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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 一部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1364970
異議申立番号 異議2020-700229  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-02 
確定日 2020-08-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6585857号発明「フルフリルメチルスルフィドを含む容器詰めコーヒー飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6585857号の請求項1、3?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6585857号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2018年3月14日(優先権主張2017年3月14日、同年同月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和1年9月13日に特許権の設定登録がされ、令和1年10月2日にその特許公報が発行され、令和2年4月2日に、その請求項1及び3?7に係る発明の特許に対し、新井 誠一(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6585857号の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、
フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、
p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lである、
容器詰めコーヒー飲料。
【請求項2】
飲料中のフルフリルメチルスルフィド含有量が150?500μg/Lである、請求項1に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項3】
さらに、下記(v)?(vii)の少なくとも1つを満たす、請求項1または2に記載の容器詰めコーヒー飲料:
(v)飲料中のフルフリルメルカプタン含有量が1800?5000μg/Lである;
(vi)飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lである;
(vii)飲料中のフルフリルチオアセテート含有量が25?300μg/L。
【請求項4】
ブラックコーヒーである、請求項1?3のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項5】
飲料のBrix値が0.4以上である、請求項1?4のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項6】
再栓可能な蓋付き容器に充填された、請求項1?5のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項7】
容器詰めコーヒー飲料の製造方法であって、
(a)飲料中のグアイアコール含有量を100?550μg/Lに調整する工程、
(b)飲料中のフルフリルメチルスルフィド含有量を25?1000μg/Lに調整する工程、
(i)飲料中のp-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lに調整する工程、
及び
(d)容器詰めする工程、
を含む、前記製造方法。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第8号証を提出して、以下の申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2011-125283号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:Ivon Flament著、「COFFEE FLAVOR CHEMISTRY」、WILEY社、(2002年)、表紙、裏表紙、p.192?193、196?199、244?245(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2008-259472号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:GEORGE A. BURDOCK博士著、「FENAROLI'S HANDBOOK OF Flavor Ingredients SIXTH EDITION」、CRC Press Taylor & Francis Group、(2010年)、表紙、p.654?655、奥付(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2009-291088号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:UCC上島珈琲株式会社の公式ホームページ,「ニュースリリース 2014.08.15 商品情報 ブラック無糖缶コーヒーの代表的ブランド『UCC BLACK無糖』のホット専用リキャップ缶コーヒー 冬場の缶コーヒー最需要期に向けてラインアップ強化
『UCC BLACK無糖 PREMIUM AROMA HOT LIMITEDリキャップ缶275g』を9月15日(月)から新発売!ホットでもアイスでもおいしいリキャップ缶コーヒー2アイテムを9月29日(月)からリニューアル新発売!」[online],2014年8月15日,インターネットURL:https://www.ucc.co.jp/company/news/2014/rel140815a.html(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2015-91271号公報(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特許第6392966号公報(以下「甲8」という。)

(申立理由の概要)
申立理由1(進歩性)
本件発明1、4?7は、甲6より認識される本件優先日前に日本国内において公然実施をされた発明及び甲1?7に記載された周知事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由2(実施可能要件・サポート要件)
本件発明3に係る特許は、以下(1)?(2)のとおり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、また、本件発明3に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないため同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(1)本件発明3の「(vi)飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lである」について、本件明細書の実施例に具体的に開示されるデータ(表1?8)と、本件の優先権主張の基礎出願である特願2017-70493号の分割出願に係る甲8の実施例に具体的に開示されるデータ(表1?8)とを比べると、両者は同一のデータであり、本件明細書の実施例に具体的に開示されるデータ(表1、3、8)において成分名「フルフリルメチルジスルフィド」と記載される箇所は正しくは、成分名「フルフリルジスルフィド」であると判断される。
してみると、本件明細書において「フルフリルメチルジスルフィド」について具体的に開示されるデータは表9のみであり、フルフリルメチルジスルフィドを30μg/Lで含む場合のみである。
したがって、飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lの全ての場合において、本件発明3の課題を解決できると推認することはできない。故に、本件発明3は実施可能要件・サポート要件を充足しない。

(2)仮に、本件明細書の実施例に具体的に開示されるデータ(表1、3、8)が「フルフリルメチルジスルフィド」を示すとした場合、本件明細書の実施例に開示されるフルフリルメチルジスルフィドを含有するコーヒー飲料において、請求項1にて特定されるグアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lであることを満たす際のフルフリルメチルジスルフィド含有量は30μg/Lのみである。
したがって、グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lであるコーヒー飲料において、フルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lである全ての場合において、本件発明3の課題を解決できると推認することはできない。故に、本件発明3は実施可能要件・サポート要件を充足しない。

第4 当審の判断

1 申立理由1(進歩性)について

(1)甲1?甲7の記載

ア 甲1
甲1a「【0009】
したがって、本発明の課題は、香ばしい焙煎香が豊かで、かつ後味のキレの良好なコーヒー抽出物を提供することにある。また、本発明の課題は、当該コーヒー抽出物を用いたソリュブルコーヒー及び容器詰コーヒー飲料を提供することにある。」

甲1b「【0014】
(コーヒー抽出物)
本発明のコーヒー抽出物は、香ばしい焙煎香の増強に有効な(A)フルフラール(furfural)を豊富に含む一方、後味のキレを低下させる原因物質である(B)グアヤコール、4-エチルグアヤコール及び4-ビニルグアヤコールから選択される少なくとも1種のグアヤコール(guaiacol)類が十分低減されている。そのため、香ばしい焙煎香が豊かで、かつ後味のキレが良好なコーヒー抽出物とすることができる。」

イ 甲2 (訳文にて示す。)
甲2a「(H.7)(H.7) フェノール、4-エチル-、4-エチルフェノール・・
アラビカコーヒーにて・・・同定された。」(192頁下から8?7行)

甲2b「グアイアコールは、強力な煙のような、やや薬品の匂いを有する・・;それは、フェノール、焦げた・・・、フェノール、スパイシー・・と表現され、フェノール、芳香性・・と認識される。風味は、スモーキー、ウッディ、フェノール、肉質等・・と表現される」(198頁27?30行)

甲2c「(I.130) フラン,2-[(メチルチオ)メチル]-、・・・・フルフリルメチルスルフィド・・・
それは、コーヒー臭を有する・・・」(245頁15?30行)

ウ 甲3
甲3a「【0020】
本発明においてコーヒーの淹れたて感賦与剤として使用される前記式(1)の化合物としては、例えばフルフリルメチルスルフィド・・等が挙げられ・・・」

エ 甲4 (訳文にて示す。)
甲4a「p-エチルフェノール
同義語:・・・4-エチルフェノール;・・・」(654頁 最終段落1?2行)

オ 甲5
甲5a「【0069】
得られた各サンプルの香気成分をガスクロマトグラフィーで分析した。図4に結果をしめす。なお、ガスクロマトグラフィーの条件は以下の通りである。
<測定条件>
測定装置:Hewlett Packard 6890 Gas Chromatography
カラム:DB-WAX キャピラリーカラム(0.25mm I.D.×30m、J&W製)
キャリアーガス:ヘリウム
キャリアーガス流量:1ml/分
カラム温度:40℃・5分→240℃(3℃/分にて昇温)
検出器:Hewlett Packard 5973 series MS(検出器温度 230℃)
【0070】
図4で示すように、実施例1の抽出液から得られた飲料では、香料成分がいずれも比較例1?5に比べて高い傾向にあった。図5で示すように、特に、グアヤコール、4-ビニルグアヤコール、4-エチルグアヤコールの成分は比較例1?5のいずれの抽出液から得られた飲料と対しても高かった。
【0071】
[官能評価]
パネラー120名にて、実施例1の抽出液から製造した本発明の飲料(ブラックコーヒー)、市販のブラックコーヒー飲料(市販品1、市販品2)の評価を行った。評価項目はおいしさ、香り、苦み、酸味、コーヒー感、味の濃さ、飲みやすさ、後味、コク、味の個性、購入意向である。パネラーに5:非常に満足、4:満足、3:やや満足、2:ふつう、1:不満と本発明の実施例1の飲料と比較例の各飲料に対して5段階評価してもらった。「5:非常に満足」と「4:満足」との合計人数をパネラー総数(120名)で割り、Top2Boxを算出した。結果を図6に示す。」

甲5b「

」(図5)

甲5c「

」(図6)

カ 甲6
甲6a「 ニュースリリース
2014.08.15 商品情報 UCC上島珈琲
ブラック無糖缶コーヒーの代表的ブランド『UCC BLACK無糖』のホット専用リキャップ缶コーヒー
冬場の缶コーヒー最需要期に向けてラインアップ強化
『UCC BLACK無糖 PREMIUM AROMA HOT LIMITEDリキャップ缶275g』を9月15日(月)から新発売!ホットでもアイスでもおいしいリキャップ缶コーヒー2アイテムを9月29日(月)からリニューアル新発売!」(標題)(審決注:「商品情報」は□囲み文字である。)

甲6b「

UCC上島珈琲株式会社(本社/神戸市・・・)は、冬場のホット販売シーズンに向けて、ホット専用の『UCC BLACK無糖 PREMIUM AROMA HOT LIMITEDリキャップ缶275g』を9月15日(月)から新発売します。・・・・
『UCC BLACK無糖』は、今年で生誕20周年を迎えた、ブラック無糖缶コーヒーの代表的ブランドです。UCCは、1994年に『UCC BLACK無糖』ブランドを展開して以来20年に亘り、レギュラーコーヒーのトップメーカーとして、また、ブラック無糖缶コーヒーのパイオニアとして高度な技術を駆使した製品づくりにこだわり、20?30代の男性を中心とした多くのお客様にご愛飲いただいてきました。・・・・・
このたび、冬場の最需要期に向けて、ホット専用の『UCC BLACK無糖 PREMIUM AROMA HOT LIMITEDリキャップ缶275g』と、ホットでもアイスでもおいしい『UCC BLACK無糖 PREMIUM AROMA リキャップ缶275g』、『同375g』を発売します。」(写真及び写真下1?19行)

キ 甲7
甲7a「【0019】
本発明のコーヒー飲料は、コク付与の観点から、Brix(20℃)が、0.8以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.2以上が更に好ましく、1.5以上がより更に好ましく、そして、飲みやすさの点から、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましい。」

甲7b「【0083】
比較例4
市販の無糖ブラック缶コーヒー飲料の分析及び官能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0084】
【表1】・・・比較例4 ブリックス(20℃)0.92 」

(2)甲6より認識される発明

ア 甲6は、UCC上島珈琲株式会社の公式ホームページに掲載された2014年8月15日付けの「ブラック無糖缶コーヒーの代表的ブランド『UCC BLACK無糖』のホット専用リキャップ缶コーヒー」(甲6a)に関するニュースリリースであって、甲6bには「UCC上島珈琲株式会社(本社/神戸市・・)・・『UCC BLACK無糖』は、今年で生誕20周年を迎えた、ブラック無糖缶コーヒーの代表的ブランドです。UCCは、1994年に『UCC BLACK無糖』ブランドを展開して以来20年に亘り」(審決注:下線は当審が付与。以下同様。)と示されていることから、「『UCC BLACK無糖』」は、UCC上島珈琲株式会社が1994年以来20年に亘り日本国内で販売していた缶コーヒーであると理解することができる。
また、甲6bから、「『UCC BLACK無糖』」名の付く缶コーヒーとして、1994年から日本国内で販売されていた「『UCC BLACK無糖』」(以下「『UCC BLACK無糖』(無印)」と表す。)の他、甲6bに示されている「『UCC BLACK無糖 PREMIUM AROMA HOT LIMITED リキャップ缶』」及び「『UCC BLACK無糖』PREMIUM AROMA リキャップ缶」が、本件優先日前に販売されており、このうち、「『UCC BLACK無糖』(無印)」が、「『UCC BLACK無糖』」名の付く缶コーヒーとして、本件優先日当時、市場で広く販売・認識されていたと認められる。

そうすると、甲6より、以下の発明(以下「引用発明」という。)を認識することができる。
「『UCC BLACK無糖』(無印)との商品名を有する缶コーヒー」

イ 引用発明は、本件優先日前、日本国内で不特定の者に販売されていた缶コーヒーであると理解できるものである。
引用発明を見ても、含まれるコーヒー成分の種類やその含有量を知ることはできず、しかも、コーヒー成分の種類やその含有量はコーヒーの嗜好に直接関係するものであるから、コーヒー成分の種類やその含有量を知らなければ、引用発明の全体を実質的に知ることはできない状況にあったといえるが、引用発明に含まれるコーヒー成分の種類やその含有量について、一般に、グアイアコール(甲1b、甲2b、甲5a)、フルフリルメチルスルフィド(甲2c、甲3a)及びp-エチルフェノール(甲2a、甲4a)は、本件優先日前、周知のコーヒー成分と認められ、これら成分の分析・含有量の測定方法も、一般に良く知られていた(甲5a)と認められるから、引用発明を購入等により取得した当業者は、引用発明のコーヒー成分を分析しその含有量を測定して知ることは、可能な状況にあったといえる。

そうすると、引用発明は、公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明であると認められるから、引用発明は、本件特許の優先日(2017年3月14日及び同年同月31日)前に、日本国内において公然実施をされた発明であると認められる。

(3)本件発明1について

ア 本件発明1と引用発明との対比
引用発明は、「缶コーヒー」であり、容器である缶に詰められたコーヒー飲料といえるから、本件発明1の「容器詰めコーヒー飲料」に相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「容器詰めコーヒー飲料」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:容器詰めコーヒー飲料の成分の含有量について、本件発明1では、グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lであるのに対し、引用発明では、グアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量が明らかでない点

イ 判断

(ア)相違点について

a 引用発明のグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量を検討する。

本件明細書の段落【0042】には、「2.グアイアコール、p-エチルフェノール、・・・フルフリルメチルスルフィド・・含有量の測定 ・・・。また、市販の缶コーヒー1?3(市販品1:UCC Blackコーヒー・・)中の各成分含有量も同様に分析した。結果を表2?7に示す」と記載されている。
そして、市販の缶コーヒー1である「市販品1:UCC Blackコーヒー」に着目すると、本件明細書の【表3】(【0058】)に記載されている「市販品1:UCC Blackコーヒー」のグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量の分析結果をみると、「市販品1」「単位:μg/L」、「グアイアコール(a)」「932.3」、「p-エチルフェノール(b)」「15.5」、「フルフリルメチルスルフィド(p)」「36.9」と記載されていることから、「市販品1:UCC Blackコーヒー」の、グアイアコール含有量は932.3μg/L、フルフリルメチルスルフィド含有量は36.9μg/L及びp-エチルフェノール含有量は15.5μg/Lであるといえる。

この「市販品1:UCC Blackコーヒー」が、引用発明である「『UCC BLACK無糖』(無印)」との商品名を有する缶コーヒー」であるかは明らかでないが、「市販品1:UCC Blackコーヒー」は、市場で広く販売され、一般的に「UCC Blackコーヒー」として認知されていたものと推測されることから、本件優先日当時「UCC BLACK無糖」名の付く缶コーヒーとして市場で広く販売・認識されていた、引用発明であると一応解釈して、以下検討する。
引用発明に含まれるコーヒー成分の種類やその含有量について、一般に、グアイアコール(甲1b、甲2b、甲5a)、フルフリルメチルスルフィド(甲2c、甲3a)及びp-エチルフェノール(甲2a、甲4a)は、本件優先日前、周知のコーヒー成分と認められ、これら成分の分析・含有量の測定方法も、一般に良く知られていた(甲5a)と認められることから、当業者が、引用発明のグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量を、一般に広く知られていた分析・測定方法により分析し各含有量を測定すれば、本件明細書の【表3】(【0058】)に記載されている「市販品1:UCC Blackコーヒー」のグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量の分析結果と同じであると理解される。

そうすると、引用発明のグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量は、グアイアコール含有量が932.3μg/L程度、フルフリルメチルスルフィド含有量が36.9μg/L程度及びp-エチルフェノール含有量が15.5μg/L程度であると理解される。

b そこで、本件発明1のグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量と、引用発明の前記aで示したグアイアコール、フルフリルメチルスルフィド及びp-エチルフェノールの各含有量を対比する。

引用発明のフルフリルメチルスルフィド含有量36.9μg/L程度は、本件発明1の「フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり」に相当する。
引用発明のp-エチルフェノール含有量15.5μg/L程度は、本件発明1の「p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lである」に相当する。
しかし、引用発明のグアイアコール含有量932.3μg/L程度は、本件発明1の「グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり」とは相違する。

そうすると、前記アで述べたことも踏まえると、本件発明1と引用発明とは、実質的に、以下の点でのみ相違するといえる。

相違点’:グアイアコール含有量が、本件発明1では、100?550μg/Lであるのに対し、引用発明では、932.3μg/L程度である点

c 相違点’について
引用発明は、本件優先日前に市場で広く販売されていたものであり、顧客に広く支持され満足のいく一定の風味を有するものであると理解される。
このような引用発明において、一部の成分の含有量を変化させようという動機付けがあるとは認められない。
たとえ、甲1に、後味のキレを低下させる原因物質である、グアヤコール、4-エチルグアヤコール及び4-ビニルグアヤコールから選択される少なくとも1種のグアヤコール(guaiacol)類が十分低減されていると、香ばしい焙煎香が豊かで、かつ後味のキレが良好なコーヒー抽出物とすることができること(甲1b)が記載され、甲2より、グアイアコールはフェノール等の風味を有する苦味成分であることが示唆され(甲2b)、甲5に、苦み、後味等の評価項目において満足度の高いブラックコーヒー飲料において、グアイアコール含量が約0.5ppm(500μg/L)であることが示されている(甲5a、甲5bの図5)としても、引用発明において、一部の成分の含有量を変化させようという動機付けがあるとは認められない以上、コーヒー成分の一つであるグアイアコールの含有量のみに着目し、その含有量を、932.3μg/L程度から、本件発明1の技術的特徴である100?550μg/Lとすることは、当業者といえども、容易に想到し得たとはいえない。

(イ)本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、本件明細書の段落【0011】に記載され、実施例1-1?実施例9-40により裏付けられているように(【0037】?【0074】)、液温にかかわらず、苦味が抑制され、後味のキレが良好な容器詰めコーヒー飲料を提供でき、それ故、ドリンカビリティの高いコーヒー飲料を提供できるという、顕著な効果を奏するものである。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の3.4.2.1(1)エにおいて、本件明細書の【表3】(【0058】)を指摘し、引用発明は、苦み及び後味のキレのいずれについても満足度が高いものではなかったことが認められること、一方、甲1には、コーヒー抽出物の後味のキレを低下させる原因物質であるグアヤコール(guaiacol)類が十分低減されていることにより、後味のキレが良好なコーヒー抽出物が得られることが記載され(甲1b)、甲2には、グアイアコールはフェノール等の風味を有する苦味成分であることが示唆され、本件明細書の段落【0013】にも同様の事実が示されており、甲5の【図5】及び【図6】には、苦味、後味等の項目で満足度の高いブラックコーヒー飲料において、グアイアコール含量が約0.5ppm(およそ500μg/L)であることが示されていることから、これらの事実関係によれば、コーヒー特有の苦味が抑制され、後味のきれが良いコーヒー飲料のニーズに応えるべく、新たなコーヒー飲料を開発する際に、コーヒーの苦味や後味に寄与することが知られているグアイアコールに着目し、その量を調整することは、当業者が容易に想到し得たことであるといえ、引用発明に接した当業者であればそのグアイアコール含有量を、苦味、後味等の項目において満足度の高いブラックコーヒーにおいて確認された500μg/L程度に調製することは、当業者が容易に想到し得たことであることいえること、本件発明1の効果も、引用発明から予測し得る範囲を超える顕著な効果を奏するものではない旨、主張している。

しかしながら、引用発明は、ブラック無糖缶コーヒーの代表的ブランドとして本件優先日前に市場で広く販売されていたものであり、顧客に広く支持され満足のいく一定の風味を有するものであると理解されることから、苦味及び後味のキレの満足度が高いものではなかったとは認められない。
そして、前記(ア)で述べたように、引用発明において、一部の成分の含有量を変化させようという動機付けがあるとは認められない以上、甲1、甲2及び甲5に記載又は示唆されている事項の如何にかかわらず、コーヒー成分の一つであるグアイアコールの含有量を、本件発明1の技術的特徴である100?550μg/Lとすることは、当業者といえども、容易に想到し得たこととは認められない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
以上より、本件発明1は、甲6より認識される本件優先日前に日本国内において公然実施された発明及び甲1?6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4?7について
本件発明4?6は、本件発明1において更なる技術的事項を特定した発明であり、本件発明7は、本件発明1である容器詰めコーヒー飲料の構成と実質的に同じ構成を備えた容器詰めコーヒー飲料の製造方法の発明であることから、本件発明4?7も、本件発明1と同じく、前記(3)で述べたとおり、引用発明に対し、実質的に相違点’を有しており、甲1?7に記載された技術的事項を参酌しても、相違点’を当業者が容易に想到し得るとも認められないので、本件発明4?7も、甲6より認識される本件優先日前に日本国内において公然実施された発明及び甲1?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1及び4?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 申立理由2(実施可能要件・サポート要件)について

2-1 サポート要件について

(1)特許法第36条第6項第1号の判断の前提について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)発明の詳細な説明の記載

ア 背景技術に関する記載
「【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は嗜好品として広く愛好され、その需要もますます増大すると共にニーズの多様化が進んでいる。例えば、コーヒー特有の後引きする苦味を有するコーヒー飲料のニーズが存在する一方で、コーヒー特有の苦味が抑制され、後味のキレが良いコーヒー飲料のニーズも存在する。また、コーヒー飲料の商品形態も、加温用飲料から常温保存用飲料まで多種多様に存在している。こうした状況の下、消費者は、自らの嗜好性や飲用場所、飲用時間等の消費態様に応じた商品形態のコーヒー飲料を選択することができる。例えば、歩きながらコーヒー飲料を飲んだり、仕事中や休憩中に少しずつ長時間かけてコーヒー飲料を飲む態様も広く見受けられる。
【0003】
一方で、加温用飲料として開発された従来のコーヒー飲料では、加温状態で飲用されることを前提として飲料の味や香りの設計がされてきた。しかしながら、コーヒー飲料を飲用する消費者は、通常、常温下で生活しており、コーヒー飲料も、飲用に供されている間は通常、常温下に置かれている。また、前述の通り、近年のコーヒー飲料の消費態様の多様化により、長時間かけてコーヒー飲料が飲用される場合も少なくない。この場合、例えば60℃前後で販売されるコーヒー飲料でも、保存中や飲用中に液温は必然的に低下する。そして、人間の舌の特性上、一般的に苦味成分は他の成分と比較して、高温時よりも常温時で強く感じられる傾向があるが、高温時だけでなく常温時においても、すなわち液温にかかわらず苦味が抑制され、後味のキレが良好なコーヒー飲料を製造するという発想はほとんどない。
【0004】
また、コーヒー飲料では製造後の時間経過に伴い、一部の香気成分が減少し、コーヒー飲料の香気バランスが変化することが報告されており(非特許文献1)、コーヒー飲料の香気に寄与する成分を添加することで、時間経過に伴うコーヒー飲料の香気バランスの変化を抑える試みも報告されている。しかしながら、コーヒーの淹れたての香りに特に寄与する成分である、2-フルフリルチオール、3-メルカプト-3-メチルブチルフォーメート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール等は、コーヒーを淹れた後、急速に消失することが報告されている(非特許文献2)。特に、非特許文献3では、2-フルフリルチオールは淹れたて感付与に関して特に重要な成分であるが、コーヒーの水溶性成分であるメラノイジンと結合し、特に急速に消失することが報告されている。また、缶コーヒー飲料の加熱殺菌によっても、2-フルフリルチオールや3-メルカプト-3-メチルブチルフォーメートなどの香気成分量が減少することや、2-フルフリルチオールは通常のコーヒー飲料のpH(6前後)においても大きく減少することも報告されている(非特許文献4)。
【0005】
さらに、特許文献1では、コーヒー飲料中のピラジン類とグアイアコール類との含有質量比を特定の範囲に制御することで、甘い香りが豊かで、かつ後味のキレの良好なコーヒー抽出物が得られることなどが報告されており、特許文献2では、低揮発性コーヒーアロマ化合物(グアイアコール等)に対する高揮発性コーヒーアロマ化合物(メタンチオール等)の比を高くすることで、コーヒー飲料の開封及び消費時のアロマが知覚されやすくなることが報告されている。また、特許文献3には、フルフリルメチルスルフィドや2-フルフリルメチルジスルフィド等の添加によって、コーヒーの淹れたて感を付与できることが記載されている。」

イ 発明が解決しようとする課題に関する記載
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、いずれの文献にも、開栓後の時間経過や液温の変化に伴う苦味の変化を商品設計で考慮することは記載されていない。本発明の課題は、容器詰めコーヒー飲料の液温にかかわらず、苦味が抑制され、後味のキレが良好なコーヒー飲料を提供することである。・・・」

ウ 実施の態様に関する記載
「【0013】
1-1.グアイアコール
グアイアコールはコーヒー特有の苦味に寄与する成分である。なお、本明細書では、グアイアコールを(a)と表記する場合がある。
【0014】
本発明では、コーヒー飲料中のグアイアコール含有量は10?600μg/L、10?550μg/L、100?550μg/L、好ましくは100?500μg/L、100?300μg/L、より好ましくは150?300μg/Lである。コーヒー飲料中のグアイアコール含有量が上記の範囲より低いと、コーヒー特有の苦味が全く感じられず、コーヒーらしさを有しないことがあり、一方で、コーヒー飲料中のグアイアコール含有量が上記の範囲より高いと、特に常温においてコーヒー特有の苦味を十分に抑制できないことがある。なお、グアイアコールの含有量はGC-MS法により測定することができる。
【0015】
1-2.フルフリルメチルスルフィド
フルフリルメチルスルフィドは一般的にはコーヒー特有の深煎り香を有する成分として知られているが、本発明においては常温(20℃前後)において特異的にコーヒー飲料の苦味抑制効果を有する成分である。なお、本明細書では、フルフリルメチルスルフィドを(p)と表記する場合がある。
【0016】
本発明では、コーヒー飲料中のフルフリルメチルスルフィド含有量は22?1000μg/L、25?1000μg/L、好ましくは25?800μg/L、50?800μg/L、より好ましくは150?500μg/Lである。フルフリルメチルスルフィド含有量が上記の範囲外である場合、常温におけるコーヒー飲料の苦味の抑制効果が十分に得られないことがある。なお、フルフリルメチルスルフィドの含有量は、GC-MS法によって測定することができる。
【0017】
1-3.p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール及び2-アセチルピロール
本発明において、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール及び2-アセチルピロールは、いずれもコーヒー特有の苦味に寄与する成分である。本発明のコーヒー飲料では、コーヒー特有の苦味を効果的に抑制する観点から、さらに、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール及び2-アセチルピロールからなる群から選択される一以上の成分の含有量を特定の範囲に調整することもできる。なお、本明細書では、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール及び2-アセチルピロールを、それぞれ(b)、(c)、(d)、及び(e)と表記する場合がある。
【0018】
本発明のコーヒー飲料中のp-エチルフェノール含有量は特に限定されないが、2.0?20μg/Lであることが好ましく、3.0?19μg/Lであることがより好ましく、5.0?18μg/Lであることがさらに好ましい。・・・・
【0019】
1-4.フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド及びフルフリルチオアセテート
本発明において、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド及びフルフリルチオアセテートは、いずれも一般的にはコーヒー特有の深煎り香を有する成分として知られているが、本発明においては、フルフリルメチルスルフィドと同様に、常温(20℃前後)において特異的にコーヒー飲料の苦味抑制効果を有する成分である。本発明のコーヒー飲料では、効果的に常温(20℃前後)におけるコーヒー飲料の苦味を抑制するという観点から、さらにフルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド、及びフルフリルチオアセテートからなる群から選択される一以上の成分の含有量を特定の範囲に調整することもできる。
【0020】
本発明のコーヒー飲料中のフルフリルメルカプタン含有量は特に限定されないが、1800?5000μg/Lであることが好ましく、1850?4000μg/Lであることがより好ましく、1900?3500μg/Lであることがさらに好ましい。また、本発明のコーヒー飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量は特に限定されないが、25?300μg/Lであることが好ましく、30?200μg/Lであることがより好ましく、30?100μg/Lであることがさらに好ましい。本発明のコーヒー飲料中のフルフリルチオアセテート含有量は特に限定されないが、25?300μg/Lであることが好ましく、30?200μg/Lであることがより好ましく、30?100μg/Lであることがさらに好ましい。なお、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド及びフルフリルチオアセテートの含有量は、GC-MS法によって測定することができる。」

エ 本件発明の実施例に関する記載
「【0037】
<実施例>
・・・・・
【0038】
1.サンプルコーヒー飲料の製造
本実施例では、グアイアコール、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール、2-アセチルピロール、及びフルフリルメチルスルフィドの含有量が異なるサンプル飲料を調製した。各サンプル飲料の具体的な調製方法を以下に記載する。
【0039】
まず、中煎りに焙煎したコーヒー豆(グアテマラ種:L値20)を粉砕し、コーヒー豆の量に対して9倍の質量の湯を抽出湯として用い、抽出機で50℃にて抽出を行った。また、抽出工程の途中で蒸らし時間を3分間設けた。そして、回収する抽出湯量がコーヒー豆量の約3倍の質量となったところで抽出を終了した。抽出液は抽出後に遠心分離処理、及び膜ろ過を実施した。その後、得られた抽出液を約3倍希釈し、さらに重曹を添加してベース飲料を得た。前記ベース飲料中のグアイアコール、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール、2-アセチルピロール、フルフリルメチルスルフィド、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド、及びフルフリルチオアセテートの含有量は、後述の分析方法に従って測定した。表1にベース飲料中の前記各成分の含有量を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
前記ベース飲料にグアイアコール、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール、2-アセチルピロール、及びフルフリルメチルスルフィドを適当量添加し、F0=4以上でUHT殺菌の後、500mLのPETボトル容器に無菌充填を実施し、実施例及び比較例のコーヒー飲料を得た。なお、全ての試験例における、全ての飲料において(市販品は除く)、Brix値は、1.0?1.1の範囲内であった。
【0042】
2.グアイアコール、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール、2-アセチルピロール、フルフリルメチルスルフィド、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド、及びフルフリルチオアセテート含有量の測定
上記1で製造した及びレトルト殺菌後の容器詰めコーヒー飲料のサンプル(実施例及び比較例)を開栓し、各コーヒー飲料中のグアイアコール、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール、2-アセチルピロール、フルフリルメチルスルフィド、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド、及びフルフリルチオアセテートの含有量を、GC-MSにより以下の分析条件で測定した。また、市販の缶コーヒー1?3(市販品1:UCC Blackコーヒー、市販品2:Tullysコーヒー、及び市販品3:KIRIN Fire香ばしBlackコーヒー)中の各成分含有量も同様に分析した。結果を表2?7に示す。
【0043】
<グアイアコール、p-エチルフェノール、p-クレゾール、フェノール、及び2-アセチルピロールの分析条件>
試料液5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm,ゲステル社製)に入れてPTFE製セプタム付き金属蓋(ゲステル社製)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行った。定量は、GC/MSのEICモードにて検出されたピーク面積を用い、標準添加法にて行った。使用した機器及び条件を以下に示す。
【0044】
SPMEファイバー:StableFlex/SS,50/30μmDVB/CAR/PDMS,(スペルコ社製)
全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurposeSamplerMPS2XL(ゲステル社製)
予備加温:40℃5分間
攪拌:なし
揮発性成分抽出:40℃30分間
揮発性成分の脱着時間:3分間
GCオーブン:GC7890A(アジレントテクノロジーズ社製)
カラム:VF-WAXms,60m×0.25mmi.d.df=0.50μm(アジレントテクノロジーズ社製)
GC温度条件:40℃(5分間)→5℃/分→260℃(11分間)
キャリアーガス:ヘリウム,1.2ml/分,流量一定モード
インジェクション:スプリットレス法
インレット温度:250℃
質量分析装置:GC/MSTriple Ouad7000(アジレントテクノロジーズ社製)
イオン化方式:EI(70eV)
測定方式:スキャン測定、またはスキャン&SIM同時測定
スキャンパラメータ:m/z35?350
【0045】
定量イオンは以下に示すイオンから、検出感度、ピーク形状、及びピーク分離が良好なものを選択できる:グアイアコール m/z109、124、又は81(本実施例においては81);p-エチルフェノール m/z107、122、又は77(本実施例においては107);p-クレゾール m/z107、108、77、又は79(本実施例においては107);フェノール m/z94、66、又は65(本実施例においては94);2-アセチルピロール m/z94、109、又は66(本実施例においては94)。
【0046】
なお、上記イオンのいずれを用いてもピーク形状又は感度が良好でない場合は、試料液を蒸留水で適切な倍率に希釈するか、SIMモードを用いることができる。
【0047】
<フルフリルメチルスルフィド、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド、及びフルフリルチオアセテートの分析条件>
試料液5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm,ゲステル社製)に入れてPTFE製セプタム付き金属蓋(ゲステル社製)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行った。定量は、GC/MSのEICモードにて検出されたピーク面積を用い、標準添加法にて行った。使用した機器及び条件を以下に示す。
【0048】
SPMEファイバー:StableFlex/SS,50/30μmDVB/CAR/PDMS,(スペルコ社製)
全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurposeSampler MPS2XL(ゲステル社製)
予備加温:40℃5分間
攪拌:なし
揮発性成分抽出:40℃30分間
揮発性成分の脱着時間:3分間
GCオーブン:GC7890A(アジレントテクノロジーズ社製)
カラム:VF-WAXms,60m×0.25mmi.d.df=0.50μm(アジレントテクノロジーズ社製)
GC温度条件 :40℃(5分間)→5℃/分→260℃(11分間)
キャリアーガス:ヘリウム,1.2ml/分,流量一定モード
インジェクション:スプリットレス法
インレット温度:250℃
質量分析装置:GC/MS Triple Ouad7000(アジレントテクノロジーズ社製)
イオン化方式:EI(70eV)
測定方式:スキャン測定、またはスキャン&SIM同時測定
スキャンパラメータ:m/z35?350
【0049】
定量イオンは以下に示すイオンから、検出感度、ピーク形状、及びピーク分離が良好なものを選択できる:フルフリルメチルスルフィドm/z81、128、53、45、82、129、又は130(本実施例においては129)、フルフリルメチルジスルフィドm/z81、160、53、又は82(本実施例においては82)、フルフリルチオアセテートm/z81、156、113、53、82、114、又は115(本実施例においては113)。上記イオンのいずれを用いてもピーク形状又は感度が良好でない場合は、試料液を蒸留水で適切な倍率に希釈するか、SIMモードを用いることができる。
【0050】
フルフリルメルカプタンは以下の条件を変更して測定した。測定方式:MRM測定、プリカーサーイオン:m/z114、プロダクトイオン:m/z81、コリジョンエネルギー10、ドゥエル200ms。ピーク形状が良好でない場合は、試料液を蒸留水で適切な倍率に希釈することができる。
【0051】
3.官能評価
上記1で調製したレトルト殺菌後の容器詰めコーヒー飲料のサンプル(実施例及び比較例)及び市販品1?3を常温(20℃)と加温(60℃)に保管し、液温をそれぞれの温度にし、開栓後における各コーヒー飲料の官能評価を3名の訓練された専門パネラーによって行い、コーヒー飲料の苦味と後味のキレについて評価した。具体的には、各専門パネラーごとに下記基準に基づいて、0.1点刻みで点数付けを行い、その平均点を表2?7及び表9に示した。常温時及び加温時ともに、加温時の市販品1(コントロール)の官能評価結果(官能評価点:3.0点)を基準として官能評価を実施し、平均点3点を超えるものが液温にかかわらず苦味が抑制された好ましいコーヒー飲料であると判定した。
【0052】
また、500mL飲用後のドリンカビリティについても評価した。3名の訓練された専門パネラーによって行い、コーヒー飲料のドリンカビリティについて評価した。具体的には、各専門パネラーごとに下記基準に基づいて、0.1点刻みで点数付けを行い、その平均点を表9に示した。1本飲んだ際の市販品1(コントロール)の官能評価結果(官能評価点:2.0点)を基準として官能評価を実施し、平均点3点を超えるものがドリンカビリティが好ましいコーヒー飲料であると判定した。
【0053】
<評価点の基準>苦味と後味のキレ
5.0点:コントロールと比較して、苦味がとても抑制され、後味のキレが極めて良い。
4.0点:コントロールと比較して、苦味が抑制され、後味のキレが良い。
3.0点:コントロールと同程度の苦味と後味のキレである。
2.0点:コントロールと比較して、苦味があり、後味のキレが悪い。
1.0点:コントロールと比較して、苦味が強く、後味のキレが非常に悪い。
<評価点の基準>ドリンカビリティ
5.0点:コントロールと比較して、非常に飲みやすく、500ml簡単に飲みきれる。
4.0点:コントロールと比較して、飲みやすく、500ml飲みきれる。
3.0点:コントロールと比較しては飲みやすいが、500ml何とか飲みきれる。
2.0点:コントロールと同程度の飲みやすさで、500ml飲みきるのは難しい。
1.0点:コントロールと比較して、非常に飲みにくく、500ml飲みきるのは難しい。
【0054】
4.結果
(1)試験例1
試験例1では、グアイアコールの含有量に対する、フルフリルメチルスルフィドの含有量が、常温及び高温における苦味に及ぼす影響を評価した。表2に示す通り、グアイアコール及びフルフリルメチルスルフィドの含有量が本発明の所定の範囲内にあるコーヒー飲料(実施例1-1?1-12)では、常温時でも加温時でも官能評価点が3点を超えており、飲料の液温にかかわらず苦味が抑制され、後味のキレが良好であることが示された。
【0055】
また、実施例1-1?1-4では、グアイアコールの含有量に対する、フルフリルメチルスルフィドの含有量の比率(フルフリルメチルスルフィド含有量/グアイアコール含有量)が高いほど、より効果が得られる傾向にあることも示された。
【0056】
なお、表3に示す通り、グアイアコールの含有量が本発明の範囲外である市販品1?3は、いずれも常温時の官能評価点が3点を下回り、常温時には苦味が強く、後味のキレも悪いことが示された。また、ドリンカビリティは、市販品2および3も市販品1と同じ2.0点であった。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
(2)試験例2
試験例2では、p-エチルフェノールの含有量に対する、フルフリルメチルスルフィドの含有量が、常温及び高温における苦味に及ぼす影響を評価した。表4に示す通り、p-エチルフェノール及びフルフリルメチルスルフィドの含有量が本発明の所定の範囲内にあるコーヒー飲料(実施例1-1、2-2?2-7)では、常温時でも加温時でも官能評価点が3点を超えており、飲料の液温にかかわらず苦味が抑制され、後味のキレが良好であることが示された。
【0060】
また、p-エチルフェノールの含有量に対する、フルフリルメチルスルフィドの含有量の比率(フルフリルメチルスルフィド含有量/p-エチルフェノール含有量)が高いほど、より効果が得られる傾向にあることも示された。
【0061】
【表4】

・・・・・・
【0071】
(6)試験例6
試験例6では、フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド及びフルフリルチオアセテートの含有量が、常温及び高温における苦味に及ぼす影響を評価した。表8に示す通り、2-アセチルピロール及びフルフリルメチルスルフィドの含有量が本発明の所定の範囲内にあるコーヒー飲料(実施例8-1?8-20)では、常温時でも加温時でも官能評価点が3点を超えており、飲料の液温にかかわらず苦味が抑制され、後味のキレが良好であることが示された。
【0072】
【表8】

【0073】
(7)試験例7
試験例7では、苦味と後味のキレ、及びドリンカビリティについて、評価した。
表9に示す通り、グアイアコール及びフルフリルメチルスルフィドまたp-エチルフェノール等の含有量が本発明の所定の範囲内にあるコーヒー飲料(実施例9-1?9-40)では、常温時及び加温時の苦味と後味のキレだけでなく、ドリンカビリティについても、官能評価点が4点を超えており、飲料の液温にかかわらず苦味が抑制され、後味のキレが良好であり、さらに負担なく・飲みやすく500mlでも飲み切れる味わいであることが示された。
【0074】
【表9】



(3)本件発明の解決しようとする課題について
発明の詳細な説明の、背景技術の記載(【0002】?【0007】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0008】)及び実施例の記載(【0037】?【0074】)等からみて、本件発明3の解決しようとする課題は、容器詰めコーヒー飲料の液温にかかわらず、苦味が抑制され、後味のキレが良好なコーヒー飲料を提供することであると認める。

(4)特許請求の範囲の記載
前記第2に記載したとおりである。

(5)判断
前記第3 申立理由2に示した(1)及び(2)について、纏めて検討する。

ア 本件明細書の実施例(【0037】?【0074】)の【表1】?【表8】の記載と、甲8の実施例(【0034】?【0063】)の【表1】?【表8】の記載とを比較すると、両者の【表1】、【表3】及び【表8】において、本件明細書では成分名「フルフリルメチルジスルフィド」と記載されている箇所が、甲8では成分名「フルフリルジスルフィド」と記載されている点でのみ相違し、それ以外の記載は同一である。

しかしながら、サポート要件は、前記(1)で述べたように、本件明細書の記載と出願時の技術常識に基づいて判断すべきものであるところ、甲8は、本件の優先権主張の基礎出願である特願2017-70493号の分割出願であり、甲8の前記記載は、出願時の技術常識を示すものではないから、甲8の前記記載を根拠として、本件明細書の当該記載に誤りがあるということはできない。

イ (ア)本件明細書において、本件発明3の「さらに・・(vi)飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lである」こと「を満たす、請求項1または2に記載の容器詰めコーヒー飲料」の具体例は、実施例8-20(【表8】【0072】)及び実施例9-1?実施例9-40(【表9】【0074】)である。
これらの実施例には、グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lであって、フルフリルメチルジスルフィド含有量が30μg/Lである容器詰めコーヒー飲料を複数調製し、容器詰めコーヒー飲料の液温にかかわらず、苦味が抑制され、後味のキレが良好なコーヒー飲料であることを客観的に確認したことが記載されている。

(イ)本件発明3の「(vi)飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lである」について、発明の詳細な説明には、一般的な実施の態様の記載として、「【0019】1-4.フルフリルメルカプタン、フルフリルメチルジスルフィド及びフルフリルチオアセテート
本発明において、・・フルフリルメチルジスルフィド・・は・・一般的にはコーヒー特有の深煎り香を有する成分として知られているが、本発明においては、フルフリルメチルスルフィドと同様に、常温(20℃前後)において特異的にコーヒー飲料の苦味抑制効果を有する成分である。本発明のコーヒー飲料では、効果的に常温(20℃前後)におけるコーヒー飲料の苦味を抑制するという観点から、さらに・・フルフリルメチルジスルフィド・・の含有量を特定の範囲に調整することもできる。
【0020】・・本発明のコーヒー飲料中のフルフリルメチルジスルフィド含有量は特に限定されないが、25?300μg/Lであることが好ましく、30?200μg/Lであることがより好ましく、30?100μg/Lであることがさらに好ましい」と記載されている。

(ウ)この実施の態様の記載に対応して、実施例8-20(【表8】【0072】)及び実施例9-1?実施例9-40(【表9】【0074】)には、前記(ア)で述べたように、グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lであって、フルフリルメチルジスルフィド含有量が30μg/Lであるように調製された容器詰めコーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料の液温にかかわらず、苦味が抑制され、後味のキレが良好なコーヒー飲料であることを客観的に確認したことが記載されている。

(エ)そうすると、本件発明3の具体例である実施例8-20(【表8】【0072】)及び実施例9-1?実施例9-40(【表9】【0074】)の記載、並びに、フルフリルメチルジスルフィド含有量についての前記実施の態様の記載(【0019】?【0020】)に基づき、本件発明3におけるフルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lで実施すれば、容器詰めコーヒー飲料の液温にかかわらず、苦味が抑制され、後味のキレが良好なコーヒー飲料を得ることができると、当業者は理解できるといえ、本件発明3の前記課題を解決し得ると認識できるといえる。

(6)まとめ
したがって、本件発明3は発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
よって、本件発明3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。

2-2 実施可能要件について
前記2-1(5)で述べたように、本件発明3の具体例である実施例8-20(【表8】【0072】)及び実施例9-1?実施例9-40(【表9】【0074】)の記載、並びに、フルフリルメチルジスルフィド含有量についての前記実施の態様の記載(【0019】?【0020】)に基づいて、当業者は、グアイアコール含有量が100?550μg/Lであり、フルフリルメチルスルフィド含有量が25?1000μg/Lであり、p-エチルフェノール含有量が2?20μg/Lであって、フルフリルメチルジスルフィド含有量が25?300μg/Lであるように容器詰めコーヒー飲料を、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の試行錯誤なく製造できるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
よって、本件発明3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、3?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-08-07 
出願番号 特願2018-546717(P2018-546717)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (A23F)
P 1 652・ 121- Y (A23F)
P 1 652・ 536- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 布川 莉奈小田 浩代  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6585857号(P6585857)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 フルフリルメチルスルフィドを含む容器詰めコーヒー飲料  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
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