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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2019700526 審決 特許
異議2019700525 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項1号公知  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1364023
異議申立番号 異議2020-700150  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-04 
確定日 2020-07-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6571252号発明「網膜疾患を処置するための組成物および方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6571252号の請求項1ないし31に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6571252号の請求項1?31に係る特許についての出願は、平成24年5月17日に出願された特願2014-511535号(優先権主張 平成23年 5月18日)の一部を平成28年11月 8日に新たに特許出願したものである特願2016-217910号の一部をさらに平成30年 8月 8日に新たに特許出願したものであって、令和 1年 8月16日にその特許権の設定登録がされ、令和 1年 9月 4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和 2年 3月 4日に特許異議申立人リニューロン・リミテッドは、特許異議の申立てを行った。


第2 特許請求の範囲の記載
特許第6571252号の請求項1?31の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定される次のとおりのものであり、請求項1?31に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明31」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。
「【請求項1】
被験体において、網膜疾患を処置することにおける、明所(昼間)視を改善することにおける、矯正視力を改善することにおける、黄斑機能を改善することにおける、視野を改善することにおける、または暗所(夜間)視を改善することにおける使用のための製剤、製造産物、または組成物であって、
該製剤、製造産物、または組成物は、不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を物理的および/または酵素的に解離して、細胞および/または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞および/または細胞群の該懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内の無血清培地中で1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養し、それによって、不死化されていないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
該細胞は40%?90%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、そして、ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される、ステップ
によって作製されたものであり、
該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される、
製剤、製造産物、または組成物。
【請求項2】
前記被験体がヒトである、請求項1に記載の使用のための製剤、製造産物、または組成物。
【請求項3】
前記組成物は、前記被験体の硝子体腔もしくは網膜下腔内への注射用に製剤化されたものである、請求項1または2に記載の使用のための製剤、製造産物、または組成物。
【請求項4】
前記網膜疾患が、網膜色素変性症(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト症、アッシャー症候群、コロイデレミア、桿体-錐体もしくは錐体-桿体ジストロフィー、繊毛障害、ミトコンドリア障害、進行性網膜萎縮、網膜変性疾患、加齢黄斑変性症(AMD)、滲出型AMD、萎縮型AMD、地図状萎縮、家族性もしくは後天性黄斑症、網膜光受容体疾患、網膜色素上皮を基礎とする疾患、糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫、ブドウ膜炎、網膜剥離、外傷性網膜損傷、医原性網膜損傷、黄斑円孔、黄斑部毛細血管拡張症、神経節細胞疾患、視神経細胞疾患、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞、家族性細動脈瘤、網膜血管疾患、眼血管疾患、血管疾患、または虚血性視神経症を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造産物、または組成物。
【請求項5】
前記組成物中の前記細胞が、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群から選択される1種または複数のマーカーをさらに発現する、請求項1?4のいずれか一項に記載の使用のための製剤、製造産物、または組成物。
【請求項6】
不死化されていないヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む、製剤、製造産物、あるいは組成物を作製する方法であって、
(a)在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織細胞の得られた試料を物理的および/または酵素的に解離して、細胞および/または細胞群の解離懸濁物を生成するステップであって、
細胞および/または細胞群の前記得られた試料は、トリプシンを使用して酵素的に解離される、ステップ;ならびに
(b)異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内に無血清培地を含み、かつ、抗生物質および抗真菌薬を含む、または、抗生物質も抗真菌薬も含まない、滅菌環境中で、該細胞および/または細胞群を1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養するステップであって、
該細胞は40%?90%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、培養培地が1日?2日毎に取り換えられ、
そして、ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培地に添加される、ステップ
を含む、方法。
【請求項7】
前記細胞および/または細胞群は、基本培地で培養される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞および/または細胞群は、細胞の生存または増殖を支持する補充物または添加剤と一緒に培養される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞の増殖または生存を支持する前記補充物は、L-グルタミン、EGFおよびbFGFからなるヒト組換え増殖因子(Invitrogen)、ならびに他の増殖因子からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞および/または細胞群は、低酸素条件、または妊娠の間に発生中の胎児網膜の酸素レベルに近似するもしくは密接に模倣する酸素条件下、あるいは2%の酸素の下、培養または増殖される、請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞および/または細胞群は、低酸素条件、または妊娠の間に発生中の胎児網膜の酸素レベルに近似するもしくは密接に模倣する酸素条件下、あるいは2.5%の酸素の下、培養または増殖される、請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞および/または細胞群は、低酸素条件、または妊娠の間に発生中の胎児網膜の酸素レベルに近似するもしくは密接に模倣する酸素条件下、あるいは3%の酸素の下、培養または増殖される、請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞および/または細胞群は、低酸素条件、または妊娠の間に発生中の胎児網膜の酸素レベルに近似するもしくは密接に模倣する酸素条件下、あるいは3.5%の酸素の下、培養または増殖される、請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記培地は、1.0mg/mlの初期濃度を有する量のアルブミンまたは組換えアルブミンを補充される、請求項6?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
細胞の前記試料は、病原体、細菌、エンドトキシン、真菌、マイコプラズマ、ウイルス、肝炎ウイルス、またはHIVウイルスの存在についてスクリーニングされる、請求項6?14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
細胞の前記試料は、正常核型の存在についてスクリーニングされる、請求項6?15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
細胞の前記試料は、テロメラーゼ活性の上昇を呈さない、請求項6?16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
細胞の前記試料は、生存能についてスクリーニングされる、請求項6?17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
細胞の前記試料は、腫瘍形成能についてスクリーニングされる、請求項6?18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
不死化されていないヒト胎児神経網膜細胞の前記異種混合物を作製するための前記方法が、
(a)細胞表面マーカーまたは遺伝子マーカーに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択するステップ、または
(b)ヒト胎児神経網膜細胞トランスクリプトームプロファイル、プロテオームプロファイル、および/またはゲノムプロファイルに基づいてヒト胎児神経網膜細胞を選択するステップ
をさらに含む、請求項6?19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(a)は、培養前もしくは培養後のいずれかに、または両方で前記細胞を選択するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
不死化されていないヒト網膜前駆細胞の集団を単離するための方法であって、
網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前でかつ網膜の血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織の試料を物理的および/または酵素的に解離して、細胞および細胞群の解離懸濁物を生成するステップと、
該解離懸濁物を1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養するステップと
を含み、
該細胞は40%?90%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、そして、ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に培養培地に添加され、
該ヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される、
方法。
【請求項23】
前記ヒト網膜組織が、在胎12週齢?28週齢のヒト胎児網膜から得られたものである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が大気酸素レベルで培養されるか、または該細胞が、0.5%?7%の間の酸素レベルで培養される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が無血清または低血清細胞培養培地で培養される、請求項22?24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記培地がアルブミンをさらに含む、請求項22?25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記集団内の前記細胞が、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群から選択される1種または複数のマーカーをさらに発現する、請求項22?26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、
ヒト網膜組織を物理的および/または酵素的に解離して、細胞および/または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内の無血清培地中
で1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養するステップ
によって作製されたものであり、
ここで、該細胞は、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離されることによって、そして、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に培養培地に添加されるビタミンCとともに新鮮な培養培地を加えることによって継代され、その結果、該不死化されていないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される、
細胞集団。
【請求項29】
前記集団内の前記細胞が、ビメンチン、CD9、CD81、AQP4、CXCR4、CD15/LeX/SSEA1、GD2ガングリオシド、CD133、β3-チューブリン、MAP2、GFAP、OPN/SPP1、PTN、KDR、およびTEKからなる群から選択される1種または複数のマーカーをさらに発現する、請求項28に記載の不死化されていないヒト網膜前駆細胞集団。
【請求項30】
前記細胞表面マーカーまたは遺伝子マーカーは、CD15/LeX/SSEA1および/またはGD2ガングリオシドを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞表面マーカーまたは遺伝子マーカーは、CD9、CD81、CD133、またはAQP4、および/またはCXCR4を含む、請求項20に記載の方法。」


第3 特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要と証拠

1 特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要

理由1(明確性要件違反) 本件特許発明1?5,28,29は発明が明確でないから、本件特許発明1?5,28,29に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(実施可能要件違反) 本件特許発明1?31は、これらの発明を実施することができる程度に明確かつ十分に明細書に記載したものとはいえず、発明の詳細な説明の記載が不備のため、本件特許発明1?31に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由3(サポート要件違反) 本件特許発明1?31は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、特許請求の範囲の記載が不備のため、本件特許発明1?31に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由4(甲第1号証に基づく新規性進歩性欠如) 本件出願は、分割要件を満たさないものであるから、進歩性新規性判断の基準日は現実の出願日とすべきである。そして、本件特許発明1?31の構成はいずれも現実の出願日よりも前に頒布された甲第1号証に記載されたものであるか、それらの組み合わせ等により当業者が容易に想到し得るものに過ぎない。よって、本件特許発明1?31は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは同条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由5(甲第2号証又は甲第3号証に基づく新規性進歩性欠如) 本件特許発明1?31と甲第2号証に記載の発明との間にはいくつかの相違点が存在するものの、いずれも実質的な相違点に該当しないか、甲第2号証自体あるいは他の公知文献に記載された技術常識の範疇に属するものに過ぎず、いずれも甲第2号証に記載の発明を基に容易に想到し得るものである。また、甲第3号証は学会で発表されたポスターである甲第2号証に対応する要約であって、甲第2号証と同様の内容を開示するものであり、本件特許発明1?31と甲第3号証に記載の発明との間にはいくつかの相違点が存在するものの、いずれも実質的な相違点に該当しないか、甲第3号証自体あるいは他の公知文献に記載された技術常識の範疇に属するものに過ぎず、いずれも甲第2号証に記載の発明を基に容易に想到し得るものである。よって、本件特許発明1?31は、特許法第29条第1項第1号又は第3号に該当し、あるいは同条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由6(甲第4号証に基づく新規性進歩性欠如) 本件特許発明1?31と甲第4号証に記載の発明との間には、相違点が存在しないか仮に何らかの相違点が存在するとしても、いずれも実質的な相違点に該当しないか、甲第4号証に記載の発明を基に容易に想到し得るものである。よって、本件特許発明1?31は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは同条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 特許異議申立人が示した証拠

甲第1号証:特表2014-515261号公報
甲第2号証:Baranov,Tucker and Young, 2010. Poster: “Low Oxygen Culture Conditions Prolong Multipotent Properties of Human Retinal Progenitor Cells”. Displayed at the International Society for Stem Cell Research 8th Annual Meeting, Moscone Conference Centre, San Francisco,California. USA. June 16 to June 19,2010.(抄訳付き)
甲第3号証:Baranov,Tucker, Young, 2010. Abstract: “Hypoxia induced increase in the proliferative capacity of human retinal progenitor cells”. Poster Session Abstracts, Volume1. From the International Society for Stem Cell Research 8th Annual Meeting, Moscone Conference Centre, San Francisco, California. USA. June 16 to June 19, 2010. (抄訳付き)
甲第4号証:Klassen et al., 2004. “Isolation of Retinal Progenitor Cells From Post-Mortem Human Tissue and Comparison With Autologous Brain Progenitors”. Journal of Neuroscience Research, 77, pp. 344-343. (抄訳付き)
甲第5号証:Klassen et al., 2004. “Stem cells and retinal repair”. Progress in Retinal and Eye Research, 23, pp. 149-181. (抄訳付き)
甲第6号証:Young et al., 2000. “Neuronal Differentiation and Morphological Integration of Hippocampal Progenitor Cells Transplanted to the Retina of Immature and Mature Dystrophic Rats”. Molecular and Cellular Neuroscience, 16, pp. 197-205. (抄訳付き)
甲第7号証:All About公式SNSのホームページ、https://allabout.co.jp/gm/gc/464270/、https://allabout.co.jp/gm/gc/184785/、https://allabout.co.jp/gm/gc/312653/、https://allabout.co.jp/gm/gc/312756/
甲第8号証:特開2017-35108号公報
甲第9号証:Dr.Petr Baranov氏の宣誓書
甲第10号証:ロンザジャパン株式会社のウェブページ
http://www.lonzabio.jp/catalog/200/202/
以下、「甲第1号証」?「甲第10号証」を、それぞれ「甲1」?「甲10」という。


第4 当審の判断
当審は、請求項1?31に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1(明確性要件違反)について
(1)特許異議申立人の主張の概要
本件特許発明1?5,28,29は、物を対象とする発明であるが、その物を特定するために特定の製造方法によって作製されることが規定されているところ、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在しないため、本件特許発明1?5,28,29は発明が明確でないから、本件特許発明1?5,28,29に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)当審の判断
ア 本件特許発明1?5について
本件特許発明1は、「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」を含む「製剤、製造産物、または組成物」であって、当該細胞集団は、次のとおりの製造方法及びマーカー発現により特定されている。
製造方法による特定
「(a)在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を物理的および/または酵素的に解離して、細胞および/または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞および/または細胞群の該懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内の無血清培地中で1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養し、それによって、不死化されていないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
該細胞は40%?90%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、そして、ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される、ステップ
によって作製されたもの」
マーカー発現による特定
「該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される、」

上記製造方法による特定について検討すると、「在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織」には複数種類の細胞が含まれていることは技術常識から明らかであるから、ステップ(a)で作製され、ステップ(b)に供される「細胞および/または細胞群の解離懸濁物」は、複数種類の細胞を含むものである。そして、同じ条件下で培養をしても、細胞の種類によって応答(どのような性質を獲得して、どのような細胞に変化するのかなど)は異なることが技術常識であるから、ステップ(b)において当該「細胞および/または細胞群の解離懸濁物」を特定の条件下で培養することにより、その一部の細胞が「不死化されていないヒト網膜前駆細胞」に変化し、培養物全体として「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」となるものと解される。このことは、本件特許明細書に「本明細書に記載の細胞は、未成熟前駆細胞とみなされるが、網膜前駆細胞を含む細胞集団は、それ自体「多分化能」幹細胞とみなすことができる細胞を含有してもよく、ここでこのような細胞は一般に、ある特定の培養条件下で分化して網膜前駆細胞を含む網膜組織または網膜細胞になることができる。・・・ある特定の実施形態では、本明細書に記載の細胞および細胞集団は、近縁細胞を含むが、必ずしも単細胞型を示すものではない。」(段落【0138】)と記載されているとおりであり、上記マーカー発現による特定も、マーカーが細胞集団内のどれだけの割合(%)の細胞において発現されるかにより特定されているとおりである。
細胞は、細胞膜によって外界から隔てられた内部に核や様々な細胞内小器官や細胞質を含み、細胞膜の構造や細胞に含まれるマーカーの種類や量、細胞内部に含まれる様々な成分の種類や構造等は、細胞の種類に応じて極めて多様なものであって、1種類の細胞であっても、それを構造により特定することは事実上不可能、非実際的というべきものである。まして、本件特許発明1に記載された「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」は、上述のとおり、不死化されていないヒト網膜前駆細胞以外にも様々な細胞を明らかにされていない割合で含むものであるのだから、当該細胞集団を構造により特定することが不可能、非実際的であるだけでなく(上記発現マーカーによる特定は、当該細胞集団の構造的特徴の一側面を表現したにすぎないものである。)、当該細胞集団を特性により直接特定することも不可能、非実際的であるというべきである。
したがって、本件特許発明1において、製造方法及び発現マーカーにより特定された「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」は、不明確であるということはできない。本件特許発明1の特定を包含する本件特許発明2?5についても同様である。

イ 本件特許発明28、29について
本件特許発明28は、「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」であって、当該細胞集団は、次のとおりの製造方法及びマーカー発現により特定されている。
製造方法による特定
「ヒト網膜組織を物理的および/または酵素的に解離して、細胞および/または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内の無血清培地中で1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養するステップ
によって作製されたものであり、
ここで、該細胞は、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離されることによって、そして、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に培養培地に添加されるビタミンCとともに新鮮な培養培地を加えることによって継代され」たもの
マーカーによる特定
「該不死化されていないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される、」

そして、アでも検討したように、細胞は、細胞膜によって外界から隔てられた内部に核や様々な細胞内小器官や細胞質を含み、細胞膜の構造や細胞それに含まれるマーカーの種類や量、細胞内部に含まれる様々な成分の種類や構造等は、細胞の種類に応じて極めて多様なものであって、1種類の細胞であっても、それを構造により特定することは事実上不可能、非実際的というべきものである。まして、本件特許発明28に記載された「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」は、不死化されていないヒト網膜前駆細胞以外にも様々な細胞を明らかにされていない割合で含むものであるのだから、当該細胞集団を構造により特定することが不可能、非実際的であるだけでなく(上記発現マーカーによる特定は、当該細胞集団の構造的な一側面を表現したにすぎないものである。)、当該細胞集団を特性により直接特定することも不可能、非実際的であるというべきである。
したがって、本件特許発明28において、製造方法及び発現マーカーにより特定された「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」は、不明確であるということはできない。本件特許発明28の特定を包含する本件特許発明29についても同様である。

(3)小括
以上のとおり、特許異議申立人が主張するように本件特許発明1?5,28,29が不明確であるということはできないから、理由1は理由がない。

2 理由2(実施可能要件違反)について
(1)特許異議申立人の主張の概要
ア 胎児の週齢の点
ヒト網膜組織の供給源である胎児の週齢に関して、本件特許発明1?21、23では「在胎12?28週齢」と限定されているが、本件特許発明22、24?31では限定がない。それに対して、本件特許明細書では、実施例1において「約16?19週」のものを用いる例が開示されているに過ぎず、当該期間は、本件特許発明に規定された「在胎12?28週齢」と比較して遥かに短い期間である。
この点、言うまでもなく妊娠中に重大な発達変化が起こり、実施例1に示したものよりも未熟な細胞や、逆にそれよりも遥かに成熟した細胞で同じ目的が達成できるのかについて重大な疑問が存在する。
下限値である12週に関して言えば、甲7に「頭殿長(座高)が6cm」「体重は10?15gほど」と非常に小さく、妊娠16?19週胎児の「体重は約300g、身長は約25cm」と同列に扱えず、上限値である28週に関して言えば、「頭殿長(座高)が39?40cm、体重は1000?1300gほど」であり、逆の意味で「体重は約300g、身長は約25cm」と同列に扱えない。28週は、新生児治療の対象となる週数であり、既に人間として生存できるほどに成長しており、大きさのみならず細胞、組織の発達度合いは、妊娠16?19週胎児のそれとは比較にならない。
このように、本件特許明細書は、本件特許発明1?21、23の「在胎12?28週齢」という数値範囲よりも遥かに狭い範囲についてしか実験がなされていないのであるから、この範囲全般に亘って、当業者が実施できる程度の記載がなされているとは認められない。週齢が限定されていない本件特許発明22,24?31についてはなおさらである。

イ マーカープロファイルの点
本件特許発明1?31においては、目的の細胞集団がネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95などのマーカーを所定量発現することが特定されている。
しかしながら、本件特許明細書の実施例で示されているのは、あくまでも実施例1において約16?19週の妊娠期間のもののみであり、これとは妊娠週数が異なる場合(特に、これよりも成熟した細胞を用いた場合)に、同様のマーカープロファイルを持つ細胞がそもそも存在するか、さらにはそこから目的の細胞集団を単離することができるのか大いに疑問がある。そして、本件特許明細書には、妊娠16?19週(妊娠5カ月目)以外の細胞について、そのようなマーカープロファイルを持つ細胞が存在することも、またそれを基に単離可能であることも何ら裏付けが存在しないし、そのようなマーカープロファイルに基づいて細胞集団を単離できるような記載もないのだから、本件特許発明1?31について実施可能要件を満たさないものである。

(2)当審の判断
ア 胎児の週齢の点について
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0126】
いくつかの実施形態では、細胞は、後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜から回収される。この段階は一般に、ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間である。ネコまたはブタの網膜前駆細胞などのより大きい哺乳動物に由来する非ヒト細胞については、この段階は一般に、胎児の在胎約3週齢?約11週齢の間である。例えば、The Retina and Its Disorders、Besharse, J.およびBok, D.、Academic Press、(2001年)におけるAnand-Apte, B.およびHollyfield, J.G.、「Developmental Anatomy of the Retinal and Choroidal Vasculature.」を参照。」
このように、本件特許明細書では、参考文献を示したうえで、ヒト網膜組織を用いる場合、「後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜」、すなわち、「ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間」のヒト網膜組織を用いればよいことが開示されている。
したがって、段落【0126】から、当業者は本件特許発明1?21,23の実施にあたり、「後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜」である「ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間」のヒト網膜組織を用いれば良いと理解する。
そして、特許異議申立人の証拠からは、当業者は胎児の成長の度合いに違いがあることは理解できるものの、個別の網膜細胞としての差異を明らかにしたとはいえないから、これらに基づいて在胎約12週齢?約28週齢のヒト網膜組織の中に実施できるとは考えられない部分があるとまでは認めることができない。

また、本件特許発明28及び29は、「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団」という物の発明であるところ、物の発明の実施可能要件は、発明の詳細な説明に、作れ、使えるように記載されていれば満たされるものである。そして、上述のとおり、明細書の段落【0126】を参照すれば、出発材料として在胎約12週齢?約28週齢のヒト網膜組織を用いれば本件特許発明28及び29の細胞集団を作れることが理解できるのだから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

イ マーカープロファイルの点について
上記アでも摘示した本件特許明細書の段落【0126】の記載を参照すれば、在胎約12週齢?約28週齢の間のヒト網膜組織を用いれば良いことが理解できる。また、その中間週である在胎約16週齢?約19週齢の間のヒト網膜組織を用いれば所望のマーカープロファイルの細胞集団が得られたことは、本件特許明細書の実施例1に開示されている。
したがって、在胎約12週齢?約28週齢の間の包含される在胎約16週齢?約19週齢で所望の細胞集団が得られているのであるから、在胎約12週齢?約28週齢の間に包含されるその前後の数値範囲でも同様のマーカープロファイルの細胞集団が得られると理解するのが自然である。また、マーカープロファイルは得られた細胞集団について解析された結果にすぎず、これに基づいて細胞集団を単離できることまで実施可能要件で求められるわけではない。

(3)小括
以上のとおり、特許異議申立人が主張するように本件特許明細書が本件特許発明1?31について実施可能要件を満たさないとは認められないから、理由2は理由がない。

3 理由3(サポート要件違反)について
特許異議申立人は2(1)に記載した事実を根拠に、妊娠周期について何らの特定もない本件特許発明22,24?31の範囲はもちろんのこと、本件特許発明1?21,23で規定する在胎12?28週齢の範囲まで一般化・抽象化することはできないことを主張する。
ここで、本件特許発明が解決しようとする課題は、「網膜前駆細胞を投与することによって、網膜疾患もしくは網膜の状態を処置する、軽減する、もしくは防止する、明所(昼間)視を改善する、視力を改善もしくは矯正する(improving or correcting visual acurity)、黄斑機能を改善する、視野を改善する、または暗所(夜間)視を改善するための組成物および方法」を提供することにある(【0001】)と認められる。
そして、2(2)でも指摘したように、特許異議申立人の主張2(1)は理由がなく、本件特許明細書には、本件特許発明1?31について当業者が実施できるように記載されているといえる以上、本件特許発明1?31は、明細書に上記課題を解決できると当業者が認識できる程度に開示されたものといえる。
したがって、特許異議申立人が主張する理由3は理由がない。

4 理由4(甲1に基づく新規性進歩性欠如)について
(1)分割要件の適否について
ア 分割要件に関する特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、理由4の前提として、本件出願の分割要件につき、以下の点を挙げて不適法である旨主張する。

(ア) 胎児の週齢及び継代数について
本件特許発明1?21について、「在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料」と規定されているが、本件特許発明1?21に記載の方法において「在胎12?28週齢」のものを用いることは本件特許出願の原出願の原出願の明細書である甲1に開示が無い。
本件特許発明1?31について、「1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養」すると特定されているが、本件特許発明1?31で特定される条件において継代数を1?10とすることは、甲1に開示が無い。

(イ)特定の週齢の細胞を利用した物理的解離の際の培地へのビタミンCの添加について
本件特許発明1?31では、「在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を物理的および/または酵素的に解離して」得られた「細胞および/または細胞群の解離懸濁物」の培養において、ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加されることが規定されているが、上記在胎期間及び物理的に解離した解離懸濁物を用いた培養に関し、上記条件でビタミンCを添加することは甲1に開示が無い。

(ウ)コンフルエンスの条件について
本件特許発明1?27について、該細胞は40%?90%のコンフルエンスで継代されることが規定されているが、本件特許発明1?27で規定される条件で40%?90%のコンフルエンスで継代されることは甲1には開示が無い。40%?90%のコンフルエンスで継代することを特定する甲1の実施例は本件特許発明1?27で規定される条件とは異なる条件により実施されている。

(エ)培養容器及び培養容器へのコーティング材料の選択について
本件特許発明1?21,28?31について、「培養フラスコまたはプレート」に関しては、甲1の「培養プレート、皿、フラスコ、またはバイオリアクター」の記載の中から、「フィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニン」に関しては、甲1の「ヒト(異種由来成分不含有)フィブロネクチンで予め被覆された2つのT75培養フラスコ内に細胞を播種した。ヒト血漿フィブロネクチン(Invitrogen)をいくつかの実験で使用した。他の実験では、オルニチン、ポリリシン、ラミニン、またはマトリゲルを使用した」という記載の中から特段の示唆なく選択されている。

イ 当審の判断
本件特許出願は甲8に係る特許出願の分割出願であり、以下、甲8に係る特許出願を「原出願」という。原出願は甲1に係る特許出願の分割出願であり、以下、甲1に係る特許出願を「原々出願」という。
ここで、本件特許出願の明細書に記載の事項は、本件特許出願の原出願である甲8の明細書に記載された事項と同一であり、甲8の明細書に記載の事項は、本件特許出願の原々出願である甲1の明細書に記載された事項に甲1の出願当初の特許請求の範囲に記載された事項を追加したものである。したがって、特許異議申立人が指摘する上記事項が甲1に記載された事項の範囲内であれば、本件特許出願の分割要件が満たされることになる。

(ア)胎児の週齢及び継代数について(上記ア(ア)の点)
甲1の段落【0126】には、「いくつかの実施形態では、細胞は、後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜から回収される。この段階は一般に、ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間である。」、【0138】には「最も初期の細胞培養物は、寿命が限られており、無期限に増殖しない。ある特定の数の集団倍加(ヘイフリック限界と呼ばれる)の後、細胞は、一般に生存能を保持しながら、老化のプロセスを受け、分裂を停止する。代替の実施形態では、網膜前駆細胞および細胞集団は、10継代以下にわたって培養することができ、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10継代にわたって継代される。代替の実施形態では、細胞は、10回超、例えば、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれを超える継代などで継代することができる。ある特定の実施形態では、網膜前駆細胞および細胞集団は、約10?30継代にわたって培養される。」と開示されている。
甲1の段落【0126】は、原料となる試料の網膜前駆細胞の条件について述べたものである。また、甲1の段落【0138】は網膜前駆細胞および細胞集団の継代可能回数について述べたものである。
両記載から、原料となる網膜前駆細胞が在胎約12週齢?約28週齢の間であり、当該網膜前駆細胞が1?約10継代にわたって継代が可能であることを理解することができるから、特許異議申立人が指摘する上記(ア)の点は、甲1に記載された事項の範囲内であるといえる。

(イ)特定の週齢の細胞を利用した物理的解離の際の培地へのビタミンCの添加について(上記ア(イ)の点)
甲1の段落【0131】の「細胞培養補充物または添加剤の例には、限定することなく、細胞生存または増殖を支えることにおける血清の役割にある程度または完全に取って代わるための成分が含まれる。…補充物または添加剤は、細胞増殖を支える以下の成分の少なくとも1種または複数を含むことができる:…1種または複数のビタミン(例えば、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンB-群)…。」との記載からみれば、在胎週齢及び解離方法の如何を問わずビタミンCを添加することについては開示されているといえる。
一方で、本件特許発明1等で特定されるビタミンCの添加条件についての開示は、甲1の明細書の段落【0006】、【0012】及び実施例1に限られてはいるが、解離懸濁物を作成するステップにおける酵素的な解離方法か物理的な解離方法かの違いが、培養の際のビタミンCの添加量に影響を及ぼす旨については開示が無く、加えて解離方法の違いにより細胞の性質の違いが生じるとの技術常識があるわけでもないので、物理的な解離を行った際のビタミンCの添加と酵素的な解離を行った際のビタミンCの添加とでビタミンCが細胞へ及ぼす影響が異なってくるとはいえない。
したがって、特許異議申立人が指摘する上記(イ)の点は、甲1との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

(ウ)コンフルエンスの条件について(上記ア(ウ)の点)
甲1において、「40%?90%のコンフルエンスで継代」することについては本件特許発明とは条件が多少異なる実施例1にしか記載がない。しかしながら、甲1の「プレーティング密度は、培地の体積当たりの細胞数、または接着培養における1cm^(2)当たりの細胞数を指す。この状況における同様の用語は、「コンフルエンス」であり、これは、細胞培養皿またはフラスコ内の細胞数の尺度として一般に使用され、細胞による皿またはフラスコのカバー率を指す。例えば、100パーセントのコンフルエンシーは、皿が細胞によって完全に覆われており、したがって、細胞が増殖するための余地がないことを意味し、一方、50パーセントのコンフルエンシーは、皿のおおよそ半分が覆われており、細胞が増殖するための余地が依然としてあることを意味する。」(【0136】)、「継代すること(継代培養または細胞の分割としても公知)では、少数の細胞が新しい容器内に移されることを包含する。代替の実施形態では、細胞は、定期的に分割される場合、それにより長期の高細胞密度に関連する老化が回避されるので、より長い期間にわたって培養される。」(【0137】)及び「図9は、lowOxにおけるhRPCの増殖の加速に対応する変曲点も示し、これは、約40%のコンフルエンスレベルで起こり、最適なhRPC増殖に対する高密度培養条件の重要性を強調している。」(【0186】)との記載にもあるとおり、細胞培養において高細胞密度による悪影響を回避するためにコンフルエンスレベルをある程度の範囲内に保つことは、細胞条件を問わず通常行われることであり、特許異議申立人の主張をみても、コンフルエンスレベルと培養条件との間に特有の関係があるとは認めることができない。したがって、甲1の実施例1に記載されたコンフルエンス範囲を本件特許発明のものとすることが新たな技術的事項であるということはできない。

(エ)培養容器及び培養容器へのコーティング材料の選択について(上記ア(エ)の点)
甲1の段落【0111】には、「例えば、培養物は、培養プレート、皿、フラスコ、またはバイオリアクター内で培養された細胞または接着細胞の懸濁物を含むことができる。」と記載され、段落【0176】には、「ヒト(異種由来成分不含有)フィブロネクチンで予め被覆された2つのT75培養フラスコ内に細胞を播種した。ヒト血漿フィブロネクチン(Invitrogen)をいくつかの実験で使用した。他の実験では、オルニチン、ポリリシン、ラミニン、またはマトリゲルを使用した。」と記載されている。そして、選択肢の一部が削除されることにより、新たな技術上の意義が追加されるわけではないから、新たな技術的事項を追加したとは認められない。

(2)小括
したがって、本件特許発明はいずれも、甲1に記載された事項の範囲内のものであり、前記(1)イの冒頭で示したとおり、本件特許の原出願である甲8に記載された事項の範囲内のものであるともいえる。
よって、本件出願は、適法な分割出願であるから、原々出願の出願日である平成24年5月17日(優先日:平成23年5月18日)に出願したものとみなされる。したがって、甲1は本件特許出願前に頒布された刊行物とはいえないから、甲1に記載された発明について検討するまでもなく、甲1を根拠に、本件特許発明が特許法第29条第1項3号及び第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

5 理由5(甲2又は甲3に基づく新規性進歩性欠如)について
(1)甲号証の記載
ア 甲2
甲2には以下の記載がある(翻訳及び下線は当審による。以下同様。)。
(ア) 「低酸素培養条件は、ヒト網膜前駆細胞の多能特性を延ばす」(表題)
(イ) 「PeterBaranov, Budd A. Tucker & Michael J. Young」(著者)
(ウ) 「網膜色素変性症および加齢黄斑変性症は、網膜の光感知光受容体細胞の死滅を特徴とする疾患であり、西欧諸国における不治失明の主たる原因である。哺乳類網膜の固有の再生能力は極めて限定されているため、細胞補充(cellular replacement)に焦点を当てたこれら疾患に対する療法が必要とされている。かかる目的のために非常に有望な1つの細胞タイプは、在胎16?20週目の胎児神経網膜から単離されるヒト網膜前駆細胞(hRPC)である。hRPCは、移植後に生存し、網膜ニューロンに分化してジストロフィー性ホスト網膜に融合する能力を有する。
しかし、制限の少ない他の細胞タイプ(胚性幹細胞や多能性幹細胞など)とは異なり、hRPCは増殖能力に限界がある。例えば、単離した後に、これらの細胞は最大7回インビトロで継代可能であるが、得られる細胞の数そして1回のhRPC単離から行うことができる移植の数が制限されることが分かった(Aftab, 2009)。増殖能力を向上させ、かつ、多様な細胞タイプの多能性を維持することが証明されている1つの方法は、低酸素(2?5%)培養条件の使用である。」(Introduction)
(エ) 「胎児網膜形態
言及した在胎週数での神経網膜形態を調べるために、1つの眼杯(20wk)をKarnovsky固定液で固定し、プラスチックに包埋し、H&E染色して切断した(2μm厚)。1つの眼杯(18wk)を4% PFA中で固定し、OCTに包埋し、更にKi67、Sox2、Pax6、リカバリンを免疫組織化学染色(immunohystochemistry)して凍結切片化した(6μm厚)。
細胞の単離
hRPCを前述のように単離した。簡潔に言うと、ヒト胎児眼(在胎週数:16?20週)からの全神経網膜を切開し、1mg/mlのコラゲナーゼI中で解離し、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF)にプレーティングするか、又は凍結させた。単細胞および塊の量および生存力をTrypan青色染色および血球計算器を用いて推定した。
細胞の培養
トリプシン-EDTA溶液を用いて細胞を75?85%コンフルエンスで(およそ2?5日ごと)継代し、10,000細胞/cm^(2)の密度で再プレーティングした。通常の継代中に、両条件(3%酸素対20%酸素)下でのhRPC増殖を血球計算器による細胞数によって評価した。…
」(Methodsの1列目の第1段落?第2段落)
(オ) 「免疫細胞化学
継代1、3、5、7および10代目は両条件下での、ならびに継代16代目は3%酸素下での免疫細胞化学分析によって、Otx2、Sox2、Pax6(眼野発達転写因子);CyclinD1、Ki67、hTERT(増殖マーカー);cMyc、Klf4、Oct4(「幹細胞らしさ(stemness)」転写因子);SSEA4(未分化細胞特有の表面抗原)の発現を評価した。」(Methodsの2列目の第1段落)
(カ) 「インビトロでの細胞分化
hRPCのインビトロでの分化能力を評価するために、フィブロネクチンおよびラミニンコーティング16ウェルスライド上にて3%酸素で膨張させた(expanded)hRPCをプレーティングし、3%酸素下において分化培地(DMEM/F12、1XNEAA、L-glu、5%HIFBS)で培養した。2、5および9日目に細胞を固定し、青オプシン、赤/緑オプシン、ロドプシン、リカバリン、カルビンディン、GFAP、Glutamineシンセターゼ、MAP2、Cyclin D3を染色した。」(Methodsの2列目の第4段落)
(キ) 「図1:hRPCが単離されるヒト網膜の代表画像
…(b)-(d)在胎週数18週:…Sox2は、神経網膜内の全ての細胞において発現しているが、外境界膜に近い細胞では低レベルである。」

イ 甲3
頒布された刊行物であると認められる甲3の#C73には以下の記載がある。
(ア) 「ヒト網膜前駆細胞の増殖能力の低酸素誘導増加」(表題)
(イ) 「Baranov,Petr, Tucker, Budd, Young, Michael」(著者)
(ウ) 「色素性網膜炎(RP)および加齢黄斑変性症(AMD)は、網膜の光感知光受容体細胞の死滅を特徴とする疾患であり、西欧諸国における不治失明の主たる原因である。哺乳類網膜の固有の再生能力は極めて限定されているため、細胞補充(cellular replacement)に焦点を当てたこれら疾患に対する療法が必要とされている。かかる目的のために非常に有望な1つの細胞タイプは、ヒト網膜前駆細胞(hRPC)である。hRPCは、移植後に生存し、網膜ニューロンに分化してジストロフィー性ホスト網膜に融合する能力を有する。しかし、制限の少ない他の細胞タイプ(胚性幹細胞など)とは異なり、hRPCは増殖能力に限界がある。例えば、単離した後に、これらの細胞は最大7回インビトロで継代可能であるが、得られる細胞の数そして1回のhRPC単離から行うことができる移植の数が制限されることが分かった。これらの細胞は発達中の胚から単離されるので、各ドネーションからの使用可能な細胞の数が増えることが望ましい。ラットやヒトの神経幹細胞を含めた多様な細胞タイプの増殖能力を向上させることが証明されている1つの方法は、低酸素培養条件の使用である。本研究の目的は、低酸素条件(3%O_(2))下でのhRPC培養がこれら細胞に課せられた増殖限界に影響を及ぼすか否かを確認し、臨床用途のための細胞集団の取得を可能にすることである。」(Introduction)
(エ) 「hRPCを前述のように単離した。簡潔に言うと、ヒト胎児眼(在胎週数:12?18週)からの全神経網膜を切開し、0.1%コラゲナーゼ中で解離し、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)にプレーティングした。細胞をおよそ10,000細胞/cm^(2)の密度でプレーティングし、低酸素条件(3%)または正常酸素(20%)条件下で37℃、湿度100%、5%CO_(2)にて培養した。細胞を、継代1、3、5および7代目で幹細胞らしさおよび増殖マーカー発現(Sox2、Oct4、SSEA4、cMyc、hTERT、EGFR、Ki67、CyclinD1、OTX2、p53、KLF4)について免疫細胞化学分析およびウェスタンブロット分析により評価し、分化後1、3、5および10日目に網膜細胞特異的マーカー発現(リカバリン、ロドプシン、オプシンR/G、GFAP、GS、NF200、cyclinD3、CRX、RPE、Zo1)について免疫細胞化学分析およびウェスタンブロット分析により評価した。増殖率および結果得られた細胞数を各継代で最低4回の異なる単離について評価した。」(Material and Mehods)
(オ) 「継代6代目までのhRPC増殖率は、低酸素条件(3%O_(2))下で培養した細胞が、正常酸素条件(20% O_(2))下で培養した細胞に対して2倍高かった(倍加時間:1対2(日))。20% O_(2)下で培養したhRPCは継代6代目を超えると増殖し続けなかったが、3%O_(2)下で成長した細胞の細胞分裂率は、継代12代目(この時点で実験を終了した)まで(継代12代目を含む)変化しないままであった。この増殖能力の向上は、幹/増殖マーカーSSEA4およびKLF4の発現の著しい増加と合致していた。低酸素は、棒細胞、錐体細胞、神経節細胞またはMuller細胞をインビトロで生成するhRPCの能力に悪影響を及ぼすことはなかった。上記結果は、低酸素(3%O_(2))がhRPCの分化能力に悪影響を及ぼすことなくそれらの増殖能力を効果的に促進することを示している。」(Result)
そして、甲3の表紙には、以下が記載されている。
(カ) 「ISSCR第8回年次大会
世界の最初の幹細胞研究イベント
ISSCR
幹細胞研究国際学会
2010年6月16日?19日
モスコーニ西
サンフランシスコ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国」
また、甲3の第iii頁には、以下が記載されている。
(キ) 「水/木 ポスターセッション
6月16日水曜日
午後3:30-午後4:00 ポスター設営
午後4:00-午後8:00 ポスター展示
6月17日木曜日
午前10:30-午後7:30 ポスター展示
午後5:30-7:30 ポスター発表
発表者はそれぞれのボードに
午後7:30 ポスター撤去」(右から第1列第1行-第9行)
(ク) 「トピックごとのポスターボード番号

眼または網膜の細胞 C69-C78」(右から第1列第19行?第31行)

ウ 甲9
甲9には、以下が記載されている。
「宣誓書

2020年2月27日

私、ペトロ バラノフ博士(Ph.D)は、私が「低酸素培養条件は、ヒト網膜前駆始原細胞の多能特性を延ばす」との表題のポスターを、カリフォルニア、サンフランシスコで2010年6月16日に開催されたISSCR第8回年次総会において展示発表したことを宣誓する。

概要#73は、展示発表の直前に表題が変更になった上記ポスターに関するものである。」

エ 甲10
甲10には、以下の記載がある。
「UltracultureTM無血清培地」(右から第1列第1行)

(2)甲2発明に基づく新規性進歩性欠如について
ア 甲2の公知日について
甲2には公知日の記載がないが、ア(ウ)で指摘した甲9の宣誓書の内容がア(イ)a及びbで指摘した甲3の#C73の記載内容及びア(ア)で指摘した甲2の記載内容との間に矛盾を生じている点が認められないこと、ア(イ)f?hで指摘した甲3の記載事項からみて、甲2のポスターは遅くとも2010年6月16日には公知になっていたものと認められる。したがって、甲2に記載された事項は本件出願日前に公然知られたものであると認められる。

イ 甲2発明の認定
(ア)甲21発明
a (1)ア(ウ)から、甲2には、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症の治療のために在胎16-20週目の胎児神経網膜から単離されるヒト網膜前駆細胞(hRPC)を用いること及びhRPCが増殖能力に限界があることが開示されている。
b (1)ア(エ)から、甲2には、(在胎週数:16?20週のヒト胎児眼から得た全神経網膜を切開し、コラゲナーゼI中で解離し、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF)にプレーティングすること、及び、細胞の培養として、トリプシン-EDTA溶液を用いて細胞を75?85%コンフルエンスで継代し、再プレーティングすることが開示されている。
c (1)ア(オ)から、甲2には、継代を1、3、5、7および10代行ったこと、継代後の細胞について免疫細胞化学分析により、Sox2、Ki67等の発現を評価したことが開示されている。
d (1)ア(キ)から、甲2には、在胎週数18週の神経網膜内の全ての細胞においてSox2が発現していることが開示されている。
e 上記a-dの事項は、甲2で発表された一連の実験に関するものであるから、甲2には以下の発明が記載されているといえる。
「被験体において、網膜疾患を処置することにおける、黄斑機能を改善することにおける使用のための製造産物であって、
該製造産物は増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎16?20週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料をコラゲナーゼIにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞または細胞群の該懸濁物を、改変Ultraculture(10ng/mlrhEGF、20ng/ml rhbFGF)培地中で1,3,5,7または10継代にわたって培養するステップであって、
該細胞は75%?85%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとにトリプシン-EDTA溶液で処理されて該細胞が解離される、ステップ
によって作製されたものであり、
該増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞は、Sox2は、該集団内の該細胞の100%によって発現される、製造産物。」(以下、「甲21発明」という。)

(イ)甲22発明
a (1)ア(エ)から、甲2には、継代の培養に際し、培地を2-5日ごとに交換していることが開示されている。
b 上記(ア)a-dの事項は、甲2で発表された一連の実験に関するものであるから、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「増殖能力に限界があるヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む、製造産物を作製する方法であって、
(a)在胎16-20週齢のヒト由来のヒト網膜組織細胞の得られた試料をコラゲナーゼIにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップであって、
細胞または細胞群の前記得られた試料は、コラゲナーゼIを使用して酵素的に解離される、ステップ;ならびに
(b)改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF)培地中で、該細胞または細胞群を1、3、5、7または10継代にわたって培養するステップであって、
該細胞は75%-85%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとにトリプシン-EDTAで処理されて該細胞が解離され、培養培地が2日?5日毎に取り換えられる、ステップ
を含む、方法。」(以下、「甲22発明」という。)

(ウ)甲23発明
上記(ア)a-dの事項は、甲2で発表された一連の実験に関するものであるから、甲2には以下の発明が開示されているといえる。
「増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞の集団を単離するための方法であって、
在胎16?20週齢のヒト由来のヒト網膜組織の試料をコラゲナーゼIにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップと、
該解離懸濁物を、1,3,5,7または10継代にわたって培養するステップとを含み、
該細胞は75%?85%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとにトリプシン-EDTA溶液で処理されて該細胞が解離され、
該増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞は、Sox2は、該集団内の該細胞の100%によって発現される、方法。」(以下、「甲23発明」という。)。

(エ)甲24発明
上記(ア)a-dの事項は、甲2で発表された一連の実験に関するものであるから、甲2には以下の発明が開示されているといえる。
「増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、在胎16?20週齢のヒト由来のヒト網膜組織をコラゲナーゼIにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF)培地中で1,3,5,7または10継代にわたって培養するステップによって作製されたものであり、
ここで、該細胞は、各継代ごとにトリプシン-EDTA溶液で処理されて該細胞が解離されることによって継代され、
該増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞は、Sox2は、該集団内の該細胞の100%によって発現される、細胞集団。」(以下、「甲24発明」という。)
以下、甲21発明から甲24発明をまとめて、「甲2発明」ということもある。

ウ 本件特許発明1-5について
(ア)本件特許発明1と甲21発明との対比
甲21発明における「増殖能力に限界がある」とは、本件特許発明における「不死化されていない」に相当する。
また、甲21発明における「コラゲナーゼI」は、本件特許明細書の段落【0128】を参照すると解離懸濁物を作り出す酵素であるから、「コラゲナーゼI中で解離」することは本件特許発明における「酵素的に解離」することに相当する。
そして、甲21発明における「改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF)培地」について、甲10によればUltracultureは無血清培地であり、改変内容も血清を添加したものではないから、「改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF)培地」は、本件特許発明における「無血清培地」に相当する。
さらに、甲21発明における「トリプシン-EDTA」は、本件特許明細書の段落【0137】を参照すると酵素の混合物であるから、トリプシン-EDTA溶液を用いた継代は本件特許発明における「各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離される」ことに相当する。
したがって、本件特許発明1と甲21発明とは、
「被験体において、黄斑機能を改善することにおける製造産物であって、
該製造産物は、不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎16?20週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を酵素的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞または細胞群の該懸濁物を、無血清培地中で1、3、5、7または10継代にわたって培養し、それによって、不死化されていないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
該細胞は75%?85%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離される、ステップ
によって作製されたものであり、
該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、Sox2を発現し、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現される、
製造産物。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点21-1)本件特許発明1は「懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内」で培養しているのに対し、甲21発明では何を使って培養しているのかが不明である点。
(相違点21-2)本件特許発明1は細胞集団の作製工程のステップ(b)において「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲21発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。

(イ)本件特許発明1についての判断
まず、本件特許発明1と甲21発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明1は甲21発明ではない。
次に、事案に鑑み、(相違点21-2)から検討する。
甲2には、甲21発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することの動機づけはないし、ヒト網膜細胞懸濁物の培養においてビタミンCを添加することが本願出願日当時の周知技術であるとも認められないから、甲21のステップ(b)においてビタミンCを添加することは当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、ステップ(b)においてビタミンCを添加することが、得られる細胞集団に与える影響について検討すると、本件特許明細書の段落【0118】に「網膜前駆細胞および細胞集団のマーカー発現は、静的ではなく、1つまたは複数の培養条件、すなわち、培地、酸素レベル、継代の数、培養の時間などの関数として変化し得」ると記載されるように、出発細胞が同一であっても培地等の培養条件が異なれば培養後の細胞は異なることが技術常識である。
また、本件特許明細書の段落【0183】に「ビタミンC補充物を2日毎に培地に添加した。図7Aは、ビタミンCが、hRPCの収率を約30%改善すること」が示されている。そして、収率が改善するということは細胞の増殖能が改善されており、増殖能が変化しているということは増殖能が変化していない細胞と比較して細胞において何らかの変化が生じているということである。よって、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加することにより増殖能が改善された細胞は、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加されず増殖能が改善されていない細胞とは細胞として異なるものであるというべきである。

(ウ)本件特許発明2-5についての判断
本件特許発明2は、本件特許発明1について被験体がヒトであることをさらに限定したものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1について組成物の用途をさらに限定したものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1について網膜疾患の具体的な内容をさらに限定したものであり、本件特許発明5は、本件特許発明1について別のマーカーが発現することさらに限定したものであるから、本件特許発明2-5は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲21発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点21-2)と同様の相違点が存在するといえ、当該相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2-5は、甲21発明ではなく、また、当業者であっても、甲21発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ 本件特許発明6-21,30,31について
(ア)本件特許発明6と甲22発明との対比
上記ウ(ア)で指摘した事項も踏まえれば、本件特許発明6と甲22発明とは、
「不死化されていないヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む、製造産物を作製する方法であって、
(a)在胎16?20週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を酵素的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップであって、
細胞または細胞群の前記得られた試料は、酵素的に解離される、ステップ;ならびに
(b)無血清培地中で、細胞または細胞群の該懸濁物を、1、3、5、7または10継代にわたって培養するステップであって、
該細胞は75%?85%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとにトリプシンで処理されて該細胞が解離される、ステップ
を含む、方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点22-1)細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップにおける酵素が、本件特許発明6は「トリプシン」であるのに対し、甲22発明では「コラゲナーゼI」である点。
(相違点22-2)本件特許発明6は「異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内」で培養しているのに対し、甲22発明では何を使って培養しているのかが不明である点。
(相違点22-3)本件特許発明6は「抗生物質および抗真菌薬を含む、または、抗生物質も抗真菌薬も含まない、滅菌環境中で培養する」のに対し、甲22発明では抗生物質や抗真菌薬の含有の有無や滅菌環境中か否かについて明示的な特定が無い点。
(相違点22-4)本件特許発明6は「培養培地が1日-2日ごとに取り換えられ」るのに対し、甲22発明では培養培地の交換について何ら特定が無い点。
(相違点22-5)本件特許発明6はステップ(b)において「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲22発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。

(イ)本件特許発明6についての判断
まず、本件特許発明6と甲22発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明6は甲22発明ではない。
次に、事案に鑑み、(相違点22-5)から検討する。
上記ウ(イ)で判断したのと同様に、甲2には甲22発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することの動機付けはないし、ヒト網膜細胞懸濁物の培養においてビタミンCを添加することが本願出願日当時の周知技術であるとも認められないから、甲22発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することは当業者が容易に想到し得ることではない。そして、本件特許発明6は、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加することにより、細胞の増殖能が改善するという特有の効果が奏されるものである。

したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明6は、当業者であっても、甲22発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明7-21,30,31についての判断
本件特許発明7?9,14は、本件特許発明6について培地の組成をさらに限定したもののであり、本件特許発明10?13は、本件特許発明6について培養条件をさらに限定したものであり、本件特許発明15?19は、本件特許発明6について試料をさらに限定したものであり、本件特許発明20,21は、本件特許発明6について網膜細胞の選択方法をさらに限定したものであり、本件特許発明30,31は、本件特許発明6について別のマーカーが発現することをさらに限定したものであるから、本件特許発明7?21,30,31は、本件特許発明6の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲22発明との間には、上記(イ)で検討した(相違点22-5)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明7?21,30,31は、甲22発明ではなく、また、当業者であっても、甲22発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

オ 本件特許発明22-27について
(ア)本件特許発明22と甲23発明との対比
甲23発明における「増殖能力に限界がある」とは、本件特許発明22における「不死化されていない」に相当する。
そして、甲23発明における「在胎16?20週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料」とは、本件特許明細書の段落【0126】の「いくつかの実施形態では、細胞は、後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜から回収される。この段階は一般に、ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間である。」との記載を参照すると、本件特許発明22における「網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織」に相当する。
また、甲23発明における「コラゲナーゼI」は、本件特許明細書の段落【0128】を参照すると解離懸濁物を作り出す酵素であるから甲23発明における「コラゲナーゼI中で解離」することは本件特許発明22における「酵素的に解離」することに相当する。
さらに、甲23発明における「トリプシン-EDTA」は、本件特許明細書の段落【0137】を参照すると酵素の混合物であるから、トリプシン-EDTA溶液を用いた継代は本件特許発明22における「各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離される」ことに相当する。
したがって、本件特許発明22と甲23発明とは、
「不死化されていないヒト網膜前駆細胞の細胞集団を単離するための方法であって、
網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織の試料を酵素的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップと、
該解離懸濁物を、1、3、5、7または10継代にわたって培養するステップとを含み、
該細胞は75%?85%のコンフルエンスで継代され、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、
該ヒト網膜前駆細胞は、Sox2を発現し、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現される、
方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点23-1)本件特許発明22は継代して培養するステップにおいて「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲23発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。

(イ)本件特許発明22についての判断
まず、本件特許発明22と甲23発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明22は甲23発明ではない。
次に、上記(相違点23-1)は(相違点22-5)と実質的に同じであり、(相違点22-5)が当業者であれば容易に想到しえたとはいえないことは、既に述べたとおりである。
したがって、本件特許発明22は、当業者であっても、甲23発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明23-27についての判断
本件特許発明23は、本件特許発明22についてヒト網膜組織の週齢を限定したものであり、本件特許発明24は、本件特許発明22について培養条件をさらに限定したものであり、本件特許発明25,26は、本件特許発明22について培地の組成をさらに限定したもののであり、本件特許発明27は、本件特許発明22について別のマーカーが発現することさらに限定したものであるから、本件特許発明23-27は、本件特許発明22の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲23発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点23-1)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明23-27は、甲23発明ではなく、また、当業者であっても、甲23発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

カ 本件特許発明28,29について
(ア)本件特許発明28と甲24発明との対比
ウ(ア)で指摘した事項も踏まえれば、本件特許発明28と甲24発明とは、
「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、ヒト網膜組織を酵素的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、無血清培地中で1、3、5、7または10継代にわたって培養するステップによって作製されたものであり、
ここで、該細胞は、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離されることによって継代され、
その結果、該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、Sox2を発現し、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現される、
細胞集団。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点24-1)本件特許発明28は「懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内」で培養しているのに対し、甲24発明では何を使って培養しているのかが不明である点。
(相違点24-2)本件特許発明28は細胞集団を作製するにあたり継代して培養するステップにおいて「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲24発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。

(イ)本件特許発明28についての判断
まず、本件特許発明28と甲24発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明28は甲24発明ではない。
次に、上記(相違点24-2)は(相違点21-2)と実質的に同じであり、(相違点21-2)が当業者であれば容易に想到しえたとはいえないことは、既に述べたとおりである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明28は、当業者であっても、甲24発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明29についての判断
本件特許発明29は、本件特許発明28について別のマーカーが発現することをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲24発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点24-2)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明29は、甲24発明ではなく、また、当業者であっても、甲24発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

キ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1-31はいずれも、甲2発明ではなく、また、当業者であっても、甲2発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)甲3発明に基づく新規性進歩性欠如について
ア 甲3の公知日について
甲3は、ISSCRの年次大会の予稿集であり、(1)イ(カ)-(ク)の記載に照らせば、遅くとも2010年6月16日までには公知となった刊行物であると認められる。

イ 甲3発明の認定
(ア)甲31発明
a (1)イ(ウ)から、甲3には、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症の治療のためにヒト網膜前駆細胞(hRPC)を用いること及びhRPCが増殖能力に限界があることが開示されている。
b (1)イ(エ)から、甲3には、在胎週数12-18週のヒト胎児眼から全神経網膜を切開し、0.1%コラゲナーゼ中で解離し、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)にプレーティングしたこと、当該細胞を、継代1、3、5および7代継代したこと、各継代ごとにSox2、Oct4、SSEA4、cMyc、hTERT、EGFR、Ki67、CyclinD1、OTX2、p53、KLF4の各マーカーについて評価したことが開示されている。
c そうすると、甲3には以下の発明が記載されているといえる。
「被験体において、網膜疾患を処置することにおける、黄斑機能を改善することにおける使用のための製造産物であって、
該製造産物は増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎12?18週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料をコラゲナーゼにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞または細胞群の該懸濁物を、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)中で1,3,5または7継代にわたって培養するステップ
によって作製されたものである、製造産物。」(以下、「甲31発明」という。)

(イ)甲32発明
上記(ア)を踏まえれば、甲3には以下の発明が開示されているといえる。
「増殖能力に限界があるヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む、製造産物を作製する方法であって、
(a)在胎12?18週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料をコラゲナーゼを使用して解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップであって、
細胞または細胞群の前記得られた試料は、コラゲナーゼを使用して酵素的に解離される、ステップ;ならびに
(b)改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)中で、該細胞または細胞群を1、3、5または7継代にわたって培養するステップ
を含む、方法。」(以下、「甲32発明」という。)

(ウ)甲33発明
上記(ア)を踏まえれば、甲3には以下の発明が開示されているといえる。
「増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞の細胞集団を単離するための方法であって、
在胎12?18週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料をコラゲナーゼにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップと、
細胞または細胞群の該懸濁物を、1,3,5または7継代にわたって培養するステップと
を含む、方法。」(以下、「甲33発明」という。)。

(エ)甲34発明
上記(ア)を踏まえれば、甲3には以下の発明が開示されているといえる。
「増殖能力に限界があるヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、在胎12-18週齢のヒト由来のヒト網膜組織をコラゲナーゼにより解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)中で1,3,5または7継代にわたって培養するステップ
によって作製されたものである、細胞集団。」(以下、「甲34発明」という。)

以下、甲31発明から甲34発明をまとめて、「甲3発明」ということがある。

ウ 本件特許発明1-5について
(ア)本件特許発明1と甲31発明との対比
甲31発明における「増殖能力に限界がある」とは、本件特許発明における「不死化されていない」に相当する。
甲31発明における「コラゲナーゼ」は、本件特許明細書の段落【0128】を参照すると解離懸濁物を作り出す酵素であるから、「コラゲナーゼ中で解離」することは本件特許発明における「酵素的に解離」することに相当する。
そして、甲31発明における「改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)」について、甲10によればUltracultureは無血清培地であり、改変内容も血清を添加したものではないから、「改変Ultraculture(10ng/ml rhEGF、20ng/ml rhbFGF、Pen/strep、NystatinおよびL-gluamine)」は、本件特許発明における「無血清培地」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲31発明とは、
「被験体において、網膜疾患を処置することにおける、黄斑機能を改善することにおける使用のための製造産物であって、
該製造産物は不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎12?18週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を酵素的に乖離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞または細胞群の該懸濁物を、無血清培地中で1,3,5または7継代にわたって培養するステップ
によって作製されたものである、製造産物。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点31-1)本件特許発明1は「細胞が40?90%のコンフルエンスで継代され」るのに対し、甲31発明ではコンフルエンスがどの程度の時に継代しているのかが不明である点。
(相違点31-2)本件特許発明1は継代ごとに酵素で処理されて細胞が解離されているのに対し、甲31発明ではそのような処理が行われているか否かが不明である点。
(相違点31-3)本件特許発明1は「懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内」で培養しているのに対し、甲31発明では何を使って培養しているのかが不明である点。
(相違点31-4)本件特許発明1は細胞集団の作製工程のステップ(b)において「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲31発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点31-5)本件特許発明1は「ヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲31発明ではマーカーを調べたことは特定されているが、いかなるマーカーが発現しているのかまでは不明である点。

(イ)本件特許発明1についての判断
まず、本件特許発明1と甲31発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明1は甲31発明ではない。
次に、事案に鑑み、(相違点31-4)から検討する。
甲3には、甲31発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することの動機づけはないし、ヒト網膜細胞懸濁物の培養においてビタミンCを添加することが本願出願日当時の周知技術であるとも認められないから、甲31のステップ(b)においてビタミンCを添加することは当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、ステップ(b)においてビタミンCを添加することが、得られる細胞集団に与える影響について検討すると、本件特許明細書の段落【0118】に「網膜前駆細胞および細胞集団のマーカー発現は、静的ではなく、1つまたは複数の培養条件、すなわち、培地、酸素レベル、継代の数、培養の時間などの関数として変化し得」ると記載されるように、出発細胞が同一であっても培地等の培養条件が異なれば培養後の細胞は異なることが技術常識である。
また、本件特許明細書の段落【0183】に「ビタミンC補充物を2日毎に培地に添加した。図7Aは、ビタミンCが、hRPCの収率を約30%改善すること」が示されている。そして、収率が改善するということは細胞の増殖能が改善されており、増殖能が変化しているということは増殖能が変化していない細胞と比較して細胞において何らかの変化が生じているということである。よって、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加することにより増殖能が改善された細胞は、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加されず増殖能が改善されていない細胞とは細胞として異なるものであるというべきである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲31発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明2-5についての判断
本件特許発明2は、本件特許発明1について被験体がヒトであることをさらに限定したものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1について組成物の用途をさらに限定したものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1について網膜疾患の具体的な内容をさらに限定したものであり、本件特許発明5は、本件特許発明1について別のマーカーが発現することさらに限定したものであるから、本件特許発明2-5は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲31発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点31-4)と同様の相違点が存在するといえ、当該相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2-5は、甲31発明ではなく、また、当業者であっても、甲31発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ 本件特許発明6-21,30,31について
(ア)本件特許発明6と甲32発明との対比
ウ(ア)で検討したことも踏まえれば、本件特許発明6と甲32発明とは、
「不死化されていないヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む製造産物を作製する方法であって、
(a)在胎12?28週齢のヒト由来のヒト網膜組織細胞の得られた試料を酵素的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップであって、
細胞または細胞群の前記得られた試料は、コラゲナーゼを使用して酵素的に解離される、ステップ;ならびに
(b)無血清培地中で、該細胞または細胞群を1、3、5または7継代にわたって培養するステップ
を含む、方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点32-1)細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップにおける酵素が、本件特許発明6は「トリプシン」であるのに対し、甲32発明では「コラゲナーゼ」である点。
(相違点32-2)本件特許発明6は「異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内」で培養しているのに対し、甲32発明では何を使って培養しているのかが不明である点。
(相違点32-3)本件特許発明6は「抗生物質および抗真菌薬を含む、または、抗生物質も抗真菌薬も含まない、滅菌環境中で培養する」のに対し、甲32発明では抗生物質や抗真菌薬の含有の有無や滅菌環境中か否かについて明示的な特定が無い点。
(相違点32-4)本件特許発明6は「細胞が40?90%のコンフルエンスで継代され」るのに対し、甲32発明ではコンフルエンスがどの程度の時に継代しているのかが不明である点。
(相違点32-5)本件特許発明6は継代ごとに酵素で処理されて細胞が解離されているのに対し、甲32発明ではそのような処理が行われているか否かが不明である点。
(相違点32-6)本件特許発明6は「培養培地が1日-2日ごとに取り換えられ」るのに対し、甲32発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点32-7)本件特許発明6はステップ(b)において「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲32発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。

(イ)本件特許発明6についての判断
まず、本件特許発明6と甲32発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明6は甲32発明ではない。
次に、事案に鑑み、(相違点32-7)から検討する。
上記ウ(イ)で判断したのと同様に、甲3には甲32発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することの動機付けはないし、ヒト網膜細胞懸濁物の培養においてビタミンCを添加することが本願出願日当時の周知技術であるとも認められないから、甲32発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することは当業者が容易に想到し得ることではない。そして、本件特許発明6は、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加することにより、細胞の増殖能が改善するという特有の効果が奏されるものである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明6は、当業者であっても、甲32発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明7-21,30,31発明についての判断
本件特許発明7-9,14は、本件特許発明6について培地の組成をさらに限定したもののであり、本件特許発明10-13は、本件特許発明6について培養条件をさらに限定したものであり、本件特許発明15-19は、本件特許発明6について試料をさらに限定したものであり、本件特許発明20,21は、本件特許発明6について網膜細胞の選択方法をさらに限定したものであり、本件特許発明30,31は、本件特許発明6について別のマーカーが発現することをさらに限定したものであるから、本件特許発明7-21,30,31は、本件特許発明6の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲32発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点32-7)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明7-21,30,31は、甲32発明ではなく、また、当業者であっても、甲32発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

オ 本件特許発明22-27について
(ア)本件特許発明22と甲33発明との対比
甲33発明における「増殖能力に限界がある」とは、本件特許発明22における「不死化されていない」に相当する。
甲33発明における「在胎12?18週齢のヒト由来のヒト網膜組織」とは、本件特許明細書の段落【0126】の「いくつかの実施形態では、細胞は、後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜から回収される。この段階は一般に、ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間である。」との記載を参照すると、本件特許発明22における「網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織」に相当する。
そして、甲33発明における「コラゲナーゼ」は、本件特許明細書の段落【0128】を参照すると解離懸濁物を作り出す酵素であるから、「コラゲナーゼ中で解離」することは本件特許発明における「酵素的に解離」することに相当する。
したがって、本件特許発明22と甲33発明とは、
「不死化されていないヒト網膜前駆細胞の細胞集団を単離するための方法であって、
網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織の得られた試料を酵素的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップと、
細胞または細胞群の該懸濁物を、無血清培地中で1,3,5または7継代にわたって培養するステップとを含む、方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点33-1)本件特許発明22は「細胞が40?90%のコンフルエンスで継代され」るのに対し、甲33発明ではコンフルエンスがどの程度の時に継代しているのかが不明である点。
(相違点33-2)本件特許発明22は継代ごとに酵素で処理されて細胞が解離されているのに対し、甲33発明ではそのような処理が行われているか否かが不明である点。
(相違点33-3)本件特許発明22は継代して培養するステップにおいて「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲33発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点33-4)本件特許発明22は「ヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲33発明ではマーカーを調べたことは特定されているが、いかなるマーカーが発現しているのかまでは不明である点。

(イ)本件特許発明22についての判断
まず、本件特許発明22と甲33発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明22は甲33発明ではない。
次に、上記(相違点33-3)は(相違点32-7)と実質的に同じであり、(相違点32-7)が当業者であれば容易に想到しえたとはいえないことは、既に述べたとおりである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明22は、当業者であっても、甲33発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明23-27についての判断
本件特許発明23は、本件特許発明22についてヒト網膜組織の週齢を限定したものであり、本件特許発明24は、本件特許発明22について培養条件をさらに限定したものであり、本件特許発明25,26は、本件特許発明22について培地の組成をさらに限定したもののであり、本件特許発明27は、本件特許発明22について別のマーカーが発現することさらに限定したものであるから、本件特許発明23-27は、本件特許発明22の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲23発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点33-3)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明23-27は、甲33発明ではなく、また、当業者であっても、甲33発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

カ 本件特許発明28,29について
(ア)本件特許発明28と甲34発明との対比
ウ(ア)で検討したことも踏まえれば、本件特許発明28と甲34発明とは、
「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、ヒト由来のヒト網膜組織を酵素的に乖離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた細胞または細胞群の懸濁物を、無血清培地中で1,3,5または7継代にわたって培養するステップ
によって作製されたものである、細胞集団。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点34-1)本件特許発明28は「懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチン、オルニチン、ポリリシン、またはラミニンでコーティングされた培養フラスコまたはプレート内」で培養しているのに対し、甲34発明では何を使って培養しているのかが不明である点。
(相違点34-2)本件特許発明28は継代ごとに酵素で処理されて細胞が解離されているのに対し、甲34発明ではそのような処理が行われているか否かが不明である点。
(相違点34-3)本件特許発明28は細胞集団の作製にあたり継代して培養するステップにおいて「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲34発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点34-4)本件特許発明28は「ヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲34発明ではマーカーを調べたことは特定されているが、いかなるマーカーが発現しているのかまでは不明である点。

(イ)本件特許発明28についての判断
まず、本件特許発明28と甲34発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明28は甲34発明ではない。
次に、上記(相違点34-3)は(相違点31-4)と実質的に同じであり、(相違点31-4)が当業者であれば容易に想到しえたとはいえないことは、既に述べたとおりである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明28は、当業者であっても、甲34発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明29についての判断
本件特許発明29は、本件特許発明28について別のマーカーが発現することをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲34発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点34-3)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明29は、甲34発明ではなく、また、当業者であっても、甲34発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

キ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1-31はいずれも、甲3発明ではなく、また、当業者であっても、甲3発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明は、甲2発明でも甲3発明でもなく、また、当業者であっても、甲2発明、または、甲3発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

6 理由6(甲4に基づく新規性進歩性欠如)について
(1)甲4の記載
甲4には以下の記載がある(翻訳及び下線は当審による。以下同様。)。
ア 「本研究では、SC22, SC23, SC24, SC29 及びSC30のケースからの細胞を使用した。ドナーは、推定在胎25週の二卵性双生児の二つのセット(組み合わせ)からなり、男女の双子のセット(SC22,SC23)と、両方が男性の双子のセット(SC29, SC30)であった。ドナーの全てが、出生から1?48時間以内に心肺合併症により死亡した。五番目のドナー(SC24)は、外脳症を含む広範囲の頭蓋顔面変形で同じ週齢で生まれ、子宮外で生存不可能であった。」(第335頁右側欄第1行-第8行)
イ 「前駆細胞単離手順
解剖顕微鏡で視認しつつ、眼球から残留結膜、眼窩組織および直筋を精密ハサミで除去した。それらを除去した眼球を滅菌ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で洗い、冷DMEM/F12(両溶液とも、Irvine Scientific(Santa Ana, CA)製)を含有する使い捨てペトリ皿に移した。解剖用メスを使って鋭的剥離を行うことにより、脈絡膜まで強膜を切開し、精密鉗子で視神経を掴み、強膜出口(scleral outlet)で切開を開始した。複数のこのような切込みを視神経周辺に放射状パターンで作成し、精密ハサミでそれぞれを毛様体扁平部のレベルまで前方向に広げた。次いで、一連の付着皮弁(a series of attached flaps)として強膜を引き剥がし、下にあるブドウ膜を露出させた。接線方向牽引を適用すると、脈絡膜および網膜色素上皮細胞(RPE)が大きく裂けて下部網膜から分離しているのが認められた。鋸状縁への挿入直後、精密ハサミを用いることによって網膜を末梢部周辺にて周方向に切開し、精密ハサミで無傷の硝子体から引き離した。視神経頭を完全に切開した結果、後極部網膜に小さな穴が形成された。単離した網膜を組織培養フード内の乾燥した使い捨てペトリ皿に移し、デュアル解剖メスで切り刻み、次いで37℃のインキュベーター内の酵素消化用滅菌容器に移した。フード内にて上澄みを周期的に取り除き、新鮮な消化液と交換した。収集した上澄みを遠心分離し、無細胞の網膜前駆細胞馴化培地に細胞を再懸濁させた。次いで、新鮮培地を含有するフィブロネクチンコート組織培養フラスコ(175cm^(2)フィルターキャップ;Greiner)に細胞を移した。脳組織を同様に切り刻んで消化して、hBPCを採取した(Schwartz et al., 2003)。」(第335頁右側欄第9行-第40行)
ウ 「細胞培養
細胞はまず、細胞接着を促進するために10%のウシ胎児血清(FBS)を含む成長培地で培養された。この培地は、24時間以内に、成長培地のみの培地と交換された。成長培地は、DMEM/F12高グルコース(Irvine Scientific)からなり、BIT9500(BSA/insulin/transferrin;10% by vol.;Stem Cell Technologies, Vancouver, British Columbia, Canada)、組換えヒト上皮成長因子(EGF)及び繊維芽細胞成長因子-2(FGF-2;20-40 ng/ml; Invitrogen, Carlsbad, CA)、L-グルタミン、及び抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン及びアンホテリシンC)が補充された。脳由来の培地の場合、組換えヒト血小板由来成長因子?AB(PDGF-AB;20-40 ng/ml; Peprotech, Rocky Hill NJ)も含有した。その後の培養中、培地は2-3日ごとに取り替えられた。除去された上澄み中にある全ての被粘着性神経球(nonadherentneurospheres)は、コーティングされていないフラスコに移され、分離して成長させた。粘着性の培養物(adherent cultures)は、コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法(Custom ATV; Irvine Scientific)で酵素的に採取され、再度プレート培養され、凍結され又は分析に用いられた。7日後、細胞の部分集合をチェンバースライド(eight-well glass;Nalge Nunc, Naperville, IL)に移動し、さらに3週間、他の研究(Schwartz et al., 2003)で詳述されている、オールトランスレチノイン酸(100 nM)、脳由来の神経栄養因子(BDNF; 20 ng/ml)、ニューロトロフィン-3(NT3; 20ng/ml)、グリア馴化培地(glia-CM)及び1%FBSからなるプロトコルに基づく神経分化条件下で培養した。」(第335頁右側欄第41行-第336頁左側欄第10行)
エ 「結果
細胞培養
増殖条件下で成長した死後のヒト網膜培養物は、フィブロネクチン上に粘着性の単層を形成するか、脳由来神経球に類似した懸濁クラスターで成長する生存細胞を生み出した(図1A,B)。粘着性のある集団内の形態は多様であり、小さな丸いプロファイル;中サイズのバイポーラ(双極の)かつ紡錘形のプロファイル;及び多角形かつ多極形態の大きい細胞が含まれていた。培養時間に応じて、細胞のクラスターは培地中で垂直方向に頻繁に広がり、やがてニューロスフェアとして発芽した。3か月後、コンフルエンスへの成長はもはやみられないものの、培養物には、Ki-67免疫反応性(データは示されていない)の部分集合を含む、継続的な細胞分裂の所見が引き続き認められた(図1C)。」(第337頁左側欄第8行-第23行)
オ 「蛍光免疫細胞化学による表現型マーカー
増殖条件下で成長したhRPCの免疫細胞化学的解析(図4A-E、G-I)及び分化条件下で成長したhRPCの免疫細胞化学的解析(図4F、J-L)は、発達マーカーと成熟マーカーの発現を示した。高度の共局在化(a high degree of colocalization)を示した神経発達マーカーは、中間径フィラメントのネスチン、転写因子のSox2、及び表面マーカーのGD2ガングリオシド(図4A)を含む。細胞の部分集合が神経発達マーカーCD15を発現した(Lewis X; 図4B)。培養細胞の異なる亜集団は、神経細胞系列マーカーβIIIチューブリン及びグリア細胞系列マーカーGFAPを発現した(図4C)。神経芽細胞マーカーDCXと光受容体マーカーリカバリンも明確な亜集団によって発現された(図4D)。増殖マーカーKi-67は、増殖条件下で成長したRPCにおいて高レベルの有糸分裂活性を示しつつ、ネスチン及びSox2と共存した(図4E)。中間径フィラメント発現の分析により、ネスチンに加えて、ビメンチン及びGFAPも発現し、ネスチンがGFAPよりも頻繁にビメンチンと共局在することが示された(図4G-I)。」(第337頁右側欄第20行-最終行)
カ 「フローサイトメトリーによる表面マーカー
フローサイトメトリーを使用して、hRPCによる表面マーカーの発現を評価した。この方法を使用することで(図5)、RPCが可変量のGD2ガングリオシドを発現することが示された。これは、このマーカーの免疫細胞化学的所見と一致する。hRPCはまた、テトラスパニンCD9(MRP-1)及びCD81(TAPA-1)、細胞接着分子CD54(ICAM)及びCD56(NCAM)、及びアポトーシス関連受容体CD95(Fas)を発現した。移植抗原に関しては、hRPCは重鎖(HLA-ABC)と2-ミクログロブリンの両方を含むMHCクラスI抗原を発現したが、検出可能なMHCクラスII(HLA-DR,DP,DQ)抗原は発現しなかった。複数の頭蓋異常を持つドナーからのhRPCのフローサイトメトリー分析により、これらの細胞はGD2ガングリオシド及びMHCクラスIも発現していることが示された(図5、表III)。」(第338頁右側欄第1行-第17行)

(2)甲4に記載された発明の認定
ア 甲41発明
(ア) (1)アから、甲4には、ドナーが推定在胎25週の二卵性双生児であることが開示されている。
(イ) (1)イから、甲4には、ドナーの単離した網膜を組織培養フード内の乾燥した使い捨てペトリ皿に移し、デュアル解剖メスで切り刻み、次いで37℃のインキュベーター内の酵素消化用滅菌容器に移し、収集した上澄みを遠心分離し、無細胞の網膜前駆細胞馴化培地に細胞を再懸濁させたこと、及び、次いで新鮮培地を含有するフィブロネクチンコート組織培養フラスコに細胞を移したことが開示されている。
(ウ) (1)ウから、甲4には、得られた細胞を、まず、細胞接着を促進するために10%のウシ胎児血清(FBS)を含む成長培地で培養されたこと、その後、成長培地のみの培地と交換されたこと、当該成長培地は、DMEM/F12高グルコースからなり、BIT9500(BSA/insulin/transferrin;10% by vol.)、組換えヒト上皮成長因子(EGF)及び繊維芽細胞成長因子-2(FGF-2;20-40 ng/ml)、L-グルタミン、及び抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン及びアンホテリシンC)が補充されたこと、培養により得られた粘着性の培養物は、コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で酵素的に採取され、再度プレート培養されたことが開示されている。
(エ) (1)エから、甲4には、増殖条件下で成長した死後のヒト網膜培養物は、3か月後コンフルエンスへの成長はもはやみられないこと、及び、培養物にはKi-67免疫反応性の部分集合を含む、継続的な細胞分裂の所見が認められたことが開示されている。
(オ) (1)オから、甲4には、増殖条件下で成長したhRPCの免疫細胞化学的解析及び分化条件下で成長したhRPCの免疫細胞化学的解析は、発達マーカーと成熟マーカーの発現を示したこと、高度の共局在化を示した神経発達マーカーには中間径フィラメントのネスチン、転写因子のSox2、及び表面マーカーのGD2ガングリオシドが含まれること、及び、増殖マーカーKi-67はネスチン及びSox2と共存したことが開示されている。
(カ) (1)カから、甲4には、hRPCが、テトラスパニンCD9(MRP-1)及びCD81(TAPA-1)、細胞接着分子CD54(ICAM)及びCD56(NCAM)、及びアポトーシス関連受容体CD95(Fas)を発現した。移植抗原に関しては、hRPCは重鎖(HLA-ABC)と2-ミクログロブリンの両方を含むMHCクラスI抗原を発現したが、検出可能なMHCクラスII(HLA-DR,DP,DQ)抗原は発現しなかったことが開示されている。
(キ) 上記(ア)-(カ)の事項は、甲4が開示する一連の実験に関するものであるから、甲4には以下の発明が記載されているといえる。
「製造産物であって、
該製造産物は、3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎25週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料をメスで切り刻み、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞または細胞群の該懸濁物を、フィブロネクチンでコーティングされた培養プレート内の10%FBS含有培地で培養し、24時間後成長培地のみの培地中で培養し、コンフルエンスの前に再度プレート培養され、それによって3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で処理されて該細胞が解離される、ステップ
によって作製されたものであり、
該3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現する、
製造産物。」(以下、「甲41発明」という。)

イ 甲42発明
(ア) (1)ウから、甲4には、成長培地に抗生物質を添加すること及び継代の培養に際し培地を2-3日ごとに交換していることが開示されている。
(イ) 上記ア(ア)-(カ)の事項は、甲4が開示する一連の実験に関するものであるから、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。
「3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む、製造産物を作製する方法であって、
(a)在胎25週齢のヒト由来のヒト網膜組織細胞の得られた試料をメスで切り刻み、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップ;ならびに
(b)フィブロネクチンでコーティングされた培養プレート内の10%FBS含有培地で培養し、24時間後抗生物質を含む成長培地のみの培地中で培養し、コンフルエンスの前に再度プレート培養され、それによって3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で処理されて該細胞が解離される、培養培地が2日?3日毎に取り換えられる、ステップ
を含む、方法。」(以下、「甲42発明」という。)

ウ 甲43発明
上記ア(ア)-(カ)の事項は、甲4が開示する一連の実験に関するものであるから、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。
「3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞の集団を単離するための方法であって、
在胎25週齢のヒト網膜組織の試料をメスで切り刻み、細胞および細胞群の解離懸濁物を生成するステップと、
該解離懸濁物を培養し、コンフルエンスの前に再度プレート培養されるステップを含み、
該細胞はコンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で処理されて該細胞が解離され、
該ヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現する方法。」(以下、「甲43発明」という。)

エ 甲44発明
上記ア(ア)-(カ)の事項は、甲4が開示する一連の実験に関するものであるから、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。
「3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、
ヒト網膜組織をメスで切り刻み、細胞または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、フィブロネクチンでコーティングされた培養プレート内の10%FBS含有培地で培養し、24時間後成長培地のみの培地中で培養し、コンフルエンスの前に再度プレート培養されるステップ
によって作製されたものであり、
ここで、該細胞は、コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で処理されて該細胞が解離され、その結果、該3か月後にコンフルエンスへの成長がみられないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現する、
細胞集団。」(以下、「甲44発明」という。)
以下、甲41発明から甲44発明をまとめて、「甲4発明」ということがある。

(3)対比・判断
ア 本件特許発明1-5について
(ア) 甲41発明との対比
甲41発明における「3か月後にコンフルエンスへの成長がみられない」とは、本件特許発明における「不死化されていない」に相当する。
また、甲41発明における「メスで切り刻み」は、本件特許発明における「物理的に解離」することに相当する。甲41発明における「成長培地のみの培地」は、本件特許発明における「無血清培地」に相当する。
そして、甲41発明における「コンフルエンスの前に再度プレートに培養」することは、本件特許発明における「継代」に相当する。
さらに、甲41発明における「トリプシン/EDTA法」は、本件特許明細書の段落【0137】を参照すると酵素の混合物であるから、「コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で処理されて該細胞が解離される」は本件特許発明における「各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離される」ことに相当する。
したがって、本件特許発明1と甲41発明とは、
「製造産物であって、
該製造産物は、不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団を含み、
不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む該細胞集団は、
(a)在胎25週齢のヒト由来のヒト網膜組織の得られた試料を物理的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を作製するステップ;ならびに
(b)細胞または細胞群の該懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチンでコーティングされた培養プレート内で培養し、継代され、それによって不死化されていないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離される、ステップ
によって作製されたものであり、
該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現する、
製造産物。」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点41-1)製造産物が、本件特許発明1は「網膜疾患を処置することにおける、明所(昼間)視を改善することにおける、矯正視力を改善することにおける、黄斑機能を改善することにおける、視野を改善することにおける、または暗所(夜間)視を改善することにおける使用のための」ものであるのに対し、甲41発明はその用途が必ずしも明確ではない点。
(相違点41-2)本件特許発明1は血清を含む培地による培養ステップが無いのに対し、甲41発明はFBS含有培地による培養が行われる点。
(相違点41-3)本件特許発明1は「1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養」されるのに対し、甲41発明はその継代回数が不明である点。
(相違点41-4)本件特許発明1は「40%?90%のコンフルエンスで継代され」るのに対し、甲41発明ではコンフルエンスがどの程度の時に継代しているのかが不明である点。
(相違点41-5)本件特許発明1は細胞集団の作製工程のステップ(b)において「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲41発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点41-6)本件特許発明1は「該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲41発明は、マーカーの発現は特定されているもののどの程度の割合の細胞でこれらのマーカーが発現しているかが必ずしも明確ではない点。

(イ) 本件特許発明1についての判断
まず、本件特許発明1と甲41発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明1は甲41発明ではない。
次に、事案に鑑み、(相違点41-5)から検討する。
甲4には、甲41発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することの動機づけはないし、ヒト網膜細胞懸濁物の培養においてビタミンCを添加することが本願出願日当時の周知技術であるとも認められないから、甲41のステップ(b)においてビタミンCを添加することは当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、ステップ(b)においてビタミンCを添加することが、得られる細胞集団に与える影響について検討すると、本件特許明細書の段落【0118】に「網膜前駆細胞および細胞集団のマーカー発現は、静的ではなく、1つまたは複数の培養条件、すなわち、培地、酸素レベル、継代の数、培養の時間などの関数として変化し得」ると記載されるように、出発細胞が同一であっても培地等の培養条件が異なれば培養後の細胞は異なることが技術常識である。
また、本件特許明細書の段落【0183】に「ビタミンC補充物を2日毎に培地に添加した。図7Aは、ビタミンCが、hRPCの収率を約30%改善すること」が示されている。そして、収率が改善するということは細胞の増殖能が改善されており、増殖能が変化しているということは増殖能が変化していない細胞と比較して細胞において何らかの変化が生じているということである。よって、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加することにより増殖能が改善された細胞は、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加されず増殖能が改善されていない細胞とは細胞として異なるものであるというべきである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲41発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ) 本件特許発明2-5についての判断
本件特許発明2は、本件特許発明1について被験体がヒトであることをさらに限定したものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1について組成物の用途をさらに限定したものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1について網膜疾患の具体的な内容をさらに限定したものであり、本件特許発明5は、本件特許発明1について別のマーカーが発現することさらに限定したものであるから、本件特許発明2-5は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲41発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点41-5)と同様の相違点が存在するといえ、当該相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2-5は、甲41発明ではなく、また、当業者であっても、甲41発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明6-21,30,31について
(ア)甲42発明との対比
ア(ア)で検討したことも踏まえれば、本件特許発明6と甲42発明とは、「不死化されていないヒト胎児神経網膜細胞の異種混合物を含む、製造産物を作製する方法であって、
(a)在胎25週齢のヒト由来のヒト網膜組織細胞の得られた試料を解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を生成するステップ;ならびに
(b)異種由来成分不含有のフィブロネクチンでコーティングされた培養プレート内で培養し、継代され、それによって不死化されていないヒト網膜前駆細胞を作製するステップであって、
各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、培養培地が2日?3日毎に取り換えられる、ステップ
を含む、方法。」点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点42-1)解離懸濁物を生成するにあたり、本件特許発明6はトリプシンを用いて酵素的に解離されるのに対し、甲42発明はメスにより物理的に解離される点。
(相違点42-2)本件特許発明6は血清を含む培地による培養ステップが無いのに対し、甲42発明はFBS含有培地による培養が行われる点。
(相違点42-3)本件特許発明6は「抗生物質および抗真菌薬を含む、または、抗生物質も抗真菌薬も含まない、滅菌環境中」で培養が行われるのに対し、甲42発明は抗生物質を含有することは特定されているものの、抗真菌薬を含有すること及び滅菌環境中で行うことについては特定がされていない点。
(相違点42-4)本件特許発明6は「1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養」されるのに対し、甲42発明はその継代回数が不明である点。
(相違点42-5)本件特許発明6は「40%?90%のコンフルエンスで継代され」るのに対し、甲42発明ではコンフルエンスがどの程度の時に継代しているのかが不明である点。
(相違点42-6)本件特許発明6はステップ(b)において「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲42発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点42-7)本件特許発明6は「該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲42発明は、マーカーの発現は特定されているもののどの程度の割合の細胞でこれらのマーカーが発現しているかが必ずしも明確ではない点。

(イ)本件特許発明6についての判断
まず、本件特許発明6と甲42発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明6は甲42発明ではない。
次に、事案に鑑み、(相違点42-6)から検討する。
上記ウ(イ)で判断したのと同様に、甲4には甲42発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することの動機付けはないし、ヒト網膜細胞懸濁物の培養においてビタミンCを添加することが本願出願日当時の周知技術であるとも認められないから、甲42発明のステップ(b)においてビタミンCを添加することは当業者が容易に想到し得ることではない。そして、本件特許発明6は、ステップ(b)において所定量のビタミンCを添加することにより、細胞の増殖能が改善するという特有の効果が奏されるものである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明6は、当業者であっても、甲42発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明7-21,30,31についての判断
本件特許発明7-9,14は、本件特許発明6について培地の組成をさらに限定したもののであり、本件特許発明10-13は、本件特許発明6について培養条件をさらに限定したものであり、本件特許発明15-19は、本件特許発明6について試料をさらに限定したものであり、本件特許発明20,21は、本件特許発明6について網膜細胞の選択方法をさらに限定したものであり、本件特許発明30,31は、本件特許発明6について別のマーカーが発現することをさらに限定したものであるから、本件特許発明7-21,30,31は、本件特許発明6の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲42発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点42-6)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明7-21,30,31は、甲42発明ではなく、また、当業者であっても、甲42発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明22-27について
(ア) 甲43発明との対比
甲43発明における「3か月後にコンフルエンスへの成長がみられない」とは、本件特許発明における「不死化されていない」に相当する。
そして、甲43発明における「在胎25週齢のヒト由来のヒト網膜組織」とは、本件特許明細書の段落【0126】の「いくつかの実施形態では、細胞は、後に網膜が形成されるが、光受容体外側セグメントが網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が実質的に完了し、または完了する前の段階で哺乳動物胎児網膜から回収される。この段階は一般に、ヒトの胎児において胎児の在胎約12週齢?約28週齢の間である。」との記載を参照すると、本件特許発明22における「網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前、かつ網膜血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織」に相当する。
また、甲43発明における「メスで切り刻み」は、本件特許発明における「物理的に解離」することに相当する。
そして、甲43発明における「コンフルエンスの前に再度プレートに培養」することは、本件特許発明における「継代」に相当する。
さらに、甲43発明における「トリプシン/EDTA法」は、本件特許明細書の段落【0137】を参照すると酵素の混合物であるから、「コンフルエンスの前にトリプシン/EDTA法で処理されて該細胞が解離される」は本件特許発明における「各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離される」ことに相当する。
したがって、本件特許発明22と甲43発明とは、
「不死化されていないヒト網膜前駆細胞の集団を単離するための方法であって、
網膜が形成された後であるが、光受容体外側セグメントが該網膜全体にわたって完全に形成される前でかつ網膜の血管新生が完了しているかまたは完了する前の段階で得られたヒト網膜組織の試料を物理的に解離して、細胞および細胞群の解離懸濁物を生成するステップと、
該解離懸濁物を継代して培養するステップと
を含み、
各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離され、
該ヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現する、
方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点43-1)本件特許発明22は「1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養」されるのに対し、甲43発明はその継代回数が不明である点。
(相違点43-2)本件特許発明22は「40%?90%のコンフルエンスで継代され」るのに対し、甲43発明ではコンフルエンスがどの程度の時に継代しているのかが不明である点。
(相違点43-3)本件特許発明22は継代して培養するステップにおいて「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲43発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点43-4)本件特許発明22は「該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲43発明は、マーカーの発現は特定されているもののどの程度の割合の細胞でこれらのマーカーが発現しているかが必ずしも明確ではない点。

(イ)本件特許発明22についての判断
まず、本件特許発明22と甲43発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明22は甲43発明ではない。
次に、上記(相違点43-3)は(相違点42-6)と実質的に同じであり、(相違点42-6)が当業者であれば容易に想到しえたとはいえないことは、既に述べたとおりである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明22は、当業者であっても、甲43発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明23-27についての判断
本件特許発明23は、本件特許発明22についてヒト網膜組織の週齢を限定したものであり、本件特許発明24は、本件特許発明22について培養条件をさらに限定したものであり、本件特許発明25,26は、本件特許発明22について培地の組成をさらに限定したもののであり、本件特許発明27は、本件特許発明22について別のマーカーが発現することさらに限定したものであるから、本件特許発明23-27は、本件特許発明22の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲43発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点43-3)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明23-27は、甲43発明ではなく、また、当業者であっても、甲43発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ 本件特許発明28-29について
(ア)甲44発明との対比
ア(ア)で検討したことも踏まえれば、本件特許発明28と甲44発明とは、「不死化されていないヒト網膜前駆細胞を含む細胞集団であって、
該細胞集団は、
ヒト網膜組織を物理的に解離して、細胞または細胞群の解離懸濁物を得るステップ、および
該得られた懸濁物を、異種由来成分不含有のフィブロネクチンでコーティングされた培養プレート内で培養し、継代され、それによって不死化されていないヒト網膜前駆細胞を作製するステップ
によって作製されたものであり、
ここで、該細胞は、各継代ごとに酵素で処理されて該細胞が解離されることによって継代され、その結果、該不死化されていないヒト網膜前駆細胞が、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現する、
細胞集団。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点44-1)本件特許発明28は血清を含む培地による培養ステップが無いのに対し、甲44発明はFBS含有培地による培養が行われる点。
(相違点44-2)本件特許発明28は「1、2、3、4、5、6、7、8、9または10継代にわたって培養」されるのに対し、甲44発明はその継代回数が不明である点。
(相違点44-3)本件特許発明28は細胞集団を作製するにあたり継代して培養するステップにおいて「ビタミンCが、0.01mg/ml?0.5mg/mlの量で1日?2日毎に該培養培地に添加される」のに対し、甲44発明ではビタミンCの添加について何ら特定が無い点。
(相違点44-4)本件特許発明28は「該不死化されていないヒト網膜前駆細胞は、ネスチン、Sox2、Ki-67、MHCクラスI、およびFas/CD95からなる群から選択される1種または複数のマーカーを発現し、
ネスチンは、該集団内の該細胞の90%超によって発現され、
Sox2は、該集団内の該細胞の80%超によって発現され、
Ki-67は、該集団内の該細胞の30%超によって発現され、
MHCクラスIは、該集団内の該細胞の70%超によって発現され、
Fas/CD95は、該集団内の該細胞の30%超によって発現される」のに対し、甲44発明は、マーカーの発現は特定されているもののどの程度の割合の細胞でこれらのマーカーが発現しているかが必ずしも明確ではない点。

(イ)本件特許発明28についての判断
まず、本件特許発明28と甲44発明との間には上記相違点が存在するから、本件特許発明28は甲44発明ではない。
次に、上記(相違点44-3)は(相違点41-5)と実質的に同じであり、(相違点41-5)が当業者であれば容易に想到しえたとはいえないことは、既に述べたとおりである。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明28は、当業者であっても、甲44発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明29についての判断
本件特許発明29は、本件特許発明28について別のマーカーが発現することをさらに限定したものである。
したがって、これらの発明と甲44発明との間には、上記(ア)で検討した(相違点44-3)と同様の相違点が存在するといえ、これらの相違点は、上記(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明29は、甲44発明ではなく、また、当業者であっても、甲44発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4) 小括
以上のとおり、本件特許発明は、甲4発明ではなく、また、当業者であっても、甲4発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-31に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-31に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2018-149213(P2018-149213)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 111- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 崇之  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 山本 晋也
小暮 道明
登録日 2019-08-16 
登録番号 特許第6571252号(P6571252)
権利者 ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
発明の名称 網膜疾患を処置するための組成物および方法  
代理人 柏 延之  
代理人 反町 洋  
代理人 砂山 麗  
代理人 山本 秀策  
代理人 朝倉 悟  
代理人 森下 夏樹  
代理人 中村 行孝  

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