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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1364823
審判番号 不服2019-5701  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-26 
確定日 2020-08-05 
事件の表示 特願2017- 57038「人の姿勢バランスを決定するための方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月29日出願公開、特開2018- 47218〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年3月23日(パリ条約による優先権主張 2016年9月23日 インド)の出願であって、平成30年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年11月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月26日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、これに対して平成31年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成31年4月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成31年4月26日にされた手続補正(以下「本件補正」ということがある。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
人の姿勢バランスを決定する方法であって、以下のステップを実施するプロセッサを含む、方法:
3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ、
Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ、
ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ、
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは人の各関節のために異なり、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ、
人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて各関節のための振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ、および、
SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ。
【請求項2】
前記第1のバランス・スコアは、片肢スタンスの間にどれくらいの振動が異なる関節/ボディ・パーツに関連するかを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のバランス・スコアは、3D空間における各関節の振動および人が片肢スタンスにとどまる持続時間を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標準臨床スコアに関して前記第2のバランス・スコアを確認するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標準臨床スコアは、バーグ・バランス・スケールまたはタイムド・アップアンドゴー・スケールのうちの少なくとも1つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
人の前記SLS期間は、曲率分析に基づく固有ベクトルを用いて測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のノイズは、電磁的干渉、IR干渉、または量子化ノイズのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記測定されたSLS期間、振動ジッタおよびFPUMを、ブランド-オールトマン・プロットを用いて確認するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記骨格データを、前記SLS運動の前、前記SLS運動の間、そして前記SLS運動の後、に分割するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記骨格データは、X-Y-Z座標における人の20の関節の時空変化の測定である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
人の姿勢バランスを決定するシステムであって、以下を備える、システム:
人の骨格データを得て、Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むための3Dモーションセンサであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、3Dモーションセンサ、
前記骨格データから複数のノイズを除去するためのノイズ・フィルタリングモジュール、
メモリ、および、
前記メモリと通信するプロセッサであって、以下のステップを実行するようにさらに構成されるプロセッサ:
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ、
人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ、および、
SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ。
【請求項12】
1つ以上のハードウェアプロセッサによって実行されるときに以下を生じさせる1つ以上の命令を含む1つ以上の非一時的機械可読情報記憶媒体:
3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ、
Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ、
ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ、
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは人の各関節のために異なり、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ、
人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて各関節のための振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ、および、
SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ。
【請求項13】
前記第2のバランス・スコアは、3D空間における各関節の振動および人が片肢スタンスにとどまる持続時間を示す、請求項12に記載の媒体。
【請求項14】
標準臨床スコアに関して前記第2のバランス・スコアを確認するステップをさらに含む、請求項12に記載の媒体。
【請求項15】
人の前記SLS期間は、曲率分析に基づく固有ベクトルを用いて測定される、請求項12に記載の媒体。
【請求項16】
前記複数のノイズは、電磁的干渉、IR干渉、または量子化ノイズのうちの少なくとも1つである、請求項12に記載の媒体。
【請求項17】
前記測定されたSLS期間、振動ジッタおよびFPUMを、ブランド-オールトマン・プロットを用いて確認するステップをさらに含む、請求項12に記載の媒体。
【請求項18】
前記骨格データを、前記SLS運動の前、前記SLS運動の間、そして前記SLS運動の後、に分割するステップをさらに含む、請求項12に記載の媒体。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前の、平成30年11月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
人の姿勢バランスを決定する方法であって、以下のステップを実施するプロセッサを含む、方法:
3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ、
ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ、
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは人の各関節のために異なり、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ、
人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて各関節のための振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ、および、
SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ。
【請求項2】
前記第1のバランス・スコアは、片肢スタンスの間にどれくらいの振動が異なる関節/ボディ・パーツに関連するかを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のバランス・スコアは、3D空間における各関節の振動および人が片肢スタンスにとどまる持続時間を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標準臨床スコアに関して前記第2のバランス・スコアを確認するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標準臨床スコアは、バーグ・バランス・スケールまたはタイムド・アップアンドゴー・スケールのうちの少なくとも1つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
人の前記SLS期間は、曲率分析に基づく固有ベクトルを用いて測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のノイズは、電磁的干渉、IR干渉、または量子化ノイズのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記測定されたSLS期間、振動ジッタおよびFPUMを、ブランド-オールトマン・プロットを用いて確認するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記骨格データを、前記SLS運動の前、前記SLS運動の間、そして前記SLS運動の後、に分割するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記骨格データは、X-Y-Z座標における人の20の関節の時空変化の測定である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
人の姿勢バランスを決定するシステムであって、以下を備える、システム:
人の骨格データを得るための3Dモーションセンサであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、3Dモーションセンサ、 前記骨格データから複数のノイズを除去するためのノイズ・フィルタリングモジュール、
メモリ、および、
前記メモリと通信するプロセッサであって、以下のステップを実行するようにさらに構成されるプロセッサ:
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ、
人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ、および、
SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ。
【請求項12】
1つ以上のハードウェアプロセッサによって実行されるときに以下を生じさせる1つ以上の命令を含む1つ以上の非一時的機械可読情報記憶媒体:
3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ、
ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ、
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは人の各関節のために異なり、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ、
人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて各関節のための振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ、および、
SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ。
【請求項13】
前記第2のバランス・スコアは、3D空間における各関節の振動および人が片肢スタンスにとどまる持続時間を示す、請求項12に記載の媒体。
【請求項14】
標準臨床スコアに関して前記第2のバランス・スコアを確認するステップをさらに含む、請求項12に記載の媒体。
【請求項15】
人の前記SLS期間は、曲率分析に基づく固有ベクトルを用いて測定される、請求項12に記載の媒体。
【請求項16】
前記複数のノイズは、電磁的干渉、IR干渉、または量子化ノイズのうちの少なくとも1つである、請求項12に記載の媒体。
【請求項17】
前記測定されたSLS期間、振動ジッタおよびFPUMを、ブランド-オールトマン・プロットを用いて確認するステップをさらに含む、請求項12に記載の媒体。
【請求項18】
前記骨格データを、前記SLS運動の前、前記SLS運動の間、そして前記SLS運動の後、に分割するステップをさらに含む、請求項12に記載の媒体。」

2 補正の適否

(1)新規事項の追加の有無について

ア 本件補正により、請求項1に、プロセッサが実施するステップについて、「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」が追加され、請求項11に、人の骨格データを得るための3Dモーションセンサについて、「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込む」ことが追加され、請求項12に、命令の実行により生じさせるステップについて、「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」が追加された。

イ そこで、請求項1、11及び12に追加された事項に共通する「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込む」こと(以下「本件補正事項」という。)が、本願の外国語書面の翻訳文(以下、単に「翻訳文」という。)に記載された事項の範囲内であるか否かについて検討する。

(ア)翻訳文には、本件補正事項に関連する記載として、次の記載がある。
「【0016】
骨格データを取り込むための実験的な準備は、図2に示される。この実施形態では、人は、片脚スタンス(SLS)運動を行うよう依頼される。SLS運動は、目を開けて、腕を臀部の上に置き、そしてKinectから7?8フィート離れて立つことで実行される。参加者は、自力で片方の脚で立たなければならず、そして、片方の足が床を離れて曲げられた時から、それが地面または立っている脚に接触するかまたは腕が臀部から離れる時までの時間が秒で計時される。約20ジョイントの3D時空情報がKinectから得られる。グランドトルースのために、時間で同期したデータ取り込みは、Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートを用いて実行される。被験者のビデオは、手動で実験的な所見を確認するために録画されることもできる。」

(イ)段落【0016】の記載によれば、Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートを用いて時間で同期したデータ取り込みを実行すること、すなわち、Kinectからのデータとフォース・プレートからのデータを時間で同期させて取り込むこと(以下「翻訳文記載事項」という。)が理解できる。
しかしながら、段落【0016】の記載から、本件補正事項を把握することはできない。
また、翻訳文全体の記載を見ても、本件補正事項を把握することはできない。
そして、本件補正事項が、翻訳文記載事項と同じ技術的事項を意味するとは認められない。

ウ したがって、本件補正は、翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。
よって、本件補正は、翻訳文に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)加えて、本件補正が翻訳文に記載された事項の範囲内においてしたものであるとして、以下、検討する。

ア 本件補正のうち、請求項1に係る補正は、ステップを実施するプロセッサについて、実施するステップに「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」が含まれることを特定して限定する補正であって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

本件補正後の【請求項1】の記載は、上記1(1)の【請求項1】に記載したとおりのものである。

イ 特許法第36条第6項第2号について

(ア)「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」(以下「本件補正ステップ」ということがある。)について

a 「準備に基づくフォース・プレート」が、どのような「フォース・プレート」を意味するのかが不明である。

b 「前記骨格データ」は、「3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ」における3Dモーションセンサを用いて得た人の骨格データを指すが、係る「骨格データ」から、「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて」「時間で同期したデータを取り込む」とは、いかなる技術的事項を意味するのかが不明である。

(イ)したがって、本件補正発明は明確でない。
よって、本件補正発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ウ 特許法第36条第6項第1号について

(ア)本件補正ステップについて

a 発明の詳細な説明全体の記載を見ても、本件補正ステップを明記する箇所は見当たらない。

b 本件補正ステップに関連する記載として、発明の詳細な説明には、上記(1)イ(ア)に摘記した段落【0016】の記載がある。
しかしながら、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、上記翻訳文記載事項を本件補正ステップに拡張できる根拠を見いだすことはできない。

(イ)したがって、本件補正発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、本件補正発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 特許法第36条第4項第1号について

(ア)本件補正ステップについて

a 発明の詳細な説明全体の記載を見ても、本件補正ステップを明記する箇所は見当たらない。

b そして、上記イ(ア)bで指摘したとおり、本件補正ステップが意味する技術的事項は不明であり、また、上記(1)イ(イ)で指摘したとおり、本件補正ステップが翻訳文記載事項と同じ技術的事項を意味するとは認められない。

c そのため、本願の優先日当時の技術常識を考慮しても、本件補正ステップをどのようにして実施するのかを、発明の詳細な説明の記載から把握することはできない。

(イ)したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
よって、本件補正発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ 特許法第29条第2項について

(ア)本件補正発明

本件補正発明は、上記1(1)の【請求項1】に記載したとおりのものであるところ、上記イ(ア)で指摘した明確でない事項については、ここでは以下のように認定する。

a 上記イ(ア)aで指摘した「準備に基づくフォース・プレート」について

審判請求書(4.2)の「約20個の関節に関する3次元時空間情報が、Kinectから得られます。基本的には、KinectおよびForceプレートベースのセットアップを使用して、時間で同期したデータ取り込みを実行します。」との記載に基づき、「準備に基づくフォース・プレート」は「フォース・プレートベースのセットアップ」を示すものと認める。

b 上記イ(ア)bで指摘した本件補正ステップについて

請求人が審判請求書で本件補正の根拠として説明する段落【0016】の記載及び上記aの認定に基づき、「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」は、「Kinectからの骨格データとフォース・プレートからのデータを時間で同期させて取り込むステップ」を示すものと認める。

(イ)引用文献の記載事項

a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるKingshuk Chakravarty et al,“Quantification of balance in single limb stance using kinect”,2016 IEEE International Conference on Acoustics, Speech and Signal Processing,IEEE,2016年5月19日,p.854-858(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。引用文献の記載において以下同様。)。なお、表記上の制約から、数式の表記を変形した箇所がある。

(引1-ア)第854頁タイトル
「QUANTIFICATION OF BALANCE IN SINGLE LIMB STANCE USING KINECT」
(和訳:Kinectを使用した単肢スタンスのバランスの定量化)

(引1-イ)第854頁左欄1?13行
「ABSTRACT
This paper presents a novel single limb body balance analysis system which will aid medical practitioners to analyze crucial factor for fall risk minimization, injury prevention, fitness and rehabilitation programs. We use skeleton data obtained from Microsoft Kinect which captures full human body as well as ensures user's privacy. A new eigen vector based curvature analysis algorithm is developed to compute single limb stance (SLS) duration on the skeleton data. Two parameters vibration-jitter and force per unit mass (FPUM) are derived for each body part to assess postural stability during SLS. Experimental results show the efficacy of our system to apply it in medical domain.」
(和訳:概要
この論文は、新しい単肢の身体バランス分析システムを提示し、それは、医療従事者が転倒リスクの最小化、傷害予防、フィットネス及びリハビリテーションプログラムのための重要な要因を分析するのを支援します。Microsoft Kinectから取得した骨格データを使用します。これは、人体全体をキャプチャし、ユーザーのプライバシーを確保します。新しい固有ベクトルベースの曲率分析アルゴリズムが、骨格データに基づく単肢スタンス(SLS)持続時間を計算するために開発されました。SLS中の姿勢の安定性を評価するために、振動ジッタと単位質量あたりの力(FPUM)の2つのパラメーターが各身体部位に対して導出されます。実験結果は、我々のシステムを医療分野に適用するための有効性を示しています。)

(引1-ウ)第854頁右欄18行?下から5行
「Under this circumstance, in this work we have proposed an automatic unobtrusive system to measure SLS duration and body balance. For this purpose, vibration-jitter analysis is performed which gives a clear view of relative variation of frequency of different joints over time.The whole processing is done on the skeleton data obtained from Kinect. Skeleton data is used instead of video which ensures user privacy concerns. The key contribution in this work are as follows:
1. An eigen vector based curvature point detection method is proposed to calculate SLS duration from noisy skeleton data obtained from Kinect and it is found to be better than standard curvature detection technique [12].
2. The vibration for different body joints are measured in terms of frequency variation i.e. vibration-jitter and force per unit mass (FPUM). The paper is organized as, in Section 2, SLS balance analysis is presented which includes dataset creation, noise removal,SLS duration measurement and vibration analysis. Section 3 contains the results and discussion followed by concluding remarks in Section 4.」
(和訳:このような状況のもと、本研究では、SLSの持続時間と身体バランスを測定するための自動で目立たないシステムを提案しました。この目的のために、振動ジッタ解析が実行され、さまざまな関節の周波数の相対的な変動が時間とともに明確に表示されます。処理全体は、Kinectから取得した骨格データに対して実行されます。ビデオの代わりに骨格データが使用され、ユーザーのプライバシーの問題が保証されます。この研究における主要な貢献は次のとおりです。
1.Kinectから得られたノイズの多い骨格データからSLS持続時間を計算するために、固有ベクトルベースの曲率点検出方法が提案され、標準の曲率検出技術[12]よりも優れていることがわかりました。
2.さまざまな身体の関節の振動が、周波数変動、つまり振動ジッタと単位質量あたりの力(FPUM)に関して測定されます。
この報告は次のように構成されています。セクション2で、SLSバランス分析が示され、データセットの作成、ノイズの除去、SLS持続時間の測定、及び、振動解析が含まれています。セクション3には結果と議論が含まれ、続いてセクション4で結論が述べられています。)

(引1-エ)第854頁右欄下から4行?第855頁左欄3行
「2. METHODOLOGY TO ANALYZE BALANCE IN SINGLE-LIMB-STANCE
Here static single-limb balance assessment[6] is taken into consideration using skeleton data obtained from Kinect. SLS exercise is opted for analyzing static balance of different healthy subjects.The flow diagram of our proposed method is shown in Figure 1.」
(和訳:2.単肢スタンスのバランスを分析する方法
ここでは、Kinectから取得した骨格データを使用して、静的な単肢バランスの評価[6]が考慮されます。SLS運動は、さまざまな健康な被験者の静的バランスを分析するために選択されます。提案した方法のフロー図を図1に示します。)

(引1-オ)第855頁左欄上部のFig.1


Fig. 1: Block diagram of proposed methodology 」
(和訳:

図1:提案した方法のブロック図 )

(引1-カ)第855頁左欄4行?下から6行
「2.1. Dataset Creation
As no standard public dataset exists for static single limb balance estimation using skeleton data, we create our own dataset using Kinect [13] [14]. Our experimental setup is shown in Figure 2. Participants perform the tests with bare feet, eyes open, arms on the hips looking straight ahead and standing at 7-8 feet distance away from Kinect. The3-D spatio-temporal information about 20 joints are obtained from Kinect. For ground truth, time synchronized data capture is carried out using Kinect and Force plate based setup [8]. Subject's video is also recorded to validate our experimental finding manually.
Thirty eight healthy volunteer (age: 21-65 years, weight: 45kg-120kg & height: 4ft6inch-6ft5inch) with no pre-existing symptom of neurological diseases, major orthopedic lesions, vestibular are examined for single limb balance analysis. Three of them did not perform the experiment seriously, so we have discarded their data. Our study is mainly based on the rest 35 subjects. Intentionally we have included few sportsmen (like Subject A & B in Table 1) into our experiment to investigate the effect of physical fitness on single limb balance.」
(和訳:2.1.データセット作成
骨格データを使用した静的な単肢バランス推定のための標準的なパブリックデータセットは存在しないため、Kinect [13] [14]を使用して独自のデータセットを作成します。実験のセットアップを図2に示します。参加者は、素足で目を開き、両腕を腰に当て、正面を見て、Kinectから7?8フィートの距離に立ってテストを実行します。20の関節に関する3次元空間の時間情報が、Kinectから取得されます。グラウンドトゥルースのために、Kinect及びフォースプレートベースのセットアップ[8]を使用して、時間同期データ取得が実行されます。実験結果を手動で検証するために、被験者のビデオも記録されます。
神経疾患、主要な整形外科病変、前庭の既存の症状がない38人の健康なボランティア(年齢:21?65歳、体重:45kg?120kg及び身長:4ft6inch?6ft5inch)が、単一肢バランス分析のために検査されます。3人は実験を真剣に行っていないため、データを破棄しました。私たちの研究は、主に残りの35人の被験者に基づいています。意図的に、私たちは実験に少数のスポーツマン(表1の被験者A及びBなど)を含めて、身体のフィットネスが単一の肢のバランスに及ぼす影響を調査しました。)

(引1-キ)第855頁左欄下から5行?右欄3行
「2.2. Noise Removal
Skeleton data obtained from Kinect is very noisy and it is practically visible when the subject stands completely static, but some joints are moving in skeleton. There are many parameters [15] [16] that affect the characteristics and level of noise, which include room lighting, IR interference, quantization noise etc. The noisy skeleton data is filtered using method similar to [17].」
(和訳:2.2.ノイズ除去
Kinectから取得した骨格データは非常にノイズが多く、被験者が完全に静止しているが、一部の関節は骨格内で移動しているときに、実際に見てわかります。ノイズの特性とレベルに影響する多くのパラメーター[15] [16]があり、室内照明、IR干渉、量子化ノイズなどを含みます。ノイズの多い骨格データは、[17]と同様の方法でフィルタ処理されます。)

(引1-ク)第855頁右欄4行?第856頁左欄2行
「2.3. SLS Duration Measurement
During SLS exercise, variation in lifted leg's ankle coordinates is very much obvious. We have used this fact in computing SLS duration. The skeleton joints obtained from Kinect are represented by 3D world co-ordinates (x,y,z) where ‘x’ represents left/right variation, ‘y’ represents up/down variation w.r.t ground and ‘z’ represents to/from variation of subject w.r.t Kinect. So here, changes in the lifted leg's ankle y-co-ordinate (say, left leg is lifted) Y_(AnkleLeft) can give us meaningful information about the precise timing when a subject lifts leg (here,left-leg) above the ground. Figure 3a clearly legitimizes our claim and shows substantial change in Y_(AnkleLeft) at point R, F and the zone R-to-F is our desired zone of SLS posture. In the other words, R is the frame where foot is flexed off the floor and F is the frame where it again touches the ground. Theduration between R & F is considered as SLS duration.・・・(中略)・・・Finally SLS duration is measured by finding difference betweentimestamps corresponding R and F frames.」
(和訳:2.3.SLS持続時間測定
SLS運動中、持ち上げた脚の足首座標の変動は、非常に明白です。この事実を使用して、SLS持続時間を計算しました。Kinectから取得した骨格関節は、3次元空間座標(x、y、z)で表されます。「x」は左右の変化を表し、「y」は地面に対する上下の変化を表し、「z」は被験者のKinectに対する前後の変化を表します。したがって、ここでは、持ち上げられた脚の足首のy座標の変化(例えば、左脚が持ち上げられた場合)Y_(AnkleLeft)は、被験者が脚(ここでは左脚)を地面から持ち上げる正確なタイミングに関する有意義な情報を提供します。図3aは、私たちの主張を明確に正当化し、ポイントR、FでY_(AnkleLeft)の実質的な変化を示し、領域R?FはSLS姿勢の望ましい領域です。つまり、Rは足が曲げられ床から離れるフレームであり、Fは再び足が地面に触れるフレームです。RとFの間の期間は、SLS持続時間と見なされます。・・・(中略)・・・最後に、R及びFのフレームに対応するタイムスタンプ間の差を見つけることにより、SLS継続時間が測定されます。)

(引1-ケ)第856頁左欄3行?右欄下から5行
「2.4. Body Vibration Analysis
Balance is generally defined as person's ability to maintain or restore the equilibrium with minimum movement or sway[19]. Balance is assessed as the amount of postural sway of the human body. Sway is the slight postural movements made by individual joint in order to maintain balanced position. During SLS exercise while standing on single limb, subject oscillates in order to maintain the balance. Moreover, for a given posture a subject can not move some of the joints like HipCenter, ShoulderCenter etc. easily and flexibly [20]. Hence, the twenty different joints in the skeleton have different degree of freedom (DOF) e.g. it is high for hand but low for HipCenter. This DOF has strong impact on joint movement.
To measure the oscillation quantitatively, velocity profile of each joint is used for its vibration analysis. Vibration is composed of frequency and amplitude. Higher frequency indicates more vibration and less balance. The velocity V^(→)el = [v_(x), v_(y), v_(z)] in all the three directions viz. x, y, z is analyzed for estimating the vibration or indirectly balance. The velocity is obtained from the filtered data as following,

where [x^(j) , y^(j) , z^(j)]|_(t) is the displacement at time t in (x, y, z) direction respectively for j^(th) skeleton joint. It is observed from the AnkleLeft's velocity profile that velocity is maximum near R and minimum (considering sign) near F. Also the the mean velocity of AnkleLeft in first segment S-to-R (see Figure 3a) is almost similar to the the third one, whereas the velocity in the second is much higher than the other two. Start (R) and end (F) frames/time of one leg stance posture have already been identified in the subsection 2.3. Hence, three different segments namely S-to-R (segment-1), R-to-F (segment-2) and F-to-E (segment-3) need to be analyzed separately. This fact is also true for all 20 joints. To get the information about frequency, every joint data in each segment is partitioned into a window of 50 samples and Fourier transform of each segment is evaluated as following:

where V^( j)_(k) (ω) is the frequency response of i^(th) window for j^(th) joint velocity v^(j)_(k). This is done for all joints and in all three directions (x,y,z). Frequency (f^(j)_(k)) corresponding to the maximum amplitude (A^(j)_(k)) in each window is selected and the mean frequency of each segment is evaluated as following,

Using above equation 4, mean frequencies f^(j)_(m)|_(S-to-F) , f^(j)_(m)|_(R-to-F) , f^(j)_(m)|_(F-to-E) in each segment are computed. These calculated mean frequencies will eventually help us to analyze relative frequency variation (vibration) in corresponding segments i.e. before, during and after SLS. In this work, the relative frequency variation is considered as vibration-jitter (in Hz) and for each segment it is mathematically modeled using following equation

where J_(1,2,3) is vibration-jitter and f^(j)_(m) is mean frequency in each segment whereas f^(j)_(∀k) is the frequency for all windows in each segment. J_(1,2,3) also quantifies vibration in terms of frequency for three segments, where more vibration indicates worse balance. For convenience, we will use the term jitter instead of vibration-jitter in rest of the article. The dominant component of velocity for each window can be written as v^(j)_(k)[n] = A^(j)_(k)cos(2πf^(j)_(k)n) where f^(j)_(k) is the frequency corresponding to the maximum amplitude A^(j)_(k) in k^(th) window for j^(th)joint of each segment.
It is evident from Biomechanics [21] that during SLS, the force imposed on each joint to restore the equilibrium state is due to body weight, abductor muscles force and joint reaction force. This force can be a good measure for joint balance estimation. Keeping these facts in mind, the reaction force per unit mass (FPUM = force(F)/mass(m) in meter/second^(2)) for each joint is measured as the rate of change of velocity for that joint, i.e. acceleration (a). This can be better explained using Newton’s law of motion i.e. F = ma ⇒ a = F/m.」
(和訳:2.4.身体振動解析
バランスとは一般に、最小限の動きや揺れで平衡を維持又は回復する能力として定義されます[19]。バランスは、人体の姿勢の揺れの量として評価されます。揺れは、バランスの取れた位置を維持するために個々の関節によって行われるわずかな姿勢の動きです。単肢立ちでのSLS運動中、被験者はバランスを保つために振動します。さらに、定められた姿勢のため、被験者は腰中心、肩中心などの関節の一部を、簡単かつ柔軟に動かすことはできません[20]。したがって、骨格内の20の異なる関節は、自由度の程度(DOF)が異なります。例えば、手にとって自由度は高いが、腰中心にとっては低いです。この自由度は、関節の動きに強い影響を与えます。
振動を定量的に測定するために、各関節の速度プロファイルがその振動解析に使用されます。振動は、周波数と振幅で構成されます。より高い周波数は、より多くの振動とより低いバランスを示します。全3方向、つまりx、y、zにおける速度V^(→)el = [v_(x),v_(y),v_(z)]。は、振動又は間接的にバランスを推定するために分析されます。速度は、フィルタ処理されたデータから次のように取得されます。

ここで、[x^(j),y^(j),z^(j)]|_(t)は、それぞれj番目の骨格関節の(x,y,z)方向の時間tでの変位です。左足首の速度プロファイルから、速度はR付近で最大であり、F付近で最小(符号を考慮)であることが観察されます。また、最初のセグメントS?Rにおける左足首の平均速度(図3a参照)は、3番目のセグメントとほぼ同じですが、2番目のセグメントの速度は、他の2つのセグメントよりもはるかに高速です。単脚スタンス姿勢の開始(R)及び終了(F)フレーム/時間は、サブセクション2.3.ですでに特定されています。したがって、3つの異なるセグメント、つまりS?R(セグメント1)、R?F(セグメント2)、及びF?E(セグメント3)を個別に分析する必要があります。この事実は、20個すべての関節にも当てはまります。周波数に関する情報を取得するために、各セグメントのすべての関節データが50サンプルのウィンドウに分割され、各セグメントのフーリエ変換が次のように求められます。

ここで、V^(j)_(k)(ω)は、j番目の関節速度v^(j)_(k)に対するi番目のウィンドウの周波数応答です。これは、すべての関節に対して、全3方向(x,y,z)で行われます。各ウィンドウの最大振幅(A^(j)_(k))に対応する周波数(f^(j)_(k))が選択され、各セグメントの平均周波数が次のように求められます。

上記の式4を使用して、各セグメントの平均周波数f^(j)_(m)|_(S-to-F)、f^(j)_(m)|_(R-to-F)、f^(j)_(m)|_(F -to-E)が計算されます。これらの計算された平均周波数は、最終的に、対応するセグメント、すなわちSLSの前、最中、後における相対的な周波数変動(振動)を分析するのに役立ちます。この研究では、相対的周波数変動は振動ジッタ(Hz単位)と見なされ、各セグメントに対して次の方程式を使用して数学的にモデル化されます。

ここで、J_(1,2,3)は振動ジッタであり、f^(j)_(m)は各セグメントの平均周波数であり、f^(j)_(∀k)は各セグメントにおける全ウィンドウの周波数です。J_(1,2,3)は、3つのセグメントの振動を周波数に関して定量化します。振動が大きいほど、よりバランスが悪いことを示します。便宜上、残りの部分では振動ジッタの代わりにジッタという用語を使用します。
各ウィンドウの速度の支配的な成分は、v^(j)_(k)[n] =A^(j)_(k)cos(2πf^(j)_(k)n)と書くことができます。f^(j)_(k)は、各セグメントのj番目の関節のk番目のウィンドウの最大振幅A^(j)_(k)に対応する周波数です。
バイオメカニクス[21]から明らかなように、SLSの間、平衡状態を回復するために各関節に加えられる力は、体重、外転筋力、及び関節反力によるものです。この力は、関節のバランスの推定に適した尺度になります。これらの事実を念頭に置いて、各関節の単位質量あたりの反力(FPUM= 力(F)/質量(m)単位 m/s^(2))は、その関節の速度の変化率、つまり加速度(a)として測定されます。これは、ニュートンの運動の法則、つまりF= ma⇒a = F/mを使用してよりよく説明できます。)

(引1-コ)第856頁右欄下から4行?第857頁右欄19行
「3. RESULTS AND DISCUSSION
This section comprises of the results for SLS duration, jitter and FPUM measurements for estimating total body balance in SLS exercise. We have experimented on 35 subjects and have analyzed the results in all three directions, but due to space constraint we are restricting our jitter and FPUM results only in x-direction and reporting FPUM comparison matrix for only 4 subjects in Table1.
The SLS duration computed from skeleton data using proposed curvature point detection algorithm (mentioned in 2.3) and state-of-the-art technique [12] are compared with the SLS duration obtained from Force Platform based System (Ground Truth/GT) where change in ground reaction force is tracked to get the same. The difference shown using Bland-Altman plot in Figure 4 is mainly plotted against their mean, the mean difference and its 95% confidence levels. Figure 4(a) clearly reveals that the measurements made by proposed method is very much close (max absolute difference 238.3ms) to the ground truth whereas duration computed using [12] is far off from GT (shown in4(b)). This is due to noisy skeleton data which our eigen vector based curvature analysis algorithm can better handle.
For a particular subject “A”, the results for body vibration analysis is shown in Figure 5. As discussed in subsection 2.4, it is quite clear that each and every joint has different order of vibration during SLS. Based on this, for every subject we have analyzed jitter and FPUM (in x-plane) for three joints from upper (ShoulderRight), mid(HipCenter) and lower body (KneeRight). Figure 5(a) clearly depicts that the vibration in ShoulderRight is greater than HipCenter but lower than KneeRight and the observation holds good for all three segments (S-to-R, R-to-F and F-to-E). It is mainly because when body's center of gravity changes during SLS, different body parts having different degree of freedom behave differently to maintain postural stability [21]. For subject “A”, the extent of change is high in KneeRight than HipCenter & ShoulderCenter. Figure 5(a) also reflects the same. Similar fact is also verified by observing the recorded SLS video ofsubject “A”.
Moreover, the jitter in segment-1 (S-to-R) and segment-3 (F-to-E) are comparable but much less than segment-2 (R-to-F), as body vibration is more during one leg stance. Although the results are given for three joints in Figure 5, but the same pattern i.e. J|_(S-to-R) ≒ J|_(F-to-E) << J|_(R-to-F) is followed by other joints. The above finding is also valid for FPUM based balance analysis as presented in Figure 5(b). The values mean ± std listed in Table 1 demonstrate how FPUM changes for segment-1, 2, 3 for different subjects and joints. It is also noticed that for every subject either physically fit or unfit, FPUM required to maintain body equilibrium is much in segment-2 than segment-1 and 3. The FPUM value listed in Table 1 for segment-2 is almost 50-100 (e.g. subject 4: 100) times greater than segment-1 & 3 for HipCenter and there is substantial difference for other joints too. However, the results for 4 subjects are presented here but the analysis on several others reveals that the jitter and FPUM values (Table 1) for physically fit subjects is much less than unfit one, which also supports the medical fact in [22].」
(和訳:3.結果と考察
このセクションには、SLS運動での全身バランスを推定するためのSLS持続時間、ジッタ及びFPUM測定の結果が含まれます。35の被験者で実験を行い、3方向すべての結果を分析しましたが、スペースの制約により、ジッタとFPUMの結果をx方向のみに制限し、被験者4人のみのFPUM比較マトリックスを表1に報告しています。
提案された曲率点検出アルゴリズム(2.3で説明)及び最新技術[12]を使用して骨格データから計算されたSLS持続時間は、フォースプレートベースのシステム(グランドトゥルース/GT)から得られたSLS持続時間と比較されます。フォースプレートベースのシステムでは、地面の反力の変化がそれを得るために追跡されます。図4にブランドアルトマンプロットを使用して示される差は、主にそれらの平均、平均差、及びその95%信頼レベルに対してプロットされます。図4(a)は、提案された方法で行われた測定がグランドトゥルースに非常に近い(最大絶対差238.3ms)のに対し、[12]を使用して計算された持続時間はGTから遠い(図4(b)に示す)ことを明確に示しています。これは、我々の固有ベクトルベースの曲率解析アルゴリズムがより適切に処理できるノイズの多い骨格データによるものです。
特定の被験者「A」について、身体振動解析の結果を図5に示します。サブセクション2.4で説明したように、すべての関節がSLS中に振動の程度が異なることは明らかです。これに基づいて、すべての被験者について、上部(右肩)、中央部(腰中心)、下部(右膝)の3つの関節のジッタとFPUM(x平面)を分析しました。図5(a)は、右肩の振動が腰中心よりも大きく、右膝よりも小さいことを明確に示しており、3つのセグメントすべて(S?R、R?F及びF?E)で観測結果が良好です。これは主に、SLS中に体の重心が変化すると、自由度の異なるさまざまな体の部分が、姿勢の安定性を維持するために異なる動作をするためです[21]。被験者「A」の場合、右膝の変化の範囲は腰中心及び肩中心よりも広くなっています。図5(a)も同じことを反映しています。同様の事実は、被験者「A」のSLS記録ビデオを観察することでも検証されます。
さらに、セグメント1(S?R)及びセグメント3(F?E)のジッタは匹敵しますが、身体の振動は片脚のスタンス中により多くなるように、セグメント2(R?F)よりもはるかに小さいです。図5では3つの関節について結果が示されていますが、同じパターン、つまりJ|_(S-to-R)≒ J|_(F-to-E)<<J|_(R-to-F)に他の関節も従います。上記の結果は、図5(b)に示すように、FPUMベースのバランス分析にも有効です。表1にリストされている平均±標準偏差の値は、セグメント1、2、3において異なる被験者及び関節のFPUMがどのように変化するかを示しています。また、身体的に優れているか又は優れていない被験者のすべてについて、体の平衡を維持するために必要なFPUMは、セグメント1及び3よりもセグメント2の方が大きいことに注意してください。表1にリストされているセグメント2のFPUMの値は、腰中心に関してセグメント1及び3のほぼ50?100倍(例えば、被験者4で100倍)以上であり、他の関節にも大きな違いがあります。ただし、ここでは4人の被験者の結果が示されていますが、他のいくつかの被験者の分析では、身体的に優れた被験者のジッタとFPUM値(表1)が優れていない被験者のものよりもはるかに小さいことが明らかになり、これも[22]の医学的事実を裏付けています。)

(引1-サ)第857頁右欄下から13行?末行
「4. CONCLUSION
In this paper quantification of balance using single limb stance (SLS) exercise is proposed and tested on 35 healthy subjects with various fitness level, age, height, weight etc. An effective curvature finding algorithm is proposed which performs better than [12] to find the SLS duration from skeleton data. The quantitative measurement of vibrationis formulated in terms of relative frequency variation and force per unit mass (FPUM) for each joint. Results indicate that the vibration jitter and FPUM during one leg stance varies with subjects physical fitness level and is much higher than bipedal one. But how these bio-markers (age, height, BMI etc.) affect single limb balance will be our future scope of research.」
(和訳:4.結論
この論文では、単肢スタンス(SLS)運動を使用したバランスの定量化を提案し、さまざまなフィットネスレベル、年齢、身長、体重などの35人の健康な被験者を対象にテストしました。効果的な曲率点検出アルゴリズムが提案され、それは骨格データからSLS期間を検出するために、[12]の方法よりも優れています。振動の定量的測定は、各関節の相対的周波数変動と単位質量あたりの力(FPUM)の観点から定式化されます。結果は、片足スタンス中の振動ジッタとFPUMは、被験者の体力レベルによって異なり、二足スタンスのものよりもはるかに高いことを示しています。しかし、これらのバイオマーカー(年齢、身長、BMIなど)がどのように単肢バランスに影響するかは、今後の研究範囲になります。)

b 引用文献1に記載された発明

(a)上記(引1-ク)の記載から、持ち上げられた脚の足首のy座標の変化(例えば、左脚が持ち上げられた場合)Y_(AnkleLeft)を解析することにより、足が曲げられ床から離れるRのフレームと、再び足が地面に触れるFのフレームを特定することが読み取れる。

(b)上記(引1-ケ)の式(2)に関連する記載から、フィルタ処理された骨格データを用いて、各関節の変位の時間変化を算出することにより各関節の速度を取得することが読み取れる。

(c)上記(引1-ケ)の式(5)に関連する記載から、各セグメントの平均周波数を用いて相対的周波数変動を算出することが読み取れる。

(d)上記(a)ないし(c)を踏まえると、上記(引1-ア)ないし(引1-サ)の記載から、引用文献1には、

「 MicrosoftのKinectを使用した単肢スタンスのバランスを定量化する方法であって、
処理全体は、Kinectから取得した骨格データに対して実行されるものであり、
参加者は、素足で目を開き、両腕を腰に当て、正面を見て、Kinectから7?8フィートの距離に立ってテストを実行し、
20の関節に関する3次元空間の時間情報が、Kinectから取得され、
グラウンドトゥルースのために、Kinect及びフォースプレートベースのセットアップを使用して、時間同期データ取得が実行され、
Kinectから取得した骨格データは非常にノイズが多く、室内照明、IR干渉、量子化ノイズなどを含むため、フィルタ処理し、
持ち上げられた脚の足首のy座標の変化(例えば、左脚が持ち上げられた場合)Y_(AnkleLeft)を解析して、足が曲げられ床から離れるRのフレームと、再び足が地面に触れるFのフレームを特定し、
R及びFのフレームに対応するタイムスタンプ間の差を見つけることにより、SLS継続時間を測定し、
各関節の振動解析にその速度プロファイルを使用するために、フィルタ処理された骨格データを用いて、各関節の変位の時間変化を算出することにより各関節の速度を取得し、
SLSの前S?R(セグメント1)、SLSの最中R?F(セグメント2)、及びSLSの後F?E(セグメント3)の各セグメントの平均周波数を求め、
各セグメントの平均周波数を用いて相対的周波数変動を算出し、
相対的周波数変動は振動ジッタと見なされ、
関節のバランスの推定に適した尺度になる各関節の単位質量あたりの反力(FPUM)を、その関節の速度の変化率、つまり加速度として測定する、
方法。」

の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

c 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるKingshuk Chakravarty et al,“Single leg stance (SLS) and vibration index (VI): New instrumental indices for fall risk estimation in stroke survivors”,Gait & Posture,2016年8月9日,Vol.49,p.168(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

(引2-ア)タイトル
「Single leg stance (SLS) and vibration index (VI): New instrumental indices for fall risk estimation in stroke survivors」
(訳:片脚スタンス(SLS)と振動指数(VI):脳卒中生存者の転倒リスク推定のための新しい器械指数)

(引2-イ)左欄18行?下から3行
「Methods: We have developed a Kinect^(TM )based portable, cost-effective, user-friendly gait and fall risk (balance) analysis system for rehabilitation monitoring (RehabBox). The system is capable of evaluating balance using two tests - Single Leg Stance (SLS - duration ofunsupported standing on one leg) and Vibration Index (VI - corrective body vibrations, which are measured quantitatively in terms of angular motion across hip, knee and trunk) estimation. In this study we validated these balance (fall risk) indices with self-reported falls in age matched stroke-survivors (S) and control (C) subjects. How different body segment (upper, lower and mid body) behave under disequilibrium state was assessed to estimate the fall risk (VI). In addition to center of pressure (COP) movement analysis, the vibration of different body joints were measured in terms of frequency variation i.e. vibration-jitter and joint-acceleration profile. The overall VI is computed as an aggregated value of vibration-jitter and acceleration for all the joints.」
(訳:方法:Kinect^(TM)ベースのポータブルで費用対効果が高くて使いやすい、リハビリテーション監視のための歩行及び転倒リスク(バランス)分析システム(RehabBox)を開発しました。このシステムは、2つの調査を使用してバランスを評価することができ、それらは、片脚スタンス(SLS-支えられていない状態での片脚立ち持続時間)と振動指数(VI-腰、膝、胴体のいたる所の角運動に関して定量的に測定される補正身体振動)の概算です。この研究では、年齢が一致した脳卒中生存者(S)及び対照(C)被験者について、自己申告による転倒でこれらのバランス(転倒リスク)指標を検証しました。転倒リスクを推定するために、異なる身体部位(上部、下部、中央部)が不均衡状態でどのように動作するかを評価しました(VI)。圧力中心(COP)運動解析に加えて、さまざまな身体関節の振動を、周波数変動に関して測定しました。つまり、振動ジッタと関節加速度のプロファイルです。全体的なVIは、すべての関節の振動ジッタ及び加速度の集合値として計算されます。)

(引2-ウ)右欄8?14行
「Discussion: Kinect based balance analysis using our novel algorithm (SLS and VI) was found to be highly reliable for fall risk estimation in stroke survivors. Moreover, Vibration Index can be considered as a simple tool for fall prediction in stroke survivors as well as healthy controls. Adoption of such clinical indices will increase participation of stroke-survivors in fall-preventing measures and thus reduce mortality and disability.」
(訳:考察:Kinectベースの新しいアルゴリズム(SLS及びVI)を使用したバランス分析は、脳卒中生存者の転倒リスク推定として非常に信頼できることが判明しました。さらに、振動指数は、健康なコントロールと同様に、脳卒中生存者の転倒予測のためのシンプルなツールと考えることができます。このような臨床指標の採用により、脳卒中生存者の転倒予防対策への参加が増加し、死亡率と障害が減少します。)

d 引用文献2に記載された技術事項

上記(引2-ア)ないし(引2-ウ)の記載から、引用文献2には、

「 Kinectベースの新しいアルゴリズム(片脚スタンスSLS及び振動指数VI)を使用したバランス分析であって、
さまざまな身体関節の振動を、周波数変動に関して、つまり、振動ジッタと関節加速度のプロファイルを測定し、
片脚スタンスSLSは、支えられていない状態での片脚立ち持続時間であり、
全体的な振動指数VIは、すべての関節の振動ジッタ及び加速度の集合値として計算される、
バランス分析。」

の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(ウ)本件補正発明と引用発明1との対比

a 引用発明1の「参加者」は人であるから、引用発明1の「単肢スタンスのバランス」は、本件補正発明の「人の姿勢バランス」に含まれる。

b 引用発明1の「定量化する」は、本件補正発明の「決定する」に含まれる。

c 上記a及びbを踏まえると、引用発明1の「単肢スタンスのバランスを定量化する方法」は、本件補正発明の「人の姿勢バランスを決定する方法」に含まれる。

d 翻訳文に段落【0015】に「本実施形態では、データ取り込みのための3Dモーションセンサ102としてマイクロソフトKinect(登録商標)(Kinect)装置が用いられた。読み取りに対する便宜のために、用語『3Dモーションセンサ』および『Kinect』は、開示において置き替え可能で使われることが理解されるべきである。」と記載されていることから、「マイクロソフトKinect」は本件補正発明の「3Dモーションセンサ」の1例である。
よって、引用発明1の「MicrosoftのKinect」は、本件補正発明の「3Dモーションセンサ」に相当する。

e 引用発明1は、「持ち上げられた脚の足首のy座標の変化(例えば、左脚が持ち上げられた場合)Y_(AnkleLeft)を解析」することから、「テストを実行」している「参加者」が片足立ちしていることは明らかであり、当該「片足立ち」は、本件補正発明の「片肢スタンス(SLS)運動」に相当する。

f 上記eを踏まえると、引用発明1の「参加者は、素足で目を開き、両腕を腰に当て、正面を見て、Kinectから7?8フィートの距離に立ってテストを実行し」、「骨格データ」を「Kinectから取得」する段階は、本件補正発明の「3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ」に相当する。

g 引用発明1の「グラウンドトゥルースのために、Kinect及びフォースプレートベースのセットアップを使用して、時間同期データ取得が実行され」る段階は、本件補正発明の「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」に相当する。

h 引用発明1の「フィルタ処理」は「ノイズ」を減らすための処理であるから、引用発明1の「フィルタ処理」すること、本件補正発明の「ノイズを除去する」ことに相当する。

i 上記hを踏まえると、引用発明1の「Kinectから取得した骨格データは非常にノイズが多く、室内照明、IR干渉、量子化ノイズなどを含むため、フィルタ処理」する段階と、本件補正発明の「ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ」とは、「前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ」で共通する。

j 引用発明1において、「持ち上げられた脚の足首のy座標の変化(例えば、左脚が持ち上げられた場合)Y_(AnkleLeft)」の「解析」が、フィルタ処理した骨格データを使用して行われることは明らかであるから、引用発明1の「持ち上げられた脚の足首のy座標の変化(例えば、左脚が持ち上げられた場合)Y_(AnkleLeft)を解析して、足が曲げられ床から離れるRのフレームと、再び足が地面に触れるFのフレームを特定し」、「R及びFのフレームに対応するタイムスタンプ間の差を見つけることにより、SLS継続時間を測定」する段階は、本件補正発明の「前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ」に相当する。

k 引用発明1の「各関節の振動解析にその速度プロファイルを使用するために、フィルタ処理された骨格データを用いて、各関節の変位の時間変化を算出することにより各関節の速度を取得」する段階は、本件補正発明の「人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ」に相当する。

l 引用発明1の「フィルタ処理された骨格データを用いて、各関節の変位の時間変化を算出することにより各関節の速度を取得」する際に用いる「骨格データ」は、関節の変位を使用していることから、「20の関節に関する3次元空間の時間情報」であるといえる。
そして、引用発明1の「20の関節に関する3次元空間の時間情報」又は「各関節の」「速度プロファイル」は、本件補正発明の「関節運動プロファイル」に相当する。

m 引用発明1の「20の関節に関する3次元空間の時間情報」又は「各関節の」「速度プロファイル」が、各関節独自のものであることは明らかである。

n 引用発明1の「振動ジッタ」及び「単位質量あたりの反力(FPUM)」は、それぞれ本件補正発明の「振動ジッタ」及び「単位質量当たりの力(FPUM)」に相当する。

o 上記lないしnを踏まえると、引用発明1の「関節の振動解析にその速度プロファイルを使用」して「SLSの前S?R(セグメント1)、SLSの最中R?F(セグメント2)、及びSLSの後F?E(セグメント3)の各セグメントの平均周波数を求め」、「各セグメントの平均周波数を用いて相対的周波数変動を算出し」、「相対的周波数変動は振動ジッタと見なされ」、「関節のバランスの推定に適した尺度になる各関節の単位質量あたりの反力(FPUM)を、その関節の速度の変化率、つまり加速度として測定する」段階は、本件補正発明の「3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは人の各関節のために異なり、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ」に相当する。

p 引用発明1において、「Kinectから取得した骨格データに対して実行される」「処理全体」がコンピュータによって行われることは明らかであるから、引用発明1は、その「処理全体」の範囲において、本件補正発明の「以下のステップを実施するプロセッサを含む」に相当する構成を備えているといえる。

(エ)そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、

「 人の姿勢バランスを決定する方法であって、以下のステップを実施するプロセッサを含む、方法:
3Dモーションセンサを用いて人の骨格データを得るステップであって、人は片肢スタンス(SLS)運動を実行している、ステップ、
Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ、
前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ、
前記複数のノイズを除去した後の人の前記骨格データを用いて人の片肢スタンス(SLS)期間を算出するステップ、
人の各関節の速度プロファイルを計算するステップ、
3D空間における人の関節運動プロファイルを用いて人の振動ジッタおよび単位質量当たりの力(FPUM)を測定するステップであって、前記関節運動プロファイルは人の各関節のために異なり、前記関節運動プロファイルは3Dモーションセンサから得られる、ステップ。」

の発明である点で一致し、次の3点において相違する。

(相違点1)
前記骨格データから複数のノイズを除去するステップについて、本件補正発明においては、「ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて」いるのに対し、引用発明1においては、そのような特定がされていない点。

(相違点2)
本件補正発明は、「人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて各関節のための振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ」を有するのに対し、引用発明1は、そのようなステップを含まない点。

(相違点3)
本件補正発明は、「SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ」を有するのに対し、引用発明1は、そのようなステップを含まない点。

(オ)判断

a 上記各相違点について検討する。

(a)相違点1について

コンピュータを用いて実行する処理において、全体処理の一部である特定の処理について、モジュールを使用して行うことは普通に行われていることから、「前記骨格データから複数のノイズを除去するステップ」を、ノイズ・フィルタリングモジュールを用いて行うことは、設計的事項である。

(b)相違点2について

本件補正発明と引用文献2技術事項を対比する。
引用文献2技術事項の「振動ジッタ」及び「加速度」は、それぞれ本件補正発明の「振動ジッタ」及び「単位質量当たりの力(FPUM)」に相当する。
引用文献2技術事項の「全体的な振動指数VI」は、本件補正発明の「各関節のための振動インデックス」に相当する。
そして、引用文献2技術事項の「すべての関節の振動ジッタ及び加速度の集合値として計算される」ものであることは、本件補正発明の「前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである」ことに相当する。
したがって、引用文献2技術事項の「さまざまな身体関節の振動を、周波数変動に関して、つまり、振動ジッタと関節加速度のプロファイルを測定し」、「全体的な振動指数VIは、すべての関節の振動ジッタ及び加速度の集合値として計算される」段階は、本件補正発明の「人の振動ジッタおよびFPUMに基づいて各関節のための振動インデックスを生成するステップであって、前記振動インデックスは、前記各関節のための前記人の振動プロファイルを含む集合スコアである、ステップ」に相当する。

引用発明と引用文献2技術事項は、いずれもKinectを使用したバランス分析に関する技術である。
そして、引用発明は、振動ジッタと見なされる相対的周波数変動を算出し、各関節の単位質量あたりの反力(FPUM)を加速度として測定するものである。
そうすると、引用発明において、引用文献2技術事項に基づいて、すべての関節の振動ジッタ及び加速度の集合値として計算される全体的な振動指数VIを求めるようにして、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(c)相違点3について

引用発明は、「単肢スタンスのバランスを定量化する方法」であるところ、「定量化」する手法としてランクづけや得点化することは、従来周知である。
したがって、引用発明において、求めた「SLS継続時間」、「振動ジッタ」及び「FPUM」を得点化することは、設計的事項にすぎない。
また、上記(b)で検討した引用文献2技術事項の「全体的な振動指数VI」を求めるようにした場合、当該全体的な振動指数VIを得点化することも、技術の適用に伴う設計変更にすぎない。

ここで、本件補正発明の「第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコア」は、「SLS期間および前記振動インデックスを用いて」「生成する」こと、及び「人の姿勢バランスを示す」ものであることは特定されているものの、「SLS期間」及び「振動インデックス」と「第1のバランス・スコア」及び「第2のバランス・スコア」とがどのように対応しているかは特定されていないことから、本件補正発明の「SLS期間および前記振動インデックスを用いて人の第1のバランス・スコアおよび第2のバランス・スコアを生成するステップであって、前記第1および第2のバランス・スコアは人の姿勢バランスを示す、ステップ」は、「SLS期間」のみから「第1のバランス・スコア」を生成し、「振動インデックス」のみから「第2のバランス・スコア」を生成する場合を含んでいる。

そして、引用発明において、「SLS継続時間」を得点化したもの、及び、「全体的な振動指数VI」を得点化したものは、「参加者」の「単肢スタンスのバランス」に関するものであるから、それぞれ本件補正発明の「人の姿勢バランスを示す」「第1のバランス・スコア」及び「第2のバランス・スコア」に含まれる。
よって、引用発明において、「SLS継続時間」及び引用文献2技術事項から採用する「全体的な振動指数VI」をそれぞれ得点化することにより、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項が得られることとなる。

b 本件補正発明の奏する作用効果

本件補正発明によってもたらされる効果は、引用文献1及び2の記載事項から当業者が予測し得る程度を超えるものではない。

c したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

d 請求人は、審判請求書において、「第1のバランス・スコアは、片肢スタンスの間にどの程度の振動が異なる関節/身体部分に関連するかを示します。第1のバランス・スコアは、被験者が片脚スタンスをどれだけの期間、保持できるかを示すコントロール・スコアです。第2のバランス・スコアは、3次元空間内の各関節の振動、および人が片肢スタンスに留まる持続時間を示します。本開示の別の実施形態によれば、第2のバランス・スコアは、Berg Balance Scale、Timed up and goなどの臨床的に承認されたスケールに関して検証されます。これらのスコアを、臨床的に承認されたスケールと相関させるために、回帰分析が行われます。」と説明しているが、本件補正発明の「第1のバランス・スコア」及び「第2のバランス・スコア」は、上記a(c)で指摘したように請求人が説明する内容が特定されていないから、進歩性の判断において請求人の上記説明は考慮されない。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定、又は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成31年4月26日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年11月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし18に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:Kingshuk Chakravarty et al,“Quantification of balance in single limb stance using kinect”,2016 IEEE International Conference on Acoustics, Speech and SignalProcessing,IEEE,2016年5月19日,p.854-858
引用文献2:Kingshuk Chakravarty et al,“Single leg stance (SLS) and vibration index (VI): New instrumental indices for fall risk estimation in stroke survivors”,Gait & Posture,2016年8月9日,Vol.49,p.168
引用文献3:米国特許出願公開第2013/0023798号明細書
引用文献4:国際公開第2014/160451号

なお、引用文献3及び4は、請求項4、5及び14に対して引用されたものである。

3 引用文献について

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)オ(イ)に記載したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は、上記第2[理由]2(2)オ(ウ)ないし(オ)で検討した本件補正発明から、「Kinectおよび準備に基づくフォース・プレートのうちの少なくとも1つを用いて、前記骨格データから、時間で同期したデータを取り込むステップ」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2(2)オ(ウ)ないし(オ)で説示したとおり、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-05 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2017-57038(P2017-57038)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 561- Z (A61B)
P 1 8・ 536- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 裕勝  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
発明の名称 人の姿勢バランスを決定するための方法およびシステム  
代理人 芝 哲央  
代理人 小菅 一弘  
代理人 齋藤 拓也  
代理人 岩池 満  
代理人 林 一好  

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