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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1365852
審判番号 不服2018-7352  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-30 
確定日 2020-09-09 
事件の表示 特願2016- 48029「モード分割多重伝送のために設計された多重LPモードファイバ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日出願公開、特開2016-128936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成25年9月5日(パリ条約による優先権主張2013年3月15日、米国、2012年9月5日、米国)に出願した特願2013-184174号の一部を平成28年3月11日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである(以下、2012年9月5日を、「本件優先日」という。)。
平成29年 2月27日付け:拒絶理由通知書
平成29年 8月22日 :意見書の提出
平成30月 1月25日付け:拒絶査定
平成30年 5月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 元年 5月30日付け:拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書により通知した拒絶の理由を、「当審拒絶理由」という。)
令和 元年12月 4日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本件発明
本件出願の請求項1、2に係る発明は、令和元年12月4日付けの手続補正書により補正(以下、当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりのものである。

「光ファイバであって、
1つのコアと前記コアを囲む1つのクラッドとを備え、
前記コアとクラッドが、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の搬送信号モードの伝搬をサポートするように構築された屈折率プロファイルを有し、
前記コアがαコアからなり、
前記クラッドは、前記コアに境を接する又は隣接するダウン・ドープされたトレンチと前記トレンチに境を接するドープされていないクラッド領域とを備え、
前記コアとクラッドは、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の固定されたモードの伝搬をサポートするよう構成され、それら複数の固定されたモード上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化され、
損失の多い固定されたモードをもたらすよう前記クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモードを前記好ましくないモードが含むよう、前記コアと前記コアを囲む前記クラッドとが構成され、
最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモードと最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モードとの間での屈折率間隔は、その間で前記信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大きく、
前記クラッドが前記コアと前記トレンチの間にレッジを備え、
前記屈折率プロファイルが、
切り取られたコア半径:5?20μm
レッジ:1?5μm
トレンチ:1?10μm
を有する、ことを特徴とする光ファイバ。」

第3 当審拒絶理由の概要
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項4に対応するものであるところ、本件補正前の請求項4に対する当審拒絶理由は、概略以下のとおりである。

「●理由2(明確性)
本件出願は、請求項4の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


1 請求項4の記載における「前記コアとクラッドは、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の固定されたモードの伝搬をサポートするよう構成され、それら複数の固定されたモード上へそれぞれ複数の独立したデータ流が致命的なクロストークなしに空間的に多重化され」との記載からでは、「独立したデータ流」の「クロストーク」がどの程度であれば、「致命的なクロストークなし」といえるのか一義的に理解できない。また、技術的には、「致命的なクロストーク」となるかどうかは、MIMO処理の能力やデータ流の方式・構成等にも依存する。そのため、当該記載によって、コアとクラッド、あるいは光ファイバとしてどのような構成が特定されるのか不明である。仮に、本件明細書の【0089】の記載に基づき、「致命的なクロストークなし」とは、「信号が情報にならないほど劣化」しないことを意味するとしたとしても、「信号」が「情報にならないほど劣化」するとは、どの程度の劣化であるのか一義的に理解できず同様である。
よって、請求項4に係る発明は明確でない。

2 請求項4の記載における「損失の多い固定されたモード又は前記外側クラッド領域に漏れる漏洩モードをもたらすよう前記クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモードを前記好ましくないモードが含むよう、前記コアと取り囲むクラッドが構成され」との記載からは、(1)「好ましくないモード」には、「前記クラッドの屈折率に近い」「損失の多い固定されたモード」が必ず含まれているのか、それとも(2)「好ましくないモード」に、「損失の多い固定されたモード」が含まれていてもいなくてもよいのか、そのどちらの意味であるのか理解できず不明である。
よって、請求項4に係る発明は明確でない。

3 請求項4の「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモードと最も高い実効屈折率を有する前記好ましくないモードとの間での屈折率間隔は、その間での結合を実質的に防ぐように十分大きく」との記載からでは、「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモード」と「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モード」との間での「結合」がどの程度のときに、「結合」が「実質的」に防がれることとなるのか一義的に理解することができない。そのため、「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモード」と「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モード」との間の「屈折率」間隔がどの程度であれば「十分大きい」ということができるのかも一義的に理解することができない。
また、技術的には、モード間の結合は、実効屈折率だけでなく、伝送路における曲げや途中の接続点にも依存するものである。
その結果、当該記載からでは、コアとクラッド、あるいは光ファイバとしてどのような構成が特定されるのか不明である。
よって、請求項4に係る発明は明確でない。

●理由3(進歩性)
本件出願の請求項4に係る発明は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の引用例に記載された発明、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・引用例1を主引用例とする場合
・引用例1?8

・引用例2を主引用例とする場合
・引用例2及び引用例1、3?8

(引用例等一覧)
引用例1:L. Gruner-Nielsen et. al., "Few Mode Transmission Fiber with low DGD, low Mode Coupling and Low Loss",OFC/NFOEC POSTDEADLINE PAPERS, March 4-8, 2012, PDP5A.1
引用例2:Hirokazu Kubota et.al.,"Intermodal group velocity dispersion of few-mode fiber", IEICE Electronics Express, 2010年10月25日, Vol.7, No.20, p.1552-1556
引用例3:Roland Ryf et. al.,"Mode-Division Multiplexing Over 96 km of Few-Mode Fiber Using Coherent 6x 6 MIMO Processing", JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.30, No.4, February 15, 2012, p.521-531
引用例4:武笠 和則 他,”3モード多重伝送用ファイバの最適化に関する検討”、2011年電子情報通信学会ソサイエティ大会、2011年8月30日、B-10-23、236頁
引用例5:特開2011-170353号公報
引用例6:米国特許出願公開第2011/0194827号明細書
引用例7:特開2011-8248号公報
引用例8:特開2010-72647号公報」

第4 当審拒絶理由の「●理由2(明確性)」についての判断
1 「●理由2(明確性)」「1」及び「3」について
(1) 本件補正後の請求項1の記載における「前記コアとクラッドは、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の固定されたモードの伝搬をサポートするよう構成され、それら複数の固定されたモード上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化され」(当合議体注:下線は、本件補正により補正された箇所を示す。以下(2)、(3)及び2においても同様。)との記載からでは、「信号」の「情報にならないほど」の「劣化」が一義的に理解できない。また、「独立したデータ流」の「クロストーク」が、どの程度であれば、「信号を情報にならないほど劣化させる」ことがないといえるのか一義的に理解できない。
モード間のクロストークが存在するマルチモード(FMFを含む)光ファイバを用いた光通信の技術分野においては、モード結合した各モードの(各)チャンネルの光信号は受信局において、MIMO(多入力多出力)処理において復元されるものであるところ、「信号が情報にならないほど劣化」するとは、MIMO処理を用いても各モードの(各)チャンネルの光信号として復元することができないことを意味するとして考えたとしても、「独立したデータ流」の「クロストーク」が、どの程度であれば「信号を情報にならないほど劣化させる」ことがないといえるのか一義的に理解できない。
例えば、MIMO処理によるモード結合した光信号の復元は、MIMO処理回路の複雑性及び消費電力をどのような規模とするかの設定により制限される。そして、当該MIMO処理回路の複雑性、消費電力がどのような規模とするかは、クロストークがどの程度の大きさであるのか、モード間の群遅延差がどの程度の大きさであるのか、モード間の減衰差がどの程度の大きさとなるのか、あるいは、実際に使用するモードの数、種類、使用するデータ流の方式(通信方式)等に大きく依存して決められる。さらに、クロストーク、モード間の群遅延差、モード間の減衰差などの程度・大きさは、光ファイバ伝送路の長さ(例えば、10kmであるのか、100kmであるのか、それとも1000kmであるのか等)にも依存する。加えて、クロストークの大きさは、さらに光ファイバ伝送路中の接続点の数、光ファイバ伝送路に加わる曲げ、圧力などにも依存する。そうしてみると、「信号が情報とならないほど」「劣化」するかどうかは、上述したようなMIMO処理能力の設定自体や光ファイバ伝送路の長さ、接続点の数などの多数の条件に依存することとなる。したがって、「信号を情報にならないほど劣化させる」ことがない「クロストーク」とは、どの程度の「クロストーク」であるのか一義的に理解できない。
また、その結果、当該「前記コアとクラッドは、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の固定されたモードの伝搬をサポートするよう構成され、それら複数の固定されたモード上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化され」との記載によって、コアとクラッド、あるいは光ファイバとしてどのような構成が特定されるのか不明である。

(2) 本件補正後の請求項1の記載における「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモードと最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モードとの間での屈折率間隔は、その間で前記信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大きく」との記載からでは、「信号」の「情報にならないほど」の「劣化」が一義的に理解できない。また、「最も低い実効屈折率を有する」「所望する固定されたモード」と「最も高い実効屈折率を有する」「好ましくない漏洩モード」との間での「屈折率間隔」が、どの程度であれば、「信号を情報にならないほど劣化させる」「その間で」の「結合」を「防ぐように十分大き」いということができるのか一義的に理解できない。
仮に、上記(1)で述べたように、「信号が情報にならないほど劣化」するとは、MIMO処理を用いても各モードのチャンネルの光信号として復元することができないことを意味するとして考えたとしても、「最も低い実効屈折率を有する」「所望する固定されたモード」と「最も高い実効屈折率を有する」「好ましくない漏洩モード」との間での「屈折率間隔」が、どの程度であれば、「信号を情報にならないほど劣化させる」「その間で」の「結合」を「防ぐように十分大き」いということができるのか一義的に理解できない。
例えば、上記(1)で述べたとおり、「信号が情報とならないほど」「劣化」するかどうかは、上述したようなMIMO処理能力の設定自体や光ファイバ伝送路の長さ、接続点の数などの多数の条件に依存することとなる。そうすると、「信号を情報にならないほど劣化させる」「結合」を「防ぐ」ことができる「最も低い実効屈折率を有する」「所望する固定されたモード」と「最も高い実効屈折率を有する」「好ましくない漏洩モード」との間での「屈折率間隔」とは、どの程度の「屈折率間隔」であるのか一義的に理解できない。
また、その結果、当該「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモードと最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モードとの間での屈折率間隔は、その間で前記信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大きく」との記載によって、コアとクラッド、あるいは光ファイバとしてどのような構成が特定されるのか不明である。

(3) 請求人は、令和元年12月4日提出の意見書の「3.意見の内容」「(理由2)」において、「(1)補正前の請求項4における『致命的なクロストーク』が不明であるとの指摘を受けました。補正後の請求項1における『致命的なクロストーク』及び『致命的な結合』をそれぞれ『信号を情報にならないほど劣化させるクロストーク』及び『前記信号を情報にならないほど劣化させる結合』と明確化しました。」旨主張しているが、当該『信号を情報にならないほど劣化させるクロストーク』及び『前記信号を情報にならないほど劣化させる結合』との記載が依然として不明確であることは、上記(1)及び(2)において述べたとおりである。

(4) 以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は明確でない。

2 「●理由2(明確性)」「2」について
(1) 本件補正後の請求項1において、本件補正前の「損失の多い固定されたモード又は前記外側クラッド領域に漏れる漏洩モードをもたらすよう前記クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモードを前記好ましくないモードが含むよう、前記コアと取り囲むクラッドが構成され」との記載が、「損失の多い固定されたモードをもたらすよう前記クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモードを前記好ましくないモードが含むよう、前記コアと前記コアを囲む前記クラッドとが構成され」との記載に補正された。
しかしながら、技術的には、「損失の多い固定されたモード」であって、「クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモード」は、コアに束縛(bound)され、閉じ込められてガイドされるモードであるものの、その実効屈折率がクラッドの屈折率に近いその直上に位置し、マイクロベンド等により簡単に減衰してしまう「損失の多いモード(lossy mode)」(実効的にカットオフ(effective cutoff)されてしまうモードとも呼ばれる。)を意味すると理解される。また、「クラッドの屈折率」「以下である」「実効屈折率を有するモード」は、コアに束縛(bound)されない(固定されない)、ガイドされないクラッドモードであって、「漏洩モード(leaky mode)」を意味すると理解される(当合議体注:これらの2つのモード及びその差違については、本件出願の明細書の段落【0006】の「クラッド屈折率より上のモードは固定されたモードであり、クラッドより下のモードは漏洩モード(leaky mode)である。」、「SSMFは通常、クラッド屈折率の真上に技術的には固定されているものの損失の多いモードがあるように設計され、そのモードは高損失によって効果的に削除されると考えられている。」、「同様の原理は、クラッドのない構造のステップインデックスあるいはグレーデッドインデックスFMFにも適用でき、最適化された設計は図1で破線として示されたクラッド屈折率の真上にモードを持つ。」、「構築されたクラッドの事例では、損失の多いモードはクラッド屈折率の下に落ち漏洩モードとなるかもしれない。」との記載(特に、下線部参照。)や、図1に示された、クラッド屈折率の直上に位置する伝搬定数「β_(lossy)」、クラッド屈折率より下に位置する(「漏洩モード」に対応する)伝搬定数「β_(laeky)」との記載からも理解される。)
そうすると、「損失の多い固定されたモード」(「クラッドの屈折率に近い」「実効屈折率を有する」「固定されたモード」)と、「クラッドの屈折率」「以下である」「実効屈折率を有するモード」とは、クラッド屈折率に対する位置に対してその実効屈折率が(直)上にあるか、下にあるのかという点において、言い換えると、束縛(bound)・固定されているか否かの点において、異なるモードである。
してみると、本件補正後の「損失の多い固定されたモードをもたらすよう前記クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモードを前記好ましくないモードが含むよう、前記コアと前記コアを囲む前記クラッドとが構成され」との記載によっても、[A]「好ましくないモード」に、「損失の多い固定されたモード」(「クラッドの屈折率に近い」「実効屈折率を有する」「固定されたモード」)が必ず含まれる(ファイバ設計である)のか、あるいは、[B]「好ましくないモード」に、「損失の多い固定されたモード」が含まれていてもいなくても(そのどちらのファイバ設計であっても)よいのか、そのどちらの意味であるのか依然として理解できず不明である(当合議体注:技術的にみて、実効屈折率がクラッドの屈折率よりも低い高次のクラッドモード(漏洩モード)は通常存在すると考えられる。)。

(2) 加えて、本件補正により、「又は前記外側クラッド領域に漏れる漏洩モード」との記載が削除された結果、請求項1の記載における後出の「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモードと最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モードとの間での屈折率間隔は、その間で前記信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大きく」との記載における「(最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない)漏洩モード」に対応する記載が存在しないものとなった。そうすると、この「漏洩モード」が何を指すのか不明である。
また、(請求人が令和元年12月4日提出の意見書において主張するとおり、)「好ましくないモード」が「損失の多い固定されたモード」を含むと考えた場合、この「損失の多い固定されたモード」が「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない」「モード」となるから、「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モード」との記載と矛盾することとなる。そうすると、請求項1の記載は明確でない。

(3) 請求人は、令和元年12月4日提出の意見書の「3.意見の内容」「(理由2)」において、「(2)・・・略・・・これに対して、補正後の請求項1では『又は前記外側クラッド領域に漏れる漏洩モード』を削除して、『好ましくないモード』が『損失の多い固定されたモード』を含むことを明確にしました。」旨主張しているが、補正後の請求項1の記載からでは、上記の[A]、あるいは、[B]のどちらの意味であるのか依然として不明であることは、上記(2)において述べたとおりである。

(4) 以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は明確でない。

3 小括
以上のとおり、本件発明は明確でないから、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない。

第5 当審拒絶理由の「●理由3(進歩性) 引用例1を主引用例とする場合」についての判断

上記「第4」2(1)のとおり、本件補正後の請求項1の記載からでは、「好ましくないモード」に、どのようなモードが含まれる(光ファイバ設計である)のか明確でなく、また、上記「第4」2(2)のとおり、「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モード」が、「クラッドの屈折率」「以下である」「実効屈折率を有するモード」であるのか、それとも、「損失の多い固定されたモード」をも指しているのか判然としないが、以下の「3 判断」においては、「好ましくないモード」には、「クラッドの屈折率に近い」「実効屈折率を有する」「損失の多い固定されたモード」と「クラッドの屈折率以下の実効屈折率を有するモード」(「漏洩モード」)が含まれる場合と、「好ましくないモード」には、「損失の多い固定されたモード」が含まれず、「クラッドの屈折率以下の実効屈折率を有するモード」(「漏洩モード」)が含まれる場合の2つに分けて検討を行った。また、前者の場合(「損失の多い固定されたモード」が含まれている場合)には、「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない」「漏洩モード」との記載を、「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない」「損失の多い固定されたモード」の記載と理解して検討を行い、後者の場合においては、「最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない」「漏洩モード」は、「クラッドの屈折率以下の実効屈折率を有するモード」を意味すると理解して検討を行った。

1 引用例に記載された事項及び引用発明
(1) 引用例1
当審拒絶理由で引用され、本件優先日前に、日本国内または外国において頒布された刊行物である、L. Gruner-Nielsen et. al., "Few Mode Transmission Fiber with low DGD, low Mode Coupling and Low Loss", OFC/NFOEC POSTDEADLINE PAPERS, March 4-8, 2012, PDP5A.1(以下、同じく「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付与した。以下、同様。)。

ア 「Few Mode Transmission Fiber with low DGD, low Mode Coupling and low Loss
・・・略・・・
Abstract: A transmission fiber for mode division multiplexing supporting LP_(01 )and LP_(11) modes, with low differential group delay, low mode coupling and low loss for both modes is presented. S^(2) imaging is used for characterization.」
(日本語訳)
「低DGD、低モード結合、低損失なフューモード伝送ファイバ
・・・略・・・
抄録:LP_(01)とLP_(11)モードを支持するモード分割多重のための伝送ファイバであって、両モードに対して低群遅延差、低モードカップリングを持つ伝送ファイバが提示される。S^(2)イメージングは特徴付けのために用いられる。」

イ 「1.Introduction
Mode division multiplexed transmission in few mode fibers has recently attracted considerable attention as a means of increasing the transmission capacity of a single fiber[1,2,3]. The few mode transmission fiber is obviously a key component. The key requirements for the fiber are similar to that of single mode transmission fibers: low attenuation, low nonlinearity (i.e. a high effective area) and a high dispersion coefficient. In addition, the few-mode fiber should support a specific number of well guided modes, have low differential group delay (DGD), and low coupling between the modes. The fiber should also be able to splice to itself with low splice loss for all guided modes and low cross coupling between the modes. Low DGD is essential for the multiple input, multiple output (MIMO) processing to reduce the complexity and power consumption of the MIMO processing. Mode coupling between the modes in the transmission fiber can in principle be compensated by the MIMO processing, however mode coupling will still give a transmission penalty. Therefore low mode coupling is advantageous.
Most reported few mode transmission fibers [1,4,5] have been simple step index fibers, and suffered from high DGD [4,5], and high mode coupling [4]. In this paper we present results from a new fiber design using a more advanced index profile based on a graded index core and an outer trench supporting the LP_(01) and LP_(11) modes, corresponding to six degenerations. The new fiber will be shown to have low DGD, low mode coupling, low loss for both modes as well as good splice performance. The new fiber can also be fabricated with both negative and positive, DGD and by combining fibers with opposite sign for the DGD, the total accumulated DGD can be minimized.」
(日本語訳)
「1 導入
フューモードファイバにおけるモード分割多重伝送は、一本のファイバの伝送容量を上げる手段として近年かなりの注目をひいている。フューモード伝送ファイバは明らかに鍵を握る部品である。ファイバに対する鍵となる要求は、単一モードファイバ伝送と同様、低減衰、低非線形性(例えば、高い有効領域)、そして高い分散係数である。加えて、フューモードファイバは、良ガイドモードの特定の数をサポートしなければならず、低群遅延差(DGD)、そしてモード間の低結合を持たなければいけない。ファイバは、モード間の低クロス結合と、全てのガイドされたモードに対して低スプライス(接続)損失で自分自身にスプライス(接続)することもできなければいけない。低DGDは、多入力多出力(MIMO)プロセスがMIMOプロセッシングの複雑さ及び電力消費を減らすためには本質的なものである。伝送ファイバにおけるモード間のモード結合は、原理的には、MIMOプロセッシングにより補償することができる。しかし、モード結合はいまだなお伝送ペナルティを与えるであろう。それゆえ低モード結合は有益である。
報告された殆どのフューモード伝送ファイバ[1,4,5]は、単純なステップインデックスファイバであり、そして、高DGD[4,5]と、高モード結合[4]に苦しむ。この論文においては、我々は、6重の縮退に対応するLP_(01)とLP_(11)を支持するグレイデッドインデックスコアと外側の溝に基づく、より先進的な屈折率分布を使用する新しいファイバ設計からの結果を示す。新しいファイバは、良好なスプライスパフォーマンスと同様に、両モードに対して、低DGD、低モード結合、低損失を持つことが示される。新しいファイバは、正の、あるいは負のDGDの両方を持つように製造されることができ、DGDが異なる符号のファイバを結合することにより、全蓄積DGDが最小化できる。」

ウ 「2. Design
An illustration of the refractive index profile design is shown in Figure 1.

Figure 1. Illustration of the refractive index profile.
The refractive index profile consists of a graded index core to obtain the same group velocity for the two modes plus a relatively large difference in effective index between the modes. The large effective index difference minimizes distributed mode coupling. The inner cladding is configured to improve the bend loss performance of especially LP_(11), so that differential mode attenuation is low. The fiber is designed to only guide LP_(01) and LP_(11) above 1300 nm.」

(日本語訳)
「2 設計
屈折率プロファイルの設計図が図1に示される。
(図1省略)
図1 屈折率プロファイルの図
(当合議体注:上記の図1の屈折率プロファイルの設計図において、「refractive index」及び「radius」は、それぞれ「屈折率」及び「半径」を意味する。)
屈折率プロファイルは、モード間の実効屈折率の比較的大きな差に加えて、2モードに対して同じ群速度を得る、グレイデッドインデックスコアから成る。大きな実効屈折率差は、分布モード結合を最小化する。内側クラッドは、特にLP_(11)の曲げ損失パフォーマンス、その結果、モード損失差を改良するように構成される。ファイバは、1300nm以上においてLP_(01)とLP_(11)のみをガイドするように設計される。」

エ 「3. Results
A preform with index profile as shown in Figure 1 has been made with the MCVD technique and drawn into fiber. Typical measurement results are summarized in Table 1.
Table 1. Typical properties at 1550 nm fabricated fiber. Red italic values are calculated from index profile. Black non-italic values are measurements.

The properties of the LP_(01) mode were measured with single mode fibers spliced to the ends. From S^(2) measurement(see next paragraph) it was found that such a splice to SMF gives better than -30dB suppression of LP_(11). Dispersion was measured using an EG&G CD400. Mode field diameter and effective area were measured using a Photon Kinetics PK2210 with a variable aperture unit. Attenuation was measured using two-way OTDR and PMD was measured using the interferometric technique. For the OTDR measurement of LP_(11) attenuation the light was launched into the fiber via an in-fiber long period grating mode converter, which had better than -20 dB suppression of LP_(01) in the wavelength range of the OTDR. Table1 also includes values calculated from the index profile measured on the preform and scaled to the fiber. The properties are found by solving the scalar wave equation with a finite element mode solver. Good agreement is found between calculated and measured DGD, dispersion and effective area of LP_(01). This gives good confidence in the values for dispersion and effective areas of LP_(11 )which was not measured.
The mode coupling as well as the DGD between LP_(01) and LP_(11) has been measured using the S^(2)technique. The S^(2) technique is based on spectrally and spatially resolving the interference pattern between the guided modes on the output of the fiber. By Fourier transforming the spectra for each spatial point the mode beat amplitude versus DGD is found [6]. Here a set up based on a tunable laser on the input and a camera on the output is used [4]. The tunable laser can be tuned in steps of 0.001 nm, which at 1550 nm allows for a maximum DGD of 4000 ps to be measured. Figure 2 shows the sum of Fourier transforms for all spatial point for a S^(2) measurement on the spool of Table 1 from 1550 to 1551 nm in 0.001 nm steps. In figure 2 is also shown spatial images obtained from the Fourier transform for some selected DGD.

Figure 2. Mode beat versus DGD for 30 km fiber.
A clear peak at a DGD of 2270 ps is observed, which is due to beating with LP_(11 )launched at the splice. The relative power is found to be -31 dB. The plateau between DGD of 0 and 2270 ps is due to distributed mode coupling and by integrating over this plateau a distributed mode coupling of -25 dB is found.
To further investigate the potential of the new fiber a 70 km span was built. Three spools from a different part of the preform than the spool of Table 1 were used. These spools differ from the spool of table 1 by having different values of DGD. Total DGD and distributed mode coupling measured by the S^(2) set up for the three new spools are shown in Table 2. The sign of the DGD cannot be measured with S^(2) but is determined from simulations from the refractive index profile.
Table 2. Properties fibers for span.


Before splicing the span together the splice performance of the fiber to itself was investigated on short pieces. Typical splice loss and mode couplings (measured with S^(2) technique) when launching into the LP_(01) mode was 0.01 dB and -28 dB, and when launching into the LP_(11) mode: 0.02 dB and -35 dB respectively. Total insersion loss for the 70 km span was measured to 14.4 dB for LP_(01 )and 13.9 dB for LP_(11) at 1530 nm.



Figure 3 a: Mode beat versus DGD for 70 km span, b+c: Mode image at 1530 nm of LP_(01) (b) and LP_(11) (c) respectively after transmission through a 70 km span.
Measured mode beat versus DGD from S^(2 )measurement after splicing the spool together is shown in Figure 3a. The measurement is performed for two launch conditions: 1. the light is launched into the span from an SMF via normal splice and 2. via a splice where the SMF is offset relative to the two mode fiber to get more light into the LP_(11 )mode. No beat signal is observed for DGD larger than 1850 ps, corresponding to max accumulated DGD with same sign. For the offset launch a peak around 420 ps is observed, corresponding to a discrete mode coupling of -24 dB, larger than the peak at 1800 ps, which corresponds to a discrete mode coupling of -31 dB, independent of the launch condition. The 420 ps peak corresponds well with total accumulated DGD of the three spools. The distributed mode coupling between 0 and 1800 ps is calculated to -20 dB. The low mode coupling is confirmed by the stable mode images on the output of the 70 km span when launching light into either LP_(01) or LP_(11 )as shown in Figure 3b+c.」

(日本語訳)
「3 結果
図1に示されたような屈折率プロファイルを有するプリフォームがMCVD技術により製造されて、ファイバに線引きされた。典型的な測定が、テーブル1に要約されている。
テーブル1 1550nmに対して製造されたファイバの典型的な特性、赤いイタリック体の数値は、屈折率プロファイルから計算される。黒い非イタリック体の値は測定値である。



(当合議体注:「テーブル1」における数値は、赤あるいは黒のカラー表示となっていない。上部が右に傾いた「イタリック体の数値は、屈折率プロファイルから計算され」た値であり、「非イタリック体の数値は測定値である」。)
LP_(01)モードの特性は、端部に単一モードファイバを接続して計測された。S^(2)測定(次のパラグラフを参照)から、そのようなSMFへの接続は、LP_(11)モードの-30dBよりもよい抑制を与えることが分かる。分散は、EG&G CD400を用いて測定された。モードフィールド直径と有効領域は、可変のアパーチャユニットとともにPhoton Kinetics PK2210を用いて測定された。減衰は両方向OTDRを用いて測定され、PMDは干渉法技術を用いて測定された。LP_(11)減衰のOTDR測定に対して、光はファイバにファイバ内長周期グレーティングモード変換器、それはOTDRの波長範囲においてLP_(01)の-20dBよりよい抑制を持つ、を経由して入射された。テーブル1は、また、プリフォームで図られ、ファイバにスケールされた、屈折率プロファイルから計算された値も含んでいる。特性は、有限要素モードソルバーを用いてスカラー波方程式を解くことにより分かる。DGD、分散、LP_(01)の有効領域の計算値及び測定値との間の良好な一致が見られた。このことは、測定されていないLP_(11)の分散、有効領域に対する値においてよい信頼性を与える。
LP_(01)とLP_(11)との間のDGDと同様にモード結合は、S^(2)技術を用いて測定された。S^(2)技術は、干渉パターンをファイバの出力上のガイドされたモード間で周波数的に、空間的に分解することに基づく。各点のスペクトルをフーリエ変換するにより、DGDに対するモードうなり振幅が分かる[6]。ここで、入力における可変レーザと出力におけるカメラの1つのセットアップが用いられる[4]。可変レーザは、0.001nmのステップで、同調され、それは、1550nmにおいて、4000psの最大DGDが測定されることを許可する。図2は、0.001nmのステップで、1550から1551nmからの、テーブル1のスプロールに対するS^(2)測定に対する全空間点のフーリエ変換の和を示す。図2においては、いくつかの選択されたDGDに対するフーリエ変換から得られた空間像も示される。
(図2省略)
図2 30kmのファイバに対する モードビート対DGD
2770psのDGDの明らかなピークが観察される、それは、接続点において入射されたLP_(11)とのうなりによるものである。相対的なパワーは、-31dBであると分かる。0と2270psのDGDの間の高原は、分布モード結合によるものであり、この高原にわたって積分することにより、-25dBの分布モード結合であると分かる。
さらに、新しいファイバの可能性を調べるために、70km長さが造られた。テーブル1のスプロールとは異なるプリフォーム部分からの3つのスプロールが用いられた。これらのスプロールは、異なるDGDの値を持つことによりテーブル1のスプロールとは異なる。3つの新しいスプロールに対するS^(2)セットアップにより測定された全DGDと分布モード結合はテーブル2に示されている。DGDの符号は、S^(2)技術では測定できなかったが、屈折率分布プロファイルからのシミュレーションにより決定される。
テーブル2 ファイバスパンの特性
(テーブル2省略)
スパンを一緒にスプライスする前に、ファイバのスプライスパフォーマンス自体が短いピースに対して調べられた。LP_(01)モードに入射された時の典型的なスプライス損失とモード結合(S^(2)技術を用いて測定された)は、それぞれ0.01dBと-28dBであり、LP_(11)モードに入射された時の、それぞれ0.02dBと-35dBであった。70kmスパンに対する全挿入損失は、1530nmで、LP_(01)に対して14.4dB、LP_(11)に対して14.9dBと測定された。
(図3省略)
図3 a:70kmスパンに対するDGD対モードうなり、b+c:それぞれ70kmスパンを通しての伝送後の1530nmのLP_(01)(b)とLP_(11)(c)のモードイメージ
スプロールを一緒にスプライスした後のS^(2)測定から測定されたDGD対モードうなりが図3aに示される。2つの入射条件、1:光が、通常のスプライスを経由してSMFからスパンに入射される、2:LP_(11)モードにより多くの光が入るように、2モードファイバに対してSMFがズラされているスプライスを経由する、により測定は行われた。1850ps以上のDGDに対してビート信号は観察されない、そして、同じ符号の最大の蓄積DGDに対応する。オフセット入射に対しては、420psあたりのピークが観察される、これは、-24dBの別個のモード結合に対応し、入射条件に依存しない、-31dBの別のモード結合に対応する1800psのピークよりも大きい。420psのピークは、良く対応する、3つのスプロールの全蓄積DGDによく対応する。0?1800ps間の分布モード結合は-20dBと計算される。低モード結合は、図3bとcに示される、光をLP_(01)あるいはLP_(11)へ入射した時の70kmスパンの出力の安定したモードイメージにより確かめられる。」

オ 「4. Conclusion
A new two mode transmission fiber supporting LP_(01) and LP_(11) with attenuation for both modes below 0.20 dB/km, DGD below 0.1 ps/m, distributed mode coupling for a 30 km spool below -25 dB, and good splice performance to itself for both modes has been reported.
For spans composed of spools with DGD of opposite sign the DGD from discrete mode couplings at the input accumulates linearly including sign. The distributed mode coupling scales approximately linearly with the length.
The measurement on a 70 km span with the S^(2 )technique represents more than a factor of 100 increase in fiber length previously characterized with S^(2).」
(日本語訳)
「4 結論
両モードに対する減衰が0.20dB/km以下、0.1ps以下のDGD、30kmスプールに対して-25dB以下の分布モード結合、そして、両モードそれ自身に対するよいスプライスパフォーマンスを持った、LP_(01)とLP_(11)を支持する新しい2モード伝送ファイバが報告された。
異なる符号のDGDを持つスプールから構成されたスパンに対して、入力における別個のモードカップリングからのDGDが、符号を含めて線形に蓄積する。
S^(2)技術を使用した70kmスパンの測定は、S^(2)を用いて前に特徴づけられたファイバ長において、100倍のファクター以上の増加を示す。」

(2) 引用発明
ア 引用例1は、「低DGD、低モード結合、低損失なフューモード伝送ファイバ」に係るものである。
ここで、「DGD」は、「differential group delay」(「群遅延差」)の略号である。
また、引用例1の「テーブル1」の「LP_(01)のPMD」における「PMD」は、「偏波モード分散」の略号である。

イ 上記(1)エの「Table 1」の「DGD between LP_(11) and LP_(01)」欄の「Unit」「ps/m」からみて、上記(1)オの「両モードに対する減衰が0.20dB/km以下、0.1ps以下のDGD、30kmスプールに対して-25dB以下の分布モード結合、そして、両モードそれ自身に対するよいスプライスパフォーマンスを持った、LP_(01)とLP_(11)を支持する新しい2モード伝送ファイバ」との記載における「DGD」の上限値を示す「0.1ps」における「単位」は、正しくは「ps/m」であると理解できる。

ウ 以上より、引用例1には、図1に示されるような「屈折率プロファイルの設計図」を持ち、「1550nmに対して製造されたファイバの典型的な特性」が「テーブル1」に示された、「低DGD、低モード結合、低損失なフューモード伝送ファイバ」の発明として、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「6重の縮退に対応するLP_(01)とLP_(11)を支持するグレイデッドインデックスコアと外側の溝に基づく、より先進的な屈折率分布を使用する新しいファイバ設計の、低DGD(群遅延差)、低モード結合、低損失なフューモード伝送ファイバであって、
良好なスプライスパフォーマンスと同様に、LP_(01)とLP_(11)の両モードに対して、低DGD(群遅延差)、低モード結合、低損失を持ち、
屈折率プロファイルの設計図は下記に示されるものであり、


上記の屈折率プロファイルの設計図において、「refractive index」及び「radius」は、それぞれ「屈折率」及び「半径」を意味し、
屈折率プロファイルは、モード間の実効屈折率の比較的大きな差に加えて、LP_(01)とLP_(11)の2モードに対して同じ群速度を得る、グレイデッドインデックスコアから成り、
大きな実効屈折率差は、分布モード結合を最小化し、
内側クラッドは、LP_(11)の曲げ損失パフォーマンスを、その結果、モード損失差を改良するように構成され、
ファイバは、1300nm以上においてLP_(01)とLP_(11)のみをガイドするように設計され、
上記設計図の屈折率プロファイルを有するプリフォームがMCVD技術により製造されて、ファイバに線引きされ、
1550nmに対して製造されたファイバの典型的な特性は、
スプール長は30000m(測定値)、LP_(01)からLP_(11)への分布モード結合は-25dB(測定値)、LP_(01)とLP_(11)間のDGD(群遅延差)は-0.076ps/m(測定値)/-0.081ps/m(計算値)、LP_(01)の分散は20.0ps/(nm・km)(測定値)/19.8ps/(nm・km)(計算値)、LP_(01)の分散スロープは0.065ps/(nm^(2)・km)(測定値)/0.067ps/(nm^(2)・km)(計算値)、LP_(01)の有効領域は97μm^(2)(測定値)/95μm^(2)(計算値)、LP_(11)の分散は20.0ps/(nm・km)(計算値)、LP_(11)の分散スロープは0.065ps/(nm^(2)・km)(計算値)、LP_(11)の有効領域は96μm^(2)(計算値)、OTDRによるLP_(01)の減衰は0.198dB/km(測定値)、OTDRによるLP_(11)の減衰は0.191dB/km(測定値)、LP_(01)のPMD(偏波モード分散)は0.022ps/√km(測定値)であり、
LP_(01)とLP_(11)の両モードに対する減衰が0.20dB/km以下、0.1ps/m以下のDGD(群遅延差)、30kmスプールに対して-25dB以下の分布モード結合、そして、両モードそれ自身に対するよいスプライスパフォーマンスを持った、LP_(01)とLP_(11)を支持する新しい2モード伝送ファイバである、
低DGD(群遅延差)、低モード結合、低損失なフューモード伝送ファイバ。」

2 対比
本件発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
ア 「αコア」、「クラッド」、「レッジ」、「トレンチ」、「クラッド領域」
(ア)引用発明は、「LP_(01)とLP_(11)を支持するグレイデッドインデックスコアと外側の溝に基づく、より先進的な屈折率分布を使用する新しいファイバ設計の」「フューモード伝送ファイバ」であって、「良好なスプライスパフォーマンスと同様に、LP_(01)とLP_(11)の両モードに対して、低DGD(群遅延差)、低モード結合、低損失を持」つものである。
また、引用発明は、「屈折率プロファイル」が「グレイデッドインデックスコアから成り」、「内側クラッドは、LP_(11)の曲げ損失パフォーマンス」、「モード損失差を改良するように構成され」、「1300nm以上においてLP_(01)とLP_(11)のみをガイドするように設計され」、「プリフォームがMCVD技術により製造されて、ファイバに線引きされ」たものである。

(イ) 上記(ア)で挙げた引用発明の「フューモード伝送ファイバ」の「屈折率プロファイル」構成やその設計思想、及び引用発明の「屈折率プロファイルの設計図」から、引用発明は、その中心から半径方向外側に向かって順に、「グレイデッドインデックスコア」、「内側クラッド」、「外側の溝」(以下、単に「溝」という。)、「溝」よりも「外側」の「クラッド」領域(以下、「外側クラッド」という。)を備えることが把握できる。
また、引用発明の「屈折率プロファイルの設計図」から、引用発明の「グレイデッドインデックスコア」の屈折率が、最も外側において、「内側クラッド」の屈折率まで急激に低下するものとなっていることが把握できる。

(ウ) 「グレイデッドインデックスコア」の屈折率は、パラメータ「α」を用いて、中心からの距離rにおける屈折率をn、コア中心の屈折率をn_(1)、コアの半径をr_(0)、クラッドの屈折率をn_(2)、比屈折率差をΔ(=(n_(1)^(2)-n_(2)^(2))/2n_(1)^(2))とすると、n=n_(1){1-2Δ(r/r_(0))^(α)}^(1/2)(0≦r≦r_(0))と表されることは技術常識である。
そうすると、上記(イ)より、引用発明の「グレイデッドインデックスコア」は、本件発明の「コア」及び「αコア」に相当する。
また、引用発明は、本件発明の「前記コアはαコアからなり」との要件を具備する。

(エ) 上記(イ)で挙げた位置関係より、引用発明の「グレイデッドインデックスコア」の外側の、「内側クラッド」、「溝」及び「外側クラッド」は、全体として、本件発明の「1つのクラッド」に対応させることができる。また、引用発明の「内側クラッド」、「溝」及び「外側クラッド」は、全体として、本件発明の「1つのクラッド」の「前記コアを囲む」との要件を具備する。
また、上記(イ)で挙げた位置関係からみて、引用発明においては、「グレイデッドインデックスコア」と、「溝」とが、「内側クラッド」を介して隣接しているということができる。また、引用発明においては、「溝」と「外側クラッド」とが接しているということができる。さらに、引用発明は、「グレイデッドインデックスコア」と「溝」の間に「内側クラッド」を備えているということができる。
上記(ア)で挙げた「内側クラッド」及び「溝」の機能からみて、引用発明の「内側クラッド」、「溝」及び「外側クラッド」は、それぞれ本件発明の「レッジ」、「トレンチ」及び「クラッド領域」に相当する。
また、引用発明の「溝」と、本件発明の「トレンチ」は、「前記コアに」「隣接する」との要件を具備する点で共通する。また、引用発明の「外側クラッド」と、本件発明の「クラッド領域」は、「前記トレンチに境を接する」との要件を具備する点において共通する。
そうしてみると、引用発明と、本件発明は、「前記クラッドは、前記コアに」「隣接する」「トレンチと前記トレンチに境を接する」「クラッド領域とを備え」との要件を具備する点において共通する。
さらに、引用発明は、本件発明の「前記クラッドが前記コアと前記トレンチの間にレッジを備え」との要件を具備する。

イ 「モード」、「屈折率プロファイル」
上記ア(ア)で挙げた引用発明の構成より、引用発明の「屈折率プロファイル」は、「1300nm以上においてLP_(01)とLP_(11)のみをガイドするように設計され」たものである。
そうすると、引用発明の「屈折率プロファイル」においては、「ガイド」されるモードである「LP_(01)」及び「LP_(11)」より高次のモード(以下、単に「高次モード」という。)を「ガイド」しないように設計されているということができる。
また、引用発明の「フューモード伝送ファイバ」において、「ガイド」されるモードである「LP_(01)」及び「LP_(11)」は、「フューモード伝送」の際、情報をのせる搬送信号(carrier signal)のためのものであることは明らかなことである。
そうしてみると、引用発明の「ガイド」される「LP_(01)」あるいは「LP_(11)」は、本件発明の「搬送信号モード」及び「固定されたモード」に相当する。また、引用発明の「ガイド」される「LP_(01)」及び「LP_(11)」は、本件発明の「所望する複数の搬送信号モード」及び「所望する複数の固定されたモード」に相当する。
一方、引用発明の「高次モード」は、本件発明の「好ましくないモード」に相当する。
そうすると、引用発明の「屈折率プロファイル」は、本件発明の「屈折率プロファイル」に相当し、引用発明の「屈折率プロファイル」は、本件発明の「屈折率プロファイル」の「好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の搬送信号モードの伝搬をサポートするように構築された」との要件を具備する。
また、上記アより、引用発明は、本件発明の「1つのコアと前記コアを囲む1つのクラッドとを備え」、「前記コアとクラッドが、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の搬送信号モードの伝搬をサポートするように構築された屈折率プロファイルを有し」との要件を具備する。さらに、引用発明は、本件発明の「前記コアとクラッドは、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の固定されたモードの伝搬をサポートするよう構成され」との要件を具備する。

ウ 「光ファイバ」
上記アとイより、引用発明の「フューモード伝送ファイバ」は、本件発明の「光ファイバ」に相当する。

エ 以上の他比結果を踏まえると、本件発明と、引用発明は、
「光ファイバであって、
1つのコアと前記コアを囲む1つのクラッドとを備え、
前記コアとクラッドが、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の搬送信号モードの伝搬をサポートするように構築された屈折率プロファイルを有し、
前記コアがαコアからなり、
前記クラッドは、前記コアに境を接する又は隣接するトレンチと前記トレンチに境を接するクラッド領域とを備え、
前記コアとクラッドは、好ましくないモードを抑制するとともに所望する複数の固定されたモードの伝搬をサポートするよう構成され、
前記クラッドが前記コアと前記トレンチの間にレッジを備える、
光ファイバ。」である点において一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1-1)
本件発明においては、「それら複数の固定されたモード上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化され」、「損失の多い固定されたモードをもたらすよう前記クラッドの屈折率に近い又はそれ以下であるそれぞれの実効屈折率を有するモードを前記好ましくないモードが含むよう、前記コアと前記コアを囲む前記クラッドとが構成され」、「最も低い実効屈折率を有する前記所望する固定されたモードと最も高い実効屈折率を有する前記好ましくない漏洩モードとの間での屈折率間隔は、その間で前記信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大き」いのに対して
引用発明においては、そのような構成となっているのか不明な点。

(相違点1-2)
本件発明においては、「トレンチ」が、「ダウン・ドープされた」ものであり、「クラッド領域」が「ドープされていない」ものであり、「前記屈折率プロファイルが」、「切り取られたコア半径:5?20μm」、「レッジ:1?5μm」、「トレンチ:1?10μm」「を有する」ものであるのに対して、
引用発明は、そのような構成となっているのか不明な点。

3 判断
事案に鑑み、相違点1-1と相違点1-2とをまとめて検討する。
ア 引用発明の30kmのスプール長のフューモード伝送ファイバは、LP_(01)とLP_(11)の2モードのみをガイドするものであるところ、(大きな実効屈折率差によって、)両モード間の結合は-25dB程度に小さく、DGDも「0.1ps/m」以下(測定値「-0.076ps/m」)と小さく、群遅延差(時間)が30kmのスプール長に対して、「3ns」以下(測定値「-0.076ps/m」によれば「2.28ns」)であり、また、モード損失差も0.007dB/kmと小さいものである。
3ns程度の群遅延差(時間)であれば、モード結合した光信号をMIMO処理にて復元することは可能である。そうすると、上記の低モード結合、低DGD、低モード損失(差)を有する引用発明のフューモード伝送ファイバの2モードを利用して伝送される信号をMIMO処理にて復元することは可能であるということができる。あるいは、引用例1の上記1(1)エの記載によれば、スプライス特性も優れる引用発明にDGDの符号が異なる適切な長さのフューモード伝送ファイバを組み合わせることにより、トータルの低モード結合、低モード損失(差)を維持したまま、トータルのDGD及び群遅延差(時間)を更に小さくすることができることが理解できる。
そうすると、引用発明においては、LP_(01)とLP_(11)の固定された2モード上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化される、ということができる。
(当合議体注:3ns程度の群遅延差(時間)を持つモード結合した光信号をMIMO処理するにて復元することができることについては、例えば、引用例2の1553頁「1 Introduction」欄の12?20行の、MIMO処理における複雑さを低減する「周波数領域等化(FDE)」を用いた「デジタル信号プロセッサ(DSP)」が±10nsの遅延を補償可能と仮定し、40km伝送を目標とするとすれば、群遅延差(ΔT)は±0.25ns/km(±0.25ps/m)より小さければよいとの記載を参照。あるいは、下記の参考文献1の495頁「I. INTRODUCTION」欄の10?18行の、FMF(Few-mode fibers)はMIMO処理を必要とし、復元の複雑さを低減するためにDMGD(differential mode group delay)の最小化が要求されているところ、Cバンドにおける50?80ps/km(0.050?0.080ps/m)程度のDMGDでは伝送距離が約100kmまでに制限されるとの記載を参照。あるいは、下記の参考文献2の2頁の「 4. Channel Estimation」欄の下から4行?最下行、あるいは「 5. Transmission results」の1?2行目の、MIMO処理においてDGDを10ns内とするとの記載を参照。)

イ また、引用発明の屈折率プロファイルは、波長1300nm以上において、LP_(01)とLP_(11)のみをガイドするように設計されるものであるから、使用しない不要な高次モードの実効屈折率をクラッドの屈折率以下として、当該高次モードが束縛(固定されない)、ガイドされない漏洩モードとなるよう設計することは、当業者が当然考慮する技術的事項である。
また、使用しない不要な高次モードの実効屈折率とLP_(11)の実効屈折率の差を大きくして、ガイドされるLP_(11)と漏洩モードの高次モードとの結合を実質的に防ぐように設計することも、当該結合によるLP_(11)の損失やLP_(01)とLP_(11)とのモード損失差に着目する当業者が考慮する技術的事項である。
(当合議体注:例えば、引用例2の1555頁の下から7行?下から4行には、LP_(31)等のクラッドモード(使用しないモードのうちでモード次数が低いもの)とLP_(02)、LP_(21)等のガイドモード(使用するモードのうちのモード次数が高いもの)とのモード変換が、長距離伝送の際の伝送損失となること、そのようなモード変換による伝送損失を避けるためには、モード間の大きな伝播定数(実効屈折率)の差が必要であることが記載されている。また、引用例3の523頁の右欄15?20行には、ガイドモードと「leaky mode」(漏洩モード)との結合がガイドモードからのパワー損失の原因となること、そのような結合の強さが、モード伝播定数の差Δβのべき乗により、Δβ-p(p≧4)で近似されることが記載され、引用例4の左欄には、伝播させたい3モード(LP_(01),LP_(11),LP_(21))の実効屈折率をなるべく大きくしながら、LeakyとしたいLP_(02)モードの実効屈折率をクラッドレベルよりも小さくすること、伝播モード(LP_(21))とLeakyモード(LP_(02))との実効屈折率の差をつけるためにトレンチの深さ(Δ2)が重要なファクターとなることが記載されている。)

ウ あるいは、不要な高次モードの理論的な遮断規格化周波数以上の近傍の領域(つまり、不要な高次モードの実効屈折率をクラッド屈折率の上の近傍の屈折率とする)の動作として、曲げによる大きな損失を利用してガイドモードである高次モードを実効的にカットオフ(遮断)するとともに、基本(低次)モードの実効屈折率を大きくして、閉じ込めを強くして低損失としたり、コア径(ガイドモードの有効領域)を大きくして、接続を容易とする等設計の自由度・制御を高めることができることは、当業者の技術常識である(当合議体注:実効的なカットオフ(遮断)(effective cutoff)については、例えば、下記の参考文献3?5等を参照。参考文献3の2頁右上欄9?13行、3頁左上欄14行?右上欄16行、4頁右上欄12行を参照。参考文献4の1058頁右欄8行?1059頁左欄21行、1062頁左欄下から17行?最下行、1062頁右欄最下行?1063頁左欄2行を参照。参考文献5の35頁左上欄「INTRODUCTION」欄や38頁右欄1?4行を参照。)であるところ、ガイドするLP_(01)、LP_(11)両モードの低伝送損失及び低モード損失差や接続の容易さが望まれる引用発明において、ガイドするLP_(11)の次の次数のLP_(21)(あるいはLP_(02))等の高次モードの実効屈折率を、クラッドの屈折率の直上の(クラッドの屈折率に近い)ものとして、実効的にカットオフ(遮断)される、損失の多い固定されたモードとなるよう設計することは当業者が考慮する技術的事項である。より高次のモードについては、上記イと同様である。
また、上記イの後段で述べたとおり、使用しない不要な高次モードの実効屈折率とLP_(11)の実効屈折率の差を大きくして、ガイドされるLP_(11)と高次モードとの結合を実質的に防ぐように設計することも、当該結合によるLP_(11)の損失やLP_(01)とLP_(11)とのモード損失差に着目する当業者が考慮する技術的事項である。

エ 当業者であれば、引用発明において、LP_(01)とLP_(11)の両モードに対する減衰が0.20dB/km以下、DGDが0.1ps/m以下(すなわち、群遅延差(時間)が30kmで3ns程度)、分布モード結合が-25dB以下であり、LP_(01)とLP_(11)の両モードのモード損失差が小さい(0.007dB/km)設計の屈折率プロファイルの具体化、改良を試みるところ、引用発明は、グレイデッドインデックスコアと外側の溝に基づいて、ガイドするLP_(01)とLP_(11)の2モードに対して、分布モード結合を最小化するようにモード間の実効屈折率の比較的大きな差とするとともに、同じ群速度とすること、内側クラッドにより、LP_(11)の曲げ損失及びモード損失差を改良することを設計思想とするものである。
そして、引用発明の屈折率プロファイルの具体化、改良にあたって、グレイデッドインデックスコアの「α」、コア中心の屈折率「n_(1)」、コアの半径「r_(0)」、比屈折率差「Δ」、及び「グレイデッドインデックスコア」の屈折率を「内側クラッド」の屈折率まで急激に低下させる半径位置(切り取られたコア半径)、「内側クラッド」の幅、「溝」の幅、深さをパラメータとして設計できることは引用文献1に接した当業者にとって明らかことである。加えて、引用発明において、「外側クラッド」をドープされていない領域(ピュアシリカ)とすること、「溝」をダウン・ドープされた領域とすることは、当業者が最初に考える基本的な構成である。
そうしてみると、引用発明の屈折率プロファイルの具体化や改良、及び、ウで示した屈折率プロファイルの設計に係る技術的事項を考慮する当業者が、引用発明において、[A]それら複数の固定されたモード(LP_(01)、LP_(11))上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化され、[B1]クラッドの屈折率に近い実効屈折率を有する「損失の多い固定されたモード」とクラッドの屈折率以下の実効屈折率を有する「漏洩モード」を「好ましくないモード」が含むよう、コアとコアを囲むクラッドとが構成され、[C1]最も低い実効屈折率を有する所望する固定されたモード(LP_(11))と最も高い実効屈折率を有する好ましくない「損失の多い固定されたモード」との間での屈折率間隔が、その間で信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大きいものとする構成とする(この場合、「所望する固定されたモード」と「漏洩モード」との間の屈折率の間隔も十分大きいものとなる。)とともに、上記[A]、[B1]及び[C1]の構成が得られるよう、引用例2や引用例5?8等に記載されたマルチモードファイバ(MMF)においてモード(数)の制御、伝播定数(実効屈折率)の制御、群速度・DGDの制御及び曲げ損失の制御等のために用いられている、あるいは好ましいとされている、αコアのα値、Δ、コア半径、コアエッジの変形位置(切断位置)、レッジの幅、トレンチの幅及び深さ等の各種パラメータの数値(範囲)に基づき、[D]トレンチ(溝)がダウン・ドープされたものであり、クラッド領域がドープされていないものであり、屈折率プロファイルが、切り取られたコア半径を5?20μm、レッジ(「内側クラッド」)の幅を1?5μm、トレンチ(「溝」)の幅を1?10μmの範囲となる設計とすることは容易になし得たことである。
(当合議体注:マルチモードファイバ(MMF)においてモード(数)の制御、伝播定数(実効屈折率)の制御、群速度・DGDの制御及び曲げ損失の制御等のために用いられている、あるいは好ましいとされている、αコアのα値、Δ、コア半径、コアエッジの変形位置(切断位置)、レッジの幅、トレンチの幅及び深さ等の各パラメータの数値・範囲については、引用例2や引用例5?8等を参照。例えば、引用例2の1555頁8?21行及び図3には、FMFのパラボリック(α=2)なGI型プロファイルにおいて、LP_(01)?LP_(02)の4つモード間のδT(DGD)を±0.25ns以下とできる範囲として、0.4?0.8%のΔの範囲及び11?16μmのa(αコア半径)の範囲が記載されている。引用例5には、GI型コアを有するMMFについて、【0017】に、コアエッジから溝までの距離を5μm、1.5μmとすること、【0019】【表1】に、コアの直径を30μm、40μmとすること、コアエッジから溝までの距離を1.5μm、1.3μmとすること、図11に示されたようにコアエッジを変形させたGI型コアを有するMMFの第二の実施例について、【0023】【表3】に、コアエッジからの溝の開始位置(レッジの幅)を3.5μm、2.6μmとすること、【0026】に、αを1.9?2.2とすること、コアのエッジの位置をr_(0)、αコアのコア半径をr_(core)として、r_(0)をr_(core)-0.5?r_(core)-2.0(あるいは、r_(0)を0.92r_(core)から0.98r_(core))とすることが記載されている。また、引用例5の図2からは、5μ程度の幅の溝が把握される。引用例6の請求項15、20、22には、図4に示された切り取られたコアを有するGI型のMMFについて、コアの半径を12?34μmとすること、内側クラッド領域の幅を0.5?12μmとすること、[0044]には、溝の幅を2μm以上とすることが記載されている。引用例7には、溝の幅を0.5?2μmとすることが記載されている。引用例8の【0043】【表8】には、GI型コアを有するMMFについて、例VIIとして、αコアと溝との間を5μm、溝の幅を10μmとすることが記載されている。また、引用発明のFMFの切断されたαコアの直径の設計値を、通常のSMFの直径(?10μm)と通常のGI型MMFのコア直径(?50μm程度)の間の値とすることは、当業者にとって自明なことである。)
あるいは、引用発明の屈折率プロファイルの具体化や改良、及び、イで示した屈折率プロファイルの設計に係る技術的事項を考慮する当業者が、引用発明において、[A]それら複数の固定されたモード(LP_(01)、LP_(11))上へそれぞれ複数の独立したデータ流が信号を情報にならないほど劣化させるクロストークなしに空間的に多重化され、[B2]クラッドの屈折率以下の実効屈折率を有する「漏洩モード」を「好ましくないモード」が含むよう、コアとコアを囲むクラッドとが構成され、[C2]最も低い実効屈折率を有する所望する固定されたモード(LP_(11))と最も高い実効屈折率を有する好ましくない「漏洩モード」との間での屈折率間隔は、その間で信号を情報にならないほど劣化させる結合を防ぐように十分大きいものとする構成とするとともに、上記[A]、[B2]及び[C2]の構成が得られるよう、上記[D]の屈折率プロファイル設計とすることは容易になし得たことである。

オ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点1-1及び相違点1-2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(参考文献一覧)
参考文献1:Ming-Li et. al., "Low Delay and Large Effective Area Few-Mode Fibers for Mode-Division Multiplexing" , 2012 17^(th )Opto-Electronics and Communications Conference (OECC 2012) Technical Digest, July 2-6, 2012, 5C3-2
参考文献2:S. Randel et. al., "Mode-Multiplexed 6×20-GBd QPSK Transmission over 1200-km DGD-Compensated Few-Mode Fiber", OFC/NFOEC POSTDEADLINE PAPERS, March 4-8, 2012, PDP5C.5
参考文献3:特開昭57-37304号公報
参考文献4:KEN-ICHI KITAYAMA et. al., "Structural Optimization for Two-Mode Fiber: Theory and Experiment", IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL.QE-17, No.6, JUNE 1981, p.1057-1063
参考文献5:YASUYUKI KATO et. al., "Effective Cutoff Wavelength of the LP_(11) Mode in Single-Mode Fiber Cables", IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL.QE-17, No.1, JANUARY 1981, p.35-39

カ 本件発明の効果について
(ア) 本件出願の明細書には、本件発明の「発明の効果」として明示された記載はないものの、本件出願の明細書の【背景技術】【0002】欄における「モード分割多重伝送のための多重モード光ファイバにおける先行研究は、最適化された2つのLPモードファイバ(3つの空間的モードを持つ)に関するステップインデックスおよびグレーテッドインデックス(GRIN)ファイバの設計に向けられていた。」、「我々はさらに、クラッドにシェルフとトレンチを包含し、4つのLPモード(6つの空間的モードを持つ)をサポートするように最適化された、1%のコア相対デルタを持つGRINファイバの設計を公開する。」との記載、【発明が解決しようとする課題】【0003】の 「我々はここで、伝送にとって望ましい特性を持つ、より低いコア相対デルタ(0.8%近く)のGRINファイバを設計した。これら低デルタファイバは、減少されたレイリー散乱に起因する、より低い減衰損失を持つであろうし、性能を向上させるには望ましい。」、「空間分割多重伝送(SDM)をサポートするために設計されたファイバにおける近年の研究が報告されている。この研究は、一般に、コア間で弱結合を持つ複数コアを含むファイバか、あるいは少数モードの伝搬をサポートする単一コアを持つファイバのどちらかに向けられている。」との記載が、本件発明の効果に関係するものとして理解可能である。

(イ) しかしながら、引用発明は、LP_(01)、LP_(11)の2つのモードをサポートする、グレイデッドコア及びシェルフ(レッジ)とトレンチを有するクラッドからなる単一コアのFMF(及びその設計)を開示している。
また、引用例2(1555頁15?18行、図3等)には、4つのLPモードをサポートする放物線GI型コアを有するFMFの設計として、Δ=0.8%、コア半径11μm?Δ=0.4%、コア半径16μmの領域において、4つのモードに対して±0.25ns/km以下のDGDが得られることが開示されており、引用例2のモード数及びΔ、コア半径等に係る開示を参考に、引用発明において、4モードをサポートする(クラッドにシェルフとトレンチを有する)屈折率プロファイル設計を行うことは、引用発明の改良、応用を考える当業者にとって容易なことである。さらに、低Δの設計により、レイリー散乱が減少すること、レイリー散乱に起因する損失が低下することは、当業者の技術常識である。
してみると、上記(ア)で挙げた本件発明の効果に係る事項は、FMFに係る引用例1、2等の記載に接した当業者にとって自明な、あるいは予測可能なものであって、格別のものではない。

キ 請求人の主張について
請求人は、令和1年12月4日提出の意見書において、「3.意見の内容」「(理由3)」において、「補正後の請求項1には『前記屈折率プロファイルが、切り取られたコア半径:5?20μm、レッジ:1?5μm、トレンチ:1?10μmを有する』との数値限定が記載されています。審判官殿はこの数値限定が引用文献1乃至8には開示が無いことを認めていますが、この数値限定を当業者に自明な設計事項と判断しています。しかしながら、この数値限定は自明な設計事項ではありません。その理由について以下に説明します。」、「(2)本願で開示の数値限定の意義 本願が少なくとも8の実施例(例えば、図12,図16、図18、図20、図22、図24、図26及び図28参照)を開示すると共に、それぞれの性能の測定結果(例えば、DGD(微分群遅延))を開示することは重要な点です。8の実施例のうちで、請求項1の技術的範囲に属するのは4の実施例(即ち、図12,図16、図18、図20に記載の実施例)だけです。他の実施例(即ち、図22、図24、図26及び図28に記載の実施例)は請求項1の技術的範囲に属しません。重要なことは、微分群遅延についての厳密な検査の結果が、ファイバの構成要素の寸法の僅かな違いによっても微分群遅延の性能に顕著な違いを生じさせることを示しているということです。例えば、図20(請求項1に記載の数値限定範囲に属する)と図22(レッジ:0.9μmであるために、請求項1に記載の数値限定範囲外となる)とを比較すると、図20及び図22に示された2つのファイバの性能が顕著に相違することが明らかです。」、「例えば、請求項1に記載の数値限定範囲に属するファイバ(図20)のLP21-LP01の微分群遅延が波長1.46-1.61μm間でピークを生じます。反対に、請求項1に記載の数値限定範囲外となるファイバ(図22)のLP21-LP01の微分群遅延が同じ波長範囲で直線的に増加しています。」、「更に、請求項1に記載の数値限定範囲に属するファイバ(図20)のLP02-LP01の微分群遅延が同じ波長範囲で減少します。反対に、請求項1に記載の数値限定範囲外となるファイバ(図22)のLP02-LP01の微分群遅延が同じ波長範囲で増加しています。換言すると、請求項1に記載の数値限定範囲に属するファイバ(図20)が、請求項1に記載の数値限定範囲外となるファイバ(図22)とは真逆の特性を示します。この顕著な違いは、図20のファイバと図22のファイバとの間における構成要素の寸法についての僅かな違いに起因します。」、「他の実施例(例えば、図12,図16、図18、図24、図26及び図28参照)は更に、ファイバの種々の構成要素の寸法の僅かな違いがどのように微分群遅延の性能に影響するのかを実証しています。換言すると、微分群遅延の特性の違いは、自明でもなければ、単なる設計事項上の選択事項でも決してありません。逆に、微分群遅延の特性の違いは、ファイバの機能を左右して、ファイバの性能に影響を与えます。」、「(3)引用文献の教示には無いもの及びその重要性 引用文献1の著者であるL. Gruner-Nielsenは、本発明の発明者の一人でもあります。従って、本発明者は、本発明と引用文献1との違い、即ち、本発明が上記特別な数値限定範囲を構成要件とするのに対して、引用文献1がそのような数値限定範囲を記載していないという点を認識しています。」、「本出願人は引用文献1乃至8のいずれも請求項1に記載された「前記屈折率プロファイルが、切り取られたコア半径:5?20μm、レッジ:1?5μm、トレンチ:1?10μmを有する」との数値限定を開示していないとする審判官殿の認定に同意します。しかしながら、この数値限定が自明な設計事項であるとする審判官殿の判断には承服しかねます。」、「以上、申し述べましたように、ファイバの構成要素の寸法の僅かな違いによってもファイバの微分群遅延の性能に顕著な違いを生じさせます。このように、引用文献1に記載の屈折率プロファイルの設計が請求項1に記載された屈折率プロファイルと類似しているとしても、請求項1に記載された「前記屈折率プロファイルが、切り取られたコア半径:5?20μm、レッジ:1?5μm、トレンチ:1?10μmを有する」との数値限定が、その数値限定を何ら開示していない引用文献1乃至8から容易に想到することはできません。例えば、上記の図20及び図22に示す実施例のように、レッジの寸法が僅か0.5μm以下の違いがあるだけで、微分群遅延の性能について真逆の効果を示すからです。」、「上記のようなファイバの構成要素の寸法とファイバ性能との関係の複雑性が増加するのは、ファイバの多数の構成要素の寸法を変化させた場合です(例えば、面取りされたコア寸法変化させ、かつ、トレンチ寸法を変化させることによって、レッジ寸法を変化させた場合)です。換言すると、ファイバの多数の構成要素の寸法の組合せが、ファイバの微分群遅延の性能に更なる影響を及ぼし、従って、どの程度の影響を及ぼすのか、当業者には単純には予測がつきません。従いまして、請求項1に記載の本発明は、引用文献1乃至8とは構成が異なり、容易に想到する事は出来ません。」旨主張している。
しかしながら、引用発明のフューモード伝送ファイバは、1300nm以上においてLP_(01)とLP_(11)のみをガイドするように設計されたものであるところ、波長に応じてモード間のDGDが異なることは技術常識であり、1550nm帯での波長多重伝送を行う場合、当該波長帯域にわたって低いDGDが得られる設計することは当業者が当然に考慮することである(当合議体注:例えば、引用例3の523頁の図3には、LP_(01)とLP_(11)との間のDGDに波長依存性があることが示され、523頁の右欄4?7行には、1530?1565nmの波長範囲にわたって2.6ns±0.1nsの範囲内のDGDが観察されることが記載されている。あるいは、FMFを用いた伝送技術の開発に関わる当業者であれば、参考文献1のモード分割多重のための低遅延、大有効領域のFMFの内容についても当然熟知しているところ、参考文献1には、DGDの波長依存性を考慮したGI型のFMFの設計を行うことが記載されている。)。
そして、引用発明のフューモード伝送ファイバの屈折率プロファイルの具体化、改良を試みる当業者にとって、ガイドするLP_(01)及びLP_(11)の2モードの大きな実効屈折率差、-25dB程度の低い分布モード結合、0.20dB/km以下の低伝送損失及び0.007dB/km程度の低いモード損失差、0.1ps/m以下程度の(使用する波長帯域における)低DGDや高次モードの実効的なカットオフ(遮断)などを考慮して、引用発明の屈折率プロファイルにおける各設計パラメータを用いて、GI型のMMFにおいて従来から用いられてきた対応する各パラメータの値を参考にして屈折率プロファイルの設計を行い、切り取られたコア半径が5?20μm、レッジの幅が1?5μm、トレンチの幅が1?10μmとなる屈折率プロファイルの構成とすることは、格別困難なこととは認められない。

4 小括
以上のとおり、本件発明は、引用発明、引用例2?8に記載された技術及び参考文献1?5等に記載された当業者の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおりであって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない。
また、本件発明は、引用発明、引用例2?8に記載された技術及び当業者の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-27 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-24 
出願番号 特願2016-48029(P2016-48029)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井部 紗代子佐藤 宙子佐藤 秀樹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
河原 正
発明の名称 モード分割多重伝送のために設計された多重LPモードファイバ  
代理人 岡部 讓  

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