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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1364889
異議申立番号 異議2019-700569  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-22 
確定日 2020-06-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6457538号発明「フェノール含有水素化ニトリルゴム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6457538号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8、14-16〕、〔9-13、17〕について訂正することを認める。 特許第6457538号の請求項1ないし5、7ないし17に係る特許を維持する。 特許第6457538号の請求項6に係る特許に対する特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6457538号(請求項の数17。以下、「本件特許」という。)は、2014年(平成26年)12月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2013年12月30日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願(特願2016-543676号)に係るものであって、平成30年12月28日に設定登録され、平成31年1月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和1年7月22日に、本件特許の請求項1?17に係る特許に対して、特許異議申立人 日本ゼオン株式会社(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年 7月22日 特許異議申立書
同年 9月17日付け 取消理由通知書
同年12月19日 意見書・訂正請求書(特許権者)
令和2年 2月 7日 手続補正書(方式)(特許権者)
同年 3月17日 意見書(申立人)

申立人の証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:ゴム工業便覧<第四版>、社団法人 日本ゴム協会編、236?253頁(平成6年1月20日)
甲第2号証:試験報告書、一般財団法人 化学物質評価研究機構(平成25年11月25日)
甲第3号証:日本ゼオン株式会社 総合開発センター エラストマー研究所 渡辺 恭彰作成の実験成績証明書(令和1年7月18日)
甲第4号証:特開2003-211479号公報
甲第5号証:沖野泰治 外1名著、「老化防止剤」、日本ゴム協会誌、第50巻、第10号、645?651頁(1977年)
甲第6号証:相村義昭著「水素化ニトリルゴムの基本特性と応用」、日本ゴム協会誌、第70巻、第12号、681?688頁(1997年)
甲第7号証:特開2011-178842号公報
甲第8号証:特表2010-528139号公報
甲第9号証:特表2010-528140号公報
甲第10号証:特表2011-511112号公報
甲第11号証:特表2011-511111号公報
甲第12号証:特開2002-212203号公報
(以下、甲1?甲12という。)

また、申立人は、令和2年3月17日に提出した意見書に、参考資料1を添付した。
参考資料1:隠塚裕之著、「フィラー分散が成形加工性に及ぼす効果」、日本ゴム協会誌、第89巻、第4号、115?120頁(2016年)

第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和1年12月19日に令和2年2月7日提出の手続補正書(方式)で補正された訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?8、12及び14?17について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。)。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「ことを特徴とする方法によって得られる、組成物。」と記載されているのを、
「ことを特徴とする方法によって得られ、
次式
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0
(式中、
MV0は、前記水素化ニトリルゴムについてASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃であり、および
MV2は、同一の水素化ニトリルゴムについて、100℃で72時間保存した後にASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃である)
で定義される前記組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値を有することを特徴とする、組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項7に「請求項1?6のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項8に「請求項1?6のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項14に「請求項1?8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の組成物」と記載されているのを、「請求項1?5、7、および8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の組成物」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項12に「水素化のために使用された前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去される」と記載されているのを、「前記水素化工程における溶液中に存在する前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去される」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項17に「請求項9?13のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる組成物。」と記載されているのを、「請求項9?13のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる組成物であって、
次式
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0
(式中、
MV0は、前記水素化ニトリルゴムについてASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃であり、および
MV2は、同一の水素化ニトリルゴムについて、100℃で72時間保存した後にASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃である)
で定義される前記組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値を有することを特徴とする、組成物。」に訂正する。

(8)一群の請求項
訂正事項1?5に係る訂正前の請求項1?8及び14?16について、請求項2?8及び14?16はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正事項6及び7に係る訂正前の請求項12及び17について、請求項17は請求項12を直接的に引用するものであって、訂正事項6によって記載が訂正される請求項12に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1及び7について
ア 訂正の目的について
訂正事項1及び7は、訂正前の請求項1及び17における「組成物」の、SS2(72h/100℃)=MV2-MV0(「MV2」及び「MV0」の定義は省略する。)という式で定義される「貯蔵安定性SS2」が、5未満の値を有すると限定する訂正である。
したがって、訂正事項1及び7は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1及び7は、上記アで述べたとおり、特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

新規事項の追加について
本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項6には、組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値であることが記載され、及び発明の詳細な説明の段落【0097】及び【0098】には、組成物の貯蔵安定性SS2が5以下の値である旨が記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえる。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更及び新規事項の追加について
訂正事項2は、訂正前の請求項6を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更及び新規事項の追加ではないことは明らかである。

(3)訂正事項3?5について
ア 訂正の目的について

訂正事項3?5は、訂正事項2により訂正前の請求項6が削除されたため、引用する請求項から請求項6を削除したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更及び新規事項の追加について
訂正事項3?5は、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更及び新規事項の追加ではないことは明らかである。

(4)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の「水素化のために使用された前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去される」という記載の意味が不明瞭であったものを明瞭にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更及び新規事項の追加について
本件特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0445】及び【0446】には、本件発明の実施例において、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを含むニトリルゴムを水素化する具体的な方法が記載され、同【0457】?【0460】には、本件発明の具体的な例である実施例5.5?5.8、6.12及び6.16において、水素化工程において存在していた2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの量、水素化後の組成物中に含まれる2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの量及びジ-tert-ブチル-p-クレゾールの損失が31?80%であることが記載されており、これは、水素化工程における溶液中に存在する2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールが、31?80%除去されたことであるから、訂正前の「水素化のために使用された前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去される」は、「水素化工程における溶液中に存在する前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去される」であるということができる。
そうすると、訂正事項6は、新規事項の追加とはいえず、また、実質上特許請求の範囲の拡張・変更するものでもない。

(5)訂正事項のまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6457538号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の次のとおりのものである(以下、請求項1?17に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明17」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】
水素化ニトリルゴムを含み、一般式(I)
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)は同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではない)の少なくとも1種の置換フェノールを、それぞれの場合において前記水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.25重量%の量で含む、組成物であって、ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が分離および脱水されることを特徴とする方法によって得られ、
次式
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0
(式中、
MV0は、前記水素化ニトリルゴムについてASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃であり、および
MV2は、同一の水素化ニトリルゴムについて、100℃で72時間保存した後にASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃である)
で定義される前記組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値を有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】 R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)が同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、t-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではないことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】 前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の2つまたは3つが水素であり、かつ前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の他の2つまたは3つが同一であるか、または異なっており、それぞれヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】 前記一般式(I)の前記少なくとも1種の置換フェノールが以下の化合物:
【化2】

からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】 水素化ニトリルゴムが、少なくともアクリロニトリルおよび1,3-ブタジエンから誘導される繰り返し単位を有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】 前記水素化ニトリルゴムの水素化度が、94.5%超?100%の範囲であることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】 前記水素化ニトリルゴムの水素化度が、99.1%以上であることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】 水素化ニトリルゴムと、一般式(I)
【化3】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)は同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではない)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物を製造するためのプロセスにおいて、ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が分離および脱水され、ここで、最終的に得られる組成物中の前記一般式(I)の置換フェノールの含量が、水素化ニトリルゴムを規準として、0.01重量%?0.45重量%未満の量に設定されるように調節されることを特徴とする、プロセス。
【請求項10】 水素化触媒として、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、トリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、ヒドリドロジウムテトラキス(トリフェニルホスフィン)、またはトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、またはヒドリドロジウムテトラキス(トリフェニルホスフィン)の誘導体であって、その中のトリフェニルホスフィンがトリシクロヘキシルホスフィンで置換された誘導体の少なくとも1種が使用されることを特徴とする、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】 乾式仕上げか、あるいは湿式仕上げかのいずれかにより、前記溶媒が除去されることを特徴とする、請求項9または10に記載のプロセス。
【請求項12】 前記仕上げがそれぞれ、前記水素化ニトリルゴムを含む組成物中に存在している前記一般式(I)の前記置換フェノールが、前記水素化のために使用された前記ニトリルゴムを含む組成物から、前記水素化工程における溶液中に存在する前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去されるように実施されることを特徴とする、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】 湿式仕上げが、5重量%?50重量%の水分含量を有する前記水素化ニトリルゴムを含む組成物のクラムを通過する100℃?180℃の温度を有する空気流によって連続的に運転される流動床ドライヤーを用いて乾燥させる工程を含むことを特徴とする、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】 請求項1?5、7、および8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の組成物と、少なくとも1種の架橋剤を含む少なくとも1種の架橋系とを含む、加硫可能な混合物。
【請求項15】 加硫物を製造するためのプロセスであって、請求項14に記載の加硫可能な混合物が加硫されることを特徴とする、プロセス。
【請求項16】 請求項14に記載の加硫可能な混合物を加硫した加硫物。
【請求項17】 水素化ニトリルゴムを含み、一般式(I)
【化4】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)は同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではない)の少なくとも1種の置換フェノールを、それぞれの場合において前記水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.45重量%未満の範囲の量で含む、請求項9?13のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる組成物であって、
次式
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0
(式中、
MV0は、前記水素化ニトリルゴムについてASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃であり、および
MV2は、同一の水素化ニトリルゴムについて、100℃で72時間保存した後にASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃である)
で定義される前記組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値を有することを特徴とする、組成物。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1
本件訂正前の請求項1?5、7及び17に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2
本件訂正前の請求項1?5、7及び14?17に係る発明は、甲6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3
本件の特許請求の範囲の請求項12及び17の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでなく、これらの発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

本件訂正前の請求項12の「水素化のために使用された前記一般式(I)の前記置換フェノールの量」との記載は、どのような量を意味するのか不明である。
本件訂正前の請求項12を引用する本件訂正前の請求項17も同様である。

2 特許異議申立理由
申立人が特許異議申立書で申立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1
本件訂正前の請求項1?7、9及び17に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件訂正前の請求項1?17に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3
本件訂正前の請求項1?17に係る発明は、甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4
本件訂正前の請求項1?8、12、14?17に係る発明は、下記の理由により明確ではないから、これらの発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?8及び14?16並びに17の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、プロダクトバイプロセスの形式で記載されており、不可能・非実際的事情が説明されていないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。

イ 本件訂正前の請求項12の「水素化のために使用された前記一般式(I)の前記置換フェノールの量」との記載は、どのような量を意味するのか不明である。
本件訂正前の請求項12を引用する本件訂正前の請求項17も同様である。(取消理由3と同旨)

第5 当審の判断
当審は、本件発明6に係る特許については、特許異議申立を却下することとし、また、当審が通知した取消理由1?3、及び申立人が申し立てた申立理由1?4によっては、いずれも、本件発明1?5及び7?17に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立ての却下
上記第2及び第3で示したとおり、請求項6は、本件訂正により削除されているので、請求項6についての申立てを却下する。

2 取消理由について
(1)取消理由1について
ア 甲号証の記載事項
(ア)甲1の記載事項について
甲1には以下の記載がある。
(1a)「アクリロニトリル・ブタジエンゴムは,アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体系合成ゴムで,ニトリルゴムとも呼ばれ,NBRと略される代表的な耐油ゴムである^(1?3)).このNBRの二重結合部分のみを選択的に水素化したゴムを,水素化ニトリルゴムと呼称し,その製造方法からHNBRと略される^(4)).」(236頁左欄2?8行)

(1b)「8.2 NBR,HNBRの製造法
8.2.1 NBRの製法
NBRはSBRと同様に乳化重合設備で製造される.
ブタジエン,アクリロニトリルのモノマーが重合缶に仕込まれ,脱イオン水,乳化剤と混合し,次いで重合触媒と調整剤を加えて乳化重合を行う.
・・・
得られたラテックスは加熱,減圧,水蒸気蒸留などの方法によって未反応モノマーの除去・回収を行った後,貯蔵安定性を高めるために老化防止剤が加えられる.
塩化カルシウム,硫酸アルミニウム,明ばん,食塩-硫酸,高分子凝集剤などを用いて凝固され,水洗・ろ過した後,乾燥され製品ができあがる(図8-1).
・・・
8.2.2 HNBRの製法
NBRの耐油性を維持し,耐熱老化性のみを向上させるためには,NBRの側鎖のシアノ基をそのままにし,炭素・炭素の二重結合部分のみを選択的に水素化することが有効である.NBRを適当な溶媒で溶解し,触媒を添加する.
水素化反応ののち触媒・溶媒を回収,凝固乾燥して,HNBRが得られる^(11)).」(236頁左欄25行?238頁左欄1行)

(1c)


」(237頁)

(1d)


」(240頁右欄、表8-5)

(1e)
「HNBRの製造メーカーを表8-4に,市販品名を表8-5に示す^(72,53,101?103)).」(241頁左欄8?9行)

(イ)甲2の記載事項について
甲2には以下の記載がある。
(2a)「試験報告書
・・・
3.件名 BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)の定量
4.試料 1.ZP2020 Lot 4T237612-05
2.ZP2020 Lot 4T239656-10
3.ZP2010H Lot 4T20X208-04
4.ZP2010H Lot 4T20Z248-03
5.ZP4310 Lot 4T237610
6.IR2200 Lot 4MA22037 計6点
・・・
6.試験結果

」(1頁1行?2頁)

(ウ)甲3の記載事項について
甲3には以下の記載がある。
(3a)「実験成績証明書
・・・
4.実験の目的
日本ゼオン株式会社が製造販売している水素化ニトリルゴムであるゼットポール2010Hの貯蔵安定性を評価すること。
5.実験内容
5-1 評価用試料
ゼットポール2010H(ロット番号 4T176092)を使用した。
5-2 乾燥させた未老化のHNBRのムーニー粘度の測定
JIS K 6300-1にしたがって、評価用試料の100℃でのムーニー粘度ML_((1+4))を測定し、その値をMV0とした。
5-3 熱老化試験後のHNBRのムーニー粘度の測定
評価用試料をロール上で混錬してシートを作製し、そのシートから約50gの長方形の断片を切り出した。次いで、その断片をアルミニウム皿(10cm×15cm)に載せ、空気循環型の乾燥器に入れて100℃で72時間放置した。その後、ゴム断片を取出し、JIS K 6300-1にしたがって、評価用試料の100℃でのムーニー粘度ML_((1+4))を測定し、その値をMV2とした。
5-3 実験結果
未老化HNBRのムーニー粘度(MV0)は136、加熱処理後のムーニー粘度(MV2)は139であり、下記式で示される貯蔵安定性SS2(72h/100℃)は3であった。
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0」(1頁1行?2頁3行)

イ 甲1に記載された発明
甲1の記載事項(1b)には、一般的なHNBR、すなわち、水素化ニトリルゴム(記載事項(1a)より)の製造方法について記載されており、これによれば、水素化ニトリルゴムは、ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されてニトリルゴムができあがり、ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収、凝固乾燥することにより得られるものである。
そして、記載事項(1c)には、HNBRの市販品として種々のものが挙げられているところ、これらの種々の水素化ニトリルゴムの市販品も、上記一般的な水素化ニトリルゴムの製造方法で製造され、一般的な配合で使用されるとみるのがごく自然である。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「製品名ゼットポール2010Hであって、ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されてニトリルゴムができあがり、ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収、凝固乾燥することにより得られる水素化ニトリルゴム。」(以下、「甲1-1発明」という。)
「製品名ゼットポール2020であって、ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されてニトリルゴムができあがり、ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収、凝固乾燥することにより得られる水素化ニトリルゴム。」(以下、「甲1-2発明」という。)

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲1-1発明の「老化防止剤」及び本件発明1の「一般式(I)」「の少なくとも1種の置換フェノール」は、いずれも添加剤であるということができ、両者は添加剤である限りで一致する。
甲1-1発明の、「ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されて」できあがった「ニトリルゴム」は、「ニトリルゴム」と「老化防止剤」を含むといえるから、本件発明1の「ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物」に、ニトリルゴムと添加剤を含む組成物である限りで一致する。
また、甲1-1発明の「ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収」することは、本件発明1の「ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され」ることに、ニトリルゴムと添加剤を含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去される限りで一致する。
そして、甲1-1発明の「凝固乾燥すること」により得られる「水素化ニトリルゴム」は、老化防止剤と水素化ニトリルゴムとを含むものといえるから、甲1-1発明の「凝固乾燥すること」により「水素化ニトリルゴム」を得ることは、本件発明1の「前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が分離および脱水される」ことに、水素化ニトリルゴムと添加剤を含む組成物が分離および脱水される限りで一致し、また、甲1-1発明の「水素化ニトリルゴム」は本件発明1の「組成物」に、水素化ニトリルゴムと添加剤を含む組成物である限りで一致する。
してみると本件発明1と甲1-1発明とは、
「水素化ニトリルゴムを含み、添加剤を含む組成物であって、ニトリルゴムと添加剤を含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと添加剤とを含む組成物が分離および脱水されるプロセスによって得られる、組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「添加剤」につき、本件発明1では、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールであり、これを水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.25重量%の量で含むのに対して、甲1-1発明では、老化防止剤であり、その含有量については明らかでない点

(相違点2)
組成物の「SS2(72h/100℃)=MV2-MV0」(「MV2」及び「MV0」の定義は省略する。)の式で表される貯蔵安定性SS2の値が、本件発明1では、5未満と特定されているのに対して、甲1-1発明では、明らかでない点

b 判断
(a)相違点1について
甲2には、ロット番号が4T20X208-04又は4T20Z248-03である「ZP2010H」中のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を定量したこと、定量された量が「0.11wt%」であったことが記載されている(記載事項(2a))。
上記記載におけるBHTは、本件発明1の一般式(I)において、R^(1)及びR^(3)がt-ブチル基、R^(5)がメチル基である化合物であるから(要すれば、「13398の化学商品」化学工業日報社発行、(1998年1月28日)、1109頁参照)、本件発明1の「一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノール」に相当する化合物である。
また、「0.11wt%」の量は、本件発明1の、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールの含有量である「0.01重量%?0.25重量%」の範囲に包含される。
ここで、甲1の「ゼットポール2010H」は、供給元が「ゼオン」であるところ(記載事項(1c))、日本ゼオン社製の部分水添NBRとして「ゼットポールZP2010」なるものが知られており(特開平1-275646号公報の4頁右下欄6?8行)、また、日本ゼオン社製の水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムとして「Zp2020」なるものが知られている(国際公開98/44039号の34頁23?24行)ことからみれば、「ゼオン」による水素化ニトリルゴムの「ゼットポール」は「ZP」とも称されると解され、そうであれば、甲2に記載された「ZP2010H」は、甲1に記載された市販の水素化ニトリルゴムの「ゼットポール2010H」を意味するものといえる。 また、BHTは老化防止剤であり(要すれば、前出「13398の化学商品」の同箇所参照)、甲2で定量されたBHTも老化防止剤であるといえる。
してみると、甲1-1発明の「ゼットポール2010H」も、老化防止剤として、BHT、すなわち一般式(I)の置換フェノールを、本件発明1で特定される範囲内で含むとみるのがごく自然である。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(b)相違点2について
甲3には、日本ゼオン株式会社が製造販売している水素化ニトリルゴムであるゼットポール2010H(ロット番号 4T176092)における、ムーニー粘度(MV0)が136であり、ムーニー粘度(MV2)が139であり、その差であるSS2の値が3であることが記載されている。

i まず、甲3におけるムーニー粘度の測定方法について検討する。
甲3には、ムーニー粘度の測定方法は、JIS K 6300-1にしたがってなされたと記載されており、この測定方法は、本件発明1における測定方法であるASTM D1646とは同一であるか否か明らかでない測定方法である。
そうすると、いくら甲3において、SS2の値が3であることが記載されていたとしても、本件発明1における測定方法であるASTM D1646であってもSS2の値が3であるとは直接的にはいえないし、また、5未満であるともいえない。さらに、JIS K 6300-1にしたがって測定されたSS2の値が3である場合に、ASTM D1646で測定された場合あってもSS2の値が5未満となる技術常識があるとはいえない。
よって、甲3をみても、相違点2は実質的な相違点である。

ii 念のため、甲3において使用された水素化ニトリルゴムであるゼットポール2010Hの試料について検討する。
甲3には、ムーニー粘度を測定したゼットポール2010Hのロット番号は、4T176092と記載されている。一方、上記(a)で述べたように、ゼットポール2010H中に含まれるBHTの含有量を測定した結果が記載されている甲2(試験報告書)には、ゼットポール2010Hのロット番号は、4T20X208-04又は4T20Z248-03と記載されており、甲3で試験したロット番号と異なるものである。そして、ゼットポール2010Hにおいて、ロット番号が異なる場合でも、同じムーニー粘度の値を示すという技術常識はない。
そうすると、甲2においてBHTが0.11wt%とされたゼットポール2010Hが、甲3において示されるように本件発明1と同じSS2の値を有するとはいえず、相違点1が一致するゼットポール2010Hが、相違点2も一致するとはいえない。

iii 申立人の主張
申立人は、上記iについて、令和2年3月17日に提出した意見書において、添付した参考資料1をみれば、ASTM D1646で測定しても、JIS K 6300-1で測定しても、ムーニー粘度ML1+4@100℃の値は、ほぼ同じ値を示す旨を主張する。
そこで、参考資料1を検討するが、参考資料1は、本件出願後の2016年に発行された文献であり、本件出願の優先日時点における技術常識を示す文献とはいえない。
念のため、その記載内容を参照することとする。
参考文献1には、「ゴム製品の性能評価は,製品や材料に応じて多岐にわたって行われ,その評価方法はJIS(・・・),ISO(・・・),ASTM(・・・)等の物理試験方法が引用されている.」(115頁左欄12?16行)、「2.各種規格における加工性評価
・・・
2.2 粘度(可塑度)
未加硫ゴムの評価において,もっとも汎用的に使用されているのが粘度(可塑度)であろう.実際に粘度(可塑度)は,製造工程に大きな影響を及ぼすことが知られており,加工性評価として種々の試験方法が規定されている.・・・
ゴム工業においては,JIS K 6300-1:2013・・・,ISO289-1:2015・・・及びASTM D 1646-07・・・に規定されるムーニー粘度が一般的で,標準条件(100℃,1分予熱,4分後)で測定した測定値(ML1+4 100℃)は世界共通でデータが認識可能である.」(116頁左欄1?33行)と記載されている。
このように、参考資料1をみれば、未加硫ゴムの粘度を測定する場合、JIS K 6300-1:20133、及びASTM D 1646-07に規定されるムーニー粘度が一般的であり、(ML1+4 100℃)は世界共通でデータが認識可能であることが理解できるが、ASTM D1646で測定しても、JIS K 6300-1で測定しても、ムーニー粘度ML1+4@100℃の値は、ほぼ同じ値を示すことは直接記載されていない。また、ほぼ同じ値となる技術常識が示されているわけでもない。
よって、申立人の主張は採用できない。

iv 小括
以上のとおりであるので、相違点2は、実質的な相違点である。

c まとめ
本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

(イ)本件発明2?5及び7について
本件発明2?5及び7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明2?5及び7は、甲1に記載された発明ではない。

(ウ)本件発明17について
a 甲1-1発明との対比・判断
(a)対比
上記(ア)aを参酌すると、本件発明17と甲1-1発明とは
「水素化ニトリルゴムを含み、添加剤を含む組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
「添加剤」につき、本件発明17では、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールであり、これを水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%から0.45重量%未満の量で含むのに対して、甲1-1発明では、老化防止剤であり、その含有量については明らかでない点

(相違点4)
「組成物」につき、本件発明17では、「請求項9?13のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる」のに対して、甲1-1発明では、ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されてニトリルゴムができあがり、ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収、凝固乾燥することにより得られる」点

(相違点5)
組成物の「SS2(72h/100℃)=MV2-MV0」(「MV2」及び「MV0」の定義は省略する。)の式で表される貯蔵安定性SS2の値が、本件発明1では、5未満と特定されているのに対して、甲1-1発明では、明らかでない点

(b)判断
事案に鑑み、まず、相違点5について検討する。
相違点5は、上記(ア)aで述べた相違点2と同じであり、上記(ア)b(b)で述べたとおり、実質的な相違点である。

(c)小括
そうすると、相違点3及び4について検討するまでもなく、本件発明17は甲1-1発明ではない。

b 甲1-2発明との対比・判断
甲1-2発明は、「製品名ゼットポール2010H」ではなく、「製品名ゼットポール2020」である点のみで、甲1-1発明と相違する。
そうすると、両者は、上記a(a)で述べた相違点3?5で相違し、上記a(b)で述べたとおり、相違点5は実質的な相違点である。
よって、本件発明17は甲1-2発明ではない。

c まとめ
よって、本件発明17は、甲1に記載された発明ではない。

エ まとめ
取消理由1によっては、本件発明1?5、7及び17に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2について
ア 甲6の記載事項について
甲6には以下の記載がある。
(6a)
「2.3 HNBRの品番の選択
HNBRの基本特性は,炭素・炭素不飽和結合量を示すヨウ素価(水素化率),アクリロニトリル含有量およびポリマー粘度によって決定される.表1に現在当社で商品化しているHNBRであるゼットポールの品番およびその主な用途をまとめて示す.要求される耐熱性・化学安定性のレベルにより適切なヨウ素価を選択し,耐油性・耐寒性のレベルから適切なアクリロニトリル含有量を選択することによって,これら多くの品番の中で最も適した品番を選択することができる.加工性の面からはポリマー粘度の低い品番が有利であるが,表2に示すように圧縮永久ひずみが若干悪化する傾向を示す.」(683頁右欄、2?15行)

(6b)





(684頁表1)

イ 甲6に記載された発明
甲6には、記載事項(6b)から、以下の発明が記載されていると認められる。
「Zetpol 2010H」(以下、「甲6-1発明」という。)
「Zetpol 2010Hと、Vulcup 40KEを含む配合物。」(以下、「甲6-2発明」という。
「甲6-2発明の配合物を170℃×20分プレス加硫する方法。」(以下、「甲6-3発明」という。
「甲6-2発明の配合物を170℃×20分プレス加硫した加硫物。」(以下、「甲6-4発明」という。

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1?5、7、17について
甲6-1発明の「Zetpol 2010H」は、商品化されているHNBRであって(記載事項(6a))、甲1-1発明の「製品名ゼットポール2010H」である水素化ニトリルゴムと同一の水素化ニトリルゴムであると解される。
そうすると、本件発明1?5、7、17と甲6-1発明とは、少なくとも(1)ウ(ア)aで述べた相違点1及び相違点2で相違する。
そして、上記(1)ウ(ア)b(b)で述べたように、ゼットポール2010Hである甲6-1発明において、相違点2は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1?5、7、17は、甲6に記載された発明ではない。

(イ)本件発明14について
本件発明14は、請求項1?5、7及び8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の組成物と、少なくとも1種の架橋剤を含む少なくとも1種の架橋系とを含む、加硫可能な混合物に係る発明である。
これに対して、甲6-2発明は、Zetpol 2010Hと、Vulcup 40KEを含む配合物の発明であり、上記(ア)で述べたとおり、両者は少なくとも(1)ウ(ア)aで述べた相違点1及び相違点2で相違し、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明14は、甲6に記載された発明ではない。

(ウ)本件発明15について
本件発明15は、加硫物を製造するためのプロセスであって、本件発明14に記載の加硫可能な混合物が加硫されるプロセスに係る発明である。
これに対して、甲6-3発明は、「Zetpol 2010Hと、Vulcup 40KEを含む配合物」である甲6-2発明の配合物を170℃×20分プレス加硫する方法の発明であり、上記(ア)で述べたとおり、両者は少なくとも(1)ウ(ア)aで述べた相違点1及び相違点2で相違し、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明15は、甲6に記載された発明ではない。

(エ)本件発明16について
本件発明16は、本件発明14に記載の加硫可能な混合物を加硫した加硫物に係る発明である。
これに対して、甲6-4発明は、「Zetpol 2010Hと、Vulcup 40KEを含む配合物」である甲6-2発明の配合物を170℃×20分プレス加硫した加硫物の発明であり、上記(ア)で述べたとおり、両者は少なくとも(1)ウ(ア)aで述べた相違点1及び相違点2で相違し、相違点2は実質的な相違点である。そうすると、本件発明16の加硫物は、甲6-4発明であるとはいえない。
よって、本件発明16は、甲6に記載された発明ではない。

エ まとめ
取消理由2によっては、本件発明1?5、7及び14?17に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由3について
ア 判断
取消理由3は、上記「第4 1(3)」で述べたとおり、本件訂正前の請求項12の「水素化のために使用された前記一般式(I)の前記置換フェノールの量」との記載は、どのような量を意味するのか不明である、というものである。

本件訂正前の請求項12の上記の記載は、本件訂正により「水素化工程における溶液中に存在する前記一般式(I)の前記置換フェノールの量」と訂正され、その意味は明確となった。

イ まとめ
以上のとおりであるから、取消理由3は解消したことは明らかである。

3 取消理由通知において採用しなかった申立人がした申立理由について
(1)申立理由1について
申立理由1は、甲1を証拠として新規性を理由とするものであり、これは、上記2(1)で述べた取消理由1と同じであるが、上記2(1)では、本件発明9を対象としていないので、ここでは、本件発明9に対して判断する。

ア 甲1に記載された事項及び記載された発明
甲1には、上記2(1)ア(ア)で示した事項が記載されており、上記2(1)イによれば以下の発明が記載されていると認める。
「製品名ゼットポール2010Hであって、ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されてニトリルゴムができあがり、ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収、凝固乾燥することにより得られる水素化ニトリルゴムを製造する方法。」(以下、「甲1-3発明」という。)
「製品名ゼットポール2020であって、ブタジエン、アクリロニトリルのモノマーが、脱イオン水、乳化剤、重合触媒、調整剤の存在下で乳化重合され、得られたラテックスに、老化防止剤が加えられ、凝固、水洗、ろ過後、乾燥されてニトリルゴムができあがり、ニトリルゴムを適当な溶媒で溶解し、触媒を添加して水素化反応し、水素化反応ののち触媒・溶媒を回収、凝固乾燥することにより得られる水素化ニトリルゴムを製造する方法。」(以下、「甲1-4発明」という。)

イ 本件発明9との対比・判断
(ア)甲1-3発明との対比・判断
a 対比
上記2(1)ウ(ア)aで述べられたこと、及び甲1-3発明の「水素化ニトリルゴムを製造する方法」は、水素化ニトリルゴムに老化防止剤が加えられているから、本件発明9の「水素化ニトリルゴムと添加剤を含む組成物を製造するためのプロセス」に相当することによれば、本件発明9と甲1-3発明とは、
「水素化ニトリルゴムと、添加剤とを含む組成物を製造するためのプロセスにおいて、ニトリルゴムと添加剤を含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと添加剤とを含む組成物が分離および脱水される、プロセス。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点6)
「添加剤」につき、本件発明9では、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールであり、これを水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.45重量%の量で含むのに対して、甲1-3発明では、老化防止剤であり、その含有量については明らかでない点

(相違点7)
水素化ニトリルゴムと添加剤を含む組成物を製造するためのプロセスが、本件発明9では、最終的に得られる組成物中の前記一般式(I)の置換フェノールの含量が、水素化ニトリルゴムを規準として、0.01重量%?0.45重量%未満の量に設定されるように調節されることを特徴とする、プロセスであるのに対し、甲1-3発明では、このような特定がされていない点

b 判断
事案に鑑み、相違点7から検討する。
甲1には、HNBRの製造方法として、ニトリルゴムと老化防止剤を配合した組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして、水素化ニトリルゴムと添加剤とを含む組成物が分離および脱水されるプロセスが記載され、供給元が日本ゼオンであるゼットポール2010Hが市販されていることが記載され、上記2(1)ウ(ア)b(a)で述べた甲2の記載をみれば、ゼットポール2010Hは、本件発明9の一般式(I)を満たすBHTの含有量が0.11重量%であり、結果として相違点7で特定される0.01?0.45重量%未満の量を満たすということはできるが、甲1には、最終的に得られる組成物中のBHTの含量が0.11重量%となるように調節される方法は記載されていない。また、最終的に得られる組成物中のBHTの含量が0.11重量%となるように調節される方法が技術常識であるともいえない。
そうすると、相違点7は実質的な相違点である。
よって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1-3発明ではない。

(イ)甲1-4発明との対比・判断
甲1-4発明は、「製品名ゼットポール2010H」ではなく、「製品名ゼットポール2020」である点のみで、甲1-3発明と相違する。
そうすると、両者は、上記(ア)aで述べた相違点6及び7で相違し、上記(ア)bで述べたとおり、相違点7は実質的な相違点である。
よって、本件発明9は、甲1-4発明ではない。

(ウ)小括
よって、本件発明9は、甲1に記載された発明ではない。

ウ まとめ
申立理由1によっては本件発明9を取り消すことはできない。

(2)申立理由2について
申立理由2は、本件発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。以下に検討する。

ア 本件発明1について
(ア)対比
上記2(1)ウ(ア)aで述べたとおり、本件発明1と甲1-1発明とは、相違点2で相違する。
以下に相違点2を再掲する。

(相違点2)
組成物の「SS2(72h/100℃)=MV2-MV0」(「MV2」及び「MV0」の定義は省略する。)の式で表される貯蔵安定性SS2の値が、本件発明1では、5未満と特定されているのに対して、甲1-1発明では、明らかでない点

(イ)判断
上記2(1)ア(ア)によれば、甲1には、水素化ニトリルゴムであるHNBRの製法として、ニトリルゴムであるNBRの耐油性を維持し、耐熱老化性のみを向上させるため、炭素・炭素の二重結合部分のみを選択的に水素化することが有効である旨の記載がされており、HNBRの市販品名の記載はある。しかしながら、甲1-1発明である水素化ニトリルゴムを含む組成物が貯蔵安定性に優れることの記載はない。
そうすると、他の文献を参照するまでもなく、甲1-1発明において、相違点2である組成物の貯蔵安定性SS2の値が5未満であるとする動機付けはない。

念のため、他の文献の記載をみてみる。
甲6は「水素化ニトリルゴムの基本特性と応用」と題する文献であって、「HNBRは,NBRポリマーの主鎖中の二重結合を水素化することにより得られ,NBRと比べて耐熱性や耐候性・化学安定性が大きく改良されている.」(681頁左欄6?9行)、「図2にHNBRポリマーのヨウ素価と熱老化性との関係を示す.このようにヨウ素価が小さくなる(水素化率が高くなる)にしたがい,ポリマーの耐熱老化性が改良されていくことがわかる.」(682頁左欄5?8行)と記載されており、図2は、ヨウ素価と150℃で72時間後の伸び変化率と関係を示したグラフであるといえる。
甲12には、「水素化(%)が100に達する時、水素化アクリロニトリル-ブタジエンコポリマーの老化特性はかなり向上することは良く知られている。」(段落【0045】)と記載されている。
しかしながら、甲6及び甲12には、HNBRが貯蔵安定性に優れること、本件発明1で定義されるSS2の値が5未満であることの記載はない。

また、甲8には、その特許請求の範囲の請求項1に、(i)前記ニトリルゴムを基準にして少なくとも150ppmのカルシウム含量と、ニトリルゴムを基準にして少なくとも40ppmの塩素含量とを有し、(ii)2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-4-チオおよび/または2,4,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-2-チオおよび/または2,3,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-2-チオおよび/または2,3,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-3-チオの末端基を含むニトリルゴムであること、請求項3には、100℃で48時間貯蔵した後のムーニー粘度の差が5未満であること、実施例では、100℃で48時間貯蔵した後のムーニー粘度の差が5未満であるニトリルゴムの具体例が記載されている(段落【0186】以降参照)。
甲10には、その特許請求の範囲の請求項1に、ニトリルゴムに対して4?25ppmの範囲の塩素含有量を有する、ニトリルゴムが記載され、実施例では、100℃で48時間貯蔵した後のムーニー粘度の差が5未満であるニトリルゴムの具体例が記載されている(段落【0235】参照)。
甲11には、その特許請求の範囲の請求項1に、特定の範囲のイオン指数を有するニトリルゴムが記載され、実施例では、100℃で48時間貯蔵した後のムーニー粘度の差が5未満であるニトリルゴムの具体例が記載されている(段落【0241】参照)。
しかしながら、甲8、甲10及び甲11には、ニトリルゴムにおいて100℃で48時間貯蔵した後のムーニー粘度の差が5未満であることが記載されているだけであり、HNBRが貯蔵安定性に優れること、本件発明1で定義されるSS2の値が5未満であることの記載はない。

そうすると、いくら上記した文献の記載をみても、甲1-1発明において、相違点2に関する構成を導くことはできない。

よって、本件発明1は、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2?5、7、8、14?16について
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5、7、8、14?16も同じ理由により容易ではない。

ウ 本件発明9について
上記(1)イ(ア)a及び(イ)で述べたとおり、本件発明9と甲1に記載された発明とは、相違点6及び7で相違する。
事案に鑑み、まず相違点7について検討する。相違点7を再掲する。

(相違点7)
水素化ニトリルゴムと添加剤を含む組成物を製造するためのプロセスが、本件発明9では、最終的に得られる組成物中の前記一般式(I)の置換フェノールの含量が、水素化ニトリルゴムを規準として、0.01重量%?0.45重量%未満の量に設定されるように調節されることを特徴とする、プロセスであるのに対し、甲1-3発明では、このような特定がされていない点

上記(1)イ(ア)bによれば、甲1には、HNBRの製造方法として、ニトリルゴムと老化防止剤を配合した組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして、水素化ニトリルゴムと添加剤とを含む組成物が分離および脱水されるプロセスが記載され、供給元が日本ゼオンであるゼットポール2010Hが市販されていることが記載され、上記2(1)ウ(ア)b(a)で述べた甲2の記載をみれば、ゼットポール2010Hは、本件発明9の一般式(I)を満たすBHTの含有量が0.11重量%であり、結果として相違点7で特定される0.01?0.45重量%未満の量を満たすということはできるが、甲1には、最終的に得られる組成物中のBHTの含量が0.11重量%となるように調節される方法は記載されていない。
そうすると、他の文献を参照するまでもなく、甲1-3発明又は甲1-4発明において、相違点7を構成する動機付けはない。
また、他の文献をみても、甲1-3発明又は甲1-4発明において、相違点7に関する構成を導くことはできない。

よって、本件発明9は、甲1-3発明又は甲1-4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ 本件発明10?13について
本件発明9を直接的又は間接的に引用する本件発明10?13も同じ理由により容易ではない。

オ 本件発明17について
上記2(1)ウ(ウ)a(a)及びbで述べたとおり、本件発明17と甲1に記載された発明とは、相違点3?5で相違する。
事案に鑑み、まず相違点5について検討するが、相違点5は、相違点2と同じであり、上記ア(イ)で述べたように、甲1-1発明又は甲1-2発明において、相違点2に関する構成を導くことはできない。

よって、本件発明17は、甲1-1発明又は甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

カ まとめ
申立理由2によっては本件発明1?5、7?17を取り消すことはできない。

(3)申立理由3について
ア 甲7の記載事項及び甲7に記載された発明について
甲7の特許請求の範囲、発明の詳細な説明の特に【0074】?【0076】に記載された実施例1及び【0080】に記載された実施例2からみて、甲7には、以下の発明が記載されていると認める。
「金属製容器に、イオン交換水180部、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液5部、アクリロニトリル37部、メタクリル酸4部、t-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン59部を仕込み、そして、金属製容器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製容器内を攪拌させながら16時間重合反応し、そして、16時間の重合反応後、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去することにより、アクリロニトリル単位36.2%、ブタジエン単位60.2%、メタクリル酸単位3.6%の重合体ラテックス(固形分濃度30%)を得て、次いで、上記にて得られたラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造したラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、そして、水素添加反応後の重合体ラテックスに、重合体ラテックス中の重合体100部に対して、0.3部のオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(イルガノックス1076、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、老化防止剤)を加え、次いで、重合体ラテックスの2倍容量のメタノールを加えることにより凝固させた後、ろ過し、固形分を60℃で12時間真空乾燥することにより得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム」(以下「甲7発明A」という。)、及び、「甲7発明Aを製造するための方法」(以下「甲7発明B」という。)
また、「甲7発明Aにおいてオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートの使用量を0.1部としたカルボキシル基含有ニトリルゴム」(以下「甲7発明C」という。)、及び、「甲7発明Cを製造するための方法」(以下「甲7発明D」という。)

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 甲7発明A及びCとの対比
甲7発明A及びCの「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(老化防止剤)」及び本件発明1の「一般式(I)」「の少なくとも1種の置換フェノール」は、いずれも添加剤であるということができ、両者は添加剤である限りで一致する。
甲7発明A及びCの「アクリロニトリル」「メタクリル酸」「1,3-ブタジエン」を「重合反応し」得られた「重合体ラテックス」に「水素添加反応を行」った「水素添加反応後の重合体ラテックス」は、本件発明1の「水素化ニトリルゴム」に相当し、これに「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを加え」「凝固させた後、ろ過し」「真空乾燥することにより得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム」は、水素化ニトリルゴムと添加剤を含むから、本件発明1の「水素化ニトリルゴムを含み、添加剤を含む組成物」である限りで一致する。
甲7発明A及びCの「水素添加反応後の重合体ラテックス」に、「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを加え」「凝固させた後、ろ過し」「真空乾燥することにより得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム」を得ることは、本件発明1の組成物が「分離」されることにより得られる限りにおいて一致し、また、甲7発明A及びCの「真空乾燥」は、真空乾燥により、水が除去されるから、本件発明1の「脱水」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲7発明A及びCとは、
「水素化ニトリルゴムを含み、添加剤を含む、組成物であって、組成物が、分離および脱水されることを特徴とする方法によって得られる組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点8)
添加剤が、本件発明1では、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールであるのに対して、甲7発明A及びCでは、「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート」である点

(相違点9)
水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、本件発明1では、0.01重量%?0.25重量%であるのに対して、甲7発明A又はCでは、水素添加後の重合体ラテックス中の重合体100部に対して、0.3部又は0.1部である点

(相違点10)
本件発明1では、ニトリルゴムと添加剤を含む組成物が溶液中で水素化にかけられているが、甲7発明A及びCでは、ニトリルゴムが溶液中で水素化された後、添加剤が配合されている点

(相違点11)
組成物の「SS2(72h/100℃)=MV2-MV0」(「MV2」及び「MV0」の定義は省略する。)の式で表される貯蔵安定性SS2の値が、本件発明1では、5未満と特定されているのに対して、甲7発明A及びCでは、明らかでない点

b 判断
事案に鑑み相違点8、9及び11を検討する。
(a)相違点8について
甲7の特許請求の範囲の請求項1には、「ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムであって、過酸化物架橋剤である1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンの添加量を変化させて架橋させた場合における、前記1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンの添加量に対する、架橋時のトルク値の変化量から求められる架橋指数が、0.2以下であることを特徴とするカルボキシル基含有ニトリルゴム。」と記載され、同請求項4には、「請求項1に記載のカルボキシル基含有ニトリルゴムを製造する方法であって、前記カルボキシル基含有ニトリルゴムを形成することとなる単量体混合物を乳化重合により重合する工程と、重合系に、安定なフリーラジカルを含む化合物を添加して、重合反応を停止させて、重合体ラテックスを得る工程と、得られた重合体ラテックスに、分子内の硫黄原子含有量が0.5重量%以下の老化防止剤を添加する工程と、を有することを特徴とするカルボキシル基含有ニトリルゴムの製造方法。」と記載され、老化防止剤を添加することが記載されている。また、発明の詳細な説明の段落【0047】?【0049】には、老化防止剤の具体例が記載され、本件発明1の一般式(1)で表される化合物の具体例であるといえるジブチルヒドロキシトルエンが例示の一つとして記載されている。
しかしながら、ここには、甲7発明A及びCで用いられるオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが本発明の作用効果がより顕著になるという点により好ましいと記載されていることからすれば、いくら甲7に、老化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエンが例示の一つの化合物としてされていたとしても、甲7発明A及びCにおいて、好ましいとして使用されたオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートに代えてジブチルヒドロキシトルエンを使用する動機付けがあるとはいえない。

(b)相違点9について
甲7の段落【0050】には、老化防止剤の使用量について、「重合体ラテックスに含まれる重合体100重量部に対して、好ましくは0.01?5重量部であり、より好ましくは0.05?1重量部、さらに好ましくは0.1?0.5重量部である。」と記載されており、この記載からすれば、甲7発明A又はCにおける水素添加後の重合体ラテックス中の重合体100部に対して、0.3部又は0.1部とは、水素化ニトリルゴム100重量部に対して添加剤を0.3重量部又は0.1重量部添加すると解することができる。
甲7発明A及びCでは、水素化ニトリルゴムラテックスに添加剤を添加した後、凝集させ、60℃で12時間真空乾燥させているが、乾燥後の混合物に含まれている添加剤の混合量は不明である。甲7には、上記乾燥により添加剤がどの程度揮散するのか記載はない。そして、甲7発明A又はCにおいて特定される条件で乾燥した場合に、添加剤の混合量が本件発明1で特定される0.01?0.25重量%となる技術常識もない。
そうすると、甲7発明A又はCにおいて、水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、本件発明1で特定される0.01重量%?0.25重量%とする動機付けがあるとはいえない。

(c)相違点11について
甲7の段落【0006】には、過酸化物架橋剤を用いて架橋した場合においても、機械的強度、および耐圧縮永久歪み性に優れた架橋物を与えることのできるカルボキシル基含有ニトリルゴムおよび該ニトリルゴムの製造方法を提供することを目的とすることの記載がされている。しかしながら、甲7発明A及びCである水素化ニトリルゴムを含む組成物が貯蔵安定性に優れることの記載はない。
そうすると、他の文献を参照するまでもなく、甲7発明A及びCにおいて、相違点11である組成物の貯蔵安定性SS2の値が5未満であるとする動機付けはない。

c 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点10について検討するまでもなく、甲7発明A及びCに基いて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)本件発明2?5、7、8、14?16について
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5、7、8、14?16も同じ理由により容易ではない。

(ウ)本件発明9
a 甲7発明B及びDとの対比
上記(ア)で述べたことからすれば、本件発明9と甲7発明B及びDとは、
「水素化ニトリルゴムと、添加剤とを含む組成物を製造するためのプロセスにおいて、組成物が、分離および脱水されることを特徴とするプロセス」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点12)
添加剤が、本件発明9では、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールであるのに対して、甲7発明B及びDでは、「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート」である点

(相違点13)
水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、本件発明9では、0.01重量%?0.45重量未満の量に設定されるように調節されるのに対して、甲7発明B又はDでは、水素添加後の重合体ラテックス中の重合体100部に対して、0.3部又は0.1部である点

(相違点14)
本件発明9では、ニトリルゴムと添加剤を含む組成物が溶液中で水素化にかけられているが、甲7発明B及びDでは、ニトリルゴムが溶液中で水素化された後、添加剤が配合されている点

b 判断
事案に鑑み、相違点12及び13を検討する。
(a)相違点12について
相違点12は、上記(ア)aで述べた相違点8と同じであり、上記(ア)b(a)で述べた理由と同じ理由により動機付けがあるとはいえない。

(b)相違点13について
上記(ア)b(b)で述べたように、甲7発明B及びDでは、水素化ニトリルゴムラテックスに添加剤を添加した後、凝集させ、60℃で12時間真空乾燥させているが、乾燥後の混合物に含まれている添加剤の混合量は不明であり、また、水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、0.01重量%?0.45重量未満の量に設定されるように調節されることについて記載はない。また、水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、0.01重量%?0.45重量未満の量に設定されるように調節されることが技術常識であるともいえない。
そうすると、甲7発明B又はDにおいて、水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、本件発明1で特定される0.01重量%?0.45重量未満の量に設定されるように調節されるとする動機付けがあるとはいえない。

c 小括
以上のとおりであるから、本件発明9は、相違点14について検討するまでもなく、甲7発明B及びDに基いて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(エ)本件発明10?13について
本件発明9を直接的又は間接的に引用する本件発明10?13も同じ理由により容易ではない。

(オ)本件発明17について
a 甲7発明A及びCとの対比
上記(ア)aで述べたことからすれば、本件発明17と甲7発明A及びCとは
「水素化ニトリルゴムを含み、添加剤を含む組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点15)
添加剤が、本件発明17では、一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールであるのに対して、甲7発明A及びCでは、「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート」である点

(相違点16)
水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、本件発明17では、0.01重量%?0.45重量未満の範囲の量であるのに対して、甲7発明A又はCでは、水素添加後の重合体ラテックス中の重合体100部に対して、0.3部又は0.1部である点

(相違点17)
「組成物」につき、本件発明17では、「請求項9?13のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる」のに対して、甲7発明A及びCでは、「アクリロニトリル」「メタクリル酸」「1,3-ブタジエン」を「重合反応し」得られた「重合体ラテックス」に「水素添加反応を行」った「水素添加反応後の重合体ラテックス」に「オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを加え」「凝固させた後、ろ過し」「真空乾燥することにより得られ」る点

(相違点18)
組成物の「SS2(72h/100℃)=MV2-MV0」(「MV2」及び「MV0」の定義は省略する。)の式で表される貯蔵安定性SS2の値が、本件発明17では、5未満と特定されているのに対して、甲7発明A及びCでは、明らかでない点

b 判断
事案に鑑み相違点15、16及び18を検討する。
(a)相違点15について
相違点15は、上記(ア)aで述べた相違点8と同じであり、上記(ア)b(a)で述べた理由と同じ理由により動機付けがあるとはいえない。

(b)相違点16について
上記(ア)b(b)で述べたとおり、甲7発明A及びCでは、水素化ニトリルゴムラテックスに添加剤を添加した後、凝集させ、60℃で12時間真空乾燥させているが、乾燥後の混合物に含まれている添加剤の混合量は不明である。甲7には、上記乾燥により添加剤がどの程度揮散するのか記載はない。そして、甲7発明A又はCにおいて特定される条件で乾燥した場合に、添加剤の混合量が本件発明1で特定される0.01?0.45重量%となる技術常識もない。
そうすると、甲7発明A又はCにおいて、水素化ニトリルゴムを規準とした添加剤の混合量が、本件発明1で特定される0.01重量%?0.45重量%とする動機付けがあるとはいえない。

(c)相違点18について
相違点18は、上記(ア)aで述べた相違点11と同じであり、上記(ア)b(c)で述べた理由と同じ理由により動機付けがあるとはいえない。

c 小括
以上のとおりであるから、本件発明17は、相違点17について検討するまでもなく、甲7発明A及びCに基いて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるので、申立理由3によっては本件発明1?5、7?17を取り消すことはできない。

(4)申立理由4のアについて
ア 請求項1の記載
請求項1には、「水素化ニトリルゴムを含み、一般式(I)(化学構造式は省略する。)の少なくとも1種の置換フェノールを、それぞれの場合において前記水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.25重量%の量で含む、組成物」と記載がされているから、本件発明1は物の発明であるといえる。
また、請求項1には、「ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が分離および脱水されることを特徴とする方法によって得られ、」という記載がなされているから、請求項1には、その物の製造方法が記載されているといえる。

イ 物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合の考え方について
物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
以下、この考え方に従って検討する。

ウ 本件特許明細書等の記載
本件特許明細書等には、本件発明の背景技術は、「特には高温における長期の保存の後でも、高い弾性率レベルおよび低い圧縮永久歪みを有するHNBRの加硫物が、大きな役割を果たしている。」(段落【0006】)及び「HNBRベースの加硫物の、特に弾性率レベルおよび圧縮永久歪みに関連した機械的性質において、現在のところ得られるレベルは依然として不十分である。」(段落【0007】)であることが記載され、本件発明の課題は、「本発明が対象としている問題は、特に高温で保存した後に、極めて良好な弾性率および低い圧縮永久歪み値を有する加硫物を与える水素化ニトリルゴムを提供するという問題であった。それと同時に、その水素化ニトリルゴムは、高温で長期間保存した後でさえも、優れた貯蔵安定性を有しているべきである。したがって、課題となった問題はさらに、ニトリルゴムを適切に水素化し、その後でその溶液から単離することによる、そのような水素化ニトリルゴムを製造するためのプロセスを提供することであった。」(段落【0041】)であることが記載されている。
そして、段落【0418】以降の実施例においては、本件発明で特定される水素化ニトリルゴムに、置換フェノールを0.01?0.25重量%含む組成物であって、本件発明で特定される製造方法により得られる組成物が、良好な弾性率、低い圧縮永久歪みを有する加硫物を与えることが具体的なデータとともに記載されている。

エ 審判請求書の記載
本件特許に係る特許出願における平成30年4月18日に提出された審判請求書には、この審判請求書と同時に提出した手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、組成物の発明が記載されているところ、以下の記載がされている。

「ここで、補正後の請求項1?8は、「組成物」(物)の発明に係る請求項に、「ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が単離および脱水されることを特徴とするプロセスによって得られる」という、その物の製造方法が記載されている場合に該当することとなります。しかしながら、この記載に関しては、平成29年12月5日付の意見書において旧請求項18について申し上げたいわゆる不可能・非実際的事情と同様の事情が存在いたします。以下にその詳細を申し述べます。
補正後の請求項1?8に係る「組成物」は、上述のプロセスによって製造されます。このプロセスによって製造された組成物は、以下に詳述いたしますとおり、改善された弾性率及び圧縮永久歪みという優れた性質を有します。
このような、本願発明において奏される優れた性質は、その組成物中に含まれる様々な化合物の作用によるものですが、この作用を、物の構造又は特性により直接特定することは、不可能であるといえます。
以下に述べますとおり、上記プロセスは、引用文献2及び3に記載された方法とは異なっており、また、得られた組成物の物性も異なりますので、組成物の構造も異なっていることは明らかであると思料します。しかしながら、たとえ構造が異なることが明確であったとしても、一般に高分子化合物を含む組成物の構造を完全に特定することは不可能です。加えて、本願の組成物は、補正後の請求項1に記載いたしましたとおり、ニトリルゴムと一般式(I)の置換フェノールを特定の量で混合し、水素化、溶媒除去、脱水等の複数の工程等を含む極めて複雑なプロセスにより製造されるものです。したがって、当業者であれば、本発明のプロセスにより製造した組成物の構造を特定することは不可能であることは当然に理解できると思料します。」

また、この審判請求書には、引用文献等に記載された発明との対比において、以下の記載がされている。
「理論に拘束されるものではありませんが、水素化の前に存在する不飽和のニトリルゴムは、水素化後に得られる飽和ニトリルゴムよりも副反応に対する感受性が高いことが考えられます。本願発明者らは、一般式(I)の置換フェノールが存在することによって、不飽和ニトリルゴムの副反応が抑制され、そのことが、対応する飽和ニトリルゴムの加硫物の性質の改善に寄与することを見出しました。」

オ 審査段階で引用された引用文献の記載
本件特許に係る特許出願における平成30年4月18日に提出された審判請求書に記載された審査段階で引用された引用文献2及び3には、以下の記載がされている。

(ア)引用文献2(特開平10-152525号公報)
引用文献2には、引張強さ及び耐摩耗性に優れ、繊維との接着強度が高く、ロール加工性に優れるカルボキシル化ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムの製造方法を提供することを課題とし(段落【0006】)、特許請求の範囲の請求項2に記載された
「 加熱密閉式混練機において、ゴム温度60?170℃の範囲でニトリル基含有高飽和共重合体ゴムに、エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を添加し、次いでゴム温度200?280℃の範囲でニトリル基含有高飽和共重合体ゴムとエチレン性不飽和ジカルボン酸又はその無水物とを付加反応させることを特徴とするカルボキシル化ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムの製造方法。」の発明が記載されている。
また、段落【0068】には、加熱密閉式混練機中で混練するに際して老化防止剤を添加することにより、ゴムのゲル化、ムーニー粘度の上昇を防止することができることが記載されており、同【0071】には、フェノール系老化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールが例示され、同【0072】には、老化防止剤の量は、ニトリル基含有高飽和重合体ゴム100重量部に対して、好ましくは0.1?2重量部であることが記載されている。
そして、実施例においては、ニトリル基含有高飽和重合体ゴム100重量部を、加熱密閉式混練機である加圧ニーダーを用いて素練りし、ゴム温度が130℃まで上昇したのち、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール0.5部配合することが記載されている(段落【0091】参照)。

(イ)引用文献3(特開平10-279734号公報)
引用文献3には、ゴム材料の強度特性、耐摩耗性等をさらに向上させることを課題とし(段落【0006】)、特許請求の範囲の請求項1に記載された「酸当量が2×10^(-3)ephr以上、ムーニー粘度が15?200、ヨウ素価が80以下のカルボキシル化ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩及び有機過酸化物を配合してなる加硫性ゴム組成物。」の発明が記載されている。
そして、実施例においては、水素化ニトリルゴム100重量部に老化防止剤としのBHT0.5重量部配合することが記載されている。(段落【0117】参照)。

カ 判断
本件発明1は、良好な弾性率、低い圧縮永久歪を有する加硫物を与える組成物を提供することを課題とし、本件発明1で特定される水素化ニトリルゴムに、置換フェノールを0.01?0.25重量%含む組成物であって、本件発明1で特定される製造方法により得られる組成物である。
また、本件発明1で特定される製造方法により得られる組成物が、従来技術であるといえる審査段階で引用された引用文献2及び3には記載されていない、良好な弾性率、低い圧縮永久歪を有する加硫物を与えるという効果を示すことがデータととも確認することができる。

そして、これらの点や、審判請求書における、水素化前のニトリルゴムに一般式(I)の置換フェノールが存在することが重要であること、このような優れた性質を有する組成物は、組成物の構造又は特性により直接特定することは不可能であることという主張からすると、本件発明1は、単なる「組成物」と解することはできないといえるところ、水素化ニトリルゴムと一般式(I)の置換フェノールの混合状態や両者の存在状態により記載することはできないといえる。

そうすると、本件発明1の組成物をその構造又は特性により直接特定することには、不可能・非実際的事情があるということができる。
また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5、7、8、14及び16並びに本件発明17も、同じ理由により、不可能・非実際的事情があるといえる。
なお、本件発明15は、「加硫物を製造するためのプロセス」の発明であり、物の発明ではないから、本件発明15に対する申立理由4には理由がない。

キ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1の混合物は、水素化ニトリルゴムと一般式(I)の置換フェノールの2種が含まれているだけであり、作用は起こらないこと、ニトリルゴムと一般式(I)の置換フェノールは化学的に反応を生じないことを理由に、不可能・非実際的事情はない旨の主張をする。

しかしながら、この主張は、あくまで水素化ニトリルゴムと一般式(I)の置換フェノールとが単純に混合された組成物であることを前提とした主張にすぎず、上記カで述べた判断を覆すことはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

ク まとめ
以上のとおりであるので、申立理由4のアによっては本件発明1?5、7、8、14?17を取り消すことはできない。

第6 むすび
したがって、請求項6に係る特許については、特許異議申立を却下することとする。
また、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5、7?17に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1?5、7?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴムを含み、一般式(I)
【化1】

(式中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)は同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではない)
の少なくとも1種の置換フェノールを、それぞれの場合において前記水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.25重量%の量で含む、組成物であって、
ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が分離および脱水されることを特徴とするプロセスによって得られ、
次式
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0
(式中、
MV0は、前記水素化ニトリルゴムについてASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃であり、および
MV2は、同一の水素化ニトリルゴムについて、100℃で72時間保存した後にASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃である)
で定義される前記組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値を有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)が同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、t-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではないことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の2つまたは3つが水素であり、かつ前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の他の2つまたは3つが同一であるか、または異なっており、それぞれヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)の前記少なくとも1種の置換フェノールが以下の化合物:
【化2】

からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
水素化ニトリルゴムが、少なくともアクリロニトリルおよび1,3-ブタジエンから誘導される繰り返し単位を有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記水素化ニトリルゴムの水素化度が、94.5%超?100%の範囲であることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記水素化ニトリルゴムの水素化度が、99.1%以上であることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
水素化ニトリルゴムと、一般式(I)
【化3】

(式中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)は同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではない)
の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物を製造するためのプロセスにおいて、ニトリルゴムと前記一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が、溶液中で水素化にかけられ、次いで溶媒が除去され、そして前記水素化ニトリルゴムと一般式(I)の少なくとも1種の置換フェノールとを含む組成物が分離および脱水され、ここで、最終的に得られる組成物中の前記一般式(I)の置換フェノールの含量が、水素化ニトリルゴムを規準として、0.01重量%?0.45重量%未満の量に設定されるように調節されることを特徴とする、プロセス。
【請求項10】
水素化触媒として、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、トリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、ヒドリドロジウムテトラキス(トリフェニルホスフィン)、またはトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、またはヒドリドロジウムテトラキス(トリフェニルホスフィン)の誘導体であって、その中のトリフェニルホスフィンがトリシクロヘキシルホスフィンで置換された誘導体の少なくとも1種が使用されることを特徴とする、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
乾式仕上げか、あるいは湿式仕上げかのいずれかにより、前記溶媒が除去されることを特徴とする、請求項9または10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記仕上げがそれぞれ、前記水素化ニトリルゴムを含む組成物中に存在している前記一般式(I)の前記置換フェノールが、前記水素化のために使用された前記ニトリルゴムを含む組成物から、前記水素化工程における溶液中に存在する前記一般式(I)の前記置換フェノールの量を規準にして、20重量%?98重量%の程度まで除去されるように実施されることを特徴とする、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
湿式仕上げが、5重量%?50重量%の水分含量を有する前記水素化ニトリルゴムを含む組成物のクラムを通過する100℃?180℃の温度を有する空気流によって連続的に運転される流動床ドライヤーを用いて乾燥させる工程を含むことを特徴とする、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1?5、7、および8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の組成物と、少なくとも1種の架橋剤を含む少なくとも1種の架橋系とを含む、加硫可能な混合物。
【請求項15】
加硫物を製造するためのプロセスであって、請求項14に記載の加硫可能な混合物が加硫されることを特徴とする、プロセス。
【請求項16】
請求項14に記載の加硫可能な混合物を加硫した加硫物。
【請求項17】
水素化ニトリルゴムを含み、一般式(I)
【化4】

(式中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)は同一であるか、または異なっており、それぞれ水素、ヒドロキシル、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルキル基、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(8)アルコキシ基、C_(3)?C_(8)シクロアルキル基、またはフェニル基であり、ここで、前記R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、およびR^(5)基の少なくとも1つは水素ではない)
の少なくとも1種の置換フェノールを、それぞれの場合において前記水素化ニトリルゴムを規準にして、0.01重量%?0.45重量%未満の範囲の量で含む、
請求項9?13のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる組成物であって、
次式
SS2(72h/100℃)=MV2-MV0
(式中、
MV0は、前記水素化ニトリルゴムについてASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃であり、および
MV2は、同一の水素化ニトリルゴムについて、100℃で72時間保存した後にASTM D1646に従って測定したムーニー粘度ML1+4@100℃である)
で定義される前記組成物の貯蔵安定性SS2が5未満の値を有することを特徴とする、組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-08 
出願番号 特願2016-543676(P2016-543676)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松浦 裕介  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 安田 周史
佐藤 健史
登録日 2018-12-28 
登録番号 特許第6457538号(P6457538)
権利者 アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
発明の名称 フェノール含有水素化ニトリルゴム  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
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