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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1364024
異議申立番号 異議2020-700192  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-19 
確定日 2020-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6588245号発明「ポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6588245号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6588245号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は,平成27年6月15日に出願され,令和 1年 9月20日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ,令和 1年10月 9日に特許掲載公報が発行された。
その後,その特許に対し,平成 2年 3月19日に特許異議申立人が特許異議の申立て(対象請求項1ないし6)を行った。

第2 本件特許発明
特許第6588245号の請求項1ないし6に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」等という。)。
「【請求項1】
ポリスチレン系樹脂,物理発泡剤,臭素系難燃剤,及び熱安定剤を含む発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡体を製造する方法において,
該臭素系難燃剤の総配合量が,ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5?10重量部であり,
該臭素系難燃剤が臭素化ブタジエン-スチレン共重合体を含み,
該臭素系難燃剤中の臭素化ブタジエン-スチレン共重合体の配合割合が50重量%以上であり,
該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,
該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり,
該フェノール系熱安定剤の配合量が,臭素系難燃剤の総配合量100重量部に対して1?10重量部であり,
該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物として押出機に供給することを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記フェノール系熱安定剤と前記ホスファイト系熱安定剤の重量比が,2:8?8:2であることを特徴とする,請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記臭素系難燃剤中の臭素化ブタジエン-スチレン共重合体の配合割合が80重量%以上であることを特徴とする,請求項1または2に記載のポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記フェノール系熱安定剤が,オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートであることを特徴とする,請求項1?3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記ホスファイト系熱安定剤が,ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト及び/又は3,9-ビス[2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノキシ]-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンであることを特徴とする,請求項1?4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記熱安定剤の総配合量が,前記難燃剤の合計配合量100重量部に対して,5重量部?25重量部であることを特徴とする,請求項1?5のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠方法として甲第1号証:国際公開第2015/072514号(以下「甲1」という。)及び甲第2号証:特表2012-512942号公報(以下「甲2」という。)を提出し,要旨以下のとおり主張する。
(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許発明1-4,6は,甲1に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,それらの特許は取り消すべきものである。
(2)申立理由2(特許法第29条第2項)
本件特許発明1-6は,甲1又は甲2の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるから,それらの特許は取り消すべきものである。
(以下,申立理由2について,甲1の記載に基づくものを「申立理由2-1」,甲2の記載に基づくものを「申立理由2-2」という。)

第4 甲1及び甲2について
1 甲1に記載された事項
甲1には,次の事項が記載されている。
(1)「[請求項12] 臭素化スチレンブタジエンポリマーを30?80wt%並びに安定剤及びスチレン系樹脂を含み,TGAでの5wt%減少温度が255?270℃である難燃剤組成物を調製し,該難燃剤組成物,スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡を行うことを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。」
(2)「[0014] 本発明は,難燃性スチレン系樹脂押出発泡体が有する前記課題を解決するためになされたものであって,熱安定性能,難燃性能,外観良好性,断熱性能が改善されたスチレン系樹脂押出発泡体および,その製造方法を提供することを目的とする。」
(3)「[0033] 本発明における難燃剤組成物中の,臭素化スチレンブタジエンポリマーの含有量は,組成物総重量100wt%とした場合,臭素化スチレンブタジエンポリマーが30?80wt%であることが好ましく,更にコスト面から40wt%以上,更には50wt%以上が好ましい。30wt%未満の低濃度難燃剤組成物であると,スチレン系押出発泡体へ含有する際に,大量に添加する必要があることから,コスト面で不利である。また,80wt%を超えると,難燃剤組成物中のスチレン系樹脂の比率が極めて少なくなることから,該組成物が脆化する傾向にあり,製造が困難となる傾向にある。また,難燃剤の分解が発生する傾向にあり,難燃剤組成物の外観不良,引いては発泡体の外観不良に繋がる恐れがある。」
(4)「[0035] 本発明においては,TGAでの5wt%減少温度を255?270℃の範囲に制御する為に,安定剤として,エポキシ化合物,フェノール系安定剤,ホスファイト系安定剤,多価アルコール部分エステル,及びヒンダートアミン系安定剤からなる群より少なくとも2種以上選ばれる安定剤を含有することが好ましい。本発明では,難燃剤組成物に安定剤を含有させるが,発泡体を製造する際に別途添加することができる。このようにすることで,難燃剤組成物を調製する際には,難燃剤の分解抑制に必要最小限の量の安定剤を使用するとともに,その際の加熱により安定剤が失活するのを回避することができる。また,発泡体を製造する際には,別途添加した安定剤に,難燃剤組成物中の安定剤とともにその機能を発揮させることができる。要するに,失活する安定剤の量を最小限に抑制しつつ,難燃剤組成物と発泡体の調製時にその機能をより効果的に発揮させることができる。更に,このようにすることで,リサイクル性に優れたスチレン系樹脂押出発泡体を得ることができる。」
(5)「[0051] 本発明で用いられるフェノール系安定剤としては,特に限定されるものではなく,市販の物質を用いることができる。具体例としては,トリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート,ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート],オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートがあげられ,これらは,単独で使用しても良いし,2種以上を併用しても良い。これらのなかでは,ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が,価格および性能面で好ましく用いられる。」
(6)「[0058] 本発明においては,スチレン系樹脂押出発泡体へ難燃剤を添加する手法として,上記に記載したように,予め難燃剤を安定剤及びスチレン系樹脂と溶融混練した難燃剤組成物を添加することが好ましい。その際,難燃剤である臭素化スチレンブタジエンポリマーのスチレン系樹脂押出発泡体への含有量は,スチレン系樹脂押出発泡体中の全ポリスチレン系樹脂100重量部に対して,0.5?10重量部が好ましく,コスト,及び他の要求諸物性への影響を鑑みると,更に好ましい範囲としては,0.5?6重量部であり,該含有量となるように,難燃剤組成物の添加部数を適宜決定することができる」
(7)「[0072] 以上の観点から,本発明では,炭素数3?5の飽和炭化水素の他に,発泡剤として,さらに,水,二酸化炭素,窒素,炭素数が1?4のアルコール類,ジメチルエーテル,塩化メチル,塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の他の発泡剤を含むことが好ましい。」
(8)「[0081] 本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては,スチレン系樹脂,難燃剤組成物,添加剤等を押出機等の加熱溶融手段に供給し,任意の段階で高圧条件下にて発泡剤をスチレン系樹脂に添加し,流動ゲルとなし,押出発泡に適する温度に冷却した後,ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して,発泡体を形成することにより製造される。発泡剤を添加する工程までを詳説すると,スチレン系樹脂,難燃剤組成物,必要に応じて用いる添加剤(安定剤,ラジカル発生剤,リン酸エステル,ホスフィンオキシド,吸水性物質,熱線輻射抑制剤,その他の各種添加剤)を例えばドライブレンドして得られる混合物を押出機に供給して加熱溶融混練し,押出機の所望の位置で,この混練物に発泡剤を添加してスチレン系樹脂に圧入する。
本発明では,このように,特定の難燃剤組成物を予め調製し,これとスチレン系樹脂及び発泡剤を用いて発泡体とすることで,熱安定性及び難燃性に優れ且つ優れた外観を有する発泡体の提供を可能にした。
尚,スチレン系樹脂,難燃剤組成物,必要に応じて用いる添加剤を加熱溶融手段に供給する際に,前述の安定剤を更に添加してもよい。これにより,更にリサイクル性に優れたスチレン系樹脂押出発泡体を提供できる。」

2 甲1発明
甲1には,請求項12の記載(上記1(1))からみて,次の発明が記載されていると認める。
「臭素化スチレンブタジエンポリマーを30?80wt%並びに安定剤及びスチレン系樹脂を含み,TGAでの5wt%減少温度が255?270℃である難燃剤組成物を調製し,該難燃剤組成物,スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡を行うスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。」(以下,「甲1発明」という。)

3 甲2に記載された事項
甲2には,以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
(a)バルクポリマー,(b)脂肪族臭素含有ポリマー,および,(c)少なくとも1種のアルキルホスファイト,少なくとも1種のエポキシ化合物,または少なくとも1種のアルキルホスファイトと少なくとも1種のエポキシ化合物との混合物,を含むポリマー組成物。」
(2)「【請求項4】
脂肪族臭素含有ポリマーが,臭素化ブタジエンホモポリマーまたは臭素化スチレン/ブタジエンブロックコポリマーである,請求項1?3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。」
(3)「【請求項6】
バルクポリマーが,スチレンのポリマーまたはコポリマーである,請求項1?5のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
発泡体の形状である,請求項1?6のいずれか1項に記載のポリマー組成物。」
(4)「【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載のポリマー組成物を製造する方法であって,溶融バルクポリマーおよび脂肪族臭素含有ポリマーまたは脂肪族臭素含有コポリマーを含有する混合物を,(1)少なくとも1種のアルキルホスファイト,(2)少なくとも1種のエポキシ化合物または(3)少なくとも1種のアルキルホスファイトと少なくとも1種のエポキシ化合物との混合物,の存在下で溶融加工することを含む,方法。」
(5)「【0005】
臭素化FR添加剤の性能は,臭素-炭素結合の熱安定性に大きく左右される。これらの結合は,例えば,FR添加剤をバルクレジン中に組み込むため,または得られるブレンド物を有用な物品に加工するため,に用いる場合がある種々の溶融加工操作の間に直面する加熱条件に耐えるのに十分に安定であるのがよい。FR添加剤は,これらの加工操作の間,温度230?250℃または更に高温に曝される場合があり,そしてこれらの条件下で顕著量の臭素を放出しないのがよい。幾らかのより高温,典型的には300?400℃で,FR添加剤は,熱的に分解して活性臭素含有種(これは火炎条件下で火炎抑制を助けると理解されている)を生成しなければならない。
【0006】
臭素化FR添加剤が十分熱的に安定でない場合,臭素は溶融加工中に遊離される可能性がある。これは幾つかの問題の原因になる。1つの問題は,加工中の臭素の損失がFR性能の損失を招来し,臭素化FR添加剤を含有するバルクポリマーを分解させる可能性があることである。別の問題は,損失した臭素がHBr(これは,加工設備を腐食させ,更にはFR添加剤を触媒的に分解させ,そして作業者の曝露の懸念を与える可能性がある酸である)を形成する可能性があることである。」
(6)「【0007】
第3の問題は,臭素化FR添加剤が高分子量ポリマーである場合に存在することが見出されている。臭素の損失は,ポリマー鎖間の分子間結合の形成を招来する可能性がある。1つのあり得る機構は,ポリマー中での脂肪族炭素-炭素不飽和の形成を含む。この不飽和は重合性である。高温の条件下で,これらの不飽和種,更に他の残りの不飽和(ポリマー中に存在する場合があるもの)は,他のポリマー分子と結合して更に高い分子量を有する物質を形成する可能性がある。臭素化ポリマーの分子量はそもそも高いため,不溶性ゲルを形成するのに十分な分子量および/または架橋を構築するのは困難ではない。
【0008】
ゲルは生成物中で化粧上の欠陥の原因となる可能性があり,そして場合によってはその性能に影響する可能性がある。ゲルは,加工設備の内側表面上にビルドアップされる可能性がある。特別な問題は,発泡材料の製造において生じる可能性がある。ゲル化した材料が発泡体のセル構造の形成と干渉し,またその物理特性に対する不利な作用を有する可能性がある。これは,ゲル化した材料の粘弾性特性がしばしばFR添加剤自体のものと顕著に異なるからである。
【0009】
ゲル化の程度は時間およびプロセス温度に左右される。ゲル化の量は,特に材料を温度200℃超で溶融加工する場合には,極めて顕著になる可能性がある。この問題は,熱可塑性発泡体押出プロセスおよび大量のスクラップを発生させる他のプロセスにおいて特に深刻である。コストを低減するために,スクラップをプロセス中に再循環させて戻す。従って,スクラップ中に含有されるゲル化した材料およびFR添加剤も再循環される。ゲルはこの方法で再循環させて戻した場合にしばしば再溶融できない。再循環させた,ゲル化した材料およびFR添加剤は,高い加工温度への追加の曝露に供される。これは,加速されたゲル生成を招来する可能性がある。ゲル粒子が追加の反応にあずかる場合があるからである。結果として,スクラップがますます再循環されるに従って,ゲル化した材料が生成物中に蓄積する。このゲル形成を可能な限り大きく低減することが極めて重要である。
【0010】
従って,脂肪族臭素含有ポリマーおよび脂肪族臭素含有コポリマーのゲル化を,これらが高温に曝される場合に低減または防止する方法を提供することが望ましい。これは,低コストで,溶融加工操作自体または得られる生成物に対する顕著な不利な影響を有さない材料または方法を用いて達成されるのがよい。溶融加工操作の生成物が発泡材料である場合,発泡体構造,すなわちセルサイズ,セルサイズ分布および開放/閉鎖セル量への影響が最小限であるのがよい。」
(7)「【0066】
他の安定剤および/または酸捕捉剤が,アルキルホスファイトおよびエポキシ化合物に加えて,存在できる。このような物質の例としては,例えば,無機物質,例えばピロリン酸四ナトリウム,ハイドロカルマイト,ハイドロタルサイト,およびハイドロタルサイト様クレー;分子量1000以下を有するポリヒドロキシル化合物,例えばペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトール,グリセロール,キシリトール,ソルビトールもしくはマンニトール,またはこれらの部分エステル;ならびに,有機スズ安定剤であって親アリル性および/または親ジエン性であることができるもの,が挙げられる。有機スズ化合物としては,例えば,アルキルスズチオグリコレート,アルキルスズメルカプトプロピオネート,アルキルスズメルカプチド,アルキルスズマレエートおよびアルキルスズ(アルキルマレエート)が挙げられ,ここでアルキルは,メチル,ブチルおよびオクチルから選択される。好適な有機スズ化合物は,Ferro Corporation(すなわちThermchek^(TM) 832,Thermchek^(TM) 835),およびBaerlocher GmbH(すなわちBaerostab^(TM) OM 36,Baerostab^(TM) M25,Baerstab^(TM) MSO,Baerostab^(TM) M63,Baerostab^(TM) OM 710S)から市販で入手可能である。」
(8)「【0068】
バルクポリマーと脂肪族臭素含有ポリマーとの混合物は,アルキルホスファイトおよび/またはエポキシ化合物の存在下で溶融加工する。他に,任意の含有成分が,特に溶融加工操作のために必要または所望に応じて存在できる。
【0069】
溶融加工は,本発明の目的のために,バルクポリマーおよび脂肪族臭素含有ポリマーの溶融物を形成すること,溶融物を形成すること,次いで溶融物を冷却してこれを固化させて物品を形成すること,を含む。種々の溶融加工操作は本発明の範囲内であり,例えば押出し,射出成形,圧縮成形,キャスト等がある。最も関心ある溶融加工操作は押出し発泡である。各々の場合において,溶融加工操作は,任意の簡便な様式で実施できる。脂肪族臭素含有ポリマー,アルキルホスファイトおよび/またはエポキシ化合物の存在を別にすれば,溶融加工操作は全体的に従来のものであることができる。」
(9)「【0072】
種々の原料は,加工設備内に個別に,または種々の組合せで供給できる。アルキルホスファイトおよび/またはエポキシレジンは,例えば,脂肪族臭素含有ポリマー,バルクポリマー,または両者と予めブレンドできる。同様に,脂肪族臭素含有ポリマーは,別個の成分として導入でき,または何らかの方法でバルクポリマーと前混合できる。前混合は,バルクポリマーの粒子および脂肪族臭素含有ポリマーの粒子のドライブレンドの形態であることができる。代替として,または追加的に,バルクポリマーおよび脂肪族臭素含有ポリマーは,溶融加工操作の前に溶融ブレンドでき,そして溶融した混合物またはブレンド物の粒子を溶融加工操作に導入できる。ポリマー材料が溶融した後に,発泡剤を別個の流れとして導入することが一般的には好ましい。」
(10)「【0073】
押出し発泡プロセスにおける発泡剤は,発熱(化学)型または吸熱(物理)型であることができる。物理的な発泡剤,例えば二酸化炭素,種々の炭化水素,ヒドロフルオロカーボン,水,アルコール,エーテルおよびヒドロクロロフルオロカーボンは特に好適である。」
(11)「【0081】
例1?4
スクリーン実験を行って,臭素ブタジエンポリマー中で,熱的に誘導されるゲル化を種々の安定剤が防止する能力を評価する。スクリーニング実験における臭素化ブタジエンポリマーは,臭素化前に60質量%のブタジエンを含有するスチレン/ブタジエン/スチレントリブロックポリマーである。この出発ポリマーを,第WO2008/021418号に記載されるように,元素臭素を臭素化剤として用いて臭素化し,そして得られる臭素化物質は,臭素量62質量%を有する。出発ポリマー中の脂肪族炭素-炭素二重結合の3%が臭素化後に残存する。炭素-臭素 C-Br結合の3.5%は,アリル炭素原子または3級炭素原子に対するものであり,これは熱安定性が構造中の他のC-Br結合よりも小さい。
【0082】
各々のスクリーニング実験において,臭素化ブタジエンは,安定剤と,下記表1に示す量で溶融ブレンドする。ブレンドした物質をモルタル中で粉砕し,すりつぶし,次いで塩化メチレン中に,10mLの塩化メチレン当たり1gのブレンド物,の比率で浸漬する。このブレンド物のフィルムをキャストし,減圧オーブン内で30℃にて乾燥させる。各々の場合におけるフィルムサンプルを30℃で窒素下で5分間平衡させ,次いで180℃まで窒素下で速度20℃/分で,熱重量分析計(TGA)にて加熱する。サンプルを180℃にて20分間保持し,次いで30℃まで速度50℃/分で冷却する。全て窒素下である。次いでサンプルを2mLの塩化メチレン中に入れ,目視で検査して臭素化ブタジエンポリマーが溶解するか否かを評価する。溶解しない,および/またはゲル化する物質の存在は,加熱を与える条件下で架橋が生じたことを示し,よって試験する種々の安定剤が熱誘導架橋を防止することの有効性を示す。
【0083】
加えて,加熱処理された生成物の5%重量損失温度を,熱重量分析を用いて評価する。10ミリグラムのポリマーブレンド物を,TA Instruments モデルHi-Res TGA 2950または同等の装置を用い,60ミリリットル毎分(mL/分)のガス状窒素の流れおよび加熱速度10℃/分で,室温(名目上25℃)から600℃の範囲に亘って,分析する。サンプルによって損失された重量を加熱ステップ中に監視し,サンプルが100℃でのその重量の5%を損失した温度(後,すなわち揮発性物質が取り去られた後)を5%重量損失温度(5%WLT)と規定する。
【0084】
評価される種々の安定剤,各々の場合において使用する安定剤の量,熱エージング後の溶解性および5%WLTは表1に報告する通りである。
【0085】
【表1】

【0086】
スクリーニング実験に基づき,ジ-(2,4-ジ-(t-ブチル)フェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトおよび(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトは,臭素化ブタジエンポリマー中での架橋の良好な抑制,更に5%WLTの顕著な増大の両者を与える物質として特定される。」

4 甲2発明
甲2には,上記3(1)ないし(6)及び(8)からみて,臭素化FR添加剤を230?250℃またはさらに高温に曝される溶融加工操作の間に直面する加熱条件に耐えるのに十分に安定とすること,及び脂肪族臭素含有ポリマーおよび脂肪族臭素含有コポリマーのゲル化を低減または防止する方法を提供することを目的とする,次の発明が記載されていると認める。
「(a)スチレンのポリマーまたはコポリマー,(b)臭素化ブタジエンホモポリマーまたは臭素化スチレン/ブタジエンブロックコポリマー,および,(c)少なくとも1種のアルキルホスファイト,少なくとも1種のエポキシ化合物,または少なくとも1種のアルキルホスファイトと少なくとも1種のエポキシ化合物との混合物,を含む発泡体の形状である,ポリマー組成物を製造する方法であって,溶融バルクポリマーおよび脂肪族臭素含有ポリマーまたは脂肪族臭素含有コポリマーを含有する混合物を,(1)少なくとも1種のアルキルホスファイト,(2)少なくとも1種のエポキシ化合物または(3)少なくとも1種のアルキルホスファイトと少なくとも1種のエポキシ化合物との混合物,の存在下で溶融加工することを含む,方法。」(以下,「甲2発明」という。)

第5 当審の判断
1 申立理由1及び申立理由2-1について
(1)本件発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における,「スチレン系樹脂」は,本件特許発明1における「ポリスチレン系樹脂」に相当する。
また,甲1発明における「発泡剤」は,上記第4の1(7)の記載事項からして,「物理発泡剤」を意味している。
また,甲1発明における「安定剤」は,上記第4の1(4)の記載事項からして,本件特許発明1における「熱安定剤」に相当する。
また,甲1発明における「臭素化スチレンブタジエンポリマー」は,「臭素系難燃剤」の一種であり,本件特許発明1における「臭素化ブタジエン‐スチレン共重合体」及び「臭素系難燃剤」に相当する。そして,甲1には,臭素系の難燃剤として臭素化スチレンブタジエンポリマー以外を用いることが記載されていないことから,甲1発明は「臭素系難燃剤中の臭素化ブタジエン-スチレン共重合体の配合割合が50重量%以上」であるとの本件特許発明1の条件を満たすものである。
さらに,上記第4の1(6)の記載事項からして,甲1発明における「難燃剤組成物を調製」することについては,「溶融混練」することによって行うものと解される。

してみると,本件特許発明1と甲1発明は,
「ポリスチレン系樹脂,物理発泡剤,臭素系難燃剤,及び熱安定剤を含む発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡体を製造する方法において,
該臭素系難燃剤が臭素化ブタジエン‐スチレン共重合体を含み,
該臭素系難燃剤中の臭素化ブタジエン‐スチレン共重合体の配合割合が50重量%以上であり,
溶融混練してなる難燃剤組成物を押出機に供給する,
ポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。」
という点で一致し,下記の相違点を有する。

・相違点1-1
臭素系難燃剤の総配合量について,本件特許発明1では「ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5?10重量部であり,」と特定するのに対し,甲1発明ではこのような特定がない点。

・相違点1-2
熱安定剤について,本件特許発明1では「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり,該フェノール系熱安定剤の配合量が,臭素系難燃剤の総配合量100重量部に対して1?10重量部であ」ると特定するのに対し,甲1発明ではこのような特定がない点。

・相違点1-3
難燃剤組成物について,本件特許発明1では「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物」と特定するのに対し,甲1発明では「臭素化スチレンブタジエンポリマーならびに安定剤及びスチレン系樹脂を含む難燃剤組成物」としている点。

事案に鑑み,先に相違点1-2及び相違点1-3について検討する。
・相違点1-2について
甲1には,「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり」に相当する事項は記載されていない。
また,第4の1(4)で示したように,甲1には,「安定剤として,エポキシ化合物,フェノール系安定剤,ホスファイト系安定剤,多価アルコール部分エステル,及びヒンダートアミン系安定剤からなる群より少なくとも2種以上選ばれる安定剤を含有することが好ましい。」として,選択によっては「フェノール系安定剤」及び「ホスファイト系安定剤」とを共に選び得ることは記載されているが,「フェノール系安定剤」と「ホスファイト系安定剤」との組み合わせが他の組み合わせに比して有利な効果を発揮する旨の記載はない。
また,第4の1(5)で示したように,甲1には,フェノール系安定剤の例として,「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート」(本件特許明細書【0060】で「融点:52℃」とされているヒンダードフェノール系熱安定剤)が開示されているが,別のフェノール系安定剤である「ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]」(本件特許明細書【0060】で「融点:115℃」とされているヒンダードフェノール系熱安定剤)について「価格および性能面で好ましく用いられる」としており,必ずしも本件特許発明1に相当する上記「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート」を積極的に採用する旨の記載はない。
してみると,上記相違点1-2は実質的な相違点であると言える。
また,後述するように,甲2にも「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり」に相当する事項は記載されていない。
したがって,相違点1-2に係る構成は,甲1及び甲2に記載も示唆もされておらず,また,上記構成を有するようにすることが,本件特許の出願前において周知技術でもないことから甲1発明から当業者が容易になし得たものでもない。

・相違点1-3について
甲1発明は,上記第4の1(2)に示したように,「熱安定性能,難燃性能,外観良好性,断熱性能が改善されたスチレン系樹脂押出発泡体および,その製造方法を提供することを目的とする。」ことを解決しようとする課題とするものである。また,甲1発明の「難燃剤組成物」については,第4の1(4)の記載のとおり,「難燃剤組成物中のスチレン系樹脂の比率が極めて少なくなる」場合において,「該組成物が脆化する傾向にあり,製造が困難となる傾向にある。また,難燃剤の分解が発生する傾向にあり,難燃剤組成物の外観不良,引いては発泡体の外観不良に繋がる恐れがある。」であるものと理解されるから,難燃剤組成物中にスチレン系樹脂を含ませることは必須の構成である。
一方,本件特許発明1の「難燃剤組成物」は「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる」と記載されているとおり,「ポリスチレン系樹脂」が含まれるものではなく,また,本件特許明細書の記載を参酌しても,「ポリスチレン系樹脂」を「難燃剤組成物」中に含むことを意図するものでもない。
してみると,上記相違点1-3は実質的な相違点である。
また,後述するように,甲2にも「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物」に相当する事項は記載されていない。
したがって,本件特許発明1の難燃剤組成物をスチレン系樹脂を含まない,「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物」とする構成は甲1及び甲2には記載も示唆もされておらず,また,上記構成とすることが,本件特許の出願前において周知技術でもないことから甲1発明から当業者が容易になし得たものでもない。

・本件特許発明1が奏する効果の検討
本件特許発明1は,「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満」であるとの構成を有することによって,「従来のフェノール系熱安定剤と併用しても効果が得られにくかったホスファイト系熱安定剤を用いた場合でも,発泡体の黒点や黄変の発生を抑制することが可能となる」との効果を奏するものである(本件特許明細書【0010】,【0071】など)。
そして,これらの効果については,甲1及び甲2の記載事項から当業者が予測し得たものでもない。

以上より,相違点1-1について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲1に記載された発明ではなく,また,甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6はいずれも本件特許発明1の構成要素をすべて含む「ポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法」に関する発明であるから,上記(1)で検討したことと同様に,本件特許発明2ないし4及び6については甲1に記載されたものではなく,また,本件特許発明2ないし6については甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないと判断される。

2 申立理由2-2について
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の,「スチレンのポリマーまたはコポリマー」は「ポリスチレン系樹脂」に相当する。
また,甲2発明の「臭素化ブタジエンホモポリマーまたは臭素化スチレン/ブタジエンブロックコポリマー」は,「臭素系難燃剤」の一種であり,本件特許発明1の「臭素化ブタジエン-スチレン共重合体」及び「臭素系難燃剤」に相当する。
また,甲2には,臭素系の難燃剤として臭素化ブタジエンホモポリマーまたは臭素化スチレン/ブタジエンブロックコポリマー以外を用いることが記載されていないことから,甲2発明は「臭素系難燃剤中の臭素化ブタジエン-スチレン共重合体」の配合割合が「50重量%以上」であるとの本件特許発明1の条件を満たすものである。
さらに,甲2発明の,「アルキルホスファイト」及び「エポキシ化合物」については,上記第4の3(11)の記載事項より,本件特許発明1の「熱安定剤」に相当する。

してみると,本件特許発明1と甲2発明は,
「ポリスチレン系樹脂,臭素系難燃剤,及び熱安定剤を含む発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡体を製造する方法において,
該臭素系難燃剤が臭素化ブタジエン-スチレン共重合体を含み,
該臭素系難燃剤中の臭素化ブタジエン-スチレン共重合体の配合割合が50重量%以上である,
ポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法。」
である点で一致し,以下の相違点を有する。

・相違点2-1
発泡体を製造する方法において,本件特許発明1は,ポリスチレン系樹脂,物理発泡剤,臭素系難燃剤,及び熱安定剤を含む発泡性樹脂溶融物を押出発泡させるものであるのに対し,甲2発明は,「溶融バルクポリマーおよび脂肪族臭素含有ポリマーまたは脂肪族臭素含有コポリマーを含有する混合物を,(1)少なくとも1種のアルキルホスファイト,(2)少なくとも1種のエポキシ化合物または(3)少なくとも1種のアルキルホスファイトと少なくとも1種のエポキシ化合物との混合物,の存在下で溶融加工する」ものであり,「溶融加工」されたものに「物理発泡剤」を含まない点。

・相違点2-2
臭素系難燃剤の総配合量について,本件特許発明1は「該臭素系難燃剤の総配合量が,ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5?10重量部であり,」と特定するのに対し,甲2発明ではこのような特定がない点。

・相違点2-3
熱安定剤について,本件特許発明1では「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり,該フェノール系熱安定剤の配合量が,臭素系難燃剤の総配合量100重量部に対して1?10重量部であり,」と特定するのに対し,甲2発明ではこのような特定がない点。

・相違点2-4
難燃剤組成物について,本件特許発明1では「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物」と特定するのに対し,甲2発明ではこのような特定がない点。

事案に鑑み,相違点2-3及び相違点2-4について先に検討する。
・相違点2-3について
甲2には,「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり」に相当する事項は記載されていない。
甲2には,上記第4の3(11)に示したように,「市販の酸化防止剤C」として「Irganox^(TM) 1076」が「安定剤」として記載されており,これは本件特許明細書【0060】の記載から,融点52℃のヒンダードフェノール系熱安定剤である,「オクタデシル3-(3,5-ジ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート」である。
しかし,甲2発明は,上記第4の4で説示のとおり,臭素化FR添加剤が温度230?250℃で熱的に分解しないこと,かつゲル化を引き起こさないことを目的とするものである。
また,上記「市販の酸化防止剤C」について,【表1】における「5%WLT」の欄は「207」,「エージング後可溶性?」の欄は「可溶ではない」と記載されており,これは207℃で5%WLTとなる,すなわち230?250℃よりも低い温度で臭素化FR添加剤の熱分解を引き起こすものであって,また,可溶ではない,すなわちゲル化を引き起こすものであるから,「市販の酸化防止剤C」の使用は,甲2発明の目的からすると不適なものである。
そうすると,甲2に上記第4の3(7)のように「他の安定剤」が「アルキルホスファイトおよびエポキシ化合物に加えて,存在できる。」と記載され,また,甲1に上記第4の1(4)のように「安定剤として,エポキシ化合物,フェノール系安定剤,ホスファイト系安定剤,多価アルコール部分エステル,及びヒンダートアミン系安定剤からなる群より少なくとも2種以上選ばれる安定剤を含有することが好ましい。」と記載されているとしても,上記市販の酸化防止剤Cを併せて用いることは当業者が通常採用し得るものではない。
してみると,上記相違点2-3は実質的な相違点であると言える。
また,前述のとおり,甲1にも「該熱安定剤がフェノール系熱安定剤とホスファイト系熱安定剤とを含み,該フェノール系熱安定剤の融点が60℃未満であり」に相当する事項は記載されていない。
したがって,相違点2-3に係る構成は,甲1及び甲2に記載も示唆もされておらず,また,上記構成を有するようにすることが,本件特許の出願前において周知技術でもないことから甲2発明から当業者が容易になし得たものでもない。

・相違点2-4について
甲2には,上記第4の3(9)で示したように「バルクポリマーおよび脂肪族臭素含有ポリマーは,溶融加工操作の前に溶融ブレンドでき,そして溶融された混合物またはブレンド物の粒子を溶融加工操作に導入できる。」と記載されているが,バルクポリマーに換えて,熱安定剤を溶融加工操作の前に脂肪族臭素含有ポリマーを溶融ブレンドすることが記載されているものではない。
一方,本件特許発明1の「難燃剤組成物」は「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる」と記載されているとおり,バルクポリマーとしての「ポリスチレン系樹脂」が難燃剤組成物中に含まれるものではなく,また,本件特許明細書の記載を参酌しても,「ポリスチレン系樹脂」を「難燃剤組成物」中に含むことを意図するものでもない。
してみると,上記相違点2-4は実質的な相違点である。
また,前述のとおり,甲1にも「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物」に相当する事項は記載されていない。
したがって,本件特許発明1の難燃剤組成物をスチレン系樹脂を含まない,「該臭素化ブタジエン-スチレン共重合体,フェノール系熱安定剤,及びホスファイト系熱安定剤を,これらを溶融混練してなる難燃剤組成物」とする構成は甲1及び甲2には記載も示唆もされておらず,また,上記構成とすることが,本件特許の出願前において周知技術でもないことから甲2発明から当業者が容易になし得たものでもない。

・本件特許発明1が奏する効果の検討
上記1(1)「本件特許発明1が奏する効果の検討」で示したような効果について検討するに,甲2発明及び甲1の記載事項から当業者が予測し得たものでもない。

以上より,相違点2-1及び相違点2-2について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6はいずれも本件特許発明1の構成要素をすべて含む「ポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法」に関する発明であり,本件特許発明2ないし6と甲2発明との間には,上記(1)で検討した相違点2-3及び相違点2-4が存在することから,本件特許発明2ないし6についても,甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断される。

第6 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-26 
出願番号 特願2015-120332(P2015-120332)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤田 雅也  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 須藤 康洋
神田 和輝
登録日 2019-09-20 
登録番号 特許第6588245号(P6588245)
権利者 株式会社ジェイエスピー
発明の名称 ポリスチレン系樹脂発泡体の製造方法  
代理人 廣澤 邦則  

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