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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1364897 |
異議申立番号 | 異議2019-701062 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-26 |
確定日 | 2020-06-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6535218号発明「テープ状プリプレグ及び繊維強化成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6535218号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 特許第6535218号の請求項1ないし3及び5に係る特許を維持する。 特許第6535218号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6535218号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年5月22日の出願であって、令和1年6月7日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月26日に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、令和2年3月6日付けで取消理由が通知され、同年5月11日に訂正の請求がされるとともに意見書が提出されたものである。 なお、令和2年5月11日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、下記第2に述べるとおり、訂正後の請求項1ないし3及び5は訂正前の請求項1ないし3を引用する請求項4及び訂正前の請求項4を引用する請求項5に相当し、実質的に訂正前の請求項1ないし3及び訂正前の請求項1ないし3を引用する請求項5を削除するもののみであると認められるから、特許法第120条の5第5項ただし書における特別な事情があるといえるので、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えない(審判便覧67-05.4 P 2)。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 令和2年5月11日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグであって、平均厚さが50μm以上150μm以下、上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下、上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の断面画像に基づき、縦横にn(nは2以上の整数)等分した各領域の繊維面積率aから求められる変動係数Cv(n)のフラクタル次元Dが0.4以上1.5以下、かつ上記複数の繊維の配向方向の断面画像に対するフーリエ変換により得られるパワースペクトル画像の近似楕円に基づき、下記式(1)で表される配向度Pが0.8以上1.0未満であることを特徴とするテープ状プリプレグ。配向度P=1-(近似楕円の短径/長径)・・・・(1)」とあるのを、「一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグであって、平均厚さが50μm以上150μm以下、上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下、上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の断面画像に基づき、縦横にn(nは2以上の整数)等分した各領域の繊維面積率aから求められる変動係数Cv(n)のフラクタル次元Dが0.4以上1.5以下、かつ上記複数の繊維の配向方向の断面画像に対するフーリエ変換により得られるパワースペクトル画像の近似楕円に基づき、下記式(1)で表される配向度Pが0.8以上1.0未満であり、上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)が2μm以上8μm以下であることを特徴とするテープ状プリプレグ。配向度P=1-(近似楕円の短径/長径)・・・・(1)」に訂正する。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3及び5についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のテープ状プリプレグを複合化した繊維強化成形体。」とあるのを、「請求項1、請求項2又は請求項3に記載のテープ状プリプレグを複合化した繊維強化成形体。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されている「複数の繊維の配向方向と垂直方向」の算術平均粗さ(Ra)を「2μm以上8μm以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、訂正前の請求項4の「上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)を2μm以上8μm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のテープ状プリプレグ。」という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項1の訂正に伴って訂正される請求項2、3及び5についての訂正も同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項4について、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項5について、訂正前の請求項5が請求項1から請求項4のいずれか1項の記載を引用するものであるところ、請求項4を引用しないものとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1ないし3は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1ないし3は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項2ないし5は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし5は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし3は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグであって、 平均厚さが50μm以上150μm以下、 上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下、 上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の断面画像に基づき、縦横にn(nは2以上の整数)等分した各領域の繊維面積率aから求められる変動係数Cv(n)のフラクタル次元Dが0.4以上1.5以下、かつ 上記複数の繊維の配向方向の断面画像に対するフーリエ変換により得られるパワースペクトル画像の近似楕円に基づき、下記式(1)で表される配向度Pが0.8以上1.0未満であり、 上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)が2μm以上8μm以下であることを特徴とするテープ状プリプレグ。 配向度P=1-(近似楕円の短径/長径)・・・・(1) 【請求項2】 上記複数の繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維、金属繊維又はこれらの組み合わせを主成分とする請求項1に記載のテープ状プリプレグ。 【請求項3】 上記バインダーの主成分が熱可塑性樹脂である請求項1又は請求項2に記載のテープ状プリプレグ。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 請求項1、請求項2又は請求項3のいずれか1項に記載のテープ状プリプレグを複合化した繊維強化成形体。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和1年12月26日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性及び進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、該発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする新規性及び進歩性) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲第1又は2号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項4及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)証拠方法 甲第1号証:塑性と加工 第53巻 第613号 p145-149、日本塑性加工学会 甲第2号証:Advances in Polymer Techonology Vol.29 No.2:p98-111、Wiley Periodicals,Inc. 甲第3号証:実験証明書、東レ株式会社 甲第4号証:第57回自動制御連合講演会 講演論文集 1C11-4、公益社団法人計測自動制御学会 甲第5号証:紙パルプ技術タイムス 48(11月号),1-5(2005)、紙業タイムス社 甲第6号証:特許第5475561号公報 甲第7号証:参考資料、東レ株式会社 甲第8号証:特開2013-203941号公報 甲第9号証:特開2005-239843号公報 以下、順に「甲1」のようにいう。なお、文献の表記については、特許異議申立書に添付された証拠説明書の表記に従った。 2 取消理由の概要 令和2年3月6日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 (1)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または該発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 1 取消理由について (1)主な甲号証に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項及び甲1発明 (ア)甲1に記載された事項 甲1には、「熱可塑性炭素繊維シートのプレス成形」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「本研究で用いる炭素シートは一方向炭素繊維を開繊し,熱可塑性樹脂フィルムにはさんだ状態で加熱し,圧縮して熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させたもので,サカイオーベックス(株)に製作を依頼した. 炭素繊維:TR50S-15LJJ(三菱レイヨン製) 熱可塑性樹脂:PA6 シートの厚さ:0.1mm 炭素繊維の密度(目付):100g・m^(-2) 炭素繊維の体積割合Vf:58.1% 炭素繊維シート1枚の外観および断面の顕微鏡写真をFig.2に示す。一本一本の炭素繊維の間に樹脂がよく充填している.厚さの中央部に樹脂の多い層があるのは,炭素繊維を樹脂フィルムではさんだものを2層重ねて成形しているため,中央部にまだ炭素繊維の密度の薄い層が残ったためである.炭素繊維一本の直径は約7μmで,厚さ方向には,12?14本程度重なった構造となっている.本研究ではこのシート1枚を1層として数える.」(第146ページ左欄第14ないし30行) ・「2.2 プレス方法 プレスを行うプロセスとしては,熱可塑性樹脂を成形に適した温度まで加熱する工程,その温度状態で所望の形状に変形させる工程,変形後に冷却して成形形状を保つ工程の三つが必要である.」(第146ページ左欄第31ないし35行) ・「 」(第146ページ右欄上部) ・「4.2 成形時の炭素繊維の動き プレス成形時の炭素繊維の動きを理解するため,炭素繊維シート1枚のみで成形した場合の,成形後上方から見た形状をFig.7に示す.・・・(略)・・・ 炭素繊維シート2枚を,90度向きを変えて重ねたもの(炭素繊維シート2層と呼ぶ)をパンチ荷重20kN,ダイクッション荷重10kNで成形した場合の成形品をFig.8に示す.・・・(略)・・・ 炭素繊維シート10枚を一枚ごとに交互に90度ずつ向きを変えて重ねたもの(炭素繊維シート10層と呼ぶ)をパンチ荷重20kN,ダイクッション荷重10kNで成形した場合の成形品をFig.9に示す.」(第147ページ右欄下から6行ないし第148ページ右欄第8行) ・「 」(第148ページ左欄) (イ)甲1発明 甲1に記載された事項を整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「一方向炭素繊維を開繊し、熱可塑性樹脂フィルムにはさんだ状態で加熱し、圧縮して熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させた炭素シートであって、 シートの厚さが0.1mm、 炭素繊維の体積割合Vfが58.1%、 外観および断面の顕微鏡写真がFig.2に示すもの である炭素シート。 」 イ 甲2に記載された事項及び甲2発明 (ア)甲2に記載された事項 甲2には、「Identification of Some Optimal Parameters to Achieve Higher Laminate Quality through Tape Placement Process」(訳:テープ配置プロセスによって高いラミネート品質を達成する最適パラメータの特定)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、訳文のみを記す。 ・「材料とプロセスの解析 表面粗さと密室接触 本研究で用いる熱可塑性樹脂材料は、SUPREM社(イヴェルドン・レ・バン、スイス)製の、厚さ0.13mm、幅12mmの炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトンテープである。図1の顕微鏡写真に示すように、テープ横断面の表面に凹凸がある。白色光を用いて幅に沿った形状を測定して得られた表面粗さデータは、自己アフィン構造とも呼ばれる欠陥と統計学的に類似した特徴を示す。 ・・・(略)・・・15層に先行圧密したサンプルと、一方向性CF-PEEKラミネートを340?400℃で10分間加熱し、荷重160Nで120秒間圧縮した。」(第100ページ左欄第17行ないし右欄末行) ・「 図1:表面粗さを示す熱可塑性炭素繊維-ポリエーテルエーテルケトンテープの代表的な断面顕微鏡写真」(第100ページ最下段) ・「テープ配置プロセスとそのモデリング テープ配置プロセスの概要は以下の通りである。引込み熱可塑性テープは、ホットガストーチ等の適当な加熱装置で加熱される。高温下でテープは温度調整された圧密ローラーを用いて温度調整されたツール上に載置される。いくつかのテープは並行に載置され、ラミネートは予め載置された層上に追加の層を載せることによって製造される。」(第103ページ右欄第1ないし11行) ・「第一段階として、シミュレーション結果を剥離試験結果と比較して予測可能性を検証した。二重層くさび剥離試験は単純試料を必要とし、層間結合性能を素早く測定することができる。評価用試料は、280℃に保温された加熱金型に2枚の一方向テープ基材を一体化させて製造した。」(第104ページ右欄第3ないし7行) (イ)甲2発明 甲2に記載された事項を整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 「横断面の顕微鏡写真が図1の示すものである厚さ0.13mm、幅12mmの炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトンテープ。 図1:表面粗さを示す熱可塑性炭素繊維-ポリエーテルエーテルケトンテープの代表的な断面顕微鏡写真」 (2)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性及び進歩性)について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「一方向炭素繊維を開繊し」た「炭素繊維」は本件特許発明1における「一方向に配向する複数の繊維」に相当し、以下同様に、「加熱し、圧縮して」「炭素繊維に含浸させた」「熱可塑性樹脂」は「これら複数の繊維に含浸するバインダー」に、「炭素シート」は「テープ状プリプレグ」に、それぞれ相当する。 甲1発明における「シートの厚さが0.1mm」は本件特許発明1における「平均厚さが50μm以上150μm以下」に包含される。 甲1発明における「炭素繊維の体積割合Vfが58.1%」は本件特許発明1における「上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下」に包含される。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグであって、 平均厚さが50μm以上150μm以下、 上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下であるテープ状プリプレグ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の断面画像に基づき、縦横にn(nは2以上の整数)等分した各領域の繊維面積率aから求められる変動係数Cv(n)のフラクタル次元Dが0.4以上1.5以下」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点1-2> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の配向方向の断面画像に対するフーリエ変換により得られるパワースペクトル画像の近似楕円に基づき、下記式(1)で表される配向度Pが0.8以上1.0未満」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点1-3> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)が2μm以上8μm以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1-3から検討する。 甲1には、甲1発明における「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」が「2μm以上8μm以下である」ことは記載も示唆もされていない。 したがって、相違点1-3は実質的な相違点である。 そして、甲2ないし9にも、甲1発明における「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」を「2μm以上8μm以下である」とすることの動機付けとなるような記載はない。 なお、特許異議申立人は、甲8の【0034】及び【0035】並びに甲9の【請求項5】、【0025】、【0036】及び【表1】に「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」を「2μm以上8μm以下である」とすることが記載されている旨主張する。 そこで、検討する。 甲8の【0034】及び【0035】の記載は次のとおりである。 ・「【0034】 【表1】 【0035】 表1の結果から、炭素繊維プリプレグを製造するに際し、本発明の範囲内にある炭素繊維束を使用し、溶融含浸法を使用する場合に限って、ボイド率と厚みのバラツキとも十分に満足すべきものが得られていることがわかる。」 また、甲9の【請求項5】、【0025】、【0036】及び【表1】の記載は次のとおりである。 ・「【請求項5】 シート状の強化繊維材料に熱可塑性樹脂を含浸させてプリプレグを製造するに当たり、熱可塑性樹脂粉末を、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭素類から選ばれた1種若しくは2種以上の有機溶媒又はかかる有機溶媒と水との混合溶媒に分散させたサスペンジョンに、シート状の強化繊維材料を浸漬させて、樹脂粉末をこの強化繊維材料に付着せしめ、次いで樹脂粉末が付着した強化繊維材料を170?390℃に加熱して樹脂粉末を溶融させ、引き続いて上下一対の加熱・加圧ローラーを用いてローラー圧力3?10Kg/cm、ローラー温度(Tg+15)?(Tg+100)℃で加熱・加圧して樹脂を含浸させ、シート状の強化繊維材料と熱可塑性樹脂を一体化させることを特徴とする均一性と表面平滑性に優れたプリプレグの製造法。」 ・「【0025】 本発明においては、次いで強化繊維材料を、上下一対の加熱ローラーを用いてローラー圧力3?10Kg/cm(計算線圧)、好ましくは5?10Kg/cmで、ローラー温度(Tg+15)?(Tg+100)℃、好ましくは(Tg+20)?(Tg+80)℃で加熱して樹脂を含浸させ、シート状の強化繊維材料と熱可塑性樹脂を一体化させてプリプレグが製造される。かかる処理によってプリプレグの均一化と表面の平滑化が図られる。」 ・「【0036】 表1の結果から、ローラー間の圧力及び温度が本発明の範囲内にある場合に限って、ボイド率と厚みのバラツキとも十分に満足すべきものが得られていることがわかる。」 ・「【表1】 」 特許異議申立人が記載があると主張する甲8及び9の上記箇所には、「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」を「2μm以上8μm以下である」とすることは記載されていないし、甲8及び9の上記箇所の記載から「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」を「2μm以上8μm以下である」とすることを導き出すこともできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 したがって、甲1発明において、相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「機械的特性及び品質の均一性に優れる繊維強化成形体を形成でき、かつ加工性に優れる」という甲1発明及び甲2ないし9に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (ウ)まとめ したがって、相違点1-1及び1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2、3及び5について 本件特許発明2、3及び5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものである。 したがって、本件特許発明2、3及び5は、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性及び進歩性)について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明における「炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトンテープ」は本件特許発明1における「一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグ」に相当する。 甲2発明における「厚さ0.13mm」は本件特許発明1における「平均厚さが50μm以上150μm以下」に包含される。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグであって、 平均厚さが50μm以上150μm以下であるテープ状プリプレグ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2-1> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点2-2> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の断面画像に基づき、縦横にn(nは2以上の整数)等分した各領域の繊維面積率aから求められる変動係数Cv(n)のフラクタル次元Dが0.4以上1.5以下」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点2-3> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の配向方向の断面画像に対するフーリエ変換により得られるパワースペクトル画像の近似楕円に基づき、下記式(1)で表される配向度Pが0.8以上1.0未満」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点2-4> 本件特許発明1においては、「上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)が2μm以上8μm以下である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点2-4から検討する。 甲2には、甲2発明における「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」が「2μm以上8μm以下である」ことは記載も示唆もされていない。 したがって、相違点2-4は実質的な相違点である。 そして、甲1及び3ないし9にも、甲2発明における「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」を「2μm以上8μm以下である」とすることの動機付けとなるような記載はない。 なお、特許異議申立人は、甲8の【0034】及び【0035】並びに甲9の【請求項5】、【0025】、【0036】及び【表1】に「複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)」を「2μm以上8μm以下である」とすることが記載されている旨主張するが、上記(2)ア(イ)のとおり、該主張は採用できない。 したがって、甲2発明において、相違点2-4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「機械的特性及び品質の均一性に優れる繊維強化成形体を形成でき、かつ加工性に優れる」という甲2発明並びに甲1及び3ないし9に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (ウ)まとめ したがって、相違点2-1ないし2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2、3及び5について 本件特許発明2、3及び5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものである。 したがって、本件特許発明2、3及び5は、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載された申立て理由について 取消理由1は申立理由1及び申立理由3の一部と同旨であり、取消理由2は申立理由2及び申立理由3の一部と同旨である。 そして、訂正により請求項4が削除されたため、取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載された申立て理由はなくなった。 第6 結語 上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許は取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てのうち、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 一方向に配向する複数の繊維と、これらの複数の繊維に含浸するバインダーとを備えるテープ状プリプレグであって、 平均厚さが50μm以上150μm以下、 上記複数の繊維の含有率が30体積%以上60体積%以下、 上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の断面画像に基づき、縦横にn(nは2以上の整数)等分した各領域の繊維面積率aから求められる変動係数Cv(n)のフラクタル次元Dが0.4以上1.5以下、かつ 上記複数の繊維の配向方向の断面画像に対するフーリエ変換により得られるパワースペクトル画像の近似楕円に基づき、下記式(1)で表される配向度Pが0.8以上1.0未満であり、 上記複数の繊維の配向方向と垂直方向の算術平均粗さ(Ra)が2μm以上8μm以下であることを特徴とするテープ状プリプレグ。 配向度P=1-(近似楕円の短径/長径)・・・・(1) 【請求項2】 上記複数の繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維、金属繊維又はこれらの組み合わせを主成分とする請求項1に記載のテープ状プリプレグ。 【請求項3】 上記バインダーの主成分が熱可塑性樹脂である請求項1又は請求項2に記載のテープ状プリプレグ。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 請求項1、請求項2又は請求項3に記載のテープ状プリプレグを複合化した繊維強化成形体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-06-15 |
出願番号 | 特願2015-105014(P2015-105014) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤田 雅也 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 加藤 友也 |
登録日 | 2019-06-07 |
登録番号 | 特許第6535218号(P6535218) |
権利者 | 株式会社神戸製鋼所 |
発明の名称 | テープ状プリプレグ及び繊維強化成形体 |
代理人 | 伴 俊光 |
代理人 | 小川 博生 |
代理人 | 天野 一規 |
代理人 | 池田 義典 |
代理人 | 石田 耕治 |
代理人 | 天野 一規 |
代理人 | 池田 義典 |
代理人 | 小川 博生 |
代理人 | 細田 浩一 |
代理人 | 石田 耕治 |