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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1364668
審判番号 不服2019-13564  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-09 
確定日 2020-07-27 
事件の表示 特願2018-171193「カバー部材」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月 4日出願公開、特開2019- 53300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年9月13日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年9月13日)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 2月18日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月26日 :意見書の提出
平成31年 4月26日 :手続補正書の提出
令和 元年 6月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年10月 9日 :審判請求書の提出
令和 元年10月 9日 :手続補正書の提出
(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)


第2 令和元年10月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
令和元年10月9日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成31年4月26日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して使用されるカバー部材であって、
偏光子で構成された偏光層と、
前記偏光層の一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第1樹脂層と、
前記偏光層の他方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第2樹脂層とを備え、
波長λが450nm以上650nm以下の可視光の範囲で、前記波長λの間隔を5nmとしたとき、下記式(1)を満足することを特徴とするカバー部材。
【数1】

[但し、式(1)中、V_(front)は、前記第1樹脂層側から前記第2樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のTD方向の透過率と前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のMD方向の透過率との差A1と、前記第1樹脂層側から前記第2樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記TD方向の透過率と前記MD方向の透過率との和B1との比A1/B1であり、
V_(back)は、前記第2樹脂層側から前記第1樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記TD方向の透過率と前記MD方向の透過率との差A2と、前記第2樹脂層側から前記第1樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記TD方向の透過率と前記MD方向の透過率との和B2との比A2/B2である。]」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正による特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおりのものと認める。なお、下線は当合議体が付したものであり、補正箇所を示す。
「 光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して使用されるカバー部材であって、
偏光子で構成された偏光層と、
前記偏光層の一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第1樹脂層と、
前記偏光層の他方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第2樹脂層とを備え、
前記第1樹脂層は、第1シート材で構成され、該第1シート材が前記偏光子の前記一方の面に接合されたものであり、
前記第2樹脂層は、第2シート材で構成され、該第2シート材が前記偏光子の前記他方の面に接合されたものであり、
前記第1シート材および前記第2シート材は、いずれも、その延伸度が20%を超え、その厚さが0.3mmを超え、そのリタデーションが2500nm以上5800nm以下であり、かつ、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、いずれも、遅相軸もしくは進相軸が前記偏光層の吸収軸に対して±5度の範囲内でズレており、
波長λが450nm以上650nm以下の可視光の範囲で、前記波長λの間隔を5nmとしたとき、下記式(1)を満足することを特徴とするカバー部材。
【数2】

[但し、式(1)中、V_(front)は、前記第1樹脂層側から前記第2樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のTD方向の透過率と前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のMD方向の透過率との差A1と、前記第1樹脂層側から前記第2樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記TD方向の透過率と前記MD方向の透過率との和B1との比A1/B1であり、
V_(back)は、前記第2樹脂層側から前記第1樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記TD方向の透過率と前記MD方向の透過率との差A2と、前記第2樹脂層側から前記第1樹脂層側に向かって前記可視光を透過させたときの前記TD方向の透過率と前記MD方向の透過率との和B2との比A2/B2である。]」

なお、本件補正による請求項2には、「前記第2樹脂層は、第2シート材で構成され、該第2シート材が前記偏光子の前記一方の面に接合されたもの」と記載されているが、本件補正による請求項2において、「前記偏光層の他方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第2樹脂層」と記載されていることから、「第2シート材」も「偏光層の他方の面側に設けられ」ていることは明らかであるので、上記のように認定した。

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1樹脂層」及び「第二樹脂層」について、「前記第1樹脂層は、第1シート材で構成され、該第1シート材が前記偏光子の前記一方の面に接合されたものであり、前記第2樹脂層は、第2シート材で構成され、該第2シート材が前記偏光子の前記他方の面に接合されたものであり、前記第1シート材および前記第2シート材は、いずれも、その延伸度が20%を超え、その厚さが0.3mmを超え、そのリタデーションが2500nm以上5800nm以下であり、かつ、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、いずれも、遅相軸もしくは進相軸が前記偏光層の吸収軸に対して±5度の範囲内でズレて」いることを限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である(【0001】及び【0005】)。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものと認める。

(2)引用文献1及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2017-116882号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子で構成された偏光層と、
前記偏光層の少なくとも一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成され、厚さが0.2mm以上、リタデーションが2400nm以上、6000nm以下の樹脂層であって、その遅相軸が前記偏光層の吸収軸と同じ方向となるように配置された樹脂層とを備え、
光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して用いられ、その使用状態で、前記外部からの外光の前記収納体内への侵入を抑制することを特徴とするカバー部材。
【請求項2】
前記樹脂層は、主として前記ポリカーボネート樹脂で構成されたシート材を一方向に向かって延伸した状態のものである請求項1に記載のカバー部材。
【請求項3】
前記樹脂層の厚さは、0.35mm以下である請求項1または2に記載のカバー部材。
【請求項4】
前記樹脂層は、前記偏光層の両面側にそれぞれ設けられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項5】
前記各樹脂層の厚さは、同じである請求項4に記載のカバー部材。
【請求項6】
前記各樹脂層のうちの1つの樹脂層には、金属酸化物が含有されている請求項4または5に記載のカバー部材。
【請求項7】
前記金属酸化物が含有されている樹脂層上に設けられ、主として紫外線硬化性樹脂で構成されたハードコート層を備える請求項6に記載のカバー部材。
【請求項8】
前記使用状態では、前記金属酸化物が含有されている樹脂層側が前記外部に臨む請求項6または7に記載のカバー部材。
【請求項9】
前記偏光層は、主としてポリビニルアルコール樹脂で構成されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項10】
前記偏光層は、主として前記ポリビニルアルコール樹脂で構成されたシート材を一方向に向かって延伸した状態のものである請求項9に記載のカバー部材。
【請求項11】
前記偏光層の厚さは、0.01mm以上、0.03mm以下である請求項1ないし10のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項12】
前記偏光層と前記樹脂層とを接合する接合層を備える請求項1ないし11のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項13】
前記使用状態で湾曲している請求項1ないし12のいずれか1項に記載のカバー部材。
【請求項14】
前記収納体側が凸、前記外部側が凹となるように湾曲している請求項13に記載のカバー部材。
【請求項15】
前記カバー部材の総厚は、0.4mm以上、1.0mm以下である請求項1ないし14のいずれか1項に記載のカバー部材。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に搭載して用いられるヘッドアップディスプレイ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイ装置は、レーザ光源からの赤(R)、緑(G)、青(B)のレーザ光をそれぞれ照射して、フロントガラスをスクリーンとして、当該スクリーン上に画像を形成することができる。また、このヘッドアップディスプレイ装置は、レーザ光源がハウジングに収納されている。そして、ハウジングには、レーザ光がスクリーンに向かって出射される出射窓が設けられている。
【0003】
出射窓は、通常、強化ガラスで構成されている。このため、外からの太陽光は、出射窓を透過して、ハウジング内に入ってくる。しかしながら、太陽光には、紫外線が含まれており、当該紫外線が当たることによって、ハウジング内のレーザ光源等が経時的に劣化していくという問題があった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、収納体に収納されている光源等が外光によって劣化するのを防止することができるカバー部材を提供することにある。」

(ウ)「【0022】
以下、本発明のカバー部材を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のカバー部材を自動車のヘッドアップディスプレイを構成する一部材に適用した場合の実施形態を示す側面図である。図2は、図1中の一点鎖線で囲まれた領域[A]の拡大断面図である。図3は、図2中のカバー部材の拡大断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1?図3中の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。また、図1、図2中の左側を「前」または「前方」、右側を「後」または「後方」と言う。また、図3中では、理解を容易にするため、カバー部材を平坦な状態で図示するとともに、厚さ方向を誇張して模式的に図示している。
【0023】
図1に示すように、ヘッドアップディスプレイ(Head-UpDisplay)10は、自動車100に搭載して用いられる。このヘッドアップディスプレイ10は、ダッシュボード101の上部に内蔵されている。
【0024】
図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ10は、光源11と、反射部材12と、収納体13とを備えている。
【0025】
光源11は、赤(R)、緑(G)、青(B)それぞれの色のレーザ光LSを独立して照射することができる。そして、光源11を走査しつつ、各色のレーザ光LSの照射タイミング等を制御することにより、画像を形成することができる。
【0026】
反射部材12は、例えばプリズムで構成されており、光源11からのレーザ光LSを反射することができる。反射部材12で反射されたレーザ光LSは、フロントガラス102をスクリーンとして、当該フロントガラス102の裏面(内側の面)102aに投影される。この投影光は、前記画像として運転手Hに認識される(図1、図2参照)。
【0027】
図2に示すように、収納体13は、箱状をなし、その内側に、光源11や反射部材12、その他、ヘッドアップディスプレイ10を構成する部品等を収納することができる。また、収納体13は、フロントガラス102側に向かって開口した開口部で構成された窓部131を有している。この窓部131を介して、レーザ光LSは、収納体13の外部、すなわち、フロントガラス102に向かって出射される。
【0028】
また、収納体13の窓部131には、カバー部材1が当該窓部131を覆うように設置されている。これにより、塵や埃等の異物が窓部131を介して収納体13内に侵入するのを防止することができ、よって、光源11のレンズや反射部材12が当該異物によって曇ったり汚れたりするのを防止することができる。
【0029】
図3に示すように、カバー部材1は、光透過性を有し、第1の樹脂層2と、第2の樹脂層3Aおよび第2の樹脂層3Bと、接合層4Aおよび接合層4Bと、ハードコート層5Aおよびハードコート層5Bとを備える積層板である。以下、各層について説明する。
【0030】
第1の樹脂層2は、カバー部材1の厚さ方向の中央に位置する中間層であり、その厚さt2がカバー部材1の面方向に一定の部分である。
【0031】
この第1の樹脂層2は、主としてポリビニルアルコール(PVA)樹脂で構成されている。本実施形態では、第1の樹脂層2は、ポリビニルアルコール樹脂に、ヨウ素や二色性染料などに代表される二色性色素を染色し、ホウ素化合物等で架橋したものとなっている。なお、第1の樹脂層2におけるポリビニルアルコール樹脂の含有量は、1%以上、8%以下であるのが好ましく、2%以上、5%以下であるのがより好ましい。
【0032】
また、第1の樹脂層2は、前記構成材料からなるシート材(フィルム)を加工したものとなっている。すなわち、当該シート材は、カバー部材1での第1の樹脂層2の厚さt_(2)よりも厚いシート材であり、そのシート材を厚さt_(2)となるまで一方向に向かって延伸した延伸状態とすることにより、第1の樹脂層2として用いられる(得られる)。これにより、第1の樹脂層2は、偏光子として機能する偏光層となる。
【0033】
厚さt_(2)としては、特に限定されず、例えば、0.01mm以上、0.03mm以下であるのが好ましい。厚さt_(2)が0.01mm未満であると、第1の樹脂層2が偏光子として機能が十分に図れないことがあり、また、厚さt_(2)が0.03mmを超えても、それ以上の偏光子として機能の向上は望めない。
【0034】
第1の樹脂層2の屈折率としては、特に限定されず、例えば、1.52以上、1.67以下であるのが好ましく、1.54以上、1.60以下であるのがより好ましい。
【0035】
図3に示すように、第1の樹脂層2の上面21側には、第2の樹脂層3Aが配置され、下面22側には、第2の樹脂層3Bが配置されている。第2の樹脂層3Aと第2の樹脂層3Bとは、配置箇所が異なり、また第2の樹脂層3Aが金属酸化物の粒子31を含むこと以外は、同じ構成であるため、以下、第2の樹脂層3Aについて代表的に説明する。
【0036】
第2の樹脂層3Aは、主としてポリカーボネート樹脂で構成されている。このポリカーボネート樹脂としては、重量平均分子量が19000以上、40000以下であるのが好ましく、19500以上、35000以下であるのがより好ましい。これにより、第2の樹脂層3Aは、例えば十分な耐衝撃性を有するものとなる。
【0037】
また、第2の樹脂層3Aは、金属酸化物の粒子31を含有するポリカーボネート樹脂のシート材を加工したものである。すなわち、当該シート材は、カバー部材1での第2の樹脂層3Aの厚さt_(3A)よりも厚いシート材であり、そのシート材を厚さt_(3A)となるまで一方向に向かって延伸した延伸状態とすることにより、第2の樹脂層3Aとして用いられる。これにより、第2の樹脂層3Aとして用いられる。これにより、第2の樹脂層3Aは、リタデーション(複屈折率×厚さ)を有するものとなる。このリタデーションとしては、例えば、2400nm以上、6000nm以下となるのが好ましく、3000nm以上、5600nm以下となるのがより好ましい。
【0038】
厚さt_(3A)(第2の樹脂層3Bの厚さt_(3B)についても同様)は、0.2mm以上、0.35mm以下であり、好ましくは0.23mm以上、0.30mm以下である。厚さt_(3A)が0.2 mm未満であると、第2の樹脂層3Aが前記リタデーションを有するものとなるのが望めないことがあり、また、厚さt_(3A)が0.35mmを超えても、それ以上の機能の向上を望めない。また、厚さt_(3A)と厚さt_(3B)とは、異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。厚さt_(3A)と厚さt_(3B)とが同じである場合、高温下にさらされた際、反りの発生が少ないと言う利点がある。
【0039】
このような構成の第2の樹脂層3Aと、第2の樹脂層3Aから粒子31を省略した構成の第2の樹脂層3Bとは、それぞれ、その遅相軸が第1の樹脂層2の吸収軸と同じ方向となるように配置されている。「遅相軸」とは、第2の樹脂層3Aや第2の樹脂層3Bを透過する光の進む速度が遅い(位相が遅れる)方位のことであり、これと反対に、光の進む速度が速い(位相が進む)方位をその位相子の「進相軸」と言う。なお、遅相軸と吸収軸とのズレは、±5度以内までなら許容される。
【0040】
そして、カバー部材1をヘッドアップディスプレイ10に用いた使用状態では、図3に示すように、ヘッドアップディスプレイ10の外部から照射される外光、すなわち、太陽光(自然光)OLは、カバー部材1を透過する際に、所定の偏光方向の光がカバー部材1で吸収され、残りの光OL‘が収納体13にまで到達することとなる。これにより、太陽光OLの収納体13内への侵入が抑制され、よって、収納体13内の光源11や反射部材12等が太陽光OL(特に紫外線や熱)によって経時的に劣化するのをできる限り防止することができる。一方、光源11から発せられ、フロントガラス102上で画像を形成するレーザ光LSは、偏光光であるため、カバー部材1を透過しても当該カバー部材1で吸収されずにそのまま外部へ出射される。なお、レーザ光LSの偏光方向と、光OL’の偏光方向とは、同じである。このようにカバー部材1は、偏光板としても機能する。
【0041】
また、前述したように、第1の樹脂層2の両面側にそれぞれ第2の樹脂層3Aおよび第2の樹脂層3Bが設けられている。この構成は、第1の樹脂層2の片面側に第2の樹脂層3Aまたは第2の樹脂層3Bが設けられている場合に比べて、太陽光OLを吸収する効果が増大するのに寄与する。」

(エ)【図1】




(オ)【図2】




(カ)【図3】




イ 引用発明
引用文献1には、特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明をすべて引用する請求項5に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 偏光子で構成された偏光層と、
前記偏光層の少なくとも一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成され、厚さが0.2mm以上、0.35mm以下であり、リタデーションが2400nm以上、6000nm以下の樹脂層であって、その遅相軸が前記偏光層の吸収軸と同じ方向となるように配置された樹脂層とを備え、
光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して用いられ、その使用状態で、前記外部からの外光の前記収納体内への侵入を抑制し、
前記樹脂層は、主として前記ポリカーボネート樹脂で構成されたシート材を一方向に向かって延伸した状態のものであり、
前記樹脂層は、前記偏光層の両面側にそれぞれ設けられ、
前記各樹脂層の厚さは、同じである、カバー部材。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 光源、窓部、収納体、カバー部材
引用発明は、「光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して用いられ、その使用状態で、前記外部からの外光の前記収納体内への侵入を抑制」する「カバー部材」である。
引用発明の「光源」、「窓部」、「収納体」及び「カバー部材」は、その文言どおり、それぞれ、本件補正後発明の「光源」、「窓部」、「収納体」及び「カバー部材」に相当する。また、引用発明は、本件補正後発明の「光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して使用されるカバー部材」との要件を満たす。

イ 偏光層
引用発明の「偏光層」は、「偏光子で構成された」ものである。
引用発明の「偏光子」及び「偏光層」は、その文言どおり、それぞれ、本件補正後発明の「偏光子」及び「偏光層」に相当する。また、引用発明は、本件補正後発明の「偏光子で構成された偏光層」との要件を満たす。

ウ 第1樹脂層、第1シート材、第2樹脂層、第2シート材
引用発明の「樹脂層」は、「前記偏光層の少なくとも一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成され」、「主として前記ポリカーボネート樹脂で構成されたシート材を一方向に向かって延伸した状態のものであり」、「前記偏光層の両面側にそれぞれ設けられ」たものである。
引用発明の「樹脂層」、「ポリカーボネート樹脂」及び「シート材」は、その文言どおり、それぞれ、本件補正後発明の「樹脂層」、「ポリカーボネート樹脂」及び「シート材」に相当する。
ここで、「偏光子」と「樹脂層」は、通常、接着剤等を用いて接合されるものである(引用文献1の【0029】、【0046】及び【図3】からも確認可能な事項である。)。また、引用発明の「樹脂層」と「偏光層」の積層関係及び「樹脂層」の材料は、上記のとおりである。加えて、引用発明の「偏光層の両面側にそれぞれ設けられ」た「樹脂層」(シート材)を、序数詞(「第1」及び「第2」)を付して区別することは随意である。
そうしてみると、引用発明の「樹脂層」の一方、「樹脂層」の他方、「シート材」の一方、及び「シート材」の他方は、それぞれ、本件補正後発明の「第1樹脂層」、「第2樹脂層」、「第1シート材」及び「第2シート材」に相当する。また、引用発明の「樹脂層」の一方は、本件補正後発明の「第1樹脂層」における、「前記偏光層の一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された」及び「第1シート材で構成され、該第1シート材が前記偏光子の前記一方の面に接合されたものであり」という要件を満たす。同様に、引用発明の「樹脂層」の他方は、本件補正後発明の「第2樹脂層」における、「前記偏光層の他方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された」及び「第2シート材で構成され、該第2シート材が前記偏光子の前記他方の面に接合されたものであり」という要件を満たす。
加えて、上記ア及びイの対比結果を考慮すると、引用発明の「カバー部材」は、本件補正後発明の「カバー部材」における、「偏光層と」、「第1樹脂層と」、「第2樹脂層とを備え」という要件を満たす。

エ 遅相軸もしくは進相軸、吸収軸
引用発明の「樹脂層」は、「その遅相軸が前記偏光層の吸収軸と同じ方向となるように配置された」ものである。
引用発明の「樹脂層」の「遅相軸」及び「偏光層の吸収軸」は、その文言どおり、それぞれ、本件補正後発明の「樹脂層」の「遅相軸」及び「偏光層の吸収軸」に相当する。
また、上記構成からみて、引用発明の「樹脂層」の「遅相軸」が「偏光層の吸収軸」となす角度が、±5度の範囲内であることは明らかである(当合議体注:このことは、引用文献1の【0039】の「遅相軸と吸収軸のズレは、±5度以内までなら許容される。」との記載からも確認できる。)。また、いくら注意深く作製しても、「樹脂層」の「遅相軸」と、「偏光層」の「吸収軸」を、完全に同じにすることはできない(ズレは必ず生じる)ことは、技術的にみて明らかである。
そうしてみると、引用発明の「カバー部材」は、本件補正後発明の「前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、いずれも、遅相軸もしくは進相軸が前記偏光層の吸収軸に対して±5度の範囲内でズレて」いるとの要件を満たす。

(4)一致点・相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「 光を発する光源を収納し、該光源からの光が外部に向かって出射される窓部を有する収納体の前記窓部を覆うように設置して使用されるカバー部材であって、
偏光子で構成された偏光層と、
前記偏光層の一方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第1樹脂層と、
前記偏光層の他方の面側に設けられ、主としてポリカーボネート樹脂で構成された第2樹脂層とを備え、
前記第1樹脂層は、第1シート材で構成され、該第1シート材が前記偏光子の前記一方の面に接合されたものであり、
前記第2樹脂層は、第2シート材で構成され、該第2シート材が前記偏光子の前記他方の面に接合されたものであり、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、いずれも、遅相軸もしくは進相軸が前記偏光層の吸収軸に対して±5度の範囲内でズレている、カバー部材。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違するか、一応相違する。

(相違点1)
「第1シート材」及び「第2シート材」が、本件補正後発明は、いずれも、「その延伸度が20%を超え、その厚さが0.3mmを超え、そのリタデーションが2500nm以上5800nm以下であ」るのに対して、引用発明は、「厚さが0.2mm以上、0.35mm以下であり、リタデーションが2400nm以上、6000nm以下」であり、また、「延伸度」は明らかでない点。

(相違点2)
「カバー部材」が、本件補正後発明は、「波長λが450nm以上650nm以下の可視光の範囲で、前記波長λの間隔を5nmとしたとき、下記式(1)を満足する」のに対して、引用発明は、これが明らかでない点。
(当合議体注:以下、式(1)の掲出を省略する。)

(5)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用発明の「樹脂層」は、「厚さが0.2mm以上、0.35mm以下であり、リタデーションが2400nm以上、6000nm以下」であって、「主として前記ポリカーボネート樹脂で構成されたシート材を一方向に向かって延伸した状態のものであり」、「前記樹脂層は、前記偏光層の両面側にそれぞれ設けられ」たものである。
引用発明の「樹脂層」の厚さ及びリタデーションを上記の範囲内で設計することは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項と認められる。そして、例えば、引用発明の「樹脂層」のリタデーションを比較的大きく(例:5000nmに)設計する当業者ならば、引用発明の「樹脂層」の厚さを比較的厚く(例:0.35mmに)し、かつ、延伸度を高く(例:100%に)するといえる(当合議体注:リタデーションは樹脂層の厚さと複屈折の積で決まるから、5000nmといった大きなリタデーションを得ようとする当業者ならば、樹脂層を引用発明の上限値まで厚くし、かつ、延伸倍率を少なくとも20%超にまで高くすると考えられる。)。
そうしてみると、引用発明の「偏光層の両面側にそれぞれ設けられ」た「シート材」の延伸度、厚さ、リタデーションを、上記相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の「前記偏光層の両面側にそれぞれ設けられ」た「樹脂層」は、引用文献1の【請求項6】や【0038】に記載の態様を取らない限り、全く同じものと解するのが自然である(あえて異なるものを用意する理由がない。)。また、引用発明の「樹脂層」は、「その遅相軸が前記偏光層の吸収軸と同じ方向となるように配置された」ものであるから、その技術的意義を理解した当業者ならば、ばらつきのない「樹脂層」を用意し、かつ、「樹脂層」を「偏光層」に対し精確に配置すると考えられる(上記配置は,偏光面が回転しないようにすることを意図したものである。)。
そして、このようにしてなる「カバー部材」は、どちらの面からみても同じものであるから、本件補正後発明でいう「TD方向の透過率」及び「MD方向の透過率」は、どちらの面から光を透過させても、全く同じになり、「下記式(1)を満足する」といえる。
そうしてみると、上記相違点2は、実質的な差異ではないか、仮に、差異があるとしても、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)効果について
本件補正後発明の効果に関して、本願明細書の【0017】には、「表裏を問わず収納体の窓部に設置して使用することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明から予測できる範囲内のものである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年10月9日に提出された審判請求書において、「第1シート材および第2シート材の組み合わせに応じて、第1シート材および第2シート材の延伸度、厚さおよびリタデーションの大きさ、さらには、第1樹脂層および第2樹脂層における遅相軸もしくは進相軸の偏光層における吸収軸に対するズレ角度を、適宜設定(微調整)することで、初めて、Σの大きさを0.00029以下に設定することができる(実施例4、5、追加例B参照)。したがって、上述したような引用文献1における記載だけでは、カバー部材を、前記式(1)を満足するものとすること、すなわち、Σの大きさを0.00029以下に設定することについて、引用文献1に記載されているとは言えない。よって、引用文献1には、構成要件Bについて開示されていない。」と主張している。
しかしながら、本件補正後発明は、第1シート材および第2シート材の延伸度、厚さおよびリタデーションの大きさ、第1樹脂層および第2樹脂層における遅相軸もしくは進相軸の偏光層における吸収軸に対するズレ角度の範囲を特定したのみである。本件補正後発明の延伸度、厚さおよびリタデーションの大きさ、第1樹脂層および第2樹脂層における遅相軸もしくは進相軸の偏光層における吸収軸に対するズレ角度の範囲内であって、式(1)を満たす場合と満たさない場合とを区別する条件は、本件補正後発明にも本件明細書にも記載されていない。
したがって、審判請求人の上記主張は、本件補正後発明や本件明細書の記載に基づくものではないので、採用することができない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記「第2 令和元年10月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明の原査定の拒絶の理由は、概略、本願発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明と同一であるか、又は、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号に該当するか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2017-116882号公報
引用文献2:国際公開第2017/199916号
引用文献3:特開2014-172274号公報
(当合議体注:引用文献1及び引用文献2は、いずれも主引用例である。引用文献3は、請求項2?4についての副引用例である。)

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、前記第2[理由]1の補正事項に係る限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を限定した本件補正後発明も、前記第2[理由]2に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、本願発明と引用発明との相違点は、前記第2[理由]2に記載した理由における相違点2のみとなるから、前記第2[理由]2に記載した理由と同様の理由により、本願発明は、引用発明と同一であるか、又は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-04-28 
結審通知日 2020-05-12 
審決日 2020-06-03 
出願番号 特願2018-171193(P2018-171193)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沖村 美由清水 督史吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 カバー部材  
代理人 増田 達哉  

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