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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D04B
管理番号 1366036
異議申立番号 異議2017-701098  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2020-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6133458号発明「伸縮性経編地」の特許異議申立事件についてされた令和元年5月17日付け異議の決定に対し、知的財産高等裁判所において請求項1に係る部分の決定取消しの判決(令和元年(行ケ)第10093号、令和2年2月20日判決言渡)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第6133458号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6133458号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6133458号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯及び証拠
1.手続の経緯
特許第6133458号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年2月9日の出願であって、平成29年4月28日にその特許権の設定登録(特許掲載公報 同年5月24日発行)がされた。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成29年11月22日
特許異議申立人 櫻井芳晴(以下「申立人」という。)による本件特許
の請求項1?3に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年1月30日付け
取消理由通知
同年3月12日
特許権者による意見書の提出
同年4月24日
申立人による上申書の提出
同年6月11日付け
審尋
同年7月17日
特許権者による審尋回答書の提出
同年8月20日付け
取消理由通知(決定の予告)
同年10月19日
特許権者による意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」
といい、その訂正の内容を「本件訂正」という。)
同年11月20日
申立人による意見書の提出
平成31年2月15日付け
訂正拒絶理由通知
同年3月22日
特許権者による意見書の提出
令和元年5月17日付け
異議の決定
同年6月21日
決定取消訴訟提起(令和元年(行ケ)第10093号)
令和2年2月20日
判決言渡

2.証拠
(1)申立人提示の証拠
申立人が提示した証拠は以下のとおりである(以下、甲第1号証を「甲1」などという。)。
甲1:特開2000-8203号公報
甲2:日本規格協会編、「JIS 用語辞典 繊維編」、第1版第2刷、
財団法人日本規格協会、昭和63年12月9日発行、157?170頁
甲3:日本繊維機械学会 基礎繊維工学編集委員会編、「基礎繊維工学〔
III〕-布の構造と性質-」、第3刷、社団法人日本繊維機械学会、
昭和47年8月20日発行、144?147頁
甲4:津田幹男編、「最新ニットの基礎知識」、株式会社センイ・ジヤァ
ナル、平成元年3月31日発行、94?97頁
甲5:KARL MAYER社発行、RSJ5/1及びRSJ5/1
ELのパンフレット

(2)特許権者提示の証拠
特許権者が提示した証拠は以下のとおりである(以下、乙第1号証を「乙1」などという。)。
乙1:特開2017-150094号公報
乙2:特開2007-297748号公報
乙3:特開2001-159058号公報
乙4:日本繊維研究会刊、新版メリヤスハンドブック、(昭和50年12月
発行)、86頁
乙5:KARL MAYER社発行、RSJ4/1のパンフレット
乙6:特開平10-96147号公報
乙7:日本マイヤー発行、RSJ4/1ジャカードラッシェル機の取扱説明
書、(平成10年8月)、4.6.5-4.6.6の項
乙8:谷口正義著、「最近の経編機における革新技術」、繊維機械学会誌
(繊維工学)、(平成10年)、Vol.51、No.7、378?
386頁


第2.訂正の適否についての判断
1.本件訂正の訂正事項
本件訂正請求は、「特許第6133458号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1から3について訂正する」ことを求めるものであり、本件訂正は、訂正箇所を下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ジャカード編成組織と、弾性糸のみで構成されて全ての編目位置においてループが形成されている支持組織とを備える、伸縮性経編地。」
と記載されているのを、
「ループが全く形成されていない編目位置が存在するジャカード編成組織と、
弾性糸のみで構成されて全ての編目位置においてループが形成されている支持組織とを備え、
前記ジャカード編成組織におけるループが形成されていない前記編目位置においては、前記支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない、伸縮性経編地。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の「ジャカード編成組織」が「ループが全く形成されていない編目位置が存在するジャカード編成組織」であることを限定するとともに、訂正前の「伸縮性経編地」が「前記ジャカード編成組織におけるループが形成されていない前記編目位置においては、前記支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない」ことを限定するものであり、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア.に記載したとおり、訂正事項1は、請求項1を減縮するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)訂正事項1における「ループが全く形成されていない編目位置が存在するジャカード編成組織」の訂正は、本件訂正前の請求項2の「前記ジャカード編成組織に、ループが形成されていない編目位置が存在する」の記載、本件明細書の段落【0031】の「支持組織の全ての編目位置においてループが形成されていることにより、ジャカード編成組織においてループが形成されていない編目位置の組織を補完することができる。」の記載及び図3に基づくものであり、訂正事項1における「前記ジャカード編成組織におけるループが形成されていない前記編目位置においては、前記支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない」の訂正は、段落【0033】の「本実施形態に係る伸縮性経編地は、弾性糸によって支持組織を構成することにより、非弾性糸によって構成されている支持組織を編成する必要性がなくなり、伸縮性経編地を薄く軽量にしつつ高い伸縮性を付与することができる。」の記載及び図4に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(イ)平成31年2月15日付けで、当審は訂正拒絶理由を通知したが、同年3月22日に特許権者から提出された意見書による反論により、訂正拒絶理由は解消した。
すなわち、訂正事項1における「前記ジャカード編成組織におけるループが形成されていない前記編目位置においては、前記支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない」の訂正における、「全ての編目位置」とは、本件特許明細書に記載された変化組織内の全ての編目位置であると解される。本件特許明細書の段落【0010】には、「本発明の一形態においては、ジャカード編成組織は、一定の繰り返し単位を有する基本組織と基本組織を変化させた変化組織とを含む。変化組織にのみ、ループが形成されていない編目位置が存在する。」と記載されているが、本件訂正により、変化組織の領域のみが特許請求されていると解することが可能であり、この場合には、新規事項の追加とはならないため、訂正拒絶理由は解消したことになる。

(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア.に記載したとおり、訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正事項3は、請求項3を削除する訂正であるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア.に記載したとおり、訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するの で、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。


第3.本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ループが全く形成されていない編目位置が存在するジャカード編成組織と、
弾性糸のみで構成されて全ての編目位置においてループが形成されている支持組織とを備え、
前記ジャカード編成組織におけるループが形成されていない前記編目位置においては、前記支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない、伸縮性経編地。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)」


第4.当審の判断
1.取消理由(決定の予告)の概要
平成30年8月20日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、次の理由を含むものである。

[理由1]本件発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]本件発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物:甲1?甲4

2.甲1の記載事項等について
(1)甲1には、次のような記載がある。
ア.特許請求の範囲
「【請求項1】 ジャカード編からなる地編が非弾性糸で編まれ、更に弾性糸が挿入されるか及び/又は弾性糸が編み込まれてなる経編地からなる衣類に於て、緊迫力の強弱の要求に応じて前記地編の表側にあらわれる編組織を切り替えて、組織の変化により、所定部分に所定の比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に設け、前記パターンの少なくとも1つが、帯状であり且つカーブした連続パターンである経編地からなる体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類。」

イ.発明の詳細な説明
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、部分的に緊迫力の強い部分と弱い部分を有するジャカード編の経編地から構成された体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類に関するものであり、特に緊迫力の強い部分と弱い部分との境界に、実質的に段差が生じないように、前記境界において地編の表側にあらわれる編組織を切り替えてなる経編地から構成された体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、ガードル、ショーツ、ボディスーツ、水着、レオタード、ブラジャー、スパッツ、スポーツ用タイツなどは、体型補整機能または筋肉サポート機能を付与するため、緊迫力を大きくしたい部分には、適宜の当て布を衣類本体生地の裏側または表側から当てがうことが最も一般的に行われている。
・・・
【0005】また、当て布を使用せずに、これらの当て布を当てがうべき部分に、弾力性のある合成樹脂液を塗布してこれらの部分の緊迫力を向上させ、同様に体型補整機能を持たせる試みも提案されている。
【0006】更に近年は、丸編機を用い、当て布を使用せずに、これらの当て布を当てがうべき部分の緊迫力が大きくなる様に、丸編組織を変化させて、同様に体型補整機能を持たせる試みも提案されている。
【0007】・・・体型補整機能または筋肉サポート機能を付与するため、衣類の所定の部分の緊迫力を大きくした衣類は、広く普及している。・・・近年スポーツ用タイツなどにおいては、・・・筋肉の運動能力を妨げず、筋肉疲労軽減したり予防したり、筋肉障害などの発生を未然に予防する機能を持たせたスポーツ用タイツが注目されている。この様な目的で設けられる緊迫力の大きい部分を有するスポーツ用衣類を、以後、筋肉サポート機能を付与した衣類と略称する。・・・」

(イ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、当て布によって緊迫力の大きい部分を形成した衣類は、当て布の存在する部分と当て布の存在しない部分との境界に厚みの相違による段差があるため、その段差がアウターウェアーに反映し、アウターウェアーの外側からも段差が見えてしまい、着用者の外観を著しく低下させると言う問題がある。更に当て布は衣類本体に縫合されるので、縫合部分の厚みの増大により、肌触りが低下したり、皮膚病(皮膚傷害)の原因となったりすると言う問題がある。
【0009】弾力性のある合成樹脂液を塗布して緊迫力を向上させる手法の場合には、合成樹脂が、布の編目をふさいでしまうため、通気性が大幅に低下し、蒸れやすいと言う問題がある。また、合成樹脂塗膜が肌に直接触れるので、着用感が低下すると言う問題がある。
【0010】また、丸編機を用い、当て布を使用せずに、これらの当て布を当てがうべき部分の緊迫力が大きくなる様に、丸編組織を変化させて、体型補整機能を持たせた衣類は、この様な緊迫力の変化を持たせると、丸編組織の安定性が悪いため、同じ丸編機を使用し、同じ繊維素材を用いて、同じ寸法に設計しても、仕上がり寸法のバラツキがかなり大きくなると言う問題がある。更に丸編品はいわゆる“伝染”が生じやすく、耐久性に問題があるとともに、大量に生産する場合に、生産性が悪いと言う問題がある。また、丸編みの場合には、経編ほど編み密度が高くできないと言う問題もある。
【0011】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、緊迫力の大きな部分と小さな部分との境界に実質上段差がなく、したがって段差がアウターウェアーに反映し、アウターウェアーの外側からも段差が見えてしまうと言う問題がなく、着用感もよく、着用者の外観を美しく保って、かつ必要な体型補整機能または筋肉サポート機能を付与した衣類を提供することを目的とするものである。また、更に合成樹脂液を塗布して緊迫力を付与した衣類に比べて通気性の低下がなく、蒸れなどが生じにくく、肌触りの低下もない体型補整機能または筋肉サポート機能を付与した衣類を提供することを目的とするものである。更には、丸編品に比べて、仕上がり寸法の安定性が良好で、同じ仕上がり寸法のものを容易に大量に生産でき、耐久性も良好で、編み密度を大きくすることもでき、生産性にも優れた、体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類を提供することを目的とするものである。」

(ウ)「【0012】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明は、次の様な体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類を提供するものである。
【0013】(1)ジャカード編からなる地編が非弾性糸で編まれ、更に弾性糸が挿入されるか及び/又は弾性糸が編み込まれてなる経編地からなる衣類に於て、緊迫力の強弱の要求に応じて前記地編の表側にあらわれる編組織を切り替えて、組織の変化により、所定部分に所定の比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に設け、前記パターンの少なくとも1つが、帯状であり且つカーブした連続パターンである経編地からなる体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類。」

(エ)「【0033】
【発明の実施の形態】本発明の衣類に用いる生地は、表側にあらわれる糸から構成されるパターン模様を形成する表側にあらわれる地編組織も、また、その裏側にあらわれる地編組織も、ジャカード編からなる経編で編まれており、更に弾性糸が挿入されるか及び/又は弾性糸が編み込まれてなる経編地からなる・・・
【0034】本発明で用いる経編生地は、実際にはジャカード制御装置を有する経編機(例えば特開平6-166934号など参照)などを用いて、これらの経編機に地編用の非弾性糸と挿入糸用及び/又は編み込み用の弾性糸とを供給して同時に編まれるのであるが、理解を容易にするために、地編の部分をまず説明する。
【0035】本発明において、地編は、緊迫力の強弱の要求に応じて地編の表側にあらわれる編組織を切り替えて、組織の変化により、所定部分に所定の比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に形成する。そしてこれらのパターンのうち、少なくとも1つが帯状であり且つカーブした連続パターンである。例えば、ガードル用の後ろから脇にかけての身頃生地を形成する場合に、比較的緊迫力の強い部分がガードルの左右のヒップ部の膨らみの下から脇にかけての部分で帯状であり且つカーブした連続パターンになっており、その他の部分は比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に形成するごくシンプルなケースを例にとって説明する。
【0036】図1に上述した様なガードルの左側用の後ろから脇にかけての身頃生地1の平面図を示した。ここで仮に2が比較的緊迫力の強い部分、3が左ヒップに充当される部分で比較的緊迫力の弱い部分、4は左側の脚部や脇部に充当される部分で比較的緊迫力の弱い部分、と言う様な強緊迫力と弱緊迫力のパターンを有する生地を製造するとする。この経編生地を形成するための糸の供給方向は矢印Sの方向である。すなわち、ジャカード編の経編機によって編まれて経編機から排出される生地の排出方向が矢印Sの方向である。
【0037】ここで仮に比較的緊迫力の強い部分2の表側にあらわれる地編組織をサテン調ネット組織、比較的緊迫力の弱い部分3と4をメッシュ調ネット組織と仮定すると、この地編生地は例えば次の様な方法で製造される。すなわちジャカード制御装置を有する経編機(例えば特開平6-166934号など参照、あるいは具体的には糸ガイドバーに曲げ変換器が取り付けられているカールマイヤーテキスタイルマシーンファブリックGmbH社製(日本マイヤー株式会社発売)の高速ジャカードラッシェル機“RSJ4/1”)などを用いて、図1のW_(n)番目のウェールを編む場合は、m_(0)番目のコースからm_(1)番目のコースまでは、メッシュ調ネット組織で編み、m_(1)番目のコースとm_(2)番目のコースの間はサテン調ネット組織で編み、m_(2)番目のコースからm_(3)番目のコースはメッシュ調ネット組織で編むことになる。・・・かかる編み方は、前述の様なジャカード制御装置を有する経編機のコンピーターに各ウェールと各コースについて上述の様な指令を入力することにより実現できる。」

(オ)「【0056】以上は、地編として、ジャカード編(経編)によるネット組織を採用する場合の編み組織について説明したが、次に地編として、ジャカード編(経編)によるトリコット組織を採用する場合の編み組織について説明する。
【0057】トリコットの場合も、図1・・・で説明したガードルの左側用の後ろから脇にかけての身頃生地1の平面図を例にとって、説明する。・・・
【0058】ここで仮に比較的緊迫力の強い部分2の表側にあらわれる地編組織をサテン調トリコット組織、比較的緊迫力の弱い部分3と4をメッシュ調トリコット組織と仮定すると、この地編生地は例えば次の様な方法で製造される。すなわちジャカード制御装置を有する経編機(例えば特開平6-166934号など参照、あるいは具体的には糸ガイドバーに曲げ変換器が取り付けられているカールマイヤーテキスタイルマシーンファブリックGmbH社製(日本マイヤー株式会社発売)の高速ジャカードラッシェル機“RSJ4/1”)などを用いて、図1のW_(n)番目のウェールを編む場合は、m_(0)番目のコースからm_(1)番目のコースまでは、メッシュ調トリコット組織で編み、m_(1)番目のコースとm_(2)番目のコースの間はサテン調トリコット組織で編み、m_(2)番目のコースからm_(3)番目のコースはメッシュ調トリコット組織で編むことになる。・・・
【0064】本発明で用いるサテン調トリコット組織の表側の代表的な組織図を図7?図9に示した。この組織図は、編業界において慣用されている規定に従って描いた組織図である。従って、実際の編組織の糸の状態を忠実に写実したものではないが、当業者に於いては、通常使用されている組織図である。
【0065】いずれの図においても矢印Sの方向が図2の矢印Sの方向を示している。すなわちサテン調トリコット組織(経編生地)を形成するための糸の供給方向は矢印Sの方向である。・・・
【0066】図7に示したサテン調トリコット組織は、ジャカード運動の矢印X_(1)、X_(2)、X_(3)で示したコースが図7の左方向にそれぞれの矢印で示した様に3針の振りが入ったサテン調トリコット組織である。図7に於いてその左端に点線で示した部分は、参考のため、ジャカード制御をしない場合の組織を示している。尚、図7中一点鎖線AとBの間が1繰り返し単位である。
【0067】3針の振りが入った部分は、糸がより緊張した状態になる。従って、1繰り返し単位中、3針の振りが入った割合が多い程、より緊迫力が強くなるのである。図7に示したサテン調トリコット組織に於いては、1繰り返し単位中、3針以上の振りが入ったコースがX_(1)、X_(2)、X_(3)の3箇所存在し、後述する図8や図9に示すサテン調トリコット組織に比べて、最も緊迫力が強いサテン調トリコット組織である。
【0068】次に図8に示したサテン調トリコット組織は、ジャカード運動の矢印X_(1)で示したコースが図8の左方向に3針の振りが入ったサテン調トリコット組織である。尚、図8中一点鎖線AとBの間が1繰り返し単位である。図8に示したサテン調トリコット組織に於いては、1繰り返し単位中、3針以上の振りが入ったコースがX_(1)の1箇所しか存在しないので、前述した図7に示すサテン調トリコット組織に比べて、緊迫力が弱くなっているが、後述する図9に示すサテン調トリコット組織に比べて、より緊迫力が強いサテン調トリコット組織である。
【0069】次に図9に示したサテン調トリコット組織は、ジャカード運動の矢印X_(7)で示したコースが図9の左方向に1針の振りが入ったサテン調トリコット組織である。尚、図9中一点鎖線AとBの間が1繰り返し単位である。図9に示したサテン調トリコット組織に於いては、1繰り返し単位中、1針の振りしか入っていないコースがX_(7)の1箇所存在し、前述した図7や図8に示すサテン調トリコット組織に比べて、緊迫力が弱くなっているが、後述する図10に示すメッシュ調トリコット組織に比べて、より緊迫力が強いサテン調トリコット組織である。
【0070】次に本発明で用いるメッシュ調トリコット組織の表側の代表的な組織図の一例を図10に示した。
【0071】図10においても矢印Sの方向が図2の矢印Sの方向を示している。すなわちメッシュ調トリコット組織(経編生地)を形成するための糸の供給方向は矢印Sの方向である。・・・
【0072】メッシュ調トリコット組織は、図10からも明らかな様にサテン調トリコット組織に比べて、空間部分が大きく、単位面積あたりの糸の密度が小さく、従って、上述した図7?図9のサテン調トリコット組織に比べて、緊迫力が弱くなる。尚、図10中一点鎖線AとBならびにBとCの間がそれぞれ1繰り返し単位である。すなわちAとBの間の組織とBとCの間の組織とは同じ組織の繰り返しである。
【0073】以上、説明した様な態様によって、表側にあらわれる地編トリコット組織をコントロールすることにより、所定部分に所定の比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に設けることができる。一般に、比較的緊迫力の強い部分はサテン調トリコット組織が用いられ、比較的緊迫力の弱い部分は、メッシュ調トリコット組織が用いられる。
・・・
【0075】また、上記で説明した様なサテン調ならびにメッシュ調トリコット組織は、ジャカード制御装置を有する経編機に設けられている、ピエゾ素子などが用いられた曲げ変換器が取り付けられている糸ガイドバーを電気的に制御することにより、2針などの振りを達成することができる。これらの詳細は例えば前述した様に特開平6-166934号などに説明されているし、具体的にはカールマイヤーテキスタイルマシーンファブリックGmbH社製の高速ジャカードラッシェル機“RSJ4/1”)などを用いることができる。
・・・
【0080】図11?図13にジャカード編からなる地編ネット組織に弾性糸からなる挿入糸が挿入されている状態を説明する為の組織図を示した。・・・
【0081】図11?図13においては、いずれも図3で示したサテン調ネット組織を例にとって、この組織に挿入糸が挿入されている状態を示した。尚、図3で示したサテン調ネット組織は、表側の組織のみを示したが、図11?図13においては、いずれもサテン調ネット組織の裏側の組織も重ねて示してある。そして、図11?図13においては、いずれも図11(b)、図12(b)、図13(b)が、前記サテン調ネット組織に弾性糸からなる挿入糸が挿入されている状態を示した組織図であり、図11(a)、図12(a)、図13(a)が、それらを構成するそれぞれの糸1本づつを取り上げて別々に組織図に記載したものである。
・・・
【0084】図11(a)、(b)において、5が地編としてのサテン調ネット組織の表側に現れる非弾性糸であり、6が地編としてのサテン調ネット組織の裏側に現れる非弾性糸であり、7が弾性糸からなる挿入糸である。図11に示した態様では、各ウェールB_(1)、B_(2)、B_(3)、B_(4)、B_(5)の間にそれぞれ1本づつの挿入糸7が挿入されている状態を示している。・・・
【0085】図12に示した態様は、地編としてのサテン調ネット組織に2本づつの挿入糸が挿入されている状態を示した組織図である。
【0086】図12(a)、(b)において、5が地編としてのサテン調ネット組織の表側に現れる非弾性糸であり、6が地編としてのサテン調ネット組織の裏側に現れる非弾性糸であり、8が弾性糸からなる挿入糸である。・・・
【0087】次に図13に示した態様は、地編としてのサテン調ネット組織に2本づつの挿入糸と1本づづの挿入糸が交互に挿入されている状態を示した組織図である。
【0088】図13(a)、(b)において、5が地編としてのサテン調ネット組織の表側に現れる非弾性糸であり、6が地編としてのサテン調ネット組織の裏側に現れる非弾性糸であり、7と9が弾性糸からなる挿入糸である。・・・
【0092】図14にジャカード編からなる地編組織に弾性糸が編み込まれている(ルーピングされている)トリコット組織の状態を説明する為の組織図を示した。・・・
【0093】図14においては、図7で示したサテン調トリコット組織を例にとって、この地編組織に弾性糸が編み込まれている状態を示した。尚、図7においては、サテン調トリコット組織は、表側の組織のみを示したが、図14においては、サテン調トリコット組織の裏側の組織も重ねて示してある。そして、図14においては、図14(b)が、前記サテン調トリコット組織に弾性糸が編み込まれている状態を示した組織図であり、図14(a)が、それらを構成するそれぞれの糸1本づつを取り上げて別々に組織図に記載したものである。尚、矢印Sの方向が糸の供給方向である。
【0094】図14に示した態様は、地編としてのサテン調トリコット組織の各ウェールごとに1本づつの弾性糸が編み込まれている状態を示した組織図である。
【0095】図14(a)、(b)において、10が地編としてのサテン調トリコット組織の表側に現れる非弾性糸であり、11が地編としてのサテン調トリコット組織の裏側に現れる非弾性糸であり、12が編み込まれた弾性糸である。図14に示した態様では、各ウェールB_(1)、B_(2)、B_(3)、B_(4)、B_(5)についてそれぞれ1本づつの弾性糸12があるウェールと隣りのウェールとを交互に往復する様に編み込まれている。・・・
【0097】以上に説明した様な、地編組織と編み込まれる弾性糸との組み合わせ、例えば上述した様な弾性糸の編み込み態様と、図7?図10で説明した様な地編トリコット組織による緊迫力の強弱の態様とを組み合わせること、更には弾性糸の太さを編み込まれる部分に応じて変えることなどの組み合わせにより、種々の強さのグレードの緊迫力を有する部分を1つの経編トリコット生地の上に実現できる。」

(カ)「【0101】以下、図面を参照しながら、具体的衣類について説明するが、本発明は、これらの衣類のみに限定されるものではない。
【0102】図15に本発明の衣類であるロングタイプのガードルの前側から見た斜視図・・・を示した。・・・
【0103】・・・腹部布の最外周部21aの表側にあらわれる地編組織(以下、特に断らない限り、表側にあらわれる地編組織を単に地編組織と略称する。)はメッシュ調ネット組織であり、第2の腹部押さえ部21bの地編組織は図5で説明した様なサテン調ネット組織であり、第1の腹部押さえ部21cの地編組織は図3で説明した様な2針の振りが入った割合の大きいサテン調ネット組織である。従って緊迫力の強さは21c〉21b〉21aの順になる。・・・
【0150】次に、図28に本発明の衣類であるブラジャーの前側から見た斜視図を示した。・・・
【0151】このブラジャーにおいてはカップ131のカップ下辺部から脇にかけての部分131bの地編組織は30デニールのナイロン糸からなる図7で説明した様な3針の振りが入った割合の大きいサテン調トリコットで、かつ弾性糸として120デニールのポリウレタン糸が各ウエールに1本づつ編み込まれている。ポリウレタン糸の編み込みの態様は図14に示した通りである。カップ131の上方部分131aの地編組織が30デニールのナイロン糸からなる図10に示した様なメッシュ調トリコットで、かつ弾性糸として120デニールのポリウレタン糸が各ウエールに1本づつ編み込まれている。また、バック布の人体脇部に当接する部分のうち、133aと133cの部分の地編組織は図7で説明した様な3針の振りが入った割合の大きいサテン調トリコット組織、133bと133dの部分の地編組織は図9で説明した様なサテン調トリコット組織からなり、133aと133bの部分は、弾性糸として240デニールのポリウレタン糸が各ウエールに1本づつ編み込まれている。また、133cと133dの部分は、弾性糸として240デニールのポリウレタン糸が各ウエールに2本づつ編み込まれている。・・・
【0152】・・・131aが比較的緊迫力の弱い部分の範疇に分類され、133a、133b、133c、133dの部分は比較的緊迫力の強い部分の範疇に分類される。尚、133cの部分が最も緊迫力が強く、131aの部分が最も緊迫力が弱くなる。・・・」

(キ)「【0166】
【発明の効果】本発明では、比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分のパターンは、地編の表側にあらわれる編組織を切り替えるなど、発明の実施の形態で詳細に説明した様に所定部分に任意の所望のパターンを形成することができる。・・・
【0167】本発明は、前述の技術を応用して、緊迫力の大きな部分と小さな部分との境界に実質上段差がなく、したがって段差がアウターウェアーに反映し、アウターウェアーの外側からも段差が見えてしまうと言う問題がなく、着用者の外観を美しく保って、かつ必要な体型補整機能または筋肉サポート機能を付与した衣類を提供できる。しかも、比較的緊迫力の強い部分を当て布で作成し、それを衣類本体に縫合した場合に生じる、縫合ラインによる肌触りの低下、着用感の低下もない。また、更に緊迫力を付与するために合成樹脂液を塗布した衣類に比べて通気性の低下がなく、蒸れなどが生じにくく、肌触りの低下もない体型補整機能または筋肉サポート機能を付与した衣類を提供できる。更には、丸編品に比べて、仕上がり寸法の安定性が良好で、同じ仕上がり寸法のものを容易に大量に生産でき、耐久性も良好で、生産性にも優れた、体型補整機能または筋肉サポート機能を有する衣類を提供できる。しかも丸編品に比べて、編み密度をより高密度にすることもできるので、比較的緊迫力の強い部分の緊迫力のより一層大きいものも容易に製造できる。」

ウ.図面
「【図1】


【図2】


【図3】


【図5】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図28】



(2)甲1に記載された発明
以上によれば、甲1の特に図14の記載から、次の発明が記載されていると認めるのが相当である(以下「引用発明」という。)。
「地編としてのサテン調トリコット組織の表側にあらわれ、全ての編目位置においてループを形成している非弾性糸10からなる、ジャカード運動により振りが入れられている組織と、
地編としてのサテン調トリコット組織の裏側にあらわれ、全ての編目位置においてループを形成している非弾性糸11からなる、ジャカード編からなる経編で編まれている組織と、
全ての編目位置において地編組織に編み込まれている(ルーピングされている)弾性糸12からなる組織とを、
備える経編地。」

3.本件発明1と引用発明との対比について
本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「経編地」は、一定の伸縮性を有することが明らかであるから、本件発明1の「伸縮性経編地」に相当し、引用発明の「非弾性糸10からなる、ジャカード運動により振りが入れられている組織」は、本件発明1の「ジャカード編成組織」に相当するものといえる。また、引用発明の「弾性糸12からなる組織」は、全ての編目位置においてループを形成している点で、本件発明1の「弾性糸のみで構成されて全ての編目位置においてループが形成されている支持組織」と共通する。
したがって、本件発明1と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。
(一致点)
「ジャカード編成組織と、
弾性糸で構成されて全ての編目位置においてループが形成されている組織とを備える伸縮性経編地。」

(相違点)
本件発明1は、「ジャカード編成組織におけるループが形成されていない編目位置」においては、「弾性糸のみで構成されて全ての編目位置においてループが形成されている支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない」のに対し、引用発明は、「ジャカード編成組織」に「ループが全く形成されていない編目位置が存在」せず、「ジャカード編成組織」のほかに、「弾性糸が全ての編目位置においてループが形成されている組織」と、「非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織」とを含む点。
(以下「相違点」という。)

上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用発明ではない。

4.相違点の容易想到性の判断について
前記3.のとおり、本件発明1は、「非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない」のに対し、引用発明は、「全ての編目位置においてループを形成している非弾性糸11からなる、ジャカード編からなる経編で編まれる組織」を含むものである。
そこで、この点について検討する。
(1)図10の組織図の意義
甲1には、
ア.図7?図9は、「本発明で用いるサテン調トリコット組織の表側の代表的な組織図」であり、1繰り返し単位中にジャカード運動により、図7は3つのコースに3針の振りを、図8は1つのコースに3針の振りを、図9は1つのコースに1針の振りを入れたものを、それぞれ示すものであること(段落【0064】、【0066】、【0068】、【0069】)、
イ.図10は、「本発明で用いるメッシュ調トリコット組織の表側の代表的な組織図の一例」であって、メッシュ調トリコット組織は、サテン調トリコット組織に比べて、空間部分が大きく、単位面積当たりの糸の密度が小さいことから、図7?図9よりも緊迫力が弱いこと(段落【0070】、【0072】)、
ウ.甲7?図10のような態様により、表側に現れる地編トリコット組織をコントロールすることによって、比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分とを、所定部分にパターン状に設けることができること(段落【0073】)、
エ.弾性糸の編み込み態様と、図7?図10のような地編トリコット組織による緊迫力の強弱の態様とを組み合わせることにより、種々の強さの緊迫力を有する部分を、1つの経編トリコット生地上に実現できること(【0097】)、
オ.図28の下着の表側に現れる地編組織は、図7で説明した様なサテン調トリコット組織(133a、133c)、図9で説明した様なサテン調トリコット組織(133b、133d)、図10で示した様なメッシュ調トリコット組織(131a)などから構成され、133cの部分が最も緊迫力が強く、131aの部分が最も緊迫力が弱くなること(段落【0151】、【0152】)
が記載されている。
そして、これらの記載によれば、図7?図10に示された組織図は、いずれも、本発明で用いるサテン調又はメッシュ調トリコット組織の表側の組織を示したものであることを理解でき、また、これらの図では、いずれも全てのウェールに糸が供給されていることが示されているので、2枚1組の「ジャカード筬」を2枚とも用いて編成されたものであることを理解できる。
以上によれば、甲1の図10には、次の事項が記載されていると認められる。
「図7?図9に示されるサテン調トリコット組織と同様、2枚1組のジャカード筬を2枚とも用いて編成される、ループが形成されていない編目位置が存在するメッシュ調トリコット組織の表側の組織。」

(2)引用発明と甲1の図10に記載された事項との組合せについて
前記(1)のとおり、甲1の図10は、メッシュ調トリコット組織の表側の組織のみを示すものであって、表側と裏側の両方の組織を示すものではないと理解できる。そうすると、仮に、引用発明に甲1の図10に記載された上記事項を適用しても、引用発明の「非弾性糸10からなる組織」が、甲1の上記事項の「ループが形成されていない編目位置が存在するメッシュ調トリコット組織」と置換されるだけであって、引用発明の「全ての編目位置においてループを形成している非弾性糸11からなる組織」は残ることとなるから、相違点に係る本件発明1の構成(「非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない」構成)に至るものではない。
そして、そのほかに、甲1には、「全ての編目位置においてループを形成している非弾性糸11」を含まないようにすることについて、これを示す記載も、これを示唆する記載も存在しない。
したがって、当業者が、甲1に記載された発明に基いて、相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものとは認められない。

5.小括
以上のとおり、本件発明1は、引用発明ではないから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではなく、また、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び申立人の主張する理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2.のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項2及び3は削除されたため、本件特許の請求項2及び3についての本件特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループが全く形成されていない編目位置が存在するジャカード編成組織と、
弾性糸のみで構成されて全ての編目位置においてループが形成されている支持組織とを備え、
前記ジャカード編成組織におけるループが形成されていない前記編目位置においては、前記支持組織の前記弾性糸のみがループを形成しており、非弾性糸が全ての編目位置でループを形成する組織を含まない、伸縮性経編地。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-19 
出願番号 特願2016-22453(P2016-22453)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D04B)
P 1 651・ 113- YAA (D04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 横溝 顕範
井上 茂夫
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6133458号(P6133458)
権利者 ウラベ株式会社
発明の名称 伸縮性経編地  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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