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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23F |
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管理番号 | 1364033 |
異議申立番号 | 異議2020-700188 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-18 |
確定日 | 2020-07-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6576202号発明「光劣化が抑制された容器詰め茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6576202号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6576202号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年10月15日に出願され、令和1年8月30日にその特許権の設定登録がされ、同年9月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年3月18日付けで特許異議申立人 長谷川 清より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6576202号の請求項1?7に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお、以下、これらを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。 「【請求項1】 単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である容器詰め茶飲料において、茶飲料にカラメルを含有させることにより、茶飲料成分の光劣化が抑制された容器詰め茶飲料。 【請求項2】 カラメルの含有量が、飲料当たり、0.0005?0.2重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の茶飲料成分の光劣化が抑制された容器詰め茶飲料。 【請求項3】 容器詰め茶飲料が、茶パウダー、茶エキス、又は粉砕茶葉から抽出された抽出液のいずれか1種以上を含有する容器詰め茶飲料であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の茶飲料成分の光劣化が抑制された容器詰め茶飲料。 【請求項4】 容器詰め茶飲料が、紅茶飲料であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の茶飲料成分の光劣化が抑制された容器詰め茶飲料。 【請求項5】 容器詰め茶飲料が、光透過性容器に充填された容器詰め茶飲料であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の茶飲料成分の光劣化が抑制された容器詰め茶飲料。 【請求項6】 単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である容器詰め茶飲料の製造において、茶飲料にカラメルを飲料当たり、0.0005?0.2重量%の量で添加含有させることにより、茶飲料成分の光劣化が抑制された容器詰め茶飲料の製造方法。 【請求項7】 単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である容器詰め茶飲料の製造において、茶飲料にカラメルを飲料当たり、0.0005?0.2重量%の量で添加含有させることにより、容器詰め茶飲料の飲料成分の光劣化を抑制する方法。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人 長谷川 清(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第7号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、異議申立の理由として、以下の取消理由を主張している。 1 取消理由 (1)取消理由1(進歩性) 本件特許発明1?7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された以下の甲1に記載された発明並びに甲2?7に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。 (2)取消理由2(実施可能要件) 本件特許発明1?7に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。 (3)取消理由3(サポート要件) 本件特許発明1?7に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。 2 証拠方法 (1)甲1:国際公開第2009/116538号 (2)甲2:国際公開第2013/115214号 (3)甲3:八木一文,秋谷年見著,“食品の酸化とその防止”,株式会社 光琳書院,昭和43年7月15日再版,p.4-9 (4)甲4:市川朝子,藤井聡,河本正彦,“各種カラメル色素のリノール 酸に対する抗酸化作用”,日本食品工業学会誌,1975年4 月,第22巻,第4号,p.159-163 (5)甲5:特開2015-54号公報 (6)甲6:特開2002-356695号公報 (7)甲7:特開2006-262735号公報 第4 甲号証に記載された事項 1 甲1には、以下の事項が記載されている。 (甲1a)「[0001]本発明は、・・・茶葉の溶媒抽出物に含まれうるグリセロ糖脂質を有効成分として用いる、茶飲料の呈味の改善に関する。」 (甲1b)「[0006]・・・しかし、容器詰茶飲料、特にペットボトルやガラス瓶等の透明容器に充填された茶飲料は、保存中における沈殿抑制の観点から、茶葉抽出液から、茶葉由来の粒子や茶葉組織の微細片を除去する工程を経て製造され、また室温以下の温度(例えば、冷蔵温度)で飲用されることが多い。そのため、茶特有のおいしさ(呈味、嗜好性)という観点からは物足りず、茶のもつコク味、旨味が不足し薄くて水っぽい、コク味、旨味とカテキン類の苦味、渋味とのバランスが悪いという欠点を有する。 [0007]本発明者らは、茶飲料について、コク味成分となる画分を分取することを検討した。その結果、ある茶抽出物に含まれうる、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分がコク味と相関のある成分であることを見出した。・・・ [0008]また、このゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分をさらに分画し、コク味改善に有効な成分を探索した結果、グリセロ糖脂質であることを明らかにした。そして、400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分が0.30μg/ml(色素換算量)以上、すなわちグリセロ糖脂質が1.0μg/ml以上となるように調整した茶飲料は、豊かなコク味を有し、濃厚感のある茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。」 (甲1c)「[0018]本発明の茶飲料の呈味改善剤は、茶葉の溶媒抽出物で、グリセロ糖脂質を有効成分として含有する。本発明におけるグリセロ糖脂質とは、1?3個の単糖類で構成される糖鎖がジアシルグリセロールにエステル結合した糖脂質をいう。グリセロ糖脂質に含まれる糖鎖を構成する単糖類としては、ガラクトース、グルコース、マンノース、フラクトース、キシロース、アラビノース、フコース、キノボース、ラムノース、スルフォキノボース(Sulfoquinovose)等が挙げられ、アシル基は、飽和又は不飽和の炭素数6?24個の直鎖、又は分岐鎖状の脂肪酸残基が挙げられ、具体的にはリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが挙げられる。」 (甲1d)「[0029]本発明の呈味改善剤は、所定量のグリセロ糖脂質を含むものであればどのような形態として利用しても構わない。具体的には、粉砕茶葉の溶媒抽出物をそのまま或いは水又は茶抽出液で希釈して茶飲料に配合して利用する方法、溶媒抽出物を濃縮して、場合によりさらに乾燥してエキス又は粉体として茶飲料に配合して利用する方法等が挙げられる。エキスや乾燥粉体の製造は、公知の方法により行うことができる。」 (甲1e)「[0034]また、本発明の茶飲料は、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上、好ましくは1.5μg/ml以上含有させることにより、粉末茶飲料で生じがちな長期保存における沈殿を抑制できる。・・・平均粒子径が1μm未満の不溶性固形分を含有する粉末茶飲料は、平均粒子径が1μm以上のものと比較すると沈殿の発生が抑制されるが、常温で3ヶ月以上保存されるような長期保存を伴う容器詰茶飲料では、沈殿の発生を完全に解決するに至っていない。しかし、本発明の特定量以上のグリセロ糖脂質を含有する茶飲料では、グリセロ糖脂質がコロイド分散系として存在するので、茶飲料の長期保存における凝集沈殿や不溶性固形分の沈殿などを抑制することができ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料となる。・・・粉末茶含有飲料は、680nmにおける吸光度が0.02?0.25、好ましくは0.02?0.20、より好ましくは0.02?0.15となるように調整する。このような特定範囲の吸光度に調整された粉末茶含有飲料は、コク味が増すという粉末茶葉を多く含む飲料の利点を有しつつ、粉砕茶葉固有の収斂味や不溶性成分由来のざらつきのない後味のすっきりとした茶飲料で、上述の沈殿抑制作用が顕著に発揮される茶飲料である。」 (甲1f)「[0038]本発明の茶飲料は、本発明の呈味改善剤をそのまま或いは水で希釈して茶飲料としてもよい・・・」 (甲1g)「[0043]本発明により茶飲料特有の適度な渋味を有しながらも旨味・コク味が増強された容器詰茶飲料(特に、緑茶飲料)が提供される。・・・得られた茶飲料を殺菌して容器に充填する、又は容器に充填した後に加熱殺菌(レトルト殺菌等)を行うことで、容器詰茶飲料とすることができる。・・・ [0044]なお、本発明の茶飲料を充填する容器としては、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、ガラス瓶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。このように製造される本発明の容器詰茶飲料は、コロイド分散系に存在するグリセロ糖脂質を含有する。このコロイド分散系の存在により、コク味が付与されるばかりか、保存中における風味や色、沈殿等の変化も抑制することができるので、特に、透明容器(例えばPETボトル、ガラス瓶)を充填容器として使用する場合、好ましい。」 (甲1h)「[0079]実施例2.茶飲料の製造(1) 実施例1で製造したおよそ50μg/mlのpeak1成分を含有する呈味改善剤(20μg/mlのグリセロ糖脂質を含有する呈味改善剤)を、種々の濃度(呈味改善剤:緑茶抽出液=0?5:10?5)で緑茶抽出液に添加して茶飲料を製造した。・・・ [0080]得られた茶飲料(10種類)について、実施例1と同様の方法でpeak1成分量(色素換算量)及びグリセロ糖脂質量を求めた。また、分光光度計(・・・)を用い、680nmにおける吸光度を測定した。さらに、カテキン類含量を測定した。・・・ ・・・ [0082]さらに、茶飲料を500mlペットボトルに充填し、殺菌(130℃、1分)を行った後、常温で1ヶ月間保存して、沈殿の発生の有無を目視で確認した。 [0083]結果を表4及び5に示す。・・・peak1成分が色素換算で0.30μg/ml以上(グリセロ糖脂質1.0μg/ml以上)含有する茶飲料に、従来の容器詰茶飲料にはなかった急須で淹れた茶と同様の濃厚なコク味が感じられ、特に0.50μg/ml以上(グリセロ糖脂質1.5μg/ml以上)で顕著なコク味が感じられた。カテキンあたりのグリセロ糖脂質(GDG/カテキン類)が0.001以下であるとカテキンの苦味、渋味が顕著に感じられたが、0.001を超えるとカテキンの苦味、渋味がややマスクされた。0.003では、適度な渋味を有しながらも旨味やコク味が感じられる飲料であった。これより、カテキンあたりのグリセロ糖脂質(GDG/カテキン類)が0.002以上、好ましくは0.003以上となるようにグリセロ糖脂質とカテキン類とを調整することで、冷蔵温度で飲用してもカテキン類の苦味や渋味がマスクされ、コク味とバランスのとれたドリンカビリティの高い茶飲料となることが示唆された。 [0084]また、680nmにおける吸光度は、官能評価ですっきり感と負の相関があった(・・・)。吸光度が0.30程度であるとすっきり感が感じられず、0.25以下ですっきり感が得られた。・・・ ・・・ [0086][表4] 」 (甲1i)「請求の範囲 [1]粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含み、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下である、茶飲料。 [2]カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含む、請求項1記載の茶飲料。」 2 甲2には、以下の事項が記載されている。 (甲2a)「[0039][実験例2] 抹茶とキサンタンガムと水の合計量中で、抹茶の割合が1.6重量%、キサンタンガムの割合が0.2重量%になるように水と混合して、分散液を調製した。 次いで、この分散液160gを透明容器に入れて、4個の試料(透明容器入り飲食品を模したもの)を作製した。 4個の試料の各々を、特定の波長領域に高い吸光特性を有する遮光性フィルター(青色、緑色)、アルミ箔(略遮光状態としての対照)、及び透明フィルム(透光状態としての対照)のいずれかで覆った。それぞれの試料について、-25℃の温度で冷却させた状態下で、約2,000ルクスの光を2日間照射する曝露試験を行った。その後、以下に示す方法によって、香気成分分析を実施した。。 [0040]・・・ 測定は、「2-Heptenal」(2-ヘプテナール)及び「1-Octen-3-one」(1-オクテン-3-オン)について行なった。これら2種の成分は、酸化の指標成分である。対照である透明のフィルムを施した試料での、これら2種の成分の生成量を100とした場合に、オフフレーバーの指標物質としている「2-Heptenal」及び「1-Octen-3-one」の検出量の相対値を算出することで、各試料間のオフフレーバー抑制効果の優劣を比較した。 [0041]・・・ 前記のとおり、緑色と青色のいずれかの遮光性フィルムを施した試料の相対値は、2-ヘプテナール及び1-オクテン-3-オンのいずれについても、透明フィルムを施した試料の基準値に比べて、非常に小さかった(・・・)。 産業上の利用可能性 [0042]本発明の透明容器入り飲食品は、太陽光や蛍光灯の影響を受けやすい店頭に陳列販売された場合であっても、光曝露による酸化に起因するオフフレーバーの発生が少なく、飲食時に金属臭などのオフフレーバーを呈さないという優れた特性を有する。本発明の透明容器入り飲食品は、ショーケースなどの店頭陳列であっても、長期間に亘って販売することが可能である。」 3 甲3には、以下の事項が記載されている。 (甲3a)「多くの食用油脂からその酸化分解産物を得ようとする多くの試みがあるが,検出されたものは自動酸化の理論によって生成の説明をつけにくいものがある.その理由はおそらく自動酸化過程での二重結合の移動やシス→トランス転位によるものであろう.注目をひく酸化産物として,リノール酸からの1-octen-3-ol(マツタケオール-マツタケの香気成分)や1-octen-3-oneをあげよう.」(9頁4?9行) 4 甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4a)「各種カラメル色素のリノール酸に対する抗酸化作用」(タイトル) (甲4b)「製造方法の異なるカラメル(A:glucose-NaOH-(NH_(4))_(2)SO_(3),B:glucose-NH_(4)OH,C:glucose-Na_(2)SO_(3)-(NH_(4))_(2)SO_(3),D:sucrose+加熱)のリノール酸に対する抗酸化力について検討した。結果は以下に示すとおりである。 (1)4種類のカラメルは,いずれも添加量の増すにつれて,抗酸化力は急激に大きくなる。各カラメルの抗酸化力は,BHAの効力と比べ,カラメルBがほぼ1/11,A,Cが1/100,Dは1/500とみなされた(・・・)。」(162頁右欄下から2行?163頁左欄7行) 5 甲5には、以下の事項が記載されている。 (甲5a)「【請求項1】 次の成分(A)及び(B); (A)非重合体カテキン類:0.05?0.5質量% (B)カラメルIV :固形分換算で0.0001?0.5質量% を含有し、 pHが2?5である、茶抽出物含有容器詰飲料。」 (甲5b)「【0005】 しかしながら、天然着色料としてカラメルIを用いた場合には、保存時の濁りや沈殿の生成による外観の変化や保存時の風味の変化については依然検討の余地があることを、本発明者は見出した。」 (甲5c)「【0011】 また、本発明の容器詰飲料は、保存時の沈殿物生成及び風味変化を抑制するために、(B)カラメルIVを含有する。ここで、本明細書において「カラメルIV」とは、第8版食品添加物公定書(厚生労働省)に記載のカラメルIVを意味し、でん粉加水分解物、糖蜜又は糖類の食用炭水化物に、亜硫酸化合物及びアンモニウム化合物を加えて、又はこれに酸若しくはアルカリを加えて熱処理して得られるものである。」 (甲5d)「【0027】 本発明の容器詰飲料は、茶飲料又は非茶飲料とすることができる。茶飲料としては、例えば、緑茶飲料等の不発酵茶飲料、烏龍茶飲料等の半発酵茶飲料、紅茶飲料等の発酵茶飲料が挙げられ、・・・ 【0028】 本発明の容器詰飲料は、茶抽出物と(B)カラメルIVを配合し、(A)非重合体カテキン類及び(B)カラメルIVの各濃度、並びにpHを調整して製造される。」 (甲5e)「【0033】 本発明の容器詰飲料に使用できる容器としては、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器が挙げられる。 ・・・ また、容器は、着色された容器でも、透明容器でもよいが、沈殿物を確認しやすい透明容器が好ましい。ここで「透明容器」とは、実質的に容器底部の沈殿物の有無を目視にて確認できるものをいう。」 6 甲6には、以下の事項が記載されている。 (甲6a)「【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記のごとき従来型の粉末素材について、その欠点を解決すべく鋭意研究を行った結果、香料または機能性物質の乳化の際に、カラメルなどの色素材料を配合して得る粉末素材を、特定のハンター表色法によるL値に設定することにより、香料およびビタミン類等の機能性物質の耐光性に優れた粉末状混合物が得られること、そしてその粉末状混合物は、各種の飲食品、化粧品、飼料などの香気、香味、嗜好性などに悪影響を与えることなく、飲食品、化粧品および飼料などに長期間安定に香気、香味および/または機能性を付与することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。」 7 甲7には、以下の事項が記載されている。 (甲7a)「【0007】 本発明によれば、褐色液体と耐光性の劣るビタミン類とを共存させることにより、上記褐色液体中の褐色色素が光を吸収し、上記耐光性の劣るビタミン類を光から保護することができる。したがって、安価な方法で、透明容器に充填させた液体飲料の光に対する安定性を向上させることができるため、透明容器に充填させた液体飲料に耐光性の劣るビタミン類を配合することが可能となる。 ・・・ 【0009】 さらに本発明においては、上記褐色液体が、カラメル色素、ココア色素、テアフラビンからなる群から選択される1種または2種以上の褐色色素を含有することが好ましい。これらの色素を含有することにより、耐光性の劣るビタミン類を光からより保護することが可能となるからである。」 第5 当審の判断 1 取消理由1(進歩性)について (1)甲1に記載された発明 ア 甲1には、請求項1?2からみて(上記(甲1i))、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。 甲1発明A: 「粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含み、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下であり、 カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含む、茶飲料。」 イ 甲1には、甲1発明Aの茶飲料を製造した実施例2の記載からみて(上記(甲1h))、さらに次の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。 甲1発明B: 「粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含ませ、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下とし、 カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含ませる、茶飲料の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。 本件特許発明1の茶飲料は、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が特定されているのであるから、タンニン及びグリセロ糖脂質を含むものである。 そして、本件特許明細書【0025】に「タンニン量とは、非重合タイプのカテキンや、重合タイプのカテキンなど、茶飲料あるいは茶抽出液中のポリフェノール量をトータルで表す数値であり、茶飲料の濃さの指標となる数値である。」と記載されているから、甲1発明Aの「カテキン類」は、本件特許発明1の「タンニン」に含まれる。 したがって、甲1発明Aと本件特許発明1とは、「タンニン及びグリセロ糖脂質」とを含む点で共通する。 甲1発明Aの「茶飲料」は、本件特許発明1の「容器詰め茶飲料」と「茶飲料」である点で共通する。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点1?3を有する。 一致点: 「タンニン及びグリセロ糖脂質を含む茶飲料。」である点。 相違点1: 本件特許発明1は「容器詰め茶飲料」であるのに対し、甲1発明Aは容器詰めであるとは特定されていない点。 相違点2: 本件特許発明1は「単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である」容器詰め茶飲料であるのに対し、甲1発明Aは「カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含む」茶飲料である点。 相違点3: 本件特許発明1は「茶飲料にカラメルを含有させることにより、茶飲料成分の光劣化が抑制された」容器詰め茶飲料であるのに対し、甲1発明Aは「粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含み、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下」である茶飲料である点。 イ 判断 上記相違点について検討する。 (ア)相違点1について 甲1には、茶飲料を容器詰め茶飲料とすることができると記載されているから(上記(甲1g))、相違点1は実質的な相違点ではない。 また、実質的な相違点であるとしても、甲1発明Aの茶飲料を容器詰め茶飲料とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (イ)相違点2について 甲1発明Aの茶飲料は、「カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含む」ものであるところ、カテキン類量とタンニン量とは完全に一致するものではないが、大きく相違しないといえるから、甲1発明Aの単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率は、0.002程度であるといえ、相違点2は、実質的な相違点ではない。 また、実質的な相違点であるとしても、甲1の実施例2には、カテキンあたりのグリセロ糖脂質が0.003以上となるように調整することで、飲みやすい茶飲料となることが記載されており(上記(甲1h))、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である茶飲料とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (ウ)相違点3について a 甲1は、茶葉の溶媒抽出物に含まれうるグリセロ糖脂質を有効成分として用いる茶飲料の呈味の改善に関する技術を開示するものである(上記(甲1a))。 そして、甲1には、透明容器に充填された茶飲料は、保存中における沈殿抑制の観点から、茶葉抽出液から、茶葉由来の粒子や茶葉組織の微細片を除去する工程を経て製造されるため、茶特有のおいしさ(呈味、嗜好性)という観点からは物足りず、茶のもつコク味、旨味が不足し薄くて水っぽい、コク味、旨味とカテキン類の苦味、渋味とのバランスが悪いという欠点を有すること、茶抽出物に含まれうる、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分に含まれるグリセロ糖脂質がコク味改善に有効な成分であること、グリセロ糖脂質が1.0μg/ml以上となるように調整した茶飲料は、豊かなコク味を有し、濃厚感のある茶飲料であることが記載されている(上記(甲1b))。 また、甲1には、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上含有させることにより、粉末茶飲料で生じがちな長期保存における沈殿を抑制できること、特定量以上のグリセロ糖脂質を含有する茶飲料では、グリセロ糖脂質がコロイド分散系として存在するので、茶飲料の長期保存における凝集沈殿や不溶性固形分の沈殿などを抑制することができ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料となること、680nmにおける吸光度が0.02?0.25となるように調整された粉末茶含有飲料は、コク味が増すという粉末茶葉を多く含む飲料の利点を有しつつ、粉砕茶葉固有の収斂味や不溶性成分由来のざらつきのない後味のすっきりとした茶飲料であり、沈殿抑制作用が顕著に発揮される茶飲料であることが記載されている(上記(甲1e))。 さらに、コロイド分散系に存在するグリセロ糖脂質を含有し、コロイド分散系の存在により、コク味が付与されるばかりか、保存中における風味や色、沈殿等の変化も抑制することができるので、透明容器を充填容器として使用する場合に好ましいことも記載されている(上記(甲1g))。 以上のことからすると、甲1発明Aは、相違点3に係る構成を採用することにより、透明容器を使用しても保存中における風味や色、沈殿等の変化を抑制したものであるといえ、光劣化を抑制するという課題はなく、本件特許発明1に記載された「カラメルを含有させることにより、茶飲料成分の光劣化が抑制された」ものとする動機付けはない。 b 甲1には、グリセロ糖脂質とは、1?3個の単糖類で構成される糖鎖がジアシルグリセロールにエステル結合した糖脂質をいい、アシル基は、飽和又は不飽和の炭素数6?24個の直鎖、又は分岐鎖状の脂肪酸残基が挙げられ、具体的にはリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが挙げられることが記載されている(上記(甲1c))。 甲2には、抹茶とキサンタンガムと水とを含む分散液(透明容器入り飲食品を模したもの)について、約2,000ルクスの光暴露試験を行い、酸化の指標成分として、金属臭などのオフフレーバーの指標物質である1-Octen-3-one(1-オクテン-3-オン)を測定したことが記載されている(上記(甲2a))。 甲3には、食用油脂からの酸化産物として、リノール酸からの1-octen-3-oneがあげられることが記載されている(上記(甲3a))。 甲4には、各種カラメル色素のリノール酸に対する抗酸化作用についての記載がある(上記(甲4a))。 甲5には、保存時の沈殿物生成及び風味変化を抑制するために、カラメルIVを含有させた、非重合体カテキン類を含有する茶抽出物含有容器詰飲料が記載されている(上記(甲5a)、(甲5c)?(甲5e))。 甲6には、カラメルなどの色素材料を配合して得る粉末素材を、特定のハンター表色法によるL値に設定することにより、香料およびビタミン類等の機能性物質の耐光性に優れた粉末状混合物が得られることが記載されている(上記(甲6a))。 甲7には、カラメル色素などから選択される褐色色素を含有する褐色液体により、耐光性の劣るビタミン類を光から保護することができるため、透明容器に充填させた液体飲料に耐光性の劣るビタミン類を配合可能となることが記載されている(上記(甲7a))。 しかしながら、上記甲1?7の記載を考慮しても、甲1発明Aにおいて、光劣化に着目し、カラメルを含有させることにより、茶飲料成分の光劣化が抑制されたものとする動機付けがないことに影響を与えるものではない。 (エ)本件特許発明1の効果について 本件特許発明1は、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である容器詰め茶飲料に、カラメルを含有させることにより、本件特許明細書【0018】記載の「各種茶飲料が、光透過性容器等で流通、保存が行われる中で、光劣化が抑制され、安定した香味を有する容器詰めの茶飲料を提供する」という、甲1からは予測できない効果を奏するものである。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は、甲1発明A並びに甲1?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明2?5について 本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「カラメルの含有量が、飲料当たり、0.0005?0.2重量%である」ことを更に特定するものである。 本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「容器詰め茶飲料が、茶パウダー、茶エキス、又は粉砕茶葉から抽出された抽出液のいずれか1種以上を含有する容器詰め茶飲料である」ことを更に特定するものである。 本件特許発明4は、本件特許発明1?3を引用して、「容器詰め茶飲料が、紅茶飲料である」ことを更に特定するものである。 そして、本件特許発明5は、本件特許発明1?4を引用して、「容器詰め茶飲料が、光透過性容器に充填された容器詰め茶飲料である」ことを更に特定するものである。 甲1には、粉砕茶葉の溶媒抽出物、溶媒抽出物を濃縮し、乾燥して得られるエキス又は粉体を、そのまま或いは水で希釈して茶飲料としてよいこと(上記(甲1d)、(甲1f))、透明容器を充填容器として使用できることが記載されているから(上記(甲1g))、これらの点に関しては、甲1発明Aと本件特許発明3又は5との間に新たに相違するところはない。 しかしながら、これらの点を考慮しても、上記(2)で検討した本件特許発明1についての判断に影響を与えるものではない。 よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件特許発明6について ア 対比 本件特許発明6と甲1発明Bとを対比すると、上記(2)アで本件特許発明1と甲1発明Aについて検討したのと同様である点に加え、甲1発明Bの茶飲料の製造方法は、本件特許発明6の容器詰め茶飲料の製造方法と、茶飲料の製造方法である点で共通する。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点4?6を有する。 一致点: 「タンニン及びグリセロ糖脂質を含む、茶飲料の製造方法。」である点。 相違点4: 本件特許発明6は「容器詰め茶飲料」であるのに対し、甲1発明Bは容器詰めであるとは特定されていない点。 相違点5: 本件特許発明6は「単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である」容器詰め茶飲料であるのに対し、甲1発明Bは「カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上」含ませる茶飲料である点。 相違点6: 本件特許発明6は「茶飲料にカラメルを飲料当たり、0.0005?0.2重量%の量で添加含有させることにより、茶飲料成分の光劣化が抑制された」容器詰め茶飲料の製造方法であるのに対し、甲1発明Bは「粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含ませ、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下」とした茶飲料の製造方法である点。 イ 判断 上記相違点4?6は、それぞれ上記(2)アに示した相違点1?3と同様であり、その判断については、上記(2)イで検討したとおりである。 したがって、本件特許発明6は、甲1発明B並びに甲1?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件特許発明7について 上記(2)イ(ウ)aで述べたとおり、甲1に記載の茶飲料は、「粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含み、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下」としたことにより、透明容器を使用しても保存中における風味や色、沈殿等の変化を抑制したものであるといえるから、カラメルを添加含有させることにより、光劣化を抑制する方法とする動機付けはない。 また、上記(2)イ(ウ)bでみた、甲1?7の記載を考慮しても、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である容器詰め茶飲料の製造において、茶飲料に特定量のカラメルを添加含有させることにより、容器詰め茶飲料の飲料成分の光劣化を抑制する方法とする動機付けがないことに影響を与えるものでもない。 したがって、本件特許発明7は、甲1?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)申立人の主張について 申立人は、上記(2)イ(ウ)bでみた、甲1?7の記載から、概略次のように主張する。 甲1に記載の茶飲料は、光暴露されると、そこに含まれるグリセロ糖脂質を構成する脂肪酸残基であるリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸が、光によって酸化されることで、オフフレーバーが発生して金属臭などを呈するおそれがあること、その原因成分の少なくとも1つは、リノール酸からの酸化分解産物である1-Octen-3-oneであることは、甲1?3に接した当業者が、容易に想起し得る技術課題であり、この技術課題を解決するために、リノール酸に対して抗酸化作用を有することが知られているカラメルを含有させることで、茶飲料成分の光劣化によって発生する金属臭などのオフフレーバーを抑制することは、甲4?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得ることであり、得られる効果も格別なものではない。 しかしながら、甲1に記載の茶飲料にグリセロ糖脂質が含まれており、グリセロ糖脂質を構成する脂肪酸残基にリノール酸が挙げられているからといって、光劣化の原因物質が脂肪酸残基のうちのリノール酸であることを想定し、そのうえでリノール酸に対する抗酸化作用を有する物質としてカラメルを選択し、これを添加することで光劣化を抑制しようとする動機付けはみいだせないし、光劣化を抑制すべき茶飲料として、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率に注目する理由もない。 したがって、上記申立人の主張は採用できない。 (7)取消理由1(進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。 2 取消理由2(実施可能要件)及び取消理由3(サポート要件)について (1)本件特許発明の解決しようとする課題 本件特許明細書の記載、特に【0009】からみて、本件特許発明1?5、6及び7の解決しようとする課題は、それぞれ「各種茶飲料が、光透過性容器等で流通、保存が行われる中で、該飲料成分の光劣化を防止することにより、光劣化が抑制された容器詰めの茶飲料」、「その製造方法」及び「容器詰め茶飲料の飲料成分の光劣化を抑制する方法」を提供することにあると認める。 (2)本件特許明細書の記載 ア 課題を解決するための手段の記載 「【0010】 本発明者らは、上記課題を解決すべく、各種茶飲料における光劣化を防止する方法について鋭意検討する中で、容器詰め茶飲料の光劣化を抑制するために、まずは茶飲料が光劣化を起こす要因について検討し、該検討の中で、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が一定以上の茶飲料で光劣化が起こることをつきとめた。そしてその上で、その光劣化を抑制する方法を鋭意検討した結果、該茶飲料にカラメルを添加、含有させることにより、該茶成分の光劣化が有効に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。 ・・・ 【0012】 ・・・茶飲料にグリセロ糖脂質を含有する茶飲料が提供されている。また、茶飲料中のグリセロ糖脂質を強化した茶飲料も提供されている。本発明においては、これら各種茶飲料において、単位体積あたりのタンニン量に対する該グリセロ糖脂質量の比率が一定以上の飲料が、光劣化を起こすことをつきとめ、該飲料の光劣化に、カラメルの添加が有効であることを見出し、本発明をなしたものである。」 イ 光劣化に関する記載 「【0020】 <光劣化> ペットボトルのような透明容器に充填された茶飲料を、日光や蛍光灯の下に放置した場合、茶飲料成分の劣化により、茶本来の香気が低減して、代わりに金属臭、梅様臭などのオフフレーバーが発生する。本発明においては、該光による茶飲料成分の劣化を茶飲料の「光劣化」という。 【0021】 茶飲料の光劣化は、すべての茶飲料で同等に生じるわけではなく、本発明においては、該茶飲料の光劣化を起こす茶飲料は単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が一定以上であることをつきとめた。・・・該茶飲料において、単位体積に含まれるタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上の茶抽出液を原料にして製造した茶飲料が光劣化を起こしやすい。・・・ ・・・ 【0024】 グリセロ糖脂質の定量分析は、逆相カラムを用いたHPLC分析系において示差屈折率(RI)検出器、UV検出器等によって検出する公知の方法・・・などにより、分析することができる。 【0025】 一方、タンニン量とは、非重合タイプのカテキンや、重合タイプのカテキンなど、茶飲料あるいは茶抽出液中のポリフェノール量をトータルで表す数値であり、茶飲料の濃さの指標となる数値である。タンニン量は、酒石酸鉄法で測定することが可能である・・・。」 ウ カラメルに関する記載 「【0031】 <カラメル> 本発明では、茶飲料の光劣化を抑制するためにカラメルを添加する。カラメルは食品添加物の分類において、製造方法の違いによってカラメルI?IVの4種類があり、本発明では、そのいずれも使用可能であるが、カラメルIVタイプを使用することが好ましい。 【0032】 カラメルの添加量は、0.0005?0.2重量%添加、含有するのが好ましく、0.001?0.01重量%添加、含有するのがより好ましい。カラメルは他の原料と同様に原料のひとつとして調合の際に添加すればよい。なお、カラメルは、茶本来の香味に影響を与えることなく、茶飲料の光劣化を抑制する効果を有しており、実用性が非常に高い素材である。また、紅茶や烏龍茶であれば、カラメルによる着色の影響もないし、緑茶であっても、添加量を下限値付近に設定すれば着色の影響は限定的なものとなる。着色に影響しない範囲で添加しても、本発明の光劣化抑制効果は有効である。」 エ 実施例の記載 (ア)「【0035】 <紅茶抽出液の光劣化評価用の試験飲料の調製> 次の方法により、光劣化を評価するための、各種紅茶抽出液を用いた試験飲料を調製した。まず、表1に示すA?Dの原料用紅茶抽出液乾燥粉末(紅茶パウダー)を、それぞれ茶葉の使用率が0.4重量%となるようにイオン交換水で溶解して、4種類の紅茶抽出液を得た。また一方、紅茶葉50gを80℃のイオン交換水1500gに入れ5分間保持した後、茶殻を固液分離して得た紅茶抽出液を茶葉使用率が0.4重量%となるように希釈、調整した。以上の5種類の紅茶抽出液に対し、それぞれ果糖ぶどう糖液糖10重量%、クエン酸0.2重量%、クエン酸三ナトリウム0.06重量%を添加して、紅茶飲料調合液を調製した。これらの調合液を190mL溶の透明ガラスビンに170mLずつ充填した後、80℃、10分間、パストライザー殺菌して、試験飲料1?5を調製した。 【0036】 【表1】 」 (イ)「【0037】 <試験飲料の光劣化評価> 透明ビンに充填した試験飲料を、3000ルクス、10℃に設定した光照射機に5日間保存した後、官能評価に供した。保存後の各試験飲料について、紅茶飲料の商品開発に精通したパネラー7名が協議の上、採点をおこなった。基準は、点数3:光劣化が強い、点数2:光劣化が弱い、点数1:光劣化をほぼ又は全く感じない、とした。結果を表2に示す。紅茶パウダーA?Dを用いて調製した試験飲料1?4は光劣化臭を感じることがわかった。 【0038】 【表2】 」 (ウ)「【0039】 <試験飲料の分析> 次の方法により、試験飲料中のグリセロ糖脂質とタンニン量の分析をおこなった。・・・ ・・・ 【0042】 グリセロ糖脂質とタンニン量の分析値、並びに単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率を表4に示す。グリセロ糖脂質量/タンニン量が0.001以上の茶飲料において、光劣化が発生することがわかった。 【0043】 【表4】 」 (エ)「【0044】 <実施例1?3、比較例1> 果糖ぶどう糖液糖10重量%、クエン酸0.2重量%、クエン酸三ナトリウム0.06重量%をイオン交換水に溶解し、さらに前記紅茶パウダーAを茶葉換算で0.4重量%となるように添加した。さらに、IV型カラメルを0.0005重量%、0.001重量%、0.005重量%ずつそれぞれ添加した実施例1?3の調合液並びに、カラメル無添加の比較例1の調合液を得た。その後、190mL容量の透明ビンに170mLずつ充填した後、80℃、10分間パストライザー殺菌をおこなって、実施例1?3及び比較例1の容器詰め茶飲料を調製した。これらの実施例及び比較例の飲料を、前記試験飲料の光劣化評価と全く同様にして保存ならびに官能評価をおこなった。結果を表5に示す。単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.00600である茶飲料に対して、カラメルを0.0005重量%以上添加、添加含有させることにより、本来、光劣化臭を生成するはずの茶抽出液を用いて製造した飲料であっても、光劣化臭が抑えられることがわかった。 【0045】 【表5】 」 (オ)「【0046】 <実施例4、比較例2> 表6に示す処方を用いて、実施例4及び比較例2の調合液を調製した。この調合液をUHT殺菌して350mL容量の透明ペットボトルに充填した。その後、前記、光劣化評価方法に従い、飲料の保存及び評価をおこなった。その結果、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.00219である茶飲料において、カラメルを添加していない比較例2の飲料は香料等による相乗効果の影響もあって金属臭がさらに強く感じられた(評価点数3)が、カラメルを添加した実施例4の飲料は金属臭をほとんど感じず(評価点数1)、製造直後の香味を維持していた。なお、容器に充填直後の飲料は、実施例4と比較例2の間に香味の差異は感じられず、カラメル添加による香味への悪影響が全くないことが確認できた。 【0047】 【表6】 」 (3)判断 上記(2)の本件特許明細書の一般記載及び実施例の記載から、本件特許発明1?7の課題は、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が0.001以上である容器詰め茶飲料において、茶飲料にカラメルを含有させることで解決できることを当業者は理解でき、また、カラメルを添加含有させることで光劣化を抑制できることを当業者は理解できる。 また、本件特許明細書には、本件特許発明1?5及び6の容器詰め茶飲料及びその製造方法について、上記(2)エに実施例を伴い記載されており、本件特許発明7の光劣化を抑制する方法についても同様に、その効果が確認されている。 したがって、本件特許発明1?7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?7の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1?7が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 また、本件特許明細書の発明の詳細は説明の記載は、本件特許発明1?7を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許発明1?7が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (4)申立人の主張について ア 申立人は、発明の詳細な説明の記載不備及び特許請求の範囲の記載不備の理由として、いずれも概略次のように主張する。 (ア)本件特許明細書【0030】に「本発明の容器詰め茶飲料は、光劣化を抑制することができるため、光透過性の容器、例えば、透明な容器である透明ペットボトルや透明ガラスビンなどを有効に利用することができる。」と記載されているが、本件特許発明1では、光透過性容器に特定されていない。 茶飲料にカラメルを含有させた、金属缶などの光透過性ではない容器詰め茶飲料が、茶飲料成分の光劣化が抑制されたものであることは、本件特許明細書で実証されておらず、実証するための方法の記載もない。光透過性ではない容器に詰められた、カラメルを含有させた茶飲料の成分が、流通や保存が行われる中でどのようにして光劣化が抑制されるのか理解できない。 (イ)本件特許明細書【0031】に、カラメルは食品添加物の分類において、製造方法の違いによってカラメルI?IVの4種類があるところ、そのいずれもが、茶飲料の光劣化を抑制するために使用可能であると記載されているが、実施例において茶飲料の光劣化を抑制する効果が実証されているのは、カラメルIVのみである。 甲4に記載されているとおり、4種類のカラメルA?Dは、物質として互いに異なり、リノール酸に対する抗酸化力の程度も異なる(上記(甲4b))。 甲5には、天然着色料であるカラメルIを用いた場合には、保存時の風味の変化については依然検討の余地があることが記載されている(上記(甲5b))。甲5のカラメルI及びIVは、甲4のカラメルD及びCであることが理解できるところ(上記(甲5b)、(甲5c))、甲4において、カラメルDのリノール酸に対する抗酸化力は、カラメルCの1/5であり、甲5におけるカラメルIとIVの効果の差の傾向と共通する。 そうすると、カラメルIVが茶飲料の光劣化を抑制する効果を有することで、他の3種類のカラメルが、カラメルIVと同様の効果を有すると推認することはできない。 (ウ)本件特許明細書【0044】?【0045】の実施例1?3及び比較例1から、カラメル添加量が0.0005重量%の実施例1は、カラメルを添加しない比較例1に比較して、光劣化の抑制が認められるが、カラメル添加量が少なくなるにつれて光劣化の抑制効果が低下しているので、いずれはカラメルを添加することによる光劣化の抑制が認められなくなることは明らかである。 本件特許明細書【0037】?【0038】の試験飲料の光劣化評価によれば、カラメルを添加しない茶飲料でも評価点数2の茶飲料が存在するが(試験飲料4)、こうした茶飲料に0.0005重量%未満の添加量でカラメルを添加することで、光劣化の抑制効果が得られることを、当業者が予測できるとはいえない。 イ 申立人の上記主張について検討する。 上記(ア)については、本件特許明細書全体の記載から、光劣化が生じるところでは、光劣化が抑制されていることが理解でき、光透過性でない容器であれば、そもそも光劣化は生じないから、光劣化が抑制されていることを理解できる。 上記(イ)については、甲4?5の記載から、カラメルIとIVとでは抗酸化作用が異なることが理解できるが、本件特許発明における光劣化の抑制は、抗酸化作用によるものであるとは記載されていない。そして、本件特許明細書全体の記載から、本件特許発明の光劣化を抑制することは、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率が特定の値以上の茶飲料に、カラメルを添加含有させることで、オフフレーバーの発生を抑制し、安定した香味を有するものとすることであることが理解できる。 上記(ウ)については、本件特許明細書の実施例の記載から、カラメルの添加量と光劣化の抑制には相関関係があることが理解できるから、当業者であれば実施例の記載を参照して、単位体積あたりのタンニン量に対するグリセロ糖脂質量の比率に応じて、光劣化を抑制する量のカラメルを添加できるといえる。 よって、申立人の主張する不備はなく、上記申立人の主張は採用できない。 (5)取消理由2(実施可能要件)及び取消理由3(サポート要件)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-07-06 |
出願番号 | 特願2015-203818(P2015-203818) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(A23F)
P 1 651・ 121- Y (A23F) P 1 651・ 537- Y (A23F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池上 京子 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
関 美祝 村上 騎見高 |
登録日 | 2019-08-30 |
登録番号 | 特許第6576202号(P6576202) |
権利者 | キリンホールディングス株式会社 キリンビバレッジ株式会社 |
発明の名称 | 光劣化が抑制された容器詰め茶飲料 |
代理人 | 堀内 真 |
代理人 | 東海 裕作 |
代理人 | 小澤 誠次 |
代理人 | 小澤 誠次 |
代理人 | 園元 修一 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 山内 正子 |