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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60S
管理番号 1365428
審判番号 不服2019-8404  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-25 
確定日 2020-08-19 
事件の表示 特願2014-263375号「リザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年3月7日出願公開、特開2016- 30592号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)12月25日(パリ条約による優先権主張2014年(平成26年)7月29日、韓国(KR))の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 7月12日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月24日 :意見書の提出
平成31年 2月14日付け:拒絶査定
令和 1年 6月25日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和1年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年6月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「リザーバーと一体に装着されて該リザーバーから流入するウォッシャー液が保存される補助タンク、及び
前記補助タンクと一体に装着されて該補助タンクに保存されているウォッシャー液を加熱するヒーターアセンブリーを含み、
前記ヒーターアセンブリーは、
前記補助タンク内のウォッシャー液を加熱するために前記補助タンクのホールに設置される板状のヒーターを含み、
前記板状のヒーターは発熱される加熱面が前記補助タンク内のウォッシャー液を加熱できるように前記ホールを通じて前記補助タンクの内側に露出するように固定され、
前記リザーバーの下部に形成されたホールの注入口が補助タンクの上部に形成され、
前記リザーバーのホールに補助タンクの注入口が繋がれることで、リザーバー内のウォッシャー液が高さの差異及び圧力によって補助タンクに流入されて満たされ、
前記ヒーターアセンブリーは、
前記板状のヒーターを取り囲むように前記補助タンクに組み立てられる保護カバー、及び
前記板状のヒーターと保護カバーを前記補助タンクに固定するための締め付け手段をさらに含み、
前記補助タンクにウォッシャーポンプが繋がって前記補助タンクに保存されたウォッシャー液が前記ウォッシャーポンプによって吸入された後、ウォッシャーホースを通じてウォッシャーノズルへ送り出されるようにし、
前記ヒーターが設置される補助タンクのホールは、前記ウォッシャーポンプによってウォッシャー液の吸入がなされる位置より低い位置に形成されることを特徴とするリザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年10月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「リザーバーと一体に装着されて該リザーバーから流入するウォッシャー液が保存される補助タンク、及び
前記補助タンクと一体に装着されて該補助タンクに保存されているウォッシャー液を加熱するヒーターアセンブリーを含み、
前記ヒーターアセンブリーは、
前記補助タンク内のウォッシャー液を加熱するために前記補助タンクのホールに設置される板状のヒーターを含み、
前記板状のヒーターは発熱される加熱面が前記補助タンク内のウォッシャー液を加熱できるように前記ホールを通じて前記補助タンクの内側に露出するように固定され、
前記リザーバーの下部に形成されたホールの注入口が補助タンクの上部に形成され、
前記リザーバーのホールに補助タンクの注入口が繋がれることで、リザーバー内のウォッシャー液が高さの差異及び圧力によって補助タンクに流入されて満たされ、
前記ヒーターアセンブリーは、
前記板状のヒーターを取り囲むように前記補助タンクに組み立てられる保護カバー、及び
前記板状のヒーターと保護カバーを前記補助タンクに固定するための締め付け手段をさらに含むことを特徴とするリザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「補助タンク」及び「補助タンクのホール」の構成ないしそれらの関係について、上記のとおり下線部に示す限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、実願昭53-168320号(実開昭55-85352号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同様。)
a 1ページ4?末行
「2.実用新案登録請求の範囲
(1)ウオツシヤ液を加熱する加熱部を有する加熱タンクと、
前記加熱タンクより大きい容積を有し、前記加熱タンクと連通した補充タンクと、
前記加熱タンクからウオツシヤ液を受けて噴出する噴射ノズルと、
前記加熱タンク内のウオツシヤ液が予じめ定めた温度以下の時前記加熱部を作動させ、前記予じめ定めた温度に達した時その作動を停止させるように前記加熱部を制御する温度制御回路と、
前記温度制御回路を作動させる指示部とより構成されることを特徴とするウインドウウオツシヤ装置。」

b 2ページ11?14行
「 本考案は自動車のウインドウウオツシヤ装置に関し、特に、加熱された適温のウインドウウオツシヤ液を噴出するウインドウウオツシヤ装置に関する。」

c 5ページ15行?6ページ17行
「第2図は、本考案によるウインドウウオツシヤ装置の第1の実施例を示す。ウオツシヤ液を貯溜するタンク21は容積の大きい補充タンク211とそれより容積の小さい加熱タンク212より成っており、両者は断面の小さい連通穴217で連通されていて補充タンク211のウオツシヤ液が加熱タンク212へ供給され、常にウオツシヤ液で充満されている。加熱タンク212はヒータ45を有し、スイツチ43、46および電源42から成るヒータ回路を形成している。スイツチ43は自動車内で手動操作できるスイツチであり、スイツチ46は後述される温度制御回路によって制御され、加熱タンク212のウオツシヤ液を適温になるまで加熱するためにヒータ45を付勢し、所定の温度に加熱されると、ヒータ45の付勢を断ってランプ41を点灯するスイツチである。加熱タンク212のウオツシヤ液はその側壁に設けたウオツシヤ液の流出口214からポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプで吸み出され、管路222を介して噴射ノズル22から噴出される。モータポンプ31および32はスイツチ44のオン(ON)によって駆動され、また、ワイパーを操作するスイツチ(図示せず)と連動する構成にしても良い。」

d 以下の図面が示されている。


(イ)上記記載から、引用文献1には、次の事項が記載されているものと認められる。
a 記載事項aの2.実用新案登録請求の範囲の(1)に記載されている「加熱部」、「加熱タンク」、「補充タンク」、及び「噴射ノズル」は、それぞれ、記載事項cに記載されている、「第1の実施例」における「ヒータ45」、「加熱タンク212」、「補充タンク211」、及び「噴射ノズル22」に対応していること。

b 第2図から、「加熱タンク212」は「補充タンク211」の下部に一体にされており、「ヒータ45」は「加熱タンク212」の底部に一体にされていること。

c 記載事項cから、補充タンク211及び加熱タンク212は断面の小さい連通穴217で連通されていて前記補充タンク211のウオツシヤ液が前記加熱タンク212へ供給され、前記加熱タンク212は常にウオツシヤ液で充満されており、
前記加熱タンク212のウオツシヤ液はその側壁に設けたウオツシヤ液の流出口214から管路222を介してポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプで吸み出され、管路222を介して噴射ノズル22から噴出されること。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ウオツシヤ液を加熱するヒータ45を有する加熱タンク212と、
前記加熱タンク212より大きい容積を有し、前記加熱タンク212と連通した補充タンク211と、
前記加熱タンク212からウオツシヤ液を受けて噴出する噴射ノズル22と、
前記加熱タンク212内のウオツシヤ液が予じめ定めた温度以下の時前記ヒータ45を作動させ、前記予じめ定めた温度に達した時その作動を停止させるように前記ヒータ45を制御する温度制御回路と、
前記温度制御回路を作動させる指示部とより構成されるウインドウウオツシヤ装置であって、
前記加熱タンク212は前記補充タンク211の下部に一体にされており、
前記補充タンク211及び前記加熱タンク212は断面の小さい連通穴217で連通されていて前記補充タンク211のウオツシヤ液が前記加熱タンク212へ供給され、前記加熱タンク212は常にウオツシヤ液で充満されており、
前記ヒータ45は前記加熱タンク212の底部に一体にされており、前記加熱タンク212のウオツシヤ液はその側壁に設けたウオツシヤ液の流出口214から管路222を介してポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプで吸み出され、管路222を介して前記噴射ノズル22から噴出されるウインドウウオツシヤ装置。」

イ 引用文献2
(ア)原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された実願昭63-33008号(実開平1-137094号)のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 1ページ13?15行
「(a)産業上の利用分野
この考案は、被加熱体に接して加熱を行うヒータ用正特性サーミスタ装置に関する。」

b 2ページ1?11行
「第4図は従来のヒータ用正特性サーミスタ装置の外観を表す図であり、(A)は上面図、(B)は正面図である。図において1はカバー、2は底板であり、皿状に成型されたカバー1と底板2との間に正特性サーミスタ素子が収納されている。3a?3dは正特性サーミスタ素子の電極に接続された端子であり、これらの端子間に通電を行うことにより内部の正特性サーミスタ素子が発熱する。底板2は発熱面として作用し、被加熱体に接して熱を伝える。なお、4a?4hは被加熱体に対する取付用の孔である。」

c 5ページ4行?6ページ末行
「(f)実施例
第1図はこの考案の実施例であるヒータ用サーミスタ装置の外観を表す図であり、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は底面図である。また第2図は第1図(A)に示したX-Xの矢視断面図である。
これらの図において1はカバー、2は底板であり、皿状に成型されたカバー1と底板2との間に形成される空間内に2つの正特性サーミスタ素子6a,6bが収納されている。カバー1の上面には端子3a?3dが設置されていて、各端子間に所定電圧を印加することによって正特性サーミスタ素子6a,6bに通電が行われ発熱する。
底板2の表面には格子状の放熱フィン5が設けられている。この格子状の放熱フィンはアルミニュウムなどの熱伝導率の高い金属材料より構成されていて、複数枚の板材が格子状に組み合わせられ底板2の表面に真空ブレージング法などによって取付られている。因みに、この放熱フィンの寸法は縦横の格子間隔を5mmとし、フィンの高さを5mmとしている。
第3図(A),(B)は上記ヒータ用正特性サーミスタ装置を製品に組み込んだ例を示している。この製品は水を加熱して蒸発させる装置であり、同図(A)は上面図、(B)は正面断面図を示している。図において10は水12を入れる容器であり、その底面部分に開口部11が形成されていて、上記ヒータ用正特性サーミスタ装置が底部からゴム製パッキングを挟んで取り付けられている。したがって放熱フィン5は容器内の水12と直接接する。このため、正特性サーミスタ素子から発生した熱は底板2及び放熱フィン5を介して水12に伝達されるが、放熱フィン5と被加熱体である水との接触面積が大きいため、熱放散効率が極めて高く、正特性サーミスタ素子の自己温度調節作用により、従来と比較して電力消費が増大し、その分発熱量が増大する。」

d 以下の図面が示されている。


(イ)上記記載、特に、第3図(B)に示されているように、ヒータ用正特性サーミスタ装置を容器10に適用した形態から、引用文献2には、次の事項が記載されていると認められる。
「水に接して加熱を行うヒータ用正特性サーミスタ装置において、
皿状に成型されたカバー1と底板2との間に形成される空間内に2つの正特性サーミスタ素子6a,6bが収納され、底板2の表面には格子状の放熱フィン5が設けられ、
水12を入れる容器10の底面部分に開口部11が形成されていて、上記ヒータ用正特性サーミスタ装置が底部からゴム製パッキングを挟んで取り付けられていること。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)後者の「補充タンク211」は、前者の「リザーバー」に相当し、後者の「ウオツシヤ液」は、前者の「ウォッシャー液」に相当する。また、後者は「前記加熱タンク212は前記補充タンク211の下部に一体にされており、前記補充タンク211及び前記加熱タンク212は断面の小さい連通穴217で連通されていて前記補充タンク211のウオツシヤ液が前記加熱タンク212へ供給され、前記加熱タンク212は常にウオツシヤ液で充満されて」いるものであるから、該補充タンク211から流入するウオツシヤ液が保存されるものといえる。
そうすると、後者の「加熱タンク212」と、前者の「リザーバーと一体に装着されて該リザーバーから流入するウォッシャー液が保存される補助タンク」とは、「リザーバーと一体にされて該リザーバーから流入するウォッシャー液が保存される補助タンク」の点で共通する。

(イ)後者の「ウオツシヤ液を加熱する」「前記加熱タンク212の底部に一体にされ」ている「ヒータ45」と、前者の「前記補助タンクと一体に装着されて該補助タンクに保存されているウォッシャー液を加熱するヒーターアセンブリー」とは、「前記補助タンクと一体にされて該補助タンクに保存されているウォッシャー液を加熱するヒーターアセンブリー」である点で共通する。

(ウ)後者の「前記加熱タンク212は前記補充タンク211の下部に一体にされており、前記補充タンク211及び前記加熱タンク212は断面の小さい連通穴217で連通されていて前記補充タンク211のウオツシヤ液が前記加熱タンク212へ供給され、前記加熱タンク212は常にウオツシヤ液で充満されており」との構成は、補充タンク211内のウオツシヤ液が高さの差異及び圧力によって加熱タンク212に流入することは明らかであるから、前者の「前記リザーバーの下部に形成されたホールの注入口が補助タンクの上部に形成され、前記リザーバーのホールに補助タンクの注入口が繋がれることで、リザーバー内のウォッシャー液が高さの差異及び圧力によって補助タンクに流入されて満たされ」との構成とは、「リザーバー内のウォッシャー液が高さの差異及び圧力によって補助タンクに流入されて満たされ」との構成で共通する。

(エ)後者の「ポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプ」、「管路222」及び「噴射ノズル22」は、それぞれ、前者の「ウォッシャーポンプ」、「ウォッシャーホース」及び「ウォッシャーノズル」に相当し、後者の「前記加熱タンク212のウオツシヤ液はその側壁に設けたウオツシヤ液の流出口214から管路222を介してポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプで吸み出され、管路222を介して前記噴射ノズル22から噴出される」との構成と、前者の「前記補助タンクにウォッシャーポンプが繋がって前記補助タンクに保存されたウォッシャー液が前記ウォッシャーポンプによって吸入された後、ウォッシャーホースを通じてウォッシャーノズルへ送り出されるように」する構成とは、「前記補助タンクに保存されたウォッシャー液が前記ウォッシャーポンプによって吸入された後、ウォッシャーホースを通じてウォッシャーノズルへ送り出されるように」する構成で共通する。

(オ)後者の「ウインドウウオツシヤ装置」は、「加熱タンク212」を含むところ、該「加熱タンク212」は、上記(ア)を踏まえると「補充タンク211」と一体であるから、前者の「リザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「リザーバーと一体にされて該リザーバーから流入するウォッシャー液が保存される補助タンク、及び
前記補助タンクと一体にされて該補助タンクに保存されているウォッシャー液を加熱するヒーターアセンブリーを含み、
リザーバー内のウォッシャー液が高さの差異及び圧力によって補助タンクに流入されて満たされ、
前記補助タンクに保存されたウォッシャー液が前記ウォッシャーポンプによって吸入された後、ウォッシャーホースを通じてウォッシャーノズルへ送り出されるようにするリザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置。」

【相違点1】
「リザーバー」及び「補助タンク」に関し、
本件補正発明は、「補助タンク」が「リザーバーと一体に装着されて」いるものであって、「前記リザーバーの下部に形成されたホールの注入口が補助タンクの上部に形成され、前記リザーバーのホールに補助タンクの注入口が繋がれる」構成であるに対し、
引用発明は、「前記加熱タンク212と連通した補充タンク211」であって、「加熱タンク212」が「補充タンク211」に装着されることが特定されておらず、「前記補充タンク211及び前記加熱タンク212は断面の小さい連通穴217で連通されてい」る構成である点。

【相違点2】
本件補正発明は、「ヒーターアセンブリ」が「前記補助タンクと一体に装着されて」いるものであり、「前記補助タンク内のウォッシャー液を加熱するために前記補助タンクのホールに設置される板状のヒーターを含み、前記板状のヒーターは発熱される加熱面が前記補助タンク内のウォッシャー液を加熱できるように前記ホールを通じて前記補助タンクの内側に露出するように固定され、」「前記ヒーターアセンブリーは、前記板状のヒーターを取り囲むように前記補助タンクに組み立てられる保護カバー、及び前記板状のヒーターと保護カバーを前記補助タンクに固定するための締め付け手段をさらに含」むものであって、「前記ヒーターが設置される補助タンクのホールは、前記ウォッシャーポンプによってウォッシャー液の吸入がなされる位置より低い位置に形成される」のに対し、
引用発明は、「ヒータ45」が「前記加熱タンク212の底部に一体にされて」いるものであるが、「ヒータ45」の具体的な構成及び固定手段が特定されていない点。

【相違点3】
「ウォッシャーポンプ」に関し、
本件補正発明は、「前記補助タンクにウォッシャーポンプが繋がって」いるのに対し、
引用発明は、「前記加熱タンク212のウオツシヤ液はその側壁に設けたウオツシヤ液の流出口214から管路222を介してポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプで吸み出され」る構成であって、「加熱タンク212」に「モータポンプ」が繋がっていることが特定されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
「装着」の字義は、衣服や防具などを身につけること。付属品を本体に取りつけること。[株式会社岩波書店広辞苑第六版]であるところ、引用発明も「加熱タンク212」を「補充タンク211」に取りつけているといえるから、「加熱タンク212」が「補充タンク211」に装着されいるものということができる。
また、引用発明の「連通穴217」も、下記当審が作成した参考図(引用文献1の第2図における連通穴217が設けられる部材の周辺を拡大して模式化した図)のように、「連通穴217」の上側(補充タンク211側)のAの箇所は、「補充タンク211」の下部に形成されたホールといえるものであり、また、該「連通穴217」の下側(加熱タンク212側)のBの箇所は、「補充タンク211」のホールに繋がる注入口といえるものであるから、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。


仮に、本件補正発明の上記「装着」の概念が「補助タンク」に「リザーバ」を「別体に取り付ける」ことを意味するものであり、また、引用発明の「連通穴217」の構成がかかるホール及び注入口を有するものといえないとしても、例えば、実公昭40-15371号公報の「連結管2」による「主タンク1」と「加熱タンク3」の接続構造、並びに、実願昭59-154242号(実開昭61-70173号)のマイクロフィルムの特に第2図の「通路3」による「ウォッシャタンク1」と「サブタンク5」の接続構造に示されているように、加熱タンクに補充タンクを別体に取り付けるとともに、補充タンクの下部にホールを、加熱タンクの上部に注入口を形成することは、従来周知の技術(以下「周知技術1」という。)といえるから、引用発明と当該周知技術1に基いて、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)上記「(2)イ(イ)」で述べたように、引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「水に接して加熱を行うヒータ用正特性サーミスタ装置において、
皿状に成型されたカバー1と底板2との間に形成される空間内に2つの正特性サーミスタ素子6a,6bが収納され、底板2の表面には格子状の放熱フィン5が設けられ、
水12を入れる容器10の底面部分に開口部11が形成されていて、上記ヒータ用正特性サーミスタ装置が底部からゴム製パッキングを挟んで取り付けられていること。」

(イ)また、上記事項と各図面から次の事項が認定できる。
a 第2図を参照すると、ヒータ用正特性サーミスタ装置は、容器10内の水を加熱するために前記容器10の開口部11に取り付けられている正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2を含むこと。
b 上記認定事項a及び第3図(B)を参照すると、正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2は発熱される加熱面が容器10内の水を加熱できるように開口部11を通じて前記容器10の内側に露出するように固定されていること。
c さらに、第2図を参照すると、ヒータ用正特性サーミスタ装置は、正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2を収納するように容器10にゴム製パッキングを挟んで取り付けられる皿状に成型されたカバー1を含むこと。
d 上記認定事項b及び第1図から、正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2とカバー1を容器10に固定するための取付用の孔4a?4hを有すること。
e さらに第3図(B)を参照すると、正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2が取り付けられる容器10の開口部11は、容器10の底面部分に形成されること。

以上の認定事項から、上記事項は、以下のように整理することができる。(以下「引用文献2に記載された事項」という。)
「水に接して加熱を行うヒータ用正特性サーミスタ装置であって、
容器10内の水を加熱するために前記容器10の開口部11に取り付けられている正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2を含み、
前記正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2は発熱される加熱面が前記容器10内の水を加熱できるように前記開口部11を通じて前記容器10の内側に露出するように固定され、
ヒータ用正特性サーミスタ装置は、
前記正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2を収納するように前記容器10にゴム製パッキングを挟んで取り付けられる皿状に成型されたカバー1、及び
前記正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2とカバー1を前記容器10に固定するための取付用の孔4a?4hをさらに含み、
前記正特性サーミスタ素子6a,6b及び底板2が取り付けられる容器10の開口部11は、容器10の底面部分に形成されること。」

(ウ)引用発明と引用文献2に記載された事項とは、液体を加熱するヒータという技術分野で共通するところ、引用発明において、「ヒータ45」の具体的な構成及びその固定手段は所期の目的を達成する範囲で適宜選択し得るものであるから、引用発明に引用文献2に記載されている事項を適用する動機付けは充分存在するといえる。
そして、引用発明の「ヒータ45」に代えて引用文献2に記載されている事項の「ヒータ用正特性サーミスタ装置」を採用すると、引用発明の「ヒータ45」の構成が、
加熱タンク212内のウオツシヤ液を加熱するために前記加熱タンク212の開口部に取り付けられている正特性サーミスタ素子及び底板を含み、
前記正特性サーミスタ素子及び底板は発熱される加熱面が前記加熱タンク212内のウオツシヤ液を加熱できるように前記開口部を通じて前記加熱タンク212の内側に露出するように固定され、
ヒータ用正特性サーミスタ装置は、
前記正特性サーミスタ素子及び底板を収納するように前記加熱タンク212にゴム製パッキングを挟んで取り付けられる皿状に成型されたカバー、及び
前記正特性サーミスタ素子及び底板とカバーを前記加熱タンク212に固定するための取付用の孔をさらに含み、
前記正特性サーミスタ素子及び底板が取り付けられる加熱タンク212の開口部は、加熱タンク212の底面部分に形成される構成となる。

(エ)上記(ウ)の引用発明の「ヒータ45」の構成において、「正特性サーミスタ素子」及び「底板」を併せたものは、本件補正発明の「ヒータ」に相当し、以下同様に、「皿状に成型されたカバー1」は「保護カバー」に、「加熱タンク212の開口部」は「補助タンクのホール」に、それぞれ相当し、「取付用の孔」はボルト等の締め付け手段を用いて取り付けることは技術常識であるから、本件補正発明の「締め付け手段」といえる。
また、引用発明の「ヒータ45」に係る「前記正特性サーミスタ素子及び底板が取り付けられる加熱タンク212の開口部は、加熱タンク212の底面部分に形成される」との構成は、引用文献1の第2図に示された「ポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプ」によってウオツシヤ液の吸入がなされる位置である「流出口214」の配置からみて、「前記正特性サーミスタ素子及び底板が設置される加熱タンク212の開口部」は、該モータポンプによってウオツシヤ液の吸入がなされる位置より低い位置に形成される構成となることが明らかである。

(オ)よって、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
引用発明は、「前記加熱タンク212のウオツシヤ液はその側壁に設けたウオツシヤ液の流出口214から管路222を介してポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプで吸み出され」る構成であり、「加熱タンク212」に「ポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプ」が、「管路222」を介してだが、繋がっている構成といえるから、上記相違点3は、実質的な相違点とはいえない。
仮に、本件補正発明の「前記補助タンクにウォッシャーポンプが繋がって」との構成が、本件明細書の段落【0017】に「ウォッシャーポンプ14は補助タンク101の上部タンク102に、ヒーターアセンブリー109は補助タンク101の下部タンク103に装着される。」と記載されているように、「前記補助タンクにウォッシャーポンプが装着され」て両者が繋がるとの構成を意味するものであったとしても、かかる構成は、例えば、実願昭61-63570号(実開昭62-174963号)のマイクロフィルムの第2図の下部室6にポンプ9が装着される構成、実願昭58-17801号(実開昭59-122958号)のマイクロフィルムの第1図の「ウォッシャ液収容のタンク1」に「ウォッシャ液電動ポンプ9」が装着される構成に示されるように、従来周知の技術(以下「周知技術2」という。)であるから、引用発明の「ポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプ」の配置において、当該周知技術2を適用して、「加熱タンク212」に「ポンプ31およびモータ32で構成されるモータポンプ」を装着する構成にすることで、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術1,2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 請求人の主張について
(ア)請求人は、令和1年6月25日に提出された審判請求書の「3.」で、
「(8)本発明のリザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置は、ヒーターが設置される補助タンクのホールが、ウォッシャーポンプによってウォッシャー液の吸入がなされる位置より低い位置に形成されることによって、板状のヒーター110が、常にウォッシャー液の中にあり、そこで発熱されることで過熱を防止することができる効果を有するものであります。

(9)このような効果を有する『リザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置』について、引用文献1?3には記載も示唆もなされておりません。」
と主張するので、検討する。

(イ)検討
上記「イ(ウ)及び(エ)」で述べたように、引用発明の「ヒータ45」に代えて引用文献2に記載されている事項の「ヒータ用正特性サーミスタ装置」を採用すると、正特性サーミスタ素子及び底板は発熱される加熱面が加熱タンク212内のウオツシヤ液を加熱できるように開口部を通じて前記加熱タンク212の内側に露出するように固定されるとともに、正特性サーミスタ素子及び底板が設置される加熱タンク212の開口部は、該モータポンプによってウオツシヤ液の吸入がなされる位置より低い位置に形成される構成となるから、本件補正発明の構成と差異はない。
請求人の主張する「板状のヒーター110が、常にウォッシャー液の中にあり、そこで発熱されることで過熱を防止することができる効果」も、例えば、特開2008-237905号公報の段落【0042】に「ヒーター26が動作している状態で循環ポンプ62が動作すると、図2Aに示すように、水槽20の水が循環装置60を通って回転槽30に流入する。しかし、この場合、循環ポンプ62の駆動によって水槽20に給水された水の高さが低くなり、この水位がヒーター26の設置高さh1よりも低くなると、ヒーター26の発熱部26aは空気と接触して高温に過熱され、ヒーターの故障及び火災につながる危険性がある。」と記載されているように、ヒータが空気に接触しないこと、つまりヒータが液体にあることで過熱を防止することは技術常識であるから、当業者が予測しうる程度のものである。

カ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、又は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術1.2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年6月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成30年10月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

・引用文献1:実願昭53-168320号(実開昭55-085352号)のマイクロフ
ィルム
・引用文献2:実願昭63-033008号(実開平01-137094号)のマイクロフ
ィルム

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2、並びにその記載事項は、上記「第2[理由]2(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明から、「補助タンク」及び「補助タンクのホール」の構成ないしそれらの関係について、「前記補助タンクにウォッシャーポンプが繋がって前記補助タンクに保存されたウォッシャー液が前記ウォッシャーポンプによって吸入された後、ウォッシャーホースを通じてウォッシャーノズルへ送り出されるようにし、前記ヒーターが設置される補助タンクのホールは、前記ウォッシャーポンプによってウォッシャー液の吸入がなされる位置より低い位置に形成される」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]2(3)、(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、又は引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術1.2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、又は引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術1.2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、又は引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術1.2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-23 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-04-07 
出願番号 特願2014-263375(P2014-263375)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 康正  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
島田 信一
発明の名称 リザーバー一体型のウォッシャー液加熱装置  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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