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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1364656
審判番号 不服2019-6939  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-28 
確定日 2020-07-28 
事件の表示 特願2017-515936「UMTSに関する制御チャネルシグナリングの拡張送信」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月31日国際公開,WO2016/048751,平成29年11月24日国内公表,特表2017-535127〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)9月16日(パリ条約による優先権主張 2014年9月26日 米国,2015年7月16日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成30年8月28日に手続補正書が提出され,平成30年10月31日付けで拒絶理由が通知され,平成31年2月6日に意見書及び手続補正書が提出され,同年4月12日付けで拒絶査定がされ,これに対し,令和元年5月28日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。


第2 令和元年5月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年5月28日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は,平成31年2月6にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 ユーザ機器でワイヤレス通信中に制御チャネルシグナリングの送信を変更する方法であって,
専用チャネル(DCH)で送信されるシグナリング情報に対応する通信状態を検出するステップであって,前記通信状態は,前記シグナリング情報のみが音声情報なしに前記DCHで送信されている状態に対応する,ステップと,
専用物理データチャネル(DPDCH)が前記通信状態の検出に基づいて送信されているかどうかを決定するステップであって,前記決定するステップが,1つまたは複数のシグナリング無線ベアラ(SRB)が現在送信されているかどうかを決定するステップをさらに含む,ステップと,
前記DPDCHが送信されていないとの前記決定に応じて専用物理制御チャネル(DPCCH)ゲーティングパターンを実行するステップであって,前記DPCCHゲーティングパターンを実行するステップは,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップを含み,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップが,1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々における複数のスロットのうちの半数を超えるスロットで前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行するステップをさらに含む,ステップと
を含む,方法。」
との発明(以下,「本願発明」という。)を,
「 ユーザ機器でワイヤレス通信中に制御チャネルシグナリングの送信を変更する方法であって,
専用チャネル(DCH)で送信されるシグナリング情報に対応する通信状態を検出するステップであって,前記通信状態は,前記シグナリング情報のみが音声情報なしに前記DCHで送信されている状態に対応する,ステップと,
専用物理データチャネル(DPDCH)が前記通信状態の検出に基づいて送信されているかどうかを決定するステップであって,前記決定するステップが,1つまたは複数のシグナリング無線ベアラ(SRB)が現在送信されているかどうかを決定するステップをさらに含む,
ステップと,
前記DPDCHが送信されていないとの前記決定に応じて専用物理制御チャネル(DPCCH)ゲーティングパターンを実行するステップであって,前記DPCCHゲーティングパターンを実行するステップは,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップを含み,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップが,1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行するステップをさらに含み,前記DPCCHゲーティングパターンが,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであり,前記DCHの電力制御を維持するためにダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される,ステップと
を含む,方法。」(下線部は,補正箇所を示す。)
との発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
請求項1についての,「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々における複数のスロットのうちの半数を超えるスロットで」を「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で」とする補正は,「スロット」にかかる限定が外されたものであるから,本願発明を特定するために必要な事項を更に限定するものではない。したがって,当該補正の目的は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当しない。
ここで,仮に本願発明の「スロット」が「1つのTTIを4等分した期間」を意味しており,上記補正は表現を変えただけのものであるとしても,「スロット」に関する記載不備は指摘されていないから,特許法第17条の2第5項第4号の「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」との要件に合致しないから,当該補正の目的は明瞭でない記載の釈明に該当しない。
また,請求項1についての,DPCCHゲーティングパターンに関して「前記DPCCHゲーティングパターンが,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであり,前記DCHの電力制御を維持するためにダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される,」との発明特定事項を追加する補正は,DCHの電力制御を維持するためという異なる課題に向けられたものであるから,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載された発明の解決しようとする課題が同一であるものとはいえない。したがって,当該補正の目的は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当しない。
したがって,請求項1についての上記補正は,特許法第17条の2第3項,同第4項の要件は満たすものの,同第5項の規定に違反する。

(2)独立特許要件
上記(1)のとおり,請求項1についての上記補正は特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが,更に進んで,仮に当該補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は,上記1の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 優先権について
補正後の発明の「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行する」との事項は,2015年7月16日に出願された米国特許出願14/801621の書類には記載されているものの,2014年9月26日に出願された米国仮特許出願62/056283の書類には記載されていない。
すなわち,2014年9月26日に出願された米国仮特許出願62/056283の書類(APPENDIX参照)には,「the gating pattern could include DTX in the first and last few slots of every SRB TTI.」とは記載されているが,これは,ゲーティングパターンが各SRB TTIにおける最初と最後のいくつかのスロットにおいてDTXを含むことを意味しているに過ぎず,請求項1に記載の「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行する」ことを意味しているとは認められない。
したがって,2014年9月26日を優先日とする優先権主張の効果は認められない。このため,新規性及び進歩性の判断の基準日は,2015年7月16日である。

ウ 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用されたHuawei, HiSilicon,Enabling DTX/DRX for SRB only over DCH, 3GPP TSG-RAN WG1#78b R1-144297,<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_78b/Docs/R1-144297.zip>,利用可能日:2014年9月27日(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。




([当審仮訳]:
1.はじめに
Rel-12の特徴として,各20ms TTI DCHの最初の10msで音声トラフィックが送信され,残りの10msの送信をオフにできるDCH拡張が検討された。本寄書では,DCH経由のSRBのみの場合,送信電力を節約し,干渉を減らすよう,40msのSRB送信間隔のうち3番目の10msでも送信をオフにできることを検討する。

2.DCH経由でのみSRBのDTX/DRXを有効にする
HSPAの開発により,CS及びPCのトラフィックはHSPAを介して送信されるが,SRBはマクロダイバーシティ及び長いTTIの利点が得られるようDCHを介して送信される。SRBの送信は通常は不連続であるため,SRB送信のギャップ中の電力消費と他のユーザーへの干渉は不要である。UEがRel-12 DCH拡張で構成されることができ,各20msで10ms DTXが可能であり(図1に示される),SRBが送信されない場合,連続送信と比較して,電力消費を50%節約し,他のUEへの干渉を50%削減できる。TS 25.214 [1]の関連する説明は,次のように抜粋される。

各ULスロットで,以下のすべての条件が満たされる場合,UL_DPCH_DYN_DTXはTRUEに設定される。それ以外の場合,UL_DPCH_DYN_DTXはFALSEに設定される。
-このスロットは,20ms CIの2番目の無線フレームにある。
-このスロットはUL DPDCHビットを含まない。つまり,この無線フレームでUL DPCHトランスポートブロックが送信されないか,UL_DPCH_10ms_Modeが上位層によって構成される。

各DLスロットで,以下の条件がすべて満たされる場合,DL_DPCH_DYN_DRXはTRUEに設定される。それ以外の場合,DL_DPCH_DYN_DRXはFALSEに設定される。
-このスロットは,20ms CIの2番目の無線フレームにある。
-この無線フレームでは,DL DCHはSRBsを含まない。
-UL_DPCH_10ms_Modeが上位層によって構成される。
(図1は省略。)

SRB送信がめったに起こらない(約1%?2%の送信可能性)ことを考慮すると,SRBが送信されない場合,SRB DTX/DRXの改善の余地がまだある。40ms SRB送信間隔のうち3番目の10msがDTXされる場合,すなわち,DPCCHが40msの最初の10msで送信される(図2に示される)場合,観察される50%DTX/DRXゲインに加えて,更に25%DTX/DRXゲイン(連続送信と比較して合計75%DTX/DRXゲイン)が得られる。DCH経由のSRBのみの場合,省電力と干渉低減の追加の利益が得られる。

提案1:DCH経由のSRBのみであり,SRBが送信されない場合,DPCCHは, 40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ送信される。
(図2は省略。)

3.結論
本寄書では,DCH経由のSRBのみの場合のDTX/DRXについて検討する。Rel-12で説明したように,UEがDCH拡張で構成されている場合,音声トラフィックは20ms TTI DCHの最初の10msで送信でき,50%DTX/DRXゲインが観察される。DCH経由のSRBをのみであり,SRBが送信されない場合,追加の25%DTX/DRXゲインを得るよう,40msの送信間隔の3番目の10msが更にDTXされ得る。DCH経由のSRBのみの場合,省電力と干渉低減の追加の利益が得られる。提案は:
提案1:DCH経由のSRBのみであり,SRBが送信されない場合,DPCCHは, 40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ送信される。)

上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,次のことがいえる。
引用例の「Rel-12の特徴として,各20ms TTI DCHの最初の10msで音声トラフィックが送信され,残りの10msの送信をオフにできるDCH拡張が検討された。」,「HSPAの開発により,CS及びPCのトラフィックはHSPAを介して送信されるが,SRBはマクロダイバーシティ及び長いTTIの利点が得られるようDCHを介して送信される。」との記載によれば,CS及びPCのトラフィックはHSPAを介して送信され,音声トラフィック及びSRBはDCHを介して送信されるといえる。そして,DCHに対する物理チャネルがDPDCHとDPCCHであり,音声トラフィック,SRBがDPDCHで送信されることは当業者における技術常識(3GPP TR25.702 V12.1.0 特に4.2.6.1.1及び4.2.6.1.5参照。)である。
そして,引用例の「UEがRel-12 DCH拡張で構成されることができ,各20msで10ms DTXが可能であり(図1に示される),SRBが送信されない場合,連続送信と比較して,電力消費を50%節約し,他のUEへの干渉を50%削減できる。」,「SRB送信がめったに起こらない(約1%?2%の送信可能性)ことを考慮すると,SRBが送信されない場合,SRB DTX/DRXの改善の余地がまだある。40ms SRB送信間隔のうち3番目の10msがDTXされる場合,すなわち,DPCCHが40msの最初の10msで送信される(図2に示される)場合,観察される50%DTX/DRXゲインに加えて,更に25%DTX/DRXゲイン(連続送信と比較して合計75%DTX/DRXゲイン)が得られる。」,「Rel-12で説明したように,UEがDCH拡張で構成されている場合,音声トラフィックは20ms TTI DCHの最初の10msで送信でき,50%DTX/DRXゲインが観察される。DCH経由のSRBのみであり,SRBが送信されない場合,追加の25%DTX/DRXゲインを得るよう,40msの送信間隔の3番目の10msが更にDTXされ得る。」及び「提案1:DCH経由のSRBのみであり,SRBが送信されない場合,DPCCHは, 40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ送信される。」との記載によれば,引用例には,DCH経由のSRBのみであり,SRBが送信されない場合,DPCCHは, 40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ送信され,これにより,Rel-12 DCH拡張における50%DTX/DRXゲインに加えて,更に25%DTX/DRXゲインを得て,連続送信と比較して75%DTX/DRXゲインが得られることが記載されているといえる。そして,音声トラフィック及びSRBがDCHを介して送信されることに鑑みれば,「DCH経由のSRBのみであり」とは,SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であるといえる。また, DPCCHは,40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ送信されることから,75%のDTX/DRXゲインであることが自明である。
ここで,引用例の「UEがRel-12 DCH拡張で構成されることができ,各20msで10ms DTXが可能であり(図1に示される),SRBが送信されない場合,連続送信と比較して,電力消費を50%節約し,他のUEへの干渉を50%削減できる。TS 25.214 [1]の関連する説明は,次のように抜粋される。
各ULスロットで,以下のすべての条件が満たされる場合,UL_DPCH_DYN_DTXはTRUEに設定される。それ以外の場合,UL_DPCH_DYN_DTXはFALSEに設定される。(中略)
各DLスロットで,以下の条件がすべて満たされる場合,DL_DPCH_DYN_DRXはTRUEに設定される。それ以外の場合,DL_DPCH_DYN_DRXはFALSEに設定される。」との記載によれば,「50%DTX/DRXゲイン」や「75%DTX/DRXゲイン」は「DTXゲイン」及び「DRXゲイン」が50%,75%であることであり,「UL_DPCH_DYN_DTX」及び「DL_DPCH_DYN_DRX」はそれぞれDTX及びDRXを制御すると解するのが相当である。してみると,「DPCCHは, 40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ送信され」は,アップリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信及びダウンリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信が,ともに40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われることを意味していると認められる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「 SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,SRBが送信されない場合,アップリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信及びダウンリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信は,ともに40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われる,これにより,Rel-12 DCH拡張における50%DTX/DRXゲインに加えて,更に25%DTX/DRXゲインを得て,連続送信と比較して75%DTX/DRXゲインが得られる,方法。」

エ 対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると,
(ア)引用発明の「SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,」との事項は,SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であることを検出しているといえる。また,引用発明の「SRB」が補正後の発明の「シグナリング情報」に含まれることは明らかである。したがって,引用発明の当該事項は,補正後の発明の「専用チャネル(DCH)で送信されるシグナリング情報に対応する通信状態を検出するステップであって,前記通信状態は,前記シグナリング情報のみが音声情報なしに前記DCHで送信されている状態に対応する,ステップ」に相当する。

(イ)引用発明の「SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,SRBが送信されない場合,」との事項は,DCHを介して送信されるのは音声トラフィック及びSRBであり,音声トラフィック及びSRBがDCHに対する物理チャネルであるDPDCHで送信されることに鑑みれば,「専用物理データチャネル(DPDCH)が送信されているかどうかを決定」しているといえる。また,場合分けの前提として,SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であることを検出し,SRBが送信されないことを決定していることは自明である。したがって,引用発明の当該事項は,補正後の発明の「専用物理データチャネル(DPDCH)が前記通信状態の検出に基づいて送信されているかどうかを決定するステップであって,前記決定するステップが,1つまたは複数のシグナリング無線ベアラ(SRB)が現在送信されているかどうかを決定するステップをさらに含む,ステップ」とは,「専用物理データチャネル(DPDCH)が送信されているかどうかを決定するステップであって,前記決定するステップが,1つまたは複数のシグナリング無線ベアラ(SRB)が現在送信されているかどうかを決定するステップをさらに含む,ステップ」といえる点で共通する。

(ウ)引用発明の「SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,SRBが送信されない場合」は,「DPDCHが送信されていない」と決定された場合といえる。
また,引用発明は「アップリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信及びダウンリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信は,ともに40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われる」ものである。したがって,「40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われる」とのパターンは,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであるといえ,ダウンリンクDPCCHゲーティングパターンであるともいえる。そして,アップリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信が行われる条件(UL_DPCH_DYN_DTXがTRUEとなる条件)と,ダウンリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信が行われる条件(DL_DPCH_DYN_DRXがTRUEとなる条件)とが同一ではないとしても,40msのSRB送信間隔の最初の10msでは必ずアップリンク送信及びダウンリンク受信の双方がなされることは明らかであるから,アップリンク送信及びダウンリンク受信とは時間整合されているといえる。してみれば,引用発明においても,アップリンク送信のSIR測定に基づくTPCのダウンリンク受信が可能であることは当業者に自明である。したがって,補正後の発明と同様に「前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行する」,「前記DPCCHゲーティングパターンが,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであり」,「ダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される」といえる。
したがって,引用発明の「SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,SRBが送信されない場合,アップリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信及びダウンリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信は,ともに40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われる」は,「前記DPDCHが送信されていないとの前記決定に応じて専用物理制御チャネル(DPCCH)ゲーティングパターンを実行するステップであって,前記DPCCHゲーティングパターンを実行するステップは,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップを含み,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップが,1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行するステップをさらに含み,前記DPCCHゲーティングパターンが,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであり,ダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される,ステップ」の点で補正後の発明と共通する。

(エ)引用発明は,SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,SRBが送信されない場合に,Rel-12 DCH拡張における50%DTX/DRXゲインに加えて,更に25%DTX/DRXゲインを得て,連続送信と比較して75%DTX/DRXゲインが得られるのであるから,補正後の発明と同様に「ユーザ機器でワイヤレス通信中に制御チャネルシグナリングの送信を変更する方法」といえる。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「 ユーザ機器でワイヤレス通信中に制御チャネルシグナリングの送信を変更する方法であって,
専用チャネル(DCH)で送信されるシグナリング情報に対応する通信状態を検出するステップであって,前記通信状態は,前記シグナリング情報のみが音声情報なしに前記DCHで送信されている状態に対応する,ステップと,
専用物理データチャネル(DPDCH)が送信されているかどうかを決定するステップであって,前記決定するステップが,1つまたは複数のシグナリング無線ベアラ(SRB)が現在送信されているかどうかを決定するステップをさらに含む,ステップと,
前記DPDCHが送信されていないとの前記決定に応じて専用物理制御チャネル(DPCCH)ゲーティングパターンを実行するステップであって,前記DPCCHゲーティングパターンを実行するステップは,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップを含み,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップが,1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間で前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行するステップをさらに含み,前記DPCCHゲーティングパターンが,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであり,ダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される,ステップと
を含む,方法。」

(相違点1)
「専用物理データチャネル(DPDCH)が送信されているかどうかを決定するステップ」に関し,補正後の発明は「専用物理データチャネル(DPDCH)が前記通信状態の検出に基づいて送信されているかどうかを決定するステップ」であるのに対し,引用発明は通信状態の検出に基づいて決定されることが明らかにされていない点。

(相違点2)
「アップリンクDPCCHゲーティングパターンである」「DPCCHゲーティングパターン」に関し,補正後の発明は「前記DCHの電力制御を維持するためにダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される」のに対し,引用発明は「前記DCHの電力制御を維持するために」との事項が明らかでない点。

以下,各相違点について検討する。
(相違点1について)
DPDCHで送信されるのは音声トラフィック及びSRBであるから,専用物理データチャネル(DPDCH)が送信されているかどうかを決定するに際し,音声トラフィック及びSRBのうち,音声トラフィックが送信されていないことを「SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態」であることに基づいて把握するようにすることは,格別困難なことではなく,適宜なし得ることに過ぎない。

(相違点2について)
引用発明の「アップリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信及びダウンリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信は,ともに40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われる」ことの目的を何のためとするかは,作用の認識に過ぎず,構成上の差異では無い。したがって,相違点2には実質的な差異は無い。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,補正後の発明は,引用例に記載された発明に基づいて補正後の発明をすることは,当業者にとって容易である。したがって,補正後の発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。


3 結語
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,また,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年5月28日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 令和元年5月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「1 本件補正の概要」の項中の「本願発明」のとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由の概要は,「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,請求項1を引用する請求項9に対して引用例(Huawei, HiSilicon, Enabling DTX/DRX for SRB only over DCH, 3GPP TSG-RAN WG1#78b R1-144297,<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_78b/Docs/R1-144297.zip>,利用可能日:2014年9月27日)が引用されている。


3 引用発明
引用発明は,上記「第2 令和元年5月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明」の項で認定したとおりである。


4 対比・判断
上記第2 2(1)のとおり,本件補正は「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々における複数のスロットのうちの半数を超えるスロットで」を「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々において,前記1つまたは複数のTTIのうちの1つのTTIを4等分した期間のうちの半数を超える期間」とし,「前記DPCCHゲーティングパターンが,アップリンクDPCCHゲーティングパターンであり,前記DCHの電力制御を維持するためにダウンリンクDPCCHゲーティングパターンと同期される,」との発明特定事項を追加するものである。
そして,引用発明の「40msのSRB送信間隔」が複数のスロットから成ることは当業者に自明であって,引用発明の「SRBのみが音声トラフィックなしにDCHを介して送信される通信状態であり,SRBが送信されない場合,ダウンリンクのDTXにかかるDPCCHの間欠送信及びアップリンクのDRXにかかるDPCCHの間欠受信は,ともに40msのSRB送信間隔の最初の10msでのみ行われる」ことは,本願発明の「1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々における複数のスロットのうちの半数を超えるスロットで前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行する」に含まれる。
そうすると,本願発明と引用発明とは,
「 ユーザ機器でワイヤレス通信中に制御チャネルシグナリングの送信を変更する方法であって,
専用チャネル(DCH)で送信されるシグナリング情報に対応する通信状態を検出するステップであって,前記通信状態は,前記シグナリング情報のみが音声情報なしに前記DCHで送信されている状態に対応する,ステップと,
専用物理データチャネル(DPDCH)が送信されているかどうかを決定するステップであって,前記決定するステップが,1つまたは複数のシグナリング無線ベアラ(SRB)が現在送信されているかどうかを決定するステップをさらに含む,ステップと,
前記DPDCHが送信されていないとの前記決定に応じて専用物理制御チャネル(DPCCH)ゲーティングパターンを実行するステップであって,前記DPCCHゲーティングパターンを実行するステップは,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップを含み,前記1つまたは複数のSRBが送信されていないときに前記DPCCHを断続的に送信するステップが,1つまたは複数の送信時間間隔(TTI)の各々における複数のスロットのうちの半数を超えるスロットで前記DPCCHの不連続送信(DTX)を実行するステップをさらに含む,ステップと
を含む,方法。」
で一致し,相違点は,補正後の発明と引用発明との相違点1,2と同じである。

したがって,本願発明は,上記第2 2(2)エと同様の理由で,引用例に記載された発明に基づいて本願発明をすることは当業者にとって容易である。


5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-02-17 
結審通知日 2020-02-25 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2017-515936(P2017-515936)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 57- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大濱 宏之  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 菅原 道晴
中元 淳二
発明の名称 UMTSに関する制御チャネルシグナリングの拡張送信  
代理人 黒田 晋平  
代理人 村山 靖彦  

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