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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1364935
異議申立番号 異議2020-700270  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-16 
確定日 2020-07-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6590860号発明「アトロピン含有水性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6590860号の請求項1ないし33に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6590860号(以下、「本件特許」という。)に係る特願2017-102939号は、2017年5月24日(パリ条約による優先権主張 2016年5月25日 (SG)シンガポール)を出願日とする特許出願であって、令和1年9月27日にその特許権の設定登録(請求項の数33)がなされ、同年10月16日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和2年4月16日に特許異議申立人小川敦史(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?33に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い、「本件発明1」?「本件発明33」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)。

「【請求項1】
有効成分として0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩を含有し、添加剤として水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記水溶性高分子が、セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物(但し、ジフェンヒドラミン又はD_(2)Oのいずれも含まない)。
【請求項2】
第一の緩衝剤がリン酸緩衝剤である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
リン酸緩衝剤が、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム七水和物、リン酸三ナトリウム、およびリン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来する、
請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項4】
更に、第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する、請求項1から3のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項5】
クエン酸緩衝剤が、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、およびクエン酸二ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来する、請求項4に記載の水性組成物。
【請求項6】
水溶性高分子が、セルロース誘導体である、請求項1から5のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項7】
セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒプロメロースフタル酸エステル、カルボキシメチルエチルセルロース、および酢酸フタル酸セルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の水性組成物。
【請求項8】
セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6または7に記載の水性組成物。
【請求項9】
セルロース誘導体がヒドロキシエチルセルロースである、請求項6から8のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項10】
0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、ヒドロキシエチルセルロース、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤がリン酸緩衝剤である水性組成物。
【請求項11】
更に、第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する、請求項10に記載の水性組成物。
【請求項12】
50ppm未満の濃度の塩化ベンザルコニウムを含有する、請求項1から11のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項13】
塩化ベンザルコニウムを実質的に含有しない、請求項1から12のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項14】
更に、非イオン性等張化剤を含有する、請求項1から13のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項15】
非イオン性等張化剤が、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、キシリトールおよびトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項14に記載の水性組成物。
【請求項16】
非イオン性等張化剤が、グリセリンおよびマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項14または15に記載の水性組成物。
【請求項17】
非イオン性等張化剤がグリセリンである、請求項14から16のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項18】
緩衝剤の濃度が0.001?10%(w/v)である、請求項1から17のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項19】
クエン酸緩衝剤の濃度が0.001?1.0%(w/v)である、請求項4?9および11?18のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項20】
クエン酸緩衝剤の濃度が0.01?0.05%(w/v)である、請求項19に記載の水性組成物。
【請求項21】
水溶性高分子の濃度が0.01?5%(w/v)である、請求項1から20のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項22】
非イオン性等張化剤の濃度が0.01?10%(w/v)である、請求項14から21のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項23】
pHが5以下の範囲である、請求項1?22のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項24】
pHが4?6の範囲である、請求項1?22のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項25】
リン酸緩衝剤の濃度が0.01?1.0%(w/v)である、請求項1から24のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項26】
アトロピンまたはその塩の濃度が0.001?0.025%(w/v)である、請求項1から25のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項27】
アトロピンまたはその塩の濃度が0.001?0.01%(w/v)である、請求項1から26のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項28】
アトロピンまたはその塩が、硫酸アトロピンまたはその水和物である、請求項1から27のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項29】
ユニットドーズ型容器に収容されている、請求項1から28のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項30】
水性組成物が点眼剤である、請求項1から29のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項31】
近視の進行を抑制および/または予防するための、請求項1から30のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項32】
近視の進行を抑制および/または予防するための薬物の製造における、請求項1から30のいずれか1に記載の水性組成物の使用。
【請求項33】
近視の進行を抑制および/または予防するのに使用するための、請求項1から30のいずれか1に記載の水性組成物。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証(以下、「甲1」と略記する。)を提出するとともに、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、以下の申立理由1?3により、請求項1?33に係る本件特許は取り消されるべき旨を主張している。

<申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)>
本件発明1?33は、下記の甲第1号証に記載された事項、および周知の技術事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるので、請求項1?33に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである(同法第113条第2号)。

<申立理由2(実施可能要件違反)>
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1?33に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(同法第113条第4号)。

<申立理由3(サポート要件違反)>
本件発明1?33は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないため、請求項1?33に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(同法第113条第4号)。

<証拠>甲1:国際公開第2015/200361号

第4 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)についての当審の判断

1 甲1に記載された事項
甲1(国際公開第2015/200361号)には、以下の事項が記載されている。甲1は英語で記載されているため、当審合議体による日本語訳で摘記し、必要に応じて原文を併記する。なお、下線は当審合議体が付した。

(摘記a)
「22.約0.001wt%から約0.05wt%のムスカリンアンタゴニストと水を含む、約3.8?約7.5のpHの眼科用組成物。
23.ムスカリンアンタゴニストはアトロピン、硫酸アトロピン、ノルアトロピン、アトロピン-N-オキシド、トロピン、トロパ酸、ヒヨスチン、スコポラミン、トロピカミド、シクロペントレート、ピレンゼピン、ホマトロピン、またはこれらの組合せを含む、請求項22に記載の眼科用組成物。
・・・
28.眼科用組成物は、浸透圧調整剤、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、随意にpH調整剤、またはこれらの組合せをさらに含む、請求項22?27のいずれか1つに記載の眼科用組成物。 」(請求項22?28)

(摘記b)
「[0042]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は、さらに浸透圧調整剤を含む。いくつかの実施形態において、浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムである。
[0043]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は、さらに防腐剤を含む。いくつかの実施形態では、防腐剤は、塩化ベンザルコニウム、セトリモニウム、過ホウ酸ナトリウム、安定化オキシクロロ錯体、ソフジア(SofZia)、ポリクオタニウム-1、クロロブタノール、エデト酸ニナトリウム、ポリヘキサメチレンビグアニド、またはそれらの組合せから選択される。
[0044]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は、さらに緩衝剤を含む。ある実施形態において、緩衝剤はホウ酸塩、ホウ酸塩-ポリオール複合体、リン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、有機緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、又はそれらの組合せから選択される。
[0045]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は、さらに等張化剤を含む。いくつかの実施形態では、等張化剤は、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、デキストロース、スクロース、尿素、プロピレングリコール、グリセリン、またはそれらの組合せからなる。
・・・
[0049]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は以下の1つのpHを有する:約3.8?約7.5、約4.2?約7.5、約4.8?約7.3、約5.2?約7.2、約5.8?約7.1、約6.0?約7.0、または約6.2?約6.8。
[0050]いくつかの実施形態では、眼科用組成物はさらにpH調整剤を含む。いくつかの実施形態では、pH調整剤はHCl、NaOH、CH_(3)COOH、またはC_(6)H_(8)O_(7)を含む。
・・・
[0052]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は以下の1つを含む:5%未満のD_(2)O、4%未満のD_(2)O、3%未満のD_(2)O、2%未満のD_(2)O、1%未満のD_(2)O、0.5%未満のD_(2)O、0.1%未満のD_(2)O、または0%のD_(2)O。いくつかの実施形態では、眼科用組成物は、D_(2)Oを本質的に含まない。」([0042]?[0052])

(摘記c)
「[0069]本開示は、例えば、若者の近視の上昇率の低下からも明らかなように、ムスカリンアンタゴニスト(例えば、アトロピンまたはその薬学的に許容可能な塩)がヒトの近視の進行を予防するまたは抑えることを認めるものである。本開示はさらに、視覚障害のあるひよこの目における眼軸の延長と近視の低下と、若いアカゲザルにおける目の成長およびムスカリン性コリン受容体に対する、ムスカリンアンタゴニスト(例えば、アトロピンまたはその薬学的に許容可能な塩)の効果を認めるものである。
・・・
[0071]さらに、本開示は、ムスカリンアンタゴニスト(例えばアトロピンまたはその薬学的に許容可能な塩)の安定性のために、液体のムスカリンアンタゴニスト(例えばアトロピン)組成物の中には比較的低いpH範囲(例えば4.5未満)で処方されるものもあることを認めるものである。個人によっては、いくつかの例のより低いpH範囲は目の疼痛または灼熱感のような不快感または他の副作用を引き起こすものがあり、これはより高いpH範囲でムスカリンアンタゴニスト(例えばアトロピン)組成物を処方することによって予防されるまたは緩和される。個人によっては、いくつかの例のより低いpHは、目の薬物の吸収を低下させ、ゆえに有効性を低下させる涙応答を誘発する。
・・・
[0073]最後に、本開示は、重水素化水が眼科用組成物を安定させることを認めるものである。場合によっては、重水素化水は低濃度の反応種(例えば-OD)を含むためH_(2)Oと比較して弱酸であり、眼科用組成物中の有効な薬剤の塩基触媒加水分解を引き起こすこともある。そのため、いくつかの例では、重水素化水を含む組成物は、H_(2)Oを含む組成物と比較すると、還元型の塩基触媒加水分解を誘発する。いくつかの例では、重水素化水はさらに眼科用組成物の緩衝能を低下させ、目の涙の反射(tear reflex)を減少させる。」([0069]?[0073])

(摘記d)
「[00105]眼科用ムスカリンアンタゴニストの濃度
[00106]いくつかの実施形態において、本明細書に記載される組成物は、組成物の約0.001重量%と約0.050重量%の間、約0.005重量%と約0.050重量%の間、約0.010重量%と約0.050重量%の間、約0.015重量%と約0.050重量%の間、約0.020重量%と0.050重量%の間、約0.025重量%と0.050重量%の間、約0.030重量%と約0.050重量%の間、約0.035重量%と約0.050重量%の間、約0.040重量%と約0.050重量%の間、又は約0.045重量%と約0.050重量%の間の、眼科用剤、又はその薬学的に許容可能なプロドラッグ或いは塩の濃度を有する。いくつかの例において、眼科用剤(例えばムスカリンアンタゴニスト)のプロドラッグは、眼科用組成物の投与後に眼科用剤(例えばムスカリンアンタゴニスト)へと化学的に変換される。限定しない例において、ムスカリンアンタゴニストのプロドラッグは、涙の中の1以上の酵素により開裂可能な化学結合を有する。いくつかの実施形態において、眼科用剤はムスカリンアンタゴニストである。いくつかの実施形態において、ムスカリンアンタゴニストは、アトロピン、硫酸アトロピン、ノルアトロピン、アトロピン-N-オキシド、トロピン、トロパ酸、ヒヨスチン、スコポラミン、トロピカミド、シクロペントレート、ピレンゼピン、ホマトロピン、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、ムスカリンアンタゴニストは、アトロピン又はその薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態において、ムスカリンアンタゴニストは硫酸アトロピンである。本明細書に記載されるように、眼科用剤は、光学的に純粋な立体異性体、光学的に豊富な立体異性体、及び立体異性体のラセミ混合物を含む。例えば、本明細書に開示される眼科用粗製物の中には、アトロピン、又は、アトロピンがD異性体とL異性体のラセミ混合物である硫酸アトロピンを含むものがあり;及び、本明細書に開示される眼科用粗製物の中には、アトロピン、又は、アトロピンがより光学的に活性なL異性体を好んで光学的に豊富である硫酸アトロピンを含むものがある。」
([00105]?[000106])

(摘記e)
「[00117]水溶液の安定性
[00118]いくつかの実施形態において、本明細書に記載される組成物は緩衝剤を含む。いくつかの実施形態において、緩衝剤は、ホウ酸塩、ホウ酸塩-ポリオール複合体、リン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、有機緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、又はそれらの組合せから選択される。
・・・
[00121]いくつかの実施形態において、リン酸塩緩衝剤は、リン酸;リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、およびリン酸三カリウムなどアルカリ金属リン酸塩;リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、第一リン酸マグネシウム、第二リン酸マグネシウム(リン酸水素マグネシウム)、および第三リン酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属リン酸塩;リン酸水素二アンモニウムおよびリン酸二水素アンモニウムなどのリン酸アンモニウム;又は、それらの組合せを含む。いくつかの例において、リン酸塩緩衝剤は無水物である。いくつかの例において、リン酸塩緩衝剤は水和物である。
・・・
[00123]いくつかの場合において、クエン酸塩緩衝剤はクエン酸とクエン酸ナトリウムを含む。
・・・
[00127]いくつかの場合において、アミノ酸緩衝剤は、タウリン、アスパラギン酸およびその塩(例えばカリウム塩など)、ε-アミノカプロン酸などを含む。」
([00117]?[00127])

(摘記f)
「[00234]いくつかの実施形態では、眼科用組成物は、眼科用のゲルであり、および、そこでは眼に許容可能な担体は水および少なくとも1つの粘度増強剤を含む。いくつかの実施形態では、粘度増強剤は、セルロースベースのポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリブロックコポリマー、デキストランベースのポリマー、ポリビニルアルコール、デキストリン、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、またはそれらの組合せからなる群から選択される。
・・・
[00236]一例にすぎないが、眼に許容可能な粘性製剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムを含む。標的となった眼の部位と適合可能他の粘度増強剤は、限定されないが、アカシア(アラビアゴム)、寒天培地、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、アルギン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ヒバマタ、ベントナイト、カルボマー、カラゲナン、カーボポール、キサンタン、セルロース、微結晶性セルロース(MCC)、セラトニア、キチン、カルボキシメチル化キトサン、ツノマタ、デキストロース、ファーセレラン、ゼラチン、ガティガム(Ghatti gum)、グアーガム、ヘクトライト、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、マンニトール、ソルビトール、蜂蜜、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、アラヤゴム、キサンタンゴム、トラガカントゴム、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ(ヒドロキシエチル)メタクリラート、オキシポリゼラチン、ペクチン、ポリゲリン、ポビドン、プロピレンカーボネート、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー(PVM/MA)、ポリ(メトキシエチルメタクリラート)、ポリ(メトキシエトキシエチルメタクリラート)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(CMC)、二酸化ケイ素、ポリビニルピロリドン(PVP:ポビドン)、Splenda(登録商標)(デキストロース、マルトデキストリンおよびスクラロース)、またはそれらの組合せを含む。具体的な実施形態では、粘性を増強する賦形剤は、MCCおよびCMCの組合せである。別の実施形態では、粘度増強剤はカルボキシメチル化キトサン、またはキチンおよびアルギン酸塩の組合せである。本明細書において開示された眼科用製剤とのキチンおよびアルギン酸塩の組合せは、製剤からの眼科用製剤の拡散を制限する、放出制御製剤として作用する。さらに、カルボキシメチル化キトサンとアルギン酸塩の組合せは、眼の中での眼科用製剤の浸透性の増大を支援するために随意に使用される。
・・・
[00238]1つの実施形態では、薬学的に許容可能な増粘性の、眼に許容可能な製剤は、少なくとも1つの眼科用製剤および少なくとも1つのゲル化剤を含む。ゲル製剤の調製で使用される適切なゲル化剤は、限定されないが、セルロース、セルロース誘導体、セルロースエーテル(例えばカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース)、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸塩(例えばアルギン酸)、ケイ酸塩、デンプン、トラガカント、カルボキシビニルポリマー、カラゲーニン、パラフィン、ペトロラタム、およびそれの任意の組合せ、または混合物を含む。いくつかの他の実施形態では、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Methocel(登録商標))はゲル化剤として利用される。特定の実施形態では、本明細書において記載された粘度増強剤は、本明細書において示されるゲル製剤のためのゲル化剤として利用される。
・・・
[00240]いくつかの実例では、眼科用のゲル組成物はムスカリンアンタゴニストおよび1つ以上のゲル化剤を含む。いくつかの実例では、ゲル化剤は、限定されないが、ポロキサマー(例えばPoloxamer 407)、テトロニクス、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、カーボポール(例えばCarbopol 1342P NF、Carbopol 980 NF))、アルギン酸塩(例えば、低アセチルゲランガム(Gelrite(登録商標)))、ゲラン、ヒアルロン酸、プルロニクス(例えばPluronic F-127)、キトサン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、デキストラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、チオール化キシログルカン、ポリメタクリル酸(PMMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、偽ラテックス、キシログルカンまたは組合せを含む。・・・。」([00234]?[00240])

(摘記g)
「実施例11-追加の製剤安定性の比較
[00351]硫酸アトロピン一水和物(MP Bio; Lot Number 7825K)およびトロパ酸(Sigma Aldrich; Lot Number STBD6457V)を、この実験に使用した。表23Aで例証される13の製剤を分析した。製剤1-8は、t=0、2週、4週、および8週で分析されている。製剤9-13は、t=0、2週、および4週で分析されている。本明細書で報告されたpHは、Thermo Scientific, Orion Dual Star pH/ISのベンチトップpH計およびH_(2)Oベースの規格で較正されたOrion Double Junction MicroのpHプローブS/N S01-18520を用いて得た、測定されたpHである。

[00352]値は%w/vである。製剤は容積測定用ガラス器具中で100mLスケールで調製され、LLDPE点眼瓶に充填された。いくつかの例では、pDを、pD=0.4+pH^(*)として計算し、式中pH^(*)は、重水素化水を含有している溶液中で製剤化された溶液の測定された、または観察されたpHである。」
([00350]最下行?[00352])
(当審合議体による注釈:表23Aの「水性」の項目に記載されている「SWFI」は「滅菌注射用水」である。)

2 甲1に記載された発明(甲1発明)
上記1からみて、甲1には、「約0.001wt%から約0.05wt%のムスカリンアンタゴニストと水、並びに浸透圧調整モル浸透圧濃度調整剤、保存剤、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、随意にpH調整剤、またはこれらの組合せを含む、約3.8?約7.5のpHである眼科組成物において、上記ムスカリンアンタゴニストがアトロピンまたは硫酸アトロピンである、眼科用組成物(摘記aの、請求項22を引用する請求項23を引用する請求項28)が記載されている。そして、上記「アトロピンまたは硫酸アトロピン」は、ヒトの近視の進行を予防するまたは抑える作用を有する「有効成分」である(摘記cの[0069])。
そうすると、甲1には、「有効成分として約0.001wt%から約0.05wt%のアトロピンまたは硫酸アトロピン、水、および浸透圧調整モル浸透圧濃度調整剤、保存剤、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、随意にpH調整剤またはこれらの組合せを含む、pHが約3.8?約7.5の範囲である眼科用組成物。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

3 本件発明と甲1発明との対比・判断

(1)本件発明1について
ア 甲1発明の「眼科用組成物」、「浸透圧調整モル浸透圧濃度調整剤、保存剤、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、随意にpH調整剤またはこれらの組合せ」および「アトロピンまたは硫酸アトロピン」は、それぞれ、本件発明1における「水性組成物」、「添加剤」および「アトロピンまたはその塩」に相当する。
また、甲1には、D_(2)O(重水素化水)を含むことが特定されていない眼科用組成物(摘記aの請求項22)およびD_(2)Oが0%である組成物(摘記bの[0052])が記載されており、眼科用組成物がジフェンヒドラミンを含み得ることは記載されていないのであるから、甲1発明は、「ジフェンヒドラミン又はD_(2)Oをいずれも含まない」眼科用組成物であるといえる。
そして、本件発明1における「0.001?0.1%(w/v)の濃度」は、水性組成物の比重が約1であると仮定すると約0.001wt?約0.1wt%の濃度に相当するので、本件発明1における濃度と甲1発明における濃度とは「約0.001wt%から約0.05wt%」の範囲で重複するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「有効成分として約0.001wt%から約0.05wt%の濃度のアトロピンまたはその塩を含有し、さらに添加剤を含有する水性組成物(但し、ジフェンヒドラミン又はD_(2)Oのいずれも含まない)。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件発明1におけるpHは「6以下の範囲」であるのに対し、甲1発明におけるpHは「約3.8?約7.5の範囲」である点。

(相違点2)本件発明1は、「添加剤」として「水溶性高分子、および第一の緩衝剤」を含有し、前記「第一の緩衝剤」が「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」であり、前記「水溶性高分子」が「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲1発明は、「添加剤」として上記特定の緩衝剤および特定の水溶性高分子を含むものではない点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1(pHの範囲)について
甲1には、pHが「6以下の範囲」であることを特定した眼科用組成物の発明は記載されていないが、眼科用組成物のpHについて、「約3.8?約7.5、約4.2?約7.5、約4.8?約7.3、約5.2?約7.2、約5.8?約7.1、約6.0?約7.0、または約6.2?約6.8」(摘記bの[0049])のように、上限値が約7.5よりも低いpH範囲が記載されている。
また、甲1には、「ムスカリンアンタゴニスト(例えばアトロピンまたはその薬学的に許容可能な塩)の安定性のために、液体のムスカリンアンタゴニスト(例えばアトロピン)組成物の中には比較的低いpH範囲(例えば4.5未満)で処方されるものもあることを認めるものである」(摘記cの[0071])のように、眼科用組成物が比較的低いpH範囲をとり得ることが記載されている。
さらに、甲1の実施例11に、pHが4.2、4.8、5.8のように6よりも低い値である、D_(2)Oを含まない水性の眼科用組成物(「SWFI」または「H_(2)O(対照)」の製剤)が記載されている(摘記hの表23A)。
そうすると、甲1におけるこれらの記載(摘記bの[0049]、摘記cの[0071]および摘記hの表23A)を参酌した当業者は、甲1発明におけるpHの範囲について、上限値を約7.5よりも低い「6」にして「6以下の範囲」に調整することを適宜なし得たといえる。

イ 相違点2(特定の緩衝剤および特定の水溶性高分子)について
(ア)甲1には、「緩衝剤」が「ホウ酸塩、ホウ酸塩-ポリオール複合体、リン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、有機緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、又はそれらの組合せから選択される」こと(摘記dの[00118])および「アミノ酸緩衝剤は、タウリン、アスパラギン酸およびその塩(例えばカリウム塩など)、ε-アミノカプロン酸などを含む」こと(摘記dの[00127])が記載されており、上記「ε-アミノカプロン酸」はイプシロン-アミノカプロン酸であるので、甲1には、緩衝剤として「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を用い得ることが記載されているといえる。
しかし、甲1には、多種類記載されている緩衝剤(摘記e)の中で「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を用いることが好ましいという趣旨の記載はなく、甲1の実施例11で製造された全ての眼科用組成物では、緩衝剤として酢酸およびクエン酸が用いられており(摘記hの表23A)、緩衝剤として「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を用いた実施例の記載はない。

(イ)甲1には、甲1発明における「浸透圧調整モル浸透圧濃度調整剤、保存剤、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、随意にpH調整剤、またはこれらの組合せ」のいずれの添加剤についても、「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種である」水溶性高分子を用いることは記載も示唆もされていない(摘記b)。
ここで、甲1には、眼に許容可能な担体として用い得る「粘度増強剤」の例として、セルロースベースのポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が記載され(摘記fの[00234]および[00236])、ゲル製剤の調製で使用される適切な「ゲル化剤」の例として、セルロース、セルロース誘導体、セルロースエーテル(例えばカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、カーボポール(例えばCarbopol 1342P NF、Carbopol 980 NF))等が記載されており(摘記fの[00238]および[00240])、前記「カーボポール」はカルボキシビニルポリマーであるので、甲1には、眼科組成物において水溶性高分子である「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を用い得ることが記載されているといえる。
しかし、甲1には、粘度増強剤またはゲル化剤の例として、「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」の他にも多種多様な化合物が記載されており(摘記f)、これらの中で「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を用いることが好ましいという趣旨の記載はなく、「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」(上記(ア))とともに「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を用いた実施例の記載はない。

(ウ)上記(ア)および(イ)のように、甲1には、「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」とともに「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を組み合わせることが好ましいという趣旨の記載はなく、「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」とともに「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を用いた実施例の記載もない。
そうすると、甲1に記載された事項から、多種類記載されている緩衝剤の中から、あえて「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を選択するとともに、粘度増強剤またはゲル化剤として記載されている多種多様な化合物の中から、あえて「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を選択し、両者を組み合わせて用いる動機づけがあるとはいえない。そして、このような特定の組合せを用いることが、本願優先日当時の技術常識であるともいえない。

ウ 以上アおよびイのとおり、本願優先日当時の技術常識を参酌しても、甲1発明、および甲1に記載された事項から、甲1発明において、pHを6以下の範囲に調整するとともに、さらに「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」および「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を組み合わせて用いることにより、甲1発明を本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

4 本件発明2?9について
本件発明2および3は本件発明1のリン酸緩衝剤をさらに限定した発明であり、本件発明4および5は本件発明1に「更に、第二の緩衝剤」としてクエン酸緩衝剤を含有することを付加した発明であり、本件発明6?9は本件発明1のセルロース誘導体をさらに限定した発明であるので、本件発明2?9と甲1発明とは、少なくとも上記「3(1)」で説示した相違点1および2で相違しているといえる。
そうすると、上記「3(2)」で説示したとおり、甲1発明、および甲1に記載された事項から、甲1発明を本件発明2?9の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

5 本件発明10および11について
本件発明10は、本件発明1における「第一の緩衝剤」および「水溶性高分子」をそれぞれ「リン酸緩衝剤」および「ヒドロキシエチルセルロース」に限定するとともに、「(但し、ジフェンヒドラミン又はD_(2)Oをいずれも含まない)」という限定を削除した発明であり、本件発明11は、本件発明10に「更に、第二の緩衝剤」としてクエン酸緩衝剤を含有することを付加した発明であるから、本件発明10、11と甲1発明とは、少なくとも上記「3(1)」で説示した相違点1および2で相違しているといえる。
そうすると、上記「3(2)」で説示したとおり、甲1発明、および甲1に記載された事項から、甲1発明を本件発明10、11の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

6 本件発明12?33について
本件発明12?33は、本件発明1または本件発明10、あるいはこれらのいずれかを引用する発明において、さらに、塩化ベンザルコニウムの有無(本件発明12、13)、非イオン性等張化剤を含有すること(本件発明14?17)、緩衝剤、水溶性高分子、非イオン性等張化剤、アトロピンまたはその塩の濃度範囲あるいはpHの範囲(本件発明18?28)、ユニットドーズ型容器に収容されていること(本件発明29)、水性組成物が点眼剤であること(本件発明30)、水性組成物の用途(本件発明31?33)を限定した発明であるから、本件発明12?33と甲1発明とは、少なくとも上記「3(1)」で説示した相違点1および2で相違しているといえる。
そうすると、上記「3(2)」で説示したとおり、甲1発明、および甲1に記載された事項から、甲1発明を本件発明12?33の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

7 本件発明の効果について
本件特許明細書には、試験例1?7(【0099】?【0138】)で示された結果に基づく総合的な考察として、本件発明の水性組成物が、「有効成分として0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩」を含有し、「pHが6以下の範囲」であり、第一の緩衝剤として「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」、および水溶性高分子である「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を含む、という構成のすべてを備えることにより、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用等の優れた効果を奏したことが記載されており(【0142】)、これらの効果は、甲1発明、および甲1に記載された事項から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。

8 申立人の主張について
申立人は、申立書において以下の(1)?(3)の主張をしているが、以下の理由により、いずれの主張も認められない。

(1)申立人は、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると主張している。
「有効成分として0.001から0.05%(w/w)の濃度のアトロピンまたはその塩を含有し、
添加剤として粘度増強剤、および第一の緩衝液(緩衝剤)を含有し、
pHが6以下の範囲である水性組成物であって、
前記第一の緩衝剤として、リン酸緩衝剤、イプシロン-アミノカプロン酸等を含み、
前記粘度増強剤として、セルロース誘導体、カルボキシビニルポリマー等を含む水性組成物。」および、
「0.001?0.05%(w/w)の濃度のアトロピンまたはその塩、
ヒドロキシエチルセルロース等の粘度増強剤、および、
第一の緩衝剤を含有し、
pHが6以下の範囲である水性組成物であって、
前記第一の緩衝剤として、リン酸緩衝剤等を含む水性組成物。」(申立書25頁9?23行)
そこで、上記主張について検討する。
上記「3(2)イ(ア)」で説示したように、甲1の実施例11には、pHが4.2、4.8、5.8のように6より低いpHを有する眼科用組成物が記載されているが、甲1には、pHを「6以下の範囲」に特定した眼科用組成物の発明が記載されているとはいえない。
また、上記「3(2)イ(イ)」で説示したように、甲1には、「リン酸緩衝剤、イプシロン-アミノカプロン酸」および「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」は、いずれも「緩衝剤」または「粘度増強剤またはゲル化剤」として多種類例示されている中の1例にすぎず、好ましい例として記載されたものではなく、このような特定の組合せが好ましいという趣旨の記載や、当該組合せを用いた実施例の記載もなく、当該組合せが本願優先日当時の技術常識であるともいえない。
このように、甲1には、pHを「6以下の範囲」に特定するとともに、「リン酸緩衝剤、イプシロン-アミノカプロン酸」と「セルロース誘導体、カルボキシビニルポリマー」との組合せ、または「ヒドロキシエチルセルロース」と「リン酸緩衝剤」との組合せを、好ましい組合せとして用いた眼科用組成物が記載されているとはいえないので、申立人による甲1発明の認定は適切ではない。
よって、当該主張は認められない。

(2)申立人は、反対の証拠がない限り、緩衝剤の種類を、有効成分の種類や濃度、その他の添加物の種類や濃度、水性組成物の用途や用法や所望のpH等の使用条件に応じて最適化することは、当該技術分野において当業者が容易になし得る単なる設計事項に過ぎない、と主張している(申立書の27頁11?14行)。
しかし、申立人は、緩衝剤について、
ア 水性組成物が、有効成分であるアトロピンまたはその塩を0.001?0.1%(w/v)の濃度で含む場合に、どのような根拠に基づいて、「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を選択するのか、
イ 水性組成物が、その他の添加剤として、どのような添加剤をどのような範囲で含む場合に、「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を選択するのか、
ウ 水性組成物が、どのような用途、用法または所望のpHである場合に、どのような根拠に基づいて、「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を選択するのか、
という上記ア?ウについて、何ら具体的な根拠を説明しておらず、甲1発明における緩衝剤として、多種類記載されている緩衝剤の中から、あえて「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」を選択する動機づけがあるとはいえないのであるから(上記「3(2)イ」)、当該主張は認められない。

(3)申立人は、反対の証拠がない限り、水溶性高分子の種類を、有効成分の種類や濃度、水性組成物の用途や用法や所望の粘度等の使用条件に応じて最適化することは、当該技術分野において当業者が容易になし得る単なる設計事項に過ぎない、と主張している(申立書27頁18?19行)。
しかし、申立人は、水溶性高分子について、
ア 水性組成物が、有効成分であるアトロピンまたはその塩を0.001?0.1%(w/v)の濃度で含む場合に、どのような根拠に基づいて、「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を選択するのか、
イ 水性組成物が、どのような用途、用法または所望の粘度である場合に、どのような根拠に基づいて、「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を選択するのか、
という上記アおよびイについて、何ら具体的な根拠を説明しておらず、粘度増強剤またはゲル化剤として記載されている多種多様な化合物の中から、あえて「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を選択する動機づけがあるとはいえないのであるから(上記「3(2)イ」)、当該主張は認められない。

以上のように、申立人による上記主張(1)?(3)はいずれも認められず、上記「3?6」で説示したとおり、本願優先日当時の技術常識を参酌しても、甲1発明、甲1に記載された事項から、甲1発明を本件発明が備える構成のように最適化することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そして、上記「7」で説示したとおり、甲1発明を本件発明が備える構成のように最適化したことにより奏された効果は、甲1発明、および甲1に記載された事項から当業者が予測し得ない格別顕著な効果である。

9 以上1?8のとおりであるから、本件発明1?33は、甲1発明および甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立理由1には理由がない。

第5 申立理由2(実施可能要件違反)についての当審の判断

1 本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)に適合するためには、発明の詳細な説明が、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることが必要である。
本件発明は、上記「第2」のとおり「水性組成物」の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう「物」の発明であり、「物」の発明の実施には、その「物」を使用する行為が含まれる。
そして、発明の詳細な説明の記載(【0002】?【0007】)、特に「驚くべきことに、0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、・・・である水性組成物が、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有することを見出した。・・・本発明の水性組成物は、近視の進行を抑制または予防し、散瞳作用をより低くし、遠近調節の低下を低くして、生活の質に関して最適であることが期待される。」(【0007】)という記載から、本件発明の水性組成物を使用する行為は、本件発明のアトロピン含有水性組成物により、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を得ることであるといえる。

2 発明の詳細な説明には、本件発明のアトロピン含有水性組成物により、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を奏することについて、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。

(摘記A)
「【0099】
試験1
いくつかの水性組成物を散瞳作用に関して評価した。
【0100】
(試料調製方法)
(実施例1)
実施例1の水性組成物を表1に示す処方に従って調製した。具体的には、硫酸アトロピン水和物0.01g、ヒドロキシエチルセルロース0.32g、リン酸二水素ナトリウム0.1g、および濃グリセリン2.4gを精製水に溶かし、得られた溶液に必要により塩酸および水酸化ナトリウムを加えてpH5に調整し、全量を100mlにした。
【0101】
(実施例2?3および比較例1?3)
実施例2?3および比較例1?3の水性組成物は、実施例1と同じように表1に示す処方に従って調製した。

【0102】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼または6匹のウサギの6つの眼)に点眼した。点眼前および点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積と散瞳率を計算した。散瞳率は以下の式で計算した。
散瞳率(%)=((b-a)/a)×100
式中、aは比較例1?3および実施例1?3の各試験での点眼前の瞳孔面積の平均値(mm^(2))で、aは16.8(mm^(2))、bは点眼1時間後の瞳孔面積値である。
【0103】
(試験結果)
実施例1?3および比較例1?3の結果を表2に示す。表2中の各値は、4つまたは6つの眼の結果から得たデータの平均値である。
本水性組成物の散瞳作用を以下の評価基準で判定した。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)以上35.0mm^(2)未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm^(2)以上40.0mm^(2)未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm^(2)以上

【0104】
(考察)
表2から明らかなように、(i)アトロピンまたはその塩を含有し、(ii)pHが6以下の範囲で、および(iii)更にリン酸緩衝剤を含有する水性組成物は、リン酸緩衝剤を含有しない組成物より、誘導される散瞳が低いことが示された。」
(【0099】?【0104】)

(摘記B)
「【0105】
試験2
本発明のいくつかの水性組成物を散瞳作用に関して評価した。
【0106】
(試料調製方法)
(実施例4?11)
実施例4?11の水性組成物は、実施例1と同じように表3に示す処方に従って調製した。
【0107】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼または6匹のウサギの6つの眼)に点眼した。点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積を計算した。
【0108】
(試験結果)
実施例4?11の結果を表3に示す。表3中の各値は、4つまたは6つの眼の結果から得たデータの平均値である。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)以上35.0mm^(2)未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm^(2)以上40.0mm^(2)未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm^(2)以上

【0109】
(考察)
水性組成物が第一の緩衝剤としてリン酸緩衝剤を含有する場合、散瞳作用は低かった(実施例4)。また、水性組成物がリン酸緩衝剤以外に更に第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する場合、散瞳作用はより低かった(実施例6?8)。」
(【0105】?【0109】)

(摘記C)
「【0110】
試験3
本発明のいくつかの水性組成物を散瞳作用に関して評価した。
【0111】
(試料調製方法)
(実施例12?14)
実施例12?14の水性組成物は、実施例1と同じように表4に示す処方に従って調製した。
【0112】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、
4匹のウサギの4つの眼)に点眼した。点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断
層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積を計算し
た。
【0113】
(試験結果)
実施例12?14の結果を表4に示す。表4中の各値は、4つの眼の結果から得たデータの平均値である。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)以上35.0mm^(2)未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm^(2)以上40.0mm^(2)未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm^(2)以上

【0114】
(考察)
たとえ水性組成物が0.005%(w/v)のアトロピンを含有していても、散瞳作用は水性組成物が第一の緩衝剤としてリン酸緩衝剤を含有する場合低かった(実施例12)。また、水性組成物がリン酸緩衝剤以外に更に第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する場合、散瞳作用はより低かった(実施例13および14)。」
(【0110】?【0114】)

(摘記D)
「【0115】
試験4
一般的に防腐剤として用いられる塩化ベンザルコニウムの、本発明の水性組成物の散瞳作用への効果を検討した。
【0116】
(試料調製方法)
(実施例15?17)
実施例15?17の水性組成物は、実施例1と同じように表5に示す処方に従って調製した。
【0117】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼)に点眼した。点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積を計算した。
【0118】
(試験結果)
実施例15?17の結果を表5に示す。表5中の各値は、4つの眼の結果から得たデータの平均値である。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm^(2)以上35.0mm^(2)未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm^(2)以上40.0mm^(2)未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm^(2)以上
E:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm^(2)以上

【0119】
(考察)
表5から明らかなように、塩化ベンザルコニウムを含まない水性組成物(実施例15)は、塩化ベンザルコニウムを含む水性組成物(実施例16および17)よりも低い散瞳作用を示した。」
(【0115】?【0119】)
(当審合議体による注釈:表5の「BAK」は塩化ベンザルコニウムの略語である。)

(摘記E)
「【0120】
試験5
(粘度測定試験1および安定性試験1)
アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物において、等張化剤が水性組成物の粘度およびアトロピンの安定性に及ぼす影響を検討した。
【0121】
(試料調製方法)
(実施例18?22)
実施例18?22の水性組成物は、実施例1と同じように表6に示す処方に従って調製した。調製したサンプルは、ポリエチレン製点眼容器に5mLずつ充填し、中栓を装着後、キャップを用いて密閉し、遮光下、60℃で4週間保管した。

【0122】
(試験方法)
(1)粘度測定試験1
第十六改正日本薬局方「第2法 回転粘度計法」に従い、円すい-平板形回転粘度計を用いて、調製直後及び調製後1、2および4週間における各水性組成物の粘度を測定した。測定条件は以下に示す。
・測定機器:回転式レオメーター(Kinexus pro+)
・回転数(S-1):50/sec
・測定温度:25℃
【0123】
(2)安定性試験1
アトロピンは分解するとトロパ酸を生成する。本試験ではアトロピンの安定性を評価するため、高速液体クロマトグラフィーを用いて、調製直後及び調製後1、2および4週間におけるトロパ酸の含有量を定量した。
【0124】
(試験結果)
粘度測定試験1の結果を図1に示す。安定性試験1の結果を図2に示す。
【0125】
(考察)
(1)粘度測定試験1
図1に示すように、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有し、等張化剤を含まない水性組成物(実施例18、図1中の「含有せず」)、等張化剤として塩化ナトリウムを含有する水性組成物(実施例19、図1中の「NaCl」)、等張化剤としてホウ酸を含有する水性組成物(実施例20、図1中の「ホウ酸」)は、その粘度が経時的に低下した。一方、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有し、等張化剤としてグリセリンを含有する水性組成物(実施例21、図1中の「グリセリン」)および等張化剤としてマンニトールを含有する水性組成物(実施例22、図1中の「マンニトール」)は、その粘度が維持され、経時的な粘度の低下が抑制された。
【0126】
(2)安定性試験1
図2に示すように、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有し、等張化剤としてマンニトールまたはホウ酸を含有する水性組成物は、他の水性組成物に比べ、トロパ酸をより生成した。以上より、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有する水性組成物において、アトロピンの安定性の観点から等張化剤としてマンニトールまたはホウ酸の添加は好ましくないことが示された。
また、上記粘度測定試験1および安定性試験1の結果から、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有する水性組成物において、経時的な粘度低下を抑制し、かつ、アトロピンの安定性を維持するためには、等張化剤として、グリセリンを添加することが好ましいことが示された。
【図1】

【図2】

」(【0120】?【0126】、【図1】、【図2】)
(当審合議体による注釈:【図1】および【図2】中の「HEC」はヒドロキシエチルセルロースの略語である。)

(摘記F)
「【0127】
試験6
(粘度測定試験2)
アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物において、等張化剤が水性組成物の粘度に及ぼす影響を検討した。
【0128】
(試料調製方法)
(実施例23?28)
実施例23?28の水性組成物は、実施例1と同じように表7に示す処方に従って調製した。調製したサンプルは、ポリエチレン製点眼容器に5mLずつ充填し、中栓を装着後、キャップを用いて密閉し、遮光下、60℃で4週間保管した。

【0129】
(試験方法)
(粘度測定試験2)
第十六改正日本薬局方「第2回転粘度計法」に従い、円すい-平板形回転粘度計を用いて、調製直後及び調製後1、2および4週間における各水性組成物の粘度を測定した。測定条件は以下に示す。
・測定機器:回転式レオメーター(Kinexus pro+)
・回転数(S-1):50/sec
・測定温度:25℃
【0130】
(試験結果)
実施例23?25における粘度測定試験の結果を図3に示す。実施例26?28における粘度測定試験の結果を図4に示す。
【0131】
(考察)
(粘度測定試験2)
図3に示すように、アトロピンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有し、等張化剤を含まない水性組成物(実施例23、図3中の「含有せず」)は、その粘度が経時的に低下した。一方、等張化剤としてグリセリンまたはマンニトールを含有する水性組成物(実施例24および25、図3中の「グリセリン」または「マンニトール」)は、その粘度が維持され、経時的な粘度の低下が抑制された。
また、図4に示すように、アトロピンおよびカルボキシビニルポリマーを含有し、等張化剤を含まない水性組成物(実施例26、図4中の「含有せず」)は、その粘度が経時的に低下した。一方、等張化剤としてグリセリンまたはマンニトールを含有する水性組成物(実施例27および28、図4中の「グリセリン」または「マンニトール」)は、その粘度が維持され、経時的な粘度の低下が抑制された。
【図3】

【図4】

」(【0127】?【0131】、【図3】、【図4】)
(当審合議体による注釈:「HPMC」および「CVD」は、それぞれヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシビニルポリマーの略語である。)

(摘記G)
「【0132】
試験7
マウス近視モデルにおいて、水溶性高分子がアトロピンの眼軸長延長抑制作用に及ぼす影響および屈折異常の改善作用に及ぼす影響を検討した。
【0133】
(試料調製方法)
(実施例A?D)
実施例A?Dの水性組成物は、実施例1と同じように表8に示す処方に従って調製した。

・・・
【0136】
(試験結果)
(1)眼軸長延長抑制作用
実施例B?Dの結果を表9に示す。
・・・

【0137】
(2)屈折異常の改善作用
実施例A?Dの結果を表10に示す。
・・・

【0138】
(考察)
アトロピンを含まず、水溶性高分子を含む水性組成物(実施例B)には眼軸長延長抑制作用は認められなかった。一方、アトロピンを含有する水性組成物に水溶性高分子を添加することで(実施例D)、水溶性高分子を含まず、アトロピンを含む水性組成物(実施例C)よりも強い眼軸長延長抑制作用を示すことが見出された。
また、上記眼軸長延長抑制作用と同様に、アトロピンを含有する水性組成物に水溶性高分子を添加することで(実施例D)、水溶性高分子を含まず、アトロピンを含む水性組成物(実施例C)よりも強い屈折異常の改善作用を示すことが見出された。
表1および表2の実施例1および3の結果からも明らかなように、水溶性高分子の添加はアトロピンの散瞳作用に影響を与えないことが示されていることから、アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物は、散瞳作用の少ない近視進行抑制薬となることが期待される。」
(【0132】?【0138】)

(摘記H)
「【0142】
0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物が、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有することが示された。また、塩化ベンザルコニウムを含有しないか、または制限された量の塩化ベンザルコニウムを含有することで、低い散瞳作用を有することも示された。更に、アトロピンまたはその塩および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物において、非イオン性等張化剤を含有させることで、水溶性高分子により付与された水性組成物の粘度の経時的低下を抑制し、さらに、アトロピンまたはその塩の安定性を維持できることも示された。本水性組成物は、近視の進行を抑制または予防し、散瞳作用をより低くし、遠近調節の低下を低くして、生活の質に関して最適であることが期待される。」
(【0142】)

3 上記2から、発明の詳細な説明には、本件発明のアトロピン含有水性組成物により、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を奏することについて、以下の事項が記載されているといえる。

ア pHが7である水性組成物よりもpHが5である水性組成物の方が散瞳作用が低いこと(摘記Aの表1における比較例1と実施例1との比較)。

イ pHが5または4.3であり、緩衝剤としてリン酸緩衝剤またはイプシロン-アミノカプロン酸を含有する水性組成物は、これらの緩衝剤を含有しない水性組成物よりも散瞳作用が低いこと(摘記Aの表1における「比較例2および3」と「実施例1?3(リン酸緩衝剤)」との比較、摘記Bの表3における「実施例4、6?8(リン酸緩衝剤)および実施例10(イプシロン-アミノカプロン酸)」と「実施例7、9および11」との比較、摘記Cの表4の実施例12?14(リン酸緩衝剤))。

ウ アトロピンを含まず、水溶性高分子を含む水性組成物(実施例B)には眼軸長延長抑制作用は認められなかった一方、アトロピンを含有する水性組成物に水溶性高分子を添加することで(実施例D)、水溶性高分子を含まず、アトロピンを含む水性組成物(実施例C)よりも強い眼軸長延長抑制作用を示すことが見出され、また、上記眼軸長延長抑制作用と同様に、アトロピンを含有する水性組成物に水溶性高分子を添加することで(実施例D)、水溶性高分子を含まず、アトロピンを含む水性組成物(実施例C)よりも強い屈折異常の改善作用を示すことが見出されたこと(摘記Gの表8、表9および表10)。

エ 実施例1および3(摘記A)の結果から、水溶性高分子の添加はアトロピンの散瞳作用に影響を与えないことが示されているので、アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物は、散瞳作用の少ない近視進行抑制薬となることが期待されること(摘記Gのの【0138】)

オ 試験1?7(摘記A?G)で示された結果から、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有することが示され、本件発明の水性組成物は、近視の進行を抑制または予防し、散瞳作用をより低くし、遠近調節の低下を低くして、生活の質に関して最適であることが期待されること(摘記H)。

上記ア?オのように、発明の詳細な説明には、アトロピン含有水性組成物において、pHが6より低い場合に6より高い場合よりも好ましい結果が得られたこと(上記ア)、緩衝剤として「リン酸緩衝剤またはイプシロン-アミノカプロン酸」を含有する場合の方が含有しない場合よりも好ましい結果が得られたこと(上記イ)、水溶性高分子である「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を含有する場合の方が含有しない場合よりも好ましい結果が得られたこと(摘記ウおよびエ)、および試験1?7で示された結果に基づく総合的な考察として、本件発明の構成を備えた水性組成物により、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用等の優れた効果が奏されたことが記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、本件発明の水性組成物は、「有効成分として0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩」を含有し、「pHが6以下の範囲」であり、前記第一の緩衝剤として「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」、および水溶性高分子である「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を含む、という構成を備えることにより、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用が奏されること、すなわち本件発明を実施することができることを、理解できるといえる。

4 申立人の主張について
申立人は、本件特許明細書の実施例(【0099】?【0138】)には、水性組成物に対して、(a)眼科的効果、(b)粘度および/または(c)安定性の観点から分析した例が示されているが、
ア 上記(a)について、「等張化剤」として「グリセリン」、「水溶性高分子」として「HEC(ヒドロキシエチルセルロース)」という特定の組合せを用いるもの以外の水性組成物が同様の眼科的効果を奏するかが不明であり、
イ 上記(b)について、「等張化剤」として「グリセリン」または「マンニトール」、および「水溶性高分子」として「HEC(ヒドロキシエチルセルロース)」「HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)」または「CVP(カルボキシビニルポリマー)」という特定の組合せを用いるもの以外の水性組成物について経時的な粘度低下抑制作用が不明であり、
ウ 上記(c)について、「等張化剤」として「塩化ナトリウム」または「グリセリン」、および「水溶性高分子として「HEC(ヒドロキシエチルセルロース)」という特定の組合せを用いるもの以外の水性組成物について安定性特性が不明であるので、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない、
という趣旨の主張をしている(申立書の37?46頁)。
しかし、上記1で説示したとおり、本件発明の水性組成物を使用する行為は、本件発明のアトロピン含有水性組成物により、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を得ることであり、上記3で説示したとおり、発明の詳細な説明には、試験1?7(摘記A?G)で示された結果に基づく総合的な考察から、当業者は、本件発明の水性組成物が、「有効成分として0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩」を含有し、「0.001?0.1%(w/v)の濃度」のアトロピンまたはその塩を含有し、「pHが6以下の範囲」であり、前記第一の緩衝剤として「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」、および水溶性高分子である「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を含む、という構成を備えることにより、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用という効果が奏されることを、理解できるといえる。
そして、発明の詳細な説明には、本件発明のアトロピン含有水性組成物のうち、「経時的な粘度低下抑制作用」および「安定性」という追加の観点から、上記「低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用」に追加してさらに好ましい効果が奏される「等張化剤」および「水溶性高分子」の特定の組合せが記載されているが(上記(b)および(c)、摘記EおよびF)、上記特定の組合せ以外の「等張化剤」および「水溶性高分子」を用いた水性組成物の「経時的な粘度低下抑制作用」または「安定性」が不明であるからといって、本件発明の組成物によって「低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用」という効果が奏されること(上記3)、すなわち本件発明を実施することができることが否定されるとはいえない。
よって、上記ア?ウを考慮しても、申立人の上記主張は認められない。

5 以上1?4のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、当業者が、本件発明1?33の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由2には理由がない。

第6 申立理由3(サポート要件違反)についての当審の判断

1 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
発明の詳細な説明の記載(【0002】?【0006】)、特に、従来技術における問題点である「アトロピン点眼液は散瞳薬として用いられ、遠近調節も低下する。アトロピン点眼液は点眼すると、虹彩の瞳孔括約筋が弛緩され、これによりまぶしさの原因となる散瞳を引き起こし、アトロピン点眼液の作用が維持されている間持続し、水晶体の遠近調節も低下し、近視力低下をもたらす。このことは日常活動の障害にもなり得る。したがって、近視の進行を抑制または予防するための医薬が、より低い散瞳作用で、遠近調節のより低い低下を誘導し、生活の質(QOL)を向上することが大いに切望されていた。」(【0005】)という記載、および「本発明の課題は、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有するアトロピン含有水性組成物を見出すことである。重要な目標は、より低い散瞳作用で、遠近調節のより低い低下を誘導するアトロピン含有水性組成物を見出すことである。」(【0006】)という記載から、本件発明が解決すべき課題は、「低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有するアトロピン含有水性組成物を見出すこと」であるといえる。

2 そして、上記課題を解決する手段について、発明の詳細な説明には、上記「第5 2」の記載があり、上記「第5 3」で説示したように、本件発明の水性組成物が、「有効成分として0.001?0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩」を含有し、「pHが6以下の範囲」であり、前記第一の緩衝剤として「リン酸緩衝剤およびイプシロン-アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種」および水溶性高分子である「セルロース誘導体およびカルボキシビニルポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を含む、という構成を備えることにより、低い散瞳作用で、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用が奏されること、すなわち本件発明の課題を解決できることを、当業者は理解できるといえる。

3 申立人は、上記「第5 4」のア?ウを根拠として、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないという趣旨の主張をしている(申立書の37?46頁)。
しかし、上記「第5 4」で説示したとおり、上記ア?ウを考慮しても、申立人の上記主張は認められない。

4 以上1?3のとおり、本件発明1?33は、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件特許の請求項1?33の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由3には理由がない。

第7 むすび

以上のとおり、申立理由1?3にはいずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?33に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?33に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-07-16 
出願番号 特願2017-102939(P2017-102939)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 前田 佳与子
渕野 留香
登録日 2019-09-27 
登録番号 特許第6590860号(P6590860)
権利者 参天製薬株式会社 ナンヤン・テクノロジカル・ユニバーシティー シンガポール ヘルス サービシーズ ピーティーイー リミテッド
発明の名称 アトロピン含有水性組成物  
代理人 秦野 正和  
代理人 馬渡 洋介  
代理人 鮫島 睦  
代理人 水原 正弘  
代理人 馬渡 洋介  
代理人 品川 永敏  
代理人 秦野 正和  
代理人 水原 正弘  
代理人 鮫島 睦  
代理人 馬渡 洋介  
代理人 鮫島 睦  
代理人 品川 永敏  
代理人 秦野 正和  
代理人 水原 正弘  
代理人 品川 永敏  
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