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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1364034
異議申立番号 異議2020-700226  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-02 
確定日 2020-07-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6582973号発明「回転電機およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6582973号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6582973号の請求項1?12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年12月25日に出願され、令和元年9月13日にその特許権の設定登録がされ、令和元年10月2日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和2年4月2日に特許異議申立人久門享は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第6582973号の請求項1?12に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数のスロットが形成されている固定子鉄心と、
前記複数のスロットのうちの一対のスロット間で巻装されており、前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する単位コイルを複数含む固定子コイルと、
を備える固定子と、
前記固定子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と、
前記可動子鉄心に設けられている少なくとも一対の可動子磁極と、
を備える可動子と、
を具備する毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機であって、
前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイルは、前記少なくとも一対の可動子磁極のうちの同一極性の可動子磁極に対向するように、前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で集約されており、
前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で集約された複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装され、電気的に直列接続されて極コイルが構成されており、
前記固定子コイルは、一つの前記極コイル、または、直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極コイルを有する相コイルを複数備え、
前記複数の相コイルを構成する各前記極コイルは、前記複数のスロットの占有状態に関して、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと、
一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと、
の二種類の前記単位コイルを備え、
各前記極コイルは、一つの前記ハーフコイルを備える回転電機。
【請求項2】
前記ハーフコイルの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチは、前記極コイルを構成する前記複数の単位コイルの中で最小である請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記固定子に対する前記可動子の移動方向を第一方向とし、前記スロットの深さ方向を第二方向とし、前記第一方向および前記第二方向のいずれの方向に対しても直交する方向を第三方向とするとき、
前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイルの前記一対のコイルエンドは、前記第三方向の両端部において、前記第二方向または前記第三方向に前記相コイル毎にそれぞれ配設されており、多層に形成されている請求項1または請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記スロットの深さ方向を第二方向とし、前記第二方向のうちのスロット開口部側からスロット底部側に向かう方向を第二方向スロット底部側とするとき、
各前記極コイルを構成する前記複数の単位コイルの各巻進行方向は、いずれも前記第二方向スロット底部側である請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
各前記極コイルを構成する前記複数の単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最大の前記単位コイルから前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最小の前記単位コイルへ連続して巻進められており、最も近接する前記単位コイル同士が電気的に接続されている請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
各前記極コイルは、巻始めの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第一コイル引出部と、巻終りの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第二コイル引出部とからなる一対のコイル引出部を備え、
前記固定子に対する前記可動子の移動方向を第一方向とし、前記第一方向のうちの前記第二コイル引出部側から前記第一コイル引出部側に向かう方向を第一方向第一コイル引出部側とし、前記第一方向のうちの前記第一コイル引出部側から前記第二コイル引出部側に向かう方向を第一方向第二コイル引出部側とするとき、
前記第一コイル引出部は、当該極コイルを構成する前記複数の単位コイルのうちの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最大の前記単位コイルの前記第一方向第一コイル引出部側の前記コイルサイドから引き出され、
前記第二コイル引出部は、当該極コイルを構成する前記複数の単位コイルのうちの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最小の前記単位コイルの前記第一方向第二コイル引出部側の前記コイルサイドから引き出されている請求項5に記載の回転電機。
【請求項7】
前記スロットの深さ方向を第二方向とし、前記第二方向のうちのスロット底部側からスロット開口部側に向かう方向を第二方向スロット開口部側とするとき、
各前記極コイルを構成する前記複数の単位コイルの各巻進行方向は、いずれも前記第二方向スロット開口部側である請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項8】
各前記極コイルを構成する前記複数の単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最小の前記単位コイルから前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最大の前記単位コイルへ連続して巻進められており、最も近接する前記単位コイル同士が電気的に接続されている請求項7に記載の回転電機。
【請求項9】
各前記極コイルは、巻始めの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第一コイル引出部と、巻終りの前記単位コイルの一の前記コイルサイドから引き出される第二コイル引出部とからなる一対のコイル引出部を備え、
前記固定子に対する前記可動子の移動方向を第一方向とし、前記第一方向のうちの前記第二コイル引出部側から前記第一コイル引出部側に向かう方向を第一方向第一コイル引出部側とし、前記第一方向のうちの前記第一コイル引出部側から前記第二コイル引出部側に向かう方向を第一方向第二コイル引出部側とするとき、
前記第一コイル引出部は、当該極コイルを構成する前記複数の単位コイルのうちの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最小の前記単位コイルの前記第一方向第一コイル引出部側の前記コイルサイドから引き出され、
前記第二コイル引出部は、当該極コイルを構成する前記複数の単位コイルのうちの前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが最大の前記単位コイルの前記第一方向第二コイル引出部側の前記コイルサイドから引き出されている請求項8に記載の回転電機。
【請求項10】
前記ハーフコイルの前記一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドであって前記スロット底部側に配設される前記コイルサイドが占有するスロットの半分に相当する部位を第一ハーフスロット部位とし、当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドであって前記スロット開口部側に配設される前記コイルサイドが占有するスロットの半分に相当する部位を第二ハーフスロット部位とし、前記第一ハーフスロット部位および前記第二ハーフスロット部位の両方を備える前記ハーフコイルを両側占有ハーフコイルとし、
各前記極コイルを構成する前記複数の単位コイル間をそれぞれ接続する各渡り線の一端側の端部であって前記スロット底部側に配設される端部を第一渡り線端部とし、当該渡り線の他端側の端部であって前記スロット開口部側に配設される端部を第二渡り線端部とするとき、
前記両側占有ハーフコイルの前記第一ハーフスロット部位内の一点を始点とし前記第二ハーフスロット部位内の一点を終点とする第一ベクトルと、各前記渡り線の前記第一渡り線端部を始点とし前記第二渡り線端部を終点とする第二ベクトルとのなす角が、いずれも機械角90°より小さい鋭角である請求項6または請求項9に記載の回転電機。
【請求項11】
請求項6に従属する請求項10に記載の回転電機の製造方法であって、
前記複数の相コイルを前記第一方向第二コイル引出部側に順に位相が遅れるように相順に配設するときに、
前記複数の相コイルのうちの一の前記相コイルを前記複数のスロットに装着する第一装着工程と、
前記複数の相コイルのうちの残りの一の前記相コイルであって前記第一装着工程で装着された前記相コイルと比べて、電気角360°を相数で除した相間最小位相差分、位相が遅れる前記相コイルを、前記第一装着工程で装着された前記相コイルに対して、前記相間最小位相差分、前記第一方向第二コイル引出部側にずらして、前記複数のスロットに装着する第二遅相装着工程と、
前記複数の相コイルがすべて前記複数のスロットに装着されるまで、直近で装着した前記相コイルと比べて前記相間最小位相差分、位相が遅れる前記相コイルを、前記直近で装着した前記相コイルに対して、前記相間最小位相差分、前記第一方向第二コイル引出部側にずらして、前記複数のスロットに装着する第三遅相装着工程と、
を備える回転電機の製造方法。
【請求項12】
請求項9に従属する請求項10に記載の回転電機の製造方法であって、
前記複数の相コイルを前記第一方向第二コイル引出部側に順に位相が遅れるように相順に配設するときに、
前記複数の相コイルのうちの一の前記相コイルを前記複数のスロットに装着する第一装着工程と、
前記複数の相コイルのうちの残りの一の前記相コイルであって前記第一装着工程で装着された前記相コイルと比べて、電気角360°を相数で除した相間最小位相差分、位相が進む前記相コイルを、前記第一装着工程で装着された前記相コイルに対して、前記相間最小位相差分、前記第一方向第一コイル引出部側にずらして、前記複数のスロットに装着する第二進相装着工程と、
前記複数の相コイルがすべて前記複数のスロットに装着されるまで、直近で装着した前記相コイルと比べて前記相間最小位相差分、位相が進む前記相コイルを、前記直近で装着した前記相コイルに対して、前記相間最小位相差分、前記第一方向第一コイル引出部側にずらして、前記複数のスロットに装着する第三進相装着工程と、
を備える回転電機の製造方法。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人久門享が主張する特許異議の申立ての理由の概要は次のとおりである。
1.(新規性)本件特許発明1は、本件特許についての出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「小型モータ巻線の設計加工技術」,株式会社トリケップス,昭和63年10月7日,第1ページ?第26ページ、第43ページ?第63ページ(甲第1号証、以下、「甲1」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

2.(進歩性)本件特許発明1?12は、本件特許についての出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明、特開2002-165428号公報(甲第2号証、以下、「甲2」という。)に記載された事項及び特開2000-308295号公報(甲第3号証、以下、「甲3」という。)に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、請求項1?12に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

第4 文献の記載
1.甲1
(1)甲1の記載
特許異議申立人が提出した甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様である。)。
ア.「3 交流モータ
次に交流モータの巻線についての詳細を述べよう。交流モータのほとんどは鉄心を有し、スロットに巻線を設置している。
3.1 相数、極数およびスロット数の間の関係
2相あるいは3相巻でしかも分布巻を行う場合には、鉄心のスロット数と相数と極数の間に制約事項があって、巻線設計の上で最初に重要な問題である。
数式を用いて論ずるために、変数を定義しておこう。
S: スロット数
m: 相数(2あるいは3)
p: 極数
これらの変数に要求される次の関係がある。

・・・(中略)・・・
比較的少ないスロット数で2相巻と3相巻の可能性を宿しているのが24スロットである。S/(p.m)の値を表1にまとめている。この表を見て特異なのが2相8極巻である。毎極毎相のスロット数が非整数の1.5をどのように実現するかである。その一例を示しているのが図18である。つまり一方の相には1極2個のコイルを、他の相には1個だけ用いている。
もっと極端な特異例としてはS/(p.m)の値として1/2とか1/4などの分数の例が、ブラシレスDCモータで用いられている。それについては後述する。」(第19ページ第7行?第20ページ第17行)

イ.第20ページの「表1 24スロットでの毎極毎相のスロット(コイル)数」には、以下の事項が記載されている。


ウ.第20ページの「図18 24スロット・2相・8極巻の例」には、以下の事項が記載されている。


エ.「2.4.2 特定の高調波成分を小さくする巻線
2層重巻のモータを同心巻化する場合、大きな同期クローリングが発生しやすい。この対策には、ロータのスキュの適正化・コイル飛びに対するコイル巻回数の変更を行っている。ここではその対策例を示す。
ステータ/ロータスロット数=36/28、コイル飛び1?8、2層重巻のものを図9のように同心巻(n_(1)=2×n_(2))にすると、高調波次数は13次に対する巻線係数がかなり大きくなる。
K_(ω13)(重巻)=0.038→(同心巻)=0.14
このように大きくなるとロータ側の高調波次数-13次と作用して、同期速度の1/7の速度で大きな同期クローリングを生じる。
同心巻での13次に対する巻線係数を重巻並とするためのコイル巻回数にすればよい。

」(第51ページ第7行?第22行)

オ.第51ページの「図9 同心巻(1極1相分コイル)」には、以下の事項が記載されている。



カ.記載事項ア.には、鉄心のスロット数と記載されているとともに、記載事項ウ.には、24スロット・2相・8極巻の例が示されているから、24スロットの鉄心が示されているといえる。また、記載事項ア.によると、交流モータは鉄心を有しているといえる。すると、交流モータは、24スロットの鉄心を備えているといえる。

キ.記載事項ア.によると、交流モータは、スロットに巻線を設置しており、記載事項ア.及び記載事項ウ.の図示内容によると、一方の相に1極2個のコイル、他の相に1個のコイルが用いられる24スロット・2相・8極巻の例において、複数のコイルが、それぞれ24スロットのうちの一対のスロット間に巻装されており、また、各コイルは、一対のスロットに収容される一対のスロット収容部分と前記一対のスロット収容部分と一体に形成され前記一対のスロット収容部分の同一側端部をそれぞれ接続する一対の接続部分とを有しているといえる。すると、交流モータは、24スロットのうちの一対のスロット間に巻装されており、前記一対のスロットに収容される一対のスロット収容部分と前記一対のスロット収容部分と一体に形成され前記一対のスロット収容部分の同一側端部をそれぞれ接続する一対の接続部分とを有するコイルを複数含むコイル群を備えているといえる。

ク.記載事項ア.及びウ.には、毎極毎相のスロット数が非整数の1.5となる、24スロット・2相・8極巻の例が示されているから、毎極毎相のスロット数が1.5となる24スロット・2相・8極巻の交流モータが示されているといえる。

ケ.記載事項ア.によると、一方の相に1極2個のコイル、他の相に1個のコイルが用いられているから、一方の相において、1極2個のコイルが極コイルを形成しており、他の相において、1個のコイルが極コイルを形成しているといえる。また、記載事項ウ.の図示内容によると、一方の相の1極2個のコイルは、一対のスロット収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されているといえる。すると、一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルは、一対のスロット収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されて構成されているといえる。

コ.記載事項ケ.で示したように、一方の相において、1極2個のコイルが極コイルを形成しており、他の相において、1個のコイルが極コイルを形成しているといえる。また、これらの極コイルが、相ごとに複数、電気的に接続されて、一方の相コイル又は他の相コイルを形成していることは明らかといえる。すると、コイル群は、一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルが、複数、電気的に接続されて一方の相コイルを形成し、他の相の1個のコイルから形成された極コイルが複数、電気的に接続されて他の相コイルを形成しているといえる。

サ.記載事項ウ.の図示内容、及び記載事項コ.で示した事項によると、一方の相コイル及び他の相コイルを形成する各極コイルは、一つのコイルの一対のスロット収容部分が一対のスロットに収容されたときに当該一対のスロット収容部分のうちの一方のスロット収容部分が当該一対のスロットのうちの一方のスロットに、当該コイルと異なるコイルの1つのスロット収容部分とともに収容され、当該一対のスロット収容部分のうちの他方のスロット収容部分が当該一対のスロットのうちの他方のスロットに、当該コイルと異なるコイルの1つのスロット収容部分とともに収容されるコイルから構成されているといえる。

(2)引用発明
以上の記載事項ア.?ウ.、カ.?サ.によれば、甲1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「24スロットの鉄心と、
前記24スロットのうちの一対のスロット間に巻装されており、前記一対のスロットに収容される一対のスロット収容部分と前記一対のスロット収容部分と一体に形成され前記一対のスロット収容部分の同一側端部をそれぞれ接続する一対の接続部分とを有するコイルを複数含むコイル群と、
を備える毎極毎相のスロット数が1.5となる24スロット・2相・8極巻の交流モータであって、
前記一対のスロット収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されて、一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルが構成されており、
前記コイル群は、前記一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルが、複数、電気的に接続されて一方の相コイルを形成し、他の相の1個のコイルから形成された極コイルが複数、電気的に接続されて他の相コイルを形成し、
前記一方の相コイル及び前記他の相コイルを形成する各前記極コイルは、一つのコイルの前記一対のスロット収容部分が前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のスロット収容部分のうちの一方のスロット収容部分が当該一対のスロットのうちの一方のスロットに、当該コイルと異なるコイルの1つのスロット収容部分とともに収容され、当該一対のスロット収容部分のうちの他方のスロット収容部分が当該一対のスロットのうちの他方のスロットに、当該コイルと異なるコイルの1つのスロット収容部分とともに収容されるコイルから構成されている交流モータ。」

(3)甲1に記載された事項
以上の記載事項エ.及びオ.によれば、甲1には以下の事項が記載されていると認められる。

「同心巻される2つの巻線について、スロット収容部分間のコイルピッチが大きい巻線の巻き数n_(1)をコイルピッチが小さい巻線の巻き数n_(2)の2倍とするモータ。」

2.甲2
特許異議申立人が提出した甲2には以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 電機子コイルが電機子鉄心のスロットに収められ、界磁に対抗する同期型回転機において、
毎極・毎相スロット数が分数で、極数とスロット数との組合せを、低次の振動モードが発生しないように、極数を8極、スロット数を12,36又は60にしたことを特徴とする同期型回転機。」

(2)「【0039】以下に、その理由について説明する。図4は3相駆動での毎極の位置とスロットとの関係を示している。qを整数とすると、電磁力は2極では180度角毎の2方向にバランスしてトルクが発生し(極に相当するスロット形状はすべて同じ形状であることを示している。極と極との間のスロット数が3の倍数であるので、バランスしたトルクの発生が成立する)、低次のm2振動モードのトルクが発生する。これは円と楕円を繰り返すm2振動モードとなり、固定子3及びフレーム6に振動を誘発することになる。」

3.甲3
特許異議申立人が提出した甲3には以下の事項が記載されている。
(1)「【0002】
【従来の技術】回転電機である誘導電動機(以下、電動機)の固定子スロット(以下、スロット)内に挿入される巻線方式に2層同心巻がある。この2層同心巻の内で図13に示すような全2層同心巻と、図12に示すような部分2層同心巻がある。全2層同心巻とは、全てのスロットで2個のコイルが2層配置となっている。部分2層同心巻とは、例えば図12でスロットNo1にはコイルU1のみ挿入されているのに対し、スロットNo2ではコイルU1とコイルV3の2個のコイルが挿入されているので、部分的なスロットで2層配置となっている。
【0003】この2層配置法を全2層同心巻で説明する。図13において、まずU相第1極コイルであるコイルU1とV相第1極コイルのコイルV1とW相第1極コイルのW4コイルを第1回目の挿入で、夫々のスロットに収納する。第2回目の挿入は、コイルU2,V2,W2を先に挿入のコイルの上から若しくは空スロットに収納する。第3回目はコイルU3,V3,W3を、第4回目は、コイルU4,V4,W4を夫々収納して挿入作業は終了する。部分2層同心巻も同様である。」

第5 当審の判断
1.本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と引用発明の対比
引用発明の「交流モータ」において、「鉄心」及び「コイル群」が、固定子側に設けられるものであるか、可動子側に設けられるものであるか、甲1の記載事項ア.?ウ.に明示されてはいないが、交流モータにおいて、固定子側にコイルを配置することが、一般的であることを考慮すると、引用発明の「コイル群」及びこのコイル群のコイルが巻装されるスロットを備えた「鉄心」は、固定子側に設けられていると解される。すると、引用発明の「鉄心」及び「コイル群」は、それぞれ本件特許発明1の「固定子鉄心」及び「固定子コイル」に相当し、引用発明の「鉄心」及び「コイル群」を合わせたものが、本件特許発明1の「固定子」に相当する。また、引用発明の「交流モータ」は、モータである以上、固定子とともに、本件特許発明1の「可動子」に相当する事項を備えることは明らかである。
そして、引用発明の「24スロットの鉄心」は、本件特許発明1の「複数のスロットが形成されている固定子鉄心」に相当する。さらに、引用発明の「スロット収容部分」、「接続部分」及び「コイル」は、それぞれ本件特許発明1の「コイルサイド」、「コイルエンド」及び「単位コイル」に相当するから、引用発明の「前記24スロットのうちの一対のスロット間に巻装されており、前記一対のスロットに収容される一対のスロット収容部分と前記一対のスロット収容部分と一体に形成され前記一対のスロット収容部分の同一側端部をそれぞれ接続する一対の接続部分とを有するコイルを複数含むコイル群」は、本件特許発明1の「前記複数のスロットのうちの一対のスロット間で巻装されており、前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する単位コイルを複数含む固定子コイル」に相当する。
また、引用発明の「交流モータ」は、本件特許発明1の「回転電機」に相当し、引用発明の「毎極毎相のスロット数が1.5となる24スロット・2相・8極巻の交流モータ」は、毎極毎相のスロット数の小数点以下が0.5となっているから、分数スロット構成ということができ、本件特許発明1の「毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機」に相当する。
引用発明の「前記一対のスロット収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されて、一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルが構成されて」いるという事項は、一方の相の極コイルのみではあるが、コイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されているから、本件特許発明1の「前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で集約された複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装され、電気的に直列接続されて極コイルが構成されて」いるという事項と、「複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装されて極コイルが構成されるものを含む」点において共通する。
引用発明の「前記コイル群は、前記一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルが、複数、電気的に接続されて一方の相コイルを形成し、他の相の1個のコイルから形成された極コイルが複数、電気的に接続されて他の相コイルを形成」するという事項は、「前記一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイル」及び「他の相の1個のコイルから形成された極コイル」のそれぞれ複数を、それぞれ電気的に接続するものであり、その接続は、通常、直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方であると解され、また、「一方の相コイル」と「他の相コイル」からなる複数の相コイルを形成するものであるから、本件特許発明1の「前記固定子コイルは、一つの前記極コイル、または、直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極コイルを有する相コイルを複数備え」るという事項に相当する。
引用発明の「前記一方の相コイル及び前記他の相コイルを形成する各前記極コイルは、一つのコイルの前記一対のスロット収容部分が前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のスロット収容部分のうちの一方のスロット収容部分が当該一対のスロットのうちの一方のスロットに、当該コイルと異なるコイルの1つのスロット収容部分とともに収容され、当該一対のスロット収容部分のうちの他方のスロット収容部分が当該一対のスロットのうちの他方のスロットに、当該コイルと異なるコイルの1つのスロット収容部分とともに収容されるコイルから構成されている」という事項は、各極コイルを構成するコイルのスロットの占有状態に関して、一方のスロット収容部分及び他方のスロット収容部分が、それぞれ一方のスロット及び他方のスロットを占有していないから、本件特許発明1の「前記複数の相コイルを構成する各前記極コイルは、前記複数のスロットの占有状態に関して、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと、の二種類の前記単位コイルを備え、各前記極コイルは、一つの前記ハーフコイルを備える」という事項と、「前記複数の相コイルを構成する各前記極コイルは、前記複数のスロットの占有状態に関して、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットを占有せず、当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットを占有しない前記単位コイルを含」む点において共通する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、
[一致点]
複数のスロットが形成されている固定子鉄心と、
前記複数のスロットのうちの一対のスロット間で巻装されており、前記一対のスロットに収容される一対のコイルサイドと前記一対のコイルサイドと一体に形成され前記一対のコイルサイドの同一側端部をそれぞれ接続する一対のコイルエンドとを有する単位コイルを複数含む固定子コイルと、
を備える固定子と、
可動子と、
を具備する毎極毎相スロット数の小数点以下が0.5となる分数スロット構成の回転電機であって、
複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装されて極コイルが構成されるものを含み、
前記固定子コイルは、一つの前記極コイル、または、直列接続および並列接続のうちの少なくとも一方により電気的に接続されている複数の前記極コイルを有する相コイルを複数備え、
前記複数の相コイルを構成する各前記極コイルは、前記複数のスロットの占有状態に関して、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットを占有せず、当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットを占有しない前記単位コイルを含む回転電機。

以下の点で相違する。
[相違点1]
可動子の構成及び単位コイルの配置について、本件特許発明1は、可動子が「前記固定子に対して移動可能に支持されている可動子鉄心と、前記可動子鉄心に設けられている少なくとも一対の可動子磁極とを備え」、「前記固定子コイルに含まれる前記複数の単位コイルは、前記少なくとも一対の可動子磁極のうちの同一極性の可動子磁極に対向するように、前記一対の可動子磁極に対向するスロット単位で集約されて」いるのに対し、引用発明は、可動子の構成が明確でなく、そのためコイルが一対の可動子磁極に対向するスロット単位で集約されているかも明確でない点。

[相違点2]
極コイルについて、本件特許発明1は、「複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装され、電気的に直列接続されて」構成されており、「一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと、の二種類の前記単位コイルを備え、各前記極コイルは、一つの前記ハーフコイルを備え」ているのに対し、引用発明は、一方の相の1極2個のコイルから形成された極コイルは、一対のスロット収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されて構成されているものの、複数のコイルが電気的に直列接続されて構成されているか明確でなく、また、フルコイルとハーフコイルの二種類のコイルを備えておらず、さらに、他の相の極コイルは、1個のコイルから形成されるため、複数のコイルが同心状に巻装されて構成されておらず、複数のコイルが電気的に直列接続されて構成されておらず、前記の二種類のコイルを備えていない点。

(2)判断
ア.相違点について
本件特許発明1と引用発明とは、前記したように相違点1及び相違点2において相違するものであり、この相違により、本件特許発明1は、相コイル単位で固定子コイルを組み付けることが可能になるという作用効果を奏するものである(本件特許明細書の段落[0006],[0007],[0009]参照。)から、これらの相違点は実質的な相違点であるといえる。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

次に、本件特許発明1と引用発明との相違点についてみるにあたり、事案に鑑みて、相違点2から検討する。
甲1の記載事項ア.によると、引用発明の「毎極毎相のスロット数が1.5となる24スロット・2相・8極巻の交流モータ」における、記載事項ウ.の図18に図示されたコイルの配置は、単なる一例といえるから、当該コイルの配置は変更可能なものといえる。
また、甲1には、引用発明の他、前記「第4 1.(3)甲1に記載された事項」に示したように、記載事項エ.及びオ.によると、同心巻される2つの巻線について、スロット収容部分間のコイルピッチが大きい巻線の巻き数n_(1)をコイルピッチが小さい巻線の巻き数n_(2)の2倍とするモータが記載されている。
しかしながら、甲1の記載事項エ.に、n_(1)をn_(2)の2倍とした場合、高調波次数は13次に対する巻線係数がかなり大きくなり、同期速度の1/7の速度で大きな同期クローリングが生じるというデメリットが記載されていることを考慮すると、同心巻においてn_(1)をn_(2)の2倍にするという事項を、引用発明の各相の極コイルに、あえて適用しようとする動機はないといえる。また、そもそも、甲1の記載事項エ.及びオ.の記載をみても、前記同心巻される2つの巻線が前記した巻き数の関係を有していることは把握できるものの、当該2つの巻線のスロット収容部分がスロットに収容されたとき、他の巻線(当該2つの巻線以外の巻線)のスロット収容部分と同じスロットに配置されるのか否かが明示されていないから、当該2つの巻線が、それぞれフルコイルやハーフコイルに該当するのか否かも不明である。
そして、甲1のその他の記載をみても、甲1には、各相の極コイルを、一対のコイル収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されたものとし、フルコイルとハーフコイルとの二種類のコイルを備え、かつ一つのハーフコイルを備えたものとすることについて、記載も示唆もされていない。
また、甲2の記載事項(1)には、分数スロット構成の同期型回転機について、記載されているものの、甲2には、各相の極コイルを、一対のコイル収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されたものとし、フルコイルとハーフコイルとの二種類のコイルを備え、かつ一つのハーフコイルを備えたものとすることについて、何ら記載も示唆もされていない。
次に、甲3の記載事項(1)によると、甲3には、誘導電動機の固定子スロット内に挿入される巻線方式を部分2層同心巻とすることが記載されており、固定子スロットとして、コイルのスロット収容部分を1つだけ収容するスロットと、該スロット収容部分を2つ収容するスロットとを設けることが示唆されている。
しかしながら、甲3の図12には、1?48のスロット、及びU1?U4,V1?V4,W1?W4のコイルが示されており、これらの配置を考慮すると、甲3に記載された部分2層同心巻でコイルが配置される誘導電動機は、48スロット・3相・8極巻であると推認され、毎極毎相スロット数が2となる整数スロット構成の誘導電動機であると解される。
すると、引用発明は、毎極毎相のスロット数が1.5となる24スロット・2相・8極巻の分数スロット構成のモータに関するものであるのに対し、甲3に記載された事項は、毎極毎相スロット数が2となる48スロット・3相・8極巻の整数スロット構成のモータに関するものであるから、引用発明のコイルの配置に、甲3に記載された部分2層同心巻のコイルの配置を、そのまま適用することはできないし、甲3の記載をみても、部分2層同心巻を用いることの作用効果、特に部分2層同心巻を分数スロット構成のモータに用いたとしても生じる作用効果について、何ら記載されていないから、引用発明の分数スロット構成のモータにおけるコイルの配置に、甲3に記載された整数スロット構成のモータにおける部分2層同心巻を採用する積極的な動機はないといえる。
また、仮に引用発明のコイルの配置に、甲3に記載された部分2層同心巻を適用したとしても、各相の極コイルを、フルコイルとハーフコイルとの二種類から構成し、かつハーフコイルを一つとすることにより、分数スロット構成のモータにおいて、相コイル単位で固定子コイルを組み付けることが可能になるという技術思想が、甲1及び甲3のいずれにも、何ら示唆されていないから、当業者といえども、本件特許発明1の前記相違点2に係る発明特定事項を想到するには、多くの試行錯誤を要するものである。
そして、本件特許発明1は、分数スロット構成の回転電機において、「複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装され、電気的に直列接続されて極コイルが構成されており」、「一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと、の二種類の前記単位コイルを備え、各前記極コイルは、一つの前記ハーフコイルを備え」るという発明特定事項を備えることにより、前記したように、相コイル単位で固定子コイルを組み付けることが可能になるという作用効果を奏するものである。このような作用効果については、甲1?甲3のいずれにも、何ら示唆されていないから、引用発明、甲1に記載された事項、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項から当業者が予測できるものではない。
そうすると、引用発明及び甲1に記載された事項に基づき、又は引用発明、甲1に記載された事項、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づき、本件特許発明1の前記相違点2に係る発明特定事項を容易に想到できるものではない。

イ.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1を構成要件A?Fに分説し、構成要件Aに相当する構成が、「第1章 総論」の「2.1 巻線の2つの基本形式」及び「2.2 ステータとロータ、電機子と界磁システム」の項、「第2章 小型モータ用巻線の基礎」の「1.2 スロット数」の項、並びに「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」の「2.1.2 巻線法の種類」及び「2.1.3 小型モータの巻線法」の項に記載され、構成要件Bに相当する構成が、「第1章 総論」の「2.2 ステータとロータ、電機子と界磁システム」の項、「第2章 小型モータ用巻線の基礎」の「1.3 極数と同期速度」の項、並びに「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」の冒頭及び「1.1 構造と構成材料」の項に記載され、構成要件Cに相当する構成が、「第2章 小型モータ用巻線の基礎」の「3.1 相数、極数およびスロット数の間の関係」の項、及び「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」の「4 分数スロット巻線方法」の項に記載され、構成要件Dに相当する構成が、「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」の「2.1.1 巻線配置」の項に記載され、構成要件Eに相当する構成が、「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」の「2.1.2 巻線法の種類」及び「2.1.3 小型モータの巻線法」の項に記載され、構成要件Fに相当する構成が、「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」の「2.4.2 特定の高調波成分を小さくする巻線」の項に記載されているから、本件特許発明1と、甲1に記載された発明とは同一であると主張している(特許異議申立書3.(4)イ(ア))。
しかしながら、甲1の「第1章 総論」、「第2章 小型モータ用巻線の基礎」及び「第4章 三相ACモータの巻線設計と加工」は、それぞれ独立した章として記載され、特に第1章及び第2章と、第4章とは、その執筆者(前者は、職業訓練大学校 見城尚志、後者は、株式会社ワイ・イー・ドライブ 水口正男)も異なるものであるから、第1章、第2章及び第4章にそれぞれ記載された事項を任意に組み合わせて、一体の技術思想を把握することはできず、一体の発明を認定することもできない。そして、少なくとも、甲1には、分数スロット構成の回転電機において、各相の極コイルを、一対のコイル収容部分間のコイルピッチが異なる複数のコイルが同心状に巻装されたものとし、フルコイルとハーフコイルとの二種類のコイルを備え、かつ一つのハーフコイルを備えたものとすることが一体的に記載されていないことは明らかである。
したがって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

(3)まとめ
前記(1)及び(2)に示したように、本件特許発明1と引用発明とは、相違点1及び相違点2において相違し、これらの相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、前記(2)に示したように、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項は、当業者といえども、引用発明及び甲1に記載された事項に基づき、容易に想到できるものではなく、また、引用発明、甲1に記載された事項、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づき、容易に想到できるものでもないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者といえども、引用発明及び甲1に記載された事項に基づき、容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明、甲1に記載された事項、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づき、容易に発明をすることができたものでもない。

2.本件特許発明2?12について
請求項2?12は、直接的に又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件特許発明2?12も、極コイルについて、「複数の前記単位コイルは、前記一対のコイルサイド間のコイルピッチが異なる複数の前記単位コイルが同心状に巻装され、電気的に直列接続されて」構成されており、「一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドが当該一対のスロットの全体を占有するフルコイルと、一の前記単位コイルの前記一対のコイルサイドが前記一対のスロットに収容されたときに当該一対のコイルサイドのうちの一方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの一方のスロットの半分を占有し当該一対のコイルサイドのうちの他方のコイルサイドが当該一対のスロットのうちの他方のスロットの半分を占有するハーフコイルと、の二種類の前記単位コイルを備え、各前記極コイルは、一つの前記ハーフコイルを備え」るという発明特定事項を備えるものであるから、前記1.で検討した本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2?12は、当業者といえども、引用発明及び甲1に記載された事項に基づき、容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明、甲1に記載された事項、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づき、容易に発明をすることができたものでもない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1?12に係る特許を取り消す理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-07-10 
出願番号 特願2015-255439(P2015-255439)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H02K)
P 1 651・ 113- Y (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 紀和  
特許庁審判長 窪田 治彦
特許庁審判官 山本 健晴
柿崎 拓
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6582973号(P6582973)
権利者 アイシン精機株式会社
発明の名称 回転電機およびその製造方法  
代理人 小林 脩  
代理人 木村 群司  
代理人 山本 喜一  
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