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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1365889
審判番号 不服2019-13964  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-21 
確定日 2020-09-29 
事件の表示 特願2015-551504「各波長で均一な透過率を有する偏光素子および偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日国際公開、WO2015/083672、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-551504号(以下「本件出願」という。)は、2014年(平成26年)12月1日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年12月2日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 2月15日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月 8日付け:意見書・手続補正書
平成30年10月25日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月25日付け:意見書・手続補正書
令和 元年 7月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年10月21日付け:審判請求書・手続補正書

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1-請求項7に係る発明(平成31年2月25日付け手続補正書による補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2013-238640号公報
引用文献2:特開2002-258043号公報
引用文献3:特開2008-134270号公報
引用文献4:特開2002-221618号公報
引用文献5:特開2007-51166号公報
引用文献6:特開2013-29685号公報
なお、主引用例は引用文献1であり、引用文献2?4は請求項1?6に対しての周知例、引用文献5及び6は請求項7に対しての周知例として、それぞれ引用されたものである。

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、令和元年10月21日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1-請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
ホウ酸を吸着し延伸された親水性高分子からなり、且つ、ヨウ素を含有する偏光機能を有する基材を含んだ偏光素子であって、
該基材を単体で測定した場合の視感度補正単体透過率Ysが40.0%乃至42.5%であり、
該視感度補正単体透過率Ysと460nmの単体透過率Ts_(460)との差が1%以内であり、
該視感度補正単体透過率Ysと550nmの単体透過率Ts_(550)との差が1%以内であり、
該視感度補正単体透過率Ysと610nmの単体透過率Ts_(610)との差が1%以内であり、
該基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の視感度補正直交透過率Ycが0.01%以下であり;
前記基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の視感度補正平行透過率Ypが33%乃至37%の範囲であり、
該平行透過率Ypと、該基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の460nmの平行透過率Tp_(460)との差が3%以内であり;
該平行透過率Ypと、該基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の295nmの透過率Tp_(295)とが、下記式(1)を満たし、且つ、
該平行透過率Ypと、該基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の360nmの透過率Tp_(360)とが、下記式(2)を満たし、
さらに、前記基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の295nmの透過率Tc_(295)が、下記式(3)を満たし、且つ、
該基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の360nmの透過率Tc_(360)が、下記式(4)を満たすことを特徴とする、偏光素子。
1.05×Yp-26≦Tp_(295)≦1.05×Yp-13 ・・・式(1)
1.25×Yp-26.25≦Tp_(360)≦1.25×Yp-16.25 ・・・式(2)
2.0×10^(-30)×Yp^(18.6)≦Tc_(295)≦2.0×10^(-30)×Yp^(19.4) ・・・式(3)
4.0×10^(-37)×Yp^(22.12)≦Tc_(360)≦4.0×10^(-37)×Yp^(22.67) ・・・式(4)
【請求項2】
前記基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の460nmの透過率Tc_(460)が0.035%以下であり、かつ、
該基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の610nmの透過率Tc_(610)が0.01%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
前記基材が、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなり、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの重合度が3000乃至7000であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の偏光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子の少なくとも片面に支持体フィルムを設けてなる偏光板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子または請求項4に記載の偏光板を備える液晶表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子の製造方法であって、
(i)重合度3000乃至10000のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、二色性色素を含有させ、二色性色素を含有したフィルムを得る工程と、
(ii)前記二色性色素を含有したフィルムを延伸して、延伸したフィルムを得る工程と、
(iii)前記延伸したフィルムを、塩化物含有溶液またはヨウ化物含有溶液を用いて後処理に供する工程と、
(iv)前記後処理の後、フィルムを乾燥させて前記基材を得る工程と
を含み、
前記塩化物含有溶液またはヨウ化物含有溶液の濃度が、0.1?15重量%であり、前記(iii)の工程において超音波を用いて前記延伸したフィルムを後処理することを特徴とする、製造方法。」


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2013-238640号(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法および当該製造方法により得られた偏光子に関する。また本発明は当該偏光子を用いた偏光板、光学フィルム、さらには当該偏光子、偏光板、光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、パソコン、TV、モニター、携帯電話、PDA等に使用されている。従来、液晶表示装置等に用いる偏光子としては高透過率と高偏光度を兼ね備えていることから、染色処理されたポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。当該偏光子は、ポリビニルアルコール系フィルムに、浴中にて、例えば、膨潤、染色、架橋、延伸等の各処理を施した後に、洗浄処理を施してから、乾燥することにより製造される。また前記偏光子は、通常、その片面または両面にトリアセチルセルロース等の保護フィルムが接着剤を用いて貼合された偏光板として用いられている。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】

…(省略)…

【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体に、染色工程および延伸工程を少なくとも施して、厚み10μm以下の偏光子を製造方法であって、染色工程において、高濃度の二色性物質の染色浴を用いる場合であっても、偏光子の特性(単体透過率、偏光度)を満足することができる、偏光子の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、当該製造方法によって得られた偏光子を提供すること、当該偏光子を用いた偏光板、光学フィルムを提供することを目的とする。さらに本発明は、当該偏光子、偏光板、光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光子の製造方法等により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体に、染色工程および延伸工程を少なくとも施して、厚み10μm以下の偏光子を製造方法において、
染色工程以降の少なくとも1つの工程において、少なくとも一つの水溶性酸化防止剤を含有する処理浴による処理を行うことを特徴とする偏光子を製造方法、に関する。前記偏光子の製造方法は、前記染色工程が、ヨウ素染色工程である場合に好適である。

…(省略)…

【発明の効果】
【0020】
偏光子の製造方法において、染色工程以降の処理浴に大量のヨウ素イオン(I_(3)^(‐))が存在する時、ポリビニルアルコール系樹脂に配向の悪い状態でI_(3)が取り込まれて、ポリビニルアルコール系樹脂-ヨウ素錯体を形成する。そのため、得られる偏光子は配向性が低下し、偏光子の特性が低下する。本発明の偏光子の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体に、染色工程を施した後に、水溶性酸化防止剤を含有する処理浴による処理を行う。水溶性酸化防止剤は、染色浴以降の処理浴に不純物として存在するヨウ素に対する還元力を有しており、前記処理浴中のヨウ素イオン(I_(3)^(‐))を可視領域(380-780nm)において吸収を示さないI^(‐)に還元することができる。その結果、本発明の製造方法によれば、得られる偏光子の特性の低下を防止することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<熱可塑性樹脂基材>
本発明の製造方法に用いられる熱可塑性樹脂基材について説明する。熱可塑性樹脂基材としては、従来、偏光子の透明保護フィルムとして用いられていたものを用いることができる。熱可塑性樹脂基材を構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂、シクロ系乃至ノルボルネン構造を有する環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物があげられる。また前記熱可塑性樹脂基材は、ポリビニルアルコール系樹脂層との密着性を向上するため、プライマー層(下塗り層)等の薄層が形成されていてもよい。

…(省略)…

【0026】
<ポリビニルアルコール系樹脂>
本発明の偏光子の製造方法では、前記熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体を形成する。適用されるポリビニルアルコール系樹脂としては、可視光領域において透光性を有し、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を分散吸着するものを特に制限なく使用できる。

…(省略)…

【0032】
<処理工程>
本発明の偏光子の製造方法では、前記積層体に対して、染色工程および延伸工程を少なくとも施す。また、本発明の偏光子の製造方法では、架橋工程を施すことができる。染色工程、架橋工程および延伸工程には、それぞれ、染色浴、架橋浴および延伸浴の各処理浴を用いることができる。処理浴を用いる場合には、各工程に応じた処理液(水溶液等)が用いられる。
【0033】
<染色工程>
染色工程は、上記積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素または二色性染料を吸着・配向させることにより行う。染色工程は、延伸工程とともに行うことができる。染色は、通常、上記積層体を染色溶液に浸漬することにより一般に行われる。染色溶液としてはヨウ素溶液が一般的である。ヨウ素溶液として用いられるヨウ素水溶液は、ヨウ素および溶解助剤であるヨウ化化合物によりヨウ素イオンを含有させた水溶液などが用いられる。ヨウ化化合物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が用いられる。ヨウ化化合物としては、ヨウ化カリウムが好適である。本発明で用いるヨウ化化合物は、他の工程で用いる場合についても、上記同様である。
【0034】
ヨウ素溶液中のヨウ素濃度は0.01?10重量%程度、好ましくは0.02?5重量%、さらに好ましくは0.1?1.0重量%である。ヨウ化化合物濃度は0.1?10重量%程度、さらには0.2?8重量%で用いるのが好ましい。ヨウ素染色にあたり、ヨウ素溶液の温度は、通常20?50℃程度、好ましくは25?40℃である。浸漬時間は通常10?300秒間程度、好ましくは20?240秒間の範囲である。なお、染色時間は、指定の偏光度または透過率が達成できるように任意の時間浸漬することができる。
【0035】
<延伸工程>
延伸工程は、乾式延伸方法と湿潤式延伸方法のいずれも採用できる。延伸工程は、前記積層体に、通常、一軸延伸を施すことにより行う。一軸延伸は、前記積層体の長手方向に対して行う縦延伸、前記積層体の幅方向に対して行う横延伸のいずれも採用することができる。横延伸では、幅方向に延伸を行いながら、長手方向に収縮させることもできる。横延伸方式としては、例えば、テンターを介して一端を固定した固定端一軸延伸方法や、一端を固定しない自由端一軸延伸方法等があげられる。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸方法等があげられる。延伸処理は多段で行うこともできる。また、延伸処理は、二軸延伸、斜め延伸などを施すことにより行うことができる。

…(省略)…

【0041】
<架橋工程>
架橋工程は、架橋剤として、ホウ素化合物を用いて行う。架橋工程は、染色工程、延伸工程とともに行うことができる。架橋工程は複数回行うことができる。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂等があげられる。ホウ素化合物は、水溶液または水-有機溶媒混合溶液の形態で一般に用いられる。通常は、ホウ酸水溶液が用いられる。ホウ酸水溶液のホウ酸濃度は、1?10重量%程度、好ましくは2?7重量%である。架橋度により耐熱性を付与するには、前記ホウ酸濃度とするのが好ましい。ホウ酸水溶液等には、ヨウ化カリウム等のヨウ化化合物を含有させることができる。ホウ酸水溶液にヨウ化化合物を含有させる場合、ヨウ化化合物濃度は0.1?10重量%程度、さらには0.5?8重量%で用いるのが好ましい。

…(省略)…

【0043】
<その他の工程>
本発明の偏光子の製造方法では、上記積層体に染色工程、延伸工程を施し、さらに架橋工程を施すことができる。また、前記積層体には、染色工程を施す前に、膨潤工程を施すことができる。また、前記前記積層体には、染色工程を施す前に、不溶化工程を施すことができる。不溶化工程は、少なくとも染色工程において、ポリビニルアルコール層を溶解させないための不溶化処理を施すことを目的とする。
【0044】
<不溶化工程>
不溶化工程は、上記積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層を、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物を含有する溶液に浸漬させることにより行うことができる。前記溶液は、水溶液または水-有機溶媒混合溶液の形態で一般に用いられる。通常は、ホウ酸水溶液が用いられる。ホウ酸水溶液のホウ酸濃度は、1?4重量%である。不溶化工程における処理温度は、通常、25℃以上、好ましくは30?85℃、さらには30?60℃の範囲である。処理時間は、通常、5?800秒間、好ましくは8?500秒間程度である。
【0045】
また、本発明の偏光子の製造方法は、染色工程、延伸工程を有し、さらに架橋工程を有することができるが、これらの工程を施した後には、洗浄工程を施すことができる。
【0046】
洗浄工程は、ヨウ化カリウム溶液により行うことができる。前記ヨウ化カリウム溶液におけるヨウ化カリウム濃度は、通常、0.5?10重量%程度、さらには0.5?8重量%、さらには1?6重量%の範囲である。
【0047】
ヨウ化カリウム溶液による洗浄工程にあたり、その処理温度は、通常15?60℃程度、好ましくは25?40℃である。浸漬時間は通常1?120秒程度、好ましくは3?90秒間の範囲である。ヨウ化カリウム溶液による洗浄工程の段階は、乾燥工程前であれば特に制限はない。

…(省略)…

【0050】
前記各工程を施した後には、最終的に、乾燥工程を施して、偏光子を製造する。乾燥工程は、得られる偏光子(フィルム)に必要とされる水分率に応じて、適宜に、乾燥時間と乾燥温度が設定される。乾燥温度は、通常、20?150℃、好ましくは40?100℃の範囲で制御される。乾燥温度が低すぎると、乾燥時間が長くなり、効率的な製造ができないため好ましくない。乾燥温度が高すぎると得られる偏光子が劣化し、光学特性および色相の点で悪化する。加熱乾燥時間は、通常、1?5分間程度である。」

ウ 「【実施例】
【0076】
以下に本発明を実施例および比較例をあげて具体的に説明する。

…(省略)…

【0106】
実施例4-1(プロセス(4))
(積層体)
熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmのシクロオレフィンポリマー(JSR社製,アートン)を用いた。前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度10重量%でポリビニルアルコール(平均重合度1800,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得た。
【0107】
上記積層体に、各例において下記の順番にて、下記各工程を施した。
【0108】
(乾式延伸工程)
上記積層体を、140℃の環境下で、テンター法により、4倍に横延伸した。
【0109】
(染色工程)
染色浴の処理液としては、水100重量部に対して、ヨウ素0.5重量部およびヨウ化カリウム4重量部を含有するヨウ素染色溶液を用いた。上記乾式延伸された積層体を、染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色した。
【0110】
(架橋工程)
架橋浴の処理液としては、ホウ酸を5重量%、ヨウ化カリウムを5重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.02重量%含有する混合水溶液(4A)を用いた。上記処理された積層体を、架橋浴に搬送し、60℃に調整した前記混合水溶液(4A)に、60秒間浸漬した。
【0111】
(洗浄工程)
洗浄浴の処理液としては、ヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用いた。上記処理された積層体を、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に5秒間浸漬した。
【0112】
(乾燥工程)
次いで、上記洗浄処理された積層体を、洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥して、熱可塑性樹脂基材上に偏光子を得た。熱可塑性樹脂基材と一体に延伸されたポリビニルアルコール層(偏光子)の厚みは3μmであった。
【0113】
比較例4-1?2
実施例4-1において、延伸浴の処理液に用いた混合水溶液(3A)に配合した水溶性酸化防止剤(アスコルビン酸)および濃度を表1に示すように変えたこと以外は、実施例4-1と同条件で偏光子を作製した。なお、表1には、プロセス(4)を連続して施した経過時間についても併せて記載する。
【0114】
<偏光板の作製>
上記実施例および比較例において得られた積層体(熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール層(偏光子)が形成されたもの)のポリビニルアルコール層の表面に、接着剤を介して、トリアセチルセルロース(富士フイルム社製,TD80UL)を貼り合わせて、80℃で5分間乾燥した。前記接着剤としては3重量%のポリビニルアルコール樹脂水溶液(日本合成社製のゴーセファイマーZ200)を用いた。
【0115】
(評価)
実施例および比較例で得られた偏光子の光学特性を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。

…(省略)…

【0119】
<光学特性測定方法>
偏光子の単体透過率(Ts)、偏光度(P)は、積分球付き分光光度計(日本分光(株)製のV7100)にて測定した。
なお、偏光度は、2枚の同じ偏光子を両者の透過軸が平行となるように重ね合わせた場合の透過率(平行透過率:Tp)および、両者の透過軸が直交するように重ね合わせた場合の透過率(直交透過率:Tc)を以下の式に適用することにより求められるものである。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
各透過率は、グランテラープリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として、JIS Z8701の2度視野(C光源)により視感度補整したY値で示したものである。
【0120】
【表1】

【0121】
表1中、「初期」は溶液を調整後、浴中のヨウ素イオン(I_(3)^(‐))による特性低下がない状態、特にヨウ素イオン濃度が0.01%以下である状態を意味する。初期の状態でも吸光があるのは、浴中に添加されたヨウ化カリウムの一部がI_(3)^(‐)イオンを形成するためである。
【0122】
各実施例1?4の各例と比較例1?4-1における「初期」の対比から分かるように、実施例では、偏光子の製造を長時間に亘って行った場合においても「初期」と同様の光学特性(偏光度および単体透過率)を満足していることが分かる。なお、実施例およい比較例では、得られる偏光子の偏光度が99.99になるように、染色工程を行っており、同偏光度になる時の透過率を特性として対比している。従って、同じ透過率の偏光子であれば偏光度が低下することになる。」

エ 上記ア?ウに基づけば、引用文献1には、実施例4-1として、次の「偏光子」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(ア)引用発明
「熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmのシクロオレフィンポリマー(JSR社製,アートン)を用い、前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度10重量%でポリビニルアルコール(平均重合度1800,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得、乾式延伸工程として140℃の環境下で、テンター法により、4倍に横延伸し、染色工程として水100重量部に対して、ヨウ素0.5重量部およびヨウ化カリウム4重量部を含有するヨウ素染色溶液を用い、染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色し、架橋工程としてホウ酸を5重量%、ヨウ化カリウムを5重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.02重量%含有する混合水溶液(4A)を用い、架橋浴に搬送し、60℃に調整した前記混合水溶液(4A)に、60秒間浸漬し、洗浄工程としてヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用い、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に5秒間浸漬し、乾燥工程として洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥して得た偏光子であって、グランテラープリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として、JIS Z8701の2度視野(C光源)により視感度補整したY値で示した偏光子の単体透過率(Ts)は40.0%、偏光度(P)は99.99%である偏光子。」

(2)引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、先の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2002-258043号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置(以下、LCDと略称することがある。)に使用される偏光板及びそれを用いた液晶表示装置に関する。」

イ 「【0003】明るくかつ色の再現性が良い液晶表示装置を提供するためには、単体透過率及びコントラストが高く、吸収軸を平行にして2枚重ねたときの光の透過率(平行透過率)と、吸収軸を直交にして2枚重ねたときの光の透過率(直交透過率)が、可視光領域において波長に依存せずバラツキの少ないことが必要である。表示装置の好ましい色相範囲は、白及び黒表示においてXYZ表色系(CIE1931表色系)上で0.27≦x≦0.31、0.27≦y≦0.31である。
【0004】一般に液晶表示装置に使用されるバックライトは、440nm、550nm、610nmの3つの波長に輝線ピークを持つため、これらの3波長での透過率を同じにすることが色再現性を良くするための重要なポイントとなる。また、十分な明るさと偏光度を兼ね備えるためには、単体透過率が44.0%以上で偏光度が99.6%以上であることが必要である。」

ウ 以上の記載に基づけば、引用文献2には、「吸収軸を平行にして2枚重ねたときの光の透過率(平行透過率)と、吸収軸を直交にして2枚重ねたときの光の透過率(直交透過率)が、可視光領域において波長に依存せず、440nm、550nm、610nmの3つの波長での透過率を同じにすることが色再現性を良くするために重要である」という技術的事項が記載されていると認められる。

(3)引用文献3について
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、先の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2008-134270号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は、液晶表示装置などに使用される液晶パネル、及び液晶表示装置に関する。」

イ 「【0031】
本発明の偏光子(第1の偏光子及び/又は第2の偏光子)の単体透過率(T)は、好ましくは35%?45%であり、さらに好ましくは39%?42%である。単体透過率を上記の範囲にすることによって、より一層、斜め方向のコントラスト比が高い液晶表示装置を得ることができるからである。
なお、単体透過率は、JlS Z 8701-1995の2度視野に基づく、三刺激値のY値である。
上記偏光子の平行透過率は、好ましくは27%?36%であり、さらに好ましくは28%?34%である。また、上記偏光子の直交透過率は、好ましくは0.0030未満であり、さらに好ましくは0.0028以下であり、特に好ましくは0.0025以下である。偏光子の平行透過率及び直交透過率を上記の範囲とすることによって、これを液晶表示装置に用いた際、斜め方向のコントラスト比を格段に高くすることができる。
上記偏光子の波長440nmに於ける直交透過率は、好ましくは0.020以下であり、さらに好ましくは0.010以下である。また、上記偏光子の波長550nmに於ける直交透過率は、好ましくは0.002未満であり、さらに好ましくは0.0014以下である。上記偏光子の波長650nmに於ける直交透過率は、好ましくは0.003未満であり、さらに好ましくは0.0014以下である。偏光子の各波長に於ける直交透過率を上記範囲とすることによって、これを液晶表示装置に用いた際、可視光の全領域で光り漏れが抑制され、斜め方向のコントラスト比を、より一層高くすることができる。なお、平行透過率及び直交透過率の具体的な測定方法は、実施例に記載の通りである。」

ウ 以上の記載に基づけば、引用文献3には、「偏光子(第1の偏光子及び/又は第2の偏光子)の単体透過率(T)は、好ましくは35%?45%であり、偏光子の平行透過率は、好ましくは27%?36%であり、偏光子の直交透過率は、好ましくは0.0030未満であり、波長440nmに於ける直交透過率は、好ましくは0.020以下であり、波長550nmに於ける直交透過率は、好ましくは0.002未満であり、波長650nmに於ける直交透過率は、好ましくは0.003未満である」という技術的事項が記載されていると認められる。

(3)引用文献4について
原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、先の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2002-221618号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 合成樹脂フィルムを染色、架橋、延伸、乾燥して形成した偏光子と、保護フィルムとを貼り合わせて構成した偏光板において、光の波長が420?700nmの間での10nm毎の平行透過率の標準偏差が3以下で、且つ、光の波長が420?700nmの間での10nm毎の(平行透過率/直交透過率)の最小値が300以上であることを特徴とする偏光板。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置(以下、LCDと略称することがある。)に使用される偏光板及びそれを用いた液晶表示装置に関する。」

ウ 「【0074】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明は、光の波長が420?700nmの間での10nm毎の平行透過率の標準偏差が3以下、(平行透過率/直交透過率)の最小値が300以上の偏光板とすることで、光学特性がより優れた偏光板及びそれを用いた表示特性が優れた液晶表示装置を提供することができ、その工業的価値は大である。」

エ 「【図1】



オ 以上の記載に基づけば、引用文献4には、「光の波長が420?700nmの間での10nm毎の平行透過率の標準偏差が3以下である光学特性が優れた偏光板」という技術的事項が記載されていると認められる。


2 対比及び判断
(1)対比
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア ホウ酸
引用発明の「ホウ酸」は、その文言が意味するとおり、本願発明の「ホウ酸」に相当する。

イ 親水性高分子
引用発明における「ポリビニルアルコール」は、技術的にみて、本願発明の「親水性高分子」に相当する。
そして、引用発明の「偏光子」は、「前記熱可塑性樹脂基材上に」「厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得、乾式延伸工程として140℃の環境下で、テンター法により、4倍に横延伸し、・・・中略・・・ポリビニルアルコール層を染色し、架橋工程としてホウ酸を5重量%、ヨウ化カリウムを5重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.02重量%含有する混合水溶液(4A)を用い、架橋浴に搬送し、60℃に調整した前記混合水溶液(4A)に、60秒間浸漬し」て得たものである。
上記製造工程及び上記アの対比結果からみて、引用発明の「偏光子」における「ポリビニルアルコール」層は、「ポリビニルアルコール」の分子鎖が延伸されており、当該分子鎖の間に、ホウ酸が少なからず吸着された状態にあることが理解される。
そうすると、引用発明の「ポリビニルアルコール」は、本願発明の「親水性高分子」における、「ホウ酸を吸着し延伸された」という要件を満たす。

ウ ヨウ素
引用発明の「ヨウ素」は、その文言が意味するとおり、本願発明の「ヨウ素」に相当する。

エ 視感度補正単体透過率
引用発明における「単体透過率(Ts)」は、「2度視野(C光源)により視感度補整したY値で示した」ものであるから、本願発明における「視感度補正単体透過率Ys」に相当する。

オ 偏光素子
引用発明の「偏光子」は、技術的にみて、本願発明の「偏光素子」に相当する。また、引用発明の「偏光子の単体透過率(Ts)は40.0%」である。
そうすると、上記イ?エの対比結果及びその製造方法からみて、引用発明の「偏光子」は、本願発明の「偏光素子」における、「ホウ酸を吸着し延伸された親水性高分子からなり、且つ、ヨウ素を含有する偏光機能を有する基材を含んだ」及び「基材を単体で測定した場合の視感度補正単体透過率Ysが40.0%乃至42.5%であ」りという要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「ホウ酸を吸着し延伸された親水性高分子からなり、且つ、ヨウ素を含有する偏光機能を有する基材を含んだ偏光素子であって、
該基材を単体で測定した場合の視感度補正単体透過率Ysが40.0%乃至42.5%である偏光素子。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、「視感度補正単体透過率Ysと460nmの単体透過率Ts_(460)との差が1%以内」であるのに対し、引用発明の偏光子は、460nmの単体透過率Ts_(460)との差が明らかでない点。

(相違点2)
本願発明は、「視感度補正単体透過率Ysと550nmの単体透過率Ts_(550)との差が1%以内」であるのに対し、引用発明の偏光子は、550nmの単体透過率Ts_(550)との差が明らかでない点。

(相違点3)
本願発明は、「視感度補正単体透過率Ysと610nmの単体透過率Ts_(610)との差が1%以内」であるのに対し、引用発明の偏光子は、610nmの単体透過率Ts_(610)との差が明らかでない点。

(相違点4)
本願発明は、「基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の視感度補正直交透過率Ycが0.01%以下」であるのに対し、引用発明の偏光子は、視感度補正直交透過率Ycが明らかでない点。

(相違点5)
本願発明は、「基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の視感度補正平行透過率Ypが33%乃至37%の範囲」であるのに対し、引用発明の偏光子は、視感度補正直交透過率Ypが明らかでない点。

(相違点6)
本願発明は、「平行透過率Ypと、基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の460nmの平行透過率Tp_(460)との差が3%以内」であるのに対し、引用発明の偏光子は、平行透過率Ypと、平行透過率Tp_(460)との差が明らかでない点。

(相違点7)
本願発明は、「平行透過率Ypと、基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の295nmの透過率Tp_(295)とが、式(1) 1.05×Yp-26≦Tp_(295)≦1.05×Yp-13を満たし、平行透過率Ypと、基材2枚を吸収軸方向に対して平行にして測定した場合の360nmの透過率Tp_(360)とが、式(2) 1.25×Yp-26.25≦Tp_(360)≦1.25×Yp-16.25を満たし、基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の295nmの透過率Tc_(295)が、式(3) 2.0×10^(-30)×Yp^(18.6)≦Tc_(295)≦2.0×10^(-30)×Yp^(19.4)を満たし、基材2枚を吸収軸方向に対して直交にして測定した場合の360nmの透過率Tc_(360)が、式(4) 4.0×10^(-37)×Yp^(22.12)≦Tc_(360)≦4.0×10^(-37)×Yp^(22.67)を満た」すのに対し、引用発明の偏光子は、平行透過率Ypと透過率Tp_(295)とが式(1)を満たすか、平行透過率Ypと透過率Tp_(360)とが式(2)を満たすか、平行透過率Ypと透過率Tc_(295)とが式(3)を満たすか、平行透過率Ypと透過率Tc_(360)とが式(4)を満たすかが明らかでない点。


(3)判断
事案に鑑みて、上記相違点7について検討する。
ア 引用文献1には、平行透過率Ypと透過率Tp_(295)とが式(1)の関係、平行透過率Ypと透過率Tp_(360)とが式(2)の関係、平行透過率Ypと透過率Tc_(295)とが式(3)の関係、平行透過率Ypと透過率Tc_(360)とが式(4)の関係となるように調整するという技術思想は開示されていない。
そして、引用文献2に記載された技術的事項は、上記1(2)ウに記載のとおり、平行透過率及び直交透過率が、可視光領域(440nm、550nm、610nm)において波長依存しないことが色再現性を良くするために重要であるというものであり、引用文献3に記載された技術的事項は、上記1(3)ウに記載のとおり、好ましい単体透過率、平行透過率及び波長440nm、波長550nm、波長650nmにおける好ましい直交透過率に関するものであり、引用文献4に記載された技術的事項は、上記1(4)オに記載のとおり、波長が420?700nmでの好ましい平行透過率の標準偏差に関するものであって、引用文献2?4いずれにも、、可視光領域の透過率と、紫外領域の透過率との関係をうかがわせるような記載はない。そうすると、引用文献2?4のうち、いずれの文献にも、、相違点7に係る構成は記載されておらず、また、可視光領域の透過率が所定の要件を満たせば、式(1)?(4)の関係を満たす蓋然性が高いと認識し得るような手がかりが記載されているとも認められない。さらに、式(1)?(4)の関係を満たすことが好ましいとの技術思想が、本件出願時における当業者の技術常識であったことを示す他の証拠もない。
なお、原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用され、先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2007-51166号公報及び原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用され、先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2013-29685号公報には、偏光素子における透過率について記載されていない。
以上によれば、引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて、先の出願前に当業者が相違点7に係る構成に容易に想到したとはいえない。

イ ところで、原査定では、引用文献2、4には「平行透過率が可視光領域で一定である」ことが記載され、引用文献3には、可視光領域における各透過率の好ましい値が記載されていることから、引用発明及び引用文献2?4に基づいて当業者が容易に想到し得た偏光素子が、相違点7に係る構成を満たす蓋然性が高いとの判断がなされている。
しかしながら、可視光領域での平行透過率Ypと透過率Tp_(295)、平行透過率Ypと透過率Tp_(360)、平行透過率Ypと透過率Tc_(295)、平行透過率Ypと透過率Tc_(360)との定量的な関係を推認し得るような記載は、引用文献1、引用文献2?4にはなく、また、これが技術常識であることを示す他の証拠もないことは上記アで述べたとおりである。

ウ また、本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0008】には、平行透過率Ypと、紫外領域における平行透過率Tp_(295)、平行透過率Tp_(360)、直交透過率Tc_(295)、直交透過率Tc_(360)とを相違点7の数値範囲内に調整することによって、透過率が高く、コントラスト比が高く、かつ色再現性が非常に高いディスプレイ用偏光板、特に液晶ディスプレイ用偏光板として使用することができることが記載されている。ここで、平行透過率Ypと、透過率Tp_(295)、透過率Tp_(360)、透過率Tc_(295)、透過率Tc_(360)とを特定の範囲内に調整するという技術思想がいずれの文献に記載されていないことは上記ア、イのとおりであるから、上記効果は、引用発明や引用文献2?6に記載された技術的事項から当業者が予測できない効果であると認められる。

エ 以上ア?ウのとおりであるから、上記相違点1?6について判断するまでもなく、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、引用文献1に記載の他の実施例から、主引用発明を認定したとしても判断は同様である。

(4)請求項2?請求項6に係る発明について
本件出願の請求項2?6に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加してなる偏光素子、偏光板、液晶表示装置又は偏光素子の製造方法の発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献1に記載された発明、引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

第3 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?6に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-14 
出願番号 特願2015-551504(P2015-551504)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 各波長で均一な透過率を有する偏光素子および偏光板  
代理人 城山 康文  
代理人 坪倉 道明  
代理人 小野 誠  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 重森 一輝  
代理人 城山 康文  
代理人 小野 誠  
代理人 金山 賢教  
代理人 金山 賢教  
代理人 坪倉 道明  
代理人 重森 一輝  
代理人 岩瀬 吉和  

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