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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23J
管理番号 1364004
異議申立番号 異議2020-700114  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-27 
確定日 2020-07-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6565013号発明「畜肉様加工食品、その製造方法及び畜肉様加工食品用添加剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6565013号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6565013号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成30年9月27日に出願され、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年2月27日付けで特許異議申立人 石井 雅子より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6565013号の請求項1?10に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下、これらを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。

「【請求項1】
油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下であり、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有することを特徴とする畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。
【請求項2】
前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である、請求項1に記載の畜肉様加工食品。
【請求項3】
前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである、請求項1又は請求項2に記載の畜肉様加工食品。
【請求項4】
卵白を含有する、請求項1又は請求項2に記載の畜肉様加工食品。
【請求項5】
前記畜肉素材を含まない、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の畜肉様加工食品。
【請求項6】
油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下であり、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱することを特徴とする畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。
【請求項7】
前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする、請求項6に記載の畜肉様加工食品の製造方法。
【請求項8】
前記原料は、前記畜肉素材を含まない、請求項6又は請求項7に記載の畜肉様加工食品の製造方法。
【請求項9】
大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用の食感改良剤であって、油脂加工澱粉を含有することを特徴とする畜肉様加工食品用食感改良剤(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を添加する畜肉様加工食品用食感改良剤を除く)。
【請求項10】
前記畜肉様加工食品が畜肉素材を含まない食品である、請求項9記載の畜肉様加工食品用食感改良剤。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 石井 雅子(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第15号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、異議申立の理由として、以下の取消理由を主張している。

1 取消理由
(1)取消理由1(進歩性)
本件特許発明1?10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された以下の甲1?8に記載された発明並びに甲9?15に記載の周知の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許発明1?10に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(3)取消理由3(実施可能要件)
本件特許発明1?10に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1)甲1:特開2005-318871号公報
(2)甲2:特開2008-61592号公報
(3)甲3:特開2012-130252号公報
(4)甲4:特開平8-66157号公報
(5)甲5:特開2004-129657号公報
(6)甲6:特開昭54-76859号公報
(7)甲7:特開平10-179098号公報
(8)甲8:特開平11-332516号公報
(9)甲9:日本食品化工株式会社 研究所 安東 竜一,“油脂加工でん
粉の特性と利用技術”,[online],2011年7月8日,独立行
政法人 農畜産業振興機構,[2020年2月10日検索],インターネ
ット<URL:https://www.alic.go.jp/joh
o-d/joho08_000083.html>
(10)甲10:小林 功,“食品のテクスチャー改良を目的とした加工澱
粉の使い方”,オレオサイエンス,2015年、第15巻,第9号,p.
407-414
(11)甲11:特開2007-300918公報
(12)甲12:特許第4942856号公報
(13)甲13:特許第5727082号公報
(14)甲14:特開2005-185122号公報
(15)甲15:特開2018-33394号公報

第4 甲号証に記載された事項
1 甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1a)「【請求項1】
油脂およびグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を含むことを特徴とする食肉加工食品用品質改良剤。
・・・
【請求項3】
請求項1または2に記載の食肉加工食品用品質改良剤を含むことを特徴とする食肉加工食品。
【請求項4】
ベーコン類、ハム類、プレスハム、ソーセージ、焼豚である請求項3に記載の食肉加工食品。」

(甲1b)「【0002】
従来、ベーコン類、ハム類、プレスハム、ソーセージ等の食肉加工食品の製造においては、品質の安定化、品質の改良、歩留り向上を目的として動物性蛋白質、植物性蛋白質、澱粉等を添加することが広く行われている。
特に、澱粉はベーコン類、ハム類においては食感の改良、歩留まり向上を目的として、またプレスハム、ソーセージ等においては弾力性、保水性、結着性を増す目的で添加されており、・・・などが知られている。
・・・
【0005】
しかしながら前記したこれらの技術にはそれぞれ一長一短があり、これらの技術が必ずしも食肉加工食品の品質の安定化、品質の改良、歩留まり向上等を満足させ得るものではない。本発明は、より優れた食肉加工食品の品質改良剤、および該品質改良剤を含有する食肉加工食品を提供するためになされたものである。」

(甲1c)「【0009】
本発明に係る食肉としては特に限定されず、例えば豚肉、牛肉、馬肉、めん羊肉、山羊肉、家兎肉、家禽肉、魚肉またはこれらの混合肉が挙げられ、好ましくは豚肉、牛肉または鶏肉などである。また、使用可能な部位としては特に限定されず、例えば豚肉の場合、肩肉、ロース肉、ばら肉、もも肉、ウデ肉、半丸枝肉または胴肉など何れの部位も使用し得る。
【0010】
本発明に従う食肉加工食品とは、食肉を原料として調製される食品であって、例えばベーコン、ロースベーコン、ショルダーべーコン、ミドルベーコンまたはサイドベーコンなどのベーコン類、骨付きハム、ボンレスハム、ロースハム、ショルダーハム、ベリーハム、生ハム、プレスハムまたはラックスハムなどのハム類、ボロニアソーセージ、フランクフルトソーセージ、ウィンナソーセージ、リオナソーセージ、セミドライソーセージまたはドライソーセージなどのソーセージ類、焼豚またはスモークチキンなどが挙げられる。」

(甲1d)「【0021】
本発明に従う食肉加工食品用品質改良剤を用いて食肉加工食品を製造するには、自体公知の方法を用いればよい。・・・
【0022】
またプレスハムまたはソーセージなどの食肉加工食品は、食肉加工食品用品質改良剤を、通常含まれる他の成分(食塩、糖類、重合リン酸塩、亜硝酸塩、動植物性蛋白質、増粘安定剤、調味料、香辛料など)と共に畜肉、家禽肉または家兎肉などの挽き肉に添加し、通常実施されている方法、例えば、食肉用グラインダー・ミキサー等によりペースト状にし、これをケーシングまたはリテイナーなどに充填し、熱処理される。」

(甲1e)「【実施例5】
【0038】
プレスハムの作製と評価
1.プレスハムの作製
[試験区5]
食塩3.0質量部、砂糖2.6質量部、ポリリン酸ナトリウム0.4質量部、亜硝酸塩(商品名:亜硝酸ナトリウム製剤Z,亜硝酸ナトリウム10質量%含有;オルガノ工業社)0.14質量部、アスコルビン酸ナトリウム0.06質量部、グルタミン酸ナトリウム0.4質量部、粉末状大豆蛋白質(商品名:ニューフジプロ2000;不二製油社)3.0質量部、乳清蛋白質(商品名:エンラクトHG;日本新薬社)2.0質量部、卵白(商品名:粉末卵白;理研ビタミン社)2.0質量部、カゼインナトリウム1.5質量部、カラギーナン(商品名:J2380;三栄源エフエフアイ社)0.7質量部を水84.2質量部に溶解してピックル液を作製した。
このピックル液50質量部を冷凍庫に保存しておいた豚もも肉50質量部にインジェクションし、1.5mmの目のついたプレートを装填したチョッパーを用いて挽肉とした。次に油脂加工澱粉(本発明品1)2.5質量部を添加し、卓上型万能ミキサー(商品名:ケンミックスKM-300;ケンウッド社)で3分間練り合わせた。その際、原材料の品温が10℃以下に保たれるよう注意した。
得られた肉ペースト約2.5kgを約80?90kPaの減圧下で約60秒間脱気した後、充填器を用いて折径約3cmの塩化ビリニデンケーシングに充填し、たこ糸で結束して冷蔵庫(庫内温度約4℃)中に1晩保存した。これをスモークチャンバー内に移し、まず約50℃で約60分間乾燥し、次いで約55℃で約90分間燻煙し、最後に約80℃で約60分間蒸煮した。蒸煮後直ちに約0℃の氷水で約1時間冷却してプレスハムを得た。プレスハムは試験に供するまで冷蔵庫(庫内温度約4℃)に保存した。
尚、プレスハム1本の重さは約150gとした。」

2 甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2a)「【請求項1】
組織状蛋白含有物A:1重量部と、組織状蛋白含有物B:0.1?1.5重量部(共に乾燥重量換算)を調湿混合、成型し、マイクロ波照射により加熱結着させた後、調味液中で湯戻しし、更に焼成することを特徴とするハンバーグ様食品の製造方法(但し、組織状蛋白含有物Aは、分離大豆蛋白、グルテン、澱粉及びグルタチオン含有酵母エキス又はγ-グルタミルシステイン含有酵母エキスを主原料とした組織状蛋白含有物であり、組織状蛋白含有物Bは、分離大豆蛋白と小麦粉を主原料とした組織状蛋白から成る)。」

(甲2b)「【0001】
本発明は、肉様の食感・風味を有する加工食品、特にハンバーグ様食品を簡便に提供できる製造法に関するものである。」

(甲2c)「【0009】
しかし上記の技術は必ずしも目的のハンバーグ状食品を製造するための十分な方法ではなかった。前述の・・・製造法では卵白とパン粉を混合してつなぎとして用いている。・・・湯葉の他、粉末状大豆たん白、パン粉、でんぷんを併用しながら成型をしているが、植物蛋白を主体とするハンバーグにパン粉を用いるとパン様の食感が出て肉様の食感がなくなるという問題点がある。またデンプンをそのまま添加するだけでは粘性が高くなるだけであり、肉様の食感ではなくなるという問題点がある。本発明では肉様のフレーバーを有し、パン様の食感が出ないようにするため、パン粉をつなぎとして用いない、植物性蛋白を原料とし、調理後も型崩れのしないハンバーグ様食品を製造可能にすることを目的とする。」

(甲2d)「【0011】
本発明によれば畜肉、魚肉を使用することなく、肉様の食感を有するハンバーグを製造できる。また、大豆そぼろ部分に大豆蛋白、グルテン、デンプンに高グルタチオン含有酵母エキス、または高γ-グルタミルシステイン含有酵母エキスを添加してエクストルーダーで加工することにより、非常に肉風味に近い、好ましい食感を有する繊維状蛋白食品素材を得ることができる。この大豆そぼろと大豆蛋白及び小麦粉から調整する組織状蛋白をつなぎとして組み合わせ加工することにより、従来の製品よりも肉に近い風味と食感を有する肉代替ハンバーグ様食品が製造できる。」

(甲2e)「【0013】
分離大豆蛋白は、大豆または脱脂大豆から抽出され、蛋白濃度が高まったものであればよく、市販品でも、新たに調整した物でも良い。グルテンは小麦グルテンが利用でき、また、澱粉は、小麦、馬鈴薯、トウモロコシ、米などの澱粉が利用できるが、本発明にはトウモロコシ澱粉がより適している。」

(甲2f)「【0028】
これらの素材を用いれば動物性由来の食品成分を全く食さない完全菜食主義者にも提供可能であるが、全米における菜食主義者の中では鶏卵または乳製品を食べても良いとするいわゆるラクトオボベジタリアンが多くを占めている。したがって彼らに提供する製品として、これに卵白を添加することは何ら差し支えない。」

3 甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3a)「【請求項1】
(1)粒状大豆蛋白と、(2)分離大豆蛋白、及び(3)カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、またはナトリウム塩からなるカチオンを含有し、(2)の分離大豆蛋白に対するカチオンの重量比が0.005?0.1であり、かつ二価のカチオンが0.01以下であるカチオンを、調湿混合、成型し、水分含量が40?70%になるようにマイクロ波照射により加熱結着させることを特徴とする肉様食品の製造法。」

(甲3b)「【0006】
食感を損なうことなく、肉含有量を減らして肉や野菜をまとめるいわゆるつなぎとして用いられているものとしては、先に挙げた大豆蛋白、小麦蛋白、卵白、加工でんぷんなどである。これらを用いる場合、たとえば小麦粉やパン粉、加工でんぷんなどはミンチ状肉と野菜に直接練りこめば結着をする。また、大豆蛋白の場合は水を加え、単独でサイレントカッター等を用いて混練し、ゲル状にしてから肉や野菜と混練すると結着することが知られている。」

(甲3c)「【0011】
上記の技術は必ずしも目的のハンバーグ状食品を製造するための十分な方法ではない。・・・湯葉の他、粉末状大豆たん白、パン粉、でんぷんを併用しながら成型をしているが、デンプンをそのまま添加する場合では粘性が高くなるだけであり、肉様の食感ではなくなるという問題点がある。また、畜肉類を含まず、大豆蛋白のみをパン粉で結着させた場合はパン様の食感が強くなり、これも肉様食感から遠ざかるという問題点がある。
【0012】
また、・・・つなぎ成分を調製するためには大豆蛋白と小麦粉をエクストルーダーで加工しなければならず、その後の工程ではマイクロ波で加熱後水分含量を60%以下にしなければ十分な結着能力が得られない。また、植物原料のみを用いた場合には十分な弾力感が得られず、かつ耐冷凍性に欠けるため、用途は非常に限られるという問題点があった。このため本発明では植物性蛋白をつなぎの原料とし、調理後も型崩れのしない、弾力感を有する肉粒状蛋白含有食品を製造可能にすることを目的とする。」

4 甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4a)「【請求項1】大豆蛋白及び小麦グルテンを含む植物性蛋白ならびに澱粉を主原料とし、かつ水不溶性多糖類の乾燥重量が全原料乾燥重量あたり5%以下に抑制され、繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材。
・・・
【請求項5】大豆蛋白及び小麦グルテンを含む植物性蛋白ならびに澱粉を主原料とし、かつ、水不溶性多糖類の乾燥重量が全原料乾燥重量あたり5%以下に抑制された原料を調製し、これを水分含量50?70%で押出機中加圧加熱した後、冷却ダイを通じて実質的に膨化させることなく押し出して組織化することを特徴とする繊維が一方向に卓越して配向する組織状蛋白食品素材の製造方法。」

(甲4b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、緻密でかつ方向性に優れた繊維状の組織を有し、かつ咀嚼性、喉通りも良好な組織状蛋白食品素材を、蓄肉や魚肉等の動物性蛋白質を使用することなく、植物性蛋白と澱粉を主成分として提供しようとするものである。」

(甲4c)「【0010】本発明において、蛋白食品原料として分離大豆蛋白を用いるのは、おからやホエー成分が分離されて精製度が高く、風味が優れているからである。また、分離大豆蛋白だけでは組織が固くなるだけで組織の方向性は発現しないが、澱粉を添加することで組織が方向性を持ち、緻密な繊維状構造をとることができる。さらに小麦グルテンを添加することで組織の繊維性と強度を向上させることができる。・・・全原料乾燥重量あたりの分離大豆蛋白および小麦グルテンを含む植物性蛋白と澱粉の乾燥重量が、それぞれ60?90%、10?40%が好ましい。澱粉をこれ以上増やすと組織が柔らかくなり、加水の際に澱粉が溶出してしまう。また澱粉の種類としては、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、α化コーンスターチ等が挙げられる。組織の繊維性と組織強度の点から、α化コーンスターチが好ましい。なお、膨潤性、溶解性を抑制させた架橋澱粉は、水不溶性多糖類と同様に組織の繊維構造を劣化させる等の悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0011】おから、パルプ等の水不溶性多糖類は、従来の膨化タイプの組織状蛋白食品においては組織の膨化状態の改善や保水性の改善、あるいは増量の目的で積極的に添加することがなされてきた。」

5 甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5a)「【0001】
この発明は、植物性蛋白質を含む加工食品の製造方法に関する。詳しくは、動物性蛋白質を僅かしか含まないかあるいは全く含まず、植物性蛋白質を多量に含む加工食品であって、動物性蛋白質を多量に含む食品あるいは加工食品とほぼ同様の優れた風味や食感などを有する加工食品の製造方法に関する。」

(甲5b)「【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、フレーバーを加工食品の製造原料に直接添加するのではなく、まず、特定の乳化剤と水との混合物内にフレーバーを加え、よく混合して、エマルジョンカード内にフレーバーを共存させた状態としておき、次にその状態で加工食品の製造原料とし、常法により加工食品を製造すると、風味や食感に優れた加工食品を得られること、および加工食品製造上の操作性が良くなることを見出した。本発明者はさらに研究を続け、遂に本発明を完成させた。」

(甲5c)「【0019】
本発明の原料である固体材料について説明する。
本発明で用いる固体材料は、室温で常圧下固体である材料を意味する。代表例としては多糖類、各種固体状の調味料、固体上の香料および香辛料、果実・野菜類の破砕物などが挙げられ、それら固体材料から選ばれる少なくとも一種を使用する。
多糖類としては、デキストリン、トウモロコシや馬鈴薯などの澱粉類、加工澱粉、パン粉などがある。」

(甲5d)「【0030】
実施例2?3 ミートボールの製造
表2記載の原材料のうちチキンブイヨン、ショウガエキス、水、醤油をよく混合し、次に大豆蛋白質Aを加え均一に混合する。
15分後に表2記載の残りの原材料を加え均一に混合する。混合物から約9g/個のミートボールを成形した。これを180℃の植物油で約30秒間フライした後、更に90℃で約6分間蒸し、ミートボールを得た。
・・・
【0033】
比較例1?2 ミートボールの製造
表3記載の原材料のうちチキンブイヨン、ショウガエキス、水、および醤油をよく混合し、次に大豆蛋白質Aを加え、均一に混合する。
15分後に表3記載の残りの原材料を加え均一に混合する。
混合物から実施例2?3と同様の方法によりミートボールを得た。
【0034】
(表3) (重量部)
原材料 1 2
大豆蛋白質A(フジニックエース400) 16.70 15.03
鶏肉 - 1.67
チキンブイヨン 5.50 5.50
ショウガエキス 0.20 0.20
水 33.90 33.90
大豆蛋白質B(ニューフジプロSE) 1.40 1.40
ミートフレーバー 2.80 2.80
タマネギ 20.30 20.30
香辛料 0.43 0.43
醤油 1.50 1.50
食塩 0.90 0.90
砂糖 1.25 1.25
パン粉 9.00 9.00
馬鈴薯デンプン 2.00 2.00
卵白 10.00 10.00
調味料 0.20 0.20
合計 106.08 106.08
・・・
【0040】
・・・
一方、比較例1および2では、ミートボール生地中の大豆蛋白質等固形分とその他液体状材料が一体にならず、生地がまとまった状態にならないので、ミートボール状に成形することが非常に困難であった。また、出来たミートボールも表面がいびつであり、加熱処理後も表面のざらつきは改善される事は無く、割れが出来ていた。更に、容器や機械に残るミートボール生地が多く、歩留まりが悪かった。」

6 甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6a)「2.特許請求の範囲
・・・
(3) ランチミート特殊品に似た調理された肉製品の製造方法であって、
ひき肉及び水を乾燥した混合組成物と二段階に分けて配合すると共に混ぜ合わせ、
得られた混合物を調理して製品を得るものであり、
前記乾燥した混合組成物は、約30乃至70重量%の澱粉又は澱粉源物質と、約10乃至35重量%の蛋白質成分であって卵アルブミンと第二の蛋白質が約4:1乃至1:4の重量比で存在するものと、約0.30乃至2.0重量%の肉硬化剤と、約0.40乃至6.0重量%のアルカリ燐酸塩と、約5.0乃至20.0重量%の塩化ナトリウムとからなるものであり、
前記乾燥した混合組成物は二つの部分に分けて使用されるものであって、その第一の部分は硬化剤、アルカリ燐酸塩及び好ましくは塩化ナトリウムからなり、第二の部分は残りの成分からなるものであり、
前記水と乾燥した混合組成物は約1.5乃至4.0:1の重量比で使用され、水の一部は第一の混合段階で乾燥した混合組成物の第一の部分と共に加えられ、また、残りの水は第二の混合段階で乾燥した混合組成物の第二の部分と共に加えられるものであり、更に
乾燥した混合組成物と水の合量に対する前記ひき肉の重量比は1:0.25乃至1:2.5の範囲にあり、しかもひき肉の全ては第一の混合段階において加えられるものである
ことを特徴とする調理された肉製品の製造方法」(1頁左欄4行?2頁左下欄最終行)

(甲6b)「本発明は、ランチミート(lunchmeat)に似た肉製品をつくるのに有用な新規な組成物に関する。より詳細に云えば、本発明は、水及びひき肉と混ぜ合わせることにより肉製品とすることができる所定の成分からなる乾燥した粒状の混合物に関する。」(2頁右下欄2?7行)

(甲6c)「本発明の組成物は、実質上、澱粉又は澱粉源物質、卵アルブミンが少なくとも一部をなす蛋白質成分、肉硬化剤、アルカリ燐酸塩及び通常の食塩からなる。・・・これらの組成物は、調理された肉製品をつくる工程で、ひき肉及び水と混ぜ合わされる。
澱粉又は澱粉源物質成分は、脂肪と水のバインダーとして必要とされる。同時に、この成分は調理された肉製品の口当り(texture)をよくするとともに、調理上の損失を少なくするのに役立つのである。更に、この成分は比較的低価格の充填材として役立つので、従来の商業的に入手しうる肉特殊品に比べて価格の低い調理された肉製品の包装物を提供する目的にかなうのである。とうもろこし、小麦及びタピオカ澱粉のような澱粉が好ましく、これらの澱粉は商業的に入手しうるような改質された形態のものであってもよい。改質されたとうもろこし澱粉が好ましい成分であり、また、タピオカ澱粉を使用しても最適の結果が得られる。小麦粉やオート麦の粉のような種々の粉もまた、澱粉源物質として有用である。しかし、これらの好ましい澱粉以外のものを使用すると、調理された肉製品の口当り特性は良好となるが、異臭(off-flavors)があるので、上記したもの以外のものを澱粉又は澱粉源物質として使用するのは望ましくない。」(3頁右下欄6行?4頁右上欄6行)

(甲6d)「実施例VI
・・・
本実施例及びその他の実施例を考慮して、ボロニヤ風の乾燥混合配合物を以下のようにしてつくった。
第七表^((1))
パート1 グラム 全混合物中の%
改質とうもろこし澱粉 43.03 33.293
卵アルブミン 18.97 14.677
大豆単離物 17.78 13.756
とうもろこし油^((2)) 2.00 1.547
香辛・調味料 14.72 11.389
牛肉と豚肉の風味料(天然) 3.40 2.630
天然のヒッコリー薫香剤 0.50 0.387
パート2
ピロ燐酸ナトリウム 4.50 3.482
塩化ナトリウム 23.00 17.795
エリトロビン酸ナトリウム 0.25 0.193
硬化剤混合物 1.10 0.851
(1)前に使用したものと同じ成分
(2)香辛・調味料はスタンジ61760であった。
・・・
実施例VII
実施例VIの第七表のボロニヤ風用の乾燥混合配合物を対照標準として別の一連の試験に(454グラムの牛のひき肉とともに)使用した。これらの一連の試験においては、試験評価とともに、乾燥混合配合物と手順を次のように変えた(他の成分は47.47グラムで一定に保持した)。
サンプル
1.変化なし-対照標準
2.配合に変化はないが、全成分を一時に混ぜた
3.硬化剤の混合を省いた
4.卵アルブミンと大豆単離物を省き、改質とうもろこし澱粉を増やした
5.改質とうもろこし澱粉と大豆単離物を省き、卵アルブミンを増やした
6.改質とうもろこし澱粉と卵アルブミンを省き、大豆単離物を増やした
7.卵アルブミンを省き、改質とうもろこし澱粉と大豆単離物を増やした
8.改質とうもろこし澱粉を省き、卵アルブミンと大豆単離物を増やした
9 大豆単離物を省き、改質とうもろこし澱粉と卵アルブミンを増やした

」(11頁左上欄9行?14頁上欄)

7 甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7a)「【請求項1】大豆たん白の水和物又は大豆たん白水和物と油脂からなるエマルジョンを含む練り惣菜に湯葉又は湯葉状素材を練り込むことを特徴とする練り惣菜の製造法。
【請求項2】練り惣菜がハンバーグ、ミートボール等の食肉練り惣菜である請求項1記載の練り惣菜の製造法。」

(甲7b)「【0011】大豆たん白と油脂からなるエマルジョンを多く(例えば20%以上)含む練り惣菜はかまぼこ的な弾力のある食感であるが、湯葉を練り込むことにより、かまぼこ的食感が無くなり滑らかでソフト感の良い食感となるとともに、テリのある表面となる。また、大豆たん白質の強い保水力、保油力の為に、調理後の表面は乾いておりテリが無いが、湯葉を混合すると湯葉自体のテリとツヤの効果が現れ、テリのある表面となる。」

(甲7c)「【0014】実施例1及び比較例1
先ず、実施例1について述べる。粉末状大豆たん白5重量部(以下、部と記す)、水20部、大豆油5部をサイレントカッターでカッティングしエマルジョンを調製した。このエマルジョンに鶏ムネ肉9部と混合、カッティングし食塩0.7部を加え、塩ずりし、つなぎを得た。ミキサーに湯葉10部と玉ねぎ20部、粒状大豆たん白5部、豚脂7部、調味料2部、さらにつなぎ39.7部を投入し混合し、パン粉5部、澱粉2部を加え生地を得た。この生地を成形し焼成して大豆たん白と油脂からなるエマルジョンを含む練り惣菜を調製した。次に、比較例1について述べる。実施例1の配合で湯葉10部に代えて粒状大豆たん白を用いる他は実施例1と同様の方法で処理し練り惣菜を調製した。これらの配合(重量部と重量%)を表1に示し、焼成後の練り惣菜の官能評価の結果を表2に示した。・・・粉末状大豆たん白は不二製油株式会社製のニユーフジプロSEでたん白質91%であり、粒状大豆たん白は不二製油株式会社製のベジテックス-7100を1.5倍の水で戻したものであった。
【0015】
【表1】配合
──────────────────────────────
原材料 実施例1 比較例1
重量部 重量% 重量部 重量%
──────────────────────────────
粉末状大豆たん白 5 5.5 5 5.5
水 20 22.1 20 22.1
大豆油 5 5.5 5 5.5
──────────────────────────────
鶏ムネ肉 9 9.9 9 9.9
食塩 0.7 0.8 0.7 0.8
──────────────────────────────
湯葉 10 11.0 0 0
玉ねぎ 20 22.1 20 22.1
粒状大豆たん白 5 5.5 15 16.5
豚脂 7 7.7 7 7.7
調味料 2 2.2 2 2.2
パン粉 5 5.5 5 5.5
澱粉 2 2.2 2 2.2
──────────────────────────────
計 90.7 100.0 90.7 100.0
・・・
【0017】実施例1は比較例1に対して外観(テリ)が明らかに良く、また食感は滑らかでソフト感が良く喉通りが優れていた。」

8 甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8a)「【請求項1】湯葉を練り込み風味を改良することを特徴とする練り製品の製造法。
【請求項2】練り製品がハンバーグ、ミートボール等の食肉製品である請求項1に記載の製造法。
・・・
【請求項4】練り製品が植物性たん白を主体とする惣菜である請求項1に記載の製造法。
【請求項5】請求項1から請求項4のいずれかに記載の製造法による練り製品。」

(甲8b)「【0002】
【従来の技術】・・・植物性たん白も機能性材として物性改良の他に、増量材としてコストダウンの目的で、食肉製品、魚肉練り製品に使用されるが、無味無臭でなく、利用加工で風味改良の余地が有り、使用量が制限されている。」

(甲8c)「【0008】豚ペースト、チキンペースト、魚肉落し身、いわしすり身、植物性たん白を単独、或いは複数種含む練り製品に湯葉を練り込むことにより、これらの原材料由来の強い(悪い)風味を低減できる。」

(甲8d)「【0010】実施例1及び比較例1
実施例1及び比較例1では、チキンハンバーグについて説明する。鶏むね肉10重量部(以下、部と記す)、チキンペースト30部、豚脂9部、粉末状大豆たん白3部を加え混合した後に食塩0.8部を加えミキサーで粘りがでるまで塩ずりした。更に、湯葉7部、水戻しした粒状大豆たん白8部、調味料2.2部を加え混合し、玉ねぎ20部、パン粉6部、でん粉4部を加え混合し、生地を得た。この生地を80gに成型し、230℃のオーブンで6分間焼成してチキンハンバーグを調製した。比較例1では、実施例1の配合で湯葉7部に代えて水戻しした粒状大豆たん白を用いて生地を得た。すなわち、比較例1では水戻しした粒状大豆たん白を15部配合した。この生地を、実施例1と同様に成型、焼成してチキンハンバーグを調製した。使用した湯葉は半乾燥湯葉で水戻し後使用した。・・・粉末状大豆たん白は不二製油株式会社製の「フジプロ-E」、粒状大豆たん白は不二製油株式会社製「ベジテックス7100」で1.5倍の水で戻して使用した。
【0011】
【表1】配合
─────────────────────
原材料 実施例1 比較例1
─────────────────────
鶏ムネ肉 10部 10部
チキンペースト 30 30
豚脂 9 9
粉末状大豆たん白 3 3
食塩 0.8 0.8
湯葉 7 0
粒状大豆たん白 8 15
調味料 2.2 2.2
玉ねぎ 20 20
パン粉 6 6
でん粉 4 4
─────────────────────
合計 100 100
─────────────────────
【0012】官能評価
・・・
実施例1のチキンハンバーグは、比較例1のそれと比べ、明らかに鶏臭さが解消された。また、食感も実施例1の方が、比較例1より良好であった。」

9 甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9a)「【要約】
油脂加工でん粉は、でん粉に微量の食用油脂を付着させて処理することで製造される食品用でん粉である。加熱調理時にタンパク質成分と結着する機能を有していることから、フライ食品や水畜練り食品などの惣菜に広く使用されている。」(「【要約】」の項)

(甲9b)「1.油脂加工でん粉とは
油脂加工でん粉とは、でん粉粒の表面に微量の食用油脂を付着させて処理したでん粉であり、惣菜類を中心とした加工食品の原材料に用いられている。油脂加工でん粉の最大の特徴は、加熱調理時にタンパク質成分と結着することにある。
例えば、フライ食品の製造において具材と衣の接着面に油脂加工でん粉が存在すると、肉や魚などの具材とフライ衣が良好に結着し、はがれが防止される(図1)。また、水畜練り食品の製造において魚すり身や挽肉に油脂加工でん粉を練り込むと、油脂加工でん粉がタンパク質と結着し、食品組織中からでん粉粒が分離・脱落しにくくなる。その結果、良好な弾力(練り食品では「アシ」と呼ぶ)が得られ、加水量を増やしても良好な食感を維持することから、コストダウンにも寄与できる(図2)。
2.油脂加工でん粉の製品別機能
油脂加工でん粉製品は水畜練り食品向けとフライ食品向けに大別され、用途や求める食感・風味に応じ、使用する油脂や副素材の種類、油脂加工の度合い、原料となるでん粉の種類や加工方法が異なっている。例えば、油脂加工でん粉の原料となるでん粉にアセチル化やヒドロキシプロピル化を施すことで、でん粉の吸水性を高めると共に、でん粉糊の老化耐性を高め、冷蔵や冷凍後の食感変化や離水を抑制することができる。また、原料でん粉に架橋処理を施すことにより、加熱調理時のでん粉粒の膨潤や崩壊を抑制し、サクサクとしたクリスピーな食感を付与することができる(・・・)。」(「1.油脂加工でん粉とは」及び「2.油脂加工でん粉の製品別機能」の項)

(甲9c)「3.油脂加工でん粉の利用技術
・・・
また、油脂加工でん粉とタンパク質の結着は加熱時に発現するが、加熱肉やハムのようにすでに素材中のタンパク質が熱変性していると、十分な結着性が得られない場合がある。・・・
水畜練り食品向けの比較的加工度が低い油脂加工でん粉は、漬け込みや注入によって畜肉食品の風味を改良する調味液(畜肉食品において「ピックル液」と呼ぶ)にも用いることができる。ピックル液中に懸濁された油脂加工でん粉は、畜肉食品の加熱調理時に膨潤して水分を保持するとともにタンパク質と結着し、良好な硬さやジューシー感を付与する。
このように、油脂加工でん粉は惣菜の内部組織と外部表面のいずれも改良することができる。従って、水畜練り食品向けの油脂加工でん粉によって肉の食感やジューシー感が優れ、フライ食品向けの油脂加工でん粉によって衣がはがれない究極のトンカツを作ることも可能である。
4.最近の市場動向
・・・
・・・ばれいしょでん粉は水練り食品の増量や食感改良にも多く用いられているが、水畜練り食品向けの油脂加工でん粉は、ばれいしょでん粉の代替もしくは一部置換にも利用可能である。」(「3.油脂加工でん粉の利用技術」及び「4.最近の市場動向」の項)

10 甲10には、以下の事項が記載されている。
(甲10a)「論文要旨:様々な加工食品の食感を形成,維持するために加工澱粉が用いられている。食品用の加工澱粉は大きく分けると,澱粉の老化を抑制する耐老化性澱粉,澱粉の粘度を安定化させる架橋澱粉が使われている。食感をモチモチさせるためには,アミロース含量の低い澱粉やタピオカ澱粉が主に使われる。一方,フライ食品などの衣をサクサクさせるためには低分子化した澱粉が用いられる。水練製品など弾力性を向上したい場合は,油脂加工澱粉が用いられる。パンやケーキなどふんわりとした食感を維持したい場合は,予め糊化させておいた油脂アルファ化澱粉が有効である。特徴のある食感を有する加工食品を作るには適した澱粉種と加工を選択することが重要である。」(407頁「論文要旨」の項)

(甲10b)「1 澱粉とテクスチャー
・・・澱粉は,水分が多い状況下で加熱すると,周りの水分を吸収,膨潤し,やがて澱粉粒の崩壊が生じて,粘度が発生する。この時,澱粉糊は透明感がでてきて,いわゆる糊と呼ばれる状態になる。糊の物性は,澱粉種により異なり,・・・中華料理のとろみ餡やみたらし団子のたれなど,対象物にしっかりと付着して落ちないような物性を必要とする場合は,馬鈴薯澱粉やタピオカ澱粉が用いられ,カスタードクリームやホワイトソースなど粘性は必要であるが付着性は抑えて口どけのよい物性を必要とする場合は,小麦やコーンスターチを原料とした澱粉を使用する。一方,水分含量がもっと少ない系では,加熱した際に,澱粉同士が周りの水を奪い合い,膨潤するが,澱粉粒が崩壊するほど糊化が進まない状態で加熱が終了する。このようなとき澱粉はゲルを形成する。・・・この澱粉ゲルも澱粉の種類によって物性が大きく異なる(Fig.1)。・・・このようなゲル特性の違いは,使われる食品に役立っており,例えば,小麦澱粉や馬鈴薯澱粉は古くより蒲鉾など水練製品の弾力性(あし)の増強に使用されている。一方,日本人はもちもちとした食感を好むので,うどんをはじめ,パンや菓子などでもちもち感を強調したい場合は,タピオカ澱粉を多く配合する。・・・更に水分が少ない状態で澱粉が加熱されると,糊化と乾燥が同時に起こる膨化と呼ばれる現象がみられる。・・・このように,食感に特徴を持った食品は,澱粉の糊化,ゲル化,膨化といった様々な特性をうまく生かして特徴的な食感を形成している。」(407頁左欄1行?408頁右欄18行)

(甲10c)「4・3 ぷりぷり感を演出する澱粉?油脂加工澱粉?
油脂加工澱粉は,微量の油脂やpH調整剤,タンパク質と澱粉を混合し,加熱することで,澱粉の特性を変えた澱粉で,化学的な反応で澱粉の物性を変える加工澱粉とは異なり,加熱という物理的加工で澱粉の物性を変える非常にユニークな我が国独特の澱粉である。・・・澱粉の表面に酸化させた油脂を付着させることにより,澱粉の水濡れ性が弱くなり,親油性が強くなる。・・・このような物性のスラリーは,種物の表面を薄く均一にコーティングすることが可能で,更に加熱時に糊化することにより,種物と衣を接着する効果が得られる。特に,豚カツ,カキフライやエビフライなどのフライ製品を製造する際に衣と種物を付着させるバッター液として欠かせない素材である。・・・一方,最近水練製品や畜肉加工製品の保水剤および弾力付与の目的で添加されてきたタンパク質(卵白,大豆たん白)が高騰している背景より,従来の油脂加工澱粉の特徴であるぷりぷりとした弾力性付与,保水性向上能力に注目が集まっている。・・・従来より,保水性と弾力感を補助する目的で澱粉も利用されており,小麦や馬鈴薯澱粉などが利用されてきた。・・・通常の澱粉に比べ,油脂加工することにより,蒲鉾の弾力性が向上している。・・・油脂加工澱粉は,蒲鉾の中に均一に分散しており,肉の繊維に一様に付着している様子が観察されるのに対して,通常の澱粉は肉の繊維と分離し,不均一に存在している様子がうかがえる。これは油脂加工澱粉の表面に存在する油脂が変性したタンパク質との相和性が強くなり,より均一に分散できることを示している。」(411頁左欄9行?412頁右欄13行)

11 甲11には、以下の事項が記載されている。
(甲11a)「【請求項1】
油脂加工澱粉及び卵白分解物を含有することを特徴とする食品改質剤。
・・・
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の食品改質剤を含有することを特徴とする食品。
【請求項6】
畜肉含有食品である請求項5に記載の食品。」

(甲11b)「【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決することができ、食品の歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる食品改質剤、該食品改質剤を含有する食品、及び、該食品改質剤を利用した食品の品質改良方法を提供することができる。」

(甲11c)「【0028】
(食品)
本発明の食品は、前記本発明の食品改質剤を含有してなり、必要に応じて、更にその他の成分を含有してなる。
<食品の種類>
前記食品としては、前記食品改質剤が含有されている経口摂取可能な組成物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記食品改質剤は、食品に所望の程度のジューシー感、及び、所望の程度の柔らかさ(硬さ)や歯応えを付与することができることから、中でも、畜肉含有食品、魚肉含有食品に好適である。
【0029】
-畜肉含有食品-
前記畜肉含有食品としては、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉等の畜肉を含有する食品であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記畜肉を利用して調理した、焼き物類、揚げ物類、煮物類、蒸し物類、練り物類などが挙げられる。前記畜肉含有食品の具体例としては、例えば、鶏唐揚げ、鶏肉の焼き物、照り焼きチキン、チキンナゲット、焼き豚、豚カツ、ソーセージ、ハム、ベーコン、ステーキ、ローストビーフ、焼肉、ハンバーグ、ミートボール、餃子、シュウマイ、ロールキャベツの具などが挙げられる。」

12 甲12には、以下の事項が記載されている。
(甲12a)「【請求項1】
タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有する畜肉製品用改良剤であって、
前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル基含量が0.2?1質量%であり、該澱粉の濃度が乾燥物換算で6質量%となる水懸濁液を撹拌しながら50℃から95℃に至る連続的な加温状態を30分間に亘って与えて更に95℃で30分間保持したときに、該澱粉懸濁液のピーク粘度から、95℃で30分間保持した後のボトム粘度を差し引いたブレークダウン値が200BU以下であることを特徴とする畜肉製品用改良剤。
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1つに記載の畜肉製品改良剤を添加してなる畜肉製品。」

(甲12b)「【0003】
畜肉製品に配合される澱粉、塩類(リン酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、炭酸塩等)、蛋白質(乳性蛋白質、大豆蛋白質、卵白、小麦蛋白質等)、アミノ酸、酵素(トランスグルタミナーゼ、プロテアーゼ等)、糖質、食物繊維等は、これらを単独または組み合わせて用いて、畜肉製品の改良剤として利用出来ることが知られている。
【0004】
このうち澱粉は、増量剤として機能するだけでなく、畜肉製品の食感向上、製品の保水性・結着性の改善、脂肪の均質化に寄与し、これらの効果は、食肉中に存在する澱粉が加熱されることで水分を吸収して、糊化して弾力に富む粒子となる変化によりもたらされているので、添加する澱粉は少量であっても、その澱粉の糊化物性が畜肉製品の性質に大きな影響を与える。これに関し、一般の天然の未処理澱粉を添加した場合は、澱粉の糊化物性が悪く畜肉製品の食感を低下させたり、冷凍処理や時間の経過とともに製品が脆くなったり、離水が生じる等の課題があった。」

(甲12c)「【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術においては、畜肉製品に対して十分な弾力性と硬さを兼ね備えた食感を付与する効果は十分とはいえなかった。また、上記特許文献3に記載の技術においては、畜肉製品に対して十分な肉汁感、肉感、肉繊維感を付与する効果が十分とはいえなかった。更には、ブロック状の食肉を利用した畜肉製品においては、添加する澱粉の糊化物性によって、澱粉由来の糊感やヌメリ感による食感の低下や、冷凍処理や電子レンジ加熱によるソフト感、肉汁感、肉感、肉繊維感の低下が課題となっていた。
【0008】
したがって本発明の目的は、タピオカ澱粉を改良して、澱粉の経時的な老化による畜肉製品の食感の低下や畜肉製品の離水を防止すると同時に、練り込み製品においては十分な弾力性と硬さを兼ね備えた食感を付与することができ、ブロック状の食肉を利用した畜肉製品においては十分なソフト感、肉汁感、肉感、肉繊維感を付与することが可能な畜肉製品用改良剤を提供し、更にそれを添加してなる畜肉製品を提供することにある。」

(甲12d)「【0069】
各種澱粉特性を下記表1にまとめて示す。
【0070】
【表1】
(略。なお、タピオカ澱粉の加工方法及びエステル化剤の種類が異なる試料1?24について、ブレークダウン値、加熱膨潤度が示されている。)
・・・
【0078】
【表5】
(略。なお、タピオカ澱粉の加工方法及びエステル化剤の種類が異なる試料1?12について、硬さ、弾力、離水率が示されている。)」

13 甲13には、以下の事項が記載されている。
(甲13a)「【請求項1】
澱粉、前記澱粉乾燥重量に対して0.1?30質量%の蛋白素材、前記澱粉乾燥重量に対して0.003?10質量%の油脂及び水を混合する原料混合工程と、得られた原料混合物を加熱処理する加熱処理工程とを含み、前記原料混合工程が、前記油脂の添加時期は限定されず、前記水の添加量は、得られる原料混合物の水分含量が15?50質量%となるようにし、前記澱粉と前記蛋白素材を混合した後に前記水を添加するか、又は前記澱粉と前記水を混合した後に前記蛋白素材を添加することによってなされる方法により製造された加工澱粉を含有することを特徴とする水畜産肉製品用食感改良剤。
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1つに記載の水畜産肉製品用食感改良剤を含有することを特徴とする水畜産肉製品。」

(甲13b)「【0002】
ミートボールやハンバーグ等の畜産練製品では、肉のつなぎや増量材として澱粉が用いられる。また、かまぼこ、ちくわ、揚げかまぼこ等の水産練製品では、澱粉は、単なるつなぎや増量材としてだけでなく、水産練製品独特の歯切れの良い弾力に富んだ食感、いわゆる“あし”を向上させるために用いられている。これら水畜産肉製品に用いられている澱粉のうち、例えば馬鈴薯澱粉は、保水性が良く、弾力補強効果が高いという長所を有しているが、時間の経過とともに製品が硬くなってしまったり、離水し粉っぽくなったり、本来の食感とは異なってしまうという問題があった。また、小麦澱粉は、未変性澱粉としては耐老化性に優れているが、もろさのある食感になってしまうという問題があった。また、タピオカ澱粉は、保水力が高く、増量材としては優れているものの、澱粉特有の糊感やヌメリが生じるため、肉の繊維感がなくなってしまい、且つタピオカ澱粉を含まない練製品と比較して食感が柔らかくなりすぎるという問題があった。このように、未変性澱粉には、水畜産肉製品に用いるうえで、いずれも一長一短があった。」

(甲13c)「【0021】
本発明の加工澱粉の製造方法によれば、その方法により得られる加工澱粉を水畜産肉製品に用いることで、澱粉由来の粉っぽさや澱粉の糊化に伴う糊感やヌメリを感じさせることなく、水畜産肉製品の食感に弾力及び適度な硬さを有し、肉粒感のある食感を付与することができる。」

14 甲14には、以下の事項が記載されている。
(甲14a)「【請求項1】
澱粉に油脂およびグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有させてなることを特徴とする油脂加工澱粉。」

(甲14b)「【0007】
本発明の油脂加工澱粉は、種〔畜肉類(例えば牛、豚、鹿など)、魚肉類(例えば鯵、キス、サバ、エビ、イカなど)、鳥肉類(例えば鶏、鴨など。)、野菜類(例えばサツマイモ、カボチャ、シシトウ、馬鈴薯など。)、加工品類(例えばハム、ソーセージ、カマボコなど。)、コロッケ類などとの結着性が良好であるので揚げ物用衣材として利用できる。
本発明の油脂加工澱粉を含む揚げ物用衣材を、打ち粉として、また特にバッター液として用いた場合、種と衣との結着性が良好な揚げ物が得られる。」

15 甲15には、以下の事項が記載されている。
(甲15a)「【請求項1】
(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉と、(b)ソルビタン脂肪酸エステルとを含有することを特徴とする包餡食品の中種用水分移行抑制剤。」

(甲15b)「【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、包餡食品の中種に特定の油脂加工澱粉とソルビタン脂肪酸エステルを添加することにより、中種から外皮への水分移行が抑制されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。」

(甲15c)「【0011】
上記中種に用いられる食品素材としては、例えば、豚肉、牛肉、鶏肉等の肉類、キャベツ、白菜、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、長ねぎ、にら、たけのこ等の野菜類、シイタケ、マイタケ、キクラゲ等のきのこ類、魚肉、エビ、イカ、貝柱等の魚介類等が挙げられる。」

第5 当審の判断
1 取消理由1(進歩性)について
(1)甲1を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1には、実施例5のプレスハムの作製[試験区5]から得られるプレスハムとして(上記(甲1e))、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。

甲1発明A:
「ピックル液 50 質量部
豚もも肉 50 質量部
油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉
2.5質量部
を含有するプレスハム。
(ピックル液組成)
食塩 3.0 質量部
砂糖 2.6 質量部
ポリリン酸ナトリウム 0.4 質量部
亜硝酸塩
(商品名:亜硝酸ナトリウム製剤Z,
亜硝酸ナトリウム10質量%含有;
オルガノ工業社) 0.14質量部
アスコルビン酸ナトリウム 0.06質量部
グルタミン酸ナトリウム 0.4 質量部
粉末状大豆蛋白質
(商品名:ニューフジプロ2000;
不二製油社) 3.0 質量部
乳清蛋白質
(商品名:エンラクトHG;
日本新薬社) 2.0 質量部
卵白
(商品名:粉末卵白;
理研ビタミン社) 2.0 質量部
カゼインナトリウム 1.5 質量部
カラギーナン
(商品名:J2380;
三栄源エフエフアイ社) 0.7 質量部
水 84.2 質量部」

(イ)甲1には、実施例5のプレスハムの作製[試験区5]として(上記(甲1e))、さらに次の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。

甲1発明B:
「甲1発明Aのピックル液組成を有するピックル液50質量部を豚もも肉50質量部にインジェクションし、挽肉とし、油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉2.5質量部を添加し、練り合わせ、得られた肉ペーストを折径約3cmの塩化ビリニデンケーシングに充填し、約50℃で約60分間乾燥し、次いで約55℃で約90分間燻煙し、最後に約80℃で約60分間蒸煮し、蒸煮後直ちに約0℃の氷水で約1時間冷却するプレスハムの作製方法。」

(ウ)甲1には、請求項1の記載からみて(上記(甲1a))、さらに次の発明(以下、「甲1発明C」という。)が記載されていると認める。

甲1発明C:
「油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を含む食肉加工食品用の品質改良剤。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aの「油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」に相当する。
甲1発明Aのピックル液に含有される「粉末状大豆蛋白質(商品名:ニューフジプロ2000;不二製油社)」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲1発明Aの「豚もも肉」は、本件特許発明1の「畜肉素材」に相当する。
甲1発明Aのピックル液に含有される「乳清蛋白質(商品名:エンラクトHG;日本新薬社)」、「卵白(商品名:粉末卵白;理研ビタミン社)」及び「カゼインナトリウム」は、本件特許発明1の「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材」に相当する。
甲1発明Aの「プレスハム」と、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」とは、「加工食品」である点で共通し、甲1発明Aのプレスハムは衣を有さないから、甲1発明Aと本件特許発明1とは「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」点で一致する。
そして、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、通常の畜肉加工食品と同様に、求められる風味・食感・物性・外観などに応じて、例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲1発明Aがピックル液に食塩などの他の原料を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点1-1?1-2を有する。

一致点:
「油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材を含有し、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。」である点。

相違点1-1:
本件特許発明1は「畜肉素材の含量が30質量%以下」であると特定しているのに対し、甲1発明Aは「豚もも肉」が合計102.5質量部中「50質量部」である点。

相違点1-2:
本件特許発明1は「畜肉様加工食品」であるのに対し、甲1発明Aは「プレスハム」である点。

(イ)判断
a 相違点1-1について
甲1発明Aは、プレスハム中に豚もも肉を約48.8質量%含有しているるから、畜肉素材の含量が30質量%を超えている。
そこで、検討するに、甲1は、油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を含む食肉加工食品用品質改良剤、及び該品質改良剤を含むプレスハムなどの食肉加工食品に関する技術を開示するものであって(上記(甲1a))、従来から、プレスハムなどの食肉加工食品の製造において、品質の安定化、品質の改良、歩留り向上を目的として澱粉などを添加することが広く行われていたところ、これらの技術が必ずしも食肉加工食品の品質の安定化、品質の改良、歩留り向上などを満足させ得るものではないことから、より優れた食肉加工食品の品質改良剤、及び該品質改良剤を含有する食肉加工食品を提供することを目的とするものである(上記(甲1b))。
そして、甲1には、プレズハムなどの食肉加工食品は食肉を原料として調製される食品であること、食肉としては特に限定されないが、豚肉、牛肉や魚肉などが挙げられることが記載され(上記(甲1c))、食肉加工食品の製造方法も公知の方法で行えばよいと記載されている(上記(甲1d))。
これらの記載から、甲1は、畜肉や魚肉などの食肉を主な原料とする加工食品について、その品質などを改良する目的で油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を用いていることが理解でき、甲1発明Aについて、主な原料として約50質量%用いられている豚もも肉の含量を減らして、30質量%以下とする動機付けはない。

b 相違点1-2について
本件特許明細書【0034】には、「本発明において、畜肉様加工食品とは、挽き肉などの畜肉素材の含量を一定以下として通常の畜肉加工食品と同等又は類似の食味・食感を再現した食品、すなわち畜肉素材の含量が一定以下の畜肉様加工食品である。本発明の畜肉様加工食品は、畜肉素材の含量が30質量%以下である。宗教的理由、個人的信条など種々の理由で畜肉を口にしない人でも食べることができるという点を考慮すると、本発明の畜肉様加工食品は、全く畜肉を含まないもの(ミートレス加工食品)であることが望ましい。」と記載されている。
そうすると、上記aで検討したとおり、甲1は畜肉や魚肉などの食肉を主な原料とする加工食品に関するものであり、甲1発明Aのプレスハムは、上記本件特許明細書に記載の「畜肉加工食品」に該当するといえ、甲1発明Aのプレスハムについて、豚もも肉の含量を一定以下として畜肉様加工食品とする動機付けはない。

c 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、畜肉様加工食品において油脂加工澱粉を用いることで、本件特許明細書【0027】記載の「安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品を得ることができる。更には、硬さ、ほぐれ感及びジューシー感などの性能に優れた畜肉加工食品に近い食感の畜肉様加工食品を得ることができる。」という、甲1からは予測できない効果を奏するものである。

d まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明A及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲1発明Aは、油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉が合計102.5質量部中2.5質量部であるから、プレスハム中に約2.4質量%含有しているといえ、また、甲1発明Aは、動物性蛋白質素材である「乳清蛋白質(商品名:エンラクトHG;日本新薬社)」、「卵白(商品名:粉末卵白;理研ビタミン社)」及び「カゼインナトリウム」を含むから、これらの点に関しては、本件特許発明2?4との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、これらの点を考慮しても、上記イで検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲1発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲1発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲1発明Bにおいて、ピックル液と豚もも肉に油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉を添加して練り合わせること、塩化ビニリデンケーシングに充填すること、及び蒸煮することは、それぞれ本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
そして、本件特許明細書【0036】に「本発明の畜肉様加工食品は、・・・上記従来の畜肉加工食品と同様な形態で製品化することができ、その製造方法も同様な方法を採用することができる。」と記載されていることから、甲1発明Bがさらなる工程を有することは、本件特許発明6に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点1-3?1-4を有する。

一致点:
「油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材を含有し、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱する加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。」である点。

相違点1-3:
本件特許発明6は「畜肉素材の含有量が30質量%以下」であると特定しているのに対し、甲1発明Bは「豚もも肉」が合計102.5質量部中「50質量部」である点。

相違点1-4:
本件特許発明6は「畜肉様加工食品」であるのに対し、甲1発明Bは「プレスハム」である点。

(イ)判断
上記相違点1-3?1-4は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点1-1?1-2と同様であり、その判断については、上記イ(イ)a及びbで検討したとおりである。
また、本件特許発明6の効果についても、上記イ(イ)cと同様である。
したがって、本件特許発明6は、甲1発明B及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲1発明Bは、油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉が合計102.5質量部中2.5質量部であるから、プレスハムの原料中に約2.4質量%含有しているといえ、この点に関しては、本件特許発明7との間で新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記エで検討した本件特許発明6についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9について
(ア)対比
本件特許発明9と甲1発明Cとを対比する。
甲1発明Cの「油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する油脂加工澱粉」は、本件特許発明9の「油脂加工澱粉」に相当する。
甲1発明Cの「食肉加工食品用」の「品質改良剤」は、本件特許発明9の「大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用の食感改良剤」と、それぞれ「加工食品用」である点及び「改良剤」である点で共通する。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点1-5?1-6を有する。

一致点:
「加工食品用の改良剤であって、油脂加工澱粉を含有する加工食品用改良剤。」である点。

相違点1-5:
本件特許発明9は「大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用の食感改良剤」であると特定しているのに対し、甲1発明Cは「食肉加工食品用の品質改良剤」である点。

相違点1-6:
本件特許発明9は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を添加する畜肉様加工食品用食感改良剤を除く)」と特定しているのに対し、甲1発明Cはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点1-5について検討する。
上記イ(イ)a及びbで検討したとおり、甲1は畜肉や魚肉などの食肉を主な原料とする加工食品に関するものであるから、甲1発明Cの食肉加工食品用の品質改良剤を、大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用としてその食感の改良に用いる動機付けはない。
したがって、相違点1-6について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1発明C及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明9を引用して、「前記畜肉様加工食品が畜肉素材を含まない食品である」ことを更に特定するものである。
上記カで検討したとおり、甲1発明Cの食肉加工食品用の品質改良剤を、食肉を含まない畜肉様加工食品用とする動機付けはない。
よって、本件特許発明10についても、上記カで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲2に記載された発明
甲2には、請求項1の記載からみて(上記(甲2a))、次の2つ発明(以下、「甲2発明A」及び「甲2発明B」という。)が記載されていると認める。

甲2発明A:
「分離大豆蛋白、グルテン、澱粉及びグルタチオン含有酵母エキス又はγ-グルタミルシステイン含有酵母エキスを主原料とした組織状蛋白含有物A:1重量部(乾燥重量換算)
分離大豆蛋白と小麦粉を主原料とした組織状蛋白含有物B:0.1?1.5重量部(乾燥重量換算)
を含有するハンバーグ様食品。」

甲2発明B:
「分離大豆蛋白、グルテン、澱粉及びグルタチオン含有酵母エキス又はγ-グルタミルシステイン含有酵母エキスを主原料とした組織状蛋白含有物A:1重量部(乾燥重量換算)と、分離大豆蛋白と小麦粉を主原料とした組織状蛋白含有物B:0.1?1.5重量部(乾燥重量換算)を調湿混合、成型し、マイクロ波照射により加熱結着させた後、調味液中で湯戻しし、更に焼成するハンバーグ様食品の製造方法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明Aとを対比する。
甲2発明Aの組織状蛋白含有物A及び組織状蛋白含有物Bの主原料の一つである「分離大豆蛋白」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲2発明Aの組織状蛋白含有物Aの主原料の一つである「グルテン」は、本件特許発明1の「前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材」に相当する。
甲2発明Aの組織状蛋白含有物Aの主原料の一つである「澱粉」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」と、「澱粉」である点で共通する。
甲2発明Aは畜肉素材を含有しないから、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることと一致し、甲2発明Aの「ハンバーク様食品」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」に相当する。
そして、甲2発明Aのハンバーク様食品は衣を有さないから、甲2発明Aと本件特許発明1とは「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」点で一致する。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点2-1?2-2を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下であり、前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。」である点。

相違点2-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲2発明Aは「澱粉」を含有する点。

相違点2-2:
本件特許発明1は含有しないが、甲2発明Aは「グルタチオン含有酵母エキス又はγ-グルタミルシステイン含有酵母エキス」及び「小麦粉」を含有する点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点2-1について検討する。

a 甲2は、肉様の食感・風味を有するハンバーグ様食品を簡便に提供できる製造法に関する技術を開示するものであり(上記(甲2b))、植物蛋白を主体とするハンバーグにパン粉を用いるとパン様の食感が出て肉様の食感がなくなるという問題点があること、澱粉をそのまま添加するだけでは粘性が高くなるだけであり、肉様の食感ではなくなるという問題点があることから、パン粉をつなぎとして用いない、植物性蛋白を原料とし、調理後も型崩れのしないハンバーグ様食品を製造可能にすることを目的とするものである(上記(甲2c))。
そして、甲2発明Aの特定の組織状蛋白含有物A及び組織状蛋白含有物Bを用いることで、目的とするハンバーグ様食品を製造可能としたことが記載されているが(上記(甲2d))、組織状蛋白含有物Aを得るために用いる澱粉については、小麦、馬鈴薯、トウモロコシ、米などの澱粉が利用でき、トウモロコシ澱粉がより適していると記載されているに留まる(上記(甲2e))。

b 甲9には、油脂加工澱粉は加熱調理時に蛋白質成分と結着すること(上記(甲9a)、(甲9b)、(甲9c))、例えば、ピックル液中に懸濁された油脂加工澱粉は、畜肉食品の加熱調理時に膨潤して水分を保持するとともに蛋白質と結着し、良好な硬さやジューシー感を付与することが記載されている(上記(甲9c))。
甲10には、油脂加工澱粉は、弾力性付与、保水性向上能力を有し、例えば、蒲鉾のような水産練り製品に用いると、油脂加工澱粉の表面に存在する油脂が変性した蛋白質との相和性が強くなり、より均一に分散できることが記載されている(上記(甲10c))。
甲11には、食品の歩留りや保水性を向上させることができ、硬さや弾力等の食感を良化させることのできる油脂加工澱粉と卵白分解物を有する食品改質剤が記載されており(上記(甲11a)、(甲11b))、畜肉含有食品に好適であることが記載されている(上記(甲11c))。
甲12には、一般の天然の未処理澱粉を畜肉製品に添加した場合は、澱粉の糊化物性が悪く畜肉製品の食感を低下させるなどという問題を有するのに対して(上記(甲12b))、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有する畜肉製品用改良剤は(上記(甲12a))、澱粉の経時的な老化による畜肉製品の食感の低下や畜肉製品の離水を防止することや、ブロック状の食肉を利用した畜肉製品においては十分なソフト感、肉汁感、肉感、肉繊維感を付与することが可能であることが記載されている(上記(甲12c))。
甲13には、水畜産肉製品に用いられている澱粉のうち、例えば馬鈴薯澱粉は、時間の経過とともに製品が硬くなってしまったり、離水し粉っぽくなったり、本来の食感とは異なってしまう、小麦澱粉は、もろさのある食感になってしまう、また、タピオカ澱粉は、澱粉特有の糊感やヌメリが生じるため、肉の繊維感がなくなってしまい、且つタピオカ澱粉を含まない練製品と比較して食感が柔らかくなりすぎるという問題があったことが記載され(上記(甲13b))、特定の油脂加工澱粉を水畜産肉製品に用いることで、澱粉由来の粉っぽさや澱粉の糊化に伴う糊感やヌメリを感じさせることなく、水畜産肉製品の食感に弾力及び適度な硬さを有し、肉粒感のある食感を付与できることが記載されている(上記(甲13a)、(甲13c))。
甲14には、澱粉に油脂及びグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有させてなる油脂加工澱粉が記載されており(上記(甲14a))、畜肉類、魚肉類、ハム、ソーセージ、カマボコなどの加工品類などとの結着性が良好であるので揚げ物用衣材として利用できることが記載されている(上記(甲14b))。
甲15には、(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉と、(b)ソルビタン脂肪酸エステルとを含有する包餡食品の中種用水分移行抑制剤が記載されており(上記(甲15a))、中種から外皮への水分移行が抑制されること(上記(甲15b))、中種に用いられる食品素材としては、例えば、豚肉、牛肉、鶏肉等の肉類、野菜類、きのこ類、魚肉、魚介類等が挙げられることが記載されている(上記(甲15c))。
これら甲9?15の教示から、油脂加工澱粉は、畜肉や魚肉などの食肉の蛋白質との結着性がよいことや、食肉加工食品に用いる場合には、澱粉由来の糊感やヌメリを抑制できるなど、未処理の澱粉に比べて利点を有することが知られていたことが理解できる。
しかしながら、甲9?15には、油脂加工澱粉を畜肉様加工食品に用いることやその場合の利点に関する記載や示唆はないから、甲9?15に記載された周知の技術的事項を参酌しても、油脂加工澱粉を畜肉様加工食品に用いる動機付けはない。

c そうすると、甲2発明Aにおいて、組織状蛋白含有物Aの主原料の一つである澱粉を油脂加工澱粉にかえることや、それに加えて、あるいはハンバーグ様食品の製造における他の原料として、さらに油脂加工澱粉を用いることが動機付けられるところはない。
そして、本件特許発明1は、畜肉様加工食品において油脂加工澱粉を用いることで、本件特許明細書【0027】記載の「安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品を得ることができる。更には、硬さ、ほぐれ感及びジューシー感などの性能に優れた畜肉加工食品に近い食感の畜肉様加工食品を得ることができる。」という、甲2からは予測できない効果を奏するものである。

d したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明A並びに甲2に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲2には、さらに卵白を添加してよいことが記載されており(上記(甲2f))、甲2発明Aは、畜肉素材を含まないから、これらの点に関しては、本件特許発明3?5との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記イで検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲2発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲2発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲2発明Bにおいて、組織状蛋白含有物Aと組織状蛋白含有物Bとを調湿混合し、成型し、マイクロ波照射により加熱結着させることは、それぞれ本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
そして、本件特許明細書【0036】に「本発明の畜肉様加工食品は、・・・上記従来の畜肉加工食品と同様な形態で製品化することができ、その製造方法も同様な方法を採用することができる。」と記載され、本件特許明細書【0035】に「畜肉加工食品は、・・例えば、ソーセージ、ハンバーグ、・・・などが挙げられる。」と記載されていることから、甲2発明Bがさらなる工程を有することは、本件特許発明6に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点2-3?2-4を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下であり、前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱する畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。」である点。

相違点2-3:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲2発明Bは「澱粉」を含有する点。

相違点2-4:
本件特許発明1は含有しないが、甲2発明Bは「グルタチオン含有酵母エキス又はγ-グルタミルシステイン含有酵母エキス」及び「小麦粉」を含有する点。

(イ)判断
上記相違点2-3?2-4は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点2-1?2-2と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲2発明B並びに甲2に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲2発明Bは、原料に畜肉素材を含まないから、この点に関しては、本件特許発明8との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記エで検討した本件特許発明6についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
甲2には、「大豆そぼろ部分に大豆蛋白、グルテン、デンプンに高グルタチオン含有酵母エキス、または高γ-グルタミルシステイン含有酵母エキスを添加してエクストルーダーで加工することにより、非常に肉風味に近い、好ましい食感を有する繊維状蛋白食品素材を得ることができる」ことが記載されている(上記(甲2d))。
すなわち、甲2は、特定の原料を特定の手段で加工することで、肉風味に近い食感を有する食品素材を得るものであり、澱粉とそのような食感を有する食品素材を得ることとの関連については記載も示唆もされていない。
また、上記イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項から、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところはない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲2に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲2に記載された発明並びに甲2に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲3を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲3に記載された発明
甲3には、請求項1の記載からみて(上記(甲3a))、次の2つ発明(以下、「甲3発明A」及び「甲3発明B」という。)が記載されていると認める。

甲3発明A:
「(1)粒状大豆蛋白と、
(2)分離大豆蛋白、及び
(3)カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、又はナトリウム塩からなるカチオンを含有し、(2)の分離大豆蛋白に対するカチオンの重量比が0.005?0.1であり、かつ二価のカチオンが0.01以下であるカチオン
を含有する肉様食品。」

甲3発明B:
「(1)粒状大豆蛋白と、(2)分離大豆蛋白、及び(3)カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、またはナトリウム塩からなるカチオンを含有し、(2)の分離大豆蛋白に対するカチオンの重量比が0.005?0.1であり、かつ二価のカチオンが0.01以下であるカチオンを、調湿混合、成型し、水分含量が40?70%になるようにマイクロ波照射により加熱結着させる肉様食品の製造法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明Aとを対比する。
甲3発明Aの「粒状大豆蛋白」及び「分離大豆蛋白」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲3発明Aは畜肉素材を含有しないから、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることと一致し、甲3発明Aの「肉様食品」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」に相当する。
そして、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、・・・例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲3発明Aがさらに特定の量で「カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、又はナトリウム塩からなるカチオン」を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点3-1?3-3を有する。

一致点:
「大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下である畜肉様加工食品。」である点。

相違点3-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲3発明Aは含有しない点。

相違点3-2:
本件特許発明1は「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上」を更に含有するのに対し、甲3発明Aは含有しない点。

相違点3-3:
本件特許発明1は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」と特定しているのに対し、甲3発明Aはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点3-1について検討する。
甲3には、肉様食品のつなぎとして加工澱粉などが用いられていたが(上記(甲3b))、澱粉をそのまま添加する場合では粘性が高くなるだけで肉様の食感はでなくなるという問題があったことから、植物性蛋白をつなぎの原料とし、調理後も型崩れのしない、弾力感を有する肉粒状蛋白含有食品を製造可能にすることを目的とすることが記載されている(上記(甲3c))。
すなわち、甲3は、澱粉や加工澱粉を用いることなく、甲3発明Aの(1)?(3)で特定される成分を原料として用いることで、目的とする肉様食品を得たものといえるから、甲3発明Aに油脂加工澱粉を配合する動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を考慮しても、肉様食品に関する甲3発明Aに油脂加工澱粉を配合する動機付けはない。
したがって、相違点3-2?3-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明A並びに甲3に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲3発明Aは、畜肉素材を含まないから、この点に関しては、本件特許発明5との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記イで検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲3発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲3発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲3発明Bにおいて、(1)?(3)の成分を調湿混合、成型し、マイクロ波照射により加熱結着することは、それぞれ本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点3-4?3-6を有する。

一致点:
「大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下である原料を、混合し、成形し、加熱する畜肉様加工食品の製造方法。」である点。

相違点3-4:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲3発明Bは含有しない点。

相違点3-5:
本件特許発明6は「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上」を更に含有するのに対し、甲3発明Bは含有しない点。

相違点3-6:
本件特許発明6は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」と特定しているのに対し、甲3発明Bはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
上記相違点3-4?3-6は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点3-1?3-3と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲3発明B並びに甲3に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲3発明Bは、原料に畜肉素材を含まないから、この点に関しては、本件特許発明8との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記エで検討した本件特許発明6についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
上記イ(イ)のとおり、甲3は、澱粉や加工澱粉を用いることなく、甲3発明Aの(1)?(3)で特定される成分を原料として用いることで、弾力感を有する肉様食品を得たものといえ、油脂加工澱粉を畜肉様加工食品の食感改良剤とする動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項から、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところもない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲3に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲3に記載された発明並びに甲3に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲4を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲4に記載された発明
(ア)甲4には、請求項1からみて(上記(甲4a))、次の発明(以下、「甲4発明A」という。)が記載されていると認める。

甲4発明A:
「大豆蛋白及び小麦グルテンを含む植物性蛋白並びに澱粉を主原料とし、かつ水不溶性多糖類の乾燥重量が全原料乾燥重量あたり5%以下に抑制され、繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材。」

(イ)甲4には、請求項5からみて(上記(甲4a))、さらに次の発明(以下、「甲4発明B」という。)が記載されていると認める。

甲4発明B:
「大豆蛋白及び小麦グルテンを含む植物性蛋白並びに澱粉を主原料とし、かつ、水不溶性多糖類の乾燥重量が全原料乾燥重量あたり5%以下に抑制された原料を調製し、これを水分含量50?70%で押出機中加圧加熱した後、冷却ダイを通じて実質的に膨化させることなく押し出して組織化する、繊維が一方向に卓越して配向する組織状蛋白食品素材の製造方法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲4発明Aとを対比する。
甲4発明Aの「大豆蛋白」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲4発明Aの「小麦グルテンを含む植物性蛋白」は、本件特許発明1の「前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材」に相当する。
甲4発明Aの「澱粉」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」と、「澱粉」である点で共通する。
甲4発明Aは畜肉素材を含有しないから、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることと一致する。
甲4発明Aの「繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」と、「食品」である点で共通する。
そして、甲4発明Aは「水不溶性多糖類の乾燥重量が全原料乾燥重量あたり5%以下に抑制され」ているところ(甲4発明Aの「水不溶性多糖類」は、おから、パルプなどである(上記(甲4c)))、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、・・・例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲4発明Aがさらに「水不溶性多糖類」を含む場合があることは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点4-1?4-3を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下であり、前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する食品。」である点。

相違点4-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲4発明Aは「澱粉」を含有する点。

相違点4-2:
本件特許発明1は「畜肉様加工食品」であるのに対し、甲4発明Aは「繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材」である点。

相違点4-3:
本件特許発明1は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」と特定しているのに対し、甲4発明Aはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点4-1について検討する。
甲4は、緻密でかつ方向性に優れた繊維状の組織を有し、かつ咀嚼性、喉通りも良好な組織状蛋白食品素材を、蓄肉や魚肉等の動物性蛋白質を使用することなく、植物性蛋白と澱粉を主成分として提供する技術を開示する(上記(甲4b))。
そして、澱粉については、大豆蛋白に添加することで、組織に方向性を持たせ、緻密な繊維状構造をとることができるようにするためのものであること、膨潤性、溶解性を抑制させた架橋澱粉は、組織の繊維構造を劣化させるなどの悪影響を及ぼすため好ましくないことが記載されている(上記(甲4c))。
そうすると、甲4発明Aにおいては、澱粉は、繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材とするために配合されているものであるところ、油脂加工澱粉を用いた場合でも、同様な食品素材が得られることについては記載されていないから、澱粉にかえて油脂加工澱粉を用いる動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を考慮しても、繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材に関する甲4発明Aに油脂加工澱粉を配合する動機付けはなく、油脂加工澱粉を用いることで繊維が一方向に卓越して配向する実質的に非膨化の組織状蛋白食品素材が得られることが知られていたともいえない。
したがって、相違点4-2?4-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明A並びに甲4に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲4発明Aは、「小麦グルテン」を含み、かつ、畜肉素材を含まないから、これらの点に関しては、本件特許発明3及び5との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、これらの点を考慮しても、上記イで検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲4発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲4発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲4発明Bにおいて、原料を調製し、押出機中加圧加熱することは、本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
そして、本件特許明細書【0036】に「本発明の畜肉様加工食品は、・・・上記従来の畜肉加工食品と同様な形態で製品化することができ、その製造方法も同様な方法を採用することができる。」と記載されていることから、甲4発明Bがさらなる工程を有することは、本件特許発明6に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点4-4?4-6を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下であり、前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱する食品の製造方法。」である点。

相違点4-4:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲4発明Bは「澱粉」を含有する点。

相違点4-5:
本件特許発明6は「畜肉様加工食品」であるのに対し、甲4発明Bは「繊維が一方向に卓越して配向する組織状蛋白食品素材」である点。

相違点4-6:
本件特許発明6は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」と特定しているのに対し、甲4発明Bはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
上記相違点4-4?4-6は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点4-1?4-3と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲4発明B並びに甲4に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲4発明Bは、原料に畜肉素材を含まないから、この点に関しては、本件特許発明8との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記エで検討した本件特許発明6についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
上記イ(イ)のとおり、甲4は、咀嚼性、喉通りの良好な、繊維が一方向に卓越して配向する組織状蛋白食品素材とするために澱粉を配合しているが、油脂加工澱粉を用いた場合でも、同様な食感の食品素材が得られることについては記載されていない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項から、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところも、油脂加工澱粉であっても、繊維が一方向に卓越して配向する組織状蛋白食品素材を製造できることが理解されるところもない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲4に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲4に記載された発明並びに甲4に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲5を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲5に記載された発明
(ア)甲5には、比較例1及び2のミートボールの製造から得られるミートボールとして(上記(甲5d))、次の2つの発明(以下、「甲5発明A1」及び「甲5発明A2」という。)が記載されていると認める。

甲5発明A1:
「以下の組成で合計106.08重量部の原材料からなるミートボール。
大豆蛋白質A
(フジニックエース400) 16.70重量部
チキンブイヨン 5.50重量部
ショウガエキス 0.20重量部
水 33.90重量部
大豆蛋白質B
(ニューフジプロSE) 1.40重量部
ミートフレーバー 2.80重量部
タマネギ 20.30重量部
香辛料 0.43重量部
醤油 1.50重量部
食塩 0.90重量部
砂糖 1.25重量部
パン粉 9.00重量部
馬鈴薯デンプン 2.00重量部
卵白 10.00重量部
調味料 0.20重量部」

甲5発明A2:
「以下の組成で合計106.08重量部の原材料からなるミートボール。
大豆蛋白質A
(フジニックエース400) 15.03重量部
鶏肉 1.67重量部
チキンブイヨン 5.50重量部
ショウガエキス 0.20重量部
水 33.90重量部
大豆蛋白質B
(ニューフジプロSE) 1.40重量部
ミートフレーバー 2.80重量部
タマネギ 20.30重量部
香辛料 0.43重量部
醤油 1.50重量部
食塩 0.90重量部
砂糖 1.25重量部
パン粉 9.00重量部
馬鈴薯デンプン 2.00重量部
卵白 10.00重量部
調味料 0.20重量部」

(イ)甲5には、比較例1及び2のミートボールの製造として(上記(甲5d))、さらに次の2つの発明(以下、「甲5発明B1」及び「甲5発明B2」という。)が記載されていると認める。

甲5発明B1:
「甲5発明A1の原材料のうちチキンブイヨン、ショウガエキス、水、及び醤油を混合し、次に大豆蛋白質Aを加え、均一に混合し、15分後に残りの原材料を加え均一に混合し、混合物からミートボールを成形し、180℃の植物油で約30秒間フライした後、更に90℃で約6分間蒸す、ミートボールの製造方法。」

甲5発明B2:
「甲5発明A2の原材料のうちチキンブイヨン、ショウガエキス、水、及び醤油を混合し、次に大豆蛋白質Aを加え、均一に混合し、15分後に残りの原材料を加え均一に混合し、混合物からミートボールを成形し、180℃の植物油で約30秒間フライした後、更に90℃で約6分間蒸す、ミートボールの製造方法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
a 本件特許発明1と甲5発明A1とを対比する。
甲5発明A1の「大豆蛋白質A(フジニックエース400)」及び「大豆蛋白質B(ニューフジプロSE)」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲5発明A1の「卵白」は、本件特許発明1の「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材」に相当する。
甲5発明A1の「馬鈴薯デンプン」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」と、「澱粉」である点で共通する。
甲5発明A1は畜肉素材を含有しないから、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることと一致し、甲5発明A1の「ミートボール」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」に相当する。
そして、甲5発明A1のミートボールは衣を有さないから、甲5発明A1と本件特許発明1とは「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」点で一致する。
そして、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、・・・例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲5発明A1がチキンブイヨンなどの他の原料を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点5-1を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下であり、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。」である点。

相違点5-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲5発明A1は「馬鈴薯デンプン」を含有する点。

b 本件特許発明1と甲5発明A2とを対比する。
甲5発明A2は、甲5発明A1とは「鶏肉」を原材料106.08重量部に対して1.67重量部含有する点で異なるところ、鶏肉をミートボール中に約1.6重量%含有しているといえるから、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることに相当する。
したがって、本件特許発明1と甲5発明A2とは、上記aに示した甲5発明A1と同じ一致点及び相違点5-1を有する。

(イ)判断
相違点5-1について検討する。
甲5は、動物性蛋白質を僅かしか含まないかあるいは全く含まず、植物性蛋白質を多量に含む加工食品であって、動物性蛋白質を多量に含む加工食品とほぼ同様の優れた風味や食感などを有する加工食品の製造方法に関する技術を開示する(上記(甲5a))。具体的には、エマルジョンカード内にフレーバーを共存させた状態とし、加工食品の製造原料として常法により加工食品を製造することで、風味や食感に優れた加工食品が得られるというものである(上記(甲5b))。
そして、甲5には、澱粉については、製造原料中の固体材料である多糖類の一つとして、トウモロコシや馬鈴薯などの澱粉類、加工澱粉が挙げられているに留まり(上記(甲5c))、甲5発明A1又は甲5発明A2において、馬鈴薯澱粉にかえて油脂加工澱粉を用いる動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を考慮しても、動物性蛋白質を僅かしか含まないかあるいは全く含まず、植物性蛋白質を多量に含む加工食品に関する甲5発明A1又は甲5発明A2に油脂加工澱粉を配合する動機付けはない。
したがって、本件特許発明1は、甲5発明A1又は甲5発明A2並びに甲5に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲5発明A1又は甲5発明A2は「卵白」を含有しており、甲5発明A1は、畜肉素材を含まないから、これらの点に関しては、本件特許発明3?5との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記イで検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲5発明B1又は甲5発明B2とを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲5発明A1又は甲5発明A2について検討したのと同様である点に加え、甲5発明B1又は甲5発明B2において、原材料を混合し、ミートボールを成形し、フライ及び蒸すことは、それぞれ本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点5-2を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下であり、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱する畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。」である点。

相違点5-2:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲5発明B1又は甲5発明B2は「澱粉」を含有する点。

(イ)判断
上記相違点5-2は、上記イ(ア)に示した相違点5-1と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲5発明B1又は甲5発明B2並びに甲5に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲5発明B1は、原料に畜肉素材を含まないから、この点に関しては、本件特許発明8との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記エで検討した本件特許発明6についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
上記イ(イ)のとおり、甲5は、エマルジョンカード内にフレーバーを共存させた状態とし、加工食品の製造原料として常法により加工食品を製造することで、風味や食感に優れた加工食品が得られるというものであり、澱粉については、製造原料中の固体材料である多糖類の一つとして挙げられているにすぎない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を考慮しても、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところはない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲5に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲5に記載された発明並びに甲5に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)甲6を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲6に記載された発明
甲6には、請求項3のランチミート特殊品に似た調理された肉製品の製造方法(上記(甲6a))を具体化した実施例VIIの第九-A表のサンプル1(対照標準)から得られるランチミート特殊品に似た調理された肉製品からみて(上記(甲6d))、次の2つの発明(以下、「甲6発明A」及び「甲6発明B」という。)が記載されていると認める。

甲6発明A:
「以下の組成で合計950gの原材料からなるランチミート特殊品に似た調理された肉製品。
牛のひき肉 454 g
水 368.6 g
パート1
改質とうもろこし澱粉 43.03g
卵アルブミン 18.97g
大豆単離物 17.78g
トウモロコシ油
香辛・調味料
牛肉と豚肉の風味料(天然)
天然のヒッコリー薫香剤
パート2
ピロ燐酸ナトリウム
塩化ナトリウム
エリトロビン酸ナトリウム
硬化剤混合物
ここで、パート1及びパート2の改質とうもろこし澱粉、卵アルブミン及び大豆単離物成分以外の成分は合計で47.47g」

甲6発明B:
「甲6発明Aの原材料について、牛のひき肉及び水と、ピロリン酸ナトリウムを含む第一の部分(パート2)と、残りの成分からなる第二の部分(パート1)に分けて使用される乾燥した混合組成物と、二段階に分けて配合すると共に混ぜ合わせ、得られた混合物を調理して製品を得る、ランチミート特殊品に似た調理された肉製品の製造方法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
甲6発明Aの「牛のひき肉」は、本件特許発明1の「畜肉素材」に相当する。
甲6発明Aの「卵アルブミン」は、本件特許発明1の「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材」に相当する。
甲6発明Aの「大豆単離物」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲6発明Aの「改質とうもろこし澱粉」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」と、「澱粉」である点で共通する。
甲6発明Aの「ランチミート特殊品に似た調理された肉製品」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」と、「加工食品」である点で共通する。
そして、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、・・・例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲6発明Aが調味料などの他の原料を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点6-1?6-3を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材を含有し、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する加工食品。」である点。

相違点6-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲6発明Aは「改質とうもろこし澱粉」を含有する点。

相違点6-2:
本件特許発明1は「畜肉素材の含量が30質量%以下」である「畜肉様加工食品」と特定しているのに対し、甲6発明Aは「牛のひき肉」が合計950g中「454g」である「ランチミート特殊品に似た調理された肉製品」である点。

相違点6-3:
本件特許発明1は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」と特定しているのに対し、甲6発明Aはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点6-2、相違点6-1の順に検討する。

a 相違点6-2について
甲6発明Aでは、牛のひき肉は950g中に454g配合されているから約48重量%であって、30質量%以下を超えている。
そこで検討するに、甲6には、乾燥した混合組成物と水の合量に対するひき肉の重量比が1:0.25?1:2.5の範囲であることが記載されており(上記(甲6a))、換算すると、ひき肉の配合量は約20?70重量%の範囲であることが記載されているといえる。
そうすると、甲6発明Aについて、牛のひき肉の含量を20?30質量%程度として、畜肉様加工食品とすることは、甲6の記載に基いて、当業者が容易になし得たことといえる

b 相違点6-1について
(a)甲6は、水及びひき肉と混ぜ合わせることにより肉製品とすることができる、澱粉又は澱粉源物質、卵アルブミンが少なくとも一部である蛋白質成分、肉硬化剤、アルカリ燐酸塩及び通常の食塩からなる乾燥した粒状の混合物組成物に関する技術を開示するものである(上記(甲6a)、(甲6b))。
そして、澱粉については、脂肪と水のバインダーとして必要とされること、同時に、調理された肉製品の口当りをよくするとともに、調理上の損失を少なくするのに役立つものであることが記載され、とうもろこし、小麦及びタピオカ澱粉のような澱粉が好ましく、改質されたとうもろこし澱粉が好ましい成分であるが、これらの好ましい澱粉以外のものを使用すると、調理された肉製品の口当り特性は良好となるが、異臭があるので、上記したもの以外のものを澱粉として使用するのは望ましくないことも記載されている(上記(甲6c))。
そうすると、甲6発明Aにおいて、例示された澱粉以外の澱粉を用いる動機付けはない。

(b)上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を参酌すると、畜肉や魚肉などの食肉を主な原料とする畜肉加工食品については、澱粉にかえて油脂加工澱粉を採用する動機付けがあるといえる。
そうすると、畜肉素材を48重量%程度も含有する畜肉加工食品といえる甲6発明Aについて、改質とうもろこし澱粉にかえて油脂加工澱粉を用いることが動機付けられるということはできる。
しかしながら、甲9?15に記載された周知の技術的事項を参酌しても、畜肉様加工食品に油脂加工澱粉を用いることが動機付けられるとはいえないのだから、甲6発明Aについて、ひき肉の配合量を減らして30質量%以下である畜肉様加工食品としたうえで、油脂加工澱粉を用いることが動機付けられるとはいえない。

c したがって、相違点6-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明A並びに甲6に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲6発明Aは、「卵アルブミン」を含むから、この点に関しては、本件特許発明3?4との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記イで検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲6発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲6発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲6発明Bは、牛のひき肉及び水を含む原料を混ぜ合わせ、得られた混合物を調理してランチミート特殊品に似た製品を得るものであるところ、この場合の調理には、混合物を成型し、加熱する工程を含むことは自明であるから、本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点6-4?6-6を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材を含有し、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱する加工食品の製造方法。」である点。

相違点6-4:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲6発明Bは「改質とうもろこし澱粉」を含有する点。

相違点6-5:
本件特許発明6は「畜肉素材の含有量が30質量%以下」である「畜肉様加工食品」と特定しているのに対し、甲6発明Bは「牛のひき肉」が合計950g中「454g」である「ランチミート特殊品に似た調理された肉製品」である点。

相違点6-6:
本件特許発明6は「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)」と特定しているのに対し、甲6発明Bはそのような特定をしていない点。

(イ)判断
上記相違点6-4?6-6は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点6-1?6-3と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲6発明B並びに甲6に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲6発明Bは、原料に油脂加工澱粉を含まず、原料に牛のひき肉を含む。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
上記イ(イ)のとおり、甲6の記載から、例示された澱粉以外の澱粉を用いる動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項から、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところもない。
そして、上記イ(イ)で述べたとおり、畜肉素材を48質量%程度も含有する畜肉加工食品である甲6発明Aについてであれば、油脂加工澱粉を食感改良剤とすることは容易になし得たことといえるが、甲6発明Aについて、ひき肉の配合量を減らして30質量%以下である畜肉様加工食品としたうえで、油脂加工澱粉を食感改良剤として用いることが動機付けられるとはいえない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲6に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲6に記載された発明並びに甲6に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)甲7を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲7に記載された発明
甲7には、比較例1の練り惣菜の調製からみて(上記(甲7c))、次の2つの発明(以下、「甲7発明A」及び「甲7発明B」という。)が記載されていると認める。

甲7発明A:
「以下の組成で合計100質量%の原材料からなる練り惣菜。
粉末状大豆たん白 5.5重量%
水 22.1重量%
大豆油 5.5重量%
鶏ムネ肉 9.9重量%
食塩 0.8重量%
玉ねぎ 22.1重量%
粒状大豆たん白 16.5重量%
豚脂 7.7重量%
調味料 2.2重量%
パン粉 5.5重量%
澱粉 2.2重量%」

甲7発明B:
「甲7発明Aの原材料を混合し、生地を得、成型し、焼成することを含む練り惣菜の製造方法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
甲7発明Aの「鶏ムネ肉」を「9.9重量%」含有することは、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることに相当する。
甲7発明Aの「粉末状大豆たん白」及び「粒状大豆たん白」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲7発明Aの「澱粉」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」と、「澱粉」である点で共通する。
甲7発明Aの「練り惣菜」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」に相当する。
甲7発明Aの「練り惣菜」は衣を有していないから、甲7発明Aと本件特許発明1とは「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉加工食品を除く)」点で一致する。
そして、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、・・・例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲7発明Aが食塩などの他の原料を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点7-1?7-2を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含有が30質量%以下である畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。」である点。

相違点7-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲7発明Aは「澱粉」を含有する点。

相違点7-2:
本件特許発明1は「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する」のに対し、甲7発明Aはそれらを含まない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点7-1について検討する。
甲7は、大豆たん白の水和物又は大豆たん白水和物と油脂からなるエマルジョンを含む練り惣菜に湯葉又は湯葉状素材を練り込む技術に関するものであり(上記(甲7a))、大豆たん白と油脂からなるエマルジョンを多く含む練り惣菜がかまぼこ的な弾力のある食感であるため、湯葉を練り込むことで、かまぼこ的食感を改善したものである(上記(甲7b))。
そして、澱粉については、実施例や比較例で具体的に調製した練り惣菜に配合することが示されているに留まる。
そうすると、甲7発明Aにおいて、澱粉にかえて、油脂加工澱粉を用いる動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を考慮しても、大豆たん白の水和物又は大豆たん白水和物と油脂からなるエマルジョンを含む練り惣菜に関する甲7発明Aにおいて、澱粉にかえて、油脂加工澱粉を採用する動機付けはない。
したがって、相違点7-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7発明A並びに甲7に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲7発明Aは、油脂加工澱粉を含まず、鶏ムネ肉を除く動物由来蛋白質素材も大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材も含まず、鶏ムネ肉を含むものである。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲7発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲7発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲7発明Bにおいて、原材料を混合し、成型し、焼成することは、それぞれ本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点7-3?7-4を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有漁が30質量%以下である原料を、混合し、成形し、加熱する畜肉加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。」である点。

相違点7-3:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲7発明Bは「澱粉」を含有する点。

相違点7-4:
本件特許発明6は「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する」のに対し、甲7発明Bはそれらを含まない点。

(イ)判断
上記相違点7-3?7-4は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点7-1?7-2と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲7発明B並びに甲7に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲7発明Bは、原料に油脂加工澱粉を含まず、鶏ムネ肉を含むものである。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
上記イ(イ)のとおり、甲7は、大豆たん白の水和物又は大豆たん白水和物と油脂からなるエマルジョンを含む練り惣菜に湯葉又は湯葉状素材を練り込むことで、かまぼこ的食感を改善したものといえ、油脂加工澱粉を畜肉様加工食品の食感改良剤とする動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項から、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところもない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲7に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲7に記載された発明並びに甲7に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)甲8を主引例とする本件特許発明の進歩性について
ア 甲8に記載された発明
甲8には、比較例1のチキンハンバーグの調製からみて(上記(甲8d))、次の2つの発明(以下、「甲8発明A」及び「甲8発明B」という。)が記載されていると認める。

甲8発明A:
「以下の組成で合計100部の原材料からなるチキンハンバーグ。
鶏ムネ肉 10 部
チキンペースト 30 部
豚脂 9 部
粉末状大豆たん白 3 部
食塩 0.8部
粒状大豆たん白 15 部
調味料 2.2部
玉ねぎ 20 部
パン粉 6 部
でん粉 4 部」

甲8発明B:
「甲8発明Aの原材料を混合し、生地を得、成型し、焼成することを含むチキンハンバーグの製造方法。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
甲8発明Aの「鶏ムネ肉」を合計100部中に「10部」含有することは、本件特許発明1の「畜肉素材の含量が30質量%以下」であることに相当する。
甲8発明Aの「粉末状大豆たん白」及び「粒状大豆たん白」は、本件特許発明1の「大豆蛋白質素材」に相当する。
甲8発明Aの「でん粉」は、本件特許発明1の「油脂加工澱粉」と、「澱粉」である点で共通する。
甲8発明Aの「チキンハンバーグ」は、本件特許発明1の「畜肉様加工食品」に相当する。
甲8発明Aの「チキンハンバーグ」は衣を有していないから、甲8発明Aと本件特許発明1とは「(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉加工食品を除く)」点で一致する。
そして、本件特許明細書【0038】に「本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、・・・例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。」と記載されているから、甲8発明Aが食塩などの他の原料を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点ではない。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点8-1?8-2を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含有が30質量%以下である畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。」である点。

相違点8-1:
本件特許発明1は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲8発明Aは「澱粉」を含有する点。

相違点8-2:
本件特許発明1は「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する」のに対し、甲8発明Aはそれらを含まない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点8-1について検討する。
甲8は、植物性蛋白質を主体とするミートボールなどの練り製品に湯葉を練り込み風味を改良する技術に関するものであり(上記(甲8a))、植物性蛋白を含む練り製品に湯葉を練り込むことで、原材料由来の風味を低減したものである(上記(甲8b)、(甲8c))。
そして、澱粉については、実施例や比較例で具体的に調製したチキンハンバーグなどに配合することが示されているに留まる。
そうすると、甲8発明Aにおいて、澱粉にかえて、油脂加工澱粉を用いる動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項を考慮しても、植物性蛋白を含むチキンハンバーグに関する甲8発明Aにおいて、澱粉にかえて、油脂加工澱粉を採用する動機付けはない。
したがって、相違点8-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲8発明A並びに甲8に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「前記油脂加工澱粉の含量が0.5?10質量%である」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである」ことを更に特定するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2を引用して、「卵白を含有する」ことを更に特定するものである。
そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲8発明Aは、油脂加工澱粉を含まず、鶏ムネ肉を除く動物由来蛋白質素材も大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材も含まず、鶏ムネ肉を含むものである。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲8発明Bとを対比すると、上記イ(ア)で本件特許発明1と甲8発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲8発明Bにおいて、原材料を混合し、成型し、焼成することは、それぞれ本件特許発明6の原料を混合し、成型し、加熱することに相当するといえる。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点8-3?8-4を有する。

一致点:
「澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有漁が30質量%以下である原料を、混合し、成形し、加熱する畜肉加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。」である点。

相違点8-3:
本件特許発明6は「油脂加工澱粉」を含有するのに対し、甲8発明Bは「でん粉」を含有する点。

相違点8-4:
本件特許発明6は「前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する」のに対し、甲8発明Bはそれらを含まない点。

(イ)判断
上記相違点8-3?8-4は、それぞれ上記イ(ア)に示した相違点8-1?8-2と同様であり、その判断については、上記イ(イ)で検討したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲8発明B並びに甲8に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明7?8について
本件特許発明7は、本件特許発明6を引用して、「前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5?10質量%とする」ことを更に特定するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明6又は7を引用して、「前記原料は、前記畜肉素材を含まない」ことを更に特定するものである。
甲8発明Bは、原料に油脂加工澱粉を含まず、鶏ムネ肉を含むものである。
よって、本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?8についても、上記エで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件特許発明9?10について
上記イ(イ)のとおり、甲8は、植物性蛋白質を主体とするミートボールなどの練り製品に湯葉を練り込むことで、原材料由来の風味を低減したものであるといえ、油脂加工澱粉を畜肉様加工食品の食感改良剤とする動機付けはない。
また、上記(2)イ(イ)bでみたとおり、甲9?15に記載された周知の技術的事項から、油脂加工澱粉が畜肉様加工食品の食感を改良するものであることが理解されるところもない。
したがって、本件特許発明9?10は、甲8に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小括
以上のとおり、本件特許発明1?10は、甲8に記載された発明並びに甲8に記載された技術的事項及び甲9?15に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)申立人の主張について
ア 甲1を主引例とする本件特許発明の進歩性について
申立人は、甲1に記載された発明として、概略上記(1)ア(ア)で認定した甲1発明Aと同様な発明を認定し、畜肉素材である豚もも肉と共に畜肉素材以外の動物由来蛋白質素材を含むから、甲1に記載されたプレスハムは畜肉様加工食品に含まれるとし、畜肉素材の含量でのみ相違するところ、畜肉素材の含量を30質量%以下にすることは設計的事項に過ぎない旨主張している。
しかしながら、本件特許発明の「畜肉様加工食品」とは、その文言からも理解できるとおり、畜肉加工食品の様な食品である。この点、本件特許明細書【0034】にも、「本発明において、畜肉様加工食品とは、挽き肉などの畜肉素材の含量を一定以下として通常の畜肉加工食品と同等又は類似の食味・食感を再現した食品、すなわち畜肉素材の含量が一定以下の畜肉様加工食品である。」と説明されている。
一方、甲1は、上記(1)イ(イ)で述べたとおり、畜肉や魚肉などの食肉を主な原料とする食肉加工食品に関するものであり、本件特許発明の「畜肉様加工食品」とは技術分野が異なる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

イ 甲2?8を主引例とする本件特許発明の進歩性について
申立人は、甲2?8には、それぞれ畜肉素材を含まないか30質量%以下で含み、澱粉を更に含む畜肉様加工食品に関する発明が記載されており、本件特許発明と甲2?8に記載された発明との主たる相違点は、澱粉が油脂加工澱粉に特定されていないことであるとし、甲2?8の従来技術に関する記載や比較例から、澱粉を採用した場合の欠点が明確に理解できること、甲9?15には、畜肉様加工食品の食感を改善するために油脂加工澱粉を用いることが記載されていることから、甲2?8に記載された発明に油脂加工澱粉を適用することは、当業者が容易になし得たことである旨主張する。
しかしながら、上記(2)イ(イ)bで述べたとおり、甲9?15は、畜肉や魚肉などの食肉を主な原料とする食品に用いる場合における、油脂加工澱粉が有する利点などに関するものである。
また、甲2?8は、いずれも油脂加工澱粉を用いる以外の方法でそれぞれの課題を解決したものであることは、上記(2)?(8)で述べたとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。

申立人は甲3発明として加工澱粉を含有する発明を認定しているが、甲3の請求項1の記載と従来技術の記載を組み合わせて認定したものといえ、そのような発明が記載されているとはいえない。
甲6発明についても、ひき肉の含量が20%以上である発明を認定しているが、甲6の請求項3の記載と実施例の記載を組み合わせて認定したものといえ、そのような発明が記載されているとはいえない。

(10)取消理由1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

2 取消理由2(サポート要件)について
(1)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許明細書の記載、特に【0013】からみて、本件特許発明1?5、6?8及び9?10の解決しようとする課題は、それぞれ「安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品」、「安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品の製造方法」及び「畜肉様加工食品用の食感改良剤」を提供することにあると認める。

(2)本件特許明細書の記載
ア 【0007】?【0008】
「・・・加工食品中への畜肉原料の配合割合が少ない場合、咀嚼時のほぐれやジューシー感が損なわれ、ぬめりなどの食感に不自然さが生じることから、既存の畜肉加工食品と遜色ない畜肉様加工食品の製造は難しかった。
・・・畜肉様加工食品の原料として、澱粉が用いられる場合もある。澱粉は、大豆蛋白質等と比べ安価であるため、畜肉様加工食品に澱粉を一定量配合することでその製造コストを抑えることが可能となる。しかし、・・・畜肉様加工食品に澱粉を配合すると、ぬめりや糊感が生じ、好ましくないことが知られていた。」

イ 【0014】
「・・・油脂加工澱粉と、大豆蛋白質素材と、更に必要に応じて他の蛋白質素材とを組合せることによって、食感等の性能に優れた畜肉様加工食品を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

ウ 【0029】
「・・・油脂加工澱粉は、畜肉素材中の蛋白質に限らず、種々の動物性及び植物性蛋白質に対して疎水的相互作用によって結着して蛋白質と一体化した澱粉-蛋白質ゲルを形成することができ、これが食感や物性面で非油脂加工澱粉に対する優位性のメカニズムであると推察される。」

エ 【0049】
「・・・油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材に加えて卵白を畜肉様加工食品に用いると、糊感やその他の食感の点で特に顕著な効果が発揮される。これは、卵白中の蛋白質と油脂加工澱粉がより効果的に相互作用し、優れたゲルネットワークが形成されるためと考えられる。」

オ 【0060】?【0066】
「試験例1(澱粉と動物性蛋白質素材の組合せ)」
粒状大豆たん白及び粉末状大豆たん白を含有するミートレスハンバーグであって、さらに粉末卵白、乳清たん白、又はカゼインナトリウムのいずれかを含むものについて、油脂加工澱粉を配合した場合と、架橋澱粉を配合した場合を比較した結果が示されており、架橋澱粉を配合した場合は、澱粉由来の糊感が強かったのに対し、油脂加工澱粉を配合した場合は、糊感が低減され好ましい食感であったことなどが示されている。

カ 【0067】?【0071】
「試験例2(澱粉と植物性蛋白質素材の組み合わせ)」
粒状大豆たん白及び粉末状大豆たん白を含有するミートレスハンバーグであって、さらにエンドウたん白又は小麦たん白のいずれかを含むものについて、油脂加工澱粉を配合した場合と、架橋澱粉を配合した場合を比較した結果が示されており、架橋澱粉を配合した場合は、澱粉由来の糊感が強かったのに対し、油脂加工澱粉を配合した場合は、糊感が低減され好ましい食感であったことなどが示されている。

キ 【0072】?【0076】
「試験例3(畜肉素材を配合した畜肉様加工食品)」
牛肉、豚肉及び豚脂肪を合計で22質量%程度含有し、粒状大豆たん白、粉末状大豆たん白及び粉末卵白を含有するハンバーグについて、油脂加工澱粉を配合した場合と、架橋澱粉を配合した場合を比較した結果が示されており、ミートレスハンバーグと同様に、油脂加工澱粉を配合した効果が示されている。

(3)判断
上記本件特許明細書の一般記載及び実施例の記載から、本件特許発明1?10の課題は、大豆蛋白質素材及びその他の特定の蛋白質素材をさらに含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下である畜肉様加工食品に、油脂加工澱粉を含有させることで解決できることが理解でき、また、油脂加工澱粉がそのような畜肉様加工食品の食感を改良することが理解できる。
したがって、本件特許発明1?10は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?10の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1?10が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、本件特許発明1の解決しようとする課題を「大豆蛋白質素材、畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材からなる畜肉様素材に油脂加工澱粉を添加して畜肉様加工食品を得ること」とし、概略次のように主張する。
(ア)上記課題を解決するためには、畜肉素材の代替手段である素材の含量の特定が必要である。
(イ)実施例では、油脂加工澱粉としてタピオカ澱粉を原料とするものしか使用されていないが、油脂加工澱粉に関する従来技術の知見(上記(甲9b)、(甲10a)、(甲12d))を参酌すると、油脂加工澱粉の物性には澱粉種や加工方法が大きく影響するので、実施例で効果が実際に調べられた以外の油脂加工澱粉が上記課題を解決するとはいえない。
(ウ)本件特許発明1?8に記載の「畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上」は、実施例等を参酌しても、卵白以外のものまで所期の効果を奏することができると実証されていない。

イ 申立人の上記主張について検討する。
本件特許発明1?10の解決しようとする課題は、上記(1)で述べたとおりである。
上記ア(ア)については、甲2?3、5、7?8に示される大豆蛋白質素材を含有する畜肉様加工食品からみて、当業者が必要な程度を理解できるものといえる。
上記ア(イ)については、甲9、甲10にもあるとおり、原料などに応じた油脂加工澱粉の特性は、当業者が理解できるものといえる。
上記ア(ウ)については、本件特許明細書の「畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上」含有しない実施例1又は実施例5と、卵白以外の他の蛋白質素材を更に含有する実施例3、4又は実施例6、7との比較として示されている。
よって、申立人の主張する不備はない。

(5)取消理由2(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。

3 取消理由3(実施可能要件)について
(1)本件特許明細書には、本件特許発明1?5及び6?8の畜肉様加工食品及びその製造方法について、上記2(3)オ?キの試験例1?3の実施例を伴い記載されており、本件特許発明9?10の畜肉様加工食品用の食感改良剤についても同様に、その効果が確認されている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細は説明の記載は、本件特許発明1?10を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)申立人の主張について
ア 申立人は、概略次のように主張する。
(ア)発明の詳細な説明には、大豆蛋白質素材の含量をどのように制御すれば、畜肉加工食品と同等又は類似の食味・食感を発現するのか一切説明されていないから、畜肉素材の含量を30%以下とする見返りとして大豆蛋白質素材をどの程度添加すると畜肉様加工食品が得られるかを発見することは、当業者の期待し得る程度の試行錯誤の域を超えている。
(イ)本件特許明細書の実施例1、5及び8は実質的に比較例に位置づけられるから、発明の詳細な説明と特許請求の範囲の範囲との関係が不明瞭である。
(ウ)実施例で使用される油脂加工タピオカ架橋澱粉は架橋剤が明らかでないところ、架橋剤が異なると架橋澱粉の物性も変わるであるから(上記(甲12d))、実施例を参酌しても本件特許発明をどのように実施するかを理解できない。

イ 申立人の主張について検討する。
上記ア(ア)及びア(ウ)については、上記2(4)イで述べたとおりである。
上記ア(イ)については、発明の詳細な説明の記載に実施例として示されているもののなかに、特許請求の範囲に記載された発明の範囲外のものがあることで、実施可能要件を満たさないということにはならない。
よって、申立人の主張する不備はない。

(3)取消理由3(実施可能要件)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-06-22 
出願番号 特願2018-182483(P2018-182483)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23J)
P 1 651・ 121- Y (A23J)
P 1 651・ 536- Y (A23J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星 功介  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 関 美祝
佐々木 秀次
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6565013号(P6565013)
権利者 日本食品化工株式会社
発明の名称 畜肉様加工食品、その製造方法及び畜肉様加工食品用添加剤  
代理人 松井 茂  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 宮尾 武孝  

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