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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 発明同一  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1364924
異議申立番号 異議2019-701003  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-09 
確定日 2020-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6528199号発明「マーキングフィルム用粘着剤組成物、その製造方法及びマーキングフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6528199号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、8〕〔3-7〕について訂正することを認める。 特許第6528199号の請求項1?4、6?8に係る特許を維持する。 特許第6528199号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6528199号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年5月1日に出願され、令和元年5月24日にその特許権の設定登録がされ、令和元6月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?8に係る特許に対し、令和元年12月9日に特許異議申立人大木健一(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年2月5日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年4月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)を行い、その本件訂正に対して、特許異議申立人は、令和2年5月26日に意見書を提出した。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?70質量部の範囲で配合された共重合体組成物」とあったのを、「低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合された共重合体組成物」と訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、8についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の文頭に、「ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法であって、」との要件を追加する訂正をする。
請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4、6、7についても同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)を10?70質量部の範囲内で添加」とあったのを、「炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)を10?50質量部の範囲内で添加」すると訂正する。
請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4、6、7についても同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項3?5のいずれか1項に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」とあったのを、「請求項3又は4に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」すると訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項3?6のいずれか1項に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」とあったのを、「請求項3、4、6のいずれか1項に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」すると訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)訂正の理由
ア 一群の請求項について
(ア)訂正事項1に係る訂正前の請求項1、2、8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(イ)訂正事項2?6に係る訂正前の請求項3?7は、請求項3を直接又は間接的に引用するものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(ウ)したがって、本件訂正は、請求項1、2、8及び請求項3?7からなる2つの一群の請求項ごとになされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1で規定する低級アルコール系有機溶剤(c2)の配合量の数値範囲を、より狭い範囲に限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、請求項1で規定する低級アルコール系有機溶剤(c2)の配合量の数値範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の請求項5にある「前記アクリル系共重合体(A)含有組成物中におけるアルコール系有機溶剤(c2)の含有量は、前記アクリル共重合体(A)100質量部に対して、10?50質量部の範囲内である」とした記載、願書に添付した明細書の段落[0027]にある「低級アルコール系有機溶剤(c2)の含有量が・・・懸念され、一方、70質量部より多いと経済的でない上、液安定性に劣る場合がある。実用的には、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合させればよい。」とした記載、さらに、明細書の段落[0052]の表5の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、「マーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」に関する請求項3に係る発明を、「ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」に限定するものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2は、「マーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」に関する請求項3に係る発明を、より狭い範囲の「ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項1の「ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物」とした記載、願書に添付した明細書の段落[0008]、[0010]、段落[0016]及び[0038]などの記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項3で規定する低級アルコール系有機溶剤(c2)の配合量の数値範囲を、より狭い範囲に限定するものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3は、請求項3で規定する低級アルコール系有機溶剤(c2)の配合量の数値範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正前の、請求項3の従属項の請求項5にある「前記アクリル系共重合体(A)含有組成物中におけるアルコール系有機溶剤(c2)の含有量は、前記アクリル共重合体(A)100質量部に対して、10?50質量部の範囲内である」とした記載、願書に添付した明細書の段落[0027]にある「低級アルコール系有機溶剤(c2)の含有量が・・・懸念され、一方、70質量部より多いと経済的でない上、液安定性に劣る場合がある。実用的には、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合させればよい。」とした記載、さらに、明細書の段落[0052]の表5の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項5を削除するというものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4は、請求項5を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、請求項5を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(6)訂正事項5及び訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項5及び訂正事項6は、訂正事項4の請求項5の削除に伴い生じた、その後の請求項6及び請求項7において、それぞれ引用していた請求項5を引用しないものとして、請求項間の引用関係を整理することを目的としたものであるから、当該訂正事項5及び訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項5及び訂正事項6は、請求項5を削除したことに伴い生じた請求項の引用関係を整理するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5及び訂正事項6は、請求項5を削除したことに伴い生じた請求項の引用関係を整理するものであるから、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、8〕〔3-7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?8について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?4、6?8に係る発明は、令和2年4月10日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4、6?8に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」?「本件発明4」、「本件発明6」?「本件発明8」ともいう。)である。

「 【請求項1】
ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物であって、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部と、水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合された共重合体組成物と、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有する
ことを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである請求項1に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法であって、
炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に、1?10質量部のカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)と、5?15質量部の水酸基含有アクリルモノマー(a3)とを含むモノマーの混合物を、少なくとも、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)の存在下で共重合した後、前記モノマーの混合物100質量部に対して、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)を10?50質量部の範囲内で添加して、該アルコール系有機溶剤(c2)が配合されてなるアクリル系共重合体(A)含有組成物とし、該組成物に架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を添加して前記アクリル系共重合体(A)を架橋して粘着剤とすることを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである請求項3に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項5】
削除
【請求項6】
前記共重合をする際に、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)とともに、前記有機溶剤(c2)を併用する請求壤3又は4に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記架橋剤(B)が、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物である請求項3、4、6のいずれか1項に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリ塩化ビニル製の基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるマーキングフィルムであって、
前記粘着層が、請求項1又は2に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物によって形成されてなることを特徴とするマーキングフィルム。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和2年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[理由1]請求項1?8に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に記載された発明(以下「先願発明1」という。)と同一であって、この出願の発明者が先願発明1の発明者と同一でなく、この出願時に、この出願の出願人と先願発明1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特願2015-58954号(特開2016-176038号公報)

2 取消理由の詳細
(1)甲第1号証の記載について
1a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸アルキルエステルと、メタクリル酸アルキルエステルと、水素結合性モノマーとを含むモノマー混合物を共重合してなるアクリル系共重合体、硬化剤および有機溶剤とを含み、
前記水素結合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーをモノマー混合物100重量%中に3?15重量%含む、フィルム用粘着剤。
【請求項2】
前記水素結合性モノマーをモノマー混合物100重量%中に7?25重量%を含み、
かつ前記水素結合性モノマーが、カルボキシル基含有モノマー以外に、アミド基含有モノマー、および水酸基含有モノマーからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1記載のフィルム用粘着剤。
・・・
【請求項6】
前記有機溶剤が少なくともアルコール系溶剤を含む、請求項1?5いずれか1項に記載のフィルム用粘着剤。
【請求項7】
フィルム基材と、請求項1?6いずれか1項に記載のフィルム用粘着剤から形成されてなる粘着剤層とを備えた、粘着シート。」
1b「【0068】
本発明の粘着剤は、耐油性が求められる台所周りや自動車周りの貼り付け用粘着剤として好適であるほか、一般ラベル・シール、粘着性光学フィルム、塗料、弾性壁材、塗膜防水材、床材、粘着性付与剤、粘着剤、積層構造体用粘着剤、シーリング剤、成形材料、表面改質用コーティング剤、バインダー(磁気記録媒体、インキバインダー、鋳物バインダー、焼成レンガバインダー、グラフト材、マイクロカプセル、グラスファイバーサイジング等)、ウレタンフォーム(硬質、半硬質、軟質)、ウレタンRIM、UV・EB硬化樹脂、ハイソリッド塗料、熱硬化型エラストマー、マイクロセルラー、繊維加工剤、可塑剤、吸音材料、制振材料、界面活性剤、ゲルコート剤、人工大理石用樹脂、人工大理石用耐衝撃性付与剤、インキ用樹脂、フィルム(ラミネート粘着剤、保護フィルム等)、合わせガラス用樹脂、反応性希釈剤、各種成形材料、弾性繊維、人工皮革、合成皮革等の原料として、又、各種樹脂添加剤およびその原料等としても非常に有用に使用できる。
【実施例】
【0069】
次に本発明の実施例を示して更に詳細を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、「部」とは「重量部」、「%」とは「重量%」をそれぞれ意味するものとする。
【0070】
(実施例1)
[アクリル系共重合体の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下管、窒素導入管を備えた反応容器(以下、単に「反応容器」と記述する。)に窒素雰囲気下、モノマーとしてアクリル酸n-ブチル82部、メタクリル酸メチル10部、アクリル酸8部、反応溶剤として酢酸エチル82部、開始剤として2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」と記述する。)0.07部の原料混合物の半量を反応容器に仕込み、残りの半量を滴下管に仕込んだ。撹拌しながら反応容器の加熱を行い、還流を確認してから、滴下管の原料混合物を1時間かけて滴下し、その後、還流温度で2時間反応した。次いで、AIBN 0.05部を反応溶液に添加しさらに5時間反応を継続した。その後、反応容器を冷却し、希釈溶剤として酢酸エチル15部を加え、アクリル系共重合体溶液を得た。
・・・
【0075】
[粘着シートの作成]
得られたアクリル系共重合体溶液中のアクリル系共重合体100部に対して、硬化剤としてイソシアネート化合物のコロネートL(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体:日本ポリウレタン社製)を5部(不揮発分換算)を配合し、粘着剤を得た。
得られた粘着剤を、厚さ38μmの剥離性シート(ポリエチレンテレフタレート(PET)製)上に、乾燥後の厚さが25μmになるようにアプリケーターで塗工を行い、100℃で1分間乾燥することで粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層に、厚さ50μmの基材(ポリエチレンテレフタレート製、以下、PETシートという)を貼り合せ、温度23℃相対湿度50%の条件で1週間熟成することで「剥離性シート/粘着剤層/PETシート」という構成の粘着シートを得た。
【0076】
得られた粘着シートについて、ゲル分率、塗工直後保持力、打痕性、粘着力、保持力、耐油性を以下の方法に従って評価した。その結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2?11)
モノマー、有機溶剤(反応溶剤、希釈溶剤)及び硬化剤の配合量を表1の記載に従った他は、実施例1と同様に行うことで実施例2?11、比較例1?2、4の重合体及び粘着
シートを得た。なお、比較例3は反応途中にゲル化したため、アクリル系共重合体を得ることはできなかった。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の略号および化合物を以下に記載する。
n-BA : アクリル酸n-ブチル
2EHA : アクリル酸2-エチルヘキシル
MMA : メタクリル酸メチル
n-BMA : メタクリル酸n-ブチル
2EHMA : メタクリル酸2-エチルヘキシル(Tg=-10℃)
AA : アクリル酸
AAm : アクリルアミド
2HEA : アクリル酸2-ヒドロキシエチル
イソシアネート化合物 : コロネートL(日本ポリウレタン社製)
エポキシ化合物 : TETRAD X(三菱ガス化学社製)
金属キレート化合物 : アルミキレートA(川研ファインケミカル社製)」

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の特許請求の範囲及び実施例10の記載からみて、「フィルム用粘着剤であって、n-BA64重量部、MMA10重量部、n-BMA10重量部と、AA8重量部と、2HEA8重量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル共重合体に、エタノール50重量部及びイソプロピルアルコール7重量部が配合された共重合体組成物と、架橋剤としてエポキシ化合物を用い、前記アクリル共重合体を前記架橋剤で架橋するフィルム用粘着剤。」の発明(以下「甲1α発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a、1b参照)。
また、「n-BA64重量部、MMA10重量部、n-BMA10重量部と、AA8重量部と、2HEA8重量部とを含むモノマーの混合物を、酢酸エチルの存在下で共重合したのち、エタノールを50重量部、イソプロピルアルコールを7重量部添加して、該エタノールが配合されてなるアクリル系共重合体含有組成物とし、該組成物に架橋剤としてエポキシ化合物を添加して前記アクリル系共重合体を架橋して粘着剤とするフィルム用粘着剤の製造方法。」の発明(以下「甲1β発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a、1b参照)。
さらに、「基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるフィルムであって、n-BA64重量部、MMA10重量部と、AA8重量部と、2HEA8重量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル共重合体に、エタノール50重量部及びイソプロピルアルコール7重量部が配合された共重合体組成物と、架橋剤としてエポキシ化合物を用い、前記アクリル共重合体を前記架橋剤で架橋するフィルム用粘着剤によって形成されてなるフィルム。」の発明(以下「甲1γ発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a、1b参照)。

(3)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1α発明との対比
本件特許発明1と甲1α発明を対比する。
甲1α発明の「粘着剤」は、本件特許発明1の「粘着剤組成物」に相当する。
甲1α発明の「n-BA」、「MMA」、「n-BMA」は、それぞれ、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチルであるから、本件特許発明1の「炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)」に相当する。
甲1α発明の「AA8重量部」は、「AA」はアクリル酸であり、本件特許発明1の「カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)」に相当し、「8重量%」は、「n-BA」、「MMA」及び「n-BMA」の合計を100重量部とすると、9.5重量部となるから、本件特許発明1の「カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部」に相当する。
甲1α発明の「2HEA8重量部」は、「2HEA」はアクリル酸2-ヒドロキシエチルであり、本件特許発明1の「水酸基含有アクリルモノマー(a3)」に相当し、「8重量%」は、「n-BA」、「MMA」及び「n-BMA」の合計を100重量部とすると、9.5重量部となるから、本件特許発明1の「水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部」に相当する。
甲1α発明の「エタノール」及び「イソプロピルアルコール」は、本件特許発明1の「少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)」に相当する。
甲1α発明の「架橋剤としてエポキシ化合物を用い、前記アクリル共重合体を前記架橋剤で架橋する」は、エポキシ化合物はイソシアネート基非含有の硬化剤であるから、本件特許発明1の「架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1α発明は、「フィルム用粘着剤組成物であって、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部と、水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が配合された共重合体組成物と、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有することを特徴とするフィルム用粘着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、本件特許発明1では全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合されているのに対し、甲1α発明では全モノマー成分100質量部に対して57質量部の範囲で配合されている点。

<相違点2>
フィルム用粘着剤組成物が、本件特許発明1ではポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするのに対し、甲1α発明ではそのような特定がない点。

<相違点3>
フィルム用粘着剤組成物が、本件特許発明1ではマーキングフィルム用粘着剤組成物であると特定されているのに対し、甲1α発明ではそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
相違点について検討する。
<相違点1について>
相違点1は、実質的な相違点であると認められるから、さらに相違点2、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1α発明ではない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成16年(行ケ)83号審決取消請求事件の説示に基づいて、本件特許発明1における炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤の「10?50質量部」との限定は、「10?70質量部」の限定との比較において格別の技術的意義ないし臨界的意義を見出すことができないものと主張する。
しかし、本件は上記事件と事案を異にするものであり、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、仮に上記相違点2及び3が実質的なものではないとしても、甲1α発明と同一であるとはいえず、上記甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、「有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである」と特定するものである。
そうすると、上記アと同様の理由により、本件特許発明2は、上記甲第1号証に記載された発明ではない。

ウ 本件特許発明3について
(ア)甲1β発明との対比
本件特許発明3と甲1β発明を対比する。
甲1β発明の「酢酸エチルの存在下で共重合したのち」は本件特許発明1の「炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)の存在下で共重合した後」に相当する。
それ以外は、甲1β発明と本件特許発明3の用語の対応関係は上記ア(ア)の甲1α発明と本件特許発明1の用語の対応関係と同じである。
そうすると、本件特許発明3と甲1β発明は、「炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に、1?10質量部のカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)と、5?15質量部の水酸基含有アクリルモノマー(a3)とを含むモノマーの混合物を、
少なくとも、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)の存在下で共重合した後、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)を添加して、該アルコール系有機溶剤(c2)が配合されてなるアクリル系共重合体(A)含有組成物とし、該組成物に架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を添加して前記アクリル系共重合体(A)を架橋して粘着剤とすることを特徴とするフィルム用粘着剤組成物の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、本件特許発明1では全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合されているのに対し、甲1β発明では全モノマー成分100質量部に対して57質量部の範囲で配合されている点。

<相違点5>
フィルム用粘着剤組成物が、本件特許発明1ではマーキングフィルム用粘着剤組成物であると特定されているのに対し、甲1β発明ではそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
相違点について検討する。
相違点4は上記相違点1と実質的に同一の事項といえるところ、上記ア(イ)上記<相違点1>についてで検討したとおりである。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明3は、甲1β発明と同一であるといえず、上記甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3において、「有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである」と特定するものである。
そうすると、上記ウと同様の理由により、本件特許発明4は、上記甲第1号証に記載された発明ではない。

オ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明3において、「前記共重合をする際に、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)とともに、前記有機溶剤(c2)を併用する」と特定するものである。
そうすると、上記ウと同様の理由により、本件特許発明6は、上記甲第1号証に記載された発明ではない。

カ 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明3において、「前記架橋剤(B)が、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物である」と特定するものである。
そうすると、上記ウと同様の理由により、本件特許発明7は、上記甲第1号証に記載された発明ではない。

キ 本件特許発明8について
(ア)甲1γ発明との対比
本件特許発明3と甲1γ発明を対比する。
甲1γ発明と本件特許発明8の用語の対応関係は上記ア(ア)の甲1α発明と本件特許発明1の用語の対応関係と同じである。
そうすると、本件特許発明8と甲1γ発明は、「基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるフィルムであって、
前記粘着層が、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部と、水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が配合された共重合体組成物と、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有することを特徴とするフィルム用粘着剤組成物によって形成されてなることを特徴とするフィルム。」である点で一致し、以下の一応の相違点がある。

<相違点6>
炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、本件特許発明1では全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合されているのに対し、甲1α発明では全モノマー成分100質量部に対して57質量部の範囲で配合されている点。

<相違点7>
フィルム用粘着剤組成物が、本件特許発明8ではポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするのに対し、甲1γ発明ではそのような特定がない点。

<相違点8>
フィルム用粘着剤組成物が、本件特許発明8ではマーキングフィルム用粘着剤組成物であると特定されているのに対し、甲1γ発明ではそのような特定がない点。

(イ)相違点についての検討
相違点について検討する。
相違点6は上記相違点1と実質的に同一の事項といえるところ、上記ア(イ)上記<相違点1>についてで検討したとおりである。

(ウ)小括
したがって、本件特許発明8は、相違点7及び8を検討するまでもなく、甲1γ発明と同一であるといえず、上記甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、以下の1、2である。
1 本件特許発明1?8は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許発明8は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許発明1?8係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

甲第2号証:特表平9-503532号公報
甲第3号証:国際公開第2014/002203号
甲第4号証:特開平5-78626号公報
甲第5号証:特開2010-221366号公報
甲第6号証:特開平10-46127号公報
甲第7号証:店舗装飾ナビ、“カッティングシートとは?用途(使い方)について”、[online]、2017年2月27日、[令和元年11月22日検索]、インターネットURL:http://www.orientalize.co.jp/contents/knowledge/671/
甲第8号証:“3MTM車輌マーキングシステム”、[online]、スリーエムジャパン株式会社、[令和元年11月22日検索]、インターネットURL:http://multimedia.3m.com/mws/media/12736990/dec-311.pdf

1 特許法第29条第2項について
(1)甲号証の記載について
ア 甲第2号証
2a「【特許請求の範囲】
1.アルキル基において炭素原子約4?約8を含有する少なくとも一種のアルキルアクリレートを含むアクリル系モノマー混合物を、下記式:
CH_(2)=CYCOO-R-Z
(式中、Yは水素及びメチルからなる群より選び、Rは炭素原子を約12まで含有するアルキル、シクロアルキル、芳香族、アルキルエステル及びアルキルエーテルからなる群より選び、ZはCOOH及びCH2OHからなる群より選ぶ)
の極性アクリレートモノマーを、アクリル系モノマー混合物の1?約50重量%存在させて共重合させることによって形成され、該モノマー混合物は、単独重合させる場合、約50℃より低いガラス転移温度を有する、使用温度より少なくとも10℃低いガラス転移温度を有するガソリン耐性並びにステンレスチール及び自動車ペイントへの接着性を示す高い極性アクリレート含量の感圧接着性コポリマー。」
2b「化学架橋剤は、2.0重量%まで、好ましくは約0.1?0.5重量%の量で供し、これらは凝集力を更に増大させるのに、有効に用いることができる。アルミニウムアセチルアセトネート(AAA)が好適な化学架橋剤である。架橋は、また化学線或は電子ビーム線を用
いて達成することもできる。」(第10ページ第19?22行)
2c「用途は、自動車ピンストライピング、フリートマーキング、ストーンガード保護、車体側面成形、等のような外部グラフィック用途を含む。」(第11ページ第10?11行)
2d「例1
2-エチルヘキシルアクリレート272gと、UCB Radcureからのベーターカルボキシエチルアクリレート100gと、アクリル酸28gとのモノマー混合物を調製し、混合物100gを、還流凝縮器及び撹拌機を装着した2リットルガラス反応装置に加え、窒素ガスでフラュシュした。メタノール34g及びエチルアセテート34gを反応装置に加え、初期装入材料を撹拌しながら加熱して70℃の還流温度にした。次いで、エチルアセテート10ml中のVazo64 0.15gの開始剤溶液を加えた。15分した後に、モノマー供給(残りのモノマー、メタノール130g、エチルアセテート130g、及びVazo64 0.45g)を3時間かけて反応装置に加えた。モノマー供給が完了して1時間した後に、エチルアセテート10ml中のVazo64 0.26gを加え、ポリマーを1時間反応させた後に、エチルアセテート10ml中のVazo64 0.26gの第二分を加えた。1時間した後に、ポリマーを冷却させて室温にし、メタノール.25mlと、エチルアセテート12mlとの混合物を加えて固形分を44%に減少させた。
Brookfield粘度計スピンドルLV No.3を3rpmで使用した粘度は、24,000cosであった。
酸含量40.4モル%を有する例1のコポリマーの流動学的性質は、酸を29.4モル%含有する2-EHA/AAコポリマーに比べて、酸含量が相当に多いにもかかわらず、コポリマーが、7.5℃に対して4.5と低いTgを有することを示す。
表1は、コポリマーのPSA特性を2-EHA/AAコポリマー及びAV Chemie製の架橋されたPolytex 7000商用アクリル系PSAと比べる。例1のコポリマーは、2つのタイプの自動車用塗装パネルに対して高い剥離接着力を有していた。それは、また、耐溶剤性の向上を表示する、ASTM B流体に浸漬した後の一様に高い剥離も示した。このことは、トルエンにおける不溶分パーセント試験によって裏付けられる。」第13ページ第4行?第14ページ第4行)


」(第15ページ)

イ 甲第3号証
3a「[請求項1]
炭素原子数が4?12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A1)50?90質量%、
カルボキシル基含有モノマー(A2)3?20質量%、
水酸基含有モノマー(A3)3?20質量%、及び、
炭素原子数1?3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A4)3?15質量%
を構成成分として含み、重量平均分子量が70万?200万、理論Tgが-40℃以下である、ヒドロキシル基及びカルボキシル基を有するアクリル系共重合体(A)と、
架橋剤(B)と
を含有する粘着剤組成物。
・・・
[請求項6]
基材の片面又は両面に、請求項1記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する片面又は両面粘着テープ。」
3b「[0034]
粘着テープの基材の具体例としては、発泡体(例えば、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリウレタンフォーム)、プラスチックフィルム、光学用フィルム(例えば、フィルム導光板、反射防止フィルム、導電性フィルム、視野角拡大フィルム、位相差フィルム、偏光板)が挙げられる。
3b「[0046][表1]

表1中の略号は、以下の通りである。
「2-EHA」:2-エチルヘキシルアクリレート、
「BA」:n-ブチルアクリレート、
「MA」:メチルアクリレート、
「AA」:アクリル酸、
「2-HEA」:2-ヒドロキシエチルアクリレート。
[0047]
[表2]

表2中の略号は、以下の通りである。
「コロネートL」:日本ポリウレタン社製イソシアネート系架橋剤、
「TETRAD-C」:三菱瓦斯化学社製エポキシ系架橋剤。」

ウ 甲第4号証
4a「【請求項1】 ポリ塩化ビニルからなる基材層(A)と、アクリルモノマーとカルボン酸ビニルエステルモノマーを必須成分として重合せしめた共重合ポリマーからなる粘着剤層(B1)とからなるマーキングフィルム。」

エ 甲第5号証
5a「【0032】
本発明における研磨材固定用両面感圧接着シートは大きな接着力が必要である。接着性を得るために極性基を有するモノマーが使用される。その中でも水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーが好ましい。研磨液がアルカリ性である場合、カルボキシル基含有モノマーを用いた感圧接着剤は中和されることにより接着力が低下しやすい。従って、本発明においては極性基を有するモノマーが水酸基含有モノマーであることが好ましい。」

オ 甲第6号証
6a「【0004】塗料の代替という役割から、マーキングフィルムには貼った後の各種の耐性、例えば、耐油性、耐ガソリン性、耐水性、耐アルカリ水性、耐洗剤水性等が要求される。また、高温下でのフィルムの変形をおさえ、外観を損なわないようにすることも不可欠である。」

カ 甲第7号証
7a「カッティングシートとは、粘着剤付きの塩ビフィルムシートです。一般的には、「マーキングフィルム」と呼ばれています」(第1ページ本文第4?5行)

キ 甲第8号証
8a「3Mではフリーとマーキングの表示に用いるマーキングフィルム、印刷方法を多数用意しています。(第4ページフィルム加工法の選定)

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、「2-エチルヘキシルアクリレート272gと、ベーターカルボキシエチルアクリレート100gと、アクリル酸28gとのモノマー混合物を、メタノール183.8g(34g+130g+25mL×0.792g/mL)、エチルアセテート202g(34g+130g+(10+10+10+12)ml×0.897g/ml)を含む溶媒中で、Vazo64(開始剤)で重合してポリマーの溶液を得たこと(摘記2a、2d参照。)、当該ポリマーの溶液に、AAAを加えてポリマーを架橋し、感圧接着性組成物としたこと(摘記2d参照。)、及びその用途について、「銀ビニル上に被覆する、フリートマーキングの外部グラフィック用」(摘記2b参照。)が記載されていることから、「2-エチルヘキシルアクリレート272gと、ベーターカルボキシエチルアクリレート100gと、アクリル酸28gを重合して得たポリマーと、メタノール183.8g(34g+130g+25mL×0.792g/mL)を含む溶媒と、AAAを含む、銀ビニル上に被覆する、フリートマーキングの外部グラフィック用感圧接着性ポリマー組成物」の発明(以下「甲2α発明」という。)が記載されているといえる(摘記2a、2b、2d参照。)
また、「2-エチルヘキシルアクリレート272gと、ベーターカルボキシエチルアクリレート100gと、アクリル酸28gとのモノマー混合物を、エチルアセテートの存在下で共重合した後、メタノールを配合してなる共重合体とし、AAAで架橋する、銀ビニル上に被覆する、フリートマーキングの外部グラフィック用の感圧接着性ポリマー組成物の製造方法。」の発明(以下「甲2β発明」という。)が記載されているといえる(摘記2a、2b、2c、2d参照。)。

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の請求項6及び実施例13の記載からみて、「基材の一方の面に粘着剤層が形成されてなる粘着テープであって、
2-EHA77質量%、AA8質量%、2-HEA5質量%、MA10質量%からなるアクリル共重合体とTETRAD-Cを含有する粘着剤組成物」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3a、3c参照)。

(3)対比・判断
ア 甲第2号証を主引用例とする場合
(ア)本件特許発明1
a.甲2α発明との対比
甲2α発明の「銀ビニル上に被覆する」は、「ビニル」とはポリ塩化ビニルを指すから、本件特許発明1の「ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とする」に相当する。
甲2α発明の「フリートマーキングの外部グラフィック用」は、甲第8号証の記載から(摘記8a参照)、本件特許発明1の「マーキングフィルム用」に相当する。
甲2α発明の「感圧接着性ポリマー組成物」は、その組成からみて、本件特許発明1の「粘着剤組成物」に相当する。
甲2α発明の「2-エチルヘキシルアクリレート」は、本件特許発明1の「炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)」に相当する。
甲2α発明の「ベーターカルボキシエチルアクリレート」と「アクリル酸」は、本件特許発明1の「カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)」に相当する。
甲2α発明の「ポリマー」は、本件特許発明1の「モノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)」に相当する。
甲2α発明の「メタノール」は、本件特許発明1の「少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)」に相当する。
甲2α発明の「AAAで架橋した」は、AAAはアルミニウムアセチルアセトネートであるから(摘記2c参照)、本件特許発明1の「架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2α発明は、
「ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物であって、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤が配合された共重合体組成物と、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有することを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点10>
炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対するカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)の含有量が、本件特許発明1では1?10質量部であるのに対し、甲2α発明ではその特定がない点。

<相違点11>
本件特許発明1は、水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含み、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対する水酸基含有アクリルモノマー(a3)の含有量が5?15質量部であるのに対し、甲2α発明は水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含まない点。

<相違点12>
本件特許発明1は、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合されているのに対し、甲2α発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
<相違点10>について
甲2α発明では、2-エチルヘキシルアクリレート272gと、ベーターカルボキシエチルアクリレート100gと、アクリル酸28gとのモノマー混合物が、記載されているから、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対するカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)の含有量が47質量部(=(100+28)/272)となり、本件特許発明1の1?10質量部と大きく相違する。
そして、甲第2号証の記載をみても、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対するカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)の含有量を1?10質量部とすることは示唆もない。
よって、甲2α発明において、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対するカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)の含有量を1?10質量部であるとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

<相違点11>について
甲第2号証の記載から、甲2α発明に、さらに、水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含ませ、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対する水酸基含有アクリルモノマー(a3)の含有量を5?15質量部とすることについて記載も示唆もない。
よって、甲2α発明において、水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含み、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対する水酸基含有アクリルモノマー(a3)の含有量を5?15質量部とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c.小括
したがって、本件特許発明1は、上記相違点12を検討するまでもなく、甲2α発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(イ)本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1において、「有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである」と特定するものである。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件特許発明2は、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)本件特許発明3
a.甲2β発明との対比
本件特許発明3と甲2β発明を対比する。
甲2β発明の「エチルアセテートの存在下で共重合した後」は本件特許発明1の「炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)の存在下で共重合した後」に相当する。
それ以外は、甲2β発明と本件特許発明3の用語の対応関係は上記(ア)aの甲2α発明と本件特許発明1の用語の対応関係と同じである。
そうすると、本件特許発明3と甲2β発明とは「炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)を含むモノマーの混合物を、 少なくとも、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)の存在下で共重合した後、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)を添加して、該アルコール系有機溶剤(c2)が配合されてなるアクリル系共重合体(A)含有組成物とし、該組成物に架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を添加して前記アクリル系共重合体(A)を架橋して粘着剤とすることを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点13>
炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対するカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)の含有量が、本件特許発明3では1?10質量部であるのに対し、甲2β発明ではその特定がない点。

<相違点14>
本件特許発明3は、水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含み、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に対する水酸基含有アクリルモノマー(a3)の含有量が5?15質量部であるのに対し、甲2β発明は水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含まない点。

<相違点15>
本件特許発明3は、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合されているのに対し、甲2β発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
相違点について検討する。
相違点13及び14は上記相違点10及び11と実質的に同一の事項といえるところ、上記(ア)bにおいて、<相違点10>について及び<相違点11>についてで検討したとおりである。

c.小括
したがって、本件特許発明1は、上記相違点15を検討するまでもなく、甲2β発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(エ)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3において、「有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである」と特定するものである。
そうすると、上記(ウ)と同様の理由により、本件特許発明4は、甲2β発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明3において、「前記共重合をする際に、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)とともに、前記有機溶剤(c2)を併用する」と特定するものである。
そうすると、上記(ウ)と同様の理由により、本件特許発明6は、甲2β発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(カ)本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明3において、「前記架橋剤(B)が、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物である」と特定するものであ。
そうすると、上記(ウ)と同様の理由により、本件特許発明7は、甲2β発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(キ)本件特許発明8について
本件特許発明8は、「ポリ塩化ビニル製の基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるマーキングフィルムであって、
前記粘着層が、本願発明1又は2に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物によって形成されてなることを特徴とするマーキングフィルム。」であり、本件特許発明1又は2を用いたマーキングフィルムである。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件特許発明8は、甲2α発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲第3号証を主引用例とする場合
(ア)本件特許発明8について
a.甲3発明との対比
本件特許発明8を本件特許発明1を引用せずに書き下すと以下のとおりとなる。
「ポリ塩化ビニル製の基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるマーキングフィルムであって、
前記粘着層が、ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物であって、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部と、水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?70質量部の範囲で配合された共重合体組成物と、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有することを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物によって形成されてなることを特徴とするマーキングフィルム。」
甲3発明の「基材の一方の面に粘着剤層が形成されてなる粘着テープ」は、本件特許発明8の「基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなる・・・フィルム」に相当する。
甲3発明の「2-EHA」、「MA」は、2-EHAは2-エチルヘキシルアクリレートであり、MAはメチルアクリレートであるから、本件特許発明8の「炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)」に相当する。
甲3発明の「AA8質量%」は、AAはアクリル酸であり、「2-EHA」及び「MA」の合計に対して、9.1質量%含有しているから、本件特許発明8の「カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部」に相当する。
甲3発明の「2-HEA5質量%」は、2-HEAは2-ヒドロキシエチルアクリレートであり、「2-EHA」及び「MA」の合計に対して、5.7質量%含有しているから、本件特許発明8の「水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部」に相当する。
甲3発明の「TETRAD-Cを含有する」は、TETRAD-Cはエポキシ系架橋剤であるから、本件特許発明8の「架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する」に相当する。
そうすると、本件特許発明8と甲3発明とは、「基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるフィルムであって、
前記粘着層が、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部と、水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有することを特徴とするフィルム用粘着剤組成物によって形成されてなることを特徴とするフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点16>
本件特許発明8は、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合されているのに対し、甲3発明ではそのような特定がない点。

<相違点17>
フィルムが、本件特許発明8はマーキングフィルムであるのに対し、甲3発明ではそのような特定がない点。

<相違点18>
フィルムの基材が、本件特許発明8はポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムであるのに対し、甲3発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
<相違点16>について
炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合することが、本件出願日前に公知であったことを認めるに足る証拠はない。したがって、相違点16に係る本件発明8の構成は、当業者が容易に想到しうるものといえない。
特許異議申立人は、フィルムの段階では、フィルム中に炭素数が1?5の低級アルコールは存在しないから構成上の相違がない旨主張するが、検出不可能なほど炭素数1?5の低級アルコールが減少すると認めるに足りる証拠はない。特許異議申立人の主張は採用できない。
<相違点17>について
甲第2号証、甲第4号証及び甲第6号証にはアクリル共重合体を用いたマーキングフィルムが記載されている(摘記2c、4a、6a参照)。
しかし、そのことをもって、甲3発明のフィルムをマーキングフィルム用に転用することが、当業者であれば容易に成し得ることであるとはいえない。

c.小括
したがって、本件特許発明8は、上記相違点18を検討するまでもなく、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
本件発明1、2、8の課題は、【0010】の記載からみて、ポリ塩化ビニル製の基材シートに粘着剤層が形成されてなるマーキングフィルム用として有用な、保持力が強く、耐ガソリン性(耐溶剤性)及び耐アルカリ水性に優れたマーキングフィルム用粘着剤組成物を提供することにあると認められる。
本件特許発明3?7の課題は、ポリ塩化ビニル製の基材シートに粘着剤層が形成されてなるマーキングフィルム用として有用な、保持力が強く、耐ガソリン性(耐溶剤性)及び耐アルカリ水性に優れたマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法であって、液の安定性が向上した製造法を提供することにあると認められる。

(1)(a1)?(a3)以外のモノマー成分について
ア 判断
本件特許発明1は、請求項1の記載からみて、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)、水酸基含有アクリルモノマー(a3)以外のモノマー成分に由来する構造単位を含む共重合体が含まれている。
ここで、実施例の記載からみて、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)、水酸基含有アクリルモノマー(a3)以外のモノマー成分に由来する構造単位を少量含む共重合体は、上記課題が解決できることを当業者が理解できる。
本件特許発明2、8についても同様である。

イ 特許異議申立人の主張
(a1)?(a3)以外のモノマー成分の種類及び含有量が特定されていない本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件特許発明1?8は、サポート要件に適合するものではないと主張する。
しかし、本件明細書の記載からみて、(a1)?(a3)以外のモノマー成分を上記課題が解決できないほど多量に含まないことを想定していることは明らかである。
そうすると、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)有機溶剤について
ア 判断
本件特許発明1、2、8は、請求項1、2、8の記載からみて、溶剤として、他の有機溶剤の種類は何ら特定されておらず、また、他の有機溶剤を含まない態様を含み得る。
ここで、実施例の記載からみて、本件特許発明1、2、8については、本件特許発明1、2、8の上記課題が解決できることを当業者が理解できる。
本件特許発明3?7は、溶剤として、他の有機溶剤の種類及びその含有量は特定されていない。
ここで、本件明細書【0028】に「反応溶媒を、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)だけで行った場合には、途中で凝集してしまい良好な共重合反応を行うことができなかった。このため、本発明の製造方法では、少なくとも、例えば、酢酸エチルや酢酸ブチル等の、(c2)以外の有機溶剤(c1)を反応溶媒として用いることを必要としている。」と記載され、他の有機溶剤として酢酸エチルや酢酸ブチル等を用いれば本件特許発明3?7の上記課題が解決できることを当業者が理解できる。

イ 特許異議申立人の主張
炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の溶剤の種類及びその含有比率を何ら特定していない本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件特許発明1?8は、サポート要件に適合するものではないと主張する。
しかし、本件特許発明1、2、8の課題に液の安定性向上は含まれておらず、本件特許発明1、2、8の上記課題が解決できることを当業者が理解できることは、上記アのとおりである。
また、本件特許発明3?7についても、本件明細書の【0028】等の記載からみて、本件特許発明3?7の上記課題を解決できない炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の溶剤を採用しないことを想定していることは、明らかである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(3)カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)、水酸基含有アクリルモノマー(a3)について
ア 判断
実施例の記載からみて、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)、水酸基含有アクリルモノマー(a3)を含むものが、上記課題が解決できることを当業者が理解できる。

イ 特許異議申立人の主張
本件特許発明1によれば、水酸基含有アクリルモノマー(a3)としてフェノール性水酸基を有する場合が含まれ、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)として長鎖アルキル基を有する場合が含まれ、水酸基含有アクリルモノマー(a3)及びカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)の構造を何ら特定していない本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件特許発明1?8は、サポート要件に適合するものではないと主張する。
しかし、水酸基含有アクリルモノマー(a3)としてフェノール性水酸基を有する場合が含まれ、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)として長鎖アルキル基を有する場合、上記課題が解決できないことは立証されておらず、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえない。

(4)小括
本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、令和2年2月5日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、6?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4、6?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項5に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項5に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物であって、炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部と、カルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)1?10質量部と、水酸基含有アクリルモノマー(a3)5?15質量部とを含むモノマーを共重合してなるアクリル系共重合体(A)に、少なくとも炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)が、全モノマー成分100質量部に対して10?50質量部の範囲で配合された共重合体組成物と、架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を用い、前記アクリル系共重合体(A)を前記架橋剤(B)で架橋する構成を有することを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである請求項1に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
ポリ塩化ビニル系の樹脂フィルムを基材とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法であって、
炭素数が1?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)100質量部に、1?10質量部のカルボキシル基含有アクリルモノマー(a2)と、5?15質量部の水酸基含有アクリルモノマー(a3)とを含むモノマーの混合物を、
少なくとも、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)の存在下で共重合した後、前記モノマーの混合物100質量部に対して、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)を10?50質量部の範囲内で添加して、該アルコール系有機溶剤(c2)が配合されてなるアクリル系共重合体(A)含有組成物とし、該組成物に架橋剤(B)としてイソシアネート基非含有の硬化剤を添加して前記アクリル系共重合体(A)を架橋して粘着剤とすることを特徴とするマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤(c2)は、メタノール又はイソプロピルアルコールのいずれかである請求項3に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項5】
削除
【請求項6】
前記共重合をする際に、炭素数が1?5の低級アルコール系有機溶剤(c2)以外の有機溶剤(c1)とともに、前記有機溶剤(c2)を併用する請求項3又は4に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記架橋剤(B)が、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物である請求項3、4、6のいずれか1項に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリ塩化ビニル製の基材シートの一方の面に粘着層が形成されてなるマーキングフィルムであって、
前記粘着層が、請求項1又は2に記載のマーキングフィルム用粘着剤組成物によって形成されてなることを特徴とするマーキングフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-01 
出願番号 特願2015-94194(P2015-94194)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 瀬下 浩一
蔵野 雅昭
登録日 2019-05-24 
登録番号 特許第6528199号(P6528199)
権利者 サイデン化学株式会社
発明の名称 マーキングフィルム用粘着剤組成物、その製造方法及びマーキングフィルム  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  
代理人 近藤 利英子  
代理人 竹山 圭太  
代理人 竹山 圭太  
代理人 近藤 利英子  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  

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