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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C25B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C25B |
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管理番号 | 1364942 |
異議申立番号 | 異議2020-700171 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-11 |
確定日 | 2020-07-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6574891号発明「水素製造システムおよび水素製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6574891号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6574891号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年)2月29日を国際出願日とする出願(特願2018-502873号)であって、令和1年8月23日に特許権の設定登録がなされ、同年9月11日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和2年3月11日に特許異議申立人 田代吾郎(以下、「申立人」という。)により全請求項について特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。総称して「本件発明」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりの事項により特定される以下のものである。 【請求項1】 再生可能エネルギーから得られた電力を少なくとも第1成分および第2成分に分離する電力変換装置と、 前記第1成分を用いて第1電解方式により液体または気体の水を電気分解して水素を製造する第1電解装置と、 前記第2成分を用いて第2電解方式により液体または気体の水を電気分解して水素を製造する第2電解装置と、 を備え、 前記第1成分は、少なくとも所定の期間内において一定であり、 前記第2成分は、少なくとも前記所定の期間内において変動し、 前記第1電解方式は、アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式であり、 前記第2電解方式は、固体高分子型電解質膜を使用する電解方式である、 水素製造システム。 【請求項2】 前記第1電解方式が、前記固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式である場合、前記第1電解装置は、前記固体酸化物形電解質膜の熱中立点の電力以上の電力を有する前記第1成分を用いて前記電気分解を行う、請求項1に記載の水素製造システム。 【請求項3】 前記電力変換装置は、前記再生可能エネルギーから得られた電力を少なくとも前記第1成分、前記第2成分、および第3成分に分離し、 前記第1成分は、少なくとも前記所定の期間において一定であり、 前記第2成分は、少なくとも前記所定の期間内において変動し、かつ第1周波数を有する成分を含み、 前記第3成分は、少なくとも前記所定の期間内において変動し、かつ前記第1周波数よりも高い第2周波数を有する成分を含む、 請求項1に記載の水素製造システム。 【請求項4】 さらに、前記第3成分の電力を貯蔵する電池を備える、請求項3に記載の水素製造システム。 【請求項5】 再生可能エネルギーから得られた電力を少なくとも第1成分および第2成分に分離し、 前記第1成分を用いて第1電解方式により液体または気体の水を電気分解して水素を製造し、 前記第2成分を用いて第2電解方式により液体または気体の水を電気分解して水素を製造する、 ことを含み、 前記第1成分は、少なくとも所定の期間内において一定であり、 前記第2成分は、少なくとも前記所定の期間内において変動する、 前記第1電解方式は、アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式であり、 前記第2電解方式は、固体高分子型電解質膜を使用する電解方式である、水素製造方法。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に記載の以下の理由1?11により、本件特許を取り消すべきである旨を主張する。 理由1.本件発明1、5は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書19?20頁、28頁) 理由2.本件発明1、5は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書20?21頁、28頁) 理由3.本件発明1、5は、当業者が、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書21?22頁、28頁) 理由4.本件発明1、5は、当業者が、甲第4号証に記載された発明及び甲第1?3号証のいずれかに記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書22?23頁、28頁) 理由5.本件発明1、5は、当業者が、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書23?24頁、28頁) 理由6.本件発明1、5は、当業者が、甲第6号証に記載された発明及び甲第1又は4号証のいずれかに記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書24頁、28頁) 理由7.本件発明1、5は、当業者が、甲第7号証に記載された発明及び甲第1?3号証のいずれかに記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書24?25頁、28頁) 理由8.本件発明1、5は、当業者が、甲第8号証に記載された発明及び甲第1?3号証のいずれかに記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書25?26頁) 理由9.本件発明2は、当業者が、甲第1号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書26頁) 理由10.本件発明3は、当業者が、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書26?27頁) 理由11.本件発明4は、当業者が、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。(申立書27?28頁) (証拠方法) 甲第1号証:特表2015-528851号公報 甲第2号証:国際公開2014/163044号 甲第3号証:特開2007-249341号公報 甲第4号証:特許第5908334号公報 甲第5号証:特表2015-500439号公報 甲第6号証:特開平11-228101号公報 甲第7号証:国際公開2015/064644号 甲第8号証:特表2016-507646号公報 (以下、それぞれ「甲1」?「甲8」と記載することがある。) 第4 当審の判断 事案に鑑み上記理由1?11についてまとめて判断する。 1.本件発明1の特徴について (1)本件発明1は、「再生可能エネルギーから得られた電力」を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」である「第1電解装置」で「第1成分」を用いて「液体または気体の水を電気分解して水素を製造」し、「固体高分子型電解質膜を使用する電解方式」である「第2電解装置」で「第2成分」を用いて「液体または気体の水を電気分解して水素を製造」する「水素製造システム」であるという特徴を、特定事項(以下、「特定事項A」という。)として有するものである。 (2)そして、上記特定事項Aを備えることにより、 i)アルカリ電解方式と固体酸化物方式の水素製造への一定成分(変動成分を含まない)の供給により、低コストであり電気分解の信頼性と電気分解の効率が高く、 ii)固体高分子方式の水素製造への変動分の供給により、変動成分に適切に追随して効率的に動作することができ、かつ変動成分に対して高い耐久性を有することができる、 という効果(以下、「本件作用効果」という。)を奏し得るものであり、電解装置が適切な電気分解を行うことが可能な同システム、方法を提供するという課題を解決できるものといえる。 2.甲各号証の記載事項 甲各号証には、本件発明と関連して以下のことが記載されている。 なお、以下の甲各号証の摘示において、下線部は当審が強調のために付記したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。 2-1.甲第1号証について 甲1には次のことが記載されている。 (1ア)【0033】典型的な大規模系統運用機関が管理する電力網へのサービスを提供しない場合にも、これらの属性の一つまたは複数は有用であり得る。例えば再生可能エネルギーから水素を製造するために、電気分解装置は発電機へ直接、または小規模電力網内において接続されることがある。発電機は例えば、風車、太陽パネル、太陽熱装置またはバイオガス燃焼発電機であってもよい。そのような直接システムまたはバッファ最小のシステムにおいては、実時間に製造中のいかなる電力量ででも電気分解装置の運転が可能な程度にまで、電気エネルギー貯蔵の必要性を小さくすることができる。 (1イ)【0036】以下においては、電力網と電気分解装置と天然ガスシステムを持つエネルギーシステムについて説明する。電気分解装置で製造される水素の一部は高付加価値の市場で使用されてもよいが、天然ガスシステム中に水素を注入することも可能である。電気分解装置の設計によって電力網サービスを提供する運転が容易となる。このシステムによって、天然ガスシステム中に注入される水素から価値が引き出せるようになる。 【0037】図1は電気分解装置12を持つエネルギーシステム10を示す。電気分解装置12は制御区域16内で電力網14に接続されている。電力網14はさらにインターチェンジ伝送ライン18を介して他の電力網制御区域へ接続されている。制御区域16内では電力網14に様々な容量の内部伝送ライン20も含まれている。インターチェンジ伝送ライン18の制御区域16内にある部分は、内部伝送ライン20であるとも考えることができる。 (1ウ)【0046】エネルギーシステム10には天然ガスシステム30が含まれる。電気分解装置12は水素出口32を介して天然ガスシステム30に接続されている。天然ガスシステム30は様々な容量のパイプライン34を含み、それによって天然ガス供給部42からガス消費者40へ天然ガスが搬送される。天然ガスシステム30にはまた、天然ガスをパイプライン34の外部に貯蔵するための一つ以上の貯蔵器36が含まれていてもよい。任意選択で、水素出口32は、天然ガスシステム30を経由しないでガス消費者40へ水素を搬送する、水素パイプライン38へ接続されていてもよい。図1において、天然ガスシステム30は図を簡単にするために制御区域16から離れて示されている。天然ガスシステム30と制御区域16は地上で重なり合う可能性がある。具体的にガス消費者40は、制御区域16内の負荷24または発電機22であってもよい。 【0047】電気分解装置12は伝送ライン20から電気を受け取り、少なくともある時間の間は水素を製造する。水素の一部または全部は水素出口32から天然ガスパイプライン34の中へ注入される。こうして、電気分解装置12は電気エネルギーを水素に変換し、その水素を天然ガスシステム30内に貯蔵することによって、エネルギーシステム10内にエネルギーを貯蔵する。場合によっては、水素は天然ガス燃焼発電機22であるガス消費者40によって燃焼させられて、結果的に電気に再変換されることもある。制御区域16のある部分において電気分解装置12を利用して電気を水素に変換し、制御区域16の別の部分で天然ガス燃焼発電機22により相応の電気を生産すれば、天然ガスシステム30を介した電気の仮想移動が提供される。 (1エ)「電気分解装置12を持つエネルギーシステム10」(【0037】)を示す【図1】(FIG.1)を以下に記す。 (1オ)【0071】図3は電気分解装置12の様々な電気部品を示している。電気分解装置12には一組のスタックアセンブリ80がある。次に各スタックアセンブリ80には複数の電気分解装置スタックがあってもよい。スタックは例えばアルカリ性または高分子電解質膜(PEM)スタックであってよい。・・・ 【0072】電力は、AC-ACの降圧変圧器82を介して、電力網14の伝送ライン18、20から電気分解装置12へ供給される。降圧変圧器82は、伝送ライン18、20の電圧を制御区域16内の標準の降圧電圧、例えば120Vまたは220Vにまで下げる。全体の電力消費は主電気メータ84で追跡される。AC電気はメインバス86を介して電気分解装置12内の様々な部品で使用可能となる。 (1カ)「電気分解装置12の様々な電気部品」(【0071】を示す【図3】(FIG.3)を以下に示す。 (1キ)【0079】一例として、1MWの電気分解装置12が5つのスタックアセンブリ80を持っているとする。電気分解装置12は、一つのスタックアセンブリ80から最大0.2MWのアクティブな周波数制御を提供し、残りの4つのスタックアセンブリ80で0?0.8MWの間のベースライン消費をすることも可能である。1MWを消費する間はすべてのスタックアセンブリ80が運転される。所要のベースライン消費が0.6MWに下がると、一つのスタックアセンブリ80を、停止もしくはスタンバイモードとするか、またはアクティブな周波数制御を提供するように運転することが可能である。ベースライン消費を提供する場合は、アクティブな周波数制御に必要のないスタックアセンブリ80のすべてにベースライン消費を分散させるのではなく、可能な限り多くのスタックアセンブリ80を停止またはスタンバイにすることが好ましい。しかし電気分解装置12がベースライン消費なしで1MWの周波数制御を行う必要がある(すなわち指定の電力出力が、急激または予想困難な状態で0.8MWだけ変動することが予想される)場合には、すべてのスタックアセンブリ80が同じ変動出力レベルで運転される。図4に関連してこの後さらに説明するように、電力消費と水素製造が可変であるにも拘わらず、水素は実質的に一定圧力で製造される。 2-2.甲第2号証について 甲2には次のことが記載されている。 (2ア)[0010]本発明は、太陽光発電エネルギを有効に利用して高効率の電力供給が可能な太陽光発電システムを提供することを目的とする。 [0011]本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくとも、電力変換制御器(パワーコンディショナ)の交流出力設定値に応じて、水素製造する電解システムを接続切換制御することにて、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。 (2イ)[0017]再生可能エネルギである太陽光エネルギは、太陽光発電装置1との電気的若しくは物理的な接続線、配管等は存在せず、地球気象条件に基づくものである。 [0018]太陽光発電装置1は太陽光エネルギを直流電力に変換する装置であり、水素製造装置2と、電力変換制御器3と電気的に接続され、切替手段4によって電気的な接続構成が切替えられる。太陽光発電装置1で発電した電力は、電力変換制御器3を介して系統に供給される。また、切替手段4によって太陽光発電装置1と水素製造装置2を接続することにより、太陽光発電装置1で発電した電力を水素製造装置2に供給して、水素製造装置2で電力を水素エネルギに変換することで電力を化学エネルギとして貯蔵、供給される。 [0019]水素製造装置2は、太陽光発電装置1によって得られた電力を用いて水素を製造するものである。具体的には、水素製造装置2においては、これらの電力を用いて電解液を電気分解することにより、少なくとも水素が発生するようになっている。従って、太陽光発電装置1から水素製造装置2に供給される電力が多ければ多いほど、水素製造装置2において製造される水素の量も多くなる。水素製造装置2は、太陽光発電装置1と切替手段4を介して電気的に接続されている。 ・・・ [0021]前記の電解液としては、電気分解することにより少なくとも水素が発生するものであれば特に制限は無いが、例えば水酸化カリウム等の、水に溶解させたときにアルカリ性を示す化合物が好ましい。このような化合物を用いることにより、安価かつ腐食しにくい水素製造装置2とすることができる。また、電解質としては、例えばイオン導電性の固体高分子型電解質を用いることもできる。 (2ウ)[0029]・・・本実施形態の太陽光発電システムでは、太陽光発電装置1の発電予測電力W0が電力変換制御器3の出力電力W2を上回る際には、図3Bの構成(2)または図3Cの構成(3)に示すように太陽光発電装置に対して水素製造装置2と電力変換制御器3の接続構成が直列及び/または並列接続になるように切替手段4で接続構成を切替える。このように接続構成を切替えることで、電力変換制御器3の定格出力電力を上回る余剰電力が水素製造装置2に供給され、電気分解が開始して水素が発生する。このとき、電力変換制御器3の出力電力W2は水素製造装置2の接続に影響されず出力を維持することが求められる。 (2エ)「本発明の第1実施形態に係る水素製造手段を備えた太陽光発電システムの構成を模式的に表す図」([0014])である[図1]を以下に示す。 (2オ)「本発明の第1実施形態に係る水素製造手段を備えた太陽光発電システムの構成(2)の接続形態を模式的に表す図」([0014])である[図3B]を以下に示す。 (2カ)「本発明の第1実施形態に係る水素製造手段を備えた太陽光発電システムの構成(3)の接続形態を模式的に表す図」([0014])である[図3C]を以下に示す。 2-3.甲第3号証について 甲3には次のことが記載されている。 (3ア)【0002】・・・これらの再生可能エネルギーはエネルギー密度が小さいことやエネルギー供給が不安定であるなどの欠点を有している。これらを解決する方法として、エネルギーを水素という二次エネルギーに一旦変換して貯蔵し、エネルギー需要にあわせて水素を供給することにより、エネルギーの安定供給を図る方法がある。・・・ (3イ)【0005】風力発電により負荷に電力を安定供給することと水素を製造することとを同時に実施する場合、水素製造装置への負荷が変動するため、水素製造量が不安定になり、負荷変動が繰り返されることにより水素製造装置の劣化が早まる。 【0006】本発明の目的は、風力発電装置からの電力を安定に負荷と水素製造装置とに供給する風力発電水素製造装置を提供することにある。 (3ウ)【0010】本発明を実施するための実施形態を以下に説明する。(1)電力系統に接続された風力発電装置において、所定の電力を電力系統に供給し、かつ、風力発電装置の発電電力と電力系統に出力する目標値電力との差分を差分電力として電解水素製造装置に供給することにより、水素を製造する水素製造システム。・・・ (3エ)【0018】水素製造装置7としては、固体高分子電解質型水電解水素製造装置を用い、降圧チョッパー回路6の制御により風力の変動電力を水素製造装置7で消費させて水素を製造する。 (3オ)【0019】・・・さらに、水素製造装置として、ここでは固体高分子電解質水電解水素製造装置で説明するが、アルカリ水電解水素製造装置,食塩水電解水素製造装置, 海水電解水素製造装置, 水蒸気電解水素製造装置であってもよい。 (3カ)【0034】上記実施例に示すように、風力発電電力Pw の値より、系統に出力する風力発電電力の目標値Pk を小さくすることで、風力発電による電力の変動電力成分は水素製造装置に吸収され、系統にはほぼ一定の電力を出力することが出来る水素製造システムを提供できる。 (3キ)「本発明の一実施例である風力発電水素製造装置の構成図」(【0044】)である【図1】を以下に示す。 2-4.甲第4号証について 甲4には次のことが記載されている。 (4ア)【0002】近年、風力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギーの有効利用が望まれ、低コスト大容量電源となることが期待されている。また、風力発電と電解水素発生装置を備えるシステムでは、風力発電機が運転可能な回転数範囲に長くとどまるように、水素の電解電流を風車の回転数に応じて変化させ、風車が加速すれば電解電流を大きくし、風車が減速すれば電解電流を小さくして風車の回転を制御するものや風車回転数の微分値を求め、この微分値に応じて整流器の出力電圧を制御するものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。 ・・・ 【0004】しかしながら、先行技術のシステムでは、風車の回転数を風速に応じて変化させており、発電の安定化と高効率発電の両立は図られていないので、水素製造効率が低下する恐れがあり、また動的な応答特性に対する考慮もなされていないという問題がある。 【0005】本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、発電の安定化と高効率発電の両立を図ることのできる電解水素生成システム、電解水素生成方法およびプログラムを提供することを目的とする。 (4イ)【0015】AC-DC変換器4は、風車1からの交流電力を、水電解水素生成装置(電解水素生成装置)5での電解による水素生成のための直流電力に変換している。・・・ 【0016】水電解水素生成装置5は、図示しないアルカリ電解液を用いた陽極と陰極を持つアルカリ電解装置と、発生した水素を加圧貯蔵する水素貯蔵タンクと、から構成されている。AC-DC変換器4で生成した直流電力は、アルカリ電解装置の陽極と陰極の間に印加され、水を電解して水素を得る。・・・ (4ウ)【0049】・・・風力の目標電力が消費電力より大きい場合には、蓄電池13の充電分となり、風力の目標電力が消費電力より小さい場合には、蓄電池13の放電分となる。 【0050】この風力の目標電力は、水電解水素生成装置5が許容できる負荷変動よりも急激に変化する。そこで、この実施形態では、水電解水素生成装置5が追従できる負荷変化に留められるように、風力発電の出力の一部を蓄電池13に蓄えられるようにする。 (4エ)「実施形態2の電解水素生成システムの構成を示すブロック図」である【図5】を以下に示す。 2-5.甲第5号証について 甲5には次のことが記載されている。 (5ア)【0005】しかしながら、風力発電装置は・・・変動する風速によって同様に常に変動する出力即ち大きさが変動する電気出力(即ち有効電力)が電気ネットに供給される。 【0006】従って、(電気)ネットへの風力発電装置の出力量(Leistungsbeitrag)は十分に大きな確率では予測することができない・・・ ・・・ 【0011】本発明の課題は、従来技術から既知の欠点を伴うことなく、風力発電装置から(電気)ネットに供給される電気出力(電力)を恒常化(安定化)することである。 (5イ)【0028】風力発電装置又はウインドパークの実際の放出出力(生成出力)は常に検出されるため、相応して、予測出力を上回る出力は(所定の)値として常にパワー・ツー・ガス・ユニットに供給されることができる、即ち、予測を超えて風力発電装置/ウインドパークによって生成される電気出力はパワー・ツー・ガス・ユニットに供給されることができ・・・(電気)ネットから見ると風力発電装置又はウインドパークとパワー・ツー・ガス・ユニットから構成されるユニット(システム)は、ほぼ一定の電気出力を(電気)ネットに供給することになる。 (5ウ)【0045】・・・そのようなパワー・ツー・ガス・ユニット23では、例えば電気分解(このための電気出力は風力発電装置、ソーラー電源又は(電気生成を伴う)バイオマス源から得る)によって、まず、水素を生成することができる。・・・ (5エ)【0063】予測期間内における風の変動に基づき、風力発電装置1は、電気的予測出力(予測電気出力)より大きい電気出力を生成するが、そのため、電気的予測出力(予測電気出力)を超過する風力発電装置1の出力はパワー・ツー・ガス・ユニット23において消費されるため、全予測期間の間、風力発電装置から電力供給網18に供給される電気出力は常に一定に維持されることができる。 (5オ)「本発明の風力発電装置及びパワー・ツー・ガス・ユニットの一例の模式的外観図」(【0035】)である【図2】を以下に示す。 2-6.甲第6号証について 甲6には次のことが記載されている。 (6ア)【0006】・・・その目的は、自然エネルギーを利用して得られる変動の大きな電力を使用しても、立ち上がり特性に優れ、装置を作動させるための特別のエネルギー源を必要とせず、安定して水素と酸素を製造しうる水素・酸素製造プロセスを提供することにある。・・・ (6イ)【0019】固体高分子電解質型水電解装置によれば、以上のようなプロセスを経て水素と酸素を製造できるが、その水電解装置を運転するには電力が必要である。その電源として、自然エネルギーを利用して得られる電力を使用する場合、その電力変動は極めて大きいが、固体高分子電解質膜を用いることにより0?100%の範囲の電流負荷率での運転が可能であるから、常に安定して発電量に応じた量の水素と酸素を発生させることができる。また、固体高分子電解質を用いた電解セルは常温で作動可能であるから、特別の加熱源が不要であり、自然エネルギーの変動に追随して加熱するという必要もないので、立ち上がり特性が優れている。かくして、本発明によれば、効率よく比較的低コストで純水を電気分解して水素と酸素を生成することができる。 (6ウ)【図4】「風力発電で得た電力を電源として純水を電気分解することにより水素を製造するプラントと天然ガス供給基地を組み合わせた設備の概略構成を示す図」(【図面の簡単な説明】)である【図4】を以下に示す。 2-7.甲第7号証について 甲7には次のことが記載されている。 (7ア)[0002]・・・再生可能エネルギーを動力源に用いたアルカリ水電解の重要性が増してきている。水電解は大きく2つに分けられ、1つはアルカリ水電解であり、電解質に高濃度アルカリ水溶液が用いられている。もう1つは、固体高分子型水電解であり、電解質には、固体高分子膜(SPE)が用いられている。・・・ (7イ)[0011]本発明の目的は、これらの従来技術の問題点を解決し、再生可能エネルギーのような出力変動の大きい電力を用いた水電解で水素を製造することができ、出力変動に対する耐久性の高いアルカリ水電解用陽極を提供することを目的とする。 (7ウ)[0012]本発明における第1の解決手段は、上記の目的を達成するため、少なくとも表面がニッケル又はニッケル基合金よりなる導電性基体と、該導電性基体表面に形成されるリチウム含有ニッケル酸化物よりなる触媒層とからなり、前記触媒層中のリチウム含有ニッケル酸化物のリチウムとニッケルのモル比(Li/Ni)が0.005から0.15の範囲に入ることを特徴とするアルカリ水電解用陽極を提供することにある。 2-8.甲第8号証について 甲8には次のことが記載されている。 (8ア)【0001】本発明は、水の高温電解(HTE:high-temperatureelectrolysis、高温電解またはHTSE:high-temperature steamelectrolysis、高温水蒸気電解)および二酸化炭素CO2または二酸化窒素NO_(2)から選択された他の気体の電解の分野に関する。 (8イ)【0015】水の電解(I)を実行するために、高温、典型的には600℃と950℃との間でこれを実行することが有利である。なぜなら反応のために必要とされるエネルギーのいくらかは、電気よりは安価である熱によって供給されえ、かつ該反応の活性化は高温でより効果的であり、かつ触媒を必要としないからである。高温電解を実行するための公知の方法は、SOEC(固体酸化物形電解セル)型の電解槽を用いることであり、該電解槽は基本ユニットのスタックから成り、各ユニットは固体酸化物形電解セルを備え、該セルは、交互に重畳されたアノード/電解質/カソードの3層、および両極性プレートまたは相互接続子と呼ばれる金属合金の相互接続プレートから成る。・・・ (8ウ)【0021】・・・熱-中立動作点に近い運転は、電解槽へ印加されるべき電圧を固定する。すなわち、100%に近い水変換の程度を有する流出口での望ましいH_(2)/COの比のために、流入口流速およびCO_(2)とH_(2)Oの構成は、必然的に決定される。 3.甲各号証において本件発明1の特定事項Aが記載ないし示唆されているといえるかについての検討 本件発明1は、特定事項A(上記「第4 1.(1)」を参照)を有することにより、本件作用効果(上記「第4 1.(2)」を参照)を奏し得るので、上記課題を解決できるものである。 そこで、上記「第4 2.」の甲各号証の記載から、甲各号証に、特定事項Aについて記載又は示唆があるか、特定事項Aは容易に想到し得るかについて、以下に検討する。 3-1.甲1について (1)甲1に記載された技術手段 ア 甲1の記載事項(1イ)から、甲1には、「電力網と電気分解装置と天然ガスシステムを持つエネルギーシステム」について記載されており、その目的は「電気分解装置の設計によって電力網サービスを提供する運転」を容易とすることにあるといえる。そして、同(1ア)から、「電気分解装置」は「風車、太陽パネル、太陽熱装置またはバイオガス燃焼発電機」などの「再生可能エネルギー」により発電された電力で運転され、水素を製造していることも記載されている。 イ 同(1ウ)と同(1エ)のFIG.1の開示から、「エネルギーシステム10」は「天然ガスシステム30」を含むことがわかる。そして、「天然ガスシステム30」は、「ガス消費者40」へ「天然ガス」を搬送する「パイプライン34」を有し、「電気分解装置12」から生成された水素が「パイプライン34」へ注入されることがわかる。 また、「電気分解装置12」は「再生可能エネルギー」で発電される「発電機22」からの電力で稼働することも理解できる。 ウ 同(1オ)から、「電気分解装置12」は「アルカリ性または高分子電解質(PEM)」の「スタック」であり、同(1カ)のFIG.3の開示から、同「スタック80」は複数存在して、「再生可能エネルギー」で発電された電力が「メインバス86」を介して、複数の「スタック80」の各々へ分配されて、電気分解により水素が生成されるものであることが理解できる。 エ また、同(1キ)には、「ベースライン消費」が変動した場合は、変動に応じて個々のスタックの稼働台数を変えることが示されている。ここで、「ベースライン消費」は、【0075】?【0078】の記載から「ガス消費者40」における消費量の変動といえる。 オ すると、上記ア?エから、甲1には、「再生可能エネルギー」により発電された電力で運転される「電気分解装置」と、同装置から生成される水素が注入される「天然ガス」を搬送する「パイプライン」において、「電気分解装置」は「アルカリ性または高分子電解質(PEM)」である複数の「スタック」から構成され、「ガス消費者」でのガス消費量の変動に応じて「スタック」の稼働台数を変化させるという技術手段が記載されているといえる。 (2)甲1に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲1に記載の技術手段を対比すると、甲1には、「再生可能エネルギー」を「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲1に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲1には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲1の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-2.甲2について (1)甲2に記載された技術手段 ア 甲2の記載事項(2ア)と同(2エ)の[図1]の開示から、甲2には、「高効率の電力供給が可能な太陽光発電システム」の提供を目的として、「電力変換制御器3」(パワーコンディショナ)の交流出力設定値に応じて水素製造する電解システム(「水素製造装置2」)を接続切換制御することが記載されている。 イ 具体的には、同(2ウ)と同(2オ)(2カ)の[図3B][図3C]の開示から、「太陽光発電装置1の発電予測電力W0」が「電力変換制御器3の出力電力W2を上回る」ときに、「太陽光発電装置1」の「水素製造装置2と電力変換制御器3の接続構成が直列及び/または並列接続」になるように「接続構成を切替」て、「電力変換制御器3の定格出力電力を上回る余剰電力が水素製造装置2に供給され、電気分解が開始して水素が発生」し、「電力変換制御器3の出力電力W2」は一定出力として「系統負荷」すなわち電力の供給先へ送電されることが理解できる。 ウ そして、同(2イ)から、「水素製造装置2」として、アルカリ性電解液による電解方式と固体高分子型電解質による電解方式とが記載されている。 エ すると、上記ア?ウから、甲2には、「高効率の電力供給が可能」にすることを目的として、「太陽光発電装置の発電予測電力」が「電力変換制御器の出力電力を上回る」ときに、「水素製造装置」と「電力変換制御器」が「直列及び/または並列接続」となるように構成を切り替えて、「電力変換制御器」の「定格出力電力を上回る余剰電力」が「水素製造装置」に供給され、「電力変換制御器」の一定の「定格出力電力」が電力の供給先へ送電される「太陽光発電装置」において、「水素製造装置」として「アルカリ性電解液による電解方式」や「固体高分子型電解質による電解方式」とする技術手段が記載されているといえる。 (2)甲2に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲2に記載の技術手段を対比すると、甲2には、「再生可能エネルギー」である太陽光発電により得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲2に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲2には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲2の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-3.甲3について (1)甲3に記載された技術手段 ア 甲3の記載事項(3ア)?(3ウ)から、甲3には、「再生可能エネルギー」である「風力発電」による電力を「負荷」である「電力系統」と「水素製造装置」へ「安定供給する」ことを目的として、「電力系統に接続された風力発電装置において、所定の電力を電力系統に供給し、かつ、風力発電装置の発電電力と電力系統に出力する目標値電力との差分を差分電力として電解水素製造装置に供給することにより、水素を製造する水素製造システム。」が記載されている。 イ 具体的には同(3エ)(3カ)と同(3キ)の【図1】の開示から、「降圧チョッパー回路6」等の制御により、「風力の変動電力」を「水素製造装置7」へ、「ほぼ一定の電力」を「電力系統」へ、それぞれ供給できるものといえる。 ウ そして、同(3エ)(3オ)から、「水素製造装置」として「固体高分子電解質水電解水素製造装置」「アルカリ水電解水素製造装置,食塩水電解水素製造装置, 海水電解水素製造装置, 水蒸気電解水素製造装置」を用いることができるものといえる。 エ すると、上記ア?ウから、甲3には、「電力系統に接続された風力発電装置」からの「ほぼ一定」の「所定の電力を電力系統に供給し、かつ、風力発電装置の発電電力と電力系統に出力する目標値電力との差分を差分電力として電解水素製造装置に供給することにより、水素を製造する水素製造システム」において、「電解水素製造装置」として「固体高分子電解質水電解水素製造装置」や「アルカリ水電解水素製造装置」を用いるという技術手段が記載されているといえる。 (2)甲3に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲3に記載の技術手段を対比すると、甲3には、「再生可能エネルギー」である風力発電により得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲3に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲3には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲3の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-4.甲4について (1)甲4に記載された技術手段 ア 甲4の記載事項(4ア)、同(4ウ)、同(4エ)の【図5】の開示から、甲4には、「再生可能エネルギー」を生成する「風力発電」と「水電解水素生成装置5」と「蓄電池13」を備えるシステムにおいて、「発電の安定化と高効率発電の両立を図ることのできる電解水素生成システム」を提供することを目的とすることが記載されている。 そして、風力発電の「目標電力」と、「水電解水素生成装置5」での消費電力の差分が「蓄電池13」の充放電分となるところ、風力発電の「目標電力」が「消費電力」より大きい場合に差分が充電分となり、風力発電の「目標電力」が「消費電力」より小さい場合に差分が放電分となることが記載されている。 イ また、同(4イ)から、甲4には、「水電解水素生成装置5」は「アルカリ電解液を用いた陽極と陰極を持つアルカリ電解装置」を用いることが記載されている。 ウ すると、上記ア、イから、甲4には、風力発電の「目標電力」と、「水電解水素生成装置」での消費電力の差分が「蓄電池」の充放電分となるところ、風力発電の「目標電力」が「消費電力」より大きい場合に差分が充電分となり、小さい場合に差分が放電分となる、「再生可能エネルギー」を生成する「風力発電」と「水電解水素生成装置」と「蓄電池」を備えるシステムにおいて、「水電解水素生成装置」が、アルカリ電解質を使用する電解方式である技術手段が記載されているといえる。 (2)甲4に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲4に記載の技術手段を対比すると、甲4には、「再生可能エネルギー」である風力発電により得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲4に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲4には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲4の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-5.甲5について (1)甲5に記載された技術手段 ア 甲5の記載事項(5ア)、同(5イ)、同(5エ)、同(5オ)の【図2】の開示から、甲5には、「風力発電装置」から「(電気)ネット」(「電力供給網18」)に電力を供給する際に、「変動する風速によって同様に常に変動する出力即ち大きさが変動する電気出力(即ち有効電力)が電気ネットに供給され」てしまうことから、「風力発電装置から(電気)ネットに供給される電気出力(電力)を恒常化(安定化)すること」を目的として、「(電気)ネット」(「電力供給網18」)に「パワー・ツー・ガス・ユニット23」を併設し、「予測出力を上回る出力は(所定の)値として常にパワー・ツー・ガス・ユニットに供給」することで、「風力発電装置から電力供給網18に供給される電気出力は常に一定に維持される」ことができる「システム」が記載されているといえる。 イ そして、同(5ウ)から、「パワー・ツー・ガス・ユニット23」は「電気分解(このための電気出力は風力発電装置、ソーラー電源又は(電気生成を伴う)バイオマス源から得る)によって、まず、水素を生成する」ものであることが記載されている。 ウ すると、上記ア、イから、甲5には、「電力供給網」へ電力を供給する「風力発電装置」において、「パワー・ツー・ガス・ユニット」が併設され、予測出力を上回る出力は「パワー・ツー・ガス・ユニット」に供給されることで、「電力供給網」に供給される電気出力は一定に維持される「システム」において、「パワー・ツー・ガス・ユニット」は、「電気分解」により水素を生成するものであるという技術手段が記載されているといえる。 (2)甲5に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲5に記載の技術手段を対比すると、甲5には、「再生可能エネルギー」である風力発電により得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲5に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲5には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲5の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-6.甲6について (1)甲6に記載された技術手段 ア 甲6の記載事項(6ア)と同(6ウ)の【図4】の開示から、甲6には、「自然エネルギーを利用して得られる変動の大きな電力を使用」しても「立ち上がり特性に優れ、装置を作動させるための特別のエネルギー源を必要とせず、安定して水素と酸素を製造しうる水素・酸素製造プロセスを提供する」ことを目的とし、具体的には、「風車31」による風力発電による電力を「固体高分子電解質型水電解装置33」に供給して水素を生成する装置が記載されているといえる。 イ 同(6イ)には、「固体高分子電解質型水電解装置」は、「0?100%の範囲の電流負荷率での運転が可能」で、「常温で作動可能」で、「特別の加熱源が不要」であり、「自然エネルギーの変動に追随して加熱するという必要もないので、立ち上がり特性が優れ」ており、「常に安定して発電量に応じた量の水素と酸素を発生させ」得ることが記載されている。 ウ すると、上記ア、イから、甲6には、風力発電による電力を「固体高分子電解質型水電解装置」に供給して水素を生成する装置において、「固体高分子電解質型水電解装置」は特別の加熱等が不要で、常に安定して発電量に応じた量の水素を発生させ得ることが記載されているといえる。 (2)甲6に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲6に記載の技術手段を対比すると、甲6には、「再生可能エネルギー」である風力発電により得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲6に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲6には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲6の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-7.甲7について (1)甲7に記載された技術手段 ア 甲7の記載事項(7ア)、(7イ)から、甲7には、「再生可能エネルギーを動力源に用いたアルカリ水電解」において、「アルカリ水電解」には「電解質に高濃度アルカリ水溶液」を用いる方法と、「固体高分子型水電解」による方法があるところ、「再生可能エネルギー」を動力源に用いると「出力変動」が大きいので、「出力変動に対する耐久性の高いアルカリ水電解用陽極」を提供することを目的とすることが記載されている。 イ 同(7ウ)から、「出力変動に対する耐久性の高いアルカリ水電解用陽極」として、同「陽極」の材質を特定のものとすることが記載されている。 ウ すると、上記ア、イから、甲7には、「再生可能エネルギーを動力源に用いたアルカリ水電解」において、特定の材質を用いて「出力変動に対する耐久性の高いアルカリ水電解用陽極」としたものにおいて、「電解質に高濃度アルカリ水溶液」を用いる方法、又は、「固体高分子型水電解」による方法を、「アルカリ水電解」として用いる技術手段が記載されているといえる。 (2)甲7に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲7に記載の技術手段を対比すると、甲7には、「再生可能エネルギー」を動力源として得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲7に記載の技術手段においては、「再生エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲7には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲7の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 3-8.甲8について (1)甲8に記載された技術手段 ア 甲8の記載事項(8ア)、(8イ)から、甲8には、「水の高温電解」において、高温下では触媒を必要とせず反応の活性化をより効果的に行える「SOEC(固体酸化物形電解セル)型の電解槽」を用いることが記載されているといえる。 イ 同(8ウ)から、「水の高温電解」において、固体酸化物の電解質の熱中立点の電力が電解装置に供給されることが理解される。 ウ すると、上記ア、イから、甲8には、高温下では触媒を必要とせず反応の活性化をより効果的に行える「固体酸化物形電解セル型の電解槽」を用いる電解装置による「水の高温電解」において、固体酸化物の電解質の熱中立点の電力を電解装置に供給することが記載されているといえる。 (2)甲8に特定事項Aは記載されているかの判断 ア そこで、本件発明1と甲5に記載の技術手段を対比すると、甲8には、「再生可能エネルギー」により得られた電力を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「第1成分」を「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」へ、「第2成分」を「高分子電解質(PEM)」の電解方式へ、それぞれ導入することは記載がない。 イ そして、甲8に記載の技術手段においては、「再生可能エネルギー」を「一定成分」と「変動成分」に分けてそれぞれを別の電解方式で電解すると、変動成分に適切に追随して効率的に動作できるという本件作用効果についての認識がなく、特定事項Aに想到するための動機付けがない。 ウ したがって、甲8には少なくとも特定事項Aについて記載も示唆もなく、甲8の記載から特定事項Aが容易に想到し得るものともいえない。 4.本件発明1についての結言 以上のとおり、甲1?8には、以下に再掲する上記「第4 1.(1)」で述べた本件発明1の特定事項Aについて記載も示唆も見いだすことはできない。 そして、本件発明1は上記特定事項Aを有することにより、以下に再掲する上記「第4 1.(2)」で述べた本件作用効果を奏し得ることで、上記課題を解決できるものである。 <特定事項A> 「再生可能エネルギーから得られた電力」を、「所定の期間内において一定」である「第1成分」と、「前記所定の期間内において変動」する「第2成分」とに「分離」し、「アルカリ電解質または固体酸化物形電解質膜を使用する電解方式」である「第1電解装置」で「第1成分」を用いて「液体または気体の水を電気分解して水素を製造」し、「固体高分子型電解質膜を使用する電解方式」である「第2電解装置」で「第2成分」を用いて「液体または気体の水を電気分解して水素を製造」する「水素製造システム」であること <本件作用効果> i)アルカリ電解方式と固体酸化物方式の水素製造への一定成分(変動成分を含まない)の供給により、低コストであり電気分解の信頼性と電気分解の効率が高く、 ii)固体高分子方式の水素製造への変動分の供給により、変動成分に適切に追随して効率的に動作することができ、かつ変動成分に対して高い耐久性を有することができる、という効果 したがって、本件発明1は、甲各号証に記載された発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明、技術手段をどのように組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 5.本件発明2?4について 本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するので、本件発明1と同様に判断される。 すなわち、本件発明2?4は、いずれも甲各号証に記載された発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明、技術手段をどのように組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 6.本件発明5について 本件発明5(「水素製造方法」)は、本件発明1(「水素製造システム」)とカテゴリーのみが相違するので、本件発明1と同様に判断される。 すなわち、本件発明5は、甲各号証に記載された発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明、技術手段をどのように組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-07-15 |
出願番号 | 特願2018-502873(P2018-502873) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C25B)
P 1 651・ 121- Y (C25B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | ▲辻▼ 弘輔 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
中澤 登 亀ヶ谷 明久 |
登録日 | 2019-08-23 |
登録番号 | 特許第6574891号(P6574891) |
権利者 | 株式会社東芝 |
発明の名称 | 水素製造システムおよび水素製造方法 |