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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1364853
審判番号 不服2018-15007  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-09 
確定日 2020-08-04 
事件の表示 特願2015-561276「無線電力送信器及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年9月12日国際公開、WO2014/137199、平成28年3月24日国内公表、特表2016-509465〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)3月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年3月8日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年3月8日付け:拒絶理由通知書
平成30年6月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年7月2日付け:拒絶査定
平成30年11月9日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年1月8日 :上申書の提出
平成31年4月3日 :上申書の提出

第2 平成30年11月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 【請求項1】
無線電力受信器に充電電力を送信する無線電力送信器の制御方法であって、
ラッチ失敗モード進入条件が満たされると、ラッチ失敗モードに進入するステップと、
前記ラッチ失敗モードに進入した後、第1の電力値を有する第1の電力を第1の周期で周期的に共振回路に印加するステップと、ここで、前記第1の電力は、前記無線電力受信器の除去により誘発される前記無線電力送信器のインピーダンス変化を検出するためのものであり、
前記第1の電力の印加途中に前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化が検出されると、前記無線電力受信器が除去されたと判定するステップと、
前記無線電力受信器が除去されたと判定した以後に、第1の印加期間を有する第2の検出電力を第2の周期で周期的に前記共振回路に印加し、第2の印加期間を有する第3の検出電力を第3の周期で周期的に前記共振回路に印加する電力節約モードを維持するステップと、をさらに含み、
前記第2の印加期間は、前記第1の印加期間より長く、前記第3の周期は前記第2の周期より長いことを特徴とする方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年6月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
無線電力受信器に充電電力を送信する無線電力送信器の制御方法であって、
ラッチ失敗モード進入条件が満たされると、ラッチ失敗モードに進入するステップと、
前記ラッチ失敗モードに進入した後、第1の電力値を有する第1の電力を第1の周期で周期的に共振回路に印加するステップと、ここで、前記第1の電力は、前記無線電力受信器の除去により誘発される前記無線電力送信器のインピーダンス変化を検出するためのものであり、
前記第1の電力の印加途中に前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化が検出されると、前記無線電力受信器が除去されたと判定するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

2.補正の適否
(1)補正の目的について
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に対して、上記1.(1)で下線を付した
「 前記無線電力受信器が除去されたと判定した以後に、第1の印加期間を有する第2の検出電力を第2の周期で周期的に前記共振回路に印加し、第2の印加期間を有する第3の検出電力を第3の周期で周期的に前記共振回路に印加する電力節約モードを維持するステップと、をさらに含み、
前記第2の印加期間は、前記第1の印加期間より長く、前記第3の周期は前記第2の周期より長い」
という事項(以下、「補正事項」という。)を追加するものである。
そして、上記補正事項に係るステップは、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「ラッチ失敗モード進入条件が満たされると、ラッチ失敗モードに進入するステップ」、「前記ラッチ失敗モードに進入した後、第1の電力値を有する第1の電力を第1の周期で周期的に共振回路に印加するステップ」、及び「前記第1の電力の印加途中に前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化が検出されると、前記無線電力受信器が除去されたと判定するステップ」という3つのステップとは別のステップであって、上記「前記第1の電力の印加途中に前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化が検出されると、前記無線電力受信器が除去されたと判定するステップ」の後に行われる新たなステップであるから、上記補正事項は、本件補正前の請求項1の発明特定事項のいずれかを限定するものであるとは認められない。
したがって、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「特許請求の範囲の限定的減縮」という。)を目的とするものに該当しない。
また、請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に対して、上記補正事項を追加するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」を目的とするものにも該当しない。なお、本件補正前の請求項2には「電力節約モードを維持するステップ」が記載されているが、当該「電力節約モードを維持するステップ」は「前記ラッチ失敗モードに進入するステップの以前に」行われるステップであり、一方、上記補正事項に係る「電力節約モードを維持するステップ」は、「前記無線電力受信器が除去されたと判定した以後に」行われるものであるから、それらは同じステップではない。したがって、本件補正は、補正前の請求項1を削除し、それに伴って補正前の請求項2を独立請求項に記載し直したものであると、すなわち、請求項の削除を目的とするものであるということもできない。
さらに、平成30年7月2日付け拒絶査定においては、請求項1に関して記載不備を指摘してはいないから、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものにも該当しない。
そして、本件補正前の請求項1においては、上記補正事項に対応する誤記は何ら認められないから、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものにも該当しない。
以上のとおりであるから、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものではないから、同法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)請求人の主張について
請求人は、平成31年4月3日提出の上申書において、補正の目的に関して、「しかしながら、本願の図5に示すますように、Device removed(デバイス除去)が確認された以後に、short/long beaconが印加されることが確認でき、これは、補正前の請求項1に比べて追加的な動作がさらに付加された『限定』事項であります。したがいまして、この補正は、『特許請求の範囲の限定的減縮』であり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものではないと思料いたします。」と主張する(なお、請求人は、平成30年11月9日提出の審判請求書において、補正の目的に関して何ら言及していない。)。
しかしながら、上記補正事項は、請求人が述べているとおり「補正前の請求項1に比べて追加的な動作がさらに付加された」ものであるが、上記(1)で説示したとおり、本件補正前の請求項1の発明特定事項のいずれかを限定するものであるとは認められないから、「この補正は、『特許請求の範囲の限定的減縮』であ」るという請求人の上記主張を採用することはできない。
なお、仮に、請求項1についての本件補正が、請求人が主張するように特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであったとしても、本件補正後の請求項1係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
すなわち、本件補正後の請求項1には「前記無線電力受信器が除去されたと判定した以後に、第1の印加期間を有する第2の検出電力を第2の周期で周期的に前記共振回路に印加し、第2の印加期間を有する第3の検出電力を第3の周期で周期的に前記共振回路に印加する電力節約モードを維持するステップ」及び「前記第2の印加期間は、前記第1の印加期間より長く、前記第3の周期は前記第2の周期より長い」と記載されているが、請求人が審判請求書において補正の根拠として挙げている明細書の段落【0055】及び図5の記載について検討すると、「【0055】・・・ここで、電力節約モードは、無線電力送信器が電力送信部に電力量が相異なる異種の電力を印加する区間であり得る。例えば、無線電力送信器は、図5における第2の検出電力501,502及び第3の検出電力(511,512,513,514,515)を電力送信部に印加する区間であり得る。・・・」(下線は当審で付与した。)と記載されており、当該図5の記載からは、第2の検出電力501,502の印加期間(請求項1の「第1の印加期間」)は第3の検出電力(511,512,513,514,515)の印加期間(請求項1の「第2の印加期間」)より長く、かつ、第2の検出電力501,502の周期(請求項1の「第2の周期」)は第3の検出電力(511,512,513,514,515)の周期(請求項1の「第3の周期」)より長いことが看てとれる。したがって、第2の検出電力と第3検出電力の印加期間及び周期の大小関係は、本件補正後の請求項1の記載と本件明細書及び図面の記載とでは、いずれも全く逆の関係になっているから、本件補正後の請求項1に係る発明、特に、「前記第2の印加期間は、前記第1の印加期間より長く、前記第3の周期は前記第2の周期より長い」という発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
さらに、仮に、本件補正後の請求項1の記載の「第2の検出電力」が明細書及び図面に記載の「第3の検出電力」に相当し、本件補正後の請求項1の記載の「第3の検出電力」が明細書及び図面に記載の「第2の検出電力」に相当するものであると解釈したとしても、本件補正後の請求項1に記載のように、印加期間及び周期の大小関係しか特定されていない第2の検出電力と第3検出電力を電力節約モードにおいて周期的に印可するという技術思想は、本件明細書及び図面には記載も示唆もされていない。
すなわち、明細書の段落【0058】には、「第2の検出電力501,502は無線電力受信器の制御部及び通信部を駆動させる電力量を有することができる。」と記載され、段落【0056】には「第3の検出電力の電力量は最も小型の無線電力受信器、例えばカテゴリ1の無線電力受信器を検出できる電力量を有することができる。」と記載されており、それらの記載からみて、第2の検出電力は無線電力受信器の制御部及び通信部を駆動させるためのものであり、第3の検出電力は無線電力受信器を検出するためのものであって、それぞれ当該駆動又は当該検出に必要な電力量を有するものである。そして、それら以外のために第2の検出電力及び第3の検出電力を印加することは明細書及び図面には記載も示唆もされていない。これに対して、本件補正後の請求項1には、上述したように第2の検出電力と第3検出電力の印加期間及び周期の大小関係しか特定されておらず、当該大小関係のみから、明細書に記載の「第2の検出電力501,502は無線電力受信器の制御部及び通信部を駆動させる電力量を有すること」、及び、「第3の検出電力の電力量は最も小型の無線電力受信器、例えばカテゴリ1の無線電力受信器を検出できる電力量を有すること」までは特定できない。したがって、本件補正後の請求項1の技術的範囲には、無線電力受信器の制御部及び通信部を駆動させる電力量を有する検出電力でなくても、また、無線電力受信器を検出できる電力量を有する検出電力でなくても、請求項1に記載の大小関係さえ満たしてさえいれば含まれてしまうことになるから、本件補正後の請求項1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
以上のとおりであるから、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件補正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、仮に、請求項1についての本件補正が、請求人が主張するように特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであったとしても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第53条第1項の規定により却下すべきものであり、仮に、同法第17条の2第5項の規定に適合するとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

(4)平成31年4月3日に提出の上申書に記載の補正案について
なお、請求人は、平成31年4月3日に提出の上申書において、特許請求の範囲の補正案を添付するとともに、当該補正案のとおりに補正する機会を求めている。
しかしながら、上記補正案の請求項1には、第3の検出電力について「前記無線電力受信器を駆動可能なサイズを有する」ことが特定されているが、第2の検出電力については、本件補正後の請求項1の記載と同様に無線電力受信器を検出できる電力量を有することは特定されていないから、上記補正案のとおりに補正したとしても、上記(2)で説示した記載不備は解消しない。
そして、上記(1)ないし(3)で説示したとおり、本件補正は特許法第53条第1項の規定により却下すべきものであるから、再度の補正の機会を与える合理的な理由を見出すことはできない。
したがって、平成31年4月3日に提出の上申書に添付した特許請求の範囲の補正案のとおりに補正する機会を与えることが妥当であるとは認められない。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年11月9日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成30年6月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]の1.(2)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、引用文献1(国際公開第2008/056415号)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(国際公開第2008/056415号)には、「非接触充電器、電子機器、電池パックおよび非接触充電システム」に関して、次の記載がある。

(1)「[0038] (第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る非接触充電システムの概要を説明するブロック図である。図1に示すように、本実施形態の非接触充電システムは、携帯電話100と、非接触充電器200と、ACアダプタ300とから構成されている。携帯電話100は、非接触充電器200と非接触の状態で、電力の供給を受けて後述するその電池セル(二次電池)160に充電することができる。『非接触』とは、携帯電話100と非接触充電器200が、その金属端子を介して直接電気的に導通しない状態で、両者の間で電力(電波)、信号等がやり取り可能であることをいう。」
(2)「[0051] 非接触充電器200は、報知部210と、報知部ドライバ回路220と、制御部230と、変調部240と、認証部250と、復調部260と、コイルドライバ回路270と、コイル280とを備える。非接触充電器200は、卓上充電台、レストラン等飲食店のテーブル、公園等のベンチ、鉄道等の乗り物座席の手すり、自動車等のセンターコンソール、エスカレータ等の手すり等に組み込まれた組み込み型充電器など種々の形を有し、一般的には樹脂の筐体に回路が内蔵され、形成される。非接触充電器200は、交流電源10からACアダプタ300を介して電力の供給を受け、当該非接触充電器200の上に携帯電話100が載置されることにより、携帯電話100の充電が可能となる。
(中略)
[0054] コイル280は、携帯電話100に備えられたコイル177との間で電磁結合して電力を送出する一次コイルとして機能する。この場合、コイル280は上述したコイルドライバ回路270からの交流波をコイル177に送出する。また、コイル280は、コイル177との間で電磁結合し、復調部260を介して、認識部250にコマンドを出力する。即ち、コイル280は、電力、後述する種々のコマンド、信号を送受信する送受信部として機能する。」
(3)「[0063] 図2は、特許文献3にも開示されているが、非接触充電器200が、その上に物体が載置されているのか、また、その上に載置された物体が携帯電話100なのか否かを判別する方法、すなわち、被充電側の状態を判定する方法を示す。後述するように、判定時、非接触充電器200の制御部230は、負荷の有無を確認する負荷確認信号を生成し、変調部240による変調を経て、コイル280から交流電力が送出される。図2(a)はこのとき、コイル280に発生する電圧(正弦波波形)を示す。一般的に非接触充電器200上に何ら物体が載置されていない状態、すなわち無負荷状態のとき、図2(b)に示すように、コイル280に発生する交流電流の位相は略π/2(略90度)遅れることとなる。
[0064] そして、非接触充電器200上に携帯電話100が載置された状態、すなわち正規負荷状態のとき、図2(c1),(c2)のように、コイル280に発生する交流電流の位相は、所定量のA、A+α進むことが予めわかっている。そこで、このような電流位相の変化に基づき、非接触充電器200は携帯電話100が載置されたか否かを検知することができる。」
(4)「[0069] 次に、本実施形態の非接触充電システムの動作について説明する。図3は、本実施形態に係る非接触充電器200の状態の遷移を示す状態遷移図である。まず、ACアダプタ300の電源が投入され、非接触充電器200の電源がオンとなると(S0)、制御部230は、非接触充電器200を初期状態としてのスタンバイモードに移行させる(S1)。このとき、制御部230は、図2の方式に基づき、負荷有無の確認を行なう。すなわち、制御部230は、負荷の有無を確認する負荷確認信号を生成し、変調部240による変調を経て、コイル280から交流電力が送出される。そして、図2(b)のように、電流位相に基づき負荷無しと判別された場合(T1)、制御部230は、非接触充電器200をスタンバイモードに維持する。
[0070] 一方、図2(c1),(c2),(d)のように、電流位相に基づき負荷有りと判別された場合(T2)、制御部230は、非接触充電器200を認証モードに移行させる(S2)。このとき、制御部230は相手方に認証を求める認証要求コマンドを生成し、変調部240による変調を経て、コイル280から送出される。これに対する負荷からのデジタル信号が復調部260により復調されると、認証部250は復調されたデジタル信号を認証判定し、携帯電話100の認証IDが得られるか否かを判定する。認証IDが得られない、すなわち、この認証に何らかのエラーが生じたとき(T3)、制御部230は、非接触充電器200をエラーモードに移行させる(S3)。このとき、制御部230は、図2の方式に基づき、再び負荷有無の確認を行なうが、負荷無しと判別した場合に(T4)、非接触充電器200を再びスタンバイモードに移行させる(S1)。また、負荷有りと判断した場合に(T15)、エラーモードを維持する(S3)。」
(5)「[0085] 図6(e)のエラーモードでは、非接触充電器200は、所定間隔の負荷確認信号で負荷の有無を確認し、負荷有りの場合はモードを維持し、負荷無しを検出後、スタンバイモードに移行する。待機電力削減のため、動作の間隔T4は比較的大きく設定され、本例ではT4=T3=T1である。また、負荷有無の確認のみを行なうため、動作時間の幅Tdは比較的小さく、本例ではTd=Tc=Taである。」
(6)「[図6]



そして、上記(1)ないし(6)の記載から、次の事項が記載されているといえる。
ア.上記(1)によれば、引用文献1の非接触充電システムは、携帯電話100と、非接触充電器200と、ACアダプタ300とから構成され、携帯電話100は、非接触充電器200と非接触の状態で、電力の供給を受けて充電することができる。
したがって、非接触充電器200は携帯電話100に充電のための電力を供給するものである。
イ.上記(2)によれば、前記非接触充電器200は、制御部230と、認証部250と、コイル280とを備えており、当該コイル280は、前記携帯電話100に備えられたコイル177との間で電磁結合して電力を送出する一次コイルとして機能する。
したがって、非接触充電器200は電磁結合により電力を供給するものである。
ウ.前記非接触充電システムの動作について、上記(4)によれば、非接触充電器200の電源がオンとなると(S0)、制御部230は、非接触充電器200を初期状態としてのスタンバイモードに移行させ(S1)、図2の方式に基づき、負荷有無の確認を行なう。そして、負荷有りと判別された場合(T2)、制御部230は、非接触充電器200を認証モードに移行させ(S2)、携帯電話100の認証IDが得られるか否かを判定する。そして、認証IDが得られない、すなわち、この認証に何らかのエラーが生じたとき(T3)、制御部230は、非接触充電器200をエラーモードに移行させ(S3)、図2の方式に基づき、再び負荷有無の確認を行なうが、負荷無しと判別した場合に(T4)、非接触充電器200を再びスタンバイモードに移行させ(S1)、負荷有りと判断した場合に(T15)、エラーモードを維持する(S3)。
したがって、前記制御部230の制御内容をまとめると、電源がオンになるとスタンバイモードに移行して負荷有無の確認を行い、負荷有りと判別された場合、認証モードに移行して携帯電話100の認証IDが得られるか否かを判定し、認証IDが得られないとき、エラーモードに移行して負荷有無の確認を行い、負荷無しと判別した場合に、スタンバイモードに移行させる。
エ.上記ウの負荷有無の確認の方法について、上記(3)によれば、制御部230は、負荷の有無を確認する負荷確認信号を生成し、コイル280から交流電力が送出され、コイル280に発生する交流電流の位相の変化に基づき、負荷である携帯電話100が載置されたか否かを検知する。
したがって、制御部230は、負荷確認信号を生成してコイル280から交流電力を送出し、コイル280に発生する交流電流の位相の変化に基づき負荷の有無を確認する。
オ.上記エの負荷確認信号について、上記(5)によれば、所定間隔の信号であり、また、上記(6)の図6(e)からは、一定の電力値を有する信号であることが看てとれる。

したがって、上記非接触充電器200の上記制御部230の動作すなわち非接触充電器200の制御方法に着目して、上記(1)ないし(5)及び上記(6)を含む各図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 携帯電話100に充電のための電力を電磁結合により供給する非接触充電器200の制御方法であって、
電源がオンになるとスタンバイモードに移行して負荷有無の確認を行い、負荷有りと判別された場合、認証モードに移行して携帯電話100の認証IDが得られるか否かを判定し、認証IDが得られないとき、エラーモードに移行して負荷有無の確認を行い、負荷無しと判別した場合に、スタンバイモードに移行させ、
前記エラーモードにおいて、負荷有無の確認を行う際に、一定の電力値を有する所定間隔の負荷確認信号を生成してコイル280から交流電力を送出し、コイル280に発生する交流電流の位相の変化に基づき負荷の有無を確認する、
非接触充電器200の制御方法。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「携帯電話100」及び「非接触充電器200」は、本願発明の「無線電力受信器」及び「無線電力送信器」にそれぞれ相当し、引用発明において、携帯電話100に「充電のための電力を電磁結合により供給する」ことは、本願発明において、無線電力受信器に「充電電力を送信する」ことに相当する。
(2)本願発明においては、「ラッチ失敗モード進入条件」について何ら具体的な特定はなされていないが、本願明細書の段落【0053】、【0060】ないし【0063】、【0073】ないし【0075】、【0080】ないし【0081】によれば、ラッチ失敗モードに進入するのは、異質物配置を含むエラーが発生した場合であり、上記異質物配置の判定については、段落【0060】の記載によれば、既設定された時間の間にオブジェクトから応答(認証に要求されるデータ)を受信できない場合に、無線電力送信器は配置されたオブジェクトが異質物であると決定している。そうすると、本願発明のラッチ失敗モード進入条件には、既設定された時間の間にオブジェクトから認証に要求されるデータを受信できない場合が少なくとも含まれると解される。
これに対して、引用発明の「エラーモード」は、携帯電話100の認証IDが得られるか否かを判定し、認証IDが得られないときに移行するモードであるから、当該エラーモードに移行(進入)する条件は、本願発明の上記ラッチ失敗モード進入条件と実質的に同じ内容であるといえる。
(3)上記(2)で説示したとおり、進入条件が同じであるから、引用発明の「エラーモード」は本願発明の「ラッチ失敗モード」に相当するモードであるといえるが、それらのモードに進入した後の手順についてさらに対比すると、引用発明は「一定の電力値を有する所定間隔の負荷確認信号を生成してコイル280から交流電力を送出し」ているから、本願発明と引用発明は、「第1の電力値を有する第1の電力を第1の周期で周期的に印加する」点で共通する。ただし、印加する先が、本願発明においては「共振回路」であるのに対して、引用発明は「コイル280」である点で相違する。
また、引用発明のエラーモードは、スタンバイモードで負荷有りと判別された場合に、認証モードを経由して移行されるモードであるから、当該エラーモードにおいて「負荷有無の確認を行い、負荷無しと判別した場合」というのは、負荷が除去されたことを意味し、当該負荷には無線電力受信器(携帯電話100)も当然に含まれる。したがって、引用発明の上記「負荷有無の確認」は、本願発明と同様に「無線電力受信器が除去されたと判定するステップ」を含んでいるといえる。
さらに、引用発明は「負荷有無の確認を行う際に、一定の電力値を有する所定間隔の負荷確認信号を生成してコイル280から交流電力を送出し」ているから、本願発明と同様に「前記第1の電力の印加途中に」上記判定を行っているといえる。ただし、当該判定を、本願発明においては、「前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化」の検出によって行っているのに対して、引用発明においては、「コイル280に発生する交流電流の位相の変化」に基づいて行っている点で相違する。そうすると、第1の電力が、本願発明においては、「前記無線電力受信器の除去により誘発される前記無線電力送信器のインピーダンス変化を検出するためのものであ」るのに対して、引用発明においては、「コイル280に発生する交流電流の位相の変化」を検出するためのものである点でも相違する。

したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、
「 無線電力受信器に充電電力を送信する無線電力送信器の制御方法であって、
ラッチ失敗モード進入条件が満たされると、ラッチ失敗モードに進入するステップと、
前記ラッチ失敗モードに進入した後、第1の電力値を有する第1の電力を第1の周期で周期的に印加するステップと、
前記第1の電力の印加途中に、前記無線電力受信器が除去されたと判定するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
第1の電力を印加する先が、本願発明においては「共振回路」であるのに対して、引用発明においては「コイル280」である点。
<相違点2>
本願発明においては、無線電力受信器が除去されたとの判定を「前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化」の検出によって行っており、第1の電力が「前記無線電力受信器の除去により誘発される前記無線電力送信器のインピーダンス変化を検出するためのものであ」るのに対して、引用発明においては、無線電力受信器が除去されたとの判定を「コイル280に発生する交流電流の位相の変化」に基づいて行っており、第1の電力が「コイル280に発生する交流電流の位相の変化」を検出するためのものである点。

5.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
共振による非接触電力伝送は普通に知られたものであるから、引用発明において、共振によって電力を供給するようにすることは、すなわち、第1の電力を共振回路に印加するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(2)相違点2について
例えば、原査定において周知技術を示す文献として引用された国際公開第2012/141239号の段落[0035]に「受電装置発見離脱検出部261は送電装置2に受電装置3が電力を受電できる距離に接近したことや、電力を受電できる距離から離脱したことを検出し、受電可能な範囲に接近した受電装置3があるかどうかの判定を行う。・・・(中略)・・・具体的な検出方法としては、例えば受電装置3の二次コイル30が近づいたり離れたりすることで磁界が変化し、これに伴って変化するインピーダンスを検出することで機器の接近、離脱を検知する方法や、データ通信制御部267(後述)が、受電装置3と電力伝送制御のための制御コマンドの送受信を行い、受信した情報に基づいて受電装置3が接近、離脱したことを検出する方法が考えられる。」(下線は当審で付与した。)と記載されているように、無線電力送信器において、無線電力送信器のインピーダンス値の変化を検出することによって、無線電力受信器が接近又は離脱したこと、すなわち、負荷の有無を検知することは周知技術にすぎない。
したがって、引用発明において、エラーモード(ラッチ失敗モード)において負荷有無の確認を行う際に、上記周知技術のようにインピーダンス値の変化を検出するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、そのようにすることによって、引用発明においても、本願発明と同様に、「前記第1の電力は、前記無線電力受信器の除去により誘発される前記無線電力送信器のインピーダンス変化を検出するためのもの」となる。

(3)作用効果について
「エラー発生時に容易に無線電力受信器または異質物が除去されたか否かを判定できる」(本願明細書の発明の効果の欄(段落【0015】)参照)という本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術が奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成30年6月12日提出の意見書において、「引用文献1は、本願請求項1の『前記第1の電力の印加途中に前記無線電力送信器のインピーダンス値の変化が検出されると、前記無線電力受信器が除去されたと判定するステップ』について開示も示唆もしていない」から進歩性を有する旨の主張をしているが、その点については、上記4.(3)及び5.(2)で説示したとおりである。
また、平成30年11月9日提出の審判請求書における請求人の主張は、同日提出の手続補正書の内容に基づくものであるが、当該手続補正書による手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-03-03 
結審通知日 2020-03-09 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2015-561276(P2015-561276)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 57- Z (H02J)
P 1 8・ 56- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
山田 正文
発明の名称 無線電力送信器及びその制御方法  
代理人 崔 允辰  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 木内 敬二  

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