-1)より多い、ガラスおよびガラスセラミック材料中のβ-OHで表される含水量が、上述した従来技術における含水量に関する教示に反して、本発明のガラスセラミック材料の透過率、機械的強度および熱膨張に悪影響を及ぼさないことが分かった。そのような水レベルは従来のガラス溶融技術、特に酸素燃料または空気燃料バーナを用いたものには適合しないので、本発明のガラスおよびガラスセラミック材料は、工業製造にとって特に有益であり、好ましい。」
(ウ)「【0033】
いずれにせよ、透過率、機械的強度および熱膨張に関して効果的な本発明のガラスセラミック材料は、比較的多い含水量(β-OH>0.2mm^(-1)、さらにはβ-OH>0.4mm^(-1))を含有して差し支えない。これにより、調製プロセス中に、いかなる制約も課されない。特別な注意は要求されない。これらの判断は、以下の実施例により確認される。」

ソ 甲第5'号証の記載事項
甲第5'号証には、「強化ガラス、強化用ガラスおよび強化ガラスの製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 45?75%、Al_(2)O_(3) 5?30%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 0.1?30%、BaO 0?0.8%を含有し、且つβ-OH値が0.3?1/mmであり、平板形状のガラスから平板形状以外の形状に熱加工されてなることを特徴とする強化ガラス。」
(イ)「【0009】
そこで、本発明は、高い機械的強度を有しつつ、軟化点が低い強化ガラスを創案することにより、特定形状、例えば曲面形状を有する強化ガラスを得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の検討を行った結果、β-OH値を適正にコントロールすれば、圧縮応力層の圧縮応力値および厚みを適正化しつつ、軟化点を低下できることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 45?75%、Al_(2)O_(3) 5?30%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 0.1?30%、BaO 0?0.8%を含有し、且つβ-OH値が0.3?1/mmであり、平板形状のガラスから平板形状以外の形状に熱加工されてなることを特徴とする。ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の数式1を用いて求めた値を指す。
【0011】
【数1】
β-OH値=(1/X)log10(T_(1)/T_(2))
X:ガラス肉厚(mm)
T_(1):参照波長3846cm^(-1)における透過率(%)
T_(2):水酸基吸収波長3500cm^(-1)付近における最小透過率(%)」

(3)申立理由1の検討
ア 甲2発明について
甲第2号証の上記(2)イの記載事項から、
「H-ZLaF53B光学ガラス。」の発明(以下「甲2発明」という。)を把握することができる。

イ 本件特許発明1の検討
(ア)甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は「光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1のガラス組成は、「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含み、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含み、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ」るのに対して、甲2発明のガラス組成は明らかでない点。
(相違点2)
本件特許発明1は、「βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕」で示す「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」のに対して、甲2発明は、βOHの値が明らかでない点。

(イ)相違点1の検討
甲第1号証には、上記(2)アによれば、試料「ZL53」に対する定量分析の結果として、B_(2)O_(3)が16wt%、La_(2)O_(3)が32wt%、Li_(2)Oが0.30wt%、Nb_(2)O_(5)が6.5wt%、SiO_(2)が5.9wt%、TiO_(2)が3.6wt%、ZnOが31wt%、ZrO_(2)が3.3wt%、及び、Ptが5.2μg/gであることが記載されているものの、P_(2)O_(5)含有量は測定されておらず、P_(2)O_(5)含有量が明らかでないし、また、甲第3号証?甲第7号証には、上記(2)ウ?キの記載のとおり、「H-ZLaF53B光学ガラス」のガラス組成に関する記載はないから、これら記載を参酌しても、甲2発明の「H-ZLaF53B光学ガラス」のガラス組成が、本件特許発明1のガラス組成、特に、「P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下」であることを満足しているといえない。
よって、上記相違点1は実質的な相違点であるから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明であるといえない。

(ウ)申立人1の主張について
申立人1は、甲第1号証の記載事項に基づき、「H-ZLaF53B光学ガラス」のガラス組成は、B_(2)O_(3)含有量が16質量%、La_(2)O_(3)含有量が32質量%、P_(2)O_(5)含有量が0質量%であり、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含有するから、本件特許発明1のガラス組成を満足する旨を主張している(申立人1の特許異議申立書第17頁第18行?第18頁第3行)。
しかしながら、上記(イ)で検討したとおり、甲第1号証には、P_(2)O_(5)含有量が0質量%であることは記載されていないし、甲第1号証における測定対象元素にPが含まれていないため、P_(2)O_(5)含有量が記載されていないことがP_(2)O_(5)を含有していないことにならないから、申立人1の上記主張は採用できない。

ウ 本件特許発明12の検討
(ア)甲2発明との対比
本件特許発明12と甲2発明を対比すると、両者は「光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点3)
本件特許発明12のガラス組成は、「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%、TiO_(2)を0質量%超、ZnOを0質量%超含み、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4以上であり、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ」るのに対して、甲2発明のガラス組成は明らかでない点。
(相違点4)
本件特許発明12は、「βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕」で示す「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」のに対して、甲2発明は、βOHの値が明らかでない点。

(イ)相違点3の検討
上記相違点3について検討するに、上記イ(イ)の相違点1の検討と同様に、甲第1号証、甲第3号証?甲第7号証の記載事項(上記(2)ア、ウ?キ参照)を参酌しても、甲2発明の「H-ZLaF53B光学ガラス」のガラス組成が、本件特許発明12のガラス組成、特に、「P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下」であることを満足しているといえない。
よって、上記相違点3は実質的な相違点であるから、上記相違点4を検討するまでもなく、本件特許発明12は、甲2発明であるといえない。

(ウ)申立人1の主張について
申立人1は、甲第1号証の記載事項に基づき、「H-ZLaF53B光学ガラス」のガラス組成は、B_(2)O_(3)含有量が16質量%、La_(2)O_(3)含有量が32質量%、TiO_(2)含有量が3.6質量%、ZnO含有量が31質量%、質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4、P_(2)O_(5)含有量が0質量%であるから、本件特許発明12のガラス組成を満足する旨を主張している(特許異議申立書第24頁第23行?第25頁第3行)。
しかしながら、上記イ(ウ)で検討したとおりであるから、申立人1の上記主張は採用できない。

エ 本件特許発明2?6、8?11、13、14の検討
本件特許発明2?6、8?11、13、14は、本件特許発明1をさらに減縮するものであり、また、本件特許発明13及び14は、本件特許発明12をさらに減縮するものであるから、上記イ及びウと同様の理由により、甲2発明であるといえない。

オ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?6、8?14は、甲2発明であるといえないのであるから、甲2発明の「H-ZLaF53B光学ガラス」が本件特許の出願前に公然実施をされたか否かにかかわらず、本件特許発明1?6、8?14は、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明に該当するとはいえない。
よって、申立理由1に理由はない。

(4)申立理由2の検討
ア 甲8発明について
甲第8号証の上記(2)ク(ア)及び(イ)の記載事項を、実施例4の光学ガラスに注目して整理すると、甲第8号証には、
「12.500質量%のB_(2)O_(3)、48.000質量%のLa_(2)O_(3)、0.300質量%のAl_(2)O_(3)、4.700質量%のSiO_(2)、4.500質量%のNb_(2)O_(5)、10.300質量%のTiO_(2)、6.200質量%のZnO、1.500質量%のGd_(2)O_(3)、1.500質量%のY_(2)O_(3)、6.500質量%のZrO_(2)、4.000質量%のWO_(3)からなるガラス組成の光学ガラス。」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件特許発明1の検討
(ア)甲8発明との対比
甲8発明の「12.500質量%のB_(2)O_(3)」、「48.000質量%のLa_(2)O_(3)」、「4.500質量%のNb_(2)O_(5)、10.300質量%のTiO_(2)」は、それぞれ、本件特許発明1の「B_(2)O_(3)を3?45質量%」、「La_(2)O_(3)を20?60質量%」、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含」むことに相当する。
また、甲8発明のガラス組成は、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、ZnO、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、ZrO_(2)、及び、WO_(3)からなり、P_(2)O_(5)を含有していないことから、本件特許発明1の「P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ」ることを満足する。
したがって、本件特許発明1と甲8発明とは、
「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含み、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含み、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下である光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点5)
本件特許発明1は、「βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕」で示す「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」のに対して、甲8発明は、βOHの値が明らかでない点。

(イ)相違点5の検討
甲第10号証には、上記(2)コ(ア)?(ウ)によれば、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種の酸化物を含むリン酸塩系光学ガラスにおいて、着色を低減させるために、βOHの値を0.1mm^(-1)以上とすることが記載されている。
しかしながら、成分組成の異なるガラスでは、その物性が大きく異なるとの技術常識を踏まえると、リン酸塩系光学ガラスといえない甲8発明において、甲第10号証の記載を適用して、βOHの値を0.1?2.0mm^(-1)とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
また、甲第9号証には、上記(2)ケの記載のとおり、βOHに関する記載はないから、甲第9号証の記載を参酌しても、甲8発明において、βOHの値を0.1?2.0mm^(-1)とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
よって、本件特許発明1は、甲第8号証に記載された発明及び甲第9号証?甲第10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(ウ)申立人1の主張について
申立人1は、甲第9号証の記載に基づき、甲8発明のB_(2)O_(3)原料として、H_(3)BO_(3)を用いた場合には、溶融工程でH_(3)BO_(3)から水分が蒸発するため、βOHの値が高まって、0.1?2.0mm^(-1)となる蓋然性が高い旨を主張している(申立人1の特許異議申立書第19頁第3?20行)。
しかしながら、本件特許発明1のβOHの値は、本件特許明細書の段落【0148】?【0150】の記載のとおり、その製造方法の熔解工程及び均質化・清澄工程を水蒸気雰囲気で行うか、または、同工程で熔融物中への水蒸気バブリングを行うことによって調整されたものであるし、また、ガラス原料由来の水分によって、βOHの値を0.1?2.0mm^(-1)に調整できることが技術常識であるといえないため、甲8発明のB_(2)O_(3)原料にH_(3)BO_(3)を用いただけで、βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)の範囲となっているとはいえない。
よって、申立人1の上記主張は採用できない。

ウ 本件特許発明12の検討
(ア)甲8発明との対比
甲8発明の「12.500質量%のB_(2)O_(3)」、「48.000質量%のLa_(2)O_(3)」、「10.300質量%のTiO_(2)」、「6.200質量%のZnO」は、それぞれ、本件特許発明12の「B_(2)O_(3)を3?45質量%」、「La_(2)O_(3)を20?60質量%」、「TiO_(2)を0質量%超」、「ZnOを0質量%超」に相当する。
また、甲8発明のガラス組成は、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、ZnO、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、ZrO_(2)、及び、WO_(3)からなり、P_(2)O_(5)を含有していないことから、本件特許発明12の「P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ」ることを満足する。
さらに、甲8発明のガラス組成は、TiO_(2)を10.300質量%、Nb_(2)O_(5)を4.500質量%含み、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)を含有しないことから、質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.70(=10.300/(10.300+4.500+0+0))となり、本件特許発明12の「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4以上」を満足する。
したがって、本件特許発明12と甲8発明とは、
「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%、TiO_(2)を0質量%超、ZnOを0質量%超含み、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4以上であり、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下である光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点6)
本件特許発明12は、「βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕」で示す「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」のに対して、甲8発明は、βOHの値が明らかでない点。
そして、上記相違点6は、上記イ(ア)の相違点5と同様であるから、上記イ(イ)での検討と同様に、本件特許発明12は、甲第8号証に記載された発明及び甲第9号証?甲第10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

エ 本件特許発明2?11、13?15の検討
本件特許発明2?11、13?15は、本件特許発明1をさらに減縮するものであり、また、本件特許発明13?15は、本件特許発明12をさらに減縮するものであるから、上記イ及びウと同様の理由により、本件特許発明2?11、13?15は、甲第8号証に記載された発明及び甲第9号証?甲第10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない

オ 小括
甲第8号証に記載されたその他の実施例を甲第8号証に記載された発明と認定しても同様である。
よって、申立理由2に理由はない。

(5)申立理由3の検討
上記(1)ウの主張について検討するに、本件特許発明の課題は、上記3に記載したとおり、還元された高屈折率成分(Ti、Nb、W、Bi等)による着色(還元色)が低減された光学ガラス及び光学素子を提供することであって、光学ガラスの耐失透性や比重を課題とするものでないし、また、本件特許発明1?15は、耐失透性や比重の物性要件を含むものでないから、本件特許発明1?15の物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できない旨の主張は採用できない。
また、上記4(1)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載からみて、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスのβOHの値を高めることで還元色を低減できることを認識できるし、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の含有量と、βOHの値との相対的な関係により、還元色の増減が決まることを認識できるから、B_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)系光学ガラスのβOHの値が実施例の下限値(0.31mm^(-1))未満の範囲や上限値(1.57mm^(-1))超の範囲であっても、実施例と同様に、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲といえる。
したがって、本件特許発明1?15は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるから、申立理由3に理由はない。

(6)申立理由4の検討
上記(1)エの主張について検討するに、本件特許発明1は、「光学ガラス」との物の発明であって、光学ガラスの製造方法の発明でないから、処理条件とβOH値との関係が規定されていなくとも、「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」との特定事項は不明確にならない。
そして、本件特許発明1は、「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含み、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含み、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ」るとの組成要件及び「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」との物性要件を特定することによって、本件特許発明1の技術的範囲は明確になっているから、本件特許発明1は明確である。
また、本件特許発明2?15についても同様に明確である。
したがって、申立理由4に理由はない。

(7)申立理由5の検討
ア 甲1'発明について
甲第1'号証の上記(2)サ(ア)?(ウ)の記載事項を、実施例63の光学ガラスに注目して整理すると、甲第1'号証には、
「9.958質量%のB_(2)O_(3)、16.977質量%のTiO_(2)、4.669質量%のNb_(2)O_(3)、48.041質量%のLa_(2)O_(3)、4.609質量%のSiO_(2)、5.799質量%のZrO_(2)、1.000質量%のWO_(3)、8.928質量%のY_(2)O_(3)、0.018質量%のSb_(2)O_(3)からなるガラス組成の光学ガラス。」の発明(以下、「甲1'発明」が記載されているといえる。

イ 本件特許発明1の検討
(ア)甲1'発明との対比
甲1'発明の「9.958質量%のB_(2)O_(3)」、「48.041質量%のLa_(2)O_(3)」、「16.977質量%のTiO_(2)、4.669質量%のNb_(2)O_(3)」及び「1.000質量%のWO_(3)」を含むことは、それぞれ、本件特許発明1の「B_(2)O_(3)を3?45質量%」、「La_(2)O_(3)を20?60質量%」、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含」むことに相当する。
また、甲1'発明のガラス組成は、B_(2)O_(3)、TiO_(2)、Nb_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、SiO_(2)、ZrO_(2)、WO_(3)、Y_(2)O_(3)、及び、Sb_(2)O_(3)からなり、P_(2)O_(5)を含有していないことから、本件特許発明1の「P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下であ」ることを満足する。
したがって、本件特許発明1と甲1'発明とは、
「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%含み、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含み、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下である光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点7)
本件特許発明1は、「βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕」で示す「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」のに対して、甲1'発明は、βOHの値が明らかでない点。

(イ)相違点7の検討
上記相違点7は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1'発明であるといえない。
次に、相違点7の容易想到性について検討する。
甲第2'号証及び甲第3'号証には、上記(2)シ(ア)?(エ)及び(2)ス(ア)?(キ)によれば、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)から選択される少なくとも1種の酸化物を含むリン酸塩系光学ガラスにおいて、透光性を向上させるために、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量に応じて、βOHの値を調整することが記載されている。
しかしながら、成分組成の異なるガラスでは、その物性が大きく異なるとの技術常識を踏まえると、リン酸塩系光学ガラスといえない甲1'発明において、甲第2'号証及び甲3'号証の記載を適用して、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)及びBi_(2)O_(3)の合計含有量に応じて、βOHの値を調整して、その値を0.1?2.0mm^(-1)とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
また、甲第4'号証には、上記セ(ア)?(ウ)によれば、ガラスセラミック材料の含水量が多く(β-OH>0.2mm^(-1))しても、透過率、機械的強度及び熱膨張に悪影響を及ぼさないことが記載されている。さらに、甲第5'号証には、上記ソ(ア)及び(イ)によれば、強化ガラスの軟化点を低下させるために、β-OH値を適正にコントロールすることが記載されている。
しかしながら、甲第4'号証及び甲第5'号証には、光学ガラスのβOHの値を調整することは記載されていないから、甲第4'号証及び甲第5'号証の記載を参酌しても、甲1'発明において、βOHの値を0.1?2.0mm^(-1)とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1'号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1'号証に記載された発明及び甲第2'号証?甲第5'号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(ウ)申立人2の主張について
申立人2は、甲1'発明の製造方法は、本件特許発明1の製造方法とほぼ同じであるから、甲1'発明のβOHの値が0.1?2.0mm^(-1)の値と異なる理由がなく、甲1'発明の製造方法に従ってガラスを作成し、βOHを測定したところ、0.355mm^(-1)であったことから、上記相違点7は実質的なものといえず、本件特許発明1は、甲1'発明である旨を主張している(申立人2の特許異議申立書第40頁末行?第42頁第17行)。
しかしながら、本件特許発明1の製造方法は、本件特許明細書の段落【0148】?【0150】の記載のとおり、熔解工程及び均質化・清澄工程を水蒸気雰囲気で行うか、または、同工程で熔融物中への水蒸気バブリングを行うものであるのに対して、甲第1'号証には、甲1'発明の製造方法に、このような工程を含むことが記載されていないから、甲1'発明が、本件特許発明1と同じ製造方法で得られたものといえない。
また、甲1'発明の製造方法に従ってガラスを作成したと主張する実験も、甲1'発明の製造方法と同じ条件、特に、熔解工程や均質化・清澄工程が同じ条件で行われたか明らかでないため、上記実験で得られたガラスが、甲1'発明と同じガラスであるともいえない。
よって、申立人2の上記主張は採用できない。

ウ 本件特許発明12の検討
本件特許発明12と甲1'発明を対比すると、甲1'発明の「9.958質量%のB_(2)O_(3)」、「48.041質量%のLa_(2)O_(3)」、「16.977質量%のTiO_(2)」は、それぞれ、本件特許発明12の「B_(2)O_(3)を3?45質量%」、「La_(2)O_(3)を20?60質量%」、「TiO_(2)を0質量%超」に相当する。
また、甲1'発明のガラス組成は、B_(2)O_(3)、TiO_(2)、Nb_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、SiO_(2)、ZrO_(2)、WO_(3)、Y_(2)O_(3)、及び、Sb_(2)O_(3)からなり、P_(2)O_(5)を含有していないことから、本件特許発明12の「P2O5の含有量が2質量%以下であ」ることを満足する。
さらに、甲1'発明のガラス組成は、TiO_(2)を16.977質量%、Nb_(2)O_(5)を4.669質量%、WO_(3)を1.000質量%含み、Bi_(2)O_(3)を含有しないことから、質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.75(=16.977/(16.977+4.669+1.000+0))となり、本件特許発明12の「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4以上」を満足する。
したがって、本件特許発明12と甲1'発明とは、
「B_(2)O_(3)を3?45質量%、La_(2)O_(3)を20?60質量%、TiO_(2)を0質量%超含み、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、WO_(3)およびBi_(2)O_(3)の合計含有量に対するTiO_(2)の含有量の質量比[TiO_(2)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3))]が0.4以上であり、P_(2)O_(5)の含有量が2質量%以下である光学ガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点8)
本件特許発明12のガラス組成は、「ZnOを0質量%超」含んでいるのに対して、甲1'発明は、ZnOを含有していない点。
(相違点9)
本件特許発明12は、「βOH=-[ln(B/A)]/t …(2)
〔式(2)中、tは外部透過率の測定に用いる前記ガラスの厚み(mm)を表し、Aは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2500nmにおける外部透過率(%)を表し、Bは前記ガラスに対してその厚み方向と平行に光を入射した際の波長2900nmにおける外部透過率(%)を表す。また、lnは自然対数である。〕」で示す「βOHの値が0.1?2.0mm^(-1)である」のに対して、甲1'発明は、βOHの値が明らかでない点。
事案に鑑み、上記相違点9について検討すると、相違点9は、上記イ(ア)の相違点7と同様であるから、上記イ(イ)での検討と同様に、実質的な相違点であるし、また、甲1'発明において、βOHの値を0.1?2.0mm^(-1)とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
したがって、相違点8を検討するまでもなく、本件特許発明12は、甲第1'号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1'号証に記載された発明及び甲第2'号証?甲第5'号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

エ 本件特許発明2?11、13?15の検討
本件特許発明2?11、13?15は、本件特許発明1をさらに減縮するものであり、また、本件特許発明13?15は、本件特許発明12をさらに減縮するものであるから、上記イ及びウと同様の理由により、本件特許発明2?11、13?15は、甲第1'号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1'号証に記載された発明及び甲第2'号証?甲第5'号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

オ 小括
甲第1'号証に記載されたその他の実施例を甲第1'号証に記載された発明と認定しても同様である。
よって、申立理由5に理由はない。

6 むすび
したがって、請求項1?15に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-06-25 
出願番号 特願2018-125896(P2018-125896)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C03C)
P 1 651・ 537- Y (C03C)
P 1 651・ 121- Y (C03C)
P 1 651・ 112- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 金 公彦
宮澤 尚之
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6517411号(P6517411)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 光学ガラスおよび光学素子  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  

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