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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04M
管理番号 1365923
審判番号 不服2020-3694  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-18 
確定日 2020-09-29 
事件の表示 特願2016-164809「電子機器、制御方法、及び制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月1日出願公開、特開2018- 33034、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は平成28年8月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 元年 9月11日付け:拒絶理由通知
令和 元年11月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 2月26日付け:拒絶査定
令和 2年 3月18日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提 出


第2 原査定の概要

原査定(令和2年2月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1(特許法第29条第2項)

(1)請求項1、3、4、6、7に係る発明は、以下の引用文献1、3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)請求項2に係る発明は、以下の引用文献1-3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)請求項5に係る発明は、以下の引用文献1-4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2014-225069号公報
引用文献2:特開2013-164777号公報
引用文献3:特開2015-068777号公報
引用文献4:特開2012-118014号公報


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正(令和2年3月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。))は、以下に示すように、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。


1 本件補正の概要

本件補正は、令和2年3月18日に提出された拒絶査定不服審判の審判請求書も参酌すると、次のように補正するものである。

(1)本件補正前の請求項1の「コントローラ」が「他機との通信の抑制を解除する」ための判定条件に関し、「・・・前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて前記利用者が所定の位置に到達したと判定する」とあったのを、「・・・前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定する」(下線は請求人が付与)とし、本件補正後の請求項1とする。

(2)本件補正前の請求項3-5を削除する。

(3)本件補正前の請求項1に対応するカテゴリーの異なる請求項であった本件補正前の請求項6を請求項1に係る補正事項と同一の趣旨に基づいて補正し、本件補正後の請求項3とする。

(4)本件補正前の請求項1に対応するカテゴリーの異なる請求項であった本件補正前の請求項7を請求項1に係る補正事項と同一の趣旨に基づいて補正し、本件補正後の請求項4とする。


2 本件補正の内容

上記1(1)、(3)、(4)の補正は、本願の発明の詳細な説明の段落【0072】から【0075】、【図4】などの記載に基づくものであり、新規事項を追加する補正ではないし、発明の特別な技術的特徴を変更する補正でもない。
また、上記1(1)、(3)、(4)の補正は、「他機との通信の抑制を解除する」ための判定条件における「利用者」の位置に関し、「所定の位置に到達した」から、より具体的な「前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻った」とすることで、「コントローラ」に関する発明特定事項を限定するものであり、かつ、発明特定事項の限定がなされた本件補正前の請求項1、6、7と、本件補正後の請求項1、3、4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本件補正後の請求項1-4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。
なお、上記1(2)の補正が請求項の削除を目的とするものに該当することは明らかである。


第4 本願発明

請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
衛星が出力する信号に基づいて自機の位置情報を検出する位置検出部と、
他機と通信する通信ユニットと、
コントローラと、
利用者の移動状態の判定に用いる情報を取得する少なくとも一つのセンサと、
を有し、
前記コントローラは、
前記位置検出部による検出機能が有効であるときに、前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定すると、前記他機との通信を抑制し、
前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定した場合、前記センサが取得した情報に基づいて、前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定すると、前記他機との通信の抑制を解除する電子機器。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記センサが取得した情報に基づいて、前記利用者が乗り物に乗っている状態であると判定すると、前記位置検出部の検出精度が悪化していないときでも、前記他機との通信を抑制する請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
位置検出部と、通信ユニットと、利用者の移動状態の判定に用いる情報を取得する少なくとも一つのセンサとを有する電子機器の制御方法であって、
衛星が出力する信号に基づいて自機の位置情報を前記位置検出部によって検出するステップと、
前記位置検出部による検出が有効であるときに、前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定すると、前記通信ユニットによる他機との通信を抑制するステップと、
前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定した場合、前記センサが取得した情報に基づいて、前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定すると、前記他機との通信の抑制を解除するステップと、
を含む制御方法。
【請求項4】
位置検出部と、通信ユニットと、利用者の移動状態の判定に用いる情報を取得する少なくとも一つのセンサとを有する電子機器に、
衛星が出力する信号に基づいて自機の位置情報を前記位置検出部によって検出するステップと、
前記位置検出部による検出が有効であるときに、前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定すると、前記通信ユニットによる他機との通信を抑制するステップと、
前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定した場合、前記センサが取得した情報に基づいて、前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定すると、前記他機との通信の抑制を解除するステップと、
を実行させる制御プログラム。」


第5 引用文献、引用発明等

1 引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに、以下の記載事項がある。(なお、下線は当審にて付与した。)

(1)「【0005】
そこで、この発明は、歩行者用通信装置であって、周辺車両が行う歩行者を対象とする支援サービスについて、歩行者が停止中、GPS環境が悪い場合などの支援サービスの必要性が低い場合、送信周期を長くしたり、あるいは送信を停止したりすることで、歩行者用通信装置の電力消費を効果的に抑制することを目的とする。」

(2)「【0010】
図1?図11は、この発明の実施例を示すものである。
道路上には、例えば、図2に示すように、複数の車両1や複数の歩行者2が相対的に接近する方向に移動している場合がある。この場合において、車両1には、十字路の交差点3で一つの道路4から交差している他の道路5に右折しようとして停車している自車両1Aと、自車両1Aに接近するように一つの道路4を走行してくる他車両1Bがある。歩行者2には、一つの道路4と交差する他の道路5の横断歩道6を渡っている歩行者2A、一つの道路4の横断歩道7を渡ろうとして歩道8で停止している歩行者2B、歩道8近傍の建物9に入ろうとしている歩行者2Cがいる。
図1に示す歩車間通信システム10は、このような交差点3において、横断歩道6を渡っている歩行者2Aを対象として、右折しようとする自車両1Aへの支援サービスを行うものである。歩車間通信システム10は、車両1に搭載される車両用通信装置11と、歩行者2が所持する歩行者用通信装置12との間で通信を行い、通信によって取得された歩行者2の位置情報に基づいて車両1と歩行者2とが衝突する可能性があると判定された場合に車両1の運転者に報知するものである。
前記歩行者用通信装置12は、動力源であるバッテリ13と、歩行者位置検出部14と、通信手段15と、検出手段16と、情報提供手段17とを備えている。
前記歩行者位置検出部14は、GPS受信回路18とGPSアンテナ19とからなり、歩行者2の位置を検出する。前記通信手段15は、歩車間通信回路20と歩車間通信アンテナ21とからなり、車両1の車両用通信装置11との間で規定の送信周期で歩車間通信を行い、情報を提供する。前記検出手段16は、Gセンサ・ジャイロセンサなどからなり、歩行者2の各種移動情報を検出する。前記情報提供手段17は、表示ユニット(LEDなど)22やブザー23などからなり、表示ユニット22の点灯、ブザー23の吹鳴により歩行者2に情報を提供する。」

(3)「【0012】
この歩車間通信システム10は、歩行者用通信装置12によるバッテリ13の電力消費を抑制するために、歩行者用通信装置12に有効性判定部40と送信周期設定部41とを備えている。有効性判定部40は、歩行者位置検出部14が検出した歩行者2の位置情報の有効性を判定する。送信周期設定部41は、有効性判定部40により判定された歩行者2の位置情報の有効性に基づいて、歩行者2の位置情報の送信周期を設定する。歩行者2の位置情報は、送信周期設定部41で設定された送信周期によって、通信手段15により車両用通信装置11に送信される。車両用通信装置11は、受信した歩行者2の位置情報を含む各種の情報に基づいて、歩行者2との衝突の可能性を判定する。
前記送信周期設定部41は、有効性判定部40により判定された歩行者2の位置情報の有効性が回復した時に、歩行者2の位置情報の送信周期を通常時の送信周期よりも短くする。
前記歩行者用通信装置12は、歩行者2の移動速度を算出する速度算出部42を備えている。前記有効性判定部40は、速度算出部42により算出された歩行者2の移動速度に基づいて、歩行者2の位置情報の有効性を判定する。
また、前記歩行者用通信装置12は、歩行者位置検出部14の検出精度を判定する検出精度判定部43を備えている。前記有効性判定部40は、検出精度判定部43により判定された歩行者位置検出部14の検出精度に基づいて、歩行者2の位置情報の有効性を判定する。
さらに、前記歩行者用通信装置12は、通信を行っている車両用通信装置11の台数を算出する台数算出部44を備えている。前記有効性判定部40は、台数算出部44により算出された車両用通信装置11の台数に基づいて、歩行者2の位置情報の有効性を判定する。」

(4)「【0014】
歩行者2の移動速度に基づいて歩行者用通信装置12の送信周期を設定する場合において、歩行者2が歩行を停止している(停止しようとしている)時間は、車両1と衝突する可能性は低い状況にある。このため、歩行者2が停止している場合は、支援サービスの対象となる歩行者2が所持する歩行者用通信装置12からの送信周期を通常時の標準周期よりも長く設定しても、車両1との衝突可能性の判定には問題ないと考える。(停止中は、停止フラグ等をたてて歩行者状態を通知してもよい。)
但し、歩行者2が歩行を再開した時は、歩行者2の存在を周囲の車両1が迅速に検知できるように、短時間の間、送信周期を標準周期よりも短く設定し、その後、通常の移動速度に戻ったときに標準周期に戻す。なお、歩行者2が「停止」しているとは、移動速度が規定の停止速度(例えば、毎分一歩程度の移動)以下、あるいは方向変化(同位置で回転)であり、このような状態なら停止とする。歩行者2の移動速度は、速度算出部42により歩行者位置検出部14、あるいは検出手段16の情報から算出する。」

(5)「【0021】
また、前記歩車間通信システム10は、歩行者位置検出部14によるGPS信号の受信状態に基づいて、歩行者用通信装置12の送信周期を設定することができる。検出精度判定部43により判定されたGPS信号の受信環境の悪い場所(上部に構造物がある場所、建物内、地下など)を歩行者2が歩行している場合は、歩行者2の位置を正確に検知できないため、歩行者2の位置情報の送信を停止する。
歩行者位置検出部14によるGPS信号の受信再開時には、再開直後はGPS信号による位置が不安定になる場合があるので、送信周期設定部41により段階的に送信周期を短くさせる。なお、GPS信号の受信不能とは、受信できる衛星数が規定個数未満になった状態をいう。GPS信号の受信不能となる規定個数は、一般的には4個未満だが、変更も可能である。
【0022】
歩車間通信システム10は、図6に示すように、GPS信号の受信状態に基づいて送信周期を設定する場合(200)、歩行者用通信装置12の検出精度判定部43により歩行者位置検出部14が受信可能なGPS信号数を算出(常時)し(201)、GPS信号が規定時間(t6)内において、短時間の受信不能の状態(瞬断)になっていないか、あるいは短時間の受信感度低下の状態(瞬低)になっていないかを判断する(202)。
この判断(202)がNOの場合は、後述する判断(206)に移行する。この判断(202)がYESの場合は、受信したGPS信号数が減少したかを判断する(203)。
この判断(203)がNOの場合は、後述する判断(209)に移行する。この判断(203)がYESの場合は、GPS信号数の減少が規定時間(t7)以上継続したかを判断する(204)。
この判断(204)がNOの場合は、判断(202)に戻る。この判断(204)がYESの場合は、GPS信号数が受信不能となる最低数未満であるかを判断する(205)。
この判断(205)がNOの場合は、送信周期をGPS信号数の減少率に基づき標準周期よりも長く設定し、あるいは、送信周期をGPS信号の瞬断・瞬低に基づき標準周期よりも長く設定し(206)、判断(202)に戻る。この判断(205)がYESの場合は、GPS信号数が受信不能となる最低数未満の状態が規定時間(t8)以上継続したかを判断する(207)。
この判断(207)がNOの場合は、判断(205)に戻る。この判断(207)がYESの場合は、車両用通信装置11への歩行者2の位置情報の送信を停止し(208)、判断(202)に戻る。
【0023】
一方、前記GPS信号数が減少したかの判断(203)がNOの場合は、GPS信号数が増加したかを判断する(209)。
この判断(209)がNOの場合は、判断(202)に戻る。この判断(209)がYESの場合は、送信周期が標準周期よりも長いかを判断する(210)。
この判断(210)がNOの場合は、判断(202)に戻る。この判断(210)がYESの場合は、位置情報の送信が停止中であるかを判断する(211)。
この判断(211)がNOの場合は、後述する判断(213)に移行する。この判断(211)がYESの場合は、送信周期を規定時間(t9)だけ標準周期よりも短く設定し(212)、規定時間(t10)だけGPS信号数の増加した状態が継続されたかを判断する(213)。
この判断(213)がNOの場合は、判断(202)に戻る。この判断(213)がYESの場合は、送信周期をGPS信号数の増加率に基づき標準周期よりも長く設定し(214)、GPS信号数が規定時間(t11)だけ一定範囲で安定したかを判断する(215)。
この判断(215)がNOの場合は、この判断(215)を繰り返す。この判断(215)がYESの場合は、送信周期を標準周期に設定し(216)、判断(202)に戻る。
【0024】
図6のフローチャートに示すGPS信号数の受信状態に基づく送信周期の設定は、以下の(1).(2).のように行われる。
【0025】
(1).図7に示すように、上部に構造物がある所を歩行する等によるGPS信号の受信環境の悪化により、歩行者位置検出部14により受信できるGPS信号数が徐々に減少して受信不能になり、その後、環境が改善して徐々に受信できるGPS信号数が増加する場合がある。この場合は、検出精度判定部43により判定されたGPS信号数の減少が規定時間(t7)以上継続した時に、送信周期設定部41により歩行者2の位置情報の送信周期を段階的に標準周期よりも下げて長く設定する。GPS信号数が受信不能となる最低数未満の状態が規定時間(t8)以上になった時は、送信を停止する。
その後、歩行者位置検出部14により受信が再開されて検出精度判定部43により検出されたGPS信号数が増加したと判定された場合は、歩行者2の位置情報の送信を開始し、送信周期設定部41により送信周期を規定時間(t9)だけ標準周期よりも上げて短く設定する。GPS信号数の増加した状態が規定時間(t10)維持された場合は、送信周期を標準周期よりも長く設定し、GPS信号数が規定時間(t11)だけ一定範囲で安定した後に、通常時の標準周期に設定する。
(2).図8に示すように、検出精度判定部43によりGPS信号が規定時間(t6)内において短時間の受信不能の状態(瞬断)、あるいは、短時間の受信感度低下の状態(瞬低)と判定される場合がある。この場合は、送信周期設定部41により送信周期を標準周期よりも下げて長く設定する。送信周期を長く設定した後に、検出精度判定部43によりGPS信号が規定時間(t11)だけ一定範囲で安定したと判定された時は、送信周期設定部41により送信周期を標準周期に設定する。
【0026】
このように、歩車間通信システム10において、歩行者用通信装置12は、有効性判定部40により判定された歩行者2の位置情報の有効性に基づいて、送信周期設定部41により歩行者2の位置情報の送信周期を設定する。このため、歩車間通信システム10は、車両用通信装置11と歩行者用通信装置12との歩車間通信による運転支援の有効性を維持しつつ、歩行者用通信装置12の電力消費を抑制することができる。
また、歩行者用通信装置12は、検出精度判定部43により判定された歩行者位置検出部14のGPS信号による検出精度に基づいて、有効性判定部40により歩行者2の位置情報の有効性を判定する。このため、歩車間通信システム10は、歩行者2の位置情報の有効性を好適に判別することができ、車両用通信装置11と歩行者用通信装置12との歩車間通信による運転支援の有効性を維持しつつ、歩行者用通信装置12の電力消費を抑制することができる。」

(6)「【0033】
なお、上述実施例においては、歩行者2の移動速度、歩行者位置検出部14の検出するGPS信号数、歩車間通信を行っている車両用通信装置11の台数に基づいて、歩行者2の位置情報の送信周期を設定したが、歩行者2の移動加速度、歩行者2の移動方位変化によっても同様に送信周期を設定することができる。また、GPS受信回路18とGPSアンテナ19とからなる歩行者位置検出部14による位置情報の精度が劣化していること(例えば、内蔵センサデータとGPS情報との違いが大きい場合)が検知できれば、GPS信号が受信不能な場合と同様の対応ができる。」

(7)図1


(8)図2


(9)図6


(10)上記(2)の「前記歩行者位置検出部14は、GPS受信回路18とGPSアンテナ19とからなり、歩行者2の位置を検出する。」との記載及び、上記(5)の「歩行者位置検出部14によるGPS信号の受信状態に基づいて、歩行者用通信装置12の送信周期を設定することができる。・・・(中略)・・・なお、GPS信号の受信不能とは、受信できる衛星数が規定個数未満になった状態をいう。」から、歩行者位置検出部14は、“衛星からのGPS信号に基づいて”歩行者2の位置を検出していることが読み取れる。

(11)上記(1)から(10)の記載事項から、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「車両1に搭載される車両用通信装置11と、歩行者2が所持する歩行者用通信装置12との間で通信を行い、通信によって取得された歩行者2の位置情報に基づいて車両1と歩行者2とが衝突する可能性があると判定された場合に車両1の運転者に報知する歩車間通信システム10の歩行者用通信装置12であって、
前記歩行者用通信装置12は、周辺車両が行う歩行者を対象とする支援サービスについて、歩行者が停止中、GPS環境が悪い場合などの支援サービスの必要性が低い場合、送信周期を長くしたり、あるいは送信を停止したりすることで、歩行者用通信装置12の電力消費を効果的に抑制することができ、
前記歩行者用通信装置12は、動力源であるバッテリ13と、歩行者位置検出部14と、通信手段15と、検出手段16と、情報提供手段17と、有効性判定部40と、送信周期設定部41と、検出精度判定部43とを備え、
前記歩行者位置検出部14は、GPS受信回路18とGPSアンテナ19とからなり、衛星からのGPS信号に基づいて歩行者2の位置を検出し、
前記通信手段15は、歩車間通信回路20と歩車間通信アンテナ21とからなり、車両1の車両用通信装置11との間で規定の送信周期で歩車間通信を行い、情報を提供し、
前記検出手段16は、Gセンサ・ジャイロセンサなどからなり、歩行者2の各種移動情報を検出し、ここで、歩行者2の各種移動情報には移動速度が含まれ、
前記検出精度判定部43は、歩行者位置検出部14の検出精度を判定し、
前記有効性判定部40は、検出精度判定部43により判定された歩行者位置検出部14の検出精度に基づいて、歩行者2の位置情報の有効性を判定し、
前記送信周期設定部41は、有効性判定部40により判定された歩行者2の位置情報の有効性に基づいて、歩行者2の位置情報の送信周期を設定し、
前記歩行者用通信装置12は、歩行者位置検出部14によるGPS信号の受信状態に基づいて、歩行者用通信装置12の送信周期を設定することができ、検出精度判定部43により判定されたGPS信号の受信環境の悪い場所(上部に構造物がある場所、建物内、地下など)を歩行者2が歩行している場合は、歩行者2の位置を正確に検知できないため、歩行者2の位置情報の送信を停止し、歩行者位置検出部14により受信が再開されて検出精度判定部43により検出されたGPS信号数が増加したと判定された場合は、歩行者2の位置情報の送信を開始する、
歩行者用通信装置12。」


2 引用文献2について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに、以下の記載事項がある。(なお、下線は当審にて付与した。)

(1)「【0015】
第1の実施形態の交通安全支援システム1では、複数の歩行者にそれぞれ携帯通信端末2を携帯させると共に、複数の車両にもそれぞれ車載通信端末3を搭載させる。各歩行者の携帯通信端末2と各車両の車載通信端末3間の無線による歩車間通信で情報授受を行うと共に、各車両の車載通信端末3、3間の無線による車々間通信で情報授受を行うことで、歩行者、車両の安全を支援しようとしている。
【0016】
通信方式として、例えば、ブロードキャスト方式を採用し、その通信範囲としては、前後左右に200m程度の範囲を挙げることができる。通信対象数として、歩行者と車両を併せて100台程度を挙げることができる。
【0017】
第1の実施形態の交通安全支援システム1では、各通信端末2、3から、所持している歩行者、又は、搭載されている車両に関する情報を周期的に送信し、受信側の通信端末2、3において、必要な情報を選択して歩行者や運転者に衝突の注意喚起の情報提供等を行うものである。情報の送信周期としては、例えば、速度に応じた0.1秒?1秒程度の可変周期を挙げることができる。送信される情報には、その歩行者又は車両の現在位置を示す位置情報の他、自己を特定する識別子等が含まれる。」

(2)「【0035】
なお、この第1の実施形態の場合、省電力モード状態の間は送信機能部は停止させている。」

(3)「【0048】
以上のようにして、省電力モード状態ST3の間は、送信機能部を常時停止させると共に、受信機能部を一定周期で間欠的に動作させることで、乗車中の歩行者が所持している携帯通信端末2の不要な電波発振による使用周波数帯の混雑を緩和し、バッテリ消費を抑制することができる。」

(4)「【0055】
(B-1)第2の実施形態の構成
第1の実施形態では、省電力モードか歩行者モードかの判定(言い換えると、乗車中か否か)を、GPSセンサの取得情報と、周辺に存在する他の携帯通信端末及び車載通信端末から得られた車両情報に基づいて行っていた。この第2の実施形態では、乗降車の判定を行う追加機能部によって省電力モードか歩行者モードかの判定を行い、携帯通信端末のGPS位置情報の取得に至るまでの、CPUの各処理負荷を軽減すると共に、処理遅延時間を短縮しようとしたものである。
【0056】
図10は、第2の実施形態における各通信端末5A(携帯通信端末2又は車載通信端末3)の構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る上述した図3との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
【0057】
図10において、第2の実施形態の各通信端末5A(2又は3)は、CPU10、記憶装置11、ROM12、RAM13、ディスプレイ14、スピーカ15、画像処理部16、音声処理部17、無線通信部18及びGPSセンサ19に加え、乗降車検知部20P又は20Bを有する。
【0058】
CPU10、記憶装置11、ROM12、RAM13、ディスプレイ14、スピーカ15、画像処理部16、音声処理部17、無線通信部18及びGPSセンサ19は、第1の実施形態のものとほぼ同様である。但し、CPU10が実行するプログラムが、第1の実施形態と多少異なっている。
【0059】
乗降車検知部20Pは携帯通信端末2に設けられた乗降車検知部を表しており、乗降車検知部20Bは車載通信端末3に設けられた乗降車検知部を表しており、2種類の乗降車検知部20P及び20Bが協働して、携帯通信端末2を所持している歩行者の乗降車を検知するものである。
【0060】
2種類の乗降車検知部20P及び20Bは、例えば、微弱無線通信機能を用いて歩行者の乗降車を検知する。例えば、車両内に微弱無線通信エリアを形成するように、車載通信端末3の乗降車検知部20Bを設けて、乗降車検知部20Bから一定周期で乗車認識IDを含むパケットを送信させる。携帯通信端末2の乗降車検知部20Pが受信したパケットから乗車認識IDを抽出できたときに、当該携帯通信端末2を所持する歩行者が乗車していると判定する。一方、携帯通信端末2の乗降車検知部20Pが、乗降車検知部20Bが送信したパケットを受信できなくなった場合、当該携帯通信端末2を所持する歩行者が微弱無線通信エリアの範囲外へ移動したと判定する(すなわち、当該携帯通信端末2を所持する歩行者が降車したと判定する)。
【0061】
ここで、乗車認識IDは、全ての車両において同一のものを用いるようにしても良く、乗降車検知部20B毎に固有なものを用いるようにしても良い。後者の場合であっても、携帯通信端末2の乗降車検知部20Pが乗車認識IDであることを認識できるような部分情報を含むようにする。また、提供されるサービスごとに乗車認識IDを割り当て、携帯通信端末2を制御できるようにしても良い。
【0062】
上記では、乗降車検知部20B及び20P間の微弱無線通信機能を利用して乗降車を検知するものを示したが、乗降車の検知方法は、これに限定されるものではない。例えば、携帯通信端末2を所持する歩行者が、乗車したり降車したりした際に所定操作することとし、その操作を受けて乗降車を検知しても良い。また例えば、携帯通信端末2が車両に設けられているコネクタに電気的に接続したか否かによって乗降車を検知しても良い。さらに例えば、周辺環境(例えば、エンジン音)をモニタする各種センサ類等の出力を利用して乗降車を検知するようにしても良い。
【0063】
(B-2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態の交通安全支援システム1Aの動作、特に、携帯通信端末2の動作(携帯通信端末2のCPU10が実行する処理)について説明する。
【0064】
図11は、第2の実施形態の携帯通信端末2における状態遷移を示す状態遷移図である。第2の実施形態の携帯通信端末2は、初期設定が完了したときに省電力モード状態ST3ではなく歩行者モード状態ST4へ遷移する点、省電力モード状態ST3から歩行者モード状態ST4への遷移のトリガが乗降車検知部20Pによる降車の検知である点、歩行者モード状態ST4から省電力モード状態ST3への遷移のトリガが乗降車検知部20Pによる乗車の検知である点が、第1の実施形態と異なっている。
【0065】
歩行者が当該携帯通信端末2の電源をONにすると、携帯通信端末2は電源OFF状態ST1から初期設定状態ST2に遷移し、CPU10は、無線通信部18などの初期設定を行い、また、GPSセンサ19から現在位置情報の取得を開始する。このような初期設定の完了後に、歩行者モード状態ST4へ遷移する。さらに、乗降車検知部20Pが乗車認識IDを含むパケットを受信した場合には、省電力モード状態ST3へ遷移する。」

(5)上記(1)から(4)の記載事項から引用文献2には以下の技術事項が記載されているといえる。

「交通安全支援システム1に用いられる携帯通信端末2において、携帯通信端末2を所持している歩行者の乗降車を検知し、乗車中は携帯通信端末2の送信機能部を常時停止させることでバッテリ消費を抑制する」との技術事項。


3 引用文献3について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに、以下の記載事項がある。(なお、下線は当審にて付与した。)

(1)「【0010】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の情報処理装置における一実施形態に係るGPS受信装置のハードウェアの構成を示すブロック図である。
GPS受信装置1は、例えば腕時計型端末として構成される。
【0011】
GPS受信装置1は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(RandomAccess Memory)13と、バス14と、入出力インターフェース15と、センサ部16と、GPS部17と、入力部18と、時計部19と、記憶部20と、通信部21と、を備えている。
【0012】
CPU11は、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部20からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
【0013】
RAM13には、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0014】
CPU11、ROM12及びRAM13は、バス14を介して相互に接続されている。このバス14にはまた、入出力インターフェース15も接続されている。入出力インターフェース15には、センサ部16、GPS部17、入力部18、時計部19、記憶部20及び通信部21が接続されている。
【0015】
センサ部16は、装置の移動を検出することが可能なセンサで構成されており、例えば、加速度センサや方位センサ等により構成される。
GPS部17は、少なくとも1つの衛星から、時刻の補正に用いるGPSの電波を受信可能に構成される。
【0016】
入力部18は、各種釦等で構成され、ユーザの指示操作に応じて各種情報を入力する。
時計部19は、デジタルやアナログの時計を表示可能に構成される。
記憶部20は、ハードディスク或いはDRAM(DynamicRandom Access Memory)等で構成され、各種画像のデータを記憶する。
通信部21は、インターネットを含むネットワークを介して他の装置(図示せず)との間で行う通信を制御する。
【0017】
このように構成されるGPS受信装置1においては、GPSの電波が受信できないような場所にある場合にはGPSの電波受信の動作を行わない機能を有する。このため、GPS受信装置1では、不要なGPSの電波受信の動作を行わないために、電力消費を抑えることができる。
具体的には、GPS受信装置1では、装置の移動状態から装置を装着するユーザの状態を推測して、GPS電波の受信ができない屋内か、GPS電波の受信が可能な屋外かを判定して、屋外であると判定した場合に、GPS電波の受信の動作を行うように構成する。
本実施形態において、屋外である判定は、所定の時間を連続的に歩行しているか否かで行う。屋外は、屋内とは異なり広い範囲であることから、所定の時間を連続的に歩行しない蓋然性が高いからである。また、歩行を周期的な振動とすることで、屋内のような狭い範囲を巡回的に移動したり、不規則に移動したりしても、周期的な振動を得にくいことから、当該移動を屋内として判定することが可能となる。」

(2)「【0022】
歩行状態検出部51は、歩行状態を検出する。詳細には、歩行状態検出部51は、センサ部16からのセンサ情報から、歩行振動の有無を検出するとともに、歩数、歩行ピッチ及び歩行方向等の歩行状態の歩行情報を取得する。取得した歩数、歩行ピッチ及び歩行方向等の歩行状態の歩行情報は、歩行情報記憶部71に記憶される。
【0023】
歩行判定部52は、検出された歩行情報記憶部71に記憶された一連の歩行状態の歩行情報からGPS電波の受信ができる屋外か否かを判定する。詳細には、歩行判定部52は、検出した歩行ピッチが過去の歩行ピッチ(本実施形態においては、一般ユーザの振動周期である2Hz)と一致している場合に、歩行状態であると判定し、さらに、その一連の歩行状態における連続して歩行している時間が所定時間(本実施形態においては、1分)以上であれば、GPS電波の受信ができる屋外であると判定する。
なお、本実施形態においては、歩数がカウントされている時間、即ち、歩行している時間を歩行の判断の要素としたが、単に歩数を歩行の判定の要素としてもよい。また、過去の歩行ピッチは、統計等から算出した一般的な歩行ピッチでもよく、また、ユーザ固有の歩行ピッチであってもよい。
また、歩行判定部52は、検出された歩行状態の歩行情報の他に、過去の検出時刻を加味して、歩行を判定してもよい。」

(3)「【0034】
ステップS18において、歩行判定部52は、屋外歩行の判定用に連続歩行時間をカウントする。
【0035】
ステップS19において、歩行判定部52は、屋外判定を行う。即ち、歩行判定部52は、屋外判定として、本例では、1分以上の連続歩行時間をカウントとした場合には、屋外と判定し、1分未満であった場合には屋内と判定する。
屋外判定により屋内とされた場合には、ステップS19においてNOと判定されて処理はステップS13に戻る。
屋外判定により屋外とされた場合には、ステップS19においてYESと判定されて処理はステップS20に進む。」

(4)「【0043】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、屋外判定は、連続歩行時間をカウントし、所定の時間以上連続歩行時間がカウントされた場合には、屋外と判定するように構成した。これに対して、第2の実施形態では、屋外判定は、進行方位から同じ方向に直線的に歩行した時間(以下、「直線歩行時間」という。)をカウントし、所定の時間以上直線歩行時間がカウントされた場合には、屋外と判定するように構成する。特定の方向に連続的に移動しているのは、狭い屋内ではなく、屋外の蓋然性が高いため、屋外判定の判断基準となるからである。
なお、以下において第1の実施形態と同様の構成となる場合には、説明を省略する。
【0044】
第2の実施形態における自動時刻補正処理を実行する場合には、CPU11において、歩行状態検出部51と、歩行判定部52とが第1の実施形態とは異なる。
即ち、歩行状態検出部51は、センサ部16から進行方位を取得する。その後、歩行状態検出部51は、取得した進行方位の情報を歩行情報記憶部71に記憶させる。
また、歩行判定部52は、直線歩行時間をカウントする。そして、歩行判定部52は、カウントした直線歩行時間が一定時間以上あった場合には、屋外と判定する。
【0045】
図4は、図2の機能的構成を有する図1のGPS受信装置において、第2の実施形態の自動時刻補正処理の流れを説明するフローチャートである。
本例では、第1の実施形態の図3のフローチャートとは、ステップS116?ステップS119、及びステップS124が異なる。
【0046】
ステップS116において、歩行状態検出部51は、センサ部16からのセンサ情報から進行方位を取得し、歩行情報記憶部71に記憶させる。
【0047】
ステップS117において、歩行判定部52は、進行方位に基づいて直進歩行か否かを判定する。
直進歩行でない場合には、ステップS117においてNOと判定されて、処理はステップS124に進む。
直進歩行である場合には、ステップS117においてYESと判定されて、処理はステップS118に進む。
【0048】
ステップS118において、歩行判定部52は、屋外歩行の判定用に直進歩行時間をカウントする。
【0049】
ステップS119において、歩行判定部52は、屋外判定を行う。即ち、歩行判定部52は、屋外判定として、本例では、1分以上の直進歩行時間をカウントとした場合には、屋外と判定し、1分未満であった場合には屋内と判定する。
屋外判定により屋内とされた場合には、ステップS119においてNOと判定されて処理はステップS113に戻る。
屋外判定により屋外とされた場合には、ステップS119においてYESと判定されて処理はステップS120に進む。
このように第2の実施形態の自動時刻補正処理を構成することにより、所定の方角を所定時間歩行した場合を、屋外と判定することができ、当該状況下においてGPS電波の受信を行うことができる。」

(5)上記(1)から(4)の記載事項から、引用文献3には次の技術的事項(GPS受信装置1)が記載されているといえる。

「不要なGPSの電波受信の動作を行わないために、電力消費を抑えることができるGPS受信装置1であって、
前記GPS受信装置1は、GPS受信装置1の移動状態からGPS受信装置1を装着するユーザの状態を推測して、GPS電波の受信ができない屋内か、GPS電波の受信が可能な屋外かを判定して、屋外であると判定した場合に、GPS電波の受信の動作を行うように構成されており、
前記GPS受信装置1は、センサ部16、歩行状態検出部51及び、歩行判定部52、歩行情報記憶部71を備え、
前記センサ部16は、装置の移動を検出することが可能なセンサで構成されており、例えば、加速度センサや方位センサ等により構成され、
前記歩行状態検出部51は、センサ部16からのセンサ情報から、歩行振動の有無を検出するとともに、歩数、歩行ピッチ及び歩行方向等の歩行状態の歩行情報を取得し、取得した歩数、歩行ピッチ及び歩行方向等の歩行状態の歩行情報を歩行情報記憶部71に記憶し、
前記歩行判定部52は、検出された歩行情報記憶部71に記憶された一連の歩行状態の歩行情報からGPS電波の受信ができる屋外か否かを判定するものであって、所定の時間以上連続歩行時間がカウントされた場合か、所定の時間以上直線歩行時間がカウントされた場合には屋外と判定する、
GPS受信装置1。」


4 引用文献4について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに、以下の記載事項がある。(なお、下線は当審にて付与した。)

(1)「【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の1つの観点は、移動体装置の周辺における気温の変化量を測定し、この測定された気温の変化量をもとに移動体装置が屋内と屋外との間を移動するときの切り替わりタイミングを判定する。そして、この切り替わりタイミングの判定結果に基づいて、上記移動体装置が屋外に存在するときにオンとなるように、位置測定手段の電源を制御するようにしたものである。
【0008】
このようにすることで、移動体装置が屋内と屋外との間を移動するときの切り替わりタイミングを周辺温度の変化から正確に判定することが可能となり、これにより移動体装置が位置測定動作を行う必要のない屋内に存在するときには位置測定手段の電源をオフに維持することが可能となる。このため、例えば移動体装置を所持した利用者がショッピングや通勤等のために移動している場合でも、ショッピングセンタや地下道等の屋内を移動している限り位置測定手段の電源はオフ状態に維持され、これにより位置測定手段による無駄な電力消費を低減することが可能となる。」

(2)「【0017】
上記制御を実現するためには、屋内外の切り替わりタイミングを検知する必要がある。この発明では、上記屋内外の切り替わりを検知するために温度情報を利用する。すなわち、屋内と屋外との間で差が大きい特徴量の一つとして気温があげられ、位置情報測定装置を搭載した移動体装置が屋内から屋外へ、もしくは屋内から屋外へ移動したとき、その周辺気温には顕著な変化が見られる。この発明ではこの気温変化を利用する。
【0018】
例えば、温度センサを用いて位置情報測定装置が搭載された移動体装置の周辺気温を周期的に検出して記憶し、この記憶された記憶の変化が大きく変化した場合に屋内外の切り替わりが起こったと判定する。この気温の変化をパラメータとして、屋内外の切り替わりタイミングの確かさを示す値をここでは「切り替わり確度」と定義し、この値が高いほど屋内外の切り替わりが起こった可能性が高いとする。この切り替わり確度がある閾値を超えた時刻を屋内外の切り替わりが起こったタイミングと判定し、このとき位置測定手段の電源がオフの状態であれば電源をオンにする。
【0019】
図2は、屋内外の切り替わりと判定するタイミングの一例を示した図である。縦軸は「切り替わり確度」、横軸は「時刻」となっており、屋内外の切り替わりを判定する時刻毎に切り替わり確度が算出される。屋内外が切り替わったと判定されるのは、切り替わり確度がある閾値を超えた時刻であり、閾値以上の値を保持している場合は屋内外が切り替わったと判定しない。つまり、屋内外が切り替わったと判定するのは切り替わり確度が閾値未満から閾値以上に変化した時刻のみとなる。したがって、図2の例では、丸印で示した3カ所のみを屋内外切り替わりタイミングとみなす。」

(3)上記(1)と(2)の記載事項から引用文献4には以下の技術事項が記載されているといえる。

「温度センサを用いて位置情報測定装置が搭載された移動体装置の周辺気温を周期的に検出して記憶し、この記憶された記憶の変化が大きく変化した場合に屋内外の切り替わりが起こったと判定し、上記移動体装置が屋外に存在するときにオンとなるように、位置測定手段の電源を制御することで、位置測定手段による無駄な電力消費を低減する」との技術事項。


第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「歩行者用通信装置12」は「動力源であるバッテリ13と、歩行者位置検出部14と、通信手段15と、検出手段16と、情報提供手段17」を備えるものであるから、『電子機器』に含まれる。

イ 引用発明の「歩行者位置検出部14」は「GPS受信回路18とGPSアンテナ19とからなり、衛星からのGPS信号に基づいて(歩行者用通信装置12を保持する)歩行者2の位置を検出」するものであるから、本願発明1でいう『衛星が出力する信号に基づいて自機の位置情報を検出する位置検出部』に相当する。

ウ 引用発明の「通信手段15」は、「歩車間通信回路20と歩車間通信アンテナ21とからなり、車両1の車両用通信装置11との間で規定の送信周期で歩車間通信を行い、情報を提供」するものであって、ここで「車両用通信装置11」は本願発明1でいう『他機』に含まれるから、引用発明の「通信手段15」は、本願発明1でいう『他機と通信する通信ユニット』に相当する。

エ 引用発明の「有効性判定部40」は、「歩行者位置検出部14の検出精度を判定」する「検出精度判定部43」により判定された「歩行者位置検出部14の検出精度に基づいて、歩行者2の位置情報の有効性を判定」し、引用発明の「送信周期設定部41」は、「有効性判定部40により判定された歩行者2の位置情報の有効性に基づいて、歩行者2の位置情報の送信周期を設定し」、「検出精度判定部43により判定されたGPS信号の受信環境の悪い場所(上部に構造物がある場所、建物内、地下など)を歩行者2が歩行している場合」には「歩行者2の位置情報の送信を停止」するものである。 ここで、「位置情報の送信を停止」することは本願発明1でいう『通信を抑制』することに含まれる。
してみると、引用発明の「検出精度判定部43」、「有効性判定部40」及び「送信周期設定部41」が協働することで全体として、本願発明1の『コントローラ』が行う『前記位置検出部による検出機能が有効であるときに、前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定すると、前記他機との通信を抑制』するとの動作を行っているといえる。

オ 引用発明の「検出手段16」は、「Gセンサ・ジャイロセンサなどからなり、歩行者2の各種移動情報を検出」するものであって、「歩行者2の各種移動情報」には「移動速度」が含まれている。
引用発明における「(歩行者用通信装置12を所持する)歩行者2」が本願発明1における『(電子機器の)利用者』に対応することは明らかであり、また、引用発明における「(歩行者2の)移動速度」は本願発明1でいう『利用者の移動状態』に含まれるから、引用発明の「検出手段16」は本願発明1でいう『利用者の移動状態の判定に用いる情報を取得する少なくとも一つのセンサ』に相当する。


(2)一致点及び相違点

上記(1)で対比した様に、本願発明1と引用発明とは、

「衛星が出力する信号に基づいて自機の位置情報を検出する位置検出部と、
他機と通信する通信ユニットと、
コントローラと、
利用者の移動状態の判定に用いる情報を取得する少なくとも一つのセンサと、
を有し、
前記コントローラは、
前記位置検出部による検出機能が有効であるときに、前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定すると、前記他機との通信を抑制する電子機器。」

で一致しており、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1の『コントローラと』は『前記位置検出部の検出精度が悪化したと判定した場合、前記センサが取得した情報に基づいて、前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定すると、前記他機との通信の抑制を解除する』のに対し、引用発明では「歩行者位置検出部14により受信が再開されて検出精度判定部43により検出されたGPS信号数が増加したと判定された場合」に「歩行者2の位置情報の送信を開始する」点。


(3)判断

引用文献3には、上記第5の3に説示したとおりのGPS受信装置1が記載されており、センサ部16からのセンサ情報から歩数や歩行方向などの歩行状態の歩行情報を取得し、所定の時間以上連続歩行時間がカウントされた場合か、所定の時間以上直線歩行時間がカウントされた場合には屋外と判定し、屋外であると判定した場合にはGPS電波の受信の動作を行っている。要するに、引用文献3に記載されたGPS受信装置1は、ユーザの歩行状態に基づいて屋内か屋外かを判定し、GPS電波の受信動作を制御するものである。
一方の引用発明は、GPS信号の受信状態に基づいて、歩行者2の位置情報の送信を制御するものである。
したがって、引用文献3に記載されたGPS受信装置1と引用発明とでは、制御対象も、制御を行う際に参照する情報も異なり、引用発明に引用文献3に記載された技術的事項を組み合わせる動機があるとはいえない。
仮に、引用発明に引用文献3に記載された技術的事項を組み合わせても、所定の時間以上連続歩行時間がカウントされた場合か、所定の時間以上直線歩行時間がカウントされた場合には屋外と判定されるだけであって、本願発明1のように「検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定する」ものとはならない。
また、引用文献2、4にも相違点1に関する事項は記載されていない。さらに、歩車間通信システムの技術分野において相違点1に関する事項が周知技術であるともいえない
よって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


2 本願発明2について

本願発明2も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


3 本願発明3について

本願発明3は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


4 本願発明4について

本願発明4は、本願発明1に対応する制御プログラムの発明であり、本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定について

理由1(特許法第29条第2項)

上記第6の1(3)で説示したとおり、審判請求時の補正により、本願発明1は「コントローラ」が「他機との通信の抑制を解除する」ための判定条件として「前記利用者の歩数と方向を検出し、検出した歩数と方向に基づいて、前記利用者が、前記検出精度が悪化したと判定した位置に戻ったと判定する」という事項を有するものとなっており、拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。
また、本願発明1が有する上記事項と対応する事項を有する本願発明2-4についても本願発明1と同様の理由により、原査定の理由1を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-08 
出願番号 特願2016-164809(P2016-164809)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04M)
P 1 8・ 113- WY (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 永田 義仁玉木 宏治  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 衣鳩 文彦
岡本 正紀
発明の名称 電子機器、制御方法、及び制御プログラム  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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