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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C |
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管理番号 | 1364655 |
審判番号 | 不服2019-6201 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-05-13 |
確定日 | 2020-07-28 |
事件の表示 | 特願2017-97074「コンタクトレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開,特開2017-219835〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2017-97074号(以下「本件出願」という。)は,平成29年5月16日(パリ条約の例による優先権主張 2016年6月7日 台湾)を出願日とする特許出願であって,その手続等の概要は,以下のとおりである。 平成30年 5月 8日付け:拒絶理由通知書 平成30年 8月13日付け:意見書 平成30年 8月13日付け:手続補正書 平成31年 1月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和元年 5月13日付け:審判請求書 令和元年 5月13日付け:手続補正書 令和元年 10月 7日付け:上申書 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年5月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前(平成30年8月13日にされた手続補正後)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。 「 使用者の目の表面において,光を受容できる領域を覆う中央光学ゾーンと,前記中央光学ゾーンの周辺にあって,使用者の目の表面において光を受容できない領域を覆う周辺ゾーンと,からなるコンタクトレンズであって, 前記中央光学ゾーンは,曲面となっていて,内から外へ連続して変化している屈折度数があると共に,前記曲面である中央光学ゾーンの面心の接線方向と直交するように前記面心を通過する光軸があり, 周縁から前記光軸までの最短距離が0.5?2.5mmの範囲内の中央曲面であって,該中央曲面における屈折度数が内から外へ0.25D/mm以下の平均変化率で分布している第1の光学ゾーンと, 前記第1の光学ゾーンと前記周辺ゾーンとの間の過渡面であって,該過渡面における屈折度数が内から外へ0.75D/mm以上の平均変化率で分布している第2の光学ゾーンと, からなっていることを特徴とするコンタクトレンズ。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。 「 使用者の目の表面において,光を受容できる領域を覆う中央光学ゾーンと,前記中央光学ゾーンの周辺にあって,使用者の目の表面において光を受容できない領域を覆う周辺ゾーンと,からなるコンタクトレンズであって, 前記中央光学ゾーンは,曲面となっていて,内から外へ連続して変化している屈折度数があると共に,前記曲面である中央光学ゾーンの面心の接線方向と直交するように前記面心を通過する光軸があり, 周縁から前記光軸までの最短距離が0.5?2.5mmの範囲内の中央曲面であって,該中央曲面における屈折度数が内から外へ0.25D/mm以下の平均変化率で分布している第1の光学ゾーンと, 前記第1の光学ゾーンと前記周辺ゾーンとの間の過渡面であって,該過渡面における屈折度数が内から外へ0.75D/mm以上の平均変化率で分布して,周縁と前記面心との球面縦収差が3D以上になるように形成されている第2の光学ゾーンと, からなっていることを特徴とするコンタクトレンズ。」 (3) 本件補正の内容 本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「第2の光学ゾーン」を,「周縁と前記面心との球面縦収差が3D以上になるように形成されている」ものに限定して,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正である。 そこで,この補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて検討すると,以下のとおりである。 すなわち,「第2の光学ゾーン」に関して,願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の【0024】には,「第2の光学ゾーン112は,…第2の光学ゾーン112の周縁における屈折度数と面心Aの屈折度数との差が1.5D以下になるように形成されている。」と記載されている。また,当初明細書の【0021】?【0027】に記載された数値に基づいて計算される,「第2の光学ゾーン112の周縁における屈折度数と面心Aの屈折度数との差」(本件補正後発明でいう「周縁と前記面心との球面縦収差」)は,最大でも,2.75Dと計算されるにとどまる(当合議体注:第1の光学ゾーンが,0.25D/mmで0?0.5mmの範囲,第2の光学ゾーンが0.75D/mmで0.5?4.0mmの範囲にあるとすると,0.25×0.5+0.75×(4.0-0.5)=2.75と計算される。)。 上記の記載からは,本件補正後発明でいう「周縁と前記面心との球面縦収差」を,「3.0D」を下限値として,それ以上とするという技術的事項を理解することができず,むしろ,これに反する技術的事項が理解される。 さらにすすんで,具体的実施例を参照する。 当初明細書の【0036】?【0043】には,「第2の光学ゾーン112の周縁における屈折度数と面心Aの屈折度数との差」が,-1.5D-(-3.0D)=1.5Dと計算される,「第1の実施形態」が開示されている(平均変化率と半径を乗じて計算すると,1.425Dとなり,整合しないが,屈折度数に関する記載を優先して検討する。)。そして,この実施形態は,「近距離のものを見る際に,網膜91の周辺部分912に結ぶ像も十分に鮮明なので,毛様体筋92が更に収縮する必要もなくなる,目の負担が軽くなる。」(【0042】)ものとされている。同様に,【0044】?【0051】には,上記の差が+0.125D-(-3.0D)=3.125Dと計算される,「第2の実施形態」が開示されている。そして,この実施形態は,「網膜91の周辺部分912に結ぶ像が網膜の前に結ぶので,焦点が近視的にぼけることが生じて,毛様体筋92を弛緩でき,児童の近視進行の抑制効果がある。」(【0051】)ものとされている。加えて,【0052】?【0059】には,上記の差が+2.25D-0D=2.25Dと計算される,「第3の実施形態」が開示されている。そして,この実施形態は,「老眼に適した構成」(【0058】)であり,「使用者が第2の光学ゾーン112を通して,中,近距離の景色を鮮明に見える。」(【0059】)ものとされている。 そうしてみると,当初明細書には,確かに,「周縁と前記面心との球面縦収差が3D以上」の要件を満たす,「第2の実施形態」が開示されていたといえる。しかしながら,この点を考慮しても,「周縁と前記面心との球面縦収差」を,「3.0D」を下限値として,それ以上とするという技術的事項を理解することまではできない。すなわち,各実施形態からは,眼の負担を軽くする目的,児童の近視進行を抑制する目的,老眼に適したものとする目的に応じて,「周縁と前記面心との球面縦収差」を,1.5Dから3.125Dまで変化させている実施形態が理解されるにとどまる。そして,第2実施形態の「3.125D」のような大きな値は,本件出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の【請求項3】や,当初明細書の【0043】の記載に照らせば,本件出願の発明において想定されている種々の目的に応じたコンタクトレンズの設計の中でも,上限側にあると理解するのが自然である。 したがって,これら実施形態からも,本件補正後発明でいう「周縁と前記面心との球面縦収差」を,「3.0D」を下限値として,それ以上とするという技術的事項を理解することはできない。 願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面における,その余の記載を参照しても,同様である。 念のために,本件出願時の技術水準についても確認する。 特表2010-528339号公報(以下「参考文献1」という。)には,本願発明と同様に,多焦点コンタクトレンズに関する技術が記載されているところ,その【0010】には,「周辺ゾーン13における球面縦収差の増加は,レンズの光軸中心から約2.5mmの半径において,約0.25?約2ジオプターであっても良く,好ましくは約0.5?約1.50ジオプターである。」と記載されている。 特開2014-149527号公報(以下「参考文献2」という。)にも,本願発明と同様に,多焦点コンタクトレンズに関する技術が記載されているところ,その【0020】には,「近視の進行を遅延させるための治療効力を最大化し,かつ中心視矯正を最適化するために,オプティカルゾーンの中心と周縁との間のジオプトリー度数の差は,好ましくは,異なる子午線について,0.5D?25.0Dである。」と記載されている。 特表2009-540373号公報(以下「参考文献3」という。)にも,本願発明と同様に,多焦点コンタクトレンズに関する技術が記載されているところ,【図3】には,遷移ゾーンの周縁(約4.5mm)において,約+1.5Dにまで遷移するように設計された多焦点コンタクトレンズが記載されている。また,【図4】には,遷移ゾーンの周縁(約6mm)において,約+3.2Dにまで遷移するように設計された多焦点コンタクトレンズが記載されている。 これら参考文献の記載内容を考慮すると,多焦点コンタクトレンズレンズにおいて,その光軸中心と周縁との度数の差を,2D程度までの範囲内で設計する(参考文献1)のみならず,3Dを超えるような値も含めて自在に設計する(参考文献2及び参考文献3)ことは,周知技術であったと認められる。しかしながら,このような設計が周知技術であったからといって,光軸中心と周縁との度数の差を,3.0Dを下限値として,それ以上とする技術的事項が,技術常識として存在していたということはできない。 以上のとおりであるから,本件補正は,当業者によって,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。 したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。 2 独立特許要件についての判断 事案に鑑みて,本件補正後発明が特許法17条の2第6項において準用する,同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 (1) 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された特開平5-181096号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【0001】 【技術分野】本発明は,コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼球或いは眼内に装着または埋殖されるレンズ(以下,眼用レンズという)であって,同心円上に複数の度数が存在する同時観察型のマルチフォーカル眼用レンズと,その製造方法に関するものである。 【0002】 【背景技術】従来から,老視眼等の視力調節能力に劣る眼に適用されて,視力調節力を補うための眼用レンズとして,一つのレンズ内に多数の度数を存在せしめた,多焦点の眼用レンズが提案されている。 …(省略)… 【0008】しかも,従来のマルチフォーカルタイプの眼用レンズでは,何れも,レンズの度数が径方向に略一定の変化率で変化する非球面形状が採用されているために,装用者個人の眼屈折力調節能力の程度や生活状態等に応じて要求される,遠点,近点,中間点の相互間での明瞭度の調節等を満足に行なうことができず,光学的効果が限定されるという問題をも,内在していたのである。 【0009】 【解決課題】ここにおいて,本発明は,上述の如き事情を背景として為されたものであって,その解決課題とするところは,遠点,近点,中間点の何れにおいてもより鮮明な像を観察することができ,像のボケやゴースト,複視等の現象が可及的に防止され得ると共に,装用者各個人に応じてレンズの光学的調節を行なうことが可能で,各個人へのフィッティングが容易であるマルチフォーカル眼用レンズと,その製造方法を提供することにある。 【0010】 【解決手段】そして,かかる課題を解決するために,本発明にあっては,同心円上に複数の度数が存在するマルチフォーカル眼用レンズであって,遠用視力補正域と近用視力補正域およびそれらの間の中間視力補正域を,それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設ける一方,それら各補正域を,各々径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すと共に,各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状と為し,且つ,前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を,前記中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくしたマルチフォーカル眼用レンズを,その要旨とするものである。 【0011】また,本発明は,かくの如きマルチフォーカル眼用レンズにおいて,前記遠用視力補正域および近用視力補正域における径方向の度数変化率を,1D(ディオプター)/mm以下としたものをも,その要旨とするものである。 …(省略)… 【0013】 【構成の具体的説明】先ず,本発明に係るマルチフォーカル眼用レンズにおける具体的な形態としては,レンズの中心部分に遠用視力補正域が,レンズの外周部分に近用視力補正域が,それぞれ設けられると共に,それら遠用視力補正域と近用視力補正域との間に中間視力補正域が設けられる場合と,レンズの中心部分に近用視力補正域が,レンズの外周部分に遠用視力補正域が,それぞれ設けられると共に,それら近用視力補正域と遠用視力補正域との間に中間視力補正域が設けられる場合との,二つの形態がある。 …(省略)… 【0015】また,レンズ中心部分に遠用視力補正域を,外周部分に近用視力補正域を設定する場合には,遠用視力補正域を,薄暗い条件下で瞳孔直径と同じか,またはそれ以下となるように設定することが好ましく,具体的には直径が2?6mmとなるように設定することが好ましい。更に,より好ましくは,かかる条件に加え,遠用視力補正域が,レンズの光学部全体の面積の10?30%を占めるように,且つ近用視力補正域が,レンズの光学部全体の面積の20?50%を占めるように,それぞれ設定される。 【0016】これは,瞳孔径が変化した際にも,遠用視力補正域および近用視力補正域による観察を可能とし,遠点から近点に至る各点での像のボケを防止するためである。尤も,薄暗い条件下では,一般に遠点観察が多いという実情等から,遠用視力補正域を,薄暗い条件下で瞳孔直径と同じ程度に設定することも許容される。 …(省略)… 【0018】なお,中間視力補正域は,遠用視力補正域と近用視力補正域との間の移行部として定義され,上述の如くして決定された遠用視力補正域と近用視力補正域との間の全領域に亘って,形成されることとなる。 【0019】そして,これら遠用視力補正域,近用視力補正域および中間視力補正域は,何れも,径方向において連続して変化する度数分布曲線を示す形状をもって形成される。 …(省略)… 【0024】本発明に係るマルチフォーカル眼用レンズの製作に際しては,始めに,目的とするレンズの度数分布(度数分布曲線)を決定する。 【0025】それには,先ず,装用者の視力調節能力等に応じて,必要な遠用視力補正度数と必要な最高の近用視力補正度数を,それぞれ,決定する。そして,必要な最高の遠用視力補正度数に対して,付加度数を加えることにより,光軸中心或いは外周部において必要な最大の近用視力補正度数が得られるように,度数分布曲線を設定する。 【0026】そこにおいて,度数分布曲線は,単一の或いは複数の一次或いは二次以上の多項式によって設定することが可能である。 …(省略)… 【0032】次いで,かくの如く,目的とするレンズの度数分布曲線を決定した後,レンズ面の形状を決定する。 【0033】それには,始めに,レンズの何れか一方の側の面を,所望の形状に設定する。なお,特に,コンタクトレンズの場合には,装着の容易性および良好性を確保するために,内面(凹面)を,装用者の眼(角膜)の形状に合わせた形状にすることが好ましく,それ故,先ず,かかる内面が,適当な球面乃至は非球面(例えば,楕円面や楕円面と球面との合成面)として,設定されることとなる。 【0034】そして,その後,レンズの他方の側の面形状を,上述の如くして決定された度数分布曲線に対応した度数が得られるように,光線追跡法を用いて,決定する。 …(省略)… 【0052】そして,このような光線追跡法によってレンズの面形状を決定し,その結果に基づいて,数値制御切削装置等を用いてレンズ材を切削加工することにより,前述の如き,目的とするマルチフォーカル眼用レンズが製作されることとなる。 【0053】 【発明の効果】すなわち,本発明に係るマルチフォーカル眼用レンズにあっては,前述の如く,レンズの光軸を中心とする径方向において,度数分布曲線を連続させたことにより,度数の変化点における光学的な不連続性に起因する観察像のボケやゴースト,複視等が,可及的に防止され得るのである。 【0054】また,大きな度数差を有する遠用視力補正域と近用視力補正域との間が,中間視力補正域によって,連続して滑らかに接続されていることから,中間点においても鮮明な像を観察することができ,それによって,中間点観察が容易となるのである。 【0055】しかも,遠用視力補正域および近用視力補正域の度数変化率が,中間視力補正域よりも小さく設定されていることから,各種条件下においても,遠点観察および近点観察時に鮮明な像を有利に得ることができるのであり,それ故,中間点における像の明瞭度を犠牲にすることなく,特に要求される遠点観察および近点観察が容易となるという大きな効果を奏し得るのである。 【0056】また,中間視力補正域が,遠用視力補正域および近用視力補正域に連続した度数分布曲線をもって形成されていることから,かかる中間視力補正域における度数分布形態を調節することにより,遠点観察時或いは近点観察時に得られる像を,中間視力補正域によって補完し,視認し易くすることもできるのであり,装用者に応じた中間視力補正域の調節が可能となって,優れたマルチフォーカル眼用レンズとしての光学特性が発揮され得るのである。 【0057】さらに,本発明に従い,光線追跡法によってレンズの面形状を決定するようにすれば,各種の任意の度数分布曲線を有するマルチフォーカル眼用レンズを,容易に設計,製作することができるのである。」 イ 「【0058】 【実施例】以下,本発明に従い,コンタクトレンズを製作した一実施例について,具体的な説明を加えることとする。 …(省略)… 【0060】先ず,かかるコンタクトレンズの製作に際して,目的とする最高の遠用視力補正度数を-6.00Dに,付加度数の最大値を+1.6Dに,それぞれ決定し,且つレンズ凹面には,離心率:0.4の非球面(頂点の曲率:8.00mm)を採用することを決定した。 【0061】また,遠用視力補正域の半径:X_(1) ,中間視力補正域の半径:X_(2) ,近用視力補正域の半径:X_(3) ,遠用視力補正域と中間視力補正域との境界における付加度数:Y_(1) ,中間視力補正域と近用視力補正域との境界における付加度数:Y_(2) ,最大の付加度数:Y_(3) を,それぞれ,下記の如く,決定した。 (X_(1) ,Y_(1) )=(1.5mm,+0.4D) (X_(2) ,Y_(2) )=(3.0mm,+1.4D) (X_(3) ,Y_(3) )=(4.0mm,+1.6D) 【0062】そして,遠用視力補正領域,中間視力補正領域および近用視力補正領域における径方向の度数分布曲線を,それぞれ,二次の多項式によって設定することとし,前述の如き手法に従って,それぞれの補正領域における度数分布曲線を求めた。求めた度数分布曲線を,図3に示すこととする。 【0063】次いで,この得られた度数分布曲線に基づいて,前述の如き光線追跡法により,コンタクトレンズの凸面側の面形状を,求めた。その結果を,下記表1に示すこととする。 【0064】 【表1】 …(省略)… 【0066】そして,このようにして求められた値に基づいて,数値制御切削装置を用いてレンズ材を切削加工することにより,目的とするマルチフォーカルタイプのコンタクトレンズを得た。」 ウ 図3 (2) 引用発明 引用文献1には,【0010】に記載の構成を具備する「マルチフォーカル眼用レンズ」を,「コンタクトレンズ」として具体化したときの寸法及び度数が,例えば,【0060】及び【0061】に記載のものとなり,また,度数分布曲線が図3のものとなることが開示されている。 そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 遠用視力補正域と近用視力補正域及びそれらの間の中間視力補正域を,それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け, 各補正域を,おのおの径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すとともに,各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状とし, 遠用視力補正域及び近用視力補正域における径方向の度数変化率を,中間視力補正域における径方向の度数変化率よりも小さくしたマルチフォーカル眼用レンズである,コンタクトレンズであって, 目的とする最高の遠用視力補正度数を-6.00D,遠用視力補正域の半径X_(1)を1.5mm,中間視力補正域の半径X_(2)を3.0mm,近用視力補正域の半径X_(3)を4.0mm,遠用視力補正域と中間視力補正域との境界における付加度数Y_(1)を+0.4D,中間視力補正域と近用視力補正域との境界における付加度数Y_(2)を+1.4D,最大の付加度数Y_(3)を+1.6Dとするとともに, レンズ凹面は,頂点の曲率を8.00mm,離心率を0.4の非球面とした, 度数分布曲線が次のものである,コンタクトレンズ。 度数分布曲線: 」 (3) 対比 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 中央光学ゾーン 引用発明の「コンタクトレンズ」は,「遠用視力補正域と近用視力補正域及びそれらの間の中間視力補正域を,それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け」たものであり,また,「遠用視力補正域の半径X_(1)を1.5mm,中間視力補正域の半径X_(2)を3.0mm,近用視力補正域の半径X_(3)を4.0mm」としたものである。 ここで,本件出願の明細書の【0036】?【0059】及び【図7】?【図9】の各実施形態では,面心Aから半径3mmまでの範囲が,「中央光学ゾーン」とされている。また,この範囲ならば,個人差や,周囲の明るさ等により瞳孔の大きさが変化することを勘案しても,「使用者の目の表面において,光を受容できる領域を覆う」(少なくともその一部を覆う)ものと認められる。 そうしてみると,引用発明の「コンタクトレンズ」のうち,「遠用視力補正域」及び「中間視力補正域」を併せてなる,半径3.0mm以内の領域は,本件補正後発明の,「使用者の目の表面において,光を受容できる領域を覆う」とされる,「中央光学ゾーン」に相当する。 イ 周辺ゾーン 前記アと同様にして,引用発明の「コンタクトレンズ」のうち,「近用視力補正域」を含む,半径3.0mm超の領域は,本件補正後発明でいう,「前記中央光学ゾーンの周辺にあって,使用者の目の表面において光を受容できない領域を覆う」とされる,「周辺ゾーン」に相当する。 (当合議体注:「マルチフォーカル眼用レンズ」を「コンタクトレンズ」として具体化した場合に,「近用視力補正域」のさらに外周に,「フィッティングゾーン」等を設けることが自明であることを勘案して,上記のとおり対比する。) ウ 中央光学ゾーンの形状 引用発明の「コンタクトレンズ」は,「各補正域を,おのおの径方向に連続して変化する度数分布曲線を示すとともに,各補正域間の境界で度数分布曲線が連続するレンズ面形状とし」,また,「レンズ凹面は,頂点の曲率を8.00mm,離心率を0.4の非球面とした」ものである。 上記の構成からみて,引用発明の「コンタクトレンズ」の「各補正域」のレンズ面の形状は,レンズ凹面はもちろん,レンズ凸面も曲面となっていて,かつ,その屈折度数は,径方向に連続して変化しているものと理解される。また,引用発明のような「コンタクトレンズ」において,頂点(半径0mmの点)の接線方向と直交する方向に,レンズの光軸があることは,技術常識である。 そうしてみると,引用発明の「コンタクトレンズ」は,本件補正後発明の「コンタクトレンズ」における,「前記中央光学ゾーンは,曲面となっていて,内から外へ連続して変化している屈折度数があると共に,前記曲面である中央光学ゾーンの面心の接線方向と直交するように前記面心を通過する光軸があり」という構成を具備するものである。 エ 第1の光学ゾーン 引用発明の「コンタクトレンズ」は,「遠用視力補正域と近用視力補正域及びそれらの間の中間視力補正域を,それぞれ径方向に所定幅をもって互いに同心的に設け」たものである。また,引用発明の「コンタクトレンズ」は,「目的とする最高の遠用視力補正度数を-6.00D,遠用視力補正域の半径X_(1)を1.5mm,中間視力補正域の半径X_(2)を3.0mm」,「遠用視力補正域と中間視力補正域との境界における付加度数Y_(1)を+0.4D,中間視力補正域と近用視力補正域との境界における付加度数Y_(2)を+1.4D」とし,その度数分布曲線は,次のとおりである。 ここで,引用発明の「コンタクトレンズ」のうち,半径1.0mm以下の領域は,その付加度数が僅か(1/4D未満)であるから,「遠方の景色を見ると,遠方の景色が第1の光学ゾーン111を通過して遠方の景色の像が黄斑の中心窩911に結ぶ」(本件出願の明細書の【0034】)といえる。また,この領域は,他の領域との位置関係からみて,中央にあり,かつ,前記ウで述べたとおり曲面である。そして,この領域の屈折度数の平均変化率は,0.25D/mm以下である(度数分布曲線から読み取ると,0.2D/mmに満たない程度である。)。 そうしてみると,引用発明の「コンタクトレンズ」のうち,半径1.0mm以下の領域は,本件補正後発明の「第1の光学ゾーン」に相当するとともに,「周縁から前記光軸までの最短距離が0.5?2.5mmの範囲内の中央曲面であって」,「該中央曲面における屈折度数が内から外へ0.25D/mm以下の平均変化率で分布している」という要件を満たす。 (当合議体注:引用発明の「コンタクトレンズ」において,本件補正後発明の「第1の光学ゾーン」に対応する範囲を,どのように理解するかは,当業者の主観に依存すると認められるが,とりあえず,上記のとおり対比する。) オ 第2の光学ゾーン 前記エで述べた引用発明の構成,特に,度数分布曲線からみて,引用発明の「コンタクトレンズ」のうち,半径1.0?3.0mmの領域と,本件補正後発明の「第2の光学ゾーン」は,「前記第1の光学ゾーンと前記周辺ゾーンとの間の過渡面」である「第2の光学ゾーン」の点で共通する。 カ コンタクトレンズ 上記ア?オの対比結果からみて,引用発明の「コンタクトレンズ」は,本件補正後発明の,「使用者の目の表面において,光を受容できる領域を覆う中央光学ゾーンと,前記中央光学ゾーンの周辺にあって,使用者の目の表面において光を受容できない領域を覆う周辺ゾーンと,からなる」とされる,「コンタクトレンズ」に相当する。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。 「 使用者の目の表面において,光を受容できる領域を覆う中央光学ゾーンと,前記中央光学ゾーンの周辺にあって,使用者の目の表面において光を受容できない領域を覆う周辺ゾーンと,からなるコンタクトレンズであって, 前記中央光学ゾーンは,曲面となっていて,内から外へ連続して変化している屈折度数があると共に,前記曲面である中央光学ゾーンの面心の接線方向と直交するように前記面心を通過する光軸があり, 周縁から前記光軸までの最短距離が0.5?2.5mmの範囲内の中央曲面であって,該中央曲面における屈折度数が内から外へ0.25D/mm以下の平均変化率で分布している第1の光学ゾーンと, 前記第1の光学ゾーンと前記周辺ゾーンとの間の過渡面である第2の光学ゾーンと, からなっているコンタクトレンズ。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は,次の点で相違する。 (相違点1) 「第2の光学ゾーン」が,本件補正後発明は,「該過渡面における屈折度数が内から外へ0.75D/mm以上の平均変化率で分布して」いるのに対して,引用発明は,この要件を満たさない(0.6D/mm程度である)点。 (相違点2) 「第2の光学ゾーン」が,本件補正後発明は,「周縁と前記面心との球面縦収差が3D以上になるように形成されている」のに対して,引用発明は,この要件を満たさない(+1.4Dである)点。 (5) 判断 ア 相違点1について 引用発明の「コンタクトレンズ」は,「マルチフォーカル眼用レンズ」である。そして,引用発明のように,光学ゾーンの中心から周縁に向かって度数が連続的に変化する「マルチフォーカル眼用レンズ」において,周縁に向かう領域の度数の平均変化率を0.75D/mm以上とすることは,一般的に行われている事項である(このような設計が可能であり,また,装用上の大きな問題も発生しないと認められる。)。 例えば,前記参考文献1の【0010】には,「周辺ゾーン13における球面縦収差の増加は,レンズの光軸中心から約2.5mmの半径において,約0.25?約2ジオプターであっても良く,好ましくは約0.5?約1.50ジオプターである。周辺ゾーン13の幅は,約0.5?約3.5mm,好ましくは約1?約2mmであっても良い。」と記載されている。そして,例えば,球面縦収差の増加を1.5ジオプター,周辺ゾーン13の幅を2mmとして計算すると,平均変化率は0.75D/mmとなる。また,前記参考文献2の【図2A】?【図5】,並びに,前記参考文献3の【図3】及び【図4】からも,平均変化率が0.75D/mmを超える設計例を看取することができる。 ここで,引用発明の「コンタクトレンズ」において,「遠用視力補正域の半径X_(1)」,「中間視力補正域の半径X_(2)」,「遠用視力補正域と中間視力補正域との境界における付加度数Y_(1)」,「中間視力補正域と近用視力補正域との境界における付加度数Y_(2)」をどの程度に設計するかは,当業者における随意である。また,遠用視を重視する(遠用視力補正域の全域において像のボケを望まない)当業者ならば,引用発明の「遠用視力補正域と中間視力補正域との境界における付加度数Y1」を小さく設計する(例:視力矯正の最小単位である,1/4D以内に抑える。)と認められる。そして,例えば,引用発明において,「遠用視力補正域と中間視力補正域との境界における付加度数Y1」を,+0.25Dに変更した場合を考えると,引用発明の「コンタクトレンズ」のうち,半径1.5mm以下の領域は,本件補正後発明の「第1の光学ゾーン」に相当することとなり,また,半径1.5?3mmの領域の平均変化率は,0.77D/mmとなる。 したがって,引用発明の「コンタクトレンズ」において,相違点1に係る本件補正後発明の構成を採用することは,当業者が設計し得る範囲内の事項である。 イ 相違点2について 付加度数を+3.00Dを超える程度とすることが周知技術であることは,前記1(3)で述べたとおりである。 したがって,引用発明の「コンタクトレンズ」において,相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用することも,当業者が設計し得る範囲内の事項である。 なお,引用発明及び前記1(3)で挙げた参考文献は,いずれもマルチフォーカル眼用レンズに関するものであるとしても,引用発明は,遠近両用のためのマルチフォーカル眼用レンズであるのに対し,後者は,近視の進行の抑制のためのマルチフォーカル眼用レンズである。しかしながら,本件優先日前の当業者において,マルチフォーカル眼用レンズを近視の進行の抑制のために流用できることは,技術常識である。 仮に,当業者が,遠近両用のマルチフォーカル眼用レンズにとらわれると仮定して検討しても,当業者ならば,+3.00を超えた付加度数を望むことができる(例えば,国際公開第97/31285号明細書の42頁下から3行?43頁4行に記載された「例2」では,近用の加入度数が+4.00Dの「例2」が示されている。)。 なお,相違点2に係る設計変更と,前記アにおいて例示した相違点1に係る設計変更は,矛盾するものではない。 (6) 発明の効果について 本件出願の【0014】には,「本発明のコンタクトレンズは,内から外へ連続的に変化している屈折度数があるので,屈折度数が急激に変化しなくなり,使用者が見える像がぼける,ずれる,または分光現象が生じることを防止できて,使用者がめまいなど症状を生ずることを有効に抑制できる。」と記載されている。 しかしながら,このような効果は,引用発明も具備する効果である。 (7) 請求人の主張について 請求人は,審判請求書及び上申書において,概略,第2の光学ゾーン112の周縁における屈折度数と前記面心の屈折度数との差が3D以上になることにより,近視進行を抑える効果がより高まる上,特に児童の近視進行の抑制に効果があると主張している。 しかしながら,本件補正後発明は,「コンタクトレンズ」という物の発明であり,「児童の近視進行の抑制方法」の発明ではない。また,特許請求の範囲の記載からみて,本件補正後発明の「コンタクトレンズ」を,請求人が主張するような用途発明のものと理解することもできない。 なお,マルチフォーカル眼用レンズが,近視の進行を抑制するという属性を具備すること,また,この属性により,マルチフォーカル眼用レンズが,近視の進行を抑制するという用途への使用に適することは,いずれも周知である(用途発明としての要件を満たさない。)。 (8) その他 引用発明の「コンタクトレンズ」の「近用視力補正域」は,近用時(視線方向が下にあるとき)には,「使用者の目の表面において,光を受容できる領域」に重なるものである。あるいは,暗闇で瞳孔が開いた場合においても,「使用者の目の表面において,光を受容できる領域」に重なるものである。 そこで,念のため,引用発明の「コンタクトレンズ」の「近用視力補正域」を,本件補正後発明の「中央光学ゾーン」(の第2の光学ゾーン)に含めて検討しても,当業者ならば,前記(5)ア及びイで述べた設計変更が可能である。 結論は変わらない。 (9) 小括 本件補正後発明は,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 3 補正却下のまとめ 本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するとともに,同条6項において準用する同法126条7項の規定にも違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 2 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平5-181096号公報(以下「引用文献1」という。)及び周知技術に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用文献及び引用発明 引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,「第2の光学ゾーン」に関する「周縁と前記面心との球面縦収差が3D以上になるように形成されている」という発明特定事項を除いたものである。そして,本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)?(9)に記載したとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうしてみると,本願発明も,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-02-28 |
結審通知日 | 2020-03-02 |
審決日 | 2020-03-16 |
出願番号 | 特願2017-97074(P2017-97074) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02C)
P 1 8・ 561- Z (G02C) P 1 8・ 575- Z (G02C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 慎平、小西 隆、菅原 奈津子 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 早川 貴之 |
発明の名称 | コンタクトレンズ |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |