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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47D
管理番号 1365742
審判番号 不服2020-656  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-17 
確定日 2020-09-23 
事件の表示 特願2015-174449号「育児器具の座席構造」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開、特開2017- 47058号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月4日の出願であって、平成31年3月26日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和1年10月17日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年1月17日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和2年3月3日付けで前置報告がされ、令和2年3月30日付けで審判請求人から前置報告に対する上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1?4に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特許第3304101号公報
引用文献2:実公昭56-33401号公報
引用文献3:特開2002-119347号公報
引用文献4:特開2010-94455号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1?4」という。)は、令和2年1月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
乳幼児が着座する育児器具の座席において、
乳幼児の臀部を支持するスライド部材と、前記スライド部材を下方から支持する基部と、前記スライド部材を前記基部に前後方向に変位可能かつ分離不能に連結する連結具と、前記スライド部材の前後方向移動を規制するスライド規制手段とを備え、
前記基部には、当該基部から上方へ延びて乳幼児の腰部を固定する股ベルトが設けられ、
前記スライド部材には、前記股ベルトが通される長孔であって前後方向に延びる股ベルト用長孔が形成され、
前記連結具は、前記スライド部材に形成されて前後方向に延びる長孔と、上端を大径の頭部とされ下端を小径の軸部とされて前記下端が前記基部に立設される抜け止めとを有し、前記長孔に前記抜け止めの前記軸部が通され、
前記スライド規制手段は、前記スライド部材および前記基部のうちいずれか一方に設けられる係合凸部と、前記スライド部材および前記基部のうち残る他方に設けられて前記係合凸部と係合可能な係合凹部とを有し、
前記係合凸部および前記係合凹部のうち少なくとも一方は上下方向に移動可能に前記スライド部材または前記基部に設けられ、原位置で相手部に係合可能であり、所定値よりも大きな前後方向力を受けることにより前記上下方向に移動して相手部との係合を解除されることを特徴とする、育児器具の座席構造。
【請求項2】
前記係合凸部および前記係合凹部のうちいずれか一方は、前後方向に間隔を空けて複数配置される、請求項1に記載の育児器具の座席構造。
【請求項3】
前記係合凸部および前記係合凹部のうち少なくとも一方は前記上下方向に弾性変形可能な板ばねに設けられる、請求項1または2に記載の育児器具の座席構造。
【請求項4】
前記基部の上面には前後方向に延びるレールが設けられ、前記スライド部材は前記レールの上を摺動する、請求項1?3のいずれかに記載の育児器具の座席構造。」

第4 引用文献の記載事項、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様である。)。
(1a)第1ページ第1欄第2行?第2欄第14行
「【請求項1】シート面を形成するシート面構造(3)と背凭れ(5)を有する自動車を対象とする子供用シートであって、
前記シート面構造の一部(13)は、その他の部分(8,29)に対して長さ方向に調整可能に保持することができ、
前記シート面構造の調整可能な一部(13)は、フープとして構成され、そして、前記フープは、ガイドブッシュ(11)によって案内され、移動領域内を移動可能であり、
且つ、前記シート面の領域内に固定装置(15)が設けられ、当該固定装置が、前記シート面構造(3)の調整可能な部分(13)を解除可能に保持し、
且つ、前記固定装置(15)により、前記シート面構造(3)の2つの側面部間に延設される少なくとも一つのクロスピース(10)に、前記フープ(13)が解除可能に連結されることを特徴とする自動車を対象とする子供用シート。
【請求項2】前記固定装置(15)は、その前方端部にソケット(21)を有し、当該ソケット(21)が前記固定装置(15)を前記フープ(13)に取付け、且つ、前記固定装置(15)は、その後部領域に多数のリブ(23)を有し、当該リブが前記固定装置(15)を前記クロスピース(10)に取り付けることを特徴とする請求項1に記載の子供用シート。
【請求項3】前記固定装置(15)が、前記ソケット(21)を軸受として、前記フープ(13)のまわりを旋回可能である、請求項2に記載の子供用シート。」

(1b)第2ページ第3欄第8?10行
「【請求項6】前記固定装置(15)が後部から前部に向け立ち上がる傾斜路として構成されている、請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の子供用シート。」

(1c)第2ページ第4欄第39?47行
「シート面は、シート面構造の一部を調整して、当該シート面を形成する前記シート面構造の残部分に対して、長さ方向に保持できることによって、長くしたり、あるいは、短くしたりすることが可能となっている。子供の絶え間ない成長、特に9ケ月から12才に至る子供の成長に適合している。その場合、子供はシート面の端部で快適にその脚部をぶら下げることができ、一方、脚はしっかり支えるか、またはその脚の長さに合わせて、シート面に投げ出すこともできる。」

(1d)第4ページ第7欄第48行?第8欄第30行
「第一実施例においては、子供用シートは下部構造1を備え、そして、その下部構造1によって、子供用シートが、後部座席のシート面上に支持される。シート面構造3は、この下部構造1上に設けられている。背凭れ5の支持材はこのシート面構造3の上に載っているが、下部構造1にも連設されている。シート面構造3の左右側には肘掛け7が取付けられ、この肘掛けが都合良くシート面構造3に連結されている。このシート面構造3の上側、背凭れ5の前側および肘掛け7の上と内側は、それぞれ、詰め物が施されているが、これは図面には示されていない。
シート面構造3の左右側には、それぞれ側面部8が着いており、この側面部は好ましくは金属打ち抜きの曲面部分でできている。二つの側面部8は逆鏡面構成となっており、二組のクロスピース10を介して相互連結しシート枠を形成している。二組のクロスピース10はできれば円筒状とし、突合せ状態でねじまたは溶接式に側面部8の下部分に取付けされている。接着し易くするため側面部8の下縁部は内側に曲げられ次いで上側に反り、二つのノッチを着ける。この組立時にクロスピース10があてがわれる。各側面部8の上側は前方に引かれ一部外側に曲げられて、同時に肘掛け7の支えとなっている。各側部分8の外側の下面にはチューブ9を取付けこれはU形状で屈曲し、下方の周りに突き出て肘掛け7のカバーは下方に固定される。
側面部8のやや中心下方に内側に突き出たショルダー部分を取付け、このものは縦方向に伸びている。この場合ショルダー部は側面部8の両部分8'で構成され、この部分は当初下方に、次いで直角に内方に走り更に直角に下方に再度走り、交互に側面部分8の二つの部分8"を使って部分的に形成操作を続ける。部分8'と8"とは違った経路で曲げられ、この場合には実質的に方形断面の流路を囲み、違った側に取り出される。」

(1e)第4ページ第8欄第31行?第5ページ第9欄第16行
「この流路はガイドブッシュ11に挿入され、このブッシュはできればプラスチック製とし、前部、後部および周りに開口し、その前部口にはビードを設け、ガイドブッシュ11を流路に挿入する際側面部8の前部分8'のストップ役を果たしている。下側のガイドブッシュ11には更に突起を設け、これを使って側面部8の後部8'の背後に挿入した後、ブッシュの?み込みが行なわれ、これによりブッシュは変移に対して守られる。U字形に屈曲し好ましくはアルミニウム管製のフープ13を該当脚部を使って前縁からガイドブッシュ11に挿入し、この脚部の端末はガイドブッシュ11の背後に突出させ、ラッチ突起を備えた対応するストッパーを挿入して、このガイドブッシュ11を使って再度前方への引張りを防いでいる。
好ましくは、プラスチック製の後部から前部に向け僅か立上り気味の傾斜路15は、長さ方向に鏡面対称を示す設計とする。その略中心部分の上縁側の傾斜路は後で子供の脚間に形成されるこぶ状突起を備える。傾斜路15の前縁には握り部分17を取付けこれを下方に曲げ、横方向に沿わせる。リブと平行に伸び傾斜路15の下方から下側に突きでる単一リブ19と、握り部分17の後側とでソケット21を形成させ、このソケットは実質的にU形を示し、下方に開いている。傾斜路15は、ソケット21によって、横断方向に伸びるフープ13のある部分に取付けられる。そして、フープ13のその部分は、握り部分17と単一リブ19とによって、クリップ連結の要領で、軽く把持されている。
後部にある下方側の傾斜路15には、多数の平行リブ23を取付け、この間にそれぞれ下方に開いた半円形の溝部を形成させる。傾斜路15は前部クロスピース10中の後部に取付け、このクロスピースは両側部間に沿わせ、クロスピース10が二つのリブ23間に来るようにする。この結果、傾斜路15はシート面構造3の固定部分、特に側面部8に対してフープ13を弛め保持する固定装置として役立てる。各ケースにおいて、傾斜路の配列に応じて後部クロスピース10は同様に二組のリブ23間に座るようになる。」

(1f)第5ページ第9欄第30行?第10欄第5行
「傾斜路15の前部と合体させたマット29でのシート面用の詰め物を支える。つまり側面部8とフープ13との合体によりシート面を構成させる。シート面用のカバーは、マット29の後端部の裏側で締め付けられる。例えば、後部クロスピース10上に、握り部分17上の前後を覆い、そして、細長いゴム切れによって取り替えられる。その細長いゴム切れは、最終的には、布地用接着剤によって、当該カバーの後端に再度、締め付けられている。シート面の長さを変えるには、使用者が、カバーを弛め、握り部分17を?んで傾斜路15を、ソケット21が、その旋回操作の際にフープ13に対して軸受を形成するように、フープ13を軸として、その周りに、僅かに上方に旋回させる。旋回操作は、傾斜路15の後端がマット29の下側を圧迫する状態で制限される。傾斜路15が不注意から横ラグ27によるフープの切離しから守られ、この現象はプレストレスの条件下でフープへの圧迫によるものと思われる。傾斜路15が上方に旋回操作されるにつれ、リブ23はクロスピース10から解除される。
傾斜路15が上方に旋回操作されると、フープ13はガイドブッシュ11内で移動する。シートの長さは、シート面構造3の残留部分に対する長さ方向のフープ13の位置によって決まる。希望するシート長に達すると、使用者側で再度クロスピース10が2つのリブ23の間に来るまで傾斜路15を下向きに旋回させ、ここで傾斜路15は再度後端部に保持されることになる。ここでカバーを再度ピンと張り緊締する。」

(1g)第1?3図は、以下のとおりである。
【第1図】


【第2図】


【第3図】


(2)認定事項
ア 第1?2図から、2つの側面部(8)は、ガイドブッシュ(11)を介して、フープ(13)と傾斜路(15)とを下方から支持することが看取でき、また、クロスピース(10)は、傾斜路(15)を下方から支持することが看取できる。よって、2つの側面部(8)とクロスピース(10)とを合わせたものは、フープ(13)と傾斜路(15)とを合わせたものを下方から支持するものであるといえる。

イ 第1?2図から、フープ(13)は、ガイドブッシュ(11)によって、2つの側面部(8)に前後方向に案内されることが看取できる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「特に9ケ月から12才に至る子供の成長に適合したシート面を形成するシート面構造(3)と背凭れ(5)を有する自動車を対象とする子供用シートであって、
前記シート面構造の一部(13)は、その他の部分(8,29)に対して長さ方向に調整可能に保持することができ、
前記シート面構造の調整可能な一部(13)は、フープ(13)として構成され、そして、前記フープ(13)は、ガイドブッシュ(11)によって2つの側面部(8)に前後方向に案内され、移動領域内を移動可能であり、
且つ、前記シート面の領域内に固定装置(15)が設けられ、当該固定装置(15)が、前記シート面構造(3)の調整可能な部分(13)を解除可能に保持し、
且つ、前記固定装置(15)により、前記シート面構造(3)の2つの側面部間に延設される少なくとも一つのクロスピース(10)に、前記フープ(13)が解除可能に連結され、
前記固定装置(15)は、その前方端部にソケット(21)を有し、当該ソケット(21)が前記固定装置(15)を前記フープ(13)に取付け、且つ、前記固定装置(15)は、その後部領域に多数のリブ(23)を有し、この間にそれぞれ下方に開いた半円形の溝部が形成されており、前記クロスピース(10)が二つのリブ(23)間に来るようにすることで、当該リブ(23)が前記固定装置(15)を前記クロスピース(10)に取り付け、
前記固定装置(15)が、前記ソケット(21)を軸受として、前記フープ(13)のまわりを旋回可能であり、
前記固定装置(15)が後部から前部に向け立ち上がる傾斜路(15)として構成されており、傾斜路15が上方に旋回操作されるにつれ、リブ(23)はクロスピース(10)から解除されるものであり、
前記2つの側面部(8)と前記クロスピース(10)とを合わせたものは、前記フープ(13)と前記傾斜路(15)とを合わせたものを下方から支持するものである、子供用シート。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)第1欄第31?33行
「したがつて本考案は、座席の大きさが前後に可変できるようにして着座者の体形、姿勢に最も適した車両用座席の提供を目的とするものである。」

(2b)第2欄第11?34行
「座部クツシヨン2の内部構造を詳述すれば、第3図および第4図において示したように、後部クツシヨン4は図示しないスライドレール(前後調節装置)を介して車体に固定され、内部に骨子となる断面コ字形の後部フレーム6を有し、前方両端に補助フレーム7が固設される。前部クツシヨン3は、内部に骨子となる前部フレーム5を有し、該前部フレーム5は、前部ク ツシヨン3を突出する一対のアーム5aと一体に形成してある。一対のアーム5aは、補助フレーム7を挿通して、後部フレーム6の側部6aの断面コ字形内を案内されながら摺動可能に取り付けられる。一対のアーム5aの内側には、複数の溝9を有し、該溝9は、後部フレーム6の側部6aに内設したロツク機構によつてロツクするようにされ、アーム5aの引き出しに、段階的な操作感を与えている。該ロツク機構はストツパブラケツト10の内側に切り起こし部10aを形成し、該切り起こし部10aに凸部11aを有する板ばね11を係止させた構造である。したがつて前部クツシヨン3は、アーム5aの溝9と板ばね11の凸部11aが合致した部分でロツク状態になる。アーム5aの両端部は、ブラケツト10に当たるように、内方に向かう突片8を形成し、前部クツシヨン3の引き抜けを防止している。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、着座者の体格に応じて座面の奥行き寸法を調整できる椅子に関するものである。」

(3b)「【0021】後部座板13は、可撓変形可能な薄肉の樹脂製板からなるもので、前端部13aを座板12の後端部12bに蝶番32を介して回転可能に取り付けて座本体11の後端部11b側全体を下方から支持している。この後部座板13は、裏面側に幅方向すなわち座部1のスライド移動方向と直交する方向に延びる溝131を前後に所定間隔で複数形成している。また、この複数の溝131を横切るように後部座板13の厚みを貫通して前後方向に延びる一対の長孔132を設けている。これら長孔132は、それぞれ座フレーム21の真上に位置づけられるように形成されている。しかして、座部1を座受2及び後部座受3に取り付けるに際して、座フレーム21の後端部及び後部座受3の下端部3aにはそれぞれ上方から前記長孔132を貫通するようにピンPを取り付けて、座部1のスライド移動に伴ってそれらピンPの軸部Pbに沿って長孔132が前後にスライド移動し、その際の後部座板13の浮き上がりをピンPの頭部Paで押さえ付けることによって防止するようにしている。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
(4a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子のスライダに関する。更に詳しくは、本発明は、椅子の支持部材に対し
て移動部材をスライド可能に取り付ける場合に、支持部材と移動部材のいずれか一方の部
材に設けられた長孔に挿入されて前記支持部材と前記移動部材のいずれか他方の部材に取
り付けられる椅子のスライダに関するものである。」

(4b)「【0029】
幅広部1bは、スライダ本体1aの長孔4からの突出部分に設けられている。本実施形態では、幅広部1bは第2のばね部7と同じ側面、即ち段部3aが設けられている側の側面に設けられている。幅広部1bは段部3aの上に向けて突出している。したがって、幅広部1bが設けられている部分では、スライダ1の幅は長孔4の幅よりも広くなり、長孔4を通り抜けることはできない。幅広部1bと段部3aとの間には、スライドの移動を可能にする程度の隙間が設けられている。」

5 その他の文献について
前置報告において引用された引用文献5(国際公開第2004-093608号)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(5a)第4ページ第8行?第5ページ第2行
「図1は、育児器具の一例としての乳母車を示している。図示するように、乳母車1は、車体2と、この車体2上に設けられた座席3とを備える。図示する実施形態では、座席3は、座席ハンモックによって形成されている。
座席3は、座面4と、背もたれ面5と、1対の側面6とを備える。乳母車1は、座席に着座した子供の身体を拘束するための身体拘束ベルトと、この身体拘束べルトを所定の拘束位置に固定保持する固定手段とを備える。」

(5b)第5ページ第16?26行
「図5および図6は、身体拘束ベルトの一構成要素である股ベルト20の一例を示している。この実施形態では、股ベルト20は、曲げ弾性を有する弾性プレート21と、この弾性プレート21の先端に取付けられたバックル22とを含む。例えば、弾性プレート21を板ばねで構成してもよい。弾性プレート21の一端は、座面4の下で固定点23に固定されている。
図5に示すように、股ベルト20が腰ベルトに連結されていない状態では、弾性プレート21の弾性力により、股ベルト20は、座面4の前方部分に沿って近接して位置する。
図6は、股ベルト20が腰ベルト(図示せず)に連結されている状態を示している。この状態では、弾性プレート21は、その曲げ弾性により、外側に向かって膨出した湾曲形状を呈するので、着座した子供の腹部を圧迫しない。」

(5c)FIGs.1?3、5?6は、以下のとおりである。
FIG.1


FIG.2





FIG.5


FIG.6


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 児童福祉法に、
「第二節 定義
第4条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。
一 乳児 満一歳に満たない者
二 幼児 満一歳から、小学校就学の始期に達するまでの者
三 少年 小学校就学の始期から、満十八歳に達するまでの者」
と定義されていることを踏まえると、引用発明の「特に9ケ月から12才に至る子供」は、「乳幼児」を含むといえる。

イ 本願明細書の段落【0014】に「育児器具10は車両座席用チャイルドシートであり」と記載されているから、引用発明の「自動車を対象とする子供用シート」は、本願発明1の「育児機器」に相当する。また、引用発明の「子供用シート」は、「シート面を形成するシート面構造(3)と背凭れ(5)を有する」から、着座するための座席を有することは明らかである。よって、上記アも踏まえると、引用発明の「9ケ月から12才に至る子供の成長に適合した自動車を対象とする子供用シート」は、本願発明1の「乳幼児が着座する育児器具の座席」に相当する。

ウ 引用発明の「フープ(13)」は、「ガイドブッシュ(11)によって2つの側面部(8)に前後方向に案内され、移動領域内を移動可能であ」るから、前後方向にスライド可能な部材であるといえる。また、引用発明の「固定装置(15)」も、「固定装置(15)は、その前方端部にソケット(21)を有し、当該ソケット(21)が前記固定装置(15)を前記フープ(13)に取付け」るから、「フープ(13)」とともに前後方向にスライド可能な部材であるといえる。さらに、引用発明の「固定装置(15)」は「後部から前部に向け立ち上がる傾斜路(15)として構成されて」おり、引用文献1の第5ページ第9欄第30-31行(適示(1f))に「傾斜路15の前部と合体させたマット29でのシート面用の詰め物を支える。」なる記載からみて、上記イも踏まえると、「固定装置(15)」上に乳幼児が着座することは明らかであるから、引用発明の「固定装置(15)」は「乳幼児の臀部を支持する」ものといえる。以上を総合すると、引用発明の「フープ(13)」と「固定装置(15)」とを合わせたものは、本願発明1の「乳幼児の臀部を支持するスライド部材」に相当する。

エ 引用発明の「前記2つの側面部(8)と前記クロスピース(10)とを合わせたものは、前記フープ(13)と前記傾斜路(15)とを合わせたものを下方から支持するものであ」り、ここで「傾斜路15」は「固定装置15」であって、上記ウのとおり「前記フープ(13)と前記固定装置(15)とを合わせたもの」は、「乳幼児の臀部を支持するスライド部材」であるから、引用発明の「前記2つの側面部(8)と前記クロスピース(10)とを合わせたもの」は、本願発明1の「スライド部材を下方から支持する基部」に相当する。

オ 引用発明の「ガイドブッシュ(11)」は、「フープ(13)」を「2つの側面部(8)に前後方向に案内」し、「移動領域内を移動可能」とするものであり、上記ウのとおり、引用発明の「フープ(13)」は、本願発明1の「スライド部材」を構成するものであり、上記エのとおり、引用発明の「2つの側面部(8)」は、本願発明1の「基部」を構成するものであるから、引用発明の「ガイドブッシュ(11)」は、本願発明1の「前記スライド部材を前記基部に前後方向に変位可能」「に連結する連結具」に相当する。さらに引用文献1の第4ページ第8欄第38-43行(適示(1e))に「フープ13を該当脚部を使って前縁からガイドブッシュ11に挿入し、この脚部の端末はガイドブッシュ11の背後に突出させ、ラッチ突起を備えた対応するストッパーを挿入して、このガイドブッシュ11を使って再度前方への引張りを防いでいる。」と記載されているから、「ガイドブッシュ(11)」は、「フープ(13)」を「分離不能に連結する」ものということができる。以上を総合すると、引用発明の「ガイドブッシュ(11)」は、本願発明1の「前記スライド部材を前記基部に前後方向に変位可能かつ分離不能に連結する連結具」に相当する。

カ 引用発明の「固定装置(15)」は、上記ウで述べたとおり、前後方向にスライド可能な部材であるといえる。そして、引用発明の「固定装置(15)は、その後部領域に多数のリブ(23)を有し、この間にそれぞれ下方に開いた半円形の溝部が形成されており、前記クロスピース(10)が二つのリブ(23)間に来るようにすることで、当該リブ(23)が前記固定装置(15)を前記クロスピース(10)に取り付け」るから、「それぞれ下方に開いた半円形の溝部」と「クロスピース(10)」とを合わせたものは、本願発明1の「前記スライド部材の前後方向移動を規制するスライド規制手段」に相当するといえる。

キ 引用発明の「クロスピース(10)」は、上記エで述べたとおり、本願発明1の「基部」を構成するものであり、「それぞれ下方に開いた半円形の溝部が形成され」た「二つのリブ(23)間に来るようにすることで」、「前記固定装置(15)を前記クロスピース(10)に取り付け」るものであるから、引用発明の「クロスピース(10)」は、本願発明1の「前記スライド部材および前記基部のうちいずれか一方に設けられる係合凸部」に相当し、同様に、引用発明の「それぞれ下方に開いた半円形の溝部」は、本願発明1の「前記スライド部材および前記基部のうち残る他方に設けられて前記係合凸部と係合可能な係合凹部」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があると認める。

〔一致点〕
「乳幼児が着座する育児器具の座席において、
乳幼児の臀部を支持するスライド部材と、前記スライド部材を下方から支持する基部と、前記スライド部材を前記基部に前後方向に変位可能かつ分離不能に連結する連結具と、前記スライド部材の前後方向移動を規制するスライド規制手段とを備え、
前記スライド規制手段は、前記スライド部材および前記基部のうちいずれか一方に設けられる係合凸部と、前記スライド部材および前記基部のうち残る他方に設けられて前記係合凸部と係合可能な係合凹部とを有する、育児器具の座席構造。」

〔相違点〕
〔相違点1〕
本願発明1は、「前記基部には、当該基部から上方へ延びて乳幼児の腰部を固定する股ベルトが設けられ、前記スライド部材には、前記股ベルトが通される長孔であって前後方向に延びる股ベルト用長孔が形成され」ているのに対し、引用発明は、そのような事項を有していない点。
〔相違点2〕
連結具に関し、本願発明1は、「前記スライド部材に形成されて前後方向に延びる長孔と、上端を大径の頭部とされ下端を小径の軸部とされて前記下端が前記基部に立設される抜け止めとを有し、前記長孔に前記抜け止めの前記軸部が通され」ているのに対し、引用発明は「ガイドブッシュ(11)」である点。
〔相違点3〕
係合凸部及び係合凹部に関し、本願発明1は、「前記係合凸部および前記係合凹部のうち少なくとも一方は上下方向に移動可能に前記スライド部材または前記基部に設けられ、原位置で相手部に係合可能であり、所定値よりも大きな前後方向力を受けることにより前記上下方向に移動して相手部との係合を解除される」ものであるのに対し、引用発明は、そのような事項を有していない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
ア 上記相違点1に係る本願発明1の構成(特に、「スライド部材には、前記股ベルトが通される長孔であって前後方向に延びる股ベルト用長孔が形成され」ているという構成(以下「事項A」ともいう。)は、引用文献2?4のいずれにも記載も示唆もされていない(摘示(2a)?(4b)参照。)。

イ そして、本願明細書の段落【0020】記載のとおり、本願発明1は、事項Aを備えることにより、「これら操作子39および股ベルト(図示せず)は、長孔27,28に通されることから、スライド部材17の前後方向のスライド移動を阻害」することなく、「乳幼児の腰部を固定する。」という効果が奏されるものと理解できる。

ウ したがって、引用発明に、引用文献2?4に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点1に係る本願発明1の構成には至らず、上記の効果も得られないから、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ ここで、前置報告において、引用文献5(記載事項は、上記「第4 5」を参照)が引用されているので、これについても念のため検討する。

オ 引用文献5には、「股ベルト20は、曲げ弾性を有する弾性プレート21と、この弾性プレート21の先端に取付けられたバックル22とを含む。」、「弾性プレート21の一端は、座面4の下で固定点23に固定されている。」と記載され(適示(5b))、また、FiGs.5-6からは、座面4には、股ベルト20が通される孔が形成されていることが看取できる。
しかしながら、引用文献5の第5ページ第21?26行に「図5に示すように、股ベルト20が腰ベルトに連結されていない状態では、弾性プレート21の弾性力により、股ベルト20は、座面4の前方部分に沿って近接して位置する。図6は、股ベルト20が腰ベルト(図示せず)に連結されている状態を示している。この状態では、弾性プレート21は、その曲げ弾性により、外側に向かって膨出した湾曲形状を呈するので、着座した子供の腹部を圧迫しない。」と記載されているとおり(適示(5b))、上記FiGs.5-6は、股ベルト20の弾性プレート21が前後方向に湾曲形状を呈するまでの様子を示したものであるから、「股ベルト20が通される孔」の大きさも、「弾性プレート21」の前後方向の曲げを許容する程度の大きさに過ぎないものと考えるのが自然である。さらに、引用文献5記載の「座面4」は、「弾性プレート21」の「固定点23」に対して、スライド可能なものではなく、FIGs.1-3をみても、「座面4」に「股ベルト20」を通すための「前後方向に延びる」「長孔」は図示されていない。
よって、引用文献5に記載された「股ベルト20が通される孔」は、相違点1に係る本願発明1の「スライド部材」に形成された「股ベルトが通される長孔であって前後方向に延びる股ベルト用長孔」を記載ないし示唆するものではない。
そうすると、引用発明に引用文献5に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点1に係る本願発明1の構成にはならない。

カ したがって、本願発明1は、相違点2?3を検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、引用文献5を加味しても、本願発明1は、相違点2?3を検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定して発明を特定するものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、引用文献5を加味しても、本願発明2?4は、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
令和2年1月17日付けの手続補正により、本願発明1?4は、「スライド部材には、前記股ベルトが通される長孔であって前後方向に延びる股ベルト用長孔が形成され」という事項を有するものとなっており、上記第5で述べたとおり、拒絶査定において引用された引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-01 
出願番号 特願2015-174449(P2015-174449)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 佐々木 一浩
出口 昌哉
発明の名称 育児器具の座席構造  
代理人 特許業務法人アイミー国際特許事務所  

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