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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
審判 全部無効 2項進歩性  A61H
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61H
審判 全部無効 特174条1項  A61H
管理番号 1365395
審判番号 無効2018-800043  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-04-19 
確定日 2020-09-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第4617275号発明「椅子型マッサージ機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨
特許第4617275号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。


第2 手続の経緯
特許第4617275号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2006-138687号、以下、「本件特許出願」という。)は、平成11年5月19日(以下、「原出願日」という。)に出願した特願平11-138809号の一部を平成18年5月18日に新たな出願としたものであって、平成20年12月26日に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた後、平成21年2月3日付けで拒絶査定がされた。そして、同年3月12日に拒絶査定不服審判が請求され、平成22年9月16日付けで原査定を取消し特許すべき旨の審決がされ、同年10月29日に本件特許の特許権の設定の登録がされた。
請求人は、平成30年4月19日に、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とすることについて特許無効審判(本件審判)を請求した。
その後の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 7月10日 審判事件答弁書提出(被請求人より)
同年 8月28日付け審理事項通知
同年10年11日 口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人より)
同年10月24日付け審理事項通知
同年11月 1日 口頭審理陳述要領書(2)提出(被請求人より)
同年11月 1日 第1回口頭審理
同年11月15日 上申書提出(請求人より)
同年11月29日 上申書提出(被請求人より)
同年12月 6日 上申書(2)提出(請求人より)


第3 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、これらすべてを併せて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。ただし、当合議体において、各請求項に記載された事項を構成要件に分説し、AないしNの符号を付した。なお、本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の構成をすべて含む。

「【請求項1】
A:座部と、
B:前記座部の後部に設けられた背凭れ部と、
C:マッサージ用モータの回転動力で叩き動作軸が回転することで、左右の施療子が交互に前後揺動する叩き動作を行う機械式のマッサージ器と、
を備え、
D:前記マッサージ器が前記背凭れ部内で昇降自在に設けられ、
E:前記背凭れ部は、機械式の前記マッサージ器の左右両側に位置するとともに、前記背凭れ部にもたれた使用者よりも左右方向外側に位置するように、前記背凭れ部の左右両側部からそれぞれ前方突出し、両突起体の間に前記背凭れ部にもたれた使用者の両腕及び両腕の間の胴体をまとめてはめ込める左右間隔を有する左右一対の突起体を備え、
F:前記左右一対の突起体は、両突起体の間にはめ込まれた使用者の両腕の外側に対向する内側面をそれぞれ備え、
G:前記左右一対の突起体の前記内側面には、それぞれ、使用者の両腕の左右外側に対向するとともに、空気の給排気によって膨張収縮する空気式マッサージ具が設けられ、
H:前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う
I:ことを特徴とする椅子型マッサージ機。
【請求項2】
J:前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、機械式の前記マッサージ器を昇降させながら前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う
K:請求項1記載の椅子型マッサージ機。
【請求項3】
L:前記座部は、空気の給排気によって使用者を押圧する空気式のマッサージ具を備え、
M:前記左右一対の突起体の前記内側面に設けられた前記空気式マッサージ具は、前記左右の施療子による叩き動作と前記座部の空気式マッサージ具からの押圧とを受ける人体の腕の外側から左右に挟むものである
N:請求項1又は2記載の椅子型マッサージ機。」


第4 当事者が提出した証拠方法
1 請求人
甲第1号証:特許第4617275号公報(本件特許の特許公報)の写し(以下、「の写し」を省略して記載。)
甲第2号証:本件特許出願の手続において、平成20年12月26日に被請求人が特許庁に提出した手続補正書
甲第3号証:本件特許出願の手続において、平成20年12月26日に被請求人が特許庁に提出した意見書
甲第4号証:本件特許出願の手続において、平成18年5月18日に被請求人が特許庁に対して提出した図面
甲第5号証:本件特許出願の手続において、平成18年5月18日に被請求人が特許庁に対して提出した明細書
甲第6号証:本件特許出願の拒絶査定不服審判に係る手続において、平成21年6月11日に被請求人が特許庁に対して提出した手続補正書(方式)
甲第7号証:関連事件(平成29年(ワ)第7384号特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面2(本件特許2関係非侵害論まる1(まる数字は、○囲いの中に数字を表す。以下同様。))
甲第8号証:関連事件(平成29年(ワ)第7384号特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面2(被告準備書面2【本件特許2関係非侵害論まる1】に対する反論)
甲第9号証の1:意願平7-4188号に係る意匠登録願及び図面(平成7年2月17日付け)
甲第9号証の2:意願平7-4188号に係る意見書(平成9年6月4日付け)
甲第10号証:特開平5-253265号公報
甲第11号証:特開平5-261136号公報
甲第12号証:特開平8-308897号公報
甲第13号証:特開平10-57436号公報
甲第14号証:特開平7-148209号公報
甲第15号証:特開平8-52185号公報
甲第16号証:田中光一、ほか2名、「マッサージチェアにおけるエルゴノミクスデザイン 連動パワーリクライニング機構の開発について」及び「商品技術 健康医用機器」、OMRON TECHNICS、オムロン株式会社技術本部、平成10年12月20日発行、第38巻、第4号、475ページないし480ページ、500ページ及び501ページ
甲第17号証:特開平10-263036号公報
甲第18号証:特開平9-122193号公報
甲第19号証:本件特許出願の手続において、平成18年9月12日に被請求人が特許庁に提出した手続補正書
甲第20号証:本件特許出願の手続における、平成20年10月20日付け拒絶理由通知書
甲第21号証:本件特許出願の手続における、平成21年2月3日付け拒絶査定
甲第22号証:特公昭44-13638号公報
甲第23号証:特開平8-89540号公報

以下、甲第1号証ないし甲第23号証(枝番を含む)を、それぞれ「甲1号証」、「甲9号証の2」などといい、甲9号証の1と甲9号証の2とを併せて「甲9号証」という。

2 被請求人
乙第1号証の1:ウェブページの印刷物、「デジタル大辞泉」、「つつ」の項、平成30年5月11日
(URL:https://kotobank.jp/word/%E3%81%A4%E3%81%A4-571855)
乙第1号証の2:ウェブページの印刷物、「Weblio辞書」、「しつつ」の項
(URL:https://www.weblio.jp/content/%E3%81%97%E3%81%A4%E3%81%A4)
乙第1号証の3:ウェブページの印刷物、「Weblio類語辞典」、「しつつ」の項
(URL:https://thesaurus.weblio.jp/content/%E3%81%97%E3%81%A4%E3%81%A4)
乙第2号証の1:西尾実他2名編、「岩波国語辞典」、第2版第1刷、株式会社岩波書店、1971年2月5日、711ページ
乙第2号証の2:ウェブページの印刷物、「Weblio辞書」、「同時」の項
(URL:https://www.weblio.jp/content/%E5%90%8C%E6%99%82)
乙第3号証:意匠登録第1022881号公報
乙第4号証:関連事件(平成29年(ワ)第7384号特許権侵害差止等請求事件)の準備書面8(本件特許2関係非侵害論まる2)
乙第5号証:関連事件(平成29年(ワ)第7384号特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面7(被告準備書面8【本件特許2関係非侵害論まる2】に対する反論)
乙第6号証:関連事件(平成29年(ワ)第7384号特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面8(被告準備書面8【本件特許2関係非侵害論まる2】に対する求釈明)
乙第7号証:工業所有権(産業財産権法)逐条解説[第20版]
(特許庁ホームページ、URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/hourei/kakokai/pdf/cikujyoukaisetu20/tokkyo_all.pdf)
乙第8号証:最高裁第2小法廷昭和55年7月4日判決(昭和53年(行ツ)第69号)
(最高裁判所ホームページ、URL:省略)
乙第9号証:最高裁第1小法廷昭和61年7月17日判決(昭和61年(行ツ)第18号)
(最高裁判所ホームページ、URL:省略)
乙第10号証:東京高裁昭和53年10月30日判決(昭和50年(行ケ)第97号)
(最高裁判所ホームページ、URL:省略)

以下、乙第1号証の1ないし乙第10号証(枝番を含む)を、それぞれ「乙1号証の1」、「乙10号証」などといい、乙1号証の1ないし乙1号証の3を併せて「乙1号証」という。


第5 請求人が主張する無効理由
1 無効理由1(新規事項の追加)
本件補正は、本件特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないので、本件発明に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当し無効とすべきである。

2 無効理由2(実施可能要件違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、本件発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

3 無効理由3(明確性要件違反)
本件発明は明確でないので、その特許は特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

4 無効理由4(進歩性の欠如)
本件発明は甲9号証ないし甲18号証に記載された発明ないし周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。


第6 請求人の主張の概要
1 無効理由1(新規事項の追加)(審判請求書11ページないし15ページ参照。)
(1)構成要件H及び【0003】【0004】【0007】【0027】(以下、「構成要件H等」という。)の「それと同時に」との補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
(2)構成要件J及び【0005】(以下、「構成要件J等」という。)の「それと同時に」との補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

2 無効理由2(実施可能性要件違反)(審判請求書15ページないし22ページ参照。)
(1)構成要件Hの「使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」の具体的制御方法について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には明確かつ十分に記載されていない。
(2)構成要件Jの「使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、機械式の前記マッサージ器を昇降させながら前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」の具体的制御方法について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には明確かつ十分に記載されていない。

3 無効理由3(明確性要件違反)(審判請求書22ページないし24ページ参照。)
(1)構成要件Hの「それと同時に」の外延が明確でない。
(2)構成要件Iの「それと同時に」の外延が明確でない。

4 無効理由4(進歩性の欠如)(審判請求書24ページないし44ページ参照。)
(1)本件発明1は、甲9号証に記載の発明及び甲10号証ないし甲16号証で示される周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるものである。
(2)本件発明2は、甲9号証に記載の発明及び甲10号証ないし甲16号証で示される周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるものである。
(3)本件発明3は、甲9号証に記載の発明並びに甲10号証ないし甲18号証で示される周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるものである。

第7 被請求人の主張の概要
1 無効理由1(新規事項の追加)に対する反論(審判事件答弁書23ページないし27ページ)
(1)構成要件H等の「それと同時に」との補正は、新たな技術事項を導入するものではない。
(2)構成要件J等の「それと同時に」との補正は、新たな技術事項を導入するものではない。

2 無効理由2(実施可能要件違反)に対する反論(審判事件答弁書6ページないし18ページ)
(1)構成要件Hは、空気式マッサージ具が膨張して挟むと施療子による叩き動作が、その各動作の前後を問わず、同時に発現する動作態様が実現されていればよく、これは、本件特許明細書等に明確かつ十分に記載されている。
(2)構成要件Jは、本件特許明細書等に明確かつ十分に記載されている。

3 無効理由3(明確性要件違反)に対する反論(審判事件答弁書18ページないし23ページ)
(1)構成要件Hの「同時に」及び「挟みつつ」の意味は明確である。
(2)構成要件Jの「同時に」及び「挟みつつ」の意味は明確である。

4 無効理由4(進歩性の欠如)に対する反論(審判事件答弁書28ページないし56ページ)
(1)甲9号証の1及び甲9号証の2は、頒布された刊行物ではない。
(2)本件発明1及び2は、甲9号証ないし甲16号証に基づいて当業者が容易に想到したものであるとはいえない。
(3)本件発明3は、甲9号証ないし甲18号証に基づいて当業者が容易に想到したものであるとはいえない。


第8 当合議体の判断
1 無効理由1(新規事項の追加)について
(1)構成要件H等の「それと同時に」
ア 構成要件H等の「それと同時に」は、甲2号証による補正により請求項1に追加されたものである。
本件当初明細書等には、以下の記載がある。(下線は、当合議体が付与したものである。以下同様。)
「【0027】
図11は他の実施の形態を示し、背凭れ部4の両側部に、前方突出した左右一対の突起体91を設け、この突起体91間に使用者の人体Mをはめ込めるようにしている。また、前記実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8が、マッサージ機の背凭れ部4の左右中央部に昇降自在に設けられ、前記空気式のマッサージ具41が、マッサージ器8の両側方に位置するように、左右一対の突起体91の内側面側に対向するように設けられている。この空気式のマッサージ具41は、前記実施の形態の場合と同様に人体の背中の両側部を広範囲にマッサージできるように、上下に長く配置されている。」
「【0028】
その他の点は前記図1?図6の実施の形態の場合と同様の構成であり、前記実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8を昇降させながら、施療子9による叩き動作や揉み動作によって人体の背中の中央部を比較的強くマッサージできる。また、マッサージ具41を左右方向内方に膨張させて、マッサージ具41によって、人体Mの背中の両側部(両脇乃至両腕)を左右に挟むように押圧しながらソフトにマッサージすることができ、この場合、左右一対のマッサージ具41によって人体が左右に動かないように固定することができ、これによって、マッサージ器8によるマッサージ効果を高めることもできる。」
これらの記載によれば、人体の背中の両側部(両脇乃至両腕)の外側に位置し、両側部を左右に挟むように押圧するマッサージ具と、マッサージ器の動作が時を同じくして、つまり同時に、行われることが理解できる。そして、「左右一対のマッサージ具41によって人体が左右に動かないように固定することができ、これによって、マッサージ器8によるマッサージ効果を高めることもできる」という作用効果は、空気式マッサージ具の膨張とマッサージ器の施療子の叩き動作が同時に行われることによる作用効果であることは明らかである。
してみると、構成要件Hの「それと同時に」との補正は、本件当初明細書等の記載から自明に導き出される事項であるといえる。

請求人は、審判請求書12ページないし14ページ並びに平成30年10月11日付け口頭審理陳述要領書(請求人から)8ページないし9ページにおいて、被請求人が甲3号証の「3-2.請求項1の補正の根拠」において「なお「それと同時に」という補正事項は、段落0022に「同時に」と記載されていることから自明です。」と主張したことを取り上げて、段落0022に記載した事項は参考例に過ぎず自明の根拠として乏しいと主張する。
しかしながら、上述のとおり、また、被請求人も平成30年11月29日付け上申書(被請求人から)4ページ及び5ページでも主張するように、「それと同時に」との補正は本件当初明細書の【0027】及び【0028】の記載に基づくものであるといえ、これに対して、請求人からは、平成30年12月6日付けの上申書(請求人から)においてさらなる反論はないので、請求人の主張を採用することはできない。

(2)構成要件J等の「それと同時に」は、甲2号証による補正により請求項2に追加されたものである。
そして、上記(1)のとおり、構成要件Jの「それと同時に」との補正は、本件当初明細書等の記載から自明に導き出される事項である。

(3)小括
以上のとおり、構成要件H等及び構成要件J等の「それと同時に」との補正は、本件当初明細書等の記載から自明に導き出される事項であり、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものであるということはできないことから、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、本件発明に係る特許は、請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。

2 無効理由2(実施可能要件違反)について
(1)構成要件H
ア 構成要件Hは、「前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」というものであり、「空気式マッサージ具」及び「施療子」の動作について規定する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0009】
背凭れ部4の左右中央部に機械式のマッサージ器8が昇降自在に内蔵されている。マッサージ器8は、図4にも示す如く複数の施療子(揉み玉、マッサージ用のローラ)9と、マッサージ用モータ10と、マッサージ用モータ10の回転動力を施療子9に伝達して該各施療子9に揉み動作や叩き動作をさせる伝動機構11と、支持枠14とを有し、マッサージ器8は、昇降手段13により背凭れ部4内を上下移動(昇降)可能に構成されている。昇降手段13は、マッサージ器8の支持枠14に螺合した送りねじ15を昇降モータ16で回転させることによって、マッサージ器8を昇降させる機構を採用してある。」
「【0013】
かくして、叩き動作軸20がA方向に回転すると、該叩き動作軸20の偏心軸部20Aは連結アーム31、ボールジョイント29、駆動アーム25及び支持アーム26を介して施療子9をA1方向に往復動せしめる。これにより施療子9は叩き運動を行う。なお、一方の偏心軸部20Aは他方の偏心軸部20Aに対して互いに反対方向に偏心しているので、左右に対応する施療子9は交互に叩き動作をする。次に、揉み動作軸19が回転動力を受けると、傾斜軸部19Aは、円錐面を描くように回転するので、駆動アーム25はボールジョイント29を支点にして往復揺動運動を行い、その結果、左右に対応する施療子9は互いに接離するようにB1方向に往復揺動し、揉み動作をする。」
「【0017】
かくして、回転駆動軸43を正逆回転させて可動はすば歯車40をR、S方向に一方へ選択的に移動させることにより、叩き動作軸20又は揉み動作軸19の一方を回転せしめ、複数の施療子9で叩き動作あるいは揉み動作を行うことができる。なお、上記ねじ歯車33、36はほぼ同じ歯数になっているので、単位時間当たり比較的多い回数で叩き動作をするのに対し、ウォーム37からウォーム歯車34へは大きく減速されて回転力が伝達されるので揉み動作はゆっくりと行われる。」
「【0018】
図1及び図3に示すように、前記背凭れ部4の両側部に、人体の背中の両側部をマッサージするための空気式のマッサージ具41が左右一対設けられている。左右一対の各マッサージ具41は、袋体により構成した複数(図例では二個)のエアセル42を備え、エアセル42に空気を供排することによりエアセル42は空気圧によって膨張収縮し、空気を
供給して膨張させたときに使用者の背中の両側部を押圧するように構成されている(図7及び図8参照)。このマッサージ具は、前記マッサージ器8の両側方に位置して、長く配置されており、人体の背中の両側部を広範囲にマッサージできるようになっている。」
「【0021】
前記エアセル42、47、49、54、59の膨張・収縮は、座部3の下方に配置したコンプレッサー61からの給排気により行われ、コンプレッサー61からの給気・排気の切り替えは図示省略の制御部により制御されるバルブによって夫々別個に行われるように構成されている。上記実施の形態によれば、マッサージ器8を昇降させながら、施療子9による叩き動作や揉み動作によって人体の背中の中央部を比較的強くマッサージできると同時に、マッサージ具41に空気を給排することにより、背中の両側部を指圧動作等によってソフトにマッサージすることができる。しかも、マッサージ具41によって、人体の背中の中央部以外の背中の両側部を広範囲にマッサージすることができる。」
「【0022】
なお、図7に示すように、前記左右一対のマッサージ具41の離間幅を狭く設定しておくことにより、人体Mに背中の両側部を後側から前方に押すようにマッサージできると共に、図8に示すように、左右一対のマッサージ具41の離間幅を比較的広く設定しておくことにより、人体Mの背中の両側部を左右に挟むように押圧することができ、この場合、左右一対のマッサージ具41によって人体が左右に動かないように固定することができ、これによって、マッサージ器8によるマッサージ効果を高めることができる。」
「【0026】
図11は本発明の実施の形態を示し、背凭れ部4の両側部に、前方突出した左右一対の突起体91を設け、この突起体91間に使用者の腕を含めた人体Mをはめ込めるようにしている。
すなわち、背凭れ部4は、機械式の前記マッサージ器8の左右両側に位置するとともに、背凭れ部4にもたれた使用者よりも左右方向外側に位置するように、背凭れ部4の左右両側部からそれぞれ前方突出し、両突起体91,91の間に背凭れ部4にもたれた使用者の両腕及び両腕の間の胴体をまとめてはめ込める左右間隔を有する左右一対の突起体91,91を備えている。
また、前記参考発明の実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8が、マッサージ機の背凭れ部4の左右中央部に昇降自在に設けられ、前記空気式のマッサージ具41が、マッサージ器8の両側方に位置するように、左右一対の突起体91の内側面側に対向するように設けられている。この空気式のマッサージ具41は、前記参考発明の実施の形態の場合と同様に人体の背中の両側部を広範囲にマッサージできるように、上下に長く配置されている。」
「【0027】
その他の点は前記図1?図6の参考発明の実施の形態の場合と同様の構成であり、前記実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8を昇降させながら、施療子9による叩き動作や揉み動作によって人体の背中の中央部を比較的強くマッサージできる。特に、マッサージ機8は、マッサージ用モータ10の回転動力で叩き動作軸20が回転することで、左右の施療子9,9が交互に前後揺動する叩き動作を行うことができる。
また、マッサージ具41を左右方向内方に膨張させて、マッサージ具41によって、人体Mの背中の両側部(両脇乃至両腕)を左右に挟むように押圧しながらソフトにマッサージすることができる。
すなわち、空気式のマッサージ具41は、収縮状態から左右方向内方に膨張すると、人体の背中の中央部をマッサージする施療子9の前方かつ左右方向外側位置において腕の外側を押圧して、マッサージ器8からのマッサージと座部3の空気式マッサージ具45,46からの押圧を受けることができる人体Mが、動かないように固定しつつ、人体Mを両腕の外側から左右に挟むように押圧してマッサージすることができる。
この場合、左右一対のマッサージ具41によって人体が左右に動かないように固定することができ、これによって、マッサージ器8によるマッサージ効果を高めることもできる。
つまり、前記空気式マッサージ具41,41が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子9,9の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、前記左右の施療子9,9によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行うことができる。」

図11


まず、「同時」とは、乙2号証の1の「二つ以上の事が同じ時に行われる(起こる、成り立つ)こと」であり、乙2号証の2の「時を同じくすること」を意味する。
また、上記の記載事項のとおり、「施療子」の構造と動作は本件特許明細書の【0009】、【0013】及び【0017】に、「空気式マッサージ具」の構造と動作は同【0018】及び【0026】に、「空気式マッサージ具」の膨張収縮と「施療子」の叩き動作については同【0021】、【0022】及び【0027】にそれぞれ説明されており、その具体的構成は明確であるといえる。
そうすると、構成要件Hについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、椅子型マッサージ機の構造として左右一対の空気式マッサージ具及びマッサージ器(左右の施療子)を有すること、そして、左右一対の空気式マッサージ具及びマッサージ器(左右の施療子)の動作については、人体の背中の両側部(両脇乃至両腕)を左右に挟むように押圧しながらマッサージする空気式マッサージ具と、人体の背中の中央をマッサージする左右の施療子がそれぞれ動作するものであるとともに、これらマッサージ具と施療子が時を同じくして動作することで、左右一対のマッサージ具によって人体が左右に動かないように固定し、マッサージ器8によるマッサージ効果を高めることができることについて説明されていることから、その具体的な構造だけでなく、「空気式マッサージ具」と「施療子」が同時に動作するよう制御するための制御手段についても、原出願日時点における技術常識を踏まえれば、当業者であれば明確かつ十分に理解できるといえる。また、このような構造を有し動作する椅子型マッサージの製造方法についても、当業者であれば明確かつ十分に理解できるといえる。
してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、構成要件Hに係る本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

イ 請求人は、審判請求書において、甲3号証及び甲6号証で構成要件Hについて被請求人が主張した作用効果を実現するための制御手段について発明の詳細な説明には実施できる程度に記載されていないと主張する。(審判請求書18ページないし21ページを参照。)
しかしながら、上記アで述べたとおりであるので、請求人の主張を採用することはできない。

(2)構成要件J
構成要件Jは、「前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、機械式の前記マッサージ器を昇降させながら前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」というものであり、構成要件Hに「機械式の前記マッサージ器を昇降させながら」と限定したものであり、その余については同じ構成である。
そして、上記(1)のとおり、【0027】には「その他の点は前記図1?図6の参考発明の実施の形態の場合と同様の構成であり、前記実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8を昇降させながら、施療子9による叩き動作や揉み動作によって人体の背中の中央部を比較的強くマッサージできる。」と記載されており、マッサージ器8を昇降させることについても、原出願日の時点における技術常識を踏まえれば、当業者であれば実施するにあたってその具体的構成を明確に理解できる。
してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、構成要件Jに係る本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(3)小括
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、構成要件H及び構成要件Jに係る本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由2によって無効とすることはできない。

4 無効理由3(明確性要件違反)について
(1)構成要件H
構成要件Hは、「前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」というものである。
まず、「同時」とは、上記2(1)のとおり、乙2号証の1の「二つ以上の事が同じ時に行われる(起こる、成り立つ)こと」であり、乙2号証の2の「時を同じくすること」を意味する。
してみると、構成要件Hにおける「それと同時に」の意味することは、空気式マッサージ具によって使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟む動作と、施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行うという二つの動作を時を同じくして行うことであることは明らかである。

請求人は、審判請求書22ページ及び23ページにおいて、空気式マッサージ具と施療子の動きのタイミングを連動されるのか又は両者の動きを両立させるのか一切理解できない、甲3号証及び甲6号証で被請求人が述べた現象に本件発明1は限定されておらずその外延が不明であると主張する。
しかしながら、構成要件Hの記載からみて、両者の動作が同時であることは文言上も技術的にみても明らかであるので、請求人の主張は採用できない。
なお、上記3(1)イのとおり、甲3号証及び甲6号証に述べた現象とは、構成要件Hを有することによりその結果として奏することとなった作用効果を、被請求人が技術常識に基づいて本件当初明細書等の記載から当然に導かれることとしてあとから主張したものに過ぎない。

(2)構成要件J
構成要件Jの「それと同時に」は、上記(1)のとおり、明らかである。

(3)小括
以上のとおり、構成要件H及び構成要件Jの「それと同時に」は明確であり、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものということはできない。
よって、請求人の主張する無効理由3によって無効とすることはできない。

5 無効理由4(進歩性の欠如)について
(1)各甲号証に記載された発明等
ア 甲9号証
(ア)甲9号証の1の記載
甲9号証の1には、次の記載がある。

●斜面図及び使用状態を示す斜面図


●A-A断面図


「斜面図」、「使用状態を示す斜面図」及び「A-A断面図」の記載を総合すると、あんまいすにおいて、座部と、座部の後部に設けられた背もたれ部と、マッサージ機構を備え、前記背もたれ部の左右両側に前方に突出した、左右間隔を有する左右一対の弧状枠部材を備え、前記左右一対の弧状枠部材は、内側面をそれぞれ備えた点が図示されているといえる。
また、「A-A断面図」には、椅子型マッサージ機の技術分野における技術常識を踏まえれば、背もたれ部の内部に、施療子と昇降装置からなる機械式のマッサージ機構を内蔵する点が図示されているといえる。

(イ)甲9号証の2の記載
甲9号証の2の3ページ14行ないし26行には、次の記載がある。
「本願意匠では、背もたれ部を腰から頭部に亘り略々直線状に形成する本体部の両側に前方へ突出する弧状枠部材を設けて構成しているため、本願意匠の正面図・平面図・左右各側面図・A-A断面図及び斜面図の略前図面に表れているように、側面視を腰から首に亘り前方へ突出する弧状に形成すると共にこれに結合する直線上の頭部が表れる形状で、正面視においても、本体部の両側に一定厚みの弧状枠部材が表れると共に、中央部には高さ方向略3分の2の範囲で一定幅の窪み溝を有する背もたれ部本体を形成している。
従ってこれら両者間には、腰から背部に亘る形状及び首部から頭部に亘る全形状及び構成に大きな差異があり、これらの差異により、本願意匠では、本願の使用状態を示す斜面図で示したように、左右両弧状枠部材間で使用者が移動しないように安定保持させてることができるが、刊行物の意匠ではこのような使用者背部の安定保持ができないという大きな差異がある。」

(ウ)甲9号証に記載された発明
甲9号証の2は、甲9号証の1に記載された図面について説明するものであることから、甲9号証の1及び甲9号証の2の記載を総合することで、甲9号証の1に図面として記載されたあんまいすに関して、一つのまとまりのある技術思想を捉えることができると解するのが妥当である。
してみると、上記(ア)及び(イ)の記載事項を総合すると、甲9号証には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されているといえる。
「座部と、
前記座部の後部に設けられた背もたれ部と、
機械式のマッサージ機構と、を備え、
前記背もたれ部の左右両側に前方に突出し、左右両弧状枠部材間で前記背もたれ部にもたれた使用者が移動しないように安定保持させることができる左右間隔を有する左右一対の弧状枠部材を備え、
前記左右一対の弧状枠部材は、内側面をそれぞれ備えた、
あんまいす。」

(エ)甲9発明の公知性
A 請求人は、平成30年11月15日付け上申書(7ページないし9ページ)において、甲9号証に記載の発明は、原出願日よりも前に日本国内で公然知られた発明であると主張する。
これに対して、被請求人は、平成30年11月29日付け上申書(7ページないし9ページ)において、請求人の上記主張は、請求の理由の要旨を変更するものであると主張する。
B しかしながら、甲9号証に記載された発明は原出願日よりも前に日本国内で公然知られた発明であるという請求人の主張は、新たな無効理由の根拠法条の追加や差し替え、主要事実の差し替えや追加、直接証拠の差し替えや追加のいずれにも該当しない。したがって、請求人の前記主張は、当初の審判請求書に記載された「権利を無効にする根拠となる事実」の存否を判断するのに必要な審理範囲が、請求の理由の補正に起因して実質的に変更され、それにより大幅な審理のやり直しや権利者の実質的反論を必要とするようになるものではないことから、請求の理由の要旨を変更するものではない。
よって、被請求人の主張は採用することができない。
C ここで、甲9号証の1は、意願平7-4188号に係る平成7年2月17日付けで特許庁に提出された意匠登録願及び図面(以下、「甲9意匠出願」という。)である。甲9号証の2は、甲9意匠出願の出願手続において平成9年6月4日付けで特許庁に提出された意見書である。
そして、甲9意匠出願に対して平成10年8月7日に意匠登録がなされたことから、意匠法第63条の規定により、甲9号証はいずれも、何人も特許庁長官に対して交付請求することができることとなった。
してみると、甲9発明は、原出願日よりも前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるということができる。

イ 甲10号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲10号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 本体に突没可能に取付けた一対の施療子と、前記一対の施療子に揉み・叩き動作をさせる主駆動源と、前記施療子間の幅を可変させる幅用駆動源と、前記施療子を前後方向へ駆動させる前後用駆動源と、前記施療子を上下方向へ駆動させる上下用駆動源の内、少なくとも前記主駆動源を含む複数の駆動源を備え、各々の駆動源を制御回路により独立して制御するようにしたマッサージ機において、
前記施療子が本体内に位置するときだけ、前記幅用駆動源、前記前後用駆動源、前記上下用駆動源が動作できるように前記制御回路を構成したことを特徴とするマッサージ機。」
「【0013】上下用軸4bの両端にはピニオン15,15が連結され、本体30の背もたれに形成されたラック16,16に噛み合っている(図3)。」
「【0016】操作入力回路21より叩き動作指令が制御回路20に入力されると、制御回路20は主駆動回路2cとクラッチ6に、主駆動源2aの回転を叩き軸23に伝達するように指令を与える。これにより、主駆動源2aが回転し、プーリ17a、タイミングベルト18a、プーリ17b、タイミングベルト18b、プーリ17cが駆動されて叩き用軸23が回転する。叩き用軸23が回転すると、図6に示すように、結合板14,14の一端14a,14aはクランク軸部23a,23bが叩き用軸23の回りに描く軌跡22に沿って周期的に移動する。これに伴い、結合板14,14の他端14b,14bは、偏心内輪10の外周を中心として描く軌跡に沿って周期的に反復移動する。結合板14の他端が反復移動すると、ハウジング9は偏心内輪10の外周を中心に振動的に回動するとともに施療子7a,7bの前後方向の変位が周期的に変化し、叩き動作によるマッサージを行う。また、ハウジング9,9は、上記のように結合板14,14を介して軸対称関係にあるクランク軸部23a,23bと連結されているので、例えば施療子7aが人体側に突出しているとき、施療子7bは椅子側へ収まっており、2つの施療子7a,7bは交互に人体を叩くことになる。」
「【0019】操作入力回路21より施療子7a,7bの人体に対する上方向への移動指令が制御回路20に入力されると、制御回路20は回転角度検出器22によって検出される揉み用軸2bの回転角度が人体に接触することのない回転角度の範囲にあるかどうかを判断し、その範囲内にあるときのみ、上下用駆動回路4cに、上下用駆動源4a回転させ上下用軸4bを回転するように指令を与える。これにより、ラック16と噛み合うピニオン15が回転しフレーム1が人体の上方向に上昇し、施療子7a,7bの人体の上方向への移動がなされる。また、施療子7a,7bの人体に対する下方向への移動は、上下用駆動源4a、上下用軸4b、ピニオン15が逆方向に回転し、フレーム1が下降し、施療子7a,7bの人体の下方向の移動がなされる。」
図3には、椅子型マッサージ機において、背もたれがマッサージ機の左右両側に位置する点が開示されている。

してみると、甲10号証には、次の技術的事項(以下、「甲10技術」という。)が記載されているといえる。
「主駆動源2aの回転動力で叩き用軸23が回転することで,左右の施療子7a,7bが交互に前後揺動する叩き動作を行うとともに、本体30の背もたれで上下駆動自在に設けられており、背もたれがマッサージ機のフレーム1の左右両側に位置するマッサージ機。」

ウ 甲11号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲11号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0013】
【実施例】この発明の第1の実施例のマッサージ機を図1ないし図3に基づいて説明する。なお、図8および図9に示した従来例と同一部材には同一符号を付してその説明を省略する。図1は叩き用軸の動作原理図で、図2はその要部を示している。この叩き用軸17は、両端に位置する回転中心軸17c、分離可能な一対のクランク部17a,17b、一対のクランク部17a,17bを連結する噛み合いクラッチ20を備えている。矢印Aは駆動側で、矢印Bは従動側であることを示している。噛み合いクラッチ20は、図2に示すように、駆動側のクランク部17bの回転軸上にある中央寄りの端部に固定された駆動側クラッチ本体10と、従動側のクランク部17aの回転軸上にある中央寄りの端部に固定された従動側クラッチ本体11とからなる。
【0014】両クラッチ本体10,11は円盤状で、叩き用軸17を嵌挿する穴部18を有し、叩き用軸17に対して回転しないようにキー12,13により固定されている。また、対向面の周縁部に噛み合わせ部15,16がそれぞれ突設してある。噛み合わせ部15,16は略扇形状で、その中心角は90°である。そして、図3(b)に示すように、噛み合わせ部15,16の一方の当り面15a,16aが当接することにより、駆動側のクランク部17bから従動側のクランク部17aに駆動力が伝達される。このときのクランク部17a,17bの位置は、図1の二点鎖線に示すように回転中心軸17cに対して軸対称(軸に対して反対側)の位置になるように設定してある。また、叩き用軸17の駆動源の停止時には、図3(a)に示すように、従動側のクランク部17aが180°回転し、噛み合わせ部15,16の他方の当り面15b,16bが当接する。このときのクランク部17a,17bの位置は、図1の実線に示すように回転中心軸17cに対して同じ側に位置するように設定してある。なお、クランク部17a,17bには、従来例と同様にリンク機構5、ハウジング3、アーム2を介して施療子1が連結してある。
【0015】つぎに、このマッサージ機の動作について説明する。叩き動作以外の動作時(揉み動作、幅調整、前後調整、上下調整)では、図3(a)に示すように、噛み合わせ部15,16が噛み合った状態でクラッチ本体10,11が連結される。この場合、噛み合わせ部15,16の他方の当り面15b,16bが当接しているので、図1の実線に示すように叩き用軸17のクランク部17a,17bは、回転軸に対して同じ側にある。これにより、施療子1a,1bは位置ずれのない状態にある。
【0016】また、叩き動作時には、叩き用の駆動源が駆動して図3(a)の状態から駆動側の噛み合わせ部15が矢印のごとく回転して図3(b)の状態に至る。この場合、噛み合わせ部15が180°回るまでは、従動側の噛み合わせ部16は力の伝達を受けないので動作を開始しない。駆動、従動側の噛み合わせ部15,16に180°の位相差ができたところで、一方の当り面15a,16aが当接して噛み合わせ部15が噛み合わせ部16を押す形で叩き動作が得られる。すなわち、この状態では図1の二点鎖線に示すようにクランク部17a,17bは、回転軸に対して反対側の位置にあり、これに伴い施療子1a,1bの位置がずれ交互に叩く動作が得られる。
【0017】また、叩き動作が停止すると、それまで一体となって高速で回転していた噛み合わせ部15,16のうち、駆動側である噛み合わせ部15が停止するため、従動側である噛み合わせ部16は慣性力によって始動時の位置へ戻ることになる(図3(c))。ここで、叩き動作を停止した場合の噛み合わせ部15,16の位置は、他方の当り面15b,16bどうしが当接していれば、図1の実線のようになるため駆動円周上のどの位置で止まっても差支えない。
【0018】この実施例では、上記のように叩き動作以外の動作のときにおいて、施療子1a,1bの位置ずれが生じないため人体を均等に加圧した状態でのマッサージを行うことができる。また、叩き動作のときは施療子1a,1bの位置がずれて交互に叩く動作を実現できる。なお、叩き用軸17の停止時での噛み合わせ部15,16の位置関係を確実なものとするため、叩き動作停止後駆動側の回転中心軸17cを積極的に逆回転させることにより、始動時の状態に戻してもよい。また、叩き動作以外の動作時に、噛み合わせ部15,16が不確定な動きをする恐れがある場合、図4に示すように、電磁クラッチ14a,14b等の拘束手段を用いてクラッチ本体10,11の動きを拘束してもよい。」

してみると、甲11号証には、次の技術的事項(以下、「甲11技術」という。)が記載されているといえる。
「駆動源が駆動して叩き用軸17に回転駆動を与え,これに伴って一対の施療子1a,1bが交互に叩き動作を行うマッサージ機。」

エ 甲12号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲12号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、椅子状の按摩機に関する。
【0002】
【従来の技術】椅子状の按摩機において、椅子の背もたれ部分に按摩動作を行う駆動機構が収納されている。駆動機構には一対の揉子が設けられ、駆動機構に配置されたモータを駆動することにより、この揉子が揺動し、揉み動作或いは叩き動作などの按摩動作を行うように構成されている。また、按摩動作を椅子に座った人の所望の位置で行うために、椅子の背もたれ部分には、駆動機構を昇降させる昇降機構が備えられている。また、前記一対の揉子の間の間隔を調整するための調整機構が備えられている。」
「【0017】駆動機構5は、椅子2の背もたれ部分3に取り付けられると、椅子2に凭れた人の背部に一対の揉子10a、10bが臨むように構成されている。揉子10a、10bは、駆動機構5に備えられるモータ11に動作変換機構12を介して連結され、モータ11の回転動作が動作変換機構12によって揉子10a、10bの揺動動作に変換され、揺動する揉子10a、10bによって椅子2に凭れている人の背部、首部、或いは肩部に、揉み動作を行う。また、揉子10a、10bは、駆動機構5に備えられるモータ60に動作変換機構70を介して連結され、モータ60の回転動作が動作変換機構70によって揉子10a、10bの交互の上下動に変換され、交互に上下動する揉子10a、10bによって叩き動作が行われる。動作変換機構12、70の構成の詳細は後述される。ラック4の上部は、椅子2の背もたれ部分3に凭れた人の首や肩などの背部の曲面に馴染むように少し屈曲されている。また、ラック4は椅子2の背もたれ部分3の下端部で例として蝶番などによる回動部13で屈曲自在に構成され、椅子2の背もたれ部分3のリクライニング動作に従動できるように構成されている。」
「【0034】つぎに、按摩機1の叩き動作を以下に説明する。按摩機1の按摩動作の内、叩き動作に加えて駆動機構5の昇降動作を行う場合、この昇降動作は、前記説明動作と同様に行われる。揉み動作を行う場合、モータ60が起動され、回転軸17が回転駆動される。このとき、ベアリングバンド25、26の内部に装着されているベアリング41、45がベアリングバンド25、26と同軸であって、前記偏心ブッシュ71、83の軸線が、回転軸17の軸線に対して偏心した位置を通るように構成され、各偏心ブッシュ71、83は、本実施例において各々の偏心方向が回転軸17の軸線に関して相互に逆方向となるように回転軸17に取り付けられていることから、回転軸17の回転に伴って、各偏心ブッシュ71、83は、回転軸17の軸線と垂直方向に交互に逆位相で上下動し、ベアリングバンド25、26は前記垂直方向に上下動する。この上下動はロッド23、24を介して斜板カム18、19の突起37、38を上下動させる。これにより斜板カム18、19は、回転軸16の周りに往復角変位する。従って、斜板カム18、19の前記往復角変位は、斜板カム18、19のロッド23、24との連結位置を中心とし、この連結位置から回転軸16までの距離と、連結位置から揉子10a、10bまでの距離との比に比例して増幅された揉子10a、10bの上下動となる。これにより、揉子10a、10bは、椅子2の背もたれ部分3に凭れている人の背や肩、首筋などを左右交互に叩く叩き動作が行われる。」
上記【0017】の「駆動機構5は、椅子2の背もたれ部分3に取り付けられる」及び【0030】の「叩き動作に加えて駆動機構5の昇降動作を行う」との記載事項を踏まえると、図10には、駆動機構5は、椅子2の背もたれ部分3の内部で昇降動作を行う点が開示されているといえる。
また、上記【0017】の「揺動する揉子10a、10bによって椅子2に凭れている人の背部、首部、或いは肩部に、揉み動作を行う。」という記載から、椅子2の背もたれ部分3は、駆動機構5の左右両側に位置するものであることは明らかである。

してみると、甲12号証には、次の技術的事項(以下、「甲12技術」という。)が記載されているといえる。
「椅子状の按摩機において、駆動機構5におけるモータ60が駆動して回転軸17に回転駆動を与え、これに伴って一対の揉子10a、10bが交互に叩き動作を行い、駆動機構5は椅子2の背もたれ部分3の内部で昇降動作を行い、背もたれ部分3は駆動機構5の左右両側に位置するマッサージ機。」

オ 甲13号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲13号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マッサージ機本体に支持された使用者の被施療部を、前記本体に内蔵されてエアーの給排気にしたがい膨脹・収縮する袋体によってマッサージするマット式または椅子式等のエアーマッサージ機に関する。」
「【0027】詳しくは、人体保持用袋体31は、マット部11上に横たわる人体Aの体側に沿うようにマット部11の長手方向に沿って配置されて、それへの空気の供給により棒状に膨脹するものである。この第1の実施の形態では人体保持用袋体31は左右一対設けたが、これらはそのいずれかの端部等でつながって一体化されていてもよい。この場合において、マット部11の幅方向に延びる連通部分は、膨脹しないパイプで形成してもよく、或いは、膨脹するものであっても人体Aの体側に沿う袋部分の膨脹太さよりも小さく膨脹する構成として、マット部11上に横たわった人体Aを極力押上げないようにすればよい。」
「【0048】前記構成のエアーマッサージ機の動作について説明する。まず、マット部11とエアー給排気装置12とを接続ホース13によって接続してから、エアー給排気装置12の電源スイッチを閉じた後に、操作パネル55またはリモートコントローラ56のいずれかを操作して所望のマッサージモードを選定する。それにより、はじめに人体保持用袋体31が膨脹された後、選択されたマッサージモードにしたがって、袋体32?45のうち前記モードを実行するのに必要な袋体の膨脹・収縮を繰り返させて、マット部11上に横たわった使用者の身体に対する押圧と弛緩とを繰り返してマッサージを施す。
【0049】このマッサージにおいて、はじめに膨脹される人体保持用袋体31の膨脹状態は、選択されたマッサージモードが終了または中止されるまで継続される。ところで、一対の人体保持用袋体31間には上半身をマッサージする各種袋体32?36、39?41が夫々配置されているから、前記袋体31が膨脹状態を維持することにより、膨脹された袋体31の視認によりマット部11に内蔵された各種袋体32?36、39?41のマット部11に対する幅方向の位置を容易に知ることができ、或いは背中が膨脹した人体保持用袋体31に当たることにより容易に感知できる。
【0050】したがって、使用者の背中に対して所定のマッサージ効果を与え得る適正位置からずれないように、マット部11に上半身を支持できるとともに、こうして一旦適正に支持された後には、一対の人体保持用袋体31が使用者の上半身をその両側から挟むようになるので、これら袋体31がストッパとなって前記適正位置に上半身を位置決めして保持できる。そのため、袋体32?36、39?41の膨脹に伴って使用者の背中等がマット部11の幅方向一端側に転ぶように逃げ動く傾向を抑制でき、所定のマッサージ効果を与えることができる。なお、前記位置決め状態において使用者の腕は、人体保持用袋体31上またはこの袋体31を体側との間に挟むように外側に置かれる。」
「【0053】また、選択されたマッサージモードが背筋用袋体41を膨脹・収縮させる背筋延ばし工程を備える場合には、この袋体41は、膨脹状態の人体保持用袋体31がマット部11の幅方向に使用者を上半身を位置決めした状態において、膨脹・収縮して使用者の背筋を押圧・弛緩させる。そのため、背筋用袋体41が膨脹する時に、この袋体41で押し上げられる上半身がマット部11の幅方向に転ぶように逃げる動きを、上半身の両側を挟むように位置された人体保持用袋体31をストッパとして妨げることができる。したがって、背筋用袋体41が使用者の背筋から外れることがなくなり、その繰り返される膨脹に伴って確実に背筋を延ばしてマッサージすることができる。こうした背筋延ばしをする場合の挙動は図5(A)?(C)に示されており、同図(B)(C)に人体保持用袋体31でマット部11の幅方向に使用者を上半身を位置決めした状態が示されている。」
「【0064】なお、前記第1の実施の形態は以上のように構成したが、この実施の形態に本発明は制約されるものではなく、例えば椅子式その他の形式のエアーマッサージ機にも適用できる。そして、椅子式のエアーマッサージ機とする場合には、その座部と背凭れ部とを有した椅子本体(マッサージ機本体)の背凭れ部に袋体31?35,39?41等を組み込んで実施すればよい。」

してみると、甲13号証には、次の技術的事項(以下、「甲13技術」という。)が記載されているといえる。
「マット式または椅子式等のエアーマッサージ機において、人体保持用袋体31を膨張させて使用者の上半身をその両側から挟み,使用者の人体を位置決めした状態において,使用者の背中に対してマッサージを施すエアーマッサージ機。」

カ 甲14号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲14号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0055】図10及び図11は、この発明の第3実施例のエアマッサージ装置を椅子式エアマッサージ装置Cに適用した例を示したものである。この第3実施例では、前記背凭れ部13上部に移動阻止手段としてのスイングアーム35が回動自在に配設されている。(審決注:「背凭れ部13」は「背凭れ部12」の誤記である。)
【0056】このスイングアーム35は、使用者の左右両肩の前方への移動を阻止する左右アーム部37,37を有している。このアーム部37は、先端を下方に折曲して肩部の前面側を支持する形状を呈すると共に、肩部が当接する下面側人体当接面には、左右肩部空気袋a7,a8が配設されている。この左右肩部空気袋a7,a8は、図示省略のホースb7?b8及びホースc7?c8を経由して前記給排気装置40に接続している。
【0058】この様に構成されたこの第3実施例の椅子式エアマッサージ装置Cでは、使用者が座部11に着座して、前記スイングアーム35を下方に回動させ、前記空気袋a7,a8を両肩部に当接させる。そして、操作パネル14の操作により、左右空気袋a7,a8を膨張させると、使用者の身体は、着座状態で固定される。
【0060】このとき、各空気袋の膨張並びに収縮順序は、図3の○付数字で示すように、空気袋a1?a6の順で膨縮する。(審決注:「図3」は「図11」の誤記である。)
【0061】背凭れ部12の空気袋a1?a6が膨張する際にも、着座した使用者の身体の前方への移動が前記スイングアーム35によって阻止される。このため、使用者の身体は、移動することなく、所定の位置に滞在するので、使用者の身体の指圧点を効果的に押圧できる。
【0062】従って、背凭れ部12の空気袋を単に膨張させた場合のように、人体が空気袋の膨張に伴って押されて前方へ移動して押圧不足による不満足なマッサージしか得られないものと異なって良好なマッサージ効果を得ることができる。」

してみると、甲14号証には、次の技術的事項(以下、「甲14技術」という。)が記載されているといえる。
「スイングアーム35を使用者の両肩に当接させた状態で空気袋a7,a8を膨張させることにより,使用者の上半身の移動を阻止し,かかる状態で空気袋a1?a6によるマッサージを行うことにより,背中等へのマッサージ効果を高める椅子式エアマッサージ装置。」

キ 甲15号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲15号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、圧搾空気の給排気に伴って膨縮す袋体によって身体のマッサージを行う椅子式エアーマッサージ機に関する。」
「【0011】そして、前記座部2の身体受部位つまり被施療者が腰掛ける部位には、その前側および後側にそれぞれ気密性を有するとともに軟質の材質からなり、圧搾空気の給排気に伴い膨縮する細長かつ偏平状に形成された腿用袋体5および尻用袋体6が、その長手方向を座部2の横方向(図において左右方向)に向けて配設されている。そして、前記座部2の前側に配設された腿用袋体5は大腿部を中心とした部分をマッサージするように機能し、また、後側に配設された袋体6は尻部をマッサージするように機能するようになっている。」
「【0028】そして、選択された動作モードに首肩部のマッサージが含まれている場合は、前記首肩部マッサージ体11の袋体13に対して圧搾空気の給排気がなされるが、圧搾空気が供給される場合には、圧搾空気の供給が開始されると、袋体13は徐々に膨脹をし始める。この膨脹にしたがって押圧板15は軸21を回動中心として回動し、この押圧板15の回動に伴って押圧突起14は互いに接近する方向つまり首肩部を外側から内側に向けて挟み込む方向に回動を開始する。そして、袋体13が最大に膨脹したとき前記押圧突起14の首肩部に対する押圧力も最大となり、その後の圧搾空気の排気に伴い押圧板15は元の位置に復帰して給排気の一サイクルが完了する。」
「【0029】そして、前記袋体13が膨脹して押圧板15をその押圧突起14を互いに接近する方向に回動させることになるが、このとき前記受板12の両側に形成した傾斜状の袋体受部12aによって袋体13の膨脹による押圧力を効果的に利用、つまり押圧突起14による首肩部の挟み込みを確実にでき、さらに、上述したように一対の袋体受部12aを互いに対向する方向に折曲して形成していることから押圧突起14によって同じ大きさの押圧力を得るために要する押圧板15つまり押圧突起14の回動量を得るには、受板12が平板状である場合に比べて袋体13の容積を小さくすることができ、その結果袋体13への給排気の効率を上げることができるとともに給排気サイクル時間を短くする、つまり単位時間当たりの押圧回数を上げることができるためマッサージ効果を向上させることができるものである。
【0030】このようにして首肩部マッサージ体11の袋体13への給排気サイクルが繰り返されて、首肩部のマッサージがなされるが、このとき前記押圧突起14は前記首肩部を外側から内側に向けて挟み込むようにして押圧するために、いわゆる指圧と同様なマッサージがなされ、首肩部の効果的なマッサージがなされるとともに、袋体のみの膨脹による押圧の場合にはできなかった局部的マッサージが可能となり、さらに、押圧突起14による所望の被施療部への位置決めを確実になすことができる。」

してみると、甲15号証には、次の技術的事項(以下、「甲15技術」という。)が記載されているといえる。
「椅子式エアーマッサージ機において、座部2に設けられた腿用袋体5や尻用袋体6により、使用者の大腿部や尻部をマッサージすること、及び使用者の首肩部の左右に位置する袋体13を空気で膨張させることにより、使用者の首肩を挟み込むようにしてマッサージを行う椅子式エアーマッサージ機。」

ク 甲16号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲16号証には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)475ページ下右欄4行ないし7行
「本稿ではマッサージチェアにおけるエルゴノミクスデザインについて、特に従来のマッサージチェアには用いられていなかった独自のメカニズムである「連動パワーリクライニング」を中心に記述する。」
(イ)477ページ右欄下から4行ないし478ページ左欄1行
「4.1.2 ラウンドフォルムデザイン ゆったり感とくつろぎ感によりリラックスできるように、背もたれの形状は腰回りを緩やかに前方に湾曲させ、包み込まれるような座り心地を実現した。寸法条件については、日本人の腰回りのサイズを分析して決定した。」
(ウ)478ページ左欄19行ないし27行
「まる2ラウンドフォルム
→30?70歳代、男女の体型サイズを分析対象とした
・湾曲部の左右間隔:400mm
(ウェスト幅に若干の余裕を持たせた)
・最大湾曲部の高さ:240mm
(座位ウェスト高の平均値に合わせた)
・最大湾曲部の盛り上がり:100mm
・クッション硬度:従来品と同等とする
設定した試作条件を図5に示す。」
(エ)479ページ左欄16行ないし17行
「まる5ラウンドフォルムによりマッサージ時に身体が左右にずれない」
(オ)479ページ左欄21行ないし24行
「まる2ラウンドフォルム部は短時間評価はよいが長時間使用時に疲れやすい
まる3ラウンドフォルムによる盛り上がり部が広いため、腰より上でやや窮屈な感じがある。」
(カ)図5


してみると、甲16号証には、次の技術的事項(以下、「甲16技術」という。)が記載されているといえる。
「マッサージチェアにおいて、背もたれの形状は腰回りを緩やかに前方に湾曲させたことにより、マッサージ時に身体が左右にずれないマッサージチェア。」

ケ 甲17号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲17号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0011】」
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。その一実施形態に係る椅子型のマッサージ機の外観斜視図を図1に、ベッド型のマッサージ機の外観斜視図を図2に示す。図1のマッサージ機10は、座部12と背もたれ部13を有する椅子11と、椅子11の背もたれ部13に上下方向に移動可能に設けられた一対のもみ玉14と、椅子11の座部12及び背もたれ部13に膨張・収縮可能に設けられた空気袋15とを備える。空気袋15は、椅子11の座部12に設けられた大小3つの空気袋15aと、背もたれ部13にもみ玉14を挟んで設けられた同サイズの6つの空気袋15bと、背もたれ部13の頂部に設けられた空気袋15cとで構成される。」

してみると、甲17号証には、次の技術的事項(以下、「甲17技術」という。)が記載されているといえる。
「座部12に設けられた空気袋15aにより,使用者をマッサージするマッサージ機。」

コ 甲18号証
原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲18号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0011】尚、本発明における上記気嚢3は、上述した基体1の背板1b面に埋設されることに止まらず、その坐台1a面に複数の気嚢3’を横(水平)方向に設けることによって、同時に臀部と上肢(太もも)に揉捏などの効果を付与することもできるし、更に坐台1aの前面1cに気嚢5aを対設した揉捏機構5を二基取り付け、これらをホース4を介して前記のコンプレッサーに接続して下肢背側(ふくらはぎ)の揉みほぐしを行うことも自由である。」

してみると、甲18号証には、次の技術的事項(以下、「甲18技術」という。)が記載されているといえる。
「坐台1aに設けられた気嚢3’により,使用者の臀部や上肢(太もも)をマッサージする複合マッサージ機」

(2)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明の「背もたれ部」は、その機能及び作用からみて、本件発明1の「背凭れ部」に相当し、以下同様に、「マッサージ機構」は「マッサージ器」に、「左右両側」は「左右両側部」に、「前方に突出し」は「前方突出し」に、「左右両弧状枠部材間で」は「両突起体の間に」に、「弧状枠部材」は「突起体」に、「あんまいす」は「椅子型マッサージ」に、それぞれ相当する。

イ 一致点及び相違点
してみると、本件発明1と甲9発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

(一致点)
「座部と、
前記座部の後部に設けられた背凭れ部と、
機械式のマッサージ器と、を備え、
前記背凭れ部の左右両側部からそれぞれ前方突出し、両突起体の間に背凭れ部にもたれた使用者が移動しないように安定保持させることができる左右間隔を有する左右一対の突起体を備え、
前記左右一対の突起体は、内側面をそれぞれ備え、
た椅子型マッサージ機。」

(相違点1)
「機械式のマッサージ器」について、本件発明1においては、「マッサージ用モータの回転動力で叩き動作軸が回転することで、左右の施療子が交互に前後揺動する叩き動作を行う」とともに「前記背凭れ部内で昇降自在に設けられ」るよう構成され、「背凭れ部」が「機械式のマッサージ器」の「左右両側に位置する」よう構成されるのに対して、甲9発明においては、具体的な構成が明らかでない点。

(相違点2)
「左右一対の突起体」について、本件発明1においては、「前記背凭れ部にもたれた使用者よりも左右方向外側に位置するよう」構成され、「両突起体の間に前記背凭れ部にもたれた使用者の両腕及び両腕の間の胴体をまとめてはめ込める」よう構成されるのに対して、甲9発明においては、左右両弧状枠部材間で前記背もたれ部にもたれた使用者が移動しないように安定保持させることができるよう構成される点。

(相違点3)
「左右一対の突起体の内側面」について、本件発明1においては、「両突起体の間にはめ込まれた使用者の両腕の外側に対向する」よう構成され、「それぞれ、使用者の両腕の左右外側に対向するとともに、空気の給排気によって膨張収縮する空気式マッサージ具が設けられ、前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」よう構成されるのに対して、甲9発明においては、左右一対の弧状枠部材の内側面に空気式マッサージ具を備えるよう構成されていない点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
甲10技術ないし甲12技術から、「マッサージ機において、マッサージ用モータの回転動力で叩き動作軸が回転することで、左右の施療子が交互に前後揺動する叩き動作を行うこと」は、施療子により使用者の背をマッサージする技術分野において周知技術であるといえる。
また、甲10技術及び甲12技術から、「椅子型マッサージ機において、背もたれ部が内で揉子を含むマッサージ手段が昇降自在であること、及び、背もたれ部がマッサージ手段の左右両側に位置すること」も、施療子により使用者の背をマッサージする技術分野において周知技術であるといえる。
してみると、甲9発明において、同じ技術分野に属する上記二つの周知技術を適用することは、当業者にとって何ら困難性はない。
よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲9発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(イ)相違点2について
甲9発明は、一対の弧状枠部材について、背もたれ部にもたれた使用者が移動しないように安定保持させるものであるが、背もたれ部にもたれた使用者よりも左右方向外側に位置し、使用者の両腕及び両腕の間の胴体をまとめてはめ込める左右間隔を有しているか否かについては明らかでない。また、甲9発明のあんまいすが使用者の背部から腰部にかけての部分をマッサージするものであることを踏まえると、「安定保持させる」こととは使用者の背部から腰部にかけての部分が移動しないように保持することが目的であるといえることから、あんまいすの背もたれ部及び弧状枠部材の構造も背部から腰部の胴体をはめ込めるような構造になっていればよいといえる。そして、甲9号証の1の「使用状態を示す斜視図」をみても、使用者の右腕部及び左腕部は弧状枠部材の内側にはめ込まれるようには図示されておらず、特に、左腕部は弧状枠部材の上にはみ出しているように図示されている。
つまり、甲9発明のあんまいすは、背部から腰部にかけての部分をマッサージすることを目的とし、両腕部の外側の部分をマッサージするものではないことを踏まえると、甲9発明の「安定保持させる」とは、左右両弧状枠部材によって、使用者の背部から腰部にかけての部分を安定的に保持することを意味するとまではいえたとしても、両腕部の外側から、両腕部及び両腕の間の胴体をまとめてはめ込めることで安定的に保持することまでは意味するものではない。
よって、甲9発明は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を有していないといえる。

また、甲10技術ないし甲18技術をみても、上記相違点2に係る本件発明1の構成が記載されているとはいえない。

したがって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、請求人の提示したいずれの証拠方法にも記載されておらず、甲9発明及び甲10技術ないし甲18技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(ウ)相違点3について
甲13技術ないし甲15技術からみて、空気式マッサージの技術分野において、空気袋を膨張させて使用者の身体の一部を挟み込むことは周知の技術であるといえる。
しかしながら、甲9発明において、左右一対の弧状枠部材間で使用者が移動しないように安定保持させるものであるところ、使用者がすでに安定保持していることから、空気袋をさらに備えることの動機付けがあるとはいえず、また、技術常識からみて、使用者の身体と当該弧状枠部材の内側面との間に空気袋を配置できるような空間的余裕があるともいえない。さらに、仮に、甲9発明の弧状枠部材の内側面に空気袋を適用できたとしても、上記(イ)のとおり、左右一対の弧状枠部材が使用者の両腕部及び両腕の間の胴体をまとめてはめ込めるよう構成されていないことから、当該空気袋は、使用者の両腕部の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕部の外側から左右に挟み込むものであるということまではできない。
したがって、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、甲9発明、甲10技術ないし甲18技術及び周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(エ)むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲9発明、甲10技術ないし甲18技術及び周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(3)本件発明2
本件発明2は、本件発明1に構成要件J及び構成要件Kを加えたものであることから、本件発明2と甲9発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし相違点3に加えて、以下の点で相違する。

(相違点4)
本件発明2においては、「前記空気式マッサージ具が、左右方向内方に膨張して、前記左右の施療子の前方かつ左右方向外側位置において使用者の両腕の外側を押圧して、使用者の胴体を両腕の外側から左右に挟みつつ、それと同時に、機械式の前記マッサージ器を昇降させながら前記左右の施療子によって使用者の背中に対して左右交互に叩き動作行う」のに対して、甲9発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

上記(2)のとおりであるので、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲9発明、甲10技術ないし甲18技術及び周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(4)本件発明3
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2に構成要件Lないし構成要件Nを加えたものであることから、本件発明1又は本件発明2と甲9発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし相違点4に加えて、以下の点で相違する。

(相違点5)
本件発明3においては、「前記座部は、空気の給排気によって使用者を押圧する空気式のマッサージ具を備え、前記左右一対の突起体の前記内側面に設けられた前記空気式マッサージ具は、前記左右の施療子による叩き動作と前記座部の空気式マッサージ具からの押圧とを受ける人体の腕の外側から左右に挟むものである」のに対して、甲9発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

上記(2)及び(3)のとおりであるので、上記相違点5について検討するまでもなく、本件発明3は、甲9発明、甲10技術ないし甲18技術及び周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(5)小括
以上のことから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。

(6)甲9号証が「頒布された刊行物」であるとの請求人の主張について
請求人は、平成30年10月11日付け口頭審理陳述要領書(14ページないし16ページ)において、甲9号証は頒布された刊行物であると主張する。
しかしながら、上記(1)アのとおり、甲9発明は原出願日よりも前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるから、甲9号証が「頒布された刊行物」に該当するか否かは、審決の判断に影響を及ぼすものではない。

6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-14 
結審通知日 2019-03-18 
審決日 2019-04-02 
出願番号 特願2006-138687(P2006-138687)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61H)
P 1 113・ 537- Y (A61H)
P 1 113・ 536- Y (A61H)
P 1 113・ 55- Y (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高田 元樹  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 高木 彰
芦原 康裕
登録日 2010-10-29 
登録番号 特許第4617275号(P4617275)
発明の名称 椅子型マッサージ機  
代理人 辻本 希世士  
代理人 杉野 文香  
代理人 矢倉 雄太  
代理人 辻本 良知  
代理人 橋本 敬之  
代理人 丸山 英之  
代理人 三山 峻司  
代理人 古庄 俊哉  
代理人 富田 詩織  
代理人 石津 真二  
代理人 手代木 啓  
代理人 重冨 貴光  
代理人 特許業務法人R&C  
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