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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365368
審判番号 不服2019-9212  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-09 
確定日 2020-08-13 
事件の表示 特願2015-93751「光学積層体,円偏光板及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開,特開2016-212171〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-93751号(以下「本件出願」という。)は,平成27年5月1日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成31年 1月17日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月25日付け:意見書
平成31年 3月25日付け:手続補正書
平成31年 4月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年 7月 9日付け:審判請求書
令和 元年 7月 9日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年7月9日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前(平成31年3月25日にされた手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 固有複屈折値が正の樹脂からなる,長尺の1/2波長板及び長尺の1/4波長板を備え,
前記1/2波長板の遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角が,50°以上90°以下であり,
前記1/2波長板のNZ係数が,1.0?1.5であり,
前記1/4波長板の遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角が,0°以上50°未満であり,
前記1/4波長板のNZ係数が,1.0?1.5である,光学積層体。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 固有複屈折値が正の樹脂からなる,長尺の1/2波長板及び長尺の1/4波長板を備え,
前記1/2波長板の遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角が,50°以上90°以下であり,
前記1/2波長板のNZ係数が,1.0以上1.5以下であり,
前記1/4波長板の遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角が,0°以上50°未満であり,
前記1/4波長板のNZ係数が,1.1以上1.5以下(但し,1.1は除く。)である,光学積層体。」

(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の,発明を特定するために必要な事項である「1/4波長板のNZ係数」の下限値を,「1.0」から「1.1」に変更して「1/4波長板のNZ係数」の範囲を狭くする補正を含むものである。
また,本願発明と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(【0001】及び【0007】)。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものを含むものである。

そこで,本件補正後発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,特開2012-53079号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ロール状偏光板のセット及びその製造方法並びに液晶パネルの製造方法に関し,特に,液晶セルの一方の面側と他方の面側に貼合されるロール状偏光板のセット及びその製造方法並びに液晶パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話,携帯情報端末,コンピュータ用のモニター,テレビなどの情報用表示デバイスとして,液晶表示装置(LCD)が使用されている。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
…(省略)…
【0015】
本発明の目的は,粘着剤層の粘着力が経時的に低下しにくく,かつ偏光板のカールやこれに伴う偏光板貼合時の気泡や異物の噛み込みを効果的に抑制しつつ液晶セルへの貼合を行うことが可能なロール状偏光板のセット及びその製造方法を提供することである。
…(省略)…
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下,本発明の一実施形態について,図を参照して説明する。
…(省略)…
【0028】
<ロール状偏光板のセット>
図1は,本発明の一実施形態におけるロール状偏光板のセットの断面模式図を示している。この図に示すように,本発明のロール状偏光板のセットは,第1のロール状偏光板71と第2のロール状偏光板71´の2つのロール状偏光板から構成される。
…(省略)…
【0030】
(第1のロール状偏光板)
第1のロール状偏光板71は,液晶パネル2の背面側偏光板(第1の偏光板20)として用いられるロール状の偏光板である。図1に示すように,第1のロール状偏光板71は,第1の外側樹脂フィルム25と,第1の偏光フィルム21と,第1の位相差フィルム23と,第1の粘着剤層27と,第1の離型フィルム80と,をこの順に積層してなる長尺の偏光板から構成されている。第1のロール状偏光板71は,第1の偏光フィルム21の吸収軸が長尺の偏光板の長辺方向と平行な方向となり,液晶セル40の長辺又は短辺に対応する幅を有する状態でロール状に巻かれている。
…(省略)…
【0032】
(1)第1の偏光フィルム21
第1の偏光フィルム21としては,一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものを用いることができる。
…(省略)…
【0044】
(2)第1の位相差フィルム23
第1の位相差フィルム23は,面内位相差値が10?500nmの範囲にあり,光学異方性を有する樹脂フィルムである。本実施形態の第1の位相差フィルム23は,第1の偏光フィルム21の内側(液晶セル40側)に積層されている。第1の位相差フィルム23としては,光学補償機能を有する光学補償フィルムや,直交する偏光成分に位相差を生じさせる波長板などを用いることができる。
【0045】
ここで,光学補償フィルムとしては,以下の位相差フィルムを例示することができる。
(a)波長590nmにおける面内位相差値が40?500nmの範囲にあるポジティブAプレート;
(b)波長590nmにおける面内位相差値が40?500nmの範囲にあり,厚み方向位相差値が20?500nmの範囲にあるポジティブBプレート;
【0046】
また,波長板としては,以下の位相差フィルムを例示することができる。
(c)波長590nmにおける面内位相差値が10?300nmの範囲にある1/4波長板;
(d)波長590nmにおける面内位相差値が240?400nmの範囲にある1/2波長板;
(e)波長590nmにおける面内位相差値が10?300nmの範囲にある1/4波長板と,波長590nmにおける面内位相差値が240?400nmの範囲にある1/2波長板とが積層された複合位相差板;
…(省略)…
【0053】
(c)1/4波長板
1/4波長板は,可視光の波長領域(380?780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長(90°)の位相差を示す位相差板であり,直線偏光と円偏光を相互に変換する機能を有している。1/4波長板は,樹脂を製膜した未延伸フィルムを一軸又は二軸方向に延伸したり,斜め延伸したりすることで作製することができる。1/4波長板としては,波長590nmにおける面内位相差値が10?300nmの範囲にあるものが好ましく,より好ましくは70?160nmの範囲,更に好ましくは80?150nmの範囲である。また,厚み方向位相差値は特に限定されない。Nz係数は,0.9?1.1の範囲が好ましい。
…(省略)…
【0055】
(d)1/2波長板
1/2波長板は,可視光の波長領域(380?780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/2波長(180°)の位相差を示す位相差板であり,直線偏光の向きを180°回転させる機能を有している。1/2波長板は,樹脂を製膜した未延伸フィルムを一軸又は二軸方向に延伸したり,斜め延伸したりすることで作製することができる。1/2波長板としては,波長590nmにおける面内位相差値が240?400nmの範囲にあるものが好ましく,より好ましくは200?300nmの範囲である。また,厚み方向位相差値は特に限定されない。Nz係数は,0.9?1.1の範囲が好ましい。
…(省略)…
【0057】
(e)1/4波長板と1/2波長板とが積層された複合位相差板
第1の位相差フィルム23としては,1/4波長板と1/2波長板とが積層された複合位相差板であってもよい。1/4波長板と1/2波長板のそれぞれの光学特性等については,上述した(c),(d)と同様である。偏光板においては,1/2波長板が偏光フィルム側に,1/4波長板が液晶セル40側に位置するように配置される。
【0058】
第1の偏光フィルム21と第1の位相差フィルム23(1/4波長板と1/2波長板の複合位相差板)を積層する際の光軸は,第1の偏光板20を円偏光板とする場合,第1の偏光フィルム21の吸収軸を基準に反時計回りを正として第1の偏光フィルム21の吸収軸を回転させたときに,1/2波長板の遅相軸に至る角度が5?25°,好ましくは15°となり,1/4波長板の遅相軸に至る角度が65?85°,好ましくは75°となるように配置する。
…(省略)…
【0060】
第1の位相差フィルム23を構成する樹脂材料は特に限定されない。
…(省略)…
【0099】
第1の位相差フィルム23は,上記工程で得られた未延伸フィルムに一軸延伸,二軸延伸など公知の延伸処理を施すことで製造することができる。
…省略…
【0100】
また,第1の位相差フィルム23として波長板を使用する場合は,後述するロール・トゥ・ロール貼合方式により第1の偏光フィルム21と第1の位相差フィルム23を貼合することが好ましい。この場合,機械流れ方向(MD)に斜交する方向に斜め延伸することで第1の位相差フィルム23を製造することが好ましい。
…省略…
【0101】
(固定端延伸)
第1の位相差フィルム23は,未延伸フィルムを直接,固定端延伸することにより得ることができる。
…(省略)…
【0103】
通常,固定端横延伸は以下の工程を有する。
(i)オレフィン系樹脂の融点付近の温度で未延伸フィルムを予熱する予熱工程;
(ii)予熱された未延伸フィルムを横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸する延伸工程;
(iii)横方向に延伸された延伸フィルムを熱固定する熱固定工程。
…(省略)…
【0105】
(i)予熱工程
本工程は,固定端延伸を行う延伸工程(ii)の前に行われる工程であり,未延伸フィルムを延伸するのに十分な温度まで加熱する工程である。予熱工程での予熱温度は,オーブンの予熱工程を行うゾーンにおける雰囲気温度を意味し,オレフィン系樹脂からなる未延伸フィルムの融点付近の温度が好ましい。
…(省略)…
【0107】
(ii)延伸工程
予熱された未延伸フィルムは,本工程で横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸される。
…(省略)…
【0112】
(iii)熱固定工程
本工程は,延伸工程(ii)で延伸された延伸フィルムの光学的特性の安定性を効果的に確保するために実施される。
…(省略)…
【0114】
(iv)熱緩和工程
固定端横延伸は,更に熱緩和工程を有してもよい。
…(省略)…
【0115】
このようにして製造される延伸フィルムは,位相差フィルムとして機能する。上述した製造方法で製造された位相差フィルムは,高温環境下に晒されたときの透過率と透明性の低下がほとんど生じない。具体的には,100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下,更には0.3ポイント以下であるオレフィン系樹脂フィルムが得られる。位相差フィルムの透過率と透明性の低下の原因として,高温環境下ではオレフィン系樹脂フィルムからブリード物が発生することが挙げられるが,上記の製造方法で製造した位相差フィルムでは高温環境下でのブリードの発生が抑制される。このため,高温環境下に晒されたときに位相差フィルムの透過率や透明性の低下がほとんど生じないと考えられる。
…(省略)…
【0117】
(斜め延伸)
上述したように,未延伸フィルムを機械流れ方向(MD)に対して斜交する方向に斜め延伸することで,第1の位相差フィルム23を製造することもできる。
…(省略)…
【0119】
この斜め延伸処理の一例を説明する。この例では,テンター法における延伸工程において,未延伸フィルムを機械流れ方向と斜交する方向に延伸する。
…(省略)…
【0123】
(3)第1の外側樹脂フィルム25
第1の外側樹脂フィルム25は,第1の偏光フィルム21の外側に積層される樹脂フィルムである。第1の外側樹脂フィルム25としては,例えば保護フィルムを採用することができる。
…(省略)…
【0125】
(4)第1の粘着剤層27
第1の粘着剤層27は,粘着性を有する層であり,第1のロール状偏光板71又はこれから所定形状に裁断された第1の偏光板20を液晶セル40に貼合するために用いられる。
…(省略)…
【0137】
(5)第1の離型フィルム
第1の離型フィルム80としては,通常,透明基材フィルムに易剥離層を形成して,粘着剤層からの剥離性を付与したものが用いられる。
…(省略)…
【0203】
<ロール状偏光板のセットの具体例>
次に,ロール状偏光板のセットの具体例について説明する。
…(省略)…
【0211】
(v)具体例5
本具体例は,図7に示すように,第1のロール状偏光板71と第2のロール状偏光板71´の両方に,それぞれ1/4波長板23aと1/2波長板23bの複合位相差板である第1の位相差フィルム23と,ネガティブCプレートである第2の位相差フィルム33と,を備えている。
…(省略)…
【0223】
図8は,液晶パネル2の製造方法の一例を示す概略図であり,具体的には,第1搬送工程及び第1偏光板供給貼合工程,並びにこれらの工程の実施に好適に用いることができる装置の概略を示したものである。この図に示すように,液晶セル40の背面側への第1の偏光板20の貼合は,以下の工程を経て行われ,これにより片面に第1の偏光板20が貼合された液晶セル41が得られる。
…(省略)…
【0241】
液晶セル40はVAモードの液晶セル40であることが好ましい。VAモードでは,液晶表示装置1の正面から見た場合と斜め方向から見た場合で輝度が変動するため,視野角を広げる必要があり,このため,位相差フィルムを少なくとも1枚用いることがあるからである。VAモードの液晶セル40を用いて液晶パネル2が形成される場合には,偏光板20と偏光板30の吸収軸は,通常,互いに直交であり,かつこれらの吸収軸は矩形の液晶セル40の長辺方向又は短辺方向に平行となる。このため,液晶パネル2の製造においては,長辺方向に吸収軸を有し,液晶セル40の長辺又は短辺に対応する幅を有する第1及び第2のロール状偏光板を用いる本発明の製造方法を好適に用いることができる。」

イ 図1





ウ 図7





エ 図8





(2) 引用発明
引用文献1の【0030】には,「第1のロール状偏光板71」として,「第1の外側樹脂フィルム25と,第1の偏光フィルム21と,第1の位相差フィルム23と,第1の粘着剤層27と,第1の離型フィルム80と,をこの順に積層してなる長尺の偏光板から構成されている」ものが開示されている。また,【0057】には,「第1の位相差フィルム23」として「1/4波長板と1/2波長板とが積層された複合位相差板」が開示されるとともに,【0058】には,「第1の偏光フィルム21と第1の位相差フィルム23(1/4波長板と1/2波長板の複合位相差板)を積層する際の光軸」の関係が記載されている。さらに,【0053】及び【0055】には,「1/4波長板と1/2波長板のそれぞれの光学特性等」が記載されている。
以上勘案すると,引用文献1には,次の「第1のロール状偏光板71」が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 第1の外側樹脂フィルム25と,第1の偏光フィルム21と,第1の位相差フィルム23と,第1の粘着剤層27と,第1の離型フィルム80と,をこの順に積層してなる長尺の偏光板から構成されている第1のロール状偏光板71であって,
第1のロール状偏光板71は,第1の偏光フィルム21の吸収軸が長尺の偏光板の長辺方向と平行な方向となり,液晶セル40の長辺又は短辺に対応する幅を有する状態でロール状に巻かれており,
第1の位相差フィルム23は,1/4波長板と1/2波長板とが積層された複合位相差板であり,1/2波長板が第1の偏光フィルム21側に,1/4波長板が液晶セル40側に位置するように配置され,
第1の偏光フィルム21と第1の位相差フィルム23を積層する際の光軸は,第1の偏光フィルム21の吸収軸を基準に反時計回りを正として第1の偏光フィルム21の吸収軸を回転させたときに,1/2波長板の遅相軸に至る角度が5?25°,好ましくは15°となり,1/4波長板の遅相軸に至る角度が65?85°,好ましくは75°となるように配置し,
1/4波長板のNz係数は,0.9?1.1の範囲が好ましく,
1/2波長板のNz係数は,0.9?1.1の範囲が好ましい,
第1のロール状偏光板71。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 1/2波長板
引用発明の「第1のロール状偏光板71」は,「第1の外側樹脂フィルム25と,第1の偏光フィルム21と,第1の位相差フィルム23と,第1の粘着剤層27と,第1の離型フィルム80と,をこの順に積層してなる長尺の偏光板から構成されている」。また,引用発明の「第1の位相差フィルム23」は,「1/4波長板と1/2波長板とが積層された複合位相差板であ」る。
ここで,引用発明の「1/2波長板」は,その文言が意味するとおり,1/2波長板として機能する光学フィルムである。また,上記の構成からみて,引用発明の「1/2波長板」は,長尺のものである。
そうしてみると,引用発明の「1/2波長板」は,本件補正後発明の「長尺の」とされる,「1/2波長板」に相当する。

イ 1/4波長板
前記アと同様に対比すると,引用発明の「1/4波長板」は,本件補正後発明の「長尺の」とされる,「1/4波長板」に相当する。

ウ 光学積層体
引用発明の「第1のロール状偏光板71」は,前記アで述べた構成を具備する。
そうしてみると,引用発明の「第1のロール状偏光板71」は,少なくとも,光学フィルムである「1/2波長板」及び「1/4波長板」を積層してなる点において,光学積層体といえる。
したがって,引用発明の「第1のロール状偏光板71」は,本件補正後発明の,「長尺の1/2波長板及び長尺の1/4波長板を備え」とされる,「光学積層体」に相当する。
(当合議体注:引用発明の「第1の位相差フィルム23」を本件補正後発明の「光学積層体」に対応付けることもできるが,ここでは,上記のとおり対応付ける。)

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
引用発明と本件補正後発明は,次の構成で一致する。
「 長尺の1/2波長板及び長尺の1/4波長板を備える,
光学積層体。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する,又は,一応相違する。
(相違点1)
「長尺の1/2波長板及び長尺の1/4波長板」が,本件補正後発明は,「固有複屈折値が正の樹脂からなる」のに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点2)
「光学積層体」が,本件補正後発明は,「前記1/2波長板の遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角が,50°以上90°以下であり」,「前記1/4波長板の遅相軸が幅方向に対してなす平均配向角が,0°以上50°未満であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点3)
「1/2波長板のNZ係数」が,本件補正後発明は「1.0以上1.5以下であり」,また,「1/4波長板のNZ係数」が,本件補正後発明は,「1.1以上1.5以下(但し,1.1は除く。)である」のに対して,引用発明は,いずれも「0.9?1.1の範囲が好ましい」とされている点。

(5) 判断
相違点についての判断は,以下のとおりである。
ア 相違点1について
引用文献1の【0103】,【0105】及び【0115】には,「第1の位相差フィルム23」の材料として,「オレフィン系樹脂」が挙げられている。また,本件出願前の当業者ならば,位相差フィルムの樹脂材料として多用される「ゼオノア」等のシクロオレフィンポリマー樹脂が,正の固有複屈折を有することを心得ている。
したがって,引用文献1に接した当業者が,引用発明の「1/2波長板」及び「1/4波長板」を,「固有複屈折値が正の樹脂からなる」ものとすることは,引用文献1が示唆する範囲内の事項である。また,本件出願の明細書を参酌しても,本件補正後発明の「1/2波長板」及び「1/4波長板」として,「固有複屈折値が正の樹脂からなる」ものを選択したことによる予想外の効果は認められない。
なお,一般に負の複屈折をもつ材料は少なく,選択範囲は限られており,波長板の樹脂材料として通常用いられるポリカーボネートやセルロースエステルの固有複屈折も,正である。

イ 相違点2について
引用発明の「第1のロール状偏光板71は,第1の偏光フィルム21の吸収軸が長尺の偏光板の長辺方向と平行な方向」である。また,引用発明において,「第1の偏光フィルム21と第1の位相差フィルム23を積層する際の光軸は,第1の偏光フィルム21の吸収軸を基準に反時計回りを正として第1の偏光フィルム21の吸収軸を回転させたときに,1/2波長板の遅相軸に至る角度が5?25°,好ましくは15°となり,1/4波長板の遅相軸に至る角度が65?85°,好ましくは75°となるように配置」される。
以上勘案すると,引用発明の「1/2波長板」及び「1/4波長板」は,相違点2に係る本件補正後発明の要件を満たすものであり,相違点2も,相違点ではないか,少なくとも,引用発明の構成にしたがう当業者が当然採用する構成にすぎない。

ウ 相違点3について
引用発明の「1/2波長板」及び「1/4波長板」における,「0.9?1.1」とされる「Nz係数」の範囲は,「好ましい」範囲であって,必須の範囲ではない。
そうしてみると,引用発明は,「1/2波長板」の「Nz係数」を「1.0以上1.5以下」とすること,及び「1/4波長板」の「Nz係数」を「1.1以上1.5以下(但し,1.1は除く。)」とすることを排除するものではない。
したがって,相違点3に係る本件補正後発明の構成は,引用発明の構成が許容する範囲内のものにすぎない。

さらにすすんで検討する。
引用発明の「0.9?1.1」という「Nz係数」の範囲は,Nz係数が1.0近傍である(面内の複屈折と断面の最大複屈折を同一にする)ことが最適であることを意図したものと考えられる。そして,このようなフィルムを得るためには,例えば,自由端縦一軸延伸により,ny=nzとする必要がある。
しかしながら,引用文献1の【0053】,【0055】及び【0100】には,「1/4波長板」及び「1/2波長板」の製造方法として,Nzが1とならない(ny>nzとなる),斜め延伸等が好ましいことが開示されている。
加えて,原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用された,特開2009-276442号公報の【0100】には,「位相差フィルムの面内の遅相軸方向の制御自由度を高める意味で,フィルムの長手方向に延伸してから前記長手方向に対して斜め方向に延伸するか,または,前記長手方向に対して斜め方向に延伸してから前記長手方向に延伸することが好ましい。」と記載されている。そして,この製造方法は,引用発明の「長尺の偏光板」の「1/4波長板」及び「1/2波長板」を製造する際に適したものと理解されるところ,この方法によって製造された位相差フィルムのNzについても,同様のこと(Nzが1.0とならないこと)がいえる。
以上勘案すると,当業者が,Nz係数が「0.9?1.1」の範囲から若干外れた波長板(例:Nz係数が1.15の波長板)を採用することは,引用発明の「1/2位相差板」及び「1/4位相差板」の製造方法を具体的に検討した当業者が到る範囲内のものといえる。

(6) 発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0010】には,「本発明によれば,正面方向及び傾斜方向のいずれにおいても外光の反射を効果的に低減できる長尺の円偏光板を実現できる光学積層体…を提供できる。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,引用発明又は前記(5)で述べたとおり創意工夫した後の引用発明が奏する効果と比較して,顕著なものであるとはいえない。

(7) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,(周知技術を心得た)当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2012-53079号公報(引用文献1)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明の,「1/2波長板のNZ係数」及び「1/4波長板のNZ係数」の範囲を,ともに「1.0?1.5」としたものである。

そうしてみると,本願発明と引用発明は,前記相違点1及び相違点2において,(一応)相違するとともに,次の相違点3’において相違するものといえる。
(相違点3’)
「1/2波長板のNZ係数」が,本願発明は「1.0?1.5であり」,また,「1/4波長板のNZ係数」も,本願発明は,「1.0?1.5である」のに対して,引用発明は,いずれも「0.9?1.1の範囲が好ましい」とされている点。
しかしながら,引用発明の「1/4波長板」及び「1/2波長板」の「Nz係数」を,例えば,ともに「1.1」程度とすることは,当業者が引用発明を具体化するに際して考慮される選択肢にすぎない。
また,前記相違点1及び相違点2についても,前記「第2」[理由]2(5)ア及びイにおいて,既に検討したとおりである。
そうしてみると,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-03 
結審通知日 2020-06-09 
審決日 2020-06-26 
出願番号 特願2015-93751(P2015-93751)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 督史後藤 大思  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 光学積層体、円偏光板及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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