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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1364934
異議申立番号 異議2019-700837  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-23 
確定日 2020-07-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6506448号発明「鉛蓄電池用セパレータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6506448号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6506448号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成30年 5月25日を出願日とする出願であって、平成31年 4月 5日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月24日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和 1年10月23日付けで、特許異議申立人亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)により、請求項1?3に係る本件特許に対して特許異議の申立てがされ、令和 1年12月23日付けで当審から取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、令和 2年 2月28日付けで特許権者から意見書(以下、「意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、本願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】 平均繊維径が1.5μm以下であるガラス繊維を主体とした密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、下記式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であって、下記式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上である鉛蓄電池用セパレータ。
[式1]
MD/CD強度比= MD強度/CD強度
(抄造時の流れ方向に平行に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをMD方向試料とし、抄造時の流れ方向に対して垂直方向に長さ15cm×幅2.5cmに切断した抄造シートをCD方向試料とし、引張試験機のチャック間距離10cm、引張速度25mm/minの条件下で測定した、MD方向試料、CD方向試料の最大破断強度をそれぞれMD強度、CD強度とする。)
[式2]
60kPa注液時圧迫力(%)=(注液後の圧迫力/注液時の圧迫力)×100
(10cm×10cmの湿式抄造シート10枚を試料とし、固定板と可動板の間に挟持して該可動板を1mm/minの移動速度で該固定板側に移動させて60kPaで加圧圧縮し、これを注液時の圧迫力とし、前記試料に比重1.3の硫酸液を注液して1時間放置後の圧迫力を注液後の圧迫力とする。)
【請求項2】
前記ガラス繊維の平均繊維径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】 バインダー成分がゼロであることを特徴とする請求項1乃至2の何れか1項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。」

第3 申立人及び特許権者の主張
1.申立人の主張の概要
申立人は、証拠方法として、下記甲第1?12号証を提出して、以下の申立理由1?6により、請求項1?3に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1(新規性)
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

申立理由2(新規性)
本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

申立理由3(進歩性)
本件発明1?3は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証?甲第5号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

申立理由4(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明は、以下の具体的な理由A、Cによって、本件発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1?3に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

申立理由5(サポート要件)
本件発明1?3は、以下の具体的な理由B、Cによって、本件の発明の詳細な説明に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

・理由A(申立書の[3-1])
本件特許の発明の詳細な説明には、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」であることを特徴とする本件特許の請求項1に記載された「鉛蓄電池用セパレータ」を得るための作製方法が具体的に示されておらず、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」とするための構成および手段を得るためには、当業者が過度な試行錯誤を必要とする。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。また、請求項1を引用する本件発明2、3についても同様である。

・理由B(申立書の[3-2])
本件発明1は、「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であ」り、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上である」蓋然性が高い甲第1号証に記載のセパレータIを含む可能性のあるものであるところ、当該セパレータIは必ずしも満足する電池寿命を示すものではないから、本件発明1に含まれるすべての発明が満足な電池寿命を示すものではない。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものである。また、請求項1を引用する本件発明2、3についても同様である。

・理由C(申立書の[3-3])
本件発明1には、「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」とその上限値が規定されているが、その下限値は一切規定されていない。しかしながら、甲第1号証の記載を参照すると、MD/CD強度比が0.33以下の場合には、加工作業性が悪くなる可能性があり、当業者が適切に本件発明を実施できない可能性があり、電池の容量の低下を抑制できる本件発明の効果が得られない可能性がある。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないし、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものである。また、請求項1を引用する本件発明2、3についても同様である。

申立理由6(明確性)
特許請求の範囲の請求項1?3の記載は、以下の具体的な理由Dと理由Eの点で不備であるから、請求項1?3に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として採用)

・理由D (申立書の[4-1])
請求項1に「平均繊維径が1.5μm以下であるガラス繊維」と記載されている点に関して、本件特許の発明の詳細な説明には、「平均繊維径」の定義、算出方法、測定方法について何ら記載されておらず、また、「平均繊維径」には、「質量平均繊維径」と「数平均繊維径」の少なくとも2種類の「平均繊維径」が存在することは周知である。
したがって、請求項1に記載された「平均繊維径」について一義的に把握することができないため、当該記載を含む本件発明1は明確ではない。また、請求項1を引用する本件発明2、3についても同様である。

・理由E(申立書の[4-2])
請求項1に、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」の測定方法について、「前記試料に比重1.3の硫酸液を注液して1時間放置後の圧迫力を注液後の圧迫力とする」と記載されている点に関して、本件特許の発明の詳細な説明を参照しても、湿式抄造シートに注液する具体的な方法が不明確であり、可動板及び固定板に対してサンプルを設置する方向も不明確であるので、湿式抄造シートに注液する硫酸の量が特定できない。
したがって、「60kPa注液時圧迫力」の定義が不明確であり、当該記載を含む本件発明1は明確ではない。また、請求項1を引用する本件発明2、3についても同様である。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2003-100340号公報
甲第2号証:特許第2762498号公報
甲第3号証:再公表特許第2004/088774号
(申立書には国際公開番号が記載されているが、実際に申立書に添付して提出された文献は再公表特許公報である。)
甲第4号証:特開昭63-237353号公報
甲第5号証:特開昭64-10572号公報
甲第6号証:特開2018-95976号公報
甲第7号証:特開2017-78109号公報
甲第8号証:特開2009-67868号公報
甲第9号証:特開2017-33864号公報
甲第10号証:特開2017-82028号公報
甲第11号証:特開2011-1514号公報
甲第12号証:横型試験機MODEL-2152VCEを記載したホームページ(http://www.aikoh.co.jp/load/2152vce/)の印刷物

なお、甲第1号証?甲第12号証をそれぞれ「甲1」?「甲12」ということがある。

2.特許権者の主張の概要
特許権者は、証拠方法として、下記乙第1?6号証を提出して、下記第4の取消理由1によっては、本件発明1?3を取り消すことができない旨主張している。

<証拠方法>
乙第1号証:特開2018-10803号公報
乙第2号証:特開2016-18660号公報
乙第3号証:特開2016-100181号公報
乙第4号証:国際公開第2015/046468号
乙第5号証:国際公開第2013/168755号
乙第6号証:JIS規格「ガラス繊維一般試験法」(JISR3420:2013)

なお、乙第1号証?乙第6号証をそれぞれ、乙1?乙6ということがある。

第4 取消理由の概要
令和 1年12月23日付けで当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、下記取消理由1は上記申立理由6を採用したものである。

取消理由1(明確性)
特許請求の範囲の請求項1の記載は、「平均繊維径」及び「注液後の圧迫力」の点で技術的に明確に定義されておらず不明瞭であるから、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?3に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.甲号証の記載
甲第1?12号証には以下の事項が記載されている(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付与したものである。以下同様。)。

1-1.甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
1ア 「【0002】【従来の技術】従来、密閉型鉛蓄電池として、ガラス繊維の単独又はこれを主体としこれに耐酸性合成繊維や合成パルプを混合し、抄紙法などにより所定の均一な密度を有する抄紙シートを所定寸法に切断して得たガラス繊維製セパレータを用い、これを正極板と負極板の間に介在させ極板群を組み立て、これを密閉電池セル(電槽)内に組み込み、希硫酸電解液を注液してセパレータに含浸させたものが知られている。

【0005】近年、密閉型鉛蓄電池の大型化に伴ない、電池の高さ方向に対するセパレータの液保持力の改良が望まれており、上下方向の電解液の分布が均一で、電解液濃度の成層化の起こらない優れた密閉型鉛蓄電池が要望されている。
【0006】本出願人は、このような要望を満たすものとして、長さ方向の引張強度T_(L)と巾方向の引張強度T_(W)の比(T_(W)/T_(L))が3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.0である帯状ガラス繊維製セパレータをその長さ方向が極板の高さ方向になるように正・負両極板間に配した密閉型鉛蓄電池を先に提案した(特許第2762498号公報)。
【0007】第5図(a)(極板間に挟まれた状態を示すセパレータの模式的側面図),(b)(セパレータの模式的正面図)に示す如く、このガラス繊維製セパレータ1は、使用時の水平方向に、ガラス繊維2が配向しているものである(図5において、3は正極板を示し、4は負極板を示す。)。このセパレータ1であれば、ガラス繊維2の平行方向の配向により、電解液が重力で下方に流下するのを防止することができ、従って、電解液の成層化、それによる負極のサルフェーションを防止することができる。」

1イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】特許第2762498号公報に記載されるように、セパレータ中のガラス繊維の配向を水平方向としたものは、セパレータ中への電解液の浸入速度が遅く、このため次のような問題があった。
【0010】 (1) セパレータの中への電解液の浸入速度が遅いため、電池への注液に時間が掛かる。注液時間を短縮しようとすると、内部の減圧や外部からの加圧が必要になる。(当審注:○付きの数字を表示できないので( )付きの数字で代替する。以下同様。)
【0011】 (2) セパレータ中に電解液を均一に保持しにくい。即ち、ガラス繊維は硫酸に対して大きな浸漬熱を持ち、一方で圧縮された状態でセパレータは毛細管現象で電解液をかなり強く保持する。このため、セパレータの中への電解液の浸入速度が遅いと、電解液が直ぐに偏在してしまい、一旦偏在した電解液は容易には均一な分布に変化しない。
【0012】 (3) 次のような理由から、極群(セパレータと極板の組み合わせ)内で電解液を均一に分布させにくい。セパレータの両側の正負両極板表面はスポンジ状の性質を有する。セパレータ中への電解液の浸入速度が遅いと、これらのスポンジ状体は注液された電解液の大半をセパレータよりも先に取り込んでしまう。更に、極板活物質の細孔内での硫酸と酸化鉛との酸塩基反応が起きる。定性的には、極群内に浸入していくにつれて、電解液はセパレータに保持されると同時に、硫酸と活物質との反応で消費されてもいくことになる。従って、最終的にセパレータに液が戻ってきても殆ど水のような非常に希薄な液しか戻ってこないことになる。

【0017】本発明は、このように、セパレータ中への電解液の浸入速度が遅いことに起因して起こる問題を解決し、次の(1)?(8)を達成する密閉型鉛蓄電池を提供することを目的とする。
(1) 内部の減圧や外部からの加圧などの特別な方法によらずに、電池への電解液の注液時間を短縮する。
(2) セパレータの中に電解液を均一に保持する。
(3) 極群(セパレータと極板の組み合わせ)内で電解液の均一な分布を促進する。…」

1ウ 「【0021】まず、本発明に好適なガラス繊維製セパレータについて説明する。
【0022】第1図は、本発明の密閉型鉛蓄電池に好適なガラス繊維製セパレータを示す模式的正面図である。
【0023】図示の如く、このガラス繊維製セパレータ1は、方形で、その一側片が上下方向となるように蓄電池内に配設されるものであって、この上下方向となる一側片と直交する巾方向に、即ち、配設時の水平方向に、ガラス繊維2が配向しているものである。
【0024】ガラス繊維製セパレータは、抄造工程において、第2図(a)に示す如く、ネット走行方向Rにガラス繊維が配向しているシートが一般的であり、引張強度の縦(長さ方向)T_(L)と横(巾方向)T_(W)を比べるとT_(W)=T_(L)×0.6?0.75の値を示す。
【0025】このシートより切り抜いてシートの巾方向を電池の高さ方向に合わせれば、目的を果たすことができる。
【0026】しかし、一般に、抄紙シートからガラス繊維製セパレータを切り取り、電池組立を行う際、抄紙シートの使用方向によって
(1) 抄紙工程の流れ方向(ネット走行方向)を、電池の上下方向に使用する。
又は
(2) 抄紙巾方向を、電池の上下方向に使用する。
場合がある。(1)の場合には第2図(b)に示すシートが必要となる。第2図(b)に示すシートを得るには、抄紙巾方向のスラリー液攪拌を強力に行い、抄紙巾方向の水流を作り出し、脱水をゆるやかに行う、即ち引き上げ速度を遅くして抄紙を行えばよい。
【0027】本発明の密閉型鉛蓄電池に用いるガラス繊維製セパレータ1は、第1図に示す如く、ガラス繊維がセパレータの巾方向に配向しているものであるが、配向の程度を引張強度をパラメータとして示した場合、縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向(ガラス繊維製セパレータ巾方向)の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.1以上となる。しかしながら、T_(L)が著しく小さくなり、T_(W)/T_(L)>3.0の状態になると、セパレータの長さ方向強度が弱く、加工作業性が悪くなる。従って、その比(T_(W)/T_(L))は
3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.1
とする。」

1エ 「【0032】製造例1(ガラス繊維製セパレータの製造)
平均繊維直径0.8μmのガラス繊維を用い、ガラス繊維100%のセパレータを製造するにあたり、抄造条件を種々変えることにより、ガラス繊維の配向が異なる、即ち、セパレータの縦方向(T_(L))と横方向との引張強度(T_(W))の比が表1に示す値となるようなセパレータをそれぞれ製造した。
【0033】得られたガラス繊維製セパレータを縦方向を電池高さ方向に使用する場合の諸特性を表1に示す。
【0034】なお、各特性の測定方法は以下に示す通りである。
(1) 厚さ(mm)
試料をその厚み方向に19.6kPaの荷重で押圧した状態で測定する(JIS C-2202)
(2) 目付(g/cm^(2))
試料重量を試料面積で除して求める。
(3) 引張強度(N/10mm^(2))
試料を縦方向又は横方向に巾10mmに切り出し、その両端を引張り、切断するときの外力を求め、厚さで除して、巾10mm、厚さ1mm当りの値(N)で表示する。
【0035】
【表1】



1オ 「【0036】実施例1?6、比較例1?19
このようにして得た2種類のガラス繊維製セパレータを大きさが150mm巾×240mm高さの正極板と負極板との間に、その縦方向が極板の高さ方向になるように配し、所定量の希硫酸電解液(比重1.270d)を注液して200Ah/10HRの密閉型鉛蓄電池を作製した。
【0037】この密閉型鉛蓄電池の作製に当たり、極板及びセパレータとの密閉電池セルへの挿入加圧力Aは、表2?4に示す通りとし、また、電池高さ/極板間距離の比(L/d)Bは表2?4に示す値とした。」

1カ 「【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】表2?4の実施例及び比較例を比較することにより、次のことが判る。
【0046】実施例1?6と比較例19?21を対比することにより、加圧力Aは、電池寿命に直接的な影響を与えることが判る。即ち、加圧力20kPaでは、T_(W)/T_(L)=1.6のセパレータを使用しても、電池寿命が不足することが判る。
【0047】実施例1と比較例4とを比較することにより、セパレータが3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.1の条件を充たしていないと、電解液の注液に時間が二倍掛かることが判る。
【0048】また、実施例5及び6から、3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.1の条件を充たすセパレータであっても、L/d比Bが150を超え、かつ、加圧力Aが100kPaを超えると、電解液の注液がやや不均一になることが判る。」

1キ「第1図


1ク「第5図



(2)甲第1号証に記載の発明
ア 上記1アによれば、従来、密閉型鉛蓄電池には、ガラス繊維を単独で抄紙法で製造した抄紙シートを所定寸法に切断して得たガラス繊維製セパレータが用いられており、上下方向の電解液の分布が均一で、電解液濃度の成層化の起こらない優れた密閉型鉛蓄電池とするために、長さ方向の引張強度T_(L)と巾方向の引張強度T_(W)の比(T_(W)/T_(L))が3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.0である帯状ガラス繊維製セパレータをその長さ方向が極板の高さ方向になるように正・負両極板間に配した密閉型鉛蓄電池が提案されていた。この鉛蓄電池は、第5図aに示されているものであり、使用時の水平方向にガラス繊維2が配向しているので、ガラス繊維2の平行方向の配向により、電解液が重力で下方に流下するのを防止することができる。

イ しかしながら、上記1イによれば、上記アの従来の蓄電池は、セパレータ中のガラス繊維の配向を水平方向としているので、セパレータ中への電解液の浸入速度が遅く、そのため、電池への注液に時間がかかり、注液した電解液が均一な分布にならない等の問題があったので、甲1の発明は、これらの問題を解決しようとするものである。

ウ 上記1ウによれば、甲1の密閉型鉛蓄電池に好適なガラス繊維製セパレータ1は、第1図に示されるように、密閉型鉛蓄電池の上下方向となる一側片と直交する巾方向に、即ち、配設時の水平方向に、ガラス繊維2が配向しているものであり(【0023】)、配向の程度を引張強度をパラメータとして示した場合、縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向(ガラス繊維製セパレータ巾方向)の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が
3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.1
とされたものである(【0027】)。

エ 上記1エによれば、製造例1として、平均繊維直径0.8μmのガラス繊維を用い、ガラス繊維100%のセパレータを製造するにあたり、抄造条件を種々変えることによって、上記ウの引張強度の比(T_(W)/T_(L))の条件を満たすものとして、No.IIのセパレータが形成されている(【0032】)。表1によれば、No.IIのセパレータは、引張強度の比(T_(W)/T_(L))は1.60である。(なお、No.Iのセパレータは、「T_(W)/T_(L)=1.00」であって「3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.1」の条件を満たさないために、No.IIのセパレータに比べて注液に時間が2倍かかるものであり(【0047】)、上記イの課題を解決し得るものではないから、甲1に記載された発明の認定の対象としない。)

オ 以上の検討によれば、甲1には、No.IIのセパレータに注目すると、次の発明が記載されていると認められる。

「平均繊維直径が0.8μmであるガラス繊維100%の湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、
縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.6であり、
密閉型鉛蓄電池に配設される際には水平方向にガラス繊維2が配向する、
密閉型鉛蓄電池用セパレータ。」(以下「甲1発明」という。)


1-2.甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
2ア 「[従来の技術]
従来、密閉形鉛蓄電池として、ガラス繊維の単独又はこれを主体としこれに耐酸性合成繊維や合成パルプを混合し、抄紙法などにより所定の均一な密度を有する抄紙シートを所定寸法に切断して得たガラス繊維製セパレータを用い、これを陽極板と陰極板の間に介在させ極板群を組み立て、これを電槽内に組み込み、セパレータに希硫酸電解液を流動する遊離したものがない程度に含浸させたものが知られている。
従来のガラス繊維製セパレータは、第3図に示す如く、ガラスマイクロファイバー等を原料として湿式抄造する場合において、走行する抄造ネット11上へガラスファイバーのスラリー12を定量供給し、シートを形成して製造されている。このため、繊維の配列は、第4図に示す抄紙のネット走行方向Rに対する横方向X,縦方向Yの平均繊維交叉角α,βは、
α=100±10゜
β= 80±10゜
となる。従って、得られるシートの縦の引張強度は横のそれよりも大きい。」(第1頁2欄1行?第2頁3欄5行)

2イ 「近年、密閉形鉛蓄電池の大型化に伴ない、電池の高さ方向に対するセパレータの液保持力の改良が望まれており、上下方向の電解液の分布が均一で、電解液濃度の成層化の起こらない優れた密閉形蓄電池が要望されている。
従来、セパレータ上部の液保持力を高めるために、セパレータ上部のガラス繊維の繊維径を細くする(特開昭60-100363号)、あるいは、セパレータ上部のガラス繊維密度を大きくする(特開昭62-229657号)技術が提供され、それぞれ効果が得られているが、これらはいずれも製造が容易ではないという不具合がある。また、セパレータの横方向と電池の高さ方向を一致させる方法もあるが、製造工程、設備により、この手段が困難である場合も多い。
本発明は、高さ方向においても均一な液保持性能を有するガラス繊維製セパレータを用いることにより、上記問題点を克服した密閉形鉛蓄電池を提供するものである。」(第2頁3欄22?39行)

2ウ 「 第1図は、本発明の密閉形鉛蓄電池に用いるガラス繊維製セパレータを示す模式的正面図である。
図示の如く、本発明のガラス繊維製セパレータ1は、方形で、その一側片が上下方向となるように蓄電池内に配設されるものであって、この上下方向となる一側片と直交する巾方向に、即ち、配設時の水平方向に、ガラス繊維2が配向しているものである。

発明者等は研究を重ねた結果、抄紙巾方向のスラリー液撹拌を強力に行ない、抄紙巾方向の水流を作り出し、脱水をゆるやかに行なう、即ち引き上げ速度を遅くすることにより得ることができることを見い出した。
本発明の密閉形鉛蓄電池に用いるガラス繊維製セパレータ1は、第1図と第5図(a)に示す如く、ガラス繊維製セパレータ巾方向に配向、もしくはα,β≒90度に配向しているものであるが、配向の程度を引張強度をパラメータとして示した場合、縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向(ガラス繊維製セパレータ巾方向)の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.0以上となる。しかしながらT_(L)が著しく小さくなり、T_(W)/T_(L)>3.0の状態になると、セパレータの長さ方向(流れ方向)強度が弱く加工作業性が悪くなる。
従って、その比(T_(W)/T_(L))は
3.0≧T_(W)/T_(L)≧1.0
とする。」(第2頁4欄8?48行)

2エ 「実施例1?3、比較例
平均繊維直径0.8μmのガラス繊維を用い、ガラス繊維100%のセパレータを製造するにあたり、抄造条件を種々変えることにより、ガラス繊維の配向が異なる、即ち、セパレータの縦方向(T_(L))と横方向との引張強度(T_(W))の比が第1表に示す値となるようなセパレータをそれぞれ製造した。
得られたガラス繊維性セパレータを縦方向を電池高さ方向にに使用する場合の諸特性を第1表に示す。
なお、各特性の測定方法は以下に示す通りである。
(1) 厚さ(mm)
試料をその厚み方向に20kg/dm^(2)の荷重で押圧した状態で測定する(JIS C-2202)。
(2) 目付(g/cm^(2))
試料重量を試料面積で除して求める。
(3) 引張強度(g/15mm巾)
試料を縦方向(使用時に上下方向となる方向)又は横方向(使用時に巾方向となる方向)に巾15mmに切り出し、その両端を引張り、切断するときの外力を求め、厚さで除して、巾15mm、厚さ1mm当りの値(g)で表示する。

第1表より明らかなように、縦,横の引張強度の比がT_(W)/T_(L)=0.63となる従来のセパレータ(比較例)に比べて、
T_(W)/T_(L)=1.00(実施例1)、
1.20(実施例2)、
1.40(実施例3)
となるにつれて、上部(No.1),中部(No.2),下部(No.3)において殆ど同程度の保液性を示し、上下方向で電解液を均一に保持することができる。
このようにして得た4種類のガラス繊維製セパレータ10を第7図に示すように大きさが15mm巾×240mm高さの正極板3と負極板4との間に、抄造時の流れ方向(ネット走行方向)が極板の高さ方向になるように配し、所定量の希硫酸電解液(比重1.270d)を注入して200Ah/10HRの密閉形鉛蓄電池を作製した。」(第3頁5欄3行?6欄19行)

2オ 「第1表

」(第3頁)

2カ 「【第1図】



2キ 「【第4図】



2ク 「【第5図】



(2)甲第2号証に記載の発明
ア 上記2アによれば、従来、密閉型鉛蓄電池には、ガラス繊維のみを原料として湿式抄造した抄紙シートを所定寸法に切断して得たガラス繊維製セパレータが用いられていたところ、上記2イによれば、上下方向の電解液の分布が均一で、電解液濃度の成層化の起こらない優れた密閉型鉛蓄電池が要望されていた。
そこで、甲2の発明が解決しようとする課題は、高さ方向においても均一な液保持性能を有するガラス繊維製セパレータを用いることにより、上記問題点を克服した密閉形鉛蓄電池を提供することである。

イ 上記2ウによれば、甲2のガラス繊維製セパレータ1は、配設時の水平方向に、ガラス繊維2が配向しているものであり、具体的には、ガラス繊維2が、第1図のように幅方向に配向するか、第5図(a)のようにα、β≒90°に配向しているものであり、縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が「1.0≦T_(W)/T_(L)≦3.0」なる条件を満たすものである。
そして、このようなガラス繊維製セパレータは、抄紙巾方向のスラリー液撹拌を強力に行ない、抄紙巾方向の水流を作り出し、脱水をゆるやかに行なう、即ち引き上げ速度を遅くすることにより得ることができる。

ウ 上記2エによれば、平均繊維直径0.8μmのガラス繊維を用いて、ガラス繊維100%のセパレータを製造するにあたり、抄造条件を種々変えることにより、上記イに記載した、縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))と横(巾)方向との引張強度(T_(W))の比が「1.0≦T_(W)/T_(L)≦3.0」なる条件を満たすセパレータとして、上記2オの第1表の実施例1?3が製造された。

エ 上記第1表の実施例1?3のうち、実施例1の引張強度の比は「T_(W)/T_(L)=1.0」すなわち「T_(L)=T_(W)」であるから、横方向の引張強度と縦方向の引張強度が同一なっており、その配向模式図は第5図(a)であるのに対して、実施例2、3の引張強度の比は「T_(W)/T_(L)=1.20、1.40」であり、その配向模式図は第1図であり、横方向に強く配向していることから、上記実施例の中では実施例1がガラス繊維の配向が最もランダムであるといえる。また、甲2のセパレータは、上記イに記載した方法で製造されるものであるから、実施例1のセパレータも同様の方法によって製造されたものである。そして、密閉型鉛蓄電池内では、上記実施例のセパレータは、抄造時の流れ方向(ネット走行方向)が極板の高さ方向になるように配されている(上記2エ)。

オ 以上の検討によれば、甲2には、実施例1に注目すると、次の発明が記載されていると認められる。

「平均繊維直径が0.8μmであるガラス繊維100%の密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、
上記セパレータは、抄紙巾方向のスラリー液撹拌を強力に行ない、抄紙巾方向の水流を作り出し、脱水をゆるやかに行なう、即ち引き上げ速度を遅くした湿式抄造によって製造されており、
縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.0であり、
密閉型鉛蓄電池内では、上記セパレータは、抄造時の流れ方向(ネット走行方向)が極板の高さ方向になるように配される、
密閉型鉛蓄電池用セパレータ。」(以下「甲2発明」という。)

1-3.甲第3号証の記載
3ア 「【背景技術】
従来、ガラス繊維を主体とした湿式抄造シ一トからなる蓄電池用セパレータは、図 5に示すような傾斜式抄紙機を用いて製造されていた。尚、図中細い矢印は、抄紙原料液 4が移動する方向を示し、太い矢印は、脱水される方向を示している。
しかしながら、傾斜式抄紙機を用いてガラス繊維を主体とした湿式抄造シ一トを製造する場合では、ガラス繊維を水に分散させた抄紙原料液 4を張ったプール 5の下から斜め上方向に向かって、フォーミングワイヤ 6下面側から脱水をかけつつフォーミングワイヤ 6を移動させることにより、フォーミングワイヤ 6上面 にガラス繊維を堆積させてガラス繊維層 2を形成させるようにしている。このため、比較的細かい繊維がシートの裏面側(フォーミングワイヤ 6の当接面側)に集まり、一方、比較的大きな繊維は表面側(フォーミングワイヤ 6の当接面の反対面側)に集まり、シートの厚さ方向における繊維分布が不均一になるという問題があった。また、シートの表面側には比較的大きな繊維が集まるため、シートの表面では、表面平滑性が非常に悪いという問題もあった。また、ガラス繊維の堆積面つまりガラス繊維層 2の形成面であるフォーミングワイヤ 6を移動させながら抄き上げているため、繊維の一端がフォーミングワイヤ 6面に着地すると直ちに該繊維はフォーミングワイヤ 6の移動方向に引っ張られる形となる。このため、フォーミングワイヤ 6の移動方向、即ち、 シートの長さ方向に繊維が多く配向する形となり、シートの縦横方向での繊維配向が不均一(繊維配向に方向性がある状態)になるという問題もあった。特に、この問題は、抄造速度を上げた場合、より一層顕著となるため、抄造速度を容易に上げられない要因の一つともなっていた。
このような問題は、特に、上記セパレータを密閉型鉛蓄電池用セパレータとして用いた場合に大きな問題となり得る。まず、シートの厚さ方向での繊維分布が不均一、即ち、繊維分布に勾配が形成されると、厚さ方向での密度分布にも同様の傾向が現れ、シートの表裏面での電解液の吸液速度に差が生じる。よって、充放電時の電解液の移動性が不均一となり、電池性能がばらつく原因となる。また、シートの表面平滑性が悪いと、電極板との密着性が悪くなり、酸素ガス吸収反応が良好に行われなくなり、電池性能を低下させる原因となる。また、シートの縦横方向での繊維配向が不均一、(繊維方向に方向性がある状態)であると、シートの縦横方向での電解液の吸液速度に差が生じる。また、抄造速度が大きく上げられないと、生産性の向上、即ち、製造コストの低減を図ることが難しい。
そこで、本発明は、ガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる蓄電池用セパレータにおいて、繊維分布がセパレータの縦横方向に均一であり、繊維配向がセパレータの縦横方向においてランダムであり、或いは、繊維分布がセパレータの縦横方向及び厚さ方向において均一であり、繊維配向がセパレータの縦横方向においてランダムであり、且つ、前記縦横方向における繊維配向のランダム性が前記セパレータの厚さ方向おいて均一であり、或いは、更に、セパレータの表裏の表面状態が良好な蓄電池用セパレータ及び該セパレータを使用した蓄電池を提供することを目的とする。」(第2頁43行?第3頁28行)

1-4.甲第4号証の記載
4ア 「従来の技術
従来密閉形鉛蓄電池には、充電中に発生するガスを触媒にて水に還元する方式と露出した陰極板で陽極より発生した酸素ガスを吸収すると共に陰極からの水素ガス発生を起こさせない方式との2方式がある。後者方式のいわゆる陰極吸収式鉛蓄電池は、二酸化鉛を反応物質とする陽極板、鉛を反応物質とする陰極板、直径30μm以下の細いガラス繊維を主体にして作った不織布としてのリテーナおよび遊離電解液が存在せず極板とリテーナ中にのみ含浸された希硫酸で構成されている。該方式の電池の特徴となっているリテーナは、ガラス繊維や合成繊維また無機粉体を混合して厚さ0.5?4.0mmの不織布にしたもので、一般的な抄紙法で作ったリテーナの断面を観察すると、ガラス繊維等が層状に積み重なり第2図で示したような状態になっている。リテーナ1′中には抄紙方向に配向したガラス繊維の疎密があり、また空間も存在していた。電解液はこれらリテーナ1′中の空間に80?95%を占めた割合で存在している。」(第1頁左欄下から7行?右欄下から7行)

4イ 「発明が解決しようとする問題点
上記のような構造のリテーナ1′は、(a)取り扱う時にリテーナ1′の表面よりほぐれやすい、(b)リテーナ1′を折り曲げると層状にはかれる、(c)電池内に電解液を注入するとリテーナ1′の強度が低下いわゆるへたる度合が大きい、(d)電解液の分布か不均一になり極板への液供給に不利となる、(e)極板とリテーナ1′との密着性か不足する、(f)電池寿命のレベルか低い等の欠点を有している。」(第1頁右欄下から6行?第2頁左上欄4行)

4ウ 「問題点を解決するための手段
本発明は上記の如き欠点を除去するもので、電池特性の向上をリテーナにより達成することにあり、構成するガラス繊維等の5?50%が不織布の厚さ方向に配向した構造を有するリテーナを使用するものである。」(第2頁左上欄5?10行)

4エ 「実施例
直径が0.7μmを中心としたガラス繊維と、10μmを中心としたガラス繊維及び数幅の合成繊維を水中で混合した懸濁液を用い、これらをフェルト上に沈澱させながら抄紙を行なった。この時にフェルト上のガラス繊維側の圧力に比べてフェルト下側(反対側)の圧力を減圧状態にし、フェルトを通して水を脱水する構造とした。これによって、フェルト上に沈積したガラス繊維は、その5?50%のものが厚さ方向に配向するようになり、その後の脱水・乾燥工程を通してもその構造のままであることかわかった。」(第2頁左上欄14行?右上欄6行)

4オ 「(c)従来、極板とリテーナ1′を積層した極板群を電槽へ収納後電解液を注入するとリテーナ1′のへたりが生じて極板群の加圧が低下した。これに対して本発明によるリテーナ1を使用すると群圧の低下が従来の50%減少から20%減少へとなり、へたりが小さくなるものと判った。このことは電池特性を安定して十分に保持させられることを示している。」(第2頁右上欄下から3行?左下欄5行)

4カ「



1-5.甲第5号証の記載
5ア 「(従来の技術)
従来、密閉型電池用セパレーターは、電池組立時の極群組み込み加圧(10?50kg/dm^(2))に抗するクツション性を備えると共に、電解液注液時の厚さへタリによる電池容量低下を防ぐために画電極板間に介在させるを一般とする。
そして異なった繊維径を混在させたガラス繊維を主体としたセパレーター、或いはガラス繊維に波形状を備えたガラス繊維以外の合成繊維、または粉体などを混合抄造した混抄セパレーターが知られている。」(第1頁左下欄下から6行?右下欄5行)

5イ 「(発明が解決しようとする問題点)
前記従来のセパレーターのうち、前者のガラス繊維を主体とするセパレーターは、繊維径が太くなると毛管現象が悪くなり、しかも、ガラス繊維配向が主に水平方向であるために水の表面張力により水平方向のガラス繊維はたがいに引き寄せられ、厚さのへタリが大きくなる。そのため陰・陽極板への加圧が減少し、セパレーターと極板の有効反応面積も小さくなり、電池容量が低下するという問題がある。」(第1頁右下欄6?15行)

5ウ 「(問題点を解決するための手段)
本発明者等は、前記目的を達成する密閉型電池セパレーターについて鋭意検討した結果、ガラス繊維の配向を適当に調整することによって反撥力を著しく向上させ、電解液の含浸時に収縮が極めて少ないことを知見した。
本発明は、かかる、知見に基づいてなされたものであって、ガラス繊維を主体としたガラス抄造紙から成る密閉型電池用セパレーターにおいて、該抄造紙はその垂直断面単位面積当りでみて、繊維の配向が水平面に対し、角度45°?135°となっている繊維本数割合が40%?90%の範囲であることを特徴とする。
本発明で用いる耐酸性含アルカリガラス繊維の平均繊維径は、太いガラス繊維を主材料とすると毛管現象が悪くなるため、電解液保液量の低下、吸液高さの低下等を考慮すると0.1?3μmが好ましい。」(第2頁左上欄7行?右上欄4行)

5エ 「本発明で用いる抄造紙の製造装置としては紙層を形成するいわゆるフォーミング部分に強力な脱水装置(主にサクションを指す。)を備え、このサクションにより、水中のガラス繊維を抄紙機ワイヤーに向って急速に引き寄せ、セパレーター厚さ方向にガラス繊維を並べることが出来る丸網、短網、長網抄造機のいずれでも良いが、比較的にフォーミング部分で吸引力を変化させやすい短網抄紙機が好ましい。」(第2頁左下欄1?9行)

5オ 「(作 用)
水平方向に対し、45°?135°角度のガラス繊維配向割合が40%?90%である密閉型電池用セパレーターを用いることにより、厚さ方向の収縮に抵抗することが出来て、反撥力は従来品より高く、シかも厚さへタリが生じないので減液時にも極板とセパレーターの密着を維持することができる。」(第2頁左下欄下から6行?右下欄2行)

1-6.甲第6号証の記載
6ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維不織布、複合体、繊維強化熱可塑性樹脂シート、金属張積層シート、ガラス繊維不織布の製造方法および繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法に関する。」

6イ 「【0004】
繊維強化樹脂シートの用途の一つとして、配線板や金属張積層シートの基材(絶縁シート)としての用途が知られている。」

6ウ 「【実施例】
【0049】
[実施例1]
(1)ガラス繊維水性分散液の調製
ガラス長繊維として、質量平均繊維長10mm、質量平均繊維径10μmのガラス繊維チョップドストランド(オーウェンスコーニング社製、CS10JAJP195、長さが0.3?1.0mmのガラス短繊維の含有量:0.1質量%以下)を用意した。また、ガラス短繊維として、上記のガラス長繊維を、はさみを用いて切断して、長さを0.5?1.0mmの範囲に調整したものを用意した。
【0050】
上記ガラス長繊維を40g計り取り、これを、分散剤(ラッコールAL、明成化学工業株式会社製)0.12g(ガラス長繊維に対して0.3質量%)を添加した水20Lに投入し、ラボ用撹拌機(アズワン社製、ウルトラ撹拌機 DC-CHRM25)を用いて撹拌して、分散させ、ガラス長繊維水性分散液を得た。次に、このガラス長繊維水性分散液に上記ガラス短繊維10gを投入し、撹拌した。 こうして、ガラス長繊維とガラス短繊維とが質量比で80:20の割合で水に分散されているガラス繊維水性分散液を調製した。なお、ガラス繊維水性分散液は3回調製した。
【0051】
(2)マトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液の調製
上記(1)で調製したガラス繊維水性分散液に、ポリエーテルイミド(PEI)繊維を85g、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)繊維を5gそれぞれ投入し、前記ラボ用撹拌機を用いて撹拌した。PEI繊維としては、質量平均繊維長15mm、繊維径2.2dtexのもの(クラレ社製)を使用した。PVA繊維としては、質量平均繊維長3mmのもの(クラレ社製、VPB105)を使用した。
【0052】
次いで、PEI繊維とPVA繊維とを投入した分散液に、増粘剤の濃度が0.1質量%の増粘剤水溶液を2L投入し、前記ラボ用撹拌機で撹拌した。増粘剤としては、アニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー社製、スミフロック)を使用した。
そして最後に、水を全体量が28kgとなるように投入し、前記ラボ用撹拌機で撹拌した。こうして、ガラス繊維とマトリックス樹脂繊維とが均一に分散した固形分濃度が0.5質量%のマトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液を調製した。
【0053】
(3)不織布状複合体シートの作製
上記(2)で調製したマトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液を2500g(固形分量:12.5g)分取した。分取した分散液を、25cm角の角型手抄きシートマシン(熊谷理機工業株式会社製)の原質用容器に投入した。次いで、原質用容器内の分散液の固形分濃度が0.15質量%となるように原質用容器に水を投入し、分散液の組成が均一になるように十分に撹拌した後、JIS P 8222に準ずる方法で抄紙を行った。そして、得られたウエットシートを160℃の熱風乾燥機で乾燥して、不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量200g/m^(2))を得た。」

1-7.甲第7号証の記載
7ア 「【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂組成物から製造される成形品(以下、単に「成形品」ともいう)は、衝撃強度や意匠性に優れるため、種々の産業用材料(例えば、家電製品、通信機器や、コンピュータ等の筐体等)として広範に使用されている。…」

7イ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために本発明者は鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、特定種類のガラス繊維と特定種類のエラストマーとを、特定の配合比にて添加すると、優れた衝撃強度を保持しつつ、剛性や外観が向上した成形品を製造できることを見いだした。かかる知見に基づき、本発明者は本発明を完成させるに至った。」

7ウ 「【0009】
ガラス繊維

本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるガラス繊維の質量平均繊維径は4?15μm、好ましくは7?13μm、より好ましくは7?11μmである。平均繊維径が4?15μmであると、外観に優れ、かつ、剛性(特に曲げ強度)が向上した成形品(特に、射出成形品)を得ることができる。

ポリカーボネート樹脂組成物含まれるガラス繊維の繊維径及び繊維長は、例えば、550℃でポリカーボネート樹脂組成物から樹脂分を燃焼により消失させてガラス繊維を取り出し、取り出したガラス繊維の拡大映像から測定することができる。尚、上記の樹脂分燃焼温度(550℃)は、ガラス繊維の軟化温度(600℃以上)よりも低く、ガラス繊維の繊維径や繊維長に影響を及ぼすものではない。また、質量平均繊維径及び質量平均繊維長は、例えば、取り出したガラス繊維から任意に抽出した200本以上の繊維径及び繊維長を測定し、測定値の質量平均を算出することにより得られる。」

1-8.甲第8号証の記載
8ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加用マスターバッチ、前記樹脂添加用マスターバッチを含有する熱可塑性樹脂組成物とそれから得られる成形体に関する。」

8イ 「【0025】
(C-2)成分
(C-2)成分は、タルク、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、亜鉛置換ハイドロタルサイト、A型ゼオライト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
(C-2)成分は、種類に応じて、粉末状又は繊維状のものを用いることができる。粉末状のものは、平均粒子径(測定方法:SEM写真観察にて、500個の粒子径を測定し、重量平均粒子径を算出する)が1?100μmのものを用いることができる。繊維状のものは、平均繊維径(測定方法:SEM写真観察にて、500個の繊維径を測定し、重量平均繊維径を算出する)が1?100μmで、平均繊維長(測定方法:SEM写真観察にて、500個の繊維長を測定し、重量平均繊維長を算出する)が10?5000μmのものを用いることができる。
【0027】
樹脂添加用マスターバッチ中における(C-2)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.1?10質量部であり、好ましくは0.1?5質量部、より好ましくは0.5?3質量部である。(C-2)成分の含有量が前記範囲内であると、樹脂添加用マスターバッチを含む熱可塑性樹脂組成物の流動性が良く、得られた成形体の機械的強度も良い。」

1-9.甲第9号証の記載
9ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池は、相対的に安価で信頼性が高くメンテナンスフリーの特長を持ち、無停電電源装置や電力貯蔵用途等様々な分野に広く使用されている。
【0003】
制御弁式鉛蓄電池の電解液は、通常リテーナと呼ばれるセパレータ中に保時されている。…」

9イ 「【0020】
<ガラス繊維>
本発明におけるガラス繊維は、電解液に希硫酸を用いることから、アルカリガラスやECRガラス、アドバンテックガラス等といった耐酸性を有するものが好ましい。本例で用いる2種類のガラス繊維のうち、第1のガラス繊維は数平均繊維径が0.8?1.0μmであることが好ましく、第2のガラス繊維は数平均繊維径が3.5?5.0μmであることが好ましい。
【0021】
このような条件を満たす2種類のガラス繊維で構成されたリテーナ中のガラス繊維は、数平均繊維長に換算すると200?300μmとなっている。リテーナ中のガラス繊維の数平均繊維長がこのような200?300μmの範囲では、比較的均一な細孔径を有するリテーナが得られ易く、リテーナに対する電解液の透過性が維持される。また、電解液の吸収性に影響を与えないため、後述の吸液速度比の制御が比較的容易である。さらに、リテーナとして十分な強度(例えば引張強度で1MPa以上)を維持することができる。さらに、後述する抄造時には、良好な抄造性が得られ易い。」

9ウ 「【0023】
ここで、本実施の形態において、繊維の数平均繊維径及び数平均繊維長は、例えば、動的画像解析法、レーザースキャン法(例えば、JISL1081に準拠)、走査型電子顕微鏡等による直接観察により求めることができる。具体的には、これらの方法を用いて400本程度の繊維を観察し、その平均値をとることで、上記数平均繊維径及び数平均繊維長を求めることができる。」

1-10.甲第10号証の記載
10ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス長繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットおよびその製造方法並びに構造体に関するものである。

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、自動車の軽量化のために、既存のスチール製やスチール材とプラスチックとの複合材で構成されていた車体下部装着構造体を、ガラス長繊維で補強したプラスチック複合材に代替することである。すなわち、本発明は、高強度および高剛性化を達成しつつ、薄肉化を実現することができ、特にバッテリー周辺部材に要求されるハロゲンフリーで高い難燃性を有し、耐衝撃性、耐薬品性、寸法安定性かつ溶着性に優れるガラス長繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットおよびその製造方法並びにガラス長繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを成形してなる自動車車体下部装着構造体を提供することを目的とするものである。」

10イ 「【0024】
(B)成分のガラス繊維の数平均繊維径は、機械的強度向上の観点から15?20μmであることが好ましい。より好ましい範囲としては15?18μmである。」

10ウ 「【0030】
ここで、本明細書における数平均繊維径は、樹脂組成物ペレットを電気炉に入れて、含まれる有機物を焼却処理し、残渣分から、100本以上のガラス繊維を任意に選択し、光学顕微鏡写真で観察して、これらのガラス繊維の繊維径を測定することにより求めることができる。また重量平均繊維長は同様にして得られた上記100本以上のガラス繊維を倍率1000倍での光学顕微鏡写真を用いて繊維長を計測し、所定の計算式(N本の繊維長を測定した場合、重量平均繊維長=Σ(i=1→N)(N番目の繊維の繊維長)^(2)/Σ(i=1→N)(N番目の繊維の繊維長))により求めることができる。」

1-11.甲第11号証の記載
11ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる電気・電子機器部品に関する。更に詳しくは、扁平断面ガラス繊維で強化されたポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂を基体とし、高剛性、かつ高い寸法安定性を有し、さらには良好な難燃特性を併せ持つガラス繊維強化樹脂組成物からなる電気・電子機器部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維で強化された熱可塑性樹脂は機械的強度、加工性に優れているため広く利用されている。特に、ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、寸法安定性や難燃性といったその優れた特性から機械部品、自動車部品、電気・電子部品、事務機器部品などの多くの用途に用いられている。中でも電気・電子機器部品(特にパソコンの部品)には金属代替材料としてガラス繊維強化樹脂を用いることで軽量化や加工性の向上、加工工程の削減を図ることができるため、金属材料同等の高い剛性、薄肉成形に対応できる優れた流動性、また高い寸法安定性、詳しくは成形収縮率の異方性が小さい低そり材料、加えて不燃性の材料が求められる。」

11イ「【0051】
(B-1成分:扁平断面ガラス繊維)
本発明のB-1成分として使用されるガラス繊維は、扁平断面ガラス繊維である。本発明の扁平断面ガラス繊維としては、繊維断面の長径の平均値が10?50μm、好ましくは15?40μm、より好ましくは20?35μmで、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8、好ましくは2?6、更に好ましくは2.5?5であるガラス繊維である。…また平均繊維長とは、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物中における数平均繊維長をいう。尚、かかる数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、並びに薬品による分解等の処理で採取される充填材の残さを光学顕微鏡観察した画像から画像解析装置により算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維径を目安にそれ以下の長さのものはカウントしない方法による値である。」

1-12.甲第12号証の記載
甲12は、アイコ-エンジニアリング株式会社のホームページであって、横型試験器MODEL-2152VCEの写真と当該試験器の仕様等が記載されている。

2.乙号証の記載
乙第1?6号証には以下の記載がある。

2-1.乙第1号証の記載
乙1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレーターに関する。」

乙1イ 「【0010】
<鉛蓄電池用セパレーター>
本実施形態の鉛蓄電池用セパレーターは、ガラス繊維と有機系バインダーとを有する鉛蓄電池用セパレーターであって、前記鉛蓄電池用セパレーター中のガラス繊維が、このガラス繊維の全質量を基準として、数平均繊維径1μm以下のガラス繊維を30?95質量%と、数平均繊維径5?15μmのガラス繊維を5?70質量%含む。
【0011】
(ガラス繊維)
ガラス繊維としては、鉛蓄電池用セパレーターに通常使用されている市販のガラス繊維を使用できる。ガラス繊維は、アルカリガラスであることが好ましい。このようなものとして、耐酸性に優れたCガラス組成のものが挙げられる。
【0012】
ガラス繊維の組成は、ガラス繊維の全質量を基準として、数平均繊維径1μm以下のガラス繊維が30?95質量%、数平均繊維径5?15μmのガラス繊維が5?70質量%であり、数平均繊維径1μm以下のガラス繊維が40?90質量%、数平均繊維径5?15μのガラス繊維が10?60質量%であることがより好ましい。数平均繊維径1μm以下のガラス繊維が95質量%以下であることにより、折り曲げ時の強度の低下が抑えられ、亀裂や破断を抑制できる。数平均繊維径5?15μmのガラス繊維が70質量%以下であることにより構造が脆弱になりにくい。」

2-2.乙第2号証の記載
乙2ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉛蓄電池の短絡は、放電時に硫酸鉛がセパレータ内部に析出し、この硫酸鉛が充電に伴い還元されて鉛のデンドライドが生成されるためと考えられる。このため、放電時のセパレータ中の硫酸鉛を低減すること、すなわなち、鉛イオンを補足し、予めセパレータ内部の硫酸鉛の析出を防ぐことが重要である。 しかしながら、特許文献1及び2に記載されているセパレータにおいて、ホウ酸、メソポーラスシリカ、ゼオライト等は鉛イオンの吸着性能が十分であるとは言えない。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みたものであり、鉛イオンの吸着性能に優れる鉛蓄電池用セパレータ及びそれを用いた鉛蓄電池を提供することを目的とする。」

乙2イ 「【0017】
(ガラス繊維)
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、保水性をより向上できる観点から、ガラス繊維を更に含むことが好ましい。
【0018】
ガラス繊維は、アルカリガラスであることが好ましい。ガラス繊維の繊維径に特に制限はないが、数平均繊維径が0.5μm?5μmであることが好ましく、0.5μm?4μmであることがより好ましく、0.5μm?2μmであることが更に好ましい。ガラス繊維の繊維径が0.5μm以上であると均一な細孔径にし易くなる傾向にあり、また、5.0μm以下であると、良好な強度となる。」

2-3.乙第3号証の記載
乙3ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータに関するものであり、特に、非水系電解液に対し好適に用いられる電気化学素子用セパレータに関する。本発明はまた、このような電気化学素子用セパレータを用いたリチウムイオン二次電池に関する。」

乙3イ 「【0015】
<電気化学素子用セパレータ>
本実施形態の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)は、繊維径が0.1?0.5μmのガラス繊維、及び繊維径が1?150nmである有機繊維を含む。
【0016】
<ガラス繊維>
ガラス繊維はアルカリガラスであっても無アルカリガラスであってもよい。ガラス繊維の繊維径は、数平均繊維径が0.1?0.5μmであるが、電池特性をより向上できる観点からは、0.15?0.45μmであることがより好ましく、0.2?0.4μmであることがさらに好ましい。…」

2-4.乙第4号証の記載
乙4ア 「技術分野
[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。」

乙4イ 「[0012] 以下、本発明のリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。

[0047] -セパレータ-
セパレータの材質及び形状については、特に限定されない。ただし、セパレータの材料としては、電解液に対して安定であり、保液性に優れた材料を用いることが好ましい。具体的には、セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等を含むポリオレフィン多孔質膜;ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ガラス繊維、セルロース繊維、ポリイミド繊維等を含む不織布;などを用いるのが好ましい。これらの中でも、電解液に対して安定であり、保液性に優れる点から、セパレータとしては、不織布が好ましく、ポリオレフィン繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、及びポリイミド繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む不織布がより好ましい。
[0048] セパレータは、ガラス繊維、及び樹脂を含む多孔質基体であることが更に好ましい。
[0049] <ガラス繊維>
ガラス繊維は、アルカリガラスであっても、無アルカリガラスであってもよい。ガラス繊維の繊維径に特に制限はなく、数平均繊維径は0.5μm?5.0μmであることが好ましく、0.5μm?4.0μmであることがより好ましく、0.5μm?2.0μmであることが更に好ましい。ガラス繊維の繊維径が0.5μm以上であると均一な細孔径にし易くなる傾向にある。また、ガラス繊維の繊維径が5.0μm以下であると、充分に薄い(例えば、50μm以下)電気化学セパレータを製造し易くなり、また後述する抄造時に良好な抄造性を得易い傾向にある。」

2-5.乙第5号証の記載
乙5ア 「[0025] 本発明の電気化学素子用セパレータは、薄膜化が可能で、イオン透過性に優れるため低抵抗であり、且つ、電気化学素子が熱暴走した際の安全性を向上することができる。したがって、本発明の電気化学素子用セパレータは、種々の電気化学素子、特に、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ又はアルミニウム電解コンデンサ用として好適に用いることができる。」

乙5イ 「[0028] <電気化学素子用セパレータ>
本実施形態の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という。)は、無機繊維及び有機物を含む多孔質基体からなる不織布セパレータであり、無機繊維の一部又は全部が有機物により被覆されており、無機繊維が有機物を介して結着されている。無機繊維を用いることにより耐熱性が付与され、特に高温における電池の安全性を向上することができる。また、有機物により無機繊維の一部又は全部を被覆し、なおかつ無機繊維同士を結着しているため、セパレータに柔軟性が付与される。…
[0029] (無機繊維)
無機繊維は、織布状であっても不織布状であってもよい。また、無機繊維としてはガラス繊維及びSiC繊維の少なくとも一種を例示することができるが、ガラス繊維を用いることが好ましい。無機繊維としてガラス繊維及びSiC繊維の少なくとも一種を用いることにより、セパレータの耐熱性をさらに向上することができる。
[0030] ガラス繊維はアルカリガラスからなるものであっても無アルカリガラスからなるものであってもよい。また、無機繊維の繊維径に特に制限はないが、数平均繊維径が0.4?5μmであることが好ましく、0.5?3μmであることがより好ましい。繊維径が0.4μm以上であると均一な細孔径にし易くなる傾向にあり、また、5μm以下であると、充分に薄い(例えば、150μm以下)電気化学セパレータを製造し易くなる傾向にある。なお、無機繊維の数平均繊維径は、例えば、動的画像解析法、レーザースキャン法(例えば、JIS (L1081)に準拠)、走査型電子顕微鏡等による直接観察などにより求めることができる。」

2-6.乙第6号証の記載
乙6ア 「





3.「平均繊維径」に関する取消理由1についての判断
ア 取消理由において、請求項1に記載された「平均繊維径」が不明確であるとしたが、その理由は概略次のとおりである。
すなわち、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、「平均繊維径」について、その定義、算出方法、測定方法について何ら記載されていない。
また、上記1.の1-6.?1-11.で摘記した甲6?11の記載(特に下線部の記載)によれば、ガラス繊維の「平均繊維径」について、従来、「質量(重量)平均繊維径」と「数平均繊維径」の少なくとも2種類の「平均繊維径」が使用されていることが理解される。
つまり、本件明細書を参酌しても、また、甲6?11を参酌しても、本件発明1の「平均繊維径」がどのような定義に基づくものであるか確定することができず、その定義が異なれば、同じガラス繊維径の測定値に対して異なる「平均繊維径」が求められることとなるので、本件発明1の「平均繊維径が1.5μm以下である」との特定事項を一義的に解釈することができない。
したがって、本件発明1は、「平均繊維径」について技術的に明確に定義されていないので、特許を受けようとする発明が明確ではなく、また、請求項1を引用する本件発明2、3についても、同様の理由で、特許を受けようとする発明が明確ではない、というものである。

イ しかし、上記アの取消理由に対して、被請求人が提出した意見書を参酌すると、以下のウ?オの理由により、「平均繊維径」とは「数平均繊維径」を意味するものと解することが相当である。

ウ 甲6?11に記載された「ガラス繊維」の使用用途について確認すると、甲6では、配線板や金属張積層シートの基材(絶縁シート)に使用される繊維強化樹脂シートの原料として使用され(6ア?6ウ参照)、甲7では、家電製品等の筺体に使用されるポリカーボネートへの添加材として使用され(上記7ア、7イ参照)、甲8では、樹脂添加用マスターバッチの含有成分として使用され、甲9では、制御弁式鉛蓄電池のセパレータを構成する原料として使用され、甲10では、車体下部装着構造体用のプラスチック複合材を補強する含有成分として使用され(上記10ア参照)、甲11では、機械部品、自動車部品、電気・電子部品、事務機器部品として使用されているから(上記11ア参照)、甲6?8、10?11におけるガラス繊維の用途は、鉛蓄電池のセパレータ用ではないが、甲9には、ガラス繊維を鉛蓄電池のリテーナ(セパレータ)の構成原料として使用することが記載されている。
したがって、鉛蓄電池の技術分野に使用されるガラス繊維について記載された甲号証は甲9のみであり、甲9では、ガラス繊維の径は「数平均繊維径」として算出することが記載されている(上記9ウ、9エ参照)。

エ また、被請求人が意見書に添付した乙1、2号証にはいずれも、鉛蓄電池用セパレータに含まれるガラス繊維の繊維径を「数平均繊維径」として測定することが記載されており(上記乙1イ、乙2イ参照)、乙3?5号証はリチウム二次電池用セパレータ中のガラス繊維径を「数平均繊維径」として測定することが記載されている(上記乙3イ、乙4イ、乙5イ参照)。

オ 上記ウ、エの検討によれば、鉛蓄電池の技術分野もしくは二次電池の技術分野でセパレータに使用されるガラス繊維の繊維径については、「数平均繊維径」で表示するのが通常のことと認められるし、乙6のJIS規格「ガラス繊維一般試験法」(JIS R 3420:2013)においても、単繊維直径を25個の測定結果の平均から求めると記載されていることから(「7.6.4結果の表し方」)、鉛蓄電池用セパレータに関する本件発明1で特定されている「ガラス繊維」の「平均繊維径」は、「数平均繊維径」として測定されたものであると解するのが相当である。

カ したがって、本件発明1の「平均繊維径」は「数平均繊維径」で測定されたものであるといえるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?3は「平均繊維径」の点で不明確であるとはいえない。

4.「注液後の圧迫力」に関する取消理由1についての判断
ア 取消理由において、請求項1に「前記試料に比重1.3の硫酸液を注液して1時間放置後の圧迫力を注液後の圧迫力とする」と記載されている点に関して、「硫酸液」の試料への注液量が不明であるために「注液後の圧迫力」の測定条件が不明確であって、その結果として「60kPa注液時圧迫力」を一義的に特定することができないから、特許を受けようとする発明が明確ではないとした。その具体的な理由は次のイ?ウのとおりである。

イ 「硫酸液」の試料への注液量に関して、本件明細書には次の記載がある。
「【0009】 本発明は、上記知見に基づきなされた発明であって、本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、前記目的を達成するべく、請求項1記載の通り、ガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、下記式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であって、下記式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上であることを特徴とする。 [式1] MD/CD強度比=MD強度/CD強度(抄造時の流れ方向に平行に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをMD方向試料とし、抄造時の流れ方向に対して垂直方向に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをCD方向試料とし、引張試験機のチャック間距離10cm、引張速度25mm/minの条件下で測定したMD方向試料、CD方向試料の各最大破断強度をそれぞれMD強度、CD強度とする。) [式2] 60kPa注液時圧迫力(%)=(注液後の圧迫力/注液時の圧迫力)×100(10cm×10cmの湿式抄造シート10枚を試料とし、固定板と可動板の間に挟持して該可動板を1mm/minの移動速度で該固定板側に移動させ60kPaで加圧圧縮し、これを注液時の圧迫力とし、前記試料に比重1.3の硫酸液を注液して1時間放置後の圧迫力を注液後の圧迫力とする。)」
「【0013】 また、式(2)で表される60kPa注液時圧迫力は次の通りである。(2-1)10cm×10cmにカットした湿式抄造シートを10枚重ねとし、試料とする。(2-2)横型圧縮試験機(アイコーエンジニアリング社製 横型荷重測定器 MODEL-2152DW)の固定板と可動板からなる加圧板間に挟み込み、可動板を1mm/minの速度で固定板側へ移動させて、前記試料を60kPaで加圧圧縮する。(2-3)湿式抄造シートが完全に吸水する量の着色硫酸(赤色)(比重1.3)を注液し、1時間放置後の圧迫力を確認し、60kPa注液時圧迫力を下記式にて算出する。 [式2] 60kPa注液時圧迫力(%)=(注液後の圧迫力/注液時の圧迫力)×100」

ウ 上記イの下線部の記載を参照すると、試料へ硫酸液を注液するにあたり、「湿式抄造シートが完全に吸水する量の着色硫酸」を注液すると記載されているが、「湿式抄造シートが完全に吸水する量」が具体的にどの程度の量であるか記載されていない。
そのため、「湿式抄造シートが完全に吸水する量」は、例えばシリンジによって供給可能なわずか一滴の微量から、湿式抄造シートが吸水可能な最大量(湿式抄造シートから漏れることのない最大量)までの範囲内の任意の量と解することが可能であるし、当該最大量についても、液体が流れやすい湿式抄造シートのMD方向が、重力方向となるように挟まれているか、水平方向となるように挟まれているかによっても異なるものと推定される。
そして、湿式抄造シートに吸水される硫酸の量が異なれば、吸水された硫酸によって当該湿式抄造シートに発生する表面張力(段落【0007】参照)の大きさも異なるので、湿式抄造シートの「厚みへたり」の量も異なり、その結果、測定される「注液後の圧迫力」も異なるものになると推定される。
したがって、請求項1において、「注液後の圧迫力」を測定する際の「比重1.3の硫酸液」の注液量が不明であるために「注液後の圧迫力」の測定条件が不明確であって、その結果として「60kPa注液時圧迫力」を一義的に特定することができないから、特許を受けようとする発明が明確ではない。

エ しかしながら、上記ア?ウの取消理由に対して、被請求人が提出した意見書を参酌すると、以下のオ?クの理由により、「湿式抄造シートが完全に吸水する量」とは「湿式抄造シートが吸水可能な最大量(湿式抄造シートから漏れることのない最大量)」を意味するものと解することが相当である。

オ 本件発明は、「鉛蓄電池用セパレータ」に関する発明であり、本件発明が解決しようとする課題とは、段落【0006】を参照すると、「電解液吸液性および電解液保持性を低下させることなく、注液時圧迫力および圧迫力維持率を向上させることで、セパレータの厚さへたりを抑制し、サイクル寿命を長寿命化させた密閉型鉛蓄電池用セパレータを提供すること」であるといえるから、本件発明1において「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上である」ことは、本件発明の「鉛蓄電池用セパレータ」が実際に使用されたときに、厚さへたりが抑制されているものであることを保証していると考えられる。

カ したがって、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」は、本件発明の「鉛蓄電池用セパレータ」が通常使用される態様に準じて性能評価を行うべきものであり、したがって、鉛蓄電池が通常使用される態様に準じて、湿式抄造シートは、どの部分も十分に電解液を含むような状態で評価すべきものであるといえる。すると、硫酸液を試料へ注液する際の「湿式抄造シートが完全に吸水する量」とは、どの部分も十分に電解液を含むように注液される量であり、湿式抄造シートが吸水しきれずに溢れ出るまでの量、すなわち、吸水し得る最大量を意味するものと解するのが相当である。

キ また、本件発明は、段落【0008】や【0016】に記載されているよに、抄紙機のジェットワイヤ比を1に近づけ、抄紙時の傾斜角度を大きくすることで、繊維方向をランダムにし、かつ平面に対して垂直方向のガラス繊維を増加させたものである。
したがって、湿式抄造シートの試料をMD方向が重力方向となるように設定しても、CD方向が重力方向となるように設定しても、シート内の硫酸の流れ易さに大きな違いはないといえるから、試料を挟む際に、MD方向とCD方向のいずれを重力方向とするかによって試料の最大吸水量が異なることはないので、吸水された硫酸によって当該湿式抄造シートに発生する表面張力の大きさが異なることもないと解するのが相当である。

ク したがって、本件発明1の「注液後の圧迫力」の測定条件である「硫酸液」の試料への注液量は、湿式抄造シートが吸水しきれずに溢れ出るまでの量、すなわち、吸水し得る最大量を意味しており、また、湿式抄造シートの挟む方向による最大量の違いもないと考えられるので、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」は一義的に特定されるといえるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?3は「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」の点で不明確であるとはいえない。

5.取消理由として採用しなかった申立理由1、3(甲1を主たる引用例とする新規性進歩性)についての判断

(1)本件発明1と甲1発明の対比
ア 甲1発明の「平均繊維直径が0.8μmであるガラス繊維100%の湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータ」は、本件発明1の「平均繊維径が1.5μm以下であるガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータ」に相当する。

イ 甲1発明において、「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.6」であることは、T_(W)>T_(L)を意味するから、縦方向に比べて横方向の引張強度が高くなっており、このことは、ガラス繊維がセパレータの横(巾)方向に配向しているものであることを意味している。なお、甲1発明において上記引張強度は、試料を縦方向又は横方向に巾10mmに切り出し、その両端を引張り、切断するときの外力を求め、厚さで除して、巾10mm、厚さ1mm当りの値(N/10mm^(2))で表示したものである(【0034】)。

ウ 一方、本件発明1には、「(抄造時の流れ方向に平行に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをMD方向試料とし、抄造時の流れ方向に対して垂直方向に長さ15cm×幅2.5cmに切断した抄造シートをCD方向試料とし、引張試験機のチャック間距離10cm、引張速度25mm/minの条件下で測定した、MD方向試料、CD方向試料の最大破断強度をそれぞれMD強度、CD強度とする。)」と特定されていることから、本件発明1の「MD強度」とは抄造時の流れ方向(MD方向)の強度を意味し、同「CD強度」とはMD方向に垂直な方向(CD方向)の強度を意味する。

エ 上記イ、ウの記載から、甲1発明の「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))」及び「横(巾)方向の引張強度(T_(W))」と、本件発明1の「MD強度」及び「CD強度」とは、測定条件が異なるため測定値自体の直接の対比はできないが、「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))」と「MD強度」、「横(巾)方向の引張強度(T_(W))」と「CD強度」は、それぞれほぼ比例の関係にあると考えられるから、強度比を算出する場合には、測定条件による差異は打ち消されるので、本件発明1の「MD/CD強度比」は、甲1発明の「(T_(W)/T_(L))^(-1)」に相当するものであるといえる。
したがって、甲1発明の「T_(W)/T_(L)=1.6」との条件は、「(T_(W)/T_(L))^(-1)=1.6^(-1)=0.625」によって「MD/CD強度比」に換算することができるから、本件発明の「MD/CD強度比が1.5以下」であることに相当する。

オ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「平均繊維径が1.5μm以下であるガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、下記式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下である鉛蓄電池用セパレータ。
[式1] MD/CD強度比= MD強度/CD強度(抄造時の流れ方向に平行に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをMD方向試料とし、抄造時の流れ方向に対して垂直方向に長さ15cm×幅2.5cmに切断した抄造シートをCD方向試料とし、引張試験機のチャック間距離10cm、引張速度25mm/minの条件下で測定した、MD方向試料、CD方向試料の最大破断強度をそれぞれMD強度、CD強度とする。)」

<相違点1>
「[式2] 60kPa注液時圧迫力(%)=(注液後の圧迫力/注液時の圧迫力)×100(10cm×10cmの湿式抄造シート10枚を試料とし、固定板と可動板の間に挟持して該可動板を1mm/minの移動速度で該固定板側に移動させて60kPaで加圧圧縮し、これを注液時の圧迫力とし、前記試料に比重1.3の硫酸液を注液して1時間放置後の圧迫力を注液後の圧迫力とする。)」としたとき、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」が、本件発明1では「65%以上」であるのに対して、甲1発明ではどのような値であるか不明である点。

(2)相違点1についての判断
ア 相違点1に係る本件発明1の「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との特定事項は、本件明細書の段落【0005】?【0009】 を参照すると、通常の抄紙条件下で抄造したガラス繊維は、抄紙方向にガラス繊維が配向しやすく、注液時には一方向に表面張力が生じるため、厚み方向につぶれやすく、厚さへたりが発生しやすい状態になるという課題に対して、注液時圧迫力および圧迫力維持率を向上させることで、セパレータの厚さへたりを抑制することができ、その結果、密閉型鉛蓄電池用セパレータのサイクル寿命が長寿命化できることを意味する。つまり、MD/CD強度比を1.5以下に(配向をよりランダムに)するとともに、上記特定事項の条件を満たすようにすることによって、セパレータの厚さへたりを抑制して、セパレータのサイクル寿命を長寿命化するという技術的意義がある。

イ 一方、甲1には、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」について記載も示唆もされておらず、そもそも、ガラス繊維の配向方向がそろうことによって厚さへたりが発生するという課題についても認識されていない。また、その他の甲号証においても、この点について記載も示唆もされていない。

ウ したがって、甲1発明において、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」を「65%以上」とする動機付けはないから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

エ なお、相違点1に関して、セパレータのガラス繊維の配向状態の点から検討しても、実質的な相違点ではないとはいえないし、容易になし得るものでもないことを、以下(ア)?(オ)において確認的に検討する。
(ア)本件発明1のセパレータの「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であって、下記式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との特定事項は、本件明細書の【0019】を参照すれば、ジェットワイヤ比とフォーミングワイヤの傾斜角度を調整することによって達成できるものであり、具体的には、抄紙機のジェットワイヤ比を1に近づけることで、繊維が堆積する際に、繊維の一端がフォーミングワイヤ面に着地すると直ちに該繊維はフォーミングワイヤの移動方向に引っ張られる形にならずに済むので、繊維配向がランダムな状態で抄紙でき、圧迫力の向上につながり、また、抄紙時の傾斜角度を大きくすることで、フォーミングワイヤ面に積層する際に、平面に対して垂直方向の繊維が増加し、圧迫力を向上させることができる。そして、同【0007】を参照すれば、圧迫力が向上すると、セパレータの厚みへたりが抑制される。
つまり、本件発明1の「60kPa注液時圧迫力が65%以上」の条件は、「MD/CD強度比が1.5以下」の条件と合わせて、抄紙条件を調整することによってセパレータの繊維配向がランダムな状態であるとともに、垂直方向の繊維が増加することによって、圧迫力が向上していることを意味しており、圧迫力が向上するとセパレータの厚みへたりが抑制されることとなる。

(イ)一方、甲1発明のセパレータは、ガラス繊維の配向を水平としたセパレータにおける問題を解決しようとするものであって、「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(幅)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.6」となっているが、これは、縦方向に比べて横方向の引張強度が高くなっていることを意味しており、このとき、ガラス繊維2は、上記1キの第1図のように水平方向に配向しているので、本件発明1のようにガラス繊維の配向がランダムになっているものではない。

(ウ)なお、上記(1)で検討したように、甲1発明も本件発明1の特定事項である「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」の条件を満たすものであるから、本件発明1と同様のガラス繊維配向状態となっていると見る余地もあるが、例えば、本件発明の実施例における「MD/CD強度比」が1.2?1.4であるのに対して(下記【表1】の実施例1?4の「MD/CD強度比」の欄参照のこと)、甲1発明は「比(T_(W)/T_(L))が1.6」であり「MD/CD強度比」の換算値が「0.625」であるから、実際は、甲1発明は、ガラス繊維が横方向により強く配向しており、本件発明1のようにガラス繊維の配向がランダムであるとはいえない。

「【0018】
【表1】



(エ)そうすると、本件発明1において「60kPa注液時圧迫力が65%以上」であることは、上記アで検討したように、「MD/CD強度比が1.5以下」であることと合わせて、セパレータにおけるガラス繊維の配向がランダムな状態であるとともに、垂直方向の繊維が増加しており、その結果、注液時圧迫力が向上するので、セパレータの厚みへたりが抑制されるのに対して、甲1発明は、「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.6」であるから、ガラス繊維が横方向に強く配向しており、ガラス繊維の配向がランダムになっていないから、圧迫力は本件発明1ほど向上しているものとはいえず、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」であるものではない。

(オ)したがって、甲1発明は、「60kPa注液時圧迫力が65%以上」であるものとはいえないから、相違点1は本件発明1と甲1発明の実質的な相違点であり、相違点1において本件発明1と甲1発明は相違している。
また、甲1発明を「60kPa注液時圧迫力が65%以上」のものとするためには、ガラス繊維の配向をランダムにする必要があるところ、甲1発明は、上記イで検討したように、ガラス繊維を幅方向に配向することを前提とするものであるから、甲第3?5号証の記載内容にかかわらず、ガラス繊維をランダムに配向するものとすることによって、「60kPa注液時圧迫力が65%以上」とすることには阻害要因がある。

オ 以上の検討から、本件発明1は、甲1に記載した発明ではないし、甲1発明と甲3?甲5の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を全て備える鉛蓄電池用セパレータの発明であるところ、上記(2)で検討した理由と同様の理由によって、甲1発明と相違点1で相違するので同一ではなく、また、甲1発明及び甲3?甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものではない。
また、本件発明1?3は、甲第1号証に記載の発明と、甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、甲1を主たる引用例とする申立理由1、3には理由がない。

6.取消理由として採用しなかった申立理由2、3(甲2を主たる引用例とする新規性進歩性)についての判断

(1)本件発明1と甲2発明の対比
ア 甲2発明の「平均繊維直径が0.8μmであるガラス繊維100%の密閉型鉛蓄電池用セパレータ」は、本件発明1の「平均繊維径が1.5μm以下であるガラス繊維を主体とした」「密閉型鉛蓄電池用セパレータ」に相当する。

イ 甲2発明の「セパレータ」が「抄紙巾方向のスラリー液撹拌を強力に行ない、抄紙巾方向の水流を作り出し、脱水をゆるやかに行なう、即ち引き上げ速度を遅くした湿式抄造によって製造されて」いることは、本件発明1の「セパレータ」が「湿式抄造シートからなる」ことに相当する。

ウ 甲2発明において、「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))に対する横(巾)方向の引張強度(T_(W))の比(T_(W)/T_(L))が1.0」であることは、T_(W)=T_(L)すなわち縦方向と横方向の引張強度が等しくなっており、ガラス繊維がセパレータの縦方向と横方向とに同様に配向しているものであることを意味している。
なお、甲2発明における「引張強度」は、試料を縦方向(使用時に上下方向となる方向)又は横方向(使用時に巾方向となる方向)に巾15mmに切り出し、その両端を引張り、切断するときの外力を求め、厚さで除して、巾15mm、厚さ1mm当りの値(g)で表示したものである(上記2エの(3))。

エ 一方、本件発明1には、「(抄造時の流れ方向に平行に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをMD方向試料とし、抄造時の流れ方向に対して垂直方向に長さ15cm×幅2.5cmに切断した抄造シートをCD方向試料とし、引張試験機のチャック間距離10cm、引張速度25mm/minの条件下で測定した、MD方向試料、CD方向試料の最大破断強度をそれぞれMD強度、CD強度とする。)」と特定されていることから、本件発明1の「MD強度」とは抄造時の流れ方向(MD方向)の強度を意味し、同「CD強度」とはMD方向に垂直な方向(CD方向)の強度を意味する。

オ 上記ウ、エの記載から、甲2発明の「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))」及び「横(巾)方向の引張強度(T_(W))」と、本件発明1の「MD強度」及び「CD強度」とは、測定条件が異なるため測定値自体の直接の対比はできないが、「縦(長さ)方向の引張強度(T_(L))」と「MD強度」、「横(巾)方向の引張強度(T_(W))」と「CD強度」は、それぞれほぼ比例の関係にあると考えられるから、強度比を算出する場合には、測定条件による差異は打ち消されるので、本件発明1の「MD/CD強度比」は、甲2発明の「(T_(W)/T_(L))^(-1)」に相当するものであるといえる。
したがって、甲2発明の「T_(W)/T_(L)=1.0」との条件は、「(T_(W)/T_(L))^(-1)=1.0^(-1)=1.0」によって「MD/CD強度比」に換算することができるから、本件発明の「MD/CD強度比が1.5以下」であることに相当する。

カ そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「平均繊維径が1.5μm以下であるガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、下記式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下である鉛蓄電池用セパレータ。
[式1] MD/CD強度比= MD強度/CD強度(抄造時の流れ方向に平行に長さ15cm×幅2.5cmに切断した湿式抄造シートをMD方向試料とし、抄造時の流れ方向に対して垂直方向に長さ15cm×幅2.5cmに切断した抄造シートをCD方向試料とし、引張試験機のチャック間距離10cm、引張速度25mm/minの条件下で測定した、MD方向試料、CD方向試料の最大破断強度をそれぞれMD強度、CD強度とする。)」

<相違点2>
「[式2] 60kPa注液時圧迫力(%)=(注液後の圧迫力/注液時の圧迫力)×100(10cm×10cmの湿式抄造シート10枚を試料とし、固定板と可動板の間に挟持して該可動板を1mm/minの移動速度で該固定板側に移動させて60kPaで加圧圧縮し、これを注液時の圧迫力とし、前記試料に比重1.3の硫酸液を注液して1時間放置後の圧迫力を注液後の圧迫力とする。)」としたとき、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」が、本件発明1では「65%以上」であるのに対して、甲2発明では、どのような値であるか不明である点。

(2)相違点2についての判断
ア 相違点2に係る本件発明1の「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との特定事項は、本件明細書の段落【0005】?【0009】を参照すると、通常の抄紙条件下で抄造したガラス繊維は、抄紙方向にガラス繊維が配向しやすく、注液時には一方向に表面張力が生じるため、厚み方向につぶれやすく、厚さへたりが発生しやすい状態になるという課題に対して、注液時圧迫力および圧迫力維持率を向上させることで、セパレータの厚さへたりを抑制することができ、その結果、密閉型鉛蓄電池用セパレータのサイクル寿命が長寿命化できることを意味する。つまり、MD/CD強度比を1.5以下に(配向をよりランダムに)するとともに、上記特定事項の条件を満たすようにすることによって、セパレータの厚さへたりを抑制して、セパレータのサイクル寿命を長寿命化するという技術的意義がある。

イ 一方、甲2には、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」について記載も示唆もされておらず、そもそも、ガラス繊維の配向方向によって厚さへたりが発生するという課題についても認識されていない。また、その他の甲号証においても、この点について記載も示唆もされていない。

ウ したがって、甲2発明において、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力」を「65%以上」とする動機付けはないから、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

エ なお、相違点2に関して、セパレータのガラス繊維の配向状態の点から検討しても、実質的な相違点ではないとはいえないし、容易になし得るものでもないことを、以下(ア)?(サ)において確認的に検討する。
(ア)本件発明1のセパレータは「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であって、下記式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」なる条件を満たすものであるが、そのようなセパレータを製造する方法について、本件明細書の段落【0011】に、「抄造方法は紙を形成するフォーミング部分に脱水装置を備え、このサクションにより、水中のガラス繊維を抄紙機ワイヤーに向かって引き寄せ、ガラス繊維を積層させることのできる丸網式抄紙機、傾斜式抄紙機などが挙げられるが、繊維配向の調整の観点からは傾斜式抄造機の使用が好ましい。この場合、抄紙機のジェットワイヤ比は、0.9?1.1と1に近づけることが好ましい。また、抄紙機の傾斜角度は10?20度と大きくすることが好ましい。」と記載されている。
つまり、本件発明は、ジェットワイヤ比を0.9?1.1とすること、すなわち、スラリー供給速度とワイヤの走行速度をほぼ同じとすることによって、セパレータのガラス繊維が抄紙方向に引っ張られて、配向方向が抄紙方向に偏らないようにするとともに、傾斜角度を10?20度とすることによって、ガラス繊維がセパレータの面に対して垂直方向への配向成分も有するように調整することによって、ガラス繊維の配向方向が水平方向にランダムであるのみならず垂直方向にも配向しており、その結果、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との条件を満たすものと解することができる。

(イ)一方、甲2発明は、ガラス繊維の配向方向が上記2クの第5図(a)のようなものであるから、上記2カの第1図で表される実施例2、3のように幅方向に配向されている状態よりもランダムであるとはいえるが、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との条件が実現している程度に、ガラス繊維の配向方向が水平方向にランダムであるのみならず垂直方向にも配向しているとまではいえないから、本件発明1と甲2発明は、相違点2において実質的に相違している。

(ウ)ここで、相違点2の容易想到性を検討するにあたり、甲3?甲5に記載された事項との組み合わせについて検討する。

(エ)まず、甲3について検討する。
上記3アによれば、傾斜式抄紙機を用いてガラス繊維を主体とした湿式抄造シ一トを製造する場合に、細かい繊維がシートの裏面側に集まり、大きな繊維は表面側に集まるという、シートの厚さ方向における繊維分布が不均一になるという問題があり、また、シートの縦横方向での繊維配向が不均一になるという問題があったところ、このような湿式抄造シ一トを密閉型鉛蓄電池用セパレータとして用いた場合に、次の問題が生じる。すなわち、シートの厚さ方向での繊維分布が不均一に形成されると、シートの表裏面での電解液の吸液速度に差が生じ、充放電時の電解液の移動性が不均一となり、電池性能がばらつく原因となり、また、シートの縦横方向での繊維配向が不均一であると、シートの縦横方向での電解液の吸液速度に差が生じるので、同様に電池性能がばらつく。
そこで、甲3の発明は、ガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる蓄電池用セパレータにおいて、繊維分布がセパレータの縦横方向及び厚さ方向において均一であり、繊維配向がセパレータの縦横方向においてランダムであり、且つ、前記縦横方向における繊維配向のランダム性が前記セパレータの厚さ方向おいて均一である蓄電池用セパレータを提供することを目的とするものである。

(オ)つまり、甲3は、シートの厚さ方向での繊維分布が不均一であり、シートの縦横方向での繊維配向が不均一であると、吸液速度が不均一となって電池性能がばらつくという問題を解決するために、繊維分布がセパレータの縦横方向及び厚さ方向において均一であり、繊維配向がセパレータの縦横方向においてランダムである蓄電池用セパレータを提供するにとどまり、セパレータを水平方向にランダムに配向させるのみなならず垂直方向にも配向させることで、本件発明1のように、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」とすることにより、注液時圧迫力を向上させて、セパレータの厚さへたりを抑制し、サイクル寿命を長寿命化させた密閉型鉛蓄電池用セパレータを得ることについては記載も示唆もされていない。

(カ)次に、甲4について検討する。
上記4ア、4イによれば、密閉形鉛蓄電池のうち陰極吸収式鉛蓄電池において、従来のリテーナは、上記4カの第2図で示されたような、ガラス繊維等が層状に積み重なっている状態であって、抄紙方向に配向したガラス繊維の疎密があり、空間も存在していた。このような構造の従来のリテーナ1’は、電池内に電解液を注入するとリテーナ1’の強度が低下する、いわゆるへたる度合が大きい等の欠点を有している。
そこで、上記4ウによれば、甲4の発明は、上記欠点を除去するために、構成するガラス繊維等の5?50%が不織布の厚さ方向に配向した構造を有するリテーナを使用するものである。
上記4エによれば、甲4の発明であるリテーナの製造方法は、直径が0.7μmを中心としたガラス繊維と、10μmを中心としたガラス繊維及び数幅の合成繊維を水中で混合した懸濁液を用い、これらをフェルト上に沈澱させながら抄紙を行ない、この時にフェルト上のガラス繊維側の圧力に比べてフェルト下側(反対側)の圧力を減圧状態にし、フェルトを通して水を脱水するようにしたものである。こうして得られたリテーナ1を使用すると、極板群の加圧の低下が従来の50%減少から20%減少となり、へたりが小さくなる。

(キ)つまり、甲4は、従来のリテーナ1’は抄紙方向に配向したガラス繊維の疎密があり、空間が存在していたので、電解液を注入するとへたりが生じていたが、2種類の繊維径を有するガラス繊維を用いてフェルト上に沈殿させながら抄紙を行うことで、構成するガラス繊維等の5?50%が不織布の厚さ方向に配向した構造を有するリテーナ1を使用することによって、上記へたりを小さくしたものである。

(ク)甲4では、リテーナを構成するガラス繊維を厚さ方向に配向させてへたりを抑制する点では、本件発明1の製造方法と共通する部分もあるが、甲4ではリテーナの縦横方向におけるガラス繊維の配向については何ら記載されていない。そのため、仮に、甲2発明において、上記クに記載した0.7μmと10μmの2種類の繊維径を有するガラス繊維を用いてフェルトを利用する製造方法を採用すると、垂直方向にガラス繊維の配向が生じてへたりが抑制されるので「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との条件を満たす可能性はあるものの、繊維径10μmという大きい径のガラス繊維を使用しているので、「平均繊維系が1.5μm以下であるガラス繊維を主体とした」セパレータにはなるとはいえないし、「比(T_(W)/T_(L))が1.0」が維持されるか、もしくは「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」の条件を満たすかも不明である。

(ケ)最後に、甲5について検討する。
上記5イによれば、セパレータのガラス繊維の配向方向が水平方向であると水の表面張力によってガラス繊維が互いに引き寄せられて厚さのへたりが大きくなるという問題があり、上記5ウによれば、上記問題を解決する甲5のガラス抄造紙から成る密閉型電池用セパレーターとは、垂直断面単位面積当りでみて、繊維の配向が水平面に対し角度45°?135°となっている繊維本数割合が40%?90%の範囲であることを特徴とするものである。
そして、上記5オによれば、水平面に対し角度45°?135°となっている繊維本数割合が40%?90%の範囲となるように、セパレータの厚さ方向にガラス繊維を配向させると、厚さ方向の収縮に抵抗することができるので、厚さへたりが生じない。
また、上記5エによれば、そのような厚さ方向への配向を実現するための製造方法とは、フォーミング部分に強力な脱水装置(サクション)を備え、このサクションにより、水中のガラス繊維を抄紙機ワイヤーに向って急速に引き寄せ、セパレーター厚さ方向にガラス繊維を並べるというものである。

(コ)そこで、甲2発明において、上記サに記載した甲5の製造方法を組み合わせることによって、相違点2に係る特定事項である「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」となし得るかについて検討する。
甲2発明のセパレータは、「抄紙巾方向のスラリー液撹拌を強力に行ない、抄紙巾方向の水流を作り出し、脱水をゆるやかに行なう、即ち引き上げ速度を遅くした湿式抄造」によって製造しているのに対して、甲5では、上記サに記載したように、強力な脱水装置を用いて水中のガラス繊維を抄紙機ワイヤーに向って急速に引き寄せ、セパレーター厚さ方向にガラス繊維を並べることによって製造するものである。
したがって、ゆるやかな脱水を行うことを前提とする甲2発明において、ガラス繊維をセパレーターの厚さ方向にも配向させるために、強力な脱水装置を用いて急速に引き寄せる甲5の製造方法を採用することは、上記前提に反するので当業者であっても容易になし得ることとはいえないし、仮に、甲2発明において、急速な脱水を採用したとすると、ガラス繊維は垂直方向に配向するので、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」との条件を満たす可能性はあるものの、「比(T_(W)/T_(L))が1.0」が維持されるか、もしくは「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」の条件を満たすかも不明である。

(サ)以上の検討によれば、甲2発明は、「60kPa注液時圧迫力が65%以上」であるものとはいえないから、相違点2は本件発明1と甲2発明の実質的な相違点であり、相違点2において本件発明1と甲2発明は相違している。
また、甲2発明において、甲3?甲5の技術事項を採用することによって、上記一致点を維持したまま、上記相違点2に係る、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

オ したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2発明と甲3?甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明2?3について
本件発明2?3は、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を全て備える鉛蓄電池用セパレータの発明であるところ、上記(2)で検討した理由と同様の理由によって、甲2発明と相違点2で相違するので同一ではなく、また、甲2発明及び甲3?甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものではない。
また、本件発明1?3は、甲第2号証に記載の発明と、甲第3号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、甲2を主たる引用例とする取消理由2、3には理由がない

7.取消理由として採用しなかった申立理由4(実施可能要件)についての判断
7-1.上記理由Aについて
本件明細書には次の記載がある。
「【0011】
本発明の鉛蓄電池用セパレータは、ガラス繊維を主体とした湿式抄造シートからなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、下記式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であって、下記式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上とした。
・・・
また、抄造方法は紙を形成するフォーミング部分に脱水装置を備え、このサクションにより、水中のガラス繊維を抄紙機ワイヤーに向かって引き寄せ、ガラス繊維を積層させることのできる丸網式抄紙機、傾斜式抄紙機などが挙げられるが、繊維配向の調整の観点からは傾斜式抄造機の使用が好ましい。この場合、抄紙機のジェットワイヤ比は、0.9?1.1と1に近づけることが好ましい。また、抄紙機の傾斜角度は10?20度と大きくすることが好ましい。」
「【0018】
【表1】

【0019】
上記表1から、MD/CD強度比が1.5以下であって、60kPa注液時圧迫力が65%以上であると、サイクル性能に優れることが確認できた。
また、上記表1から、ジェットワイヤ比を1に近づけることで、繊維が堆積する際に、繊維の一端がフォーミングワイヤ面に着地すると直ちに該繊維はフォーミングワイヤの移動方向に引っ張られる形にならずに済み、繊維配向がランダムな状態で抄紙でき、圧迫力の向上につながることが確認できた。
また、抄紙時の傾斜角度を大きくすることで、フォーミングワイヤ面に積層する際に、平面に対して垂直方向の繊維が増加し、圧迫力を向上させることができることも確認できた。
このように、ジェットワイヤ比とフォーミングワイヤの傾斜角度を調整することで、MD/CD強度比が1.5以下であって、60kPa注液時圧迫力が65%以上の鉛蓄電池用セパレータを簡単に得ることができる。詳細には、ジェットワイヤ比を1近傍に調整し、フォーミングワイヤの傾斜角度を10度以上に調整することで、MD/CD強度比が1.5以下であって、60kPa注液時圧迫力が65%以上の鉛蓄電池用セパレータを得ることができる。」

以上の記載から、「抄紙機のジェットワイヤ比は、0.9?1.1と1に近づけ」、「抄紙機の傾斜角度は10?20度と大きくする」こと、具体的には表1の実施例1?4で採用されているように、ジェットワイヤ比として1?1.1とし、傾斜角度として12?20とすることによって、本願発明の「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」とすることができるのであるから、本件発明の実施のために、当業者が過度な試行錯誤を必要とするとはいえない。

7-2.上記理由Cについて
本件明細書の段落【0018】の【表1】によれば、「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」である実施例として、MD/CD強度比が、1.2,1.3,1.4のいずれかである実施例1?4が実施されているから、本件発明は実施可能といえる。

8.取消理由として採用しなかった申立理由5(サポート要件)についての判断
8-1.上記理由Bについて
甲1のセパレータIは、「T_(W)/T_(L)=1.00」であり、本件発明の「MD/CD強度比」が「(T_(W)/T_(L))^(-1)」に相当するものであることを勘案すれば、本件発明の「MD/CD強度比が1.5以下」との条件を満たすものであるといえる。しかしながら、上記セパレータIが「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上である」との条件を満たすものであるか不明であるので、この点について以下検討する。
本件発明は、上記7.7-1.で検討したように、ジェットワイヤ比を0.9?1.1とすることで、セパレータのガラス繊維の配向方向がランダムな状態になるとともに、傾斜角度を10?20度とすることで、ガラス繊維がセパレータの面に対して垂直方向への配向成分も有するように調整することによって、「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」であり、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」であるとの特徴を有するものであるといえる。
一方、甲1のセパレータIは、「T_(W)=T_(L)」すなわち、セパレータの幅方向と長さ方向の引張強度は同じであり、セパレータ面内の配向はランダムであるとはいえるが、セパレータの垂直方向の配向がどのようになっているかは不明であり、セパレータの厚みへたりを抑制して「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上」であるほどにガラス繊維が垂直方向への配向しているかは不明である。
したがって、甲1のセパレータIについては、「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下であ」るものであるとはいえるが、「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上である」蓋然性が高いとまではいうことができず、甲1のセパレータIは本件発明に含まれるとはいえないから、甲1のセパレータIが満足する電池寿命を示すものではないことを理由として、本件発明1に含まれるすべての発明が満足な電池寿命を示すものではない、とはいえない。
よって、理由Bによって、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものである、ということはできない。

8-2.上記理由Cについて
本件発明1の「式(1)で表されるMD/CD強度比が1.5以下」との特定は、上限値のみが特定されており、下限値が特定されていないから、MD/CD強度比が1.0より小さいもの、例えば、0.7、0.6等であるものが含まれているので、この特定のみによれば、本件発明1は、セパレータのCD強度がMD強度よりも高いもの、すなわち、ガラス繊維がセパレータの幅方向に配向していて、ランダムな配向ではないため厚みへたりを抑制できず、電池の容量の低下を抑制できないものを含んでいるといえる。
しかしながら、本件発明1は「式(2)で表される60kPa注液時圧迫力が65%以上である」との特定事項をさらに備えるものであり、この特定事項は、ガラス繊維の配向をランダムにするとともに、ガラス繊維がセパレータの面に対して垂直方向への配向成分も有するように調整することによって、注液時にガラス繊維にかかる表面張力が多方向に分散することにより、セパレータの厚みへたりが抑制されることを意味しているから、上述のMD/CD強度比が小さいことにより、ガラス繊維がセパレータの幅方向に配向していて、電池の容量の低下を抑制できないものは、本件発明1の技術範囲から排除されているということができる。
したがって、理由Cによって、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものである、ということはできない。

第6 まとめ
以上のとおり、請求項1?3に係る本件特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由のいずれによっても、取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-07-15 
出願番号 特願2018-100550(P2018-100550)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 池渕 立
北村 龍平
登録日 2019-04-05 
登録番号 特許第6506448号(P6506448)
権利者 日本板硝子株式会社
発明の名称 鉛蓄電池用セパレータ  
代理人 小松 悠有子  
代理人 清水 善廣  
代理人 野田 薫央  
代理人 松田 純一  
代理人 西村 公芳  

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