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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1364578
審判番号 不服2019-6989  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-29 
確定日 2020-07-30 
事件の表示 特願2014-257450号「液体容器およびその組立方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-116628号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月19日の出願であって、その手続の経緯は概ね以下のとおりである。
平成30年 8月15日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月11日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 3月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 1年 5月29日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 令和 1年 5月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 1年 5月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
筒形状を呈する第1筒壁部と、前記第1筒壁部の上端から外側に向かって湾曲しながら折り返される湾曲折返し部と、前記第1筒壁部の下端開口を覆う第1底壁部を有し、ネジ部が形成されていない有底内筒壁部と、
筒形状を呈する第2筒壁部と、雄ネジ部と、前記第2筒壁部の下端開口を覆う第2底壁部とを有する有底外筒壁部と
を備え、
前記有底外筒壁部は、前記雄ネジ部から離間した上側の上端部分に位置すると共に、内側に折れ曲がってから上方に延びる上端壁部をさらに有し、
前記有底外筒壁部の前記上端壁部は、前記有底内筒壁部の前記湾曲折返し部の外側部分の内周面に接した状態で前記湾曲折返し部の外側部分に接合されている
液体容器。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年10月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
筒形状を呈する第1筒壁部と、前記第1筒壁部の上端から外側に向かって湾曲しながら折り返される湾曲折返し部と、前記第1筒壁部の下端開口を覆う第1底壁部を有する有底内筒壁部と、
筒形状を呈する第2筒壁部と、雄ネジ部と、前記第2筒壁部の下端開口を覆う第2底壁部とを有する有底外筒壁部と
を備え、
前記有底外筒壁部は、上端部分に位置すると共に、内側に折れ曲がってから上方に延びる上端壁部をさらに有し、
前記有底外筒壁部の前記上端壁部は、前記有底内筒壁部の前記湾曲折返し部の外側部分の内周面に接した状態で前記湾曲折返し部の外側部分に接合されている
液体容器。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1における「有底内筒壁部」について、「ネジ部が形成されていない」ことを限定するとともに、「上端壁部」について、「前記雄ネジ部から離間した上側の」上端部分に位置することを限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2013-150644号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。以下同様である。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような真空二重容器では、良好な保温効果を実現するために、開口部の内径が胴体部の内径よりも小さく設計されていることが多い。このため、このような真空二重容器内に高粘度のスープが入れられる場合、スープをスプーンですくい出すのは至難の業である。また、開口部に直接、口を付けてスープを食そうとすると、多量のスープが内壁に付着して真空二重容器中に残存してしまい、勿体ない。
【0005】
そこで、開口部の内径を胴体部の内径とほぼ同一にして、スープをスプーンですくい出しやすいようにすることが考えられるが、かかる場合、開口部のみならず胴体部の内径も大きくなってしまう。このように胴体部の内径が比較的大きくなると、必然的に胴体部の外径が大きくなり、手が小さい女性や子供等が真空二重容器を把持しにくくなる。
【0006】
本発明の課題は、スープをスプーンで容易にすくい出すことができると共に、手が小さい女性や子供等であっても把持しやすいスープ保温用の真空二重容器を提供することにある。」
「【0012】
<スープ保温用真空二重容器の構成要素>
(1)容器本体
容器本体110は、いわゆる真空二重容器であって、図2に示されるように、主に、有底の内筒111および有底の外筒112から形成されている。具体的には、内筒111と外筒112との間に空間SPが形成されるように内筒111の開口端部と外筒112の開口端部とが接合された後、空間SPが真空状態とされることにより容器本体110が形成される(図2参照)。なお、本実施の形態において、スープ保温用真空二重容器100は、容器本体110のみを複数積み重ねたときに一の外筒112が他の外筒112の雄ネジ部112c(後述)や内筒111の段部111d(後述)に接触しないように、設計されている。
【0013】
内筒111は、図2に示されるように、主に、内筒側壁部111a、内筒底壁部111b、先端壁部111cおよび段部111dから形成されている。なお、この内筒111は、SUS316L、SUS316、SUS304L等の鋼材から形成されている。内筒111を形成する鋼材としては、外筒112を形成する鋼材よりも耐蝕性に優れるものが採用される。内筒側壁部111aは、逆切頭円錐筒形状(逆円錐台筒形状)を呈している。なお、この内筒側壁部111aのテーパ角θ1は、4°以上8°以下とされることが好ましい。また、この内筒側壁部111aの先端側の開口径は70mm以上100mm以下であることが好ましく、70mm以上90mm以下であることがより好ましく、70mm以上80mm以下であることがさらに好ましい。開口径がこの大きさであれば、スプーンでスープを容易にすくい出すことができる共に容器本体110の保温力をキープすることができ、また、蓋本体120を脱着したときにスープの香りが広がり易く、人の手が入りやすく洗浄しやすいためである。内筒底壁部111bは、中央部CTが開口側に向かって球面状に盛り上がっており、隅部CRが凹円弧状を呈している。そして、中央部CTの球面の径は、隅部CRの円弧の径よりも大きくされている。なお、隅部CRの円弧の径は、蓋本体120に収容される折り畳み式スプーンSNのすくい部の先端の円弧径よりも大きいことが好ましい。スープが少量になったとき、そのスプーンSNでスープをすくい出しやすいようにすることができるからである。また、隅部CRの円弧の径は10mm以上20mm以下であることが好ましく、中央部CTの球面の径は90mm以上110mm以下であることが好ましい。先端壁部111cは略円筒形状を呈しており、その開口径は内筒側壁部111aの開口径よりも大きくなっている。また、この先端壁部111cは、段部111dを介して内筒側壁部111aに接合されている。段部111dは、逆切頭円錐筒形状(逆円錐台筒形状)の部位であって、上述の通り、内筒側壁部111aと先端壁部111cとの間に位置し、内筒側壁部111aと先端壁部111cとを接合している。なお、この段部111dは、蓋本体120が容器本体110に装着されたときに蓋本体120の内蓋121(後述)のパッキン(図示せず)に当接するように、位置決めされている。
【0014】
外筒112は、図2に示されるように、主に、外筒側壁部112a、外筒底壁部112bおよび雄ネジ部112cから形成されている。なお、この外筒112は、内筒111を形成する鋼材よりも耐蝕性に劣る鋼材から形成されている。例えば、内筒111がSUS306Lから形成されている場合、外筒112は、例えば、SUS306、SUS304L、SUS304、SUS430等の鋼材から形成される。また、例えば、内筒111がSUS306から形成されている場合、外筒112は、例えば、SUS304L、SUS304、SUS430等の鋼材から形成される。また、例えば、内筒111がSUS304Lから形成されている場合、外筒112は、例えば、SUS304、SUS430等の鋼材から形成される。また、例えば、内筒111がSUS304から形成されている場合、外筒112は、例えば、SUS430等の鋼材から形成される。外筒側壁部112aは、内筒側壁部111aと同様に逆切頭円錐筒形状(逆円錐台筒形状)を呈している。なお、外筒側壁部112aのテーパ角θ2は、図2に示されるように、内筒側壁部111aのテーパ角θ1よりも大きくされている。なお、この外筒側壁部112aのテーパ角θ2は、7°以上18°以下であることが好ましい。使用者が容器本体110を把持しやすくなるからである。外筒底壁部112bは、略円盤形状を呈している。雄ネジ部112cは、外筒側壁部112aの上部内側に形成されており、内蓋側壁部121bに形成される雌ネジ部121c(後述)に螺合することができる。」
「図2



(イ) 上記(ア)の記載から認められる事項
上記(ア)の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)の段落0013、0014及び図2の記載によれば、内蓋121の容器本体110内側へ屈曲している箇所と、当該箇所に対応した、雄ネジ部112cより上側に離れた外筒側壁部112aの図示された形状とからみて、外筒側壁部112aは、雄ねじ部112cより上側に離れた部分に配置され、容器本体110内側に折れ曲がってから上方に延びる上端壁部を備えていることが、看取できる。
b 上記図2の記載によれば、内筒には、ネジ部が設けられていないことが看取できる。
c 上記(ア)の段落0004?0006、0012、0013の記載によれば、容器本体110に収容するものは、スープが想定されているので、容器本体110は、液体容器である。
(ウ)引用発明
上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内筒側壁部111a、内筒底壁部111b、先端壁部111c及び段部111dから形成され、ネジ部が設けられていない内筒111と、
外筒側壁部112a、外筒底壁部112b及び雄ネジ部112cから形成されている外筒112と、
を備え、
外筒側壁部112aは、雄ねじ部112cより上側に離れた部分に配置され、容器本体110内側に折れ曲がってから上方に延びる上端壁部をさらに有し、
内筒111の開口端部と外筒112の開口端部とが接合されている、
液体容器である容器本体110。」
イ 引用文献2
(ア)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2001-238804号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】 金属製の内容器と、この内容器との間に空間を形成した外装体をなす金属製の外容器とにより本体容器を構成し、内容器の開口縁に外方に折り曲げて垂下した垂下部を形成して、この垂下部に外容器の開口縁を高さ方向に所定幅を有して重ね合わせ、この重ね合わせ部の外側に位置される重ね合わせ端部を溶接して本体容器の開口縁を形成したことを特徴とする金属製保温容器。
【請求項2】 金属製の単一部材よりなる内容器と金属製の単一部材よりなる外容器との2部材により本体容器を構成したことを特徴とする請求項1記載の金属製保温容器。
【請求項3】 内容器の開口縁に外フランジを形成して、この外フランジの端縁を垂下して前記垂下部を形成したしたことを特徴とする請求項1記載の金属製保温容器。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような本体容器3の構成であれば、内容器1を形成する金属部材と外容器2を形成する合成樹脂部材との異種部材による接合により開口縁3aが形成されるため、この異種部材間の接合部から水が浸入し易くそのため丸洗い洗浄することができず、この接合部に塵埃、異物等が付着して汚れの原因になると共にこの汚れによる雑菌の繁殖を来たし衛生面においても問題があった。
【0004】また、図15に示すように、内外容器1、2のそれぞれの開口縁4、7に外フランジ4c、7cを形成して、この外フランジ4c、7cの端部を外方に折り曲げて垂下し、この垂下端部4e、7eを重ね合わせて拝み溶接9により溶着するようにしたものが知られている。しかし、このような構成であれば、それぞれの垂下端部4e、7eの溶接部9が外容器2の外側に対して外方に余分に張り出し、その外径が大きくなって大型化し、また垂下端部4e、7eと外側との間の狭い隙間Eに塵埃、異物等が付着して、この狭い隙間Eの付着物を洗浄するに際しても容易でなく、この付着物が洗い落すことができないまま残り衛生上も問題を来たしていた。
【0005】また、内外容器1、2のそれぞれを、ステンレス鋼の一枚板にて深絞り加工により形成し、このそれぞれの開口縁4,7を溶接することにより大容量の本体容器3を構成した場合には、この一枚板での深絞り加工と開口部が大口径となる関係で、内外容器1,2のそれぞれの開口縁4,7に歪みが生じやすくこの歪みを生じたままの状態で内外容器1,2の開口縁4,7の溶接作業を行なうと、この開口縁4,7での嵌め合わせや接合位置決めのための作業手間が煩雑化しかつ均一な溶接仕上げ加工にも支障をきたす問題がある。特に、大容量の内外容器1,2において開口形状が大口径の方形の非円形とした場合にその傾向が大きくなる嫌いがあった。
【0006】本発明は、このような課題を解決するものであり、本体容器を構成する相互間の隙間をなくし水の浸入を防止して本体容器を丸洗い洗浄することができ、塵埃、異物の付着なども容易に除去することができて長期に亘って清潔に保ち衛生的なものになり、かつ本体容器の構成およびその開口縁の形成を簡略化して、大容量の本体容器を構成する場合でも、それを構成するための溶接作業を容易としかつ均一な溶接仕上げ面を形成し得るものの提供を目的とする。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、請求項1の本発明における金属製の保温容器では、金属製の内容器と、この内容器との間に空間を形成した外装体をなす金属製の外容器とにより本体容器を構成し、内容器の開口縁に外方に折り曲げて垂下した垂下部を形成して、この垂下部に外容器の開口縁を高さ方向に所定幅を有して重ね合わせ、この重ね合わせ部の外側に位置される重ね合わせ端部を溶接して本体容器の開口縁を形成したことを特徴としている。
【0008】このような構成では、内外容器の開口縁を溶着することにより本体容器の開口縁を形成する相互間の隙間をなくし水の浸入を防止して本体容器を丸洗い洗浄することができ、それと相俟って内容器の開口縁に外方に折り曲げて垂下した垂下部を形成して、この垂下部に外容器の開口縁を高さ方向に所定幅を有して重ね合せて溶着することで、この溶着部の形成によるも不要な突起や張り出しをなくし、また垂下部から外容器2の外側面に沿って連続した連続面として形成されることで、塵埃、異物等が付着し難く、それらが付着しても容易に除去することができて手入れのし易いものとなり長期に亘って清潔に保ち衛生的なものになる。」
「【0027】(実施の形態1)本実施の形態1において、図1?図7に示す金属製の保温容器では、金属製の内容器1と、この内容器1との間に空間Sを形成した外装体をなす金属製の外容器2とにより本体容器3を構成し、内容器1の開口縁4に外方に折り曲げて垂下した垂下部6を形成して、この垂下部6に外容器2の開口縁7を高さ方向に所定幅を有して重ね合わせ、この重ね合わせ部8の外側に位置される重ね合わせ端部6aを溶接9して内外容器1、2の開口縁4、7を溶着することにより本体容器3の開口縁3aを形成している。」
「図6


「【0067】また、図12および図13に示す容器本体3は、その開口縁3aを形成する外容器2の開口縁7に上向き段部21を形成して、この上向き段部21に近接または当接するように内容器1の垂下端6aを位置させ、この垂下部6aを溶接することで、上向き段部21と連続したなだらかな連続面が形成される。
【0068】そしてこの上向き段部21が蓋体12の外側端22と対向して突き合わされ、本体容器3の開口縁3aが蓋体12の外側端22により被覆されることで、この開口縁3aへの塵埃や異物の浸入を防止するようにしている。
【0069】また、この開口縁3aは、その頂面を円弧状の逆U字状に形成して、飲むときの口当たりを良くしている。この本体容器3を形成する内容器1の開口縁4には、その内側に蓋体12と螺合される螺子部24とこの螺合により蓋体12のパッキング30が密接する環状の上向き段部23をそれぞれ一体形成している。」
「図13


(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
ア 後者における「内筒側壁部111a」は、筒形状を呈していることは明らかであるから、前者における「筒形状を呈する第1筒壁部」に相当する。
イ 後者における「内筒底壁部111b」は、「内筒側壁部111a」の下端の開口部を覆うものといえるので、前者における「前記第1筒壁部の下端開口を覆う第1底壁部」に相当する。
ウ 上記ア及びイを踏まえると、後者における「内筒111」は、前者における「有底内筒壁部」に相当する。
エ 後者における「雄ネジ部112c」は、前者における「雄ネジ部」に相当し、同じく「外筒側壁部112a」、「外筒底壁部112b」は、「内筒」についての上記ア及びイで検討したことと同様に、それぞれ「筒形状を呈する第2筒壁部」、「前記第2筒壁部の下端開口を覆う第2底壁部」に相当する。
オ 後者における「外筒側壁部112aは、雄ねじ部112cより上側に離れた部分に配置された、容器本体110内側に折れ曲がってから上方に延びる壁部をさらに有し」は、「雄ねじ部112cより上側に離れた部分」が、上方に延びる上端壁部をなすものであるから、前者における「前記有底外筒壁部は、前記雄ネジ部から離間した上側の上端部分に位置すると共に、内側に折れ曲がってから上方に延びる上端壁部をさらに有し」に相当する。
カ 上記オを踏まえると、後者における「外筒112」は、前者における「有底外筒壁部」に相当する。
キ 後者における「内筒111の開口端部と外筒112の開口端部とが接合されている」ことと、前者の「前記有底外筒壁部の前記上端壁部は、前記有底内筒壁部の前記湾曲折返し部の外側部分の内周面に接した状態で前記湾曲折返し部の外側部分に接合されている」こととは、「前記有底外筒壁部の前記上端壁部は、前記有底内筒壁部に接合されている」との限りで一致する。
ク 後者おける「液体容器である容器本体110」は、前者における「液体容器」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「筒形状を呈する第1筒壁部と、前記第1筒壁部の下端開口を覆う第1底壁部を有し、ネジ部が形成されていない有底内筒壁部と、
筒形状を呈する第2筒壁部と、雄ネジ部と、前記第2筒壁部の下端開口を覆う第2底壁部とを有する有底外筒壁部と
を備え、
前記有底外筒壁部は、前記雄ネジ部から離間した上側の上端部分に位置すると共に、内側に折れ曲がってから上方に延びる上端壁部をさらに有し、
前記有底外筒壁部の前記上端壁部は、接合されている
液体容器。」

[相違点]
有底外筒壁部の上端壁部が接合されていることについて、本件補正発明では、「前記第1筒壁部の上端から外側に向かって湾曲しながら折り返される湾曲折返し部」を備え、前記上端壁部が、「前記湾曲折返し部の外側部分の内周面に接した状態で前記湾曲折返し部の外側部分に」接合されているのに対して、引用発明では、接合の具体的な態様については、特定されていない点。
(4) 判断
ア 相違点について
引用文献2には、金属製の内容器と、この内容器との間に空間を形成した外装体をなす金属製の外容器とにより形成された本体容器において(請求項1。当審注:「( )」内は、対応する引用文献2の記載箇所を示す。以下同様である。)、本体容器の開口縁の形成を簡略化して、本体容器を構成する溶接作業を容易としかつ均一な溶接仕上げ面を形成し得ることや、内容器と外容器との接合部に塵埃、異物等が付着して汚れの原因になると共にこの汚れによる雑菌の繁殖を来たすという衛生面を考慮して(段落0006)、内容器と外容器の接合部について、内容器の開口縁に外方に折り曲げて垂下した垂下部を形成して、この垂下部に外容器の開口縁を高さ方向に所定幅を有して重ね合わせ、この重ね合わせ部の外側に位置される重ね合わせ端部を溶接して本体容器の開口縁を形成すること(請求項1、段落0007、0027、図6(a)、(b)、図13等参照。)が記載されている。さらに、開口縁の頂面を円弧状の逆U字状に形成して、飲むときの口当たりを良くしていることも記載されている(段落0069)。
そして、引用発明においても、容器本体の内筒と外筒との接合する部位において、その接合に際しての溶接作業を容易とすること、容器本体の口当たりが良くすること、及び塵埃、異物等が付着して汚れの原因になると共にこの汚れによる雑菌の繁殖を来たすという衛生面を考慮することは、引用発明が当然に内在している課題であり、また、引用発明と、引用文献2に記載されている容器は、ともに内容器と外容器とを接合して形成する点においても共通するものである。
そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された上記事項を適用して、「内筒側壁部の上端から外側に向かって湾曲しながら折り返される湾曲折り返し部」をなすとともに、必要に応じて上端壁部の折れ曲がりの程度を調整して、上方に延びる上端壁部を「前記湾曲折返し部の外側部分の内周面に接した状態で前記湾曲折返し部の外側部分に」接合するようにし、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 効果について
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。

なお、請求人は、審判請求書(「3.本願が特許されるべき理由」の項参照。)において、本件補正発明が「仮に、引用文献1の図4の態様に引用文献2の図13の構成を適用した場合、引用文献1の雄ネジ部112cは引用文献2の垂下部6と重なるように形成されるので、接合が適切に行われません。」、「引用文献1の内筒111に引用文献2の段部23および螺子部24が形成されることになり、引用文献1の内筒111の内側に凹凸が残るため使い勝手が悪いものになります。」等と主張している。
しかしながら、引用文献2には、垂下部を雄ネジ部に重ねて設けるようにすることは記載されておらず、また、引用発明に、引用文献2に記載された垂下部の構成を採用するに際して、「外筒側壁部112aは、雄ねじ部112cより上側に離れた部分に配置された、容器本体110内側に折れ曲がってから上方に延びる壁部をさらに有し」ていることからすると、垂下部と当該壁部とを接合すれば外容器と内容器との接合は足りるものと認められ、垂下部をあえて雄ネジ部まで延長して重ねなければならない理由はない。さらに、上記アの相違点の判断において、引用発明に適用する引用文献2に記載された技術は、「内容器と外容器の接合部について、内容器の開口縁に外方に折り曲げて垂下した垂下部を形成して、この垂下部に外容器の開口縁を高さ方向に所定幅を有して重ね合わせ、この重ね合わせ部の外側に位置される重ね合わせ端部を溶接して本体容器の開口縁を形成すること」であり、引用発明の内筒111に、引用文献2の段部23および螺子部24を形成することまで採用することを、前提とするものではない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。
さらに請求人は、「本願発明では、外筒にネジ部を形成しているため、内筒の内側にネジ部を形成する必要がなく、内筒の内側の凹凸を無くすことができます。この要件により、本願発明では、スプーンで掬う際にスプーンが凹凸に引っかかることがないため、スープや固形物を掬い易くなるという顕著な効果を奏します。また、本願発明では、内筒の上端をカーリング加工して滑らかにしているため、飲み口を滑らかにすることができるという顕著な効果を奏します。また、本願発明では、ネジ部を形成する部材とカーリング加工をする部材を分けていることで、ネジ部の加工によるカーリング加工部分の歪み発生等を防止することができます。この要件により、本願発明では、カーリング加工の精度を確保することができるという顕著な効果を奏します。」(「3.本願が特許されるべき理由」の項参照。)と、本願発明が奏する効果について主張しているが、各効果は、引用発明及び引用発明に引用文献2に記載された事項を適用したものから、各部材の構成に基づいて、当業者が容易に予測できる範囲のものであって、格別な効果ということはできない。
よって、この点についても、請求人の主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成30年10月11日の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?4に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

・請求項 1、2、4に対し、引用文献 1、2
・請求項 3 に対し、引用文献 1?3

<引用文献等一覧>
1.特開2013-150644号公報
2.特開2001-238804号公報
3.特開2014-261号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2の記載事項は、前記第2 2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2 2で検討した本願補正発明から、「有底内筒壁部」について、「ネジ部が形成されていない」ことの限定、及び「上端壁部」について、「前記雄ネジ部から離間した上側の」上端部分に位置することの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2 2に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-05-25 
結審通知日 2020-05-26 
審決日 2020-06-12 
出願番号 特願2014-257450(P2014-257450)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 正法  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 山田 裕介
山崎 勝司
発明の名称 液体容器およびその組立方法  
代理人 北原 宏修  

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